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特許7454418光ファイバ組込シート、光ファイバの設置方法、および貼付装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】光ファイバ組込シート、光ファイバの設置方法、および貼付装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
G01B11/16 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020051024
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021148713
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜樹子
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 赳彦
(72)【発明者】
【氏名】濱田 千絵
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-227994(JP,A)
【文献】特開2017-72801(JP,A)
【文献】特開2009-2676(JP,A)
【文献】特開2013-104701(JP,A)
【文献】特開2014-6381(JP,A)
【文献】特開平7-217225(JP,A)
【文献】特開2002-327042(JP,A)
【文献】特開平7-149323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサとして用いる光ファイバを組込んだ光ファイバ組込シートであって、
基材と、
前記光ファイバの設置対象であって、プライマーが塗布された設置対象に接着される接着層と、
が積層され、
前記光ファイバが前記接着層に埋設され、
前記接着層は、前記プライマーとの化学反応により硬化することを特徴とする光ファイバ組込シート。
【請求項2】
前記基材と前記接着層との間に保護層が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ組込シート。
【請求項3】
請求項に記載の光ファイバ組込シートを、前記設置対象に前記プライマーを塗布した後、前記接着層により前記設置対象の前記プライマーの塗布位置に貼付けることを特徴とする光ファイバの設置方法。
【請求項4】
請求項に記載の光ファイバ組込シートを前記設置対象に貼付けるための貼付装置であって、
前記光ファイバ組込シートを巻き付けたリールと、
前記プライマーの塗布を行うプライマー塗布装置と、
前記リールから巻き出された前記光ファイバ組込シートを前記設置対象側に押さえるための押えローラと、
を有することを特徴とする貼付装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを組込んだ光ファイバ組込シート、光ファイバの設置方法およびこれに用いる光ファイバ組込シートの貼付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバには、レーザによるパルス光を入射した際に観測される散乱光等を分析することで、光ファイバの全長にわたる歪分布や温度分布を測定できるという特性がある。
【0003】
この特性を活かし、構造物の変形検出や温度測定を目的とした光ファイバセンサが現在実用化されている。例えば特許文献1には、コンクリート構造物の変形(損傷)を光ファイバの歪により検出するため、光ファイバをシートの間に固定したセンサをコンクリート表面に接着材で貼付ける例が記載されている。また特許文献2には、設置用部材に光ファイバを固定した光ファイバセンサを、設置用部材に設けた接合材で構造物に接着し、光ファイバの歪から構造物の変形検出を行う例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-131025号公報
【文献】特開2002-48516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ファイバを接着材によって設置対象に直接貼付ける場合、接着材の塗布、光ファイバの配線・設置・固定などの作業が必要であり、複数人での作業を要することが多い。また測定精度を確保するためには光ファイバに一定の初期張力を導入しつつ貼付を行う必要もあるので設置作業に労力を要し、光ファイバはガラス質で細いため損傷するリスクもある。さらに、光ファイバの設置対象によっては作業スペースが限られたり、設置対象の下面や側面に光ファイバを取り付ける必要があったりして、設置作業にさらに多くの労力を要することになる。
【0006】
一方、特許文献1では光ファイバをシートの間に固定し、特許文献2では光ファイバをシート状の設置用部材に固定しており、シートや設置用部材を設置対象に貼付けることで設置作業に要する労力の軽減を図っている。しかしながら、センサの製造にコストを要し、また設置対象と光ファイバの間にシートや設置用部材が介在するので設置対象の変形等がセンサの測定結果に反映されにくい可能性もある。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、光ファイバの設置作業に係る労力を軽減でき、且つ低コストで好適にセンシングを行うことのできる光ファイバ組込シート等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための第1の発明は、センサとして用いる光ファイバを組込んだ光ファイバ組込シートであって、基材と、前記光ファイバの設置対象であって、プライマーが塗布された設置対象に接着される接着層と、が積層され、前記光ファイバが前記接着層に埋設され、前記接着層は、前記プライマーとの化学反応により硬化することを特徴とする光ファイバ組込シートである
【0009】
第1の発明の光ファイバ組込シートをその接着層により光ファイバの設置対象に接着することで、光ファイバの設置作業に要する労力を軽減できる。また光ファイバ組込シートの基材や接着層が光ファイバの防護層として機能し、外部からの接触に対する光ファイバの損傷リスクを低減できる。さらに、光ファイバは上記の接着層に埋設されており光ファイバと設置対象の間にシート等が介在することがないので、設置対象の変形等が光ファイバの測定結果に反映されやすく、層構成としても簡易で低コストである。
【0010】
前記基材と前記接着層との間に保護層が設けられることも望ましい。
上記のように保護層を設けることで、外部すなわち基材側からの接触に対する光ファイバの保護を行うことができ、光ファイバの損傷リスクをさらに低減できる。
【0011】
前記接着層にシート引裂き用の線材が設けられることも望ましい。
係る線材により光ファイバ組込シートを引裂くことで光ファイバの取出しが容易になり、光ファイバの測定機器への接続作業等が簡単になる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の光ファイバ組込シートを、前記設置対象に前記プライマーを塗布した後、前記接着層により前記設置対象の前記プライマーの塗布位置に貼付けることを特徴とする光ファイバの設置方法である。
第2の発明は、第1の発明の光ファイバ組込シートを用いた光ファイバの設置方法である。
【0013】
第2の発明の設置方法では、光ファイバが埋設された接着層をプライマーとの反応により硬化させることで、光ファイバと設置対象との一体性が向上する。
【0014】
前記光ファイバ組込シートを巻き付けたリールと、押えローラとを有する貼付装置を用い、前記リールから巻き出された前記光ファイバ組込シートを前記押えローラによって前記設置対象側に押さえつつ、前記貼付装置を前記光ファイバ組込シートの貼付方向に移動させることで、前記光ファイバ組込シートの貼付を行うことが望ましい。
係る貼付装置を用いることで、光ファイバ組込シートの貼付作業がさらに簡単になり、貼付精度も向上する。またリールの回転抵抗により光ファイバに一定の初期張力を与えつつ貼付作業を実施できるので、光ファイバの全長に亘って一定の初期歪を導入し、測定結果のばらつきを防止することができる。
【0015】
第3の発明は、第1の発明の光ファイバ組込シートを前記設置対象に貼付けるための貼付装置であって、前記光ファイバ組込シートを巻き付けたリールと、前記プライマーの塗布を行うプライマー塗布装置と、前記リールから巻き出された前記光ファイバ組込シートを前記設置対象側に押さえるための押えローラと、を有することを特徴とする貼付装置である。
第3の発明は、第1の発明の光ファイバ組込シートによる光ファイバの設置作業に適した貼付装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光ファイバの設置作業に係る労力を軽減でき、且つ低コストで好適にセンシングを行うことのできる光ファイバ組込シート等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】光ファイバ組込シート1を示す図。
図2】光ファイバ13の設置方法を示す図。
図3】光ファイバ13の設置方法を示す図。
図4】貼付装置5aを示す図。
図5】光ファイバ13の設置方法を示す図。
図6】歪の測定結果を示すグラフ。
図7】設置対象3のひび割れ部分31付近を示す断面図。
図8】光ファイバ組込シート1a、1bを示す図。
図9】光ファイバ組込シート1cを示す図。
図10】光ファイバ組込シート1d、1eを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(1.光ファイバ組込シート1)
図1は本発明の実施形態に係る光ファイバ組込シート1を示す図である。光ファイバ組込シート1は、センサとして用いる光ファイバ13を組み込んだ帯状のシート材であり、本実施形態では光ファイバ13の設置対象の変形を光ファイバ13の歪により検出するものとする。
【0020】
図1(a)は光ファイバ組込シート1の長手方向と直交する断面を見た図であり、図1(b)は光ファイバ組込シート1を図1(a)の上方から見た図である。図1(a)に示すように、光ファイバ組込シート1は基材11と接着層12が積層された構成を有し、光ファイバ13は接着層12に埋設される。
【0021】
基材11には既知の樹脂シート等を用いることができる。光ファイバ組込シート1を屋外など太陽光に対する露光環境下で使用する場合には、基材11に耐紫外線性を有する材料を用いることで、太陽光による光ファイバ組込シート1の劣化を防止できる。また光ファイバ組込シート1をコンクリート内などコンクリートとの接触環境下で使用する場合には、基材11に耐アルカリ性を有する材料を用いることで、コンクリートのアルカリ成分による光ファイバ組込シート1の劣化を防止できる。
【0022】
接着層12は光ファイバ13の設置対象に接着される層であり、基材11の片面で基材11の全幅に亘って設けられる。なお「幅」とは光ファイバ組込シート1の長手方向と平面において直交する方向の長さをいい、図1(a)の左右方向の長さに対応する。
【0023】
接着層12には既知の粘着材を用いることができるが、なかでも本実施形態では、後述するプライマーとの化学反応により硬化する材料が接着層12として用いられる。また光ファイバ13の設置対象がコンクリート部材である場合には、接着層12に耐アルカリ性を有する材料を用いることで、コンクリートのアルカリ成分による光ファイバ組込シート1の劣化を防止できる。
【0024】
光ファイバ13はガラス等により構成される線状部材である。光ファイバ13にはセンサ用の既知のファイバ部材を用いることができる。光ファイバ13は、その長手方向を光ファイバ組込シート1の長手方向に合わせて配置される。
【0025】
光ファイバ組込シート1およびこれを構成する基材11、接着層12等について、その形状や厚さ、幅等が特に限定されることはない。例えば光ファイバ組込シート1の幅については、幅が大きいと光ファイバ組込シート1の接着性が向上するものの、幅が大きすぎるとハンドリング性が低下することから、1~10cm程度とするが、これに限ることはない。
【0026】
(2.光ファイバ13の設置方法)
次に、光ファイバ組込シート1を用いた光ファイバ13の設置方法について説明する。本実施形態では、光ファイバ組込シート1を光ファイバ13の設置対象に貼付けることで光ファイバ13の設置を行う。設置対象は例えば構造物の柱や梁、桁、床、壁等を構成するコンクリート部材や鋼材などであるが、特に限定されない。
【0027】
本実施形態では、光ファイバ13を設置する際、まず図2に示すように、設置対象3における光ファイバ13の設置面にプライマー9を塗布する。本実施形態では設置対象3の下面に光ファイバ13の設置を行うものとし、プライマー9は当該下面に塗布するが、光ファイバ13の設置面(プライマー9の塗布面)は特に限定されない。
【0028】
プライマー9は、光ファイバ組込シート1の貼付位置に合わせて帯状に塗布される。図2(a)はプライマー9の塗布位置をその長手方向に沿って見た断面であり、図2(b)は図2(a)の線A-Aに沿った断面である。
【0029】
前記したように、本実施形態では、プライマー9として、接着層12との化学反応により接着層12を硬化させる材料が用いられる。プライマー9はエポキシ樹脂硬化剤が用いられる。特に限定しないが、例えば、アミン系、チオール系、イミダゾール系などが挙げられる。また、接着層12はエポキシ樹脂を含有する。その他の樹脂として、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などが含まれても良い。ただし、以上に挙げた材料は一例であり、プライマー9と接着層12の材料の組み合わせは、プライマー9と接着層12との化学反応により接着層12を硬化させることができれば特に限定されず、その化学反応の種類も特に限定されない。
【0030】
こうしてプライマー9の塗布を行った後、光ファイバ組込シート1をその接着層12により設置対象3に貼付ける。光ファイバ組込シート1はプライマー9の塗布位置で設置対象3に貼付けられ、この時光ファイバ13の位置をプライマー9の塗布位置に合わせる。
【0031】
また本実施形態では、光ファイバ組込シート1の貼付を行う際、図3(a)に示す貼付装置5を用いる。
【0032】
貼付装置5は、本体51、取付材52、押えローラ53、リール54等を有する。本体51は棒状の部材であり、その先端部に押えローラ53が設けられる。リール54は光ファイバ組込シート1をロール状に巻き付けたものであり、取付材52を介して本体51の長手方向の中間部に取付けられる。
【0033】
作業者は、本体51の押えローラ53と反対側の端部である基端部を掴み、リール54から巻き出された光ファイバ組込シート1を押えローラ53によって設置対象3に押さえつつ、貼付装置5を図3(a)の矢印aに示す光ファイバ組込シート1の貼付方向(光ファイバ組込シート1を貼付けて行く方向)に移動させる。
【0034】
この際、押えローラ53とリール54は、光ファイバ13の設置面と直交する面(図3(a)に示す面)内でそれぞれ矢印b、cに示すように回転し、リール54から巻き出された光ファイバ組込シート1の接着層12が押えローラ53によって順次設置対象3に接着される。リール54の回転抵抗Tを適切な値に設定することで、光ファイバ組込シート1の光ファイバ13に上記回転抵抗Tに由来する一定の初期張力を与えつつ貼付作業を実施できる。
【0035】
光ファイバ組込シート1をプライマー9の塗布位置で設置対象3に貼付けることで、接着層12がプライマー9との化学反応により硬化し、図3(b)に例示するように接着層12の硬化部分121が形成される。硬化部分121は少なくとも光ファイバ13の周囲に形成されるが、硬化部分121の形成範囲はプライマー9の塗布幅、塗布量等により異なり、特に限定されることはない。
【0036】
こうして接着層12を硬化させることで、光ファイバ13が設置対象3に強固に固定され、光ファイバ13と設置対象3との一体性が向上する。
【0037】
なお、設置対象3に貼付した光ファイバ組込シート1が屋外など太陽光に対する露光環境下にある場合や、設置対象3の下面にコンクリートが打設されるなどして光ファイバ組込シート1がコンクリートとの接触環境下となる予定の場合は、図3(b)に示すように被覆材7で光ファイバ組込シート1を被覆してもよい。前者の場合は被覆材7に耐紫外線性を有する材料を用い、後者の場合は被覆材7に耐アルカリ性を有する材料を用いることで、光ファイバ組込シート1の劣化を好適に防止できる。
【0038】
以上のようにして光ファイバ13が設置対象3に設置される。その後、接着層12に埋設された光ファイバ13の端部を取出して図示しない測定機器に接続し、設置対象3の変形を光ファイバ13の歪から検出する。この際の測定手法としてはBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)、BOCDA(Brillouin Optical Correlation Domain Analysis)、FBG(Fiber Bragg Grating)等が既知であるが、いずれの手法も適用でき、各手法に応じた光ファイバ13と測定機器を用いればよい。
【0039】
以上に説明した本実施形態によれば、光ファイバ組込シート1をその接着層12により設置対象3に接着することで、光ファイバ13の設置作業に要する労力を軽減でき、少人数での合理的な設置作業が可能になる。また光ファイバ組込シート1の基材11や接着層12が光ファイバ13の防護層として機能し、設置作業中および設置後において外部からの接触に対する光ファイバ13の損傷リスクを低減できる。さらに、光ファイバ13は上記の接着層12に埋設されており光ファイバ13と設置対象3の間にシート等が介在することがないので、設置対象3の変形が光ファイバ13による測定結果に反映されやすく好適にセンシングを行うことができ、層構成としても簡易で低コストである。
【0040】
また本実施形態では、光ファイバ13が埋設された接着層12をプライマー9との反応により硬化させることで、光ファイバ13と設置対象3との一体性が向上し、容易に外れたりすることが無く耐久性が向上する。
【0041】
さらに本実施形態では、光ファイバ組込シート1の貼付時に前記した貼付装置5を用いることで、光ファイバ組込シート1の貼付作業がさらに簡単になり一人での作業も可能で、貼付精度も向上する。また光ファイバ組込シート1の光ファイバ13に一定の初期張力を与えつつ貼付作業を実施できるので、光ファイバ13の全長に亘って一定の初期歪を導入し、測定結果のばらつきを防止することができる。
【0042】
ただし、貼付装置5を用いずに光ファイバ組込シート1の貼付を行うことも可能であり、また上記の貼付装置5に替えて図4に示す貼付装置5aを用いることもできる。
【0043】
図4の貼付装置5aは、前記の貼付装置5にプライマー塗布装置57を追加することで、1回の作業でプライマー9の塗布と光ファイバ組込シート1の貼付を行えるようにし、光ファイバ13の設置作業を更に軽減するものである。
【0044】
プライマー塗布装置57は貼付装置5aの本体51の中間部から延びる支持材55の先端に取付けられており、更に図4の例では貼付装置5aの走行を補助する補助ローラ58が取付材56を介して本体51の中間部に取付けられる。押えローラ53、プライマー塗布装置57、補助ローラ58は、光ファイバ組込シート1の貼付方向aにこの順で配置される。
【0045】
作業者は、本体51の基端部を掴み、押えローラ53、プライマー塗布装置57、補助ローラ58を設置対象3に押し当て、リール54から巻き出した光ファイバ組込シート1を押えローラ53で設置対象3側に押さえつつ、貼付装置5aを光ファイバ組込シート1の貼付方向aに移動させる。これにより、プライマー塗布装置57によるプライマー9の塗布が光ファイバ組込シート1の貼付に先行して行われ、これら一連の作業を一人で実施できる。支持材55にはスプリングなどを用いた伸縮機構を設けてもよく、これによりプライマー塗布装置57を設置対象3の表面の凹凸に追従させ、必要な量のプライマー9の塗布を常に行うことができる。
【0046】
また、本実施形態では設置対象3に塗布したプライマー9により光ファイバ組込シート1の接着層12を硬化させたが、図5に示すように、プライマー9を塗布せずに光ファイバ組込シート1の接着層12を設置対象3に接着してもよい。この場合、プライマー9との化学反応により接着層12を硬化させる必要は無く、接着層12として従来知られた通常の粘着材を用いることができる。
【0047】
図6は、(a)プライマー9を塗布せずに光ファイバ組込シート1の接着層12を設置対象3に接着した場合と、(b)プライマー9により接着層12を硬化させた場合のそれぞれについて、光ファイバ13による測定結果を、横軸を光ファイバ13の基準位置からの距離、縦軸を光ファイバ13の歪の初期値からの変化(歪変化)として示したものである。
【0048】
これらのグラフからは、プライマー9により光ファイバ組込シート1の接着層12を硬化させた(b)のケースにおいて、設置対象3の変形により光ファイバ13に歪が生じた箇所をより鋭敏に検出できることがわかる。
【0049】
その理由を図7(a)、(b)に示すように設置対象3にひび割れ31が生じる場合を例にとって説明する。図7(a)、(b)は光ファイバ13の長手方向に沿った断面を示したものである。
【0050】
すなわち、プライマー9を塗布せずに光ファイバ組込シート1の接着層12を設置対象3に接着した図7(a)のケースでは、設置対象3のひび割れ31が、ひび割れ31の位置を中心としたある程度の長さLの範囲の光ファイバ13の歪ε(伸び)に反映され、この範囲の単位長さ当たりの歪εは緩和され小さくなる。一方、プライマー9により接着層12を硬化させた図7(b)のケースでは、光ファイバ13が設置対象3に強く固定されるため、設置対象3のひび割れ31が、ひび割れ近傍の短い長さLの範囲の光ファイバ13の歪εにしか反映されず、当該範囲外の光ファイバ13は設置対象3に強固に固定されているため歪が生じない。そのため、上記長さLの範囲の光ファイバ13の単位長さ当たりの歪εは大きくなり、これを鋭敏に検出できるようになる。
【0051】
このように、光ファイバ13が埋設された接着層12をプライマー9との反応により硬化させることで、光ファイバ13と設置対象3との一体性が向上し、設置対象3の変形を鋭敏に検知することができる。ただし、些細で問題にならない程度の変形をノイズとして検出したり、測定値が測定可能範囲を超えたり、光ファイバ13が損傷したりする恐れもあり、図5のようにプライマー9を塗布せずに接着層12を設置対象3に接着するほうが望ましい場合もある。またこのほうが設置対象3の表面の凹凸や設置対象3の変形にも追従しやすい。
【0052】
従って、どちらの方法を採用するかは測定目的や設置対象3等を考慮して定めればよく、接着層12の材料等も、プライマー9により硬化させる場合はその硬化部分121の剛性、そうでない場合は接着層12自体の剛性が測定目的や設置対象3等に応じた適切な値となるように選定すればよい。
【0053】
また、本実施形態では接着層12として粘着材を用いるが、接着層12はこれに限らない。例えば接着層12として既知の熱硬化性樹脂などの熱硬化性材料を用いることもできる。この場合、光ファイバ組込シート1の接着層12を加熱装置で加熱しながら設置対象3に押し付けることで、硬化した接着層12により光ファイバ13を設置対象3に強固に固定でき、プライマー9の塗布作業は不要になる。上記の加熱装置は例えば前記の貼付装置5の押えローラ53等に組み込むことが可能であるが、貼付装置5と別体のものであってもよい。その他、接着層12としては既知の水硬性樹脂などの水硬化性材料を用いることもでき、この場合、接着層12は大気中の湿気によって自然硬化する。
【0054】
また、基材11も前記に限ることはなく、炭素繊維シート、アラミドシート等を用いた高強度の層としてもよい。また基材11の長手方向に目盛りを設け、光ファイバ組込シート1の貼付長を把握できるようにしてもよい。
【0055】
さらに、光ファイバ組込シートの構成も前記したものに限定されず、例えば図8(a)の光ファイバ組込シート1aに示すように、前記した光ファイバ13に加え、温度測定を目的としたセンサ用途の光ファイバ15を接着層12に更に埋設してもよい。光ファイバ15はその長手方向に沿った温度分布を測定するためのものであり、光ファイバ組込シート1aの長手方向に沿って光ファイバ13と平行に配置される。
【0056】
図8(a)の例では、接着層12に筒体14を埋設し、温度測定用の光ファイバ15を筒体14内に挿通することで光ファイバ15と接着層12の縁が切られる。光ファイバ15の外径は筒体14の内径より小さく、光ファイバ15を若干の弛みをもって配置するなどして歪を防止する。この場合、光ファイバ15で測定した光ファイバ15の長手方向の温度分布を用い、光ファイバ13による測定結果の温度補正を実施でき、より正確な設置対象3の変形検出が可能となる。
【0057】
また、温度測定を目的とした上記の光ファイバ15のみを接着層12に埋設してもよく、この場合も、光ファイバ15と設置対象3の間にシート等が介在しないことにより、設置対象3近傍の温度が光ファイバ15による測定結果に反映されやすいという利点がある。
【0058】
さらに、図8(b)の光ファイバ組込シート1bに示すように、基材11と接着層12との間に保護層17を設け、光ファイバ13の設置作業中や設置後の損傷リスクを低減してもよい。保護層17には、ある程度の柔軟性を有する粘着材を用いることができる。
【0059】
また、光ファイバ13の測定機器への接続作業を簡単に行うため、図9(a)の光ファイバ組込シート1cに示すように、接着層12の光ファイバ13の近傍に、光ファイバ13の長手方向に沿ったシート引裂き用の線材16を埋設してもよい。
【0060】
線材16には例えば鋼やステンレスを用いることができ、光ファイバ組込シート1cの貼付後、例えば接着層12がプライマー9により完全に硬化する前に、光ファイバ組込シート1cの長手方向の端部から突出した線材16の端部、あるいは基材11等に切り込みを入れて光ファイバ組込シート1cから取り出した線材16の端部を、図9(a)の矢印dに示すように光ファイバ組込シート1cの外部すなわち基材11側に引っ張る。これにより図9(b)に示すように光ファイバ組込シート1cが引き裂かれ、内部の光ファイバ13の取出しが容易になり、測定機器への接続作業が簡単になる。
【0061】
また、光ファイバ13の本数も1本に限らず、図10(a)の光ファイバ組込シート1dに示すように複数本(図の例では2本)の光ファイバ13を光ファイバ組込シート1dの長手方向に沿って平行に設けることも可能である。この場合、1本の光ファイバ13が断線しても他の光ファイバ13で測定を継続できるため、断線により測定不可となるリスクが低減される。また、BOCDAによる測定を行う場合などでは、2本の光ファイバ13の同じ側の端部同士を光コネクタ(不図示)等で連結し、測定に必要な光ファイバ13の往復路を容易に構成することもできる。
【0062】
また、光ファイバ13は一方向にのみ設けるものに限らず、図10(b)の光ファイバ組込シート1eに示すように複数本の光ファイバ13を異なる方向に組み込んでもよい。図10(b)の例では光ファイバ13が平面において直交する2方向に配置されており、各方向の測定を同時に行うことができる。建設現場で光ファイバを多方向に正確に配置するのは困難であるが、あらかじめ光ファイバ13を多方向に組み込んだ光ファイバ組込シート1eを用いれば、所望の方向に正確に光ファイバ13を設置することができる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0064】
1、1a、1b、1c、1d、1e:光ファイバ組込シート
3:設置対象
5、5a:貼付装置
7:被覆材
9:プライマー
11:基材
12:接着層
13、15:光ファイバ
14:筒体
16:線材
17:保護層
51:本体
52、56:取付材
53:押えローラ
54:リール
55:支持材
57:プライマー塗布装置
58:補助ローラ
121:硬化部分
図1
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図10