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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】めっき物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20240314BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20240314BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240314BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240314BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240314BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240314BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240314BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
C23C18/31 A
C23C28/00 C
H01B5/14 A
H01B5/14 B
C09D5/00 D
C09D201/00
C09D7/65
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020058320
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155814
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】森 美穂
(72)【発明者】
【氏名】境野 美咲
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090842(JP,A)
【文献】特開2015-138453(JP,A)
【文献】特開2019-025914(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103507(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
H01B 5/14
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、透明基材の表側及び/又は裏側に形成されためっき下地層と、めっき下地層の表面に形成された無電解めっき層とを有するめっき物の製造方法であって、
透明基材の表側及び/又は裏側にめっき下地層を形成する工程、
前記めっき下地層に無電解めっき層を形成する工程及び
前記無電解めっき層及びめっき下地層にパターンを形成する工程をこの順序で含み、
前記パターンを形成する工程が、ウェットエッチングで行われ、
前記めっき下地層は、ポリピロール微粒子とバインダー樹脂とを含み、かつパターン状に設けられており、加えて厚みが300nm~5μmであり、
前記無電解めっき層は、前記めっき下地層の表面にのみ形成され、
前記無電解めっき層は、黒化処理が施されたものであり、
波長550nmの光透過率が90%以上であることを特徴とするめっき物の製造方法
【請求項2】
前記めっき下地層と、前記無電解めっき層とが、透明基材の表側及び裏側に形成されてなることを特徴とする請求項1に記載のめっき物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき法によって形成された、透明性と視認性に優れためっき物に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット、カーナビゲーション、パソコンなどの電子機器のタッチパネルに用いられる透明導電膜には、低抵抗値でありながら透明性をも備えたものが求められている。透明導電膜は、透明基材と当該透明基材の表側に形成された導電層とから構成されており、導電層としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)や、銅などの金属を線幅が数μmレベルの微細パターン化したメタルメッシュ型が用いられている。これまでは導電性と透明性とを兼ね備えたITOが一般的であったが、表面抵抗値が高く大型のタッチパネルには対応できないといった用途の制約があった。
一方、メタルメッシュ型であれば、表面抵抗値を低くすることが可能で、金属の線幅を調整することで透明性を維持することができ、様々な用途への展開が期待されている。
【0003】
透明基材にパターン状の金属導電層、所謂メタルメッシュを形成する手段としては、無電解めっき法が利用されている。例えば、特許文献1には、透明な基材フィルム表側にパターン状に印刷されためっき下地層を形成し、そこに無電解銅めっき法を行い、銅によるパターン状の金属導電層が形成されためっき物が提案されている。
【0004】
このように形成されたパターン状の金属導電層は、光が反射してぎらつきが発生し視認性が悪くなる場合がある。そのため、一般的には、金属表面に黒化処理等を行い、光の反射を抑えて視認性を向上させる手法が取られている。
【0005】
ところが、この黒化処理は金属表面にしか処理できない。例えば特許文献1に記載されためっき物の場合、図3に示すように、めっき(銅)が析出する部分は、パターン状のめっき下地層の表面だけではなく側面にも析出してしまう、換言すればめっき下地層を覆うようにめっきが析出する。そのとき、基材フィルムと金属めっきが接触する部位が形成されてしまう。このような状態で金属表面に黒化処理を行うと、めっき物の表側(図4(a))から見たときは光の反射が抑えられてぎらつきは発生しないが、めっき物の裏側(図4(b))から見たときには、透明な基材フィルムを通して黒化処理されない部分の金属によって光が反射してぎらつきが発生してしまうという問題があった。また、めっき下地層が透明な場合、めっき物の裏側から見ると透明な基材フィルム及びめっき下地層を通じて金属部分が視認され、同様にぎらつきが発生してしまう。
特に、透明基材フィルムの表側及び裏側の両方にパターン状の金属導電層が必要な用途には、表側も裏側もぎらつきにより視認性が悪くなり、用途によっては改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-95776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、透明性に優れ、表側はもちろんのこと、裏側から見ても金属によって光が反射してぎらつきが発生することのない、視認性に優れるめっき物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、透明基材と、透明基材の表側及び/又は裏側に形成されためっき下地層と、めっき下地層の表面に形成された無電解めっき層とを有するめっき物であって、
前記めっき下地層は、ポリピロール微粒子とバインダー樹脂とを含み、かつパターン状に設けられており、
前記無電解めっき層は、前記めっき下地層の表面にのみ形成され、
前記無電解めっき層は、黒化処理が施されたものであり、
波長550nmの光透過率が90%以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明は、表側は無電解めっき層の黒化処理によって視認性に優れるとともに、裏側から見ても金属によって光が反射してぎらつきが発生することがないため、表側と裏側の両方で視認性に優れるめっき物である。
【0010】
本発明のめっき物の製造方法は、
透明基材の表側及び/又は裏側にめっき下地層を形成する工程、
前記めっき下地層に無電解めっき層を形成する工程、
前記無電解めっき層及びめっき下地層にパターンを形成する工程及び
前記無電解めっき層に黒化処理を施す工程をこの順序で含み、
前記パターンを形成する工程が、ウェットエッチングで行われることを特徴とする。
【0011】
前記製造方法によって、表側と裏側の両方で視認性に優れ、透明性にも優れるめっき物を製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、表側と裏側の両方で視認性に優れ、透明性にも優れるめっき物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施態様の一例を説明する図である。
図2】本発明の実施態様の一例において、(a) 表側からみた図 (b) 裏側からみた図 である。
図3】従来例を説明する図である。
図4】従来例において、(a) 表側からみた図 (b) 裏側からみた図 である。
図5】本発明の製造工程を説明する図である。
図6】実施例1で得られためっき物の表側から撮影したマイクロスコープ画像である。
図7】比較例3で得られためっき物の表側から撮影したマイクロスコープ画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、透明基材と、透明基材の表側及び/又は裏側に形成されためっき下地層と、めっき下地層の表面に形成された無電解めっき層とを有するめっき物である。
【0015】
本発明に使用する透明基材としては、光透過性に優れるものであればよく、透明基材の形状は、特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状が挙げられる。他にも、基材として、例えば、射出成形などにより樹脂を成形した樹脂成形品が挙げられる。
透明基材を構成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ガラス、金属等が挙げられ、好ましくは波長550nmの光透過率が90%以上の樹脂フィルムが用いられる。
【0016】
本発明の透明基材には、めっき下地層との密着性を向上させるために、透明基材の表側及び/又は裏側に親水化処理を行ってもよい。親水化処理としては、乾式処理でもよく、湿式処理でもよい。乾式処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理及びグロー放電処理などの放電処理;オゾン処理;UVオゾン処理;紫外線処理及び電子線処理などの電離活性線処理などが挙げられる。湿式処理としては、例えば、水、アセトンなどの溶媒を用いた超音波処理;アルカリ処理;アンカーコート処理などが挙げられる。これらの処理は、単独で行ってもよいし、2つ以上を組み合せて行ってもよい。
【0017】
本発明のめっき下地層は、ポリピロール微粒子とバインダー樹脂とを含む層である。
本発明のめっき下地層は、例えばポリピロール微粒子とバインダー樹脂とを含む塗料を透明基材に塗布して形成される。当該塗料中のポリピロール微粒子は、以下に述べるように導電性を有するポリピロール微粒子(導電性ポリピロール微粒子ともいう)であっても、還元性を有するポリピロール微粒子(還元性ポリピロール微粒子ともいう)であっても使用することができる。
【0018】
本発明のめっき物は、当該ポリピロール微粒子の表面にパラジウムなどの触媒金属を吸着させ、当該触媒を起点として無電解めっき法によって無電解めっき層が形成されることで得られるが、めっき下地層が導電性ポリピロール微粒子を含む場合と還元性ポリピロール微粒子を含む場合とで、触媒金属を吸着させる工程が異なる。
【0019】
めっき下地層が導電性ポリピロール微粒子を含む場合、後述する脱ドープ処理を行うとめっき下地層に含まれるポリピロール微粒子は還元性ポリピロール微粒子となる。この還元性ポリピロール微粒子には、無電解めっき法により金属膜を形成するに際し用いられるパラジウムなどの触媒金属を還元・吸着させることができる。
なお、無電解めっき法により無電解めっき層が形成されためっき物の時点では、ポリピロール微粒子上にパラジウムなどの触媒金属が還元・吸着されるため、導電性のポリピロール微粒子となる。
【0020】
ここで、本発明の導電性ポリピロール微粒子とは、具体的には、0.01S/cm以上の導電率を有する微粒子である。
【0021】
本発明の導電性ポリピロール微粒子としては、導電性を有するπ-共役二重結合を有するポリピロールであれば特に限定されないが、例えばポリピロールの誘導体も使用できる。また、導電性ポリピロール微粒子は、π-共役二重結合を有するピロールモノマー又はピロール誘導体から合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性ポリピロール微粒子を使用することもできる。
【0022】
一方、めっき下地層が還元性ポリピロール微粒子を含む場合、触媒金属を還元・吸着させることができるため、後述するめっき下地層への脱ドープ処理は不要となる。
還元性ポリピロール微粒子は、0.01S/cm未満の導電率を有するπ-共役二重結合を有するポリピロールであれば特に限定されないが、例えばポリピロールの誘導体も使用できる。
また、還元性ポリピロール微粒子としては、0.005S/cm以下の導電率を有するポリピロール微粒子が好ましい。
還元性ポリピロール微粒子は、π-共役二重結合を有するピロールモノマー又はピロール誘導体から合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性ポリピロール微粒子を使用することもできる。
【0023】
また、導電性ポリピロール微粒子及び還元性ポリピロール微粒子としては、球形の微粒子であるものが挙げられ、その平均粒径(レーザー回析/散乱法により求められる値)は、10~100nmとするのが好ましい。
【0024】
ポリピロール微粒子は、通常、有機溶媒に分散された分散液として使用される。
ポリピロール微粒子の分散液として用いる有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n-オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n-オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0025】
本発明のめっき下地層を構成するバインダー樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリ(N-ビニルカルバゾール)系樹脂、炭化水素系樹脂、ケトン系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチルセルロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ABS系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂等が挙げられる。
【0026】
めっき下地層におけるポリピロール微粒子とバインダーの質量比が、ポリピロール微粒子:バインダー=5:1~1:50であることが好ましい。より好ましくは、2:1~1:10である。
また、めっき下地層における高分子微粒子とバインダーの質量比が、ポリピロール微粒子:バインダー=5:1~1:50の範囲を逸脱すると、無電解めっき層の析出性が低下する虞がある。
【0027】
本発明のめっき下地層を形成する塗料には、ポリピロール微粒子とバインダーに加え、溶媒や各種添加剤を含む。なお、ポリピロール微粒子は、通常、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、それ以外の溶媒を含んでもよい。
【0028】
溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n-オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n-オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。また、メチルセルソルブ等の多価アルコール誘導体溶媒、ミネラルスピリット等の炭化水素溶媒、ジヒドロターピネオール、D-リモネン等のテルペン類に分類される溶媒を用いることもできる。なお、バインダーを若干溶解する成分を含んだ溶媒を用いて、めっき下地層を形成するのがよい。
【0029】
本発明のめっき下地層は、ポリピロール微粒子により黒色に着色されている。そのため、本発明のめっき下地層は、透明基材を介して見るとめっき下地層の部分が黒色に視認され、無電解めっき層を隠す効果(隠遮性)がある、すなわち金属によって光が反射してぎらつきが発生することがない。
また、本発明のめっき下地層を形成する塗料に黒色系或いは暗色系無機フィラーを含むことで、より隠遮性に優れるものとなる。当該無機フィラーとしては、形成する塗膜層を黒色又は暗色にして光線透過率を小さくし得るものであれば特に限定はしないが、カーボン粒子等が挙げられ、カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
この場合、めっき下地層に含まれる黒色系無機フィラーの含有量は、めっき下地層の質量に基づき80質量%以下の範囲であればよい。当該含有量が80質量%を超えると、めっきが析出し難くなるため、好ましくない。
【0030】
各種添加剤としては、用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0031】
本発明のめっき下地層の厚みは、10nm~10μmの範囲が好ましい。より好ましくは300nm~5μmである。
めっき下地層の厚さが10μmを超えると、密着性が低下する虞があり、10nm未満だと、無電解めっき層の析出性が低下する傾向にある。また、300nm~5μmであれば、黒色系無機フィラーを添加しなくともめっき下地層が黒色となる。
【0032】
本発明の無電解めっき層は、めっき下地層に吸着された触媒金属上に無電解めっき法によって形成される。無電解めっき法に使用できる金属であれば全て適用することができるが、例えば銅、金、銀、ニッケル等が挙げられる。なお、めっき下地層に触媒金属を吸着させる方法については、後述する。
【0033】
本発明は、透明基材の表側及び/又は裏側に形成されためっき下地層と、めっき下地層の表面に形成された無電解めっき層とを有するめっき物であって、無電解めっき層は、パターン状に形成されためっき下地層の表面にのみ形成されていることを特徴とする。
【0034】
このようなパターン状の無電解めっき層を形成する方法としては、無電解めっき層を形成した後に、当該表面にパターンを形成することで得られる。例えば、無電解めっき層の表面に、フォトレジストを塗布し、露光、現像、ウェットエッチングで順次処理した後にフォトレジストを剥離してパターン状の無電解めっき層を形成する方法が挙げられる。
【0035】
なお、マスクパターンを介して紫外線やレーザー、プラズマなどの電子線を照射して不要な部位を除去することにより、パターン状の無電解めっき層を形成する方法等も知られているが、このようなドライエッチングでは、透明基材へのダメージが調整し難く、場合によっては過度のエッチングによって透明基材の透明性、ひいてはめっき物全体の透明性を低下させてしまう虞がある。そのため、本発明ではウェットエッチングが好適である。
【0036】
本発明のめっき物において、無電解めっき層の線幅とパターン形状を選定することで透明性と低抵抗値を得ることができる。
ここで、本発明のめっき物は、JIS K 7375に準拠して測定された、波長550nmの光透過率が90%以上であり、PETフィルムと同等の透明性を備えている。さらに、JIS K 7136に準拠して測定されたヘーズ値が1.7未満であることが好ましい。
また、本発明のめっき物は、低抵抗率計(三菱化学社製、商品名「ロレスタ―GP MCP-T160」)で測定した表面抵抗値が100Ω/sq.(スクエア)以下であることが好ましい。
【0037】
本発明のめっき物は、例えば線幅としては、3~10μmとすることが好ましい。
パターン形状としては、用途によって適宜設定されるが、例えば、L/S=3μm/300μmの格子パターン、亀甲状や幾何学状などのランダムパターンなどが挙げられる。
また、表側又は裏側の面積に対して無電解めっき層が存在しない面積の割合である開口率が95%以上とすれば、上述した本発明のめっき物の透明性と低抵抗値を維持することができ、より好ましくは開口率が98%以上である。
【0038】
本発明の無電解めっき層は、黒化処理が施されている。そのため、光の反射を抑えて視認性を向上させることができる。
【0039】
本発明の作用効果について図面を用いて説明する。
図1(a)に示すように、本発明のめっき物1は、透明基材2と、その表側に形成されたパターン状のめっき下地層3と、めっき下地層3の表面に形成された無電解めっき層4とを有している。当該めっき物1を表側の無電解めっき層4側から見ると、図2(a)に示すようにパターン状に形成された無電解めっき層4が視認できる。一方、当該めっき物1を裏側、すなわち無電解めっき層4が形成されていない面であって透明基材を通して見ると、図2(b)に示すようにパターン状に形成されためっき下地層3が視認できる。 めっき下地層3は黒色であり金属による光の反射は視認されない。これは、無電解めっき層4は、めっき下地層3の表面にのみ形成されているためである。なお、無電解めっき層4には黒化処理が施されており、黒化処理が施された無電解めっき層4’では表側の光の反射が抑えられて視認性が向上する。
【0040】
図1(b)に示すように、本発明は、透明基材2の表側と裏側の両方にパターン状のめっき金属層4が形成された両面めっき物1’としてもよく、本発明の効果がより発揮される。
【0041】
それに対し、めっき下地層の表面以外、すなわち図3に示すようにめっき下地層3の側面にも無電解めっき層が形成された場合は、めっき物1を表側の無電解めっき層4側から見ると、図4(a)に示すように図2(a)と同様に視認できるが、当該めっき物1を裏側、すなわち透明基材2を通して見ると、図4(b)に示すようにパターン状に形成されためっき下地層3とその縁部に無電解めっき層4が視認できる。この縁部にある無電解めっき層4が光の反射によってぎらつくため、裏側の視認性を阻害することとなる。この裏側のぎらつきは、表側の無電解めっき層4に黒化処理を行っても抑制することはできない。
【0042】
本発明のめっき物1の製造方法としては、透明基材2の表側及び/又は裏側にめっき下地層3を形成する工程、前記めっき下地層3に無電解めっき層4を形成する工程、前記無電解めっき層4及びめっき下地層3にパターンを形成する工程及び前記無電解めっき層4に黒化処理を施す工程をこの順序で含み、前記パターンを形成する工程が、ウェットエッチングで行われることが好ましい。
【0043】
具体的には、図5に示す通り、以下の工程a~iを含む。
[工程a]透明基材2の表側及び/又は裏側に、ポリピロール微粒子(導電性ポリピロール微粒子又は還元性ポリピロール微粒子)と、バインダー樹脂とを含む塗料を全面に塗布してめっき下地層3を形成する工程
[工程b]続いて、前記めっき下地層3の上に、無電解めっき法により無電解めっき層4を設ける工程
[工程c]続いて、前記無電解めっき層4上に、PR(フォトレジスト)樹脂を含む塗料を全面に塗布してPR樹脂層6を形成する工程
[工程d]続いて、前記PR樹脂層6をパターン状のマスク7を介して露光する工程
[工程e]続いて前記露光後、現像によりパターンに従ってPR樹脂層6の一部分を除去する工程
[工程f]続いて、前記現像により露出した無電解めっき層4をウェットエッチングする工程
[工程g]続いて、前記工程(f)により露出しためっき下地層3をさらにウェットエッチングする工程
[工程h]無電解めっき層4の表面に残っていた前記PR樹脂層6を剥離除去する工程
[工程i]無電解めっき層4に黒化処理を施す工程
【0044】
各工程を詳細に説明する。
[工程a]
工程aは、透明基材2の表側及び/又は裏側に、ポリピロール微粒子(導電性ポリピロール微粒子又は還元性ポリピロール微粒子)と、バインダー樹脂とを含む塗料を全面に塗布してめっき下地層3を形成する工程である。
なお、導電性ポリピロール微粒子又は還元性ポリピロール微粒子と、バインダー樹脂とを含む塗料を、全面に塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、スクリーンオフセット法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インプリント印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられ、また、印刷方法は、各印刷機を用いる通常の印刷法によって行うことができる。
また、上述したように、形成されるめっき下地層3は、その厚みが10nm~10μmであり、めっき下地層におけるポリピロール微粒子とバインダーの質量比が、ポリピロール微粒子:バインダー=5:1~1:50である。
【0045】
[工程b]
工程bは、前記めっき下地層3の上に、無電解めっき法により無電解めっき層4を設ける工程である。
該工程において、導電性ポリピロール微粒子を用いて形成されためっき下地層3は、脱ドープ処理を行った後に、無電解めっき法により無電解めっき層4が設けられ、また、還元性ポリピロール微粒子を用いて形成されためっき下地層3は、脱ドープ処理を行うことなく無電解めっき法により無電解めっき層4が設けられる。
【0046】
脱ドープ処理としては、めっき下地層3が形成された透明基材2を、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。
特に、導電性ポリピロール微粒子を含むめっき下地層3は非常に薄いものであるため、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。
例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50、好ましくは30ないし40の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。
上記脱ドープ処理により、めっき下地層3中に存在する導電性高分子微粒子は、還元性ポリピロール微粒子となる。
【0047】
無電解めっき法としては、通常知られた方法に従って行うことができる。
即ち、導電性ポリピロール微粒子を用いて形成されためっき下地層3については、脱ドープ処理を行った後に、また、還元性ポリピロール微粒子を用いて形成されためっき下地層3は脱ドープ処理を行うことなく、めっき下地層3が形成された透明基材2を、塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することにより無電解めっき層を設けることができる。
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム-0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。
上記の操作により、めっき下地層3中の還元性ポリピロール微粒子上に触媒金属が吸着され、最終的に、導電性のポリピロール微粒子となる。
【0048】
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。
得られためっき品は、使用した基材のTgより低い温度範囲において、数時間以上、例ば、2時間以上養生するのが好ましい。
形成される無電解めっき層4の厚さは、0.1ないし5μmの範囲とするのが好ましく、0.2ないし3μmの範囲とするのがより好ましい。
【0049】
[工程c]
工程cは、前記無電解めっき層4上に、PR(フォトレジスト)樹脂を含む塗料を全面に塗布してPR樹脂層6を形成する工程である。
PR樹脂は、ポジ型、ネガ型の何れであってもよく、図5に示す製造方法では、ネガ型のPR樹脂を使用している。
なお、PR樹脂含む塗料を、めっき下地層3全面に印刷する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、スクリーンオフセット法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インプリント印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられ、また、印刷方法は、各印刷機を用いる通常の印刷法によって行うことができる。
【0050】
[工程d]
工程dは、前記PR樹脂層6をパターン状のマスク7を介して露光する工程である。
具体的には、マスクパターンを介して前記PR樹脂層6に紫外線等の光を照射することにより達成され得る。
マスクパターンは、ネガ型、ポジ型の何れでも適用できる。
照射する紫外線の光源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、殺菌灯等の一般的に用いられる光源を用いることが出来る。
【0051】
[工程e]
工程eは、前記露光後、現像によりパターンに従ってPR樹脂層6の一部分を除去する工程である。
具体的には、現像液に工程dで露光されたものを浸漬し、後述する無電解めっき層4によるパターン部以外のPR樹脂層6を除去することにより達成される。
即ち、工程dでネガ型のフォトレジストを用いた場合は、露光されなかった部分のPR樹脂層6を除去して、パターンを形成し、ポジ型のフォトレジストを用いた場合は、露光された部分のフォトレジスト層を除去して、パターン状のPR樹脂層6を形成するものである。
【0052】
[工程f]
工程fは、前記現像により露出した無電解めっき層4をウェットエッチングする工程である。
ウェットエッチング液としては、従来用いられているものあればよく、例えばめっきで析出した金属が銅の場合は、塩化第二鉄水溶液などを使用できる。
【0053】
[工程g]
工程gは、前記工程fにより露出しためっき下地層3をさらにウェットエッチングする工程である。
ウェットエッチング液としては、従来用いられているものあればよく、例えば1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ピロリドン、N、N-ジメチルホルムアミド、1、3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム等のアルカリ性エッチング液が挙げられ、それらを1種または2種以上用いてもよい。
ウェットエッチング液によってめっき下地層3を除去することで、透明基材2へのダメージを抑えられ、得られるめっき物1の透明性を維持することができる。
【0054】
[工程h]
工程hは、無電解めっき層4の表面に残っていた前記PR樹脂層6を剥離除去する工程である。
除去する方法としては、例えばアルカリ水溶液や有機溶剤に浸漬する方法が挙げられる。
【0055】
工程g、hは同時に行ってもよい。その場合、ウェットエッチングする液として、NMPとアルカリ水溶性を混合したものを使用することが好ましい。
【0056】
[工程i]
工程iは、無電解めっき層4に黒化処理を施す工程である。
パターン状の無電解めっき層4に対する黒化処理は、酸化処理(例えば、亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及びリン酸三ナトリウムの水溶液を用いる酸化処理)等を行って、例えば、CuO膜を形成することにより達成され、黒化処理が施された無電解めっき層4’では、光の反射を抑えて視認性を向上させることができる。
【0057】
なお、透明基材2の表側及び裏側の両方にパターン状の無電解めっき層4を形成する場合は、例えば上記工程a~工程hの各操作を適宜繰り返すことにより達成され得る。
【0058】
また、必要に応じて、無電解めっき法により形成されたパターン状の無電解めっき層4上に、電解めっき法による金属めっき層を形成してもよい。
【実施例
【0059】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0060】
〔めっき下地層用塗料Aの調製〕
アニオン性界面活性剤(花王社製、商品名「ペレックスOT-P」)1.5mmol、トルエン10mL、イオン交換水100mLを加えて20に保持しつつ乳化するまで撹拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。
反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した導電性ポリピロール微粒子を得た。ここで得られたトルエン分散液中の導電性ポリピロール微粒子の固形分は、約5.0%であった。なお、導電性ポリピロール微粒子の粒径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計(日機装社製、商品名「UPA-EX250」)で測定した結果、最大粒径が100nmであった。
ここに、バインダーとしてメラミン系樹脂(DIC社製、商品名「スーパーベッカミンJ-820」)を加え、固形分比で導電性ポリピロール微粒子:バインダー樹脂=1:20、かつ固形分が約5.0%となるようにめっき下地層用塗料Aを調製した。
【0061】
〔めっき下地層用塗料Bの調製〕
透明樹脂であるポリビニルブチラール(クラレ社製、商品名「モビタール」)と還元パラジウム粒子のコロイド分散液(奥野製薬工業社製、商品名「OPC-80キャタリストM」)とをメタノールとブタノールの混合溶液中に加え、固形分比でポリビニルブチラール:還元パラジウム粒子=1:4、かつ固形分が約5.0%となるようにめっき下地層用塗料Bを調整した。
【0062】
〔実施例1〕
以下の工程a~iを経て両面に無電解めっき層を有するめっき物を得た。このとき、無電解めっき層は、図1(b)に示すようにめっき下地層の表面にのみ形成されていた。
[工程a]
縦100mm、横100mmの大きさの透明基材(PETフィルム、東洋紡株式会社製、商品名「コスモシャインA4100」)の表側及び裏側の両面に、上述の通り調製しためっき下地層用塗料Aをバーコーターにて全面塗工し、120℃のオーブン内で5分間乾燥して、厚みが300nmのめっき下地層を形成した。
ここで、工程aで形成されためっき下地層の厚みについて、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、商品名「JSM-6700F」)にてめっき下地層断面を観察し、任意の10箇所の膜厚を測定し、その膜厚の平均値を「めっき下地層の厚み」とし、結果、表側及び裏側の各厚みが300nmであった。
[工程b]
工程aで得られた基材を、35℃に調温したウォーターバスを用いて1M水酸化ナトリウム溶液に5分間浸漬して表面処理(脱ドープ処理)を行った。
続いて、0.02%塩化パラジウム-0.01%塩酸水溶液に5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。
35℃に温調したウォーターバスを用いて無電解銅めっき浴(奥野製薬工業株式会社製、商品名「ATSアドカッパーIW浴」)に10分間浸漬し、表側及び裏側の各厚みが300μmの無電解銅めっき層を得た。なお、厚みは、工程aにてめっき下地層を測定した方法と同様とした。
[工程c]
工程bで形成された表側及び裏側の各無電解銅めっき層上に、ネガ型感光性レジストOMR-83(東京応化工業(株)製)をバーコーターにて塗工し、85℃のオーブン内で30分間乾燥して、表側及び裏側の各厚みが2μmのPR樹脂層を形成した。なお、厚みは、工程aにてめっき下地層を測定した方法と同様とした。
[工程d]
工程cの表側及び裏側の各PR樹脂層にL/S=3μm/300μmの格子パターンを持つフォトマスクを介して、高圧水銀灯にて露光した。このとき、表側及び裏側の各面積に対して無電解めっき層が存在しない面積の割合である表側及び裏側の各開口率は98%であった。
[工程e]
OMR現像液(東京応化工業(株)製)に1分間浸漬して現像を行い、表側及び裏側の両面にパターン状のPR樹脂層を形成した。
[工程f]
工程eの現像により露出した無電解銅めっき層を、ウェットエッチング液(塩化第二鉄水溶液)により除去した。
[工程g]
工程gの現像により露出しためっき下地層を、ウェットエッチング液(N-メチル-2-ピロリドン70重量%と、水酸化ナトリウムの濃度が10重量%のポリエチレングリコール溶液15重量%と、水15重量%との混合溶液)により除去し、透明基材を露出させた。
[工程h]
無電解銅めっき層の表面及び裏面に残ったPR樹脂層を剥離液(東京応化工業株式会社製、商品名「OMR剥離液502A」)に1分間浸漬して剥離した。
[工程i]
工程hで露出した無電解銅めっき層に黒化処理を施し、銅を黒色に変色させた。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1の工程dにおいて、線幅が3μmの亀甲状のランダムパターンを持つフォトマスクを用いたこと以外は、実施例1と同様にして両面に無電解めっき層を有するめっき物を得た。このとき、無電解めっき層は、図1(b)に示すようにめっき下地層の表面にのみ形成されており、開口率は98%であった。
【0064】
〔比較例1〕
縦100mm、横100mmの大きさの透明基材(PETフィルム、東洋紡株式会社製、商品名「コスモシャインA4100」)の表側及び裏側の両面に、上述の通り調製しためっき下地層用塗料Bをバーコーターにて全面塗工し、80℃のオーブン内で1時間乾燥して、表側及び裏側の各厚みが1μmのめっき下地層を形成した。
次いで、工程bにおいて脱ドープ処理をせずに、直接めっき浴に10分間浸漬し、表側及び裏側の各厚みが300μmの無電解銅めっき層を得たこと以外は、実施例1と同様にめっき物を得た。このとき、無電解めっき層は、図1(b)に示すようにめっき下地層の表面にのみ形成されており、開口率は98%であった。
【0065】
〔比較例2〕
実施例1の工程f、gにおいて、工程eの現像により露出した無電解銅めっき層にプラズマを照射して当該部分の無電解銅めっき層及びめっき下地層を除去し、透明基材を露出させたこと以外は、実施例1と同様にしてめっき物を得た。このとき、無電解めっき層は、図1(b)に示すようにめっき下地層の表面にのみ形成されており、開口率は98%であった。
【0066】
〔比較例3〕
実施例1の工程aにおいて、グラビア校正機(松尾産業社製、商品名「K303マルチコーター」)を用いて、透明基材の表側及び裏側の両面にめっき下地層用塗料AをL/S=3μm/300μmの格子パターンに印刷し、その後、120℃のオーブン内で5分間乾燥して、表側及び裏側の各厚みが300nmのめっき下地層を形成した。
続いて、実施例1の工程b及び工程iを経てめっき物を得た。このとき、無電解めっき層は、図3(b)に示すようにめっき下地層の表面及び側面に形成されており、開口率は98%であった。
【0067】
〔比較例4〕
実施例1の工程dにおいて、L/S=3μm/100μmの格子パターンを持つフォトマスクを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてめっき物を得た。このとき、無電解めっき層は、図1(b)に示すようにめっき下地層の表面及び側面に形成されており、開口率は94%であった。
【0068】
実施例1及び2、比較例1~4より得られためっき物について、透明性及びめっき物の表側の視認性の評価を行い、結果を表1に示す。評価基準は以下の通りである。
【0069】
〔透明性〕
めっき処理を行っていない透明基材をリファレンスとし、分光光度計(日本分光株式会社製)を使用して、波長550nmでの光線透過率(%)及びヘーズ値を測定し、それぞれ以下の通り評価した。光透過率は、JIS K 7375、ヘーズ値は、JIS K 7136に準拠した。なお、光透過率及びヘーズ値の両方が○評価であれば透明性に優れるものとする。

光線透過率 ○:90%以上 ×:90%未満
ヘーズ値 ○:1.7未満 ×:1.7以上
【0070】
〔視認性〕
めっき物の表側及び裏側の任意の箇所をマイクロスコープ(キーエンス社製、商品名「VHX-500」)にて拡大観察し、光の反射によるぎらつきが観察されなければ○、された場合は×と評価した。
また、図6には、めっき物(実施例1)の表側のマイクロスコープ画像、図7には、めっき物(比較例3)の表側のマイクロスコープ画像を示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1及び図6に示すように、実施例1及び2では、無電解銅めっき層が、めっき下地層の表面にのみ形成されているため、表側及び裏側の両面において、金属での光の反射によるぎらつきは視認されず、透明性及び視認性の双方に優れるめっき物を得ることができた。
【0073】
一方、比較例1は、めっき下地層が透明であることから、めっき物の裏側から見た場合でも無電解銅めっき層が視認され、当該銅で光の反射によるぎらつきが観測され、視認性に劣るものであった。
比較例2は、工程f・gのドライエッチングの影響により、透明性に劣るめっき物であった。
比較例3は、無電解銅めっき層が、めっき下地層の表面及び側面に形成されているため、図7に示すように、めっき下地層の縁部分で光の反射によるぎらつきが観測され、視認性に劣るものであった。
比較例4は、開口率が低すぎて透明性に劣るものであった。
【0074】
本発明は、透明基材と、透明基材の表側及び/又は裏側に形成されためっき下地層と、めっき下地層の表面に形成された無電解めっき層とを有するめっき物であって、前記めっき下地層は、ポリピロール微粒子とバインダー樹脂とを含み、かつパターン状に設けられており、前記無電解めっき層は、前記めっき下地層の表面にのみ形成され、前記無電解めっき層は、黒化処理が施されたものであり、波長550nmの光透過率が90%以上であることを特徴とする。
本発明によれば、表側と裏側の両方から見ても金属によって光が反射してぎらつきが発生することがないため、表側と裏側の両方で視認性に優れるめっき物が得られる。
【0075】
また、本発明のめっき物の製造方法は、透明基材の表側及び/又は裏側にめっき下地層を形成する工程、前記めっき下地層に無電解めっき層を形成する工程、前記無電解めっき層及びめっき下地層にパターンを形成する工程及び前記無電解めっき層に黒化処理を施す工程をこの順序で含み、前記パターンを形成する工程が、ウェットエッチングで行われることを特徴とする。
本発明の製造方法によれば、表側と裏側の両方で視認性に優れ、透明性にも優れるめっき物を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
スマートフォンやタブレット、カーナビゲーション、パソコンなどの電子機器のタッチパネルに用いられる透明導電膜、窓などの透明体に貼着して用いられる透明電磁波シールドや透明アンテナ、或いは液晶ポリマーを含む層の両面に導電層を備えた樹脂フィルムを積層して導電層へ電流のオンオフで液晶ポリマーの配光性を調整可能とした調光フィルムなどに用いることができる。特に、両面に導電層を備える用途に最適である。
【符号の説明】
【0077】
1 めっき物
1’両面めっき物
2 透明基材
3 めっき下地層
4 無電界めっき層
4’黒化処理された無電解めっき層
6 PR層
7 マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7