(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】播種材の製造方法、および植物生育域の造成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/70 20170101AFI20240314BHJP
A01C 1/06 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A01K61/70
A01C1/06 Z
(21)【出願番号】P 2020101578
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発表日:令和元年8月17日 発表場所:和歌山工業高等専門学校 発表内容:発明内容の公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発表日:令和元年12月4日 発表場所:方杭漁港 発表内容:発明の実施
(73)【特許権者】
【識別番号】000167233
【氏名又は名称】光洋機械産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼下 太志
(72)【発明者】
【氏名】千坂 修
(72)【発明者】
【氏名】楠部 真崇
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 夢生
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-341904(JP,A)
【文献】特開2004-292354(JP,A)
【文献】特開昭62-246505(JP,A)
【文献】特開2015-006979(JP,A)
【文献】特開2005-095142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/70
A01C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体粒子である主材と、金属塩剤とを材料として含む基材と、種子とを造粒し、
前記基材を微生物の固化反応により固化して播種材とすることを特徴とする播種材の製造方法。
【請求項2】
前記微生物としてウレアーゼ産生菌を使用し、前記金属塩剤としてカルシウム塩を使用することを特徴とする請求項
1に記載の播種材の製造方法。
【請求項3】
前記金属塩剤として貝殻の粉末を使用することを特徴とする請求項
1または
2に記載の播種材の製造方法。
【請求項4】
前記主材として目的の水域から採取された砂を用いることを特徴とする請求項
1~3のいずれか一項に記載の播種材の製造方法。
【請求項5】
前記微生物として目的の水域から採取された微生物を用いることを特徴とする請求項
1~4のいずれか一項に記載の播種材の製造方法。
【請求項6】
生物に利用可能な栄養素を前記基材に混合することを特徴とする請求項
1~5のいずれか一項に記載の播種材の製造方法。
【請求項7】
前記基材と種子の造粒にプラネタリ造粒法により造粒を行うパン型の造粒ミキサを使用することを特徴とする請求項
1~6のいずれか一項に記載の播種材の製造方法。
【請求項8】
造粒物から所定の径未満の粒を回収し、造粒に再利用することを特徴とする請求項
1~7のいずれか一項に記載の播種材の製造方法。
【請求項9】
下記A~Dのいずれかに記載の播種材を目的の水域に撒布することを特徴とする植物生育域の造成方法。
A)固体粒子である主材と、
微生物の固化反応により固化される金属塩剤とを材料として含む基材と、
該基材に包含された種子と
を備え、粒状に形成されたことを特徴とする播種材。
B)前記微生物はウレアーゼ産生菌であり、前記金属塩剤はカルシウム塩を含む播種材A。
C)前記金属塩剤は貝殻の粉末である播種材Aまたは播種材B。
D)生物に利用可能な栄養素を前記基材に含む播種材A、BまたはC。
【請求項10】
前記主材として目的の水域から採取された砂を用いることを特徴とする請求項
9に記載の
植物生育域の造成方法。
【請求項11】
前記微生物を目的の水域から採取することを特徴とする請求項
9または
10に記載の植物生育域の造成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中植物を播種するための播種材の製造方法、および該播種材を用いて水中に植物の生育する領域を造成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海や湖川における生物の保護や環境保全、水産資源の育成等を目的として、藻場等と呼ばれる植物の群落を人工的に造成することが行われている(尚、以下では、いわゆる藻場を含む、植物の生育する領域を必要に応じて「植物生育域」と称することとする)。こうした植物生育域の造成に関する技術を記載した文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-149953号公報
【文献】特開2014-45542号公報
【文献】特開2011-24541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1、2には、ブロック状の構造物を水中に設置し、海藻をはじめとする生物の活動の足場を造成する技術が記載されている。しかしながら、こうした構造物による植物生育域の造成は大掛かりな工事を必要とするため、手間や費用が嵩むほか、工事そのものが周辺の環境に与える影響も小さくないという問題がある。
【0005】
また、特許文献3には、人の手で扱える程度の大きさの構造物を用いて藻場を造成する技術が記載されているが、このような構造物を使用するとしても、結局、設置や移送に際して潜水作業等が必要となることが考えられる。
【0006】
しかも、上記の如き技術では、人工的な構造物を水中に設置することになるため、材料等によっては構造物自体が環境に与える影響も無視できないし、必要に応じて構造物を撤去する作業も行わなくてはならない。
【0007】
一方、例えば海草の種子を水中に直接撒布するといった方法も考えられるものの、水流等によって撒布した種子が目的の領域から流失してしまう可能性が高く、あまり効果的ではない。また、人が潜水して水底に種子や苗を植えつけるといった方法もあるが、これも非常に手間のかかる作業である。しかも、安定した藻場を形成するには植え付けの作業を継続して定期的に行う必要があり、その度に人員を確保するのも困難である。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、環境への影響を極力抑えつつ、植物生育域を簡便且つ好適に造成し得る播種材の製造方法、および植物生育域の造成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、固体粒子である主材と、金属塩剤とを材料として含む基材と、種子とを造粒し、前記基材を微生物の固化反応により固化して播種材とすることを特徴とする播種材の製造方法にかかるものである。
【0014】
本発明の播種材の製造方法においては、前記微生物としてウレアーゼ産生菌を使用し、前記金属塩剤としてカルシウム塩を使用することができる。
【0015】
本発明の播種材の製造方法においては、前記金属塩剤として貝殻の粉末を使用することができる。
【0016】
本発明の播種材の製造方法においては、前記主材として目的の水域から採取された砂を用いることができる。
【0017】
本発明の播種材の製造方法においては、前記微生物として目的の水域から採取された微生物を用いることができる。
【0018】
本発明の播種材の製造方法においては、生物に利用可能な栄養素を前記基材に混合することができる。
【0019】
本発明の播種材の製造方法においては、前記基材と種子の造粒にプラネタリ造粒法により造粒を行うパン型の造粒ミキサを使用することができる。
【0020】
本発明の播種材の製造方法においては、造粒物から所定の径未満の粒を回収し、造粒に再利用することができる。
【0021】
また、本発明は、下記のいずれかの播種材を目的の水域に撒布することを特徴とする植物生育域の造成方法にかかるものである。
A)固体粒子である主材と、
微生物の固化反応により固化される金属塩剤とを材料として含む基材と、
該基材に包含された種子と
を備え、粒状に形成されたことを特徴とする播種材。
B)前記微生物はウレアーゼ産生菌であり、前記金属塩剤はカルシウム塩を含む播種材A。
C)前記金属塩剤は貝殻の粉末である播種材Aまたは播種材B。
D)生物に利用可能な栄養素を前記基材に含む播種材A、BまたはC。
【0022】
本発明の植物生育域の造成方法においては、前記主材として目的の水域から採取された砂を用いることができる。
【0023】
本発明の植物生育域の造成方法においては、前記微生物を目的の水域から採取することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の播種材の製造方法、および植物生育域の造成方法によれば、環境への影響を極力抑えつつ、植物生育域を簡便且つ好適に造成し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施による播種材の形態の一例を示す全体図である。
【
図3】播種材の形態の別の一例を示す全体図である。
【
図4】播種材を用いた植物生育域の造成の各工程を示す図であり、(A)は播種材を撒布する様子、(B)は播種材が水底に着床する様子、(C)は播種材の基材が溶解した様子、(D)は種子が発芽する様子をそれぞれ示している。
【
図5】播種材の製造から植物生育域の造成までの一連の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1、
図2は本発明の実施による播種材の形態の一例を示している。本実施例の播種材1は、基材2の内部に植物の種子3が包含された構造を備え、適当な径の粒状に成形された物体であり、以下の材料および手順により製造される。尚、本実施例の場合、種子3としてはアマモの種子を想定しているが、その他の植物種の種子も適宜使用し得ることは勿論である。
【0028】
基材2に使用する原材料の組成の一例を、下記表1に重量比(%)にて示す。
【表1】
【0029】
主材は、基材2の骨格をなす固体粒子である。この主材を、微生物による固化反応を利用し、金属塩剤の成分により固め合わせることで、最終的に
図1、
図2に示す如き基材2を形成する。
【0030】
金属塩剤の固化は、例えば尿素分解酵素(ウレアーゼ)をもつ微生物(ウレアーゼ産生菌)により、下記の化学反応1、2を通じて行われる(ただし、下に示す以外の反応によって金属塩を固化させる微生物を利用することも理論上は考えられ、その場合、微生物の種類や基材2の原材料組成等は適宜変更し得る)。
反応1…… 尿素 + 水 → アンモニウムイオン + 炭酸イオン
反応2…… 金属イオン + 炭酸イオン→ 炭酸金属塩
【0031】
上記表1の成分のうち、菌液にはウレアーゼ産生菌が、固化液には尿素がそれぞれ含まれている。微生物のもつウレアーゼは、上記反応1(尿素の加水分解反応)を進行させる。反応2(固化反応)では、尿素の加水分解の結果発生した炭酸イオンが、金属塩剤に含まれる金属イオンと結合することで生成した炭酸金属塩が固化し、これにより主材同士が固め合わされる。水は、尿素の加水分解反応の反応物質として働くほか、主材や金属塩剤の混合物である基材2の材料を混練するにあたり、材料の流動性を確保する役割を果たす。
【0032】
主材としては、例えば海砂を使用することができる。金属塩剤としては、カルシウム塩を含む物質、例えば貝殻を砕いた粉末を使用することができる。
【0033】
菌液としては、例えばRalstonia basilensisやその近縁種等のウレアーゼ産生菌を108[個/ml]以上含む液体を使用することができる。尚、菌液中における体積あたりのウレアーゼ産生菌の個数については上限値はなく、液中のウレアーゼ産生菌が108[個/ml]以上となるように適宜培養し、必要に応じて希釈等により調整した液を菌液として用いることができる。また、ウレアーゼ産生菌としては、上記反応1、2により基材2を固化させることができる限りにおいて、適宜の種類を利用することができるが、目的の水域の砂等から単離培養すると、環境負荷を低減する意味で特に好適である。
【0034】
固化液としては、尿素を3~6[w/v%]程度の濃度で含む水溶液を使用することができる。
【0035】
基材2の原材料に対し、各材料または成分の最終的な比率として好ましい数値範囲を下記表2に示す。
【表2】
【0036】
各材料または成分の割合は、後に出来上がる播種材1の取扱いに適した十分な硬度を実現しつつ、後述するように適当な時間を経て海中で溶解するよう、上記数値の範囲内で適宜調整する。また、上に示した材料や成分以外に、各種の物質(例えば、後に造成される植物生育域において、種子3から発生する植物やその他の生物(植物や微生物、魚介類等)が利用できる栄養素等)を適宜混合してもよい。
【0037】
以上の如き材料および組成の原材料に、さらに適当な量の種子3を加え、これらの混合物を粒状に成形する。種子3がアマモの種子である場合、例えば合計30kg程度の上記原材料の混合物に対し、600粒程度の種子3を混合する。尚、後述するように、造粒後に種子3を含まない余剰の原材料は再利用できるので、原材料に対する種子3の量はさほど厳密に調整する必要はない。また、植物種によって異なる種子の大きさ等に応じて、混合物に対する種子の割合は適宜調整してよい。
【0038】
基材2と種子3による粒の成形(造粒)は、造粒ミキサ等と称される装置を用いて行うことができる。造粒ミキサにはパン型、ドラム型、一軸強制型、二軸強制型など、種々の型式があり、適当な型式の造粒ミキサを適宜選択して使用することができるが、混練物をペレット状に押出成形する方式のものは、摩擦熱が生じて種子3に影響を及ぼす可能性があるため避けた方が良い。本発明の目的に特に適しているのはパン型の造粒ミキサであり、中でもプラネタリ造粒法と呼ばれる方式で造粒を行う機種が適している。パン型の造粒ミキサでは、水平の造粒場で360度回転するブレードにより混練物を円周方向に沿って転がしつつ、径方向に関して内側から外側へ移動させ、その過程で造粒物表面の濡れ面に新たな材料を吸着させるようにして粒を大きくしていく方式で、高速で効率のよい造粒が可能である。さらに、パン造粒法の一種であるプラネタリ造粒法では、360度回転するアームの先端に取り付けられたブレードがアームに対しさらに回転するようになっており、ブレードの剪断力によって造粒物の面積が増加することで、より効率的に粒を太らせることができる。
【0039】
造粒物は、必要に応じて篩にかけ、種子3の含まれない粒を除く。造粒ミキサによって成形される造粒物の大きさはまちまちであることが多いが、種子3の大きさに対してある程度の大きさを有していない粒には、中に種子3が含まれていないと考えられるので、所定の径未満の粒を取り除くのである。例えば、種子3として長径6mm程度のアマモの種子を使用する場合、5mm程度の径を基準とし、それ未満の径の造粒物を除去すれば良い。除去された造粒物は、再び造粒ミキサにかけて再利用すれば、基材2の材料を無駄なく使用することができる。また、仮に除去された造粒物の中に種子3が混じっていたとしても、再度造粒ミキサにかけることで粒径が大きくなれば、その後の使用に供されることになる。
【0040】
造粒ミキサにかけた後、篩にかけることで、径の小さい造粒物が除かれ、概ね均質な大きさの造粒物が得られる。ここで、最終的な造粒物の径の目標値は、植物種によって異なるが、1個以上の種子3が含まれる程度の大きさであることを考慮して決定するとよい。種子3がアマモの種子である場合、該種子3は長径が6mm程度の回転楕円体に近い形状であるため、例えば直径5mm以上30mm以下程度の大きさに混練物を造粒すれば、造粒物1粒あたり、1個から数個程度の種子3が含まれることが期待できる。
【0041】
また、造粒物は播種材1として完成した後、後述するように水中に撒布されるが、造粒物の径は、撒布されて水底に着床する際、水流で容易に流されない程度の自重を確保できる大きさであることも考慮して決定すべきである。
【0042】
篩にかけて選抜した造粒物は、室温にて静置しておくと、上記した反応1、2により炭酸金属塩が固化し、
図1、
図2に示す如き播種材1が完成する。
【0043】
尚、基材2の原材料の組成や、造粒ミキサの型式等によっては、例えば
図3に示すように不規則な形状の粒が形成される場合もあるが、造粒物は適当な大きさ且つ十分な硬度で固化しさえすれば、播種材1として使用する上で特に支障はない。
【0044】
完成した播種材1は、小型の船艇等で運搬し、水上から目的の水域に撒布する(
図4(A)参照)。ここで、播種材1の撒布を行う水域としては、むろん育成しようとする植物種の生育に適した環境の場所を選定する必要があるが、この際、植物種に適した水深、水温、日照、水底の土壌といった条件に加え、例えば以下の条件を考慮して選定するとよい。
【0045】
水底において、砂等の粒子の動きやすさは、粒子を動かそうとする力を摩擦抵抗で割った値であるシールズ数Ψ(下記数式参照)で評価することができる。
Ψ=ρwfUw
2/2(ρs-ρw)gd
【0046】
尚、ρwは水の密度、ρsは底質の密度、gは重力加速度、dは底質の粒径、Uwは水底における流速、fは摩擦係数である。
【0047】
シールズ数Ψは流速Uwの2乗に比例し、これが小さいほど水底の粒子は移動しにくく、大きいほど移動しやすい。具体的には、Ψが0.1未満の範囲では粒子はほとんど移動しないが、0.2を超えると浮遊移動状態となり、他の水域へ運ばれてしまう可能性がある。仮に水流が速すぎる水域に播種材1を撒布してしまうと、当該水域にもともとあった砂や、播種材1の基材2に含まれていた砂が流失してしまい、結局、植物がうまく生育しない。そこで、シールズ数φが0.2未満となるような水域を、目的の水域として選定する。
【0048】
撒布された播種材1は、水中を降下し、水底に着床する(
図4(B)参照)。播種材1は、着床時に自重で水底に埋まり込む。さらに、播種材1の周辺では、水流により砂等の粒子が揺動し、あるいは回転するように動く。播種材1は砂等よりは粒径が大きく成形されており、周囲の粒子に比べて動きにくく沈み込みやすいので、このような周囲の粒子の動きに伴い、水底の粒子層をさらに下方へ埋まっていく。また、播種材1を構成する基材2の固化の程度によっては、水底に着床してから早い段階で水流等の作用により基材2が溶解し、含まれていた主材等によっても種子3の上方や側方が覆われることになる(
図4(C)参照)。種子3がこうして他の粒子により覆われることで、水流が種子3に直接作用して種子3が流失してしまうような事態は防止される。
【0049】
やがて、種子3が発芽する(
図4(D)参照)。このとき、種子3の種類によっては、仮に固化したままの基材2等が周囲に残留していても、該基材2を押し割るように発芽が行われ得るが、固化した基材2が発芽の支障になるような場合には、播種材1が着床してから種子3が発芽するまでの間に基材2が溶解するよう、該基材2の原材料の組成を調整し、固化の程度を調節しておくとよい。また、必要に応じ、種子3の生育に好適な栄養素を予め基材2に混合しておくと、発芽後の種子3の成長を促すことができる。
【0050】
ここで、アマモの発芽には、種子表面に付着している硫酸還元菌が必要である。本発明の播種材1のように、種子3の周囲を基材2で覆うと、発芽までの間、基材2やその溶解後の粒子によって表面の硫酸還元菌を水流から保護し、流失を防ぐことができる。このように、本発明の播種材1によれば、種々の作用によって種子3の発芽率を向上させることができる。
【0051】
こうして、同じ水域に撒布された複数の種子3が発芽し、成長することで、植物生育域が造成され、これを足場として他の種類の生物も集まる藻場が形成される。ここで、水中に撒布された播種材1は、造粒ミキサによる造粒の後、篩による選抜を経ており、粒径が概ね類似している。このため、同じ水域に撒布された多数の播種材1は、水底に着床した後の状態(粒子層中の深さや、基材2の溶解度等)が概ね均等になり、播種材1に含まれる同種の種子3は、互いに同じような条件下に置かれることになる。その結果、多くの種子3が同じような時期に発芽して成長し、効率のよい植物群落の形成が図られる。さらに、播種材1の基材2に予め他の生物が栄養素として利用し得るような成分を混ぜ込んでおけば、好適な植物生育域の形成をいっそう促進することができる。
【0052】
上に述べた播種材1の製造から植物生育域の造成までの一連の工程は、
図5に示す如きフローチャートに整理することができる。
【0053】
まず、植物生育域を造成する水域を選定する(ステップS1)。次に、目的の水域からウレアーゼ産生菌を単離し、培養する(ステップS2)。培養した菌液を含む基材2の原材料を用意し、播種する予定の植物の種子3と混合し(ステップS3)、混合物を造粒ミキサで造粒し(ステップS4)、篩にかけて適当な粒径のものを選抜する(ステップS5)。選抜の結果、除かれた粒については回収し(ステップS6)、再び造粒に供する(ステップS4)。選抜した造粒物は固化させて播種材1として完成させ(ステップS7)、目的の水域に撒布する(ステップS8)。播種材1が水底に着床し、種子3が発芽し、植物生育域が形成される(ステップS9)。
【0054】
このように、本発明の播種材1を用いて植物生育域を造成するためには、播種材1を水上から撒布するだけでよい。大掛かりな工事による足場の設置や、面倒な潜水作業等は不要であり、専門的な技能をもたない一般の人であっても容易に植物生育域を造成することができる。
【0055】
また、播種材1の材料としては、もともと目的の水域に存在するものを使用しているので、植物生育域の造成による環境負荷は最小限である。基材2に用いる主材としては、目的の水域あるいはその付近から採取した海砂等を使用すればよいし、金属塩剤としては貝殻等の生物由来の素材を利用できる。主材としての人工の素材や、固化のための人工の高分子化合物等を使用せず、自然界にもとより存在する物質を素材とするので、環境を汚染する心配はない。さらに、ウレアーゼ産生菌は目的の水域から単離して使用すれば、環境負荷をさらに抑えることができる。尚、上記のような播種材1を用い、アマモによる植物生育域の造成を行って経過を観察したところ、アマモの葉長が10cm程度の頃には基材2が溶解し、周囲の海砂と完全に同化していることが確認された。
【0056】
そして、このように素材による環境汚染が生じないため、造成に使用した素材を回収する必要もない。造成の作業が容易であるうえ、回収の作業も生じないので、きわめて安価に、且つ少ない手間で効率よく植物生育域の造成を行うことができる。
【0057】
以上のように、本実施例の播種材1は、固体粒子である主材と、微生物の固化反応により固化される金属塩剤とを材料として含む基材2と、該基材2に包含された種子3とを備え、粒状に形成されている。
【0058】
また、本実施例の播種材の製造方法においては、固体粒子である主材と、金属塩剤とを材料として含む基材2と、種子3とを造粒し、基材2を微生物の固化反応により固化して播種材1としている。
【0059】
また、本実施例の植物生育域の造成方法においては、上述の播種材1を目的の水域に撒布するようにしている。
【0060】
このようにすれば、播種材1を撒布するだけで、容易に植物生育域を造成することができる。
【0061】
また、本実施例の播種材1および該播種材の製造方法において、前記微生物はウレアーゼ産生菌とし、前記金属塩剤としてはカルシウム塩を利用することができる。
【0062】
また、本実施例の播種材1および該播種材の製造方法において、前記金属塩剤は貝殻の粉末としている。このようにすれば、自然界にもとより存在する物質を素材とするので、植物生育域の造成による環境汚染を抑えることができる。
【0063】
また、本実施例の播種材1および該播種材の製造方法においては、生物に利用可能な栄養素を前記基材に含むことができる。このようにすれば、好適な植物生育域の形成をいっそう促進することができる。
【0064】
また、本実施例の播種材の製造方法および植物生育域の造成方法においては、前記主材として目的の水域から採取された砂を用いることができる。このようにすれば、植物生育域の造成にあたっての環境負荷をさらに抑えることができる。
【0065】
また、本実施例の播種材の製造方法および植物生育域の造成方法においては、前記微生物として目的の水域から採取された微生物を用いることができる。このようにすれば、植物生育域の造成にあたっての環境負荷をいっそう抑えることができる。
【0066】
また、本実施例の播種材の製造方法においては、基材2と種子3の造粒にプラネタリ造粒法により造粒を行うパン型の造粒ミキサを使用することができる。このようにすれば、高速で効率よく造粒を行うことができる。
【0067】
また、本実施例の播種材の製造方法においては、造粒物から所定の径未満の粒を回収し、造粒に再利用することができる。このようにすれば、基材2の材料や種子を無駄なく使用することができる。また、播種材1の粒径が概ね類似することにより、種子3同士が互いに同じような条件下に置かれることになる結果、多くの種子3が同じような時期に発芽することで、効率のよい植物群落の形成が図られる。
【0068】
したがって、上記本実施例によれば、環境への影響を極力抑えつつ、植物生育域を簡便且つ好適に造成し得る。
【0069】
尚、本発明の播種材の製造方法、および植物生育域の造成方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0070】
1 播種材
2 基材
3 種子