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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】支持部材および振り子式の制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240314BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240314BHJP
   F16F 7/10 20060101ALI20240314BHJP
   E04H 12/00 20060101ALI20240314BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F7/00 E
F16F7/10
E04H12/00 B
E04H9/02 341A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020107955
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003264
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000134925
【氏名又は名称】株式会社ニチゾウテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】本間 真
(72)【発明者】
【氏名】本浪 雅史
(72)【発明者】
【氏名】畑中 章秀
(72)【発明者】
【氏名】松田 良平
(72)【発明者】
【氏名】潘 超
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-129418(JP,A)
【文献】特開2014-228131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 7/00
F16F 7/10
E04H 12/00
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振り子式の制振装置に取り付けられ、重錘を吊り下げて支持する支持部材であって、
長手方向における2つの端部と、
前記2つの端部の間に、前記重錘を揺動可能に吊り下げる吊り下げ部材が装着されるくぼみ部と、を有し、
前記2つの端部は、円柱形状であり、
前記支持部材を前記長手方向から視たときに、前記2つの端部の中心軸と前記くぼみ部の中心軸とが互いに一致しており、
前記くぼみ部における、前記長手方向に垂直な断面の面積は、前記端部から前記くぼみ部の中央に向かうにつれて小さくなっていることを特徴とする支持部材。
【請求項2】
前記中心軸を含む平面で前記くぼみ部を切断したときの断面の外縁は、湾曲形状を有していることを特徴とする請求項に記載の支持部材。
【請求項3】
中心軸を有する支持部材と、
前記支持部材に取り付けられ吊り下げ部材と、
前記吊り下げ部材を介して吊り下げられた重錘と、
を備える振り子式の制振装置であって、
前記支持部材は、前記中心軸に沿った長手方向における2つの端部と、前記2つの端部の間に位置する、前記重錘を揺動可能に吊り下げる前記吊り下げ部材が装着されるくぼみ部と、を有し、
前記吊り下げ部材は、前記くぼみ部において、前記支持部材の前記長手方向に移動可能であることを特徴とする振り子式の制振装置。
【請求項4】
内部空間を有するフレームと、
前記フレームの内部に設けられた容器と、
前記容器内に前記重錘が吊り下げられるように、前記内部空間において前記支持部材の前記端部を固定する固定部と、をさらに備え、
前記振り子式の制振装置の振動に伴って前記容器内で前記重錘が揺動する、請求項3に記載の振り子式の制振装置。
【請求項5】
前記吊り下げ部材の前記長手方向の移動を制限する制限部材をさらに備えていることを特徴とする請求項に記載の振り子式の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振り子式制振装置に用いられ、重錘を吊り下げて支持する支持部材、および該支持部材を備える制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、煙突等の塔状構造物には、風等によって発生する振動を減衰させるための制振装置が取り付けられることがある。そのような制振装置として、例えば、吊り下げられた重錘の振り子振動によって塔状構造物に対し減衰作用を生じさせる振り子式制振装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、棒状体にアイナットが取り付けられ、該アイナットから吊り下げられた揺動子が揺動することにより制振対象物の振動を低減する振り子式制振装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-170415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の制振装置では、筒状本体の内部空間にて揺動子が揺動すること、および筒状本体の内壁面に揺動子が衝突することによって、振動エネルギーが減衰されて制振対象物に対して制振作用を及ぼすようになっている。
【0006】
しかしながら、上述のような制振装置において、例えば制振対象物の振動方向が上記棒状体の長手方向である場合、上記棒状体に取り付けられたアイナットが上記長手方向に移動し得る。アイナットが上記長手方向に移動すると、揺動する重錘の挙動が複雑化することから、制振装置の性能が目標を下回る可能性がある。
【0007】
また、例えば、上記棒状体が2つの固定部の間に水平に架け渡されて固定されており、アイナットから芯棒を介して重錘が吊り下げられて構成されている制振装置も知られている。このような制振装置では、アイナットが上記長手方向に移動すると、芯棒が上記固定部に接触することによって制振装置の健全性に影響する可能性がある。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、振り子式制振装置の振動方向に応じた制振性能の変動を低減するとともに、制振装置の健全性を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る支持部材は、振り子式の制振装置に取り付けられ、重錘を吊り下げて支持する支持部材であって、長手方向における2つの端部と、前記2つの端部の間に、前記重錘を揺動可能に吊り下げる吊り下げ部材が装着されるくぼみ部と、を有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、振り子式制振装置の振動方向に応じた制振性能の変動を低減するとともに、制振装置の健全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1における支持部材を備える振り子式制振装置、および支持部材の構成を概略的に示す図である。
図2】本発明の実施形態2における支持部材の構成を概略的に示す図である。
図3】本発明の実施形態3における支持部材の構成を概略的に示す図である。
図4】本発明の実施形態4における支持部材を備える振り子式制振装置、および支持部材の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、図面に基づいて以下に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、幅等)は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化および簡略化のために適宜変更している。
【0013】
<制振装置>
先ず、図1における符号1001で示す図を参照して、本発明の一実施形態における支持部材1Aを備える装置の一例である制振装置10Aの構成について概略的に説明する。図1における符号1001で示す図は、本実施形態における制振装置10Aの構成を概略的に示す断面図である。
【0014】
図1において符号1001で示すように、本実施形態における制振装置10Aは、フレーム11と、フレーム11の鉛直方向における上側に設置された重錘支持板12と、フレーム11および重錘支持板12の外側を覆うカバー15と、を備えている。また、制振装置10Aは、フレーム11の内部に設けられた容器20と、重錘支持板12に設けられた2つの固定部13を用いて固定された支持部材1Aと、支持部材1Aから吊り下げ部材31を介して吊り下げられた重錘30と、を備えている。
【0015】
ここで、図1中、3次元空間において互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸を以下のように規定する。すなわち、制振装置10Aの高さ方向でもある鉛直方向(紙面における上下方向)をZ軸とするとともに、重力方向をZ軸の負方向とする。また、図1において符号1001にて図示する断面において、制振装置10Aの横幅方向(紙面における左右方向)をX軸とするとともに、該断面(すなわち紙面)における左から右に向かう方向をX軸の正方向とする。また、上記Z軸およびX軸の両方に直交する、制振装置10Aの奥行方向(紙面に対して垂直な方向)をY軸とするとともに、紙面に対して垂直な方向における手前から奥に紙面を貫く方向をY軸の正方向とする。なお、図1以外の図面についても図中にXYZ軸を記載し、以下、同様にXYZ軸を規定して説明する。
【0016】
また、図1では、本実施形態における支持部材1Aの説明の平明化のために、支持部材1Aと、吊り下げ部材31が有するアイナット311と、について中心軸Ax1を揃えて模式的に図示している。実際上は、支持部材1Aに吊り下げ部材31が吊り下がっている状態ではアイナット311と支持部材1Aとは互いに接触する。
【0017】
フレーム11は、例えばI型鋼を組み合わせて形成された高い剛性を有する構造体であって、Z軸の正方向側に向けて開口した開口部を有している。当該開口部を覆うように重錘支持板12が配置されて、フレーム11に固定されている。
【0018】
なお、フレーム11は、例えば、Z軸の正方向側から平面視すると矩形状となるような、箱型の形状に形成されていてもよい。また、フレーム11は、例えば、Z軸の正方向側から平面視すると円形状となるような有底の筒状中空体として形成されていてもよい。フレーム11は、その内部に振り子式の制振構造を収容することが可能となっていればよく、具体的な形状は特に限定されない。
【0019】
重錘支持板12は、上記開口部を覆うように、フレーム11上に設置されている。重錘支持板12は、重錘30をフレーム11内の空間に吊り下げ可能となるように支持部材1Aを支持することができる部材であればよく、重錘支持板12の具体的な態様は特に限定されない。例えば、重錘支持板12に代替してフレーム11を構成する鋼材の一部が利用されてもよく、この場合、当該鋼材に2つの固定部13が設けられていればよい。
【0020】
2つの固定部13は、重錘支持板12の一部として形成されていてもよい。また、2つの固定部13は、重錘支持板12とは別体の部材であってもよく、この場合、重錘支持板12に取り付けられ固定されていればよい。固定部13は、例えば金属製の直方体形状の厚板であり、支持部材1Aが挿入される孔部13Aが形成されている。孔部13Aに支持部材1Aの端部2が挿入されて固定されることにより、2つの固定部13の間に支持部材1Aが水平に架け渡されて固定される。支持部材1Aを固定部13に固定するための具体的な固定手段は特に限定されない。この支持部材1Aについて詳しくは後述する。
【0021】
なお、2つの固定部13は、支持部材1Aを固定可能に一対に設けられていればよく、具体的な態様は特に限定されない。固定部13は、衝撃荷重に耐えられる材料にて形成され、そのような材料としては、例えば鉄、ステンレス鋼、等の金属材料が挙げられる。また、固定部13の形状は特に限定されない。
【0022】
吊り下げ部材31は、アイナット311および芯棒312を含み、重錘30を揺動可能に吊り下げる。アイナット311は、中空部311Aが形成された円環状の形状を有しており、中空部311Aに支持部材1Aが挿入可能となっている。また、アイナット311は、図1に示すようなXZ平面で断面視したときの断面が楕円形または円形となる形状を有している。アイナット311と芯棒312とは、一体に形成されている、または互いに溶接されている。なお、吊り下げ部材31における支持部材1Aとの接続具は、支持部材1Aに変位可能に取り付けることができる部材であればよく、必ずしもアイナット311に限定されない。
【0023】
芯棒312は、例えば、高い剛性を有する物質(金属等)によって形成された円柱状の部材である。芯棒312の具体的な態様は特に限定されない。また、制振装置10Aは、芯棒312に代替して、重錘30を吊り下げることができる吊り具を有していてもよい。そのような吊り具としては、例えば、柔軟性を有する鎖若しくはワイヤ等が挙げられる。
【0024】
制振装置10Aを所定の固有振動数を有するように構成するためには、アイナット311から重錘30の重心までの距離が一定であることを要する。上記吊り具は、上記距離の変化を比較的生じ易い。そのため、上記距離を一定に維持し易い芯棒312を用いることが好ましい。
【0025】
重錘30は、芯棒312に取り付けられている。重錘30は、吊り下げ部材31によって支持部材1Aから吊り下げられ、容器20と重錘支持板12とにより囲まれた内部空間内において、制振装置10Aの振動に伴って揺動(変位)する。重錘30の重さは、例えば5トンである。重錘30の重さ(すなわち材質および大きさ)は、制振装置10Aの用途等に応じて適宜設定されてよく、特に限定されるものではない。
【0026】
容器20は、フレーム11の内部に設けられており、本実施形態では、半球状の形状を有する金属製の容器である。容器20には、シリコンオイル等の液体が貯留(保持)されてもよい。容器20は、具体的な態様(形状)は特に限定されず、例えば、有底の円筒形状または底の開放された円筒形状であってもよい。
【0027】
フレーム11と容器20との間には断熱材16が封入されている。断熱材16は、例えば発泡断熱材である。断熱材16は、木材のような調湿機能のある材料であってもよく、木材および発泡材を用いて二重構造を有するように形成されていてもよい。また、フレーム11および重錘支持板12の外側を覆うようにカバー15が設けられている。カバー15は、具体的な態様は特に限定されないが、フレーム11を保護するとともに、フレーム11と重錘支持板12とにより囲まれた内部空間を、制振装置10Aの外部環境から遮蔽する。制振装置10Aは、断熱材16およびカバー15を備えることにより、フレーム11と重錘支持板12とにより囲まれた内部空間が断熱された構造を有している。
【0028】
制振装置10Aは、上記構造を有することにより、外気温度の影響を低減して上記内部空間の温度を一定に維持することができる。そのため、容器20に例えばシリコンオイルが貯留されている場合に、シリコンオイルの粘性が変化することを低減できる。また、急激な温度変化によって容器20に結露が発生することを低減できる。
【0029】
なお、制振装置10Aは、断熱材16を備えていなくてもよく、この場合、フレーム11の底壁と容器20との間に空間があってもよい。容器20は、フレーム11の底壁上に載置されていてもよい。
【0030】
<支持部材>
次に、本実施形態における制振装置10Aが備える支持部材1Aの構造、並びに、支持部材1Aと固定部13およびアイナット311との関係について、図1における符号1002、1003、1004で示す図を参照して以下に詳細に説明する。
【0031】
ここで、本明細書において、説明の平明化のために以下のように用語を定義する。
【0032】
支持部材1Aの中心軸Ax1の延びる方向(図中のX軸方向)を「延伸方向」とし、アイナット311と支持部材1Aとの互いの接点を支点として重錘30がXZ平面上において移動する上記延伸方向の振り子運動を「延伸方向の回転」と称する。また、アイナット311と支持部材1Aとの互いの接点を支点として重錘30がYZ平面上において移動するY軸方向(上記延伸方向に直交する方向)の振り子運動を「直交方向の回転」と称する。
【0033】
制振装置10Aを設置した制振対象物が例えば上記延伸方向に大きく振動した場合、上記延伸方向の回転が生じるだけでなくアイナット311が上記延伸方向に移動することが生じ得る。このことをアイナット311の「延伸方向の移動」と称する。
【0034】
「揺動」とは、上記延伸方向の回転、上記直交方向の回転、および上記延伸方向の移動が組み合わさって、重錘30が、X軸方向およびY軸方向のいずれか一方または両方にZ軸方向の位置変化を伴いつつ移動する振り子運動のことを意味している。「振動」とは、制振対象物または制振装置に生じた周期的または不規則な往復運動のことを意味している。「変位」とは、支持部材に対しての、吊り下げ部材の上記延伸方向の移動のことを意味している。
【0035】
図1における符号1002で示す図は、図1における符号1001で示す図の要部拡大図である。図1における符号1003で示す図は、図1における符号1002で示す図のA-A線矢視断面図である。図1における符号1004で示す図は、図1における符号1002で示す図のB-B線矢視断面図である。
【0036】
図1において符号1002、1003、1004で示すように、本実施形態における支持部材1Aは、長手方向(上記延伸方向)における2つの端部2と、2つの端部2の間に形成された、吊り下げ部材31が変位可能に取り付けられるくぼみ部3と、を有している。くぼみ部3に装着された吊り下げ部材31におけるアイナット311が、上記延伸方向の定点にて回転することにより重錘30は揺動する。また、吊り下げ部材31におけるアイナット311は、上記延伸方向における移動(変位)が可能なように、くぼみ部3に取り付けられる。
【0037】
支持部材1Aは、例えばステンレス等の金属からなる。支持部材1Aは、例えば丸棒鋼を切削加工することにより形成され、端部2は円柱形状であり、くぼみ部3は、長手方向に垂直な断面の面積が端部2からくぼみ部3の中央に向かうにつれて小さくなるような形状となっている。
【0038】
支持部材1Aは、2つの端部2の中心軸とくぼみ部3の中心軸とが一致していることが好ましい。本実施形態における支持部材1Aは、くぼみ部3における長手方向に垂直な断面が示す円の中心と、2つの端部2を形成する円柱の中心軸とが一致しており、端部2とくぼみ部3とで共通の中心軸Ax1を有している。
【0039】
支持部材1Aでは、くぼみ部3は、中心軸Ax1を含む平面でくぼみ部3を切断したときの断面(図1における符号1002で示す断面)の外縁が湾曲形状を有するように形成されている。支持部材1Aの上記湾曲形状における曲線の形状としては、例えば、円弧または楕円の弧、放物線、カテナリー曲線、等が挙げられるが、具体的な様態は特に限定されるものではない。なお、当該曲線の形状は、アイナット311を原点位置(くぼみ部3の中央)に保持することが容易な形状であることが好ましく、例えば、放物線またはカテナリー曲線のように頂点付近で曲率半径が小さくなるような形状であることが好ましい。
【0040】
上記のような形状を有する本実施形態の支持部材1Aによれば、以下のような効果を奏する。
【0041】
すなわち、単純な円柱形状の支持部材を備える従来の制振装置(例えば特許文献1に記載の制振装置)では、制振対象物の振動方向およびその振動の強さによっては、支持部材に取り付けられたアイナットに延伸方向の移動が比較的容易に生じる可能性があった。
【0042】
これに対し、本実施形態における支持部材1Aを用いた制振装置10Aでは、くぼみ部3に吊り下げ部材31が装着される。これにより、制振装置10Aが例えばX軸方向に振動する場合において、くぼみ部3に回動自在に取り付けられたアイナット311に延伸方向の移動が生じることが効果的に低減される。これは、アイナット311の中空部311Aを形成する湾曲した内壁面と、くぼみ部3の湾曲した表面とが互いに係合しており、X軸方向の振動によって重錘30に延伸方向の回転が生じ易くなっているとともに、延伸方向の移動に対する摩擦力を効果的に発生させることができるためである。
【0043】
なお、アイナット311の中空部311Aを形成する湾曲した内壁面およびくぼみ部3の湾曲した表面にピーニング等の手法を用いて凹凸が形成されていてもよい。これにより、アイナット311の内壁面とくぼみ部3の表面との係合がより強固になるため、重錘30の延伸方向への移動に対する摩擦力をより一層強くすることができる。
【0044】
そして、本実施形態における支持部材1Aでは、アイナット311に延伸方向の移動が少し生じた場合(例えばX軸正方向に移動した場合)において、アイナット311が端部2に近づくほど、X軸正方向への延伸方向の移動がより一層妨げられる。これは、アイナット311が端部2に近づくにつれてくぼみ部3の湾曲度が大きくなることにより、アイナット311に延伸方向の移動が生じさせるために要する力が増大するためである。それとともに、アイナット311に対してくぼみ部3の中央側に向かうような力が働き易くなる。その結果、支持部材1Aは、アイナット311がくぼみ部3の中央付近に位置し易くすることができる。
【0045】
よって、支持部材1Aは、制振装置10Aの振動方向に応じた制振性能の変動を低減することができるとともに、制振性能の安定性を高めることができる。また、支持部材1Aを用いることによって、アイナット311に延伸方向の移動が生じて芯棒312が固定部13に衝突するような事態の発生を防止することができる。そのため、制振装置10Aの健全性を高めることができる。
【0046】
(構造の詳細)
以下、図1を参照して、支持部材1Aの構造の詳細について説明する。
【0047】
アイナット311の内径をInD、外径をExDとする。なお、アイナット311は、XZ平面で断面視したときに楕円形または円形の断面となる形状を有していることから、アイナット311の内径の値および外径の値はそれぞれX方向に沿って変化する。そのため、内径の変化する範囲における最小値をInD、外径の変化する範囲における最大値をExDとする。
【0048】
また、くぼみ部3における、長手方向に垂直な断面の面積が最も小さい部分の直径をDm1、端部2の直径をDm2と称する。固定部13の孔部13Aには端部2が嵌合するようになっていることから、孔部13Aの直径は、端部2の直径Dm2と略同一であって、直径Dm2よりもわずかに大きい。
【0049】
支持部材1Aでは、直径Dm2よりも直径Dm1が小さい。また、アイナット311の中空部311Aに支持部材1Aが挿入可能となるように、支持部材1Aにおける端部2の直径Dm2は、アイナット311の内径InDよりも小さくなっている。
【0050】
また、中心軸Ax1を含む平面で支持部材1Aを切断したときの断面(図1における符号1002で示す断面)における、くぼみ部3の湾曲形状を有する外縁の一方の端部から他方の端部までの距離を、くぼみ部3の幅W1と称する。そして、当該断面における、アイナット311のX軸方向の長さを、アイナット311の幅W2と称する。支持部材1Aは、アイナット311の幅W2よりも大きい、くぼみ部3における幅W1を有している。
(変形例)
くぼみ部3は、断面(図1における符号1002で示す断面)の外縁の全てが湾曲形状となっていなくてもよい。本実施形態の一変形例における支持部材は、くぼみ部3における長手方向に垂直な断面の面積が端部2からくぼみ部3の中央に向かうにつれて小さくなっており、くぼみ部3は、中心軸Ax1を含む平面でくぼみ部3を切断したときの断面の外縁の一部に直線形状を有するような形状となっていてもよい。例えば、くぼみ部3は、アイナット311が接触し得る部分のみを加工して形成された形状となっていてもよい。一例としては、くぼみ部3は、中心軸Ax1よりもZ軸の正方向側に切削加工を施され、中心軸Ax1よりもZ軸の負方向側については加工を施していない形状であってもよい。
【0051】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0052】
本実施形態では、図2を参照して、角柱状の端部2Bと、くぼみ部3Bとを有する支持部材1Bについて説明する。図2における符号2001で示す図は、本実施形態における支持部材1Bを備える制振装置における支持部材1Bの周辺部分を拡大して示す断面図である。図2における符号2002で示す図は、図2における符号2001で示す図のC-C線矢視断面図である。
【0053】
図2に示すように、支持部材1Bは、端部2Bが角柱の形状であり、端部2Bとくぼみ部3Bとで共通の中心軸Ax2を有している。支持部材1Bは、中心軸Ax2を含む平面でくぼみ部3Bを切断したときの断面(図2における符号2001で示す断面)の外縁が直線形状を有するように形成されている。
【0054】
端部2Bは、支持部材1Bの長手方向に垂直な断面において正方形の形状を有しており、一辺の長さをLとする。くぼみ部3Bにおける長手方向に垂直な断面の面積が最も小さい部分の直径Dm1は、Lよりも小さくなっている。また、アイナット311の中空部311Aに支持部材1Bが挿入可能となるように、支持部材1Bの端部2Bは、(√2)×Lの値が内径InDよりも小さくなるようになっている。
【0055】
上記のような構造を有する本実施形態における支持部材1Bにおいても、前述の実施形態1における支持部材1Aと同様の効果を奏する。
【0056】
また、角柱形状の端部2Bが固定部13Bの孔部に挿入されて固定されていることにより、以下の効果を奏する。すなわち、支持部材1Bでは、アイナット311の直交方向の回転によってくぼみ部3Bに与えられる回転モーメントにより支持部材1Bの全体に直交方向の回転が生じる(とも回りする)可能性を低減することができる。
【0057】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態1、2にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0058】
本実施形態では、図3を参照して、円柱状の端部2Cと、円柱状のくぼみ部3Cとを有する支持部材1Cについて説明する。図3における符号3001で示す図は、本実施形態における支持部材1Cを備える制振装置における支持部材1Cの周辺部分を拡大して示す断面図である。
【0059】
図3に示すように、支持部材1Cは、端部2Cとくぼみ部3Cとで共通の中心軸Ax3を有している。支持部材1Cは、中心軸Ax3を含む平面で支持部材1Cを切断したときの断面(図3で示す断面)において、端部2Cとくぼみ部3Cとの境界に段差を有するように形成されている。換言すれば、支持部材1Cは、端部2Cは直径Dm2の円柱であり、くぼみ部3Cは直径Dm1の円柱であって、上記断面において端部2Cとくぼみ部3Cとの境界に(Dm2-Dm1)/2の大きさの段差を有する形状となっている。
【0060】
中心軸Ax3を含む平面で支持部材1Cを切断したときの断面(図3で示す断面)における、くぼみ部3Cの外縁の一方の端部から他方の端部までの距離を、くぼみ部3Cの幅W3と称する。
【0061】
支持部材1Cは、くぼみ部3Cの幅W3が幅W2よりも大きくなっている。
【0062】
上記のような構造の支持部材1Cは、(W3-W2)の範囲でアイナット311に延伸方向の移動が生じ得る一方で、端部2Cとくぼみ部3Cとの境界における段差を超えてアイナット311が移動することは防止される。そのため、支持部材1Cは、制振装置の制振性能の安定性を高めることができるとともに、制振装置の健全性を高めることができる。
【0063】
(変形例)
図3における符号3002で示す図のように、本実施形態の一変形例における支持部材1C1は、端部2Cとくぼみ部3Cとの境界にフィレット23が形成されている。これにより、アイナット311の延伸方向の移動が妨げられるとともに、アイナット311が端部2Cに衝突することを防止できる。
【0064】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態1~3にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0065】
本実施形態では、前述の実施形態1における制振装置10Aとは以下の点で異なっている制振装置10Bについて、図4を参照して説明する。制振装置10Bは、支持部材1における端部2の近傍に、アイナット311の延伸方向の移動を制限する制限部材5を備えている。また、容器20は液体21を貯留している。なお、制振装置10Bが備える支持部材1は、例えば前述の支持部材1A~1Cのいずれかであってよい。
【0066】
図4における符号4001で示す図は、本実施形態における制振装置10Bの構成を概略的に示す断面図である。図4における符号4002で示す図は、図4における符号4001で示す図の要部拡大図である。
【0067】
図4に示すように、制振装置10Bでは、支持部材1の端部2に接して、Z軸正方向側に制限部材5が設置されている。制限部材5は、アイナット311の移動を制限する部材である。
【0068】
制限部材5は、くぼみ部3側に突出するような形状であることが好ましい。これにより、アイナット311が支持部材1における端部2の部分にまで延伸方向に移動することを防止することができる。また、制限部材5は、端部2の周囲を覆うような形状であってもよい。
【0069】
また、制限部材5は、衝撃を吸収することのできる構造を有することが好ましく、そのような構造を有する部材としては、例えば角パイプが挙げられる。これにより、仮にアイナット311が制限部材5に衝突した場合であっても、固定部13に衝撃が伝播することを防止することができる。少なくとも、固定部13に伝播する衝撃を低減することができる。
【0070】
制限部材5は、重錘支持板12に固定されていてもよく、固定部13に固定されていてもよい。また、制限部材5は、重錘支持板12または固定部13の一部として形成されていてもよく、フレーム11に接続されて設けられていてもよい。
【0071】
制振装置10Bでは、液体21に重錘30の少なくとも一部が浸漬するように、吊り下げ部材31によって重錘30が吊り下げられた状態にて、重錘30が揺動するようになっている。この場合、例えば重錘30がX軸方向に揺動すると、重錘30が液体21によって抵抗を受けることにより、アイナット311に延伸方向の移動が比較的生じ易くなり得る。しかし、本実施形態における制振装置10Bでは、制限部材5を備えていることにより、アイナット311が端部2の方向に移動することを防止できる。したがって、制振装置10Bは、安定した制振性能および高い健全性を有する。
【0072】
〔制振装置の具体例〕
以上に説明した制振装置10A・10Bは、例えば、煙突等の塔状構造物の塔頂部、または塔状構造物の上部に設けられた踊り場等に設置されて、塔状構造物に生じる振動現象(渦励振等)を抑制する用途に用いられる。また、制振装置10A・10Bは、地震動に対して制振性能を発揮することもできる。制振装置10A・10Bは、制振対象物の大きさおよび目標とする制振性能等に応じて、複数設置されて用いられてよく、各部の形状、材質等が適宜設定される。
【0073】
〔附記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1、1A~1C 支持部材
2 端部
3 くぼみ部
5 制限部材
10A,10B 制振装置(振り子式の制振装置)
30 重錘
31 吊り下げ部材
Ax1~Ax4 中心軸
図1
図2
図3
図4