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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】扁平形アルカリ二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/28 20060101AFI20240314BHJP
   H01M 50/109 20210101ALI20240314BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20240314BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20240314BHJP
【FI】
H01M10/28 Z
H01M50/109
H01M50/463 B
H01M50/184 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020121048
(22)【出願日】2020-07-15
(65)【公開番号】P2022018149
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】弘瀬 敬久
(72)【発明者】
【氏名】古谷 隆博
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-294672(JP,A)
【文献】実開昭53-138116(JP,U)
【文献】実開昭53-038623(JP,U)
【文献】特開昭57-197748(JP,A)
【文献】特開昭53-059831(JP,A)
【文献】実開昭58-094261(JP,U)
【文献】特開2005-353339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/04;10/06-10/34
H01M 50/40-50/497
H01M 50/00-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装缶、封口板およびガスケットにより密閉された容器内に、正極、負極およびセパレータが収容されてなる扁平形アルカリ二次電池であって、
前記負極は、活物質として亜鉛粒子を含有しており、
前記外装缶の内底面と前記ガスケットの底面との間に、前記正極の周縁部が配置されており、
前記ガスケットの外周面の前記底面側の端部と、前記外装缶の内周面との間には、隙間が形成されており、
前記セパレータの外径は、前記外装缶の内径よりも大きく、
前記セパレータの周端部が、前記隙間に配置されていることを特徴とする扁平形アルカリ二次電池。
【請求項2】
前記セパレータの外径と前記外装缶の内径との差が、1.0mm以下である請求項1に記載の扁平形アルカリ二次電池。
【請求項3】
前記ガスケットの外周面の底面側の端部が、面取りされた形状である請求項1または2に記載の扁平形アルカリ二次電池。
【請求項4】
前記ガスケットの、面取りされた部分の高さ:hが0.01~1.5mm、幅:dが0.05~1.0mmである請求項3に記載の扁平形アルカリ二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐漏液性および充放電サイクル特性に優れた扁平形アルカリ二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボタン形やコイン形などと称される扁平形のアルカリ電池においては、外装缶内に正極が配置され、封口缶内に亜鉛粒子を負極活物質とする負極が配置され、正極と負極の間にセパレータが配置され、外装缶と封口缶とをガスケットを介してかしめて封止する構造が採用されている。
【0003】
また、扁平形アルカリ電池を二次電池の構成とすることも検討されており、正極活物質として銀の酸化物やニッケルの酸化物を用いた二次電池も提案されている。
【0004】
前記のような構造の扁平形電池においては、正極や負極、電解液などの発電要素をはじめとして、種々の構成要素の改良がなされている。例えば、特許文献1には、外壁側の底面部に面取りを行ったガスケットを使用し、その形状とケース(外装缶)の形状とを最適化することで、電池の組み立て時におけるガスケットのケースへの挿入性を高めると共に、封口板(封口缶)とガスケットとケースとによって囲まれる空間を可及的に小さくして、ケースと封口板とをガスケットを挟んでかしめ、発電要素を密封した際の電池の膨れによる電池特性の低下を防止して、扁平形電池の生産性と電気的特性とを高める技術が提案されている。
【0005】
また、前記のような構造の扁平形電池においては、外装缶の内底面とガスケットの底面との間に、セパレータおよび正極の周縁部が配置されるような構造(いわゆる「底敷構造」)として、外装缶に収容する正極を大きくし、容量を高めることも行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-353339号公報
【文献】特開平8-83619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
底敷構造の扁平形電池を製造するに際しては、例えば、正極とセパレータとを収容した後の外装缶を逆さに向け、それを、ガスケットを装着し、かつ負極を収容した封口缶に被せた後にかしめる方法が採用されることがある。この場合、例えば、外径を外装缶の内径よりも大きくしたセパレータを使用し、その周縁部を外装缶の内壁に当接させることで、逆さにした外装缶から正極が落下しないようにしている。
【0008】
ところが、このような構成の扁平形電池の場合、例えばセパレータの外径を外装缶の内径よりも小さくした場合に比べて、封止性が損なわれやすいことが判明した。封止性に劣る扁平形アルカリ二次電池の場合、電解液の漏出が生じやすく、また、充放電サイクル特性が低下する問題もある。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐漏液性および充放電サイクル特性に優れた扁平形アルカリ二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の扁平形アルカリ二次電池は、外装缶、封口板およびガスケットにより密閉された容器内に、正極、負極およびセパレータが収容されてなり、前記負極は、活物質として亜鉛粒子を含有しており、前記外装缶の内底面と前記ガスケットの底面との間に、前記正極の周縁部が配置されており、前記ガスケットの外周面の前記底面側の端部と、前記外装缶の内周面との間には、隙間が形成されており、前記セパレータの外径は、前記外装缶の内径よりも大きく、前記セパレータの周端部が、前記隙間に配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐漏液性および充放電サイクル特性に優れた扁平形アルカリ二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の扁平形アルカリ二次電池の一例を模式的に表す断面図である。
図2】実施例および比較例の扁平形アルカリ二次電池の充放電サイクル特性評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明の扁平形アルカリ二次電池の一例を模式的に表す断面図を示す。図1に示す扁平形アルカリ二次電池1は、正極4およびセパレータ6を内填した外装缶2の開口部に、負極5を内填した封口缶3が、断面L字状で環状のガスケット(樹脂製ガスケット)7を介して嵌合しており、外装缶2の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット7が封口缶3に当接することで、外装缶2の開口部が封口されて電池内部が密閉構造となっている。すなわち、図1に示す電池では、外装缶2、封口缶3およびガスケット7からなる電池容器内の空間(密閉空間)に、正極4、負極5およびセパレータ6を含む発電要素が装填されており、さらに電解質(図示しない)が注入され、セパレータに保持されている。外装缶2は正極端子を兼ね、封口缶3は負極端子を兼ねている。
【0014】
また、扁平形アルカリ二次電池1においては、外装缶2の内底面とガスケット7の底面との間に、正極4の周縁部が配置されている。すなわち、扁平形アルカリ二次電池1は、底敷構造を採用している。この図1に示すように、本発明の扁平形アルカリ二次電池は底敷構造を採用することで、高容量化を図っている。
【0015】
さらに、図1に示す扁平形アルカリ二次電池1においては、ガスケット7の外周面の底面側の端部と外装缶2の内周面との間に隙間が形成されている。そして、セパレータ6の周縁部6aが、前記隙間に配置されている。
【0016】
本発明の扁平形アルカリ二次電池においては、図1に示すように、ガスケットの外周面の底面側の端部と外装缶の内周面との間に隙間が形成されており、この隙間にセパレータの周縁部が配置されている。
【0017】
前記の通り、本発明の扁平形アルカリ二次電池においては、底敷構造を採用するが、これに伴い、先に述べたように、主に製造上の利便性の理由から、セパレータの外径を外装缶の内径よりも大きくする。ところが、セパレータの外径が外装缶の内径よりも大きいと、外装缶と封口缶とをガスケットを介してかしめた後に、ガスケットの底面(正極側の面)に接するセパレータに撓みが生じ、ガスケットの押圧力を均一に作用させることができなくなることがあるため、扁平形アルカリ二次電池の封止性が損なわれやすい。
【0018】
そこで、本発明の扁平形アルカリ二次電池では、ガスケットの形状を調整することで、ガスケットの外周面の底面側の端部と外装缶の内周面との間に隙間が形成されるようにした。これにより、前記隙間にセパレータの周縁部が侵入できるため、ガスケットの底面と正極の上面との間でのセパレータの撓みの発生を防止して、ガスケットの押圧力を均一に作用させることが可能となる。よって、本発明の扁平形アルカリ二次電池は、セパレータの外径を外装缶の内径よりも大きくしても高い封止性を確保できるため、耐漏液性および充放電サイクル特性に優れたものとなる。
【0019】
扁平形アルカリ二次電池において、セパレータの外径と外装缶の内径との差は、大きすぎると、ガスケットの外周面の底面側の端部と外装缶の内周面との間に形成される隙間に、セパレータの周縁部を良好に配置し難くなる虞があることから、1.0mm以下であることが好ましく、0.4mm以下であることがより好ましい。また、例えば、扁平形アルカリ二次電池の製造時において、正極を収容した外装缶を逆さに向けて負極を収容した封口板にはめ込み、封止を行う際に、正極の外装缶からの落下を良好に抑制する観点から、セパレータの外径と外装缶の内径との差は、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましい。
【0020】
なお、電池の高さ方向において外装缶の内径の値が変化する場合は、ガスケットの底面がセパレータと接する高さにおける内径を、本明細書でいう外装缶の内径とする。
【0021】
ガスケットの外周面の底面側の端部と外装缶の内周面との間に隙間を形成するに際しては、例えば、図1に示すように、ガスケットの外周面の底面側の端部を、面取りされた形状としてもよく、また、ガスケットの外周面の底面側の端部を、階段状などに切り欠いた形状となどとしてもよいが、ガスケットの製造がより容易であり、また、セパレータの周縁部を前記隙間により配置させやすくなることから、ガスケットの外周面の底面側の端部を、面取りされた形状とすることがより好ましい。
【0022】
ガスケットの外周面の底面側の端部を面取りされた形状とする場合、面取りされた部分の高さ:h(図1中、hの長さ)は、セパレータの周縁部をより良好に配置できるようにする観点から、0.01mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましい。ただし、前記高さ:hが大きすぎると、外装缶の内面からの応力を受け止める部分の面積が小さくなって、電池の封止性の向上効果が小さくなる虞がある。よって、電池の封止性をより高める観点から、前記高さ:hは、1.5mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0023】
また、ガスケットの外周面の底面側の端部を面取りされた形状とする場合、面取りされた部分の幅:d(図1中、dの長さ)は、セパレータの周縁部をより良好に配置できるようにする観点から、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましい。ただし、前記幅:dが大きすぎると、正極を押圧する部分の面積が小さくなって、電池の封止性の向上効果が小さくなる虞がある。よって、電池の封止性をより高める観点から、前記幅:dは、1.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0024】
本明細書でいうガスケットの前記高さ:h、および前記幅:dは、ガスケットの断面(電池の断面)を切り出して走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率:100倍でガスケットの外周面の底面側の端部の面取りされた部分を観察し、SEMのスケールにより、それぞれ10点ずつ求めた測定値の平均値(数平均値)を意味している。
【0025】
ガスケットは、ポリアミド(ナイロン66など)などの樹脂で形成することができる。
【0026】
扁平形アルカリ二次電池に係る正極には、銀酸化物の他、オキシ水酸化ニッケルなどアルカリ二次電池の正極活物質として利用可能な化合物を使用することができ、例えば、正極活物質の他に導電助剤を含有する正極合剤層のみからなるもの(正極合剤の成形体)や、正極活物質および導電助剤を含有する正極合剤層を、集電体の片面または両面に形成した構造のものなどが挙げられる。
【0027】
正極の活物質として銀酸化物を用いる場合には、AgOやAgOを使用することができる。
【0028】
銀酸化物は、その粒度について特に限定はされないが、平均粒子径が、10μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。このようなサイズの銀酸化物を用いた場合には、充電時の利用率が向上し、充電終止電圧を比較的低くしても大きな充電容量が得られるため、電池の充放電サイクル特性をさらに高めることができ、また、例えば、充電終止電圧を高めることによって生じ得る電池の膨れを抑えることが可能となる。
【0029】
ただし、あまり粒径の小さい銀酸化物は製造やその後の取り扱いが困難となることから、銀酸化物の平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。
【0030】
本明細書でいう銀酸化物や、その他の粒子(黒鉛粒子、カーボンブラック粒子、絶縁性無機粒子および負極に係る亜鉛粒子)における粒度は、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所製「LA-920」)を用い、粒子を溶解しない媒体に、これらの粒子を分散させて測定される値であり、それらの平均粒子径は、前記測定法により求められる体積基準での累積頻度50%における粒径(D50)である。
【0031】
正極合剤層の導電助剤としては、カーボンブラック粒子、黒鉛粒子などの炭素質材料の粒子などが挙げられる。なお、導電助剤には、カーボンブラック粒子と黒鉛粒子とを併用することがより好ましい。
【0032】
カーボンブラック粒子を使用することで、正極合剤層中で良好な導電ネットワークを形成しやすいため、例えば黒鉛粒子のみを使用する場合に比べて、正極活物質との接点が多くなり、正極合剤層内の電気抵抗を効果的に低減することができ、これにより、充電時に正極活物質の反応効率を向上させることが可能となる。
【0033】
他方、カーボンブラック粒子のみを使用する場合には、正極合剤層の厚みによっては、その成形性を高めるためにバインダを使用する必要があるが、黒鉛粒子も併用した場合には、正極合剤層の成形性が向上するため、例えば正極合剤の成形体や正極合剤層が0.4mm以下、より好ましくは0.3mm以下と薄い場合であってもその成形性が良好となり、バインダを用いなくとも製造不良の発生を防ぐことが容易になる。
【0034】
正極合剤層に係る黒鉛粒子は、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)の粒子、人造黒鉛の粒子のいずれでもよく、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0035】
前記の通り、黒鉛粒子には正極合剤層の成形性を高める機能があるが、この機能をより良好に発揮させる観点から、黒鉛粒子は、平均粒子径が、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、また、導電性の向上の観点からから、7μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0036】
正極合剤層に係るカーボンブラック粒子としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが例示され、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。これらのカーボンブラック粒子の中でも、導電性が高く不純物が少ないアセチレンブラックが好ましく用いられる。
【0037】
また、正極活物質として銀酸化物を使用する場合、正極合剤層には、絶縁性無機粒子をさらに含有させることが好ましく、これによって電池の充放電サイクル特性をより高めることができる。また、絶縁性無機粒子を使用する場合、さらにカーボンブラック粒子と黒鉛粒子とを正極合剤層に含有させることで、電池の充放電サイクル特性をさらに高めることができる。
【0038】
正極合剤層に係る絶縁性無機粒子としては、Si、Zr、Ti、Al、MgおよびCaより選択される少なくとも1種の元素の酸化物などの粒子が挙げられる。また、前記酸化物の具体例としては、Al、TiO、SiO、ZrO、MgO、CaO、AlOOH、Al(OH)などが挙げられ、アルカリ電解質(アルカリ電解液)に溶解しないか、難溶性である粒子が好ましく用いられる。これらの絶縁性無機粒子は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
絶縁性無機粒子は、その粒子径が大きすぎると、電池の充放電サイクル特性の向上効果が小さくなる虞がある。よって、電池の充放電サイクル特性をより良好に高める観点からは、絶縁性無機粒子の平均粒子径は、0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
【0040】
また、絶縁性無機粒子の粒子径が小さすぎると、電池の充電効率(初期容量)の向上効果が小さくなる虞がある。よって、電池の充電効率をより良好に高める観点からは、絶縁性無機粒子の平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。
【0041】
正極合剤層(正極合剤の成形体や集電体上に形成された正極合剤塗布層など)の組成としては、容量を確保するために、正極活物質として銀酸化物を使用する場合、その含有量は、正極合剤層を構成する固形分全体を100質量%として、例えば、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0042】
また、正極合剤層における導電助剤の含有量は、導電性の点から0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることが特に好ましく、一方、容量低下や充電時のガス発生を防ぐため、8質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0043】
なお、正極合剤層にカーボンブラック粒子と黒鉛粒子とを含有させる場合、黒鉛粒子の含有量は、カーボンブラック粒子との併用による電池の充電効率や充放電サイクル特性の向上効果を良好に確保する観点から、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。そして、正極合剤層にカーボンブラック粒子と黒鉛粒子とを含有させる場合の黒鉛粒子の含有量は、例えば正極合剤層中の正極活物質の量が少なくなりすぎて電池の容量が低下することを抑える観点から、7質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
また、正極合剤層にカーボンブラック粒子と黒鉛粒子とを含有させる場合、カーボンブラック粒子の含有量は、黒鉛粒子との併用による電池の充電効率や充放電サイクル特性の向上効果を良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。ただし、正極合剤層中のカーボンブラック粒子の量が多すぎると、例えば電池を高温下で貯蔵した際に、正極の膨れ量が大きくなる虞がある。よって、電池の貯蔵(特に60℃程度の高温下での貯蔵)時の正極の膨れを抑えて、電池の貯蔵特性を向上させる観点からは、正極合剤層にカーボンブラック粒子と黒鉛粒子とを含有させる場合のカーボンブラック粒子の含有量は、1.5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
また、正極合剤層に絶縁性無機粒子を含有させる場合、その含有量は、その使用による効果(特に電池の充放電サイクル特性向上効果)を良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。ただし、正極合剤層中の絶縁性無機粒子の量が多すぎると、正極活物質の充填量が減少して電池の容量減少を招くほか、絶縁性無機粒子の種類によっては、充放電サイクルが進行した場合に、放電容量が急に低下してしまう場合もあることから、正極合剤層における絶縁性無機粒子の含有量は、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
正極合剤層は、前記の通り、バインダを使用せずに形成することも可能であるが、強度を高める必要がある場合(導電助剤に黒鉛を使用しない場合など)にはバインダを用いてもよい。正極合剤層のバインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂などが挙げられる。バインダを使用する場合、正極合剤層中のバインダの含有量は、0.1~20質量%であることが好ましい。
【0047】
正極は、正極合剤の成形体の場合には、例えば、正極活物質および導電助剤、さらには必要に応じてアルカリ電解質(電池に注入するアルカリ電解質と同じものが使用できる)などを混合して調製した正極合剤を所定の形状に加圧成形することで製造することができる。
【0048】
また、正極合剤層と集電体とを有する形態の正極の場合には、例えば、正極活物質および導電助剤などを水またはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒に分散させて正極合剤含有組成物(スラリー、ペーストなど)を調製し、これを集電体上に塗布し乾燥し、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することができる。
【0049】
ただし、正極は、前記の各方法で製造されたものに限定されず、他の方法で製造したものであってもよい。
【0050】
正極合剤の成形体を正極とする場合、その厚みは、0.15~4mmであることが好ましい。他方、正極合剤層と集電体とを有する形態の正極の場合、正極合剤層の厚み(集電体の片面あたりの厚み)は、30~300μmであることが好ましい。
【0051】
正極に集電体を用いる場合には、その集電体としては、例えば、SUS316、SUS430、SUS444などのステンレス鋼;アルミニウムやアルミニウム合金;を素材とするものが挙げられ、その形態としては、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル、金属発泡体、箔(板)などが例示できる。集電体の厚みは、例えば、0.05~0.2mmであることが好ましい。このような集電体の表面には、カーボンペーストや銀ペーストなどのペースト状導電材を塗布しておくことも望ましい。
【0052】
扁平形アルカリ二次電池の負極には、亜鉛粒子、すなわち、純亜鉛(不可避不純物を含む)または亜鉛合金によって構成される粒子を使用する。このような負極では、前記粒子中の亜鉛が活物質として作用する。亜鉛合金粒子の合金成分としては、例えば、インジウム、ビスマス、アルミニウムなどが挙げられる(残部は亜鉛および不可避不純物である)。負極の有する亜鉛粒子は、単一の組成である1種のみの粒子で構成されていてもよい、異なる組成の2種以上の粒子を含むものであってもよい。
【0053】
ただし、亜鉛粒子には、合金成分として水銀を含有しないものを使用することが好ましい。このような亜鉛粒子を使用している電池であれば、電池の廃棄による環境汚染を抑制できる。また、水銀の場合と同じ理由から、亜鉛粒子には、合金成分として鉛を含有しないものを使用することが好ましい。
【0054】
亜鉛粒子の粒度としては、例えば、全粉末中、粒径が75μm以下の粒子の割合が50質量%以下のものが好ましく、30質量%以下のものがより好ましく、また、粒径が100~200μmの粉末の割合が、50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるものが挙げられる。
【0055】
負極には、例えば、前記の亜鉛粒子の他に、必要に応じて添加されるゲル化剤(ポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロースなど)を含んでもよく、これにアルカリ電解質を加えることで構成される負極剤(ゲル状負極)を使用してもよい。負極中のゲル化剤の量は、例えば、0.5~1.5質量%とすることが好ましい。
【0056】
また、負極は、前記のようなゲル化剤を実質的に含有しない非ゲル状の負極とすることもできる(なお、非ゲル状負極の場合、亜鉛粒子近傍に存在するアルカリ電解質が増粘しなければゲル化剤を含有しても構わないので、「ゲル化剤を実質的に含有しない」とは、アルカリ電解質の粘度への影響がない程度に含有していてもよい、という意味である)。ゲル状負極の場合には、亜鉛粒子の近傍に、ゲル化剤と共にアルカリ電解質が存在しているが、ゲル化剤の作用によってこのアルカリ電解質が増粘しており、アルカリ電解質の移動、ひいては電解質中のイオンの移動が抑制されている。このため、負極での反応速度が抑えられ、これが電池の負荷特性(特に重負荷特性)の向上を阻害しているものと考えられる。これに対し、負極を非ゲル状として、亜鉛粒子近傍に存在するアルカリ電解質の粘度を増大させずにアルカリ電解質中のイオンの移動速度を高く保つことで、負極での反応速度を高めて、負荷特性(特に重負荷特性)をより高めることができる。
【0057】
負極に含有させるアルカリ電解質には、電池に注入するものと同じものを使用することができる。
【0058】
負極における亜鉛粒子の含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、また、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
負極は、インジウム化合物を含有していることが好ましい。負極がインジウム化合物を含有することによって、亜鉛粒子とアルカリ電解質との腐食反応によるガス発生をより効果的に防ぐことができる。
【0060】
前記のインジウム化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウムなどが挙げられる。
【0061】
負極に使用するインジウム化合物の量は、質量比で、亜鉛粒子:100に対し、0.003~1であることが好ましい。
【0062】
扁平形アルカリ二次電池において、正極と負極との間に介在させるセパレータとしては、ビニロンとレーヨンを主体とする不織布、ビニロン・レーヨン不織布(ビニロン・レーヨン混抄紙)、ポリアミド不織布、ポリオレフィン・レーヨン不織布、ビニロン紙、ビニロン・リンターパルプ紙、ビニロン・マーセル化パルプ紙などを用いることができる。また、親水処理された微孔性ポリオレフィンフィルム(微孔性ポリエチレンフィルムや微孔性ポリプロピレンフィルムなど)とセロファンフィルムとビニロン・レーヨン混抄紙のような吸液層(電解液保持層)とを積み重ねたものをセパレータとしてもよい。セパレータの厚みは、20~500μmであることが好ましい。
【0063】
また、正極と負極との間には、ポリマーをマトリクスとし、かつ前記マトリクス中に金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩およびケイ酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物の粒子を分散させたアニオン伝導性膜を配置することが好ましい。
【0064】
扁平形アルカリ二次電池におけるアルカリ電解質としては、アルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど)の1種または複数種の水溶液(アルカリ電解液)などが好適に用いられ、水酸化カリウムの水溶液が特に好ましい。アルカリ電解液の濃度は、例えば、水酸化カリウムの水溶液の場合、水酸化カリウムが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であって、好ましくは40質量%以下、より好ましくは38質量%以下である。水酸化カリウムの水溶液の濃度をこのような値に調整することで、導電性に優れたアルカリ電解液とすることができる。
【0065】
アルカリ電解質には、前記の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、負極に用いる亜鉛粒子の腐食(酸化)を防止するために、酸化亜鉛を添加するなどしてもよい。なお、酸化亜鉛は、負極に添加することもできる。
【0066】
また、電池の充放電サイクル特性をより高める観点から、マンガン化合物、スズ化合物およびインジウム化合物よりなる群から選択される1種以上を、アルカリ電解質として使用するアルカリ電解液に溶解させることもできる。
【0067】
さらに、扁平形アルカリ二次電池においては、負極、アルカリ電解質およびセパレータの少なくとも1つにポリアルキレングリコール類やカルシウム化合物を含有させておくことが好ましい。その場合には、ポリアルキレングリコール類やカルシウム化合物の作用によって、負極での亜鉛デンドライトの成長を抑制できるため、電池の充放電サイクル特性や貯蔵特性をより高めることができる。
【0068】
また、扁平形アルカリ二次電池においては、電池内のいずれかの部材、例えば、正極、負極およびセパレータのうちの少なくとも1つや、アルカリ電解質に、テルルまたはその化合物(二酸化テルルなど)を含有させておくことも好ましく、これにより、電池の充放電サイクル特性や負荷特性をより高めることができる。
【0069】
扁平形アルカリ二次電池における外装缶および封口缶は、鉄やステンレス鋼にニッケルメッキを施したものなどによって形成することができる。なお、充電時に外装缶を構成する鉄などの元素が溶出するのを防ぐため、外装缶の内面には、金などの耐食性の金属をメッキしておくことが望ましい。
【0070】
また、封口缶は、負極と接する側の表面に、銅または黄銅などの銅合金で構成された金属層を形成することが好ましく、前記金属層の表面にさらにスズの層を形成することがより好ましい。
【0071】
本発明の扁平形アルカリ二次電池は、補聴器やワイヤレスイヤホンなどの小型電子機器に好適に使用することができる。
【実施例
【0072】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0073】
実施例1
平均粒子径:1.4μmで、Biを銀の総量に対して3.7%(質量基準)含有する酸化銀(AgO)粒子とカーボンブラック粒子(BET比表面積が68m/gで、一次粒子の平均粒子径が35nmのアセチレンブラック)とを、98:2の質量比で混合して混合物を作製した。
【0074】
さらに、前記混合物、黒鉛粒子(BET比表面積:20m/g、平均粒子径:3.7μm)およびTiO粒子(平均粒子径:250nm)を、それぞれ95.2質量%、3.8質量%および1質量%となる割合で混合して正極合剤を構成し、この正極合剤:300mgを金型に充填し、充填密度5.7g/cmで、直径:10.7mm、高さ:0.6mmの円板状に加圧成形することによって、正極合剤成形体を作製した。
【0075】
負極活物質には、添加元素としてIn:500ppm、Bi:400ppmおよびAl:10ppmを含有する、アルカリ一次電池で汎用されている無水銀の亜鉛合金粒子を用いた。前述した方法により求めた前記亜鉛合金粒子の粒度は、平均粒子径(D50)が120μmであり、粒径が75μm以下の粒子の割合は25質量%以下であった。
【0076】
前記亜鉛合金粒子と、ZnOとを、97:3の割合(質量比)で混合し、負極を構成するための組成物(負極用組成物)を得た。この組成物:78mgを量り取って負極の作製に用いた。
【0077】
アルカリ電解液には、35質量%の濃度で水酸化カリウムを溶解させた水溶液に、更に、酸化亜鉛を3質量%の濃度で溶解させた水溶液を用いた。
【0078】
PTFEの水系分散液(固形分:60質量%):5gと、ポリアクリル酸ナトリウムの水溶液(濃度:2質量%):2.5gと、ハイドロタルサイト粒子(平均粒子径:0.4μm):2.5gとを混練し、圧延して100μmの厚みの膜を作製し、更に直径:11.3mmの円形に打ち抜いてアニオン伝導性膜を作製した。
【0079】
ポリエチレン主鎖にアクリル酸をグラフト共重合させた構造を有するグラフト共重合体で構成された2枚のグラフトフィルム(厚み:30μm)を、セロハンフィルム(厚み:20μm)の両側に配置した多層フィルムと、ビニロン-レーヨン混抄紙(厚み:100μm)とを積層し、直径:11.3mmの円形に打ち抜き、更に前記アニオン伝導性膜を重ね合わせてセパレータを構成した。
【0080】
前記の正極(正極合剤成形体)、負極(負極用組成物)、アルカリ電解液およびセパレータを、内面に金メッキを施した鋼板よりなる外装缶と、銅-ステンレス鋼(SUS304)-ニッケルクラッド板よりなる封口板と、ナイロン66製の環状ガスケットとから構成された電池容器内に封止し、図1に示す構造を有し、直径11.5mm、厚さ3.0mmの扁平形アルカリ二次電池を作製した。なお、セパレータは、アニオン伝導性膜が負極側となるように配置した。
【0081】
なお、前記扁平形アルカリ二次電池に使用したガスケットは、図1に示すように、ガスケットの外周面の底面側の端部が面取りされた形状で、これによってガスケットの外周面の底面側の端部と外装缶の内周面との間に隙間が形成されており、この隙間にセパレータの周縁部が配置されていた。また、ガスケットにおける面取りされた部分は、高さ:h=0.3mm、幅:d=0.3mmであった。さらに、外装缶の内径は10.9mmであり、セパレータの外径との差は0.3mmであった。
【0082】
比較例1
外周面の底面側の端部を面取りしていない形状のガスケットを使用した以外は、実施例1と同様にして扁平形アルカリ二次電池を作製した。すなわち、比較例1の扁平形アルカリ二次電池は、ガスケットの外周面の底面側の端部と外装缶の内周面との間に隙間が形成されていない。
【0083】
実施例および比較例の扁平形アルカリ二次電池について、以下の各評価を行った。
【0084】
〔充放電サイクル特性評価〕
実施例および比較例の電池について、3.5mAの電流値で電圧が1.2Vになるまで放電する定電流放電と、7mAの定電流で電圧が1.8Vになるまで充電し、続いて1.8Vの定電圧で電流値が0.7mAになるまで充電する定電流-定電圧充電とによる充放電サイクルを繰り返し、各サイクルでの放電容量を測定した。結果を図2に示す。
【0085】
実施例1の電池は、内部短絡を生じることなく300サイクルまで充放電を繰り返すことができたが、比較例1の電池では、およそ100サイクルを経過した後、内部短絡により充電容量にばらつきを生じたため、120サイクルで測定を中止した。
【0086】
〔耐漏液性評価〕
実施例および比較例の電池各20個を、60℃、相対湿度:90%の環境下で35日間保持して、漏液の生じた電池の割合を調べた。その結果、実施例1ではいずれの電池にも漏液は認められなかったが、比較例1では35%の電池で漏液を生じていることが確認された。
【0087】
実施例1では、ガスケットの底面と正極の上面との間でのセパレータの撓みの発生を防止し、高い封止性を確保することができたことから、耐漏液性および充放電サイクル特性に優れた電池を構成することができた。
【符号の説明】
【0088】
1 扁平形アルカリ電池
2 外装缶
3 封口缶
4 正極
5 負極
6 セパレータ
6a セパレータの周縁部
7 ガスケット
図1
図2