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  • 特許-補強用躯体接合部材および耐震補強構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】補強用躯体接合部材および耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240314BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20240314BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E04B1/24 F
E04B1/58 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020131369
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028151
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直弥
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恵介
(72)【発明者】
【氏名】原口 圭
(72)【発明者】
【氏名】大庭 章
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151778(JP,A)
【文献】特開2014-101655(JP,A)
【文献】実開平04-055901(JP,U)
【文献】特開2019-137978(JP,A)
【文献】特表2008-502823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00 -23/08
E04B 1/24
E04B 1/38 - 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の構造躯体を構成する骨組部材間に金属製の補強材が取り付けられて補強される耐震補強構造における前記補強材の端部を前記骨組部材に結合するための補強用躯体接合部材であって、
前記骨組部材の側面の凹部に対応した形状を有する本体部と、
前記本体部の一方の端部から延設された第1フランジ部と、
前記本体部の他方の端部から延設された第2フランジ部と、を備え、
前記本体部には前記骨組部材に形成された挿通孔に挿通されたボルトが挿通される第1ボルト挿通孔が形成され、
前記第1フランジ部および第2フランジ部には、前記補強材の端部を結合するボルトを挿通するための第2ボルト挿通孔および第3ボルト挿通孔が形成されていることを特徴とする補強用躯体接合部材。
【請求項2】
前記第1フランジ部および第2フランジ部の前記本体部に近い側は前記本体部から遠い側よりも肉厚が厚くなるように形成され、
前記第1フランジ部および第2フランジ部の肉厚が厚い部分であって、前記第1ボルト挿通孔に対応する部位には、円弧状の凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の補強用躯体接合部材。
【請求項3】
前記骨組部材はレールであり、
前記本体部の前記レールの顎部に対応する面の傾斜角は前記顎部の傾斜角よりも小さく設定され、
前記本体部の前記レールの底部上面に対応する面の傾斜角は前記底部上面の傾斜角よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の補強用躯体接合部材。
【請求項4】
前記本体部の前記骨組部材に接する面には突起が形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の補強用躯体接合部材。
【請求項5】
前記骨組部材はレールにより構成され、
前記第1フランジ部は、前記レールの底面と平行な方向へ延びるように形成され、
前記第2フランジ部は、前記第1フランジ部と平行になるように形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の補強用躯体接合部材。
【請求項6】
建造物の構造躯体を構成する骨組部材間に金属製の補強材が取り付けられて補強される耐震補強構造であって、
前記補強材の両端が請求項1~5のいずれかに記載の補強用躯体接合部材によってレールにより構成された骨組部材にそれぞれ結合されていることを特徴とする耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の構造躯体の耐震補強に用いる補強用躯体接合部材およびそれを用いた耐震補強構造に関し、特にレールを用いた柱や梁などの骨組部材の間に斜材を取り付けて建造物を補強する耐震補強構造に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
耐震補強技術として、例えば柱と梁との間など既存の建造物の骨組部材に斜材(方杖など)を取り付けることで、水平力に対する建造物の耐力を向上させる耐震補強技術が知られている。一般に、骨組部材間に斜材を取り付ける場合、溶接が用いられている。しかし、建造物の設置された現場で溶接を行うには、大規模な養生が必要となりコストアップを招くという課題や、現場の環境によっては溶接の品質が低下するという課題があることが指摘されている。
また、従来、鉄道の施設には、古レールを骨組部材に使用した建造物がある。かかる建造物において、古レールからなる柱や梁などの骨組部材間への斜材の取り付けに、溶接を行わず、代わりにボルト、ナットを用いて斜材や補強部材を骨組部材に結合して耐震補強を行う発明が幾つか提案されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
このうち特許文献1の発明は、骨組部材の一範囲を四方から囲い且つ斜材が直接または介在部材を介して接合される金属製の囲い板を設け、この囲い板を、骨組部材の外周の複数個所に板面を対向かつ近接させ、骨組部材と剛接合せずに骨組部材を囲うように配設して、囲い板に斜材の端部を結合し、骨組部材間に斜材を取付けるようにしたものである。
【0004】
また、特許文献2の発明は、躯体用補強部材に、レールを用いた躯体における骨組部材としてのレールに締結部材を介して締結される本体部を設け、この本体部は、レールのウェブの高さ方向の両側に形成された一対のフランジ(レールの頭部と底部)の両方に対して内側から接触するフランジ接触部を含むようにし、フランジ接触部は、ウェブ対向面と、一対のフランジ対向面と、締結ボルトの挿入孔とを有するようにした。つまり、骨組部材の両側面に、既存の継ぎ目板と類似の形状の補強部位をボルトとナットを用いて結合して補強するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-043911号公報
【文献】特開2019-137978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記先願の耐震補強技術のうち、特許文献2の発明は、古レールで構成された柱や梁の破断箇所や亀裂の入った箇所など、レール材の軸方向の部分的な補強には有効であるものの、柱や梁などの骨組部材間に斜材を取り付けるなど、別部材からの応力を伝達する場合には利用することができないという課題がある。
一方、特許文献1の発明は、レールからなる柱と一般的に鋼材からなる梁との間へ無溶接で斜材を取り付けて耐震補強強度を高めることはできるものの、斜材を取り付ける方向が制限されており、任意の方向に斜材を取り付けることができない。また、斜材の結合部に金属製の囲い板を使用し、囲い板と骨組部材を結合していないため、別部材からの応力を伝達性能が乏しい。さらに、地震発生時に斜材と共に囲い板が塑性変形することがあり、復旧の際に再利用することが困難であるという課題がある。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、レールを用いた建造物の構造躯体において、任意の方向に斜材を取り付けて耐震補強強度を高めることができる補強用躯体接合部材およびそれを用いた耐震補強構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、別部材からの応力を伝達性能に優れるとともに、骨組部材の復旧の際に再利用することが可能な補強用躯体接合部材およびそれを用いた耐震補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本出願に係る発明は、
建造物の構造躯体を構成する骨組部材間に金属製の補強材が取り付けられて補強される耐震補強構造における前記補強材の端部を前記骨組部材に結合するための補強用躯体接合部材であって、
前記骨組部材の側面の凹部に対応した形状を有する本体部と、
前記本体部の一方の端部から延設された第1フランジ部と、
前記本体部の他方の端部から延設された第2フランジ部と、を備え、
前記本体部には前記骨組部材に形成された挿通孔に挿通されたボルトが挿通される第1ボルト挿通孔が形成され、
前記第1フランジ部および第2フランジ部には、前記補強材の端部を結合するボルトを挿通するための第2ボルト挿通孔および第3ボルト挿通孔が形成されているように構成したものである。
【0009】
上記のような構成を有する補強用躯体接合部材によれば、本体部に形成された挿通孔に挿通したボルトによって骨組部材に結合するとともに、フランジ部に形成された挿通孔に挿通したボルトによって補強材の端部を結合することができるため、柱や梁などの骨組部材間に補強材を設ける際に、補強材の端部を骨組部材にしっかりと結合することができ、側面に凹部を有する骨組部材(レール)を用いた建造物の効果的な耐震補強を行うことができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記第1フランジ部および第2フランジ部の前記本体部に近い側は前記本体部から遠い側よりも肉厚が厚くなるように形成され、
前記第1フランジ部および第2フランジ部の肉厚が厚い部分であって、前記第1ボルト挿通孔に対応する部位には、円弧状の凹部が形成されているように構成する。
【0011】
上記のような構成によれば、フランジ部の本体部に近い側(基部)の肉厚が厚いため、他の部材から伝達した力が作用した際における変形量を少なくすることができ、別部材からの応力を伝達性能に優れるとともに、塑性変形を防止できるため骨組部材の復旧の際に再利用することかできる。また、肉厚が厚い部分のボルト挿通孔の近傍には、円弧状の凹部が形成されているため、工具を用いて締結用のボルトを容易に操作して締め付けを行うことができ、作業効率を向上させることができる。
【0012】
また、望ましくは、前記骨組部材はレールであり、
前記本体部の前記レールの顎部に対応する面の傾斜角は前記顎部の傾斜角よりも小さく設定され、
前記本体部の前記レールの底部上面に対応する面の傾斜角は前記底部上面の傾斜角よりも小さく設定されているようにする。
このような構成によれば、支圧部が骨組部材としてのレールの内側に来るため、補強用躯体接合部材を介して斜材等の他の部材から伝達される力を、レールの中心に近い側に作用させ、レールにかかる曲げ応力を小さくすることができる。
【0013】
また、望ましくは、前記本体部の前記骨組部材に接する面には突起が形成されているようにする。
かかる構成によれば、本体部に設けた突起が骨組部材の側面に当接することで抵抗力が増加し、斜材等の他の部材から力が伝達された際に、骨組部材に結合された補強用躯体接合部材が軸方向へ移動するのを防止することができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記骨組部材はレールにより構成され、
前記第1フランジ部は、前記レールの底面と平行な方向へ延びるように形成され、
前記第2フランジ部は、前記第1フランジ部と平行になるように形成されているように構成する。
【0015】
上記のような構成によれば、骨組部材の側面に結合された補強用躯体接合部材の第1フランジ部または第2フランジ部を使用して平板状のガセットプレートの端部を結合することができるとともに、レールの両側面に一対の補強用躯体接合部材を結合した状態で2つの補強用躯体接合部材の第1フランジ部または第2フランジ部が同一平面上に並ぶため、T型のガセットプレートのフランジ部を結合することができる。また、補強用躯体接合部材を結合する部位や骨組部材を構成するレールの向きに関わらず、同じ形状の補強用躯体接合部材を用いることができる。
【0016】
本出願の他の発明は、
建造物の構造躯体を構成する骨組部材間に金属製の補強材が取り付けられて補強される耐震補強構造において、
前記補強材の両端が前述したような構成を有する補強用躯体接合部材によって、レールにより構成された骨組部材にそれぞれ結合されているようにしたものである。
上記のような構成の耐震補強構造によれば、レールを骨組部材として用いて構築された建造物の柱と梁との間に斜材のような補強材を設けることができるため、建造物を効果的に補強することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐震補強構造によれば、レールを用いた建造物の構造躯体において、任意の方向に斜材を取り付けて耐震補強強度を高めることができる。また、別部材からの応力を伝達性能に優れるとともに、変形しにくいため骨組部材の復旧の際に再利用することができる。さらに、補強用躯体接合部材を結合する部位や骨組部材を構成するレールの向きに関わらず、同じ形状の補強用躯体接合部材を用いることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る耐震補強構造に用いる補強用躯体接合部材の一例を示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
図2図1の実施例の補強用躯体接合部材をレールに接合した状態を示す側面図である。
図3図1の実施例の補強用躯体接合部材のレールを用いた構造躯体への一使用例を示すもので、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図4図1の実施例の躯体接合部材のレールを用いた構造躯体への他の使用例を示すもので、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図5図1の実施例の躯体接合部材のレールを用いて構造躯体の梁と柱の間へ斜材を設けた場合の斜視図である。
図6】(A)、(B)は本発明に係る補強用躯体接合部材の他の実施例と使用状態を示す図である。
図7】実施例の補強用躯体接合部材の変形例を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
図8】第1実施例の補強用躯体接合部材の他の使用状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施例)
図1は、本発明の実施形態に係る耐震補強構造に用いる補強用躯体接合部材10の一例を示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
図1に示す補強用躯体接合部材(以下、躯体接合部材と略す)10は鋳物で形成されており、図1(C)に示すように、レールの側面形状に対応した形状を有するウェブ部11と、ウェブ部11の上端から水平方向側方へ突出する上フランジ部12と、ウェブ部11の下端から上フランジ部12と平行に水平方向側方へ突出する下フランジ部13とを備える。
【0020】
上記ウェブ部11には、当該躯体接合部材10をレールRのウェブ部に結合するための2本の高力ボルトを挿通するためのボルト挿通孔11aが2箇所形成されている。
また、上フランジ部12と下フランジ部13には、当該躯体接合部材10にガセットプレートのフランジを結合するための2本の高力ボルトを挿通するためのボルト挿通孔12aと13aがそれぞれ2箇所ずつ形成されている。上フランジ部12と下フランジ部13の両端角部は隅切りを行うことによって、通行人へ支障を与えにくくするとともに躯体接合部材10の軽量化を図るようにしている。
【0021】
さらに、上フランジ部12と下フランジ部13に設けられた2つのボルト挿通孔12aの孔間距離と13aの孔間距離は同一であるが、ボルト挿通孔12aと13aの孔間距離はウェブ部11に設けられた2つのボルト挿通孔11aの孔間距離よりも小さくになるように設定されている。なお、ボルト挿通孔12aと13aの孔間距離がウェブ部11のボルト挿通孔11aの孔間距離よりも大きくなるように設定してもよい。このように孔間距離を異ならせることによって、すべてのボルト挿通孔11a,12a,13aの孔間距離を同一に設定した場合に比べて、躯体接合部材10の強度を高めるとともに、他の部材(斜材)から力が伝達してしたときの変形量を小さくすることができる。
【0022】
また、本実施例の躯体接合部材10は、図1(B)に示すように、ボルト挿通孔11aの近傍の上フランジ部12と下フランジ部13の基部に、円弧状の凹部12b,13bがそれぞれ形成されている。このような凹部12b,13bを設けているのは、ボルト挿通孔11aに挿通した高力ボルトやこれに螺合されるナットをトルクレンチのような工具で回す際に、工具を上フランジ部12や下フランジ部13に干渉しにくくして、工具の操作をし易くするためである。また、図1(C)に示すように、上フランジ部12と下フランジ部13の基部は、先端部よりも肉厚がそれぞれ厚くなるように形成されている。
【0023】
さらに、本実施例の躯体接合部材10は、図2に示すように、レールRの側部に接合された際に、ウェブ部11の外側上角部と外側下角部がレールRの顎部と底部の表面に当接するように、第1テーパ面11aの傾斜角度α1と第2テーパ面11bの傾斜角度β1が、レールRの顎部の傾斜角度α0と底部表面の傾斜角度β0よりも小さくなるようにそれぞれ設定されている。このように傾斜角が設定されることにより、躯体接合部材10とレールRとの接触部としての支圧部がレールの内側に来ることになるため、躯体接合部材10を介して斜材等の他の部材から伝達される力を、レールRの中心に近い側に作用させ、レールRにかかる曲げ応力を小さくすることができるようになる。
【0024】
次に、図1の実施例の躯体接合部材10のレールを用いた構造躯体への使用例について、図3図5を用いて説明する。
図3(A)は、2本のレール21A,21Bの底面部同士を接合することで構成された骨組部材としての柱31に、耐震補強用の斜材22の下端部を、ガセットプレート23を介して結合するのに、上記実施例の躯体接合部材10を使用した例を示す。
なお、かかる補強構造は、古レールを構造躯体として使用して構築された既存の建造物に対して後から付加できるものである。
【0025】
柱31に耐震補強用の斜材22の下端部を結合する場合、2本のレール21A,21Bの一方(例えば21B)の両側部に、2個の躯体接合部材10A,10Bが背中合わせにして接合され、図3(B)に示すように、ボルト挿通孔11aに挿通された高力ボルト14aとこれに螺合するナット14bによって柱31のレール21Bと一体に結合される。そして、一方の躯体接合部材10Aの内側(レール21A側)のフランジ部12に、平板状のガセットプレート23が、ボルト15aとナット15bによって躯体接合部材10Aとガセットプレート23とが結合される。
【0026】
図3(B)から分かるように、単に柱31に1枚のガセットプレート23を結合する目的であれば、1個の躯体接合部材10Aのみを使用することも可能であるが、反対側にガセットプレートが結合されない躯体接合部材10Bを設けて、2個の躯体接合部材10A,10Bで柱31を挟み込むように設置することによって、結合部の強度を高めることができる。なお、図3の構造においては、躯体接合部材10Bにもガセットプレートを結合することができる。
【0027】
また、図3に示す結合構造においては、躯体接合部材10Aの外側(図3(B)では下側)のフランジ部13にガセットプレート23を結合することも可能であるが、図示のように、内側(図3(B)の上側)のフランジ部12にガセットプレート23を結合することによって、他の部材からガセットプレート23へ伝達される力によって柱31にねじりモーメントが作用して不所望な応力が発生するのを回避することができる。
【0028】
図4(A)に示す結合構造は、1本のレールからなる梁32に、耐震補強用の斜材22の上端部を、ガセットプレートを介して結合するのに、上記実施例の躯体接合部材10を使用した例を示す。この実施例においては、T字型のガセットプレート24が使用される。図4(A)においては、梁32を構成するレール21Cが頭部を下向きにした姿勢で配設されているが、頭部を上向きにした正規の姿勢でレールが配設されていても良い。また、図4(A)には、梁32として1本のレールのみが示されているが、2本のレールからなる梁であってもよい。
【0029】
この実施例においても、図4(B)に示すように、梁32を構成するレール21Cの両側部に、2個の躯体接合部材10C,10Dが背中合わせにして接合され、ボルト挿通孔11aに挿通された高力ボルト14aとこれに螺合するナット14bによって梁32のレール21Cと一体に結合される。そして、両方の躯体接合部材10C,10Dのフランジ部13に跨って、ガセットプレート24のフランジ部が接合され、2組のボルト15aとナット15bによって躯体接合部材10C,10Dとガセットプレート24とが結合される。なお、レール21Cの頭部の高さと躯体接合部材10C,10Dのフランジ部13の高さが合わない場合には、フランジ部13とガセットプレート24との間に、隙間に対応した厚みを有する間隔調整用のフィラープレート16を介在させるようにすると良い。
【0030】
図3図4に示す結合構造に使用することで、図5(A),(B)に示すように、梁32Aと柱31との間に斜材として機能するT字型ガセットプレート24を取り付けて躯体構造の強度を高めることができる。
また、図5(A),(B)には、梁32Aと直交する向きの梁32Bと柱31との間にも斜材32Bを取り付けて強度を高めるようにした補強構造も示されている。
【0031】
図5(A),(B)に示すように、梁32Bと柱31との間に取り付けられるガセットプレート25は、両端にフランジが設けられている。また、梁32Bを構成するレール21Dの両側部にも一対の躯体接合部材10E,10Fが接合され、躯体接合部材10E,10Fに跨るように、ガセットプレート25のフランジが接合され、ボルトとナットによって結合される。なお、図5(B)に示す実施例では、梁32Bと柱31との間にガセットプレート25のみが取り付けられているが、梁に結合されるガセットプレートと柱に結合されるガセットプレートとの間に斜材が設けられている構造であっても良い。
【0032】
(第2実施例)
図6(A),(B)には、躯体接合部材10の第2の実施例が示されている。
図6(A)の実施例の躯体接合部材10A,10Bは、図に示すように、レールRの側面形状に対応した形状を有するウェブ部11と、ウェブ部11の上端から上方へ突出する上フランジ部12と、ウェブ部11の下端から下方へ突出する下フランジ部13とを備える。図では、下フランジ部13にガセットプレート23がボルト15aとナット15bによって結合されているが、上フランジ部12にガセットプレート23を結合することも可能である。
【0033】
また、図6(A)においては、上フランジ部12を下フランジ部13と同様に長くしているが、短くしても良い。上フランジ部12を短くすることで、図5の躯体接合部材10C,10Dのように、2本のレール骨組部材の同一高さ位置に並べて接合させることができる。また、図6(A)のものでは、上フランジ部12の高さh1と下フランジ部13の高さh2が異なっているが、上フランジ部12と下フランジ部13の高さを同一にして、フランジ面が同一平面上に並ぶように形成しても良い。これにより、躯体接合部材10C,10DにT型のガセットプレートのフランジ部を結合することができる。ただし、その場合、下フランジ部13の厚みが大きくなり、躯体接合部材10の重量が第1の実施例に比べて重くなるというデメリットがある。
【0034】
図6(B)に示す躯体接合部材10A,10Bは、ウェブ部11の上端から水平方向外側へ突出する上フランジ部12と、ウェブ部11の下端から下方へ突出しかつレール中心側へずれるよう形成した下フランジ部13とを設けるようにしたものである。
この実施例の躯体接合部材によれば、レールの両側部に接合した一対の躯体接合部材10A,10Bの下フランジ部13間にガセットプレート23を挟むようにして、ボルト15aとナット15bによって結合することができる。これにより、他の部材から伝達されて来る力をレールの中心に作用させて、不所望なねじりモーメントが作用するのを回避することができる。また、躯体接合部材10Aと10Bの上フランジ部12同士が同一平面をなすため、この面にT型のガセットプレート24を結合することができる。
【0035】
(変形例)
次に、図7および図8を用いて上記実施形態の変形例について説明する。
図7に示す変形例は、躯体接合部材10のウェブ部11の外側面中央に、突起10aを設けたものである。これにより、躯体接合部材10の抵抗力を高め、骨組部材(レール)に結合した躯体接合部材10に斜材から力が伝達された際に、高力ボルト15aにかかる負荷を減らすことができる。
【0036】
また、躯体接合部材10は鋳物製で寸法誤差があるとともに、構造躯体を構成するレールも所定の部位以外は高い寸法精度が要求されておらずレール間にバラツキがあるので、誤差やバラツキを吸収するために、高力ボルト15aが挿通される挿通穴11aの径をボルトの径よりも大きく設定して、躯体接合部材10の密着性を高めることが考えられる。
その場合、躯体接合部材10は軸方向へ移動する余裕を有することになるが、突起10aを設けることにより、外力が作用した際における躯体接合部材10の軸方向への移動を防止することができる。
なお、突起10aの数は1個に限定されず複数個設けても良い。また、骨組部材(レール)に、上記突起10aが係合する凹みあるいは貫通穴を設けるようにしても良い。
【0037】
図8に示す変形例は、古レールを用いて構造物を構築する場合、使用する古レールに摩耗量の差に起因するバラツキがあるので、上記実施形態の躯体接合部材を用いた構造物への補強を想定して、上記バラツキを吸収するための工夫をしたものである。
具体的には、図8(A)に示すように、摩耗量の比較的少ないレールRの頭部同士を対向させて骨組部材を構成した場合と、図8(B)に示すように、摩耗量の比較的多いレールRの頭部同士を対向させて柱(骨組部材)を構成した場合とでは、柱の中心線O-Oに対するガセットプレート23の位置が異なることとなる。そのため、ガセットプレート23の反対側の端部に結合される梁から伝達して来る力が中心線からずれてしまい、そのずれによって柱にねじりモーメントが作用してしまうおそれがある。
【0038】
そこで、この変形例においては、古レールを用いて構造物を構築する際に、ガセットプレート23と躯体接合部材10Aと間に、レール頭部の摩耗の大きさに対応して、摩耗が大きいときは薄い厚みを有するフィラープレートを、摩耗が小さいときは大きな厚みを有するフィラープレートを介在させる。このようにすることで、ガセットプレート23から伝達して来る力を柱の中心線に作用させることができ、それによって柱にねじりモーメントが作用して不所望な応力が発生するのを回避することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、柱と梁との間に斜材を取り付けて補強する場合を例にとって説明したが、梁と梁との間に水平に補強材を取り付けたり、柱と柱の間に水平方向あるいは斜め方向の補強材を取り付けたりする場合にも適用することができる。
また上記実施形態では、骨組部材としてレールを利用した建造物に耐震補強を行う際に使用する躯体接合部材について説明したが、断面H型の鋼材を骨組部材として用いた建造物に耐震補強を行なう場合にも利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 補強用躯体接合部材
11 ウェブ部
11a ボルト挿通孔
12 上フランジ部
13 下フランジ部
14a,15a 高力ボルト
14b,15b ナット
16 フィラープレート
21 レール(骨組部材)
22 斜材
23 ガセットプレート
31 柱
32 梁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8