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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】原子炉格納容器ベントシステム
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/004 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
G21C9/004 100
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020154428
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048550
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】横井 公洋
(72)【発明者】
【氏名】松崎 隆久
(72)【発明者】
【氏名】石田 直行
(72)【発明者】
【氏名】富永 和生
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151355(JP,A)
【文献】特表2016-521843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/00-9/004
G21F 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器から放出されるベントガスから、放射性物質を除去する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記原子炉格納容器と接続するベント配管に設置され、前記ベントガスの流通を入り切りする第1の隔離弁と、
前記第1の隔離弁の下流側に設置され、前記ベントガスの温度を下げる温度低下手段と、
前記温度低下手段の下流側に設置され、放射性希ガスを遮断する膜フィルタと、
を有し、
前記温度低下手段が、前記ベントガスに水を霧状に噴射する噴射機構であることを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項2】
請求項1に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記噴射機構から噴射される水が、前記原子炉格納容器から取水されることを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項3】
請求項1に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記噴射機構から噴射される水の流通を入り切りする第2の隔離弁を有することを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項4】
請求項1に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記噴射機構の上流側であって、前記噴射機構に隣接して設置され、前記ベントガスの圧力を低減する減圧機構を有することを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項5】
請求項4に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記減圧機構が、オリフィス板又は/及び金網であることを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項6】
請求項3に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記第2の隔離弁は、前記第1の隔離弁と連動して開くことを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項7】
請求項3に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記噴射機構と前記第2の隔離弁との間には、水の噴射量を調整する流量調整機構を有することを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項8】
請求項1に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記噴射機構から噴射される水が、前記原子炉格納容器のウェットウェルに設置されるサプレッションプールから取水されることを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項9】
請求項5に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記噴射機構の下流側に、前記噴射機構から噴射される水を蓄積するポケット領域を有することを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項10】
請求項5に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記膜フィルタの上流側であって、前記噴射機構の下流側に、前記ベントガスから水滴を分離する水滴分離装置を有することを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【請求項11】
請求項1に記載する原子炉格納容器ベントシステムであって、
前記膜フィルタの材料は、ポリイミドを主成分とする高分子膜であることを特徴とする原子炉格納容器ベントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントに設置される原子炉格納容器ベントシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントに設置される原子炉格納容器は、万一、原子炉圧力容器に存在する放射性物質が含まれる蒸気が、原子炉格納容器の内部に流出した場合であっても、原子炉格納容器の圧力上昇を抑制し、この蒸気を原子炉格納容器の内部に閉じ込め、原子炉格納容器の外部への蒸気の流出を抑制する。
【0003】
しかし、非常に低い可能性ではあるが、原子炉格納容器の冷却が不十分な場合には、原子炉格納容器の内部の圧力が上昇し続ける場合がある。原子炉格納容器の内部の圧力が上昇し続ける場合には、原子炉格納容器の内部の蒸気(水蒸気)や水素を含む気体(以下、ベントガス)を大気中に放出し、原子炉格納容器の内部の圧力上昇を抑制する、ベント操作を実行する。
【0004】
このベント操作を実行する場合、特に、沸騰水型原子炉を有する原子炉格納容器では、公衆の被ばくを最小限にするため、サプレッションプールのプール水により、可能な限り、放射性物質を除去し、原子炉格納容器の内部のベントガスを大気中に放出する。つまり、この原子炉格納容器では、サプレッションプールのプール水により、十分に、放射性物質を除去し、ベントガスを大気中に放出する。
【0005】
そして、原子力発電プラントには、このベントガスから、更に、放射性物質を除去する原子炉格納容器ベントシステムが、設置される。
【0006】
このような技術分野における背景技術として、特開2018-151355号公報(以下、特許文献1)がある。
【0007】
特許文献1には、ベントガスから、更に、放射性物質を除去するため、スクラビング用プール水を内包するフィルタ容器と、スクラビング用プール水中にベントガスを導入する入口配管と、フィルタ容器の出口配管に設置される金属フィルタ及びよう素フィルタと、を有する原子炉格納容器ベントシステムが記載されている(特許文献1の図1参照)。
【0008】
また、特許文献1には、原子炉格納容器の内部のベントガスを原子炉格納容器の外部に放出するベントラインと、ベントラインに設置される希ガスフィルタと、希ガスフィルタの上流側と原子炉格納容器とを接続する戻り配管と、戻り配管に設置されるポンプと、を有し、希ガスフィルタは、放射性希ガスを遮断し、かつ、蒸気を透過する膜フィルタである原子炉格納容器ベントシステムが記載されている(特許文献1の要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-151355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、放射性希ガスを遮断する膜フィルタを有する原子炉格納容器ベントシステムが記載されている。
【0011】
このように、原子炉格納容器ベントシステムに、放射性希ガスを遮断する膜フィルタを設置する場合、膜フィルタの劣化を考慮する必要がある。
【0012】
膜フィルタの劣化速度は、膜フィルタを通過するベントガスの温度に依存するため、膜フィルタを通過するベントガスの温度を低下させることにより、膜フィルタの劣化を抑制し、膜フィルタの寿命を延長することができる。
【0013】
しかし、特許文献1には、膜フィルタを通過するベントガスの温度を低下させることにより、膜フィルタの劣化を抑制する原子炉格納容器ベントシステムは記載されていない。
【0014】
そこで、本発明は、希ガスフィルタである膜フィルタを通過するベントガスの温度を低下させることにより、膜フィルタの劣化を抑制する原子炉格納容器ベントシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した課題を解決するため、本発明の原子炉格納容器ベントシステムは、原子炉格納容器から放出されるベントガスから、放射性物質を除去する原子炉格納容器ベントシステムであって、原子炉格納容器と接続するベント配管に設置され、ベントガスの流通を入り切りする第1の隔離弁と、第1の隔離弁の下流側に設置され、ベントガスの温度を下げる温度低下手段と、温度低下手段の下流側に設置され、放射性希ガスを遮断する膜フィルタと、を有し、温度低下手段が、ベントガスに水を霧状に噴射する噴射機構であることを特徴とする原子炉格納容器ベントシステムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、希ガスフィルタである膜フィルタを通過するベントガスの温度を低下させることにより、膜フィルタの劣化を抑制する原子炉格納容器ベントシステムを提供することができる。
【0017】
なお、上記した以外の課題、構成及び効果については、下記する実施例の説明により、明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する構成図である。
図2】実施例2に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する構成図である。
図3】実施例3に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する構成図である。
図4】実施例4に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を、図面を使用し、説明する。なお、実質的に同一又は類似の構成には、同一の符号を付し、説明が重複する場合には、その説明を省略する場合がある。
【0020】
なお、以下の実施例では、本発明の原子炉格納容器ベントシステムを、軽水炉(沸騰水型原子炉や加圧水型原子炉)に使用した場合を説明するが、重水炉、黒鉛炉、ガス炉に使用してもよく、また、所謂、第4世代原子炉と呼称される高温ガス炉、超臨界圧軽水冷却炉、溶融塩炉、ガス冷却高速炉、ナトリウム冷却高速炉、鉛冷却高速炉などに使用してもよい。
【実施例1】
【0021】
先ず、実施例1に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する。
【0022】
図1は、実施例1に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する構成図である。なお、図1は、原子炉格納容器1及び原子炉格納容器ベントシステム100を合わせて記載するものである。また、図1において、破線部分が、原子炉格納容器ベントシステム100である。
≪原子炉格納容器1≫
原子炉格納容器1は、炉心2を内包する原子炉圧力容器3を有する。原子炉圧力容器3には、原子炉圧力容器3により発生する蒸気をタービン(図示せず)に供給する、主蒸気管4が接続される。
【0023】
なお、図1に記載する原子炉は、沸騰水型原子炉であり、特に、インターナルポンプ(図示せず)を有し、冷却材を原子炉圧力容器3の内部で循環させる改良型沸騰水型原子炉(Advanced Boiling Water Reactor:ABWR)である。
【0024】
原子炉格納容器1の内部は、鉄筋コンクリート製のダイヤフラムフロア5により、ドライウェル6とウェットウェル7とに区画される。ドライウェル6とウェットウェル7とは、ベント管9により、相互に連通する。
【0025】
原子炉格納容器1のウェットウェル7には、内部にプール水を貯留するサプレッションプール8が設置される。なお、ベント管9に形成されるベント管排気部9aは、ウェットウェル7の内部のサプレッションプール8の水面下に設置される。
【0026】
また、原子炉格納容器1のドライウェル6には、主蒸気管4に接続する、蒸気逃し安全弁10が設置される。これにより、主蒸気管4を流通する蒸気が増加し、主蒸気管4の圧力が上昇した場合には、蒸気逃し安全弁10により、主蒸気管4の圧力上昇を抑制することができる。
【0027】
<主蒸気管4の圧力が上昇した場合>
主蒸気管4を流通する蒸気が増加し、主蒸気管4の圧力が上昇した場合には、主蒸気管4を流通する蒸気は、蒸気逃し安全弁10を介して、蒸気逃し安全弁排気管11を流通し、最終的にクエンチャ12から、サプレッションプール8のプール水中に、導入される。そして、この蒸気は、サプレッションプール8のプール水により、凝縮される。
【0028】
このように、主蒸気管4の圧力が上昇した場合であっても、主蒸気管4を流通する蒸気をサプレッションプール8のプール水中に導入し、この蒸気をサプレッションプール8のプール水により凝縮し、主蒸気管4の圧力上昇を抑制し、原子炉格納容器1の内部の圧力上昇を抑制する。
【0029】
なお、この際、この蒸気に放射性物質が含まれる場合には、サプレッションプール8のプール水のスクラビング効果により、放射性物質が除去される。
【0030】
<ドライウェル6の内部の圧力が上昇した場合>
万一、ドライウェル6の内部に設置される配管の損傷などにより、この配管から蒸気が流出し、原子炉格納容器1の内部に蒸気が流出する冷却材喪失事故(LOCA(Loss of Coolant Accident))が発生した場合には、ドライウェル6の内部に流出する蒸気により、ドライウェル6の内部の圧力が、つまり、原子炉格納容器1の内部の圧力が、上昇する。なお、冷却材喪失事故は、配管が設置されるドライウェル6の内部で発生する。
【0031】
ドライウェル6の内部に流出する蒸気は、ドライウェル6とウェットウェル7との圧力差により、ベント管9及びベント管排気部9aを流通し、サプレッションプール8のプール水中に、導入される。そして、この蒸気は、サプレッションプール8のプール水により、凝縮される。
【0032】
このように、ドライウェル6の内部が上昇した場合であっても、ドライウェル6の内部に流出する蒸気をサプレッションプール8のプール水中に導入し、この蒸気をサプレッションプール8のプール水により凝縮し、ドライウェル6の内部の圧力上昇を抑制し、原子炉格納容器1の内部の圧力上昇を抑制する。
【0033】
なお、この際、この蒸気に放射性物質が含まれる場合には、サプレッションプール8のプール水のスクラビング効果により、放射性物質が除去される。
【0034】
このように、流出する蒸気を、サプレッションプール8のプール水により凝縮することにより、液体(水)にする。これにより、流出する蒸気の体積を大幅に減少させ、原子炉格納容器1の内部の圧力上昇を抑制し、冷却材喪失事故を収束させる。
【0035】
そして、サプレッションプール8のプール水を、残留熱除去系(図示せず)により、冷却し、サプレッションプール8のプール水の温度上昇を抑制する。
【0036】
<残留熱除去系の機能喪失>
しかし、非常に低い可能性ではあるが、残留熱除去系の機能が喪失した場合には、サプレッションプール8のプール水の温度が上昇する。サプレッションプール8のプール水の温度の上昇に伴い、原子炉格納容器1の内部に流出する蒸気の分圧は、サプレッションプール8のプール水の温度の飽和蒸気圧まで、上昇する。このため、原子炉格納容器1の内部の圧力が上昇する。
【0037】
そして、原子炉格納容器1の内部の圧力が上昇した場合には、外部から消防ポンプなどを接続し、格納容器スプレイ系(図示せず)により、原子炉格納容器1を冷却し、原子炉格納容器1の温度上昇を抑制し、原子炉格納容器1の内部の圧力上昇を抑制し、残留熱除去系の機能喪失を補う。
【0038】
このように、原子炉格納容器1は、万一、残留熱除去系の機能が喪失し、原子炉格納容器1の内部に、放射性物質が含まれる蒸気が流出し、原子炉格納容器1の内部の圧力が上昇した場合であっても、原子炉格納容器1を冷却することにより、原子炉格納容器1の内部の圧力上昇を抑制し、この放射性物質が含まれる蒸気を原子炉格納容器1の内部に閉じ込め、原子炉格納容器1の外部への、放射性物質が含まれる蒸気の放出を抑制することができる。
【0039】
つまり、万一、残留熱除去系の機能が喪失した場合であっても、格納容器スプレイ系により、原子炉格納容器1を冷却することにより、残留熱除去系の機能喪失を補うことができる。
【0040】
<格納容器スプレイ系の機能喪失>
しかし、更に非常に低い可能性ではあるが、格納容器スプレイ系の機能が喪失した場合には、原子炉格納容器1の内部の圧力が上昇し続ける場合がある。この場合には、原子炉格納容器1の内部のベントガスを大気中に放出することにより、原子炉格納容器1の内部の圧力上昇を抑制する、ベント操作を実行する。
【0041】
つまり、万一、格納容器スプレイ系の機能が喪失し、原子炉格納容器1の冷却が不十分な場合には、原子炉格納容器1の内部のベントガスを大気中に放出し、原子炉格納容器1の圧力上昇を抑制する。
【0042】
なお、特に、沸騰水型原子炉を有する原子炉格納容器1では、このベント操作は、ウェットウェル7の内部のベントガスを放出することにより、実行される。
【0043】
そして、このベント操作を実行する場合には、サプレッションプール8のプール水により、可能な限り、流出する蒸気に含まれる放射性物質を除去し、原子炉格納容器1の内部のベントガスを大気中に放出する。
【0044】
≪原子炉格納容器ベントシステム100≫
原子炉格納容器ベントシステム100は、ベント操作を実行する場合に、原子炉格納容器1の内部の蒸気や水素を含む気体であるベントガスから、更に、放射性物質を除去するシステムである。つまり、原子炉格納容器ベントシステム100は、原子炉格納容器1の内部の圧力上昇を抑制するため、原子炉格納容器1の内部のベントガスを大気中に放出する際に、ベントガスから、更に、放射性物質を除去するシステムである。
【0045】
原子炉格納容器ベントシステム100は、ベント配管(ベントライン)13により、原子炉格納容器1と接続される。ベント配管13は、ドライウェル6とウェットウェル7とに接続され、ドライウェル6と接続するベント配管13には、隔離弁14bが設置され、ウェットウェル7と接続するベント配管13には、隔離弁14a(第1の隔離弁)が設置される。なお、ベント配管13は、原子炉格納容器1の内部のベントガスを、原子炉格納容器1の外部に放出する。
【0046】
なお、ベント操作を実行する場合には、ウェットウェル7と接続するベント配管13に設置される隔離弁14aを開くことになる。つまり、ベントガスは、ウェットウェル7から放出される。これにより、サプレッションプール8のプール水により、放射性物質が除去されたベントガスを、原子炉格納容器ベントシステム100に導入することができる。
【0047】
また、このベント配管13の下流には、クリプトンやキセノンのような反応性に乏しい放射性希ガスを遮断する(放射性希ガスを透過しない)希ガスフィルタである膜フィルタ15が設置される。
【0048】
また、膜フィルタ15は、蒸気や水素を透過する。蒸気や水素の分子径は、0.3nm以下と小さい。そして、遮断される放射性希ガスの分子径は、透過される蒸気や水素の分子径よりも、大きい。このため、膜フィルタ15には、分子径が小さい蒸気や水素を選択的に透過し、分子径が大きい放射性希ガスを選択的に遮断する、分子ふるいとなる膜を使用する。
【0049】
膜フィルタ15の材料(フィルタ材)には、例えば、ポリイミドを主成分とする高分子膜、ポリスルホンやポリエーテルエーテルケトンを主成分とする高分子膜、酸化ケイ素(例えばSiO)や窒化ケイ素(例えばSi)を主成分とするセラミック膜、炭素を主成分とする酸化グラフェン膜(炭素膜)などが使用される。これら膜フィルタ15の材料は、分子ふるいとして使用することができる。
【0050】
これら膜フィルタ15の材料は、この膜フィルタ15を通過するベントガスの温度に依存するため、膜フィルタ15を通過するベントガスの温度を低下させることにより、膜フィルタ15の寿命を延長することができる。なお、膜フィルタ15の材料には、特に、ポリイミドを主成分とする高分子膜が好ましく、実施例1では、ポリイミド膜を使用する。
【0051】
そして、膜フィルタ15により、放射性希ガスが遮断されたベントガスは、排気塔16から放出される。
【0052】
また、ベント配管13は、膜フィルタ15の上流側から分岐し、膜フィルタ15の上流側とドライウェル6とを接続する。膜フィルタ15の上流側から分岐するベント配管13(戻り配管)には、ブロア(ポンプ)17が設置され、このベント配管13(戻り配管)であって、ブロア17の下流側には、逆止弁18が設置される。
【0053】
そして、放射性希ガスを含むベントガスは、膜フィルタ15の上流側から分岐するベント配管13を流通し、ドライウェル6に戻される。また、逆止弁18により、ドライウェル6からのベントガスの逆流を防止する。
【0054】
また、原子炉格納容器ベントシステム100は、隔離弁14a及び隔離弁14bの下流側であって、膜フィルタ15の上流側に、膜フィルタ15を通過するベントガスの温度を低下させる噴射領域20を有する。つまり、膜フィルタ15は、噴射領域20の下流側に設置される。なお、噴射領域20は、ベント配管13と接続し、例えば、ベント配管13よりも径が大きい配管により、形成される。
【0055】
噴射領域20には、ベントガスに、水を霧状に噴射する噴射機構(ベントガスにミストをスプレイする噴射装置)(ベントガスの温度を下げる温度低下手段)19が設置され、噴射領域20では、噴射機構19により、霧状に噴射される水の蒸発潜熱により、ベントガスの温度が低下する。なお、噴射機構19から噴射される水の温度は、ベントガスの温度よりも低い。これにより、膜フィルタ15の劣化を抑制し、膜フィルタ15の寿命を延長することができる。
【0056】
なお、膜フィルタ15にポリイミド膜を使用する場合、膜フィルタ15を通過するベントガスの温度を、10度程度、低下させることにより、膜フィルタ15の寿命を、約2倍に、延長することができる。
【0057】
そして、実施例1では、150~170度程度のベントガスの温度を、20~30度程度の霧状の水を噴射する噴射機構19により、140~160度程度まで、低下させる。なお、この場合、ベントガスのガス流量に対して、噴射機構19から噴射される水の流量(ミスト流量)は、0.1~0.5%程度であればよい。
【0058】
また、噴射機構19から噴射される水は、サプレッションプール8から取水され、サプレッションプール8のプール水が使用される。サプレッションプール8には、噴射機構19から噴射する水を取水する取水口21が設置される。これにより、原子炉格納容器1の外部に、大型の貯水槽などの機器を設置する必要がなく、ベントガスのガス流量が増加することを抑制することもできる。
【0059】
なお、取水口21は、緊急炉心冷却装置(ECCS(Emergency Core Cooling System):格納容器スプレイ系)において使用される取水口であってもよい。これにより、原子炉格納容器1の貫通部を低減することができる。
【0060】
また、サプレッションプール8に設置される取水口21は、サプレッションプール8の下部に設置されることが好ましい。これにより、サプレッションプール8のプール水の温度成層化を使用することができ、相対的に温度の低いサプレッションプール8の下部のプール水を使用することができる。
【0061】
また、取水口21と噴射機構19との間には、隔離弁22(第2の隔離弁)が設置される。なお、隔離弁22は、隔離弁14aと連動して開く。これにより、ベントガスが噴射領域20に流通する場合には、必ず、噴射機構19から、ベントガスに、水を噴射することができる。
【0062】
また、噴射領域20には、噴射機構19の上流側であり、噴射機構19に隣接して、ベントガスの圧力を低減する減圧機構23が設置されることが好ましい。減圧機構23は、ベントガスに対して圧損要素であればよく、例えば、減圧機構23には、オリフィス板や金網が使用される。また、オリフィス板と金網とを併用してもよい。なお、実施例1では、オリフィス板を使用する。
【0063】
なお、減圧機構23によるベントガスの圧力の低減量は、ベントガスのガス流量に比例して大きくなる。つまり、ベントガスのガス流量が増加すると、減圧機構23によるベントガスの圧力の低減量も大きくなる。
【0064】
また、ベントガスのガス流量が増加すると、つまり、ベントガスの温度を大きく低下させたい場合には、減圧機構23によるベントガスの圧力の低減量も大きくなり、噴射領域20とサプレッションプール8との差圧も大きくなるため、水の噴射量も多くなる。なお、ベントガスのガス流量が少ない場合は、差圧も小さいため、水の噴射量も少なくなる。
【0065】
このように、減圧機構23を設置することにより、噴射領域20とサプレッションプール8との差圧を大きくすることができ、動力源を使用することなく、噴射機構19から、噴射領域20に水を噴射することができる。
【0066】
そして、減圧機構23を設置することにより、制御することなく、水の噴射量を適切に調整することができる。
【0067】
また、噴射機構19と隔離弁22との間には、水の噴射量を調整する流量調整機構24を設置してもよい。これにより、更に繊細に、水の噴射量を調整することができる。
【0068】
このように、実施例1に記載する原子炉格納容器ベントシステム100は、原子炉格納容器1から放出されるベントガスから、放射性物質を除去するシステムである。そして、実施例1に記載する原子炉格納容器ベントシステム100は、以下の構成を有する。
・原子炉格納容器1のウェットウェル7と接続するベント配管13に設置され、ウェットウェル7のベントガスの流通を入り切りする隔離弁14a(第1の隔離弁)、
・隔離弁14aの下流側に設置され、ベントガスの温度を下げる温度低下手段(ベントガスにウェットウェル7のサプレッションプール8のプール水を霧状に噴射する噴射機構19)、
・噴射機構19から噴射されるサプレッションプール8のプール水の流通を入り切りし、第1の隔離弁と連動して開く、隔離弁22(第2の隔離弁)、
・噴射機構19の下流側に設置され、放射性希ガスを遮断する膜フィルタ15、
・噴射機構19の上流側であって、噴射機構19に隣接して設置され、ベントガスの圧力を低減する、オリフィス板又は/及び金網である減圧機構23。
【0069】
このように、実施例1によれば、噴射機構19により、ベントガスから、粒子状の放射性物質やよう素などのガス状の放射性物質を除去することができると共に、膜フィルタ15を通過するベントガスの温度を、継続的に低下させることができ、膜フィルタ15の劣化を抑制することができる。
【0070】
また、噴射機構19により、ベントガスに含まれるエアロゾル化した不純物を除去することができ、膜フィルタ15を透過するベントガスの透過量を向上させることができる。つまり、ベントガスに含まれるエアロゾル化した不純物が、噴射機構19から噴射される水に付着し、ベントガスから、ベントガスに含まれるエアロゾル化した不純物が除去される。
【0071】
なお、ベントガスから除去された粒子状の放射性物質やベントガスに含まれるエアロゾル化した不純物は、噴射機構19から噴射される水と共に、噴射領域20の下方に落下する。
【0072】
また、実施例1によれば、大型の機器を設置することなく、動力源を使用することなく、静的に、噴射機構19から水を噴射することができる。
【0073】
このように、実施例1によれば、原子炉圧力容器3から原子炉格納容器1の内部に放射性物質が含まれる蒸気が流出し、原子炉格納容器1の内部の圧力が上昇するような、万一の事態が発生した場合であっても、ベント操作を実行し、原子炉格納容器1の内部の圧力上昇を抑制すると共に、ベントガスの温度を低下させることにより、膜フィルタ15の劣化を抑制し、膜フィルタ15の寿命を延長することができる。
【0074】
なお、実施例1に記載する原子炉格納容器ベントシステム100は、減圧機構23や流量調整機構24を設置せずに、構成されてもよい。
【実施例2】
【0075】
次に、実施例2に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する。
【0076】
図2は、実施例2に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する構成図である。なお、図2は、原子炉格納容器1及び原子炉格納容器ベントシステム100を合わせて記載するものである。また、図2において、破線部分が、原子炉格納容器ベントシステム100である。
【0077】
実施例2に記載する原子炉格納容器1や原子炉格納容器ベントシステム100の基本構成は、実施例1と同様である。ここでは実施例1との相違のみを説明する。
【0078】
実施例2に記載する原子炉格納容器ベントシステム100は、減圧機構23に金網を使用する。これにより、ベントガスから、粒子状の放射性物質やベントガスに含まれるエアロゾル化した不純物を除去することができる。
【0079】
更に、実施例2に記載する原子炉格納容器ベントシステム100には、噴射領域20に、ベントガスから除去された粒子状の放射性物質やベントガスに含まれるエアロゾル化した不純物(以下、不純物)や噴射機構19から噴射される水を蓄積するポケット領域25が設置される。ポケット領域25は、噴射機構19の下流側であり、噴射機構19に隣接して、設置される。そして、ポケット領域25は、噴射領域20の下部(配管壁)に形成され、噴射領域20の下部にくぼみを形成した領域である。
【0080】
なお、噴射領域20は、ポケット領域25に向かって僅かに傾斜することが好ましい。これにより、不純物は、噴射機構19から噴射される水と共に、ポケット領域25に蓄積される。
【0081】
そして、不純物をポケット領域25に蓄積することにより、不純物が、下流側に流通するベントガスに、混入することを抑制することができ、不純物が、膜フィルタ15に、付着することを抑制することができる。
【0082】
なお、流量調整機構24により、水の噴射量を調整し、ポケット領域25に蓄積する水量を調整することにより、ポケット領域25に蓄積する、発熱する可能性がある不純物を、冷却することができる。
【0083】
また、ポケット領域25は、隔離弁31を介して、貯水タンク32(貯水設備)と接続する。ポケット領域25に蓄積される水量が一定値を超えた場合に、隔離弁31が開き、ポケット領域25に蓄積される水が、貯水タンク32へ流れ込む。これにより、ポケット領域25に蓄積される水量を一定値以内に制限することができ、ポケット領域25に蓄積される水がベント配管13へ溢れ出すことを抑制する。
【0084】
これにより、膜フィルタ15を透過するベントガスの透過量を向上させることができると共に、膜フィルタ15の寿命を延長することができる。
【実施例3】
【0085】
次に、実施例3に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する。
【0086】
図3は、実施例3に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する構成図である。なお、図3は、原子炉格納容器1及び原子炉格納容器ベントシステム100を合わせて記載するものである。また、図3において、破線部分が、原子炉格納容器ベントシステム100である。
【0087】
実施例3に記載する原子炉格納容器1や原子炉格納容器ベントシステム100の基本構成は、実施例1と同様である。ここでは実施例1との相違のみを説明する。
【0088】
実施例3に記載する原子炉格納容器ベントシステム100には、膜フィルタ15の上流側であって、噴射領域20の下流側(噴射機構19の下流側)に、ベントガスから水滴を分離する水滴分離装置26が設置される。
【0089】
水滴分離装置26は、流入したベントガスを装置内部で渦状に流し(流入したベントガスが装置内部を渦状に流れ)、遠心分離作用により、ベントガスから水滴を分離する。
【0090】
また、水滴分離装置26は、隔離弁33を介して、貯水タンク32(貯水設備)と接続する。水滴分離装置26に蓄積される水量が一定値を超えた場合に、隔離弁33が開き、水滴分離装置26に蓄積される水が、貯水タンク32へ流れ込む。これにより、水滴分離装置26に蓄積される水量を一定値以内に制限することができ、水滴分離装置26に蓄積される水がベント配管13へ溢れ出すことを抑制する。一方、水滴が分離されたベントガスは、ベント配管13へ戻る。
【0091】
そして、水滴分離装置26により、ベントガスから水滴を分離することにより、下流側に流通するベントガスから水滴を除去することができ、水滴が、膜フィルタ15に、付着することを抑制することができる。
【0092】
これにより、膜フィルタ15を透過するベントガスの透過量を向上させることができると共に、膜フィルタ15の寿命を延長することができる。
【実施例4】
【0093】
次に、実施例4に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する。
【0094】
図4は、実施例4に記載する原子炉格納容器ベントシステム100を説明する構成図である。なお、図4は、原子炉格納容器1及び原子炉格納容器ベントシステム100を合わせて記載するものである。また、図4において、破線部分が、原子炉格納容器ベントシステム100である。
【0095】
実施例4に記載される原子炉格納容器ベントシステム100の基本構成は、実施例1と同様である。
【0096】
実施例1に記載する原子炉格納容器1には、沸騰水型原子炉が設置されるが、実施例4に記載する原子炉格納容器1には、加圧水型原子炉が設置される。
【0097】
加圧水型原子炉が設置される原子炉格納容器1は、炉心2を内包する原子炉圧力容器3を有する。
【0098】
原子炉圧力容器3は加圧器27に接続され、加圧器27は蒸気発生器28に接続される。つまり、原子炉圧力容器3により発生する高温水を、加圧器27により高温高圧水とし、この高温高圧水を使用し、蒸気発生器28により、別系統の水を沸騰させ、蒸気を発生させる。
【0099】
そして、蒸気発生器28には、蒸気発生器28により発生する蒸気をタービン(図示せず)に供給する、主蒸気管4が接続される。
【0100】
また、蒸気発生器28は、再循環ポンプ29を介して、原子炉圧力容器3と接続する。別系統の水を沸騰させ、蒸気を発生させた水は、蒸気発生器28から原子炉圧力容器3へ戻される。
【0101】
また、原子炉格納容器1の内部には、格納容器内燃料取替用水タンク30が設置される。そして、噴射機構19から噴射される水は、格納容器内燃料取替用水タンク30に貯留される水が使用される。これにより、原子炉格納容器1の外部に、大型の貯水槽などの機器を設置する必要がない。
【0102】
また、ベント配管13は、原子炉格納容器1に接続され、原子炉格納容器1と接続するベント配管13には、隔離弁14が設置される。なお、ベント操作を実行する場合には、隔離弁14を開くことになる。
【0103】
これにより、膜フィルタ15を通過するベントガスの温度を低下させることができ、膜フィルタ15の劣化を抑制することができる。
【0104】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されるものではない。
【0105】
また、ある実施例の構成の一部を、他の実施例の構成の一部に置換することもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を追加することもできる。また、各実施例の構成の一部について、それを削除し、他の構成の一部を追加し、他の構成の一部と置換することもできる。
【符号の説明】
【0106】
1…原子炉格納容器、2…炉心、3…原子炉圧力容器、4…主蒸気管、5…ダイヤフラムフロア、6…ドライウェル、7…ウェットウェル、8…サプレッションプール、9…ベント管、9a…ベント管排気部、10…蒸気逃し安全弁、11…蒸気逃し安全弁排気管、12…クエンチャ、13…ベント配管、14、14a、14b…隔離弁、15…膜フィルタ、16…排気塔、17…ブロア、18…逆止弁、19…噴射機構、20…噴射領域、21…取水口、22…隔離弁、23…減圧機構、24…流量調整機構、25…ポケット領域、26…水滴分離装置、27…加圧器、28…蒸気発生器、29…再循環ポンプ、30…格納容器内燃料取替用水タンク、31…隔離弁、32…貯水タンク、33…隔離弁。
図1
図2
図3
図4