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特許7454485ディップ成形用組成物、手袋の製造方法及び手袋
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】ディップ成形用組成物、手袋の製造方法及び手袋
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/04 20060101AFI20240314BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20240314BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240314BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20240314BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20240314BHJP
   A41D 19/04 20060101ALI20240314BHJP
   B29C 41/14 20060101ALI20240314BHJP
   B29C 41/36 20060101ALI20240314BHJP
   C08J 5/02 20060101ALI20240314BHJP
   B29K 9/00 20060101ALN20240314BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
C08L9/04
C08L79/00 Z
C08K3/22
C08K5/29
A41D19/00 A
A41D19/04 B
B29C41/14
B29C41/36
C08J5/02 CEQ
B29K9:00
B29L22:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020188772
(22)【出願日】2020-11-12
(62)【分割の表示】P 2019565484の分割
【原出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021042385
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018122417
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391009372
【氏名又は名称】ミドリ安全株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 憲秀
(72)【発明者】
【氏名】小川 太一
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0057092(KR,A)
【文献】特開2015-187227(JP,A)
【文献】特開平08-207171(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217542(WO,A1)
【文献】特開2013-203914(JP,A)
【文献】日清紡ケミカル株式会社,水性樹脂用架橋剤, [online],2023年04月19日,URL<https://www.nisshinbo-chem.co.jp/products/carbodilite/water.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
A41D19/00- 19/04
B29C41/00- 41/52
C08J 5/02- 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、およびブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、
ポリカルボジイミドと、
アルカリ金属の水酸化物と、
水とを少なくとも含み、
前記エラストマーにおける(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位が20~40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1~10重量%、およびブタジエン由来の構造単位が50~75重量%であり、前記ポリカルボジイミドは、分子構造内に親水性セグメントを含むポリカルボジイミドを少なくとも1種含むものであり、
前記ポリカルボジイミドの添加量が、ディップ成形用組成物の固形分全量に対して0.2重量%を超えて2.0重量%以下であり、
pHが9.5~10.5であり、
前記ポリカルボジイミドの当量が260~440であり、
前記ポリカルボジイミドがディップ成形用組成物において、シェル/コア構造を有する、ディップ成形用組成物。
【請求項2】
金属架橋剤として酸化亜鉛および/またはアルミニウム錯体を、ディップ成形用組成物の固形分全量に対して0.2~7.0重量%含む、請求項1に記載のディップ成形用組成物。
【請求項3】
アルカリ金属の水酸化物が水酸化カリウムである、請求項1または2に記載のディップ成形用組成物。
【請求項4】
前記ポリカルボジイミドの1分子当たりのカルボジイミド官能基数が5以上であり、前記ポリカルボジイミドから構成されるミセルの平均粒径が5~30nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のディップ成形用組成物。
【請求項5】
手袋の製造方法であって、
(1)手袋成形型にカルシウムイオンを含む凝固剤を付着させる工程、
(2)ディップ成形用組成物を攪拌する分散工程、
(3)前記(1)の凝固剤が付着した手袋成形型を前記ディップ成形用組成物中に浸漬し、手袋成形型にディップ成形用組成物を凝集、付着させるディッピング工程、
(4)ディップ成形用組成物が付着した手袋成形型を40~120℃の条件下で、20秒~4分放置し、手袋成形型上に硬化フィルム前駆体を形成するゲリング工程、
(5)手袋成形型上に形成された硬化フィルム前駆体を、40~70℃の水で、1.5分以上4分以下洗浄するリーチング工程、
(6)手袋の袖口部分に巻きを作るビーディング工程、
(7)ビーディング工程を経た硬化フィルム前駆体を100~140℃の条件下で、15~30分加熱・乾燥させ、硬化フィルムを得るキュアリング工程、を含み、
(3)~(7)の工程を上記順序で行い、
前記ディップ成形用組成物が、請求項1~4のいずれか1項に記載のディップ成形用組成物である、手袋の製造方法。
【請求項6】
(3)及び(4)の工程を2回以上行う、請求項5に記載の手袋の製造方法。
【請求項7】
前記手袋は、膜厚50~100μmのとき、手袋中のカリウムおよびカルシウムの合計含有量が1.15重量%以下である、請求項5または6に記載の手袋の製造方法。
【請求項8】
前記手袋は、引張強度がASTM試験方法で20MPa以上、疲労耐久性試験における疲労耐久性が240分以上である、請求項7に記載の手袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップ成形用組成物、手袋の製造方法及び手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン共重合体(以下、XNBRともいう)に有機架橋剤としてポリカルボジイミドを用いてディップ成形法により手袋を作製する技術について、特許文献1~6に記載のものがある。以下、ポリカルボジイミドを用いて架橋させて得た手袋を「ポリカルボジイミド架橋手袋」ともいう。
従来の硫黄及び硫黄系加硫促進剤としてチウラムミックスやチアゾール等のアクセラレーターを用いて架橋したゴム手袋はIV型アレルギーを引き起こすため、これに代わるアクセラレーターフリーの手袋が研究されていた。特許文献1~6に記載の技術は、ポリカルボジイミドの反応による共有結合を利用するものであった。
これらの特許文献においては、ポリカルボジイミド架橋手袋の製造にあたり、pH調整剤として従来の硫黄系の架橋剤を用いるXNBR手袋の製造において一般的に用いられてきた水酸化カリウム(KOH)に代えて、水酸化アンモニウムを使用している。
特に、特許文献5、6においてはpH調整剤として水酸化アンモニウムを用いることを必須要件としている。これは、ポリカルボジイミドとカルボキシル基の架橋においてはpH調整剤としてアンモニアなどの揮発性の塩基を使用する必要があると考えられていたからである。
なお、特許文献3は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を、水酸化カリウム溶液を含むディップ成形用組成物の製造時に添加し、それを用いてディップ成形品を得た実施例が記載されている。しかし、上記EDCはカルボジイミド基を1つしか有していないので、ポリカルボジイミド化合物には該当せず、これ
を用いても架橋反応は起こらないと考えられる。
また、特許文献3には、ポリカルボジイミド化合物を用いた例として、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス組成物の製造時、つまりカルボン酸変性ニトリル系共重合体の合成時にポリカルボジイミド化合物を添加した例は記載されている。しかし、そのポリカルボジイミド化合物はあくまでカルボン酸変性ニトリル系共重合体の架橋剤として利用されたものであり、ディップ成形品の製造時の架橋反応には関与していないと考えられる。
【0003】
XNBRのカルボキシル基とポリカルボジイミドの架橋反応について、以下に概要を示す。
【化1】

上式のように反応の開始にはポリカルボジイミドが、XNBRのカルボキシル基(-COOH)からHを引き抜き、カルボキシル基を遊離状態にする必要がある。ポリカルボジイミド架橋手袋の実際の架橋は後述するようにキュアリング工程において起こる。このとき、XNBRのカルボキシル基はその大半が凝固剤由来のカルシウムや亜鉛などの金属
架橋剤と塩を形成するのが通常である。ポリカルボジイミドは、XNBRの残ったカルボキシル基とのみ架橋を開始することができる。
水酸化アンモニウムをpH調整剤として使用した場合は、XNBRとアンモニウム塩(-COONH )を形成していたアンモニアが揮発し、カルボキシル基(-COOH)に戻ることでポリカルボジイミドと架橋し得るカルボキシル基が確保される。
一方、水酸化カリウムをpH調整剤として使用した場合は、XNBRとカリウム塩(-COOK)を形成し、ポリカルボジイミドと架橋できない。そのため、ポリカルボジイミドと架橋するために十分なカルボキシル基が確保されないと考えられていた。
【0004】
また、従来、ポリカルボジイミドは水性塗料の架橋剤として使用されてきた。ポリカルボジイミドを水性塗料として使用する場合もカルボキシル基とポリカルボジイミドの反応である。ポリカルボジイミド架橋手袋の製造では、水性塗料における架橋反応とは架橋温度は異なるなどの相違点があるが、pHが中性の環境下で架橋反応させるなどほぼ同一条件下で行われるものである。
即ち、カルボキシル基含有水系塗料とカルボジイミド基を架橋させる場合、弱酸性から中性にpH調整する必要があるが、非特許文献1には、このときのpH調整剤に関して「ナトリウムで中和した場合には塗膜の架橋は進まないが、アンモニア、トリエチルアミンなどで中和した塗膜の架橋は常温で進行する」と記載されている。
非特許文献2には、ポリカルボジイミドとカルボキシル官能ポリマーの反応においては、pH調整剤に関して「揮発性塩基の使用が常識である」と記載されている。そして、pH調整剤として、「NaOHを、CHDA/ポリカルボジイミド混合液に加えた場合は、反応は進行しない。これは、脱プロトン化したカルボキシル基はカルボジイミド基に対し反応性がないことを示している」と記載されているのに対し、「揮発性塩基であるトリエチルアミンを加えた場合は反応が進行するが、これは、カルボキシル基は、はじめは脱プロトン化するが、塩基の揮発にともないカルボキシル基が再びプロトン化するためと容易に説明できる」と記載されている。
非特許文献3は、日清紡ケミカルの「カルボジライト」水性タイプについて説明するものである。この文献には、「水性塗料との反応は、塗料の主剤に含まれるカルボキシル基(-COOH)およびそのアミン塩と「カルボジライト」に含まれるカルボジイミド基(-N=C=N-)との反応であり」「カルボキシル基の金属塩(-COONa)…とは、加熱しても反応しない」と記載されている。
【0005】
特許文献5、6においては、ポリカルボジイミドを用いるとともにpH調整剤として水酸化アンモニウムを使用し、ディップ成形による手袋を製造するために必要な特別の製造方法等を見出している。以下、それらの文献に記載された発明の特徴を記載する。
第1の特徴は、ポリカルボジイミドをキュアリング工程の前までは親水性セグメントにより、水中でも失活させないようにしておき、キュアリング工程において乾燥により親水性セグメントが開き、架橋反応が開始するようにした点である。このため、従来の手袋製造におけるゲリング工程においては、比較的高温で乾燥させていたのに対し、ポリカルボジイミドを架橋させる際には、乾燥させないでゲリングを行う条件を必要とした。
pH調整剤の水酸化アンモニウムについては、XNBRのカルボキシル基とアンモニウム塩(-COONH )を形成するが、アンモニウム塩は加熱により分解してアンモニアが揮発するため、特にゲリング工程においては高温にならないようにする必要があった。
【0006】
第2の特徴は、ポリカルボジイミドは、XNBRのカルボキシル基(-COOH)としか架橋できない点に由来する。手袋製造においては、キュアリング時にXNBRのカルボキシル基の大半がカルシウムや亜鉛などと金属塩を形成しているが、-COONH は加熱により分解してアンモニアが揮発する一方で、カルボキシル基(-COOH)に変化することで、ポリカルボジイミドが架橋するカルボキシル基が確保される。
【0007】
これに対し、水酸化アンモニウムをpH調整剤とするポリカルボジイミド架橋手袋の製造方法、条件は、従来の硫黄系の加硫促進剤を用いたXNBR手袋の場合と概ね同じであるが、細かい点で相違がある。そのため、従来の硫黄系の加硫促進剤を用いたXNBR手袋の作製を前提として組み立てられた手袋メーカーの製造設備、製造条件、ノウハウが異なるので、その変更はなかなか受け入れられなかった。特に、水酸化アンモニウムが揮発性物質であることから、pHのコントロールが難しく、ディッピング時のpH低下により、手袋の引張強度、疲労耐久性が落ちることがあることが分かってきた。また、ゲリングの温度条件についても、ポリカルボジイミドの性質に起因する条件変更に加えてアンモニアができるだけ揮発しないような条件を設定する必要があった。また、アンモニアの刺激臭や設備の腐食の可能性の問題もあった。また、メーカーからはポリカルボジイミドの性質に起因する製造条件の変更を除いては、従来の手袋製造の技術蓄積、ノウハウを活かしたいとの強い要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2015-513486号公報
【文献】特開2013-203914号公報
【文献】韓国登録特許第10-1687866号公報
【文献】特開2015-187227号公報
【文献】国際公開第2017/217542号
【文献】国際公開第2018/117109号
【非特許文献】
【0009】
【文献】架橋反応ハンドブック 中山▲やす▼晴著 平成25年7月30日丸善出版株式会社発行 265頁
【文献】W.Posthumus et al., Progress in Organic Coatings 58(2007)231-236
【文献】架橋の反応・構造制御 2014年1月31日 寺田千春編集 株式会社技術情報協会発行 105頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
長年にわたって硫黄系の架橋剤を用いたXNBR手袋の製造方法では、その膨大な技術蓄積により、現状の設備・工程・製造条件が一体的に形成されており、その中でpH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物が使用されてきた。
一方で、本発明は、ポリカルボジイミド架橋手袋の製造において、従来の常識では考えられなかったアルカリ金属の水酸化物をpH調整剤として使用し、所望の手袋性能を持つ手袋を製造できるようにすることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は以下の内容に関する。
[1](メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、およびブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、
ポリカルボジイミドと、
アルカリ金属の水酸化物と、
水とを少なくとも含み、
前記エラストマーにおける(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位が20~40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1~10重量%、およびブタジエン由来の構造単位が50~75重量%であり、前記ポリカルボジイミドは、分子構造内に親水性セグメン
トを含むポリカルボジイミドを少なくとも1種含むものであり、
その添加量が、ディップ成形用組成物の固形分全量に対して0.2重量%を超えて4.0重量%以下であり、
pHが9.5~10.5である、ディップ成形用組成物。
[2]金属架橋剤として酸化亜鉛および/またはアルミニウム錯体を、ディップ成形用組成物の固形分全量に対して0.2~7.0重量%含む、[1]に記載のディップ成形用組成物。
[3]アルカリ金属の水酸化物が水酸化カリウムである、[1]または[2]に記載のディップ成形用組成物。
[4] 前記ポリカルボジイミドの1分子当たりのカルボジイミド官能基数が5以上であり、前記ポリカルボジイミドから構成されるミセルの平均粒径が5~30nmである、[1]~[3]のいずれかに記載のディップ成形用組成物。
[5]手袋の製造方法であって、
(1)手袋成形型にカルシウムイオンを含む凝固剤を付着させる工程、
(2)ディップ成形用組成物を攪拌する分散工程、
(3)前記(1)の凝固剤が付着した手袋成形型を前記ディップ成形用組成物中に浸漬し、手袋成形型にディップ成形用組成物を凝集、付着させるディッピング工程、
(4)ディップ成形用組成物が付着した手袋成形型を40~120℃の条件下で、20秒~4分放置し、手袋成形型上に硬化フィルム前駆体を形成するゲリング工程、
(5)手袋成形型上に形成された硬化フィルム前駆体を、40~70℃の水で、1.5分以上4分以下洗浄するリーチング工程、
(6)手袋の袖口部分に巻きを作るビーディング工程、
(7)ビーディング工程を経た硬化フィルム前駆体を100~140℃の条件下で、15~30分加熱・乾燥させ、硬化フィルムを得るキュアリング工程、を含み、
(3)~(7)の工程を上記順序で行い、
前記ディップ成形用組成物が、[1]~[4]のいずれかに記載のディップ成形用組成物である、手袋の製造方法。
[6](3)及び(4)の工程を2回以上行う、[5]に記載の手袋の製造方法。
[7][5]または[6]に記載の製造方法で製造した手袋であって、膜厚50~100μmのとき、手袋中のカリウムおよびカルシウムの合計含有量が1.15重量%以下である、手袋。
[8]引張強度がASTM試験方法で20MPa以上、疲労耐久性試験における疲労耐久性が240分以上である、[7]に記載の手袋。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ポリカルボジイミド架橋手袋の製造にあたり、従来の架橋技術における常識からは考えられなかったアルカリ金属の水酸化物をpH調整剤として用いたことにより、アンモニア刺激臭や装置の腐食がなく、かつ、疲労耐久性に優れた手袋を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】リーチング温度50℃の場合のリーチング時間と硬化フィルムの疲労耐久性の関係を示す図である。
図1B】リーチング温度23℃の場合のリーチング時間と硬化フィルムの疲労耐久性の関係を示す図である。
図2A】リーチング温度50℃の場合の硬化フィルム中のカリウム及びカルシウムの合計含有量と硬化フィルムの疲労耐久性の関係を示す図である。
図2B】リーチング温度23℃の場合の硬化フィルム中のカリウム及びカルシウムの合計含有量と硬化フィルムの疲労耐久性の関係を示す図である。
図3】疲労耐久性試験装置の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.ディップ成形用組成物
本発明の実施形態のディップ成形用組成物は、手袋の原料となるディッピング液として主として用いられる。ディップ成形用組成物は、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、およびブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、分子構造内に親水性セグメントを含むポリカルボジイミドと、アルカリ金属の水酸化物と、水とを含む組成物である。
任意成分として金属架橋剤を始めとするその他成分を含んでもよく、本明細書では金属架橋剤を含むものについても説明する。
なお、本発明の実施形態にかかるディップ成形用組成物は、手袋の成形用以外にも、例えば、哺乳瓶用乳首、スポイト、導管、水枕等の医療用品、風船、人形、ボール等の玩具や運動具、加圧成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグ等の工業用品、手術用、家庭用、農業用、漁業用及び工業用の手袋、指サック等のディップ成形品の成形に用いることができる。
【0015】
(1)カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンエラストマーのラテックス
上記ラテックスは、アクリロニトリルとブタジエンとカルボン酸が乳化重合によって、乳化剤のドメインの中で直径50~250nmのポリマー粒子(ミセル)となり、その周りをドデシルベンゼンスルホン酸などの乳化剤の膜で囲まれた粒子が分散したエマルションである。そして膜の外側は親水性、膜の内側は疎水性となっている。粒子内でカルボキシル基は内側に配向している。
上記ラテックスは、水と、固形分としての上記エラストマーとを含む。このエラストマーは、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に少なくとも含む。このエラストマーを、単に「XNBR」とも記す。また、「(メタ)アクリロニトリル」は、「アクリロニトリル」と「メタクリロニトリル」の両方を含む概念である。
【0016】
各構造単位の比率は、本発明の実施形態で用いるエラストマー中に、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、すなわち(メタ)アクリロニトリル残基が20~40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位、すなわち不飽和カルボン酸残基が1~10重量%、及びブタジエン由来の構造単位、すなわちブタジエン残基が50~75重量%の範囲で含まれていることが好ましい。
これらの構造単位の比率は、簡便には、本発明の実施形態で用いるエラストマーを製造するための使用原料の重量比率(固形分比率)から求めることができる。
【0017】
(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位は、主に手袋に強度を与える要素であり、少なすぎると強度が不十分となり、多すぎると耐薬品性は上がるが硬くなりすぎる。エラストマー中における(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位の比率は、20~40重量%であり、25~40重量%であることがより好ましい。従来のXNBR手袋においては(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位の比率は25~30重量%が通常であったが、近年30重量%以上のXNBRで強度を高くしながら、かつ、伸びもよいXNBRが開発されており、超薄手の手袋を作る際には有効である。(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位の量は、ニトリル基の量を元素分析により求められる窒素原子の量から換算して求めることができる。
【0018】
ブタジエン由来の構造単位は、ゴム手袋に柔軟性を持たせる要素であり、通常50重量%を下回ると柔軟性を失う。本発明の実施形態で用いるエラストマー中におけるブタジエン由来の構造単位の比率は、60~75重量%であることがより好ましい。
【0019】
不飽和カルボン酸由来の構造単位が有するカルボキシル基は従来の硫黄架橋モデルにおいて硫黄がブタジエンと共有結合し、カルボキシル基が金属架橋剤とイオン結合し引張強
度を増していたのに対し、本発明においてのカルボキシル基は、ポリカルボジイミドとの共有結合を形成することにより主に疲労耐久性の増加に寄与するものである。また、金属架橋剤を用いる場合には、カルボキシル基とイオン結合を形成することによって引張強度の増加に寄与する架橋構造を形成する。後述する凝固剤に由来するカルシウムもカルボキシル基の相当程度と架橋構造を形成する。
また、本発明の実施形態のように、pH調整剤を従来ポリカルボジイミド架橋手袋において必須として考えられてきた揮発性のアンモニアやアミン系化合物に替えてアルカリ金属の水酸化物を使用するときは、例えばナトリウム、カリウム等もカルボキシル基と結合するため、ポリカルボジイミドと架橋するカルボキシル基を確保することが重要な問題となる。
不飽和カルボン酸由来の構造単位の量は、適度な架橋構造を有し最終製品であるゴム手袋の物性を維持するために、本発明の実施形態で用いるエラストマー中で1~10重量%であることが好ましく、4~6重量%であることが更に好ましい。不飽和カルボン酸由来の構造単位の量は、カルボキシル基、及びカルボキシル基由来のカルボニル基を赤外分光(IR)等により定量することによって、求めることができる。
ポリカルボジイミド架橋手袋においては、ポリカルボジイミドと凝固剤由来のカルシウム、pH調整剤由来のアルカリ金属と、金属架橋剤を用いる場合にはその金属架橋剤とが架橋の際に競合するので、エラストマーにおける不飽和カルボン酸由来の構造単位の量は多い方が好ましい。
【0020】
不飽和カルボン酸由来の構造単位を形成する不飽和カルボン酸としては、特に限定はされず、モノカルボン酸でもよいし、ポリカルボン酸でもよい。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。なかでも、アクリル酸及び/又はメタクリル酸(以下「(メタ)アクリル酸」という。)が好ましく使用され、より好ましくはメタクリル酸が使用される。
ブタジエン由来の構造単位は、1,3-ブタジエン由来の構造単位であることが好ましい。
【0021】
ポリマー主鎖は、実質的に、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位からなることが好ましいが、その他の重合性モノマー由来の構造単位を含んでいてもよい。
その他の重合性モノマー由来の構造単位は、本発明の実施形態で用いるエラストマー中に30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることが一層好ましい。
【0022】
なお、本発明においては、以下の方法でアクリロニトリル(AN)残基量及び不飽和カルボン酸(MMA)残基量を定量できる。
各エラストマー(XNBR)を乾燥して、フィルムを作成する。該フィルムをFT-IRで測定し、アクリロニトリル基に由来する吸収波数2237cm-1とカルボン酸基に由来する吸収波長1699cm-1における吸光度(Abs)を求め、アクリロニトリル(
AN)残基量及び不飽和カルボン酸(MMA)残基量を求める。
【0023】
アクリロニトリル残基量(%)は、予め作成した検量線から求める。検量線は、各エラストマーに内部標準物質としてポリアクリル酸を加えた、アクリロニトリル基量が既知の試料から作成したものである。不飽和カルボン酸残基量は、下記式から求める。
不飽和カルボン酸残基量(重量%)=[Abs(1699cm-1)/Abs(2237cm-1)]/0.2661
上式において、係数0.2661は、不飽和カルボン酸基量とアクリロニトリル基量の割合が既知の、複数の試料から検量線を作成して求めた換算値である。
【0024】
好ましく使用できるその他の重合性モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン
、ジメチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;及び酢酸ビニル等が挙げられる。これらは、いずれか1種、又は複数種を組み合わせて、任意に用いることができる。
【0025】
本発明の実施形態で用いるエラストマーは、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸、1,3-ブタジエン等のブタジエン、及び必要に応じてその他の重合性モノマーを用い、定法に従い、通常用いられる乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等を使用した乳化重合によって、調製することができる。乳化重合時の水は、固形分が30~60重量%である量で含まれることが好ましく、固形分が35~55重量%となる量で含まれることがより好ましい。
本発明の実施形態で用いるエラストマー合成後の乳化重合液を、そのまま、ディップ用組成物のエラストマー成分として用いることができる。
【0026】
乳化剤は、界面活性剤として疎水基と親水基を持ち、ドメインの中でラテックス中において粒子を囲む膜となり、粒子中は疎水性となっている。
このとき、ポリカルボジイミドは、親水性セグメントにより分子が保護されて水中にある。このため、最終キュアリング工程において架橋反応を起こすためには、pH調整剤によってエラストマーのカルボキシル基を粒子の外側に配向させるとともに、できるだけ乳化剤の膜を取り、ポリカルボジイミドと、必要に応じて添加する金属架橋剤が架橋しやすい環境を用意しておく必要がある。
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエステル、等の非イオン性界面活性剤が挙げられ、好ましくは、アニオン性界面活性剤が使用される。
【0027】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等を挙げることができる。
【0028】
分子量調整剤としては、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素が挙げられ、t-ドデシルメルカプタン;n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類が好ましい。
【0029】
本発明の実施形態にかかるポリカルボジイミド架橋手袋に使用する好適なエラストマーの特徴につき、以下説明する。
<ムーニー粘度(ML(1+4)(100℃))によるエラストマーの選択>
手袋は、種々の架橋剤による架橋部分を除いたエラストマーのカルボキシル基の相当の部分が、凝固剤であるカルシウムで架橋されている(凝固剤としてカルシウムイオンを含むものを用いた場合)。金属架橋剤を使用しない場合、引張強度はカルシウム架橋によって保持される。
カルシウム架橋が存在することによる引張強度は、エラストマーのムーニー粘度の高さにほぼ比例することがわかっている。ポリカルボジイミドによる架橋を行わない場合でム
ーニー粘度が80のエラストマーを用いた場合の手袋の引張強度は約15MPaになり、ムーニー粘度が100の場合は約20MPaの引張強度になる。したがって、ムーニー粘度が100~150程度のエラストマーを選択することが好適である。
ムーニー粘度の上限は、ムーニー粘度そのものの測定限界が220であり、ムーニー粘度が高すぎると成形加工性の問題が生じるので、概ね220である。一方、ムーニー粘度が低すぎるエラストマーを用いた場合には十分な引張強度が得られない。
なお、本発明では、以下の方法でムーニー粘度を測定する。
<ムーニー粘度の測定法>
硝酸カルシウムと炭酸カルシウムとの4:1混合物の飽和水溶液200mlを室温にて攪拌した状態で、各エラストマー(XNBR)ラテックスをピペットにより滴下し、固形ゴムを析出させる。得られた固形ゴムを取り出し、イオン交換水約1Lでの攪拌洗浄を10回繰り返した後、固形ゴムを搾って脱水し、真空乾燥(60℃、72時間)して、測定用ゴム試料を調製する。得られた測定用ゴムを、ロール温度50℃、ロール間隙約0.5mmの6インチロールに、ゴムがまとまるまで数回通したものを用い、JIS K6300-1:2001「未加硫ゴム-物理特性、第1部ムーニー粘度計による粘度及びスコ-チタイムの求め方」に準拠して、100℃にて大径回転体を用いて測定する。
【0030】
<分岐鎖が少なく直鎖状のエラストマー>
硫黄は、XNBRの粒子内に入りやすく、粒子内架橋ができる。さらに、乳化剤の膜が壊れれば、粒子間架橋も可能である。これに対し、ポリカルボジイミドはディップ成形用組成物中では、親水領域に存在し、分子量も大きく粒子内に入ることはないので、基本的には粒子間を多点架橋するものと考えられる。それに加え、硬化フィルムの疲労耐久性の良さから、製造方法におけるキュアリング工程時にはXNBRの粒子内での架橋が起こっていると考えられる。そのため、ポリカルボジイミドを用いる本発明では、エラストマー粒子内部にポリカルボジイミドが入りやすくするために、分岐鎖が少なく、直鎖状のエラストマーを用いることが好適である。
分岐鎖の少ないエラストマーの製造方法について、各ラテックスメーカーにおいて各種の工夫がなされている。例えば、重合温度の低いコールドラバー(重合温度5~25℃)の方がホットラバー(重合温度25~50℃)より好ましい(分岐鎖が少ない)と考えられる。
【0031】
<エラストマーのゲル分率(MEK不溶解分)>
本発明の実施形態に用いるエラストマーにおいては、ゲル分率は少ない方が好ましい。
メチルエチルケトン(MEK)不溶解分の測定では、40重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。ただし、MEK不溶解分は、ムーニー粘度のような引張強度との相関性はない。なお、本発明において、MEK不溶解分は以下の方法で測定する。
MEK(メチルエチルケトン)不溶解(ゲル)成分は、以下の手順で測定できる。0.2gのXNBRラテックス乾燥物試料を、重量を測定したメッシュ籠(80メッシュ)に入れて、籠ごと100mLビーカー内のMEK溶媒80mL中に浸漬し、パラフィルムでビーカーに蓋をして、24時間、ドラフト内で静置する。その後、メッシュ籠をビーカーから取り出し、ドラフト内にて宙吊りにして1時間乾燥させる。これを、105℃で1時間減圧乾燥したのち、重量を測定し、籠の重量を差し引いて、XNBRラテックス乾燥物の浸漬後重量とする。
MEK不溶解成分の含有率(不溶解分量)は、次の式から算出する。
不溶解成分含有率(重量%)=(浸漬後重量g/浸漬前重量g)×100
なお、XNBRラテックス乾燥物試料は、次のようにして作製する。すなわち、500mLのボトル中で、回転速度500rpmでXNBRラテックスを30分間攪拌したのち、180×115mmのステンレスバットに14gの該ラテックスを量り取り、23℃±2℃、湿度50±10RH%で5日間乾燥させてキャストフィルムとし、該フィルムを5
mm四方にカットして、XNBRラテックス乾燥物試料とする。
【0032】
<エラストマーのシネレシス(離漿)>
本発明の実施形態に用いるエラストマーは、水系エマルションとして粒子径50~250nm程度の粒子を形成している。エラストマーには、離漿性が高いものと低いものがある。一般的に言うと、キュアリング工程におけるエラストマー粒子間の架橋は、離漿性が高いものほど低い架橋温度で、短時間で円滑に行われる。
本発明の実施形態にかかるポリカルボジイミド架橋においても、同様の傾向がみられる。離漿性が低いエラストマーを使用する場合、架橋が十分に進まず、疲労耐久性が出ないことがある。そのような離漿性が低いエラストマーを使用する場合でも、エイジング(100℃22時間)を行うことで疲労耐久性や引張強度が大きく上がることがある。このことは、親水性セグメントを持ったポリカルボジイミドは、乾燥して親水性セグメントが開かない限り、手袋フィルム中で存在していることも意味する。
ただし、ポリカルボジイミド架橋においては、離漿性が高いエラストマーを使用するときは、ゲリング工程において、エラストマーが過度に乾燥し、ポリカルボジイミドの親水性セグメントが開かないように条件を設定する必要がある。そのため離漿性が高いエラストマーを使用するときは、比較的低い温度条件下でゲリング工程を実施することが望ましく、比較的高い温度条件下でゲリング工程を実施するときは、保湿剤を使用することが適切である場合がある。
一方、離漿性が低いエラストマーを使用するときは、比較的高い温度でゲリング工程を実施しても問題ないが、キュアリング工程において温度を高くする等、架橋が十分に起こるための条件設定が必要になる。
また、XNBR粒子の平均粒子径は小さい方が離漿性は低くなるが、比表面積が大きくなるので粒子間架橋が強くなる。
【0033】
<エラストマー中の硫黄元素の含有量>
本発明の実施形態に用いるエラストマーにおいて、燃焼ガスの中和滴定法により検出される硫黄元素の含有量は、エラストマー重量の1重量%以下であることが好ましい。
硫黄元素の定量は、エラストマー試料0.01gを空気中、1350℃で10~12分間燃焼させて発生する燃焼ガスを、混合指示薬を加えた過酸化水素水に吸収させ、0.01NのNaOH水溶液で中和滴定する方法により行うことができる。
【0034】
ディップ成形用組成物には、複数種のエラストマーを組み合わせて含ませてもよい。ディップ成形用組成物中のエラストマーの含有量は、特に限定されないが、ディップ成形用組成物の全量に対して15~35重量%程度であることが好ましく、18~30重量%であることがより好ましい。
【0035】
(2)ポリカルボジイミド
本発明の実施形態に係るディップ成形用組成物は、架橋剤としてポリカルボジイミドを含有する。本発明の実施形態で用いるポリカルボジイミドは、カルボキシル基との架橋反応を行う中心部分とその端部に付加した親水性セグメントからなる。また、一部の端部は、封止剤で封止されていてもよい。
以下、ポリカルボジイミドの各部分について説明する。
【0036】
<ポリカルボジイミドの中心部分>
まず、本発明の実施形態において使用するポリカルボジイミドの中心部分の化学式を原料となるジイソシアネートの形で以下に示す。
(1)OCN-(R-(N=C=N)-)-R-NCO
上記式(1)の-N=C=N-はカルボジイミド基でありXNBRのカルボキシル基と反応する。
式中、Rは後述するジイソシアネートにより例示される。
mは、4~20の整数であり、重合度(ポリカルボジイミドの1分子あたりのカルボジイミド官能基数)を示す。mを4以上とすることにより、本発明の実施形態で用いるエラストマー(XNBR)のカルボキシル基間を多点架橋することができ、これで本発明の実施形態で用いるエラストマー(XNBR)を大きくまとめられることによって従来の2点架橋の架橋剤に比べ、非常に良好な疲労耐久性が得られる要因になっていると考えられる。
ポリカルボジイミドの上記中心部分は、通常ジイソシアネートの脱炭酸縮合により生じたものであり、両末端にイソシアネート残基を有する。
ジイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又はこれらの混合物を挙げることができる。具体的には1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを例示できる。耐候性の観点より、脂肪族または脂環族ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応により生成するポリカルボジイミドを配合することが好適である。すなわち、上記ジイソシアネートは二重結合を持たないため、これらから生成したポリカルボジイミドは紫外線等による劣化が起きにくい。
ジイソシアネートの種類の代表的なものはジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートである。
【0037】
<親水性セグメント>
カルボジイミド基は、水と反応しやすいため本発明の実施形態にかかるディップ成形用組成物中では、本発明の実施形態に用いるエラストマー(XNBR)との反応力を失わないよう水から保護する目的で、ポリカルボジイミドの一部には、親水性セグメントを末端(イソシアネート基)に付加することが必須である。
親水性セグメントの構造を下式(2)に示す。
(2)R-O-(CH-CHR-O-)-H
上記式(2)中、Rは炭素数1~4のアルキル基、Rは水素原子又はメチル基であり、nは5~30の整数である。
親水性セグメントは、ディップ成形用組成物(ディップ液)中(水中)においては、水と反応しやすいポリカルボジイミドの中心部分を取り巻いてカルボジイミド基を保護する機能を持つ(シェル/コア構造)。
一方、乾燥すると親水性セグメントが開いてカルボジイミド基が現れ、反応できる状態になる。そのため、本発明のディップ成形による手袋製造においては、後述するキュアリング工程のときにはじめて水分量を低下させ、親水性セグメントを開いてカルボジイミド基をXNBRのカルボキシル基と架橋させることが重要である。この目的で、後述する保湿剤をゲリング工程において、離漿性の高いXNBRを乾燥させないためにディップ成形用組成物に加えることも有効である。
なお、親水性セグメントは、中心部分の両端にあってもよいし片方にあってもよい。また親水性セグメントを有するものと有しないものの混合物でもよい。
親水性セグメントを付加していない端部は、封止剤で封止されている。
【0038】
<封止剤>
封止剤の式は以下の式(3)で示される。
(3)(RN-R-OH
上記式(3)中、Rは炭素数が6以下のアルキル基であり、入手性の観点から、4以下のアルキル基であることが好ましい。Rは炭素数1~10のアルキレン、又はポリオキシアルキレンである。
【0039】
<1分子あたりのカルボジイミド官能基数、重合度、分子量、当量>
本発明の実施形態で用いるポリカルボジイミドにおける、カルボジイミド官能基数は、4以上であることが好ましい。カルボジイミド官能基数が4以上であることで、多点架橋が確実に行われ、実施上必要な疲労特性が満たされる。
カルボジイミド官能基数の数値については、後述するポリカルボジイミド当量と、数平均分子量の値から求めることができる。
1分子あたりのカルボジイミド官能基数=ポリカルボジイミドの平均重合度(数平均分子量/カルボジイミド当量)は4以上であり、さらに好ましくは9以上である。これは本発明の実施形態にかかる手袋の特徴である多点架橋の構造を適切に形成し、高い疲労耐久性を手袋に持たせるために必要である。
ポリカルボジイミドの分子量は、数平均分子量で500~5000が好ましく、1000~4000であればなおよい。
数平均分子量の測定は、GPC法(ポリスチレン換算により算出)により次のように行うことができる。
測定装置:東ソー株式会社製 HLC-8220GPC
カラム:Shodex KF-G+KF-805Lx 2本+KF-800D
溶離液:THF
測定温度:カラム恒温槽40℃
流速:1.0mL/min
濃度:0.1重量/体積%
溶解性:完全溶解
前処理 試料を窒素風乾後、70℃、16時間真空乾燥を行い、調整する。
測定前に0.2μmフィルタでろ過する
検出器:示差屈折計(RI)
数平均分子量は、単分散ポリスチレン標準試料を用いて換算する。
【0040】
カルボジイミド当量は疲労耐久性の観点から260~440の範囲が好ましい。
カルボジイミド当量は、シュウ酸を用いた逆滴定法により定量されたカルボジイミド基濃度から次式(I)で算出される値である。
カルボジイミド当量=カルボジイミド基の式数(40)×100/カルボジイミド基濃度(%) (I)
本発明の実施形態にかかるディップ成形用組成物における、上記のポリカルボジイミドの添加量は、ディップ成形用組成物中の固形分に対して、0.2重量%を超えて4.0重量%以下を挙げることができ、0.3~2.5重量%であることが好ましく、0.3~2.0重量%であることがより好ましい。含有量の範囲については、4.0重量%を超えると採算性が悪化するのに対し、0.2重量%をわずかに超える範囲という少ない添加量でも他の硫黄系手袋を超える高い疲労耐久性を持たせることができることを検証している。
【0041】
<ポリカルボジイミドの平均粒子径>
本発明において、ポリカルボジイミドの平均粒子径とは、以下の条件を用い、動的光散乱法により測定される、ポリカルボジイミドが形成する個々のミセルの粒子径の平均値のことである。
測定装置: Zetasizer Nano ZS (Malvern製)
光源:He-Ne (40mW) 633nm
測定温度:25℃
分散媒粘度:0.887cP(水の値を使用)
分散媒屈折率:1.33(水の値を使用)
試料調製:イオン交換水を用いて100倍希釈
本発明の実施形態にかかるポリカルボジイミドの平均粒子径は、5~30nmであることが好ましい。
なお、ポリカルボジイミドについて、上記の、1分子あたりのカルボジイミド官能基数が5以上であり、かつ、ポリカルボジイミドの平均粒子径が30nm以下である場合には、ディップ成形用組成物の調製から一定以上の時間が経過した場合でも、高い疲労耐久性を有する硬化フィルムを作製できることが見込まれる。具体的には、ディップ成形用組成物にポリカルボジイミドと、その他の構成成分とを混合した後、一定以上の時間が経過すると、その経時後のディップ成形用組成物を用いて得た硬化フィルムの疲労耐久性が、経時前のディップ成形用組成物を用いて得た硬化フィルムよりも劣るということを防止できる見込みがある。
【0042】
(3)pH調整剤
XNBRを用いた手袋の製造ではディップ成形用組成物をpH調整剤でpH9.5~10.5にディッピング終了時まで調整しておくことが必須である。
通常、XNBRラテックスは、pHが8~8.5に調整されている。このときXNBRのカルボキシル基はポリマー粒子の内側に配向しているので、ポリカルボジイミドや必要に応じて金属架橋剤と粒子間架橋を行う際に、pH調整剤でpHを上げるほど、XNBRの粒子の外側に多くのカルボキシル基を配向させることができ、架橋するカルボキシル基の数を増やすことができる。
一方、ポリカルボジイミド架橋手袋では、XNBRのカルボキシル基とポリカルボジイミドとの共有結合によって疲労耐久性がもたらされる。Zn等の金属架橋剤を併用する場合、XNBRのカルボキシル基と金属架橋剤とのイオン結合によって引張強度がもたらされる。イオン化傾向の小さい亜鉛等の金属架橋剤を用いる場合は、その投入量に応じてほとんどが効率よく架橋することができる。次に、イオン化傾向の大きいCaやアルカリ金属はリーチング工程の水洗で一部除去されるが、硬化フィルム前駆体中に残ったCa、アルカリ金属はカルボキシル基と結合する。
一方、ポリカルボジイミドは、キュアリング工程時に、Ca、アルカリ金属が結合していない残りのカルボキシル基とのみ共有結合することができる。
ポリカルボジイミドについては、ディップ成形用組成物中の固形分に対して0.2重量%程度のごく少ない量で、得られる硬化フィルムに高い疲労耐久性をもたらすことができる。一方で、実際にポリカルボジイミド架橋手袋においてpH調整剤として水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物を使用した場合には、水酸化アンモニウムを使用した場合に比べて、疲労耐久性が劣る傾向が見られた。この原因としては、架橋の相手方であるXNBRのカルボキシル基が、カルシウム、アルカリ金属、任意成分としての金属架橋剤と結合してしまい、ポリカルボジイミドが充分に架橋に関与できていないことが原因であることが分かってきた。
そのため、カルシウムやアルカリ金属を除去できるリーチング工程の条件を検討し、硬化フィルム中に含有されるカルシウムとアルカリ金属の合計含有量を一定以下に減らすことを本発明者は検討した。
実際に実験を行ってみたところ、硬化フィルム中のカルシウムとアルカリ金属の合計含有量が一定以下になるように調製することで、ポリカルボジイミドと架橋するカルボキシル基を確保し、硬化フィルムの疲労耐久性を大きく向上させられることがわかった。このことによって、ポリカルボジイミド架橋手袋においてpH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を使用することが可能であることがわかった。
リーチング工程は、次のキュアリング工程で架橋を円滑に進ませるためにXNBR粒子の膜を構成する乳化剤を除去すること、XNBRの粒子の外側に配向した-COOを-COOHに戻すこと、任意で用いる金属架橋剤を錯イオンから水に不溶な水酸化物に変え
てフィルム中に保持すること、などを目的とする重要な工程である。さらに、リーチング工程は、本発明のようにpH調整剤として水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物を使用し、ポリカルボジイミド架橋を行う場合に、Caとアルカリ金属の合計含有量を一定以下に抑えるために最も重要な工程であることが分かった。
本発明において、ディップ成形用組成物をpH9.5~10.5に調整する。pHが9.5未満だと架橋が十分に行われず手袋としての性能を維持できない。pHが10.5を超えるとラテックスの安定性が悪くなる。水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物をpH調整剤として使用するときは、約5重量%程度の水溶液を用いて調整するのが通常である。ディップ成形用組成物中のアルカリ金属の水酸化物の含有量は、pH10.0で約2重量部、pH10.5で約2.5重量部である。この含有量の範囲はアルカリ金属の水酸化物として水酸化カリウムを用いる場合も同様である。
XNBRの粒子間架橋においては、XNBRのできるだけ多くのカルボキシル基を外側に配向させるためにpHを上げた方が好ましいが、pH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を使用するときはその投入量が多くなるとそれだけアルカリ金属の残存量も増える可能性がある。このため、その両者を考え合わせると、pHは10.0程度が好ましい。
【0043】
(4)亜鉛化合物及び/又はアルミニウム化合物
(ア)亜鉛化合物
本発明の好ましい実施形態において、ディップ成形用組成物に上記ポリカルボジイミドに加えて、亜鉛化合物を少量添加した場合には、そのディップ成形用組成物を用いて得られる硬化フィルムの引張強度の向上、人工汗液中における硬化フィルムの膨潤の防止、硬化フィルムの有機溶媒非透過性の改善、などが期待できる。
亜鉛化合物としては酸化亜鉛や水酸化亜鉛が挙げられ、主に酸化亜鉛が用いられる。
本発明の実施形態で用いる酸化亜鉛は特に制限されず、通常一般的なものを使用することができる。ただし酸化亜鉛の含有量は、手袋の初期引張強度と比例するので、その含有量を調整することで、手袋の引張強度を調整することができる。特に薄手の手袋を作るときは酸化亜鉛の添加量を多くすることで所望の引張強度を付与できる。
酸化亜鉛の架橋反応を以下に説明する。
酸化亜鉛は、ディップ成形用組成物の調製時に投入された場合、Znのほとんどは[Zn(OH)または[Zn(OH)2-を形成しており、陰性の荷電となっているため、ディップ成形用組成物に含まれるエラストマー(XNBR)のカルボキシル基とは塩を形成していない。
しかし、リーチング工程において、pHが低下するとZn(OH)となって硬化フィルム前駆体中に保持される。そして、キュアリング工程において乾燥・加熱によりXNBRのカルボキシル基とZn2+のイオン結合による架橋を形成する。
Znは金属架橋剤としてCa、アルカリ金属よりも速く結合し、結合した場合は安定して存在する。先にCaやアルカリ金属とXNBRのカルボキシル基とが結合していても、置換して架橋することができると考えられる。そのため、添加したZnはそのほとんどが手袋中で架橋を形成すると考えられる。
本発明の実施形態にかかるディップ成形用組成物において、酸化亜鉛を添加する場合、酸化亜鉛の添加量は、ディップ成形用組成物の固形分全量に対して通常は0.5~2.0重量部である態様を挙げることができ、0.8~1.5重量部であることが好ましい。なお、1.5重量部は、超薄手の硬化フィルムの時に引張強度を保つためである。
【0044】
(イ)アルミニウム化合物
ポリカルボジイミド架橋手袋において、アルミニウム化合物は亜鉛化合物と同様に、人工汗液中での強度低下防止、引張強度の向上、および有機溶媒非透過性の改善などの目的で用いることができる。
アルミニウム化合物そのものは、亜鉛化合物と比べ結合力が強く、硬化フィルムの疲労耐久性を増す効果もあるが、手袋を硬く脆くする作用があり、多く入れすぎるとむしろ引
張強度を低下させてしまうことがある。
アルミニウムを架橋剤として用いる場合は、ディップ成形用組成物中にテトラヒドロキシアルミン酸イオン([Al(OH)、以下「アルミ錯イオン」と言う)と、これを安定化させる安定剤が存在すればよい。
アルミ錯イオンの材料としては、アルミン酸塩の水溶液や、塩化アルミニウム等の酸性アルミニウム水溶液をアルカリで塩基性にした水溶液などが用いられる。
安定化剤としては、アルコール化合物、ヒドロキシカルボン酸とその塩を使うことができる。具体的には、アルコール化合物としては、ソルビトール等の糖アルコール類、グルコースなどの糖類、グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコールが挙げられ、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などが挙げられる。アルミ錯イオンの材料と安定化剤は、別個の化合物としてディップ成形用組成物中に加えてもよく、クエン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム等を入手して、塩基性にして添加してもよい。
アルミニウムのカルボキシル基との反応は亜鉛と同様の機構で進む。ディップ成形用組成物中ではアルミニウムは錯イオンの形で存在するが、リーチング工程でAl(OH)に変化し、キュアリング工程でAl3+となってカルボキシル基とイオン結合して架橋を形成する。
アルミニウムは、ZnやCaとは置換できないが、アルカリ金属とは置換できると考えられる。
本発明における好ましい添加量は、ディップ成形用組成物の固形分全量に対して、酸化アルミニウム(Al)に換算して0.2~1.5重量部である。
【0045】
(ウ)亜鉛化合物とアルミニウム化合物の組み合わせ
本発明において金属架橋剤としてアルミニウム化合物を用いる場合には、亜鉛化合物も併せて用いることが好ましい。これによって、アルミニウム化合物の欠点である硬化フィルムの硬化を緩和して、伸びの良い硬化フィルムを作ることができる。
本発明における好ましい添加量は、ディップ成形用組成物の固形分全量に対して、両者の合計で0.7~2.3重量部である。好ましい添加量の比(ZnO:Al)は、1:0.6~1:1.2である。
【0046】
(5)保湿剤
保湿剤は、ポリカルボジイミド架橋手袋のゲリング工程において、硬化フィルム前駆体が乾燥しポリカルボジイミドの親水性セグメントが開いて失活しないようにするために必要に応じてディップ成形用組成物に添加してもよい。pH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を使用するときは、アルカリ金属の水酸化物に保湿機能があると考えられるので、pH調整剤としてアンモニウム化合物を使用する場合に比べ、必要とする場合は少ない。離漿性が高いXNBRを用いる場合で、例えばゲリング工程において、高い温度、例えば80℃以上に加熱するときに、保湿剤の必要性が高まる。また、硬化フィルムの膜厚が薄いほど乾燥しやすくなるので、保湿剤を必要とする場合がある。
保湿剤としては、ポリオールを挙げることができ、その中でも2価又は3価の化合物を用いることが好ましい。具体的には、2価のものとしてエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。3価のものとしてグリセリンを挙げることができる。これらの中でも、グリセリンを保湿剤として含むことが好ましい。
保湿剤を用いる場合、その使用量は、ディップ成形用組成物中のエラストマー100重量部に対し1.0~5.0重量部程度である態様を挙げることができ、1.5~3.0重量部であることがより好ましい。
【0047】
(6)その他成分
ディップ成形用組成物は、上記に挙げた以外にも、その他の任意成分として分散剤、酸
化防止剤、顔料、キレート化剤等を含んでいてもよい。
【0048】
分散剤としては、アニオン界面活性剤が好ましく、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ポリリン酸エステル、高分子化アルキルアリールスルホネート、高分子化スルホン化ナフタレン、高分子化ナフタレン/ホルムアルデヒド縮合重合体等が挙げられ、好ましくはスルホン酸塩が使用される。
分散剤には市販品を使用することができる。例えば、TamolNN9104などを用いることができる。その使用量は、ディップ成形用組成物中のエラストマー100重量部に対し0.5~2.0重量部程度であることが好ましい。
【0049】
酸化防止剤として、ヒンダードフェノールタイプの酸化防止剤、例えば、WingstayLを用いることができる。顔料としては、二酸化チタン等が使用される。キレート化剤としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等を使用することができる。
【0050】
2.手袋の製造方法
XNBRのディップ成形による手袋の製造方法は、従来の硫黄および亜鉛を架橋剤として用いた手袋の製造方法として確立されている。本発明のように、ポリカルボジイミドを架橋剤として使用する場合も基本の工程は同様であるが、親水性セグメントを持つポリカルボジイミドを使用するときは、従来の工程の一部の条件を変更する必要がある。更に、ポリカルボジイミド架橋手袋の製造においてpH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を使用するときは、そのことによる一部の条件の変更が必要となる。
以下、上記を踏まえてポリカルボジイミドを使用し、pH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を使用するときのXNBRのディップ成形による手袋の製造方法を工程ごとに説明する。
【0051】
(a)凝固剤付着工程
XNBRのディップ成形による手袋製造における通常の工程である。
この工程では、通常、モールド又はフォーマ(手袋成形型)を、凝固剤及びゲル化剤としてCa2+イオンを通常5~40重量%、好ましくは8~35重量%含む凝固剤溶液中に浸した後、凝固剤が付着したモールド又はフォーマを、50~70℃で乾燥させて、表面全体又は一部を乾燥する。ここで、モールド又はフォーマの表面に凝固剤等を付着させる時間は適宜定められ、通常、10~20秒間程度である。凝固剤溶液としては、例えば硝酸カルシウム、塩化カルシウム等の凝固剤、又はエラストマーを析出させる効果を有する無機塩等の凝集剤を、5~40重量%含む水溶液が使用される。また、凝固剤溶液は、離型剤として、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、鉱油、又はエステル系油等を0.5~2重量%程度、例えば1重量%程度含むことが好ましい。
凝固剤は下記のディッピング工程においてエラストマー(XNBR)を凝集させる役割を果たすと共に、凝固剤に含まれるカルシウムイオンが硬化フィルム中でカルシウム架橋を形成する。
本発明においては、カルシウム架橋の調整が重要な点となる。
【0052】
(b)ディップ成形用組成物の分散工程
ディップ成形用組成物を攪拌し、分散する工程である。この工程は熟成ともいい、通常5時間以上行うことを挙げることができ、24時間程度行うことが最も好ましい。このとき、ディップ成形用組成物は、pH調整剤によりpHが9.5~10.5程度に調整されている。この状態をディッピング終了時まで維持しておくことが必要である。
分散工程は、ディップ成形用組成物の可使時間(ポットライフ)に関連し、実用上、3~5日程度が必要になることがある。ポリカルボジイミドは親水性セグメントを持つので、十分なポットライフに寄与する。
また、アルカリ金属の水酸化物をpH調整剤として用いる場合は、アンモニウム化合物
をpH調整剤として用いるときのような、ディップ成形用組成物の経時的なpH低下がほとんど起こらず、pHのコントロールが容易である。
ディップ成形用組成物のpHを9.5~10.5に調整するのは、XNBR粒子のカルボキシレート基を外側に配向させ、ポリカルボジイミドと、任意で添加する金属架橋剤とを粒子間架橋させるためであり、pHの維持は重要である。
以下、(c)~(h)工程までは連続工程である。
【0053】
(c)ディッピング工程
前記工程(a)で乾燥した後のモールド又はフォーマを、上記のディップ成形用組成物中に、例えば、10~30秒間、25~40℃のディップ液の温度条件下に浸漬する工程であり、凝固剤が付着したモールド又はフォーマに、ディップ成形用組成物を付着させるディッピング工程である。このディッピング工程では、凝固剤に含まれるカルシウムイオンにより、ディップ成形用組成物におけるエラストマーをモールド又はフォーマの表面に凝集させて膜を形成させる。
このとき形成された膜には、ディップ成形用組成物中の各成分(XNBR、ポリカルボジイミド、アルカリ金属の水酸化物、その他任意成分)が、ほぼ同じ濃度で維持されていると考えられる。
上記の通り、ディップ成形用組成物のpHを、9.5~10.5に維持することで、XNBRの各粒子のカルボキシレート基は外側に配向している。
【0054】
(d)ゲリング工程
従来のゲリング工程は、前記工程(c)でディップ成形用組成物が付着したモールド又はフォーマを、80~140℃で、60~240秒で加熱・乾燥するのが一般的である。
ゲリング工程は、ディップ成形用組成物から引き上げた膜をゲル化し、後のリーチング工程でエラストマーが溶出しないようにある程度成膜しておくことを目的とする工程である。この時点での膜を硬化フィルム前駆体という。また、ゲリング中にCaを膜全体に拡散しておくことも目的である。
ポリカルボジイミド架橋手袋の製造方法では、本工程の条件は従来のゲリング工程の条件とは異なる。ポリカルボジイミド架橋手袋の製造方法では、硬化フィルム前駆体を乾燥させないことが必須の条件となる。硬化フィルム前駆体が乾燥すると、そこでポリカルボジイミドの親水性セグメントが開き、キュアリング工程の前に失活してしまうためである。硬化フィルム前駆体の乾燥条件は、XNBRの離漿性、フィルムの膜厚によっても異なるが、基本的には従来条件のように高温で加熱しない方が好ましいと考えられる。実用上は、加熱しないでも周囲環境の温度が30~40℃程度、硬化フィルム前駆体の表面温度も40~50℃程度と相当程度高いことがある。従って、成膜上の問題から従来のゲリング工程の温度で製造する場合や、離漿性の高いXNBRを使用する場合や、超薄膜の硬化フィルムを作製する場合は、ディップ成形用組成物に保湿剤を添加することで硬化フィルム前駆体の乾燥を防ぐことが好ましい。
以上のポリカルボジイミド架橋手袋の製造条件における注意点を考慮した上で、pH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を用いる場合は、pH調整剤としてアンモニウム化合物を用いる場合に比べて、ゲリング工程の温度を相対的に高くしてもよい。高温で加熱するほど、pH調整剤として添加したアンモニウム化合物から生じるアンモニアは揮発するのに対して、アルカリ金属の水酸化物は逆に保湿機能を持つと考えられるからである。
本発明の製造方法におけるゲリング工程の条件は、硬化フィルム前駆体を40~120℃の条件下で、20秒~4分放置する条件が好ましい。
【0055】
(e)リーチング工程
本工程は上記のゲリング工程の後、手袋成形型上に付着した硬化フィルム前駆体を水で洗浄して、余剰の水溶性の物質を除去する工程である。本工程はまた、次のキュアリング工程を行うための前提として非常に重要な工程である。
第1のポイントは、水洗でpHを9.5~10.5程度から弱アルカリ性の7.2~7.3程度まで落とすことで、XNBRの粒子の外側に配向したカルボキシレートはカルボキシル基となり、キュアリング時に架橋する一方のカルボキシル基が確定する。なお、このときラテックス粒子は積層されてカルボキシル基の配向を変える自由度が失われているため、カルボキシル基はもはや内側に配向することはない。他方、架橋剤として亜鉛のような金属架橋剤を用いる場合は、亜鉛の錯イオンはZn(OH)となり、ポリカルボジイミドと共に水洗されず硬化フィルム前駆体中にそのまま保持される。これによってキュアリング工程時の架橋の準備が整う。
第2のポイントは、硬化フィルム前駆体中の粒子の膜を形成している乳化剤をできるだけ水洗により除去し、キュアリング工程時の架橋を起こりやすくする。
本発明のポリカルボジイミド架橋手袋の製造方法では、pH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を使用するので、膜厚50~100μmの硬化フィルムに十分な疲労耐久性をもたらすために、リーチング工程の温度と時間が重要な条件となる。後述する実験1によって、温度(水温)を40~70℃に設定し、時間を1.5分以上(硬化フィルム前駆体を水に接触させる時間)かけてリーチング工程を行った場合に、急速に硬化フィルムの疲労耐久性が向上し、安定した硬化フィルムを得ることができることがわかった。一般的に、硬化フィルム前駆体中にはXNBRのカルボキシル基の数よりも、これと結合する可能性のある架橋剤及び金属イオンの総数の方が過剰に含まれているので、リーチングが不足すると、得られる手袋の硬化フィルム中に未架橋の成分が増えるため手袋の品質は悪くなる。そのため、本発明において、リーチング工程の条件は良好な疲労耐久性を有する手袋を得るための重要な条件である。リーチング工程の際の温度(水温)は、40~60℃であることが好ましく、45~55℃であることがさらに好ましい。また、リーチング工程の時間は、2分以上であることがより好ましい。一方、リーチング工程の時間は4分以下であり、3.5分以下であることが好ましく、3分以下であることがより好ましく、2.5分以下であることがさらに好ましい。リーチング工程の時間は、硬化フィルム前駆体を水洗する時間である。水洗は例えば水に浸漬することによって行う。
【0056】
(f)ビーディング工程
リーチング工程が終了した後に手袋の袖口部分に袖巻加工を実施する工程である。
【0057】
(g)プリキュアリング工程
ビーディング工程の後、前記モールド又はフォーマを、60~90℃、より好ましくは65~80℃で、30秒~10分間、炉内乾燥する工程である(プリキュアリング工程)。この工程が存在することで、後の(h)工程において急激に水分が減少することにより生じうる手袋の部分的な膨張を防ぐことができる。
【0058】
(h)キュアリング工程
本工程は、硬化フィルム前駆体を加熱および乾燥し、架橋剤であるポリカルボジイミドや任意成分として含ませてもよい金属架橋剤を架橋し、最終的に硬化フィルム(手袋)を得る工程である。一般的には、100~140℃の温度で、15~30分加熱・乾燥させる。
キュアリング工程の際は、離漿性が高いXNBRを使用すると効率よく架橋できるが、離漿性が低いXNBRを使用すると、架橋が不十分となり性能が出ない場合がある。
ポリカルボジイミド自体は、硬化フィルム前駆体が乾燥することによって親水性セグメントが開き、XNBRのカルボキシル基と架橋するので100℃程度の比較的低温という条件でキュアリング工程を行うことが可能である。
架橋剤として金属架橋剤を添加する場合、キュアリング工程において、硬化フィルム前駆体に含まれるほぼ全量のZn、Al等の金属架橋剤はXNBRのカルボキシル基と架橋を確保できると考える。Znは特にカルボキシル基と架橋したCaをも置換架橋できる。
次に、Caは硬化フィルム前駆体中に多量に含まれているので、XNBRのカルボキシ
ル基と架橋し、得られる手袋中に相当量残存する。
その次に、XNBRのカルボキシル基とアルカリ金属が結合する。ただし、アルカリ金属は架橋に関与しない。
これらの架橋や結合を経た後に残ったXNBRのカルボキシル基と、ポリカルボジイミドは架橋できる。従って、ポリカルボジイミドと架橋するXNBRのカルボキシル基を確保するためには、リーチング工程によって、硬化フィルム前駆体におけるCaとアルカリ金属の含有量をできるだけ少なくしておくことが、硬化フィルムに十分な疲労耐久性を付与するために必要である。このとき、アルカリ金属はカルボキシル基と結合するのみで架橋機能を持たないので最も取り除いておいた方がよい物質である。
【0059】
上述の製造工程では、手袋成形型のディップ成形用組成物への浸漬を1回だけ行う場合について説明したが、本発明では浸漬を複数回(2回または3回)行って手袋を製造することも可能である。このような方法は、手袋の厚みを50μm程度に薄くしようとしたときに懸念されるピンホールの発生を抑えるのに有効である。厚手の手袋を作るのにも有効な手段である。
浸漬を2回行う場合は、ディッピング工程を行った後、ゲリング工程を行い、さらにその後にディッピング工程とゲリング工程を行う。浸漬を3回行う場合には、さらにその後にディッピング工程とゲリング工程を行う。いずれもゲリング工程を組み入れることで、硬化フィルム前駆体においてある程度Ca架橋が形成された後で次のディッピングに移る。
【0060】
3.本発明の実施形態にかかる手袋
本発明の実施形態として、pH調整剤として水酸化カリウムを使用して作製し、膜厚が50~100μmである手袋においては、手袋中のカルシウムとカリウムの合計含有量が1.15重量%以下の場合に、疲労耐久性および引張強度が良好な手袋となる。
上記の手袋は、前述の実施形態にかかるディップ成形用組成物を用いて、上記の本発明の実施形態にかかる手袋の製造方法に従って製造できる。
本発明の実施形態にかかる手袋は、上記のディップ成形用組成物を硬化することで形成される硬化フィルムからなるものであり、その硬化フィルムが有するエラストマー(XNBR)の組成は、上記のディップ成形用組成物に添加するものと同じ組成を挙げることができる。
また、その硬化フィルムは、ポリカルボジイミドによる架橋(CDI架橋)、カルシウムによる架橋(Ca架橋)、酸化亜鉛及び/又はアルミニウム錯体を添加する場合は、酸化亜鉛による架橋(Zn架橋)及び/又はアルミニウム錯体による架橋(Al架橋)を有する。
本発明の実施形態にかかる手袋では、50~100μmの膜厚を有するとき、カルシウムとカリウムの合計含有量を1.15重量%以下に抑えることでポリカルボジイミドによる架橋が十分に存在し、少量のポリカルボジイミドの添加でも十分な疲労耐久性を持つ。
【0061】
本発明の実施形態にかかる手袋の物性は、以下の(1)および(2)を目標とする。
(1)疲労耐久性が240分以上
(2)引張強度が20MPa以上(後述する実験例のASTMによるT/Sの値)
「疲労耐久性」とは、手袋が、使用者(作業者)の汗により性能が劣化して破断することに対する耐性を意味する。その具体的な評価方法については後述する。
また、疲労耐久性については、通常、手袋の指股部分が破れやすいため、指股部分が90分を超えることを実用上の合格ラインとしているが、本発明においては、陶板上でフィルムを作製し、疲労耐久性を見ているため、手のひら部分に相当する疲労耐久性で見ることになる。
手のひら部分と指股部分の疲労耐久性については、下式で変換可能である。
式(手のひら疲労耐久性(分)+21.43)÷2.7928=指股疲労耐久性(分)
よって、本発明における疲労耐久性試験の合格ラインは240分とする。
これらの目標値を達成するために、適宜金属架橋剤の添加量を調整し、手袋中の含有量を調整する。例えば、亜鉛の添加量を増減することによって引張強度を調整することができる。
手袋の厚みについては、例えば50~100μmの範囲で、目的に応じて調整することができ、アクセラレーターフリーのディスポーザブル手袋として、メディカル、食品、クリーンルーム用に使用できる。
【0062】
なお、ディップ成形物(手袋)におけるアルカリ金属(例えばカリウム)、カルシウム及び亜鉛の含有量の測定は、以下の手順により行う。
(1)試料秤量(提供試料量による)、(2)電気炉で灰化、(3)硫酸-フッ化水素酸で処理、(4)塩酸に溶解、(5)定容(100mL)、(6)フレーム原子吸光法にて定量(使用装置名:Valian AA240)
【実施例
【0063】
以下の実験の目的はpH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を使用してポリカルボジイミド架橋手袋を製造するための必要条件を見出すためのものである。また同時に、得られた手袋の性能を確認するためのものである。
以下の実験においては、アルカリ金属の水酸化物、具体的には水酸化カリウムでpHを10.0および10.5に調整したディップ成形用組成物を用い、リーチングの温度、時間を変化させて得られたフィルムの性能を確認した。
また、得られたフィルムのZn、Ca、Kの含有量を定量し、この量とフィルムの性能の関係を確認した。そして、水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物を使用したときでも、50~100μmの膜厚を持つ手袋が、実用化可能な性能を持つようにするための条件を検討した。
以下の実験例では、本発明の実施形態にかかる諸条件を検討するために行った実験結果を示す。以下の実験例において具体例が詳細に説明されるが、本発明の趣旨及び範囲から離れることなく、種々の変更、改変を施すことができることは当業者には明らかである。
【0064】
1.ディップ成形用組成物に使用した材料
本実施例で使用したディップ成形用組成物の材料は以下のとおりである。
(1)エラストマー(XNBR)ラテックス
エラストマー(XNBR)ラテックスとして、LG Chem社製のNL128(商品
名)を主に使用した。その物性は以下のとおりである。
ムーニ―粘度(ML(1+4)100℃):100~102
MEK不溶解分量:3.0~5.4重量%
MMA(COOH)量:5.0~5.6重量%
AN量:31重量%
固形分:45重量%
なお、ムーニ―粘度(ML(1+4)100℃)、MEK不溶解分量、MMA量及びA
N量の測定は、「発明を実施するための形態」で説明した方法に従って行った。
(2)ポリカルボジイミド
本実施例で使用したポリカルボジイミドは、主に日清紡ケミカル社製V-02-L2である。その物性は以下のとおりである。
平均粒子径:11.3nm
数平均分子量:3600
1分子あたりのカルボジイミド官能基数:9.4
(3)pH調整剤
pH調整剤としては、アルカリ金属の水酸化物として、水酸化カリウム(関東化学社製特級)を主に用いた。水酸化カリウムを用いてディップ成形用組成物のpHを10.0ま
たは10.5に調整した。
また、一部で水酸化ナトリウム(関東化学社製特級)を用いた。
比較例のアンモニアについては、水酸化アンモニウムの28%水溶液(関東化学社製特級)を用いた。
(4)その他使用材料
金属架橋剤として酸化亜鉛(Farben Technique(M)社製、商品名「CZnO-50」)、酸化防止剤としてFarben Technique (M) 社製商品名「CVOX-50」、白色顔料として酸化
チタン(Farben Technique (M) 社製、商品名「PW-601」)を用いた。
2.手袋の製造方法
(1)ディップ成形用組成物の調製
XNBRラテックス(NL128)220gを1Lビーカー(アズワン社製, 胴径105mm×高さ150mm)に入れ、水200gを加えて希釈し、撹拌を開始した。水酸化カリウムを使用してpHを予備的に9.2~9.3に調整した後、ポリカルボジイミドをエラストマー100重量部に対して0.5重量部となるように加えた。さらに、酸化防止剤0.2重量部、酸化亜鉛1.0重量部及び酸化チタン1.0重量部を添加し、16時間撹拌混合した。その後、5重量%の水酸化カリウム水溶液によりpHが10.0または10.5となるように調整した。水酸化カリウムの添加量は、pH10.0の場合2.0重量部程度、pH10.5の場合2.5重量部程度である。次いで、固形分濃度を調整するためにさらに水を加えた。固形分量はいずれもディップ成形用組成物に対して、膜厚50~60μmのときは16重量%、60~70μmの時は19重量%、70~80μmのときは22重量%、90~100μmのときは26重量%とした。
得られたディップ成形用組成物量は約500gであった。なお、ディップ成形用組成物は、使用するまでビーカー内で攪拌を継続した。
【0065】
(2)凝固剤の調製
ハンツマン社(Huntsman Corporation)製の湿潤剤「Teric 320」(商品名)0.56gを水42.0gに溶解した液に、分散剤としてCRESTAGE INDUSTRY社製「S-
9」(商品名、固形分濃度25.46%)19.6gを、あらかじめ計量しておいた水50gの一部を用いて約2倍に希釈した後にゆっくり加えた。容器に残ったS-9を残った水で洗い流しながら全量を加え、3~4時間撹拌した。別に、1Lビーカー(アズワン社製、胴径105mm×高さ150mm)中に硝酸カルシウム四水和物143.9gを水153.0gに溶解させたものを用意し、撹拌しながら、先に調製したS-9分散液を硝酸カルシウム水溶液に加えた。5%アンモニア水でpHを8.5~9.5に調整し、最終的に硝酸カルシウムが、無水物として膜厚50~60μmのときは14重量%、60~70μmの時は17重量%、70~80μmのときは20重量%、90~100μmのときは24重量%となるように調整した。そしてS-9が1.2%の固形分濃度となるように水を加え、500gの凝固液を得た。得られた凝固液は、使用するまで1Lビーカーで撹拌を継続した。
【0066】
(3)凝固剤の陶板への付着
上記で得られた凝固液を撹拌しながら50℃に加温し、200メッシュのナイロンフィルターでろ過した後、浸漬用容器に入れ、洗浄後60℃に温めた陶製の板(200×80×3mm、以下「陶板」と記す。)を浸漬した。具体的には、陶板の先端が凝固液の液面に接触してから、陶板の先端から18cmの位置までを4秒かけて浸漬させ、浸漬したまま4秒保持し、3秒間かけて抜き取った。速やかに陶板表面に付着した凝固液を振り落し、陶板表面を乾燥させた。乾燥後の陶板は、ディップ成形用組成物の浸漬に備えて、再び60℃まで温めた。
【0067】
(4)硬化フィルムの作製
上記ディップ成形用組成物を、室温のまま200メッシュナイロンフィルターでろ過し
た後、浸漬用容器に入れ、上記の凝固液を付着させた60℃の陶板を浸漬した。具体的には、陶板を6秒かけて浸漬し、4秒間保持し、3秒かけて抜き取った。ディップ成形用組成物が垂れなくなるまで空中で保持し、先端に付着したラテックス滴を軽く振り落した。
ディップ成形用組成物に浸漬した陶板を50℃で2分間、または80℃で2分間放置した硬化フィルム前駆体を作製した。(ゲリング)。
次いで、23℃または50℃の脱イオン水で、各々0.5分、1分、2分、または3分間リーチングした硬化フィルム前駆体を作製した。
これらのフィルムを、70℃で5分間乾燥させ(プレキュアリング)、主に130℃で30分間、熱硬化させた(キュアリング)。
得られた硬化フィルムを陶板からきれいに剥がし、物性試験に供するまで、23℃±2℃、湿度50%±10%の環境で保管した。
【0068】
4.硬化フィルムの分析及び評価
上記で得られた硬化フィルムの、引張強度、疲労耐久性を測定し、実用可能かどうかの判定を行った。また、硬化フィルム中の金属含有量(Zn、Ca、K)を定量分析し、疲労耐久性との関連性を検討した。各測定は、以下の方法により行った。
【0069】
(疲労耐久性)
硬化フィルムからJIS K6251の1号ダンベル試験片を切り出し、これを、人工汗液(1リットル中に塩化ナトリウム20g、塩化アンモニウム17.5g、乳酸17.05g、酢酸5.01gを含み、水酸化ナトリウムによりpH4.7に調整)中に浸漬して、図3の耐久性試験装置を用いて疲労耐久性を評価した。
図3に示した装置を用いて、長さ120mmのダンベル試験片の2端部からそれぞれ15mmの箇所を固定チャック及び可動チャックで挟み、固定チャック側の試験片の下から60mmまでを人工汗液中に浸漬した。可動チャックを、147mm(123%)となるミニマムポジション(緩和状態)に移動させて11秒間保持したのち、試験片の長さが195mm(163%)となるマックスポジション(伸長状態)と、再びミニマムポジション(緩和状態)に1.8秒かけて移動させ、これを1サイクルとしてサイクル試験を行った。1サイクルの時間は12.8秒であり、試験片が破れるまでのサイクル数を乗じて、疲労耐久性の時間(分)を得た。
【0070】
(引張強度)
硬化フィルムからASTM D412(JIS K6251:2017に準拠)の5号ダンベル試験片を切り出し、A&D社製のTENSILON万能引張試験機RTC-1310Aを用い、試験速度500mm/分、チャック間距離75mm、標線間距離25mmで、引張強度(MPa)を測定した。
【0071】
(カルシウム、カリウム及び亜鉛の定量分析)
硬化フィルム中の金属の含有量を原子吸光法により定量した。具体的な定量方法は「、発明を実施するための形態」で説明したとおりである。
【0072】
5.各種実験
(1)実験1
本実験は、リーチング温度を50℃、23℃の場合にリーチング時間を0.5~3分にしたときの手袋物性(疲労耐久性、引張強度)が、手袋として必要な性能を満たすかどうかの合否を判定したものである。なお、「リーチング温度」は、リーチングの際に用いた水の水温を意味する。また、「リーチング時間」は硬化フィルム前駆体を水で洗浄する時間(水に接触(具体的には浸漬)させている時間)を意味する。
以下の表1A及び1Bに示すように、膜厚50~100μmの範囲で膜厚を変化させ、その傾向を見確認した。効果フィルムの作製条件については、上記の作製の手順に従った
。合否については、「発明を実施するための形態」で説明した手袋の物性の目標(1)および(2)の両方を満たすものをG: goodとし、そうでないものをF: failureとした。
【表1A】

注1)実験番号(1)~(4)は共通条件、(5)はゲリング工程及びキュアリング工程の温度を変化させた。(6)は、ディップ成形用組成物のpHを10.5に変化させた。注2)実験番号(1)、(2)については、金属含有量は定量分析していない。
【0073】
【表1B】

注1)実験番号(7)、(8)は、(1)~(4)と共通条件で行い、(9)はゲリング工程及びキュアリング工程の温度を変化させた。(10)は、ディップ成形用組成物のpHを10.5に変化させた。
【0074】
上記実験1の所見を以下に示す。
手袋のディップ成形法による製造は、一定のラインスピードによって行われるが、その中でリーチング工程に割り当てられる時間は最大でも4分以内が通常である。
リーチング槽の水の温度(リーチング温度)について、表1Aの50℃の場合と表1Bの23℃の場合を比較すると、50℃の場合の方が短時間でも硬化フィルムに高い疲労耐久性をもたらすことがわかった。また、図1Aを見ると、リーチング時間が1分を超えると急激に硬化フィルムの疲労耐久性が増加することがわかった。
その結果、pHが10.0((1)~(5))、10.5(6)に共通して、リーチング工程の際の水温を40~70℃程度に上げて1.5分以上リーチングを行えば、50~100μmの硬化フィルムに対して十分な疲労耐久性がもたらすことがわかった。
リーチング温度について、50℃の方が23℃に比べると、硬化フィルムに高い疲労耐久性をもたらすことができる。また、フィルム厚が厚いほど、リーチング温度の差が硬化フィルムの疲労耐久性の差に大きく影響することも分かった。
【0075】
次に、表1Aと表1Bに記載した硬化フィルムが含有するZn、Ca、Kの量を定量した。まずZnについては、リーチング工程を経てもほとんど量が減らないことが分かった。
一方、CaとKは、リーチング工程を経ることによって硬化フィルム前駆体の時点で溶出していることが分かった。この、CaとKの硬化フィルム中の合計含有量と、硬化フィルムの疲労耐久性の関係を確認した。
図2Aを参照すると、硬化フィルムが厚いほどCaとKの合計含有量が多くてもある程度の疲労耐久性を有しているが、CaとKの合計含有量が少なくなるほど硬化フィルムの疲労耐久性が向上することがわかった。
それぞれの硬化フィルムが有する膜厚に応じて、疲労耐久性が急激に向上するときのKとCaの合計含有量は異なる。50~100μmの硬化フィルム全般について見てみると、KとCaの合計含有量が1.15重量%を下回ると、硬化フィルムが充分な疲労耐久性が有していることがわかった。
【0076】
(2)実験2
本実験は、アルカリ金属の水酸化物である水酸化ナトリウムをpH調整剤として使用し、水酸化カリウムと比較したものである。
ただし手袋中に残った水酸化ナトリウムは、皮膚を刺激する可能性があり、手袋製造において使用されることは少ない。
【表2】
【0077】
(3)実験3
pH調整剤として水酸化アンモニウムのようなアンモニアを生じうる化合物を用いる場合の最大の問題点は、アンモニアが揮発性であることである。現状の手袋の製造設備は、ほとんどが開放系であり、熟成工程からディッピング工程まで、最大で5日程度要することがある。アンモニアの揮発によるディップ成形用組成物のpHの経時低下につき、以下のように確認した。
ディップ成形用組成物は、pH調整剤として水酸化アンモニウム(NH)を用いたこと以外、実験1と同一である。
以下の実験は、撹拌容器(ビーカー)をポリ塩化ビニリデン製フィルムでラップした場合とラップしない場合で比較したものである。結果を表3Aに示す。
【0078】
【表3A】

上記の結果を見ると、ラップなし(開放系)の場合はpHが8.64まで落ち、これが手袋の疲労耐久性の低下をもたらしていたと考えられる。
このため、水酸化アンモニウムをpH調整剤として使用するためには、開放系においては水酸化アンモニウムのようなアンモニウム化合物を継ぎ足してpHを維持するか、閉鎖系に設備改造する必要がある。さらに、開放系では特にアンモニアの刺激臭及び設備の腐食が嫌われる。
【0079】
次に、上の24時間攪拌後のディップ成形用組成物(ラップあり、なし)から硬化フィルムを作成し、物性を測定した。硬化フィルムの作製条件は実験1と同一である。結果を表3Bに示す。
【表3B】

ラップなし(開放系)の場合は、24時間経過後のディップ成形用組成物でも、pHが9.29と下がり、疲労耐久性も大幅に低下することが確認される。
【0080】
(4)実験4
ポリカルボジイミドの検討
ディップ成形用組成物に含有させるポリカルボジイミドが、ミセルの平均粒子径の違いで、ディップ成形用組成物を調製した後の粘度の経時変化にどのような影響を与えるのか、確認する試験を行った。具体的には、ポリカルボジイミド1としてミセルの平均粒子径:11.3nm、1分子あたりのカルボジイミド官能基数:9.4(日清紡ケミカル社製:V-02-L2)を用いた場合と、ポリカルボジイミド2として、ミセルの平均粒子径
:68.3(n=2)、1分子あたりのカルボジイミド官能基数:9.3を有するもの(日清紡ケミカル社製:E-03A)を用いた場合とで、ディップ成形用組成物の貯蔵安定性(ポットライフ)に違いがあるのかどうかを確認した。
なお、ディップ成形用組成物におけるポリカルボジイミドの含有量はそれぞれ、3.0phrであった。また、ラテックスとしてLG Chem社製の120Hを使用し、塩基性化合物を用いてpHを10に調整し、常温で120rpm撹拌し続けた。
その結果を以下の表4に示す。なお、表中の0日は、組成物を調製して1時間経過後に測定した粘度を示す。
【表4】
【0081】
表4の結果から、ポリカルボジイミド1のようなミセルの平均粒子径が小さいものは、ディップ成形用組成物の調製後、時間が経過しても、その粘度にほとんど変化がないことが分かった。
【0082】
(5)実験5
LG Chem社製のラテックス(LN120H:固形分濃度45重量%)に、実験4で用いたポリカルボジイミド(V-02-L2)を0.5phrまたは3.0phr添加し、3時間撹拌した。その後、この混合液について3日、27日、60日の時点で所定量抜き取り、塩基性化合物を用いてpHを調整したディップ成形用組成物を調製した。そして、上記の実験例と同様の手順により硬化フィルムを作製し(ただし、ゲリング工程:50℃2分、リーチング工程:50℃5分、キュアリング工程135℃10分)、物性を測定した。結果を表5に示す。
【表5】

表5に示される通り、ポリカルボジイミド1を架橋剤として用いると、ラテックスと混合した後、長時間が経過した後であっても、それを用いて作製した硬化フィルムの物性は、調製から短時間経過したものを用いて作製した硬化フィルムの物性と同等であった。これは、ポリカルボジイミド1のような平均粒子径と、1分子当たりのカルボジイミド官能基数を有するものが、優れた経時安定性を有していることを示している。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3