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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】組織の保存のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20240314BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A01N1/02
G01N33/48 P
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020512864
(86)(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 US2018048156
(87)【国際公開番号】W WO2019046195
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】62/550,945
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520067910
【氏名又は名称】フォーム 62 エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マッキンタイア, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】マッカンナ, マイケル
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0110666(US,A1)
【文献】米国特許第05679333(US,A)
【文献】Cryobiology,2015年,71,P.448-458
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/
G01N 33/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の組織の保存方法であって、
水および緩衝剤を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
水、緩衝剤、イオン性界面活性剤およびグルタルアルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
水、緩衝剤、グルタルアルデヒドおよびガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含み、
前記洗浄することは、前記組織内で虚血の発症後に開始される、保存方法。
【請求項2】
前記凍結保護流体が、-80℃またはそれより高いガラス化温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体が、色素または造影剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織内の前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の分布を画像化することにより、モニターすることをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体での前記組織の灌流が灌流スケジュールに従って行われ、前記灌流スケジュールが、前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体のモニターされた分布に基づいて変更される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組織をガラス化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
保存組織の少なくとも一部を画像化することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
微小解剖学的分析により保存組織の少なくとも一部の特性を明らかにすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記凍結保護流体が、前記固定流体に対する勾配として前記組織へ灌流される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体が、イオンチャネル遮断剤、イオン受容体遮断剤、カルシウムキレート剤、呼吸器毒、シナプス毒、血管拡張薬、または膨脹剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記洗浄流体が、イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記洗浄流体が、麻酔薬、血栓溶解剤、凝固阻止剤、または抗血小板剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ガラス化剤が、エチレングリコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ガラス化剤が、グリセロールである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ガラス化剤、ジメチルスルホキシドまたはポリエチレングリコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記凍結保護流体が、約-195℃~約+50℃のガラス化温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記組織が、前記対象の死亡の8時間以内に保存されている、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記組織が、器官またはその一部である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記組織が、脳またはその一部である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記洗浄流体が、アジドをさらに含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2017年8月28日に出願された米国仮特許出願第62/550,945号に基づく優先権の利益を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本明細書に記載される発明は、組織、特に脳組織の保存のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
構造を維持するために組織を固定および保存する能力は、研究用に臨床的および科学的な組織サンプルを長期間維持するために重要である。ヒトおよび非ヒト(げっ歯類など)供給元から預かる脳全体を含む神経組織は、アルツハイマー病など、多くの脳疾患の研究において、特に重要である。例えば、Samarasekeraら、Brain banking for neurological disorders、Lancet Neurology、vol.12、no.11、pp.1096-1105(2013)を参照のこと。
【0004】
残念ながら、1960年代以降、脳バンク技術はあまり変化していない。ヒトの脳は、一般に、ホルマリンに浸漬することで保存されるが、これは、一般に、長時間の虚血遅延が続いた後、16~36時間の範囲内のことである。残念ながら、この虚血遅延(停滞血流)、ホルマリン固定、および固定剤のゆっくりとした拡散に基づく浸潤は、サンプルを分析する前でさえも、かなりの超微細構造の損傷とタンパク質および/またはRNAの損失をもたらす。
【0005】
脳を保存する他の方法としては、アルデヒドで脳を灌流し、固定された脳を比較的暖かい温度(例えば約4℃)で保管することが挙げられる。しかしながら、固定された脳は化学的に活性なままであり、化学的および形態学的な劣化を起こし得るため、この手法は、長期間の保管において、脳の超微細構造の静的保存を保証しない。固定された脳を氷点下の温度で保管すると、化学的劣化が抑制されるが、氷の形成により、著しい脱水と脳の超微細構造に機械的損傷が生じる。
【0006】
アルデヒド安定化凍結保存(aldehyde-stabilized cryopreservation:ASC)と呼ばれる動物の脳の保存のために最近開発された技術は、保存された脳の保存品質と保管時間を大幅に改善することを断言する。McIntyre&Fahy、Aldehyde-stabilized cryopreservation、Cryobiology、vo.71、pp.448-458(2015)を参照のこと。ASCは、灌流によりグルタルアルデヒドを送達し、すべての脳構造の迅速な固定が可能になる。次に、凍結保護物質が導入され、非常に低い温度での長期間の保管が可能になる。構造的品質、保管温度、品質管理など、ASCプロセスにはまだ多くの欠点がある。例えば、固定流体での組織の灌流は、筋肉または組織の収縮または浮腫を引き起こす可能性があり、これにより毛細血管床への流体の灌流が制限される。さらに、ASC法を使用した保存は、細胞外間隙の損失、結合した神経伝達物質小胞の損失、ミエリンの分解、細胞骨格の再構築、および全体的な組織収縮をもたらし得る。
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許、および特許出願の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Samarasekeraら、Brain banking for neurological disorders、Lancet Neurology、vol.12、no.11、pp.1096-1105(2013)
【文献】McIntyre&Fahy、Aldehyde-stabilized cryopreservation、Cryobiology、vo.71、pp.448-458(2015)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
本明細書に記載されているのは、組織(脳など)の保存方法および保存された組織の分析方法である。また本明細書に記載されているのは、組織を保存するために使用してもよい洗浄流体、固定流体、および凍結保護流体である。
【0009】
1つの態様では、対象の組織の保存方法は、水性液体(例えば、生理食塩水または緩衝化生理食塩水)を含む洗浄流体で組織を灌流することにより、組織を洗浄すること;アルデヒドを含む固定流体で組織を灌流することにより、組織を固定すること;およびガラス化剤を含む凍結保護流体で組織を灌流することにより、組織を凍結保護することを含み、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、色素または造影剤を含む。
【0010】
別の態様では、対象の組織の保存方法は、水性液体(例えば、生理食塩水または緩衝化生理食塩水)を含む洗浄流体で組織を灌流することにより、組織を洗浄すること;アルデヒドを含む固定流体で組織を灌流することにより、組織を固定すること;およびガラス化剤を含む凍結保護流体で組織を灌流することにより、組織を凍結保護することを含み、凍結保護流体は約-80℃またはそれより高いガラス化温度を有する。
【0011】
別の態様では、対象の組織の保存方法は、(1)水性液体(例えば、生理食塩水または緩衝化生理食塩水)、および(2)イオンチャネル遮断剤、カルシウムキレート剤、血栓溶解剤、抗血小板物質、呼吸器毒、またはシナプス毒のうち、任意の1またはそれを超えるものを含む洗浄流体で、組織を灌流することにより、組織を洗浄すること;アルデヒドを含む固定流体で組織を灌流することにより、組織を固定すること;およびガラス化剤を含む凍結保護流体で組織を灌流することにより、組織を凍結保護することを含む。
【0012】
別の態様では、対象の組織の保存方法は、水性液体(例えば、生理食塩水または緩衝化生理食塩水)を含む洗浄流体で組織を灌流することにより、組織を洗浄すること;アルデヒドを含む固定流体で組織を灌流することにより、組織を固定すること;およびガラス化剤を含む凍結保護流体で組織を灌流することにより、組織を凍結保護することを含み、洗浄することは、組織内で虚血の発症後に開始される。
【0013】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定化流体、または凍結保護流体は、色素または造影剤を含む。
【0014】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、放射線不透過性色素を含む。
【0015】
上記方法のいくつかの実施形態では、方法は、組織内の洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体の分布を画像化することにより、モニターすることをさらに含む。
【0016】
別の態様では、対象の組織の保存方法は、水性液体(例えば、生理食塩水または緩衝化生理食塩水)を含む洗浄流体で組織を灌流することにより、組織を洗浄すること;アルデヒドを含む固定流体で組織を灌流することにより、組織を固定すること;ガラス化剤を含む凍結保護流体で組織を灌流することにより、組織を凍結保護すること;および組織内の洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体の分布を画像化することにより、モニターすることを含む。
【0017】
上記方法のいくつかの実施形態では、モニターすることは、コンピューター断層撮影(CT)、マイクロコンピューター断層撮影(microCT)、X線、または核磁気共鳴画像法(MRI)によって実行される。
【0018】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体での組織の灌流は灌流スケジュールに従って行われ、灌流スケジュールが、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体のモニターされた分布に基づいて変更される。
【0019】
上記方法のいくつかの実施形態では、方法は、組織をガラス化することをさらに含む。いくつかの実施形態では、組織は、約-100℃またはそれより低い温度でガラス化される。いくつかの実施形態では、方法は、ガラス化組織を約72時間またはそれより長く保管することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、ガラス化組織を解凍することを含む。
【0020】
上記方法のいくつかの実施形態では、方法は、保存組織の少なくとも一部を画像化することを含む。
【0021】
上記方法のいくつかの実施形態では、方法は、微小解剖学的分析を使って、保存組織の少なくとも一部の特性を明らかにすることを含む。
【0022】
上記方法のいくつかの実施形態では、保存組織の少なくとも一部が、電子顕微鏡法、拡大顕微鏡法、または蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)拡大顕微鏡法を使用して画像化される。
【0023】
本明細書に提供される1つの態様では、対象由来の保存組織の分析方法は、保存組織を画像化することまたは保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、組織は、水性液体(例えば、生理食塩水または緩衝化生理食塩水)を含む洗浄流体で組織を灌流することにより、組織を洗浄すること;アルデヒドを含む固定流体で組織を灌流することにより、組織を固定すること;ガラス化剤を含む凍結保護流体で組織を灌流することにより、組織を凍結保護すること;および組織の灌流中に、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体の分布をモニターすることにより保存されている。
【0024】
本明細書に提供される別の態様では、対象由来の保存組織の分析方法は、保存組織を画像化することまたは保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、組織は、水性液体(例えば、生理食塩水または緩衝化生理食塩水)を含む洗浄流体で組織を灌流することにより、組織を洗浄すること;アルデヒドを含む固定流体で組織を灌流することにより、組織を固定すること;およびガラス化剤を含む凍結保護流体で組織を灌流することにより、組織を凍結保護することにより保存されており、凍結保護流体は約-80℃またはそれより高いガラス化温度を有する。
【0025】
本明細書に提供される別の態様では、対象由来の保存組織の分析方法は、保存組織を画像化することまたは保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、組織は、水性液体(例えば、生理食塩水または緩衝化生理食塩水)、ならびにイオンチャネル遮断剤、カルシウムキレート剤、血栓溶解剤、呼吸器毒、シナプス毒および血管拡張薬のうち、任意の1またはそれを超えるものを含む洗浄流体で組織を灌流することにより、組織を洗浄すること;アルデヒドを含む固定流体で組織を灌流することにより、組織を固定すること;およびガラス化剤を含む凍結保護流体で組織を灌流することにより、組織を凍結保護することにより保存されている。
【0026】
上記方法のいくつかの実施形態では、組織中の洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、組織の灌流中にモニターされた。いくつかの実施形態では、組織の灌流は、CT、マイクロCT、X線、またはMRIを使用してモニターされた。
【0027】
上記方法のいくつかの実施形態では、方法は、保存組織を解凍することを含む。
【0028】
上記方法のいくつかの実施形態では、保存組織を画像化することまたは保存組織の微小解剖学的分析を実行することが、電子顕微鏡法、集束イオンビーム顕微鏡法、拡大顕微鏡法、または蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)拡大顕微鏡法を使用して、保存組織を画像化することを含む。
【0029】
上記の対象由来の保存組織の分析方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体での組織の灌流は灌流スケジュールに従って行われ、灌流スケジュールが、組織の灌流中に、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体のモニターされた分布に基づいて変更された。
【0030】
上記方法のいくつかの実施形態では、凍結保護流体は、固定流体に対する勾配として組織へ灌流される。
【0031】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤を含む。
【0032】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、カルシウムキレート剤を含む。
【0033】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、呼吸器毒を含む法。
【0034】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、シナプス毒を含む。
【0035】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、血管拡張薬を含む。
【0036】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体は、膨脹剤を含む。
【0037】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体または固定流体は、イオン性界面活性剤を含む。
【0038】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体は、麻酔薬を含む。
【0039】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体は、血栓溶解剤を含む。
【0040】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体は、凝固阻止剤を含む。
【0041】
上記方法のいくつかの実施形態では、洗浄流体は、抗血小板剤を含む。
【0042】
上記方法のいくつかの実施形態では、固定流体は、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドを含む。
【0043】
上記方法のいくつかの実施形態では、凍結保護流体は、アルデヒドを含む。
【0044】
上記方法のいくつかの実施形態では、凍結保護流体は、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、またはポリエチレングリコールを含む。
【0045】
上記方法のいくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約-195℃~約+50℃のガラス化温度を有する。
【0046】
上記方法のいくつかの実施形態では、組織は、対象の死亡の8時間以内に保存される。
【0047】
上記方法のいくつかの実施形態では、対象はヒトである。いくつかの実施形態では、対象は非ヒト動物である。いくつかの実施形態では、非ヒト動物はげっ歯類である。
【0048】
上記方法のいくつかの実施形態では、組織は、器官またはその一部である。いくつかの実施形態では、組織は、脳またはその一部である。いくつかの実施形態では、組織の体積は、約100cmであるかまたはそれより大きい。
【0049】
上記方法のいずれか1つに従って形成された保存組織が本明細書にさらに提供される。
【0050】
(1)アルデヒド、および(2)色素または造影剤を含み、灌流により組織を固定するための固定流体が本明細書にさらに提供される。いくつかの実施形態では、アルデヒドは、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドである。
【0051】
(1)ガラス化剤、および(2)色素または造影剤を含み、組織を凍結保存するための凍結保護流体が本明細書にさらに提供される。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、アルデヒドを含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、エチレングリコール、グリセロール、ジメチルスルホキシド、またはポリエチレングリコールを含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約-195℃~約+50℃のガラス化温度を有する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
対象の組織の保存方法であって、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含み、
前記洗浄することは、前記組織内で虚血の発症後に開始される、保存方法。
(項目2)
対象の組織の保存方法であって、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含み、
前記凍結保護流体は約-80℃またはそれより高いガラス化温度を有する、保存方法。
(項目3)
対象の組織の保存方法であって、
(1)水溶液、および(2)イオンチャネル遮断剤、カルシウムキレート剤、血栓溶解剤、抗血小板物質、呼吸器毒、またはシナプス毒のうち、任意の1またはそれを超えるものを含む洗浄流体で、前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含む、保存方法。
(項目4)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、色素または造影剤を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目5)
対象の組織の保存方法であって、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含み、
前記洗浄流体、前記固定化流体、または前記凍結保護流体は、色素または造影剤を含む、保存方法。
(項目6)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、放射線不透過性色素を含む、項目4または5に記載の保存方法。
(項目7)
前記組織内の前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の分布を画像化することにより、モニターすることをさらに含む、項目1~6のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目8)
対象の組織の保存方法であって、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること;および
前記組織内の前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の分布を画像化することにより、モニターすること
を含む、保存方法。
(項目9)
前記モニターすることが、コンピューター断層撮影(CT)、マイクロコンピューター断層撮影(microCT)、X線、またはMRIによって実行される、項目7または8に記載の保存方法。
(項目10)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体での前記組織の灌流が灌流スケジュールに従って行われ、前記灌流スケジュールが、前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の前記モニターされた分布に基づいて変更される、項目1~9のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目11)
前記組織をガラス化することをさらに含む、項目1~10のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目12)
前記組織が、約-100℃またはそれより低い温度でガラス化される、項目1~11のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目13)
前記ガラス化組織を約72時間またはそれより長く保管することを含む、項目11または項目12に記載の保存方法。
(項目14)
前記ガラス化組織を解凍することを含む、項目11~13のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目15)
前記保存組織の少なくとも一部を画像化することを含む、項目1~14のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目16)
微小解剖学的分析を使って、前記保存組織の少なくとも一部の特性を明らかにすることを含む、項目1~15のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目17)
前記保存組織の少なくとも一部が、電子顕微鏡法、拡大顕微鏡法、または蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)拡大顕微鏡法を使用して画像化される、項目1~16のいずれか一項に記載の保存方法。
(項目18)
対象由来の保存組織の分析方法であって、前記保存組織を画像化することまたは前記保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、前記組織は、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること;および
前記組織の前記灌流中に、前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の分布をモニターすること
により保存されている、分析方法。
(項目19)
対象由来の保存組織の分析方法であって、前記保存組織を画像化することまたは前記保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、前記組織は、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
により保存されており、
前記凍結保護流体は約-80℃またはそれより高いガラス化温度を有する、分析方法。
(項目20)
対象由来の保存組織の分析方法であって、前記保存組織を画像化することまたは前記保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、前記組織は、
(1)水溶液、および(2)イオンチャネル遮断剤、カルシウムキレート剤、血栓溶解剤、抗血小板物質、呼吸器毒、またはシナプス毒のうち、任意の1またはそれを超えるものを含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
により保存されている、分析方法。
(項目21)
前記組織中の前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、前記組織の灌流中にモニターされた、項目19または20に記載の分析方法。
(項目22)
前記組織の灌流は、CT、マイクロCT、X線、またはMRIを使用してモニターされた、項目18または項目21に記載の分析方法。
(項目23)
前記保存組織を解凍することを含む、項目18~22のいずれか一項に記載の分析方法。
(項目24)
前記保存組織を画像化することまたは前記保存組織の微小解剖学的分析を実行することが、電子顕微鏡法、拡大顕微鏡法、または蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)拡大顕微鏡法を使用して、前記保存組織を画像化することを含む、項目18~23のいずれか一項に記載の分析方法。
(項目25)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体での前記組織の灌流が灌流スケジュールに従って行われ、前記灌流スケジュールが、前記組織の灌流中に、前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の前記モニターされた分布に基づいて変更された、項目16~24のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記凍結保護流体が、前記固定流体に対する勾配として前記組織へ灌流される、項目1~25のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤を含む、項目1~26のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、カルシウムキレート剤を含む、項目1~27のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、呼吸器毒を含む、項目1~28のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、シナプス毒を含む、項目1~29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、血管拡張薬を含む、項目1~30のいずれか一項に記載の方法。
(項目32)
前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、膨脹剤を含む、項目1~31のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
前記洗浄流体または前記固定流体は、イオン性界面活性剤を含む、項目1~32のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
前記洗浄流体は、麻酔薬を含む、項目1~33のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
前記洗浄流体は、血栓溶解剤を含む、項目1~34のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記洗浄流体は、凝固阻止剤を含む、項目1~35のいずれか一項に記載の方法。
(項目37)
前記洗浄流体は、抗血小板剤を含む、項目1~36のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記固定流体は、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドを含む、項目1~37のいずれか一項に記載の方法。
(項目39)
前記凍結保護流体は、アルデヒドを含む、項目1~38のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)
前記凍結保護流体は、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、またはポリエチレングリコールを含む、項目1~39のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)
前記凍結保護流体は、約-195℃~約+50℃のガラス化温度を有する、項目1~40のいずれか一項に記載の方法。
(項目42)
前記組織は、前記対象の死亡の8時間以内に保存される、項目1~41のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
前記対象はヒトである、項目1~42のいずれか一項に記載の方法。
(項目44)
前記対象は非ヒト動物である、項目1~42のいずれか一項に記載の方法。
(項目45)
前記非ヒト動物はげっ歯類である、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記組織は、器官またはその一部である、項目1~45のいずれか一項に記載の方法。
(項目47)
前記組織は、脳またはその一部である、項目1~46のいずれか一項に記載の方法。
(項目48)
前記組織の体積は、約100cm であるかまたはそれより大きい、項目1~47のいずれか一項に記載の方法。
(項目49)
前記洗浄流体の水溶液は、生理食塩水溶液である、項目1~48のいずれか一項に記載の方法。
(項目50)
前記洗浄流体の水溶液は、緩衝化生理食塩水溶液である、項目1~49のいずれか一項に記載の方法。
(項目51)
項目1~17および26~50のいずれか一項に記載の方法に従って形成された保存組織。
(項目52)
(1)アルデヒド、および(2)色素または造影剤を含み、灌流により組織を固定するための固定流体。
(項目53)
前記アルデヒドは、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドである、項目52に記載の固定流体。
(項目54)
(1)ガラス化剤、および(2)色素または造影剤を含み、組織を凍結保存するための凍結保護流体。
(項目55)
前記凍結保護流体は、アルデヒドを含む、項目54記載の凍結保護流体。
(項目56)
前記凍結保護流体は、エチレングリコール、グリセロール、ジメチルスルホキシド、またはポリエチレングリコールを含む、項目54または55に記載の凍結保護流体。
(項目57)
前記凍結保護流体は、約-195℃~約+50℃のガラス化温度を有する、項目54~56のいずれか一項に記載の凍結保護流体。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は、対象の脳を洗浄流体で灌流するための代表的な構成を示す。洗浄流体は、対象の頸動脈の中を通って灌流され、頸静脈から排出される。
【0053】
図2図2A~2Fは、対象の脳を保存する代表的な方法を示す。図2Aで、洗浄流体は対象の脳へ灌流される。図2Bで、第1段階の固定流体(FIX)が対象に灌流される。図2Cで、上記構成は第2段階の固定流体(FIX)を準備する。図2Dで、第2段階の固定流体は、第1段階の固定流体(FIX)に対する勾配として対象の脳に灌流される。図2Eで、第2段階の固定流体は、第1段階の固定流体なしで対象の脳に灌流される。図2Fで、凍結保護流体(CPA)は、第2段階の固定流体に対する勾配として対象の脳に灌流される。
【0054】
図3】3A~3Lは、保存された脳組織の電子顕微鏡法画像を示す。図3Aは、皮質サンプルからの反転コントラスト画像を示し、核物質(A)およびミエリン(B、C)の良好な保存および高い保持を示す。図3Bは、皮質サンプルの電子顕微鏡画像であり、血管(A)、複数の突起(つまり、ニューロンの複数の分岐)(B)、および十分に保存された基底物質(C)を示す。一部のダメージ(D)も見えた。図3Cは、十分に保存されたシナプス(A)、有髄突起(B)、無髄突起(C)、およびいくつかの損傷領域(D、E)を含む皮質サンプルの追加の電子顕微鏡画像を示す。図3Dは、複数の錐体細胞(A)と複数の有髄突起(B)を示す電子顕微鏡画像である。図3Eは、走査型電子顕微鏡法を使用して得られた酢酸ウラン染色された皮質サンプル内の複数のシナプス(A、B、C)を示す。図3Fは、扁桃体の電子顕微鏡画像で、複数のシナプス(A)および微細突起、ならびに、いくつかの膨張したミトコンドリア(B)を示す。図3Gは、脳組織を明らかにするために、ミリングされた樹脂の20マイクロメートルの層でコーティングした皮質サンプルの集束イオンビームミリング画像である。図3Hは、脳組織を明らかにするために、ミリングされた樹脂の層でコーティングした脳梁サンプルの集束イオンビームミリング画像である。図3Iは、酢酸ウラン染色された皮質の電子顕微鏡画像であり、ミエリンと部分的に破壊された切痕(A、B、C)を示す。図3Jは、十分に保存された有髄突起(A、B)を示す海馬サンプルの集束イオンビーム走査電子顕微鏡(focused ion beam scanning electron microcopy:FIB-SEM)画像である。図3Kは、樹脂ブロック内の皮質サンプルからの画像を示す。脳組織の保存は、以前の研究よりも良好に保存されるが、脳の超微細構造へいくつかの損傷が観察された。例えば、図3Jにおいて、細胞内構成成分の一部損失が観察された(C)。図3Lは、酢酸ウランで染色された皮質サンプルの電子顕微鏡画像であり、いくつかの並行するプロセスで破壊されたミエリン(A)、ならびに通常のミエリン(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
発明の詳細な説明
本明細書に記載されているのは、対象由来の組織を保存する方法である。特定の実施形態では、組織は、脳などの無傷の器官である。組織は、組織を洗浄流体で灌流することにより洗浄され、組織を固定流体で灌流することにより固定され、また、組織を凍結保護流体で灌流することにより凍結保護される。洗浄流体は、組織内の脈管から血液および/または凝固剤を洗い流す。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、例えば血管を拡張させる、または血餅を溶解させることによって、灌流を促進させ得る成分を含む。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、固定流体の意図しない効果を最小限に抑え得る成分を含む。固定流体は、組織内に架橋を形成することで組織を固定する。このことは組織の保存を促進し、腐敗を制限する(組織をガラス化するのに加えて)。凍結保存液は、組織にガラス化剤を提供し、これにより、保管のために組織を冷却する際の氷晶の形成を抑制する。一旦組織が、洗浄流体、固定流体、および凍結保護流体で灌流されると、組織は低温でガラス化され、それから保存され得る。次に、ガラス化組織は、例えば組織の画像化による分析のために解凍され得る。また本明細書に記載されているのは、洗浄流体、固定流体、および凍結保護流体、ならびに保存組織の分析方法である。
【0056】
脳、またはその一部を慎重に保存することで、組織のより詳細な微小解剖学的分析および神経学的連絡のより深い理解が可能となる。これは、脳内の神経連絡の包括的なマップである脳マッピングとコネクトームの開発に役立ち得る。例えば、本明細書に記載の方法は、脳組織内の基底質ナノ構造、ミエリンナノ構造、錐体細胞ナノ構造、または神経シナプスナノ構造のうち、1またはそれを超えるものの保存を可能にする。最近の研究により、保存組織の構造的完全性の維持が大幅に向上したが、組織の微小解剖をより良く解決するには継続的な進歩が必要とされる。
【0057】
多くの組織および脳などの器官には、血管の複雑なネットワークが含まれている。組織を灌流する洗浄流体、固定流体、凍結保護流体などの流体は、血管を通って流れ、組織の様々な部分へ到達する。流体の不完全な灌流は、組織の不十分な保存をもたらし得る。より古い、および/または不健康な組織サンプルでは、脈管構造の限局性閉塞により、灌流中の組織の適切な洗浄、固定、および/または凍結保護を大幅に遅延させ、または阻むことさえもある。従来の方法は、固定されたスケジュールに依存してサンプルを灌流し、流体が組織に均一に供給されると仮定した。これらの以前の運用では、実験室レベルでの実例においては機能するが、組織全体または器官サンプル全体における、長持ちして、反復可能な保存に関しては、この品質管理レベルは満足できるものではない。灌流中に動的にモニターすることにより、損傷した脈管の外科的修復や流体灌流時間の延長などの是正措置が可能になり、大きな浸透勾配を避けて、また流体がすべての組織領域に十分な量が供給されることを確実にする。洗浄流体、固定流体、凍結保護流体、または本明細書に記載の組織に灌流するその他の流体中に、色素(例えば、放射線不透過性色素)または造影剤を含むことによって、組織内の流体の分布を画像化することで灌流をモニターすることができる。代表的な造影剤または放射線不透過性色素としては、ヨウ化物塩(例えば、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウム)、バリウム塩(例えば、塩化バリウム)、重金属(例えば、鉛または金)とのキレート錯体、またはガドリニウムが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、CT、マイクロCT、X線、またはMRIによって、分布をモニターする。いくつかの実施形態では、方法は、詰まった血管の詰まりを取るまたは迂回するため、組織に是正手術を行うことを含む。適切にモニターすることにより、次の保存工程を行う前に、組織が流体で完全に灌流されることを確実にする。
【0058】
加えて、本明細書でさらに詳細に説明するように、洗浄流体、固定流体、および/または凍結保護流体中に、特定の化合物を混入すると、組織をよりよく保存するのに役立ち得る。例えば、いくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体および/または凍結保護流体は、イオンチャネル遮断剤、イオン受容体遮断剤、カルシウムキレート剤、呼吸器毒、シナプス毒、血管拡張薬、膨脹剤、麻酔薬、血栓溶解剤(「血餅破壊剤」とも呼ばれる)、抗血小板剤、イオン性界面活性剤、または凝固阻止剤のうち、1またはそれを超えるものを含む。これらの化合物は、例えば、保存プロセス中に灌流効率を高める、または組織の微細構造を安定化させることにより、組織の保存をさらによくする。
【0059】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈からそうでないことが明確に示されない限り、複数の参照を含む。
【0060】
本明細書における値またはパラメータの「約(about)」への言及は、その値またはパラメータそれ自体が目的とする変動を含む(および記載する)。例えば、「約X(about X)」に言及する記述は、「X」の記載を含む。
【0061】
「凝固阻止剤」とは、凝固因子活性を直接的または間接的に阻害し、血液の凝固を抑制する、任意の1またはそれを超える化合物である。
【0062】
「抗血小板剤」は、血小板凝集を減少させる、任意の1またはそれを超える化合物である。
【0063】
対象の「死亡」という用語は、呼吸活動、心拍、および脳活動の完全な消失によって定義される対象の臨床的な死亡を意味する。
【0064】
「イオンチャネル遮断剤」および「イオン受容体遮断剤」という用語は、イオンチャネルまたはイオン受容体として細胞膜を横切る1またはそれを超えるイオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)の輸送を抑制する、任意の1またはそれを超える化合物を意味するため、同意語として使用される。
【0065】
「虚血」という用語は、組織に供給される酸素が組織の機能性を維持するのに不十分である、組織の状態を意味する。
【0066】
「微小解剖学的分析」という用語は、解像度が顕微鏡的または超顕微鏡的レベルでの生体組織の物理的構造の評価を意味する。
【0067】
本明細書で使用される「ナノ構造」という用語は、最小寸法が100ナノメートル未満である生体系の物理的構造を意味する。
【0068】
「膨脹剤」は、血管内の液体の浸透圧を増加させる、任意の1またはそれを超える化合物である。
【0069】
「灌流すること(perfusing)」または「灌流(perfusion)」という用語は、組織につながるまたは組織内にある1またはそれを超える脈管を通して、圧力下で組織に流体を投与することにより、組織に流体を送達することを意味する。
【0070】
「呼吸器毒」とは、生化学的呼吸を抑制する、任意の1またはそれを超える化合物のことで、電子輸送阻害剤、脱共役剤、およびプロトンチャネル遮断薬が含まれる。
【0071】
「シナプス毒」とは、神経シナプスでニューロンからの結合した神経伝達物質小胞の放出を抑制する、任意の1またはそれを超える化合物である。
【0072】
「血栓溶解剤」または「血餅破壊剤」は、プラスミノーゲンをプラスミンに変換して、フィブリノゲンおよびフィブリンを破壊し、血管内の血餅(血栓)の解離を促進する、任意の1またはそれを超えるセリンプロテアーゼである。
【0073】
「血管拡張薬」は、血管を拡張する、任意の1またはそれを超える化合物である。
【0074】
「ガラス化剤」、「凍結保護剤(cryoprotection agent)」、および「凍結保護物質(cryoprotectant)」という用語は、互換的に使用され、冷却中の氷晶の形成を制限することにより、凍結損傷から生体サンプルを保護する、任意の1またはそれを超える化合物を意味する。
【0075】
「ガラス化温度」または「ガラス転移温度」とは、それ未満では材料がアモルファス固体として作用し、それを超えると材料が粘性液体またはゴム状材料として作用する温度を意味する。ガラス化温度は、ASTM E1356-08(2014)、示差走査熱量測定法によるガラス転移温度の割り当てのための標準試験法による動的機械分析によって決定される。
【0076】
本明細書に記載された本発明の態様および変形形態は、態様および変形形態「からなる(consisting)」、および/または「から本質的になる(consisting essentially of)」を含むことが理解される。
【0077】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限の間にある値、およびその記載された範囲内の他の記載またはその間にある値は、本開示の範囲内に含まれることが理解される。記載された範囲が上限または下限を含む場合、これらの含まれる制限のいずれかを除外する範囲もまた、本開示に含まれる。
【0078】
本明細書に記載される様々な実施形態の1つ、いくつか、またはすべての性質は、本発明の他の実施形態を形成するために組み合わされてもよいことを理解すべきである。本明細書で使用されるセクションの見出しは、組織的目的のためだけのものであり、記載される技術内容を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0079】
本明細書に記載される方法により保存または分析される組織には、器官全体またはその一部が含まれる。代表的な器官としては、脳、膀胱、心臓、胆嚢、腸(例えば、大腸または小腸)、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、脾臓、胃、胸腺、または子宮が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、組織は神経組織である。いくつかの実施形態では、脳の一部は、大脳、大脳皮質、脳梁、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、視床、視床上部、松果腺、視床下部、下垂体、視床腹部、海馬、前障、小脳、側頭葉、脳幹、脳橋、中脳、または延髄を含む、である、またはその一部である。いくつかの実施形態では、動物全体を保存する。
【0080】
本明細書に記載される方法は、器官を含む、大きく、無傷の組織の保存を可能にする。大きな器官には、脈管構造に変形形態が含まれ、事前に定義される灌流スケジュールを使用する場合、常に均一に灌流するとは限らない。本明細書に記載する方法は、組織内の流体の灌流を動的にモニターすることを含み、大きな組織を高品質で保存することを可能にする。いくつかの実施形態では、保存組織は、約100cmまたはそれより大きい(例えば、約120cmまたはそれより大きい、約150cmまたはそれより大きい、約200cmまたはそれより大きい、約400cmまたはそれより大きい、約600cmまたはそれより大きい、約800cmまたはそれより大きい、約1000cmまたはそれより大きい、または約1200cmまたはそれより大きい)体積を有する。
【0081】
組織は、脊椎動物などの対象由来のものである。いくつかの実施形態では、対象は、ヒトまたは非ヒト動物などの哺乳類である。代表的な非ヒト動物としては、げっ歯類(例えば、マウス、ラット(rates)、モルモット、またはハムスター)、非ヒト霊長類(例えば、サル、類人猿、チンパンジー、ヒヒ、ゴリラなど)、ニワトリ、ウシ、ブタ、ネコ、イヌ、またはウサギが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、組織は、保存前に動物から取り出す。いくつかの実施形態では、組織は、動物中の所定場所に保存する(すなわち、in situ)。いくつかの実施形態では、対象は、組織の保存前に死亡している。いくつかの実施形態では、対象は、保存プロセス中に安楽死させられる。好ましくは、対象が保存プロセス中に安楽死させられる場合、対象は、保存プロセスの前に麻酔される。いくつかの実施形態では、方法は、組織の保存前または保存後のいずれかにて、対象から組織を取り出すことを含む。
【0082】
洗浄流体、固定流体、または凍結保護流体などの流体を、組織へ灌流する。いくつかの実施形態では、流体を、循環系および/またはリンパ系を通して組織へ灌流する。いくつかの実施形態では、1またはそれを超える流体を、組織または器官につながる動脈を通して組織へ灌流し、流体を、組織または器官からくる静脈から排出する。例えば、いくつかの実施形態では、脳の灌流は、頸動脈(例えば、総頸動脈、内頸動脈、または外頸動脈)への流体の灌流を含み、また流体は頸静脈(例えば、内頸動脈または外頸静脈)から排出される。
【0083】
組織の灌流には、組織への流体の送達、および組織からの流体の排出が含まれる。これにより、流体の交換が可能になる。例えば、洗浄工程中に洗浄流体が組織に送達し、血液が組織から排出される。組織の固定工程中に、固定化流体が組織に送達し、洗浄流体が組織から排出される。凍結保護工程中、凍結保護流体が組織に送達し、固定化流体が組織から排出される。洗浄工程または固定工程をプロセスの次の工程(すなわち、固定工程または凍結保護工程)に移動することは、個別に(すなわち、洗浄流体を組織に灌流することから固定化流体を組織に灌流すること、または固定化流体を組織に灌流することから凍結保護流体を組織に灌流することへの即時の切り替え)、または勾配として(すなわち、組織に送達される固定化流体または凍結保護流体の比率を徐々に増加させる)、生じる可能性がある。排出された流体は、処分するか、組織を通して再循環させることができる。例えば、いくつかの実施形態では、組織に送達された固定化流体を組織から排出して、それから、灌流工程中に組織に再循環させる。
【0084】
洗浄流体と組織の洗浄
組織を洗浄流体で灌流することにより、組織を洗浄する。洗浄流体は、例えば、血管を拡張する、血餅を溶解する、または固定のための組織を調製する、1またはそれを超える化合物を含む水溶液である。洗浄流体は、例えば動脈を介して、組織に注ぎ込まれ、また洗浄流体は、例えば静脈を介して、組織から排出される。洗浄流体を使用して組織を洗浄し、組織から赤血球を除去する。固定工程中に組織内に残っている赤血球は、毛細血管床の硬直と閉塞を増加させることになり得る。最初のカニューレを動脈に挿入して洗浄流体を送達させ、それから2番目のカニューレを静脈に挿入するか、静脈を切断して流体を排出し得る。組織から排出される流体には、血液と洗浄流体の混合物、または以前に排出された血液、洗浄流体が含まれ得る。いくつかの実施形態では、組織から排出された流体は、排出後に処分する。
【0085】
洗浄流体は、組織を洗浄して血液を除去するのに好適な水性液体を含み得る。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、生理食塩水などの晶質ベースの溶液を含む。いくつかの実施形態では、洗浄流体を緩衝剤で処理する。いくつかの実施形態では、水溶液は、緩衝化生理食塩水または等張生理食塩水などの塩類溶液である。代表的な緩衝生理食塩溶液には、リン酸緩衝化生理食塩水またはKrebs-Ringer液が含まれる。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、対象からの血液の浸透圧と等張またはほぼ等張である。洗浄流体は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、または塩化カルシウムなどの塩を含むことができる。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、緩衝剤、例えば、リン酸緩衝液(例えば、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウム)、炭酸ナトリウム、またはHEPES)のうち、1またはそれを超える緩衝剤を含む。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、固定流体において組織をさらに調整するための1またはそれを超える添加物を含む。代表的な添加剤としては、イオンチャネル遮断剤、イオン受容体遮断剤、カルシウムキレート剤、呼吸器毒、シナプス毒、血管拡張薬、膨脹剤、麻酔薬、血栓溶解剤、抗血小板剤、イオン性界面活性剤、および/または凝固阻止剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
いくつかの実施形態では、洗浄流体のpHは約7~約8(例えば、約7.2~約7.8、または約7.4~約7.6)である。
【0087】
組織保存の固定工程中に、イオンチャネルが開いたり、さもなければ破壊されたりして、イオンが細胞膜を越えて大量に流動することになり得る。イオンの大量流動は、構造変化、例えば、組織内の細胞外空間の喪失またはミトコンドリアの液胞化を引き起こし得る。洗浄流体のための調製における組織のコンディショニングのために、いくつかの実施形態では、洗浄流体は、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤を含む。代表的なイオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤としては、コノトキシン(例えば、α-コノトキシン、γ-コノトキシン、κ-コノトキシン、ω-ココノトキシン、またはμ-コノトキシン、それらはナトリウムチャネル、カリウムチャネル、およびカルシウムチャネルを遮断するように作用する)、テトロドトキシン(ナトリウムチャネルを遮断するように作用する)、コナントキン(例えば、コナントキン-G、コナントキン-T、コナントキン-R、コナントキン-P、またはコナントキン-E、これはN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)を阻害する)、クラーレ(アセチルコリンチャネルを遮断する)、またはバリウム(カリウムチャネルを遮断する)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤は、約50ng/Lまたはそれより高い(例えば、約100ng/Lまたはそれより高い、約250ng/Lまたはそれより高い、約500ng/Lまたはそれより高い、約1μg/Lまたはそれより高い、約2.5μg/Lまたはそれより高い、約5μg/Lまたはそれより高い、約10μg/Lまたはそれより高い、約25μg/Lまたはそれより高い、約50μg/Lまたはそれより高い、約100μg/Lまたはそれより高い、約250μg/Lまたはそれより高い、約500μg/Lまたはそれより高い、約1mg/Lまたはそれより高い、約2.5mg/Lまたはそれより高い、約5mg/Lまたはそれより高い、約10mg/Lまたはそれより高い、約25mg/Lまたはそれより高い、約50mg/Lまたはそれより高い、約100mg/Lまたはそれより高い、あるいは約250mg/Lまたはそれより高い)濃度で洗浄流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤は、約500mg/Lまたはそれ未満(例えば、約250mg/Lまたはそれ未満、約100mg/Lまたはそれ未満、約50mg/Lまたはそれ未満、約25mg/Lまたはそれ未満、約10mg/Lまたはそれ未満、約5mg/Lまたはそれ未満、約2.5mg/Lまたはそれ未満、約1mg/Lまたはそれ未満、約500μg/Lまたはそれ未満、約250μg/Lまたはそれ未満、約100μg/Lまたはそれ未満、約50μg/Lまたはそれ未満、約25μg/Lまたはそれ未満、約10μg/Lまたはそれ未満、約5μg/Lまたはそれ未満、約2.5μg/Lまたはそれ未満、約1μg/Lまたはそれ未満、約500ng/Lまたはそれ未満、約250ng/Lまたはそれ未満、あるいは約100ng/Lまたはそれ未満)濃度で洗浄流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、イオンチャネル遮断剤および/またはイオン受容体遮断剤の組み合わせを含む。単なる例として、いくつかの実施形態では、洗浄流体は、約50ng/L~約5μg/Lの濃度のコノトキシン(例えば、κ-コノトキシン)、約500ng/L~約25mg/Lの濃度のテトロドトキシン、約250ng/L~約10mg/Lの濃度のコナントキン-G、および約5mg/L~約50mg/Lの濃度のクラーレを含む。
【0088】
組織をコンディショニングしなければ、組織への固定流体の導入により、筋肉の収縮(「固定振戦」とも呼ばれる)を引き起こし、そのために灌流の途絶(例えば、毛細血管を閉じるか、灌流カニューレを取り出すことによって)、または器官の歪みを引き起こす可能性がある。例えば、Gageら、Whole Animal Perfusion Fixation for Rodents、J.Visualized Experiments、vol.65、e3564(2012)を参照のこと。固定振戦を抑制するために、カルシウムキレート剤を洗浄流体に含め得る。カルシウムキレート剤はまた、カルシウムの流入で自己破壊するニューロンや他細胞の虚血カスケード初期段階を防ぐように作用し得る。加えて、カルシウムキレート剤は、血液凝固を妨げる可能性があり、そうでなければ、組織の至る所で、血液の不完全な洗い流し、または不十分な灌流につながる。代表的なカルシウムキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エグタズ酸(EGTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)、またはクエン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、カルシウムキレート剤は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.25g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、約2g/Lまたはそれより高い、約3g/Lまたはそれより高い、あるいは約4g/Lまたはそれより高い)濃度で洗浄流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、カルシウムキレート剤は、約5g/Lまたはそれ未満(例えば、約4g/Lまたはそれ未満、約3g/Lまたはそれ未満、約2g/Lまたはそれ未満、約1g/Lまたはそれ未満、約0.5g/Lまたはそれ未満、あるいは約0.25g/Lまたはそれ未満)濃度で洗浄流体中に含まれる。
【0089】
多くの自己分解性プロセスは機能するためにエネルギーを必要とするため、呼吸器毒を使用して呼吸を防ぐことで、洗い流し中の自己分解性の腐敗、またはミトコンドリアの膨化を緩和し得る。いくつかの実施形態では、洗浄流体は呼吸器毒を含む。代表的な呼吸器毒としては、アジド(例えば、アジ化ナトリウム)またはシアン化物(例えば、シアン化ナトリウム)が挙げられる。アジ化ナトリウムおよびシアン化ナトリウムは、シトクロムcオキシダーゼを阻害し、また細胞呼吸を止める。自己分解性の変化を最小限に抑えることに加えて、呼吸器毒はまた、グルタルアルデヒドなど、固定流体に存在する可能性のある特定のアルデヒドに、ミトコンドリアがさらされる場合によく起こる、ミトコンドリアの空胞化も止める。いくつかの実施形態では、洗浄流体中の呼吸器毒の濃度は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、あるいは約1.5g/Lまたはそれより高い)である。いくつかの実施形態では、洗浄流体中の呼吸器毒の濃度は、約2g/Lまたはそれより低い(例えば、約1.5g/Lまたはそれより低い、約1g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)である。
【0090】
固定流体に存在するアルデヒドに組織をさらすと、ニューロン中の結合した小胞の喪失につながる可能性がある。結合した小胞は、神経伝達物質を含み、神経シナプスに極めて接近して位置している。結合した小胞は、シナプス伝達に影響を与えるシナプスに、すぐに利用可能な神経伝達物質のストックを供給する。組織が洗浄流体で前処理されていない場合、固定工程中に、これらの小胞が失われる可能性がある。いくつかの実施形態では、シナプス毒(例えば、SNARE阻害剤)が、洗浄流体に含まれる。代表的なシナプス毒としては、ボツリヌス毒素または破傷風毒素が挙げられる。ボツリヌス毒素は、アセチルコリンシナプスと結合した小胞の融合に必要なSNARE(可溶性NSF付着タンパク質受容体)タンパク質を切断する。破傷風毒素は、脳組織内を含む中枢神経系のSNAREタンパク質を不安定化する。いくつかの実施形態では、洗浄流体中のシナプス毒の濃度は、約0.1ng/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2ng/Lまたはそれより高い、約0.5ng/Lまたはそれより高い、約1ng/Lまたはそれより高い、約2ng/Lまたはそれより高い、約5ng/Lまたはそれより高い、約10ng/Lまたはそれより高い、約25ng/Lまたはそれより高い、約50ng/Lまたはそれより高い、約100ng/Lまたはそれより高い、あるいは約150ng/Lまたはそれより高い)である。いくつかの実施形態では、洗浄流体中のシナプス毒の濃度は、約200ng/Lまたはそれより低い(例えば、約150ng/Lまたはそれより低い、約100ng/Lまたはそれより低い、約50ng/Lまたはそれより低い、約25ng/Lまたはそれより低い、約10ng/Lまたはそれより低い、約5ng/Lまたはそれより低い、約2ng/Lまたはそれより低い、約1ng/Lまたはそれより低い、約0.5ng/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2ng/Lまたはそれより低い)。
【0091】
固定中の組織における浮腫のリスクを最小限に抑えるために、いくつかの実施形態では、膨脹剤が洗浄流体に含まれる。代表的な膨脹剤としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、およびヒドロキシエチルデンプン(HES)が挙げられる。洗浄流体に含まれるPEGは、通常、高分子量PEGであり、例えば約20,000Daまたはそれより高い(例えば、約25,000Daもしくはそれより高い、または約30,000Daもしくはそれより高い)分子量を有する。
【0092】
いくつかの実施形態では、イオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、またはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS))が、洗浄流体に含まれる。イオン界面活性剤は、凍結保護プロセス中の組織収縮を防ぐために使用し得る。いくつかの実施形態では、イオン性界面活性剤は、約0.001%w/vまたはそれより高い(例えば、約0.002%w/vまたはそれより高い、約0.005%w/vまたはそれより高い、あるいは約0.01%w/vまたはそれより高い)濃度で洗浄流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、イオン性界面活性剤は、約0.05%w/vまたはそれより低い(例えば、約0.04%w/vまたはそれより低い、約0.02%w/vまたはそれより低い、あるいは約0.01%w/vまたはそれより低い)濃度で洗浄流体中に含まれる。
【0093】
組織の洗浄中の血液凝固を制限するために、いくつかの実施形態では、洗浄流体は、凝固阻止剤、例えば、ワルファリン、ヘパリン、ヘパリノイド、第Xa因子阻害剤、またはトロンビン阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、抗血小板剤、例えば、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(例えばアスピリンまたはトリフルサル)、アデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤(例えば、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル、チクロピジン)、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、シロスタゾール)、プロテアーゼ活性化受容体-1(PAR-1)遮断薬(例えば、ボラパクサール)、糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン)、アデノシン再取り込み阻害剤(例えば、ジピリダモール)、またはトロンボキサン阻害剤、が含まれる。
【0094】
いくつかの実施形態において、洗浄流体は、対象の死亡後または組織における虚血の発症後に、組織に灌流される。しかしながら、死亡直後(例えば、約5分)から死亡後約8~12時間で、組織の洗浄を開始すると、灌流は、血液凝固、血管周囲性死硬直、および「非リフロー」効果によって、複雑になる。これらの発生は、低流量、および一貫性のない組織保存をもたらし得る。対象の死亡または組織で虚血の発症後に、洗浄流体のより効率的かつ完全な灌流を可能にするため、いくつかの実施形態では、洗浄流体は、1またはそれを超える血管拡張薬、1またはそれを超える血栓溶解剤、および/またはアデノシン三リン酸(ATP)を含む。代表的な血管拡張薬としては、亜硝酸ナトリウム、ニトログリセリン、一硝酸イソソルビド、二硝酸イソソルビド、トシル酸イトラミン、四硝酸ペンタエリトリチル、硝酸プロパチル、テニトラミン、トロールニトラート、またはモルシドミンが挙げられる。いくつかの実施形態では、血管拡張薬は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、あるいは約0.7g/Lまたはそれより高い)濃度で洗浄流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、血管拡張薬は、約1g/Lまたはそれより低い(例えば、約0.7g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)濃度で洗浄流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、ATPは、約1mMまたはそれより高い(例えば、約2mMまたはそれより高い、約5mMまたはそれより高い、約10mMまたはそれより高い、あるいは約25mMまたはそれより高い濃度)濃度で洗浄流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、ATPは、約50mMまたはそれより低い(例えば、約25mMまたはそれより低い、約10mMまたはそれより低い、約5mMまたはそれより低い、あるいは約2mMまたはそれより低い)濃度で洗浄流体中に含まれる。代表的な血栓溶解剤としては、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、または他の血餅破壊剤が挙げられる。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、約0.025mg/Lまたはそれより高い(例えば、約0.05mg/Lもしくはそれより高い、約0.1mg/Lもしくはそれより高い、約0.2mg/Lもしくはそれより高い、または約0.5mg/Lもしくはそれより高い)濃度の血栓溶解剤を含む。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、約1mg/Lまたはそれより低い(例えば、約0.5mg/Lもしくはそれより低い、約0.2mg/Lもしくはそれより低い、約0.1mg/Lもしくはそれより低い、または約0.05mg/Lもしくはそれより低い)濃度の血栓溶解剤を含む。
【0095】
いくつかの実施形態において、対象および/または組織は、血栓溶解剤(例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、または他の血餅破壊剤のうち、1またはそれを超えるもの)で、前処置される。例えば、血栓溶解剤は、洗浄流体よりも高い濃度で予洗液(例えば、生理食塩水を含み得る)と混合し、対象に投与し得る。いくつかの実施形態では、予洗液を灌流する代わりに、予洗液を注射により投与する。いくつかの実施形態では、予洗液は心肺圧迫(すなわち、心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR圧迫))によって循環される。いくつかの実施形態では、予洗液中の血栓溶解剤の濃度は、約0.1mg/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2mg/Lまたはそれより高い、約0.5mg/Lまたはそれより高い、約1mg/Lまたはそれより高い、あるいは約1.5mg/Lまたはそれより高い)。いくつかの実施形態では、予洗液中の血栓溶解剤の濃度は、約2mg/Lまたはそれより低い(例えば、約1.5mg/Lまたはそれより低い、約1mg/Lまたはそれより低い、約0.5mg/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2mg/Lまたはそれより低い)。
【0096】
いくつかの実施形態では、対象は、洗浄流体の灌流中に安楽死させられる。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、麻酔薬(例えば、ケタミン)、フェニトイン、および/またはバルビタール酸塩(例えば、ペントバルビタール)を含む。
【0097】
いくつかの実施形態では、洗浄流体を、約60mmHg~約140mmHg(例えば、約60mmHg~約80mmHg、約80mmHg~約100mmHg、約100mmHg~約120mmHg、または約120mmHg~約140mmHg)の圧力で、組織へ灌流する。
【0098】
いくつかの実施形態では、洗浄流体は、組織に灌流される前に、室温未満に冷却される。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、約20℃またはそれ未満(例えば、約15℃もしくはそれ未満または約10℃もしくはそれ未満)に冷却される。洗浄流体は、組織に灌流され得るように、凍結温度より高く維持しなければならない。
【0099】
いくつかの実施形態では、洗浄流体は灌流前にろ過される。いくつかの実施形態では、洗浄流体は灌流前に滅菌ろ過される。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、約0.5μmまたはそれより小さい、例えば約0.22μmまたはそれより小さい平均孔径を有するフィルターでろ過される。
【0100】
いくつかの実施形態では、洗浄流体は、組織に灌流される前に酸素添加される。例えば、いくつかの実施形態では、酸素は、洗浄溶液を通じて、約10分間もしくはそれより長く、約15分間もしくはそれより長く、約30分間もしくはそれより長く、約45分間もしくはそれより長く、または約1時間もしくはそれより長く、組織に灌流される前にバブリングされる。
【0101】
洗浄流体での組織の洗浄は、死亡前、死亡後、または死亡時に開始し得る。いくつかの実施形態では、組織の洗浄は、対象の死亡から約1分間またはそれより長くの後に(例えば、死亡から約3分間またはそれより長く、約5分間またはそれより長く、約15分間またはそれより長く、約30分間またはそれより長く、約1時間またはそれより長く、約2時間またはそれより長く、約3時間またはそれより長く、約6時間またはそれより長く、あるいは約8時間またはそれより長くの後に)開始される。いくつかの実施形態では、組織の洗浄は、死亡から約24時間またはそれ未満の後に(例えば、死亡から約16時間またはそれ未満、約12時間またはそれ未満、約8時間またはそれ未満、約6時間またはそれ未満、約3時間またはそれ未満、約2時間またはそれ未満、約1時間またはそれ未満、約30分間またはそれ未満、あるいは約15分間またはそれ未満の後に)開始される。
【0102】
洗浄流体での組織の洗浄は、呼吸活動の喪失、心拍の喪失、または脳の活動の喪失のうち、1またはそれを超えるものの前、後、またはその時点で開始し得る。いくつかの実施形態では、組織の洗浄は、対象の呼吸活動の喪失、心拍の喪失、または脳の活動の喪失のうち、1またはそれを超えるものから約1分間またはそれより長くの後に(例えば、呼吸活動の喪失、心拍の喪失、または脳の活動の喪失のうち、1またはそれを超えるものから約3分間またはそれより長く、約5分間またはそれより長く、約15分間またはそれより長く、約30分間またはそれより長く、約1時間またはそれより長く、約2時間またはそれより長く、約3時間またはそれより長く、約6時間またはそれより長く、あるいは約8時間またはそれより長くの後に)開始される。いくつかの実施形態では、組織の洗浄は、呼吸活動の喪失、心拍の喪失、または脳の活動の喪失のうち、1またはそれを超えるものから約24時間またはそれ未満の後に(例えば、呼吸活動の喪失、心拍の喪失、または脳の活動の喪失のうち、1またはそれを超えるものから約16時間またはそれ未満、約12時間またはそれ未満、約8時間またはそれ未満、約6時間またはそれ未満、約3時間またはそれ未満、約2時間またはそれ未満、約1時間またはそれ未満、約30分間またはそれ未満、あるいは約15分間またはそれ未満の後に)開始される。
【0103】
いくつかの実施形態では、組織は、組織で虚血の発症前、発症後、または発症時に洗浄される。いくつかの実施形態では、組織の洗浄は、組織の虚血の発症から約1分間またはそれより長くの後に(例えば、組織の虚血の発症から約3分間またはそれより長く、約5分間またはそれより長く、約15分間またはそれより長く、約30分間またはそれより長く、約1時間またはそれより長く、約2時間またはそれより長く、約3時間またはそれより長く、約6時間またはそれより長く、あるいは約8時間またはそれより長くの後に)開始される。いくつかの実施形態では、組織の洗浄は、組織の虚血の発症から約24時間またはそれ未満の後に(例えば、組織の虚血の発症から約16時間またはそれ未満、約12時間またはそれ未満、約8時間またはそれ未満、約6時間またはそれ未満、約3時間またはそれ未満、約2時間またはそれ未満、約1時間またはそれ未満、約30分間またはそれ未満、あるいは約15分間またはそれ未満の後に)開始される。
【0104】
図1は、組織を洗浄流体で灌流するための代表的な構成を示す。洗浄流体は、ぜん動ポンプによって、1またはそれを超える動脈(例えば、頸動脈など)を通して、組織に送り込まれ、それから静脈(例えば、頸静脈)から流体が排出される。洗浄流体は容器内に保持され、またポンプ(例えば、ぜん動ポンプ)は、洗浄流体を所望の圧力(例えば、約80mmHg)にて組織へ送り込む。対象に入る前に、流体は滅菌フィルターおよび熱交換器を通過して、洗浄流体を滅菌および冷却する。温度計と圧力計もまた、組織を灌流する洗浄流体の温度と圧力をモニターするため、構成に含まれ得る。
【0105】
いくつかの実施形態では、洗浄流体での組織の灌流は、分布についてモニターされる。いくつかの実施形態では、洗浄流体は、色素(例えば、放射線不透過性色素)、または造影剤を含む。代表的な造影剤または放射線不透過性色素としては、ヨウ化物塩(例えば、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウム)、バリウム塩(例えば、塩化バリウム)、重金属(例えば、鉛または金)とのキレート錯体、またはガドリニウムが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、洗浄流体中の色素の濃度は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、約2g/Lまたはそれより高い、約5g/Lまたはそれより高い、あるいは約10g/Lまたはそれより高い)。いくつかの実施形態では、洗浄流体中の色素の濃度は、約20g/Lまたはそれより低い(例えば、約10g/Lまたはそれより低い、約5g/Lまたはそれより低い、約2g/Lまたはそれより低い、約1g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)。いくつかの実施形態において、分布は、CT、マイクロCT、X線、またはMRIによって、モニターされる。
【0106】
固定流体および組織の固定
組織を洗浄した後、固定流体を組織に灌流する。固定流体は、組織内に架橋を形成することによって、組織を固定する。架橋は、組織の微細構造を安定化し、保存組織の分析を可能にする。一旦組織が固定流体によって保存されると、凍結保護流体からの組織への影響が最小限に抑えられる。固定流体は、水溶液中に、固定剤、例えばアルデヒドを含む。固定化流体に含まれる代表的なアルデヒドとしては、ホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒドが挙げられる。
【0107】
いくつかの実施形態では、固定流体は緩衝剤を含む。代表的な緩衝剤としては、リン酸緩衝剤(例えば、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウム)、炭酸ナトリウム、またはHEPESが挙げられる。いくつかの実施形態では、固定流体は、塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、または塩化カルシウムのうち、1またはそれを超える塩を含む。いくつかの実施形態では、固定流体のpHは、約7~約8(例えば、約7.2~約7.8、または約7.4~約7.6)である。
【0108】
アルデヒド、例えば、グルタルアルデヒドまたはホルムアルデヒドを、固定流体に含め得る。いくつかの実施形態では、固定流体は、約1%(重量で)のアルデヒドまたはそれより多く(例えば、約1.5%またはそれより多く、約2%またはそれより多く、約2.5%またはそれより多く、あるいは約3%またはそれより多く)を含む。いくつかの実施形態では、固定流体は、約6%またはそれ未満のアルデヒド(例えば、約5.5%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4.5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3.5%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2.5%またはそれ未満、あるいは約2%またはそれ未満のアルデヒド)を含む。いくつかの実施形態では、固定流体は、約1%(重量で)のグルタルアルデヒドまたはそれより多く(例えば、約1.5%またはそれより多く、約2%またはそれより多く、約2.5%またはそれより多く、あるいは約3%またはそれより多く)を含む。いくつかの実施形態では、固定流体は、約6%またはそれ未満グルタルアルデヒド(例えば、約5.5%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4.5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3.5%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2.5%またはそれ未満、あるいは約2%またはそれ未満のアルデヒド)を含む。いくつかの実施形態では、固定流体は、約1%(重量で)のホルムアルデヒドまたはそれより多く(例えば、約1.5%またはそれより多く、約2%またはそれより多く、約2.5%またはそれより多く、あるいは約3%またはそれより多く)を含む。いくつかの実施形態では、固定流体は、約6%またはそれ未満のホルムアルデヒド(例えば、約5.5%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4.5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3.5%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2.5%またはそれ未満、あるいは約2%またはそれ未満のアルデヒド)を含む。
【0109】
いくつかの実施形態では、固定流体は、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤を含む。代表的なイオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤としては、コノトキシン(例えば、α-コノトキシン、γ-コノトキシン、κ-コノトキシン、ω-ココノトキシン、またはμ-コノトキシン、それらはナトリウムチャネル、カリウムチャネル、およびカルシウムチャネルを遮断するように作用する)、テトロドトキシン(ナトリウムチャネルを遮断するように作用する)、コナントキン(例えば、コナントキン-G、コナントキン-T、コナントキン-R、コナントキン-P、またはコナントキン-E、これはN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)を阻害する)、クラーレ(アセチルコリンチャネルを遮断する)、またはバリウム(カリウムチャネルを遮断する)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤は、約50ng/Lまたはそれより高い(例えば、約100ng/Lまたはそれより高い、約250ng/Lまたはそれより高い、約500ng/Lまたはそれより高い、約1μg/Lまたはそれより高い、約2.5μg/Lまたはそれより高い、約5μg/Lまたはそれより高い、約10μg/Lまたはそれより高い、約25μg/Lまたはそれより高い、約50μg/Lまたはそれより高い、約100μg/Lまたはそれより高い、約250μg/Lまたはそれより高い、約500μg/Lまたはそれより高い、約1mg/Lまたはそれより高い、約2.5mg/Lまたはそれより高い、約5mg/Lまたはそれより高い、約10mg/Lまたはそれより高い、約25mg/Lまたはそれより高い、約50mg/Lまたはそれより高い、約100mg/Lまたはそれより高い、あるいは約250mg/Lまたはそれより高い)濃度で固定流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤は、約500mg/Lまたはそれより低い(例えば、約250mg/Lまたはそれより低い、約100mg/Lまたはそれより低い、約50mg/Lまたはそれより低い、約25mg/Lまたはそれより低い、約10mg/Lまたはそれより低い、約5mg/Lまたはそれより低い、約2.5mg/Lまたはそれより低い、約1mg/Lまたはそれより低い、約500μg/Lまたはそれより低い、約250μg/Lまたはそれより低い、約100μg/Lまたはそれより低い、約50μg/Lまたはそれより低い、約25μg/Lまたはそれより低い、約10μg/Lまたはそれより低い、約5μg/Lまたはそれより低い、約2.5μg/Lまたはそれより低い、約1μg/Lまたはそれより低い、約500ng/Lまたはそれより低い、約250ng/Lまたはそれより低い、あるいは約100ng/Lまたはそれより低い)濃度で固定流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、固定流体は、イオンチャネル遮断剤および/またはイオン受容体遮断剤の組み合わせを含む。単なる例として、いくつかの実施形態では、固定流体は、約50ng/L~約5μg/Lの濃度のコノトキシン(例えば、κ-コノトキシン)、約500ng/L~約25mg/Lの濃度のテトロドトキシン、約250ng/L~約10mg/Lの濃度のコナントキン-G、および約5mg/L~約50mg/Lの濃度のクラーレを含む。
【0110】
いくつかの実施形態では、固定流体は、カルシウムキレート剤を含む。代表的なカルシウムキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エグタズ酸(EGTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)、またはクエン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、カルシウムキレート剤は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.25g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、約2g/Lまたはそれより高い、約3g/Lまたはそれより高い、あるいは約4g/Lまたはそれより高い)濃度で固定流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、カルシウムキレート剤は、約5g/Lまたはそれより低い(例えば、約4g/Lまたはそれより低い、約3g/Lまたはそれより低い、約2g/Lまたはそれより低い、約1g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.25g/Lまたはそれより低い)濃度で固定流体中に含まれる。
【0111】
いくつかの実施形態では、固定流体は呼吸器毒を含む。代表的な呼吸器毒としては、アジド(例えば、アジ化ナトリウム)またはシアン化物(例えば、シアン化ナトリウム)が挙げられる。いくつかの実施形態では、固定流体中の呼吸器毒の濃度は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、あるいは約1.5g/Lまたはそれより高い)。いくつかの実施形態では、固定流体中の呼吸器毒の濃度は、約2g/Lまたはそれより低い(例えば、約1.5g/Lまたはそれより低い、約1g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)。
【0112】
いくつかの実施形態では、シナプス毒(例えば、SNARE阻害剤)が、固定流体に含まれる。代表的なシナプス毒としては、ボツリヌス毒素または破傷風毒素が挙げられる。いくつかの実施形態では、ボツリヌス毒素および破傷風毒素の両方が、固定流体に含まれる。いくつかの実施形態では、固定流体中のシナプス毒の濃度は、約0.1ng/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2ng/Lまたはそれより高い、約0.5ng/Lまたはそれより高い、約1ng/Lまたはそれより高い、約2ng/Lまたはそれより高い、約5ng/Lまたはそれより高い、約10ng/Lまたはそれより高い、約25ng/Lまたはそれより高い、約50ng/Lまたはそれより高い、約100ng/Lまたはそれより高い、あるいは約150ng/Lまたはそれより高い)。いくつかの実施形態では、固定流体中のシナプス毒の濃度は、約200ng/Lまたはそれより低い(例えば、約150ng/Lまたはそれより低い、約100ng/Lまたはそれより低い、約50ng/Lまたはそれより低い、約25ng/Lまたはそれより低い、約10ng/Lまたはそれより低い、約5ng/Lまたはそれより低い、約2ng/Lまたはそれより低い、約1ng/Lまたはそれより低い、約0.5ng/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2ng/Lまたはそれより低い)。
【0113】
いくつかの実施形態では、固定流体は血管拡張薬を含む。代表的な血管拡張薬としては、亜硝酸ナトリウム、ニトログリセリン、一硝酸イソソルビド、二硝酸イソソルビド、トシル酸イトラミン、四硝酸ペンタエリトリチル、硝酸プロパチル、テニトラミン、トロールニトラート、またはモルシドミンが挙げられる。いくつかの実施形態では、血管拡張薬は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、あるいは約0.7g/Lまたはそれより高い)濃度で固定流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、血管拡張薬は、約1g/Lまたはそれより低い(例えば、約0.7g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)濃度で固定流体中に含まれる。
【0114】
いくつかの実施形態では、イオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、またはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS))が、固定流体に含まれる。イオン界面活性剤は、凍結保護プロセス中の組織収縮を防ぐために使用し得る。いくつかの実施形態では、イオン性界面活性剤は、約0.001%w/vまたはそれより高い(例えば、約0.002%w/vまたはそれより高い、約0.005%w/vまたはそれより高い、あるいは約0.01%w/vまたはそれより高い)濃度で固定流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、イオン性界面活性剤は、約0.05%w/vまたはそれより低い(例えば、約0.04%w/vまたはそれより低い、約0.02%w/vまたはそれより低い、あるいは約0.01%w/vまたはそれより低い)濃度で固定流体中に含まれる。
【0115】
いくつかの実施形態では、固定流体での組織の灌流は、分布について動的にモニターされる。いくつかの実施形態では、固定流体は、色素(例えば、放射線不透過性色素)、または造影剤を含む。代表的な造影剤または放射線不透過性色素としては、ヨウ化物塩(例えば、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウム)、バリウム塩(例えば、塩化バリウム)、重金属(例えば、鉛または金)とのキレート錯体、またはガドリニウムが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、固定流体中の色素の濃度は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、約2g/Lまたはそれより高い、約5g/Lまたはそれより高い、あるいは約10g/Lまたはそれより高い)。いくつかの実施形態では、固定流体中の色素の濃度は、約20g/Lまたはそれより低い(例えば、約10g/Lまたはそれより低い、約5g/Lまたはそれより低い、約2g/Lまたはそれより低い、約1g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)。いくつかの実施形態において、固定流体の分布は、CT、マイクロCT、X線、またはMRIによって、モニターされる。
【0116】
いくつかの実施形態では、固定流体は、2またはそれを超える段階で組織に灌流される。組織に灌流される第1段階の固定流体は、第2段階またはその後段階の固定流体から除かれた添加物(または異なる濃度の添加物)を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、第1段階の固定流体は、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤、呼吸器毒、カルシウムキレート剤、シナプス毒、および/または血管拡張薬を含むことができ、第2段階以降の固定流体は、任意の1またはそれを超えるこれらの化合物を省略し得る。いくつかの実施形態では、アルデヒドの濃度は異なっていてもよいけれども、固定流体のすべての段階は、アルデヒドを含むべきである。任意の所定段階から後段階への灌流の移行は、別個であり得る(つまり、前段階の組織への固定流体の灌流は、後段階の組織への固定流体の灌流の開始時に終了する)、または勾配として(例えば、前段階の組織への固定流体の灌流が終了するまで、前段階の固定流体の相対量を減少させると同時に、後段階の固定流体の相対量を増加させる)であり得る。
【0117】
いくつかの実施形態では、固定流体を、約60mmHg~約140mmHg(例えば、約60mmHg~約80mmHg、約80mmHg~約100mmHg、約100mmHg~約120mmHg、または約120mmHg~約140mmHg)の圧力で、組織へ灌流する。
【0118】
いくつかの実施形態では、固定流体は灌流前にろ過される。いくつかの実施形態では、固定流体は灌流前に滅菌ろ過される。いくつかの実施形態では、固定流体は、約0.5μmまたはそれより小さい、例えば約0.22μmまたはそれより小さい平均孔径を有するフィルターでろ過される。
【0119】
凍結保護流体および組織の凍結保護
一旦組織を固定流体で灌流することによって、組織を固定したら、組織を凍結保護流体で灌流することによって、組織を凍結保護する。凍結保護流体には、組織を氷点下の温度に冷却(またはガラス化)する際、氷晶の形成を抑制するガラス化剤を含む。氷晶は、冷却および保管中の組織の微小解剖学的破壊を回避するため、最小限に抑える必要がある。いくつかの実施形態では、凍結保護物質は、組織を冷却(またはガラス化)する際、氷晶の形成を阻害する。
【0120】
代表的なガラス化剤としては、グリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、および/またはポリエチレングリコール(PEG)のうち、1またはそれを超えるものが挙げられる。いくつかの実施形態では、ポリエチレングリコールは、約200~約10,000ダルトン(Da)(例えば、約200Da~約400Da、約400Da~約1000Da、約1000Da~約2000Da、約2000Da~約4000Da、あるいは約4000Da~約10,000Da)分子量を有する。いくつかの実施形態では、ポリエチレングリコールは、約200Daまたはそれより高い(例えば、約400Daまたはそれより高い、約1000Daまたはそれより高い、約2000Daまたはそれより高い、あるいは約4000Daまたはそれより高い)分子量を有する。いくつかの実施形態では、ポリエチレングリコールは、約10,000Daまたはそれより低い(例えば、約4000Daまたはそれより低い、約2000Daまたはそれより低い、約1000Daまたはそれより低い、あるいは約400Daまたはそれより低い)分子量を有する。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、2またはそれを超える異なるガラス化剤を含む。例として、いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、エチレングリコール、PEG200、およびPEG400を含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体中のいずれか1つまたはそれより多くのガラス化剤(例えば、エチレングリコールまたはポリエチレングリコール)の濃度または複数のガラス化剤の合計濃度は、約0.1%またはそれより高い(例えば、約0.5%またはそれより高い、約1%またはそれより高い、約5%またはそれより高い、約10%またはそれより高い、約30%またはそれより高い、約40%またはそれより高い、約50%またはそれより高い、あるいは約60%またはそれより高い)。いくつかの実施形態では、凍結保護流体中のいずれか1つまたはそれより多くのガラス化剤(例えば、エチレングリコールまたはポリエチレングリコール)または複数のガラス化剤の合計濃度は、約70%またはそれより低い(例えば、約65%またはそれより低い、約60%またはそれより低い、約50%またはそれより低い、約40%またはそれより低い、約30%またはそれより低い、約20%またはそれより低い、約10%またはそれより低い、約5%またはそれより低い、約1%またはそれより低い、あるいは約0.5%またはそれより低い)。例として、いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、濃度約10%~約30%(例えば、約20%)のエチレングリコール、濃度約20%~約40%(例えば、約30%)のPEG200、および濃度約10%~約30%(例えば、約20%)のPEG400を含む。
【0121】
凍結保護流体の所望のガラス化温度(ガラス転移温度、またはTとも呼ばれる)に基づいて、1またはそれを超えるガラス化剤および/または1またはそれを超えるガラス化剤の濃度を選択し得る。例えば、PEG200のガラス化温度は約0℃であり、また凍結保護流体のガラス化温度を調整するために使用し得る。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約-195℃~約+50℃(例えば、約-195℃~約-160℃、約-160℃~約-120℃、約-120℃~約-80℃、約-80℃~約-40℃、約-40℃~約0℃、約0℃~約+25℃、あるいは約+25℃~約+50℃)のガラス化温度を有する。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約-195℃またはそれより高い(例えば、約-160℃またはそれより高い、約-120℃またはそれより高い、約-80℃またはそれより高い、約-40℃またはそれより高い、約0℃またはそれより高い、あるいは約+25℃またはそれより高い)ガラス化温度を有する。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約+50℃またはそれより低い(例えば、約+25℃またはそれより低い、約0℃またはそれより低い、約-40℃またはそれより低い、約-80℃またはそれより低い、約-120℃またはそれより低い、あるいは約-160℃またはそれより低い)ガラス化温度を有する。
【0122】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体は緩衝剤を含む。代表的な緩衝剤としては、リン酸緩衝剤(例えば、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウム)、炭酸ナトリウム、またはHEPESが挙げられる。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、または塩化カルシウムのうち、1またはそれを超える塩を含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体のpHは、約7~約8(例えば、約7.2~約7.8、または約7.4~約7.6)である。
【0123】
いくつかの実施形態では、アルデヒド、例えば、グルタルアルデヒドまたはホルムアルデヒドが凍結保護流体.に含まれる。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約1%(重量で)のアルデヒドまたはそれより多く(例えば、約1.5%またはそれより多く、約2%またはそれより多く、約2.5%またはそれより多く、あるいは約3%またはそれより多く)を含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約6%またはそれ未満のアルデヒド(例えば、約5.5%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4.5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3.5%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2.5%またはそれ未満、あるいは約2%またはそれ未満のアルデヒド)を含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約1%(重量で)のグルタルアルデヒドまたはそれより多く(例えば、約1.5%またはそれより多く、約2%またはそれより多く、約2.5%またはそれより多く、あるいは約3%またはそれより多く)を含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約6%またはそれ未満のグルタルアルデヒド(例えば、約5.5%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4.5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3.5%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2.5%またはそれ未満、あるいは約2%またはそれ未満のアルデヒド)を含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約1%(重量で)のホルムアルデヒドまたはそれより多く(例えば、約1.5%またはそれより多く、約2%またはそれより多く、約2.5%またはそれより多く、あるいは約3%またはそれより多く)を含む。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約6%またはそれ未満ホルムアルデヒド(例えば、約5.5%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4.5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3.5%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2.5%またはそれ未満、あるいは約2%またはそれ未満のアルデヒド)を含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤を含む。代表的なイオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤としては、コノトキシン(例えば、α-コノトキシン、γ-コノトキシン、κ-コノトキシン、ω-ココノトキシン、またはμ-コノトキシン、それらはナトリウムチャネル、カリウムチャネル、およびカルシウムチャネルを遮断するように作用する)、テトロドトキシン(ナトリウムチャネルを遮断するように作用する)、コナントキン(例えば、コナントキン-G、コナントキン-T、コナントキン-R、コナントキン-P、またはコナントキン-E、これはN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)を阻害する)、クラーレ(アセチルコリンチャネルを遮断する)、またはバリウム(カリウムチャネルを遮断する)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤は、約50ng/Lまたはそれより高い(例えば、約100ng/Lまたはそれより高い、約250ng/Lまたはそれより高い、約500ng/Lまたはそれより高い、約1μg/Lまたはそれより高い、約2.5μg/Lまたはそれより高い、約5μg/Lまたはそれより高い、約10μg/Lまたはそれより高い、約25μg/Lまたはそれより高い、約50μg/Lまたはそれより高い、約100μg/Lまたはそれより高い、約250μg/Lまたはそれより高い、約500μg/Lまたはそれより高い、約1mg/Lまたはそれより高い、約2.5mg/Lまたはそれより高い、約5mg/Lまたはそれより高い、約10mg/Lまたはそれより高い、約25mg/Lまたはそれより高い、約50mg/Lまたはそれより高い、約100mg/Lまたはそれより高い、あるいは約250mg/Lまたはそれより高い)濃度で凍結保護流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤は、約500mg/Lまたはそれより低い(例えば、約250mg/Lまたはそれより低い、約100mg/Lまたはそれより低い、約50mg/Lまたはそれより低い、約25mg/Lまたはそれより低い、約10mg/Lまたはそれより低い、約5mg/Lまたはそれより低い、約2.5mg/Lまたはそれより低い、約1mg/Lまたはそれより低い、約500μg/Lまたはそれより低い、約250μg/Lまたはそれより低い、約100μg/Lまたはそれより低い、約50μg/Lまたはそれより低い、約25μg/Lまたはそれより低い、約10μg/Lまたはそれより低い、約5μg/Lまたはそれより低い、約2.5μg/Lまたはそれより低い、約1μg/Lまたはそれより低い、約500ng/Lまたはそれより低い、約250ng/Lまたはそれより低い、あるいは約100ng/Lまたはそれより低い)濃度で凍結保護流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、イオンチャネル遮断剤および/またはイオン受容体遮断剤の組み合わせを含む。単なる例として、いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約50ng/L~約5μg/Lの濃度のコノトキシン(例えば、κ-コノトキシン)、約500ng/L~約25mg/Lの濃度のテトロドトキシン、約250ng/L~約10mg/Lの濃度のコナントキン-G、および約5mg/L~約50mg/Lの濃度のクラーレを含む。
【0125】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、カルシウムキレート剤を含む。代表的なカルシウムキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エグタズ酸(EGTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)、またはクエン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、カルシウムキレート剤は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.25g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、約2g/Lまたはそれより高い、約3g/Lまたはそれより高い、あるいは約4g/Lまたはそれより高い)濃度で固定流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、カルシウムキレート剤は、約5g/Lまたはそれより低い(例えば、約4g/Lまたはそれより低い、約3g/Lまたはそれより低い、約2g/Lまたはそれより低い、約1g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.25g/Lまたはそれより低い)濃度で固定流体中に含まれる。
【0126】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体は呼吸器毒を含む。代表的な呼吸器毒としては、アジド(例えば、アジ化ナトリウム)またはシアン化物(例えば、シアン化ナトリウム)が挙げられる。いくつかの実施形態では、凍結保護流体中の呼吸器毒の濃度は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、あるいは約1.5g/Lまたはそれより高い)。いくつかの実施形態では、凍結保護流体中の呼吸器毒の濃度は、約2g/Lまたはそれより低い(例えば、約1.5g/Lまたはそれより低い、約1g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)。
【0127】
いくつかの実施形態では、シナプス毒(例えば、SNARE阻害剤)が、凍結保護流体に含まれる。代表的なシナプス毒としては、ボツリヌス毒素または破傷風毒素が挙げられる。いくつかの実施形態では、ボツリヌス毒素および破傷風毒素の両方が、凍結保護流体に含まれる。いくつかの実施形態では、凍結保護流体中のシナプス毒の濃度は、約0.1ng/Lまたはそれより多く(例えば、約0.2ng/Lまたはそれより高い、約0.5ng/Lまたはそれより高い、約1ng/Lまたはそれより高い、約2ng/Lまたはそれより高い、約5ng/Lまたはそれより高い、約10ng/Lまたはそれより高い、約25ng/Lまたはそれより高い、約50ng/Lまたはそれより高い、約100ng/Lまたはそれより高い、あるいは約150ng/Lまたはそれより高い)。いくつかの実施形態では、凍結保護流体中のシナプス毒の濃度は、約200ng/Lまたはそれより低い(例えば、約150ng/Lまたはそれより低い、約100ng/Lまたはそれより低い、約50ng/Lまたはそれより低い、約25ng/Lまたはそれより低い、約10ng/Lまたはそれより低い、約5ng/Lまたはそれより低い、約2ng/Lまたはそれより低い、約1ng/Lまたはそれより低い、約0.5ng/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2ng/Lまたはそれより低い)。
【0128】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体は血管拡張薬を含む。代表的な血管拡張薬としては、亜硝酸ナトリウム、ニトログリセリン、一硝酸イソソルビド、二硝酸イソソルビド、トシル酸イトラミン、四硝酸ペンタエリトリチル、硝酸プロパチル、テニトラミン、トロールニトラート、またはモルシドミンが挙げられる。いくつかの実施形態では、血管拡張薬は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、あるいは約0.7g/Lまたはそれより高い)濃度で凍結保護流体中に含まれる。いくつかの実施形態では、血管拡張薬は、約1g/Lまたはそれより低い(例えば、約0.7g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)濃度で凍結保護流体中に含まれる。
【0129】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体での組織の灌流は、分布について動的にモニターされる。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、色素(例えば、放射線不透過性色素)、または造影剤を含む。代表的な造影剤または放射線不透過性色素としては、ヨウ化物塩(例えば、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウム)、バリウム塩(例えば、塩化バリウム)、重金属(例えば、鉛または金)とのキレート錯体、またはガドリニウムが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、凍結保護流体中の色素の濃度は、約0.1g/Lまたはそれより高い(例えば、約0.2g/Lまたはそれより高い、約0.5g/Lまたはそれより高い、約1g/Lまたはそれより高い、約2g/Lまたはそれより高い、約5g/Lまたはそれより高い、あるいは約10g/Lまたはそれより高い)。いくつかの実施形態では、凍結保護流体中の色素の濃度は、約20g/Lまたはそれより低い(例えば、約10g/Lまたはそれより低い、約5g/Lまたはそれより低い、約2g/Lまたはそれより低い、約1g/Lまたはそれより低い、約0.5g/Lまたはそれより低い、あるいは約0.2g/Lまたはそれより低い)。いくつかの実施形態において、凍結保護流体の分布は、CT、マイクロCT、X線、またはMRIによって、モニターされる。
【0130】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体を、約60mmHg~約140mmHg(例えば、約60mmHg~約80mmHg、約80mmHg~約100mmHg、約100mmHg~約120mmHg、または約120mmHg~約140mmHg)の圧力で、組織へ灌流する。
【0131】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体は灌流前にろ過される。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は灌流前に滅菌ろ過される。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、約0.5μmまたはそれより小さい、例えば約0.22μmまたはそれより小さい平均孔径を有するフィルターでろ過される。
【0132】
いくつかの実施形態では、凍結防止液は、個別の工程として(つまり、固定流体での組織の灌流が終了した後)組織へ灌流される。いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、固定流体に対する勾配として、組織に灌流される。つまり、組織に灌流する固定流体の相対量が減少すると、組織に灌流する凍結保護流体の相対量は、組織への固定流体の灌流が停止するまで増加する。
【0133】
図2A図2Fは、対象の組織(例えば、脳)を保存する代表的な方法を示す。図2Aは、洗浄流体で灌流されている組織を示す。洗浄流体は、フィルターを通って、組織につながる動脈に送り込まれる。組織が洗浄された後、図2Bに示すように、組織を灌流するため、第1段階の固定流体が動脈を通って送り込まれる。第2段階の固定流体は、システムを通して(図2Cに示すように)準備され、図2Dに示すように、第1段階の固定流体とともに、組織に送り込まれる。第2段階の固定流体に接続されたポンプを加速させると、第1段階の固定流体に接続されたポンプが遅くなるため、第2段階の固定流体は、勾配として組織に灌流され、第1段階の固定流体と置き換わる。次に、図2Eに示すように、組織は、第2段階の固定流体によって(および第1段階の固定流体なしで)灌流され得る。次に、凍結保護流体は、図2Fに示すように、第2段階の固定流体に対する勾配として、組織に灌流され得る。
【0134】
組織のガラス化、保管、解凍、および分析
一旦凍結保護流体が組織に灌流されると、組織はガラス化され得る。組織を凍結保護流体のガラス化温度未満の温度に冷却する、例えば、組織を冷蔵庫(例えば、機械式冷凍庫、液体窒素蒸気冷凍庫、等温液体窒素冷凍庫)に入れる、または組織を液体窒素に浸漬する。代表的な冷蔵システムは、制御可能等温蒸気貯蔵(Controllable Isothermal Vapor Storage:CIVS)装置(21st Century Medicine、Inc.)である。いくつかの実施形態では、組織の温度は、約-80℃またはそれより低い(例えば、約-100℃もしくはそれより低い、約-120℃もしくはそれより低い、約-140℃もしくはそれより低い、または約-160℃もしくはそれより低い)温度へガラス化される。組織の温度は、ガラス化中に、組織内または組織に隣接して、温度プローブを挿入することでモニターし得る。いくつかの実施形態では、組織を凍結保護流体で灌流した後、組織をガラス化する前に、組織を対象から取り出す。
【0135】
いくつかの実施形態では、組織はガラス化の前に生検される。組織は、例えば、少ない灌流分布状態での組織内の位置で、例えば、色素または造影剤を含む灌流液で組織を画像化することによりモニターされて、生検され得る。生検サンプルを分析して、ガラス化後の組織と比較するための組織品質の境界を低くし得る。
【0136】
組織のガラス化後、組織は長期にわたって低温で保管され得る。いくつかの実施形態では、ガラス化組織は、約24時間またはそれより長く(例えば、約48時間もしくはそれより長く、約72時間もしくはそれより長く、約96時間もしくはそれより長く、約7日もしくはそれより長く、約14日もしくはそれより長く、約1か月もしくはそれより長く、約2か月もしくはそれより長く、約3か月もしくはそれより長く、約6か月もしくはそれより長く、または約1年もしくはそれより長く)保管される。
【0137】
ガラス化組織を、冷蔵庫から取り出して、それから分析のために解凍し得る。ガラス化組織の解凍には、組織を冷蔵庫から取り出し、凍結保存流体のガラス化温度を超える、室温または他の任意の所望の温度に、組織を順応させることが含まれ得る。いくつかの実施形態において、ガラス化組織は、解凍工程中に、流体、例えば凍結保護流体または生理食塩水などに浸される。
【0138】
解凍して保存した組織は、分析用に調製し得る。いくつかの実施形態では、さらなる分析前に、凍結保護流体を保存組織から除去する。いくつかの実施形態において、組織は、分析のためにスライスして組織を調製する。いくつかの実施形態では、凍結保護流体を除去する前に、組織をスライスする、および、いくつかの実施形態では、組織をスライスする前に、凍結保護流体を除去する。
【0139】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体は、すすぎ液(例えば、固定化流体(後段階の固定化流体であり得る)、緩衝化生理食塩水、カコジル酸緩衝剤、または本発明に記載する洗浄流体の任意の実施形態)で、組織を灌流することにより除去され、必要に応じて、灌流された凍結保護流体に対する勾配として、組織に灌流される。いくつかの実施形態では、すすぎ液のpHは、約7~約8(例えば、約7.2~約7.8、または約7.4~約7.6)である。例えば、解凍組織は最初に凍結保護流体で灌流され、それから、解凍組織に灌流されるすすぎ液の相対的な部分が増加するにつれて、解凍組織に灌流される凍結保護流体の相対的な部分が減少し得る。勾配が完了すると(つまり、凍結保護流体がこれ以上、組織に灌流されない)、一定量の固定化流体を解凍組織に灌流し続け得る。いくつかの実施形態では、すすぎ液を、約60mmHg~約140mmHg(例えば、約60mmHg~約80mmHg、約80mmHg~約100mmHg、約100mmHg~約120mmHg、または約120mmHg~約140mmHg)の圧力で、解凍組織へ灌流する。いくつかの実施形態では、凍結保護流体が組織から除去された後、分析のために組織がスライスされる。いくつかの実施形態において、組織は、組織をスライスする前に、寒天に埋め込まれる。スライスされた組織は、保管緩衝剤、例えば、すすぎ緩衝剤、緩衝化生理食塩水、またはカコジル酸緩衝剤中に保管し得る。
【0140】
いくつかの実施形態では、凍結保護流体は拡散により除去される。組織から凍結保護流体の拡散を促進するために、いくつかの実施形態では、拡散前に、組織をスライスする。いくつかの実施形態において、組織は、組織をスライスする前に、寒天に埋め込まれる。寒天は、凍結保護流体中にガラス化剤を含むことができ、凍結防止液と同じ濃度であることが好ましい。組織(スライスされてもよい)は、寒天に埋め込まれ、また凍結保護流体は、保管緩衝剤(例えば、固定流体、緩衝化生理食塩水、またはカコジル酸緩衝剤)での凍結保護流体の希釈により除去される。凍結保護流体は、一定の期間希釈し得る(例えば、5~15分毎に、保管緩衝剤と50%交換)。凍結保護流体の濃度が約5%またはそれより低い(例えば、約4%もしくはそれより低い、約3%もしくはそれより低い、約2%もしくはそれより低い、または約1%もしくはそれより低い)場合、凍結保護流体は除去されたとみなし得る。
【0141】
いくつかの実施形態において、保存組織は、例えば、組織の画像化または組織の微小解剖学的分析の実行、または、例えば示差走査熱量測定、ウエスタンブロット、または他の実験室アッセイによるバルク組織分析の実行により、分析される。組織の画像化は、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡法(例えば、走査電子顕微鏡法)、集束イオンビーム顕微鏡法、拡大顕微鏡法、または蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization:FISH)顕微鏡法(またはFISH拡張顕微鏡法)を使用して、実行し得る。
【0142】
FISH拡張顕微鏡法には、蛍光標識プローブ、例えば、オリゴヌクレオチド(例えば、RNAまたはDNAオリゴヌクレオチド)または抗体で、組織を染色することが含まれ得る。いくつかの実施形態では、蛍光標識プローブは、組織に灌流されて組織を染色する。オリゴヌクレオチドまたは抗体は、組織内の標的核酸またはタンパク質に結合して、標的核酸またはタンパク質の位置を決定し得る。
【0143】
いくつかの実施形態では、組織は、例えばフェロシアン化カリウムおよび四酸化オスミウムを使用して、分析前に電子顕微鏡法または拡大顕微鏡法において染色される。他の代表的な染色としては、モリブデン酸アンモニウム、酢酸ウラニル、ギ酸ウラニル、リンタングステン酸、およびアウログルコチオネート(auroglucothionate)が挙げられる。いくつかの実施形態では、染色剤は、ホルムアミド(例えば、約1M~約3M、約2M~約3M、または約2.5Mのホルムアミドなど)を含み、これを使用して染色剤を組織によりよく浸透させ得る。いくつかの実施形態では、染色剤は、組織を通して灌流される。
【0144】
いくつかの実施形態では、組織(例えば、1またはそれを超える組織スライス)は、分析のために、例えば電子顕微鏡法による画像化のために、プラスチックに埋め込まれる。
【0145】
いくつかの実施形態では、組織は、組織をスライスすることなく(例えば、すすぎ液で組織を灌流することにより、組織から凍結保護流体を除去した後)、分析される。全組織、例えば全脳を分析する技術は、当技術分野において公知である。例えば、ピロガロール媒介増幅を用いて、広範囲の脳の還元オスミウム染色(BROPA)法について記載されている、Mikulaら、High-resolution whole-brain staining for electron microscopic circuit reconstruction、Nat.Methods、vol.12、pp.541-546(2015)を参照のこと。他の方法としては、Chungら、Structural and molecular interrogation of intact biological systems、Nature、vol.497、pp.332-337(2013)に記載されているCLARITY法、およびChenら、Expansion microscopy、Science vol.347、pp.543-548(2015)に記載されている拡大顕微鏡法が挙げられる。拡大顕微鏡法は、組織のサイズを拡大し(例えば、元のサイズの約10倍から約20倍)、組織を画像化して、組織の高分解能を可能にする。
【0146】
キット
一態様では、本明細書に記載されているように、洗浄流体、固定流体、および凍結保護流体を含むキットが提供される。洗浄流体、固定流体、および凍結保護流体は、濃縮された形態でキットに含めることができ、これは、例えば水を使用して希釈することができる。いくつかの実施形態では、洗浄流体、固定流体、および凍結保護流体は、使用可能な濃度で含まれる。流体(または濃縮物)は、好適な容器、例えばバイアル、ビン、ジャー、可塑性パッケージング(例えば、密封されたマイラーまたはプラスチック袋)に収容され得る。いくつかの実施形態では、キットは使用説明書を含む。いくつかの実施形態では、使用説明書は、本明細書に記載された方法のいずれかに従って、組織を保存するための説明書を含む。
【0147】
代表的実施形態
以下の実施形態は、本発明の代表的なものであり、本発明に記載される発明の範囲を限定するものではない。
【0148】
実施形態1. 対象の組織の保存方法であって、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含み、
前記洗浄流体、前記固定流体または前記凍結保護流体は、色素または造影剤を含む、保存方法。
【0149】
実施形態2. 対象の組織の保存方法であって、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含み、
前記凍結保護流体は約-80℃またはそれより高いガラス化温度を有する、保存方法。
【0150】
実施形態3. 対象の組織の保存方法であって、
(1)水溶液、および(2)イオンチャネル遮断剤、カルシウムキレート剤、血栓溶解剤、抗血小板物質、呼吸器毒、またはシナプス毒のうち、任意の1またはそれを超えるものを含む洗浄流体で、前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含む、保存方法。
【0151】
実施形態4. 対象の組織の保存方法であって、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
を含み、
前記洗浄することは、前記組織内で虚血の発症後に開始される、保存方法。
保存方法。
【0152】
実施形態5. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、色素または造影剤を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の保存方法。
【0153】
実施形態6. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、放射線不透過性色素を含む、実施形態1または5に記載の保存方法。
【0154】
実施形態7. 前記組織内の前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の分布を画像化することにより、モニターすることをさらに含む、実施形態1~6のいずれか一項に記載の保存方法。
【0155】
実施形態8. 対象の組織の保存方法であって、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること;および
前記組織内の前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の分布を画像化することにより、モニターすること
を含む、保存方法。
【0156】
実施形態9. 前記モニターすることが、コンピューター断層撮影(CT)、マイクロコンピューター断層撮影(microCT)、X線、またはMRIによって実行される、実施形態7または8に記載の保存方法。
【0157】
実施形態10. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体での前記組織の灌流が灌流スケジュールに従って行われ、前記灌流スケジュールが、前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の前記モニターされた分布に基づいて変更される、実施形態1~9のいずれか一項に記載の保存方法。
【0158】
実施形態11. 前記組織をガラス化することをさらに含む、実施形態1~10のいずれか一項に記載の保存方法。
【0159】
実施形態12. 前記組織が、約-100℃またはそれより低い温度でガラス化される、実施形態1~11のいずれか一項に記載の保存方法。
【0160】
実施形態13. 前記ガラス化組織を約72時間またはそれより長く保管することを含む、実施形態11または実施形態12に記載の保存方法。
【0161】
実施形態14. 前記ガラス化組織を解凍することを含む、実施形態11~13のいずれか一項に記載の保存方法。
【0162】
実施形態15. 前記保存組織の少なくとも一部を画像化することを含む、実施形態1~14のいずれか一項に記載の保存方法。
【0163】
実施形態16. 微小解剖学的分析を使って、前記保存組織の少なくとも一部の特性を明らかにすることを含む、実施形態1~15のいずれか一項に記載の保存方法。
【0164】
実施形態17. 前記保存組織の少なくとも一部が、電子顕微鏡法、拡大顕微鏡法、または蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)拡大顕微鏡法を使用して画像化される、実施形態1~16のいずれか一項に記載の保存方法。
【0165】
実施形態18. 対象由来の保存組織の分析方法であって、前記保存組織を画像化することまたは前記保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、前記組織は、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること;および
前記組織の前記灌流中に、前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の分布をモニターすること
により保存されている、分析方法。
【0166】
実施形態19. 対象由来の保存組織の分析方法であって、前記保存組織を画像化することまたは前記保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、前記組織は、
水溶液を含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
により保存されており、
前記凍結保護流体は約-80℃またはそれより高いガラス化温度を有する、分析方法。
【0167】
実施形態20. 対象由来の保存組織の分析方法であって、前記保存組織を画像化することまたは前記保存組織の微小解剖学的分析を実行することを含み、前記組織は、
(1)水溶液、および(2)イオンチャネル遮断剤、カルシウムキレート剤、血栓溶解剤、抗血小板物質、呼吸器毒、またはシナプス毒のうち、任意の1またはそれを超えるものを含む洗浄流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を洗浄すること;
アルデヒドを含む固定流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を固定すること;および
ガラス化剤を含む凍結保護流体で前記組織を灌流することにより、前記組織を凍結保護すること
により保存されている、分析方法。
【0168】
実施形態21. 前記組織中の前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、前記組織の灌流中にモニターされた、実施形態19または20に記載の分析方法。
【0169】
実施形態22. 前記組織の灌流は、CT、マイクロCT、X線、またはMRIを使用してモニターされた、実施形態18または実施形態21に記載の分析方法。
【0170】
実施形態23. 前記保存組織を解凍することを含む、実施形態18~22のいずれか一項に記載の分析方法。
【0171】
実施形態24. 前記保存組織を画像化することまたは前記保存組織の微小解剖学的分析を実行することが、電子顕微鏡法、拡大顕微鏡法、または蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)拡大顕微鏡法を使用して、前記保存組織を画像化することを含む、実施形態18~23のいずれか一項に記載の分析方法。
【0172】
実施形態25. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体での前記組織の灌流が灌流スケジュールに従って行われ、前記灌流スケジュールが、前記組織の灌流中に、前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体の前記モニターされた分布に基づいて変更された、実施形態16~24のいずれか一項に記載の方法。
【0173】
実施形態26. 前記凍結保護流体が、前記固定流体に対する勾配として前記組織へ灌流される、実施形態1~25のいずれか一項に記載の方法。
【0174】
実施形態27. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、イオンチャネル遮断剤またはイオン受容体遮断剤を含む、実施形態1~26のいずれか一項に記載の方法。
【0175】
実施形態28. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、カルシウムキレート剤を含む、実施形態1~27のいずれか一項に記載の方法。
【0176】
実施形態29. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、呼吸器毒を含む、実施形態1~28のいずれか一項に記載の方法。
【0177】
実施形態30. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、シナプス毒を含む、実施形態1~29のいずれか一項に記載の方法。
【0178】
実施形態31. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、血管拡張薬を含む、実施形態1~30のいずれか一項に記載の方法。
【0179】
実施形態32. 前記洗浄流体、前記固定流体、または前記凍結保護流体は、膨脹剤を含む、実施形態1~31のいずれか一項に記載の方法。
【0180】
実施形態33. 前記洗浄流体または前記固定流体は、イオン性界面活性剤を含む、実施形態1~32のいずれか一項に記載の方法。
【0181】
実施形態34. 前記洗浄流体は、麻酔薬を含む、実施形態1~33のいずれか一項に記載の方法。
【0182】
実施形態35. 前記洗浄流体は、血栓溶解剤を含む、実施形態1~34のいずれか一項に記載の方法。
【0183】
実施形態36. 前記洗浄流体は、凝固阻止剤を含む、実施形態1~35のいずれか一項に記載の方法。
【0184】
実施形態37. 前記洗浄流体は、抗血小板剤を含む、実施形態1~36のいずれか一項に記載の方法。
【0185】
実施形態38. 前記固定流体は、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドを含む、実施形態1~37のいずれか一項に記載の方法。
【0186】
実施形態39. 前記凍結保護流体は、アルデヒドを含む、実施形態1~38のいずれか一項に記載の方法。
【0187】
実施形態40. 前記凍結保護流体は、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、またはポリエチレングリコールを含む、実施形態1~39のいずれか一項に記載の方法。
【0188】
実施形態41. 前記凍結保護流体は、約-195℃~約+50℃のガラス化温度を有する、実施形態1~40のいずれか一項に記載の方法。
【0189】
実施形態42. 前記組織は、前記対象の死亡の8時間以内に保存される、実施形態1~41のいずれか一項に記載の方法。
【0190】
実施形態43. 前記対象はヒトである、実施形態1~42のいずれか一項に記載の方法。
【0191】
実施形態44. 前記対象は非ヒト動物である、実施形態1~42のいずれか一項に記載の方法。
【0192】
実施形態45. 前記非ヒト動物はげっ歯類である、実施形態44に記載の方法。
【0193】
実施形態46. 前記組織は、器官またはその一部である、実施形態1~45のいずれか一項に記載の方法。
【0194】
実施形態47. 前記組織は、脳またはその一部である、実施形態1~46のいずれか一項に記載の方法。
【0195】
実施形態48. 前記組織の体積は、約100cmであるかまたはそれより大きい、実施形態1~47のいずれか一項に記載の方法。
【0196】
実施形態49. 前記洗浄流体の水溶液は、生理食塩水溶液である、実施形態1~48のいずれか一項に記載の方法。
【0197】
実施形態50. 前記洗浄流体の水溶液は、緩衝化生理食塩水溶液である、実施形態1~49のいずれか一項に記載の方法。
【0198】
実施形態51. 実施形態1~17および26~50のいずれか一項に記載の方法に従って形成された保存組織。
【0199】
実施形態52. (1)アルデヒド、および(2)色素または造影剤を含み、灌流により組織を固定するための固定流体。
【0200】
実施形態53. 前記アルデヒドは、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドである、実施形態52に記載の固定流体。
【0201】
実施形態54. (1)ガラス化剤、および(2)色素または造影剤を含み、組織を凍結保存するための凍結保護流体。
【0202】
実施形態55. 前記凍結保護流体は、アルデヒドを含む、実施形態54記載の凍結保護流体。
【0203】
実施形態56. 前記凍結保護流体は、エチレングリコール、グリセロール、ジメチルスルホキシド、またはポリエチレングリコールを含む、実施形態54または55に記載の凍結保護流体。
【0204】
実施形態57. 前記凍結保護流体は、約-195℃~約+50℃のガラス化温度を有する、実施形態54~56のいずれか一項に記載の凍結保護流体。
【実施例
【0205】
それぞれ13リットルの洗い流し溶液、固定溶液、および凍結保護物質溶液を以下のように調製した。洗い流し溶液は、11,666.5gの蒸留水および1026.3gの10X洗い流し溶液を含有した。10X洗い流し溶液は、1026.3gの塩化ナトリウム;234.7gのリン酸ナトリウム二塩基性二水和物、35.8gのリン酸ナトリウム一塩基性二水和物、43.3gの塩化カリウム、および12,503.4gの蒸留水を含有した。固定溶液は、2747.9gの5Xリン酸緩衝液、845.0gの50%グルタルアルデヒド溶液、1.3gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および9646.0gの蒸留水を含有した。5Xリン酸緩衝液は、952.2gのリン酸ナトリウム二塩基性二水和物、179.4gのリン酸ナトリウム一塩基性二水和物、6.0gのアジ化ナトリウム、および12,584.0gの蒸留水を含有した。凍結保護物質溶液は、2747.9gの5Xリン酸緩衝液、845.0gのグルタルアルデヒド、8450.0のエチレングリコール、および2134.6gの蒸留水を含有した。
【0206】
図1に示す装置と類似した大規模灌流装置を組み立てた。装置には、灌流液容器、I/Pイージーロードヘッド(No.7529-20)付きぜん動ポンプ(MasterFlexぜん動ポンプ(No.7549-30)、293mm・0.22ミクロンナイロンフィルターを備えたMillipore 293mmフィルターホルダー、デジタル圧力センサー(Honeywell No.SSCDANT030PASA5)、およびArduinoコントローラーを介して装置を操作するために使用されるラップトップコンピューターを含んだ。装置はさらに、Y字型接合部とチューブを使用してぜん動ポンプに接続された死体防腐処置カニューレを含んだ。
【0207】
86歳のヒト女性から提供された脳の頸動脈にカニューレを接続する前に、洗浄流体をカニューレに流してシステム内の気泡を除去した。死亡後2時間45分の開始で、脳の作業を実施した。標準的な開頭技術を使用して、頭蓋骨から脳を取り出した。保存手順のタイミングは以下の通りである:外科的構成には約15分間;洗い流し溶液で約20分間の灌流、固定溶液で約1時間の灌流、固定溶液から凍結保護物質溶液へ約6時間の勾配傾斜、および凍結保護物質溶液で約1時間の灌流。脳組織は、グルタルアルデヒドの固定およびエチレングリコールの浸潤により、褐色の変色を示した。
【0208】
脳を0.5インチ(~1.3cm)の冠状の平板に切断した。2時間45分灌流が遅延したことで、流れを妨げるいくつかの血餅の存在によって、脳の特定領域、特に小脳で、完全な灌流が妨げられた。視床、海馬、皮質からのサンプルは、ビブラトームを使用して得られ、電子顕微鏡法または集束イオンビーム顕微鏡法用に必要な処理が行われた。サンプルは、Graham-Knottら、Focussed Ion Beam Milling and Scanning Electron Microscopy of Brain Tissue、J.Visualized Experiments、vol.53、p.e2588(2011)に記載された技術を用いて、必要な処理が行われた。
【0209】
電子顕微鏡法は、先例のないほどの脳組織のナノスケールの保存を実証した。図3Aは、皮質サンプルからの反転コントラスト画像を示し、核物質(A)およびミエリン(B、C)の良好な保存および高い保持を示す。図3Bは、皮質サンプルの電子顕微鏡画像であり、血管(A)、複数の突起(つまり、ニューロンの複数の分岐)(B)、および十分に保存された基底物質(C)を示す。一部のダメージ(D)も見えた。図3Cは、十分に保存されたシナプス(A)、有髄突起(B)、無髄突起(C)、およびいくつかの損傷領域(D、E)を含む皮質サンプルの追加の電子顕微鏡画像を示す。図3Dは、複数の錐体細胞(A)と複数の有髄突起(B)を示す電子顕微鏡画像である。図3Eは、走査型電子顕微鏡法を使用して得られた酢酸ウラン染色された皮質サンプル内の複数のシナプス(A、B、C)を示す。図3Fは、扁桃体の電子顕微鏡画像で、複数のシナプス(A)および微細突起、ならびに、いくつかの膨張したミトコンドリア(B)を示す。図3Gは、脳組織を明らかにするために、ミリングされた樹脂の20マイクロメートルの層でコーティングした皮質サンプルの集束イオンビームミリング画像である。図3Hは、脳組織を明らかにするために、ミリングされた樹脂の層でコーティングした脳梁サンプルの集束イオンビームミリング画像である。図3Iは、酢酸ウラン染色された皮質の電子顕微鏡画像であり、ミエリンと部分的に破壊された切痕(A、B、C)を示す。図3Jは、十分に保存された有髄突起(A、B)を示す海馬サンプルの集束イオンビーム走査電子顕微鏡(focused ion beam scanning electron microcopy:FIB-SEM)画像である。図3Kは、樹脂ブロック内の皮質サンプルからの画像を示す。脳組織の保存は、以前の研究よりも良好に保存されるが、脳の超微細構造へいくつかの損傷が観察された。例えば、図3Jにおいて、細胞内構成成分の一部損失が観察された(C)。図3Lは、酢酸ウランで染色された皮質サンプルの電子顕微鏡画像であり、いくつかの並行するプロセスで破壊されたミエリン(A)、ならびに通常のミエリン(B)を示す。

図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K
図3L