(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】磁石アセンブリ及びトカマク
(51)【国際特許分類】
G21B 1/11 20060101AFI20240314BHJP
G21B 1/05 20060101ALI20240314BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20240314BHJP
H05H 1/12 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
G21B1/11 A
G21B1/05
H01F6/06 110
H05H1/12
(21)【出願番号】P 2020530503
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 GB2018053564
(87)【国際公開番号】W WO2019111019
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-12-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-27
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512317995
【氏名又は名称】トカマク エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】バクストン、 ピーター
【合議体】
【審判長】波多江 進
【審判官】松川 直樹
【審判官】秋田 将行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/170649号明細書(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21B1/11-1/25
H05H1/00-1/54
H01F6/00-6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トカマクで使用するための磁石アセンブリであって、
内側ポロイダル磁場コイル及び外側ポロイダル磁場コイルを含むポロイダル磁場コイルアセンブリと
超伝導材料を含むトロイダル磁場コイルと、
コントローラと
を含み、
前記内側ポロイダル磁場コイルは、前記トロイダル磁場コイルの内側に設置され、
前記外側ポロイダル磁場コイルは、前記トロイダル磁場コイルの外側に設置され、
前記コントローラは、
前記内側ポロイダル磁場コイルに前記外側ポロイダル磁場コイルと同じ方向に電流が流れかつ前記内側ポロイダル磁場コイル及び前記外側ポロイダル磁場コイルによって生成される合成磁場が前記トロイダル磁場コイルにおいてゼロを有するように、電流を前記内側ポロイダル磁場コイル及び前記外側ポロイダル磁場コイルに供給させるように構成される、磁石アセンブリ。
【請求項2】
各ポロイダル磁場コイルは高温超伝導体を含む、請求項1に記載の磁石アセンブリ。
【請求項3】
前記トロイダル磁場コイルはジョイントを含み、前記内側ポロイダル磁場コイル及び前記外側ポロイダル磁場コイルは、前記内側ポロイダル磁場コイル及び前記外側ポロイダル磁場コイルによって生成される合成磁場が前記ジョイントにおいてゼロを有するように配置される、請求項1又は2に記載の磁石アセンブリ。
【請求項4】
トロイダルプラズマチャンバと、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁石アセンブリとを含む、トカマク。
【請求項5】
前記トカマクは球状トカマクである、請求項4に記載のトカマク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トカマクプラズマチャンバに関する。特に、トロイダル磁場コイルに対するポロイダル磁場コイルの位置決めに関する。
【背景技術】
【0002】
核融合発電の課題は非常に複雑である。トカマク以外にも多くの代替デバイスが提案されているが、JETのような現在稼働している最高のトカマクに匹敵するような結果をもたらしたものはまだない。
【0003】
世界最大で最も高価な(150億ユーロ)トカマクであるITERの建設が始まって以来、世界の核融合研究は新しい段階に入った。商業用核融合炉への成功ルートは、電力生産を経済的にするために必要な高効率と相まって、長パルス、安定稼働を必要とする。これら3つの条件を同時に達成することは特に困難であり、計画されているプログラムは、ITER及びその他の核融合施設に関する長年の実験的研究と理論的かつ技術的研究を必要とする。このルートで開発された商業用核融合炉は2050年までに建設されないことが広く予想されている。
【0004】
経済的な発電(つまり、電力入力よりもはるかに多い電力出力)に必要な核融合反応を得るために、従来のトカマクは、熱核融合が発生するのに十分なほどプラズマが高温になるようにエネルギー閉じ込め時間(プラズマ体積にほぼ比例する)が十分長くなるように、(ITERに代表されるように)巨大でなければならない。
【0005】
特許文献1には、中性子源又はエネルギー源として使用するためのコンパクトな球状トカマクの使用を含む、代替アプローチが記載されている。球状トカマクにおける低アスペクト比プラズマ形状は熱閉じ込め時間を改善し、より小さい機械での正味の発電を可能にする。しかしながら、小径の中心柱が必要であり、プラズマ安定性に必要なトロイダル磁石の設計に課題がある。必要とされる高磁場を達成するのに十分な電流密度を可能にするために、少なくとも球状トカマクのトロイダル磁場(TF)コイルに超伝導磁石が使用される。
【0006】
超伝導材料は通常、「高温超伝導体」(HTS)と「低温超伝導体」(LTS)に分けられる。NbやNbTiなどのLTS材料は、その超伝導性をBCS理論で説明できる金属又は金属合金である。すべての低温超伝導体は、約30K未満の臨界温度(それを超えるとゼロ磁場でも材料が超伝導にならない温度)を有する。HTS材料の挙動はBCS理論では説明されておらず、このような材料は約30Kを超える臨界温度を有する可能性がある(ただし、HTS材料を定義するのは、臨界温度ではなく、超伝導動作及び組成の物理的な違いであることに注意すべきである)。最も一般的に使用されるHTSは「銅酸化物超伝導体」、BSCCO又はReBCO(ここで、Reは希土類元素、通常はY又はGdである)などの銅酸化物(酸化銅基含有化合物)をベースとするセラミックである。他のHTS材料は、鉄ニクタイド(例えば、FeAs及びFeSe)と二ホウ酸マグネシウム(MgB2)とを含む。
【0007】
ReBCOは通常、
図1に示すような構造のテープとして製造される。一般に、このようなテープ500は通常、約100ミクロンの厚さであり、基板501(通常、約50ミクロンの厚さの電解研磨したハステロイ)を含み、基板501の上に、IBAD、マグネトロンスパッタリング、又は他の好適な技術によって、約0.2ミクロンの厚さのバッファスタック502として知られる一連のバッファ層が堆積される。エピタキシャルReBCO-HTS層503(MOCVD又は他の好適な技術によって堆積される)は、バッファスタックを覆い、通常1ミクロンの厚さである。1~2ミクロンの銀層504が、スパッタリング又は他の好適な技術によってHTS層上に堆積され、銅安定化層505が、電気めっき又は他の好適な技術によってテープ上に堆積され、これは、多くの場合テープを完全に封入する。
【0008】
基板501は、製造ラインを通して供給されることができかつ後続の層の成長を可能にする機械的なバックボーンを提供する。バッファスタック502は、その上にHTS層を成長させるための二軸配向結晶テンプレートを提供するために必要とされ、その超伝導特性を損なう基板からHTSへの元素の化学拡散を防止する。銀層504は、ReBCOから安定化層への低抵抗界面を提供するために必要とされ、安定化層505は、ReBCOのいずれかの部分が超伝導を停止する(「常伝導」状態になる)場合に代替的な電流経路を提供する。
【0009】
高電流容量導体を形成するために、HTSテープを配置してケーブルを形成することができる。各ケーブルには複数のテープが存在し、すべてのテープの銅安定化層が(通常、追加の銅被覆によって)接続されている。ケーブルを形成するには2つの一般的な方法があり、HTSテープを変形させかつ/又は撚り合わせることができ、又はケーブルを積み重ねることができる。変形させられ又は捩り合わされたケーブルは、この構造により磁石の結合損失が大幅に減少するため、AC又は高速傾斜磁石でよく使用される。積み重ねられたケーブルは、臨界電流ICを最大化するようにテープを局所磁場に対して配置するができるので、緩傾斜磁石(例えば、トカマクのTFコイル)でよく使用される。
【0010】
HTSテープの全長の両端の電圧は、輸送電流Iに高度に非線形に依存し、通常、
【数1】
によってパラメータ化される。ここで、E
0=100nV/mは、定義された臨界電流基準であり、nは、超伝導から常伝導への遷移の鋭さをモデル化する実験パラメータであり、nは通常、ReBCOの場合は20~50の範囲である。nの値によっては、電圧はI/I
Cの値が0.8以下の場合は無視できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
テープ内の電流が臨界電流に近づくと、HTSテープは超伝導を停止する。これは、輸送電流Iの増加又は臨界電流ICの減少のいずれかによって起こる。いくつかの要因、特に温度、外部磁場、及び歪みにより、臨界電流が減少する可能性がある。これらの因子のいずれかを減少させることは、HTSテープの安定性を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、トカマクで使用するためのポロイダル磁場コイルアセンブリが提供される。ポロイダル磁場コイルアセンブリは、内側ポロイダル磁場コイル及び外側ポロイダル磁場コイルと、コントローラとを含む。内側ポロイダル磁場コイルは、トカマクのトロイダル磁場コイルの内側に設置するように構成される。外側ポロイダル磁場コイルは、トロイダル磁場コイルの外側に設置するように構成される。コントローラは、内側ポロイダル磁場コイル及び外側ポロイダル磁場コイルによって生成される合成磁場がトロイダル磁場コイルにおいてゼロを有するように、電流を内側ポロイダル磁場コイル及び外側ポロイダル磁場コイルに供給させるように構成される。
【0014】
第2の態様によれば、トカマクで使用するための磁石アセンブリが提供される。第1の態様によるポロイダル磁場コイルアセンブリと、高温超伝導体を含むトロイダル磁場コイルとを含む磁石アセンブリ。内側ポロイダル磁場コイル及び外側ポロイダル磁場コイルは、それぞれトロイダル磁場コイルの内側及び外側に位置する。
【0015】
第3の態様によれば、トロイダルプラズマチャンバと、第2の態様による磁石アセンブリとを含むトカマクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】ポロイダル平面におけるトカマクの断面図である。
【
図3】ワイヤコイルによって生成される磁場の図である。
【
図5】
図4のポロイダル磁場コイルアセンブリの1つの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
トカマクの片側の断面を
図2に示す。トカマク200は、トロイダルプラズマチャンバ201と、リターンリム221及び中心柱222を有するトロイダル磁場(TF)コイル220と、ポロイダル磁場(PF)コイル230、231、232、233、234、235とを含む。TFコイル220は、プラズマチャンバ201内にトロイダル磁場を提供する。PFコイルは、様々な機能を果たし、例えば、合体圧縮(MC)コイル230が、プラズマを開始するためのパルスを提供し、ダイバータコイル231、232が、トカマクの運転中にプラズマエンベロープ202を伸長させる。大まかに言って、PFコイルは2つのグループに分けることができ、第1のグループ(MCコイル230を含む)は通常、プラズマの初期化中に短時間だけ通電され、第2のグループ(ダイバータコイル231を含む)は、トカマクの運転中に長時間通電される。
【0018】
各PFコイルは通常、単一の導体リングとして構成される。導体は、コイルに必要な特性に応じて、超伝導又は常伝導のいずれかであることができ、例えば、交流電流を流すコイルは、それらが超伝導材料から作られている場合、通常、高損失を経験するので、常伝導材料が好ましい。
図3は、導線302のループによって生成される磁場301の(平面300における)断面を示す。各PFコイルによって同じ磁場パターンが生成される。図に示すように、PFコイルの近くの磁場は比較的強い。
【0019】
再び
図2を参照すると、トカマクのPFコイルのいくつかがTFコイルの近くにあることが分かる。これは、PFコイルがTFコイルに外部磁場を印加し、TFコイル内の超伝導材料の臨界電流を減少させることを意味する。
【0020】
この影響を避けるために、代替的な構造が提案される。これは、一組のダイバータコイル(
図2のダイバータコイル231と同等)について
図4に示されているが、適切な調整で任意のPFコイルに拡張することができる。
図4は、トロイダルプラズマチャンバ401と、中心柱421及びリターンリム422を含むTFコイル420とを含む例示的なトカマク400を示す。トカマク400はまた、上部PFコイルアセンブリ430、440及び下部PFコイルアセンブリを含み、コイルアセンブリのそれぞれが内側PFコイル431、441及び外側PFコイル432、442を含む。
図4に示される各特徴は、中心柱421に関して円筒対称性を有する。各アセンブリ内で、内側PFコイル431、441はTFコイル420の内側に(すなわち、TFコイル420とトロイダルプラズマチャンバ401との間)配置され、外側PFコイル432、442はTFコイル420の外側に配置される。
【0021】
図5は、上部PFコイルアセンブリ430の拡大図であり、ポロイダル平面での動作中に内側PFコイル431及び外側PFコイル432によって生成される磁界を示している(図を簡略化するために、トカマク内の他の構成要素による磁場は無視されている。ただし、設計プロセス中及び運用時には、これらの他の磁場が含まれ、考慮される)。PFコイルアセンブリ430は、内側コイルと外側コイルの電流が同じ方向に(この例では「ページ内に」)流れるように構成される。2つのコイル間の磁場はゼロ502を形成し、ゼロは2つのコイルの相対電流に依存する距離で2つのコイル間に位置する。2つのコイルの外側では、遠距離磁場領域501において、各コイルによって生成される磁場は、互いに強め合う。各コイルの電流は、PFコイルアセンブリによって生成される遠距離磁場501が
図2の単一の同等の磁場コイルの場合と実質的に同じになるように、かつ2つのコイルの相対電流によってTFコイル420にゼロ502が形成されるように制御される。これは、PFコイルアセンブリの磁場がTFコイルの臨界電流に及ぼす影響が同等の単一のPFコイルの影響に比べて大幅に低減されることを意味する。
【0022】
TFコイル上のゼロの正確な位置は、TFコイルの設計に基づいて選択することができる。例えば、TFコイル上に一般に不安定であるか又は低いICを有すると予想される「ホットスポット」(例えば、ジョイント)がある場合、内側PFコイル431及び外側PFコイル432は、ゼロがホットスポット(例えば、ジョイント)に位置するように配置されることができる。
【0023】
この構造は、トカマクの運転中に連続的に作動し、ダイバータコイルなどのTFコイルの近くに位置するPFコイルに取って代わるのに最も有利である。ただし、この構造は、磁石の他のPFコイルに取って代わるのに使用することもできる。
【0024】
この構造は、球状トカマク又は従来の高アスペクト比トカマクのいずれかに使用することができる。