(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】ゴム物品補強用スチールコード
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20240314BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
D07B1/06 A
B60C9/00 K
B60C9/00 M
(21)【出願番号】P 2020546012
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2019035401
(87)【国際公開番号】W WO2020054673
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2018169900
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】安藤 展広
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-202291(JP,A)
【文献】特開昭49-102002(JP,A)
【文献】特開昭61-084233(JP,A)
【文献】特開昭54-004250(JP,A)
【文献】特開昭56-086639(JP,A)
【文献】国際公開第2017/157973(WO,A1)
【文献】特開2006-183211(JP,A)
【文献】特開平03-130378(JP,A)
【文献】特開平02-259177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/06
B60C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のスチールフィラメントが撚り合わされてなるゴム物品補強用スチールコードであって、少なくとも1本のコアフィラメントからなるコアと、該コアの周りに少なくとも1本のシースフィラメントが撚り合わされてなる少なくとも1層のシース層からなるシースと、を有するゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記スチールフィラメントにはブラスめっきが施されており、かつ、前記コアフィラメントのブラスめっきの外周に、さらに亜鉛めっきが施されてなり、
前記スチールフィラメントの径dが、0.1mm以上0.6mm以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項2】
複数本のストランドが撚り合わされてなるゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記ストランドが、少なくとも1本のコアフィラメントからなるコアと、該コアの周りに少なくとも1本のシースフィラメントが撚り合わされてなる少なくとも1層のシース層からなるシースと、を有し、
前記スチールフィラメントにはブラスめっきが施されており、かつ、前記コアフィラメントのブラスめっきの外周に、さらに亜鉛めっきが施されてなり、
前記スチールフィラメントの径dが、0.1mm以上0.6mm以下のストランドであることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項3】
前記コアフィラメントの前記ブラスめっきの付着量(g/m
2)が6d以上10d以下であり、亜鉛めっき付着量(g/m
2)が25d以上95d以下である請求項1または2記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項4】
前記スチールフィラメントの抗張力Ts(MPa)が、下記式、
(-2000×d+3825)≦Ts<(-2000×d+4525)
で表される関係を満足する請求項1~3のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項5】
前記シースを構成する最外層シース層において、前記シースフィラメント間の隙間距離Lが50μm以下である請求項1~4のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項6】
タイヤ用である請求項1~5のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品補強用スチールコード(以下、単に「スチールコード」とも称する)に関し、詳しくは、ゴムとの接着性を損なわず、耐食性および生産性に優れたゴム物品補強用スチールコードに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤやコンベヤ等のゴム物品の補強材として、スチールコードをゴム被覆してなるゴム-スチールコード複合体が用いられている。このようなスチールコードにおいては、カット傷からスチールフィラメント(以下、単に「フィラメント」とも称す)に、雨水等が到達しないよう、亜鉛めっきを施すことが知られている。これにより、亜鉛めっきをフィラメントよりも優先的に腐食させ、フィラメントの腐食を遅らせることができる。このような、亜鉛めっきを施したスチールコードに関して、種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、複撚り構造のスチールコードの外周部を構成する最外層ストランドの最外層フィラメントには、ブラスめっき処理が施され、最外層ストランドよりも内側に位置する少なくとも1つのフィラメントには、亜鉛めっき処理が施されたスチールコードが提案されている。また、特許文献2では、複撚り構造のスチールコードを構成する最外層ストランドの最外層フィラメント以外の少なくとも1本のフィラメントに、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属でめっきを施し、かつ、そのめっき量を、全フィラメント1kg当たり0.0015~0.45molとすることが提案されている。さらに、特許文献3では、線径が0.02~0.20mmである鋼線を芯材とし、所定の引張強さTsを有し、かつ、芯線の表面に真鍮めっきの下層と亜鉛めっきの上層とからなる二層構造のめっき層を備えたワイヤ放電加工用電極線が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-202291号公報
【文献】特開2015-196937号公報
【文献】特開2003-311544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しなしながら、特許文献1~2で提案されているスチールコードは、ゴムとの接着性や耐食性については検討がなされているが、その製造方法については、検討がなされていなかった。また、特許文献3では、ゴム物品の補強用として検討がなされていない。したがって、ゴム物品補強用のスチールコードであって、耐食性に優れたスチールコードを生産性よく生産することについては、検討の余地が残されていたのが現状である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ゴムとの接着性を損なわず、耐食性および生産性に優れたゴム物品補強用スチールコードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。すなわち、亜鉛めっきを施したスチール線材に対して伸線加工を施すと、亜鉛めっきの脱落やダイスの摩耗等が生じ、これにより生産性が悪化していることを見出した。かかる知見をもとに、本発明者は、さらに鋭意検討した結果、得られるスチールコードの構造を下記のとおりとすることで、スチールコードを生産性よく製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のゴム物品補強用スチールコードは、複数本のスチールフィラメントが撚り合わされてなるゴム物品補強用スチールコードであって、少なくとも1本のコアフィラメントからなるコアと、該コアの周りに少なくとも1本のシースフィラメントが撚り合わされてなる少なくとも1層のシース層からなるシースと、を有するゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記スチールフィラメントにはブラスめっきが施されており、かつ、前記コアフィラメントのブラスめっきの外周に、さらに亜鉛めっきが施されてなり、
前記スチールフィラメントの径dが、0.1mm以上0.6mm以下であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の他のゴム物品補強用スチールコードは、複数本のストランドが撚り合わされてなるゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記ストランドが、少なくとも1本のコアフィラメントからなるコアと、該コアの周りに少なくとも1本のシースフィラメントが撚り合わされてなる少なくとも1層のシース層からなるシースと、を有し、
前記スチールフィラメントにはブラスめっきが施されており、かつ、前記コアフィラメントのブラスめっきの外周に、さらに亜鉛めっきが施されてなり、
前記スチールフィラメントの径dが、0.1mm以上0.6mm以下のストランドであることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のスチールコードにおいては、前記コアフィラメントの前記ブラスめっきの付着量(g/m2)が6d以上10d以下であり、亜鉛めっき付着量(g/m2)が25d以上95d以下であることが好ましい。また、本発明のスチールコードにおいては、前記スチールフィラメントの抗張力Ts(MPa)が、下記式、
(-2000×d+3825)≦Ts<(-2000×d+4525)
で表される関係を満足することが好ましい。さらに、本発明のスチールコードにおいては、前記シースを構成する最外層シース層において、前記シースフィラメント間の隙間距離Lが50μm以下であることが好ましい。本発明のスチールコードは、タイヤの補強材に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴムとの接着性を損なわず、耐食性および生産性に優れたゴム物品補強用スチールコードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一好適な実施の形態に係る層撚り構造のゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【
図2】本発明の他の好適な実施の形態に係る複撚り構造のゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のゴム物品補強用スチールコードについて、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係る層撚り構造のゴム物品補強用スチールコードの断面図である。本発明のスチールコード1は、複数本のスチールフィラメント2が撚り合わされてなるものであり、少なくとも1本のコアフィラメント2cからなるコアと、このコアの周りに少なくとも1本のシースフィラメント2sが撚り合わされてなる少なくとも1層のシース層からなるシースと、を有する層撚り構造のスチールコードである。図示するスチールコード1においては、3本のコアフィラメント2cが撚り合わされてなるコアの周りに、9本のシースフィラメント2sが撚り合わされてなる1層のシース層を有している。
【0014】
本発明のスチールコード1においては、スチールフィラメント2にはブラスめっきが施されており、かつ、コアフィラメント2cのブラスめっきの外周に、さらに亜鉛めっきが施されている。このようなスチールコード1は、コアフィラメント2c上に施された亜鉛めっきが、コアフィラメント2cよりも優先的に腐食するため、コアフィラメント2cの腐食を遅らせることができる。また、亜鉛めっきが施されているのはコアフィラメント2cであるため、スチールコード1とゴムとの接着性を阻害することもない。さらに、後述するが、かかる構造のスチールコード1は、生産性に優れている。
【0015】
本発明のスチールコードにおいては、コアフィラメント2cは撚り合わせずに並列に配置してもよいが、好ましくは、コアフィラメント2cが撚り合わされてなる構造であり、特に、図示するような3本のコアフィラメント2cが撚り合わされた構造である。かかる構造のコアは、ゴムが内部へ侵入するための隙間がないため、外部からの貫通傷等により露出したスチールコード断面の内部空隙から侵入した雨水等が、全長に伝播してスチールコードを錆びさせるため、ゴム製品の耐久性が低下してしまう。しかしながら、コアフィラメント2cのブラスめっき上に亜鉛めっきが施されていれば、亜鉛めっきの犠牲防食機能によりスチールコード1の耐食性を向上させることができる。そのため、本発明のスチールコードは、ゴムの浸透性が悪い構造のスチールコードに好適に適用することができる。
【0016】
図示する本発明の一好適な実施の形態に係るスチールコード1においては、シース層は1層であるが、さらに、このシース層の外側に複数本のシースフィラメント2sを撚り合わせて、シース層を複数層としてもよい。好ましくは、n+m構造またはn+m+l構造であって、n+m構造の場合、nが1本以上4本以下、mが5本以上10本以下であり、n+m+l構造の場合、さらにlが10本以上15本以下である。このような構造であれば、後述するスチールコードの製造方法にて、スチールコード1の生産性を損なうことはなく製造でき、かつ、補強材としての十分な強力を得ることができる。
【0017】
また、本発明のスチールコード1においては、フィラメント2の径dは、0.1mm以上0.6mm以下の範囲である。フィラメント2の径dが上記範囲であれば、スチールコード1の生産性を悪化させることはない。また、本発明のスチールコード1をタイヤの補強材として用いた場合でも、十分な強度を確保することができる。より好ましくは、0.12mm以上0.5mm以下である。
【0018】
本発明のスチールコード1においては、ブラスめっきゲージは、亜鉛めっきゲージよりも小さいことが好ましい。本発明の効果を良好に得るためには、亜鉛めっきのゲージをある程度確保する必要がある。また、後述する、スチールコードの製造方法においては、ブラスめっき後のスチール線材に伸線加工を施す必要があるため、通常、ブラスめっきゲージは亜鉛めっきゲージよりも小さくなる。
【0019】
具体的には、フィラメント2の径をdとしたとき、フィラメント2上のブラスめっきの付着量(g/m2)は6d以上10d以下であり、亜鉛めっき付着量(g/m2)は25d以上95d以下であることが好ましい。例えば、フィラメントの線径が0.3(mm)であれば、ブラスめっきの付着量は1.8(g/m2)以上、3.0(g/m2)以下であり、亜鉛めっきの付着量は7.5(g/m2)以上、28.5(g/m2)以下である。ブラスめっきの付着量を6d以上とすることで、伸線加工性を確保することができる。一方、10dより多いと生産性が低下し経済性の面で不利となるため好ましくない。また、亜鉛めっき付着量を、25d以上とすることで、耐食性を十分に向上させることができる。一方、95dより多いと生産性が低下し経済性の面で不利となるため、好ましくない。
【0020】
なお、本発明のスチールコード1においては、最外層シースフィラメント2s以外のスチールフィラメントのブラスめっきの外周に、亜鉛めっきが施されていてもよい。このように、最外層シースフィラメント2s以外のフィラメント2に亜鉛めっきを施すことにより、上記効果をより良好に得ることができる。
【0021】
さらに、本発明のスチールコード1においては、フィラメント2の引張強さTs(MPa)は、下記式、
(-2000×d+3825)≦Ts<(-2000×d+4525)
で表される関係を満足することが好ましい。Tsを(-2000×d+3825)以上とすることで、フィラメント2の線径が細くても引っ張り強さは確保できるので軽量効果が得られ、また、細いフィラメント2を使用できるので繰り返し曲げ疲労性が向上する。一方、Tsが(-2000×d+4525)以上となると、ブラスめっきでも断線が多発し、伸線加工性が低下し、生産性に支障をきたす場合がある。
【0022】
さらに、本発明のスチールコード1においては、最外層シース層において、シースフィラメント2sの隙間距離Lが50μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下である。スチールコード1の内部にゴムを浸透させるためには、最外層のシースフィラメント2s間に隙間を設けることが好ましい。しかしながら、隙間が大きくなると、シースフィラメント2sがコアの周りに均等に分散しにくくなるため、生産性が悪化する場合があり、また、シースフィラメント2sが偏った箇所にゴムが充分に浸透できない場合がある。さらに、シースフィラメント2sの突っ張りや強力低下が発生するおそれがある。そこで、最外層シース層のシースフィラメント2sの隙間距離Lは、強度と防錆性との両立の観点から、50μm以下が好ましい。
【0023】
なお、本発明のスチールコード1においては、コアフィラメント2cの径およびシースフィラメント2sの径は、同径であっても異径であってもよく、さらに、コアフィラメント2cおよびシースフィラメント2sの撚りピッチ、撚り方向についても、常法に従い、適宜選定することができる。
【0024】
また、本発明のスチールコード1に用いるフィラメント2としては、従来用いられているものであれば何れでも用いることができるが、炭素成分が0.80質量%以上である高炭素鋼であることが好ましい。フィラメント2の素材を高硬度である炭素成分が0.80質量%以上の高炭素鋼とすることで、タイヤやベルトのようなゴム物品の補強効果を十分に得ることができる。一方、炭素成分が1.5質量%未満とすることで、延性が確保でき、耐疲労性を向上させることができる。
【0025】
次に、本発明の他の好適な実施の形態に係るスチールコードについて説明する。
図2は、本発明の他の好適な実施の形態に係る複撚り構造のゴム物品補強用スチールコードの断面図である。図示するように、本発明の他の好適な実施に係るスチールコードは、本発明の一好適な実施の形態に係るスチールコードをストランド1とし、このストランド1を複数本撚り合わせてなる複撚り構造のスチールコードである。
図2に示すスチールコード11は、1本のコアストランド12に、6本のシースストランド13が巻き付けられており、コアストランド12およびシースストランド13ともに、3本のコアフィラメント12c、13cが撚り合わされてなるコアの周りに、9本のシースフィラメント12s、13sが撚り合わされた構造である。
【0026】
図示する例においては、1本のコアストランド12の外周に6本のシースストランド13が撚り合わされているが、本発明の他の好適な実施の形態については、これに限られるものではない。例えば、コアストランドを複数本としてもよく、2本のコアストランドを撚り合わせて、または撚り合わせずに並列に配置してもよい。シースストランドの本数についても、6~10本とすることができる。なお、本発明の他の好適な実施の形態においては、ストランドの撚り方向、撚りピッチ等についても特に制限はなく、常法に従い、適宜選定することができる。
【0027】
本発明のスチールコード1、11の用途としては、特に制限はないが、自動車用等のタイヤ、動伝達ベルト、コンベアベルト等の工業用ベルト、ゴムクローラ、ホース、免震用のゴム支承体等の各種ゴム製品や部品類に広く使用することができる。これらの中でも、タイヤの補強材に好適に用いることができる。特に、大型建設車両用タイヤのベルトの補強材に好適であり、リム径57インチ以上、特には63インチ以上の超大型建設車両用タイヤに有用である。
【0028】
次に、本発明のスチールコードの製造方法について説明する。本発明の一好適な実施の形態に係るスチールコードの製造方法(以下、単に「製造方法」とも称す)は、スチール線材にブラスめっきを行うブラスめっき工程と、得られたスチール線材を伸線加工する伸線工程と、得られたスチールフィラメント2を撚り合わせてスチールコード1を形成するスチールフィラメント撚り合わせ工程と、を有している。本発明の一好適な実施の形態に係る製造方法においては、スチールフィラメント撚り合わせ工程の前に、コアフィラメント2cに亜鉛めっきを行う亜鉛めっき工程を有している。また、スチールフィラメント撚り合わせ工程において、コアフィラメント2cを撚り合わせてコアを形成した後に亜鉛めっきを行う亜鉛めっき工程を有している。なお、ブラスめっきの前に伸線加工を更に加えてもよい。
【0029】
本発明の他の好適な実施の形態に係るスチールコードの製造方法(以下、単に「製造方法」とも称す)は、スチール線材にブラスめっきを行うブラスめっき工程と、得られたスチール線材を伸線加工する伸線工程と、得られたスチールフィラメントを撚り合わせてストランド12、13を形成するスチールフィラメント撚り合わせ工程と、得られたストランド12、13を撚り合わせるストランド撚り合わせ工程と、を有している。本発明の他の好適な実施の形態に係る製造方法においては、スチールフィラメント撚り合わせ工程の前に、コアフィラメント12c、13cに亜鉛めっきを行う亜鉛めっき工程を有している。また、スチールフィラメント撚り合わせ工程において、コアフィラメント12c、13cを撚り合わせてコアを形成した後に、コアフィラメント12c、13cに亜鉛めっきを行う亜鉛めっき工程を有している。なお、ブラスめっきの前に伸線加工を更に加えてもよい。
【0030】
本発明のスチールコード1、11は、コアフィラメント2c、12c、13cのブラスめっきの外周に、さらに亜鉛めっきが施されている。したがって、その製造方法としては、スチール線材にブラスめっきおよび亜鉛めっきを施したのち、スチール線材に伸線加工を施してフィラメントとし、このフィラメントを撚り合わせることにより製造することが考えられる。しかしながら、亜鉛めっきが施されたスチール線材の伸線は、ブラスめっきが施されたフィラメントの伸線と比較して、めっきの脱落が多く、また、ダイスの摩耗が大きいという問題を有している。このような問題を解消するためには、伸線速度を落とす必要があり、生産性が悪化してしまう。
【0031】
そこで、本発明の製造方法においては、ブラスめっきが施されたスチール線材に伸線加工を施してフィラメントとし、その後にコアフィラメント2c、12c、13cに亜鉛めっきを施している。また、スチールフィラメント撚り合わせ工程において、コアフィラメント2cを撚り合わせてコアを形成した後に亜鉛めっきを施している。このように亜鉛めっきを伸線工程後に行うことによって、スチール線材の伸線速度の低下を防止し、めっきの脱落およびダイスの摩耗という問題を回避することができる。
【0032】
本発明の製造方法においては、亜鉛めっき工程を、電気めっきにて行うことが好ましい。一般的な亜鉛めっきである溶融亜鉛めっきでは、450℃以上の溶融亜鉛にフィラメントを浸漬してめっき処理するため、強度が2,500MPa以上のフィラメントの場合、強度が大きく低下してしまう。そこで、本発明の製造方法においては、亜鉛めっき工程を、電気めっきにて行うことで、上記問題を回避することができる。
【0033】
また、本発明の製造方法においては、コアフィラメント2c、12c、13cのブラスめっき上に亜鉛めっきを施したのち、酸洗浄を行う酸洗浄工程を有していることが好ましい。酸洗浄を行うことで、亜鉛めっき表面が平滑になり、スチールフィラメント撚り合わせ工程において、撚線機の超鋼ガイド等での亜鉛めっきの脱落を防止することができる。酸洗浄に用いる酸としては、例えば、硝酸を用いることができる。
【0034】
なお、本発明の製造方法においては、スチール線材上にブラスめっきを施す手段としては特に制限はなく、銅および亜鉛を順次めっきし、その後に熱拡散処理を行うことによりブラスめっき層を形成してもよく、銅と亜鉛を同時にめっきすることによりブラスめっき層を形成してもよい。
【0035】
本発明の製造方法においては、その他の工程については、特に制限はない。例えば、スチール線材の巻出工程、スチール線材の伸線工程、スチールフィラメント撚り合わせ工程、およびスチールコードの巻取り工程等については、従来と同様の手順にて行うことができる。例えば、ブラスめっき工程後の伸線工程における伸線方法は乾式伸線でも湿式伸線でもよいが、スチールコード用として用いる場合、ブラスめっき鋼線は最終伸線後のフィラメント径は0.8mm以下であるため、湿式伸線を採用することが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1>
スチール線材として、線径5.5mmの炭素含有量0.82質量%のピアノ線材を用い、これに伸線加工、パテンティングをおこない、線径1.86mmのスチール線材とした。このスチール線材に銅・亜鉛めっきを施した後、熱拡散してブラスめっきとし、これを再度伸線加工して線径0.34mmのフィラメントを得た。その後、コアフィラメントに用いるスチールフィラメントのみに亜鉛めっきを施した。亜鉛めっきは電気めっきにより行い、亜鉛めっき後、硝酸を用いて洗浄を行い、その後、スチールフィラメントを撚り合わせて3+9×0.34mmのスチールコードを製造した。
【0037】
<実施例2、3>
スチール線材として、線径5.5mmの炭素含有量0.82質量%のピアノ線材を用い、これに伸線加工、パテンティングをおこない、線径1.86mmのスチール線材とする。このスチール線材に銅・亜鉛めっきを施した後、熱拡散してブラスめっきとし、これを再度伸線加工して線径0.34mmのフィラメントを得る。その後、コアフィラメントに用いるスチールフィラメントのみに亜鉛めっきを施す。亜鉛めっきは電気めっきにより行い、亜鉛めっき後、硝酸を用いて洗浄を行い、その後、スチールフィラメントを撚り合わせて3+9×0.34mmのスチールコードを製造する。
【0038】
<比較例1>
ブラスめっきを施さず、伸線工程前に亜鉛めっきを施したこと以外は、実施例1と同様にしてスチールコードを作製する。
【0039】
<比較例2>
線径0.62mmのスチールフィラメントを撚り合わせて3+9×0.62mmのスチールコードを製造する以外は、実施例1と同様にしてスチールコードを作製する。
【0040】
<ゴムの付着および耐食性>
実施例1のスチールコードを2.0mm間隔で平行に並べ、この並べたコードを上下両側からゴムシートでコーティングして、これを145℃×40分の条件で加硫処理を施してゴム-スチールコード複合体を作製した。得られたゴム-スチールコード複合体をカットし、一端からスチールコードを露出させ、他端を樹脂で塞ぎ、評価用サンプルとした。この評価用サンプルを10%食塩水につけて6日間腐食劣化させ、スチールコードへのゴムの付着状態について評価した。ゴムの付着状態は、スチールコード全体にゴムが付着している場合を100とする指数として評価した。この数値が大きいほどゴムの付着が多く優れていることを示す。耐食性はサビ進展長さにて評価し、実施例1のサビ進展長さを100とする指数とした。実施例2、3および比較例1、2のスチールコードについても、同様にゴムの付着状態および耐食性を評価する。
【0041】
<生産性>
生産性は単位時間当たりに製造されるコード重量を、実施例1を100として指数で表わした。
【0042】
<コード重量>
コード重量は、ゴム物品補強材の強度を同一にするようスチールコードを打ち込んだ時のスチールコード重量を、実施例1を100とした指数にて表した。数値が小さい程軽量であることを示す。
【0043】
【表1】
めっきのタイミングA:亜鉛めっき後、伸線加工を施し、その後スチール
コードを製造
めっきのタイミングB:ブラスめっき後、伸線加工を施し、その後亜鉛め
っきを施した後、スチールコードを製造
【0044】
表1より、本発明のスチールコードは、ブラスめっき処理したスチール線材に伸線加工を施した後、亜鉛めっきを施しているため、生産性よく製造することができていることがわかる。また、ゴムに付着および耐食性にも優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0045】
1、11 スチールコード
2 スチールフィラメント
2c コアフィラメント
2s シースフィラメント
12 コアストランド
12c コアフィラメント
12s シースフィラメント
13 シースストランド
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