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特許7454502高容量、高エネルギー密度及び長期サイクル寿命性能を達成する、リチウムイオンセルのための酸化ケイ素活性材料を用いた電極
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】高容量、高エネルギー密度及び長期サイクル寿命性能を達成する、リチウムイオンセルのための酸化ケイ素活性材料を用いた電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20240314BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240314BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240314BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240314BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240314BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240314BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240314BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240314BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240314BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240314BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240314BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240314BHJP
【FI】
H01M10/0525
C01G53/00 A
H01M4/13
H01M4/133
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M10/0568
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020554057
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 US2018066881
(87)【国際公開番号】W WO2019126549
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】15/948,160
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/609,930
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520223365
【氏名又は名称】アイオンブロックス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ionblox, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】サブラマニアン・ベンカタチャラム
(72)【発明者】
【氏名】サンジーブ・シャルマ
(72)【発明者】
【氏名】シャンユー・アイリス・リィ
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ・エイ・ヘルナンデス-ガリェゴス
(72)【発明者】
【氏名】チャラン・マサラプ
(72)【発明者】
【氏名】スジート・クマール
(72)【発明者】
【氏名】ハーマン・エイ・ロペス
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521914(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088837(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046304(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/145521(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047778(WO,A1)
【文献】特開2016-204570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/0587
H01M 4/00 - 4/62
H01G 11/00 -11/86
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
75重量%~92重量%の活性材料、1重量%~7重量%のナノスケール導電性炭素及び6重量%~20重量%のポリマーバインダーを含む負極であって、前記活性材料は、40重量%~95重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び5重量%~60重量%のグラファイトを含み、前記ポリマーバインダーは、少なくとも50%の伸びを有する60重量%~95重量%のポリイミドと、2.4GPa以下の弾性係数を有する第2のポリマーバインダーとのブレンドを含む、負極と、
式LiNiMnCo(式中、x+y+z≒1、0.45≦x、0.025≦y≦0.35、0.025≦z≦0.35である)によって表されるニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガン、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と、
前記負極と前記正極との間のセパレーターと、
リチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質と、
他のセル構成要素を囲む容器と
を含むリチウムイオンセル。
【請求項2】
前記酸化ケイ素ベースの材料は、酸化ケイ素-ケイ素-炭素複合材を含む、請求項1に記載のリチウムイオンセル。
【請求項3】
記活性材料は、50重量%~90重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び10重量%~50重量%のグラファイトを含み、前記グラファイトは、2m/g~100m/gのBET表面積を有する、請求項1又は2に記載のリチウムイオンセル。
【請求項4】
前記負極の前記第2のポリマーバインダーは、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム、リチウム化ポリアクリル酸、それらのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項5】
前記ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガンは、前記式LiNiMnCo(式中、x+y+z≒1、0.50≦x、0.03≦y≦0.325、0.03≦z≦0.325である)によって表される、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項6】
前記正極は、20重量%~80重量%の、式Li1+bNiαMnβCoγδ2-z(式中、b+α+β+γ+δ≒1であり、bは、0.04~0.3の範囲であり、αは、0~0.4の範囲であり、βは、0.2~0.65の範囲であり、γは、0~0.46の範囲であり、δは、0~0.15の範囲であり、且つzは、0~0.2の範囲であるが、ただし、α及びγの両方が0であることはなく、及びAは、リチウム、マンガン、ニッケル及びコバルトと異なる金属である)によって表される(リチウム+マンガン)リッチリチウム金属酸化物をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項7】
負極第1サイクル不可逆容量損失の80%~180%の量で相補的リチウムをさらに含み、C/3の放電レートで4回目のサイクルにおいて、1.10~1.95の、正極容量によって割られた負極容量の比率を有し、且つ30℃でC/3のレートにおいて、選択された充電電圧から2.5Vまで放電されて少なくとも235Wh/kgのエネルギー密度を有し、前記選択された充電電圧は、4.15V~4.35Vである、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項8】
複数の負極、
複数の正極
をさらに含み、前記容器は、角柱形状を有し、且つリチウムイオンセルは、C/3のレートにおいて4.35Vから2Vまでサイクルされて少なくとも2Ahの容量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項9】
C/3のレートにおいて2.5V及び選択された充電電圧間で5回目のサイクルから450回目のサイクルまでサイクルされた場合、5回目のサイクルにおける容量の少なくとも80%の前記容量を450回目のサイクルにおいて有し、前記選択された充電電圧は、4.15V~4.35Vである、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項10】
78重量%~92重量%の活性材料、1重量%~7重量%のナノスケール導電性炭素及び6重量%~20重量%のポリマーバインダーを含む、リチウムイオンセルのための負極であって、前記ポリマーバインダーは、少なくとも50%の伸びを有する60重量%~95重量%のポリイミド、及び少なくとも5重量%の、2.4GPa以下の弾性係数を有する別個の第2のポリマーバインダーを含む、負極。
【請求項11】
前記活性材料は、ケイ素ベースの組成物を含む、請求項10に記載の電極。
【請求項12】
前記ケイ素ベースの組成物は、酸化ケイ-ケイ素-炭素複合材組成物を含む、請求項11に記載の電極。
【請求項13】
前記活性材料は、前記ケイ素ベースの組成物とブレンドされた5重量%~60重量%のグラファイトを含む、請求項11又は12に記載の電極。
【請求項14】
前記別個の第2のポリマーバインダーは、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム、リチウム化ポリアクリル酸、それらのコポリマー及びそれらの混合物を含み、且つ少なくとも35%の伸びを有する、請求項10~13のいずれか一項に記載の電極。
【請求項15】
前記ポリイミドは、少なくとも60MPaの引張強度を有する、請求項10~14のいずれか一項に記載の電極。
【請求項16】
前記ナノスケール導電性炭素は、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ又はそれらの組合せを含む、請求項10~15のいずれか一項に記載の電極。
【請求項17】
78重量%~88重量%の活性材料、2重量%~6重量%のナノスケール導電性炭素及び8重量%~18重量%のポリマーバインダーを含む、請求項10~16のいずれか一項に記載の電極。
【請求項18】
前記ポリマーバインダーが、少なくとも10重量%の別個の第2のポリマーバインダーを含み、前記別個の第2のポリマーバインダーが2GPa以下の弾性係数を有する、請求項10~17のいずれか一項に記載の電極。
【請求項19】
前記活性材料は、50重量%~90重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び10重量%~50重量%のグラファイトを含み、前記グラファイトは、2m/g~100m/gのBET表面積を有する、請求項10~18のいずれか一項に記載の電極。
【請求項20】
C/3のレートにおいて5ミリボルト(mV)から1.5Vまでリチウム金属に対してサイクルされて少なくとも1000mAh/gの比容量を有する、請求項10~19のいずれか一項に記載の電極。
【請求項21】
酸化ケイ素、グラファイト、ナノスケール導電性炭素及びポリマーバインダーを含み、前記ポリマーバインダーが、少なくとも50%の伸びを有する60重量%~95重量%のポリイミドと、2.4GPa以下の弾性係数を有する第2のポリマーバインダーとのブレンドを含む、負極と、
酸化リチウムニッケルコバルトマンガン、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と、
前記負極と前記正極との間のセパレーターと、
リチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質と、
他のセル構成要素を囲む容器と
を含むリチウムイオンセルであって、30℃でC/3のレートにおいて、選択された充電電圧から2.5Vまで放電されて少なくとも235Wh/kgのエネルギー密度を有し、且つC/3のレートにおいて2.3V及び前記選択された充電電圧間で5回目のサイクルから450回目のサイクルまでサイクルされた場合、5回目のサイクルにおける容量の少なくとも80%の前記容量を450サイクルにおいて有し、前記選択された充電電圧は、4.15V~4.35Vである、リチウムイオンセル。
【請求項22】
前記負極は、75重量%~92重量%の活性材料、1重量%~7重量%のナノスケール導電性炭素及び7重量%~20重量%のポリマーバインダーを含み、前記活性材料は、40重量%~95重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び5重量%~60重量%のグラファイトを含む、請求項21に記載のリチウムイオンセル。
【請求項23】
前記負極は、50重量%~90重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び10重量%~50重量%のグラファイトを含み、前記第2のポリマーバインダーは、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム、リチウム化ポリアクリル酸、それらのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項21に記載のリチウムイオンセル。
【請求項24】
前記正極は、式LiNiMnCo(式中、x+y+z≒1、0.45≦x、0.025≦y≦0.35、0.025≦z≦0.35である)によって表されるニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガンを含む、請求項21~23のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項25】
0.525≦x≦0.7であり、前記選択された充電電圧は、4.25V~4.375 Vである、請求項24に記載のリチウムイオンセル。
【請求項26】
0.7≦x≦0.9であり、前記選択された充電電圧は、4.05V~4.285Vである、請求項24に記載のリチウムイオンセル。
【請求項27】
少なくとも約2Ahの総容量を有し、前記容器は、10,000mm~50,000mmの面積及び30,000mm~800,000mmの体積を有する角柱形状を有する、請求項21~26のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項28】
複数の負極及び複数の正極をさらに含み、且つ30℃でC/3のレートにおいて、前記選択された電圧から2.5Vまで放電されて少なくとも245Wh/kgのエネルギー密度を有する、請求項21~27のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項29】
負極第1サイクル不可逆容量損失の80%~180%の量で相補的リチウムをさらに含み、且つC/3の放電レートで4回目のサイクルにおいて、1.10~1.95の、正極容量によって割られた負極容量の比率を有し、且つC/3のレートにおいて2.5V及び前記選択された電圧間で5回目のサイクルから450回目のサイクルまでサイクルされた場合、5回目のサイクルにおける容量の少なくとも80%の前記容量を450回目のサイクルにおいて有する、請求項21~28のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「Electrodes with Silicon Oxide Active Materials for Lithium Ion Cells Achieving High Capacity and Long Cycle Life Performance and Resulting High Energy Density Cells」という名称のVenkatachalamらへの2017年12月22日出願の米国仮特許出願第62/609,930号明細書に対する優先権を主張する、「Electrodes with Silicon Oxide Active Materials for Lithium ion Cells Achieving High Capacity,High Energy Density and Long Cycle Life Performance」という名称のVenkatachalamらへの2018年4月9日出願の米国特許出願公開第15/948,160号明細書に対する優先権を主張し、これらの両方は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府出資研究開発
本発明は、米国エネルギー省から与えられた米国先進バッテリー協会プログラム番号(United States Advanced Battery Consortium Program Number):14-2141-ABCに基づく米国政府資金提供協定番号DE-EE0006250に基づき、政府の支援によって実施された。政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、良好なサイクリング能力を達成しながら、高容量酸化ケイ素活性材料を組み込む負極の形成に関する。本発明は、これらの高容量長寿命サイクル負極から高エネルギー密度を有するセルに組み立てられたセルにさらに関する。
【背景技術】
【0004】
リチウムバッテリーは、それらの比較的高いエネルギー密度のため、消費者向け電子機器において広く使用されている。いくつかの現在市販されているバッテリーに関して、負極材料は、グラファイトであり得、且つ正極材料は、酸化リチウムコバルト(LiCoO)、酸化リチウムマンガン(LiMn)、リン酸リチウム鉄(LiFePO)、酸化リチウムニッケル(LiNiO)、酸化リチウムニッケルコバルト(LiNiCoO)、酸化リチウムニッケルコバルトマンガン(LiNiMnCoO)、酸化リチウムニッケルコバルトアルミニウム(LiNiCoAlO)などを含み得る。負極に関して、チタン酸リチウムは、良好なサイクリング特性を有するグラファイトの代替物であるが、より低いエネルギー密度を有する。酸化スズ及びケイ素などのグラファイトの他の代替物は、エネルギー密度の増加を提供する可能性を有する。しかしながら、いくつかの高容量負極材料は、特にケイ素に関して、リチウムのインターカレーション/合金化に関連する構造変化及び非常に大きい体積膨張に関連する高い不可逆容量損失並びに不十分な放電及び充電サイクルのため、商業的に不適切であることがわかっている。構造変化及び大きい体積変化によって電極の構造完全性が損なわれる可能性があり、それによりサイクリング効率が低下する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様において、本発明は、負極と、正極と、負極と正極との間のセパレーターと、リチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質と、他のセル構成要素を囲む容器とを含むリチウムイオンセルに関する。負極は、約75重量%~約92重量%の活性材料、約1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素及び約6重量%~約20重量%のポリマーバインダーを含み得、活性材料は、約40重量%~約95重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び約5重量%~約60重量%のグラファイトを含み得る。いくつかの実施形態において、正極は、式LiNiMnCo(式中、x+y+z≒1、0.45≦x、0.025≦y≦0.35、0.025≦z≦0.35である)によって概ね表されるニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガン、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む。
【0006】
別の態様において、本発明は、約78重量%~約92重量%の活性材料、約1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素及び約6重量%~約20重量%のポリマーバインダーを含む、リチウムイオンセルのための負極であって、ポリマーバインダーは、少なくとも約50重量%のポリイミド及び少なくとも約5重量%の、約2.4GPa以下の弾性係数を有する別個の第2のポリマーバインダーを含む、負極に関する。いくつかの実施形態において、別個の第2のポリマーバインダーは、少なくとも約35%の伸びを有する。
【0007】
さらなる態様において、本発明は、酸化ケイ素、グラファイト、ナノスケール導電性炭素及びポリマーバインダーを含む負極と、酸化リチウムニッケルコバルトマンガン、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と、負極と正極との間のセパレーターと、リチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質と、他のセル構成要素を囲む容器とを含むリチウムイオンセルに関する。いくつかの実施形態において、リチウムイオンセルは、30℃でC/3のレートにおいて、少なくとも約4.25Vの選択された充電電圧から2.5Vまで放電されて少なくとも235Wh/kgのエネルギー密度を有し、且つC/3のレートにおいて、2.3V及び選択された充電電圧間で5回目のサイクルから450回目のサイクルまでサイクルされた場合、5回目のサイクルにおける容量の少なくとも約80%の容量を450サイクルにおいて有する。
【0008】
他の態様において、本発明は、酸化ケイ素、グラファイト、ナノスケール導電性炭素及びポリマーバインダーを含む負極と、酸化リチウムニッケルコバルトマンガン、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と、負極と正極との間のセパレーターと、リチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質と、他のセル構成要素を囲む容器とを含むリチウムイオンセルに関する。いくつかの実施形態において、リチウムイオンセルは、30℃でC/3のレートにおいて、4.35Vから2.3Vまで放電されて少なくとも235Wh/kgのエネルギー密度を有し、且つC/3のレートにおいて、2.3V及び4.35V間で5回目のサイクルから450回目のサイクルまでサイクルされた場合、5回目のサイクルにおける容量の少なくとも約80%の容量を450サイクルにおいて有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】2部分のポーチケースから分離されたバッテリーコアを有するポーチバッテリーの拡大図である。
図2図1の組み立て型ポーチバッテリーの透視下面図である。
図3図2のポーチバッテリーの底面図である。
図4】電極スタックを含むバッテリーコアの実施形態を示す。
図5】任意選択的に選択された量のグラファイトがブレンドされた、いずれかのSiO/Si/C複合材による活性材料による電極の組合せのハーフセル(リチウム箔電極)の組合せに関するサイクル数の関数としての比容量のプロットである。
図6】正極活性材料のためのリチウム金属酸化物のブレンドと、任意選択的に選択された量のグラファイトがブレンドされた、いずれかのSiO/Si/C複合材による負極の組合せとによるフルコインセルの組合せに関するサイクル数の関数としての比容量のプロットである。
図7図6の比容量プロットをベースとするサイクルの関数としての正規化された比容量のプロットである。
図8】活性材料ブレンド及び種々のナノスケール炭素導電性添加剤によるハーフセルの組合せに関するサイクルの関数としての比容量のプロットである。
図9図8のケイ素ベースの電極と、正極活性材料のためのリチウム金属酸化物のブレンドとのフルコインセルに関するサイクルの関数としての比容量のプロットである。
図10図9の比容量に関するサイクルの関数としての正規化された比容量のプロットである。
図11】種々のポリマーバインダー配合物を含む電極によるハーフセルのサイクルの関数としての比容量のプロットである。
図12図11のハーフセルにおいて使用されるものに対応する負極と、リチウム金属酸化物ブレンドを含む正極とによるフルセルに関するサイクルの関数としての比容量のプロットである。
図13図12のフルセルに関するサイクルの関数としての正規化された容量のプロットである。
図14】電極が4種の別個のバインダー組成物を有する5種の異なる配合物を含む、図11~13のセルに対する別の活性材料配合物によるハーフセルに関する比容量対サイクルのプロットである。
図15図14のハーフセルにおいて使用されるものに対応する負極と、リチウム金属酸化物ブレンドを含む正極とによるフルセルに関するサイクルの関数としての比容量のプロットである。
図16図15のフルセルに関するサイクルの関数としての正規化された容量のプロットである。
図17】図に示される電圧範囲上をサイクルされた、酸化ケイ素/炭素複合材粒子及びグラファイトのブレンドによる負極及びLiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)又はLiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)による正極によるコインセルに関する比容量の関数としてのセル電圧のプロットの組合せである。
図18図17に示される3つのコインセルフォーマットに関するサイクル数の関数としての比放電容量のプロットの組合せである。
図19図18にプロットされた結果を作成するために使用される3つのコインセルに関するサイクル数の関数としての正規化された比放電容量のプロットの組合せである。
図20】C/20の放電及び充電レートによる第1のサイクル上でのNMC811ベースの正極及び酸化ケイ素-グラファイトブレンド負極によるコインセルの比容量の関数としてのセル電圧のプロットである。
図21】C/6の充電レート及びC/10の放電レートによる、図20を作成するために使用されるコインセルに関する第2の充電/放電サイクル上での比容量の関数としての電圧のプロットである。
図22図20のプロットを作成するために使用されるものと同様の2つの同等のコインセルのサイクルの関数としての比放電容量のプロットである。
図23図22を作成するために使用されるコインセルに関するサイクルの関数としての正規化された容量のプロットである。
図24】約21Ahでの作動のために設計されたポーチセルの正面図である。
図25図24のポーチセルの側面図である。
図26】約11Ahでの作動のために設計されたポーチセルの正面図である。
図27図26のポーチセルの側面図である。
図28図24~27のポーチセルに関するサイクルの関数としての正規化された容量のプロットである。
図29】4.3V~2.3Vの電圧範囲上でサイクルされたグラファイト及びNMC622ベースの正極とブレンドされた酸化ケイ素/炭素を使用するポーチセルに関するサイクル数の関数としての比エネルギーのプロットである。
図30図29の結果を作成するために使用される2つのポーチセルに関するサイクル数の関数としての正規化された比エネルギーのプロットである。
図31図29の結果を作成するために使用される2つのポーチセルに関するサイクル数の関数としての放電容量のプロットである。
図32図29の結果を作成するために使用される2つのポーチセルに関するサイクル数の関数としての正規化された放電容量のプロットである。
図33】NMC811活性材料による正極及び本明細書に記載の改良された酸化ケイ素ベースのアノードを使用する「11Ah設計」による2つのポーチセルに関するサイクルの関数としての比エネルギーのプロットである。
図34図33のプロットを作成するために使用されるセルに関するサイクルの関数としての正規化された比エネルギーのプロットである。
図35図33のプロットを作成するために使用されるセルに関するサイクルの関数としての容量のプロットである。
図36図33のプロットを作成するために使用されるセルに関するサイクルの関数としての正規化された容量のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
電極設計の改善により、ケイ素ベースの活性材料、例えば酸化ケイ素の高い比容量を利用しながら、より長期のサイクル性能の達成が提供される。サイクリングを安定させるために、アノード(負極)設計の特定の特徴を適切に考慮して、驚くほど改善されたサイクリング性能を達成できることが発見された。特に、活性材料は、ケイ素ベースの活性材料とのブレンドを含むように設計することが可能であるが、グラファイトの有意な成分とのブレンドを含むように設計することができる。さらに、バインダーの特徴は、いくつかの実施形態において、サイクリング安定性にも有意に寄与することがわかっており、機械的に強度の高いポリイミドと、より弾性のポリマーとの有利なブレンドが本明細書において記載される。グラファイトは、導電性であるが、電極に導電性を提供し、予想外のサイクリングの改善を提供するために、ナノスケール炭素も適切な量で使用することができる。次いで、これらの改善を個別又は組み合わせて使用して、有意なサイクリング安定性を達成しながら、望ましい容量を有する負極を形成することができる。電極のいくつかの実施形態において、初期(形成後)放電比容量の少なくとも80%を維持しながら、600回より多い充電/放電サイクルを達成するセルを形成することができる。これらの負極の改良は、本出願人のセル設計と互換性があり、適切な正極設計を使用する対応するセルの高エネルギー密度を対応して達成することも発見された。良好なサイクリングの高エネルギー密度セルは、ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガン正極活性材料を組み込む正極によって説明される。したがって、少なくとも約235Wh/kgの初期成形後エネルギー密度を達成しながら、自動車用途及び他の適切な用途に適切であるより大型のセルフォーマットで長期サイクル安定性セルを形成することが可能である。
【0011】
リチウムは、一次バッテリー及び二次バッテリーの両方で使用されている。セル又はバッテリー用途に関するリチウムの魅力的な特徴は、その軽量性及びそれが最も電気陽性の金属であるという事実であり、これらの特徴の態様は、リチウムベースのバッテリーでも有利に捉えることができる。金属、金属酸化物及び炭素材料の特定の形態は、インターカレーション、合金化又は類似の機構により、リチウムイオンを電解質からその構造中に組み込むことが知られている。リチウムベースのバッテリーの正極は、一般に、リチウムと可逆的にインターカレーション/合金化する活性材料を含む。リチウムイオンセルは、一般に、負極活性材料もリチウムインターカレーション/合金材料であるセルを意味する。本明細書で使用される場合及び便宜上、セル及びバッテリーという用語並びにその変形は、明示的な区別がある場合を除き、交換可能に使用される。
【0012】
本明細書に記載されるバッテリーは、リチウムカチオン及び適切なアニオンを含む非水性電解質溶液を使用するリチウムイオンバッテリーである。充電中の二次リチウムイオンバッテリーに関して、カソード(正極)において酸化が発生し、そこでリチウムイオンが抽出され、電子が放出される。放電中、カソードにおいて還元が発生し、そこでリチウムイオンが挿入され、電子が消費される。同様に、充電中、アノード(負極)において還元が発生し、そこでリチウムイオンが取り込まれて、電子が消費される。また、放電中、アノードにおいて酸化が発生し、リチウムイオン及び電子が放出される。特に明記されない限り、本明細に記載される性能値は、室温、すなわち約23±2℃におけるものである。以下に記載されるように、ケイ素ベースの活性材料の試験のいくつかは、リチウム金属電極を使用するリチウムセル(ハーフセルと呼ばれる)又はリチウム金属酸化物を含む正極を使用するリチウムイオンセル(フルセルと呼ばれる)で実施される。ケイ素ベースの電極を用いるハーフセルにおいて、リチウム電極は、負極として機能し、ケイ素ベースの電極は、正極として機能する。これは、リチウムイオンセルの負極としての通常の役割と反対である。
【0013】
「元素」という用語は、本明細書では、元素が組成物中にある場合に元素が適切な酸化状態を有し、且つ元素形態にあることが示される場合に元素がその元素形態Mにある、周期表の一員を意味するという従来の様式で使用される。したがって、金属元素は、一般に、その元素形態の金属状態又は金属の元素形態の適切な合金でのみ存在する。すなわち、金属合金以外の金属酸化物又は他の金属組成物は、一般に金属ではない。
【0014】
リチウムイオンバッテリーを使用する場合、正極及び負極からのリチウムの取り込み及び放出により、電気活性材料の構造における変化が誘導される。これらの変化が本質的に可逆性である限り、サイクルによって材料の容量は変化しない。しかしながら、程度の差はあるが、サイクルによって活性材料の容量が減少することが観察されている。したがって、多数のサイクル後、セルの性能は、許容値より低くなり、セルが交換される。また、セルの第1のサイクルでは、一般に、後続のサイクルでの1サイクルあたりの容量損失よりも有意に大きい不可逆容量損失が発生する。不可逆容量損失(IRCL)は、新しいセルの充電容量と第1の放電容量との間の差である。リチウム金属酸化物をベースとする正極は、いくらかのIRCLを示す可能性があり、その結果、サイクルのために利用可能なリチウムに関して負極にいくらかの補充がもたらされる。不可逆容量損失により、初期サイクル間のセル材料の変化によってセルの容量、エネルギー及び電力における対応する減少がもたらされる可能性がある。
【0015】
元素ケイ素及び他のケイ素をベースとする活性材料は、リチウムの取り込み及び放出に関するケイ素の非常に高い比容量のため、負極材料の候補として非常に注目されている。元素ケイ素は、リチウムとの合金を形成するが、理論的にはケイ素1原子あたり4個より多いリチウム原子に対応するリチウム含有量を有することが可能である(例:Li4.4Si)。したがって、ケイ素の理論上の比容量は、4000~4400mAh/g程度であり、これは、グラファイトに関する約370mAh/gの理論容量よりも有意に大きい。グラファイトは、6個の炭素原子に対して約1個のリチウム原子のレベルまでリチウムをインターカレーションすると考えられている(LiC)。また、元素ケイ素、ケイ素合金、ケイ素複合材などは、グラファイトに類似してリチウム金属に対して低い電位を有する可能性がある。しかしながら、リチウムとの合金化により、ケイ素は、非常に大きい体積変化を受ける。初期体積の2~3倍程度以上の大きい体積膨張が観察され、大きい体積変化は、ケイ素ベースの負極を有するバッテリーのサイクリング安定性における有意な減少と関連する。亜酸化ケイ素、すなわちx<2であるSiOもリチウムベースのバッテリーに関して所望の活性材料であることが発見されている。これは、いくつかの実施形態において、リチウム合金化に関して高い比容量を有することが可能である。亜酸化ケイ素を参照することにより、二酸化ケイ素をケイ素の完全酸化形態として認識することができる。便宜上、亜酸化ケイ素は、一般に、酸化ケイ素と呼ばれ得、これは、特に指示がない限り、一酸化ケイ素(SiO)に限定されない。
【0016】
特に興味深い実施形態において、ケイ素ベースの活性材料は、元素ケイ素及び/又は亜酸化ケイ素を主要な活性材料として含み得る。亜酸化ケイ素は、長期サイクリング安定性を達成するために特に有効であることがわかっている。ケイ素ベースの活性材料を安定化するため及び電気伝導率を高めるために炭素を複合活性材料中に組み込むことができる。ナノスケール元素ケイ素及び/又は酸化ケイ素を用いた炭素複合材に関して、長期サイクリング安定性は、依然として困難であるが、以下に説明するように、本出願人は、消費者向け電子機器用途に関する適切なサイクリング安定性を達成している。本明細書では、長期サイクリング安定性は、他の電極設計の改善点に加えて、電気活性グラファイト及びケイ素ベースの複合材の混合物に基づいて説明される。以下に詳細に説明するように、安定化されたケイ素ベースの電極は、ナノスケール炭素などの追加の導電性供給源及びまたサイクリング安定性に有意に寄与する改良されたバインダーブレンドをさらに含み得る。
【0017】
本明細書では、リチウムイオン二次セルのための活性材料としては、一般に、例えばリチウムに対して適度に高い平均電圧を有する正極(すなわちカソード)活性材料及び負極(すなわちアノード)のためのケイ素ベースの活性材料が含まれる。一般に、様々なカソード材料を使用することができる。例えば、既存の入手可能な市販製品と一緒に市販品として入手可能なカソード活性材料を使用することが可能である。このようなカソード活性材料としては、例えば、酸化リチウムコバルト(LiCoO)、LiNi1/3Mn1/3Co1/3(L333又はNMC111)、LiNiCoAlO(NCA)、他の酸化リチウムニッケルマンガンコバルト(NMC)、LiMn(酸化リチウムマンガンスピネル)、それらの変性型又はそれらの混合物が挙げられる。
【0018】
ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガン(LiNiMnCo、0.45≦x、0.05≦y、z≦0.35)は、酸化リチウムコバルトに対して、より低いコスト及びより低い可燃性のリスクのため並びにより高い電圧でのサイクル能力のため、関心を引く可能性がある。その結果、改良されたケイ素ベースの負極と組み合わせたニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルト活性材料により、良好なサイクリング安定性及び高いエネルギー密度を有するセルが形成される。また、層状結晶構造を有し、且つLiMO(M=非リチウム金属)参照組成物に対してリチウムリッチである、最近開発された高い比容量を有する材料は、例えば、「Positive Electrode Materials For Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity And Processes for the Synthesis of These Materials」という名称のVenkatachalamらへの米国特許第8,389,160号明細書(以下、‘160特許)及び「Positive Electrode Materials for High Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称のLopezらへの米国特許第8,465,873号明細書(以下、‘873特許)に記載されており、これらの両方は、参照によって本明細書に組み込まれる。以下にさらに説明するように、リチウムリッチ+マンガンリッチNMC及びニッケルリッチNMC正極活性組成物のブレンドにより、特に望ましいセル特性及び良好なサイクリング安定性を提供することが可能であることが発見された。
【0019】
特に、式LiNiMnCo(式中、x≧0.45及びx+y+z≒1である)によって表すことができるニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルト(N-NMC)から所望のサイクリング結果を得ることができる。これらの化合物の市販品として入手可能な配合物としては、例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2(BASF)、LiNi0.6Mn0.2Co0.2(Targray,Canada)、LiNi0.8Mn0.1Co0.1(Targray,Canada及びLG Chemical)が含まれる。工業的に、NCM及びNMCは、コバルト及びマンガンが対応する順序に列挙されており、両方とも交換可能に使用され、且つ提示が同等であり、単に個人的な好みに基づくものである。ニッケルリッチNMC及びリチウムリッチ+マンガンリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルトのブレンドにより、改善されたサイクリング安定性を達成することができ、これを高容量マンガンリッチ組成物(HCMR(登録商標))と呼ぶこともできる。一般に、電気活性組成物の組合せによる電極は、電極の全活性材料に対してそれぞれ一般に少なくとも約5重量%の有意な量で両方の材料を含む。セルの性能は、これらの活性材料のブレンドのサイクルがより高い充電電圧においてN-NMC材料単独の場合よりも良好であることを示唆するが、N-NMC材料は、他の所望のセル特性をもたらす。
【0020】
正極活性材料は、安定化コーティングを有することが可能である。正極活性材料のための安定化ナノコーティングは、「Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称のLopezらへの米国特許出願公開第2011/0111298号明細書、「Metal Oxide Coated Positive Electrode Materials for Lithium-Based Batteries」という名称のKarthikeyanらヘの米国特許第8,535,832号明細書及び「Metal Halide Coatings on Lithium Ion Battery Positive Electrode Materials and Corresponding Batteries」という名称のVenkatachalamらヘの米国特許第8,663,849号明細書にさらに記載されており、これらの3つ全ては、参照によって本明細書に組み込まれる。特に、リチウムリッチ+マンガンリッチ酸化ニッケルマンガンコバルト電極のサイクリングをこれらの安定化コーティングによって有意に改善することが可能である。
【0021】
上記の通り、ケイ素ベースの電極は、商業用途のために適切なサイクリングを得ることに関する課題をもたらす。消費者向けの電子機器用途では、適切なサイクリング目標は、許容できない性能損失をもたらさずに約250~450サイクルであり得るが、自動車及び同様のより大容量の用途に関してより高いサイクリング安定性が望ましい。本出願人は、ケイ素ベースのアノードを使用して適切な性能を達成することができる消費者向け電子機器用途のために適切なセル設計を達成した。これらのバッテリーは、参照によって本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Batteries With High Capacity Anode Material and Good Cycling for Consumer Electronics」という名称のAmiruddinらヘの米国特許出願公開第2015/0050535号明細書(以下、‘535出願)に記載されている。本明細書の新規の電極設計により、自動車及び他の高容量用途に関して適切な性能を達成しながら、消費者向け電子機器に関する目標サイクリング安定性を超えたサイクリングがもたらされる。
【0022】
ケイ素と同様に、酸素欠乏性の酸化ケイ素、例えば酸化ケイ素、SiO(0.1≦x≦1.9)は、酸素欠乏性の酸化ケイ素がリチウムベースのセル中で活性材料として機能することができるようにリチウムとインターカレーション/合金化することが可能である。酸化ケイ素は、材料が大きい比容量を示すことができるように比較的大量のリチウムを組み込むことができる。しかしながら、酸化ケイ素は、一般にセルのサイクリングによって比較的急速に低下する容量を有することも観察される。いくつかの供給元からの、炭素及びケイ素ナノ結晶との複合材中に存在し得る、SiOを含む市販のケイ素ベースの材料は、Alfa Aesar(USA)、Sigma-Aldrich(USA)、Shin-Etsu(日本)、Osaka Titanium Corporation(日本)及びNanostructured and Amorphous Materials Corp.(USA)から入手可能である。以下、ケイ素ベースの組成物の追加的な特に適切な配合物がさらに説明される。本出願人は、本明細書に記載される電極配合物を使用して、酸化ケイ素ベースの活性材料のサイクリング安定化を達成した。いくつかの実施形態において、比容量の許容できる減少を伴って、グラファイト状炭素活性材料及びケイ素ベースの活性材料の組合せを含む負極のサイクリング寿命を延長させることが望ましくなる可能性がある。本明細書の優れたサイクリング性能は、そのような活性材料ブレンドを使用する。
【0023】
本明細書に記載される結果を得るために、設計中のいくつかの改善を個別に又は組み合わせて試験し、改善されたサイクリング性能を提供する。少なくともいくつかの実施形態に関して、特定の電極特徴の組合せにより、より長いサイクリング安定性に関して驚くべき相乗効果的な性能改善をもたらすことが可能である。特に、負極は、いくらかの伸び能力を導入しながら、高い引張強度を有する複合材バインダーによって設計することができる。導電性電極添加剤としてのカーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノファイバー又はそれらの組合せなどのナノスケール導電性炭素は、ケイ素ベースの活性材料を用いた負極のサイクリングを改善することが見出された。電解質は、4.3Vより高い電圧において優れたサイクリングを提供可能である。これらの特徴を、得られる消費者向け電子機器セル設計に関して良好なエネルギー密度をベースとする性能を提供する電極装填及び密度の設計と組み合わせることが可能である。セルへの相補的リチウムの添加及び/又はそれぞれの電極中での活性材料のバランス調整により、サイクリングをさらに改善することができる。
【0024】
負極中の活性材料ブレンドのグラファイト成分は、導電性をもたらすことができる。しかし、サイクリングに関して、適切な量のナノスケール炭素が負極をさらに安定化させ得ることが見出された。ナノスケール炭素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー又はカーボンナノ粒子、例えばカーボンブラックの形態をとることができる。ケイ素ベースの負極のサイクリング安定性に関するナノスケール導電性炭素の有用性は、「High Capacity Anode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称のLopezらへの米国特許第9,190,694B2号明細書及び「Battery Designs With High Capacity Anode Materials and Cathode Materials」という名称のMasarapuらへの米国特許第9,780,358B2号明細書に記載される通り以前に発見されており、これらの両方は、参照によって本明細書に組み込まれる。一般に、電極は、安定したサイクリングを達成するために少なくとも約1重量%のナノスケール導電性炭素を含む。
【0025】
リチウムイオンセルでは、サイクリングに関して反応性のリチウムは、一般に、正極活性材料中に提供され、これは、セルの初期充電中に負極に移動し、次いでそこでセルの放電のために使用可能となる。ケイ素ベースの負極は、一般に、セルの第1の充電中に大きい不可逆容量損失を示す可能性がある。容量の損失は、一般に、セルの初期充電中の材料への対応する不可逆変化に関連する可能性がある。例えば、固体電解質中間相(SEI)層は、セル中で使用される典型的な電解質との反応の結果として、負極活性材料と会合した状態で形成する。安定なSEI層が形成される場合、SEI層は、サイクリング間にセルを安定化させることができる。おそらく、ケイ素ベースの活性組成物に関して、他の不可逆変化も発生すると考えられる。第1のサイクルの不可逆容量損失は、一般に、セルの後続のサイクリングに関連するいかなる1サイクルあたりの容量損失よりも有意に大きいが、第2、第3及びいくつかの追加サイクルでは、第1のサイクルで完全に到達するのではなく、最初の数サイクルへの初期変化の繰り越しにより、1サイクルあたりの容量損失が依然として大きくなり得る。比較的大きい不可逆容量損失(IRCL)は、サイクリング容量並びにサイクリング間のセルのエネルギー出力及び電力出力も減少させる可能性がある。より大型フォーマットのセルでは、例えば電極スタックを通しての電解質の改善された浸透であり得る実際的な影響により、より少ないサイクル数で容量が増加する可能性がある。
【0026】
不可逆容量損失の結果として、セルのエネルギー出力及び電力出力の損失を減少するために、相補的リチウムを導入して、セルに追加的なリチウムを提供することができる。相補的リチウムの導入により、IRCLに関連する活性リチウム容量の損失によりサイクルしないカソード活性材料の導入を減少させることが可能である。相補的リチウムとは、セルに直接的又は間接的に導入される活性リチウムを意味し、これは、正極活性材料とは別のものであり、損失したリチウムを不可逆プロセスに置き換え、且つ他の有益な効果をもたらすものである。本出願人は、不可逆容量損失の補充に対応するよりも多い量で提供された相補的リチウムにより、サイクリングをさらに安定化させ得ることを発見した。リチウムリッチ+マンガンリッチ酸化ニッケルマンガンコバルト、正極活性材料に関して、このサイクリング安定化は、参照によって本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Batteries With Supplemental Lithium」という名称のAmiruddinらへの米国特許第9,166,222号明細書(以下、‘222特許)に記載されている。
【0027】
例えば、負極へのリチウム活性材料(例えば、リチウム金属粉末又は箔)の添加、正極への犠牲リチウム供給源の添加、セル構造への犠牲リチウム電極の組み込み、負極の電気化学的なプレリチウム化などを含む、相補的リチウムを導入するための様々なアプローチを使用することができる。これらのアプローチについては、‘222特許及び「High Capacity Anode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称のLopezらヘの米国特許出願公開第2011/0111294号明細書(以下、‘294出願)においてさらに詳細に記載されており、これらの両方は、参照によって本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態において、参照によって本明細書に組み込まれる「Method for Alkaliating Anodes」という名称のGrantらヘのPCT出願国際公開第2013/082330号パンフレットに記載されるアプローチなどの電気化学的アプローチが好都合となる可能性があることも見出された。一般に、相補的リチウムは、不可逆容量損失の一部、不可逆容量損失のほぼ全てを埋め合わせる量又は不可逆容量損失よりも多い量で導入することが可能であるが、一般に、不可逆容量損失より30%以下の負極活性材料の容量である。いくつかの実施形態において、相補的リチウムは、アノードの第1のサイクル不可逆容量損失の約90%~約200%を埋め合わせることができる。
【0028】
本出願人のこれまでの研究により、適切なポリイミドによって満たすことができる高引張強度のポリマーバインダーの使用により、ケイ素ベースのアノードのサイクリングが有意に促進されることがわかっている。特に、ポリマーバインダーの引張強度は、少なくとも約60MPaであり得る。サイクリング安定性をさらに長く延長するために、ポリマーバインダーブレンドは、さらに改善されたサイクリング性能を提供し得ることが発見された。ポリマーバインダーブレンドの一成分は、ポリイミドなどの高引張強度のポリマーであり得、第2のポリマーは、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム、リチウム化ポリアクリル酸又はそれらの混合物などのより弾性のポリマーを提供するために、より低いヤング率(弾性係数)の値を有することができる。引張強度を提供しながら、電極が集電体に積層されたままになるように、ポリマーバインダーは、良好な接着性も提供するべきである。所望のブレンドは、少なくとも約50重量%の高引張強度のポリマーと、少なくとも約5重量%の、約2.4GPa以下のヤング率及びいくつかの実施形態に関して少なくとも約35%の伸びを有するポリマーバインダーとを含み得る。
【0029】
アノード設計は、一般に、適切なサイクリングを提供しながら、目標エネルギー密度及び電力密度を達成するための要素のバランスを必要とする。以下の実施例の結果に見られるように、ケイ素ベースのアノード活性材料を用いたバッテリーは、セル容量の80%より多くを維持しながら、600サイクルより多くのサイクルを可能にした。同時に、実際的な負極設計は、適切な正極設計と組み合わせることで良好なサイクリング及び高値のエネルギー密度を達成することができる。電極設計について以下に詳細に記載する。また、これらの成果を達成するための設計特徴のバランスについても記載する。
【0030】
一般に、本明細書に記載される電極設計は、円筒形セル又はより長方形若しくは角柱形のバッテリーに適合可能である。円筒形バッテリーは、一般に、巻回電極構造を有する一方、角柱形バッテリーは、電極が巻き付けられたか又は積層されたものであり得る。一般に、電極装填及び密度に関して適切な電極設計によって所望の性能容量を達成するために、セルは、セルの電極間のセパレーター材料と一緒に積層可能である複数の各極性の電極を含み得る。電極を巻き付けることにより、電子伝導性及びイオン移動性並びに適切な容器内での電極の良好なパッキングのため、適切な内部抵抗によって同様の効果をもたらすことができる。バッテリーのサイズは、一般に、セルの総容量及びエネルギー出力に影響する。本明細書に記載される設計は、ケイ素ベースの活性材料に基づいてセルの望ましいサイクリングを提供しながら、望ましい高エネルギー密度を得ることに基づく。
【0031】
電極構造
セルの電極は、バインダー及び導電性添加剤と一緒に活性材料を含む。電極は、所望の密度及び空隙率を達成するためにシートに成形され、乾燥され、プレスされる。一般に、電極シートは、金属箔又は薄い金属グリッドなどの金属集電体上に直接形成される。多くのセル構造では、組み立てられたセル又はバッテリーで望ましい性能を提供するように、電極層が集電体の両側に形成されている。集電体の両側の電極層は、セル内で同一電位にあるため、同一電極構造の要素を考慮することができるが、集電体自体は、電極構造の一部であるが、電気化学的に不活性であるため、一般に、電極の一部と見なされない。したがって、電極の物理的態様への参照は、一般に、電極構造内の一層の電極組成物を指す。導電性集電体は、電極及び外部回路間の電子の流れを促進することができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、正極又は負極が高い装填レベルを使用する場合、電極の密度は、減少し、電極の良好なサイクリング安定性を提供することができる。電極の密度は、プレス圧力の適切な範囲内での関数である。一般に、電極の密度は、より高い放電レートで所望のサイクリング性能及び容量を達成しながら、装填レベルに関する性能を犠牲にすることなく任意に増加することが不可能である。以下の項目において、特定の負極層及び正極層の特徴について説明する。
【0033】
いくつかの実施形態において、集電体は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などから形成することができる。電極材料を薄膜として集電体上にキャストすることができる。次に、電極から溶媒を除去するために、集電体と一緒に電極材料を例えばオーブン中で乾燥させることができる。いくつかの実施形態において、乾燥した電極材料に、集電体箔又は他の構造と一緒に接触している状態で約2~約10kg/cm(平方センチメートルあたりのキログラム)の圧力を受けさせることが可能である。正極中で使用される集電体は、約5ミクロン~約30ミクロン、他の実施形態において約10ミクロン~約25ミクロン、さらなる実施形態において約14ミクロン~約20ミクロンの厚さを有することが可能である。一実施形態において、正極は、アルミニウム箔集電体を使用する。負極中で使用される集電体は、約2ミクロン~約20ミクロン、他の実施形態において約4ミクロン~約14ミクロン、さらなる実施形態において約6ミクロン~約10ミクロンの厚さを有することが可能である。一実施形態において、負極は、銅箔を集電体として使用する。当業者は、上記の明示的範囲内の集電体の厚さの追加的範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0034】
負極
基本的な電極設計は、活性組成物、ポリマーバインダー及び導電性希釈剤のブレンドを含む。上記の通り、いくつかの実施形態において、改良された電極設計は、ポリマーバインダーブレンド及び活性組成物のブレンド並びにナノスケール導電性炭素添加剤を含み得る。活性材料ブレンドは、大部分の酸化ケイ素複合材などのケイ素ベースの活性材料と、少なくとも10重量%の別個のグラファイトとを含み得る。また、相乗効果的なバインダーブレンド中でなお良好な電極性能を提供する、より変形性のポリマーの部分と共に高い機械的強度を提供するためのポリイミドのブレンドにより、ケイ素ベースの活性材料による電極サイクリングの安定化を得ることができることも発見されている。グラファイトは、電極に導電性を提供することができるが、それにもかかわらず、いくつかの実施形態において、別個のナノスケール導電性炭素の量は、長期サイクリング負極を製造する能力に有意である可能性がある。一般に、グラファイトは、電気化学的に活性であるが、ナノスケール導電性炭素は、電気化学的に活性であると考えられない。これらの改良された設計態様は、したがって、さらなる以前に発見されたケイ素ベースの電極の改良点と一緒に電極に組み込まれる。
【0035】
ケイ素をベースにした高容量の負極活性材料に対して大きい関心が寄せられている。ケイ素ベースの活性材料は、一般に、有意な量のケイ素を含有するバッテリーの自動車用途に適切なサイクリング安定性を達成していなかった。‘535出願では、少なくとも80%の初期容量の値において約200~300サイクルまでのサイクリングにより、消費者向け電子機器用途などに関して適切なサイクリングの成功が実証されている。本出願人は、主に酸化ケイ素複合材をベースとする材料を使用して、サイクリング安定性に関して特に成功を収めた。本明細書では、適切なレートにおいて大きい電圧範囲上をサイクルさせることで容量を80%未満まで低下させることなく、600サイクルより多く正常にサイクル可能である電極が提供される。したがって、本研究は、自動車用途に適切である領域までサイクリング安定性を延長させることに関する。
【0036】
本明細書に記載されるように、ケイ素ベースの活性材料及びグラファイト炭素とブレンドされた活性組成物により、改善されたサイクリングの結果が得られる。一般に、負極ブレンド活性材料の全体容量は、C/3のレートにおいて5ミリボルト(mV)から1.5Vまでリチウム金属に対してサイクルされて少なくとも約750mAh/g、さらなる実施形態において少なくとも約900mAh/g、追加的な実施形態において少なくとも約1000mAh/g及び他の実施形態において少なくとも約1100mAh/gであり得る。ブレンドされた活性材料は、少なくとも約40重量%のケイ素ベースの活性材料、さらなる実施形態において少なくとも約50重量%のケイ素ベースの活性材料、他の実施形態において約55重量%~約95重量%のケイ素ベースの活性材料及び追加的な実施形態において約60重量%~約90重量%のケイ素ベースの活性材料を含み得る。これに対応して、ブレンドされた活性材料は、約5重量%のグラファイト~約60重量%のグラファイト、さらなる実施形態において約7重量%のグラファイト~約50重量%のグラファイト、追加的な実施形態において約8重量%のグラファイト~約45重量%のグラファイト及び他の実施形態において約10重量%のグラファイト~約40重量%のグラファイトを含み得る。当業者は、上記の明示的範囲内のケイ素ベースの活性材料の比放電容量及び濃度の追加的範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0037】
上記の通り且つ以下で詳細に説明するように、適切なケイ素ベースの活性材料は、炭素成分との複合材を含み得る。以下の項目において、ケイ素ベースの活性材料について詳細に説明する。複合材とは、ポリマーバインダーによって一緒に保持された混合物を含むブレンドとは対照的に、適切なスケール上で効果的な均一性を有する一体材料中に密接に組み合わされた成分との粒子状材料を指す。複合材成分は、例えば、ケイ素、酸素、炭素などを含むことができる。理論によって制限されることを望まないが、一般に、ケイ素との複合材の炭素成分が電気化学的に活性であるとは考えられず、一般にグラファイト系ではない。しかしながら、活性は、複合材及び結晶構造中の所与の密接な組合せが非常に複雑で評価が困難であり得るという抽象的概念である。いずれにしても、複合材料の炭素成分は、活性材料ブレンド中の複合材にはない、別個のグラファイトから区別可能であるものとして当業者に容易に理解される。以下の実施例は、組み合わせられた複合材粒子状材料中に主に亜酸化ケイ素並びにいくらかの量の元素ケイ素結晶及び元素炭素を含むと考えられる市販の複合材組成物をベースとするものである。
【0038】
グラファイトは、天然及び合成形態で商業的に入手可能であり、且つ適切なグラファイトとしては、天然又は合成グラファイトなどが含まれる。グラファイトは、炭素の結晶形態であり、シート中に共有結合された炭素を含む。本明細書において使用される場合、グラファイトは、完全結晶性を必要とせずにグラファイト炭素を意味し、いくつかの天然グラファイト材料は、いくらかの結晶性不純物を含む可能性がある。しかしながら、グラファイトは、一般に、当技術分野において認識されるようなグラファイト構造によって支配される材料を意味する。グラファイトは、結晶中に積層された共有結合炭素シートの平面に沿って導電性である。グラファイト形態の結晶炭素は、リチウムをインターカレーションすることが可能であり、したがってリチウムイオンバッテリーのために確立された電気化学的に活性な材料である。
【0039】
グラファイト粒子は、約1ミクロン~約30ミクロン、さらなる実施形態において約1.5ミクロン~約25ミクロン及び他の実施形態において約2ミクロン~約20ミクロンの平均粒径を有することが可能である。一般に、凸凹のある電極表面を避けるために、グラファイトが電極の厚さより大きい粒子を含まないことが望ましいと考えられ、1ミクロンよりも有意に小さいサイズを有するグラファイト粒子は、結晶性が低下する可能性がある。いくつかの実施形態において、グラファイト炭素は、約5ミクロン~約50ミクロン、さらなる実施形態において約7ミクロン~約45ミクロン及び追加的な実施形態において約10ミクロン~約8ミクロン~約40ミクロンのD50(質量中央径)を有することが可能である。また、いくつかの実施形態において、(ISO 4652に従って評価可能な)グラファイト炭素活性材料のBET表面積は、約1m/g~約100m/g、さらなる実施形態において約5m/g~約85m/g及び追加的な実施形態において約7.5m/g~約60m/gであり得る。当業者は、グラファイト炭素活性材料の粒径及び表面積の追加的な範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。対照的に、導電性カーボンブラックなど(準結晶と呼ばれる)は、一般に、約40m/g~1000m/g又はそれを超える表面積を有する。
【0040】
ポリマーバインダーに関して、本出願人は、高引張強度バインダー、例えばポリイミドバインダーを使用してケイ素ベースのセルの適切なサイクリングを得た。参照によって本明細書に組み込まれる「Silicon Oxide Based High Capacity Anode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称のDengらへの米国特許第9,601,228号明細書(以下、‘228特許)を参照されたい。より長期のサイクリング安定性を得るためのいくつかの実施形態において、驚くべきことに、ポリマーバインダーブレンドがサイクリングをさらに安定化することが見出された。特に、(より高い弾性に対応する)より低い弾性率を提供する第2のポリマー又はポリマーの組合せを高引張強度ポリイミドとブレンドすることができる。バインダーブレンドは、一般に、少なくとも約50重量%のポリイミド、さらなる実施形態において少なくとも約55重量%のポリイミド及び他の実施形態において約60重量%~約95重量%のポリイミドを含む。同様に、バインダーブレンドは、一般に、以下にさらに明示されるように、少なくとも約5重量%の低弾性係数を有するポリマー、さらなる実施形態において少なくとも約10重量%及び他の実施形態において約12重量%~約40重量%の低弾性係数を有するポリマーを含む。当業者は、上記の明示的範囲内のポリマーの量の追加的範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。ブレンドのポリマーは、同一の溶媒中に溶解するように選択することが可能である。
【0041】
ポリイミドは、イミドモノマー構造の繰り返し単位に基づくポリマーである。ポリイミドポリマー鎖は、脂肪族であり得るが、高引張強度用途では、一般に、ポリマー主鎖は、芳香族であり、ポリイミド構造のN原子に沿ってポリマー主鎖が延在する。サイクリング間に有意な形態変化を示すケイ素ベースのアノードに関して、熱硬化性ポリイミドポリマーが高容量負極に関して望ましいことが見出された。これは、高い機械的強度のためであり得る。次の表に高引張強度ポリイミドポリマーの供給元及び対応するポリイミドポリマーの名称を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
ポリイミドポリマーは、少なくとも約60MPa、さらなる実施形態において少なくとも約100MPa及び他の実施形態において少なくとも約125MPaの引張強度を有することが可能である。高引張強度を有するいくつかの市販のポリイミドは、比較的高い伸び値を有することもできる。伸び値とは、ポリマーが引裂かれるまで耐える伸び量である。いくつかの実施形態において、ポリイミドは、少なくとも約40%、さらなる実施形態において少なくとも約50%及び他の実施形態において少なくとも約55%の伸びを有することが可能である。引張強度及び伸び値は、プラスチックの引張特性に関するASTM D638-10標準試験法又は薄プラスチックシートの引張特性に関するASTM D882-91標準試験法の手順に従って測定可能であり、これらの両方は、参照によって本明細書に組み込まれる。商業的供給元によって報告される値に基づき、これらの別のASTMプロトコルからの結果は、ポリイミドに関して互いに類似しているように見える。当業者は、上記の明示的範囲内のポリマー特性の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0044】
セルの電気化学に対して不活性であり、且つポリイミドとの加工に適合可能である、適切なより可撓性のポリマー成分を選択することができる。特に、適切なより可撓性のポリマー成分としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、リチウム化ポリアクリル酸(LiPAA)又はそれらの混合物が含まれる。ポリマー特性に関して、高容量負極用途に関するいくつかの有意な特性を次の表にまとめる。
【0045】
【表2】
【0046】
PVDFは、ポリフッ化ビニリデンを意味し、CMCは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースを意味し、SBRは、スチレン-ブタジエンゴムを意味し、且つLiPAAは、リチウム化ポリアクリル酸を意味する。PVDF、CMC、SBRは、多くの供給元から市販されている。LiPAAは、LiOH及び市販のポリアクリル酸(PAA)から製造可能である。例えば、PAAのモノマー単位あたり1モルのLiOHを用いて、化学量論量のLiOHをPAAの溶液に添加することができる。LiPAAの形成及び使用については、参照によって本明細書に組み込まれるLiらの“Lithium polyacrylate as a binder for tin-cobalt-carbon negative electrodes in lithium-ion batteries”,Electrochemica Acta 55(2010)2991-2995にさらに記載されている。
【0047】
伸びとは、ポリマーを引裂く前の伸び率を意味する。一般に、ケイ素ベースの材料に対応するために、少なくとも約30%、いくつかの実施形態において少なくとも約50%及びさらなる実施形態において少なくとも約70%の伸びが望ましい。ポリマーバインダーブレンドに関して、より弾性のポリマーバインダー成分は、約2.4GPa以下、さらなる実施形態において約2.25GPa以下、他の実施形態において約2GPa以下及び追加的な実施形態において約1.8GPa以下の弾性係数(代わりにヤング率又は引張係数と呼ばれる)を有することが望ましくなる可能性がある。当業者は、上記の明示的範囲内のより弾性のポリマー成分の特性の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0048】
電極を形成するために、ポリマーを溶解するための溶媒などの適切な液体中で粉末をポリマーとブレンドすることが可能である。ポリイミド及びPVdFは、一般に、N-メチルピロリドン(NMP)中で加工することが可能であるが、他の適切な有機溶媒が使用され得る。水性加工可能なポリイミドは、市販品として入手可能であり、且つこれらの水性加工可能なものは、広範囲の他のポリマーとのブレンドに適切である。ペーストを形成するために電極の粒子状成分、すなわち活性材料及びナノスケール導電性炭素を溶媒中でポリマーバインダーブレンドとブレンドすることができる。得られたペーストを電極構造にプレスすることができる。
【0049】
バインダーの活性材料装填量が大きいことが可能である。いくつかの実施形態において、負極は、約75~約92重量%の負極活性材料、他の実施形態において約77~約90重量%の負極活性材料、さらなる実施形態において約78~約88重量%の負極活性材料を有する。いくつかの実施形態において、負極は、約6~約20重量%のポリマーバインダー、他の実施形態において約7~19重量%のポリマーバインダー、さらなる実施形態において約8~18重量%のポリマーバインダーを有する。また、いくつかの実施形態において、負極は、約1~約7重量%のナノスケール導電性炭素、さらなる実施形態において約1.5~約6.5重量%、追加的な実施形態において約2~約6重量%のナノスケール導電性炭素を含む。当業者は、上記の明示的範囲内のポリマー装填量の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0050】
負極の改善されたサイクリングのために、ナノスケール炭素添加剤又はその組合せが特に望ましいことが見出された。ナノスケール導電性炭素とは、一般に、サブミクロンである一次粒子の少なくとも2つの寸法を有する、表面積の大きい元素炭素の粒子を指す。適切なナノスケール導電性炭素としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーが含まれる。いくつかの実施形態において、負極に使用されるナノスケール導電性炭素添加剤は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノ粒子(例えば、カーボンブラック)又はそれらの組合せを含み得る。いくつかの実施形態において、性能の向上を達成するために、導電性添加剤は、少なくとも約40S/cm、いくつかの実施形態において少なくとも約50S/cm、さらなる実施形態において少なくとも約60S/cmの導電率を有することができる。当業者は、上記の明示的範囲内の粒子装填及び導電性の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0051】
抵抗の逆数である電気伝導率は、販売業者によって報告されている可能性があり、且つ電気伝導率は、一般に、販売業者によって開発された特定の技術を使用して測定される。例えば、カーボンブラックの電気抵抗の測定は、Super P(商標)カーボンブラックを用いた2つの銅電極間で実行される。Timcal Graphite&Carbon,A Synopsis of Analytical Procedures,2008,www.timcal.comを参照されたい。また、適切な相補的導電性添加剤を添加して、より長期のサイクリング安定性を提供することができる。また、いくつかの供給元は、導電性パーコレーションしきい値を達成するための導電性炭素濃度を記載している。
【0052】
カーボンブラックは、合成炭素材料を意味し、且つ代わりに合成アプローチを示唆するアセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック又は他の名前で示されることも可能である。カーボンブラックは、一般に非晶質炭素と記載されるが、カーボンブラックの少なくともいくつかの形態において、グラファイト又はダイヤモンド結晶構造に対応する短い範囲又は中程度の範囲の小ドメインの示唆がある。しかしながら、実用的な目的に関して、材料は、非晶質であると見なすことができる。ISO Technical Specification 80004-1(2010)に基づき、カーボンブラックは、ナノ構造化材料である。カーボンブラックの一次粒子は、数十ナノメートル以下の範囲であり得るが、一次粒子は、一般に連鎖又は他の凝集体に硬質融合し、最小分散単位は、なおサブミクロンである約80nm~800nmであると考えることができる。Super-P(登録商標)(Timcal)、Ketjenblack(登録商標)(Akzo Nobel)、Shawinigan Black(登録商標)(Chevron-Phillips)及びBlack Pearls 2000(登録商標)(Cabot)など、所望のレベルの電気伝導率を提供するために合成されたカーボンブラックが市販品として入手可能である。
【0053】
カーボンナノファイバーは、一般にプレート、コーン又は他の形態のグラフェン層を含む高アスペクト比の繊維であり、カーボンナノチューブは、チューブ中に折り畳まれたグラフェンシートを含む。カーボンナノファイバーは、250nm以下の直径を有し、且つ例えばPyrograf(登録商標)カーボンナノファイバー(Pyrograf Products,Inc.)又はAmerican Elements,Inc.から市販品として入手可能である。カーボンナノチューブは、正極又は負極のいずれかのサイクリング性能を向上させることができる望ましい導電性添加剤であることが見出された。また、シングルウォール又はマルチウォールカーボンナノチューブは、American Elements,Inc.(CA,USA)、Cnano Technologies(China)、Fuji,Inc.(日本)、Alfa Aesar(MA,USA)又はNanoLabs(MA,USA)から入手可能である。
【0054】
本明細書に記載されるバッテリー中で使用される正極及び負極は、適切に高い電極密度と共に高い活性材料装填レベルを有することが可能である。特定の活性材料装填レベルに関して、密度は、厚さと反比例するため、より高い密度を有する電極は、より低い密度を有する電極よりも薄くなる。装填量は、密度に厚さを掛けた値と等しくなる。いくつかの実施形態において、バッテリーの負極は、少なくとも約1.5mg/cm、他の実施形態において約2mg/cm~約8mg/cm、追加的な実施形態において約2.5mg/cm~約6mg/cm、他の実施形態において約3mg/cm~約4.5mg/cmである負極活性材料装填レベルを有する。いくつかの実施形態において、バッテリーの負極は、いくつかの実施形態において約0.5g/cc(cc=立方センチメートル(cm))~約2g/cc、他の実施形態において約0.6g/cc~約1.5g/cc、追加的な実施形態において約0.7g/cc~約1.3g/ccの活性材料密度を有する。同様に、酸化ケイ素ベースの電極は、少なくとも約15ミクロン、さらなる実施形態において少なくとも約20ミクロン、追加的な実施形態において約25ミクロン~約75ミクロンの平均乾燥厚さを有することが可能である。得られる酸化ケイ素ベースの電極は、少なくとも約3.5mAh/cm、さらなる実施形態において少なくとも約4.5mAh/cm、追加的な実施形態において少なくとも約6mAh/cmの単位面積あたりの容量を示すことが可能である。当業者は、上記の明示的範囲内の活性材料装填レベル及び電極密度の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0055】
高容量ケイ素ベースのアノード材料
一般に、本明細書のバッテリー設計は、高容量アノード活性材料に基づくものである。具体的には、アノード活性材料は、一般に、0.005V~1.5Vでリチウム金属に対してC/10のレートでサイクルされた場合、少なくとも約800mAh/g、さらなる実施形態において少なくとも約900mAh/g、追加的な実施形態において少なくとも約1000mAh/g、いくつかの実施形態において少なくとも約1150mAh/g、他の実施形態において少なくとも約1400mAh/gの比容量を有する。したがって、負極活性材料の比容量は、リチウム金属対電極を用いたセルで評価することができる。しかしながら、本明細書に記載されるバッテリーでは、高容量のリチウム金属酸化物正極活性材料に対してサイクルされた場合、負極は、適切に同程度の比容量を示すことができる。非リチウム金属電極を用いるバッテリーでは、バッテリー容量を活性材料のそれぞれの重量で割ることにより、それぞれの電極の比容量を評価することができる。本明細書で記載されるように、ケイ素ベースの活性材料及びグラファイト炭素活性材料を組み合わせることにより、良好な容量が観察され、所望のサイクリング結果を得ることができる。
【0056】
元素ケイ素、ケイ素合金、ケイ素複合材などは、グラファイトに類似してリチウム金属に対して低い電位を有することが可能である。しかし、元素ケイ素は、リチウムとの合金化により、非常に大きい体積変化を受ける。初期体積の2~4倍以上の程度の大きい体積膨張が観察され、大きい体積変化は、ケイ素ベースの負極を有するバッテリーのサイクリング安定性における有意な減少と関連する。
【0057】
本明細書に記載されるセルには、市販品として入手可能な亜酸化ケイ素、元素ケイ素及び炭素の複合材を使用することができる。また、高容量且つ適切なサイクリング特性をケイ素ベースの負極活性材料の他の配合物も開発されている。市販品として入手可能なSiOベースの組成物に代わる可能性があり、有望な代替品を提供するいくつかのケイ素ベースの組成物が以下に記載される。
【0058】
また、リチウムベースバッテリーの負極中のケイ素ベースの高容量材料は、いくつかの配合物において、バッテリーの第1の充電/放電サイクルにおいて大きい不可逆容量損失(IRCL)を示す可能性がある。ケイ素ベースのアノードのIRCLが高いと、バッテリーのエネルギー出力に利用可能な容量の有意部分を消費する可能性がある。カソード、すなわち正極は、従来のリチウムイオン電池中で全てのリチウムを供給しているため、アノード、すなわち負極における高いIRCLは、低エネルギーバッテリーをもたらす可能性がある。大きいアノードIRCLを埋め合わせするために、相補的なリチウムを負極材料に直接又は間接的に添加して、IRCLを埋め合わせすることができる。ケイ素ベースの電極の性能を改善するための相補的リチウムの使用についても、上記の両方とも参照によって本明細書に組み込まれる‘294出願及び‘228特許に記載されている。改良されたバッテリー設計における相補的リチウムの使用について以下にさらに記載される。
【0059】
本明細書に記載されるバッテリーのアノードは、体積膨張に対してより良好に適応し、したがって機械的な電極の安定性及びバッテリーのサイクル寿命を維持するためにナノ構造化活性ケイ素ベースの材料を使用することができる。ナノ構造化ケイ素ベースの負極組成物は、‘294出願、‘228特許及び参照によって本明細書に組み込まれる「Porous Silicon Based Anode Material Formed Using Metal Reduction」という名称のAnguchamyらへの米国特許第9,139,441号明細書(‘441特許)に開示されている。適切なナノ構造化ケイ素としては、例えば、ナノポーラスケイ素及びナノ微粒子ケイ素が含まれ得る。また、ナノ構造化ケイ素は、炭素との複合材及び/又は他の金属元素との合金に形成することができる。改良されたケイ素ベースの材料の設計の目的は、高い比容量を維持しながら、いくつかの実施形態において、第1の充電及び放電サイクルにおいて不可逆容量損失を減少させながら、サイクリングにおいて負極材料をさらに安定化することである。さらに、熱分解性炭素コーティングも、バッテリー性能に関してケイ素系材料を安定化させることが観察されている。
【0060】
所望の高容量負極活性材料は、多孔質ケイ素(pSi)ベースの材料及び/又は多孔質ケイ素ベースの材料の複合材を含み得る。一般に、pSiベースの材料は、高い表面積及び/又はバルクケイ素に対して高い空隙量を提供することができる高度に多孔質の結晶ケイ素を含む。ナノ構造化多孔質ケイ素は、ケイ素ウエハーの電気化学エッチングなどの様々なアプローチによって形成可能であるが、酸化ケイ素粉末の金属還元により得られるナノ構造化多孔質ケイ素から特に優れたバッテリー性能が得られた。特に、材料は、高い比容量を維持しながら、特に優れたサイクリング特性を有する。炭素ベースの材料又は金属とのpSiベースの材料の複合材の形成により、サイクリングを向上させるために負極をさらに機械的に安定させることが可能である。酸化ケイ素の還元からのpSiベースの材料の追加的な記載については、上記で参照される‘441特許に見ることができる。
【0061】
複合材料に関して、密接な複合材料内でナノ構造化ケイ素成分を例えばカーボンナノ粒子及び/又はカーボンナノファイバーと組み合わせることができる。成分は、例えば、材料が密接に会合する複合材を形成するために粉砕することができる。一般に、このような会合は、より硬質の炭素材料上にコーティングされたか、又はそれと機械的に固定されたより軟質のケイ素などの機械的な特徴を有すると考えられる。追加的な又は代わりの実施形態において、ケイ素を金属粉末と一緒に粉砕し、対応するナノ構造を有し得る合金を形成することができる。炭素成分をケイ素-金属合金と組み合わせて多成分複合材を形成することができる。
【0062】
また、ケイ素ベースの材料上に炭素コーティングを適用し、導電性を改善させることができる。また、炭素コーティングは、サイクルの改善及び不可逆容量損失の減少に関して、ケイ素ベースの材料を安定化させるように見える。所望の炭素コーティングは、有機組成物を熱分解することによって形成可能である。有機組成物を相対的に高い温度、例えば約800℃~約900℃で熱分解して、硬質非晶質コーティングを形成することができる。いくつかの実施形態において、ケイ素ベースの成分と組み合わせるための水及び/又は揮発性有機溶媒などの適切な溶媒中に所望の有機組成物を溶解することができる。この分散体をケイ素ベースの組成物と十分混合することが可能である。溶媒を除去するために混合物を乾燥させた後、炭素前駆体によってコーティングされたケイ素ベースの材料との乾燥混合物を、酸素を含まない雰囲気中で加熱し、有機ポリマー、いくらかの低分子固体有機組成物などの有機組成を熱分解して、炭素コーティングを形成することができる。
【0063】
ケイ素と同様に、酸素欠乏性の酸化ケイ素、例えば酸化ケイ素、SiO(0.1≦x≦1.9)は、酸素欠乏性の酸化ケイ素がリチウムイオンバッテリー中で活性材料として機能することができるように、リチウムとインターカレーション/合金化することが可能である。これらの酸素欠乏性の酸化ケイ素材料は、一般に、酸化ケイ素ベースの材料と呼ばれ、且ついくつかの実施形態において様々な量のケイ素、酸化ケイ素及び二酸化ケイ素を含有することができる。酸素欠乏性の酸化ケイ素は、材料が大きい比容量を示すことができるように比較的大量のリチウムを組み込むことができる。しかしながら、酸化ケイ素は、元素ケイ素に関して観察されたものと同様に、一般にバッテリーサイクリングによって急速に低下する容量を有することが観察される。
【0064】
酸化ケイ素ベースの組成物は、上記で参照された‘228特許に記載されるように、高容量及び非常に良好なサイクリング特性を有する複合材料に形成される。特に、酸素欠乏性の酸化ケイ素は、驚くべきことに、高い比容量値を提供しながら、サイクリングを有意に改善する、導電性炭素又は金属粉末などの導電性材料との複合材に形成されることができる。さらに、サブミクロン構造化材料などのより小さい粒子に酸化ケイ素を粉砕することで材料の性能をさらに改善させることができる。
【0065】
一般に、広範囲の複合材が使用可能であり、且つこれは、酸化ケイ素、グラファイト粒子(Gr)などの炭素成分、不活性金属粉末(M)、元素ケイ素(Si)、特にナノ粒子、熱分解炭素コーティング(HC)、カーボンナノファイバー(CNF)又はそれらの組合せを含み得る。成分構造は、複合材料内の成分の構造に対応してもしなくてもよい。したがって、複合材の一般組成は、αSiO-βGr-χHC-δM-εCNF-φSi(式中、α、β、χ、δ、ε及びφは、α+β+χ+δ+ε+φ=1であるように選択され得る相対重量である)として表すことができる。一般に、0.35<α<1、0≦β<0.6、0≦χ<0.65、0≦δ<0.65、0≦ε<0.65及び0≦φ<0.65である。これらの複合材範囲の特定のサブセットは、特に興味深いものである。いくつかの実施形態において、SiO及び1種以上の炭素ベース成分による複合材が望ましく、それは、式αSiO-βGr-χHC-εCNF(式中、0.35<α<0.9、0≦β<0.6、0≦χ<0.65及び0≦ε<0.65(δ=0及びφ=0)であり、さらなる実施形態において0.35<α<0.8、0.1≦β<0.6、0.0≦χ<0.55及び0≦ε<0.55であり、いくつかの実施形態において0.35<α<0.8、0≦β<0.45、0.0≦χ<0.55及び0.1≦ε<0.65であり、追加的な実施形態において0.35<α<0.8、0≦β<0.55、0.1≦χ<0.65及び0≦ε<0.55である)によって表すことができる。追加的な又は代わりの実施形態において、式αSiO-βGr-χHC-δM-εCNF(式中、0.35<α<1、0≦β<0.55、0≦χ<0.55、0.1≦δ<0.65及び0≦ε<0.55である)によって表すことができる、SiO、不活性金属粉末及び任意選択的に1種以上の導電性炭素成分による複合材を形成することができる。さらなる追加的な又は代わりの実施形態において、式αSiO-βGr-χHC-εCNF-φSi(式中、0.35<α<1、0≦β<0.55、0≦χ<0.55、0≦ε<0.55及び0.1≦φ<0.65であり、さらなる実施形態において0.35<α<1、0≦β<0.45、0.1≦χ<0.55、0≦ε<0.45及び0.1≦φ<0.55である)によって表すことができる、SiOと元素ケイ素及び任意選択的に1種以上の導電性炭素成分による複合材を形成することができる。当業者は、上記の明示的範囲内の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。本明細書で使用される場合、複合材という記載は、複合材を形成するとは考えられない単純なブレンドとは対照的に、材料を密接に会合するためのHEMM粉砕などの有意な結合力を適用することを意味する。
【0066】
種々のSi-SiO-C-M(M=金属)複合材の合成に関する解決策に基づくアプローチについては、参照によって本明細書に組み込まれる「Silicon-Based Active Materials for Lithium Ion Batteries and Synthesis With Solution Processing」という名称のHanらへの米国特許出願公開第2014/0308585号明細書に記載されている。グラフェンシートを用いたケイ素ベースの炭素複合材については、参照によって本明細書に組み込まれる「Silicon-Silicon Oxide-Carbon Composites For Lithium Battery Electrodes and Methods for Forming the Composites」という名称のAnguchamyらへの米国特許出願公開第2014/0370387号明細書に記載されている。SiO-Si-C又はSiO-Si複合材を含むと考えられる市販の材料が実施例のバッテリーに使用される。
【0067】
アノードの容量は、バッテリーのエネルギー密度に有意に影響する。アノード材料の比容量が高いほど、同一出力のセル内でアノードの重量が低くなる。負極がケイ素ベースの材料で製造される場合、電極は、リチウム金属に対して1.5V~5mVのC/3放電において約800mAh/g~2500mAh/g、さらなる実施形態において約900mAh/g~約2300mAh/g、他の実施形態において約950mAh/g~約2200mAh/gのC/3のレートにおける放電比容量を有することができる。当業者は、上記の明示的範囲内の放電比容量の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0068】
正極
上記の改良された負極を用いて、様々な正極化学特性を効果的に導入することができる。選択された組成物を適切なバインダー及び導電性材料と一緒に正極中にブレンドすることができる。本項目は、高電圧サイクリング及び適度に高容量に関して特に望ましい正極活性材料に焦点を当てるものである。また、本項目は、全体的な電極の組成及び特性についても記載する。
【0069】
最終セルの望ましい適用は、ある程度まで正極組成物の選択に影響を与える可能性がある。このような観点から、以下に広範囲の組成物が記載されている。自動車用途及び同様の用途に関して、特定の正極化学特性は、少なくとも80%の容量を維持しながら、600サイクルより多くのサイクリングと一緒に高エネルギー密度を達成することに関して望ましいことが見出されているが、いくつかの材料は、いくらか低いサイクリング安定性によって有望な結果が得られる。特に、ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガン及び(リチウム+マンガン)リッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガンのブレンドをブレンドすることにより、高エネルギー密度及び長期サイクリング安定性を提供するために有用である電圧範囲において望ましい正極性能が提供される。さらに、ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガンは、活性材料として単独で、本明細書に記載されるケイ素ベースの負極と組み合わせた場合、良好なサイクリングを有する平均放電電圧により、望ましい高エネルギー密度を提供することができる。いくつかの(リチウム+マンガン)リッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガンとのブレンドにより、平均電圧のいくらかの低下によっていくらかのエネルギー密度の損失を伴って、サイクリング安定性を改善することができる。以下に、活性材料ブレンド並びに2種のニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガン単独に関する実施例を示す。
【0070】
ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルト(N-NMC)は、本明細書に記載されるリチウムイオンバッテリーに関して望ましいサイクリング及び容量特性を提供することができる。特に、ニッケルリッチリチウムは、式LiNiMnCo(式中、x+y+z≒1、0.45≦x、0.025≦y、z≦0.35であり、さらなる実施形態において0.50≦x、0.03≦y、z≦0.325であり、且つ0.55≦x、0.04≦y、z≦0.3である)によって概ね表すことができる。ニッケルの量は、サイクリング安定性及び放電エネルギー密度のバランスをとるために、選択された充電電圧に影響を与えることができる。0.525≦x≦0.7の範囲にあるxの値に関して、選択された充電電圧は、4.25V~4.375Vであり得る。0.7≦x≦0.9の範囲にあるxの値に関して、選択された充電電圧は、4.05V~4.325Vであり得る。当業者は、上記の明示的範囲内の組成物及び選択された充電電圧の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。これらの組成物は、比較的安定なより高電圧のサイクリング、良好な容量及び望ましいインピーダンスを提供することが見出された。N-NMC粉末は、以下にさらに記載される共沈法などの技術を使用して合成することができ、これらは、例えば、BASF(Germany)、TODA(日本)、L&F Materials Corp.(Korea)、Unicore(Belgium)及びJinhe Materials Corp.(China)から市販品として入手可能である。
【0071】
N-NMC組成物に関して、ニッケル量が増加するにつれて、平均電圧がわずかに大きくなる傾向があるが、安定なサイクリングに対する充電電圧は、ニッケル量が増加するにつれて、わずかに低くなる傾向がある。したがって、N-NMC活性材料は、良好なサイクリング及び適切に高い容量及びエネルギー密度を提供することができるが、活性材料の選択は、犠牲を伴う可能性がある。いくつかの実施形態に関して、N-NMC組成物を含む活性材料のサイクリング安定性は、リチウムリッチ及びマンガンリッチNMC組成物(LM-NMC)による物理的ブレンドの形成によって改善可能であることが見出された。これらの材料の組成物について以下により詳細に記載されている。ブレンドは、本明細書に記載されるケイ素ベースの負極と組み合わせた場合に所望のセル特性をもたらすことができる。
【0072】
上記の通り、望ましいブレンドは、N-NMCと、(リチウムリッチ+マンガンリッチ)酸化リチウムニッケルマンガンコバルト(LM-NMC又はHCMR(登録商標))を含むことができる。これらの組成物は、式Li1+bNiαMnβCoγδ2-z(式中、b+α+β+γ+δ≒1であり、bは、約0.04~約0.3の範囲であり、αは、0~約0.4の範囲であり、βは、約0.2~約0.65の範囲であり、γは、0~約0.46の範囲であり、δは、約0~約0.15の範囲であり、且つzは、0~0.2の範囲であるが、ただし、α及びγの両方が0であることはなく、及びAは、リチウム、マンガン、ニッケル及びコバルトと異なる金属である)によって概ね表すことができる。いくつかの実施形態において、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V又はその組合せであり得る。また、追加的な又は代わりの実施形態において、Li1+bNiαMnβCoγδ(式中、0.05≦b≦0.125、0.225≦α≦0.35、0.35≦β≦0.45、0.15≦γ≦0.3、0≦δ≦0.05である)及び最大5モルパーセントの酸素をフッ素ドーパントと置き換え可能である。当業者は、上記の明示的範囲内の組成物の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0073】
LM-NMC正極材料は、‘160特許及び‘873特許に詳述される共沈殿及びソルゲルプロセスによって都合よく合成することができる。いくつかの実施形態において、ヒドロキシド又はカーボネート組成物が選択された組成を有する、+2カチオンを含む溶液から混合金属のヒドロキシド又はカーボネート組成物を沈殿させることによって正極材料が合成される。次いで、金属のヒドロキシド又はカーボネート沈殿物に1回以上の熱処理を受けさせて、結晶層状リチウム金属酸化物組成物を形成する。‘873特許に記載されているカーボネート共沈殿プロセスにより、組成中にコバルトを有し、且つ優れたタップ密度で高い比容量性能を示す望ましいリチウムリッチ金属酸化物材料が得られた。これらの特許は、性能及びサイクリングを改善するための金属フッ化物のコーティングの有効な使用についても記載している。
【0074】
上記で要約された高容量正極活性材料の合成アプローチは、高タップ密度の材料を形成するためにも適切であることが示されている。これについては、上記の‘873特許にさらに記載されている。比較的高いタップ密度及び優れたサイクリング性能の結果として、活性材料がカソード中に組み込まれる場合、バッテリーは、高い総容量を示す可能性がある。一般に、高タップ密度の材料が望ましい性能を有する場合、材料の性能を犠牲にすることなく、高タップ密度を都合よく使用して高電極密度を得ることができる。
【0075】
LM-NMC正極活性材料に関して、材料上でコーティングを施すことにより、対応するセルの性能を改善できることが見出された。一般にバッテリーサイクリング間に電気化学的に不活性であると考えられる適切なコーティング材料は、金属フッ化物、金属酸化物又は金属の非フッ化物ハロゲン化物を含む可能性がある。以下のLM-NMCに関する実施例の結果は、金属フッ化物によってコーティングされたLM-NMC材料によって得られる。
【0076】
例えば、カソード活性材料、特にLiCoO及びLiMnのためのコーティングとしての金属フッ化物組成物の一般使用については、参照によって本明細書に組み込まれる「Cathode Active Material Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称のSunらへの公開されたPCT出願国際公開第2006/109930A号パンフレットに記載されている。適切に設計された厚さを有する改良された金属フッ化物コーティングについては、参照によって本明細書に組み込まれる「Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称のLopezらへの公開された米国特許出願公開第2011/0111298号明細書(‘298出願)に記載されている。適切な金属酸化物コーティングについては、例えば、参照によって本明細書に組み込まれる「Metal Oxide Coated Positive Electrode Materials for Lithium-Based Batteries」という名称のKarthikeyanらへの米国特許第8,535,832B2号明細書にさらに記載されている。カソード活性材料のための望ましいコーティングとしての非フッ化物金属ハロゲン化物の発見については、参照によって本明細書に組み込まれる「Metal Halide Coatings on Lithium Ion Battery Positive Electrode Materials and Corresponding Batteries」という名称のVenkatachalamらへの米国特許第8,663,849B2号明細書に記載されている。コーティングを伴う合成アプローチにより、容量並びにサイクリング特性に関しての材料の優れた性能が提供される。本明細書に記載される望ましいアノード材料の使用と一緒に、活性材料の望ましい特性により、改善されたバッテリー性能が提供される。
【0077】
参照によって本明細書に組み込まれる「Very Long Cycling of Lithium Batteries With Lithium Rich Cathode Materials」という名称のAmiruddinらへの米国特許第8,928,286号明細書に記載される通り、長期サイクル安定性は、これらの活性材料に関して、比較的高いサイクリング電圧において達成されている。このようなLM-NMC組成物の範囲内において、いくつかの特定の組成物は、特に望ましい特性をもたらすことがわかっている。例えば、参照によって本明細書に組み込まれる「Layer-Layer Lithium Rich Complex Metal Oxides With High Specific Capacity and Excellent Cycling」という名称のLopezらへの米国特許第8,394,534B2号明細書を参照されたい。参照によって本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Batteries With High Energy Density,Excellent Cycling Capability and Low Internal Impedance」という名称のAmiruddinらへの米国特許第9,552,901B2号明細書(以下、‘901特許)に記載される通り、いくつかのLM-NMC組成物は、比較的高い容量及び優れたサイクリングを維持しながら、比較的低いDC抵抗を示し得ることがわかっている。
【0078】
正極のための活性材料ブレンドに関して、活性材料は、約3重量%~約85重量%のLM-NMC、さらなる実施形態において約5重量%~約75重量%のLM-NMC、追加的な実施形態において約6重量%~約70重量%のLM-NMC、他の実施形態において約7重量%~約65重量%のLM-NMCを含むことができる。同様に、正極活性材料ブレンド中、活性材料は、約15重量%~約97重量%のN-NMC、さらなる実施形態において約25重量%~約95重量%、追加的な実施形態において約30重量%~約94重量%、他の実施形態において約35重量%~約93重量%のN-NMCを含むことができる。正極活性材料は、任意選択的に、0~25重量%の、酸化リチウムコバルト、LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMC111)、LiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)、それらの混合物などの追加的な活性材料を含むことができる。当業者は、上記の明示的範囲内の組成物ブレンドの追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0079】
性能に関して、正極活性材料ブレンドは、高い比容量及び比較的高いエネルギー密度で、改善されたサイクリング性能を提供することができ、600サイクルより多くのサイクリングを達成することができ、且つ高容量ケイ素ベースの活性材料と組み合わせることができる。これらのブレンドの性能について以下でさらに詳細に説明され、且つ実施例では具体的な実施形態に関して記載されている。N-NMC単独の場合及びN-NMC及びLM-NMCのブレンドの場合の両方に関して、所望のサイクリング性能が実証される。
【0080】
上記のように、正極は、一般に活性材料を含み、バインダー内に導電性物質が含まれる。電極中の活性材料装填量は、大きいことが可能である。いくつかの実施形態において、正極は、約85~約99%の正極活性材料、他の実施形態において約90~約98%の正極活性材料、さらなる実施形態において約95~約97.5%の正極活性材料を含む。いくつかの実施形態において、正極は、約0.75~約10%のポリマーバインダー、他の実施形態において約0.8~約7.5%のポリマーバインダー、さらなる実施形態において約0.9~約5%のポリマーバインダーを有する。一般に、正極組成物は、電気活性組成物と異なる導電性添加剤を含むことも可能である。いくつかの実施形態において、正極は、0.4重量%~約12重量%の導電性添加剤、さらなる実施形態において約0.45重量%~約7重量%、他の実施形態において約0.5重量%~約5重量%の導電性添加剤を有することが可能である。当業者は、上記の明示的範囲内の粒子装填量の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。正極の活性材料については、上記されている。正極のための適切なポリマーバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ゴム、例えばエチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)ゴム又はスチレンブタジエンゴム(SBR)、それらのコポリマー又はそれらの混合物が含まれる。正極に関して、ポリフッ化ビニリデン(pvdf)を良好な結果で使用でき、且つ実施例の正極は、pvdfバインダーを使用する。導電性添加剤については、負極に関して詳細に記載されており、且つナノスケール導電性炭素を正極に関して効果的に使用することができる。
【0081】
特定の装填レベルに関して、(活性材料の)電極密度は、厚さと反比例しているため、より高い密度を有する電極は、より低い密度を有する電極よりも薄くなる。装填量は、密度に厚さを掛けた値と等しくなる。いくつかの実施形態において、バッテリーの正極は、約10~約40mg/cm、他の実施形態において約12mg/cm~約37.5mg/cm、追加的な実施形態において約13mg/cm~約35mg/cm、他の実施形態において20mg/cm~約32.5mg/cmである正極活性材料の装填レベルを有する。いくつかの実施形態において、バッテリーの正極は、いくつかの実施形態において約2.5g/cc~約4.6g/cc、他の実施形態において約3.0g/cc~約4.4g/cc、追加的な実施形態において約3.25g/cc~約4.3g/ccの活性材料密度を有する。さらなる実施形態において、正極は、圧縮及び乾燥後、集電体の各側面上で約45ミクロン~約300ミクロン、いくつかの実施形態において約80ミクロン~約275ミクロン、追加的な実施形態において約90ミクロン~約250ミクロンの正極材料の厚さを有することが可能である。当業者は、上記の明示的範囲内の活性材料装填レベル、電極の厚さ及び電極密度の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0082】
相補的リチウム
本明細書に記載される改善された高エネルギーバッテリー設計は、一般に相補的リチウムを含み、且つ本項目は、適切な実施形態のための相補的リチウムの組み込みのためのアプローチに関する。一般に、ケイ素ベースの負極活性材料を用いるセルに関して、材料がバッテリーの初期充電中に比較的高い不可逆容量損失を示すため、相補的リチウムの組み込みが望ましい。また、相補的リチウムは、驚くべきことに、LM-NMCのサイクリングを安定化させる。バッテリー中への相補的リチウムの導入に様々なアプローチを使用することができるが、対応する初期反応及び/又は充電後、負極は、相補的リチウムからのサイクリングに関する過剰量のリチウムと会合する。相補的リチウムを有するバッテリー中の負極に関して、負極の構造及び/又は組成は、第1のサイクル後並びに追加サイクル後、その初期構造及び組成と比較して変化する可能性がある。
【0083】
相補的リチウムの導入のためのアプローチ次第で、正極は、最初に相補的リチウムの供給源を含み得、且つ/又は相補的リチウムを含む犠牲電極を導入することが可能である。追加的に又は代わりに、相補的リチウムを負極と会合させることが可能である。いくつかの実施形態において、純粋な化学的又は機械的方法とは対照的に、電気化学的方法を使用して相補的リチウムを負極に導入することが可能である。相補的リチウムが最初に正極又は別の電極に配置される場合、負極は、バッテリーが充電されるまでか、又は少なくとも、電解質及びセパレーターの存在下、負極と、相補的リチウムを有する電極との間の回路が閉じるまで、リチウムが存在しない不変の形態であり得る。例えば、正極又は相補的電極は、他の電極成分に加えて、元素リチウム、リチウム合金及び/又は他の犠牲リチウム供給源を含むことができる。
【0084】
正極に犠牲リチウムが含まれる場合、犠牲リチウム供給源のリチウムは、充電反応間に負極に装填される。犠牲リチウム供給源に基づく充電中の電圧は、正極活性材料に基づいて充電を実行する場合と有意に異なり得る。例えば、正極中の元素リチウムは、回路が閉じている限り、元素リチウムの酸化によって反応が進行し得るため、外部電圧を印加することなく、負極活性材料を充電することができる。いくつかの犠牲リチウム供給源材料に関して、外部電圧を印加して、正極中の犠牲リチウム源を酸化し、リチウムを負極活性材料中に進行させる。充電は、一般に、定電流、段階的定電圧充電又は他の都合のよい充電スキームを使用して実行することができる。しかしながら、充電プロセスの終了時、バッテリーを所望の電圧まで充電するべきであるが、次いで、これには、正極活性材料からのリチウムの抽出(例えば、脱インターカレーション及び脱合金化)も必要とされる。
【0085】
さらなる実施形態において、相補的リチウムの少なくとも一部分は、最初に負極と会合する。例えば、相補的リチウムは、負極活性材料よりも電気陰性であるリチウム合金又は他のリチウム供給源の形態であり得る。元素リチウムは、蒸着、スパッタリング又はアブレーションによって形成されるものなどの薄膜、リチウムあるいはリチウム合金箔及び/又は粉末の形態であり得る。特に粉末形態の元素リチウムをコーティングして、取扱い目的のためにリチウムを安定化させることができる。FMC Corporationからの粉末などの市販のリチウム粉末は、安定性のための独自のコーティングが施されて販売されている。このコーティングは、一般に、電気化学用途のためのリチウム粉末の性能を変化させることはない。負極を電解質と接触させた後、反応が発生可能であり、相補的リチウムが負極活性材料に輸送される。電極は、内部導電性であるため、反応から電子フローを得るために回路を閉じる必要はない。このプロセス中、固体電解質インターフェイス(SEI)層も形成され得る。したがって、相補的リチウムは、負極活性材料中に装填され、その少なくとも一部は、一般にSEI層の形成において消費される。リチウムリッチ正極活性材料から放出された過剰量のリチウムは、最終なバッテリーの充電中に負極活性材料中も堆積する可能性もある。負極に配置された相補的リチウムは、電圧印加によって同一電極において活性材料と相補的リチウム供給源が反応しないため、負極活性材料よりも電気陰性であるべきである。
【0086】
いくつかの実施形態において、負極と会合する相補的リチウムを負極内に粉末として組み込むことが可能である。特に、負極は、活性負極組成物と、ポリマーバインダーマトリックス内の相補的リチウム供給源と、存在する場合には導電性粉末とを含み得る。追加的な又は代わりの実施形態において、相補的リチウムは、電極表面に沿って配置される。例えば、負極は、活性負極組成物を有する活性層と、活性層の表面上の相補的リチウム供給源層とを含み得る。相補的リチウム供給源層は、リチウム又はリチウム合金箔シート、ポリマーバインダー内の相補的リチウム粉末及び/又は活性層の表面上に配置された相補的リチウム供給源材料の粒子を含み得る。代わりの構成において、相補的リチウム供給源層は、活性層と集電体との間にある。また、いくつかの実施形態において、負極は、活性層の両方の表面上に相補的リチウム供給源層を含み得る。
【0087】
リチウムの電気化学的事前装填を実行するための配置は、集電体上に形成されたケイ素ベースの活性材料を有する電極を含み得、これは、電解質と、電極に接触しているリチウム供給源材料のシートとを含有する容器中に配置される。リチウム供給源材料のシートは、リチウム箔、リチウム合金箔又は任意選択的に導電性粉末と一緒のポリマーバインダー中のリチウム供給源材料を含み得、これは、それぞれの反応が生じている間に電気的中性を維持するために、電子が材料間において流動することができるようにリチウムによって事前装填される負極と直接接触している。後続反応において、リチウムは、インターカレーション、合金化などを介してケイ素ベースの活性材料中に装填される。代わりの又は追加の実施形態において、それぞれの材料が電解質中で自然に反応することができるように、ポリマーバインダーを有する電極への形成前に、電解質及び相補的リチウムの組み込みのためのリチウム供給源材料中で負極活性材料を混合することが可能である。
【0088】
いくつかの実施形態において、電極内のリチウム供給源を、リチウムで事前装填される電極と一緒にセルに組み立てることができる。それぞれの電極間にセパレーターを配置することができる。制御された電気化学的プレリチウム化を提供するために、電極間で電流を流すことができる。リチウム供給源の組成次第で、ケイ素ベースの活性材料内でのリチウム堆積を進行させるために電圧を印加することが必要であるか又は不必要であり得る。このようなリチウム化プロセスを実行するための装置は、電解質と、最終的なバッテリーで負極として使用される電極、集電体、セパレーター及びリチウム金属箔などのリチウム供給源を含む犠牲電極を含むセルとを保持する容器を含み得る。セパレーターは、犠牲電極と、ケイ素ベースの活性材料による電極との間にある。都合のよい犠牲電極は、リチウム箔、ポリマー中に包埋されたリチウム粉末又はリチウム合金を含み得るが、抽出可能なリチウムを有するいずれの電極も使用可能である。リチウム化セルの容器は、従来のバッテリーハウジング、ビーカー又はいずれかの他の都合のよい構造を含み得る。この構成には、電流を測定して、負極のリチウム化度を測定することができるという利点がある。さらに、負極は、1回又は1回以上のサイクルが可能であり、負極活性材料は、リチウムによる完全装填に近い状態まで装填される。このようにして、負極活性材料のリチウムによる事前装填中にSEI層を所望の制御度で形成することができる。次いで、リチウムによる選択された事前装填による負極の調製中、負極は、完全に形成される。
【0089】
一般に、相補的リチウムが使用される実施形態に関して、活性組成物中に事前装填されるか又は装填可能である相補的リチウムの量は、容量の少なくとも約2.5%、さらなる実施形態において容量の約3%~約55%、追加的な実施形態において容量の約5%~約52.5%、いくつかの実施形態において負極活性材料容量の約5%~約50%の量であり得る。相補的リチウムは、負極のIRCLのバランスを概ね調整するように選択することができるが、必要に応じて他の量の相補的リチウムを使用することもできる。いくつかの実施形態において、添加される相補的リチウムは、負極の第1のサイクルIRCLの60%~180%に対応する酸化容量を有する量であり、さらなる実施形態において、これは、80%~165%であり、他の実施形態において90%~155%である。当業者は、上記の明示的範囲内のパーセントの追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。したがって、バッテリーの測定されたIRCLが、相補的リチウムの存在によって減少しない正極のIRCLからの部分的又は大部分の寄与を表すように、相補的リチウムの添加により、負極のIRCLへの寄与は効果的に減少又は除去され得る。当業者は、上記の明示的範囲内のIRCLの追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0090】
カソード及びアノードのバランス
バッテリーの全体的性能は、負極及び正極の両方の容量並びにそれらの相対的なバランス次第であることが見出された。電極のバランスは、バッテリーに関する特に高いエネルギー密度を達成すること及び良好なサイクリング特性を達成することに関して重要であることが見出された。いくつかの実施形態において、より長いサイクリング安定性及びエネルギー密度を達成することに関して犠牲が生じ得る。より長いサイクリング安定性を達成するために、比較的低いエネルギー密度を達成するためにバッテリーのバランスをとることが望ましいが、より広範囲の作動パラメーターにおける安定した長期使用に適切であるバッテリーを使用することが望ましくなる可能性がある。改良された活性材料及び所望の電極設計により、80%以下の容量低下で600サイクルより多くのサイクリングを得ながら、高いエネルギー密度はなお入手可能である。電極バランスは、いくつかの別の方法で評価することができ、これは、特定の評価アプローチを適切に考慮する場合に効果的に作用することができる。
【0091】
正極活性材料容量は、リチウム金属箔に対して材料をサイクルさせることによって測定可能である材料の容量から推定可能である。例えば、所与の正極に関して、第1の充電/放電サイクル間に挿入容量及び抽出容量を決定することで容量を評価することができる。このとき、リチウムは、材料化学に基づき選択された電圧及びセル設計の選択された充電電圧(一般に4.2V~4.5V)に正極から脱インターカレーション又は抽出され、リチウム金属に対する最終アノードの電圧に基づき、リチウム金属に対してより高い充電電圧まで、わずかな微調整、例えば一般に0.1Vを用いて、C/20のレートで2Vに正極にインターカレーション又は挿入されて戻される。同様に、所与のケイ素ベースの電極に関して、ケイ素ベースの活性材料を含む正極及びリチウム箔負極を有するバッテリーを使用して、挿入容量及び抽出容量を評価することができる。この容量は、リチウムが5mVまでケイ素ベースの電極にインターカレーション/合金化され、C/20のレートで1.5Vまで脱インターカレーション/脱合金化される、第1の充電/放電サイクル間のバッテリーの挿入容量及び抽出容量を決定することによって評価される。実際の使用において、観察された容量は、高レート作動及び電圧範囲の変化などの様々な要素のため、試験された容量から変化する可能性があり、これは、バッテリー設計のため及びリチウム金属ではない対電極の組成のためである可能性がある。いくつかの評価アプローチに関して、第1のサイクル後の後続の容量を使用して電極バランスを評価することができ、必要に応じてC/3又はC/10などのより高い放電レートを使用することが可能である。形成サイクル又はいくつかの形成サイクル後のバランスの使用は、バランスがバッテリー使用間の条件により基づくという点で望ましくなる可能性がある。
【0092】
ほとんどの市販品として入手可能な炭素ベースのバッテリーにおいて、リチウムめっきを防ぐために、カソードより約7~10%過剰量のアノードが使用される。過剰量のアノードの重要な懸念事項の1つは、セルの重量が増加して、セルのエネルギー密度が低下することである。約7%の第1のサイクルIRCLを有するグラファイトと比較して、高容量ケイ素ベースのアノードは、約10%~約40%の範囲のIRCLを有することが可能である。容量の大部分は、第1の充電-放電サイクル後にセル内で非活性になり得、バッテリーに有意なデッドウェイトを加え得る。
【0093】
高容量アノード材料に関して、負極不可逆容量損失は、一般に、正極不可逆容量損失よりも大きく、このことからセルの追加的なリチウム入手可能性が生じる。負極が正極よりも有意に高い不可逆容量損失を有する場合、負極の初期充電は、リチウムを不可逆的に消費するため、その後の放電時、負極は、正極の完全なリチウム受容能力を満たすために正極に十分なリチウムを提供するために十分なリチウムを供給できない。これにより、正極容量が無駄になり、それに対応して、サイクリングに寄与しない重量が増加する。正味のIRCL(負極IRCL-正極IRCL)からのリチウム損失のほとんど又は全ては、上記のように相補的リチウムによって埋め合わせ可能である。第1の形成サイクル間の電極バランスの評価は、相補的リチウムを考慮しても又はしなくてもよい。形成サイクル又は数サイクル後の後続サイクルにおいて、IRCLに関して消費されない、いずれの過剰量の相補的リチウムは、一般にアノード材料に合金化される。電極バランスは、選択されたレートでの4回目のサイクルなどの形成後のサイクリング段階で評価でき、これらの容量は、電極性能から推定可能である。
【0094】
安定したより長期のサイクリング性能を提供するという観点から、両方の電極容量を効果的に使用すること及びサイクリング間のリチウム金属のめっきを避けるために電極のバランスを調整することが望ましくなる可能性がある。一般に、電極のバランスは、リチウム金属に対する電極の初期容量を参照して、電極の組み立て時に考慮される。
【0095】
一般に、一定の放電レートでエネルギー出力が初期容量から約20%低下した場合に終了するようにバッテリー寿命を選択することができるが、必要に応じて他の値を選択することもできる。本明細書に記載される材料に関して、負極のサイクリングによる容量の低下は、一般に、正極に関するものよりも大きく、そのため、サイクリングによるリチウム金属堆積を回避することは、サイクリングをさらに安定化させるための負極のより高い過剰容量を示唆する。概ね、負極容量が正極容量の約2倍の速さで減少する場合、サイクリングに対応するために、少なくとも10%の追加的な負極容量を含むことが望ましいと考えられる。堅牢なバッテリー設計において、様々な放電条件において、少なくとも約10%の追加的な負極が望ましくなる可能性がある。一般に、リチウムに対して開回路電圧から1.5VまでC/20レートで評価される初期負極充電容量が、開回路からセル設計の充電電圧(一般に4.2V~4.6V)までC/20レートにおける初期正極充電容量+いずれの相補的リチウムの酸化容量の合計に対して約110~約195%、さらなる実施形態において約120%~約185%、追加的な実施形態において約130%~約190%であるようにバランスを選択することができる。代わりに、電極バランスは、約110%~約195%、さらなる実施形態において約120%~約185%、追加的な実施形態において約130%~約190%の正極容量に対する負極容量で、C/10又はC/3の放電レートで4回目のサイクルにおいて評価することができる。当業者は、上記の明示的範囲内のバランスの追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。このようなバランスについては、以下に記載されるバッテリー設計において説明される。
【0096】
一般的なバッテリーの特徴
上記の負極及び正極構造を適切なセルに組み立てることができる。上記の通り、電極は、一般に、電極構造を形成するために集電体と会合して形成される。セパレーターが正極及び負極間に配置されて、セルを形成する。セパレーターは、2つの電極間に少なくとも選択されたイオン伝導性を提供しながら、電気的に絶縁されている。セパレーターとして様々な材料が使用可能である。いくつかの市販のセパレーター材料は、イオン伝導性を提供する多孔性シートであるポリエチレン及び/又はポリプロピレンなどのポリマーから形成可能である。市販品のポリマーセパレーターとしては、例えば、Hoechst Celanese,Charlotte,N.C.からのCelgard(登録商標)ラインのセパレーター材料が含まれる。また、セパレーターのためにセラミック-ポリマー複合材料も開発されている。これらのセラミック複合材セパレーターは、高温でも安定であり得、且つ複合材料は火災リスクを低減することができる。リチウムイオンバッテリーセパレーターのためのポリマー-セラミック複合材は、Evonik Industries,GermanyによってSeparion(登録商標)及びTiejin Lielsort Korea Co.,Ltd.によってLielsort(登録商標)の商品名で販売されている。また、ゲル形成ポリマーでコーティングされた多孔性ポリマーシートを使用してセパレーターを形成することも可能である。このようなセパレーターの設計については、参照によって本明細書に組み込まれる「Battery Separator for Lithium Polymer Battery」という名称のWensleyらへの米国特許第7,794,511B2号明細書にさらに記載されている。適切なゲル形成ポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(pvdf)、ポリウレタン、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアシロニトリル、ゼラチン、ポリアクリルアミド、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、それらのコポリマー及びそれらの混合物が含まれる。
【0097】
電解質は、充電及び放電プロセス間にバッテリーのアノード及びカソード間でのイオン輸送をもたらす。本発明者らは、溶媒和イオンを含む溶液を電解質と呼び、適切な液体中で溶媒和イオンを形成するために溶解するイオン組成物を電解質塩と呼ぶ。リチウムイオンバッテリーのための電解質は、1種以上の選択されたリチウム塩を含むことができる。適切なリチウム塩は、一般に、不活性アニオンを有する。適切なリチウム塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ素酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラクロロアルミン酸リチウム、塩化リチウム、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びそれらの組合せが含まれる。いくつかの実施形態において、電解質は、1M~2M濃度のリチウム塩を含むが、それより高い濃度又はそれより低い濃度を使用することができる。
【0098】
興味深いリチウムイオンバッテリーに関して、非水性液体を一般に使用してリチウム塩を溶解する。溶媒は、一般に、電気的に活性な材料を溶解しない。いくつかの実施形態において、適切な溶媒として、例えば、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、トリグライム(トリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DME(グライム又は1,2-ジメチルオキシエタン又はエチレングリコールジメチルエーテル)、ニトロメタン及びその混合物を含むことができる。高電圧リチウムイオンバッテリーに関して特に有用な溶媒は、参照によって本明細書に組み込まれる「Lithium ion battery with high voltage electrolytes and additives」という名称のAmiruddinらへの米国特許第8,993,177号明細書にさらに記載されている。
【0099】
フッ素化添加剤を含む電解質は、ケイ素ベースの負極活性材料を用いるセルのいくつかの実施形態に関して、バッテリー性能をさらに改善させることが示されている。フッ素化添加剤として、例えば、フルオロエチレンカーボネート、フッ素化ビニルカーボネート、モノクロロエチレンカーボネート、モノブロモエチレンカーボネート、4-(2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシメチル)-[1,3]ジオキソラン-2-オン、4-(2,3,3,3-テトラフルオロ-2-トリフルオロメチル-プロピル)-[1,3]ジオキソラン-2-オン、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、ビス(2,2,3,3-テトラフルオロ-プロピル)カーボネート、ビス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-プロピル)カーボネート又はそれらの混合物を含むことができる。いくつかの実施形態において、電解質は、全電解質重量の関数として、電解質中に約1重量%~約55重量%のハロゲン化カーボネート、さらなる実施形態において約3重量%~約50重量%、他の実施形態において約5重量%~約45重量%のハロゲン化カーボネートを含み得る。当業者は、上記の明示的範囲内のハロゲン化カーボネート濃度の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。また、フルオロエチレンカーボネートを含む電解質は、参照によって本明細書に組み込まれる「Low Temperature Electrolyte for High Capacity Lithium Based Batteries」という名称のLiらへの米国特許出願公開第2013/0157147号明細書(‘147出願)に記載されるように、優れた低温性能を有することがわかっている。追加的なフッ素化添加剤としては、例えば、「Fluorinated Ether as Electrolyte Co-Solvent for Lithium Metal Based Anode」という名称のLiらへの米国特許出願公開第2018/0062206号明細書及び「Lithium Secondary Battery」という名称のTakuyaらヘの国際公開第2018/051675号パンフレットに記載されるように、フッ素化エーテルが含まれ、これらの両方は、参照によって本明細書に組み込まれる。フッ素化電解質は、Daikin America,Inc.から入手可能である。
【0100】
いくつかの例において、電解質は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びフッ素化成分を含む市販の消費者向け電子機器電解質を使用して配合され、且つ実証された以下の優れたサイクリング結果が得られる。フルオロエチレンカーボネート、フッ素化エーテル及び/又はフッ素化アミンなどの適切なフッ素化電解質成分は、グラファイトアノードを有する消費者向け電子機器バッテリーに関して適切な商業的性能を提供する、電解質に関連するケイ素ベースの電極に関して所望の安定性を提供することがわかっている。
【0101】
本明細書に記載される電極は、角柱形バッテリー、巻き付け状円筒形セル、コインセル又は他の適切なセル/バッテリー設計などの様々な市販のセル/バッテリー設計に組み立てることができる。セルは、単一の電極対又は並列及び/若しくは直列電気接続で組み立てられた複数の電極対を含むことができる。電極スタックは、容器内での配置に都合よくなるように、スタックの他端と同一極性を有するようにスタックが終了するように追加の電極を有することが可能である。本明細書に記載される電極構造を一次又は単一充電のためのバッテリーで使用することができるが、その結果として得られるバッテリーは、一般に、バッテリーの複数回サイクリング上での二次バッテリー用途のための所望のサイクリング特性を有する。
【0102】
いくつかの実施形態において、正極及び負極を、それらの間にセパレーターを用いてスタッキングし、その結果として生じるスタック構造を円筒形又は角柱形構成に巻いて、セル構造を形成することができる。集電体に適切な導電性タブを溶接することなどが可能であり、負極タブ及び正極タブが適切な外部接点に溶接された状態で、結果として生じるジェリロール構造を金属キャニスター又はポリマーパッケージ中に配置することができる。キャニスターに電解質を添加し、キャニスターを密封してセルを完成させる。いくつかの現在使用されている充電式の市販のセルとしては、例えば、円筒形18650セル(直径18mm及び長さ65mm)、26700セル(直径26mm及び長さ70mm)が含まれるが、他のセル/バッテリーサイズ並びに選択されたサイズの角柱形セル及び箔ポーチセル/バッテリーを使用することができる。
【0103】
ポーチバッテリーは、スタッキングの利便性及び比較的低い容器重量のため、特定の車両用途を含む様々な用途に特に望ましくなる可能性がある。高容量カソード活性材料を組み込んだ車両用バッテリーに関するポーチバッテリーの設計は、両方とも参照によって本明細書に組み込まれる「High Energy Lithium Ion Secondary Batteries」という名称のBuckleyらへの米国特許第8,187,752号明細書及び「Battery Packs for Vehicles and High Capacity Pouch Secondary Batteries for Incorporation into Compact Battery Packs」という名称のKumarらへの米国特許第9,083,062B2号明細書にさらに記載されている。ポーチバッテリーの設計は、特定のバッテリーパック設計での使用に特に都合がよいが、ポーチバッテリーは、他の状況において且つ都合のよいフォーマットで高容量でも効果的に使用可能である。電極スタックを用いた角柱形ポーチバッテリーによる望ましい結果が実施例に示される。
【0104】
図1~4は、ポーチバッテリーの代表的な実施形態を示す。本実施形態において、ポーチバッテリー100は、ポーチエンクロージャ102、電極コア104及びポーチカバー106を含む。電極コアについて以下にさらに説明される。ポーチエンクロージャ102は、キャビティ110及びキャビティを囲むエッジ112を含む。キャビティ110は、電極コア104がキャビティ110内に適合可能であるような寸法を有する。図2及び3に示すように、ポーチカバー106は、エッジ112の周囲で密封され、密封されたバッテリー内に電極コア104を密封することができる。末端タブ114、116は、電極コア104との電気的接触のために、密封されたポーチから外側に延在する。図3は、3-3線に沿って見られるときの図2のバッテリーの概略断面図である。エッジ及びシールの様々な構成を用いて、ポーチバッテリーの多くの追加的な実施形態が可能である。
【0105】
図4は、一般に電極スタックを含む電極コア104の実施形態を示す。本実施形態において、電極スタック130は、負極構造132、134、136、正極構造138、140並びに隣接する正極及び負極間に配置されたセパレーター150、152、154、156を含む。セパレーターは、電極構造がセパレーターのひだ内に配置された単一折り畳みシートとして提供することができる。負極構造132、134、136は、それぞれ集電体172、174、176のいずれかの側面に配置された負極160、162、負極164、166及び負極168、170を含む。正極構造138、140は、それぞれ集電体188、190の反対側面に配置された正極180、182、正極184、186をそれぞれ含む。タブ192、194、196、198、200は、直列又は並列で個々の電極の接続を容易にするために、それぞれ集電体172、188、174、190、176に接続される。車両用途に関して、タブは、一般に並列に接続されており、タブ192、196、200は、容器の外側から接近可能な電気接点に電気的に接続され、及びタブ194、198は、容器の外側から接近可能な反対極として電気接点に電気的に接続される。
【0106】
電極スタックは、容器に隣接する両方の外側電極が負極であるように、追加の負極を有することが可能である。一般に、本明細書に記載される寸法の電極がスタッキングされた電極によるバッテリーは、5~40個の負極要素(集電体が活性材料によって両側でコーティングされる)、さらなる実施形態において7~35個の負極要素を有する。対応する数の正極要素は、一般に負極要素より1個少ない。当業者は、上記の明示的範囲内の電極数の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0107】
上記のように、巻回電極は、円筒形バッテリー又はほぼ角柱形のバッテリーのいずれかに対応して使用可能である。円筒形リチウムイオンバッテリーの巻回セルについては、参照によって本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Secondary Battery」という名称のKobayashiらへ米国特許第8,277,969号明細書にさらに記載されている。巻回電極を有する角柱形バッテリーについては、参照によって本明細書に組み込まれる「Electrode Assembly and Lithium Ion Secondary Battery Using the Same」という名称のYeoへの米国特許第7,700,221号明細書(‘221特許)に記載されている。Kobayashiの‘969特許及びYeoの‘221特許には、ケイ素ベースの活性材料を用いて適切なサイクリング又は高エネルギー密度を達成する方法について記載されていない。巻回電極を用いた角柱形バッテリーの設計については、例えば、上記‘221特許にさらに記載されている。電極のスタッキングされた組合せ又は巻回セルのいずれかの特定の設計も、バッテリーの目標寸法及び目標容量によって影響を受ける可能性がある。
【0108】
改良された負極を様々な用途及びセル/バッテリー設計に関して使用することができる。電極スタックに関して、特定の用途に対する体積及び設計上の制約に基づき、電極の面積を適切に選択することができる。以下の議論は、ドローン、自動車、トラック又は他の車両などの車両用途用に一般に設計された大型セルに焦点を置いている。しかしながら、本明細書に記載される改良された負極は、より小型のセルフォーマットをベースとすることができる消費者向け電子機器用途に関して効果的に使用可能である。また、自動車は、より小型の消費者向け電子機器セルを使用することが可能であり、Tesla車は、現在、それらのバッテリーパックに数千の小型の消費者向け電子機器セルを使用することで知られていることが注目されるべきである。一般に、特定の範囲内において、大型フォーマットセル/バッテリーほど大きいエネルギー密度を達成することができる。エネルギー密度などの様々な考慮事項のバランスをとるために、特定の用途に基づき、正極活性材料を選択することが望ましくなる可能性がある。
【0109】
電極パラメーターを選択することで、高重量エネルギー密度バッテリーの設計に電極面積、電極構造の数、バッテリー容量などの要素のバランスを組み込むことができる。電極面積とは、集電体の片側に沿った1つの電極の空間的範囲を指す。図1は、長さ「L」を示し、及び図3は、電極の幅「W」を示す。図に示されるように、電極の面積は、L×Wとして定義することができる。いくつかの実施形態において、電極スタックを含むバッテリーの寸法が、スタック中の各電極の長さ及び幅に類似する長さ及び幅を有することができるように、各電極の面積が類似することが可能である。いくつかの実施形態において、セパレーターは、電極の面積よりわずかに大きい面積を有するシート状であり得、及びいくつかの実施形態において、セパレーターは、折り畳まれるか、プリーツを付けられるか又はポケットを有するように形成され得、電極がセパレーターのひだ又はポケットに配置される。
【0110】
いくつかの消費者向け電子機器デバイスに関して、一般に角柱形バッテリーの長さ及び幅は、独立して、約15mm~500mm、さらなる実施形態において約17.5mm~約400mm、追加的な実施形態において約20~約350mmであり得る。バッテリーの厚さは、約1mm~約15mm、さらなる実施形態において1.5mm~約13.5mm、追加的な実施形態において約2mm~約12mmであり得る。バッテリーの容量は、500mm~約100,000mm、さらなる実施形態において約750mm~約75,000mm、他の実施形態において約1000mm~約50,000mmの範囲であり得る。巻回セルに関して、2つの電極及びセパレーターを一緒に配置して、次いで適切な器具を使用して一般にマンドレルなどに沿って巻き付ける。対応する体積を得るために、長さは、一般に幅よりも実質的に大きくなる。幅は、一般に、約15mm~約150mm、さらなる実施形態において約20mm~約120mmであり得る。幅に対して、巻き付け寸法に対応する長さの比率は、約3~約25、さらなる実施形態において約4~約20であり得る。巻き付けに続いて、渦巻状電極は、角柱形、円筒形又は他の都合のよい形状であり得る。円筒形バッテリーは、約5mm~約50mm、さらなる実施形態において約7mm~約40mm、追加的な実施形態において約8mm~約30mmの直径を有することが可能である。角柱形巻回電極は、上記の電極スタックと同じ全体寸法を有することができる。当業者は、上記の明示的範囲内の寸法パラメーターの追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0111】
一般に、より大型フォーマットのセル/バッテリーは、より高い重量及び体積エネルギー密度をもたらす。車両用途に一般に望ましいより大型フォーマットのセルに関して、ポーチバッテリーの所望の面積は、約10,000mm~約50,000mm、さらなる実施形態において約15,000mm~約40,000mmの範囲であり得る。さらに、ポーチバッテリーは、約30,000mm~約800,000mm、さらなる実施形態において約50,000~約750,000mm、追加的な実施形態において約100,000mm~約600,000mmの体積を有することが可能である。ポーチバッテリーの幅は、約50mm~約500mm、さらなる実施形態において約65mm~約450mm、他の実施形態において約75mm~約400mmの範囲であり得る。同様に、ポーチバッテリーの高さは、約75mm~約750mm、さらなる実施形態において約85mm~約700mm、他の実施形態において約100mm~約650mmの範囲であり得る。ポーチバッテリーの厚さは、約3mm~約18mm、さらなる実施形態において約3.25mm~約16mm、他の実施形態において約3.5mm~約15mmの範囲であり得る。いくつかの実施形態において、より大型フォーマットのバッテリーは、約0.5Ah~約105Ah、他の実施形態において約2Ah~約80Ah、他の実施形態において約5Ah~約65Ahの総容量を有することが可能である。当業者は、上記の明示的範囲内のバッテリー寸法及びバッテリー容量の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0112】
性能特性
本明細書に記載される設計特徴の組合せにより、望ましいバッテリー性能を維持しながら、より長期のサイクリング安定性を提供することができる。長期サイクリングの達成には、セル設計パラメーターのバランスと共に、上記の改良された電極設計の使用が必要である。現在のセル設計は、エネルギー密度のいくらかの犠牲を伴って、サイクリングを有意に改善する。本明細書において例示されるように、同程度の重量エネルギー密度は、C/10レート及び電圧範囲4.35V~3Vにおいて中程度のサイクリング効率による‘535出願において記載されるように、より小型フォーマットのセルで達成された。特に興味深い実施形態において、本明細書の正極は、一般にニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルトを含み、リチウムリッチ+マンガンリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルトとブレンドされ得る。N-NMC活性材料の使用は、使用される電圧範囲における良好なサイクリング及び高エネルギー密度と一致する。
【0113】
正極特徴の性能独立性を評価するために、ハーフセル構成においてリチウム箔電極を用いて負極を試験することができる。特に、選択されたレートにおいて0.005V~1.5Vの電圧範囲上でリチウム金属に対して負極をサイクルすることができる。負極比容量について上記に記載されている。本明細書における改良された負極は、参照電極に対して、ハーフセル構成において良好にサイクルするが、以下のフルセル構成においてより明確に定量化される場合、サイクリングの安定性が改善される。また、正極性能はバッテリー性能にも影響を与えるが、ケイ素ベースの電極を用いたフルセルに関して正極性能が評価される。
【0114】
高容量正極及び高容量負極をベースとする電気自動車用途などの商業的な用途に適切である高エネルギーフォーマットのセル及びバッテリーが形成された。上記のような高容量材料を利用するための電極設計が開発された。本明細書に開示されるリチウムイオン二次バッテリーは、30℃において、選択された充電電圧から2.5Vまで放電された場合、C/3のレートで少なくとも約235Wh/kg、さらなる実施形態において、30℃において、選択された充電電圧から2.5Vまで放電された場合、C/3のレートで少なくとも約240Wh/kg、追加的な実施形態において少なくとも約245Wh/kg、他の実施形態において少なくとも約250Wh/kgの放電エネルギー密度を有することが可能である。いくつかのセルは、2.4V又は2.3Vなどのいくらか異なる放電電圧まで放電することができるが、これらの電圧において残留容量がわずかであり、且つ実際の放電電圧が特定の用途に対して選択され得るため、得られる性能に差異がほとんどない。選択された充電電圧は、正極活性材料によって影響を受ける可能性がある。一般に、これらのセルに関する選択された充電電圧は、約4.05V~4.4Vであり、例示的な値としては、4.15V(NMC811)、4.2V、4.3V及び4.35Vが含まれる。バッテリーは、非常に良好なサイクリング性能を示すことができる。いくつかの実施形態において、バッテリーは、500回目のサイクルにおいて、30℃において、選択された充電電圧から2.5VまでC/3で放電されて6回目のサイクル容量の少なくとも約75%、他の実施形態では500回目のサイクルにおいて、30℃において、選択された充電電圧から2.5VまでC/3でサイクルされた場合、6回目のサイクル放電容量に対して少なくとも約80%、追加的な実施形態では少なくとも約82%の放電容量を示すことができる。同様に、バッテリーは、600回目のサイクルにおいて、30℃において、選択された充電電圧から2.5VまでC/3で放電されて6回目のサイクル容量の少なくとも約70%、他の実施形態では600回目のサイクルにおいて、30℃において、選択された充電電圧から2.5VまでC/3でサイクルされた場合、6回目のサイクル放電容量に対して少なくとも約73%、追加的な実施形態では少なくとも約75%の放電容量を示すことができる。当業者は、上記の明示的範囲内の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【実施例
【0115】
実施例1 - 活性材料組成物
本実施例は、導電性ナノスケール炭素及び適切なポリマーバインダーと一緒に、電気化学的に活性なグラファイトの有意な量を組み込むことによる、酸化ケイ素複合材活性材料のサイクリング安定化を実証する。
【0116】
負極配合物を評価するために、リチウム箔対電極又は活性組成物としてリチウム金属酸化物ブレンドを含む正極のいずれかを使用してコインセルを形成した。ケイ素ベースの活性材料を有する負極を形成するために、市販の酸化ケイ素/ケイ素/炭素複合材料(以下、SiO/Si/Cと表記)の粉末及び選択された量のグラファイトを1重量%~7重量%のナノスケール炭素導電性添加剤と一緒に完全に混合し、均質粉末混合物を形成した。グラファイト(KS6合成グラファイト、Timcal)の量を変化させて、4種の試料ケイ素ベース電極を形成した:試料1 - 70重量%のSiO/Si/C+30重量%のグラファイト、試料2 - 78重量%のSiO/Si/C+22重量%のグラファイト、試料3 - 85重量%のグラファイト+15重量%のグラファイト、試料4 - 100重量%のSiO/Si/C。これとは別に、ポリマーバインダー、ポリイミドバインダー及び低弾性係数バインダーのブレンドをN-メチルピロリドン(「NMP」)(Sigma-Aldrich)と混合し、一晩撹拌して、ポリマーバインダー-NMP溶液を形成した。次いで、均質粉末混合物をポリマーバインダー-NMP溶液に添加し、約2時間混合し、均質スラリーを形成した。スラリーを銅箔集電体上に適用して湿潤薄膜を形成し、ラミネートされた集電体を減圧オーブン中で乾燥してNMP除去し、ポリマーを硬化させた。次いで、ラミネートされた集電体をシートミルのローラー間で押圧し、所望のラミネート厚さを得た。乾燥ラミネートは、2~20重量%のバインダーを含有し、電極の残り部分は、粉末によって寄与される。負極は、アノードの不可逆容量損失によるリチウム損失の100%~160%を埋め合わせするために十分なリチウムによって電気化学的にプレリチウム化された。
【0117】
コインセルの初期の組合せは、リチウム箔対電極を使用して形成された。これは、ハーフセルと呼ばれる。負極の一部分をセパレーター、リチウム箔の一部分及びリチウム箔のための対応する集電体と一緒に一定寸法に切断した。本明細書に記載されるコインセルのためのセパレーターは、市販の3層ポリオレフィンセパレーターを含む。ジメチルカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートを含む電解質をセル中に配置し、セルを密閉した。次いで、C/10レートの第1のサイクル充電及び放電、C/5レートの第2のサイクル充電及び放電レート及びC/3の充電及び放電レートにおける残りのサイクルに関して、バッテリー中で0.005Vから1.5Vまでコインセルをサイクルさせた。初期比容量を表1に示す。ハーフセルフォーマットでリチウム箔が最初に放電して、酸化ケイ素ベースの電極中にリチウムを装填(インターカレーション又は合金化)し、次いで充電ステップにおいて、この反応は、逆になり、酸化ケイ素ベースの電極からリチウムが除去(脱インターカレーション又は脱合金化)される。
【0118】
【表3】
【0119】
充電及び放電の両方に関して、図5にサイクル数の関数としての比容量をプロットする。充電容量及び放電容量は、基本的に約10サイクル後に合流する。グラファイトの量が増加すると、比容量が減少することが予測される。グラファイトを用いたセルは、亜酸化ケイ素ベースの活性材料のみを用いたバッテリーと比較して、サイクリング安定性における著しい改善を示した。ハーフセルフォーマットで、異なる量のグラファイトを用いたセルで同様のサイクリング安定性が示された。
【0120】
別の一連のセルは、4種の酸化ケイ素複合材ベースの電極試料及びリチウム+マンガンリッチNMC(上記の‘901特許を参照)と組み合わせたニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルト(N-NMC)のブレンドを用いて形成された正極によって形成された。これらのフルセルは、それらの負極試料によって参照される。組み立てられたセルを4.35V及び2.3V間でサイクルさせた。セルは、第1のサイクルでC/10のレートで、第2のサイクルでC/5のレートで充電及び放電され、次いでC/3レートでサイクリングされた。比容量のサイクリング結果を図6にプロットし、正規化された容量の結果を図7に示す。負極中にグラファイトを有するセルは、600回より多いサイクルを通して改善されたサイクリング及び約60%以上の容量保持を示した。表2にサイクリング性能を要約する。このセルフォーマットに関して、600サイクルより多いより長期のサイクリングに関して、グラファイト活性材料を用いた場合及び用いない場合にセル性能が類似したものとなった。
【0121】
【表4】
【0122】
別の一連のコインセルは、カーボンブラック、カーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブの3種のナノスケール炭素導電性添加剤を用いて形成された。ケイ素ベースの電極は、他の点で上記と同一であった。コインセルの第1の組合せは、リチウム金属箔対電極を用いて形成された。コインセルは、上記の通りに形成された。表3に、記載されたレート容量、第1の放電/充電(C/10)、第2の放電/充電(C/5)及びC/3でのその後の放電/充電に関してハーフセルの性能をまとめた。
【0123】
図8に充電及び放電比容量をプロットする。低サイクル数に関して、カーボンブラック比容量が高かったが、カーボンナノファイバーによるセルは、より多くのサイクル数でより高い放電比容量を示した。これらのセルのレート容量を調査する比容量を表3に示す。
【0124】
【表5】
【0125】
また、試料フルセル1~4を形成するために使用されたものと異なる導電性添加剤を有する負極及び同一の正極を用いて、フルセルの組合せを形成した。ここでも、フルセルは、負極試料によって参照される(5=カーボンナノチューブ、6=カーボンブラック、7=カーボンナノファイバー)。これらのセルの初期性能を表4にまとめる。図9(比容量)及び図10(正規化された容量)において、比容量の結果をサイクルの関数としてプロットする。これらのセルに関して、カーボンブラック及びカーボンナノチューブを用いたセルは、同様に機能したが、カーボンナノファイバーを用いたセルは、より多くのサイクル数では性能が低下した。
【0126】
【表6】
【0127】
実施例2 - 負極のためのバインダー組成物
本実施例は、混合バインダー配合物を使用するケイ素ベース電極の改善されたサイクリング性能を実証する。
【0128】
バインダー組成物を試験するために、4つの組合せのセルを形成した。第1の活性組成物比で2つの組合せのセル、1つの組合せのハーフセル及び1つの組合せのフルセルを形成し、第2の活性組成物比で2つの組合せのセル、1つの組合せのハーフセル及び1つの組合せのフルセルを形成した。第1の活性組成物比は、70重量%のSiO複合材及び30重量%のグラファイトであり、且つ2~6重量%のカーボンナノチューブが導電性添加剤として含まれた。実施例1において上記されるように、コインセル内にリチウム箔電極を用いて、5つのハーフセルを組み立てた。試料8、9及び12は、1~7重量%の低弾性係数バインダー及び7~15%のポリイミドを有するが、試料9及び12は、同量の低弾性係数バインダーを有し、試料8は、試料9及び12に対してより多くの量の低弾性係数バインダー(バインダー2)を有した。試料12は、試料9と比較してより多量のポリイミドを有し、それに対応してより少ない量の活性材料を有した。試料8、9、12中のポリイミドに対するバインダー2の重量比は、それぞれ0.714、0.333及び0.250であった。試料10及び11は、いずれのバインダー2も含まれず、且つ試料10は、より低い量のポリイミドと、それに対応してより多い量の導電性カーボンナノチューブとを有した。
【0129】
組み立てられたハーフセルを第1のサイクルに関してC/10、第2のサイクルに関してC/5、その後、C/3レートで0.005V及び1.5V間でサイクルさせた。初期サイクル性能を表5に示す。サイクル数の関数としての比充電及び放電容量を図11にプロットする。より長期のサイクリングに関して、ポリマーブレンドを用いた試料では、改善された容量が示された。
【0130】
【表7】
【0131】
また、リチウム金属酸化物のブレンドによる正極と、実施例1に記載されるコインセル構造とを用いてフルセルの組合せを形成した。これらのセルは、その負極試料によって参照される。セルをC/10第1サイクル、C/5第2サイクル及びC/3第3サイクルでサイクルした。図12(比容量)及び図13(正規化された容量)に充電及び放電容量をプロットする。また、性能について表6にまとめる。ここでも、ポリマーバインダーブレンドを用いたセルでは、改善されたサイクリング性能が示された。
【0132】
【表8】
【0133】
第2の活性組成物比で第2の2つの組合せのセル、1つの組合せのハーフセル及び1つの組合せのフルセルを形成した。第2の活性組成物比は、85重量%のSiO/Si/C複合材及び15重量%のグラファイトであり、且つセルは、導電性添加剤として2~6重量%のカーボンナノチューブをさらに含んだ。上記されるように、コインセル内にリチウム箔電極を用いて、5つのハーフセルを組み立てた。試料13、14及び17は、1~7重量%の低弾性係数バインダー(バインダー2)及び7~15%のポリイミドを有するが、試料14及び17は、同量のバインダー2を有し、且つ試料13は、試料14及び17と比べてより多量のバインダー2を有した。試料17は、試料14と比較してより多量のポリイミドを有し、それに対応してより少ない量の活性材料を有した。試料13、14、17中のポリイミドに対するバインダー2の重量比は、それぞれ0.714、0.333及び0.250であった。試料15及び16は、いずれのバインダー2も含まれず、且つ試料15は、より低い量のポリイミドと、それに対応してより多い量の導電性カーボンナノチューブとを有した。
【0134】
組み立てられたハーフセルを第1のサイクルに関してC/20、第2のサイクルに関してC/5、その後、C/3レートで0.005V及び1.5V間でサイクルさせた。初期サイクル性能を表7に示す。サイクル数の関数としての比充電及び放電容量を図14にプロットする。より長期のサイクリングに関して、活性材料装填量を減少させた、ポリマーブレンドを用いた試料では最良のサイクリングが示され、ポリイミドのみ用い、且つ導電性添加剤を増加させていないセルでは最も低いサイクリング容量が示された。
【0135】
【表9】
【0136】
また、負極と正極との第2の組合せ及び実施例1に記載されるコインセル構造に関して、フルセルの組合せを形成した。これらのセルは、負極試料番号によって参照される。セルをC/10第1サイクル、C/5第2サイクル及びC/3第3サイクルでサイクルした。図15(比容量)及び図16(正規化された容量)に充電及び放電容量をプロットする。また、性能について表8にまとめる。ここでも、ポリマーブレンドを用いたセルでは、改善されたサイクリング性能が示された。
【0137】
【表10】
【0138】
実施例3 - NMC正極によるセル
本実施例は、非ブレンド型正極活性材料による良好なサイクリング性能を実証する。
【0139】
セルの第1の組合せにおいて、これらのセルの負極は、上記の試料8とほぼ同一であった。正極は、セルの唯一の活性材料としてLiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)又はLiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)のいずれかを使用したことを除き、基本的に実施例1及び2の電極と同等であった。ただし、異なる装填量の正極活性材料を用いてセルを形成した。NMC622セルを4.30V~2.5V又は4.35V~2.5Vのいずれか上でサイクルし、及びNMC811セルを4.20V~2.5Vの電圧範囲上でサイクルした。
【0140】
初期充電放電サイクルは、C/10のレートにおいて実行した。それぞれのカソード材料による1つの代表的なセルに関して、第1の充電/放電サイクルにおける電圧対比容量を図17にプロットする。また、全ての試料の結果を表9にまとめる。
【0141】
【表11】
【0142】
また、試料18~25に対応するセルもサイクルされた。特に、セルを第1のサイクルでC/10のレート、第2のサイクルでC/5のレートで充電及び放電し、続いてC/3のレートでサイクルした。表10に、明示された放電レートにおける放電容量に基づくセル試料のレート容量をまとめる。
【0143】
【表12】
【0144】
試料19、21及び24に関してサイクルの関数としての放電容量を図18に、且つサイクルの関数としての正規化された容量を図19にプロットする。これらのコインセルの最良のサイクリング性能は、4.30Vから2.5VまでサイクルされたNMC622に基づく試料であるが、サイクル範囲全体で最も低いサイクリング性能は、4.35Vから2.5VまでサイクルされたNMC622に基づくものであった。
【0145】
別のセルの組合せは、正極活性材料としてNMC811を用いて形成された。このセルの組合せに関して、負極は、いずれのグラファイトも含まないSiO/Si/C複合材料を含み、及び負極は、ポリイミドバインダーを含み、且つ導電性添加剤としてカーボンナノチューブ及びアセチレンブラックの混合物を含んだ。電極は、高エネルギー密度を達成するように設計された。
【0146】
比容量の関数としてのセル電圧をC/20の充電及び放電レートにおいて4.3V~2.5Vの範囲で図20にプロットする。このセルは、207.6mAh/gのC/20における放電容量を示す。図21を参照すると、C/6のレートで4.3Vまで充電され、且つC/10のレートで放電され、その結果、わずかに低い比容量がもたらされた第2の充電/放電サイクルに関する比容量の関数としてのセル電圧のプロットが示される。初期充電に関して、セルは、充電電圧に達するまで一定電流で充電され、次いで電流が低い値まで低下するまで一定電圧で充電された。
【0147】
複製された2つの同等のセルであるセルをC/20のレートで初期充電/放電し、次いでC/6の充電レート及びC/10の放電レートでサイクルした。サイクルの関数としての比容量を図22にプロットし、正規化された比容量を図23にプロットする。セルを130~140サイクルでそれらの容量の少なくとも80%で維持した。
【0148】
実施例4 - 大容量長期サイクリングバッテリー
本実施例は、大型フォーマットバッテリー中に装填された改良された負極に基づく長期サイクリング安定性を実証する。
【0149】
2つの異なるバッテリーサイズで同一電極を用いて2対のポーチバッテリーを形成した。負極は、30重量%のグラファイト活性材料と一緒にSiO/Si/C複合材料を含んだ。負極は、ポリイミド及び低弾性係数バインダー及びカーボンナノチューブ導電性材料のブレンドを有した。正極は、ニッケルリッチNMC及びHCMRのブレンドであった。低レート(C/20)容量に基づき、負極容量は、最初に正極容量の約150%であった。上記のフッ素化電解質も使用した。
【0150】
2つのバッテリーフォーマットに関して、第1のフォーマットを図24及び25に示す。図中、角柱形ポーチセルは、タブを無視して、図に示されるように225mm×165mm×4.5mm(厚さ)の概算寸法を有する(記載される数値はおおよその寸法(mm)である)。第2のフォーマットは、図26及び27に示されており、図中、角柱形ポーチセルは、タブを無視して、図に示されるように145mm×64mm×7.7mm(厚さ)の概算寸法を有する(記載される数値は、おおよその寸法(mm)である)。実施例1に記載の通りに電極(10~25のカソード層及び11~26のアノード層)が形成され、セパレーターシートのひだ内に配置された、めっき電極によってセパレーターシートにひだが形成された。ポーチセルのためのセパレーターは、ゲル形成ポリマーコーティングを有する多孔性ポリマーシートであった。相補的リチウムは、ケイ素ベースの負極活性材料のIRCLの100%~160%をほぼ埋め合わせるために、組み立て前の負極表面にリチウム粉末(SLMP(登録商標)、FMC Corp.)を適用することによって提供された。バッテリーは、30℃においてC/3の放電レートにおいて約21Ah(第1のフォーマット)又は11Ah(第2のフォーマット)の総容量を有するように設計された。バッテリーは、C/20の充電及び放電レートで1回の形成サイクルでサイクルされた。次いで、セルを30℃においてC/3の充電レート及び放電レートによってサイクルした。
【0151】
11Ahのバッテリー設計では、280Wh/kgのより高いエネルギー密度が達成されたが、21Ahのバッテリーでは245Wh/kgのエネルギー密度が達成された。2つのサイズでのバッテリーの対に関して、これらの2つのバッテリーのサイクリングを図28にプロットする。高エネルギー密度バッテリー(11Ah設計)は、80%の容量に達する前に約550サイクルを示したが、21Ahバッテリー設計は、80%の容量保持で約750サイクルを示した。ただし、これらのバッテリーのいずれも、観察されたサイクリング性能により、このエネルギー密度範囲内でいずれのバッテリーに関する既知の性能を上回っていた。
【0152】
また、目標11Ahセルは、上記の11Ahセルと同一のアノードと、NMC811ベースの正極及びNMC622ベースの正極とから形成され、アノードは、85重量%のSiO/Si/C複合材及び15重量%のグラファイトを有する活性材料を有した。活性材料の明記された置き換えがあったことを除き、このセルは、カソードブレンド活性材料を有する上記のセルと同等であった。NMC622正極を有するセルに関して、比較可能な2つの代表的なセルを4.3Vから2.5Vまでサイクルした。サイクリング結果を図29~32にプロットする。図29及び30において、比エネルギー及び正規化された比エネルギーは、サイクルの関数としてプロットされる。比エネルギーは、300サイクルより多くに関して250Wh/kgより高く維持された。図31及び32は、同一サイクル範囲内での対応する比容量及び正規化された比容量のプロットである。
【0153】
NMC811正極を有するセルに関して、比較可能なセルを4.15Vから2.5Vまで及び4.20Vから2.5Vまでサイクルした。サイクリング結果を図33~36にプロットする。図33及び34において、比エネルギー及び正規化された比エネルギーは、サイクルの関数としてプロットされる。4.20Vから2.5Vまでサイクルされたバッテリーに関して、最初のほぼ100サイクルにおける比エネルギーは、C/3放電レートにおいて300Wh/kgより高い。より大きい数のサイクルに対してサイクルするために、これらの材料に関して充電電圧は比較的低く設定されているが、平均電圧及び容量は、比較的高く、比較的高い比エネルギー値が生じる。図35及び36は、同一サイクル範囲内での対応する比容量及び正規化された比容量のプロットである。
【0154】
要約すると、大型フォーマットセルは、300Wh/kgまで及びそれより高い初期エネルギー密度を達成することができた。ブレンドされていないN-NMC活性材料によるセルは、初期エネルギー密度のより高い値を達成した。正極活性材料ブレンドによるセルは、所望のサイクリング安定性を達成したが、4.15Vの充電電圧によってサイクルされたNMC811セルは、より多数のサイクルに外挿した場合、非常に有望な結果を達成した。
【0155】
上記の実施形態は、説明のためのものであり、限定するものではない。追加的な実施形態は、特許請求の範囲内である。加えて、本発明は、特定の実施形態を参照して記載されているが、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形状及び詳細における変化形態がなされ得ることを認識するであろう。上記の文献の参照による任意の組み込みは、本明細書の明示的開示に反する対象が組み込まれないように制限される。特定の構造、組成物及び/又はプロセスが構成要素、要素、成分又は他の区分によって本明細書に記載される範囲において、本明細書の開示は、他に特に明記されない限り、本議論において示される通り、特定の実施形態、特定の構成要素、要素、成分、他の区分又はそれらの組合せを含む実施形態並びに対象の基本的性質を変更しない追加的な特徴を含み得る、そのような特定の構成要素、成分、他の区分又はそれらの組合せから本質的になる実施形態を包含することが理解される。
図1
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