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  • 特許-軽度又は進行性の歯周病の診断 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】軽度又は進行性の歯周病の診断
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240314BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240314BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALN20240314BHJP
   C12M 1/26 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 G
C12Q1/48 Z
C12M1/26
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020555172
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2019058222
(87)【国際公開番号】W WO2019197202
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】18166956.5
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】コーイマン,ヘルベン
(72)【発明者】
【氏名】ルマイレ,アミール フセイン
(72)【発明者】
【氏名】グラス,カール
(72)【発明者】
【氏名】デ ヤヘル,マリニュス カレル ヨーハネス
(72)【発明者】
【氏名】チャップル,イアン レスリー キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】グラント,メリッサ マッカイ
(72)【発明者】
【氏名】プレショー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,ジョン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ハルトスカンプ,ミハエル アレックス
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529333(JP,A)
【文献】特表2021-521420(JP,A)
【文献】特表2021-510817(JP,A)
【文献】特表2020-523557(JP,A)
【文献】特表2021-510815(JP,A)
【文献】特開2013-117382(JP,A)
【文献】Davis IJ,Longitudinal quantification of the gingival crevicular fluid proteome during progression from gingivitis to periodontitis in a canine model,J Clin Periodontol,2016年,Vol.43,Page.584-594
【文献】Karissa L. Cross,Insights into the Evolution of Host Association through the Isolation and Characterization of a Novel Human Periodontal Pathobiont, Desulfobulbus oralis,mBio,2018年03月13日,Vol.9 No.2,Page.e02061-17
【文献】Wirginia Krzysciak,Relationship between Pyruvate Kinase Activity and Cariogenic Biofilm Formation in Streptococcus mutans Biotypes in Caries Patients,Front. Microbiol.,2017年05月16日,Vol.8,Page.Article 856
【文献】Melissa M. Grant,Discovery, validation, and diagnostic ability of multiple protein-based biomarkers in saliva and gingival crevicular fluid to distinguish between health and periodontal diseases,J Clin Periodontol,2022年04月22日,Vol.49 No.7,Page.622-632
【文献】Melissa M. Grant,Pyruvate Kinase, Inflammation and Periodontal Disease,Pathogens,2021年06月22日,784,P1-6,https://www.mdpi.com/journal/pathogens
【文献】Haigh BJ,Alterations in the salivary proteome associated with periodontitis,J Clin Periodontol,2010年03月,Vol.37 No.3,Page.241-247
【文献】Goncalves L da R,Analysis of the salivary proteome in gingivitis patients,J Periodont Res,2011年10月,Vol.46 No.5,Page.599-606
【文献】William V. Giannobile,Saliva as a diagnostic tool for periodontal disease: current state and future directions,PERIODONTOLOGY 2000,2009年,Vol.50 No.1,Page.52-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/50
C12Q 1/48
C12M 1/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するためのシステムにおけるプ
ロセッサの作動方法であって、以下の:
-ヒト患者由来の唾液試料における、以下の:
PK、S100A8及びS100A9;
PK、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8及びHb-ベータ;
PK、S100A8、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A9、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8、S100A9及びHb-ベータ;
A1AGP、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9;
プロフィリン、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;又は、
プロフィリン、Hb-ベータ、PK及びS100A8
を含むタンパク質の濃度を受け取る工程;
-前記受け取られたタンパク質の濃度の結合濃度を反映する試験値を決定する工程;
-前記試験値を、進行性歯周病に関連する結合濃度を同じ方法で反映する閾値と比較し、前記試験値が、前記ヒト患者における軽度歯周病又は進行性歯周病が存在するかを評価するための工程;
を含む、方法。
【請求項2】
前記ヒト患者が、歯周病であることが知られており;及び/又は、
前記ヒト患者の年齢が判定され、前記試験値が、前記ヒト患者の年齢と組み合わせて、前記受け取られたタンパク質の濃度の結合濃度を反映する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閾値が、進行性歯周病の存在と関連する1又はそれ以上の参照試料中の前記タンパク質について決定された濃度に基づく、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記閾値が、軽度又は中等度の歯周病である前記ヒト患者由来の試料、及び進行性歯周病である前記ヒト患者由来の試料を含む、一組の試料中の前記タンパク質の濃度に基づく、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、
PK、S100A8及びS100A9;
PK、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8及びHb-ベータ;
PK、S100A8、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A9、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8、S100A9、及びHb-ベータ;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9;
A1AGP、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9;
プロフィリン、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;又は、
プロフィリン、Hb-ベータ、PK及びS100A8からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記受け取られたタンパク質の濃度の値は、0から1の間の数字に算術的に処理される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するためのバイオマーカーとしての、ヒト患者の唾液試料における、以下の:
PK、S100A8及びS100A9;
PK、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8及びHb-ベータ;
PK、S100A8、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A9、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8、S100A9及びHb-ベータ;
A1AGP、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9;
プロフィリン、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;又は、
プロフィリン、Hb-ベータ、PK及びS100A8
を含むタンパク質の、使用。
【請求項8】
ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するためのシステムであって、
以下の:
-ヒト患者の唾液試料における、以下の:
PK、S100A8及びS100A9;
PK、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8及びHb-ベータ;
PK、S100A8、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A9、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8、S100A9及びHb-ベータ;
A1AGP、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9;
プロフィリン、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;又は、
プロフィリン、Hb-ベータ、PK及びS100A8
を含むタンパク質の濃度を受け取る手段;
-前記受け取る手段により受け取られたタンパク質の濃度の結合濃度から、軽度歯周病又は進行性歯周病であるヒト患者と表示するかを決定するように適合されたプロセッサ;
を含む、システム。
【請求項9】
口腔液試料を受け入れるための容器をさらに含み、前記容器が検出手段を含み;及び/又は
さらに、以下の:
-表示をユーザに提示するユーザインタフェース;
-前記プロセッサから前記ユーザインタフェースへ前記表示のデータを転送する、前記プロセッサと前記ユーザインタフェースとの間のデータ接続;
を含み;及び/又は
前記プロセッサは、インターネット系アプリケーションを作動することができ;及び/又は
前記ユーザインタフェースは、前記ヒト患者の年齢に関する情報を入力することができ、前記プロセッサは、前記受け取られたタンパク質の濃度の結合濃度から、前記ヒト患者が軽度又は進行性歯周病であると表示をすること決定することができ、かつ、そのように適合させることができる、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するためのヒト患者の唾液試料中の少なくとも3つのバイオマーカーを検出するキットであって、
PK、S100A8及びS100A9の濃度を検出するための、検出試薬;
PK、Hb-ベータ及びHbデルタの濃度を検出するための、検出試薬;
PK、S100A8及びHb-ベータの濃度を検出するための、検出試薬;
PK、S100A8、Hb-ベータ及びHbデルタの濃度を検出するための、検出試薬;
PK、S100A9、Hb-ベータ及びHbデルタの濃度を検出するための、検出試薬;
PK、S100A8、S100A9及びHb-ベータの濃度を検出するための、検出試薬;
A1AGP、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPKの濃度を検出するための、検出試薬;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9の濃度を検出するための、検出試薬;
プロフィリン、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPKの濃度を検出するための、検出試薬;又は、
プロフィリン、Hb-ベータ、PK及びS100A8の濃度を検出するための、検出試薬;
を含む、キット。
【請求項11】
歯周病に罹患しているヒト患者における歯周病の状態の変化を、第1時点t1から第2時点t2までの時間にわたり決定するためのシステムにおけるプロセッサの作動方法であって、前記ヒト患者からt1で得られた唾液の少なくとも1つの試料及び前記ヒト患者からt2で得られた唾液の少なくとも1つの試料における、以下の:
PK、S100A8及びS100A9;
PK、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8及びHb-ベータ;
PK、S100A8、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A9、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8、S100A9及びHb-ベータ;
A1AGP、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9;
プロフィリン、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;又は、
プロフィリン、Hb-ベータ、PK及びS100A8
を含むタンパク質の濃度を受け取る工程と、それにより、前記第1時点と前記第2時点における前記タンパク質の結合濃度を比較する工程及び、前記タンパク質の結合濃度の変化から、歯周病の状態の変化を決定するための工程を含む、方法。
【請求項12】
ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを診断するためのシステムにおけるプロセッサの作動方法であって、ヒト患者の唾液試料における、以下の:
PK、S100A8及びS100A9;
PK、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8及びHb-ベータ;
PK、S100A8、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A9、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8、S100A9及びHb-ベータ;
A1AGP、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9;
プロフィリン、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;又は、
プロフィリン、Hb-ベータ、PK及びS100A8
を含むタンパク質の濃度を受け取る工程と、前記受け取られたタンパク質の濃度の結合濃度に基づいて、ヒト患者における軽度歯周病又は進行性歯周病の存在を評価するための工程と、を含む方法。
【請求項13】
軽度又は進行性の歯周病に罹患しているヒト患者において、以下の:
PK、S100A8及びS100A9;
PK、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8及びHb-ベータ;
PK、S100A8、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A9、Hb-ベータ及びHbデルタ;
PK、S100A8、S100A9及びHb-ベータ;
A1AGP、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;
A1AGP、PK、S100A8及びS100A9;
プロフィリン、Hb-ベータ、Hbデルタ及びPK;又は、
プロフィリン、Hb-ベータ、PK及びS100A8
を含むタンパク質を検出するための方法であって、以下の:
(a)ヒト患者から唾液試料の獲得工程;
(b)前記タンパク質と結合する、検出試薬と試料を接触させることによる、前記タンパク質が試料中に存在するかの検出工程、かつ、前記タンパク質各々と検出試薬との間の結合の検出工程;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔ケアの分野における、歯周疾患の唾液ベースの診断に関連する。特に、本発明は、歯周疾患を診断するキット、使用及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯肉炎症、すなわち歯肉炎は、歯周組織の炎症反応を引き起こす歯表面への歯の細菌性バイオフィルム、すなわち歯垢の歯表面への付着によって主に引き起こされる非破壊的な歯周疾患である。歯肉炎は、歯肉組織の可逆的な感染症及び炎症であり、適切な口腔衛生処置及び歯科専門家の介入によって治癒することができる。もし検出されて治療されなければ、歯肉炎は通常、歯の周辺の組織(すなわち歯周組織)の炎症を引き起こすが、これは不可逆性歯周病として定義される状態であり、組織破壊及び歯槽骨喪失が起こり、最終的に歯の喪失に至る。歯肉疾患の進行中には、歯肉の腫れ、淡紅色から暗赤色への色の変化、歯肉の出血、息苦しさ、歯肉の圧痛や痛み等、関連する臨床徴候や症状が現れる。
【0003】
歯周病は、口腔微生物が原因の慢性多因子性炎症性疾患であり、硬(骨)及び軟(歯周靭帯)組織の進行性破壊を特徴とし、最終的に歯の可動性及び喪失にいたる。これは、歯肉組織の可逆的な感染及び炎症である歯肉炎とは区別されるべきである。炎症性歯周病は最も一般的な慢性ヒト疾患の1つで、成人の歯の喪失の主な原因である。歯周病が口腔の健康に及ぼす実質的な悪影響に加えて、歯周病は全身的な結果をもたらし、それが心疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症、脳卒中)、糖尿病、妊娠合併症、結合リウマチ及び呼吸器感染症を含むいくつかの全身性疾患の危険因子であるというエビデンスも増加している。
【0004】
したがって、歯周疾患の早期かつ正確な診断は、口腔及び全身の健康の観点から重要である。
【0005】
一般的な歯科診療では、歯周疾患の診断は依然として不十分であり、その結果、治療的介入の割合が比較的低く、未治療の症例がかなり多い。現在の診断は、歯科医による不正確で主観的な口腔組織の臨床試験(色、腫脹、プロービングでの出血の程度、プロービングポケットの深さ、及び口腔X線による骨損失)に依存する。これらの従来の方法は時間がかかり、用いられる技術(ポケット深度、X線)のいくつかは、現在の疾患活動性又はさらなる疾患感受性よりもむしろ、過去の疾患活動性などの歴史的事象を反映する。従って、より客観的、より迅速、正確、より簡便な診断法(理想的には予測値を伴う)が望ましく、非専門家でも実施され得るものが好ましい。それにより、現在の疾患活動性、被験体のさらなる歯周疾患に対する感受性を判定することが望ましい。
【0006】
唾液又は経口液剤は、長い間、口腔疾患及び一般疾患の診断用液として提唱されてきた。また、ラボ・オン・チップという小型バイオセンサーの出現により、迅速な診察室での診療現場試験診断法は、科学的及び臨床的により大きな関心を集めている。特に歯周疾患の検出では、組織の炎症及び破壊に関連する炎症性バイオマーカーは、近接するために唾液中に容易に到達する可能性があり、唾液は歯周疾患の検出について、強力な可能性があることを示唆する。実際、この分野は大きな関心を集めており、有望な結果が得られている。例えば、非特許文献1は、歯周病の部位と健常部位の両方の歯肉溝液(GCF)試料中で104のタンパク質、健常部位のみのGCFから64のタンパク質、歯周病部位のみのGCFから63のタンパク質を同定した。しかし、まだ明確な試験は確立されていない。
【0007】
バイオマーカーは、臨床症状を裏付ける生物学的指標であり、歯周疾患の臨床転帰を診断する客観的尺度である。最終的には、証明されたバイオマーカーを用いて、将来の疾患のリスクを評価し、極めて早期の段階で疾患を同定し、初期治療への反応を同定し、予防戦略を実施することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kido et al. (J Periodont Res 2012; 47:488-499)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
唾液中のバイオマーカーに関する診療現場試験の開発については、これまで、診察室での応用に適応できる技術の欠如及び個々の試料中の複数のバイオマーカーの分析が不可能であるという制限があった。また、当該試験に含める複数のバイオマーカーの選択は、文献で十分に扱われておらず、実用的な試験でも実施されていない。
【0010】
さらに、歯周病は、軽度から進行性までの全領域に現れうる。この症状の重症度を容易に評価するため、歯科医は、歯周病に罹患した患者を、軽度歯周病の患者と進行性歯周病の患者の2つのグループに分類することが多い。しかしながら、このような評価を行う利用可能な方法には、歯科医が全ての患者及び/又は全ての来院時に日常的には実施できず、患者も実施(自己診断)できないような労働集約的プロセスが含まれる。
【0011】
より単純なプロセス、特に少量の唾液試料を患者から、できれば患者自身が採取しうるプロセスの提供が望まれる。当該試料は、唾液試料を分類できる体外診断装置に入力されて、その測定に基づき、患者が軽度歯周病又は進行性歯周病に罹患しているとして分類される可能性の指標を返すことができることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記要望により良く対処するために、本発明は、一態様では、ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するインビトロ方法であって、以下の:前記ヒト患者由来の唾液試料において、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質の濃度の検出工程;前記タンパク質について測定された結合濃度を反映する試験値の決定工程;前記試験値を、進行性歯周病に関連する結合濃度を同じ方法で反映する閾値と比較し、前記試験値が、前記患者における軽度歯周病又は進行性歯周病の指標となるかの評価工程;を含む、インビトロ方法に関する。
【0013】
他の態様では、本発明は、患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するバイオマーカーとしての、ヒト患者の唾液試料における、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質の使用、を提供する。
【0014】
場合によっては、患者の年齢もまた、バイオマーカーとして用いられる。
【0015】
さらなる態様では、ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するシステムであって、以下の:
-ヒト患者の唾液試料中で、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質を検出することができ、かつ検出するように適合された検出手段;
-前記タンパク質の測定された濃度から、軽度歯周病又は進行性歯周病である患者の指標を決定するように適合されたプロセッサ;
を含む。
【0016】
当該システムは、場合によっては、情報を提示することができ、好ましくは、被験体の年齢等の情報、及び場合によっては、性別及び/又はBMI(ボディマスインデックス)等の他の情報も提示することができるインタフェース、特にグラフィカルユーザインタフェースへのデータ接続を含み、前記インタフェースは、システムの部分であるか又はリモートインタフェースである。
【0017】
場合によっては、前記アイテムのうちの1又はそれ以上、特にプロセッサは、「クラウド内」、すなわち固定マシン上ではなく、インターネット系アプリケーションによって機能することができる。
【0018】
なお、さらなる態様では、本発明は、ヒト患者の唾液試料中の歯周病用の少なくとも3つのバイオマーカーを検出するキットであって、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質を検出する、1又はそれ以上、通常、3つ又は4つの検出試薬を含む。通常、3又はそれ以上の検出試薬、例えば、各々が異なるバイオマーカーに結合する4つの検出試薬が用いられる。一実施形態では、第1検出試薬はPKを検出し、第2検出試薬は、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビン-デルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの1つを検出し、第3検出試薬は、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビン-デルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の異なる1つを検出する。場合によっては、第4検出試薬は、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビン-デルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のグループとはさらに異なるタンパク質を検出してよい。
【0019】
さらに別の態様では、本発明は、歯周病に罹患しているヒト患者における歯周病の状態の変化を、第1時点t1から第2時点t2までの時間にわたり決定するインビトロ方法であって、前記患者からt1で得られた唾液の少なくとも1つの試料及び前記患者からt2で得られた唾液の少なくとも1つの試料において、以下のタンパク質:ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質の濃度の検出工程と、それにより、前記濃度のいずれか1つ、2つ、又は3つ全ての差異が状態の変化を反映するような、前記濃度の比較工程を含む。
【0020】
さらなる態様では、本発明は、ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを診断する方法であって、ヒト患者の唾液試料において、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質の検出工程と、前記試料中の前記タンパク質の濃度に基づいて、患者における軽度歯周病又は進行性歯周病の存在を評価する工程と、を含む。場合によっては、この態様の方法は、患者の歯周病を治療するさらなる工程を含む。
【0021】
なおさらなる態様では、本発明は、軽度又は進行性の歯周病に罹患したヒト患者において、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質を検出する方法であって、以下の:
(a)ヒト患者から唾液試料の獲得工程;
(b)前記タンパク質を結合する、1又はそれ以上の検出試薬と試料を接触させることによる、前記タンパク質が試料中に存在するかの検出工程、かつ、各タンパク質と1又はそれ以上の検出試薬との間の結合の検出工程;を含む。通常、PKを検出する第1検出試薬、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビン-デルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の1つを検出する第2検出試薬、及びヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビン-デルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の異なる1つを検出する第3検出試薬がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示に記載される方法で用いるシステムを概略的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
一般的な意味では、本発明は、歯周病に罹患しているヒト患者の唾液試料中の3つのタンパク質のみが、前記歯周病を2つのカテゴリーのいずれかに分類するバイオマーカーとして役立つことができるという賢明な洞察に基づき、一方のカテゴリーは、進行性歯周病であり、他方のカテゴリーは、軽度又は中等度である(別段の指示がない限り、本明細書中では、「軽度歯周病」という用語は、中等度の歯周病を含む)。後者のカテゴリーは、以下、総称して軽度歯周病として示される。
【0024】
同定されたタンパク質バイオマーカーは、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも2つと組み合わせた、ピルビン酸キナーゼ(PK)である。
【0025】
被験体の年齢は、場合によっては、追加のマーカーとして含まれ得る。
【0026】
ピルビン酸キナーゼは解糖の最終段階を触媒する。ピルビン酸キナーゼには4つの組織特異的アイソザイムがあり、各々には異なる組織に必要な特定の速度論的性質がある。
【0027】
ヘモグロビン(Hb)は、ほとんどすべての脊椎動物及び部分の無脊椎動物の組織の赤血球中の鉄含有酸素輸送金属タンパク質である。ヘモグロビンベータ(βグロビン、HBB、βグロビン、及びヘモグロビンサブユニットβとしても知られる)はグロビンタンパク質であり、αグロビン(HBA)とともに成人のヘモグロビンの最も一般的な形態であるHbAを構成する。Hb-ベータは通常、146個のアミノ酸の長さであり、分子量は15,867Daである。正常な成人のHbAは2つのα鎖と2つのβ鎖からなるヘテロ四量体である。Hb-ベータはヒト11番染色体上のHBB遺伝子にコードされる。ヘモグロビンのサブユニットデルタ(デルタグロビン、HBD、δ-グロビン、ヘモグロビンデルタとしても知られる)はグロビンタンパク質であり、アルファグロビン(HBA)とともに、成人のヘモグロビンHbA-2のあまり一般的ではない形態を構成する。Hbデルタは通常、147個のアミノ酸からなり、分子量は16,055Daである。成人ヒトHbA-2は2個のα鎖と2個のδ鎖からなるヘテロ四量体である。Hbデルタは、ヒト11番染色体上のHBD遺伝子によってコードされている。
【0028】
S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)は、炎症過程及び免疫応答の調節で重要な役割を果たすカルシウム及び亜鉛結合タンパク質である。好中球の走化性、接着を誘導することができる。
【0029】
カルグラニュリンBとしても知られるS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)は、炎症過程及び免疫反応の調節で重要な役割を果たすカルシウム及び亜鉛結合タンパク質である。好中球走化性、接着を誘導し、SYK、PI3K/AKT及びERK1/2の活性化を介して食作用を促進して、好中球の殺菌活性を高めることができ、MAPK依存性機序により好中球の脱顆粒を誘導することができる。
【0030】
上記タンパク質は、当該分野で公知である。当業者は、それらの構造、及び唾液試料等の水性試料中でそれらを検出する方法を知っている。以下、上記タンパク質バイオマーカーを「本発明のバイオマーカーパネル」と総称する。
【0031】
実施例の表1は、本発明に関する12の特に好ましいタンパク質バイオマーカーの組み合わせを提供する。表には各組み合わせの年齢が含まれるが、必要に応じて、場合によっては、これを除外することができる。
【0032】
本発明のバイオマーカーパネルは、1の実施形態では、本発明で同定された5つのタンパク質バイオマーカー、すなわち、PK、Hb-ベータ、Hbデルタ、S100A8及びS100A9を含むか、又はそれらからなる。好ましくは、本発明のバイオマーカーパネルは、本発明で同定されたタンパク質バイオマーカーのうちの4つ以下、例えば、PK、及び3つ以下のHb-ベータ、Hbデルタ、S100A8、及びS100A9からなる。本発明のバイオマーカーパネルに加えて、人口統計学的データ(例えば、年齢、性別)等の他のバイオマーカー及び/又はデータを、歯周病型の決定に適用されるデータのセットに含めることができる。
【0033】
他のタンパク質バイオマーカーとしては、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)が挙げられる。別の例示的なさらなるタンパク質バイオマーカーはプロフィリンである。以下の表1の好ましいバイオマーカーパネルに、これらの他のタンパク質の1又はそれ以上が含まれている。α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)は、主に肝臓で合成される血漿α‐グロブリン糖タンパク質である。オロソムコイドとしても知られる血液中の輸送タンパク質として機能し、塩基性で中性に荷電したリポ親和性化合物の運搬体として作用する。また、血液細胞と内皮細胞との相互作用を調節すると考えられている。プロフィリンは、アクチン細胞骨格の動的な代謝回転と再構築に関与するアクチン結合タンパク質であり、ほとんどの細胞でみられる。アクチンミクロフィラメントの空間的及び時間的に制御された成長には重要であり、これは細胞の移動及び細胞の形態変化に不可欠な過程である。ヒトプロフィリン-1は、発現されると通常140アミノ酸の長さであるが、多くの場合、さらにプロセシングされて成熟型になる。
【0034】
望ましい拡張バイオマーカーパネルは以下の通りである:
A1AGP+PK+S100A8+S100A9
A1AGP+Hb-ベータ+Hbデルタ+PK
プロフィリン+Hb-ベータ+Hbデルタ+PK
プロフィリン+Hb-ベータ+PK+S100A8。
【0035】
他のバイオマーカーが、場合によっては、含まれる場合、バイオマーカーの総数(すなわち、本発明のバイオマーカーパネル+他のバイオマーカー)は、通常4、5又は6である。
【0036】
しかしながら、本発明の望ましい利点は、好ましくは4つ以下のバイオマーカー、より好ましくは、3つのみのタンパク質バイオマーカーを測定して、患者の歯周疾患の分類を決定でき、表1のバイオマーカーパネル(以下)が好ましいことである。特に、この決定には、有利には、簡易かつ簡便な診断テストを提供する他のデータを用いる必要がない。
【0037】
本方法は、必要に応じて、少量の唾液試料、例えば、液滴を被験体から採取するだけでよい。試料のサイズは、通常、0.1μl~2ml、例えば、1~2mlの範囲であり、それにより、より少量、例えば、0.1~100μlを体外装置処理に用いることができ、それにより、より大きな試料、例えば、最大20ml、例えば、7.5~17mlを採取することも可能である。
【0038】
この試料は、関与するタンパク質の濃度を測定し、診断結果を返す体外診断装置に入力され、軽度歯周病又は進行性歯周病の可能性に基づいて被験体を分類する。
【0039】
本発明の使用の簡便性により、歯周病である、又は歯周病を発症するリスクが高い歯科患者の大部分を、定期的に(例えば、定期的な歯科試験の部分として、又は自宅においてさえ)試験することができる。これにより、特に、軽度歯周病が進行性歯周病に進行する前にその存在が検出できるため、より時宜を得た口腔ケアを行い、歯周病の進行を防止することができる。あるいは、例えば、歯周病のリスクが高いことが知られており、患者の初回試験で、この方法により、歯周病の軽度又は進行性を同定することができる。また、本法は、以前に進行性歯周病と診断された患者の治療後に、歯周病が軽度に改善したことの確認に適用することができる。さらなるシナリオでは、以前に軽度歯周病に罹患した患者が治療開始後に改善しないか、又は実際に悪化したという兆候により、歯科医又は患者が治療計画を変更することで、迅速な回復プロセスに寄与することができる。特に、本方法は自己診断にも適し、試料を採取し、それを装置に入れる工程を、患者自身が実施することができる。
【0040】
患者は、本発明が、歯周病の軽度又は進行性の決定に実施される場合、通常、歯周病であることを知っている。従って、ある態様では、本方法は、歯周病であることが知るヒト患者が、軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価する。
【0041】
本発明の方法は、通常、1つ又はそれ以上の検出試薬を用いて、本発明のバイオマーカーパネルを構成する前記少なくとも3つのタンパク質、及び場合によっては、さらなるバイオマーカータンパク質を検出することを含む。
【0042】
本発明により試験される「唾液」は、吐出又はスワブによって獲得しうる得る未希釈の唾液であってよく、又は液体で口をすすいで獲得しうる希釈された唾液であってよい。希釈唾液は、患者が滅菌水(例えば、5ml又は10ml)又は他の適当な流体で数秒間口をすすぎ又は振り動かし、容器に吐き出して得ることができる。当該希釈唾液は、口腔すすぎ液という場合もある。
【0043】
「検出する」とは、バイオマーカータンパク質の濃度を測定、定量、スコアリング、又はアッセイすることを意味する。バイオマーカータンパク質を含む生物学的化合物を評価する方法は、当技術分野では公知である。タンパク質バイオマーカーを検出する方法には、直接測定及び間接測定が含まれることが認識されている。当業者は、特定のバイオマーカータンパク質をアッセイする適当な方法を選択することができるであろう。
【0044】
タンパク質バイオマーカーに関する用語「濃度」には、その通常の意味、すなわち、体積中のタンパク質の存在量が与えられる。タンパク質濃度は、体積当たりの質量で測定される。最も通常には、mg/ml又はμg/mlであるが、ときにはpg/mlと低く測定される。別の尺度は、モラリティ(又はモル濃度)、モル/L又は「M」である。濃度は、公知の、決定された、又は所定の容量の試料中のタンパク質の量を検出して測定することができる。
【0045】
濃度を測定する代わりに、試料中のタンパク質バイオマーカーの絶対量を測定すること、又は試料中のバイオマーカーの質量-分画を測定すること、例えば、試料中の他のすべてのタンパク質の合計に対するバイオマーカーの量を測定してもよい。
【0046】
「検出試薬」とは、目的のタンパク質バイオマーカーに特異的に(又は選択的に)結合し、相互作用し、又は検出する物質又は化合物である。当該検出試薬は、限定されるものではないが、タンパク質バイオマーカーに優先的に結合する抗体、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体を含み得る。
【0047】
用語「特異的に(又は選択的に)結合する」又は「特異的な(又は選択的な)免疫反応性がある(有する)」は、検出試薬を参照する場合、タンパク質及び他の生物学的製剤の不均一な集団におけるタンパク質バイオマーカーの存在を測定する結合反応をいう。従って、指定された免疫学的測定条件下では、特定の検出試薬(例えば、抗体)は、バックグラウンドの少なくとも2倍で特定のタンパク質に結合し、試料中に存在する他のタンパク質に実質的に有意量で結合しない。当該条件下での特異的結合には、特定のタンパク質に対する特異性のために選択される抗体が必要である。様々な免疫学的測定フォーマットを用いて、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択することができる。例えば、固相ELISA免疫学的測定法(酵素免疫測定法)は、タンパク質と特異的に免疫反応性のある抗体の選択に日常的に用いられる(例えば、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988), for a description of immunoassay formats and conditions that can be used to determine specific immunoreactivity参照)。通常、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも2倍であり、より典型的には、バックグラウンドの10~100倍を超えるであろう。
【0048】
「抗体」とは、エピトープ(例えば、抗原)を特異的に結合し、認識する、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子、又はそれらの断片によって実質的にコードされるポリペプチドリガンドをいう。認識された免疫グロブリン遺伝子には、κ及びλ軽鎖定常領域遺伝子、α、γ、δ、ε及びμ重鎖定常領域遺伝子、及び無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。抗体は、例えば、無傷の免疫グロブリンとして、又は様々なペプチダーゼによる消化により産生される多数の十分に特徴付けられた断片として存在する。これは、例えば、Fab’及びF(ab)’2断片を含む。本明細書中で用いられる用語「抗体」はまた、全抗体の修飾によって産生された抗体断片、又は組換えDNA方法を用いて新規に合成された抗体断片を包含し、また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は単鎖抗体を包含し、抗体の「Fc」部分は、1又はそれ以上の重鎖定常領域ドメインCH1、CH2、及びCH3を含むが、重鎖可変領域を含まない免疫グロブリン重鎖の部分を意味する。抗体は、二重特異性抗体、例えば、第1抗原に特異的に結合する第1可変領域及び第2の異なる抗原に特異的に結合する第2可変領域がある抗体であり得る。少なくとも1つの二重特異性抗体を用いて、必要な検出試薬の数を減らすことができる。
【0049】
診断法は感度及び特異度が異なる。診断的アッセイの「感度」とは、試験が陽性であった患者の割合(「真の陽性」の割合)であり、アッセイで検出されなかった疾患患者は「偽陰性」である。病気ではないが試験で陰性となった被験体を「真陰性」といい、診断試験の「特異度」は1から偽陽性率を差し引いたものであり、「偽陽性」率は、試験で陽性となった罹患のない被験体の割合と定義される。
【0050】
本発明のバイオマーカータンパク質は、いかなる手段によっても試料中で検出することができる。バイオマーカー検出の好ましい方法は、抗体系アッセイ、タンパク質アレイアッセイ、質量分析(MS)系アッセイ、及び(近赤外分光法系アッセイである。例えば、免疫学的測定法には、ウエスタンブロット、ラジオ免疫学的測定法、ELISA「サンドイッチ」免疫学的測定法、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、蛍光免疫学的測定法等の技術を用いる競合的及び非競合的アッセイシステムが含まれるが、これらに限定されない。当該アッセイは常套手段であり、当技術分野では周知である。例示的な免疫学的測定法は、以下に簡単に記載される(しかし、限定を意図するものではない)。
【0051】
免疫沈降プロトコルは一般に、タンパク質ホスファターゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム)が添加されたRIPA緩衝液(1%NP-40又はTritonX-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.15M NaC1、pH7.2の0.01Mリン酸ナトリウム、1%トラシロール)等の溶解緩衝液中で細胞の集団を溶解し、細胞溶解液に目的の抗体を添加し、4℃で一定期間(例えば、1~4時間)インキュベートし、プロテインA及び/又はプロテインGセファロースビーズを細胞溶解液に添加し、約1時間以上4℃でインキュベートし、溶解緩衝液中でビーズを洗浄し、SDS/試料緩衝液中でビーズを再懸濁することを含む。抗体の特定の抗原を免疫沈降能は、例えば、ウエスタンブロット分析で評価することができる。当業者は、抗原への抗体の結合を高め、バックグラウンドを軽減する(例えば、セファロースビーズで細胞溶解物を予めクリアする)ために修飾され得るパラメータに関して知識があるであろう。
【0052】
ウエスタンブロット分析は、一般に、タンパク質試料の調製、ポリアクリルアミドゲル中でのタンパク質試料の電気泳動(例えば、抗原の分子量に応じて8~20%のSDS-PAGE)、ポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDF又はナイロン等の膜へのタンパク質試料の移動、ブロッキング溶液(例えば、3%のBSA又は非脂肪ミルクを含むPBS)中での膜のブロッキング、洗浄緩衝液(例えば、PBS-Tween20)中での膜洗浄、ブロッキング緩衝液中で希釈された一次抗体(対象の抗体)を用いた膜のブロッキング、洗浄緩衝液中での膜の洗浄、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ)に結合された一次抗体(例えば、抗ヒト抗体を認識する)又は放射性分子(例えば、32P又は125I)を用いた膜のブロッキング、ブロッキング緩衝液中での膜の洗浄、及び当該抗原の存在の検出を含む。当業者は、検出されたシグナルを高め、バックグラウンドノイズを低下するのに修正することができるパラメータの知識があるであろう。
【0053】
ELISAは、通常、抗原(すなわち、目的のバイオマーカータンパク質又はその断片)の調製、96穴マイクロタイタープレートのウェルの抗原でのコーティング、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ)等の検出可能な化合物に結合した目的の抗体をウェルに添加し、しばらくインキュベートすること、及び抗原の存在の検出を含む。ELISAでは、目的の抗体を検出可能な化合物に結合させる必要はなく、代わりに、検出可能な化合物に結合された第2抗体(目的の抗体を認識する)をウェルに添加することができる。さらに、ウェルを抗原でコーティングする代わりに、抗体をウェルにコーティングしてもよい。この場合、検出可能な化合物に結合した第2抗体は、対象抗原がコーティングされたウェルに添加した後に添加することができる。当業者は、検出されたシグナル、及び当技術分野で公知のELISAの他のバリエーションを高めるのに改変することができるパラメータの知識があるであろう。
【0054】
複数のマーカーが用いられるため、当該バイオマーカーの結合濃度(及び場合によっては、年齢)に基づいて閾値を決定することができる。当該閾値は、患者の歯周病の軽度又は進行性のどちらに分類されるかを決定する。本発明は、上記バイオマーカーの組み合わせの測定に基づいて十分な精度で、歯周病の軽度又は進行性が検出されうるという洞察を反映する。
【0055】
当該洞察は、患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかの評価に、歯周病に罹患しているヒト患者の唾液試料中のバイオマーカーとして、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質の使用である、他の態様を支持する。
【0056】
当該使用は、本明細書中及び本明細書中に実質的に記載された方法で実施することができる。
【0057】
本発明の方法は、前記タンパク質について測定された結合濃度を反映する少なくとも1つの試験値を測定することを含む。結合濃度値は、測定された濃度の入力及びこれらの値の算術演算によって得られるいかなる値であってよい。これは、例えば、濃度の単純な添加であり得る。また、各濃度をこれらの濃度の所望の重量を反映する係数で乗算し、次いで結果を合計することを含むこともできる。また、濃度を互いに乗算すること、又は乗算、除算、減算、指数化、及び加算のいかなる組み合わせを含むこともできる。さらに、濃度をある程度まで上昇させることを含むことができる。
【0058】
場合によっては、試験値は、被験体の年齢と組み合わせて、前記タンパク質について測定された結合濃度を反映する。
【0059】
得られた結合濃度値は、進行性歯周病の存在に関連する結合濃度を同じ方法で反映する閾値と比較する。この比較により、試験値が、唾液が試験を受けた患者の進行性歯周病の存在又は軽度歯周病の存在の指標となるかを評価することができる。
【0060】
閾値は、例えば、進行性歯周病の存在に関連する参照試料、すなわち、進行性歯周病と診断された患者において、同じタンパク質について決定された濃度に基づいて、同じ方法で得られた結合濃度値に基づくことができる。通常、結合濃度が同じかそれ以上であることを反映した値は、試験を受けた患者が進行性歯周病であることを示す。同様に、試験を受けた歯周病患者の唾液中の結合濃度が低いことを反映する値は、歯周病が軽度又は中等度(すなわち、進行性でない)ことを示す。しかしながら、進行性歯周病を示す試験値が閾値を下回り、軽度歯周病を示す試験値が閾値を上回るように、(例えば、負の乗数を用いることによって)閾値を計算することもできることが理解されるであろう。
【0061】
閾値はまた、進行性歯周病及び非進行性(軽度及び/又は中等度)歯周病と既知に診断された患者を含む、一連の試料中の本バイオマーカータンパク質の濃度を測定することに基づいて決定することもできる。それにより、測定された濃度値を、おそらく機械学習法を含む統計分析にかけ、望ましい感度及び特異度で、軽度又は中等度の歯周病と分類された患者及び進行性歯周病と分類された患者を識別することができる。これにより、所望の閾値を得ることができる。この閾値に基づいて、試験試料は、同じ濃度測定に供し、次いで、閾値が得られるのと同じ方法で、濃度値を処理し、閾値と比較され得る結合濃度値を決定し、従って、試験された試料を軽度又は進行性の歯周病であるか否かに分類することができる。
【0062】
興味深い実施形態では、結合濃度値は、以下のようなスコアの形式で得られる。数値(例えば、ng/mlのタンパク質濃度値)を各測定に割り当て、これらの値を線形又は非線形の組み合わせで用いて、スコアをゼロから1の間で計算する。上記のように、閾値が一組の被験体に基づいて決定される場合、通常、0~1のスコアは、結合濃度を入力とするシグモイド関数を用いて計算される(上記でさらに示すように)。
【0063】
スコアがある閾値を超える場合、当該患者が進行性歯周病であることを示す。当該閾値は、所望の感度及び特異度に基づいて選択され得る。
【0064】
本発明によれば、被験体に対して「軽度又は進行性歯周病分類」を行う場合には、歯周病に罹患していると推定され得る被験体であり得ることが理解されよう。これは、例えば、以前に行われた歯周病の診断から知ることができるが、おそらくその程度の判別能がないか、又は例えば、被験体の口腔の健康状態記録から想定することができる。
【0065】
当該技術分野では認められている臨床的定義は、以下に基づく:
歯肉指数(GI)〕
以下の場合、ロベン修正歯肉指数(MGI)を0~4の尺度で評価し、それに基づいて全口腔歯肉指数を記録する:
-0 =炎症なし
-1 =軽度の炎症;辺縁又は乳頭状歯肉単位の全部ではなく、ある部分が、色の質感のわずかな変化がわずかに変化している
-2 =軽度の炎症;ただし、辺縁全体又は乳頭部に及ぶ;
-3 =中等度の炎症;開口、発赤、浮腫及び/又は辺縁又は乳頭部の肥大、
-4 =重度の炎症;著しい発赤、辺縁又は乳頭状歯肉単位の浮腫及び/又は肥厚、自然出血、うっ血、潰瘍形成。
【0066】
プロービング深度(PD)
UNC-15手動歯周プロービングを用いて、最も近いmmまでプロービング深度を記録する。プロービング深度とは、プロービング先端(ポケットの基部と仮定)から歯肉縁までの距離をいう。
【0067】
歯肉退縮(REC)
歯肉退縮は、UNC-15手動歯周プロービングを用いて、最も近いmmまで記録する。歯肉後退は、遊離歯肉縁からセメント質-エナメル境界までの距離である。歯肉退縮は正の数で示され、歯肉過成長は負の数で示される。
【0068】
臨床的付着喪失(CAL)
臨床的付着喪失は、各部位におけるプロービング深度+後退の和として計算する。
【0069】
プロービング時の出血(BOP)
プロービング後、プロービング時に各部位の出血を評価し、プロービング後30秒以内に出血が生じた場合は、その部位に1のスコアを割り当て、そうでない場合は0のスコアを割り当てる。
【0070】
結果として得られる被験体群(患者群)の定義は以下の通りである:
-健常群(H):全部位でPD≦3mm(ただし、最終立位大臼歯の遠位部では4mmポケットまで可能)、近位部付着欠損のない部位、GI≧2.0、≦10%、%BOPスコア≦10%;
-歯肉炎群(G):GIが30%を超える部位で3.0以上、近位部付着欠損している部位がない、PDが4mmを超える部位がない、%BOPスコアが10%を超える;
-軽度~中等度の歯周病群(MP):8本以上の歯で5~7mmの歯間PD(約2~4mmのCALに等しい)、%BOPスコア>30%;
-進行性歯周病群(AP):12本以上の歯で7mm以上の歯間PD(CAL約5mm以上と等しい)、%BOPスコア>30%。
【0071】
一の実施形態では、本発明の方法は、図1に概略的に示すシステムを用いる。当該システムは、その中に一体化された様々な装置構成要素(ユニット)を有する単一の装置であってよい。また、当該システムは、その様々な構成要素、又はこれらの構成要素の部分を、別個の装置として有することができる。図1に示す構成要素は、測定装置(A)、グラフィカルユーザインタフェース(B)、及びコンピュータ処理ユニット(C)である。
【0072】
上記のように、本発明のシステムは、インタフェースへのデータ接続を含み、それによって、インタフェース自体は、システムの部分であっても、リモートインタフェースであってもよい。後者は、実際のインタフェースを提供するために、別の装置、好ましくはスマートフォン又はタブレットコンピュータ等のハンドヘルド装置をもちいることができる。このような場合のデータ接続は、好ましくは、Wi-Fi又はBluetooth等による、又は他の技術又は標準による無線データ転送を含む。
【0073】
測定装置(A)は、装置(A)に挿入可能なカートリッジ(A1)に唾液を滴下する等により唾液試料を受け取ることができるように構成されてよい。当該装置は、同一の唾液試料から、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質の濃度を測定することができる既存の装置であり得る。
【0074】
プロセシングユニット(C)は、部分(A)からのタンパク質濃度の数値を受け取る。単位(C)には、0から1のスコア(S)を計算できるソフトウェア(通常は組み込みソフトウェア)が付属する。当該ソフトウェアは、閾値(T)の数値をさらに含む。計算値(S)が(T)を超える場合、単位(C)はGUI(B)に「進行性歯周病」の指示(I)を出力し、そうでない場合は「軽度歯周病」を出力する。さらなる実施形態は、(S)の特定の値を用いて、指示(I)が行われる確実性を示すことができる。これは確率スコアであり、0.5は可能な閾値であり、例えば、スコアS=0.8は進行性歯周病の確率を示す。興味深い選択肢は以下のとおりである:
スコアSに基づいて、確実性を直接示すことができる。すなわち、S=0.8は80%の確実性を意味する;又は、
-スコアSに基づいて、2進法又は3次法を行うことができる:
-S<T>軽度歯周病、S≧T>高度歯周病;
-S<R1->軽度歯周病、R1≦S<R2->不確定、
-S≧R2->進行性歯周病;
さらに、このような二進又は三次表示に確実性を添付することができる。この確実性は、選択した閾値(T,R1,R2)からのスコアSの距離によって決定される。
【0075】
スコアの特定の計算は、例えば、ロジスティック回帰により、シグモイド関数を用いて実施することができる:
【0076】
【数1】
(式中、Nは、用いたタンパク質/バイオマーカーの数、c0、c1等は係数(数値)、B1、B2等は各々タンパク質濃度である。)
係数ciの決定は以下の訓練手順:
-進行性歯周病であるN1症例(現行基準で歯科医が判定)と、軽度歯周病であるN2症例を選択する。
【0077】
-各被験体から唾液試料を採取し、上記のようにバイオマーカーの組み合わせのタンパク質濃度を測定する。
【0078】
-軽度歯周病でない被験体はスコアS=0、進行性歯周病の被験体はスコアS=1とする。
【0079】
-タンパク質濃度とスコアのロジスティック回帰を行う。
により行うことができる。
【0080】
* 他の回帰又は機械学習法(線形回帰、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン)を使用して、又はタンパク質濃度に基づいて、被験体が歯肉炎であるか、口腔状態が健常であるかを予測する分類器を訓練することができる。
【0081】
特に、軽度歯周病又は進行性歯周病(例えば、米国歯周病学会の基準等の、歯科専門家による現在の基準を介した臨床評価により同定される)のいずれかである被験体を対象とした臨床試験を用いて、当該処置を(実施例において)適用する。様々なバイオマーカーの組み合わせの性能を、leave-one-out cross validationによって評価し、本発明の好ましいバイオマーカーの組み合わせが得られた。
【0082】
上記システムに関し、本発明はまた、さらなる態様では、ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するシステムであって、以下の:
-ヒト患者の唾液試料中で、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質を検出することができ、かつ検出するように適合された検出手段であって、上記で説明したように、このような手段は公知であり、当業者が容易にアクセスできる;通常、被験体の口腔試料を受容するための容器が提供され、この容器は検出手段と共に提供される;
-前記タンパク質の測定された濃度から、軽度歯周病又は進行性歯周病である患者の指標を決定するように適合されたプロセッサ;を含むシステムに関する。
【0083】
場合によっては、当該システムは、ユーザインタフェース(又は、リモートインタフェースへのデータ接続)、特に、情報を提示することができるグラフィカルユーザインタフェース(GUI)、GUIは、ユーザが、テキストベースのユーザインタフェース、タイプ化されたコマンドラベル、又は、テキストナビゲーション(本発明では除外されていない)の代わりに、グラフィカルアイコン及び二次表記などの視覚的インジケータを介して、電子装置と対話することを可能にするユーザインタフェース型であり、GUIは、一般的に公知であり、通常、MP3プレーヤ、ポータブルメディアプレーヤ、ゲーム装置、スマートフォン、及び、より小さな家庭用、オフィス及び産業用のコントロール等のハンドヘルドモバイル装置で使用され、上記のように、インタフェースは、場合によっては、例えば、被験体の年齢、性別、BMI(Body Mass Index)等の情報を入力できるように選択することができる。
【0084】
本発明はまた、別々に又は上記システムの部分として、ヒト患者の唾液試料中の歯周病用の少なくとも3つのバイオマーカーを検出するキットであって、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質を検出するための1又はそれ以上の検出試薬を含むキットを提供する。通常、キットは、各々が異なるバイオマーカーを指向する3つの検出試薬を含み、第1検出試薬はPKを検出し、第2検出試薬は、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビン-デルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの1つを検出し、第3検出試薬は、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビン-デルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの異なる1つを検出する。本発明の方法に関して上記のように、当該キットは、特にプロフィリン又はA1AGP、及び/又は他のタンパク質用の、より多くの検出試薬を含み得る。好ましい態様では、キットにおいて利用可能な検出試薬は、上記のように、本発明の3-バイオマーカー又は4-バイオマーカーパネルを構成する3つのタンパク質の選択用検出試薬からなる。さらなる態様では、以下の実施例において表1に例示した組み合わせで存在するバイオマーカータンパク質の各々について別々の検出試薬が提供される。
【0085】
好ましくは、当該キットは、チップ、マイクロタイタープレート、又は該検出試薬を含むビーズ又は樹脂等の固体支持体を含む。いくつかの態様では、キットは、ProteinChip(商標)等の質量分析プロービングを含む。
【0086】
当該キットはまた、非結合検出試薬又は前記バイオマーカー(サンドイッチ型アッセイ)のいずれかに特異的な洗浄溶液及び/又は検出試薬を提供することができる。
【0087】
興味深い態様では、本発明のバイオマーカーパネルの認識は、ヒト患者における歯周病の状態を経時的にモニタリングするのに適用される。従って、本発明はまた、歯周病に罹患しているヒト患者における歯周病の状態の変化を、第1時点t1から第2時点t2までの時間にわたり決定するインビトロ方法であって、前記患者からt1で得られた唾液の少なくとも1つの試料及び前記患者からt2で得られた唾液の少なくとも1つの試料において、以下のタンパク質:ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質の濃度の検出工程と、それにより、好ましくは少なくとも2つの、より好ましくは全ての3つの前記濃度の差が、状態の変化を反映する、当該濃度を比較する、インビトロ方法を提供する。この差は、濃度の差として再検討することができ、したがって、最初に0と1の間の数字、又は他のいかなる分類も生成せずに、直接比較することができる。また、両時点で受け取った測定値は、上記のように軽度又は進行性歯周病を判定する際に行われるのと同じ方法で処理することができることが理解されよう。
【0088】
本発明はまた、ヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかどうかを診断する方法を提供し、この方法は、患者の唾液中に、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質の存在を検出することを含む。患者における軽度歯周病又は進行性歯周病の存在は、前記試料中の前記タンパク質の濃度に基づいて評価される。場合によっては、この態様の方法は、患者の歯周病を治療するさらなる工程を含む。この任意の治療段階は、既知の治療剤又は歯科処置の投与、又は治療剤及び歯科処置の組み合わせを含むことができる。公知の治療剤としては、抗菌剤含有剤、例えば、洗口剤、チップ、ゲル又はミクロスフェアの投与が含まれる。歯肉炎及び歯周病の治療に用いられる典型的な抗菌剤は、クロルヘキシジンである。他の治療剤としては、抗生物質、通常経口投与される抗生物質、及びドキシサイクリン等の酵素抑制剤が挙げられる。既知の非外科的治療手技には、スケーリング及びルートプレーニング(SRP)がある。既知の外科的処置には、外科的ポケット整復、フラップ手術、歯肉移植片又は骨移植片が含まれる。
【0089】
軽度又は進行性の歯周病に罹患しているヒト患者において、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質を検出する方法であって、以下の:
(a)ヒト患者から唾液試料の獲得工程;
(b)前記タンパク質を結合する、1又はそれ以上の検出試薬と試料を接触させることによる、前記タンパク質が試料中に存在するかの検出工程、かつ、各タンパク質と1又はそれ以上の検出試薬との間の結合の検出工程;
を含む。
【0090】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに例示される。
【実施例
【0091】
軽度歯周病(中等度歯周病を含む)と診断された41例と進行歯周病と診断された38例を被験体とした79例の臨床試験において、ROC(Receiver-Operator-Characteristic) Area-The Curve (AUC)値が得られた。
【0092】
統計では、Receiver-Operator-Characteristic曲線、すなわちROC曲線は、識別閾値が変化するにつれて、二進分類器システムの性能を示すグラフプロットである。この曲線は、様々な閾値設定での偽陽性率(FPR)に対して真の陽性率(TPR)をプロットすることによって作成される。真の陽性率は、機械学習における感度、想起又は検出の確率としても知られている。偽陽性率は、フォールアウト又は誤警報の確率としても知られており、(1-特異度)として計算することができる。したがって、ROC曲線は、フォールアウトの関数としての感度である。一般的に、検出と誤警報の両方の確率分布が既知であれば、ROC曲線は、検出確率の累積分布関数(-∞から識別閾値までの確率分布の下の面積)の値をy軸に、誤報確率の累積分布関数の値をx軸にプロットすることによって生成することができる。試験の精度は、試験が試験対象群を、問題の疾患のある群とない群とにどれだけうまく分けられるかに依存する。精度は、ROC曲線下面積で測定する。面積1は完全な試験を表し、面積0.5は価値のない試験を表す。診断試験の精度を分類するガイドは、伝統的な学術的ポイント制である:
-0.90-1 =優良(A)
-0.80-0.90 =良好(B)
-0.70-0.80 =公正(C)
-0.60-0.70 =不良(D)
-0.50-0.60 =失敗(F)
以上のことから、上記臨床試験の結果において、ROC AUC値が0.75を超えると、本発明に関する試験を実施する望ましい精度を表すと考えられる。
【0093】
下記の表1は、決定されたすべてのバイオマーカー及びバイオマーカーパネルのうち、最大4つのタンパク質バイオマーカーであるパネルのROC AUC値が0.75を超えるデータをまとめたものである。これらのデータは、3つのタンパク質バイオマーカー(特定の組み合わせ)が軽度歯周病と進行歯周病を分類するためのAUC LOOCV>0.75を提供できることを示す:
【0094】
【表1】
この表中のタンパク質バイオマーカーの組み合わせの各々は、本発明の好ましい組み合わせとして強調される。
【0095】
本表では、マーカー年齢の次に、以下の多数の8種類のタンパク質マーカー(以前は口腔の健康に関連していなかった)を考慮する:
- A1AGP
- MMP8
- MMP9
- Hb-ベータ(beta)
- Hb-デルタ(delta)
- ケラチン4
- プロフィリン
- ピルビン酸キナーゼ
- S100A8
- S100A9
検討には、AUC>0.75の12のパネルを識別する:
・8つのタンパク質マーカー及び、場合によっては年齢をマーカーにすると、最大4つのタンパク質マーカーである324のパネルが可能である(年齢のみであるパネルは考慮されない)。
【0096】
・パネル内のタンパク質マーカーの数を制限せず、これらの8つのマーカーから、多数の510個の可能なパネルが得られる(年齢のみのパネルは考慮されない)。
【0097】
本発明は、図面及び上記説明では詳細に説明及び記載されているが、そのような説明及び記載は、例示的及び典型的であり、限定的ではないとみなされるべきであり、本発明は、開示された実施形態に限定されない。
【0098】
例えば、異なるバイオマーカーについて異なる単位で検出試薬を提示することが可能である。又は、有利には、本発明のキットは、すべての実施形態で用いられるタンパク質バイオマーカー、すなわち、PK、用の検出試薬の固定セット、及びヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビン-デルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のいずれかを含むさらなるバイオマーカー用検出試薬を含む可撓性モジュールを含むことができる。
【0099】
開示された実施形態に対する他の変形例は、図面、開示、及び添付の請求の範囲の研究から、当業者が請求する発明を実施する際に理解し、実施することができる。クレームでは、語「含む」は、他の要素又は工程を除外せず、不定冠詞「a」又は「an」(原文)は、複数を除外しない。本発明の特定の特徴が相互に異なる従属クレームに記載されているという単なる事実は、これらの特徴の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。クレーム中の引用符号は、その範囲を限定するものと解釈してはならない。
【0100】
要すれば、本発明者らは、歯周病に罹患したヒト患者が軽度歯周病又は進行性歯周病であるかを評価するインビトロ方法を開示する。この方法は、3つのバイオマーカータンパク質の選択を決定する洞察に基づく。従って、歯周病に罹患した患者の唾液試料において、濃度は、ピルビン酸キナーゼ(PK)、並びに、ヘモグロビンベータ(Hb-ベータ)、ヘモグロビンデルタ(Hbデルタ)、S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの少なくとも2つ、のタンパク質で測定される。当該測定濃度に基づき、当該タンパク質の結合濃度が反映された値が決定される。この値は進行性歯周病関連結合濃度を同じように反映する閾値と比較される。当該比較により、試験値が前記患者における進行性歯周病又は軽度歯周病の存在の指標となるかを評価することができる。これにより、通常、閾値により反映される結合濃度未満の結合濃度を反映する試験値は、前記患者が軽度歯周病である指標となり、閾値により反映される結合濃度で又はそれ以上の結合濃度を反映する試験値は、前記患者が進行性歯周病の指標となる。
図1