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特許7454524R-T-B系焼結磁石およびその調製方法
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  • 特許-R-T-B系焼結磁石およびその調製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20240314BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F1/057 130
H01F41/02 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021073953
(22)【出願日】2021-04-26
(65)【公開番号】P2021174996
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】202010366346.9
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515330421
【氏名又は名称】有研稀土新材料股▲フン▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】521180371
【氏名又は名称】河北雄安稀土功能材料創新中心有限公司
【氏名又は名称原語表記】Rare Earth Functional Materials (Xiong’an) Innovation Center Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.97-1, Jianli Road, Gouxi Village, Chengguan Town, Rongcheng County, Baoding City, Hebei 071700, P.R.China
(73)【特許権者】
【識別番号】521180382
【氏名又は名称】有研稀土(栄成)有限公司
【氏名又は名称原語表記】Grirem (Rongcheng) Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Songjiazhuang Village, Renhe Town, Rongcheng City, Weihai City, Shandong, 264306, P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】羅 陽
(72)【発明者】
【氏名】于 敦波
(72)【発明者】
【氏名】祝 偉
(72)【発明者】
【氏名】白 馨元
(72)【発明者】
【氏名】林 笑
(72)【発明者】
【氏名】朱 勝杰
(72)【発明者】
【氏名】王 子龍
(72)【発明者】
【氏名】彭 海軍
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/191276(WO,A1)
【文献】特開2010-114200(JP,A)
【文献】特開2020-013975(JP,A)
【文献】国際公開第2006/112403(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/088718(WO,A1)
【文献】特開2018-093202(JP,A)
【文献】国際公開第2009/004794(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石であって、粒界領域T1、シェル層領域T2およびRFe14B粒子領域T3を含み、
前記焼結磁石の表面から中心へ10μm~60μmの箇所に、前記シェル層領域T2と前記RFe14B粒子領域T3の面積比が0.1~0.3であり、前記シェル層領域T2厚さが0.5~1.2μmであり、前記シェル層領域T2の前記RFe14B粒子領域T3に対する平均被覆率が80%以上であり、
Rには、軽希土類LREおよび重希土類HREが含まれ、TはFeおよび/またはFeCoを含む1つ以上の金属であり、TはAlとMとを含み、MはGa,Cu,Znの少なくとも1種であり、M/Al質量比が2~3であり、前記シェル層領域T2における軽希土類LREおよびTの質量の合計に対する重希土類HRE、MおよびAlの合計質量の比(HRE+M+Al)/(LRE+T)が0.02以上0.4以下であり、
前記シェル層領域T2の重希土類HREの質量と軽希土類LREおよびTの合計質量の比HRE/(LRE+T)が、前記R Fe 14 B粒子領域T3の重希土類HREの質量と軽希土類LREおよびTの合計質量の比HRE/(LRE+T)よりも大きく、
前記シェル層領域T2のAlと軽希土類LREおよびTの合計質量の比Al/(LRE+T)質量比が、前記R Fe 14 B粒子領域T3のAlと軽希土類LREおよびTの合計質量の比Al/(LRE+T)よりも大きい、ことを特徴とするR-T-B系焼結磁石。
【請求項2】
重希土類HRE含有量の割合が0.05~1.5wt.%であり、
Alの割合が0.22~0.35wt.%である、ことを特徴とする請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項3】
前記HREにはTbおよびDyが含まれ、Rの含有量の割合が29~33wt.%であり、HRE含有量の割合が0.05~1.5wt.%であり、
前記Bの含有量の割合が0.82~0.95wt.%である、ことを特徴とする請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項4】
前記焼結磁石のRは少なくとも希土類元素である、ことを特徴とする請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項5】
焼結ブランクを用意すること、
前記焼結ブランクの表面に合金フィルム層を堆積させること、
前記合金フィルム層が堆積された焼結ブランクを熱処理して焼結磁石を得ること、を含み、
前記焼結ブランクがNd、Pr、Co、Al、Cu、Zr、B及びFeを含み、前記合金フィルム層がHRE、Al及びMの重希土類薄膜を含む、請求項1からのいずれ1項に記載の焼結磁石の調製方法。
【請求項6】
焼結ブランクを用意することは、
原料を溶融製錬し合金を得て、前記合金を用いて焼結体用の厚さ0.25~0.35μm速硬化性フレークを作製し、前記原料成分は24.6wt%Nd、5.8wt%Pr、1.1wt%Co、0.15wt%Al、0.10wt%Cu、0.15wt%Zr、0.83wt%Bであり、残りはFeであり、
前記速硬化性フレークを合金粉末に粉砕し、
前記合金粉末を磁場で成形してグリーンボディを得、
前記グリーンボディを焼結および焼き戻しして前記焼結ブランクを得る、ことを含むことを特徴とする請求項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記速硬化性フレークを合金粉末に粉砕することは、
前記速硬化性フレークをまず室温で水素吸収を行い、620℃で1.5時間の脱水素処理を行い、窒素雰囲気下で3.5~4.5μmに粉砕した微粉末を得る、ことを含むことを特徴とする請求項に記載の調製方法。
【請求項8】
前記焼結ブランクの表面に合金フィルム層を堆積させることは、
前記焼結ブランクの表面の酸化物スケールを除去して乾燥させ、
重希土類HRE、AlおよびM成分の拡散源をブランク磁石表面に配置し、MがGa、Cu、Zn中の少なくとも1つであり、重希土類HRE、Al及びM成分の拡散源において、M/Al質量比が2~3であり、HRE、AlおよびM膜が任意の順序で堆積される、ことを含むことを特徴とする請求項またはに記載の調製方法。
【請求項9】
使用時の前記拡散源の状態は、拡散源合金の熔融合金液、拡散源合金の急冷ストリップ、拡散源合金の速硬化性シート、拡散源合金のシート、拡散源合金の粉末、拡散源合金の合金粉末溶媒を混合して得られた拡散源合金スラリー、または物理的気相堆積法によって得られたフィルム層である、ことを特徴とする請求項に記載の調製方法。
【請求項10】
前記合金フィルム層が堆積された焼結ブランクを熱処理して焼結磁石を得ることは、650℃~1000℃で1~24時間拡散処理を行ってから、400℃~700℃で0.5~10時間焼き戻し処理を行い、前記熱処理が真空または不活性ガスの保護下で行われる、ことを含むことを特徴とする請求項またはに記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類永久磁石材料の技術分野に関し、特にR-T-B系焼結磁石およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結NdFeB永久磁石は、その優れた包括的な磁気特性により、新エネルギー車やその他の分野で広く使用されている。また、製造技術の継続的な進歩と環境保護に対する人々の意識の向上により、省エネと環境保護、新エネルギー、新エネルギー車の3つの分野で市場の注目を集めており、「メイド・イン・チャイナ2025」開発計画を実現するための重要な材料となって、毎年急成長率は10~20%に達し、アプリケーションの見通しは良好である。
【0003】
磁石の場合、保磁力はNd-Fe-B永久磁石材料の磁気特性を評価するための重要な指標である。保磁力を高めるための重要な元素である重希土類元素DyとTbは、2:14:1相の結晶磁気異方性定数を効果的に高めることができ、その価格が高い。したがって、一般に、重希土類元素DyとTbの表面堆積および拡散によって保磁力を高め、磁石の製造コストを低減しているが、重希土類元素の濃度は磁石の表面から磁石の内側に向かって大幅に減少し、拡散深度は比較的浅いため、特性の改善は限られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁石の保磁力を改善し、重希土類金属の代替を実現するために、本発明は、R-T-B系焼結磁石およびその調製方法を提供し、従来の希土類永久磁石の製造プロセスおよび微細構造を最適化することによって、磁石内部の重希土類の拡散効率を改善し、大幅に磁石保磁力を高め、製造コストを節約する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明はR-T-B系焼結磁石を提供し、粒界領域T1、シェル層領域T2およびRFe14B粒子領域T3を含み、
前記焼結磁石の表面から中心へ10μm~60μmの箇所に、前記シェル層領域T2と前記RFe14B粒子領域T3の面積比が0.1~0.3であり、前記シェル層領域T2厚さが0.5~1.2μmであり、前記シェル層領域T2の前記RFe14B粒子領域T3に対する平均被覆率が80%以上である。
【0006】
さらに、Rには、軽希土類LREおよび重希土類HREが含まれ、HRE含有量の割合が0.05~1.5wt.%であり、
TにはAlが含まれ、Alの割合が0.22~0.35wt.%である。
【0007】
さらに、前記TにはMが含まれ、MがGa、Cu、Zn中の少なくとも1つであり、M/Al質量比が2~3である。
【0008】
さらに、前記HREにはTbおよびDyが含まれ、Rの含有量の割合が29~33wt.%であり、HRE含有量の割合が0.05~1.5wt.%であり、
前記Bの含有量の割合が0.82~0.95wt.%である。
【0009】
さらに、前記シェル層領域T2の重希土類HRE、MおよびAlの合計質量と軽希土類LREおよびTの合計質量の比(HRE+M+Al)/(LRE+T)が0.02~0.4であり、
前記シェル層領域T2の重希土類HREの質量与軽希土類LREおよびTの合計質量の比HRE/(LRE+T)が、前記RFe14B粒子領域T3の重希土類HREの質量と軽希土類LREおよびTの合計質量の比HRE/(LRE+T)よりも大きく、
前記シェル層領域T2のAlと軽希土類LREおよびTの合計質量の比Al/(LRE+T)の質量比が、前記RFe14B粒子領域T3のAlと軽希土類LREおよびTの合計質量の比Al/(LRE+T)よりも大きい。
【0010】
さらに、前記焼結磁石のRは少なくとも希土類元素であり、TはFeおよび/またはFeCoを含む1つ以上の金属である。
【0011】
本発明の別の態様は焼結磁石の調製方法を提供し、
焼結ブランクを用意すること、
前記焼結ブランクの表面に合金フィルム層を堆積させること、
前記合金フィルム層が堆積された焼結ブランクを熱処理して焼結磁石を得ることを含む。
【0012】
さらに、焼結ブランクを用意することは、
原料を溶融製錬して合金を得、前記合金を用いて焼結体用の厚さ0.25~0.35μmの速硬化性フレークを調製し、前記原料成分が24.6wt%Nd、5.8wt%Pr、1.1wt%Co、0.15wt%Al、0.10wt%Cu、0.15wt%Zr、0.83wt%Bであり、残りはFeであり、
前記速硬化性フレークを合金粉末に粉砕し、
前記合金粉末を磁場で成形してグリーンボディを得、
前記グリーンボディを焼結および焼き戻しして前記焼結ブランクを得ることを含んでもよい。
【0013】
さらに、前記速硬化性フレークを合金粉末に粉砕することは、前記速硬化性フレークをまず室温下で水素吸収を行い、620℃で1.5時間の脱水素処理を行い、窒素雰囲気下で3.5~4.5μmに粉砕した微粉末を得ることを含んでもよい。
【0014】
さらに、前記焼結ブランクの表面に合金フィルム層を堆積させることは、
前記焼結ブランク表面の酸化物スケールを除去して乾燥させ、
重希土類HRE、AlおよびM成分の拡散源をブランク磁石表面に配置し、MがGa、Cu、Zn中の少なくとも1つであり、M/Al質量比が2~3であることを含んでもよい。
【0015】
さらに、HRE、AlおよびM膜が任意の順序で堆積される。
【0016】
さらに、使用時の前記拡散源の状態は、拡散源合金の熔融合金液、拡散源合金の急冷ストリップ、拡散源合金の速硬化性シート、拡散源合金のシート、拡散源合金の粉末、拡散源合金の合金粉末溶媒を混合して得られた拡散源合金スラリー、または物理的気相堆積法によって得られたフィルム層である。
【0017】
さらに、前記合金フィルム層が堆積された焼結ブランクを熱処理して焼結磁石を得ることは、650℃~1000℃で1~24時間拡散処理を行ってから、400℃~700℃で0.5~10時間焼き戻し処理を行うことを含んでもよい。好ましくは、前記熱処理が真空または不活性ガスの保護下で行われるとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記技術的解決策は、以下の有益な技術的効果を有する。
【0019】
(1)本発明は、従来の希土類永久磁石の製造プロセスおよび微細構造を最適化することによって、磁石内部の重希土類の拡散効率を改善し、大幅に磁石保磁力を高め、製造コストを節約する。
(2)本発明によって提供されるR-T-B系焼結磁石においては、重希土類元素の含有量が減少するように、部分的に重希土類元素を置換するためにAlおよびMが使用され、重希土類元素の含有量が小さい場合でも、R-T-B系焼結磁石は室温下で高い保磁力および残留磁束密度を有し、高温下でも高い保磁力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】R-T-B系焼結磁石の表面近傍の層の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】R-T-B系焼結磁石の表面近傍の層の概略図である。
図3】焼結磁石の製造プロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の目的、技術的解決策および利点をより明確にするために、本発明は、特定の実施形態および添付の図面を参照して、以下でさらに詳細に説明される。これらの説明は単なる例示であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。さらに、以下の説明では、本発明の概念の不必要な曖昧さを回避するために、周知の構造および技術の説明は省略されている。
【0022】
当業者が本発明の技術的解決策をよりよく理解できるようにするために、本発明の技術的解決策を、本発明の添付の図面と併せて以下に明確かつ完全に説明するが、創造的な労働をせずに本発明の実施例に基づいて当業者によって得られた他の同様の実施例は、すべて本発明の保護範囲に含まれるものとする。さらに、以下の実施例で言及される「上」、「下」、「左」および「右」などの方向用語は、添付の図面を参照する方向のみを指すため、使用される方向用語は、本発明を説明するために使用されるが、限定するものではない。相互に排他的な特徴および/またはステップを除いて、開示されたすべての方法またはプロセスの説明またはステップに開示されたすべての特徴は、任意の方法で組み合わせることができる。特に明記しない限り、説明に開示されている特徴(追加のクレーム、要約および付随する図面を含む)は、同様の目的を持つ他の同等または代替の特徴に置き換えることができる。つまり、特に明記されていない限り、各特徴は一連の同等または類似の特徴の一例にすぎない。
【0023】
本発明において、磁石中の様々な元素の既存の形態および含有量を最適化することにより、同じ保磁力を達成する条件下で、重希土類の量を低減することができる。
【0024】
一、成分
本発明によって提供される焼結磁石は、R-T-Bを主成分として使用し、Rは少なくとも希土類元素であり、Rには、軽希土類LREおよび重希土類HREが含まれ、前記LREはPr、Ndを含み、前記HREはTb、Dyを含み、Rの含有量の割合が29~33wt.%であり、HRE含有量の割合が0.05~1.5wt.%であり、前記TはFeおよび/またはFeCoを含む1つ以上の遷移金属であり、TにはAlおよびMが含まれ、MがGa、Cu、Zn中の少なくとも1つであり、Alの割合が0.22~0.35wt.%であり、M/Al質量比が2~3であり、前記Bの含有量の割合が0.82~0.95wt.%である。
【0025】
上記の組成によれば、Bの含有量は一般のR-T-B系焼結磁石のBの含有量よりも少なく、Alの含有量は一般のR-T-B系焼結磁石のAlの含有量よりも多く、MはGa、Cu、Znの少なくとも1つである。したがって、RM化合物で代表されるR-M相は、Mに起因するRFe14B粒子の粒界領域の周りに生成され、Alの含有量が多いため、R(M1-xAl化合物が生成され、高いHcJが得られる可能性がある。
【0026】
各組成は以下のように詳細に記載される。
【0027】
Rは少なくとも希土類元素であり、Rの含有量が29~33wt.%(wt.%は元素中の質量比を示す)である。Rが29wt.%未満の場合、α-Fe相および他の不純物相の存在を回避することが困難であり、その結果、焼結中の緻密化が困難になり、Rが33wt.%を超えると、主相の割合が減少し、高い残留磁気が得られない場合があるため、Rの含有量は、好ましくは29.6~32.2wt.%であり、この範囲内で、優れた磁気特性が優先して保証される。
【0028】
本発明において、Rは、軽希土類LREおよび重希土類HREを含み、LREはPr、Ndを含み、より好ましくは、LREがNdまたはPrNdまたはPrNdCeまたはPrNdLaCeであり、より好ましくは、LREにはLaおよび/またはCeが含まれる場合、その含有量が10wt.%未満である。
【0029】
Rは、本発明に必要な重希土類HREを含み、その含有量の割合が0.05~1.5wt.%であり、本発明において、保磁力および総合的な磁気特性を高めるために、重希土類が必要である。一方、B、M、Alなどの含有量を制御することによって、HREの含有量を減らしながら、HcJの高いR-T-B系焼結磁石を得ることができる。HRE含有量は0.05~1.5wt.%であり、0.05wt.%未満の場合、保磁力が明らかに改善されない場合があり、1.5wt.%を超えると残留磁気に悪影響を及ぼし、総合的な磁気特性の向上につながらない。
【0030】
本発明において、前記TはFeおよび/またはFeCoを含む1つ以上の遷移金属であり、TはAlおよびMを含み、MはGa、Cu、Zn中の少なくとも1つであり、Alの割合が0.22~0.35wt.%であり、M/Al質量比が2~3であり、Alを含有することにより、HCJを増加することができ、Alは通常の製造工程で必然的な不純物として0.05wt%以上含まれ、必然的な不純物としての量と能動的に添加される量の合計含有量が0.22wt%以上0.35wt%以下であり得る。その内に、Mの含有量がAlの2~3倍であり、Mの含有量がこの倍数未満の場合、優れた総合的な磁気特性が得られない可能性があり、Mの含有量がこの倍数を超えると、残留磁気を提供するためのFeおよびFeCoの含有量が減少し、残留磁気の向上につながらない。
【0031】
Tは、Fe、またはFeCoを含まなければならず、材料にCoが含まれている場合、Coの含有量が5wt.%未満である。Coによって耐食性および残留磁気が改善される可能性があるが、Coの置換量が5wt.%を超えると、特性が低下する可能性がある。
【0032】
本発明の希土類磁石において、希土類、T、およびBは必然的な不純物を含み、また、Cr、Mn、Si、Sm、Ca、Mgなども含み得る。さらに、製造工程における必然的な不純物として、O(酸素)、N(窒素)およびC(炭素)などが挙げられる。
【0033】
さらに、本発明のR-T-B系焼結磁石は、1つまたは複数の他の元素(必然的な不純物を除いて能動的に添加される元素)を含み得る。例えば、そのような元素として、少量(それぞれ約0.1質量%)のSn、Ti、Ge、Y、H、F、V、Ni、Hf、Ta、W、Nb、Zrなどを含み得る。また、上記の必然的な不純物として上記に挙げられた元素を能動的に添加することができ、これらの元素の合計量が1wt.%を超えない。
【0034】
前記Bの含有量の割合が0.82~0.95wt.%であり、本発明において、Bは、R14B主相を形成するための必然的な元素であり、軟磁性相としてのR17相およびホウ素に富む相などの他の不純物相の生成を回避するために、Bの含有量の割合が0.82~0.95wt.%であり、より好ましくは0.82~0.93wt.%である。
【0035】
二、微細構造
本発明において、R-T-B系焼結磁石は、T2を含む領域からなり、図2に示すように、T1は粒界領域であり、T2はシェル層領域であり、T3はR14B粒子領域であり、T1およびT3領域はそれぞれ焼結磁石の粒界相および主相であり、その含有量、割合、分布は、焼結磁石の総合的な磁気特性を向上させるための鍵となる。T2は、粒子の結晶磁気異方性場を強化し、保磁力を向上させるための鍵となる。本発明によって提供される焼結磁石は、以下の微細構造特徴を有する。
【0036】
焼結磁石の表面から中心へ10μm~60μmの箇所に、好ましくは約15μm~約40μmの箇所に、T2/T3面積比が0.1~0.3であり、T2厚さが0.5~1.2μmであり、T2のT3に対する平均被覆率が80%以上である。
【0037】
T2領域の(HRE+M+Al)/(LRE+Fe)質量比が0.02~0.4であり、T2のHRE/(LRE+T)質量比がT3のHRE/(LRE+T)の質量比よりも大きく、T2のAl/(LRE+T)平均質量比がT3のAl/(LRE+T)の質量比よりも大きい。
【0038】
R-T-B系焼結磁石の表面近傍の層の走査型電子顕微鏡写真は、図1に示される。
【0039】
三、製造プロセス
図3を参照して、本発明の製造プロセスは、焼結ブランクを用意するステップと、焼結ブランクの表面に合金フィルム層を堆積させるステップと、合金フィルム層が堆積された後の焼結ブランクを熱処理して焼結磁石を得るステップとを含む。
【0040】
1、焼結ブランクを用意するステップ
本発明において、焼結ブランクは主に粉末冶金法によって調製され、調製工程は、速硬化性フレークを用意する工程、速硬化性フレークを合金粉末に粉砕する工程、成形工程および焼結および焼き戻し工程を含む。各工程は具体的に以下の通りである。
【0041】
(1)速硬化性フレークを用意する工程
成分が24.6wt%Nd、5.8wt%Pr、1.1wt%Co、0.15wt%Al、0.10wt%Cu、0.15wt%Zr、0.83wt%Bであり、残りはFeである原料を溶融製錬して合金を得、前記合金を用いて厚さ0.25~0.35μmの速硬化性フレークを作製する。この材料で調製された合金を、薄片連続鋳造(SC)法によって焼結体用の速硬化性フレークに調製する。
【0042】
(2)速硬化性フレークを合金粉末に粉砕する工程
速硬化性フレークをまず室温下で水素吸収を行ってから、620℃で1.5時間の脱水素処理を行い、速硬化性フレークを粗粉砕する目的を達成する。次に、窒素雰囲気下で一般的な気流粉砕技術を使用して3.5~4.5μmの微粉末に粉砕する。
【0043】
(3)成形工程
このステップでは、得られた合金粉末を磁場で成形してグリーンボディを得る。磁場での成形は、乾燥合金粉末を型の空洞に挿入し、磁場を印加しながら成形を行う乾式成形法、焼結用粉末を分散させたスラリーを金型の空洞に注入し、スラリーの分散媒体を排出しながら成形を行う湿式成形法など、当業者に知られている方法によって行うことができる。
【0044】
(4)焼結および焼き戻し工程
この工程では、主に成形工程で得られたグリーンボディを焼結して緻密な磁石を得る。グリーンボディは当業者に知られている方法によって焼結することができる。また、本発明の焼結は、真空雰囲気または不活性雰囲気で行われることが好ましい。焼戻しは焼結後に行われ、焼戻し温度および焼戻し時間は必要に応じて当業者に決定されればよい。
【0045】
2、フィルム層を堆積するステップ
(1)ブランク磁石の表面酸化物スケールを除去し、乾燥する。
(2)HRE-Al-M成分の拡散源をブランク磁石の表面に配置する。
【0046】
好ましくは、使用時の拡散源の状態は、拡散源合金の熔融合金液、拡散源合金の急冷ストリップ、拡散源合金の速硬化性シート、拡散源合金のシート、拡散源合金の粉末、拡散源合金の合金粉末溶媒を混合して得られた拡散源合金スラリー、または物理的気相堆積法によって得られたフィルム層である。
【0047】
好ましくは、使用時の拡散源の状態は、物理的気相堆積法によって得られたフィルム層である。
【0048】
好ましくは、物理的気相堆積法中のマグネトロンスパッタリング技術によって得られた拡散源フィルム層である。
好ましくは、拡散源フィルム層は、ブランク磁石の配向軸に垂直な表面上に堆積される。
【0049】
好ましくは、拡散源フィルム層の堆積方法は、Mフィルム層、Alフィルム層、HREフィルム層を任意の順序で堆積し、任意の順序でAl-M双合金フィルム層、HREフィルム層を堆積してから、HRE-Al-M三元合金フィルム層を堆積することである。
好ましくは、拡散源フィルム層の堆積方法は、HRE-Al-M三元合金フィルム層を堆積することである。
【0050】
3、フィルム層が堆積された後の熱処理のステップ
好ましくは、本発明における熱処理は真空または不活性ガスの保護下で行われ、熱処理プロセスは、650℃~1000℃で1~24時間の拡散処理を含む。
【0051】
より好ましくは、本発明における熱処理は一定の真空条件下で行われ、熱処理プロセスは、650℃~1000℃で1~24時間の拡散処理を含む。
【0052】
さらに好ましくは、一定の真空条件下で行われ、熱処理プロセスは、650℃~1000℃で1~24時間の拡散処理を行い、次に400℃~700℃で0.5~10時間の焼き戻し処理を行うことを含む。
【0053】
実施例
(1)一定サイズの焼結磁石ブランクを用意し、ブランクの高さを配向方向とし、高さデータが表1に詳しく示され、ブランク磁石の表面を洗浄し、その上下面が滑らかで平らであることを確認する。
(2)ブランク磁石の表面を洗浄し、その上下面が滑らかで平らであることを確認する。ブランク磁石の配向軸に垂直な上下面にそれぞれ、一定厚さのHRE-Al-M三元合金フィルム層をスパッタリング方式で堆積し、HREの塗布量、拡散温度および拡散時間が表1に詳しく示される。
(3)高保磁力の焼結磁石を得るために、一定の真空条件下で拡散および焼き戻し工程を行い、焼き戻し温度および焼き戻し時間が表1に詳しく示される。
【0054】
焼き戻し処理した後本発明の磁石を取得し、この時、焼結磁石の表面に残留拡散源および酸化皮膜層が存在しており、よく知られている方法で拡散源および酸化皮膜層を除去した後、磁石の厚さが10μm未満減少する。
【0055】
その後、磁石を高さ方向に沿ってスライスして微細構造を走査し、走査は、電界放出走査型電子顕微鏡SEMによって実施され得る。磁石の浸透面から中心に向かって観察し、80μm(長さ)×40μm(幅)以上の観察範囲を設定し、T1、T2、T3領域を特定し、磁石の浸透面から約15μm~約40μmのT2領域の面積、被覆率、厚さ、原子量比などを計算して、関連データが表2に示される。
【0056】
面積は以下のように計算される。後方散乱電子画像は、所定のレベルで2値化され、T2およびT3領域を特定し、80μm(長さ)×40μm(幅)以上の観察範囲内で、磁石の浸透面から約15μm~約40μmのT2およびT3面積を計算してT2/T3比を求める。所定のレベルで2値化して主相部分および粒界部分を特定する方法は、一般的に使用されている方法である限り任意である。
【0057】
被覆率は以下のように算出され、80μm(長さ)×40μm(幅)以上の観察範囲内で、磁石の浸透面から約15μm~約40μmのT2外周部の長さの合計およびT3の被覆されていない長さの合計を計算し、被覆率は、T2外周部の長さの合計のT2外周部の長さおよびT3の被覆されていない長さの合計に対する割合として算出される。
【0058】
厚さは以下のように計算され、80μm(長さ)×40μm(幅)以上の観察範囲内で、磁石の浸透面から約15μm~約40μmの各RFe14B上のT2の厚さを異なる位置で3回測定し、測定されたすべての厚さおよび測定回数を統計して、最終的にその平均値を計算する。
【0059】
原子量比は以下のように計算され、EPMAを搭載したWDSを使用して、80μm(長さ)×40μm(幅)以上の観察範囲内で、磁石の浸透面から約15μm~約40μmの微細領域を素子表面走査方式で走査し、HRE、LRE、M、Al、Fe元素の質量濃度のみを特定し、(HRE+M+Al)/(LRE+Fe)の質量比を算出する。
【0060】
最終的に磁石の成分と特性を表3に示す。なお、各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光計(ICP-OES)によって測定されることに留意されたい。残留磁束密度Brおよび保磁力HcJは、高温永久磁石測定機NIM-500Cを使用して測定される。
【0061】
比較例1
(1)焼結磁石ブランクを用意する。
(2)ブランク磁石を一定サイズ(長さ*幅*高さ(配向))のブロックにスライスする。
(3)ブランク磁石の表面を洗浄し、その上下面が滑らかで平らであることを確認する。
(4)ブランク磁石の配向軸に垂直の上下面に一定厚さのHREフィルム層をスパッタリング方法で堆積する。
(5)一定の真空条件下で拡散および焼き戻し工程を行い、高保磁力の焼結磁石を得る。
検出方法は実施例と同じであり、データが比較例1-1および1-2に示される。
【0062】
比較例2
(1)ブランク磁石を一定サイズ(長さ*幅*高さ(配向))のブロックにスライスする。
(2)ブランク磁石の表面を洗浄し、その上下面が滑らかで平らであることを確認する。
(3)一定の真空条件下で拡散および焼き戻し工程を行い、高保磁力の焼結磁石を得る。
検出方式は実施例と同じであり、データが比較例2-1および2-2に示される。
【0063】
本発明の方法によって調製された焼結磁石である実施例1-1~1-8、および従来方法によって調製された焼結磁石である比較例1-1、1-2、2-1、2-2は、表1、表2、表3に示される。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
実施例1-1~1-8から分かるように、拡散温度が高いほど、HREの含有量が高くなり、Hcjが徐々に増加し、Brがほとんど減少せず、Al、MおよびBが好適な範囲内で合理的に変動した。比較例と比較すると、HRE-Al-M拡散磁石の保磁力が明らかに改善されることが分かる。
【0068】
要するに、本発明はR-T-B系焼結磁石およびその調製方法に関し、焼結磁石のRは少なくとも希土類元素であり、TはFeおよび/またはFeCoを含む1つ以上の遷移金属であり、Rには、軽希土類LREおよび重希土類HREが含まれ、LREはPr、Ndを含み、HREはTb、Dyを含み、Rの含有量の割合が29~33wt.%であり、HRE含有量の割合が0.05~1.5wt.%であり、TはAlおよびMを含み、Alの割合が0.22~0.35wt.%であり、MがGa、Cu、Zn中の少なくとも1つであり、M/Al質量比が2~3であり、Bの含有量の割合が0.82~0.95wt.%であり、焼結磁石はT2を含む領域からなり、その内にT1は粒界領域であり、T2はシェル層領域であり、T3はR14B粒子領域であり、焼結磁石の表面から中心へ約15μm~約40μmの箇所に、T2/T3面積比が0.1~0.3であり、T2の厚さが0.5~1.2μmであり、T2のT3に対する平均被覆率が80%以上であり、本発明は、従来の希土類永久磁石製造プロセスおよび微細構造を最適化することによって、磁石内部の重希土類の拡散効率を改善し、大幅に磁石保磁力を高め、製造コストを節約する。本発明によって提供される焼結磁石は、同じ保磁力を達成する条件下で重希土類の量を減らすことができ、工業生産に適している。
【0069】
本発明の上記の具体的な実施形態は、本発明の原理を例示的に説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。したがって、本発明の精神および範囲から逸脱することなく行われた修正、同等の交換、改善などは、本発明の保護範囲に含まれるべきである。さらに、本発明の添付の特許請求の範囲は、添付の特許請求の範囲または境界、またはそのような範囲および境界の同等の形態に含まれるすべての変更および修正を網羅することを意図している。
図1
図2
図3