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特許7454531エンパグリフロジンを含む医薬組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】エンパグリフロジンを含む医薬組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20240314BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240314BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240314BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61P9/04
A61P43/00 121
A61K45/00
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021128431
(22)【出願日】2021-08-04
(62)【分割の表示】P 2018548341の分割
【原出願日】2017-03-13
(65)【公開番号】P2021181461
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】62/309,008
(32)【優先日】2016-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/420,062
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】ブロエドル ウリ
(72)【発明者】
【氏名】サルサリ アフシン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルレ ハンス ユルゲン
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/161918(WO,A1)
【文献】特表2013-505974(JP,A)
【文献】国際公開第2014/170383(WO,A1)
【文献】N. Engl. J. Med.,2021年,Vol.385,pp.1451-1461
【文献】N. Engl. J. Med.,Vol.373,2015年,pp.2117-2128
【文献】European Heart Journal,Vol.37,2016年,pp.1526-1534
【文献】Circulation,2013年,Vol.128,pp.e240-e327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40%より大きい左心室駆出率(LVEF)を示しかつ慢性心不全の患者において、(i)慢性心不全を治療し、又は(ii)心不全のための入院のリスクを低減するための、エンパグリフロジンを含む医薬組成物。
【請求項2】
心不全のための入院のリスクが、心不全のための最初の入院のリスクである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
患者が、NYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
患者が、75 pg/mL以上のB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値又は300 pg/mL以上の血漿プロホルモン脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端(NT-proBNP)値を示す患者である、請求項1から3のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項5】
患者が、100 pg/mL以上のB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値(NT-proBNP ≧ 400 pg/mL) 又は150 pg/mL以上のB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値(NT-proBNP ≧ 600 pg/mL) 又は225 pg/mL以上のB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値(NT-proBNP ≧ 900 pg/mL)を示す患者である、請求項1から3のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項6】
患者が、50%より大きい左心室駆出率(LVEF)を示す患者である、請求項1から5のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項7】
患者が、40~49%の範囲の左心室駆出率(LVEF)を示す患者である、請求項1から5のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項8】
患者が、前糖尿病、1型真性糖尿病又は2型真性糖尿病の患者である、請求項1から7のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項9】
患者が、非糖尿病の患者である、請求項1から7のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項10】
患者が、20 mL/分 /1.73m2 以上のeGFR又は30 mL/分 /1.73m2 以上のeGFR又は45 mL/分 /1.73m2 以上のeGFR又は60 mL/分 /1.73m2 以上のeGFRを有する、請求項1から9のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項11】
エンパグリフロジンを、1日当り1 mgから25 mg までの範囲、特に1日当り10 mg又は25 mg、の用量で患者に投与するための、請求項1から10のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項12】
エンパグリフロジンを一種以上のその他の治療物質と組み合わせて患者に投与するための、請求項1から11のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項13】
一種以上のその他の治療物質が、慢性心不全の治療に指示される活性物質、抗糖尿病物質、血液中の全コレステロール、LDL-コレステロール、非HDL-コレステロール及び/又はLp(a) レベルを低下する活性物質、血液中のHDL-コレステロールレベルを上昇する活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム硬化症又は肥満の治療に指示される活性物質、抗血小板物質、血液凝固阻止薬、及び血管内皮保護薬からなる群から選ばれる、請求項12記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は慢性心不全を治療するため、心血管死のリスクを軽減するため、心不全のための入院のリスクを低減するため、あらゆる原因の死亡率を低下するため、あらゆる原因の入院のリスクを低減するため、心房細動の新たな発症のリスクを低減するため並びに慢性心不全の患者における健康に関連する生活の質及び/又は機能性能力を改善するための方法に関する。また、本発明は急性非代償性心不全を含む、急性心不全を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延するための方法に関する。更に、本発明は慢性心不全の患者で腎臓機能を改善するため、並びに或る腎臓の症状及び疾患を治療又は予防するための方法に関する。更に、本発明は慢性心不全の患者で或る疾患もしくは障害を治療し、かつ/又は予防し、又は或る疾患もしくは障害のリスクを低減し、もしくはその発生を遅延するための方法における使用のためのエンパグリフロジンに関する。
【背景技術】
【0002】
心不全 (HF) は心臓が適当な血液供給を与えることができないことにより、又は上昇された左心室 (LV) 充満圧力を犠牲にして適当な血液供給を持続することにより生じられる臨床的症候群である。心不全 (HF) の患者が不充分な診断に直面し、患者の約50%が5年以内にHFから死亡する。HFの患者の約66%が非糖尿病患者である。世界中のHFの全罹患率は2013年で2600万人であった。米国では、百万より多いHF入院が毎年生じる。HFにおけるかなりの満たされない要望がある。HFの治療についての全目標は入院及び死亡を阻止し、症候をコントロールし、かつ生活の質を改善することである。二つの型のHF:低減された駆出率のHF (HFrEF)又は保存された駆出率のHF (HFpEF) があり、後者が全HFの50%に相当する。HFrEF 及びHFpEF の両方が高い罹患率及び死亡率と関連している。HFrEF についての現在の治療選択肢は主としてベータ-ブロッカー、ACEi、ARBs、ARNi、MRAs 及び利尿薬の投与に基づいている。これらの選択肢にかかわらず、結果が最適の下に留まる。症候管理及び同時病的状態に集中した治療による、HFpEF に指示される有効な治療は現在ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
それ故、疾患変容性に関して、かつ死亡又は入院のリスクの低減に関して、良好な効力で、特にHFrEF 又はHFpEF の患者の、慢性心不全を治療すると同時に良好な安全性プロフィールを示す方法についての満たされない医療上の要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はエンパグリフロジンを必要とする患者に投与することを特徴とする患者の慢性心不全を治療し、予防し、それに対して保護し、又はその発生を遅延するための方法に関する。
また、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者の心血管死のリスクを低減するための方法に関する。
加えて、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者の心不全のための入院(初回及び再発)のリスクを低減するための方法に関する。
更に、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者のあらゆる原因の死亡率を低減するための方法に関する。
更に、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者のあらゆる原因の入院のリスクを低減するための方法に関する。
また、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者の心房細動の新たな発症のリスクを低減するための方法に関する。
【0005】
また、本発明はエンパグリフロジンを必要とする患者に投与することを特徴とする患者の急性心不全を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延するための方法に関する。
また、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者の急性非代償性心不全 (ADHF) を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延するための方法に関する。
また、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者のマクロアルブミン尿を予防し、それへの進行を遅くし、又は反転するための方法に関する。
また、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者の腎臓機能を改善するため、又は腎臓保護のための方法に関する。
また、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者の慢性腎臓疾患を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延し、かつ/又はその進行を遅延するための方法に関する。
また、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを特徴とする慢性心不全の患者の健康に関連する生活の質及び/又は機能性能力を改善するための方法に関する。
更に、本発明は本明細書に記載された方法のいずれか一つにおける薬物としての使用のためのエンパグリフロジン又は必要により一種以上のその他の治療物質と組み合わせてエンパグリフロジンを含む医薬組成物を提供する。
更に、本発明は本明細書に記載された疾患又は症状のいずれか一つの治療、予防又はリスク低減のための方法における使用のためのエンパグリフロジン又は必要により一種以上のその他の治療物質と組み合わせてエンパグリフロジンを含む医薬組成物を提供する。
更に、本発明は本明細書に記載された方法のいずれか一つにおける使用のための薬物の製造における使用のためのエンパグリフロジン又は必要により一種以上のその他の治療物質と組み合わせてエンパグリフロジンを含む医薬組成物を提供する。
【0006】
一実施態様において、本発明は
a)慢性心不全の治療を要する患者を同定し; そして
b)エンパグリフロジンを前記患者に投与することを含む治療の方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a. NYHA分類に従って患者の症候を測定し、
b.患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有することを同定し、
c.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類による症候を測定し、
b.患者がNYHAクラスIIの慢性心不全を有することを同定し、
c.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類による症候を測定し、
b.患者がNYHAクラスIII の慢性心不全を有することを同定し、
c.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類による症候を測定し、
b.患者がNYHAクラスIVの慢性心不全を有することを同定し、
c.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
【0007】
一実施態様において、本発明は
a.患者の駆出率を測定し、
b.患者が40%以下の駆出率を有することを同定し、
c.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類の症候を測定し、
b.患者の駆出率を測定し、
c.患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有し、かつ40%以下の駆出率を有することを同定し、
d.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類の症候を測定し、
b.患者の駆出率を測定し、
c.患者がNYHAクラスII、III 又はVIの慢性心不全を有し、かつ40%以下の駆出率を有することを同定し、
d.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類の症候を測定し、
b.患者の駆出率を測定し、
c.患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有し、かつ40%より大きく、特に50%より大きい駆出率を有することを同定し、
d.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
【0008】
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類の症候を測定し、
b.患者の駆出率を測定し、
c.患者がNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全を有し、かつ40%より大きく、特に50%より大きい駆出率を有することを同定し、
d.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類の症候を測定し、
b.患者の駆出率を測定し、
c.患者のBNP 又はNT-proBNP 値を測定し、
d.患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有し、かつ40%以下、特に50%より大きい駆出率を有し、かつ上昇されたBNP 又はNT-proBNP値を有することを同定し、
e.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
一実施態様において、本発明は
a.患者のNYHA分類の症候を測定し、
b.患者の駆出率を測定し、
c.患者のBNP 又はNT-proBNP 値を測定し、
d.患者がNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全を有し、かつ40%以下、特に50%より大きい駆出率を有し、かつ上昇されたBNP 又はNT-proBNP値を有することを同定し、
e.エンパグリフロジンを患者に投与することを含む患者の慢性心不全を治療する方法を提供する。
この実施態様によれば、上昇されたBNP 又はNT-proBNP 値が特に150 pg/mL以上のBNP 値又は600 pg/mL以上のNT-proBNP 値である。更に、この実施態様によれば、患者が心不全のために過去9ヶ月以内に入院させられた場合、上昇されたBNP 又はNT-proBNP 値が特に100 pg/mL以上のBNP 値又は400 pg/mL以上のNT-proBNP 値である。
本発明の方法において、エンパグリフロジンが必要により一種以上のその他の治療物質と組み合わせて患者に投与されてもよい。
本発明の更なる局面は先の記載及び以下の記載並びに実施例により当業者に明らかになる。
【0009】
定義
本発明の医薬組成物の“活性成分”という用語は本発明のSGLT2 阻害薬エンパグリフロジンを意味する。“活性成分”はまた本明細書で時折“活性物質”と称される。
ヒト患者の“体格指数”又は“BMI”という用語は身長(単位:メートル)の自乗により割られた体重(単位:キログラム)と定義され、その結果、BMIはkg/m2 の単位を有する。
“過剰体重”という用語は個体が25 kg/m2以上かつ30 kg/m2未満のBMI を有する症状と定義される。“過剰体重”及び“前肥満”という用語は互換可能に使用される。
“肥満”又は“肥満であること”等という用語は個体が30 kg/m2 以上のBMI を有する症状と定義される。WHO 定義によれば、肥満という用語は以下のようにカテゴリー化されてもよい:“クラスI肥満”という用語はBMI が30 kg/m2 以上であるが、35 kg/m2より低い症状であり、“クラスII肥満”という用語はBMI が35 kg/m2 以上であるが、40 kg/m2より低い症状であり、“クラスIII 肥満”という用語はBMI が40 kg/m2以上である症状である。
指示肥満は特に外因性肥満、高インスリン性肥満、形質増殖性肥満、下垂体性肥満、形質低形成性肥満、甲状腺機能低下性肥満、視床下部性肥満、症候性肥満、小児肥満、上体肥満、食事性肥満、性腺機能減退性肥満、中心性肥満、内臓肥満、腹部肥満を含む。
“内臓肥満”という用語は男性で1.0 以上また女性で0.8 以上のウェスト対ヒップ比が測定される症状と定義される。それはインスリン耐性及び前糖尿病の発生のリスクを特定する。
“腹部肥満”という用語はウェスト周囲が男性で40インチ即ち102 cmより大きく、また女性で35インチ即ち94cmより大きい症状と通常定義される。日本民族又は日本人患者に関して、腹部肥満は男性で85cm以上、また女性で90cm以上のウェスト周囲と定義されるかもしれない(例えば、日本における代謝症候群の診断に関する調査委員会を参照のこと)。
【0010】
“正常血糖”という用語は被験者が70 mg/dL (3.89 ミリモル/L) より大きく、かつ100 mg/dL (5.6 ミリモル/L)未満の正常な範囲内の空腹時血液グルコース濃度を有する状態と定義される。“空腹時”という用語は医療用語として通常の意味を有する。
“高血糖”という用語は被験者が100 mg/dL (5.6 ミリモル/L) より大きい、正常な範囲より上の空腹時血液グルコース濃度を有する症状と定義される。“空腹時”という用語は医療用語として通常の意味を有する。
“低血糖”という用語は被験者が正常な範囲より下、特に70 mg/dL (3.89ミリモル/L) より下の血液グルコース濃度を有する症状と定義される。
“食後の高血糖”という用語は被験者が200 mg/dL (11.11 ミリモル/L)より大きい食後2時間の血液グルコース又は血清グルコース濃度を有する症状と定義される。
【0011】
“空腹時血糖異常”即ち“IFG ”という用語は被験者が100 ~125 mg/dl (即ち5.6 ~6.9 ミリモル/l) 、特に110 mg/dLより大きく、かつ126 mg/dI (7.00 ミリモル/L) 未満の範囲の空腹時血液グルコース濃度又は空腹時血清グルコース濃度を有する症状と定義される。“正常な空腹時グルコース”を有する被験者は100 mg/dlより小さく、即ち5.6 ミリモル/lより小さい空腹時グルコース濃度を有する。
“耐糖能異常”即ち“IGT ”という用語は被験者が140 mg/dI (7.78 ミリモル/L) より大きく、かつ200 mg/dL (11.11 ミリモル/L) 未満の食後2時間の血液グルコース又は血清グルコース濃度を有する症状と定義される。耐糖能異常、即ち食後2時間の血液グルコース又は血清グルコース濃度は空腹後にグルコース75gを摂取した後2時間の血漿1dL当りのグルコースのmg数で血糖レベルとして測定し得る。“正常な耐糖能”を有する被験者は140 mg/dI (7.78ミリモル/L) より小さい食後2時間の血液グルコース又は血清グルコース濃度を有する。
“高インスリン血症”という用語は正常血糖を有し、又は有しないで、インスリン耐性を有する被験者が、正常よりも高い空腹時又は食後の血清又は血漿インスリン濃度を有する症状と定義され、インスリン耐性を有しないやせた個体が1.0 未満(男性につき)又は0.8 未満(女性につき)のウェスト対ヒップ比を有する。
“インスリン感作”、“インスリン耐性改善”又は“インスリン耐性低下”という用語は同義であり、互換可能に使用される。
【0012】
“インスリン耐性”という用語はグルコース負荷に対する正常な応答を超える循環インスリンレベルが正常血糖状態を維持するのに必要とされる状態と定義される(Ford ESら, JAMA. (2002) 287:356-9) 。インスリン耐性の測定方法は正常血糖-高インスリン血クランプ試験である。インスリン対グルコースの比が組み合わされたインスリン-グルコース注入技術の範囲内で測定される。グルコース吸収が調べられたバックグラウンド集団の25%より下である場合に、インスリン耐性であるとわかる (WHO 定義)。クランプ試験よりもかなり労力の少ないのが所謂最小モデルであり、この場合、静脈内耐糖能試験中に、血液中のインスリン濃度及びグルコース濃度が一定の時間間隔で測定され、これらからインスリン耐性が計算される。この方法では、肝臓インスリン耐性と末梢インスリン耐性を区別することができない。
更に、インスリン耐性、治療に対するインスリン耐性の患者の応答、インスリン感受性及び高インスリン血は“インスリン耐性についてのホメオスタシスモデル分析 (HOMA-IR)” スコア、インスリン耐性の信頼できるインジケーターを分析することにより定量されてもよい (Katsuki Aら, Diabetes Care 2001; 24: 362-5)。更に、インスリン感受性についてのHOMA-インデックス (Matthews ら, Diabetologia 1985, 28: 412-19)、無傷のプロインスリン対インスリンの比 (Forstら,Diabetes2003,52(Suppl.1): A459) の測定方法及び正常血糖クランプ研究が参考にされる。加えて、血漿アジポネクチンレベルがインスリン感受性の潜在的な代用物として監視し得る。ホメオスタシス分析モデル (HOMA)-IR スコアによるインスリン耐性の推定が下記の式で計算される(Galvin Pら, Diabet Med 1992;9:921-8)。
HOMA-IR = [空腹時血清インスリン (μU/mL)] x [空腹時血漿グルコース(ミリモル/L)/22.5]
インスリン耐性はこれらの個体でHOMA-IR スコアを計算することにより確かめられる。本発明の目的のために、インスリン耐性は個体がHOMA-IR スコア > 4.0又はグルコースアッセイ及びインスリンアッセイを行なう研究室について特定されるような正常の上限より上のHOMA-IR スコアを有する臨床的症状と遅疑される。
一般に、その他のパラメーターがインスリン耐性を分析するために毎日の臨床慣例で使用される。例えば、患者のトリグリセリド濃度が使用されることが好ましい。何とならば、増大されたトリグリセリドレベルがインスリン耐性の存在と有意に相関関係があるからである。
【0013】
おそらくインスリン耐性を有する個体は下記の特性の二つ以上を有するものである: 1)過剰体重又は肥満、2)高血圧、3)高脂血症、4) IGTもしくはIFG 又は2型糖尿病の診断と関連する一つ以上の第一級。
IGT もしくはIFG 又は2型糖尿病の発生についての素質を有する患者は高インスリン血とともに正常血糖を有するものであり、定義により、インスリン耐性である。インスリン耐性を有する典型的な患者は通常過剰体重又は肥満である。インスリン耐性が検出し得る場合、これは前糖尿病の存在の特に強い指示である。こうして、グルコースホメオスタシスを維持するために、ヒトは健康なヒトの2-3 倍多いインスリン(これが臨床的症候を生じないで)を必要とするかもしれない。
“前糖尿病”は正常な耐糖能 (NGT) と顕在的2型真性糖尿病(T2DM)の間の中間段階(また、中間高血糖と称される)を表す一般用語である。それ故、本発明の一局面において、“前糖尿病“はHbA1c が5.7 %以上であり、かつ6.5 %未満である場合に個体で診断される。本発明の別の局面によれば、“前糖尿病”が個体の3グループ、耐糖能異常(IGT) 単独を有するもの、空腹時血糖異常(IFG) 単独を有するもの又はIGT とIFG の両方を有するものに相当する。IGT 及びIFG は異なる病態生理学的病因を通常有するが、両方の特徴を有する混合症状が患者に存在し得る。それ故、本発明の別の局面において、“前糖尿病”を有すると診断される患者は診断されたIGT を有する個体もしくは診断されたIFG を有する個体又はIGT とIFG の両方と診断された個体である。米国糖尿病協会 (ADA)による定義に従って、また状況において本発明の局面に従って、“前糖尿病”を有すると診断される患者は
a)空腹時血漿グルコース(FPG) 濃度<100 mg/dL [1 mg/dL = 0.05555 ミリモル/L] 及び75-g経口耐糖能試験(OGTT)により測定して、140 mg/dL以上かつ200 mg/dL 未満の範囲の2時間後の血漿グルコース(PG)濃度 (即ち、IGT); 又は
b)100 mg/dL 以上かつ126 mg/dL 未満の空腹時血漿グルコース(FPG) 濃度及び75-g 経口耐糖能試験(OGTT)により測定して、140 mg/dL未満の2時間後の血漿グルコース(PG)濃度 (即ち、IFG); 又は
c)100 mg/dL以上かつ126 mg/dL未満の空腹時血漿グルコース(FPG) 濃度及び75-g経口耐糖能試験(OGTT)により測定して、140 mg/dL以上かつ200 mg/dL未満の範囲の2時間後の血漿グルコース(PG)濃度 (即ち、IGT とIFG の両方)
を有する個体である。
“前糖尿病”の患者は2型糖尿病の発生の素質があるとされる個体である。前糖尿病は100 mg/dL以上の高い正常範囲内の空腹時血液グルコース(J. B. Meigs, ら. Diabetes 2003; 52:1475-1484)を有する個体を含むためにIGT の定義を拡大する。前糖尿病を重大な健康脅威と同定するための科学的かつ医療の基礎が米国糖尿病協会及び国立糖尿病学会により共同発行された“2型糖尿病の予防又は遅延”と題するPosition Statement 並びにDigestive and Kidney Diseases (Diabetes Care 2002; 25:742-749)にレイアウトされている。
【0014】
膵臓ベータ細胞の機能を調べる方法はインスリン感受性、高インスリン血又はインスリン耐性に関する上記方法と同様である。ベータ細胞機能の改善は、例えば、ベータ細胞機能についてのHOMA-インデックス (ホメオスタシスモデル分析)、HOMA-B (Matthews ら, Diabetologia 1985, 28: 412-19)、無傷のプロインスリン対インスリンの比 (Forst ら, Diabetes 2003, 52(Suppl.1): A459)、経口耐糖能試験もしくは食事負荷試験後の第一フェーズ及び第二フェーズのインスリン分泌(Stumvollら, Diabetes care 2000, 23:295-301)、経口耐糖能試験もしくは食事負荷試験後のインスリン/C-ペプチド分泌を測定することにより、又は頻繁にサンプリングされる静脈内耐糖能試験後に高血糖クランプ研究及び/又は最小モデリング (Stumvoll ら, Eur J Clin Invest 2001, 31: 380-81)を使用することにより測定し得る。
“1型糖尿病”という用語は被験者が、膵臓ベータ細胞についての自己免疫又はインスリンの存在下で、125 mg/dL (6.94ミリモル/L) より大きい空腹時血糖又は血清グルコース濃度を有する症状と定義される。耐糖能試験が行なわれる場合、糖尿病の血糖レベルはグルコース75g が、膵臓ベータ細胞についての自己免疫又はインスリンの存在下で、空の胃で摂取された2時間後に血漿1dL 当りグルコース200mg (11.1 ミリモル/l) を超えるであろう。耐糖能試験では、グルコース75g が10-12時間の空腹後に試験される患者に経口投与され、血糖レベルがグルコース摂取の直前及びその摂取の1時間後及び2時間後に記録される。膵臓ベータ細胞についての自己免疫の存在は循環膵島細胞自己抗体[“1A型真性糖尿病”] 、即ち、GAD65 [グルタミン酸デカルボキシラーゼ-65] 、ICA [膵島細胞細胞質] 、IA-2 [チロシンホスファターゼ様タンパク質IA-2の細胞質内ドメイン]、ZnT8 [亜鉛トランスポーター-8] 又は坑-インスリン; 或いは典型的な循環自己抗体の存在なしの自己免疫のその他の徴候 [1B型糖尿病]の少なくとも一つの検出(即ち、膵臓のバイオプシー又はイメージングにより検出されるような)により観察し得る。典型的には、遺伝的素因が存在する (例えば、HLA 、INS VNTR及びPTPN22) が、これは常にそうであるとは限らない。
【0015】
“2型真性糖尿病”又は“T2DM”という用語は被験者が125 mg/dL (6.94 ミリモル/L) より大きい空腹時血液グルコース又は血清グルコース濃度を有する症状と定義される。血液グルコース値の測定はルーチン医療分析における標準の操作である。耐糖能試験が行なわれる場合、糖尿病の血糖レベルはグルコース75g が空の胃で摂取された2時間後に血漿1dL 当りグルコース200mg (11.1 ミリモル/l) を超えるであろう。耐糖能試験では、グルコース75g が10-12時間の空腹後に試験される患者に経口投与され、血糖レベルがグルコース摂取の直前及びその摂取の1時間後及び2時間後に記録される。健康な被験者では、グルコース摂取前の血糖レベルが血漿1dL 当り60~110 mgであり、グルコース摂取1時間後に1dL 当り200 mg未満であり、また2時間後に1dL 当り140 mg未満であろう。2時間後に、その値が140 ~200 mgである場合、これが耐糖能異常と見なされる。
“後期2型真性糖尿病”という用語は二次薬物失敗、インスリン治療についての指示並びに微小血管及び大血管合併症、例えば、糖尿病性腎症、又は心臓冠動脈疾患(CHD) への進行を有する患者を含む。
“LADA” (“成人の潜在性自己免疫糖尿病”) という用語は2型糖尿病の臨床診断を有するが、膵臓ベータ細胞に対して自己免疫を有すると検出されている患者を表す。成人の潜在性自己免疫糖尿病(LADA)はまた徐々に進行性の1型真性糖尿病(T1DM)、“軽度の” T1DM、非インスリン依存性1型DM、1 1/2 DM、二重糖尿病又は抗体陽性型2 DM (T2DM)として知られている。LADAはしばしば明らかに定義されず、T1DMとは反対に、かなりの体重損失及び迅速進行性のβ細胞不全のためのケトアシドーシスをめったに、又は決して示さない。
【0016】
“HbA1c ”という用語はヘモグロビンB鎖の非酵素的グリケーションの産物を表す。その測定は当業者に公知である。真性糖尿病の治療のモニタリングでは、HbA1c 値が格別重要である。その生成は実質的に血糖レベル及び赤血球の寿命に依存するので、“血糖記憶”の意味のHbA1c が先の4-6 週の平均血糖レベルを反映する。HbA1c 値が集中糖尿病治療により一貫して良く調節される(すなわち、サンプル中の全ヘモグロビンの6.5%未満)糖尿病患者は、糖尿病性微小血管障害に対し有意に良く保護されている。例えば、メトホルミンそれ自体は1.0-1.5 %のオーダの糖尿病のHbA1c 値の平均の改善を達成する。HbA1C 値のこの低下は全ての糖尿病でHbA1c 7%未満又は6.5%未満、好ましくは6%未満の所望の目標範囲を達成するのに充分ではない。
本発明の範囲内の“不十分な血糖調節”又は“不適当な血糖調節”という用語は患者が6.5 %より上、特に7.0 %より上、更に好ましくは7.5 %より上、特に8%より上のHbA1c 値を示す症状を意味する。
“代謝症候群”(また“症候群X”(代謝障害の状況で使用される場合)と称され、また“代謝異常症候群”と称される)はインスリン耐性である基本的な特徴と複合の症候群である (Laaksonen DEら, Am J Epidemiol 2002;156:1070-7) 。ATP III/NCEP ガイドライン(Executive Summary of the Third Report of the National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III) JAMA: Journal of the American Medical Association (2001) 285:2486-2497) によれば、代謝症候群の診断は下記のリスク因子の三つ以上が存在する場合になされる。
【0017】
1.男性で40インチ即ち102 cmより大きく、また女性で35インチ即ち94 cm より大きいウェスト周囲と定義され、又は日本民族もしくは日本人の患者に関して男性で85 cm 以上、また女性で90 cm 以上のウェスト周囲と定義される、腹部肥満;
2. 150 mg/dL以上のトリグリセリド
3.男性で40 mg/dL未満のHDL-コレステロール
4. 130/85 mm Hg 以上の血圧(SBP ≧ 130 又はDBP ≧ 85)
5. 110 mg/dL以上の空腹時血液グルコース
NCEP 定義が実証されていた (Laaksonen DEら, Am J Epidemiol. (2002) 156:1070-7) 。血液中のトリグリセリド及びHDL コレステロールがまた医療分析における標準方法により測定でき、例えば、Thomas L (編集者): "Labor und Diagnose“, TH-Books Verlagsgesellschaft mbH, Frankfurt/Main, 2000に記載されている。
普通に使用される定義によれば、高血圧は収縮期血圧 (SBP)が140 mm Hg の値を超え、また拡張期血圧 (DBP)が90 mm Hgの値を超える場合に診断される。患者が顕著な糖尿病を患っている場合、収縮期血圧が130 mm Hg より下のレベルに低下され、拡張期血圧が80 mm Hgより下に低下されることが現在推奨される。
“エンパグリフロジン”という用語は、例えば、WO 2005/092877 に記載された下記の式のSGLT2 阻害薬 1-クロロ-4-(β-D-グルコピラノース-1-イル)-2-[4-((S)-テトラヒドロフラン-3-イルオキシ)-ベンジル]-ベンゼンを表す。
【0018】
【化1】
【0019】
合成の方法が文献、例えば、WO 06/120208 及びWO 2011/039108 に記載されている。本発明によれば、エンパグリフロジンの定義はまたその水和物、溶媒和物及びこれらの多形、並びにこれらのプロドラッグを含むことが理解されるべきである。エンパグリフロジンの有利な結晶形態がWO 2006/117359及びWO 2011/039107に記載されており、これらが本明細書にそのまま含まれる。この結晶形態はSGLT2 阻害薬の良好な生物利用能を可能にする良好な溶解性を有する。更に、結晶形態は物理化学的に安定であり、こうして医薬組成物の良好な貯蔵寿命安定性を与える。好ましい医薬組成物、例えば、経口投与のための固体製剤、例えば、錠剤がWO 2010/092126に記載されており、これが本明細書にそのまま含まれる。
“治療”及び“治療すること”という用語は特に顕著な形態で、前記症状を既に発生した患者の治療措置を含む。治療措置は特別な指示の症候を軽減するための対症措置又は指示の症状を反転もしくは部分反転し、又は疾患の進行を停止もしくは遅延するための原因措置であってもよい。こうして、本発明の組成物及び方法は、例えば、時間の或る期間にわたる治療措置としてだけでなく、慢性治療のために使用し得る。
“予防措置”、“予防的措置”及び“予防”という用語は互換可能に使用され、前記症状を発生するリスクのある患者の措置を含み、こうして前記リスクを軽減する。
【0020】
“錠剤”という用語は被覆物のない錠剤及び一種以上の被覆物を有する錠剤を含む。更に“錠剤”という用語は一つ、二つ、三つ又は更に多い層を有する錠剤及びプレス被覆された錠剤を含み、この場合、前記型の錠剤のそれぞれが被覆物がなくてもよく、又は一つ以上の被覆物を有していてもよい。また、“錠剤” という用語はミニ錠剤、融解錠剤、咀嚼可能な錠剤、発泡錠剤及び経口崩壊性錠剤を含む。
“薬局方”という用語は通常の薬局方、例えば、“USP 31-NF 26 ~第二補遺” (米国薬局方慣例) 又は“European Pharmacopoeia 6.3” (医療及び健康ケアの質についての欧州理事会, 2000-2009) を表す。
“慢性心不全”又は“CHF”という用語は鬱血性心不全 (CCF)の同義語である。心不全の程度はNew York Heart Association (NYHA)機能分類に従って分類されてもよく、NYHAクラスI、II、III 及びIVを含む。慢性心不全は左心室が収縮するのが影響され得ること (低減された駆出率の心不全) 又は心臓が弛緩するのが影響され得ること (保存された駆出率の心不全) に従って区別されてもよい。
“HFpEF ”という用語は保存された駆出率の心不全を表す。HFpEF はしばしばまた“拡張性心不全”と称される。
“HFrEF ”という用語は低減された駆出率の心不全を表す。HFrEF はしばしばまた“収縮性心不全”と称される。
“LVEF”という用語はは左心室駆出率を表す。
駆出率は超音波心臓動態診断、放射性核種心室造影及び血管造影、好ましくは超音波心臓動態診断により得られてもよい。
“BNP”という用語は脳ナトリウム排泄増加ペプチド、また所謂B型ナトリウム排泄増加ペプチドを表す。BNPは慢性心不全についてのスクリーニング及び診断に使用される。BNP値は血液血漿又は血清中で測定される。
“NT-proBNP”という用語はプロホルモン脳ナトリウム排泄増加ペプチドのN末端を表す。NT-proBNPは慢性心不全についてのスクリーニング及び診断に使用される。NT-proBNP値は血液血漿又は血清中で測定される。
“アルブミン尿”という用語は通常の量よりも多いアルブミンが尿中に存在する症状と定義される。アルブミン尿はアルブミン排泄速度 (AER)及び/又は尿中のアルブミン対クレアチン比 (ACR)(またUACRと称される)により測定し得る。CKDにおけるアルブミン尿カテゴリーは以下のように定義される。
【0021】
【表1】
【0022】
カテゴリーA1はアルブミン尿なしを反映し、カテゴリーA2はミクロアルブミン尿を反映し、カテゴリーA3はマクロアルブミン尿を反映する。カテゴリーA1の進行は通常ミクロアルブミン尿(A2)をもたらすが、またマクロアルブミン尿(A3)を直接もたらすかもしれない。ミクロアルブミン尿(A2)の進行はマクロアルブミン尿(A3)をもたらす。
“eGFR”という用語は推定糸球体濾過率 (GFR)を表す。GFR は腎臓中の濾過された液体の流量を記載する。推定GFR は、例えば、慢性腎臓疾患Epidemiology Collaboration (CKD-EPI) 式、Cockcroft-Gault式又はModification of Diet in Renal Disease (MDRD)式(これらは全て当業界で公知である)を使用して血清クレアチニン値に基づいて計算し得る。
本発明の局面によれば、推定糸球体濾過率 (eGFR)が下記のCKD-EPI 式に基づいて血清クレアチニン値、年齢、性別及び人種から誘導される。
GFR = 141 × min (Scr /κ, 1)α × max(Scr /κ, 1)-1.209 × 0.993Age × 1.018[女性の場合] × 1.159[黒人の場合]
式中、
Scr は血清クレアチニン(mg/dL) であり、
κ は女性について0.7 、また男性について0.9 であり、
αは女性について-0.329 、また男性について-0.411であり、
min はScr /κ 又は1の最小を示し、かつ
max はScr /κ 又は1の最大を示す。
【0023】
本発明の目的のために、患者の腎臓障害の程度が下記の推定糸球体濾過率(GFR)により特定される:
正常な腎臓機能 (CKD ステージ1): eGFR≧90 mL/分 /1.73 m2
軽度の腎臓障害 (CKD ステージ2): eGFR≧60 ~<90 mL/分/1.73 m2
中等度の腎臓障害 (CKD ステージ3): eGFR≧30 ~<60 mL/分/1.73 m2
重度の腎臓障害 (CKD ステージ4): eGFR≧15 ~<30 mL/分 /1.73 m2
腎不全 (CKD ステージ5): eGFR <15 mL/分/1.73 m2
本発明によれば、中等度の腎臓障害は更に二つの下位のステージに分けられる:
中等度のA腎臓障害 (CKD 3A): eGFR≧45 ~<60 mL/分/1.73 m2
中等度のB腎臓障害 (CKD 3B): eGFR≧30 ~<45 mL/分/1.73 m2
“KCCQ”という用語はカンサスシティの心筋症質問紙を表す。健康関連の生活の質がKCCQ又はKCCQ-12 に従って測定し得る。KCCQ-12 は当初の23項目のKCCQ (カンサスシティの心筋症質問紙) の有効化された短いバージョンである。この自己管理される質問紙はHFの患者の肉体的制限、症候 (頻度、重度、及び経時変化) 、社会的制限、自己効力、及び生活の質を評価するように設計されている。
“MLHFQ ”という用語は心不全質問紙を有するミネソタリビングを表す。例えば、その肉体的次元、情緒的次元、社会的次元及び精神的次元を含む、生活の質がMLHFQ に従って測定し得る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
血糖調節及び尿のグルコース排泄の増大のための体重損失の改善の他に、エンパグリフロジンは利尿作用、低減された動脈硬化及び直接の血管作用を示す (Cherneyら著, Cardiovasc Diabetol.2014;13:28; Cherney ら著, Circulation.2014;129:587-597)。EMPA-REG OUTCOMETM 研究において、エンパグリフロジンは2型真性糖尿病及び高い心血管リスクを有する患者で心血管死、心不全のための入院及び総合の死亡率のリスクを減少することが実証された (Zinman ら著, N Engl J Med.2015;373:2117-2128)。エンパグリフロジンによる治療が心拍数の臨床上関連する変化を生じないで血圧低下をもたらし、こうして心臓の酸素要求の代理のマーカーである、心拍数と血圧の積 (RPP)を改善することが観察された。更に、エンパグリフロジンは利尿薬で観察された増大とは対照的に臨床上関連する反射媒介交感神経活性化と関連しないことがわかった。腎臓内の変化されたグルコース及びナトリウム勾配が交感神経抑制性の求心性腎臓神経シグナルを生成し得ると推定し得る。交感神経活性化の欠如はエンパグリフロジンの有益な心血管及び腎臓のプロフィール (心臓腎臓軸) に寄与し得る。機構的考慮、例えば、ヒトの自律的心血管調節についてのエンパグリフロジンの作用を含む臨床上の研究及び非臨床的研究に基づいて、或る疾患及び症状、特に慢性心不全、急性心不全及び慢性腎臓疾患の治療及び予防におけるエンパグリフロジンの使用が、先に、また後に記載される。
本発明は必要とする患者にエンパグリフロジンを投与することを含む患者の慢性心不全を治療するための方法に関する。また、本発明は患者にエンパグリフロジンを投与することを含む慢性心不全の患者の心血管死のリスクを低減するための方法に関する。更に、本発明は患者にエンパグリフロジンを投与することを含む慢性心不全の患者の心不全のための入院のリスクを低減するための方法に関する。また、本発明は患者にエンパグリフロジンを投与することを含む慢性心不全の患者の心血管死及び心不全のための入院のリスクを軽減するための方法に関する。本発明の実施態様によれば、心不全のための入院のリスクが心不全のための最初の入院のリスクである。本発明の別の実施態様によれば、心不全のための入院のリスクが心不全のための再発の入院のリスクである。更に、本発明は患者にエンパグリフロジンを投与することを含む慢性心不全の患者のあらゆる原因の死亡率を低減するための方法に関する。更に、本発明は患者にエンパグリフロジンを投与することを含む慢性心不全の患者のあらゆる原因の入院のリスクを低減するための方法に関する。本発明の実施態様によれば、あらゆる原因の入院のリスクが最初のあらゆる原因の入院のリスクである。本発明の別の実施態様によれば、あらゆる原因の入院のリスクが再発のあらゆる原因の入院のリスクである。また、本発明は患者にエンパグリフロジンを投与することを含む慢性心不全の患者の心房細動の新たな発生のリスクを低減するための方法に関する。
【0025】
また、本発明は必要とする患者にエンパグリフロジンを投与することを含む患者の慢性心不全を予防し、それに対して保護し、又はその発生を遅延するための方法に関する。本発明の実施態様によれば、NYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全へのNYHAクラスIの慢性心不全の患者の慢性心不全の悪化を予防するための方法が提供される。
また、本発明は必要とする患者にエンパグリフロジンを投与することを含む患者の急性心不全を治療し、予防し、それに対して保護し、又はその発生を遅延するための方法に関するものであり、特にその患者が慢性心不全の患者である。
また、本発明は必要とする患者にエンパグリフロジンを投与することを含む慢性心不全の患者の急性非代償性心不全(ADHF)を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延するための方法に関する。
本発明の方法において、或る事象、疾患又は障害のリスクがケアバックグラウンド医療の通常の偽薬を投与された患者と較べた場合に軽減される。一実施態様において、そのリスクが15%以上低減される。一実施態様において、そのリスクが16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上、25%以上又は30%以上低減される。
本発明の一実施態様によれば、患者がNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者である。
本発明のこの実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスII又はIII の慢性心不全の患者である。
本発明の別の実施態様によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全の患者である。
【0026】
本発明の一実施態様によれば、患者が慢性心不全及び保存された駆出率 (HFpEF)の患者である。例えば、保存された駆出率の患者は40%より大きく、又は更には50%より大きいLVEFを示す。この実施態様の別型によれば、慢性心不全及び保存された駆出率 (HFpEF)の患者が50%以上のLVEFを示す。この実施態様の別型によれば、患者が40%から49%までの範囲のLVEF、また所謂中等度の範囲の低減された駆出率 (HFmrEF)の慢性心不全を示す。
本発明の別の実施態様によれば、患者が慢性心不全及び低減された駆出率 (HFrEF)の患者である。例えば、低減された駆出率の患者は40%以下、特に40%より小さいLVEFを示す。
それ故、本発明の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを必要とする患者に投与することを含む患者、例えば、NYHAクラスI、II、III 又はIVの慢性心不全の患者の保存された駆出率 (HFpEF)の慢性心不全を治療するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、NYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の慢性心不全の程度がNYHA分類によれば改善される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0027】
別の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを必要とする患者に投与することを含む患者、例えば、NYHAクラスI、II、III 又はIVの慢性心不全の患者の低減された駆出率 (HFrEF)の慢性心不全を治療するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、NYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の慢性心不全の程度がNYHA分類によれば改善される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心血管死のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
別の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心血管死のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心不全のための入院のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、心不全のための最初の入院のリスクが軽減される。この実施態様の別の局面によれば、心不全のための再入院のリスクが軽減される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
別の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心不全のための入院のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、心不全のための最初の入院のリスクが軽減される。この実施態様の別の局面によれば、心不全のための再入院のリスクが軽減される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0028】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心血管死及び心不全のための入院のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
別の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心血管死及び心不全のための入院のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者のあらゆる原因の死亡率を低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0029】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者のあらゆる原因の死亡率を低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者のあらゆる原因の入院のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の別の局面によれば、最初のあらゆる原因の入院のリスクが低減される。この実施態様の別の局面によれば、再発のあらゆる原因の入院のリスクが軽減される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
別の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者のあらゆる原因の入院のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、最初のあらゆる原因の入院のリスクが低減される。この実施態様の別の局面によれば、再発のあらゆる原因の入院のリスクが軽減される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0030】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心房細動の新たな発生のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
別の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心房細動の新たな発生のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の健康関連の生活の質及び/又は機能性能力、特に運動能力を改善するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、健康関連の生活の質が質問紙、例えば、KCCQ又はKCCQ-12 により測定される。この実施態様の別の局面によれば、健康関連の生活の質又は運動能力が歩行試験、例えば、6分間の歩行試験、又は最大酸素摂取 (VO2max)により測定される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0031】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の健康関連の生活の質及び/又は機能性能力、特に運動能力を改善するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、健康関連の生活の質が質問紙、例えば、KCCQ又はKCCQ-12 により測定される。この実施態様の別の局面によれば、健康関連の生活の質又は運動能力が歩行試験、例えば、6分間の歩行試験、又は最大酸素摂取 (VO2max)により測定される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の急性非代償性心不全(ADHF)を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
別の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の急性非代償性心不全(ADHF)を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延し、心房細動の新たな発生のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0032】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の2型真性糖尿病の新たな発生のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。本発明の局面によれば、患者が非糖尿病患者である。本発明の別の局面によれば、患者が前糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の2型真性糖尿病の新たな発生のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。本発明の局面によれば、患者が非糖尿病患者である。本発明の別の局面によれば、患者が前糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心筋梗塞のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、非致死性心筋梗塞のリスクが低減される。この実施態様の局面によれば、致死性心筋梗塞のリスクが低減される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心筋梗塞のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、非致死性心筋梗塞のリスクが低減される。この実施態様の局面によれば、致死性心筋梗塞のリスクが低減される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0033】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の卒中のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、非致死性卒中のリスクが低減される。この実施態様の局面によれば、致死性卒中のリスクが低減される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の卒中のリスクを低減するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、非致死性卒中のリスクが低減される。この実施態様の局面によれば、致死性卒中のリスクが低減される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性卒中のいずれか(所謂3ポイントMACE)のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心血管死(致死性卒中、致死性心筋梗塞及び突然死を含む)、非致死性心筋梗塞(無症状の心筋梗塞を除く)、非致死性卒中のいずれか(所謂3ポイントMACE)のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性卒中のいずれか(所謂3ポイントMACE)のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0034】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の心血管死(致死性卒中、致死性心筋梗塞及び突然死を含む)、非致死性心筋梗塞(無症状の心筋梗塞を除く)、非致死性卒中のいずれか(所謂3ポイントMACE)のリスクを低減するための方法を提供する。この実施態様の局面によれば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者のマクロアルブミン尿を予防し、それへの進行を遅延又は反転するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、ミクロアルブミン尿からマクロアルブミン尿への進行が予防され、遅延され、又は反転される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者のマクロアルブミン尿を予防し、それへの進行を遅延又は反転するための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、ミクロアルブミン尿からマクロアルブミン尿への進行が予防され、遅延され、又は反転される。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
【0035】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、保存された駆出率 (HFpEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の腎臓機能を改善するため、又は腎臓保護のための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、患者が軽度、中等度又は重度の腎臓障害を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。この実施態様の局面によれば、腎臓機能の改善又は腎臓保護がeGFRの減少の遅延、例えば、eGFRの進行性減少の遅延又はeGFRの自然の進行性減少の遅延である。この実施態様の別の局面によれば、腎臓機能の改善又は腎臓保護がeGFRの改善により診断される。
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全の患者、例えば、低減された駆出率 (HFrEF)のNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者の腎臓機能を改善するため、又は腎臓保護のための方法を提供する。例えば、患者がNYHAクラスIの慢性心不全を有する。この実施態様の局面によれば、患者が軽度、中等度又は重度の腎臓障害を有する。この実施態様の患者は、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。この実施態様の局面によれば、腎臓機能の改善又は腎臓保護がeGFRの減少の遅延、例えば、eGFRの進行性減少の遅延又はeGFRの自然の進行性減少の遅延である。この実施態様の局面によれば、腎臓機能の改善又は腎臓保護がeGFRの改善により診断される。
【0036】
実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全と診断された患者の慢性腎臓疾患を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを軽減し、その発生を遅延し、かつ/又はその進行を遅延するための方法を提供する。特に、この実施態様はエンパグリフロジンを患者に投与することを含む慢性心不全と診断された患者の慢性腎臓疾患を治療し、かつ/又はその進行を遅延するための方法に関する。この実施態様の別の局面によれば、患者がステージ2の慢性腎臓疾患の患者である。この実施態様の局面によれば、患者がステージ3a及び/又は3bを含む、ステージ3の慢性腎臓疾患の患者である。この実施態様の別の局面によれば、患者がステージ4の慢性腎臓疾患の患者である。この実施態様の局面によれば、患者がステージ3a及び/又は3bを含む、ステージ3又はステージ4の慢性腎臓疾患を有し、かつ保存された駆出率 (HFpEF)の、例えば、NYHA クラスI、II、III 又はIVの慢性心不全の患者である。この実施態様の別の局面によれば、患者がステージ3a及び/又は3bを含む、ステージ3又はステージ4の慢性腎臓疾患を有し、かつ低減された駆出率 (HFrEF)の、例えば、NYHA クラスI、II、III 又はIVの慢性心不全の患者である。この実施態様の種々の局面を含む、この実施態様の患者が、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
別の実施態様によれば、本発明はエンパグリフロジンを患者(この場合、患者が比糖尿病の患者である)に投与することを含む慢性心不全と診断されなかった患者の慢性腎臓疾患を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを軽減し、その発生を遅延し、かつ/又はその進行を遅延するための方法を提供する。特に、この実施態様は患者の慢性腎臓疾患を治療し、かつ/又はその進行を遅延するための方法に関する。この実施態様の局面によれば、患者がステージ3a及び/又は3bを含む、ステージ3の慢性腎臓疾患の患者である。この実施態様の別の局面によれば、患者がステージ4の慢性腎臓疾患の患者である。
【0037】
一実施態様において、本発明は
-アルブミン尿の新たな発生、
-非アルブミン尿からミクロ又はマクロアルブミン尿への進行、
-45 mL/分/1.73m2 以下のeGFR (腎臓疾患 (MDRD) 式における食事の変更に基づく)により伴なわれる血清クレアチニンレベルの倍増、
-eGFR (CKD-EPI) の30%以上、40%以上、50%以上又は57%以上の持続された減少、特にeGFR (CKD-EPI) の40%以上の持続された減少、
-30 mL/分/1.73 m2 以上の基準線eGFRの患者について15 mL/分/1.73 m2 未満の持続されたeGFR (CKD-EPI)、
-30 mL/分/1.73 m2 未満の基準線eGFRの患者について10 mL/分/1.73 m2 未満の持続されたeGFR (CKD-EPI)、
-連続の腎臓交換療法の必要、
-慢性透析治療の必要、
―腎臓移植を受ける必要、
-腎臓疾患のための死亡、又は
-eGFR (CKD-EPI)の40%以上の持続された減少もしくは
30 mL/分/1.73 m2 以上の基準線eGFRの患者について15 mL/分/1.73 m2 未満の持続されたeGFR (CKD-EPI)、及び
30 mL/分/1.73 m2 未満の基準線eGFRの患者について10 mL/分/1.73 m2 未満の持続されたeGFR (CKD-EPI)
の複合、又は
-eGFR (CKD-EPI)の40%以上の持続された減少もしくは
30 mL/分/1.73 m2 以上の基準線eGFRの患者について15 mL/分/1.73 m2 未満の持続されたeGFR (CKD-EPI)、
30 mL/分/1.73 m2 未満の基準線eGFRの患者について10 mL/分/1.73 m2 未満の持続されたeGFR (CKD-EPI)、
慢性透析治療の必要、及び
腎臓移植を受ける必要
の複合
を治療し、予防し、それらに対して保護し、又はこれらの発生を遅延する方法を提供する。
【0038】
慢性心不全と診断された患者では、前記方法がエンパグリフロジンを患者に投与することを含む。この実施態様の局面によれば、患者が保存された駆出率(HFpEF) の、例えば、NYHAクラスI、II、III 又はIVの慢性心不全の患者である。この実施態様の別の局面によれば、患者が低減された駆出率(HFrEF)の、例えば、NYHAクラスI、II、III 又はIVの慢性心不全の患者である。この実施態様の種々の局面を含む、この実施態様の患者が、例えば、非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者、特に非糖尿病の患者である。
本発明の方法において、エンパグリフロジンが必要により一種以上のその他の治療物質と組み合わせて患者に投与されたもよい。
先に、また後に記載される方法の一実施態様によれば、患者が上昇されたBNP 又は上昇された血漿NT-proBNPの患者である。例えば、患者が75 pg/mL以上 (NT-proBNP ≧300 pg/mL) 又は100 pg/mL 以上(NT-proBNP ≧400 pg/mL) 又は150 pg/mL 以上(NT-proBNP ≧600 pg/mL) 又は225 pg/mL 以上(NT-proBNP ≧900 pg/mL)の上昇されたBNP を有する。
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が過去9ヶ月以内に心不全のために入院させられた患者、特に過去9ヶ月以内に心不全のために入院させられ、かつ上昇されたBNP 又はNT-proBNP を有する患者である。
【0039】
先に、また後に記載される方法の実施態様によれば、患者が低減された駆出率 (HFrEF) 及び駆出率 EF ≧36% ~≦40% 及び心房細動のない患者について≧2500 pg/ml 、又は心房細動の患者について≧5000 pg/ml の上昇されたNT-proBNPを有する患者である。
先に、また後に記載される方法の実施態様によれば、患者が低減された駆出率 (HFrEF) 及び駆出率 EF ≧31% ~≦35% 及び心房細動のない患者について≧1000 pg/ml 、又は心房細動の患者について≧2000 pg/ml の上昇されたNT-proBNPを有する患者である。
先に、また後に記載される方法の実施態様によれば、患者が低減された駆出率 (HFrEF) 及び駆出率 EF≦30% 及び心房細動のない患者について≧600 pg/ml 、又は心房細動の患者について≧1200 pg/ml の上昇されたNT-proBNPを有する患者である。
先に、また後に記載される方法の一実施態様によれば、患者が正常な腎臓機能又は軽度の腎臓障害又は中等度の腎臓障害又は重度の腎臓障害を有する患者である。この実施態様によれば、患者が20mL/分/1.73 m2以上のeGFRを有する。
先に、また後に記載される方法の一実施態様によれば、患者が正常な腎臓機能又は軽度の腎臓障害又は中等度の腎臓障害を有する患者である。この実施態様によれば、患者が30 mL/分/1.73 m2 のeGFRを有する。
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が正常な腎臓機能又は軽度の腎臓障害又は中等度A腎臓障害(CKD 3A)を有する患者である。この実施態様によれば、患者が45mL/分/1.73 m2以上のeGFRを有する。
【0040】
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が正常な腎臓機能又は軽度の腎臓障害を有する患者である。この実施態様によれば、患者が60mL/分/1.73 m2以上のeGFRを有する。
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が中等度A腎臓障害(CKD 3A)を有する患者である。この実施態様によれば、患者が45mL/分/1.73 m2以上かつ60mL/分/1.73 m2より低いeGFRを有する。
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が中等度B腎臓障害(CKD 3B)を有する患者である。この実施態様によれば、患者が30mL/分/1.73 m2以上かつ45mL/分/1.73 m2より低いeGFRを有する。
先に、また後に記載される方法の実施態様によれば、患者が非糖尿病の患者、前糖尿病の患者、2型真性糖尿病の患者又は1型真性糖尿病の患者である。
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が非糖尿病の患者、前糖尿病の患者又は2型真性糖尿病の患者である。
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が前糖尿病の患者である。この実施態様の局面によれば、患者が5.7 %以上かつ6.5 %未満のHbA1c を有する。
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が前糖尿病の患者又は非糖尿病の患者である。この実施態様の局面によれば、患者が6.5 %未満のHbA1c を有する。
先に、また後に記載される方法の別の実施態様によれば、患者が非糖尿病の患者である。この実施態様の局面によれば、患者が5.7 %未満のHbA1c を有する。
別の局面によれば、非糖尿病患者が耐糖能異常 (IGT)を示さず、即ち、患者が正常な耐糖能を示す。例えば、食後2時間の血液グルコース又は血漿グルコース(PG)濃度が140 mg/dI (7.78 ミリモル/L)より小さい。
別の局面によれば、非糖尿病患者が空腹時血糖異常 (IFG)を示さず、即ち、患者が正常な空腹時グルコースを示す。例えば、空腹時血漿グルコース濃度 (FPG)が100 mg/dlより小さく、即ち、5.6 ミリモル/lより小さい。
【0041】
特に、非糖尿病の患者は空腹時血糖異常 (IFG)を示さず、かつ耐糖能異常 (IGT)を示さず、即ち、患者が正常な耐糖能を示す。例えば、空腹時血漿グルコース濃度 (FPG) が100 mg/dlより小さく、即ち、5.6 ミリモル/lより小さく、かつ食後2時間の血液グルコース又は血漿グルコース(PG)濃度が140 mg/dI (7.78 ミリモル/L) より小さい。
先に、また後に記載される方法の実施態様によれば、エンパグリフロジンが1日当り1mgから25mgまでの範囲の用量、例えば、1日当り1mg、2.5 mg、5mg、7.5 mg、10mg又は25mgの用量で患者に投与される。エンパグリフロジンの投与は1日1回又は2回、更に好ましくは1日1回起こってもよい。例えば、毎日1回の投与についての用量が10mg又は25mgである。投与の好ましい経路は経口投与である。
本発明の特別な局面によれば、エンパグリフロジンが1日当り10mgの用量で患者に投与される。
本発明の別の特別な局面によれば、エンパグリフロジンが1日当り25mgの用量で患者に投与される。
エンパグリフロジンが毎日1回患者に投与されることが好ましい。
【0042】
一実施態様において、本発明の意味内の患者が慢性心不全を治療するための薬物で既に治療されていない慢性心不全の患者(心不全薬物ナイーブ患者)を含んでもよい。こうして、実施態様において、本明細書に記載された治療薬が心不全薬物ナイーブ患者に使用されてもよい。
別の実施態様において、本発明の意味内の患者が坑糖尿病薬で既に治療されていない慢性心不全及び前糖尿病又は2型真性糖尿病(T2DM)の患者(T2DM薬物ナイーブ患者)を含んでもよい。こうして、実施態様において、本明細書に記載された治療薬がT2DM薬物ナイーブ患者に使用されてもよい。
更に、本発明の方法は慢性心不全及びインスリン依存症の患者、即ち、インスリンもしくはインスリンの誘導体又はインスリンの代替品或いはインスリンもしくは誘導体又はこれらの代替品を含む製剤で治療され、又はそれ以外に治療され、或いはこれらによる治療を必要とするであろう患者の治療に特に適している。これらの患者は2型糖尿病の患者及び1型糖尿病の患者を含む。
更に、本発明の医薬組成物の投与は低血糖のリスクを生じず、又は低リスクを生じることがわかる。それ故、本発明の治療又は予防はまた低血糖の増大されたリスクを示し、又は有するこれらの患者で有利に可能である。
エンパグリフロジンの投与により、過剰の血液グルコースがSGLT2 抑制活性に基づいて患者の尿により排泄され、その結果、患者の体重の増加が生じず、又は更には体重の減少が生じるかもしれない。それ故、本発明の方法は過剰体重及び肥満、特にクラスI肥満、クラスII肥満、クラスIII 肥満、内臓肥満及び腹部肥満からなる群から選ばれた症状の一種以上と診断される慢性心不全のこれらの患者に有利に適している。加えて、本発明の方法は体重増加が禁忌されるこれらの患者に有利に適している。
本発明が治療又は予防を必要とする患者に関係する場合、それは主としてヒトの治療及び予防に関するが、医薬組成物はまた哺乳類の獣医学的医療に使用されてもよい。本発明の範囲において、成人患者は18才以上の年齢のヒトであることが好ましい。また、本発明の範囲において、患者が青年期のヒト、即ち、10才~17才の年齢、好ましくは13才~17才の年齢のヒトである。
本発明の実施態様によれば、エンパグリフロジンが一種以上のその他の治療物質と組み合わせて患者に投与される。組み合わされた投与は同時、別々又は逐次であってもよい。
本発明のこの実施態様の一局面において、一種以上のその他の治療物質が慢性心不全の治療に指示される活性物質、坑糖尿病物質、血液中の全コレステロール、LDL-コレステロール、非HDL-コレステロール及び/又はLp(a) レベルを低下する活性物質、血液中のHDL-コレステロールレベルを上昇する活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム硬化症又は肥満の治療に指示される活性物質、坑血小板物質、血液凝固阻止薬、及び血管内皮保護薬から選ばれる。
【0043】
一実施態様において、慢性心不全の治療に指示される活性物質がアンギオテンシン受容体遮断薬 (ARB)、アンギオテンシン転化酵素(ACE) 阻害薬、アンギオテンシン受容体ネプリリシン阻害薬(ARNi)、ベータ遮断薬、アルドステロンアンタゴニスト (MRA)、ジゴキシン、イバブラジン及び利尿薬から選ばれる。
一実施態様において、坑糖尿病物質がメトホルミン、スルホニル尿素、ナテグリニド、レパグリニド、PPAR-ガンマアゴニスト、アルファ-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン及びインスリン類似体、GLP-1 及びGLP-1 類似体並びにDPP-4 阻害薬から選ばれる。
一実施態様において、患者が通常のケアを受け、これは心不全、例えば、慢性又は急性心不全の患者に指示される医療及び/又は装置を含む。一局面において、特にHFrEF と診断された患者が、ICD (移植可能な電気除細動器デフィブリレータ) 及びCRT (心臓再同調療法) 、例えば、CRT-P (CRT ペースメーカー) 及びCRT-D (ペースメーカーとデフィブリレータのCRT 組み合わせ) からなる群から選ばれた装置を有し、又は受け取る。
一実施態様において、患者が慢性心不全の患者に指示される通常のケア医療を受ける。この実施態様の一局面において、エンパグリフロジンが慢性心不全の治療に指示される一種以上の活性物質と組み合わせて患者に投与される。例えば、エンパグリフロジンがアンギオテンシン受容体遮断薬 (ARB)、アンギオテンシン転化酵素(ACE) 阻害薬、ベータ遮断薬、アルドステロンアンタゴニスト、利尿薬、アンギオテンシン受容体ネプリリシン阻害薬(ARNi)、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト及びイバブラジンからなる群から選ばれた一種以上の活性物質と組み合わせて投与される。その実施態様のこの局面によれば、患者が、例えば、非糖尿病の患者又は前糖尿病の患者である。
この実施態様の一局面において、慢性心不全を治療するための前記薬物の数、用量及び/又は養生法が前記患者で減少され、その間にエンパグリフロジンの投与が続けられる。例えば、患者に投与される一種以上の利尿薬の用量が減少されてもよく、その間にエンパグリフロジンの投与が続けられる。
【0044】
アンギオテンシンII受容体遮断薬 (ARB) の例はテルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、オルメサルタン、アジルサルタン及びエプロサルタンであり、これらの薬物の幾つかの用量が、例えば、以下に示される:
・カンデサルタン (アタカンド) 、4 mg、8 mg、16mg、又は32mgのカンデサルタン・シレキセチル
・エプロサルタン (テベテン) 、400 mg又は600 mg
・イルベサルタン (アバプロ) 、75mg、150mg 、又は300 mgのイルベサルタン
・ロサルタン (コザール) 、25mg、50mg又は100 mgのロサルタンカリウム
・テルミサルタン (ミカルジス) 、40mg又は80mg
・テルミサルタン (ミカルジス HCT) 、40 mg/12.5 mg、80 mg/12.5 mg、及び80 mg/25 mg のテルミサルタン及びヒドロクロロチアジドのそれぞれ
・テルミサルタン/アムロジピン (トワインスタ) 、40 mg/5 mg、40 mg/10 mg、80mg/5 mg 及び80 mg/ 10 mgのテルミサルタン及びアムロジピンのそれぞれ
・バルサルタン (ジオバン) 、40mg、80mg、160 mg又は320 mgのバルサルタン。
アンギオテンシン転化酵素 (ACE)阻害薬の例はベナゼプリル、カプトプリル、ラミプリル、リシノプリル、モエキシプリル、シラザプリル、キナプリル、カプトプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、ペリンドプリル、フォシノプリル及びトランドラプリルであり、これらの薬物の幾つかの用量が、例えば、以下に示される:
・ベナゼプリル (ロテンシン) 、経口投与につき5 mg、10mg、20mg、及び40mg
・カプトプリル (カポテン) 、経口投与のための刻まれた錠剤として12.5 mg、25mg、50mg、及び100 mg
・エナラプリル (バソテク) 、2.5 mg、5 mg、10mg、及び20mgの経口投与のための錠剤
・フォシノプリル (モノプリル) 、経口投与につき、10mg、20mg、及び40mgの錠剤として
・リシノプリル (プリニビル、ゼストリル) 、5 mg、10mg、及び20mgの経口投与のための錠剤
・モエキシプリル (ユニバスク), 経口投与につき7.5 mg及び15mg
・ペリンドプリル (アセオン) 、経口投与につき2 mg、4 mg及び8 mgの濃度
・キナプリル (アクプリル) 、経口投与につき5 mg、10mg、20mg、又は40mgのキナプリル
・ラミプリル (アルテース) 、1.25mg、2.5 mg、5 mg、10mg
・トランドラプリル (マビク) 、経口投与につき1 mg、2 mg、又は4 mgの経口投与のためのトランドラプリル
【0045】
ベータ遮断薬の例はアセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、セリプロロール、メトプロロール、ネビボロール、プロプラノロール、チモロール及びカルベジロールであり、これらの薬物の幾つかの用量が、例えば、以下に示される:
・アセブトロール (セクトラール) 、200又は400 mg の塩酸塩としてのアセブトロール
・アテノロール (テノルミン) 、25mg、50mg及び100 mgの経口投与用の錠剤
・ベタキソロール (ケルロン) 、10-mg 及び20-mg の経口投与用の錠剤
・ビソプロロール/ヒドロクロロチアジド (ジアク) 、2.5/6 mg、5/6.25 mg、10/6.25 mg
・ビソプロロール (ゼベタ) 、5 mg及び10 mg の経口投与用の錠剤
・メトプロロール (ロプレッサー、トプロールXL) 、50-mg 及び100-mg の経口投与用の錠剤及び静脈内投与用の5-mLのアンプル中
・プロプラノロール (インデラール) 、10mg、20mg、40mg、60mg、及び80mgの経口投与用の錠剤
・チモロール (ブロカドレン) 、5 mg、10mg又は20mgの経口投与用のチモロールマレイン酸塩。
アルドステロンアンタゴニストの例はスピロノラクトン、エプレノン、カンレノン及びフィネロノンであり、これらの薬物の幾つかの用量が、例えば、以下に示される:
・スピロノラクトン (例えば、アルダクトン) 、毎日又は2日毎に1回25mg又は50 mg、
・エプレノン (例えば、インスプラ) 、毎日1回25mg又は50mg。
【0046】
利尿薬の例はブメタニド、ヒドロクロロチアジド、クロルタリドン、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、キシパミド、インダパミド、フロセミド、ピレタニド、トラセミド、スピロノラクトン、エプレレノン、アミロリド及びトリアムテレンであり、例えば、これらの薬物はチアジド利尿薬、例えば、クロルサリドン、HCT 、ループ利尿薬、例えば、フロセミド、トラセミド又はカリウムスペアリング利尿薬、例えば、エプレレノン、又はこれらの組み合わせであり、これらの薬物の幾つかの用量が、例えば、以下に示される:
・アミロリド (ミダモル) 、5 mgの無水アミロリドHCl
・ブメタニド (ブメックス) 、経口投与用の刻まれた錠剤、0.5 mg (ライトグリーン) 、1 mg (イエロー) 及び2 mg (ピーチ) として入手し得る
・クロロチアジド (ジウリル)
・クロルサリドン (ヒグロトン)
・フロセミド (ラシックス)
・ヒドロクロロチアジド (エシドリックス、ヒドロジウリル)
・インダパミド (ロゾール) 及びスピロノラクトン (アルダクトン)
・エプレノン (インスプラ) 。
【0047】
アンギオテンシン受容体ネプリリシン阻害薬 (ARNi) の例はバルサルタンとサクビトリルの組み合わせ (エントレスト) である。
心臓ペースメーカIf電流の抑制の例はイバブラジン (プロコララン、コルラノル) である。
カルシウムチャンネル遮断薬の例はアムロジピン、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニソルジピン、ニカルジピン、フェロジピン、ラシジピン、レルカニピジン、マニジピン、イスラジピン、ニルバジピン、ベラパミル、ガロパミル及びジルチアゼムである。
血圧を下げる薬物の例として、アンギオテンシンII受容体遮断薬 (ARB)、アンギオテンシン転化酵素 (ACE)阻害薬、ベータ遮断薬、利尿薬及びカルシウムチャンネル遮断薬が挙げられる。
この実施態様の別の局面において、患者が2型真性糖尿病の患者であり、エンパグリフロジンが慢性心不全の治療に指示される一種以上の活性物質と組み合わせて、また一種以上の坑糖尿病物質と組み合わせて患者に投与される。坑糖尿病物質として、メトホルミン、スルホニル尿素、ナテグリニド、レパグリニド、PPAR-ガンマアゴニスト、アルファ-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン及びインスリン類似体、GLP-1 及びGLP-1 類似体並びにDPP-4 阻害薬が挙げられる。これらの例はメトホルミン及びDPPIV 阻害薬、例えば、シタグリプチン、サキサグリプチン及びリナグリプチンである。慢性心不全の治療に指示される活性物質として、アンギオテンシン受容体遮断薬 (ARB)、アンギオテンシン転化酵素 (ACE)阻害薬、ベータ遮断薬、アルドステロンアンタゴニスト及び利尿薬が挙げられる。
【0048】
それ故、本発明の方法の一局面によれば、エンパグリフロジンがリナグリプチンと組み合わせて患者に投与される。この局面の患者は特に2型真性糖尿病の患者である。好ましい用量は、例えば、毎日1回10mgのエンパグリフロジン及び毎日1回5 mgのリナグリプチンである。
それ故、本発明の方法の一局面によれば、エンパグリフロジンがメトホルミン塩酸塩と組み合わせて患者に投与される。この局面の患者は特に2型真性糖尿病の患者である。好ましい用量は、例えば、毎日1回10mgのエンパグリフロジン又は毎日2回5 mgのエンパグリフロジン及び毎日2回500 mg、850 mg又は1000 mg のメトホルミン塩酸塩である。
この実施態様の一局面において、慢性心不全を治療するための前記薬物の数、用量及び/又は養生法が前記患者で減少され、その間エンパグリフロジンの投与が続けられる。この実施態様の別の局面において、2型真性糖尿病を治療するための前記薬物の数、用量及び/又は養生法が前記患者で減少され、その間エンパグリフロジンの投与が続けられる。この実施態様の更に別の局面において、2型真性糖尿病を治療するための前記薬物及び慢性心不全を治療するための前記薬物の数、用量及び/又は養生法が前記患者で減少され、その間エンパグリフロジンの投与が続けられる。
この局面の例によれば、エンパグリフロジンがメトホルミンと組み合わせて、又はリナグリプチンと組み合わせて、又はメトホルミン及びリナグリプチンと組み合わせてアンギオテンシン受容体遮断薬 (ARB)、アンギオテンシン転化酵素 (ACE)阻害薬、ベータ遮断薬、アルドステロンアンタゴニスト、利尿薬、アンギオテンシン受容体ネプリリシン阻害薬(ARNi)、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト及びイバブラジンからなる群から選ばれた一種以上の活性物質と組み合わせて投与される。
上記群中の活性物質の例は、それらの投薬濃度、投与スキーム及び製剤を含め、当業者に知られている。
本発明の状況において、メトホルミンという用語は即時放出製剤、延長放出製剤又は遅延放出製剤の形態のメトホルミン塩酸塩を含む。患者に投与されるメトホルミン塩酸塩の用量は特に1日当り500 mg~2000 mg 、例えば、1日当り750 mg、1000 mg 、1500 mg 及び2000mgである。
エンパグリフロジン及びメトホルミンは二つの異なる剤形中で別々に投与されてもよく、又は一つの剤形中で合わされてもよい。即時放出製剤としてのエンパグリフロジンとメトホルミンの合わされた剤形がWO 2011/039337に記載されており、例えば、SYNJARDI(登録商標)として知られている。エンパグリフロジンが即時放出製剤の一部であり、かつメトホルミンが延長放出製剤の一部であるエンパグリフロジンとメトホルミンの合わされた剤形がWO 2012/120040及びWO 2013/131967に記載されている。
【0049】
患者に投与されるリナグリプチンの好ましい用量は1日当り5 mgである。
エンパグリフロジン及びリナグリプチンは二つの異なる剤形中で別々に投与されてもよく、又は一つの剤形中で合わされてもよい。エンパグリフロジンとリナグリプチンの合わされた剤形がWO 2010/092124に記載されており、例えば、GLYXAMBI(登録商標)として知られている。
本発明内で、本発明の組み合わせ、組成物又は組み合わせての投与は活性成分の同時、逐次又は別々の投与をもくろみ得ることが理解されるべきである。
この状況において、本発明の意味内の“組み合わせ”又は“合わされた”は制限された形態、多剤形態及び非多剤(例えば、自由)形態(キットを含む)及び使用、例えば、成分の同時、逐次又は別々の使用を含んでもよいが、これらに限定されない。
本発明の合わされた投与は活性成分を一緒に投与することにより、例えば、それらを一つの単一製剤もしくは剤形又は二つの別々の製剤もしくは剤形中で同時に投与することにより起こってもよい。また、投与は活性成分を逐次に、例えば、二つの別々の製剤又は剤形中で連続して投与することにより起こってもよい。
本発明の組み合わせ療法のために、活性成分が別々に投与されてもよく(これはそれらが別々に製剤化されることを意味する)又は一緒に製剤化されてもよい(これはそれらが同じ製剤中に、又は同じ剤形中で製剤化されることを意味する)。それ故、本発明の組み合わせの一つの要素の投与はその組み合わせのその他の要素の投与の前、同時、又はその後であってもよい。
【0050】
特にことわらない限り、組み合わせ療法は第一選択療法、第二選択療法又は第三選択療法、又は初期もしくは併用組み合わせ療法或いは置換療法を表し得る。
本発明の方法は先に、また後に記載される疾患及び/又は症状の長期治療又は予防に特に適している。先に、また後に使用される“長期”という用語は12週より長く、好ましくは25週より長く、更に好ましくは1年より長い時間の期間内の患者の治療又は投与を示す。
本発明のエンパグリフロジンを含む医薬組成物は液体もしくは固体形態又は吸入もしくはガス注入による投与に適した形態での経口又は非経口(筋肉内、皮下及び静脈内を含む) 投与のために製剤化し得る。経口投与が好ましい。医薬組成物は錠剤、顆粒、微粒子、粉末、カプセル、カプレット、軟質カプセル、ピル、経口溶液、シロップ、乾燥シロップ、咀嚼錠剤、トローチ、発泡性錠剤、ドロップ、懸濁液、迅速溶解性錠剤、経口の迅速分散性錠剤等の形態で製剤化し得る。医薬組成物及び剤形は製剤のその他の成分と適合性であり、かつそのレシピエントに有害ではないという意味で“許される”必要がある一種以上の医薬上許される担体を含むことが好ましい。医薬上許される担体の例は当業者に知られている。
本発明の医薬組成物及び方法は先に記載されたこれらの疾患及び症状の治療及び予防に有利な作用を示す。有利な作用は、例えば、効力、投薬濃度、投薬頻度、薬力学的性質、薬物動態学的性質、少ない副作用、利便性、コンプライアンス等に関して見られるかもしれない。
エンパグリフロジンの製造方法は当業者に知られている。有利には、本発明の化合物は先に引用された特許出願を含む、文献に記載された合成方法を使用して調製し得る。好ましい製造方法がWO 2006/120208及びWO 2007/031548に記載されている。エンパグリフロジンに関して、有利な結晶形態が国際特許出願WO 2006/117359 (これは本明細書にそのまま含まれる)に記載されている。
本発明の更なる実施態様、特徴及び利点が以下の実施例から明らかになるかもしれない。以下の実施例は、例により、本発明の原理を説明するのに利用できるが、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0051】
実施例1:慢性心不全及びHFrEF の患者の治療
慢性心不全及び低減された駆出率の患者の妥当な集団におけるエンパグリフロジンによる治療の心血管死又は心不全のための入院及びその他のパラメーターについての長期の影響を以下のように調べる:
慢性心不全及びNYHA II 、III 又はIVの症候及び低減された駆出率 (40%以下のLVEF) 並びに上昇されたBNP (又は上昇された NT-proBNP)(例えば、以下に特定されるような)の患者をエンパグリフロジン(必要により一種以上のその他の活性物質、例えば、本明細書に記載されたものと組み合わせて)で長期(例えば、それぞれの患者について約20~38ヶ月)にわたって治療し、通常のケアバックグラウンド医療で偽薬で治療された患者と比較する。
エンパグリフロジンを毎日1回経口投与する (例えば、毎日10 mg)。患者は非糖尿病患者、前糖尿病の患者及び2型真性糖尿病の患者を含む。HbA1c が5.7%以上かつ6.5%未満である場合、前糖尿病が診断される。HbA1c が5.7%未満である場合、個体は非糖尿病患者である。
患者は40%以下のLVEFを有する。
【0052】
上昇された BNP (又は上昇された NT-proBNP) の患者は下記の一つを有すると特定される:
-上昇された BNP≧150 pg/mL 又はNT-proBNP ≧600 pg/mL; 或いは
-患者が過去9ヶ月以内に心不全のために入院させられた場合には、上昇された BNP≧100 pg/mL 又はNT-proBNP≧400 pg/mL。
低減された駆出率の患者は下記の心不全の証拠の少なくとも一つに従って含まれてもよい:
駆出率EFが36%以上~40%以下である場合には、上昇されたNT-proBNP が心房細動のない患者について2500 pg/ml 以上であるべきであり、又は心房細動の患者について5000 pg/ml 以上であるべきである。
駆出率EFが31%以上~35%以下である場合には、上昇されたNT-proBNP が心房細動のない患者について1000 pg/ml 以上であるべきであり、又は心房細動の患者について2000 pg/ml以上であるべきである。
駆出率EFが30%以下である場合には、上昇された NT-proBNP が心房細動のない患者について600 pg/ml以上であるべきであり、又は心房細動の患者について1200 pg/ml 以上であるべきである。
その研究は事象由来であり、一次終点事象の患者の特定数が到達されるまで全てのランダム化された患者が試験に留まるであろう。確かめられた宣告された一時終点事象の数がその研究中に絶えず監視されるであろう。
心血管リスク因子を有する患者を通常のケアに従って治療し、これは、例えば、ICD 、CRT-D 又はCRT-P を含む心臓装置療法とともに、又はこれを用いずに、利尿薬、ARNi、ACEi、ARB 、スタチン類、アスピリン、ベータ遮断薬、ミネラルコルチコイドアンタゴニスト又はイバブラジンから選ばれた治療薬による治療を含む。
研究における患者は下記の基準に従う:
-18才より上の年齢
-心不全(HF)の診断。この研究における包含についてのHFの特定は40%以下(局所の読みにつき)の左心室駆出率 (LVEF)(理想的には心エコー検査により得られるが、放射核種脳室造影及び血管造影が許容し得る)である。駆出率値はランダム化の前かつ心筋梗塞(MI)又は駆出率に影響するその他の事象の後の6ヶ月以内に得られることが好ましい。
―心不全(HF)の一つ以上の症候 (NYHA クラス II-IV)
-下記の少なくとも一つ:上昇されたNT-proBNP≧600 pg/mL かつ/又は患者が過去9ヶ月以内に心不全のために入院させられた場合には、上昇されたNT-proBNP≧400 pg/mL
-必要とされる場合には心不全のバックグラウンド療法
-必要とされる場合には坑糖尿病バックグラウンド
-体格指数 (BMI) < 45 kg/m2
-eGFR≧20 mL/分 /1.73 m2 又はeGFR≧30 mL/分 /1.73 m2
【0053】
心不全のための心血管死又は入院までの時間を偽薬に対してエンパグリフロジン (例えば、毎日1回10mg) で治療された心不全と低減された駆出率 (前記された基準に従う) の患者で測定する。
下記の事象の一つ以上を測定する:
-心不全のための最初の入院までの時間
-基準線からの変化のeGFR (CKD-EPI)傾斜
-40% eGFR (CKD-EPI) 以上の持続された低減の最初の発生までの時間
-基準線eGFR≧30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <15 mL/分/1.73 m2 の最初の発生までの時間
-基準線eGFR <30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続された eGFR (CKD-EPI) <10 mL/分/1.73 m2 の最初の発生までの時間
-40% eGFR (CKD-EPI) 以上の持続された低減又は
基準線eGFR≧30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <15 mL/分/1.73 m2 、基準線eGFR <30 mL/分/1.73 m2の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <10 mL/分/1.73 m2 の最初の発生までの時間の複合
-40% eGFR (CKD-EPI) 以上の持続された低減又は
基準線eGFR≧30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <15 mL/分/1.73 m2 、及び基準線eGFR <30 mL/分/1.73 m2の、又は慢性の透析治療の必要もしくは腎臓の移植を受ける必要の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <10 mL/分/1.73 m2 の最初の発生までの時間-心血管死までの時間の複合
-あらゆる原因の死亡までの時間
-健康関連の生活の質 (例えば、KCCQ又はKCCQ-12 により測定されるような)
-非糖尿病患者における2型真性糖尿病の新たな発生までの時間
【0054】
-心不全のための再入院までの時間
-NYHA分類の変化
-初回及び/又は再発を含む、あらゆる原因の入院までの時間
-心房細動の新たな発生までの時間
-非致死性又は致死性の心筋梗塞までの時間
-非致死性又は致死性の卒中までの時間
-心血管死又は心筋梗塞の複合症までの時間
-心血管死又は卒中の複合症までの時間
-心血管死 (致死性卒中、致死性心筋梗塞及び突然死を含む) 、非致死性心筋梗塞、非致死性卒中 (所謂3点MACE)のいずれかまでの時間
-eGFRの変化
-マクロアルブミン尿 (アルブミン/クレアチニン比 (ACR)≧300 mg/gと定義される)への進行
-慢性透析治療の必要までの時間
-腎臓の移植を受ける必要までの時間
-eGFR減少、腎臓の交換療法又は腎臓死の複合
-eGFR減少、腎臓の交換療法、腎臓死又は心血管死の複合
-eGFR減少、腎臓の交換療法、腎臓死又はあらゆる原因の死亡の複合
【0055】
実施例2:慢性心不全及びHFpEF の患者の治療
慢性心不全及び保存された駆出率の患者の妥当な集団におけるエンパグリフロジンによる治療の心不全のための心血管死又は入院及びその他のパラメーターについての長期の影響を以下のように調べる:
慢性心不全及びNYHA II 、III 又はIVの症候及び保存された駆出率 (40%より大きく、又は50%より大きいLVEF)の患者をエンパグリフロジン(必要により一種以上のその他の活性物質、例えば、本明細書に記載されたものと組み合わせて)で長期(例えば、それぞれの患者について約20~38ヶ月)にわたって治療し、通常のケアバックグラウンド医療で偽薬で治療された患者と比較する。
エンパグリフロジンを毎日1回経口投与する (例えば、毎日10 mg)。患者は非糖尿病患者、前糖尿病の患者及び2型真性糖尿病の患者を含む。HbA1c が5.7%以上かつ6.5%未満である場合、前糖尿病が診断される。HbA1c が5.7%未満である場合、個体は非糖尿病患者である。
患者は40%より大きく、特に50%より大きいLVEFを有する。
【0056】
患者は過去9ヶ月以内に心不全のために入院させられ、かつ/又は上昇されたBNP≧75pg/mL 又はNT-proBNP≧300 pg/mL(心房細動(AF)のない患者について)或いは上昇された BNP>225 pg/mL 又はNT-proBNP >900 pg/mL(心房細動(AF)の患者について)を有する個体を含む。
その研究は事象由来であり、一次終点事象の患者の特定数が到達されるまで全てのランダム化された患者が試験に留まるであろう。確かめられた宣告された一時終点事象の数がその研究中に絶えず監視されるであろう。
心血管リスク因子を有する患者を通常のケアに従って治療し、これは対症治療、並びに高血圧、真性糖尿病、及び脂質異常を含む心血管リスク因子の治療を含む。
研究における患者は下記の基準に従う:
-18才より上の年齢
-心不全(HF)の診断。この研究における包含についてのHFの特定は40%より大きい(局所の読みにつき)の左心室駆出率 (LVEF)(理想的には心エコー検査により得られるが、放射核種脳室造影及び血管造影が許容し得る)である。駆出率値はランダム化の前かつ心筋梗塞(MI)又は駆出率に影響するその他の事象の後の6ヶ月以内に得られることが好ましい。
―心不全(HF)の一つ以上の症候 (NYHA クラス II-IV)
-心エコー図により記録される構造心臓疾患(左心房拡大又は左心室肥大)
-下記の少なくとも一つ:過去9ヶ月以内に心不全のための入院及び/又は上昇されたNT-proBNP(心房細動(AF)のない患者について>300 pg/mL 又は心房細動(AF)の患者について>900 pg/mL)
-必要とされる場合には心不全のバックグラウンド療法
-必要とされる場合には坑糖尿病バックグラウンド
-体格指数 (BMI) < 45 kg/m2
-eGFR≧20 mL/分 /1.73 m2 又はeGFR≧30 mL/分 /1.73 m2
【0057】
心不全のための心血管死又は入院までの時間を偽薬に対してエンパグリフロジン (例えば、毎日1回10mg) で治療された心不全と保存された駆出率 (前記された基準に従う) の患者で測定する。
下記の事象の一つ以上を測定する:
-心不全のための最初の入院までの時間
-基準線からの変化のeGFR (CKD-EPI)傾斜
-40% eGFR (CKD-EPI) 以上の持続された低減の最初の発生までの時間
-基準線eGFR≧30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <15 mL/分/1.73 m2 の最初の発生までの時間
-基準線eGFR <30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <10 mL/分/1.73 m2 の最初の発生までの時間
-40% eGFR (CKD-EPI) 以上の持続された低減又は
基準線eGFR≧30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <15 mL/分 /1.73 m2 、基準線eGFR <30 mL/分/1.73 m2の患者について持続された eGFR (CKD-EPI) <10 mL/分/1.73 m2 の最初の発生までの時間の複合
-40% eGFR (CKD-EPI) 以上の持続された低減又は
基準線eGFR≧30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <15 mL/分/1.73 m2 、基準線eGFR <30 mL/分/1.73 m2の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <10 mL/分/1.73m2の最初の発生までの時間の複合
-40% eGFR (CKD-EPI) 以上の持続された低減又は
基準線eGFR≧30 mL/分/1.73 m2 の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <15 mL/分/1.73 m2 、基準線eGFR <30 mL/分/1.73 m2の、又は慢性の透析治療の必要もしくは腎臓の移植を受ける必要の患者について持続されたeGFR (CKD-EPI) <10 mL/分/1.73 m2 の最初の発生までの時間の複合
-心血管死までの時間
-あらゆる原因の死亡までの時間
-健康関連の生活の質 (例えば、KCCQ又はKCCQ-12 により測定されるような)
-非糖尿病患者における2型真性糖尿病の新たな発生までの時間
【0058】
-心不全のための再入院までの時間
-NYHA分類の変化
-初回及び/又は再発を含む、あらゆる原因の入院までの時間
-心房細動の新たな発生までの時間
-非致死性又は致死性の心筋梗塞までの時間
-非致死性又は致死性の卒中までの時間
-心血管死 (致死性卒中、致死性心筋梗塞及び突然死を含む) 、非致死性心筋梗塞(無症状心筋梗塞を除く)、非致死性卒中 (所謂3点MACE)
-eGFRの変化
-マクロアルブミン尿 (アルブミン/クレアチニン比 (ACR)≧300 mg/gと定義される)への進行
-慢性透析治療の必要までの時間
-腎臓の移植を受ける必要までの時間
-eGFR減少、腎臓の交換療法又は腎臓死の複合
-eGFR減少、腎臓の交換療法、腎臓死又は心血管死の複合
-eGFR減少、腎臓の交換療法、腎臓死又はあらゆる原因の死亡の複合
健康関連の生活の質はKCCQ又はKCCQ-12 に従って測定し得る。KCCQ-12 は初期の23項目のKCCQ (カンサス・シティ心筋症質問紙) の有効化された短いバージョンである。この自己管理質問紙はHFの患者の肉体的制限、症候(頻度、重度、及び経時変化)、社会的制限、自己効力、及び生活の質を評価するように設計されている。
【0059】
実施例3:慢性心不全及びHFrEF の患者の治療
慢性心不全及び低減された駆出率及び虚弱の患者の妥当な集団における機能性能力及びその他のパラメーターについてのエンパグリフロジンによる治療の影響を以下のように調べる:
慢性心不全及びNYHA II 、III 又はIVの症候及び低減された駆出率 (40%以下のLVEF) 並びに上昇されたBNP (又は上昇された NT-proBNP)(例えば、以下に特定されるような)、及び虚弱の患者をエンパグリフロジン(必要により一種以上のその他の活性物質、例えば、本明細書に記載されたものと組み合わせて)で時間の期間(例えば、それぞれの患者について約12週)にわたって治療し、通常のケアバックグラウンド医療で偽薬で治療された患者と比較する。
エンパグリフロジンを毎日1回経口投与する (例えば、毎日10 mg)。患者は非糖尿病患者、前糖尿病の患者及び2型真性糖尿病の患者を含む。HbA1c が5.7%以上かつ6.5%未満である場合、前糖尿病が診断される。HbA1c が5.7%未満である場合、個体は非糖尿病患者である。
患者は40%以下のLVEFを有する。
【0060】
上昇された BNP (又は上昇された NT-proBNP) の患者は下記の一つを有すると特定される:
-上昇された BNP≧150 pg/mL 又はNT-proBNP ≧600 pg/mL; 或いは
-患者が過去9ヶ月以内に心不全のために入院させられた場合には、上昇された BNP≧100 pg/mL 又はNT-proBNP≧400 pg/mL。
低減された駆出率の患者は下記の心不全の証拠の少なくとも一つに従って含まれてもよい:
駆出率EFが36%以上~40%以下である場合には、上昇されたNT-proBNP が心房細動のない患者について2500 pg/ml 以上であるべきであり、又は心房細動の患者について5000 pg/ml 以上であるべきである。
駆出率EFが31%以上~35%以下である場合には、上昇されたNT-proBNP が心房細動のない患者について1000 pg/ml 以上であるべきであり、又は心房細動の患者について2000 pg/ml以上であるべきである。
駆出率EFが30%以下である場合には、上昇されたNT-proBNP が心房細動のない患者について600 pg/ml以上であるべきであり、又は心房細動の患者について1200 pg/ml 以上であるべきである。
虚弱の患者は、例えば、6分の歩行試験で患者が350 メーター未満の距離を歩き遂げる場合にその研究に含まれる。
それぞれの患者についての研究期間の終了時に、機能性能力、特に、運動能力、例えば、6分の歩行試験、及び更なる臨床パラメーター(例えば、以下のような)を、調べる。
心血管リスク因子を有する患者を通常のケアに従って治療し、これは、例えば、ICD 、CRT-D 又はCRT-P を含む心臓装置療法とともに、又はこれを用いずに、利尿薬、ARNi、ACEi、ARB 、スタチン類、アスピリン、ベータ遮断薬、ミネラルコルチコイドアンタゴニスト又はイバブラジンから選ばれた治療薬による治療を含む。
研究における患者は下記の基準に従う:
-18才より上の年齢
-心不全(HF)の診断。この研究における包含についてのHFの特定は40%以下(局所の読みにつき)の左心室駆出率 (LVEF)(理想的には心エコー検査により得られるが、放射核種脳室造影及び血管造影が許容し得る)である。駆出率値はランダム化の前かつ心筋梗塞(MI)又は駆出率に影響するその他の事象の後の6ヶ月以内に得られることが好ましい。
―心不全(HF)の一つ以上の症候 (NYHA クラス II-IV)
-下記の少なくとも一つ:上昇されたNT-proBNP≧600 pg/mL かつ/又は患者が過去9ヶ月以内に心不全のために入院させられた場合には、上昇されたNT-proBNP≧400 pg/mL
-例えば、患者が350 メーター未満の距離を歩き遂げる6分の歩行試験により測定される、虚弱
-必要とされる場合には心不全のバックグラウンド療法
-必要とされる場合には坑糖尿病バックグラウンド
-体格指数 (BMI) < 45 kg/m2
-eGFR≧20 mL/分 /1.73 m2 又はeGFR≧30 mL/分 /1.73 m2
【0061】
時間の特定された期間、例えば、12週の終了時に、機能性能力、特に、運動能力、例えば、6分の歩行試験を、エンパグリフロジン (例えば、毎日1回10mg) 又は偽薬で治療された心不全と低減された駆出率 (前記された基準に従う) の患者で測定する。
下記の事象の一つ以上を測定する:
-NYHA分類の変化
-健康関連の生活の質(例えば、KCCQ又はKCCQ-12、MLHFQ 、疲労スコア、鬱病スコア、不安スコア、総合的評価スコアにより測定されるような)
-基準線バイオマーカー、例えば、NT-proBNPからの変化
-心不全のための最初の入院までの時間
-心不全のための再入院までの時間。
【0062】
実施例4:慢性心不全及びHFpEF の患者の治療
慢性心不全及び保存された駆出率及び虚弱の患者の妥当な集団における機能性能力及びその他のパラメーターについてのエンパグリフロジンによる治療の影響を以下のように調べる:
慢性心不全及びNYHA II 、III 又はIVの症候及び保存された駆出率 (40%より大きく、又は50%より大きいLVEF)及び虚弱の患者をエンパグリフロジン(必要により一種以上のその他の活性物質、例えば、本明細書に記載されたものと組み合わせて)で時間の期間(例えば、それぞれの患者について約12週)にわたって治療し、通常のケアバックグラウンド医療で偽薬で治療された患者と比較する。
エンパグリフロジンを毎日1回経口投与する (例えば、毎日10 mg)。患者は非糖尿病患者、前糖尿病の患者及び2型真性糖尿病の患者を含む。HbA1c が5.7%以上かつ6.5%未満である場合、前糖尿病が診断される。HbA1c が5.7%未満である場合、個体は非糖尿病患者である。
患者は40%より大きく、特に50%より大きいLVEFを有する。
【0063】
患者は過去9ヶ月以内に心不全のために入院させられ、かつ/又は上昇されたBNP≧75pg/mL 又はNT-proBNP≧300 pg/mL(心房細動(AF)のない患者について)又は上昇されたBNP>225pg/mL 又はNT-proBNP>900 pg/mL(心房細動(AF)の患者について)を有する個体を含む。
虚弱の患者は、例えば、6分の歩行試験で患者が350 メーター未満の距離を歩き遂げる場合にその研究に含まれる。
それぞれの患者についての研究期間の終了時に、機能性能力、特に、運動能力、例えば、6分の歩行試験、及び更なる臨床パラメーター(例えば、以下のような)を、調べる。
心血管リスク因子を有する患者を通常のケアに従って治療し、これは対症治療、並びに高血圧、真性糖尿病、及び脂質異常を含む心血管リスク因子の治療を含む。
研究における患者は下記の基準に従う:
-18才より上の年齢
-心不全(HF)の診断。この研究における包含についてのHFの特定は40%より大きい(局所の読みにつき)の左心室駆出率 (LVEF)(理想的には心エコー検査により得られるが、放射核種脳室造影及び血管造影が許容し得る)である。駆出率値はランダム化の前かつ心筋梗塞(MI)又は駆出率に影響するその他の事象の後の6ヶ月以内に得られることが好ましい。
―心不全(HF)の一つ以上の症候 (NYHA クラス II-IV)
-心エコー図により記録される構造心臓疾患(左心房拡大又は左心室肥大)
-下記の少なくとも一つ:過去9ヶ月以内の心不全入院及び/又は上昇されたNT-proBNP(心房細動(AF)のない患者について>300 pg/mL 又は心房細動(AF)の患者について>900 pg/mL)
-例えば、患者が350 メーター未満の距離を歩き遂げる6分の歩行試験により測定される、虚弱
-必要とされる場合には心不全のバックグラウンド療法
-必要とされる場合には坑糖尿病バックグラウンド
-体格指数 (BMI) < 45 kg/m2
-eGFR≧20 mL/分 /1.73 m2 又はeGFR≧30 mL/分 /1.73 m2
【0064】
時間の特定された期間、例えば、12週の終了時に、機能性能力、特に、運動能力、例えば、6分の歩行試験を、エンパグリフロジン (例えば、毎日1回10mg) 又は偽薬で治療された心不全と保存された駆出率 (前記された基準に従う) の患者で測定する。
下記の事象の一つ以上を測定する:
-NYHA分類の変化
-健康関連の生活の質(例えば、KCCQ又はKCCQ-12、MLHFQ 、疲労スコア、鬱病スコア、不安スコア、総合的評価スコアにより測定されるような)
-基準線バイオマーカー、例えば、NT-proBNPからの変化
-心不全のための最初の入院までの時間
-心不全のための再入院までの時間。
【0065】
医薬組成物及び剤形の実施例
経口投与のための固形の医薬組成物及び剤形の以下の実施例は本発明を更に充分に説明するのに利用できるが、それを実施例の内容に限定しない。経口投与のための組成物及び剤形の更なる例が、WO 2010/092126 に記載されている。“活性物質”という用語は本発明のエンパグリフロジン、特にWO 2006/117359 及びWO 2011/039107に記載されたその結晶性形態を表す。
活性物質エンパグリフロジン2.5 mg、5 mg、10 mg 又は25 mg を含む錠剤。成分の量がフィルム被覆錠剤当りのmgで提示される。
【0066】
【表2】
【0067】
錠剤の製造、活性医薬成分、賦形剤及びフィルム被覆系に関する詳細がWO 2010/092126、特にその実施例5及び6(これが本明細書にそのまま含まれる)に記載されている。
本発明のまた別の態様を、以下に記載する。
〔1〕エンパグリフロジンを必要とする患者に投与することを特徴とする患者の慢性心不全を治療し、予防し、それに対して保護し、又はその発生を遅延するための方法。
〔2〕エンパグリフロジンを慢性心不全の患者に投与することを特徴とする患者の心血管死のリスクを低減するための方法。
〔3〕エンパグリフロジンを慢性心不全の患者に投与することを特徴とする患者の心不全のための入院のリスクを低減するための方法。
〔4〕心不全のための入院のリスクが心不全のための最初の入院のリスクである、前記〔3〕記載の方法。
〔5〕エンパグリフロジンを慢性心不全の患者に投与することを特徴とする患者のあらゆる原因の死亡率を低減するための方法。
〔6〕エンパグリフロジンを慢性心不全の患者に投与することを特徴とする患者のあらゆる原因の入院のリスクを低減するための方法。
〔7〕エンパグリフロジンを慢性心不全の患者に投与することを特徴とする患者の心房細動の新たな発生のリスクを低減するための方法。
〔8〕エンパグリフロジンを必要とする患者に投与することを特徴とする患者の、急性非代償性心不全を含む、急性心不全を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延するための方法。
〔9〕エンパグリフロジンを慢性心不全の患者に投与することを特徴とする患者の慢性腎臓疾患を治療し、予防し、それに対して保護し、そのリスクを低減し、又はその発生を遅延し、かつ/又はその進行を遅延するための方法。
〔10〕エンパグリフロジンを慢性心不全の患者に投与することを特徴とする患者の健康関連の生活の質及び/又は機能性能力を改善するための方法。
〔11〕患者がNYHAクラスII、III 又はIVの慢性心不全の患者である、前記〔1〕から〔10〕の一つ以上に記載の方法。
〔12〕患者が保存された駆出率の患者である、前記〔1〕から〔11〕の一つ以上に記載の方法。
〔13〕患者が低減された駆出率の患者である、前記〔1〕から〔11〕の一つ以上に記載の方法。
〔14〕患者が前糖尿病、1型真性糖尿病又は2型真性糖尿病の患者である、前記〔1〕から〔13〕の一つ以上に記載の方法。
〔15〕患者が非糖尿病の患者である、前記〔1〕から〔13〕の一つ以上に記載の方法。
〔16〕患者が20 mL/分 /1.73m 2 以上のeGFR又は30 mL/分 /1.73m 2 以上のeGFR又は45 mL/分 /1.73m 2 以上のeGFR又は60 mL/分 /1.73m 2 以上のeGFRを有する、前記〔1〕から〔15〕の一つ以上に記載の方法。
〔17〕エンパグリフロジンを1 mgから25 mg までの範囲の用量で投与する、前記〔1〕から〔16〕の一つ以上に記載の方法。
〔18〕エンパグリフロジンを一種以上のその他の治療物質と組み合わせて患者に投与する、前記〔1〕から〔17〕の一つ以上に記載の方法。
〔19〕一種以上のその他の治療物質が慢性心不全の治療に指示される活性物質、坑糖尿病物質、血液中の全コレステロール、LDL-コレステロール、非HDL-コレステロール及び/又はLp(a) レベルを低下する活性物質、血液中のHDL-コレステロールレベルを上昇する活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム硬化症又は肥満の治療に指示される活性物質、坑血小板物質、血液凝固阻止薬、及び血管内皮保護薬からなる群から選ばれる、前記〔18〕記載の方法。