(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に対して特異性を有する抗体及びその診断目的のための使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/10 20060101AFI20240314BHJP
G01N 33/576 20060101ALI20240314BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240314BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
C07K16/10
G01N33/576 Z
C12M1/34 F
C12N15/13 ZNA
(21)【出願番号】P 2021500657
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2019068341
(87)【国際公開番号】W WO2020011755
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-04-11
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】595070257
【氏名又は名称】アンスティトゥー パストゥール ド リール
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】518338518
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】コックレル-ディプロイ,ロランス
(72)【発明者】
【氏名】モンペリエ,クレール
(72)【発明者】
【氏名】デュブイッソン,ジャン
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-226136(JP,A)
【文献】C. Montpellier, et al.,Gastroenterology,2018年,Vol.154,p.211-223
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に結合する抗体であって、E型肝炎ウイルスのORF2gタンパク質にもORF2cにも結合せず、前記抗体が、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含むエピトープに結合する、抗体。
【請求項2】
ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
Fab'、Fab、F(ab')2、scFv、又は単一ドメイン抗体である、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
検出可能な標識とコンジュゲートしている、請求項1記載の抗体。
【請求項5】
前記検出可能な標識が、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識、又は生物発光標識である、請求項4記載の抗体。
【請求項6】
前記標識が、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ)、及びアルカリホスファターゼからなる群から選択される、請求項4記載の抗体。
【請求項7】
サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を判定するための、請求項1記載の抗体の使用。
【請求項8】
サンプル中のORF2iタンパク質の存在を検出する方法であって、前記タンパク質と請求項1記載の抗体との免疫複合体が形成される条件下で前記サンプルを前記抗体と接触させることを含み、前記免疫複合体の検出が、前記サンプル中の前記ORF2iタンパク質の存在を示す方法。
【請求項9】
サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を検出する方法であって、請求項1記載の抗体と前記感染性粒子との免疫複合体が形成される条件下で前記サンプルを前記抗体と接触させることを含み、前記免疫複合体の検出が、前記サンプル中の前記感染性粒子の存在を示す方法。
【請求項10】
前記サンプルが、糞便、血液、腹水、尿、唾液、汗、乳汁、滑液、腹腔液、羊水、脳脊髄液、リンパ液、肺塞栓、脳脊髄液、及び心嚢液からなる群から選択される、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
急性HEV感染症、亜急性HEV感染症、慢性HEV感染症、弱活動性HEV感染症、又はクリアランスされたHEV感染症を診断するための、請求項1記載の抗
体。
【請求項12】
固体支持体上に固定化されている又はされていない請求項1記載の少なくとも1つの抗体を含む、サンプル中の感染性E型肝炎ウイルス粒子の存在を同定するためのキット又は装置。
【請求項13】
フローイムノアッセイ装置である、請求項12に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に対して特異性を有する抗体及びその診断目的のための使用に関する。
【0002】
本発明の背景:
E型肝炎ウイルス(HEV)は、主に世界の発展途上地域において、年間2,000万人の感染に関与しており、340万人が症候性であり、そして、7万人が死亡している。それは、水媒介性の大流行として又は糞口経路を介して孤発例として急性肝炎を引き起こす(Debing Y, Moradpour D, Neyts J, et al. Update on Hepatitis E Virology: Implications for Clinical Practice.Journal of Hepatology 2016;65:200-212)。HEVによる感染は通常自己回復するが、主に免疫不全患者において重症型又は慢性感染が報告されている。妊婦の死亡率が高いことも報告されている。また、HEV感染は肝外障害にも関連している(Pischke S, Hartl J, Pas SD, et al. Hepatitis E virus infection beyond the liver? Journal of Hepatology 2016. 10.1016/j.jhep.2016.11.016)。ヒトでは、4つの遺伝子型(gt)が病原性である。gt1及びgt2はヒトのみに感染するが、gt3及びgt4は人獣共通感染性であり、主に哺乳動物に感染し、時折ヒトへも伝染する。最近、西欧諸国では、汚染された食品の摂取及び輸血に起因している可能性のあるgt3感染が出現している(Debing Y, Moradpour D, Neyts J, et al. Update on Hepatitis E Virology:Implications for Clinical Practice.Journal of Hepatology 2016;65:200-212)。E型肝炎の診断は、患者血清中の抗HEV抗体及び/又はウイルスRNAの検出に基づいてる(Khuroo MS, Khuroo MS. Hepatitis E: an emerging global disease - from discovery towards control and cure. Journal of Viral Hepatitis 2016;23:68-79)。最近、特に分子診断設備を有しない研究室のためのHEV抗原カプシドタンパク質の検出に基づく新規アッセイが開発された(Wantai Biologicals)。
【0003】
HEVは、3つのオープンリーディングフレーム(ORF)、すなわち、ORF1、ORF2、及びORF3を含む線状一本鎖ポジティブセンスRNAゲノムを含む疑似エンベロープウイルス(quasi-enveloped virus)である(Debing Y, Moradpour D, Neyts J, et al. Update on Hepatitis E Virology:Implications for Clinical Practice.Journal of Hepatology 2016;65:200-212)。ORF1は、ウイルスの複製に不可欠な幾つかの機能ドメインを含む非構造的ポリタンパク質(ORF1タンパク質)をコードしている最大の遺伝子である。ORF2は、粒子の組み立て、宿主細胞への結合、及び中和抗体の誘発に関与するORF2ウイルスカプシドタンパク質をコードしている。ORF3は、ウイルスの形態形成及び放出に関与する小さな多機能リンタンパク質をコードしている。HEVは、胆汁及び糞便中に存在する非エンベロープウイルスであるが、患者血清及び細胞培養で生成された粒子は、細胞脂質に結合し、そして、その表面にORF3タンパク質を提示することが報告されている(Okamoto H. Culture systems for hepatitis E virus. J Gastroenterol 2012;48:147-158)。
【0004】
最近、ORF2カプシドタンパク質の3つの異なる形態が同定された:感染性/細胞内ORF2(ORF2i)、グリコシル化ORF2(ORF2g)、及び切断型ORF2(ORF2c)(Montpellier C., et al. "Hepatitis E virus lifecycle and identification of the 3 forms of the ORF2 capsid protein. "Gastroenterology 154.1 (2018): 211-223)。正確な配列が同定されているORF2iタンパク質は、感染性粒子に結合する形態である。ORF2iタンパク質はグリコシル化されず、そして、小胞体(ER)内腔には移動しない可能性が高く、そして、細胞質内に留まる。対照的に、ORF2g及びORF2cのタンパク質は、細胞培養物及び感染患者の血清中に多量に分泌され、シアル化、N-グリコシル化、及びO-グリコシル化されるが、感染性ビリオンとは結合しない。重要なことに、ORF2g及びORF2cのタンパク質は、HEV感染患者の血清中に存在する主な抗原である。したがって、ORF2iタンパク質に対して特異性を有する抗体が、HEVの診断に好適であろう。
【0005】
本発明の概要:
本発明は、E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に対して特異性を有する抗体及びその診断目的のための使用に関する。具体的には、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0006】
発明を実施するための形態:
本発明の第1の目的は、E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に結合する抗体であって、E型肝炎ウイルスのORF2gタンパク質にもORF2cにも結合せず、該抗体のエピトープが、配列番号1のアミノ酸残基542~555のうちの少なくとも1つのアミノ酸残基を含む抗体に関する。
【0007】
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は、互換的に使用され、そして、ペプチド結合によって共有結合しているアミノ酸残基で構成される化合物を指す。ポリペプチドは、特定の長さに限定されない:少なくとも2つのアミノ酸を含有していなければならず、そして、ポリペプチドの配列を含み得るアミノ酸の最大数は限定されない。ペプチド、オリゴペプチド、及びタンパク質は、ポリペプチドの定義内に含まれ、そして、このような用語は、特に明記されていない限り、本明細書では互換的に使用され得る。本明細書で使用するとき、該用語は、例えば当技術分野において一般的にペプチド、オリゴペプチド、及びオリゴマーとも称される短い鎖、並びに当技術分野において一般的にタンパク質と称されるより長い鎖の両方を指し、これらには多くの種類が存在する。一実施態様では、本明細書で使用するとき、用語「ペプチド」は、好ましくは約50アミノ酸残基未満の鎖長を有する、ペプチド結合によって互いに連結されたアミノ酸の線状ポリマーを指し;「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって互いに連結された少なくとも50アミノ酸の線状ポリマーを指し;そして、タンパク質は、具体的には、場合によりグリコシル化される1つ以上のペプチド又はポリペプチド、及び場合により非ポリペプチドコファクターから形成される機能的実体を指す。この用語はまた、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化等のポリペプチドの発現後修飾、及び当技術分野において公知の他の修飾を、天然に存在するもの及び天然には存在しないもののいずれも除外する。ポリペプチドは、タンパク質全体であってもよく、その部分配列であってもよい。「ポリペプチド」は、例えば、数ある中でも、生物学的に活性のある断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの変異体、修飾ポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパク質を含む。ポリペプチドは、天然ペプチド、組換えペプチド、又はこれらの組み合わせを含む。
【0008】
本明細書で使用するとき、用語「ORF2iタンパク質」は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むE型肝炎ウイルスORF2カプシドタンパク質(ORF2i)であって、グリコシル化されていないタンパク質を指す。
【化1】
【0009】
本発明によれば、本発明のORF2iタンパク質の質量は約80kDaである。
【0010】
本明細書で使用するとき、用語「ORF2gタンパク質」は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むE型肝炎ウイルスORF2カプシドタンパク質(ORF2g)であって、グリコシル化されているタンパク質を指す。
【化2】
【0011】
本発明によれば、本発明のORF2gタンパク質の質量は約90kDaである。
【0012】
本明細書で使用するとき、用語「ORF2cタンパク質」は、配列番号3に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むE型肝炎ウイルスORF2カプシドタンパク質(ORF2c)であって、グリコシル化されているタンパク質を指す。
【化3】
【0013】
本発明によれば、本発明のORF2cタンパク質の質量は約75kDaである。
【0014】
本明細書で使用するとき、タンパク質に関する「グリコシル化されている」という用語は、タンパク質分子の1つ以上の部位に炭水化物部分が存在することを意味する。特に、グリコシル化されているタンパク質とは、典型的には、N-グリカン又はO-グリカンの付加によって修飾されたタンパク質を指す。
【0015】
本発明によれば、第2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する第1のアミノ酸配列とは、第1の配列が、第2のアミノ酸配列と90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%の同一性を有することを意味する。配列同一性は、同一性(又は類似性若しくは相同性)の割合の観点で測定されることが多く;この割合が高いほど、2つの配列はより類似している。比較のために配列をアラインメントする方法は、当技術分野において周知である。様々なプログラム及びアラインメントアルゴリズムが、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math., 2:482, 1981;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol., 48:443, 1970;Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85:2444, 1988;Higgins and Sharp, Gene, 73:237-244, 1988;Higgins and Sharp, CABIOS, 5:151-153, 1989;Corpet et al. Nuc. Acids Res., 16:10881-10890, 1988;Huang et al., Comp. Appls Biosci., 8:155-165, 1992;及びPearson et al., Meth. Mol. Biol., 24:307-31, 1994)に記載されている。Altschul et al., Nat. Genet., 6:119-129, 1994は、配列アラインメント方法及び相同性計算についての詳細な考察を提示している。一例として、アラインメントツールALIGN(Myers and Miller, CABIOS 4:11-17, 1989)又はLFASTA(Pearson and Lipman, 1988)を使用して配列比較を実施することができる(Internet Program(登録商標) 1996, W. R. Pearson and the University of Virginia, fasta20u63 version 2.0u63、公開日1996年12月)。ALIGNは、配列全体を互いに対して比較するが、LFASTAは、局所的に類似している領域を比較する。これらアラインメントツール及びそのそれぞれのチュートリアルは、例えば、NCSAのウェブサイトにおいてインターネットで入手可能である。あるいは、約30アミノ酸を超えるアミノ酸配列の比較については、デフォルトパラメータ(ギャップイグジステンスコスト(gap existence cost)11及びパーレジデューギャップコスト(per residue gap cost)1)に設定されたデフォルトBLOSUM62マトリクスを使用して、Blast 2のシークエンス機能を使用することができる。短いペプチド(約30アミノ酸未満)をアラインメントする場合、デフォルトパラメータ(オープンギャップ9、エクステンションギャップ1ペナルティ)に設定されたPAM30マトリクスセットを使用して、Blast 2のシークエンス機能を使用してアラインメントを実施しなければならない。BLAST配列比較システムは、例えば、NCBIのウェブサイトから入手可能である;Altschul et al., J. Mol. Biol., 215:403-410, 1990;Gish. & States, Nature Genet., 3:266-272, 1993;Madden et al. Meth. Enzymol., 266:131-141, 1996;Altschul et al., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402, 1997;及びZhang & Madden, Genome Res., 7:649-656, 1997も参照されたい。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「抗体」は、当技術分野における一般的な意味を有し、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子を指し、そして、この用語は、Fab’、Fab、F(ab')2、及び単一ドメイン抗体(DAB)等の抗原結合ドメインを含む抗体断片を含む。天然抗体では、2本の重鎖がジスルフィド結合によって互いに結合しており、そして、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に結合している。2種類の軽鎖、ラムダ(l)及びカッパ(k)が存在する。抗体分子の機能活性を決定する5つの主な重鎖クラス(又はアイソタイプ):IgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEが存在する。各鎖は、別個の配列ドメインを含有する。軽鎖は、2つのドメイン、可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4つのドメイン、可変ドメイン(VH)及び3つの定常ドメイン(CHI、CH2、及びCH3、まとめてCHと称される)を含む。軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の両方の可変領域が、抗原に対する結合認識及び特異性を決定する。軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の定常領域ドメインは、抗体鎖の会合、分泌、経胎盤移動性、補体結合、及びFc受容体(FcR)への結合等の重要な生物学的特性を付与する。Fv断片は、免疫グロブリンのFab断片のN末端部であり、そして、1本の軽鎖及び1本の重鎖の可変部からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性に帰する。抗体結合部位は、主に超可変性領域又は相補性決定領域(CDR)に由来する残基で構成される。時折、非超可変性領域又はフレームワーク領域(FR)由来の残基が、全体的なドメイン構造、ひいては結合部位に影響を与える。相補性決定領域又はCDRは、ネイティブ免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合の親和性及び特異性を共に規定するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖は、それぞれ3つのCDRを有し、それぞれ、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3及びH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3と命名される。したがって、抗原結合部位は、重鎖及び軽鎖の各V領域に由来するCDRセットを含む6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に介在するアミノ酸配列を指す。
【0017】
用語「抗体断片」は、(例えば、結合、立体障害、安定化/不安定化、空間分布によって)抗原のエピトープと特異的に相互作用する能力を保持している、インタクトな抗体の少なくとも1つの部分、好ましくはインタクトな抗体の抗原結合領域又は可変領域を指す。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、単鎖抗体分子、特にscFv抗体断片、ジスルフィド結合しているFv(sdFv)、VHドメイン及びCHIドメインからなるFd断片、線状抗体、単一ドメイン抗体、例えば、sdAb(VL又はVHのいずれか)、ラクダVHHドメイン、抗体断片、例えばヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片から形成される多重特異的抗体、並びに単離CDR、又は抗体の他のエピトープ結合断片が挙げられるが、これらに限定されない。また、抗原結合断片は、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、ナノボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR、及びbis-scFvに組み込むこともできる(例えば、Hollinger and Hudson, Nature Biotechnology 23:1126-1136, 2005を参照)。また、抗原結合断片は、フィブロネクチンIII型等のポリペプチドに基づく足場にグラフトすることもできる(フィブロネクチンポリペプチドミニボディについて記載している米国特許第6,703,199号を参照)。抗体のパパイン消化により、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片と残りの「Fc」断片とが生成されるが、この名称は容易に結晶化する能力を反映している。
【0018】
用語「Fab」は、プロテアーゼ、パパインでIgGを処理することによって得られる断片の中でも、H鎖のN末端側の約半分及びL鎖全体がジスルフィド結合を通して互いに結合している、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体断片を意味する。
【0019】
用語「F(ab')2」は、プロテアーゼ、ペプシンでIgGを処理することによって得られる断片の中でも、ヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合しているFabよりもわずかに大きい、約100,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体断片を指す。
【0020】
用語「Fab’」は、F(ab')2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することによって得られる、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体断片を指す。
【0021】
単鎖Fv(「scFv」)ポリペプチドは、ペプチドをコードしているリンカーによって連結されているVH及びVLをコードしている遺伝子を含む遺伝子融合物から通常発現する、共有結合しているVH:VLヘテロダイマーである。「dsFv」は、ジスルフィド結合によって安定化されたVH::VLヘテロダイマーである。二価及び多価の抗体断片は、一価scFVの結合によって自然に形成される場合もあり、例えば二価sc(Fv)2等、ペプチドリンカーによって一価scFVをカップリングさせることによって生成される場合もある。
【0022】
本発明によれば、本発明の抗体は、ORF2iタンパク質に対する特異性を有する。本明細書で使用するとき、用語「特異性」とは、ORF2iタンパク質上に提示されたエピトープには検出可能に結合するが、ORF2gタンパク質及びORF2cタンパク質との検出可能な反応性は比較的低い抗体の能力を指す。
【0023】
本明細書で使用するとき、用語「エピトープ」は、抗体が結合するタンパク質上に位置するアミノ酸の特定の配置を指す。エピトープは、アミノ酸又は糖の側鎖等の分子の化学的に活性な表面基からなることが多く、そして、特異的な三次元構造特性及び比電荷特性を有する。エピトープは、線状であってもよく、高次構造、すなわち、必ずしも連続していなくてもよい抗原の様々な領域にアミノ酸の2つ以上の配列を含んでいてもよい。したがって、本発明のエピトープは、配列番号1の542~555位のアミノ酸残基(すなわち、配列番号4)のうちの少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。
配列番号4
AGYPYNYNTTASDQ
【0024】
幾つかの実施態様では、本発明の抗体は、配列番号4又は配列番号4に対して少なくとも90%の同一性を共有する配列のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14アミノ酸残基を含むエピトープに結合する。
【0025】
一実施態様では、本発明の抗体は、配列番号4に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に対して少なくとも90%の同一性を共有するアミノ酸配列を含むエピトープに結合する。
【0026】
本明細書で使用するとき、用語「結合」は、本明細書で使用するとき、例えば、塩橋及び水架橋等の相互作用を含む、共有結合性、静電性、疎水性、並びにイオン結合性及び/又は水素結合性の相互作用に起因する、2つの分子間の直接的な会合を指す。特に、本明細書で使用するとき、所定の抗原又はエピトープに対する抗体の結合に関連する用語「結合」は、典型的には、約10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下、約10-10M以下、又は約10-11M以下、又は更にはそれ以下のKDに相当する親和性での結合である。
【0027】
特異性は、例えば、本明細書の他の箇所に記載の通り、Biacore機器を使用して結合又は競合結合のアッセイによって相対的に判定することができる。特異性は、他の無関係な分子に対する非特異的結合に対して特異的抗原に対する結合における親和性/結合活性の比が、例えば、約10:1、約20:1、約50:1、約100:1、10.000:1、又はそれ以上であることによって示され得る。用語「親和性」とは、本明細書で使用するとき、エピトープに対する抗体の結合の強さを意味する。抗体の親和性は、[Ab]×[Ag]/[Ab-Ag](式中、[Ab-Ag]は、抗体-抗原複合体のモル濃度であり、[Ab]は、未結合抗体のモル濃度であり、そして、[Ag]は、未結合抗原のモル濃度である)として定義される解離定数Kdによって与えられる。親和性定数Kaは、1/Kdによって定義される。mAbの親和性を決定するための好ましい方法は、Harlow, et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1988)、Coligan et al., eds., Current Protocols in Immunology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience, N.Y., (1992, 1993)、及びMuller, Meth. Enzymol. 92:589-601 (1983)に見出すことができ、これら参照文献は、全体が参照により本明細書に組み入れられる。mAbの親和性を決定するための当技術分野において周知である好ましい標準的な一方法は、Biacore機器の使用である。
【0028】
幾つかの実施態様では、抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である。用語「ポリクローナル抗体」は、本明細書で使用するとき、免疫後に抗原に対して産生され、その抗原の1つ以上のエピトープを認識し、そして、結合することができる抗血清中の複数の免疫グロブリンを指す。用語「モノクローナル抗体」、「モノクローナルAb」、「モノクローナル抗体組成物」、「mAb」等は、本明細書で使用するとき、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は、Kohler及びMilstein(Nature, 256:495, 1975)の方法を用いて作製することができる。本発明において有用なモノクローナル抗体を調製するためには、マウス又は他の適切な宿主動物(例えば、マウス、ヤギ、ラクダ...)を、好適な間隔(例えば、週2回、週1回、月2回、又は月1回)で、関連するウイルス抗原性形態で免疫する。典型的には、免疫原性形態は、配列番号1の542~555位のアミノ残基の範囲のアミノ酸配列(すなわち、配列番号4)を有するペプチドからなる。殺処分の1週間以内に抗原性形態の最後の「ブースト」を動物に投与してよい。免疫中に免疫アジュバントを使用することが望ましい場合が多い。好適な免疫アジュバントは、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、ミョウバン、Ribiアジュバント、HunterのTytermax、QS21若しくはQuil A等のサポニンアジュバント、又はCpG含有免疫賦活性オリゴヌクレオチドを含む。他の好適なアジュバントは、当技術分野において周知である。皮下、腹腔内、筋肉内、静脈内、鼻腔内、又は他の経路によって動物を免疫してよい。免疫レジメンに続いて、動物の脾臓、リンパ節、又は他の器官からリンパ球を単離し、そして、ポリエチレングリコール等の剤を用いて好適な骨髄腫細胞株と融合させて、ハイブリドーマを形成する。融合後、記載の通り(Coding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice: Production and Application of Monoclonal Antibodies in Cell Biology, Biochemistry and Immunology, 3rd edition, Academic Press, New York, 1996)、標準的な方法を用いて、ハイブリドーマの増殖は許容するが、融合パートナーは許容しない培地に細胞を入れる。ハイブリドーマの培養後、所望の特異性の、すなわち、抗原に選択的に結合する抗体の存在について細胞上清を分析する。好適な分析技術は、ELISA、免疫蛍光、フローサイトメトリー、免疫沈降、ウエスタンブロッティングを含む。他のスクリーニング技術は、当技術分野において周知である。好ましい技術は、非変性ELISA、フローサイトメトリー、及び免疫沈降等、高次構造的にインタクトでネイティブに折り畳まれた抗原に対する抗体の結合を確認する技術である。
【0029】
幾つかの実施態様では、本発明の抗体を検出可能な標識とコンジュゲートさせる。好適な検出可能な標識は、例えば、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識、生物発光標識、又はコロイド金を含む。このような検出可能に標識されたイムノコンジュゲートを作製及び検出する方法は当業者に周知であり、そして、以下により詳細に記載される。例えば、検出可能な標識は、オートラジオグラフィによって検出される放射性同位体であってよい。本発明の目的に特に有用な同位体は、3H、125I、131I、35S、及び14Cである。また、本発明の抗体は、蛍光化合物で標識してもよい。本発明の蛍光標識された抗体の存在は、適切な波長の光にイムノコンジュゲートを曝露し、そして、生じた蛍光を検出することによって判定される。蛍光標識化合物は、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルデヒド、及びフルオレサミン、及びAlexa Fluor色素を含む。あるいは、本発明の抗体は、化学発光化合物に該抗体をカップリングさせることによって検出可能に標識することもできる。化学発光タグの付いたイムノコンジュゲートの存在は、化学反応の過程において生じる発光の存在を検出することによって判定される。化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、及びシュウ酸エステルを含む。同様に、生物発光化合物を使用して、本発明の抗体を標識することができる。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を増大させる生体系においてみられる化学発光の種類である。生物発光タンパク質の存在は、発光の存在を検出することによって判定される。標識に有用な生物発光化合物は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びエクオリンを含む。典型的には、抗体を酵素にコンジュゲートさせ、次いで、抗体を適切な基質の存在下でインキュベートしたとき、酵素部分が基質と反応して、例えば分光光度的、蛍光的、又は視覚的な手段によって検出することができる化学部分を生成する。多重特異的イムノコンジュゲートを検出可能に標識するために使用することができる酵素の例は、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、及びアルカリホスファターゼを含む。当業者は、本発明に従って使用することができる他の好適な標識について理解している。マーカー部分の本発明の抗体に対する結合は、当技術分野で公知の標準的な技術を使用して達成され得る。これに関する典型的な方法論は、Kennedy et al., Clin. Chim. Acta 70: 1, 1976;Schurs et al., Clin. Chim. Acta 81 : 1, 1977;Shih et al., Int'U. Cancer 46: 1101, 1990;Stein et al, Cancer Res. 50: 1330, 1990;及びColigan, supra.によって記載されている。更に、アビジン、ストレプトアビジン、及びビオチンとコンジュゲートしている本発明の抗体を使用することによって、免疫化学的検出の利便性及び汎用性を高めることができる。{例えば、Wilchek et al. (eds.), "Avidin-Biotin Technology," Methods In Enzymology (Vol. 184) (Academic Press 1990); Bayer et al., "Immunochemical Applications of Avidin-Biotin Technology," in Methods In Molecular Biology (Vol. 10) 149- 162 (Manson, ed., The Humana Press, Inc. 1992)を参照)。
【0030】
幾つかの実施態様では、本発明の抗体を検出可能な標識とコンジュゲートさせる。好適な検出可能な標識は、例えば、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識、生物発光標識、又はコロイド金を含む。このような検出可能に標識されたイムノコンジュゲートを作製及び検出する方法は当業者に周知であり、そして、以下により詳細に記載される。例えば、検出可能な標識は、オートラジオグラフィによって検出される放射性同位体であってよい。本発明の目的に特に有用な同位体は、3H、125I、131I、35S、及び14Cである。また、本発明の抗体は、蛍光化合物で標識してもよい。本発明の蛍光標識された抗体の存在は、適切な波長の光にイムノコンジュゲートを曝露し、そして、生じた蛍光を検出することによって判定される。蛍光標識化合物は、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルデヒド、及びフルオレサミン、及びAlexa Fluor色素を含む。あるいは、本発明の抗体は、化学発光化合物に該抗体をカップリングさせることによって検出可能に標識することもできる。化学発光タグの付いたイムノコンジュゲートの存在は、化学反応の過程において生じる発光の存在を検出することによって判定される。化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、及びシュウ酸エステルを含む。同様に、生物発光化合物を使用して、本発明の抗体を標識することができる。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を増大させる生体系においてみられる化学発光の種類である。生物発光タンパク質の存在は、発光の存在を検出することによって判定される。標識に有用な生物発光化合物は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びエクオリンを含む。典型的には、抗体を上記の通り蛍光標識にコンジュゲートさせたとき、融合タンパク質の存在は、顕微鏡又は顕微鏡又は自動分析システム等の当技術分野において周知の任意の手段を用いて検出することができる。典型的には、抗体を酵素にコンジュゲートさせたとき、酵素部分が基質と反応して、例えば分光光度的、蛍光的、又は視覚的な手段によって検出することができる化学部分を生成する。多重特異的イムノコンジュゲートを検出可能に標識するために使用することができる酵素の例は、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ)、及びアルカリホスファターゼを含む。当業者は、本発明に従って使用することができる他の好適な標識について理解している。マーカー部分の本発明の抗抗体に対する結合は、当技術分野で公知の標準的な技術を使用して達成され得る。これに関する典型的な方法論は、Kennedy et al., Clin. Chim. Acta 70: 1, 1976;Schurs et al., Clin. Chim. Acta 81 : 1, 1977;Shih et al., Int'U. Cancer 46: 1101, 1990;Stein et al, Cancer Res. 50: 1330, 1990;及びColigan, supra.によって記載されている。更に、アビジン、ストレプトアビジン、及びビオチンとコンジュゲートしている本発明の抗体を使用することによって、免疫化学的検出の利便性及び汎用性を高めることができる。{例えば、Wilchek et al. (eds.), "Avidin-Biotin Technology," Methods In Enzymology (Vol. 184) (Academic Press 1990); Bayer et al., "Immunochemical Applications of Avidin-Biotin Technology," in Methods In Molecular Biology (Vol. 10) 149- 162 (Manson, ed., The Humana Press, Inc. 1992)を参照)。
【0031】
本発明の抗体は、特に診断目的の対象となる。特に、本発明の抗体は、サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を判定するのに好適である。より具体的には、本発明の抗体は、被験体におけるE型肝炎ウイルス感染症を診断するのに好適である。
【0032】
したがって、本発明の更なる目的は、サンプル中のORF2iタンパク質の存在を検出する方法であって、該タンパク質と本発明の抗体との免疫複合体が形成される条件下で該サンプルを該抗体と接触させることを含み、該免疫複合体の検出が、該サンプル中の該ORF2iタンパク質の存在を示す方法に関する(例えば、免疫沈降、免疫蛍光、及びウエスタンブロッティング)。
【0033】
本明細書で使用するとき、用語「サンプル」は、E型肝炎ウイルスの感染性粒子を含む可能性の高い任意の固体又は流体のサンプルを含む。幾つかの実施態様では、サンプルは、腹水;尿;唾液;汗;乳汁;滑膜液;腹腔液;羊水;過脳脊髄液(percerebrospinal fluid);リンパ液;肺塞栓;脳脊髄液;及び心嚢液からなる群から選択される。幾つかの実施態様では、サンプルは、糞便サンプルである。幾つかの実施態様では、サンプルは、尿サンプルである。幾つかの実施態様では、サンプルは、唾液サンプルである。幾つかの実施態様では、サンプルは、血液サンプルである。本明細書で使用するとき、用語「血液サンプル」は、被験体に由来する任意の血液サンプルを意味する。血液サンプルの採取は、当業者に周知の方法によって行うことができる。例えば、訓練を受けた医療従事者によって、クエン酸塩及びEDTA等の抗凝固剤に被験体の血液を直接採血することができる。3500×Gで2分間冷蔵遠心分離することにより、全血を血漿部分、細胞、及び血小板部分に分離することができる。遠心分離後、上清は血漿である。
【0034】
より具体的には、本発明の更なる目的は、サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を検出する方法であって、本発明の抗体と該感染性粒子との免疫複合体が形成される条件下で該サンプルを該抗体と接触させることを含み、該免疫複合体の検出が、該サンプル中の該感染性粒子の存在を示す方法に関する。
【0035】
幾つかの実施態様では、本発明の検出方法は、ORF2g及び/又はORF2cのタンパク質を認識する抗体をサンプルに接触させることを更に含んでいてもよい。
【0036】
本発明の検出方法は、急性HEV感染症、亜急性HEV感染症、慢性HEV感染症、弱活動性HEV感染症、又はクリアランスされたHEV感染症の診断に特に好適である。
【0037】
免疫複合体を検出するためのアッセイ及び条件は、当業者に公知である。このようなアッセイは、例えば、競合アッセイ、直接反応アッセイ、サンドイッチ型アッセイ、及びイムノアッセイ(例えば、ELISA)を含む。アッセイは、定量的であっても定性的であってもよい。本発明のタンパク質を含む抗体-ペプチド複合体の形成を検出するための多くの様々な従来のアッセイが存在する。例えば、検出工程は、ELISAアッセイの実行、ラテラルフローイムノアッセイの実行、凝集アッセイの実行、分析ローター内でのサンプルの分析、又は電気化学的、光学的、若しくは光電子的センサーを用いたサンプルの分析を含み得る。これら様々なアッセイは、当業者に周知である。
【0038】
例えば、サンドイッチアッセイ技術の多数のバリエーションのいずれかを使用して、イムノアッセイを行うことができる。簡潔に説明すると、典型的なサンドイッチアッセイでは、本発明の第1の抗体を固体表面上に固定化し、そして、試験するサンプルを、固定化された抗体と一定時間、免疫複合体を形成できる条件下で接触させる。インキュベーション後、検出可能な部位で標識された本発明の第2の抗体を添加し、そして、任意の免疫複合体と標識された抗体との間で三元複合体を形成できる条件下でインキュベートする。任意の未結合物質を洗い流し、そして、検出可能な部分によって直接又は間接的に生成されるシグナルを観察/検出することによって、サンプル中のポリペプチドの存在を判定する。検出は、定性的であっても定量的であってもよい。抗体等の生体分子を標識する方法は、当技術分野において周知である(例えば、"Affinity Techniques. Enzyme Purification: Part B", Methods in EnzymoL, 1974, Vol. 34, W.B. Jakoby and M. Wilneck (Eds.), Academic Press: New York, NY;及びM. Wilchek and E.A. Bayer, Anal. Biochem., 1988, 171 : 1-32を参照)。イムノアッセイにおいて最も一般的に使用される検出可能な部位は、酵素及びフルオロフォアである。酵素イムノアッセイ(EIA又はELISA)の場合、一般的にはグルタルアルデヒド又は過ヨウ素酸塩を用いて、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素を第2の抗体にコンジュゲートさせる。特異的酵素と共に使用される基質は、一般的に、対応する酵素により加水分解された際の検出可能な色の変化の発生について選択される。免疫蛍光の場合、第2の抗体は、その結合能を変化させることなく蛍光部分に化学的にカップリングする。蛍光標識された抗体を免疫複合体に結合させ、そして、任意の未結合の物質を除去した後、蛍光部分によって生成された蛍光シグナルを検出し、そして、任意で定量する。あるいは、第2の抗体を放射性同位体、化学発光部分、又は生物発光部分で標識してもよい。幾つかの実施態様では、アッセイは、本発明の抗体が直接又は間接的に結合している固相又は基材を利用する。したがって、幾つかの実施態様では、本発明の抗体は、固体又は半固体の支持体等の基材に結合又は固定化される。結合は、共有結合であっても非共有結合であってもよく、そして、共有結合又は非共有結合を可能にするタンパク質に結合する部分、例えば、担体、支持体、又は表面に結合している成分に対して高い親和性を有する部分等によって促進され得る。幾つかの実施態様では、基材は、ビーズ、例えば、コロイド粒子(例えば、金、銀、白金、銅、金属複合材、他の軟質金属、コア-シェル構造粒子、又は中空金ナノスフィアで構成されるコロイドナノ粒子)又は他の種類の粒子(例えば、磁気ビーズ、又はシリカ、ラテックス、ポリスチレン、ポリカーボナート、ポリアクリラート、若しくはPVDFを含む粒子若しくはナノ粒子)である。このような粒子は、標識(例えば、比色、化学発光、又は蛍光の標識)を含んでいてよく、そして、イムノアッセイ中にタンパク質の位置を可視化するのに有用であり得る。幾つかの実施態様では、基材は、ドットブロット又はラテラルフローイムノアッセイ装置における流路である。例えば、本発明の抗体は、多孔質膜、例えば、PVDFメンブレン(例えば、Immobilon(商標)メンブレン)、ニトロセルロースメンブレン、ポリエチレンメンブレン、ナイロンメンブレン、又は類似の種類のメンブレンに結合又は固定化させることができる。幾つかの実施態様では、基材は、分析ロータにおける流路である。幾つかの実施態様では、基材は、チューブ又はウェル、例えば、ELISAアッセイで使用するのに好適なプレート(例えば、マイクロタイタープレート)におけるウェルである。このような基材は、ガラス、セルロース系材料、熱可塑性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、若しくはポリエステル、粒子状材料(例えば、ガラス又は様々な熱可塑性ポリマー)で構成される焼結構造体、又はニトロセルロース、ナイロン、ポリスルホンで構成されるキャストメンブレンフィルム等を含んでいてよい。基材は、一般的に多孔質ポリエチレンとして知られている、焼結させたポリエチレンの微粒子、例えば、Chromex Corporation(Albuquerque, N. Mex)製の0.2~15マイクロメートルの多孔質ポリエチレンであってよい。これら基材材料はいずれも、フィルム、シート、若しくはプレート等の好適な形状で使用してもよく、又は紙、ガラス、プラスチックフィルム、若しくは布等の適切な不活性担体上にコーティング、接着、若しくは積層してもよい。ペプチドを固相に固定化するのに好適な方法は、イオン性、疎水性、共有結合性の相互作用等を含む。
【0039】
本発明の更なる目的は、本発明の少なくとも1つの抗体(上記の通り固体支持体上に固定化されているか否かにかかわらず)を含むサンプル中の感染性E型肝炎ウイルス粒子の存在を同定するためのキット又は装置に関する。幾つかの実施態様では、キットは、検出可能なシグナルを生成する本発明の第2の抗体を含み得る。幾つかの実施態様では、キットは、ORF2g及び/又はORF2cのタンパク質に対する特異性を有する抗体を更に含む。キットの例は、ELISAアッセイキット、並びに試験ストリップ及びディップスティックを含むキットを含むが、これらに限定されない。幾つかの実施態様では、本明細書に記載のキットは、タンパク質又は感染性粒子のレベルの参照値を更に含む。参照値は、典型的には、健常個体の集団由来のサンプルにおける平均レベルである。幾つかの実施態様では、本明細書に記載のキットは、サンプルを採取するための少なくとも1つのサンプル採取容器を更に含む。採取の装置及び容器は、注射器、ランセット、BD VACUTAINER(登録商標)採血チューブを含むが、これらに限定されない。幾つかの実施態様では、本明細書に記載のキットは、キットを使用するための説明書及び結果の解釈を更に含む。
【0040】
以下の図面及び実施例によって本発明を更に説明する。しかし、これら実施例及び図面は、いかなる手段によっても、本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】ペプチドAGYPYPYNYNTTASDQ(配列番号4)を用いたORF2iタンパク質に対する特異的抗体の生成。P2S2及び対照(CTL)のマウス血清並びに1E6抗体の反応性及び特異性を、(A)固定されたHEV感染細胞に対する免疫蛍光によって、そして、(B)ORF2タンパク質の混合物(ORF2i及びORF2g/ORF2c)に対するウエスタンブロッティングによって分析した。アスタリスクは、非特異的なバンドを示す。P2H1、P2H2、及びP2H3のハイブリドーマ上清並びに1E6抗体の反応性及び特異性を、(C)固定されたHEV感染細胞に対する免疫蛍光によって、そして、ORF2タンパク質の混合物(D)又はHEV感染細胞の抽出物(E)に対するウエスタンブロッティングによって分析した。
【0042】
結果:ペプチドAGYPYNYNTTASDQ(配列番号4)を用いたORF2iタンパク質に対する特異的抗体の生成
ORF2タンパク質配列は、シークオンAsn-X-Ser/Thr(N-X-S/T)に代表される3つの高度に保存されたN-グリコシル化部位を含有する。ORF2iタンパク質はグリコシル化されていないが、ORF2g及びORF2cのタンパク質は高度にN-グリコシル化されている(Montpellier et al. Gastroenterology, 2018)。3つの部位のうち、第3の部位(
549NTT、N3)は、ORF2g及びORF2cのタンパク質ではN-グリカンによって高度に(少なくとも95%)占有されている(Ankavay et al.、投稿中)。したがって、N3部位を網羅するペプチドは、ORF2i形態の高度に特異的な抗体を得るための優れた戦略となり得る。このような抗体は、グリコシル化されていないORF2iタンパク質は認識するが、グリコシル化されているORF2g及びORF2cのタンパク質は認識しない。株/遺伝子型間の特異性を検証するために、アミノ酸(a.a)510~580の間で配列アラインメントを行った(データは示さない)。二次構造の予測、免疫原性、親水性、及びアクセス性の予測を行って、免疫原に最適な配列を決定した。最後に、免疫用にペプチドAGYPYNYNTASDQ(配列番号4)を選択した。マウス免疫中のこの配列の免疫原性を高めるために、N末端位置にシステインを付加することによって、マレイミド機能を介してタンパク質担体KLHとのカップリングを行った。ルーチンなプロトコルに従って免疫を実施した。5頭のマウスを、3週間間隔で3回、ペプチド(配列番号4)で免疫した。免疫中にフロイントの完全アジュバント及び不完全アジュバントを使用した。動物を皮下及び腹腔内の経路によって免疫した。3回目の予防接種の10日後、マウスを出血させ、そして、その血清を免疫反応性について検査した。まず、ペプチド(配列番号4)でコーティングされたプレート上において間接的ELISAにより血清をアッセイした(データは示さない)。固定されたHEV感染細胞に対する免疫蛍光(IF)によって、その反応性を分析した(
図1A)。ORF2タンパク質の3つの形態を認識する1E6モノクローナル抗体(抗体登録番号AB-827236)(Montpellier et al., Gastroenterology, 2018)を陽性対照として用いた。陰性対照として、PBSで免疫したマウスの血清を用いた(CTLマウス)。
図1Aに示す通り、P2S2マウスの血清は、IFにおいて特異的反応性を示した。次に、抗原としてORF2タンパク質の混合物(ORF2i及びORF2g/ORF2c)を用いたウエスタンブロッティング実験において、P2S2血清の特異性を分析した(
図1B)。P2S2血清は、3つの形態を認識する1E6抗体と比較して、ORF2g/cタンパク質と交差反応せず、ORF2iタンパク質の高度に特異的な認識を示した。
【0043】
最後のブースト後、P2S2マウスを殺処分した。リンパ球を脾臓から単離し、そして、ポリエチレングリコールを用いて骨髄腫細胞株と融合させて、ハイブリドーマを形成した。融合後、細胞をハイブリドーマの増殖を許容する培地に入れた。ハイブリドーマの培養後、細胞上清を、まず、ペプチド(配列番号4)でコーティングしたプレート上における間接的ELISAにより(データは示さない)、次いで、免疫蛍光によりスクリーニングした。
図1Cに示す通り、P2H1、P2H2、及びP2H3のハイブリドーマ上清は、ORF2i特異的な染色を示した。次に、抗原としてORF2タンパク質の混合物(ORF2i及びORF2g/ORF2c)(
図1D)又はHEV感染細胞の抽出物(
図1E)を用いたウエスタンブロッティング実験で、これらハイブリドーマの特異性を分析した。P2H1、P2H2、及びP2H3のクローンは、3つの形態を認識する1E6抗体と比較して、ORF2g/cタンパク質と交差反応せず、ORF2iタンパク質の高度に特異的な認識を示した。
【0044】
まとめると、これら結果は、ORF2iポリペプチド(配列番号4)に対して特異的な抗体を生成できることを示す。このような抗体は、サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を判定するのに非常に好適である。より具体的には、本発明のORF2iポリペプチドの検出は、被験体におけるE型肝炎ウイルス感染症を診断するのに好適である。
【0045】
参照文献:
本願全体を通して、様々な参照文献が、本発明が関連する技術分野の状況について説明している。これら参照文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【配列表】