(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】配合物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/16 20060101AFI20240314BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240314BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20240314BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20240314BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240314BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20240314BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20240314BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20240314BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20240314BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240314BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A61L27/16
A61L27/44
A61L29/06
A61L31/06
A61L27/54
A61L29/16
A61L31/16
A61L29/12 100
A61L31/12 100
A61P31/00
A61L27/18
(21)【出願番号】P 2021507634
(86)(22)【出願日】2019-08-13
(86)【国際出願番号】 GB2019052280
(87)【国際公開番号】W WO2020035681
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-06-28
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517007677
【氏名又は名称】オキュテック リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OCUTEC LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】ロデリック バワーズ
(72)【発明者】
【氏名】マグダレーナ シフィドニツカ
(72)【発明者】
【氏名】ニール グラハム
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ カーネギー
(72)【発明者】
【氏名】ゴルドン ハニーマン
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥル ラシッド
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/073480(WO,A1)
【文献】特開平04-193826(JP,A)
【文献】特表2007-518714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー0.1~7重量%;
b.少なくとも1つのポリアクリル酸塩0.1~5重量%;
c.少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物0.01~3重量%、
を含む、配合物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物は、以下の式Aの構造を有する、請求項1に記載の配合物:
【化1】
式中、R
A~R
Dのうちの少なくとも1つが、Rの構造を有し;
ここで、R
A~R
Dのいずれかが以下のRの構造を有さない場合、それらはヒドロカルビル化合物またはHを表し;
Zは、1~10の整数であり;
式Aの構造の炭化水素骨格は、置換されていても置換されていなくてもよく;
ここで、Rは、
【化2】
であって、
式中、R
5~R
8は独立して小アルキル基またはHを表し、R
5~R
8のうちの少なくとも1つは小アルキル基を表し;
VおよびUは、1~100から独立して選択される整数である。
【請求項3】
前記VおよびUの合計は150以下である、請求項2に記載の配合物。
【請求項4】
各プロポキシル化エチレンジアミン化合物は、1000~25,000の数平均分子量を有する、請求項1に記載の配合物。
【請求項5】
前記少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーは、50~80重量%のプロピレンオキシドを含む、請求項1に記載の配合物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーの数平均分子量は、1000~20,000である、請求項1に記載の配合物。
【請求項7】
前記ポリアクリル酸塩は、ポリアクリル酸アルカリ金属塩である、請求項1に記載の配合物。
【請求項8】
前記ポリアクリル酸塩は、1000~40,000の数平均分子量を有する、請求項1に記載の配合物。
【請求項9】
1つ以上のリン酸基を含む化合物を含有する、請求項1に記載の配合物。
【請求項10】
以下の式の1つ以上のリン脂質を含む、請求項1に記載の配合物:
【化3】
式中、R
1およびR
3のそれぞれは独立してアルキル基を表し;
R
2は、任意にNHC(=O)-(CH
2)
10CH
3またはNHC(=O)-(CH
2)
12CH
3で置換された、水素およびC
1-30アルキルからなる群から選択さ
れ;
R
4は、水素およびCH
2CH(Y)CH
2N
+R
1R
2R
3X
-からなる群から選択され;
Xはハロであり;
Yは、OH、O-(C
1-10)-アルキルおよびO-(C
1-10)-アルケニルからなる群から選択され;および
Mは、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される。
【請求項11】
前記リン脂質は、コカミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩、ミリスタミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩およびリノールアミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩からなる群から選択される、請求項10に記載の配合物。
【請求項12】
請求項1に記載の配合物を含む基材であって、
前記基材は、コンタクトレンズ、眼内レンズ、角膜アンレー(corneal onlay)、ステント、カテーテル、腹膜透析チューブ、排液デバイス、関節プロテーゼ、インプラント、歯科インプラント、血管カテーテル、体外回路、メスおよびシャントからなる群から選択される、基材。
【請求項13】
微生物による物品の汚染を低減または防止する方法であって、請求項1に記載の配合物に前記物品を接触させることを含む、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の配合物に前記物品を接触させる前に、1つ以上のリン酸基を含む化合物を含有する前処理配合物に前記物品を接触させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の配合物に前記物品を接触させる前に、1つ以上の溶媒を含む前処理配合物および/または1つ以上のポリエチレングリコール化合物を含む前処理配合物に前記物品を接触させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記配合物に医療デバイスを接触させることによって、対象の微生物感染症もしくは疾患または前記感染症もしくは疾患に関連した状態を防止する
ための、請求項1に記載の配合物。
【請求項17】
前記感染症もしくは疾患、または前記感染症もしくは疾患に関連する状態は、皮膚および創傷感染症、胃腸管感染症、腹膜感染症、泌尿生殖器感染症、口腔軟部組織感染症、歯垢の形成、眼感染症、心内膜炎および留置医療デバイスの感染症からなる群から選択される、請求項16に記載の
配合物。
【請求項18】
医療デバイス上または医療デバイス内でのバイオフィルムの形成を防止する方法であって、請求項1に記載の配合物を前記医療デバイスの少なくとも1つの表面に与えることを含む、方法。
【請求項19】
表面の接触角を、請求項1に記載の配合物を前記表面に塗布することによって減少させる、方法。
【請求項20】
表面上または表面での血小板凝集を、請求項
1に記載の配合物を前記表面に塗布することによって低減する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスとその意図される生物学的環境および生体液との生体適合性を高めることにおける配合物およびその使用に関し、例としては、限定されないが、心血管および泌尿器カテーテル、心血管および泌尿器ステント、中心静脈カテーテル、胸腔ドレナージおよび泌尿器ドレナージカテーテル、水頭症シャントおよび創傷被覆材が挙げられる。生体液には、血液、涙、リンパ液、脳脊髄液、唾液、細胞外液が含まれる。さらに、本発明は、血栓形成、コンタクトレンズのスポリエーション(spoliation)、カテーテルの閉塞を最小限に抑えることができる配合物に関する。
【0002】
また、微生物による医療デバイスの汚染の防止または低減、ならびに医療デバイスなどの物品の表面上でのバイオフィルムの形成の防止または低減における本発明の配合物の使用も提供される。
【0003】
さらに、本発明の配合物との接触により、医療デバイスなどの物品の表面の濡れ性を高める方法が提供される。本発明の配合物との接触により、医療デバイスなどの物品の表面の接触角を減少させる方法も提供される。さらなる態様によれば、本発明は、本明細書に記載の配合物を表面に塗布することによる表面を提供する。
【0004】
本発明の配合物による医療デバイスの処理は、それらに関連する生体適合性を高める傾向がある。したがって、本発明の配合物による処理は、最初および長期間の接触後の両方で、人体の表面に接触するそのような医療デバイスの生物学的、機械的、物理的およびバルク特性を増大させる。そうすることにより、医療デバイスの性能が向上する。
【背景技術】
【0005】
医療デバイスの製造に使用されるポリマー材料から形成された物品は、タンパク質脂質、真核細胞および原核細胞の不可逆的な結合をしばしば引き起こす。これは、身体によるこれらのデバイスの拒絶または該デバイスの性能低下を引き起こす。タンパク質、脂質および細胞の結合は、血液、涙、リンパ液、脳脊髄液、唾液および細胞外液などの生体液との濡れ性が低いポリマーに関連している可能性がある。このような問題は、物品が目の表面、体の内面、または粘膜に接触する場合に深刻である。
【0006】
ポリマーへのシリコーンの添加は、医療デバイスの性能に多くの利点、例えば膀胱から尿を排出させるために使用されるフォーリーカテーテルなどのカテーテルの柔軟性をもたらす。同様に、コンタクトレンズにシリコーンを含めると、レンズの酸素透過性が高まり、それによって低酸素症の悪影響が軽減され、角膜の健康が増す。しかしながら、シリコーンの組み込みは、しばしば、デバイスの表面での疎水性の増加と関連している。ポリウレタンポリマーなどのポリマーの製造におけるシリコーン含有成分の添加は、表面濡れ性の問題の増加と関連している。これは、用語として、デバイスの表面濡れ性の低下につながる可能性があり、その結果、タンパク質、脂質、免疫グロブリン、補体、マクロファージおよび細菌の不可逆的な吸着が引き起こされる。
【0007】
メタクリレートベースのポリマーから製造されたヒドロゲルコンタクトレンズの場合、コンタクトレンズなどのオンアイデバイス、ならびに関節プロテーゼ、歯科インプラント、カテーテルおよび心臓インプラントなどの留置医療デバイスの不十分な表面の濡れ性によって引き起こされる、着用者の不快感および微生物感染症のリスクの増加というよく知られた問題がある。
【0008】
さらに、そのような医療デバイスの不十分な表面の濡れ性は、バイオフィルム形成のリスクの増加と関連している。微生物バイオフィルムは、ポリマー物質の細胞外マトリックスに埋め込まれ、生物学的または非生物学的表面に付着している微生物細胞の集団である。さまざまな微生物(関連するバクテリオファージおよびその他のウイルスを伴う細菌、真菌、および/または原生動物)がこれらのバイオフィルムに見られる。バイオフィルムは自然に遍在しており、一般的に幅広い環境で見られる。バイオフィルムは、多くの感染症に関与しているとして、特に感染症治療の不応性に寄与しているとして、科学コミュニティおよび医学コミュニティによってますます認識されている。
【0009】
バイオフィルムは、哺乳類における多くの病状の病因物質であり、人体の中または人体の上で使用するように設計された医療デバイスに関連する感染症、特にコンタクトレンズの汚染、ならびに関節プロテーゼ、歯科インプラント、カテーテルおよび心臓インプラントなどの留置医療デバイスの感染症に関係している。
【0010】
塩類溶液は、コンタクトレンズなどの医療デバイスの保管で知られている。他の既知の保管配合物には、消毒剤、緩衝剤および界面活性剤が含まれる。
【0011】
WO2008/144494は、コンタクトレンズケアおよび医薬組成物の保存のためのリン脂質組成物を開示している。
【0012】
驚くべきことに、試薬の適切な選択を通じて、本発明は、特に表面の濡れ性を高め、それに伴う生体適合性を高めるために、医療デバイスの処理用の効果的な配合物を提供する。それにより、医療デバイスと人体との接触に伴う快適性が、最初と長期間の着用後の両方で向上する。
【0013】
本発明の配合物は、それが接触する物品、特にポリウレタン、およびシリコーン含有ポリウレタンなどのシリコーン含有ポリマーから形成された物品の表面の濡れ性を改善する。驚くべきことに、本発明の配合物はまた、脂質タンパク質の物品の表面への結合を低減し、医療デバイス上でのバイオフィルムの形成のリスクを低減する。
【0014】
本発明の配合物はまた、物品の処理された表面上または表面での血小板凝集を低減し、物品の処理された表面上または表面での血栓または血餅の形成の傾向を低減する方法で使用され得る。
【発明の概要】
【0015】
本発明の第1の態様によれば、
a.一般にエチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシドの構造を有する、少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー0.1~7重量%;
b.少なくとも1つのポリアクリル酸塩0.1~5重量%;
c.少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物0.01~3重量%、
を含む配合物が提供される。
【0016】
生体液との接触用に設計された医療デバイスの表面に関連する接触角が高く、摩擦特性が高いほど、最初と長期間の接触後の両方で、医療デバイスの快適性が低下する。
【0017】
驚くべきことに、本発明の配合物は、それと接触する医療デバイスの接触角を減少させ、その表面濡れ性を増加させ、最初と、生体液との長期間の接触後および/または着用後との両方で医療デバイスの快適性を改善する。これは、成分およびその濃度を適切に選択することで実現される。保管配合物は、ポリウレタンポリマー(シリコーンを含有するものを含む)から形成された物品に特に効果的である。この点に関して、コンタクトレンズおよびカテーテルについて特に言及することができる。
【0018】
一般に、医療デバイスは、本発明の配合物を含む容器(receptacle)内で処理される。そのような保管に続いて、医療デバイスの表面の接触角は、一般に、該容器から取り出された後、30分を超えて、一般に1時間を超えて、典型的には5時間を超えて、一般に12時間を超えて、適切には約24時間減少する。出願人は理論に拘束されることを望まないが、これは、本発明の配合物が医療デバイスの表面上および/または医療デバイス内に吸収されるためである可能性が高く、その後、医療デバイスを容器から取り外した後、配合物は医療デバイスから放出され得る。医療デバイスの表面の接触角は、容器から取り外した後、長期間後に元の値に戻る可能性があるが、医療デバイスを容器内に戻すことにより、接触角を繰り返し減少させることができる。
【0019】
さらに、本発明の配合物を物品の表面に加えると、本発明の配合物との接触によって処理されていない同等の医療デバイスと比較して、関連するタンパク質の吸収が低減され、その表面への関連する細菌の吸収が低減される。これは、表面での血栓の形成のリスクを防止または低減するだけでなく、バイオフィルムの形成のリスクを防止または低減するのに有用である。
一実施形態によれば、前記配合物は、
a.一般にエチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシドの構造を有する、少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー0.2~5重量%;
b.ポリアクリル酸アルカリ金属塩、一般にポリアクリル酸ナトリウム塩0.3~2重量%;
c.以下の式Aの構造を有する、少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物0.01~3重量%:
【化1】
式中、R
A~R
Dのうちの少なくとも1つ(一般に、R
A~R
Dのすべて)は、以下のRの構造を有する:
【化2】
構造Rを有さないR
A~R
Dのいずれかは、ヒドロカルビル化合物(一般に、ジアミンヒドロカルビル化合物)またはHを表し;
Zは、1~10の整数、一般に1~5の整数、適切には1または2、典型的には1であり;
式中、R
5~R
8は独立して小アルキル基またはHを表し、R
5~R
8のうちの少なくとも1つは小アルキル基、典型的にはC
1-C
5アルキル基、一般にメチルを表し(典型的には、R
5~R
8のうちの1~3つは、独立してC
1-C
5アルキル基を表す);
VおよびUは、1~100から独立して選択される整数、一般に30~100から独立して選択される整数、典型的には20~60から独立して選択される整数、適切には50~100から独立して選択される整数であり、前記VおよびUの合計は一般に150未満である;
d.少なくとも90重量%の溶媒、一般には水、適切には脱イオン水
を含む。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書に開示される配合物は、1つ以上のリン酸基を含む化合物、特に親水性ヘッド基(例えば、コリンヘッド基)および1つ以上の疎水性リン酸含有テール基を含む化合物を含有する。一実施形態によれば、1つ以上のリン酸基を含む化合物は、コリン基(例えば、グリセロールホスホリルコリン(GPC))を含む。1つ以上のリン酸基を含む化合物は、リン脂質であり得る。
【0021】
一実施形態によれば、微生物による物品の汚染を低減または防止する方法であって、本明細書に記載の配合物に前記物品を接触させることを含む、方法が提供される。
【0022】
治療用配合物、特に眼科用デバイスなどの医療デバイスまたは本明細書に開示されるものなどの留置医療デバイス(例えば、カテーテル)のための治療用配合物としての、本明細書に記載の配合物の使用も提供される。
【0023】
本明細書に記載の配合物との接触は、一般に、微生物による物品の汚染を低減または防止する。
【0024】
本明細書に記載の配合物は医療デバイスに適しており、当該医療デバイスは、その操作またはユーティリティの過程で組織および/または生体液に接触し、特にその操作またはユーティリティの過程で血液、涙、唾液および/または粘膜などの生体液に接触し、一般に涙に接触する。
本発明のさらなる態様によれば、本明細書に記載の配合物を含む基材も提供される。
【0025】
本明細書に記載の配合物との接触によるデバイスの処理は、デバイスの関連する生体適合性を高める。
【0026】
一態様によれば、デバイスの表面の濡れ性を高める方法であって、本明細書に記載の配合物に前記デバイスの表面を接触させることを含む、方法が提供される。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、デバイスの表面の接触角を減少させる方法であって、本明細書に記載の配合物に前記表面を接触させることを含む、方法が提供される。
【0028】
本発明のさらなる態様によれば、デバイスの表面へのタンパク質および/または脂質の結合を低減または防止する方法であって、本明細書に記載の配合物に前記表面を接触させることを含む、方法が提供される。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、微生物バイオフィルムの形成の治療または防止に使用するための、本明細書に記載の配合物が提供される。
【0030】
医療デバイス上または医療デバイス内でのバイオフィルムの形成を防止する方法であって、本明細書に記載の配合物を前記医療デバイスの少なくとも1つの表面に与えることを含む、方法も提供される。
【0031】
表面上または表面での血小板凝集を、本明細書に記載の配合物を前記表面に塗布することによって低減する方法も提供される。
【0032】
さらなる実施形態によれば、本明細書に記載の配合物および使用説明書を含有する容器(receptacle)を含む部品のキットが提供される。
【0033】
本出願を通して、組成物または配合物が特定の成分を有する(having)、含む(including)、または含む(comprising)と記載されている場合、あるいはプロセスが特定のプロセスステップを有する(having)、含む(including)、または含む(comprising)と記載されている場合、本教示の組成物または配合物も列挙された成分から本質的になるか、列挙された成分からなること、および、本教示のプロセスも列挙されたプロセスステップから本質的になるか、列挙されたプロセスステップからなることが企図される。
【0034】
本出願において、要素または成分が、列挙された要素または成分のリストに含まれる、および/または該リストから選択されると言われる場合、その要素または成分は、列挙された要素または成分のうちのいずれか1つであり得るか、またはその要素または成分は、2つ以上の列挙された要素または成分からなる群から選択され得ることを理解されたい。さらに、本明細書に記載の構成、装置または方法の要素および/または特徴は、本明細書において明示的であろうと暗黙的であろうと、本教示の精神および範囲から逸脱することなく、様々な方法で組み合わされ得ることを理解されたい。
【0035】
「含む(“include”、“includes”、“including”)」、「含む(“comprise”、“comprises”、“comprising”)」または「有する(“have”、“has”、“having”)」という用語の使用は、特に明記されていない限り、一般に非限定的であり、制限のないものとして理解されるべきである。
【0036】
特に明記されていない限り、本明細書での単数形の使用には複数形(およびその逆)が含まれる。さらに、「約」という用語の使用が定量値の前にある場合、本教示は、特に明記されていない限り、特定の定量値自体も含む。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、別段の指示または推論がない限り、公称値からの±10%の変動を指す。
【0037】
本教示が機能し続ける限り、ステップの順序または特定のアクションを実行するための順序は重要ではないことを理解されたい。さらに、2つ以上のステップまたはアクションが同時に実行され得る。
【0038】
本発明の特定の態様、実施形態または例に関連して記載される特徴、整数、特性、化合物、化学部分または基は、本明細書に記載の他の任意の態様、実施形態または例に、それらと両立しない場合を除いて、適用可能であると理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(定義)
「DK」は、1バーラー(Barrer)=10-11cm2・mL・mmHgのバーラー(Barrer)単位で与えられる、材料の酸素透過性の尺度である。
【0040】
「小アルキル基」という用語は、1~6個の炭素原子、典型的には1~4個の炭素原子の炭素骨格を有するアルキル基を指す。
【0041】
「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を持つ1~30個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖炭化水素基を含み、当該鎖は任意に1つ以上のヘテロ原子によって中断されている。当該鎖の水素は、ハロ、-CF3、-NO2、-NH2、-CN、-OCH3、-C6H5、-O-C6H5O-アルキル、-O-C6H5O-アルケニル、p-NHC(=O)-C6H5-NHC(=O)-CH3、-CH=NH、-NHC(=O)-Phおよび-SHなどの他の基で置換されていてよい。好ましい直鎖または分岐アルケニル基には、アリル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニルまたはヘキサデセニルが含まれる。
【0042】
「アルキル」という用語は、飽和しており、1~30個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖脂肪族炭化水素基を含む。アルキル基は、酸素、窒素または硫黄などの1つ以上のヘテロ原子によって中断されていてもよく、ハロ、-CF3、-NO2、-NH2、-CN、-OCH3、-C6H5、-O-C6H5O-アルキル、-O-C6H5O-アルケニル、p-NHC(=O)-C6H5-NHC(=O)-CH3、-CH=NH、-NHC(=O)-Phおよび-SHなどの他の基で置換されていてもよい。好ましい直鎖または分岐アルキル基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、sec-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルおよびドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシルまたはヘキサデシルが含まれる。
【0043】
「ハロ」という用語は、ハロゲン族の元素を意味する。好ましいハロ部分には、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が含まれる。
【0044】
本明細書で使用される「生体適合性」とは、組織または細胞環境、特に眼球環境に重大な損傷を与えることなく、かつ、使用者に重大な不快感を与えることなく、患者の組織、血液または他の生体液と長期間密接に接触し得る材料または材料の表面を指す。
【0045】
本明細書に記載されている数平均分子量は、末端基分析によって申請者の研究所内で実験的に決定されたものおよび/または製造業者によって提供されたものである。
【0046】
部分に関して本明細書で使用される「置換された」という用語は、該部分中の水素原子の1個以上、特に最大5個、より特には1個、2個または3個が、対応する数の記載された置換基によって互いに独立して置換されることを意味する。本明細書で使用される「任意に置換された」という用語は、置換または非置換を意味する。
【0047】
もちろん、置換基は化学的に可能である位置にのみ存在し、当業者は、特定の置換が可能であるかどうかを不適切な努力なしに(実験的または理論的に)決定することができることが理解されるであろう。例えば、遊離水素を有するアミノ基またはヒドロキシ基は、不飽和(例えば、オレフィン)結合を有する炭素原子に結合すると不安定になる可能性がある。さらに、もちろん、本明細書に記載の置換基は、当業者によって認識される適切な置換に対する前述の制限を条件として、それ自体が任意の置換基によって置換され得ることが理解されるであろう。
【0048】
2つ以上の部分が原子または基のリストから「それぞれ独立して」選択されると記載されている場合、該部分は同じであっても異なっていてもよいことを意味する。したがって、各部分のアイデンティティは、その1つ以上の他の部分のアイデンティティとは無関係である。
【0049】
(配合物)
本発明の第1の態様によれば、
a.一般にエチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシドの構造を有する、少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー0.1~7重量%;
b.少なくとも1つのポリアクリル酸塩0.1~5重量%;
c.少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物0.01~3重量%、
を含む、配合物が提供される。
【0050】
本発明の配合物は、それが塗布されるポリマー表面、特にポリウレタン表面の接触角を減少させる。これにより、表面の濡れ性と、人または動物の体の表面に接触したときのそれに伴う表面の快適性が向上する。さらに、本発明の配合物は、タンパク質および/または脂質が表面に付着する傾向、ならびに細菌などの微生物が表面に付着する傾向を低減し、その上にバイオフィルムが形成されるリスクを低減する。タンパク質、脂質および/または微生物が表面に結合すると、該表面の疎水性が高まり、生体適合性が低下する。タンパク質、脂質および/または微生物の表面上への結合を低減することにより、それに伴う該表面の生体適合性が高まり、着用の快適性が向上する。
【0051】
ポリウレタン表面の接触角は、一般に、表面1cm2あたり1~10mL、一般に表面1cm2あたり1~7mL、適切には表面1cm2あたり5~7mL、典型的には表面1cm2あたり1~2mLの本発明の配合物との接触後、少なくとも30°、典型的には35~45°、適切には約40°(適切には約60°~約20°)減少する。
【0052】
本発明の配合物は、治療用配合物としての用途も見出すことができる。これに関連して、本発明の配合物は、単独で、または他の薬剤と組み合わせて、処理される表面に塗布され得る。本明細書で使用される場合、「処理される表面」は、本明細書で定義される基材であり得、医療デバイス、特に眼科用デバイスおよびカテーテルなどの留置デバイスを含み得る。
【0053】
一般に、水性配合物が提供される。ただし、水以外の担体または溶媒が有用である場合がある。
【0054】
配合物は、ゲル、ヒドロゲル、ローション、溶液、クリーム、懸濁液、液体または軟膏の形態であり得る。一般的に、配合物は水溶液である。
【0055】
配合物は、一般に80重量%超の担体液体または溶媒、典型的には90重量%超の担体液体または溶媒、一般に95重量%超の担体液体または溶媒を含む。典型的には、担体液体または溶媒は水である。
【0056】
配合物は、一般に6.8~7.8のpHを有する。
【0057】
(ブロックコポリマー)
本発明の配合物は、一般に末端ヒドロキシル基を含む、少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーを0.1~7重量%含む。
【0058】
一実施形態によれば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)およびポリ(プロピレングリコール)(PPG)のコポリマーは、交互に並ぶPEG基およびPPG基を含み;典型的には、PEG-PPG-PEGもしくはPPG-PEG-PPGの構造を含むか、PEG-PPG-PEGもしくはPPG-PEG-PPGの構造からなるか、またはPEG-PPG-PEGもしくはPPG-PEG-PPGの構造から本質的になる。
【0059】
あるいは、コポリマーは、PEG-PEG-PPGもしくはPPG-PPG-PEGの構造を含み得るか、PEG-PEG-PPGもしくはPPG-PPG-PEGの構造からなり得るか、またはPEG-PEG-PPGもしくはPPG-PPG-PEGの構造から本質的になり得る。
【0060】
適切には、コポリマーは50~80重量%のPPGを含み、適切には約70重量%のPPGを含む。
【0061】
コポリマーは、20~50%のPEG、一般に約30%のPEGを含み得る。
【0062】
一実施形態によれば、PEGブロックおよびPPGブロックは、PEG:PPGの比が1:2~4で存在する。
【0063】
コポリマーの末端ヒドロキシル基は、一級もしくは二級ヒドロキシル、またはそれらの混合物であり得る。
【0064】
一実施形態によれば、末端OH基は、(例えば、プロピレンオキシド単位に由来する)二級ヒドロキシルである。
【0065】
代替的にまたは追加的に、末端OH基は、(例えば、エチレンオキシド単位に由来する)一級ヒドロキシルであり得る。
【0066】
配合物は、一般に、少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーを0.1~5重量%、適切には0.1~4重量%、典型的には0.2~2重量%、より一般には0.2~1重量%、好ましくは0.3~0.7重量%含む。
【0067】
配合物は、複数のコポリマーまたはブロックコポリマーを含み得る。ブロックコポリマーは一般にジオールである。
【0068】
ブロックコポリマー(一般にPEG-PPG-PEGまたはPPG-PEG-PPG)の組み込みは、配合物が塗布された表面への微生物の付着、特に細菌の付着を低減または防止すると考えられている。さらに、ブロックコポリマーの組み込みは、配合物が塗布された表面へのタンパク質の付着を制限する可能性がある。
【0069】
ブロックコポリマーの数平均分子量は、一般に20,000未満、適切には15,000未満、典型的には10,000未満である。一実施形態によれば、ブロックコポリマーの数平均分子量は1000~15000、典型的には5000~15,000、適切には3000~7000である。
【0070】
ブロックコポリマー内にPEGブロックを組み込むと、ブロックコポリマーの疎水性PPG部分が軽減される。
【0071】
一般に、ブロックコポリマーは、PEG-PPG-PEGの一般構造を有する。したがって、PEGブロックは、ブロックコポリマーの末端にあり、二級ヒドロキシル(PPG部分に見られるものなど)よりもはるかに速く反応する一級ヒドロキシルを有する。
【0072】
適切なブロックコポリマーは、Pluronic(登録商標)P-123を含むPluronic(登録商標)の商品名で入手可能である。
【0073】
(ポリアクリル酸塩)
配合物は、0.1~5重量%の少なくとも1つのポリアクリル酸塩、一般にポリアクリル酸アルカリ金属塩、一般にポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアクリル酸カリウム塩またはそれらの組み合わせ、典型的にはポリアクリル酸ナトリウム塩を含む。
【0074】
ポリアクリル酸塩は、50,000未満、適切には40,000未満の数平均分子量を有し得る。一実施形態によれば、ポリアクリル酸塩の数平均分子量は1000~30000、一般に5000~30000、適切には10,000~20,000、典型的には約15000である。
【0075】
配合物は、一般に、0.3~2重量%、一般に0.2~1重量%、適切には0.2~0.7重量%のポリアクリル酸塩を含む。ポリアクリル酸(PAA)は、より低い接触角を与えると予想されるイオン化された表面を形成する。ウレタン/PEG組成物は、過去に、PAAと複合体を形成することが見つかっている。このポリマーはPEG組成物に恒久的に結合し、強力なイオン電荷安定化をもたらすことが予想される。吸着および結合したポリマーは、6.0~8.0のpH値でイオン化され、接触角が低くなると予想される。
【0076】
(プロポキシル化エチレンジアミン化合物)
配合物は、0.01~3重量%の少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物を含む。
【0077】
プロポキシル化エチレンジアミン化合物は、一般に、以下の式Aの構造を有する:
【化3】
式中、R
A~R
Dのうちの少なくとも1つ、典型的にはR
A~R
Dのうちの少なくとも2つ、適切にはR
A~R
Dのうちの少なくとも3つ、一般にR
A~R
Dのすべては、以下のRの構造を有し;
ここで、R
A~R
Dのいずれかが以下のRの構造を有さない場合、それらはヒドロカルビル化合物(一般にジアミンヒドロカルビル化合物)またはHを表し;
Zは、1~10の整数であり、通常は1~5の整数であり、適切には1または2であり、典型的には1であり;
式Aのプロポキシル化エチレンジアミン化合物の構造の炭化水素骨格は、置換されていても置換されていなくてもよい(例えば、1つ以上の小アルキル基で置換されていてもよい)。
【0078】
ここで、Rは、以下:
【化4】
であって、
式中、R
5~R
8は、独立して小アルキル基またはHを表し、ここで、R
5~R
8のうちの少なくとも1つは、小アルキル基を表し、典型的にはC
1-C
5アルキル基を表し、一般にメチルを表し;
VおよびUは、1~100から独立して選択される整数であり、一般に30~100から独立して選択される整数であり、典型的には20~60から独立して選択される整数であり、適切には50~100から独立して選択される整数である。
【0079】
一般に、VおよびUの合計は150以下、一般に120以下、適切には75以下である。
【0080】
一実施形態によれば、プロポキシル化エチレンジアミン化合物は、式Aiまたは式Aiiの構造を有する:
【化5】
【0081】
そのような実施形態では、各R基は同じであっても異なっていてもよい。すなわち、各R基のVおよびUは独立して選択される。
【0082】
適切には、ポリエチレングリコール(PEG)ブロックとポリプロピレングリコール(PPG)ブロックの比は40~60:60~40であり、適切には55~60:45~40である。
【0083】
プロポキシル化エチレンジアミン化合物は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)部分およびポリ(プロピレングリコール)(PPG)を含む。
【0084】
一般に、R5~R8基のうちの1つは、小アルキル基、典型的にはメチルまたはエチル、適切にはメチルを表す。好ましくは、その他のすべてのR5~R8基はHを表す。
【0085】
一実施形態によれば、R7またはR8はメチルを表し、その他のすべてのR5~R8基はHを表し、その結果、PEG-PPG-ジアミン構造が生じる。
【0086】
さらなる実施形態によれば、R5またはR6はメチルを表し、その他のすべてのR5~R8基はHを表し、その結果、PPG-PEG-ジアミン構造が生じる。
【0087】
一実施形態によれば、プロポキシル化エチレンジアミン化合物の数平均分子量は30,000未満、一般に25,000未満、適切には20,000未満、典型的には15,000未満である。一実施形態によれば、プロポキシル化エチレンジアミン化合物の数平均分子量は1000超、一般に3000超、適切には5000超である。
【0088】
一実施形態によれば、プロポキシル化エチレンジアミン化合物の数平均分子量は5000~10,000、典型的には6000~8000である。
【0089】
一実施形態によれば、プロポキシル化エチレンジアミン化合物の数平均分子量は、12000~17000、典型的には14000~16000である。
【0090】
適切なプロポキシル化エチレンジアミン化合物には、エチレンジアミンテトラキス(エトキシレート-ブロック-プロポキシレート)テトロール(ethylenediaminetetrakis(ethoxylate-block-propoxylate) tetrol)が含まれる。Tetronic 90R4を含むTetronicの商品名で入手可能な化合物について言及することができる。
【0091】
一般に、配合物は、0.05~1重量%、一般に約0.1重量%の少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物を含む。
出願人は理論に拘束されることを望まないが、プロポキシル化エチレンジアミン化合物を含めることにより、本発明の配合物の安定性が改善されると考えられている。本発明の配合物の分解速度は、プロポキシル化エチレンジアミン化合物を含まない比較配合物よりも遅い。これは、プロポキシル化エチレンジアミン化合物中のアミンと、形成された任意の過酸化物ラジカルとの反応に起因する可能性があり、本発明の配合物の保存安定性を改善する。
【0092】
一実施形態によれば、配合物は、合計5重量%以下、一般に合計4重量%以下、適切には合計3重量%以下、典型的には合計2重量%以下の、少なくとも1つのエチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシドのブロックコポリマー、少なくとも1つのポリアクリル酸塩および少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物を含む。
【0093】
(リン酸含有化合物)
一実施形態によれば、本発明の配合物は、1つ以上のリン酸基を含む化合物を含み得る。典型的には、1つ以上のリン酸基を含む化合物は、1~3のリン酸基を含み得る。
【0094】
一実施形態によれば、1つ以上のリン酸基を含む化合物は、親水性ヘッド基(例えば、コリンヘッド基)および1つ以上の疎水性リン酸含有テール基を含み得る。一実施形態によれば、1つ以上のリン酸基を含む化合物は、コリン基(例えば、グリセロールホスホリルコリン(GPC))を含む。
【0095】
1つ以上のリン酸基を含む化合物は、リン脂質であり得る。リン脂質は、主に脂肪酸鎖、リン酸基および窒素塩基から構成されるリン含有脂質である。
【0096】
リン脂質は、参照により本明細書に援用されるWO2008/144494に開示されているものであり得る。
【0097】
本発明のリン脂質は、一般に、任意に置換されたヒドロカルビル基、一般に脂肪族炭化水素基(例えば、C1-6アルキル、アルケニル、アルキニル)、特に任意に置換されたアルケニル基、典型的にはC1-6アルケニル、適切には任意に置換されたプロピレン基を介して第四級アンモニウム官能基に連結されたリン酸基を含む。該第四級アンモニウム官能基は、少なくとも1つの任意に置換されたヒドロカルビル基、一般に脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル)、特に任意に置換されたC1-30アルキル基にさらに連結される。
【0098】
本発明のリン脂質は、水溶性が高い傾向がある。
【0099】
一実施形態によれば、リン脂質は以下の式のものである:
【化6】
式中:
R
1およびR
3のそれぞれは、独立してアルキル基(一般にC
1-6アルキル)を表し;
R
2は、任意にNHC(=O)-(CH
2)
10CH
3またはNHC(=O)-(CH
2)
12CH
3で置換された、水素およびC
1-30アルキル(一般にC
1-6アルキル)からなる群から選択され;
R
4は、水素およびCH
2CH(Y)CH
2N
+R
1R
2R
3X
-からなる群から選択され、ここで、R
1、R
2およびR
3は、上記で定義したとおりであり;
Xはハロであり;
Yは、OH、O-(C
1-10)-アルキルおよびO-(C
1-10)-アルケニルからなる群から選択され;および
Mは、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される。
【0100】
一般に、R1およびR3は両方ともメチルを表す。
【0101】
典型的には、R2は、C12アルキル基、NHC(=O)-(CH2)10CH3またはNHC(=O)-(CH2)12CH3Cで置換されたC1-6アルキルを表す。一実施形態によれば、R2は、非置換C12アルキル基、(CH2)3NHC(=O)-(CH2)10CH3、または(CH2)3NHC(=O)-(CH2)12CH3Cを表す。
【0102】
適切には、R4は、CH2CH(Y)CH2N+R1R2R3X-を表す。
【0103】
一実施形態によれば、R1およびR3は両方ともメチルを表し、R2はC12アルキル基を表し、R4はCH2CH(OH)CH2N+(CH3)2(CH2)11CH3を表し、X-はCl-を表し、YはOH-を表し、M+はNa+を表す。
【0104】
一実施形態によれば、R1およびR3は両方ともメチルを表し、R2は(CH2)3NHC(=O)-(CH2)10CH3を表し、R4はCH2CH(OH)CH2N+(CH3)2(CH2)3NHC(O)(CH2)12CH3を表し、X-はCl-を表し、YはOH-を表し、M+はNa+を表す。
【0105】
一実施形態によれば、配合物は、以下の構造を有するリン脂質コカミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩(トリス(N-C5-17-アルキルアミドプロピル-N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシプロピル)アンモニオ)リン酸三塩化物とも呼ばれる)を含む:
【化7】
R:ココ-アルキル。
【0106】
さらなる実施形態によれば、配合物は、以下の構造を有するリン脂質ミリスタミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩を含む:
【化8】
【0107】
さらなる実施形態によれば、配合物は、以下の構造を有するリン脂質リノールアミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩を含む:
【化9】
【0108】
Arlasilkリン脂質EFA-LQ-(AP)は、プロピレングリコールおよび水も含む。
【0109】
一実施形態によれば、配合物は0.001%~2%のリン脂質、一般に0.5~1.5%、適切には約1%のリン脂質を含む。
【0110】
(リン酸塩含有化合物の前処理)
一実施形態によれば、処理される物品は、本発明の配合物と接触する前に、1つ以上のリン酸基を含む配合物と接触される。
【0111】
1つ以上のリン酸基を含む化合物は、上述したとおりである。
【0112】
一般に、1つ以上のリン酸基を含む化合物はリン脂質である。
【0113】
リン脂質は上述したとおりである。
【0114】
典型的には、リン脂質前処理配合物は、0.001%~2%のリン脂質、一般に0.5~1.5%、適切には約1%のリン脂質を含む。
【0115】
一実施形態によれば、リン脂質前処理配合物は、1つ以上のポリエチレン化合物を含む。一般に、ポリエチレン化合物は、本明細書に記載されているとおりであり、典型的には本明細書に記載されている量である。
【0116】
物品は、リン脂質前処理配合物と接触する前に、および/または本発明の配合物と接触する前に、溶媒と接触され得る。適切な溶媒には、イソプロピルアルコールなどのアルコール、およびヘプタンが含まれる。
【0117】
(ポリエチレングリコール)
一実施形態によれば、配合物は、1つ以上のポリエチレングリコール化合物を含む。
【0118】
一般に、配合物は、複数のポリエチレングリコール化合物を含み得る。適切には、配合物は、1000未満の数平均分子量を有する少なくとも1つの低分子量ポリエチレングリコール化合物を含む。
【0119】
一実施形態によれば、配合物は、複数の低分子量ポリエチレングリコール化合物を含み得る。
配合物は、1000未満の数平均分子量を有する低分子量ポリエチレングリコール化合物と、4000超の数平均分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール化合物とを含み得る。
一実施形態によれば、配合物は、複数の低分子量ポリエチレングリコール化合物と、高分子量ポリエチレングリコール化合物とを含み得る。
【0120】
適切には、低分子量ポリエチレングリコールは、900以下、典型的には100~800、一般的には150~500の数平均分子量を有する。
【0121】
低分子量ポリエチレングリコール化合物は、200±10%、または300±10%の数平均分子量を有し得る。
【0122】
高分子量ポリエチレングリコール化合物は、4500~10,000、典型的には5000~7000、適切には5500~6500の数平均分子量を有し得る。
【0123】
高分子量ポリエチレングリコール化合物は、6000±10%の数平均分子量を有し得る。
【0124】
一実施形態によれば、配合物は、約200または約300の数平均分子量を有する低分子量ポリエチレングリコール化合物と、約6000の数平均分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール化合物とを含む。
【0125】
配合物は、約200の数平均分子量を有する第1の低分子量ポリエチレングリコール化合物、約300の数平均分子量を有する第2の低分子量ポリエチレングリコール化合物、および約6000の数平均分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール化合物を含み得る。
【0126】
配合物は、一般に、配合物100mlあたり1~5gのポリエチレングリコールを含む。典型的には、各ポリエチレングリコール化合物は、配合物100mlあたり0.5~2gの量で存在する。
【0127】
(ポリエチレングリコール前処理)
一実施形態によれば、処理される物品は、本発明の配合物と接触する前に、1つ以上のポリエチレングリコール化合物を含む配合物と接触される。
【0128】
ポリエチレングリコールは、リン脂質前処理配合物中に存在してもよく、別個のポリエチレングリコール前処理の形態であってもよい。
【0129】
ポリエチレングリコールは、一般に上述したとおりであり、前処理配合物中に上記の量で適切に提供される。
【0130】
代替的または追加的に、処理される物品は、1つ以上のポリエチレングリコール化合物含む配合物および/または本発明の配合物をと接触する前に、溶媒と接触され得る。適切な溶媒には、イソプロピルアルコールなどのアルコール、およびヘプタンが含まれる。
【0131】
(追加の成分)
一実施形態によれば、配合物は、0.5~2重量%のアルカリ金属塩、一般にナトリウムまたはカリウム塩、一般に塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、またはそれらの組み合わせを含む。一般に、配合物は、0.7~1.5重量%のアルカリ金属塩を含む。
【0132】
配合物は、1つ以上の緩衝液を含み得る。当業者は適切な緩衝液をよく知っているであろう。
【0133】
弱酸および共役塩基、一般に9.5~10の付随するpKaを有する酸について言及することができる。ホウ酸およびホウ酸塩、特にホウ酸ナトリウムなどのアルカリ金属ホウ酸塩について言及することができる。ジ-Tertホウ酸ナトリウム(sodium di-Tertborate)について言及することができる。
【0134】
一実施形態によれば、配合物は、0.01~0.5重量%、典型的には0.05~0.2重量%のホウ酸、および0.001~0.02重量%のアルカリ金属ホウ酸塩を含む。
【0135】
緩衝液は、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、またはそれらの混合物を含み得る。アルカリ金属は、ナトリウムまたはカリウムを含み得る。緩衝液は、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムのうちの1つ以上、またはそれらうちの2つ以上の混合物を含み得る。リン酸二ナトリウムが使用され得る。
【0136】
1つ以上のpH調整剤が配合物に含まれ得る。
【0137】
配合物は、任意に、1つ以上の界面活性剤、特に非イオン性界面活性剤を含み得る。界面活性剤は、抗菌性または消毒性に関連している可能性がある。
【0138】
界面活性剤は、湿潤剤、乳化剤、発泡剤および/または分散剤を含み得る。界面活性剤は、少なくとも1つの疎水性基および少なくとも1つの親水性基を含有する化合物を含み得る。界面活性剤は、水不溶性(または油溶性)成分と水溶性成分の両方を含み得る。界面活性剤は、1つ以上のイオン性(例えば、アニオン性、カチオン性および/または双性イオン性)化合物および/または非イオン性化合物を含み得る。界面活性剤は、1つ以上のポリエチレングリコールエーテル、アルキルアリールスルホネート、アミンオキシド、ポリ(オキシアルキレン)化合物、アルキレンオキシド繰り返し単位を含むブロックコポリマー、カルボキシル化アルコールエトキシレート、エトキシル化アルキルフェノール、エトキシル化アミン、エトキシル化アミド、オキシラン、エトキシル化脂肪酸、エトキシル化脂肪酸エステル、エトキシル化油、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、グリコールエステル、ソルビタンエステル、イミダゾリンおよび/またはその誘導体、レシチンおよび/またはその誘導体、リグニンおよび/またはその誘導体、グリセリドおよび/またはその誘導体、オレフィンスルホネート、リン酸エステルおよび/またはその誘導体、プロポキシル化および/またはエトキシル化された脂肪酸および/またはアルコール、アルキルフェノール、ソルビタンおよび/またはその誘導体、スクロースエステルおよび/またはその誘導体、脂肪酸エステルの硫酸塩および/またはアルコールおよび/またはエトキシル化アルコール、ドデシルおよび/またはトリデシルベンゼンのスルホネート、縮合ナフタレン、スルホコハク酸塩および/またはその誘導体、トリデシルおよび/またはドデシルベンゼンスルホン酸、それらの2つ以上の混合物などを含み得る。
【0139】
適切な界面活性剤は、Poloxamer(登録商標)の商品名で入手可能である。
【0140】
1つ以上の乳化剤、増粘剤、結合剤または懸濁剤が配合物に含まれ得る。
【0141】
一実施形態では、HPMCなどのセルロース誘導体が含まれる。
【0142】
配合物は、消毒性を有する追加の成分を含み得る。
【0143】
一実施形態によれば、配合物は、ポリビニルピロリドンを含み得る。
【0144】
一実施形態では、配合物は、1つ以上の酸化防止剤をさらに含む。適切な酸化防止剤には、組成物の他の成分と反応性または非反応性であり得る、ポリウレタンに対して一般的に使用されるものが含まれる。これらには、BHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)、BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)、アスコルビン酸などが含まれる。適切には、酸化防止剤はBHAである。
【0145】
一般に、酸化防止剤は、配合物の約0.01~約1重量%、典型的には配合物の約0.2~約0.5重量%の量で使用される。製品に適した配合物には、複数の酸化防止剤および/または相乗酸化防止剤を使用することもできる。
【0146】
一実施形態では、本発明の配合物は、可塑剤、保湿剤、潤滑剤、加工助剤、粘度低下剤、または適合性増強希釈剤(compatibility enhancer diluents)を含む希釈剤などの1つ以上の追加の成分を含む。一般に、本発明の配合物は、合計5重量%未満のこれらの追加の成分を含む。
【0147】
(方法および使用)
本発明の一態様によれば、配合物は、治療用配合物としての使用、特に医療デバイスのための治療用配合物としての使用に適していてよい。治療用配合物は、一般に、微生物によるデバイスの汚染を低減または防止する。
【0148】
物品の少なくとも1つの表面を本明細書に記載の配合物と接触させることによって、(医療デバイスなどの)物品を処理する方法も提供される。
【0149】
そのような方法および使用は、一般に、物品の表面の関連する接触角を減少させ、濡れ性を高め、人体上または人体内で使用するための物品の生体適合性を高める。それにより、着用の快適性が、着用の最初の快適性と、物品と人体の表面との長期間の接触後の快適性の両方で向上する。
【0150】
本明細書で提供される方法および使用は、一般に、処理された表面へのタンパク質および/または脂質の結合の低減または防止をもたらす。追加的にまたは代替的に、上記の方法および使用は、処理された表面上または処理された表面での血小板凝集の低減をもたらし得る。
【0151】
本明細書で提供される方法および使用は、一般に、処理された表面の微生物による汚染の低減または防止をもたらす。
【0152】
本明細書で提供される方法および使用は、一般に、処理された表面上でのバイオフィルムの形成の低減または防止をもたらす。
【0153】
本明細書に記載の配合物を含む物品、特に医療デバイス、特に本発明の配合物に囲まれた医療デバイスを含む容器(receptacle)が提供される。
【0154】
一実施形態によれば、微生物による物品の汚染を低減または防止する方法であって、本明細書に記載の配合物と該物品を接触させることを含む、方法が提供される。
【0155】
上記の方法は、本明細書に記載の配合物と物品を接触させる前に、1つ以上のリン脂質を含む前処理配合物と該物品を接触させることを含み得る。1つ以上のリン脂質を含む前処理配合物は、一般に、上述したとおりである。
【0156】
上記の方法はまた、任意にまたは代替的に、本明細書に記載の配合物と物品を接触させる前に、1つ以上の溶媒を含む前処理配合物および/または1つ以上のポリエチレングリコール化合物を含む前処理配合物と該物品を接触させることを含み得る。1つ以上の溶媒を含む前処理配合物および1つ以上のポリエチレングリコール化合物を含む前処理配合物は、一般に、上述したとおりである。
【0157】
典型的には、上記の方法は、物品を1つ以上の溶媒を含む前処理配合物と接触させること、該物品を1つ以上のポリエチレングリコール化合物を含む前処理配合物と接触させること、およびその後該物品を本明細書に記載の配合物と接触させることを含む。
【0158】
あるいは、上記の方法は、物品を1つ以上の溶媒を含む前処理配合物と接触させること、該物品を1つ以上のリン脂質を含む前処理配合物と接触させること、およびその後該物品を本明細書に記載の配合物と接触させることを含む。
一実施形態によれば、上記の方法は、物品を1つ以上の溶媒を含む前処理配合物と接触させること、該物品を1つ以上のリン脂質を含む前処理配合物と接触させること、該物品を1つ以上のポリエチレングリコール化合物を含む前処理配合物と接触させること、およびその後該物品を本明細書に記載の配合物と接触させることを含む。
【0159】
本発明の一態様によれば、本明細書に記載の配合物を表面に塗布することにより、表面の接触角を減少させる方法が提供される。
【0160】
上で詳述したように、物品の1つ以上の表面を本発明の配合物と接触させると、その処理された表面の接触角が減少し、したがって、それに伴う濡れ性が改善される。
【0161】
配合物は、物品の処理された表面への微生物の付着を低減すること、および/または物品の処理された表面上でのバイオフィルムの形成のリスクを低減することに使用するためのものであり得る。
【0162】
本発明の一態様によれば、本明細書に記載の配合物を表面に塗布することにより、該表面上または該表面での血小板凝集を低減する方法が提供される。
【0163】
配合物は、物品の処理された表面上または物品の処理された表面での血小板凝集を低減すること、および物品の処理された表面上または物品の処理された表面上での血栓または血餅の形成の傾向を低減することに使用するためのものであり得る。
【0164】
配合物は、物品の処理された表面に伴う生物静止性(biostatic)を低減するのに使用するためのものであり得る。
【0165】
出願人は理論に拘束されることを望まないが、本明細書に記載の配合物は、該配合物で処理された物品の表面へのタンパク質および/または脂質の結合を低減すると考えられている。さらに、本発明の配合物は、殺菌性および抗生物静止性(biocidal and anti-biostatic properties)に関連している。
【0166】
上述のように、上記の方法は、本発明の配合物との接触の前に、物品を1つ以上の前処理、特にリン脂質前処理配合物およびポリエチレングリコール前処理配合物のうちの1つ以上と接触させることを含み得る。
一実施形態によれば、この方法は、本発明の配合物との接触の前に、物品をヘプタンまたはイソプロピルアルコールなどの溶媒と接触させるステップを含み得る。
【0167】
適切な物品は、一般に、ポリウレタン、特にPEGベースのポリウレタンなどのポリマー材料から形成される。ポリマー材料は、シリコーンを含み得る。
【0168】
特に目的の医療デバイスには、生体液、とりわけ血液、尿、涙、唾液および粘液からなる群から選択される生体液との接触を目的とするものが含まれる。
【0169】
処理される物品は、医療、歯科、製薬、獣医または遺体安置所の装置およびデバイスであり得る。
【0170】
一態様によれば、医療デバイスは、コンタクトレンズ(ハードまたはソフト)、眼内レンズ、角膜アンレー(corneal onlay)、眼または眼の近くの上またはその周辺に使用される他の眼科用デバイス(例えば、ストリップなど)などの眼科用デバイスであり得る。
【0171】
一実施形態によれば、医療デバイスは、ステント、カテーテル、腹膜透析チューブ、排液デバイス、関節プロテーゼ、心臓インプラントなどのインプラント(心臓弁、血栓フィルター、内視鏡および歯科用デバイスを含む)、フィラーなどの歯科インプラント、慢性血液透析、急性血液透析、血液ろ過または体外CO2除去などに使用するための血管カテーテル、体外回路、メスおよびシャントからなる群から選択され得る。
【0172】
本発明のさらなる態様では、本発明の配合物が塗布または付着されている基材が提供される。基材は、創傷への塗布または創傷部位への送達に適している。好ましくは、基材は、本発明の製品の活性物質の基材から創傷床への移動を可能にして、活性物質の抗バイオフィルム効果を実現する。基材は、包帯、例えば、創傷被覆材であり得る。包帯は、布材料を含み得るか、またはそれはコラーゲン様材料であり得る。
【0173】
本発明は、本発明による配合物を与えるステップを含む、環境におけるバイオフィルムの形成を防止する方法を提供する。この方法は、in vivoまたはex vivoであり得る。
【0174】
微生物感染症または疾患、特に微生物バイオフィルムの治療または防止における本明細書に記載の配合物の使用が提供される。
【0175】
物品、特に医療デバイス上または医療デバイス内でのバイオフィルムの形成を防止する方法であって、本明細書に記載の配合物を該医療デバイスの少なくとも1つの表面に与えること、または本明細書に記載の配合物を該医療デバイスの少なくとも1つの表面に提供することを含む、方法も提供される。
【0176】
一般に、表面1cm2あたり少なくとも1mLの配合物が提供される。
【0177】
本発明の方法は、特に微生物感染症の治療において、人体におけるバイオフィルムの形成を防止または制限するために使用され得る。バイオフィルム感染症に関連する状態は、局所感染症、口腔感染症および全身感染症を含み得る。
【0178】
局所感染症は、創傷、潰瘍および病変、例えば、切り傷または火傷などの皮膚創傷、およびそれらに関連する状態を含み得る。
【0179】
バイオフィルムは、細菌、真菌、酵母、ウイルスおよび原生動物から選択されるいずれかのバイオフィルム形成微生物を含み得る。典型的には、微生物は細菌、例えばグラム陽性菌またはグラム陰性菌である。細菌は、シュードモナス属、例えば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa);ブドウ球菌属、例えば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis);ヘモフィルス属、例えばインフルエンザ菌(Haemophilus influenza);バークホルデリア属、例えばバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia);連鎖球菌属;プロピオニバクテリウム属、例えばプロピオン菌アクネ菌(propionibacterium acnes)を含み得る。好ましくは、細菌は、シュードモナス属(例えば、緑膿菌)およびブドウ球菌属(例えば、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌)から選択される。
【0180】
本発明の方法は、家庭、職場、実験室、産業環境、水生環境(例えば、パイプラインシステム)、留置デバイスなどの医療デバイスを含むがこれらに限定されない様々な環境におけるバイオフィルムの形成を最小化し、好ましくは防止するために使用され得る。
【0181】
(具体的な配合物)
一実施形態によれば、以下を含むか、以下からなるか、または以下から本質的になる配合物が提供される:
a.一般にエチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシドの構造を有する、少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー0.1~7重量%;
b.少なくとも1つのポリアクリル酸塩0.1~5重量%;
c.一般に式A、式Aiまたは式Aiiの構造を有する、少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物0.01~3重量%;
d.アルカリ金属塩0.5~2重量%;
e.少なくとも90重量%の水;
f.任意に、最大5重量%の追加成分(緩衝液や界面活性剤など)。
【0182】
一実施形態によれば、配合物は、以下を含むか、以下からなるか、または以下から本質的になる:
a.一般にエチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシドの構造を有する、少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー0.1~7重量%;
b.少なくとも1つのポリアクリル酸塩0.1~5重量%;
c.一般に式A、式Aiまたは式Aiiの構造を有する、少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物0.01~3重量%;
d.アルカリ金属塩0.5~2重量%;
e.少なくとも90重量%の水;
f.任意に、最大5重量%の追加成分(緩衝液や界面活性剤など);
g.好ましくはコカミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩、ミリスタミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩およびリノールアミドプロピルPG-塩化二アンモニウムからなる群から選択される、最大1.5%のリン脂質。
【0183】
本発明の例示的な配合物は、以下を含むか、以下からなるか、または以下から本質的になる:
a.50~80%のプロピレンオキシドを含む、少なくとも1つのエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー0.2~5重量%;
b.0.3~1重量%のポリアクリル酸アルカリ金属塩、一般にはポリアクリル酸ナトリウム塩;
c.式A、式Aiまたは式Aiiの構造を有し、数平均分子量が30,000未満である、少なくとも1つのプロポキシル化エチレンジアミン化合物0.05~1重量%;
d.0.5~2重量%の塩化ナトリウム、塩化カリウムまたはそれらの混合物;
e.少なくとも90重量%の水;
f.任意に、最大5重量%の追加成分(緩衝液や界面活性剤など)。
【0184】
適切には、配合物は、特にコカミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩、ミリスタミドプロピルPG-塩化二アンモニウムおよびリノールアミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩からなる群から選択される最大1.5%のリン脂質を含む。
【0185】
一般に、上記の成分は配合物の100重量%を形成する。
【0186】
あるいは、上記の成分は、配合物の最大95重量%を形成し得、残りの反応物混合物は、本明細書に記載されるような追加の成分から形成される。
【0187】
(キット)
さらなる実施形態によれば、本明細書に記載の配合物および使用説明書を含有する容器(receptacle)を含む部品のキットが提供される。
【0188】
キットは、1つ以上の前処理配合物、特にリン脂質前処理配合物、ポリエチレングリコール配合物および/または溶媒のうちの1つ以上を含み得る。
【0189】
一般に、キットは、リン脂質前処理配合物、ポリエチレングリコール配合物および溶媒を含む。
【0190】
キットは、配合物を塗布するための器具、例えば、スプレーアタッチメント、スパチュラ、シリンジおよび同等物を含み得る。
【0191】
キットは、任意の規制要件に従って、本書に記載されている方法を実行することおよび/またはその結果を解釈することのための説明書をさらに含み得る。さらに、検出された微生物レベルおよび/または表面の接触角を分析するためのソフトウェアをキットに含めることができる。好ましくは、キットは、商業的流通、販売、および/または使用に適した容器に包装され、適切なラベル、例えば、含まれる化学反応物の識別を含むラベルを含有する。
【実施例】
【0192】
次に、本発明を例としてのみ説明する。
【0193】
(例1)
以下の配合物を、以下に与えられる方法に従って調製した:
9リットルの塩類溶液の調製
数平均分子量7200の、式Aiによるプロポキシル化エチレンジアミン化合物(一般に、Tetronic(登録商標)90R4の商品名で販売されている化合物)9g-0.1重量%;
数平均分子量5800の、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー(PEG-PPG-PEG)(一般に、Pluronic(登録商標)123の商品名で販売されている化合物)45g-0.5重量%;
数平均分子量15000のポリアクリル酸(PAA)ナトリウム塩36g-0.4重量%;
塩化ナトリウム81g-0.9重量%;
ホウ酸9.9g-0.1重量%;
ジ-Tertホウ酸ナトリウム(Sodium di-Tertborate)0.99g-0.01重量%
非イオン性、親水性界面活性剤(商品名「ポロキサマー407」で販売されているものなど)0.45g-0.005重量%;
脱イオン水8910mL-98重量%。
【0194】
1.メスシリンダーを使用して、946mlの脱イオン水をデュランボトルに量り取る。
2.プロポキシル化エチレンジアミン化合物9g(±0.1g)をデュランボトルに量り取る。加えた量を記録する。
3.完全に溶解するまで、マグネチックスターラーを用いて中速で溶液を混合する(約15分)。
4.エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー45g(±0.1g)を溶液に量り取る。加えた量を記録する。
5.よく振って冷蔵庫に一晩入れ、合間に振って完全に溶解させる。
6.翌日、マグネチックスターラーを用いて中速で溶液を混合する(約30分)。
7.メスシリンダーを使用して、5リットルの脱イオン水をきれいな乾いたカーボイに量り取る。
8.水、プロポキシル化エチレンジアミン化合物、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーを含むデュランをカーボイに添加する。
9.さらに1リットルの脱イオン水を加えて、プロポキシル化エチレンジアミン化合物およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーを含むデュランを洗い流し、洗浄液をカーボイに添加する。
10.メスシリンダーを使用して、964mlの脱イオン水をきれいな乾燥したデュランボトルに量り取る。
11.36gのPAAナトリウム塩(±0.1g)をデュランボトルに量り取る。加えた量を記録する。
12.完全に溶解するまで、マグネチックスターラーを用いて中速で溶液を混合する(約15分)。
13.水およびPAAナトリウム塩を含むデュランをカーボイに添加する。
14.さらに1リットルの脱イオン水を加えて、PAAナトリウム塩を含むデュランを洗い流し、洗浄液をカーボイに添加する。
15.81gの塩化ナトリウム(±0.1g)を量り取り、水に加える。加えた量を記録する。
16.9.9gのホウ酸(±0.1g)を量り取り、水に加える。加えた量を記録する。
17.0.99gのジ-Tertホウ酸ナトリウム(Sodium di-Tertborate)(±0.01g)を量り取り、水に加える。加えた量を記録する。
18.0.45gの界面活性剤(±0.01g)を量り取り、塩類溶液に加える。加えた量を記録する。
19.完全に溶解するまで、マグネチックスターラーを用いて中速で溶液を混合する(約30分)。
20.溶液のpHを確認し、これを記録する。溶液がpH6.8~7.8の範囲内にあることを確認する。そうでない場合は、溶液を不合格とする。
21.ドラフト内にて60分間窒素で脱気する。塩類溶液カーボイを検査し、プロセス全体を通して適度な量のガスが溶液全体に泡立っていることを確認する。
22.0.45μmのVacucapフィルターを通して塩類溶液をきれいなガラス製デュランボトル(1L以下)にろ過してから、オートクレーブする。
【0195】
(例2)
以下の溶液を調製した:
<塩類溶液B>
9リットルの塩類溶液Bの調製
・81gの塩化ナトリウム-0.89重量%
・9.9gのホウ酸-0.11重量%
・0.99gのジ-Tertホウ酸ナトリウム(Sodium di-Tertborate)-0.011重量%
・0.45gのポロキサマー407-0.005重量%
・9000mLの脱イオン水-99重量%
【0196】
<塩類溶液E>
9リットルの塩類溶液Eの調製
・9gのTetronic 90R4(Mn 7200)-0.1重量%
・45gのPluronic 123(Mn 5800)-0.5重量%
・36gのポリアクリル酸ナトリウム塩(Mw 15000)-0.4重量%
・81gの塩化ナトリウム-0.9重量%
・9.9gのホウ酸-0.1重量%
・0.99gのジ-Tertホウ酸ナトリウム(Sodium di-Tertborate)-0.01重量%
・0.45gのポロキサマー407-0.005重量%
・8910mLの脱イオン水-98重量%
【0197】
<塩類溶液F>
9リットルの塩類溶液Fの調製
・9gのTetronic 1107(Mn)-0.099重量%
・45gのPluronic 123(Mn 5800)-0.49重量%
・0.6750gのヒドロキシプロピルメチルセルロース-0.0074重量%
・9gのポリビニルピロリドン-0.099重量%
・54gのポリアクリル酸ナトリウム塩(Mw 15000)-0.59重量%
・75.95gの塩化ナトリウム-0.83重量%
・10.82gのホウ酸-0.12重量%
・0.45gのジ-Tertホウ酸ナトリウム(Sodium di-Tertborate)-0.0049重量%
・0.45gのポロキサマー407-0.0049重量%
・8901mLの脱イオン水-97.74重量%
【0198】
<溶液I>
PEG200(1g/100mL)およびPEG6000(1g/100ml)を含む塩類溶液B。
【0199】
<溶液II>
PEG300(1g/100mL)およびPEG6000(1g/100ml)を含む塩類溶液B。
【0200】
<溶液IV>
PEG200(1g/100mL)およびPEG300(1g/100mL)およびPEG6000(1g/100ml)を含む塩類溶液B。
【0201】
(例2A)
レンズをヘプタンで1時間膨潤させた後、溶液IVに3時間移し、そして塩類溶液Fに移してオートクレーブした。処理されたレンズの接触角を室温で測定した。処理されたレンズの平均接触角は18.2であり、それに伴う標準偏差は5.3であった。
【0202】
【0203】
(例2B)
レンズをヘプタンで1時間膨潤させた後、溶液IVに3時間移し、そして塩類溶液Fに移してオートクレーブした。処理されたレンズの接触角を35℃で測定した。処理されたレンズの平均接触角は22.7であり、それに伴う標準偏差は4.2であった。
【0204】
【0205】
(例2C)
レンズをイソプロピルアルコールで1時間膨潤させた後、溶液Iに3時間移し、そして塩類溶液Fに移してオートクレーブした。処理されたレンズの接触角を室温で測定した。処理されたレンズの平均接触角は21.6であり、それに伴う標準偏差は5.8であった。
【0206】
【0207】
(例2D)
レンズをイソプロピルアルコールで1時間膨潤させた後、溶液IIに3時間移し、そして塩類溶液Fに移してオートクレーブした。処理されたレンズの接触角を室温で測定した。処理されたレンズの平均接触角は21.4であり、それに伴う標準偏差は0.9であった。
【0208】
【0209】
(例2E)
レンズをイソプロピルアルコールで1時間膨潤させた後、溶液IVに3時間移し、そして塩類溶液Fに移してオートクレーブした。処理されたレンズの接触角を室温で測定した。処理されたレンズの平均接触角は18.9であり、それに伴う標準偏差は1.2であった。
【0210】
【0211】
(例3A)
レンズを、塩類溶液B中にプロピレングリコール、水、および1%リン脂質リノールアミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩(上記の構造)を含む前処理配合物で膨潤させた。レンズを塩類溶液Fに移してオートクレーブした。処理されたレンズの接触角を室温で測定した。処理されたレンズの平均接触角は22.4であり、それに伴う標準偏差は0.9であった。
【0212】
【0213】
(例3B)
レンズを、塩類溶液B中の1%リン脂質コカミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩(上記の構造)を含む前処理配合物で膨潤させた。次に、レンズを塩類溶液Fに移してオートクレーブした。処理されたレンズの接触角を室温で測定した。処理されたレンズの平均接触角は22.4であり、それに伴う標準偏差は1.0であった。
【0214】
【0215】
(例3C)
レンズを、塩類溶液B中の1%リン脂質ミリスタミドプロピルPG-塩化二アンモニウムリン酸塩(上記の構造)を含む前処理配合物で膨潤させた。次に、レンズを塩類溶液Fに移してオートクレーブした。処理されたレンズの接触角を室温で測定した。処理されたレンズの平均接触角は24.1であり、それに伴う標準偏差は2.3であった。
【0216】
【0217】
本明細書の記載および特許請求の範囲全体を通して、文脈上別段の必要がない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈上別段の必要がない限り、本明細書は単数だけでなく複数も企図していると理解されるべきである。
【0218】
本発明の特定の態様、実施形態または例に関連して記載される特徴、整数、特性、化合物、化学部分または基は、本明細書に記載の他の任意の態様、実施形態または例に、それらと両立しない場合を除いて、適用可能であると理解されるべきである。
【0219】
本明細書の記載および特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」および「含有する(contain)」という単語、ならびに「含んでいる(comprising)」および「含む(comprises)」などのそれらの単語の変形は、「を含むがこれらに限定されない」を意味し、他の部分、添加剤、成分、整数またはステップを除外することを意図しない(および除外しない)。本明細書で参照されるすべての文書は、参照により援用される。コポリマーおよびブロックコポリマーという単語は、いずれかを説明するために使用される。
【0220】
本発明の記載された態様の様々な修正および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関連して説明されてきたが、特許請求される本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、関連分野の当業者に明らかである、本発明を実施するための記載された様式の様々な修正は、以下の特許請求の範囲内にあることが意図されている。