(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】大型低速運転2ストロークエンジンの潤滑システムをアップグレードする方法
(51)【国際特許分類】
F01M 1/08 20060101AFI20240314BHJP
F01M 1/16 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
F01M1/08 B
F01M1/08 E
F01M1/16 C
F01M1/16 D
(21)【出願番号】P 2021521883
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 DK2019050219
(87)【国際公開番号】W WO2020007434
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-07-01
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】511081141
【氏名又は名称】ハンス イェンセン ルブリケイターズ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】バック ペール
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン ニコライ
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-028315(JP,A)
【文献】特開平02-067410(JP,A)
【文献】特表2008-531903(JP,A)
【文献】特開2012-163098(JP,A)
【文献】特開2011-256867(JP,A)
【文献】特表2002-529648(JP,A)
【文献】特表2010-534788(JP,A)
【文献】国際公開第2017/162253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/06 - 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型低速運転エンジンの潤滑を改善する方法であって、
前記エンジンはシリンダ(1)を備え、前記シリンダ(1)は、内部に往復式ピストンを備え、噴射フェーズ中に外周上
の位置で前記シリンダ(1)内に潤滑油を噴射するために複数の噴射器(4)が前記シリンダ(1)の外周に沿って分散配置されており、前記エンジンはさらに、前記噴射フェーズにおいて前記噴射器に潤滑油を供給するための潤滑システムを備え、
前記潤滑システムは、対応する潤滑油供給導管(9)によって前記噴射器の各々にパイプ接続された潤滑装置(11)を備え、前記噴射フェーズにおいて対応する前記潤滑油供給導管(9)を介して前記噴射器の各々に加圧潤滑油を供給するようになっており、
前記潤滑装置(11)は、油圧駆動アクチュエータピストン(123)がストローク長(112)に沿って往復するように配置されたハウジング(101)を備えるタイプであり、前記潤滑装置(11)はさらに、最小ストローク長と最大ストローク長の間で前記油圧駆動アクチュエータピストン(123)の前記ストローク長(112)を可変的に調整するように構成されたストローク長(112)調整機構を備え、
前記潤滑装置(11)はさらに、対応する注入流路(115)内に摺動自在に配置された複数の噴射プランジャを備え、前記噴射プランジャは、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)によって前記ストローク長(112)にわたって動かされ、結果として、注入流路
距離にわたって前記注入流路(115)内の潤滑油を加圧するために、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)に連結され、前記シリンダ(1)内への前記潤滑油の噴射のために、前記加圧された潤滑油を前記注入流路から逆止弁(102)を通り、前記潤滑油供給導管(9)を通って前記噴射器(4)へ吐出するようになっており、前記注入流路距離は、前記噴射フェーズ中に前記注入流路から吐出される潤滑油の量を規定し、前記注入流路距離は、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)の前記最小ストローク長と前記最大ストローク長との間で前記ストローク長(112)を調整することによって、最小注入流路距離と最大注入流路距離との間で調整可能であり、
前記潤滑装置(11)は、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)に作用する油圧レベル間の切替えを引き起こして、前記切替え圧力レベルによって前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)を往復式に油圧駆動するように配置された電気式弁(116)を備え、
前記潤滑システムは、前記電気式弁(116)に電気接続されたコントローラ(12)を備え、前記コントローラ(12)から前記電気式弁(116)に送られた対応する電気信号によって、前記噴射フェーズに対する前記切替えのタイミングを制御するようになっており、
前記潤滑システムの変更は、
-内部に加圧された潤滑油を蓄えるためのアキュムレータ(21)と、内部を通る潤滑油の流れを制御するためのアップグレード弁システム(20)と、前記アップグレード弁システム(20)の開閉を制御するためのアップグレードコントローラ(19)とを提供するステップと、
-前記潤滑装置(11)と前記噴射器(4)との間の潤滑油供給導管を切り離し、その代わりに前記潤滑装置(11)を単一供給ライン(24)で前記アップグレード弁システム(20,20’)の上流側にパイプ接続するステップと、
-前記アップグレード弁システム(20,20’)の開閉に関するタイミング、頻度、時間長を制御するために、前記アップグレードコントローラ(19)を前記アップグレード弁システム(20,20’)に機能的に接続するステップと、を含み、
これにより、前記変更後の前記潤滑システムは、修正後の潤滑システムであり、
前記方法が、
-前記コントローラ(12)の制御下で
エンジンの第1の回転数ごとに前記噴射器(4)を介した1噴射でもって、前記潤滑装置(11)による潤滑で前記エンジンを運転するステップと、
-前記潤滑システムの変更のために前記エンジンの運転を停止するステップと、
-前記潤滑システムを変更するステップと、
-前記変更された潤滑システムを用いて前記エンジンの運転を継続するステップと、を含み、
前記潤滑システムの前記変更は、前記潤滑装置(11)からの前記潤滑油に対するバッファとして使用するために及び前記潤滑装置(11)のポンプ動作による前記単一供給ライン(24)内の圧力変動を吸収するために、前記潤滑装置(11)と前記アップグレード弁システム(20,20’)との間の流路において、前記アップグレード弁システム(20,20’)の上流側で前記単一供給ライン(24)に前記アキュムレータ(21)をパイプ接続するステップを含み、
前記変更された潤滑システムを備えた前記エンジンの前記運転は、前記アップグレードコントローラ(19)の制御下で前記噴射器(4)によって前記シリンダ(1)内へ前記潤滑油を噴射するために、タイミング及び頻度並びに前記潤滑油の流れの時間長に関して前記アップグレードコントローラ(19)が前記アップグレード弁システム(20,20’)を制御することによって、前記潤滑装置(11)に、加圧された潤滑油を前記アキュムレータ(21)内へ及び前記アップグレード弁システム(20,20’)へ圧送させるステップを含
み、
前記方法は、単一のシリンダ(1)の噴射器(4)群からの前記潤滑油供給導管(9)を、単一の共通潤滑油供給ライン(9’)に置き換えて、前記共通潤滑油供給ライン(9’)を介して前記噴射器(4)群内の全噴射器(4)に対して潤滑油を同時に供給するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記潤滑装置(11)から前記噴射器(4)群への潤滑油の流れを、前記アップグレード弁システム(20)を通し、続いて前記単一の共通潤滑油供給ライン(9’)を通し
てもたらすために、前記アップグレード弁システム(20)の下流側に前記噴射器(4)を接続するステップと、前記噴射フェーズ間ではなく噴射フェーズ中に共通潤滑油供給ライン(9’)内の圧力を増加させ、加圧された潤滑油を、前記噴射フェーズにおいて前記共通潤滑油供給ライン(9’)を介して、前記噴射器(4)群内の全噴射器(4)に同時に供給するようにするステップと、を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、前記アップグレード弁システム(20’)の一部として、前記噴射器(4)群内の各噴射器(4)に内部電気作動弁を提供し、前記噴射器(4)群を前記共通潤滑油供給ライン(9’)に接続するステップと、前記アップグレードコントローラ(19)による制御の下で、前記共通潤滑油供給ライン(9’)内の加圧潤滑油を供給し、前記噴射器(4)の各々の前記
内部電気作動弁を作動させるステップと、を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記コントローラ(12)を前記アップグレードコントローラ(19)に電子接続し、前記アップグレードコントローラが前記コントローラ(12)からタイミング信号を受け取り、前記タイミング信号に対して所定の時間依存性で前記アップグレード弁システム(20,20’)を作動させるためにアップグレードされた作動信号を前記アップグレード弁システム(20,20’)に送るステップを含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記コントローラ(12)に電子的に、前記潤滑装置(11)の前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)の少なくとも1つのストローク長が増大するように、又は加圧された前記アキュムレータ(21)内の前記潤滑油を維持するためにも十分な潤滑油量の供給が増大するようにさせるステップを含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記コントローラ(12)に、前記潤滑装置(11)のポンプ頻度が増大するようにさせて、それに対応して前記アップグレード弁システム(20)の前記頻度を増大させ、
エンジンの第2の回転数ごとに1噴射フェーズのより高い噴射頻度で潤滑油を噴射するようにさせるステップを含み、前記第2の回転数は前記第1の回転数よりも小さい、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、前記変更された潤滑システムを備える前記エンジンの継続運転における総潤滑油消費量を、前記潤滑システムを変更する前の潤滑油消費量以下に定めるステップを含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記変更前の前記噴射器は、オイルクイル又は潤滑油噴流を噴射するタイプであり、前記方法は、前記噴射器をSIPタイプの噴射器(4)と交換し、SIP噴射器(4)による噴射を用いて前記エンジンの運転を継続して、潤滑油の霧状の液滴の噴霧を前記シリンダ内部の掃気スワール渦内へ噴射するステップを含み、前記SIP噴射器からの前記潤滑油の圧力は、20~120barの範囲にある、請求項
1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
大型低速運転エンジンの潤滑を改善するために潤滑システムを変更する方法であって、
前記エンジンは、シリンダ(1)を備え、前記シリンダ(1)が内部に往復式ピストンを備え、噴射フェーズ中に外周上の位置で前記シリンダ(1)内に潤滑油を噴射するために複数の噴射器(4)が前記シリンダ(1)の外周上に沿って分散配置されたタイプであり、前記潤滑システムは、前記噴射フェーズにおいて前記噴射器に潤滑油を供給するように構成され、
前記潤滑システムは、対応する潤滑油供給導管(9)によって各噴射器にパイプ接続されるために、及び前記噴射フェーズにおいて前記対応する潤滑油供給導管(9)を介して前記噴射器(4)の各々に加圧潤滑油を供給するためにパイプ接続(103)を有する潤滑装置(11)を備え、
前記潤滑装置(11)は、油圧駆動アクチュエータピストン(123)がストローク長(112)に沿って往復するように配置されたハウジング(101)を備えるタイプであり、前記潤滑装置(11)はさらに、最小ストローク長と最大ストローク長の間で前記油圧駆動アクチュエータピストン(123)の前記ストローク長(112)を可変的に調整するように構成されたストローク長(112)調整機構を備え、
前記潤滑装置(11)はさらに、対応する注入流路(115)内に摺動自在に配置された複数の噴射プランジャを備え、前記噴射プランジャは、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)によって前記ストローク長(112)にわたって動かされ、結果として、注入流路
距離にわたって前記注入流路(115)内の潤滑油を加圧するために、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)に連結され、前記シリンダ(1)内への前記潤滑油の噴射のために、前記加圧された潤滑油を前記注入流路から逆止弁(102)を通り、前記
潤滑油供給導管(9)を通って前記噴射器(4)へ吐出するようになっており、前記注入流路距離は、前記噴射フェーズ中に前記注入流路から吐出される潤滑油の量を規定し、前記注入流路距離は、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)の前記最小ストローク長と前記最大ストローク長との間で前記ストローク長(112)を調整することによって、最小注入流路距離と最大注入流路距離との間で調整可能であり、
前記潤滑装置(11)は、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)に作用する油圧レベル間の切替えを引き起こし、前記切替え圧力レベルによって前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)を往復式に油圧駆動するように配置された電気式弁(116)を備え、
前記潤滑システムは、前記電気式弁(116)に電気接続されたコントローラ(12)を備え、前記コントローラ(12)から前記電気式弁(116)に送られた対応する電気信号によって、前記噴射フェーズに対する前記切替えのタイミングを制御するようになっており、
これにより、前記変更後の前記潤滑システムは、修正後の潤滑システムであり、
前記潤滑システムの変更は、
-内部に加圧された潤滑油を蓄えるためのアキュムレータ(21)と、内部を通る潤滑油の流れを制御するためのアップグレード弁システム(20)と、前記アップグレード弁システム(20)の開閉を制御するためのアップグレードコントローラ(19)とを提供するステップと、
-前記潤滑装置(11)と前記噴射器(4)との間で潤滑油供給導管を切り離し、その代わりに前記潤滑装置(11)を単一供給ライン(24)で前記アップグレード弁システム(20,20’)の上流側にパイプ接続するステップと、
-前記アップグレード弁システム(20,20’)の開閉に関するタイミング、頻度、時間長を制御するために、前記アップグレードコントローラ(19)を前記アップグレード弁システム(20,20’)に機能的に接続するステップと、を含み、
前記潤滑システムの前記変更はさらに、
前記潤滑装置(11)からの前記潤滑油に対するバッファとして使用するために及び前記潤滑装置(11)のポンプ動作による前記単一供給ライン(24)内の圧力変動を吸収するために、前記潤滑装置(11)と前記アップグレード弁システム(20,20’)との間の流路において、前記アップグレード弁システム(20,20’)の上流側で前記単一供給ライン(24)に前記アキュムレータ(21)をパイプ接続するステップを含み、
変更された潤滑システムは、前記アップグレードコントローラ(19)の制御下で前記シリンダ(1)内へ前記潤滑油を噴射するために、タイミング及び頻度並び前記潤滑油の流れの時間長に関して前記アップグレードコントローラ(19)が前記アップグレード弁システム(20,20’)を制御することによって、前記潤滑装置(11)に、加圧された潤滑油を前記アキュムレータ(21)内へ及び前記アップグレード弁システム(20,20’)へ圧送させるように構成され、
前記方法は、単一のシリンダ(1)の噴射器(4)群からの前記潤滑油供給導管(9)を、単一の共通潤滑油供給ライン(9’)に置き換えて、前記共通潤滑油供給ライン(9’)を介して前記噴射器(4)群内の全噴射器(4)に対して潤滑油を同時に供給するステップを含む、方法。
【請求項10】
前記方法は、前記潤滑装置(11)から前記噴射器(4)群への潤滑油の流れを、前記アップグレード弁システム(20)を通し、続いて前記単一の共通潤滑油供給ライン(9’)を通してもたらすために、前記アップグレード弁システム(20)の下流側に前記噴射器(4)を接続するステップと、前記噴射フェーズ間ではなく噴射フェーズ中に共通潤滑油供給ライン(9’)内の圧力を増加させ、加圧された潤滑油を、前記噴射フェーズにおいて前記共通潤滑油供給ライン(9’)を介して、前記噴射器(4)群内の全噴射器(4)に同時に供給するようにするステップと、を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、前記アップグレード弁システム(20’)の一部として、前記噴射器(4)群内の各噴射器(4)に内部電気作動弁を提供し、前記噴射器(4)群を前記共通潤滑油供給ライン(9’)に接続するステップと、前記アップグレードコントローラ(19)による制御の下で、前記共通潤滑油供給ライン(9’)内の加圧潤滑油を供給し、前記噴射器(4)の各々の前記
内部電気作動弁を作動させるステップと、を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記コントローラ(12)を前記アップグレードコントローラ(19)に電子接続し、前記アップグレードコントローラが前記コントローラ(12)からタイミング信号を受け取り、前記タイミング信号に対して所定の時間依存性で前記アップグレード弁システム(20,20’)を作動させるためにアップグレードされた作動信号を前記アップグレード弁システム(20,20’)に送るステップを含む、請求項
9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、前記コントローラ(12)に電子的に、前記潤滑装置(11)の前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)の少なくとも1つのストローク長が増大するように、又は加圧された前記アキュムレータ(21)内の前記潤滑油を維持するためにも十分な潤滑油量の供給が増大するようにさせるステップを含む、請求項
9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、前記コントローラ(12)に、前記潤滑装置(11)のポンプ頻度が増大するようにさせて、それに対応して前記アップグレード弁システム(20)の前記頻度を増大させ、
エンジンの第2の回転数ごとに1噴射フェーズのより高い噴射頻度で潤滑油を噴射するようにさせるステップを含み、前記第2の回転数は第1の回転数よりも小さい、請求項
10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、前記噴射器をSIPタイプの噴射器(4)と交換し、SIP噴射器(4)による潤滑油噴射を用いて前記エンジンの運転を継続して、潤滑油の霧状の液滴の噴霧を前記シリンダ内部の掃気スワール渦内へ噴射するステップを含み、前記SIP噴射器からの前記潤滑油の圧力は、20~120barの範囲にある、請求項
9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
大型低速運転エンジン用の潤滑システムであって、
前記エンジンは、シリンダ(1)を備えて、前記シリンダ(1)は、内部に往復式ピストンを備え、噴射フェーズ中に外周上の位置で前記シリンダ(1)内に潤滑油を噴射するために複数の噴射器(4)が前記シリンダ(1)の外周上に沿って分散配置されたタイプあり、前記潤滑システムは、前記噴射フェーズにおいて前記噴射器に潤滑油を供給するように構成され、
前記潤滑システムは、前記噴射フェーズにおいて前記噴射器に潤滑油を供給するように構成され、
前記潤滑システムは、前記噴射フェーズにおいて前記噴射器(4)に加圧潤滑油を供給するために、前記噴射器(4)へのパイプ接続を有する潤滑装置(11)を備え、
前記潤滑装置(11)は、油圧駆動アクチュエータピストン(123)がストローク長(112)に沿って往復するように配置されたハウジング(101)を備え、前記潤滑装置(11)はさらに、最小ストローク長と最大ストローク長の間で前記油圧駆動アクチュエータピストン(123)の前記ストローク長(112)を可変的に調整するように構成されたストローク長(112)調整機構を備え、
前記潤滑装置(11)はさらに、対応する注入流路(115)内に摺動自在に配置された複数の噴射プランジャを備え、前記噴射プランジャは、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)によって前記ストローク長(112)にわたって動かされ、結果として、注入流路
距離にわたって前記注入流路(115)内の潤滑油を加圧するために、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)に連結され、前記シリンダ(1)内への前記潤滑油の噴射のために、前記加圧された潤滑油を前記注入流路から逆止弁(102)を通って前記噴射器(4)へ吐出するようになっており、前記注入流路距離は、前記噴射フェーズ中に前記注入流路から吐出される潤滑油の量を規定し、前記注入流路距離は、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)の前記最小ストローク長と前記最大ストローク長との間で前記ストローク長(112)を調整することによって、最小注入流路距離と最大注入流路距離との間で調整可能であり、
前記潤滑装置(11)は、前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)に作用する油圧レベル間の切替えを引き起こし、前記切替え圧力レベルによって前記
油圧駆動アクチュエータピストン(123)を往復式に油圧駆動するように配置された電気式弁(116)を備え、
前記潤滑システムは、前記電気式弁(116)に電気接続されたコントローラ(12)を備え、前記コントローラ(12)から前記電気式弁(116)に送られた対応する電気信号によって、前記噴射フェーズに対する前記切替えのタイミングを制御するようになっており、
前記潤滑システムは、内部に加圧された潤滑油を蓄えるためのアキュムレータ(21)と、内部を通る潤滑油の流れを制御するためのアップグレード弁システム(20)と、前記アップグレード弁システム(20)の開閉を制御するためのアップグレードコントローラ(19)とを備え、
前記潤滑装置(11)は、単一供給ライン(24)で前記アップグレード弁システム(20)の上流側に接続され、
前記アップグレード弁システム(20,20’)の開閉に関するタイミング、頻度、時間長を制御するために、前記アップグレードコントローラ(19)は、前記アップグレード弁システム(20,20’)に機能的に接続され、
前記潤滑システムは、前記アップグレードコントローラ(19)の制御下で前記シリンダ(1)内へ前記潤滑油を噴射するために、タイミング及び頻度並びに前記潤滑油の流れの長さに関して前記アップグレードコントローラ(19)が前記アップグレード弁システム(20,20’)を制御することによって、前記潤滑装置(11)に、加圧された潤滑油を前記アキュムレータ(21)内へ及び前記アップグレード弁システム(20,20’)へ圧送させるように構成される、潤滑システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型低速運転2ストロークエンジンの潤滑を最適化する方法に関する。既存の潤滑システムを変更するための、特に、より頻繁な噴射及び1噴射当たりのより少ない潤滑油量のための選択肢が提示される。例えば、大型低速運転2ストロークエンジンは、船舶用エンジン又は発電所の大型エンジンである。また、本発明は、改善された潤滑システムに関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護への重点的な取り組みにより、船舶用エンジンからのエミッションの低減に関して努力が続けられている。これには、特に競争の高まりに起因して、このようなエンジン用の潤滑システムの着実な最適化も含まれる。注目が高まっている経済的側面の1つは、石油消費の低減であるが、これは環境保護のためだけでなく、船舶の運航コストの重要な一部であることが理由である。ディーゼルエンジンの耐用寿命は石油消費の低減によって損なわれてはならないので、更なる関心事は、潤滑油の量の低減にもかかわらず適切に潤滑することである。従って、潤滑に関して着実な改良が必要とされている。
【0003】
大型低速運転の2ストローク船舶用ディーゼルエンジンの潤滑には、シリンダライナ上への潤滑油の噴射又はピストンリングへのオイルクイルの噴射を含むいくつかの異なるシステムが存在する。
【0004】
従来の潤滑と比較して、代替的な比較的新しい潤滑方法は、商業的スワールインジェクション型(SIP)と呼ばれる。これは、シリンダ内部の掃気スワール渦に潤滑油の霧状の液滴を噴射することに基づく。潤滑油は、螺旋状に上方に向かうスワール渦によりシリンダの上死点(TDC)に向かって引き寄せられ、薄く均一な層としてシリンダ壁に外向きに押し付けられる。これについては、国際公開第2010/149162号及び国際公開第2016/173601号に詳細に説明されている。船舶用エンジンにおけるSIP潤滑噴射器システムの例は、国際公開第2002/35068号、国際公開第2004/038189号、国際公開第2005/124112号、国際公開第2010/149162号、国際公開第2012/126480号、国際公開第2012/126473号、国際公開第2014/048438号、及び国際公開第2016/173601号に開示される。噴射器は、内部に往復動式弁部材、一般的にニードル弁が設けられる噴射器ハウジングを備える。ニードルチップなどの弁部材は、正確なタイミングに従って、潤滑油のノズル開口への通路を開閉する。現行のSIPシステムでは、霧状の液滴の潤滑油の噴霧は通常35~65barの圧力で達成されるが、これは、シリンダに導入される密度の高いオイルジェットで動作するシステムに使用される10bar未満の油圧よりもかなり高い。また、一部のタイプのSIP弁では、潤滑油の高い圧力は、高圧のオイルが霧状の液滴としてそこから噴出されるように、ばね付勢式弁部材をばね力に逆らってノズル開口から離れる方向に動かすために利用される。オイルの噴出は弁部材に対するオイルの圧力低下につながり、弁部材がその原点に戻り、高圧の潤滑油が再び潤滑油噴射器に供給される次の潤滑油サイクルまでそこに留まるという結果となる。
【0005】
このような大型船舶用エンジンでは、多数の噴射器がシリンダの周りに円形に配置され、各噴射器は、各噴射器からシリンダ内に潤滑油の噴流又は噴霧、又は霧状の液滴の潤滑油の噴霧を送給するため、先端に1又は2以上のノズル開口を備える。
【0006】
船舶用エンジンの潤滑に関する現在のより伝統的な手法の1つは、独国特許第19743955(B4)号及び同等のデンマーク特許第173288(B1)に開示されている。この特許は、中央コントローラが船舶用エンジンの各シリンダのための潤滑装置に潤滑油を供給する潤滑システムを開示する。潤滑装置は、シリンダの周囲に分散配置され複数の潤滑油噴射器に潤滑油を分配する。潤滑装置はハウジングを備え、その内部には、複数のピストンポンプが円周上に配置され、油圧駆動アクチュエータピストン123によって共通して同時に駆動される。ピストンポンプの各々は、逆止弁を介して潤滑油を単一シリンダの噴射器の1つに圧送する噴射プランジャ119を備える。油圧駆動アクチュエータピストンは、不動の後方停止手段と調整ねじで調整可能な前方停止手段との間の可調整な距離にわたって移動する。調整ねじを回すために、調整ねじはこれが貫通して延びるハウジングのフランジを覆うエンドキャップでアクセス可能である。
【0007】
船舶用エンジンのシリンダ内への潤滑油の密度の高い噴流の噴射、並びにピストンリングの間でのピストンへの潤滑油クイルと関連して、このシステムは広く流通しており、MAN B&W Diesel and Turbo社により、商品名Alpha潤滑装置で販売されている。
【0008】
図1は、インタネットのページ、http://www.mariness.co.kr/02_business/Doosan%20Retrofit%20Service.pdf?PHPSESSID=fd56da9de6eaca2f1f446512e84fcf69に見られるAlpha潤滑装置の例を示す。図面は、原理をより詳細に説明するため、追加の参照番号を用いて若干修正されている。
【0009】
上述の独国特許第19743955(B4)号及びデンマーク特許第173288(B1)号と同様に、Alpha潤滑装置100はハウジング101を備え、その内部には複数の噴射プランジャ119が円形に配置され、油圧駆動アクチュエータピストン123によって共通して同時に駆動される。各噴射プランジャ119は、入口開口113を介してハウジング101の内部容積114から潤滑油を受け入れる注入流路115に、摺動自在に配置される。入口開口113は、噴射プランジャ119の前方運動の間に噴射プランジャ119によって閉鎖されるので、噴射プランジャ119による更なる前方運動によって、注入流路115の残りの部分にある受け入れられた潤滑油が加圧され、逆止弁102を通してパイプ103の中に、及び単一シリンダの噴射器の1つに圧送される。予圧ばね109によって生じるアクチュエータピストン123の後退の間に、噴射プランジャ119の前方端が入口開口113を越えて後退して潤滑油が入口開口113を通過して注入流路115を再充填できるまで、噴射プランジャ119は後退して注入流路115内に真空が生成される。
【0010】
注入流路115内で噴射プランジャ119によって加圧され、逆止弁102を介して吐出される潤滑油の量は、噴射プランジャ119の、入口開口113から後退前の最前方位置までの移動距離によって規定される。ストローク長にわたるアクチュエータピストン123の移動の間、入口開口を越える噴射プランジャ119の移動の第1の部分で、噴射プランジャ119が入口開口113を越えて移動してそれを閉鎖した1度だけ、潤滑油は、加圧され、残りの注入流路距離から吐出される。
【0011】
油圧駆動アクチュエータピストン123は、不動の後方停止手段104と、調整ねじで調整可能な前方停止手段105との間の調整可能距離にわたって移動する。調整ねじ121を回すために、調整ねじ121はこれが貫通して延びるハウジング101のフランジ107を覆うエンドキャップ106でアクセス可能である。Alpha潤滑装置100のフランジ107は、スペーサ122を支持し、調整ねじ121を調整するためのねじ山110を含む。往復式アクチュエータピストン123は、アクチュエータピストン123の後方の容積108内の周期的に振動するオイル圧によって駆動され、ここではソレノイド弁116が、アクチュエータピストン123の後方の容積108内で2つの圧力レベルの間で変位する。一旦、より低い圧力レベルに達すると、ばね109の荷重がアクチュエータピストン123を後方停止手段まで押し戻す。ソレノイド弁116は、制御ユニットからの対応する信号によって調節される。
【0012】
図1から分かるように、エンドキャップ106後方のフランジ107には、ポンプストロークの基本設定用にスペーサ122が設けられ、そこでは、回転による調整のために調整ねじ121の頭部にアクセス可能である。従って、2つの調整機構、すなわち、スペーサ122による基本的な調整機構と、調整ネジ121による調整とが存在する。スペーサの変分に関して、基本設定値は、調整ねじ121を保持しかつ調整のために調整ねじ121が回転するねじ山110の長さによって範囲が定められる。ねじ山110の長さは、
図1に示すスペーサよりもずっと短い。
【0013】
しかしながら、以下で説明するように、別の機構は、アクチュエータピストン123のストローク長112の可能性のある縮小範囲を定める。
【0014】
この市販製品では、Alpha潤滑システムは、容量性フィードバックセンサ120を用いて油圧アクチュエータの十分に長いストローク長を確認する点で、上述の特許、独国特許第19743955(B4)号及びデンマーク特許第173288(B1)号と比べて改良されている。
【0015】
このフィードバックセンサ120は
図1にも示されている。図示のように、油圧アクチュエータピストン123は、2つの周方向溝111を備え、油圧アクチュエータピストンのストロークが、第2の溝がフィードバックセンサを越えて移動するのに足りるだけ長い場合に、フィードバックセンサ120は、中央コントローラに適切な潤滑の確認信号を与える。第1及び第2の溝111がフィードバックセンサ120を通過すると、フィードバックセンサ120は、中央コントローラが適切な潤滑の確認と見なす二重パルス信号を生成する。第1の溝111だけがフィードバックセンサ120を通り過ぎる場合、フィードバックセンサ120からの対応する単一パルス信号は、中央コントローラに対して、フィードバックセンサ120の一般機能及び少なくとも小さな距離にわたるアクチュエータピストン123の移動であるが適切な潤滑には十分ではない移動であることを指示する。フィードバックセンサ120が何らかの信号を与えている場合、適切な潤滑に十分な長さのストロークが測定されなかったという警告メッセージがコントローラによって提供される。
【0016】
油圧アクチュエータピストン123の前方停止手段105は、調整ねじ121によって調整可能であり、潜在的にスペーサ122によってさらに調整可能であるが、油圧アクチュエータピストン123の最小ストローク長は、依然として、第2の溝111がフィードバックセンサ120を越えて移動するのに足りるだけ長い必要があり、そうでなければコントローラは潤滑不足を示す原因となる。
【0017】
Alpha潤滑装置による噴射量は、エンジン内への噴射回数によって決定される。実際には、Alpha潤滑装置による潤滑油噴射は、エンジンの各回転ごとにではなく、一般的には固定回転数ごとに実行されるだけであり、例えば、エンジンの10回転又は12回転ごとに1回の噴射が行われる。
【0018】
一部の研究プロジェクトでは、エンジンの10回転又は12回転ごとに1回の噴射よりも頻繁な噴射の方が、船舶用エンジンに対してはより良い潤滑結果をもたらし、エンジンシリンダ内の摩耗を低減するということが示唆されている。より多くの噴射回数は、総潤滑油消費量を増加させないために、1噴射当たり、より少ない注入量を必要とする。非特許文献への参照は、2016年6月6~10日フィンランド開催のCIMAC会議で発表されたJensenらによる論文番号283「ルブトロニックSIPは低CLO消費と共に顕著な低摩耗率を約束する(Lubtronic SIP promise remarkably low wear rates with low CLO consumption)」に対して行われる。
【0019】
しかしながら、より頻繁な潤滑に対してAlphaシステムを変更する可能性を考慮すると、これは、既に上述したように、Alpha潤滑装置100においてアクチュエータピストン123の溝111とフィードバックセンサ120の協働によって決定される最小ストローク長未満に、アクチュエータピストン123のストローク長を減少させることができない点で難しいことを意味する。信号が金属製アクチュエータピストン123内の固定溝111によって与えられるので、フィードバックセンサ120によって決定される最小ストローク長は、容易には減少しない。従って、より高頻度の潤滑に対するAlpha潤滑装置100のこのような変更は、複雑な作業である。
【0020】
この問題は一般的性質であり、SIP噴射用の潤滑装置として特に適する程度までAlphaシステムを変更する場合にも同様によく当てはまる。
【0021】
これに関連して、少ない潤滑油消費量で適切な潤滑ができるという利点から、市場ではSIP噴射システムに対する需要が高まっていることが指摘されている。しかしながら、場合によっては、エンジンの潤滑システム全体を交換するのではなく、所望の効果を達成するために交換が必要な部品だけを交換したいという要望がある。これは、コストの問題だけではなく、システムの中で良好に機能していると思われるモジュールを残しておきたいという関心に基づくものでもある。特に、密度の高い噴流噴射を潤滑油噴霧のSIP噴射に変更したいという一般的な要望がある。
【0022】
Alpha潤滑装置が密度の高い噴流噴射に使用されており、SIP噴射器が密度の高い噴流噴射器の替わりとして装着される場合、Alpha潤滑装置を用いた密度の高い噴流噴射に使用されるよりも多くの噴射回数のSIP噴射器が望まれているので、更なる変更が必要である。例えば、SIP噴射は1回転ごとに行われ、場合よっては1回転当たり2回以上の噴射が行われる。しかしながら、上述のように、このような改善は、フィードバックセンサに起因して大きな問題と思われる。
【0023】
欧州公開第2395208(A1)号は潤滑システムの変更形態を開示し、ここでは、油圧駆動アクチュエータピストンを備えた潤滑装置が、同様の数の噴射器による噴射のために潤滑油を加圧する多数の噴射プランジャを動かす。この変更形態では、噴射プランジャは全て、噴射器に対する単一の供給ラインに接続されるが、噴射器と単一供給ラインの中間に個別の弁を備える。このようにして、噴射に関するタイミングと時間長とを個別に調整することができる。
【0024】
これは、噴射のタイミング及び時間長に関して潤滑を変更するが、アクチュエータピストンを前進させて潤滑油を加圧する時間に左右される。このため、このシステムは、潤滑装置の通常機能に対して相対的に潤滑油の量を減少させるために有用であるに過ぎず、潤滑装置の頻度及びタイミングから完全には独立していない。潤滑油の噴射タイミング及び時間長に関するより高度な独立性のためにシステムを変更することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】国際公開第2010/149162号
【文献】国際公開第2016/173601号
【文献】国際公開第2002/35068号
【文献】国際公開第2004/038189号
【文献】国際公開第2005/124112号
【文献】国際公開第2010/149162号
【文献】国際公開第2012/126480号
【文献】国際公開第2012/126473号
【文献】国際公開第2014/048438号
【文献】国際公開第2016/173601号
【文献】独国特許第DE19743955(B4)号
【文献】デンマーク特許第173288(B1)号
【文献】欧州公開第2395208(A1)号
【文献】デンマーク特許出願第2017/70936号
【文献】デンマーク特許出願第2017/70940号
【非特許文献】
【0026】
【文献】Jensen他著 「ルブトロニックSIPは低CLO消費と共に顕著な低摩耗率を約束する(Lubtronic SIP promise remarkably low wear rates with low CLO consumption)」 CIMAC会議 2006年
【文献】Lauritsen他著 「スワール噴射潤滑-摩耗率を犠牲にすることなく、シリンダオイルの消費量を低減する新規技術(SWIRL INJECTION LUBRICATION - A NEW TECHNOLOGY TO OBTAIN LOW CYLINDER OIL CONSUMPTION WITHOUT SACRIFICING WEAR RATES) CIMAC会議 2001年
【文献】Rathesan Ravendran、外4名、「2ストローク船舶エンジンで使用される潤滑油のレオロジー挙動(Rheological behaviour of lubrication oils used in two-stroke marine engines)」 産業用潤滑及びトライボロジ 2017年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
従って、適切なアップグレード手順を見出すことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の目的は、本技術分野における変更形態を提供することである。特定の目的は、大型低速運転2ストロークエンジン用の潤滑システム、特にAlpha潤滑システムをアップグレードするための方法を提供することである。更なる目的はSIP噴射に適した潤滑システムを提供することである。この目的は、大型低速運転式エンジンの潤滑を変更する方法によって達成される。このことは、以下でより詳細に説明するような、潤滑システムを変更する方法によって達成される。
【0029】
潤滑システムは、例えば船舶用エンジン又は発電所の大型エンジンなどの大型低速運転2ストロークルエンジンにおいて、1又は複数のシリンダを潤滑するために潤滑油を噴射器に供給する。典型的には、エンジンはディーゼル燃料又はガス燃料を燃焼させる。エンジンは1又は2以上のシリンダを備え、各々は、内部に往復式ピストンを備え、シリンダの外周に沿って分散配置され、噴射フェーズ中に外周上の様々な位置でシリンダ内へ潤滑油を噴射するために複数の潤滑油噴射器を備える。
【0030】
潤滑システムは、噴射フェーズ中に対応する潤滑油供給導管を介して各噴射器に加圧潤滑油を供給するために、対応する潤滑油供給導管によって各噴射器にパイプ接続された潤滑装置を備える。
【0031】
潤滑装置は、油圧駆動アクチュエータピストンがストローク方向に沿うストローク長で往復するように配置されたハウジングを備えるタイプである。潤滑装置はさらに、最小ストローク長と最大ストローク長の間で往復式油圧駆動アクチュエータピストンのストローク長を可変的に調整するように構成されたストローク長調整機構を備える。
【0032】
潤滑装置はさらに、対応する注入シリンダ内に摺動自在に配置された複数の噴射プランジャを備え、噴射プランジャは、アクチュエータピストンで移動されるように及びこの移動の間に注入シリンダ内の潤滑油を加圧するためにアクチュエータピストンに連結される。アクチュエータピストンがストローク長にわたって移動すると、噴射プランジャは対応する長さにわたって移動する。注入流路内部での噴射プランジャの移動は、注入プランジャが注入流路距離にわたって移動する間に、注入流路内の潤滑油を加圧し、この場合、注入流路距離は、エンジンシリンダ内への潤滑油の噴射のための、噴射フェーズ中に注入流路から逆止弁を通り、供給導管を通って噴射器へ吐出される潤滑油の量を規定する。
【0033】
以下で明らかとなるように、注入流路距離はストローク長と等しいか又はそれよりも短い。これは上述の構成にも依存する。
【0034】
注入流路距離は、最小ストローク長と最大ストローク長との間のアクチュエータピストンの可変ストローク長に対応する、最小注入流路距離と最大注入流路距離との間で調整可能である。アクチュエータピストンのストローク長を減少させることにより、注入流路距離も減少し、それに対応して吐出される潤滑油の量が減少する。
【0035】
潤滑装置はまた、アクチュエータピストンに作用する油圧レベル間の切替えを引き起こすために配置された電気式弁を備え、切替え圧力レベルによって、アクチュエータピストンを往復式に油圧駆動するようになっている。典型的には、アクチュエータピストンは、螺旋ばねによって後方停止手段に対して予圧される。
【0036】
一部の具体的な実施形態では、潤滑装置は、アクチュエータピストンを駆動するために高圧オイルを受け取り、電気式弁は、以下の間で切り替わる、すなわち
a)噴射フェーズにおけるアクチュエータピストンへの加圧オイルの入口、
b)アクチュエータピストンと、噴射フェーズ間にアクチュエータピストンからオイルを排出するためのドレインとの間の接続、
である。
【0037】
潤滑システムはさらに、電気式弁に電気接続されたコントローラを備え、コントローラから電気式弁に送られた対応する電気信号によって、噴射フェーズの切替えのタイミングを制御するようになっている。
【0038】
上記目的に従って、潤滑システムは、エンジンの通常運転の所定の時間の後で変更される。
【0039】
より詳細には、本方法は以下のステップを含む。
-コントローラの制御下で第1のエンジン回転数ごとに潤滑油噴射器を介した1噴射でもって、潤滑装置による潤滑でエンジンを運転するステップと、
-潤滑システムの変更のためにエンジンの運転を停止するステップと、
-潤滑システムを変更するステップと、
-変更された潤滑システムを用いてエンジンの運転を継続するステップ。
【0040】
潤滑システムの変更は、以下のステップを含む。
-内部に加圧された潤滑油を蓄えるための潤滑油アキュムレータと、内部を通る潤滑油の流れを制御するためのアップグレード弁システムと、アップグレード弁システムの開閉を制御するためのアップグレードコントローラとを提供するステップと、
-潤滑装置と噴射器との間で潤滑油供給導管を切り離し、その代わりに潤滑装置を単一の供給ラインでアップグレード弁システムの上流側にパイプ接続するステップ、
-潤滑装置からの潤滑油に対するバッファとして使用するために、潤滑油アキュムレータをアップグレード弁システムの上流側にパイプ接続するステップ、
-アップグレード弁システムの開閉に関するタイミング、頻度、時間長を制御するために、アップグレードコントローラをアップグレード弁システムに機能的に接続するステップ。
【0041】
変更された潤滑システムは、アップグレードコントローラの制御下で噴射器によってエンジンシリンダ内へ潤滑油を噴射するために、タイミング及び頻度並びに潤滑油流れの時間長に関してアップグレードコントローラがアップグレード弁システムを制御することにより、潤滑装置に、加圧された潤滑油をアキュムレータ内へ及びアップグレード弁システムへ圧送させるように構成される。
【0042】
これに対応して、変更された潤滑システムを備えたエンジンの運転は、アップグレードコントローラの制御下で噴射器によってエンジンシリンダ内へ潤滑油を噴射するために、タイミング及び頻度並びに潤滑油流れの時間長に関してアップグレードコントローラがアップグレード弁システムを制御することにより、潤滑装置に、加圧された潤滑油をアキュムレータ内へ及びアップグレード弁システムへ圧送させるステップを含む。
【0043】
有利には、本方法は、エンジンシリンダの噴射器用の複数の潤滑油供給導管を、シリンダの全噴射器に対して、又は少なくとも単一シリンダの噴射器群に対して単一の共通潤滑油供給ラインに置き換えるステップを含む。この原理は、「コモンレール」とも呼ばれ、同じラインによって全ての噴射器に同時に供給されるという点で、噴射配置を簡略化する。
【0044】
その場合、一部の実施形態では、アップグレード弁システムは、共通の潤滑油供給ラインを通してだけ、アップグレード弁システムから単一エンジンシリンダの噴射器群又は全噴射器に潤滑油を供給する。
【0045】
例えば、変更形態は、潤滑装置から噴射器群への潤滑油の流れを、アップグレード弁システムを通し、続いて単一の共通潤滑油供給ラインを通してだけもたらすために、アップグレード弁システムの下流側に噴射器を接続するステップを含む。共通潤滑油供給ライン内の圧力を増加させることにより(噴射フェーズ間ではなく、噴射フェーズ中に)、加圧された潤滑油が、噴射フェーズにある共通潤滑油供給ラインを介して、噴射器群内の全噴射器に同時に供給される。
【0046】
もしくは、変更形態は、アップグレード弁システムの一部として、噴射器群内の各噴射器に内部電気作動弁を提供して、噴射器群を共通の潤滑油供給ラインに接続するステップを含む。この場合、共通潤滑油供給ライン内の加圧潤滑油は、噴射器内部の弁に供給するために用いられ、各噴射器の弁は、アップグレードコントローラの制御下で作動する。
【0047】
一部の実用的な実施形態では、本方法は、コントローラをアップグレードコントローラに電子接続して、アップグレードコントローラがコントローラからタイミング信号を受け取るステップを含む。アップグレードコントローラは、これらのタイミング信号を用いて、タイミング信号に対して所定の時間依存性でアップグレード弁システムを作動させるために、対応するアップグレードされた作動信号を提供する。
【0048】
アップグレード作動信号は、コントローラからのタイミング信号に対して時間依存的に生成されるが、必ずしも同時的ではない。アップグレードコントローラから噴射器へのアップグレード作動信号は、コントローラからアップグレードコントローラへのタイミング信号に対して相対的にタイムシフトさせることができる。典型的には、また、噴射回数を増大させるために、複数のアップグレード作動信号が各タイミング信号に対して与えられる。
【0049】
特に、潤滑システムの変更は、潤滑装置からの潤滑油に対するバッファとして使用するために及び潤滑装置のポンプ動作による単一供給ライン内の圧力変動を吸収するために、潤滑装置とアップグレード弁システムとの間の流路において、アップグレード弁システムの上流側で単一供給ラインに潤滑油アキュムレータをパイプ接続するステップを含む。
【0050】
一部の実施形態では、潤滑油アキュムレータは、噴射器による噴射を潤滑油アキュムレータからの潤滑油だけでかつ潤滑装置のポンプ動作から独立して行えるように、アップグレード弁システムに潤滑油の十分な圧力及び量を供給するのに足りるだけ大きなバッファとして機能する。特に、このような場合、アップグレードコントローラからのアップグレード作動信号とコントローラからのタイミング信号との間で同期をとる必要はないが、コントローラからのタイミングは依然として、アップグレードバルブシステムに対する正しいタイミングを見出すのに役立つ可能性があるので、典型的には時間依存性がある。
【0051】
一部の実施形態では、本方法は、アキュムレータ内の潤滑油を加圧状態に維持するためにも十分な潤滑油量を供給するようにするために、潤滑装置に、潤滑装置のアクチュエータピストンのストローク長及び/又は頻度を電子的に増大させるステップを含む。例えば、調整ねじを回転させるためにモータが設けられる。その場合、このモータを電子的に作動させて、調整ねじをどちらか一方向へ選択的に回転させる。この作動は、アップグレードコントローラからの信号によって、直接的に又はコントローラを介して引き起こされる。
【0052】
随意的に、本方法は、アップグレードコントローラをコントローラに電子接続するステップを含み、アップグレードコントローラからの信号により、コントローラに、潤滑装置のストローク長及び/又は潤滑装置の頻度が増大するようにさせて、アキュムレータ内の潤滑油を加圧状態に維持するためにも十分な潤滑油量を供給するようになっている。この機能は、潤滑装置が潤滑油アキュムレータに潤滑油を供給するための独立したポンプとして機能する場合にも使用することができる。
【0053】
一部の実施形態では、本方法は、アップグレードコントローラをコントローラに電子接続し、アップグレードコントローラからの信号によって、コントローラに、潤滑装置の頻度が増大するようにさせ、アップグレード弁システムの頻度が増大するようにさせ、第2のエンジン回転数ごとに1噴射フェーズでもって、より高い噴射頻度で潤滑油を噴射させるステップを含み、第2の回転数は第1の回転数よりも小さい。例えば、第1の回転数は少なくとも4、必要に応じて4~16回転であり、第2の回転数は4よりも小さく、例えば1~3回転、又は1回転当たり2噴射に対応する0.5など、1よりもさらに小さい。
【0054】
潤滑装置と噴射器の間にアップグレード弁システム及び潤滑油アキュムレータを挿入することで、アップグレード前の低頻度での噴射に比べて、より頻繁な噴射が可能となり、1噴射当たりの噴射量を小さくできることに注目されたい。また、潤滑装置の調整ネジで可能な量よりも、1噴射当たりの噴射量を小さくすることができる。これは、アキュムレータがバッファとして機能するという事実に少なくとも起因しており、バッファは、潤滑装置により圧送される余剰量の一部を、それが頻繁な噴射に必要とされる量を超える場合に吸収することができる。従って、潤滑装置の調整ネジで可能な量よりも低い、1ストローク当たりの噴射量にも拘わらず、潤滑装置の変更は必要とされず、これはアップグレードを普遍的なものにする。
【0055】
一部の実施形態では、コントローラからの単一供給ラインは、潤滑装置からの余剰潤滑油の排出分を単一供給ラインから排出することができるように、安全圧力弁を介して排出ラインに接続され、これにより、アップグレードされた潤滑システムが圧力過負荷から保護され、また、より高い頻度での1噴射当たりの噴射量を、潤滑装置の調整ねじで可能な量よりも小さくすることが可能となる。
【0056】
別の実施形態では、このような排出ラインは設けられない。可能性のある代替形態は、排出ラインを備えた噴射器を含む。
【0057】
噴射頻度の増大は、潤滑効果を向上させ、エンジンの摩耗を低減する。2016年6月6~10日、フィンランド開催のCIMAC会議で発表されたJensenらによる論文番号283「Lubtronic SIP promise remarkably low wear rates with low CLO consumption」に対する参照が行われる。SIP噴射に関する言及は、ハンブルグ開催の2001年CIMAC会議で発表されたLauritsenらによる論文「SWIRL INJECTION LUBRICATION - A NEW TECHNOLOGY TO OBTAIN LOW CYLINDER OIL CONSUMPTION WITHOUT SACRIFICING WEAR RATES)」に見出される。
【0058】
有利なことに、変更された潤滑装置を備えるエンジンの継続運転における総潤滑油消費量は、潤滑システムを変更する前の潤滑油消費量よりも小さい。噴射の高い頻度が最小限のオイル消費という目的を損なうことがない場合、全体的な結果として、環境面の潤滑油の低消費を増大させることなくより良い潤滑が得られる。
【0059】
例えば、アップグレード弁システムは、随意的に全てのエンジンシリンダに対する単一ユニットとして、又は各エンジンシリンダごとに1ユニットを有する複数のユニットとして提供される。
【0060】
明確にするために、用語「噴射器」は、噴射器ハウジングを有する噴射弁システムに使用され、噴射器ハウジングは、シリンダ内へ噴射するために、滑油供給導管に流動接続された潤滑油入口ポートを有し、そこから潤滑油を受け入れるようになっているということが指摘される。噴射器はさらに、噴射フェーズにおいて入口ポートからシリンダ内に潤滑油を噴射するためにシリンダ内に延びる潤滑油出口としてノズル開口を有する単一の噴射ノズルを備える。噴射器は、シリンダ壁を貫通してシリンダ内に延びる単一のノズルを有するが、噴射器が適切に取り付けられる場合には、ノズル自体は、随意的に、複数の開口を有する。例えば、複数の開口を備えたノズルは、国際公開2012/126480号に開示される。
【0061】
用語「噴射フェーズ」は、潤滑油が噴射器によってシリンダ内に噴射されている時間に関して使用される。用語「アイドルフェーズ」は、噴射フェーズ間の時間に関して使用される。用語「噴射サイクル」は、噴射シーケンスを開始して次の噴射シーケンスが始まるまでに掛かる時間に関して使用される。例えば、噴射シーケンスは単一の噴射を備え、その場合、噴射サイクルは、噴射フェーズの開始から次の噴射フェーズの開始までで測られる。噴射の「タイミング」という用語は、噴射器による噴射フェーズの開始をシリンダ内部のピストンの特定位置に対して相対的に調整することに関して使用される。噴射の「頻度」という用語は、エンジンの1回転当たりの噴射器による繰り返し噴射の回数に関して使用される。頻度が1の場合、1回転当たり1回の噴射がある。頻度が1/10の場合、10回転当たり1回の噴射がある。この用語法は、前述の従来技術に合致している。
【0062】
例えば、各噴射器は、ノズルにおいて出口弁システムを備え、出口弁システムは、噴射フェーズ中に圧力が出口弁システムでの所定の限度を超えて上昇するとノズル開口への潤滑油流動のために開くように構成され、さらに噴射フェーズ後に出口弁システムを閉じるように構成される。出口弁システムは、シリンダからの背圧に対して閉塞し、また、出口弁が開いていない限り、潤滑油がシリンダに入るのを防ぐ。
【0063】
例えば、出口弁システムは、出口逆止弁を備える。 出口逆止弁では、出口弁部材、例えばボール、楕円体、プレート、又はシリンダが、出口弁ばねによって出口弁座に対してプレストレスが付与される。出口弁システムの上流側の流動室内に加圧された潤滑油が供給されるとすぐに、プレストレスが付与されたばねの力は潤滑油の圧力によって打ち消され、その圧力がばね力よりも高くなると、出口弁部材はその出口弁座から変位し、出口逆止弁は、ノズル開口を介してシリンダ内に潤滑油を噴射するために開く。例えば、出口弁ばねは、ノズル開口から離れる方向で弁部材に作用するが、反対の動きも可能である。
【0064】
前述のように、随意的に、弁システムは噴射器ハウジングに一体化される。このような弁は、アップグレードコントローラと機能的に接続され、例えば電子接続される。
【0065】
随意的に、SIP噴射器が使用される。SIP噴射器は、シリンダの掃気空気中に潤滑油の噴霧を供給するように構成される。霧状の液滴の噴霧は、オイルミストとも呼ばれ、SIP潤滑において重要であり、その場合、ピストンがTDCに向かう移動の際に噴射器を通過するより前に、潤滑油の噴霧が、噴射器によってシリンダ内部の掃気空気中に繰り返し噴射される。掃気空気中では、TDCに向かう掃気空気のスワール渦運動のために霧状の液滴がTDCに向かう方向に運ばれるので、霧状の液滴は、拡散されてシリンダ壁上に分配される。
【0066】
このようなSIP噴射器の例は、国際公開第2012/126473号に開示される。電気式弁を備えたSIP噴射器用の付加的な選択肢は、デンマーク特許出願第2017/70936号及び第2017/70940号に開示される。
【0067】
例えば、噴射器は、0.1~1mm、例えば0.2~0.5mmのノズル開口を有するノズルを備え、潤滑油のミストに霧状の液滴を噴出するように構成される。
【0068】
潤滑油の噴霧化は、ノズルにおける潤滑油噴射器内の高圧潤滑油に起因する。この高圧噴射について、圧力は10barより高く、通常20~120barである。一例として、30~80bar、随意的に35~60barの範囲にある。噴射時間は短く、通常は5~30ミリ秒(msec)程度である。しかしながら、噴射時間は、1msec又はさらに小さく、例えば0.1msecにまで調整することができる。
【0069】
また、粘度は霧化に影響を与える。船舶用エンジンで使用される潤滑油は、通常、40℃で約220cSt、100℃で20cStという典型的な動粘度を持ち、これは202~37mPa・sの粘度に換算される。有用な潤滑油の例は、高性能、船舶用ディーゼルエンジン・シリンダオイルのExxonMobil(登録商標)Mobilgard(商標)560VSである。船舶用エンジンに有用な他の潤滑油は、他のMobilgard(商標)オイル並びにCastrol(登録商標)Cyltechオイルである。船舶用エンジンに一般的に使用される潤滑油は、40~100℃の範囲でほぼ同一の粘度プロファイルをもち、例えば0.1~0.8mmのノズル開口径をもち、潤滑油がノズル開口で30~80barの圧力及び30~100℃又は40~100℃の範囲の温度をもつ場合に、霧化に関して全てが有用である。また、Rathesan Ravendran、Peter Jensen、Jesper de Claville Christiansen、Benny Endelt、Erick Appel Jensenによるこの主題に関する発表論文、「2ストローク船舶エンジンで使用される潤滑油のレオロジー挙動(Rheological behaviour of lubrication oils used in two-stroke marine engines)」、産業用潤滑及びトライボロジ、2017年、第69巻、第5号、p.750-753、https://doi.org/10.1108/ILT-03-2016-0075を参照されたい。
【0070】
本発明は、図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】インタネットサイト、http://www.mariness.co.kr/02_business/Doosan%20Retrofit%20Service.pdf?PHPSESSID=fd56da9de6eaca2f1f446512e84fcf69で公開されているAlphaコントローラの複写図である。
【
図2】変更前のエンジンのシリンダの一部の概略図である。
【
図3】変更後のエンジンのシリンダの一部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
図1は、インタネットサイト、http://www.mariness.co.kr/02_business/Doosan%20Retrofit%20Service.pdf?PHPSESSID=fd56da9de6eaca2f1f446512e84fcf69で公開されているAlphaコントローラの複写図である。
【0073】
本明細書に記載する方法に関して、
図1のAlpha潤滑装置は、変更される潤滑装置の具体的な実施形態に関する実施例として役立つが、噴射のために複数の噴射プランジャを駆動するアクチュエータピストンの基本原理から逸脱することなく、潤滑装置の僅かな変形が可能である。従って、導入部で提示された説明は、この潤滑システムの変更の説明にも同様によく当てはまる。
【0074】
図2は、例えば船舶用ディーゼルエンジンにおける、変更前の大型低速運転2ストロークエンジンのシリンダの一部及び潤滑システムの概略図を示す。シリンダ1は、シリンダ壁3の内側にシリンダライナ2を備える。シリンダ壁3の内部には、シリンダ1内に潤滑油を噴射するための複数の噴射器4が設けられる。
【0075】
図示のように、噴射器4は、円周に沿って、隣接する噴射器4との間に同じ角距離で分散配置されるが、これは厳密には必須でない。また、軸方向に変位した噴射器の配置、例えば、1つおきの噴射器が隣接する噴射器に対してピストンの上死点(TDC)に向かって変位した配置も可能なので、円周に沿う配置は必須ではない。
【0076】
図示のように、噴射器4は、各噴射器に1つの潤滑油供給導管9を介して、潤滑装置11から加圧された潤滑油を受け取る。これは特に、
図1に関して最初に説明した潤滑装置100のタイプ、例えばAlpha潤滑装置と関連がある。
【0077】
供給されたオイルは通常、特定の温度、例えば50~60度に加熱される。
【0078】
潤滑装置11は、エンジンのシリンダ1内のピストン運動と同期して正確にタイミングが合わされたパルスで噴射器4に加圧潤滑油を供給する。潤滑装置11による噴射は、コントローラ12によって制御される。同期のために、コントローラ12は、クランクシャフトの速度、負荷、及び位置を含む、エンジンの実際の状態及び動作に関するパラメータを監視し、クランクシャフトの位置はシリンダ内のピストンの位置を明らかにする。
【0079】
各噴射器4は、ノズル開口5’を備えたノズル5を有し、潤滑油は、ノズル開口5’から、例えば密度の高い噴流又はオイルクイルの形態で高圧下でシリンダ1内に噴出される。
【0080】
随意的に、シリンダライナ2には、噴射器4からの噴流、噴霧、又は霧状の液滴噴霧の形態の潤滑油8に適切な空間を提供するためにフリーカット6を備える。
【0081】
潤滑装置11は、オイルポンプを含む潤滑油供給部15から潤滑油を受け入れるための供給導管14、及び、随意的に、一般的に潤滑油を潤滑油リザーバへ戻すための、随意的に潤滑油を再循環させるための戻り導管13に接続される。供給導管14内の潤滑油圧力は、戻り導管13内の圧力よりも大きく、例えば少なくとも2倍だけ大きい。潤滑油供給導管14は、アクチュエータピストンを駆動することに加えて、潤滑のために潤滑油を供給するためにも使用される。
【0082】
図3は、第1の実施形態における変更後の大型低速運転2ストロークエンジンのシリンダの一部及び潤滑システムの概略図を示す。この場合、変更された潤滑システムには、元の潤滑システムに対して、アップグレードキット16並びにアップグレードキット16を介して潤滑を制御するアップグレードコントローラ19が追加されている。
【0083】
アップグレードコントローラ19は、随意的に元のコントローラ12にも電子接続される。この選択肢の利点は、以下でより明らかとなろう。
【0084】
複数の潤滑油供給導管9は、単一の共通供給ライン9’に置換される。潤滑油が潤滑装置11によって圧送されるパイプ接続103は、潤滑油をアップグレードキット16に供給し、アップグレードキット16は、「コモンレール」システムによって噴射器に潤滑油を供給し、この「コモンレール」システムでは、エンジンシリンダの全噴射器4又は単一のエンジンシリンダのための噴射器のサブグループが、単一の潤滑油供給ライン9'を介して潤滑油を共通かつ同時に受け取る。
【0085】
随意的に、噴射器4からの潤滑油の逆流のための戻りライン10が設けられる。
【0086】
随意的に、例えば性能向上のために、潤滑油は、SIP噴射のための霧状の液滴7の潤滑油噴霧8として噴出される。このことは、シリンダ1内部の掃気スワール渦17に潤滑油の霧状の液滴を噴射することに基づく。螺旋状上向きのスワール渦17により、潤滑油がシリンダ1の上死点(TDC)に向かって引き寄せられ、薄く均一な層としてシリンダ壁2に外向きに押し付けられる。
【0087】
例えば、SIP噴射の場合、ノズル開口は、0.2~0.5mmなどの0.1~0.8mmの直径を有し、10~100barの圧力で、例えば25~100bar、随意的に30~80bar又はさらには50~80barの圧力で、潤滑油を霧状の潤滑油噴霧8にするが、これは、潤滑油の密度の高い噴流とは対照的である。シリンダ1内の掃気スワール渦17は、シリンダライナ2上への潤滑油の均一な分配が得られるように、噴霧8を運んでシリンダライナ2に押し付ける。
【0088】
図4は、アップグレードキット16を備え、アップグレードキット16用のポンプシステムとして潤滑装置11を備える、性能向上された潤滑システムの一例を示す。
【0089】
逆止弁102及びパイプ接続103を備えた潤滑装置11の出口は、単一の供給ライン24を介してアップグレード弁システム20に接続される。アップグレードコントローラ19の制御の下で、アップグレード弁システム20は、共通の潤滑油供給ライン9’を介して噴射器4に潤滑油を供給する。
【0090】
潤滑油アキュムレータ21は、潤滑装置100からの加圧潤滑油用のバッファとして使用するために、アップグレード弁システム20の上流側で供給ライン24から分岐する。圧力制御及び流量制御を向上させるために、圧力計22及び流量計23が追加される。潤滑油アキュムレータ21からの逆流を防止するために、供給ラインには逆止弁27が組み込まれている。
【0091】
潤滑装置11は、アップグレード弁システム20を介して噴射器4に潤滑油を供給するための、及び潤滑油アキュムレータ21を満たして、潤滑油アキュムレータ21を適切な圧力で潤滑油で満たされた状態に保つためのポンプとして使用される。噴射器に十分な加圧潤滑油を供給するだけでなく潤滑油アキュムレータを満たすために、潤滑装置11のポンプ動作は、アップグレードキット16内に加圧潤滑油の余剰分を作り出す。
【0092】
過剰圧力を防止するための安全対策として、アップグレード弁システム20の上流側の供給ライン24には、圧力調整可能な戻り安全弁26が接続される。安全圧力弁26を介して排出された潤滑油は、排出ライン28を介して一般的な潤滑油供給部へ再循環される。排出ライン28は随意的であり、性能向上された潤滑油システムは、このような排出ラインなしで(この場合、例えば噴射器4がドレインを備える)提供され、適切に機能することができる。
【0093】
図4と組み合わせて
図1のAlpha潤滑装置を参照すると、以下の重要な側面が観察される。アキュムレータ21及び随意的の排出ライン28により、圧負荷又は噴射量の増大を引き起こすことなく、通常のストローク長にわたって潤滑装置にそのポンプ動作を提供するようにさせることが可能になる。これは、コントローラ12への正確なフィードバックセンサ信号を維持できるという点で有利であり、このことは、低注入量の噴射、例えば1噴射フェーズ当たり半分の注入量で、より頻繁な、例えば2倍の頻度の噴射に起因して、アクチュエータピストン123のストローク長を減少させる必要がある場合には不可能であろう。
【0094】
エンジン運転時、変更された潤滑システムは、潤滑装置11に、加圧された潤滑油をアキュムレータ21内に及びアップグレード弁システム20に圧送するようにさせる。アップグレードコントローラ19は、噴射フェーズにおいて潤滑油の正確な分量をエンジンシリンダ内に噴射するために、タイミング及び頻度、並びにアップグレード弁システム20から噴射器4までの潤滑油流の長さに関して、アップグレード弁システム20を制御する。
【0095】
潤滑油注入に対する適切なタイミングを提供するために、アップグレードコントローラ19をコントローラ12に電子接続することが有利である。その場合、アップグレードコントローラ19は、潤滑装置11が受け取るのと同じ潤滑装置作動信号をコントローラ12から受け取るように構成される。次に、これらの信号は、アップグレード弁システム20に噴射信号を送るために、アップグレードコントローラ19によって使用することができる。
【0096】
潤滑装置11のポンプ動作と同期してアップグレード弁システム20を作動させることが可能であるが、このことは必須ではなく、潤滑油アキュムレータ21が潤滑油バッファとして機能すると同時に潤滑装置11のポンプ動作による圧力変動を吸収することが理由である。
【0097】
例えば、コントローラ12は、潤滑装置11のストローク長及び/又は頻度を増加させるようにさせる。この機能は、潤滑油アキュムレータ21を満たし、後続噴射のために適切な加圧潤滑油が充填された状態に保つのに有用である。
【0098】
随意的に、ポンプ信号は、例えばアップグレードコントローラ19からコントローラ12に送られ、潤滑油アキュムレータ21内の潤滑油を加圧状態に維持するのに十分な潤滑油量を供給するために、コントローラ12に、例えばストローク長の増大及び/又は頻度の増大によってポンプ動作が増加するようにさせる。この場合、アップグレードコントローラ19は、変更前のポンプ動作と比べて増加したポンプ動作を得るために、コントローラ12の通常機能を無効にする。
【0099】
随意的に、コントローラの再プログラミング後に、潤滑装置11は、コントローラ12からの命令により、ポンプ動作が増加するようにさせる。この場合、アップグレードコントローラ19は、ポンプ動作を増加させるためのポンプ信号を送らない。
【0100】
随意的に、潤滑装置11の調整ねじは、ストローク調整のためにこのねじを駆動するモータ式駆動装置に接続される。このねじは、アップグレードコントローラ19によって潜在的に制御されて作動する。このようにして、コントローラ12のポンプ動作を変更することなく、コントローラのポンプ動作を増加させることができる。
【0101】
例えば、潤滑油アキュムレータ21は、噴射器4による噴射を潤滑油アキュムレータ21からの潤滑油だけで、潤滑装置11のポンプ動作から独立して行えるように、アップグレード弁システム20に潤滑油の十分な圧力及び量を供給するのに足りるだけ大きなバッファとして機能する。例えば、潤滑装置11は、各噴射フェーズの後で又は各複数の噴射フェーズの後で、潤滑油アキュムレータ21を再び満たすようにさせる。
【0102】
図5は、コントローラ12及びアップグレードコントローラ19を備えた電子的装置の一例を示す。この実施形態では、潤滑装置11はコントローラ12と通信し、コントローラ12からポンプ動作用の作動信号を受け取る。潤滑システムのアップグレードは、アップグレードコントローラ19を含み、これは、噴射のためにコントローラ12からタイミング信号を受け取り、このタイミング信号は、アップグレード弁システム20のために使用される。
【0103】
既に上記で概説したように、アップグレードコントローラ19は、潤滑油をより頻繁かつより大量に供給するため、特に潤滑油アキュムレータを満たすために、コントローラ12に噴射の頻度及び/又はストローク長を増大させるようにプログラムすることができる。しかしながら、一般的には、潤滑装置11の頻度の増大は、コントローラ12の簡単な再プログラミングによって達成される。
【0104】
図6は、
図4のアップグレード弁システム20を、噴射器4に統合されたアップグレード弁システム20’で置き換えた代替実施形態を示す。各噴射器4は、シリンダ壁2の外側に取り付けられたハウジングを有し、ここで、ハウジングは、アップグレードコントローラ19で制御される電子作動弁を、アップグレード弁システム20’の一部として収容する。
【0105】
SIP噴射用のこのような噴射器の例は、国際公開第2012/126473号に開示される。電気式弁を備えたSIP噴射器の付加的なオプションは、デンマーク特許出願第2017/70936号及び第2017/70940号に開示されている。
【0106】
噴射器4は、共通の単一供給ライン9’から潤滑油を受け取り、このライン9’は、
図4に示される単一供給ライン24の端部24’に接続される。しかしながら、共通の単一供給ライン9’は、統合されたアップグレード弁システム20’のおかげでアップグレードコントローラ19の制御の下で噴射を調節する噴射器4に、絶えず加圧潤滑油を供給する。
【0107】
実用的な実施形態では、噴射器4には、電気ケーブル25を介してアップグレードコントローラ19と電気的に通信する電気コネクタ25’が設けられる。アップグレードコントローラ19は、各噴射器4に電気制御信号を送り、噴射器4によるノズル5を介した潤滑油の噴射を制御するようにする。図示のように、各噴射器4に1本のケーブル25が設けられ、これにより、それぞれの噴射器4による噴射の個別的制御が可能となる。
【0108】
しかしながら、アップグレードコントローラ19から全ての噴射器4に1本の電気ケーブル25を設けて、全噴射器4が、単一の電気ケーブル25を介して電気制御信号を受信すると同時に噴射するようにすることも可能である。
【0109】
代わりに、アップグレードコントローラ19から噴射器の部分群に、例えば2、3、4、5又は6個の噴射器の部分群に1本の電気ケーブル25を設けて、第1の部分群が第1のケーブル25を介してアップグレードコントローラ19で制御され、第2の部分群が第2のケーブル25を介して制御されるようにすることも可能である。ケーブル及び部分群の数は、好ましい構成に応じて選択的である。
【0110】
アップグレードコントローラ19から噴射器4への電気制御信号は、エンジンのシリンダ1内でのピストン運動と同期した、正確にタイミングを合わせたパルスで与えられる。このために、アップグレードコントローラは、
図5に示すように、コントローラからタイミング信号を受信する。
【0111】
典型的には、潤滑油のタイミング及び量は、例えばクランクシャフトの速度、負荷、及び位置など、エンジンの実際の状態及び動作に関するパラメータに依存し、その場合、クランクシャフトの位置がシリンダ内のピストン位置を明らかにする。
【0112】
随意的に、
図3における戻りライン10と同様に、噴射器4からの潤滑油逆流用に戻りラインが設けられる。
【0113】
図4及び6から分かるように、この改造は既存システムへのアドオンであり、ここでは、アドオンが潤滑装置11の下流側に接続されるのに対して、一般的な潤滑油供給部及びエンジンへの電子接続は維持される。これらの理由から、上記のようなタイプのアップグレードキットを有する場合、この改造は比較的簡単である。
【0114】
利点は、改造に関する比較的低いコストと労力、並びにエンジン、例えば船舶用エンジンの短い停止期間である。
【0115】
SIP噴射器に関する上述の特許出願は、本明細書に参照によって組み込まれている。
【符号の説明】
【0116】
1 シリンダ
4 噴射器
9’ 単一の共通供給ライン
11 潤滑装置
16 アップグレードキット
20 アップグレード弁システム
21 潤滑油アキュムレータ
22 圧力計
23 流量計
24 単一の供給ライン
24’ 単一の供給ラインの端部
26 安全弁
27 逆止弁
28 排出ライン
102 逆止弁
103 パイプ接続