(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】インスリン抵抗性を処置するためのSHP2阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/497 20060101AFI20240314BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240314BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240314BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A61K31/497
A61P3/10
A61P3/04
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021526584
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2019082180
(87)【国際公開番号】W WO2020104635
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-09-16
(32)【優先日】2018-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・トゥールーズ・トロワ-ポール・サバティエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE TOULOUSE III-PAUL SABATIER
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ヤート,アルメル
(72)【発明者】
【氏名】パク,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】タジャン,ミレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】プラドール,ジャン-フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】バレ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ドレイ,セドリック
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-516061(JP,A)
【文献】特表2002-506055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0058431(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/497
A61P 3/10
A61P 3/04
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SHP099(6-(4-アミノ-4-メチルピペリジン-1-イル)-3-(2,3-ジクロロフェニル)ピラジン-2-アミン)を含む、被験体におけるインスリン抵抗性を処置するための医薬組成物。
【請求項2】
前記被験体が、2型糖尿病に罹患している、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記被験体が、肥満に罹患している、請求項1記載の医薬組成物
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン抵抗性を処置するためのSHP2阻害剤の使用に関する。
【0002】
背景技術:
世界中で蔓延状態に達しているにもかかわらず、代謝性障害、特に糖尿病は、その原因が多因子であることから、効率的かつ特異的な処置戦略が未だ存在しない。インスリンの作用に対する末梢組織(肝臓、筋肉、脂肪組織)の抵抗性が糖尿病発症における鍵となる事象であるので、インスリン感受性を回復させることを目的とする処置戦略が非常に適切である。しかし、該戦略は、本質的には未だ不満足である。例えば、チアゾリジンジオンは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γと結合することによりインスリン感受性を高めるが、このような処置は重大な副作用を伴う。したがって、処置標的を同定するためには、インスリン抵抗性を促進する機構を理解する重大な必要性が依然として存在する。
【0003】
SHP2は、多くの成長因子に応答して主要なシグナル伝達経路(例えば、MAPK、PI3K)を調節するので、発生中に鍵となる機能を有する遍在性チロシンホスファターゼであり、その結果、その調節不全は、がんに加えて発達障害にも関連している(Tajan, M., de Rocca Serra, A., Valet, P., Edouard, T., and Yart, A. (2015). SHP2 sails from physiology to pathology. European journal of medical genetics 58, 509-525.)。SHP2は、様々な組織及び臓器においてそれを標的無効化すると深刻な表現型を示すことから証明される通り、代謝調節においても主要な役割を果たしているが、SHP2の全体的な代謝的役割及びその調節解除の代謝性疾患への寄与については全く判明していない(Tajan, M., de Rocca Serra, A., Valet, P., Edouard, T., and Yart, A. (2015). SHP2 sails from physiology to pathology. European journal of medical genetics 58, 509-525.)。幾つかのSHP2阻害剤が先行技術に記載されている(例えば、国際公開公報第2010121212号及び同第2015003094号)が、インスリン抵抗性の処置における使用については記載されていない。対照的に、有糸分裂後の前脳ニューロンにおけるSHP2の主な機能がエネルギーバランス及び代謝の制御であるという同定に基づいて、SHP2を活性化して肥満及び又は糖尿病を軽減することを目的とする戦略を使用する概念が提案されている(Zhang EE, Chapeau E, Hagihara K, Feng GS. Neuronal Shp2 tyrosine phosphatase controls energy balance and metabolism. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Nov 9;101(45):16064-9)。更に、ニューロン特異的な条件付きSHP2欠失を有するマウスは、肥満及び糖尿病、そして、高血糖、高インスリン血症、高レプチン血症、インスリン及びレプチン抵抗性、脈管炎、糖尿病性腎症、膀胱感染症、前立腺炎、胃不全麻痺、並びに精子形成障害を含む、ヒトでみられるものと類似している関連する病態生理学的合併症を発症した(Krajewska M1, Banares S, Zhang EE, Huang X, Scadeng M, Jhala US, Feng GS, Krajewski S Development of diabesity in mice with neuronal deletion of Shp2 tyrosine phosphatase.Am J Pathol.2008 May;172(5):1312-24.)。
【0004】
発明の概要:
本発明は、インスリン抵抗性を処置するためのSHP2阻害剤の使用に関する。具体的には、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0005】
発明を実施するための形態:
本発明の第1の目的は、それを必要としている被験体におけるインスリン抵抗性を処置する方法であって、処置的に有効な量のSHP2阻害剤を該被験体に投与することを含む方法に関する。
【0006】
本明細書で使用するとき、用語「被験体」とは、狼瘡に罹患している可能性のあるヒト又は別の哺乳類(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ等)を指す。本発明の具体的な実施態様では、被験体は、ヒトである。このような実施態様では、被験体は「個体」と呼ばれることが多い。用語「個体」は、特定の年齢を意味するものではないので、小児、10代の若者、及び成人を包含する。
【0007】
本明細書で使用するとき、用語「インスリン抵抗性」とは、当技術分野における一般的な意味を有する。インスリン抵抗性は、天然のホルモンであるインスリンの血糖値を下げる効果が弱くなる生理学的状態である。その結果、血糖値の増加が正常範囲外のレベルに上昇し、そして、メタボリックシンドローム、脂質異常症、及び続いて2型糖尿病等の健康に対する悪影響を引き起こす場合がある。したがって、本発明の方法は、2型糖尿病の処置に特に好適である。本明細書で使用するとき、用語「2型糖尿病」又は「非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)」は、当技術分野における一般的な意味を有する。2型糖尿病は、多くの場合、インスリンレベルが正常であるか又は高いときでさえも発症し、そして、組織がインスリンに対して適切に応答できないことに起因すると考えられる。2型糖尿病のほとんどは肥満である。
【0008】
幾つかの実施態様では、被験体は、肥満に罹患している。本明細書で使用するとき、用語「肥満」とは、過剰の体脂肪を特徴とする状態を指す。肥満の機能上の定義は、ボディー・マス・インデックス(BMI)に基づいており、これは、身長1平方メートルあたりの体重(kg/m2)として計算される。肥満とは、他の点では健康な被験体が30kg/m2以上のBMIを有する状態又は少なくとも1つの併存疾患を有する被験体が27kg/m2以上のBMIを有する状態を指す。「肥満被験体」は、30kg/m2以上のBMIを有する他の点では健康な被験体又は27kg/m2以上のBMIを有する少なくとも1つの併存疾患を有する被験体である。「肥満のリスクのある被験体」は、25kg/m2から30kg/m2未満のBMIを有する他の点では健康な被験体又は25kg/m2から27kg/m2未満のBMIを有する少なくとも1つの併存疾患を有する被験体である。肥満に伴うリスクの増加は、アジア系の人々ではBMIが低くても生じる可能性がある。日本を含むアジア及びアジア太平洋諸国では、「肥満」とは、体重減少を必要とする又は体重減少によって改善されるであろう少なくとも1つの肥満誘導性若しくは肥満関連性の併存疾患を有する被験体が25kg/m2以上のBMIを有する状態を指す。これらの国における「肥満被験体」とは、体重減少を必要とする又は体重減少によって改善されるであろう少なくとも1つの肥満誘導性若しくは肥満関連性の併存疾患を有し、BMIが25kg/m2以上である被験体を指す。これらの国では、「肥満のリスクのある被験体」とは、BMIが23kg/m2超から25kg/m2未満のヒトを指す。
【0009】
本明細書で使用するとき、用語「処置」又は「処置する」とは、疾患に罹患するリスクがあるか又は疾患に罹患していると疑われる被験体並びに病気であるか又は疾患若しくは病状を患っていると診断された被験体の処置を含む、予防的又は防止的処置と治癒的又は疾患修飾性処置との両方を指し、そして、臨床的再発の抑止を含む。処置は、障害若しくは再発障害の1つ以上の症状を予防する、治癒させる、発症を遅延させる、重篤度を低減する、若しくは寛解させるために、又はこのような処置を行わない場合に予測される生存期間を超えて被験体の生存期間を延長するために、医学的障害を有するか又は最終的に該障害に罹患する可能性のある被験体に施してよい。「処置レジメン」とは、病気の処置パターン、例えば、処置中に用いられる投薬パターンを意味する。処置レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含み得る。語句「導入レジメン」又は「導入期間」とは、疾患の初期処置に用いられる処置レジメン(又は処置レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目的は、処置レジメンの初期期間中に高レベルの薬物を被験体に与えることである。導入レジメンは、維持レジメン中に医師が使用するであろう用量よりも高用量の薬物を投与すること、維持レジメン中に医師が薬物を投与するであろう頻度よりも高頻度で薬物を投与すること、又はこれらの両方を含み得る「負荷レジメン」を(部分的に又は全体的に)使用し得る。語句「維持レジメン」又は「維持期間」とは、病気の処置中に被験体を維持するため、例えば、長期間(数ヶ月間又は数年間)にわたって被験体の寛解状態を保つために用いられる処置レジメン(又は処置レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続療法(例えば、毎週、毎月、毎年等の一定間隔で薬物を投与する)又は間欠療法(例えば、断続処置、間欠処置、再発時の処置、又は特定の所定基準[例えば、疾患の顕在化等]を満たしたときの処置)を使用し得る。特に、本発明の方法は、血糖コントロールの改善、骨格筋及び脂肪組織におけるインスリンシグナル伝達の増強、骨格筋及び脂肪組織における脂肪毒性の低減、骨格筋及び脂肪組織における脂質酸化能の増大、又は被験体における長期的なインスリン感受性の維持に特に好適である。
【0010】
本明細書で使用するとき、用語「SHP2」は、当技術分野における一般的な意味を有し、そして、PTPN11遺伝子によってコードされているタンパク質を指す。SHP2は、2つのSrcホモロジー-2(SH2)ドメイン(N-SH2、C-SH2)を有する非受容体タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)である(Alonso et. al., 2004;Neel et al., 2003)。SHP2は、ヒトタンパク質チロシンホスファターゼ非受容体型11(PTPN11)としても知られている。
【0011】
本明細書で使用するとき、「SHP2阻害剤」とは、SHP2の活性、特にSHP2のホスファターゼ活性を阻害することができる天然又は非天然の任意の化合物を指す。SHP2阻害剤は、当技術分野において周知である。この用語は、当技術分野で現在公知であるか又は将来的に同定されるであろう任意のSHP2阻害剤を包含する。また、この用語は発現の阻害剤も包含する。幾つかの実施態様では、SHP2阻害剤は、SHP1を含む他のホスファターゼに比べて選択的である。「選択的」とは、選択された化合物の阻害が、他のホスファターゼの阻害よりも少なくとも10倍、好ましくは25倍、より好ましくは100倍、そして、更に好ましくは300倍高いことを意味する。典型的なアッセイは、国際公開公報第2010121212号及び同第2015003094号にも記載されている。典型的には、SHP2阻害剤は有機低分子である。
【0012】
SHP2阻害剤の非限定的な例としては、NSC-87877(8-ヒドロキシ-7-[(6-スルホ-2-ナフチル)アゾ]-5-キノリンスルホン酸としても知られている)、リン酸エストラジオール、リン酸エストラムスチン、PHPS1、NSC-117199、SP1-112、SP1-112Me(及びChen, L. et al,2006及びChen, L. et al., 2010を参照)、タウトマイセチンアナログ(例えば、Liu, S. et al., 2011を参照)、フェニルヒドラゾノピラゾロンサルフェート、及びHellmuth, K. et al., 2008に記載の化合物、米国特許出願公開第20120034186号(米国特許出願第13/274,699号)に記載の化合物、及びYu, Z. H. et al. 2011に記載の化合物が挙げられる。
【0013】
幾つかの実施態様では、本発明に従って使用するためのSHP2阻害剤は、国際公開公報第2010121212号、同第2015003094号、同第2017100279号、及び同第2007117699号に記載されている化合物から選択される。
【0014】
幾つかの実施態様では、本発明に従って使用するためのSHP2阻害剤は、4,4’-(4’-カルボキシ)-4-ノニルオキシ-[l,l’-ビフェニル]-3,5-ジイル)ジブタン酸である。
【0015】
幾つかの実施形態では、本発明に従って使用するためのSHP2阻害剤は、SHP099:6-(4-アミノ-4-メチルピペリジン-1-イル)-3-(2,3-ジクロロフェニル)ピラジン-2-アミンである(Garcia Fortanet J, Chen CH, Chen YN, Chen Z, Deng Z, Firestone B, Fekkes P, Fodor M, Fortin PD, Fridrich C, Grunenfelder D, Ho S, Kang ZB, Karki R, Kato M, Keen N, LaBonte LR, Larrow J, Lenoir F, Liu G, Liu S, Lombardo F, Majumdar D, Meyer MJ, Palermo M, Perez L, Pu M, Ramsey T, Sellers WR, Shultz MD, Stams T, Towler C, Wang P, Williams SL, Zhang JH, LaMarche MJ. Allosteric Inhibition of SHP2: Identification of a Potent, Selective, and Orally Efficacious Phosphatase Inhibitor. J Med Chem. 2016 Sep 8;59(17):7773-82)。
【0016】
幾つかの実施態様では、本発明に従って使用するためのSHP2阻害剤は、式(I)を有する化合物である:
【化1】
(式中、R
1は、カルボアルコキシ、ベンジルカルボキサミド、直鎖、分岐鎖、又は環状のアルキル、CO(CH
2)
2CO
2H、COCH
2CH(OH)CO
2H、CO(CH)
2CO
2H、CONH(C
6H
4)Cl、CONH(C
6H
4)CH(CH
3)
2、CONH(C
6H
4)(Cl)
2、CO(CH
2)
3CO
2H、CO(C
6H
4)OCH
3、CO(C
5H
8)、CO(C
6H
4)Cl、CONHCH
2CO
2H、COCH
2CH(CH
3)
2、CONHCH(CHCH
3CH
2CH
3)(CO
2H)、CONH(C
6H
4)OCH
3、CO(C
6H
3)(Cl)
2、COCH
2(C
6H
4)Cl、CO(CH
2)
2CO
2H、CONH(C
6H
4)F、CONHCH(CH
3)CO
2H、CO(C
3H
5)、CONHCH(CH
2CHCH
3CH
3)(CO
2CH
2CH
3)、CO(C
6H
5)、CONHCH(CHCH
3CH
3)(CO
2H)、COCH
2CH(OH)(CO
2”)-Na
+、CONHCH(CH
3)(CO
2CH
2CH
3)、CONH(C
6H
4)CF
3、COCO
2H、CO(CH
2)
2CH
3、CONH(CH
2)
2CO
2H、CONHCH(CHCH
3CH
3)(CO
2CH
2CH
3)、CONHCH(CH
2CHCH
3CH
3)(CO
2H)、CONH(C
6H
5)、CONH(CH
2)
2CO
2CH
2CH
3、CONHCH(CH
2C
6H
5)(CO
2CH
2CH
3)、CONHCH(CHCH
3CH
2CH
3)(CO
2CH
3)、CONH(C
6H
4)CO
2H、CO(C
6H
8)CO
2H、CONHCH(CH
2C
6H
5)(CO
2H)、CONH(C
6H
4)CO
2CH
3、COCH
2OCH
3、COCH
2(C
6H
5)、COCF
3、CONHCH(CH
2CH
2CO
2H)(CO
2H)、及びCONHCH
2CO
2CH
2CH
3からなる群から選択され;
R
2は、H、及びCH
3からなる群から選択され;そして、R
3は、(C
6H
4)Cl、(C
6H
4)CO
2H、(C
6H
4)CH
3、(C
6H
4)(Cl)
2、(C
6H
4)(CF
3)
2、(C
6H
4)OCH
3、(C
6H
4)F、(C
6H
3)(Cl)(CH
3)、及びC
6H
5からなる群から選択される)。
【0017】
幾つかの実施態様では、R1は、COCH2CH2COOH及びCOCH2CH(OH)CO2Hからなる群から選択される。
【0018】
幾つかの実施態様では、R1は、CO(CH)2CO2H、CONH(C6H4)CH(CH3)2、CO(CH2)3CO2H、CONHCH2CO2H、CO(CH2)2CO2H、CONHCH(CHCH3CH3)(CO2H)、COCO2H、CONH(CH2)2CO2H、及びCONHCH(CH2CHCH3CH3)(CO2H)からなる群から選択される。
【0019】
幾つかの実施態様では、R1は、CO(CH2)2CO2Hであり、R2は、Hであり、そして、R3は、(C6H4)Clである。
【0020】
幾つかの実施態様では、本発明に従って使用するためのSHP2阻害剤は、式(IV)を有する化合物である:
【化2】
(式中、R
1は、Fからなる群から選択され;そして、R
2は、COOCH
3及びCO
2”■N
+H
2(CH
3)(CH
2CHOH
)4CH
2OH)からなる群から選択される。
【0021】
幾つかの実施態様では、本発明に従って使用するためのSHP2阻害剤は、
【化3】
からなる群から選択される。
【0022】
幾つかの実施態様では、SHP2阻害剤は、SHP2発現の阻害剤である。「発現の阻害剤」とは、遺伝子の発現を阻害する生物学的効果を有する天然又は合成の化合物を指す。本発明の好ましい実施態様では、該遺伝子発現の阻害剤は、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はリボザイムである。例えば、アンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、SHP2のmRNAに結合することによってその翻訳を直接ブロックし、それによって、タンパク質の翻訳を妨げるか又はmRNAの分解を増加させて、細胞内のSHP2のレベル、ひいては活性を低下させる作用がある。例えば、少なくとも約15塩基の、そして、SHP2をコードしているmRNA転写物配列の固有の領域に対して相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば、従来のホスホジエステル技術によって合成することができる。配列が公知の遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためにアンチセンス技術を用いる方法は、当技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,566,135号、第6,566,131号、第6,365,354号、第6,410,323号、第6,107,091号、第6,046,321号、及び第5,981,732号を参照)。低分子阻害RNA(siRNA)も、本発明で使用するための発現の阻害剤として機能し得る。SHP2遺伝子発現が特異的に阻害されるように、低分子二本鎖RNA(dsRNA)又は低分子二本鎖RNAを生成させるベクター若しくはコンストラクトを被験体又は細胞に接触させることによって、SHP2遺伝子発現を低減することができる(すなわち、RNA干渉又はRNAi)。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、及びリボザイムは、単独で又はベクターと結合させてインビボにおいて送達することができる。最も広義では、「ベクター」とは、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、又はリボザイム核酸の細胞、典型的にはSHP2を発現している細胞への移入を容易にすることができる任意のビヒクルである。典型的には、ベクターは、ベクターの非存在下で生じる分解の程度と比べて少ない分解で核酸を細胞に輸送する。一般に、本発明において有用なベクターとしては、プラスミド、ファージミド、ウイルス;アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、又はリボザイム核酸の配列の挿入又は組み込みによって操作されているウイルス又は細菌の起源に由来する他のビヒクルが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスベクターが好ましい種類のベクターであり、そして、以下のウイルス由来の核酸配列が挙げられるが、これらに限定されない:レトロウイルス(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルス、及びラウス肉腫ウイルス);アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV-40タイプのウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン・バー・ウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;及びレトロウイルス/レンチウイルス等のRNAウイルス。命名されていないが、当技術分野において公知の他のベクターも容易に用いることができる。
【0023】
幾つかの実施態様では、SHP2阻害剤は、ナノ粒子に埋め込まれているか又はコンジュゲートしており、その結果、SHP2阻害剤は、該ナノ粒子を貪食することができる骨髄系細胞(例えば、マクロファージ)に優先的に送達される。本明細書で使用するとき、用語「ナノ粒子」は、リポソーム、ポリマーミセル、ポリマー-DNA複合体(ポリコンプレックス)、ナノスフィア、ナノファイバー、ナノチューブ、及びナノカプセルを包含する。全てのこれらナノ粒子は、当技術分野において公知である。このようなナノ粒子の表面は、PEGブラシ(PEG化、すなわち、ポリエチレングリコール(PEG)をナノ粒子の表面に結合させること)によって修飾されることが多い。幾つかの実施態様では、ナノ粒子は、ナノカプセルである。本明細書で使用するとき、用語「ナノカプセル」は、固有の高分子膜によって取り囲まれた空洞に薬物が拘束されている小胞系を意味する。幾つかの実施態様では、ナノ粒子は、ナノスフィアである。本明細書で使用するとき、用語「ナノスフィア」は、薬物が物理的かつ均一に分散しているマトリックス系を意味する。幾つかの実施態様では、ナノ粒子は、リポソームである。本明細書で使用するとき、用語「リポソーム」は、水性コンパートメントであってよい1つ以上の空間(volumes)を封入する脂質二重層で構成される任意の構造を含む。リポソームは、1枚、2枚、3枚、4枚、5枚、6枚、7枚、8枚、9枚、10枚、又はそれ以上の脂質二重層で構成される。用語「脂質二重層」は、リン脂質二重層、非イオン性界面活性剤からなる二重層を含むが、これらに限定されない。リン脂質二重層からなるリポソームは、(例えば、ホスファチジルエタノールアミンのような)混合脂質鎖を有する天然由来のリン脂質又はDOPE(ジオレイルホスファチジルエタノールアミン)のような純粋な成分で構成され得るが、これら成分に限定されない。リポソームは、エマルション、フォーム、ミセル、エクソソーム、ベシクル、不溶性単層、液晶、リン脂質分散液、ラメラ層等を含むが、これらに限定されない。また、用語「リポソーム」は、空間を封入する脂質の単層又は二重層で構成される従来のリポソームの表面に結合した水溶性ポリマー(ポリエチレングリコール、PEG)からなるいわゆる「ステルスリポソーム」(例えば、いわゆるPEG化リポソーム)も含む。リポソームを調製した後、リポソームのサイズを調整して、所望のサイズ範囲及び比較的狭いリポソームサイズ分布を達成することができる。本発明に係る阻害剤をリポソームにカップリングさせる方法は、一般に、リポソームの脂質と阻害剤との間を共有結合的に架橋させることを含む。別のアプローチでは、本発明に係る阻害剤は、脂肪酸等の疎水性アンカーで共有結合的に誘導体化されており、予め形成された脂質に組み込まれる。
【0024】
本発明によれば、SHP2阻害剤は、処置的に有効な量で被験体に投与される。「処置的に有効な量」は、任意の医学的処置に適用可能な合理的なベネフィット/リスク比で症状を処置又は低減するための活性成分の十分な量を意味する。本発明の化合物及び組成物の合計日用量は、適切な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されるであろう。任意の特定の被験体についての具体的な処置的に有効な用量レベルは、処置される障害及び該障害の重篤度;使用される具体的な化合物の活性;使用される具体的な組成物;被験体の年齢、体重、全身健康、性別、及び食生活;使用される具体的な化合物の投与時間、投与経路、及び排出速度;処置期間;活性成分と組み合わせて使用される薬物;並びに医学分野で周知の類似要因を含む、様々な要因に依存する。例えば、所望の処置効果を達成するのに必要な用量よりも低いレベルの用量の化合物で開始し、そして、該所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当技術分野の技能の範囲内である。しかし、生成物の日用量は、成人1人当たり1日当たり0.01~1,000mgという広範囲にわたって変動し得る。典型的には、処置される被験体に対する投与量を症状に合わせて調整するために、組成物は、活性成分 0.01mg、0.05mg、0.1mg、0.5mg、1.0mg、2.5mg、5.0mg、10.0mg、15.0mg、25.0mg、50.0mg、100mg、250mg、及び500mgを含有する。医薬は、典型的に、活性成分 約0.01mg~約500mg、典型的には活性成分 1mg~約100mgを含有する。有効量の薬物は、通常、1日当たり0.0002mg/kg(体重)~約20mg/kg(体重)、特に、1日当たり約0.001mg/kg(体重)~7mg/kg(体重)の投与量レベルで供給される。
【0025】
典型的には、本発明の活性成分(例えば、SHP2阻害剤)は、薬学的に許容し得る賦形剤、及び任意で生分解性ポリマー等の徐放性マトリクスと合わせて、医薬組成物を形成する。用語「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」とは、必要に応じて、哺乳類、特にヒトに投与したとき、副作用、アレルギー反応、又は他の有害反応を生じさせない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤とは、非毒性の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、封入材料、又は任意の種類の製剤補助剤を指す。また、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、これらの好適な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であってもよい。例えば、レシチン等のコーティングを使用することによって、分散液の場合は必要な粒径を維持することによって、及び界面活性剤を使用することによって、適切な流動性を維持することができる。例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等の様々な抗菌剤及び抗真菌剤によって、微生物の作用を阻止することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン等の吸収を遅延させる剤を該組成物中で使用することによって持続的に吸収させることができる。本発明の医薬組成物では、本発明の活性成分は、単位投与形態で、従来の医薬担体との混合物として投与することができる。好適な単位投与形態は、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤、及び経口用の懸濁剤又は液剤等の経口経路形態、舌下及び頬側用の投与形態、エアゾール、インプラント、皮下、経皮、局部、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、くも膜下腔内、及び鼻腔内用の投与形態、並びに直腸内用の投与形態を含む。
【0026】
以下の図面及び実施例によって本発明を更に説明する。しかし、これら実施例及び図面は、いかなる手段によっても、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】経管栄養によってSHP2阻害剤(50mg/kg/日)で処理した肥満糖尿病マウスで耐糖能が有意に改善したことを示す。
【0028】
実施例:
特に抗がん処置の分野において、SHP2の特異的阻害剤が幾つか開発されている。その化合物のうちの1つが、最近高度に特異的であることが示され、良好な寛容性及び経口バイオアベイラビリティを有するSHP099(6-(4-アミノ-4-メチルピペリジン-1-イル)-3-(2,3-ジクロロフェニル)ピラジン-2-アミン)である(Garcia Fortanet J, Chen CH, Chen YN, Chen Z, Deng Z, Firestone B, Fekkes P, Fodor M, Fortin PD, Fridrich C, Grunenfelder D, Ho S, Kang ZB, Karki R, Kato M, Keen N, LaBonte LR, Larrow J, Lenoir F, Liu G, Liu S, Lombardo F, Majumdar D, Meyer MJ, Palermo M, Perez L, Pu M, Ramsey T, Sellers WR, Shultz MD, Stams T, Towler C, Wang P, Williams SL, Zhang JH, LaMarche MJ. Allosteric Inhibition of SHP2: Identification of a Potent, Selective, and Orally Efficacious Phosphatase Inhibitor. J Med Chem. 2016 Sep 8;59(17):7773-82)。ごく最近の研究では、四塩化炭素によって誘導された腎線維症の処置における有効性も実証されている(Kostallari et al, 2018)。したがって、本発明者らは、SHP2を慢性的に阻害することで、動物モデルにおいてインスリン感受性が改善するかどうかを評価する。肥満糖尿病マウスを経管栄養によって処理した(50mg/kg/日)。処理15日後にOGTTを実施した(
図1)。本発明者らは、処理した動物の耐糖能が対照に比べて有意に改善し、体重にも体組成にもいかなる変化もなく、空腹時の血糖値が低下したことに注目する。
【0029】
参照文献:
本願全体を通して、様々な参照文献が、本発明が関連する技術分野の状況について説明している。これら参照文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。