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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】摩擦部材の形成方法及び摩擦部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/10 20230101AFI20240314BHJP
   B23K 15/00 20060101ALI20240314BHJP
   B23K 26/354 20140101ALI20240314BHJP
   F16D 13/60 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C22C1/10 G
B23K15/00 502
B23K26/354
F16D13/60 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021560001
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2019061207
(87)【国際公開番号】W WO2020221453
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】521147466
【氏名又は名称】オートモーティブ コンポーネンツ フロビー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】トーマス アダム
(72)【発明者】
【氏名】ゼルフォス ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】エクルンド アンダース
(72)【発明者】
【氏名】アウェ サムエル
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523353(JP,A)
【文献】特開昭59-133868(JP,A)
【文献】特開2014-173489(JP,A)
【文献】特開2013-199665(JP,A)
【文献】特開2006-193783(JP,A)
【文献】特開平07-269614(JP,A)
【文献】特開昭62-235462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/10
B23K 15/00
B23K 26/354
F16D 13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦部材(1)の摩擦面(5)の形成方法であって、
第1の材料(2)と、前記第1の材料(2)に埋め込まれた第2の材料の補強粒子(3)とを含むマトリクス複合材料からなる摩擦部材(1)を形成する工程であって、前記第1の材料(2)は、前記第2の材料よりも低い溶融温度を有する工程と、
前記摩擦部材(1)の前記第1の材料(2)の表面層(s)を溶融させて、前記補強粒子(3)の一部を露出させ、これにより前記摩擦部材(1)の前記摩擦面(5)の摩擦係数の増加を可能にすることによって、前記摩擦面(5)を形成する工程と
を含み、
前記摩擦面(5)を形成する工程が、化学エッチングの工程、及び電解酸洗の工程を含まず、
前記摩擦面(5)を形成する工程において、溶融した前記第1の材料(2)は、固体状態から液体状態への前記表面層(s)の状態の変化と、溶融プロセス中に前記摩擦部材(1)の表面層(s)に作用する力とに起因して、前記摩擦部材(1)の表面層(s)内で再配置され、溶融した前記表面層(s)が固体状態に戻った後に、前記補強粒子(3)の一部が露出され、
前記第1の材料(2)の前記表面層(s)を溶融させる前記工程が、前記第1の材料(2)の前記表面層(s)を溶融させるために、前記摩擦部材(1)の表面(4)に向けたビーム(10)を生成することを含み、
前記ビーム(10)がレーザビーム又は電子ビームである、方法。
【請求項2】
前記表面層(s)を溶融させる前記工程の間に、前記摩擦部材(1)と前記ビーム(10)との間に相対的な移動を発生させる工程を含む請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記相対的な移動が前記摩擦部材(1)の回転を含む請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の材料(2)の前記表面層(s)を溶融させる前記工程が、前記摩擦面(5)上に表面構造パターンを形成することを含む請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の材料(2)が、アルミニウム又はアルミニウム合金である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の材料(2)がセラミック材料を含む請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記セラミック材料が、SiC、Al、WC及び他の炭化物のうちの少なくとも1種を含む請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記補強粒子(3)が前記マトリクス複合材料の体積の少なくとも10%を形成する請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記補強粒子(3)が前記マトリクス複合材料の体積の最大70%を形成する請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記補強粒子(3)が前記第1の材料内に規則的に、かつ等距離で分散している請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記摩擦部材(1)が、ブレーキディスク、ブレーキドラム又はクラッチプレートに成形されている請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスク、ブレーキドラム又はクラッチプレート等の摩擦部材の摩擦面の形成方法に関する。本発明は、摩擦面を有する摩擦部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブレーキディスク、ブレーキドラム、又はクラッチディスクは、鉄系合金で作られている。鉄系合金製の部品の1つの欠点は、部品の重量が比較的大きいことである。近年、自動車をはじめとする機械の総重量を軽減し、これにより機械の燃費を向上させることが求められている。ブレーキディスクを軽量化することにより、過渡的な走行状態におけるブレーキディスクの慣性モーメントが大幅に低減される。さらには、鉄系材料の代替物を探す際には、耐摩耗性に加えて耐腐食性の向上が求められる。摩擦部品の製造に、粒子強化金属基複合材料(PMMC)、例えばアルミニウム基複合材料(Al-MC)が使用できることが見出されている。補強粒子を含むAl-MCは、ねずみ鋳鉄(GCI)の代替材料として世界的にますます注目を集めている。これは、Al-MCが高い比剛性、高い塑性流動強度、耐クリープ性、良好な耐酸化性及び耐腐食性、高い熱伝導性、優れた摩擦・摩耗性能を有するためである。Al-MCディスクは、耐摩耗性に優れているため、GCIディスクと同程度の粒子状物質の排出量は生成しない。
【0003】
PMMCから作製された摩擦部材の摩擦面の摩擦係数を向上させるための努力がなされている。米国特許第6821447B1号明細書は、この目的のために化学エッチングを用いる方法の一例である。しかしながら、化学エッチング又は酸若しくはアルカリ系試薬の中での電解酸洗は、健康への悪影響や廃化学試薬の処理に伴う環境問題等のいくつかのマイナス面がある。さらに、化学エッチングの工程を含むプロセスを実行するためのコストも別の欠点となりうる。
【0004】
それゆえ、本発明は、とりわけ健康問題及び環境問題を考慮して、摩擦部材の摩擦面の形成方法に関する改善を目的とする。
【0005】
それゆえ、摩擦面の摩擦係数が増加した、摩擦部材の摩擦面を形成する改良された方法を提供することが望ましい。さらに、改善された摩擦面を有する摩擦部材を提供することも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6821447B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の1つの目的は、摩擦面の摩擦係数が増加した摩擦部材の摩擦面を形成する改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1で定義された方法によって達成される。
【0009】
従って、上述の目的は、第1の材料のマトリクス複合材料と、この第1の材料に埋め込まれた第2の材料の補強粒子とを含む摩擦部材を形成する工程を含む、摩擦部材の摩擦面の形成方法によって達成される。このように、補強粒子は第1の材料内に分散されており、第1の材料に埋め込まれた補強粒子に起因して、純粋な第1の材料と比較して、マトリクス複合材料の強度が向上する。さらに、摩擦部材の形成とは、摩擦部材を所望の形態若しくは形状に成形する又は形作ることを意味する。
【0010】
当該方法によれば、第1の材料は、第2の材料よりも低い溶融温度を有する。これにより、第1の材料は、摩擦部材、より正確には摩擦部材の表面層に所定レベルのエネルギーを加えることによって溶融することができるが、第2の材料から作製される補強粒子は、同じで変化しない固相のままである。このように、適切な温度を選択することにより、第1の材料の固体から液体への相変化を達成することができ、一方で、第2の材料の補強粒子は同じで変化しない固相のままである。
【0011】
さらに、当該方法は、摩擦部材の第1の材料の表面層を溶融させて、補強粒子の一部を露出させ、これにより上記摩擦部材の摩擦面の摩擦係数の増加を可能にすることによって、摩擦面を形成する工程を含む。補強粒子は、第1の材料の溶融した表面層の再配置によって露出させることができる。溶融した第1の材料は、固体状態から液体状態への表面層の状態の変化と、溶融プロセス中に摩擦部材の表面層に作用する力とに起因して、摩擦部材の表面層内で再配置されてもよい。上記力は、摩擦部材の表面層の加熱に関連しており、例えば、圧力による力であってもよい。
【0012】
溶融した表面層は、第1の材料の溶融した表面層に浮いていてもよい補強粒子の一部を含んでもよい。このように、第1の材料の溶融した表面層に含まれる補強粒子が、再配置されてもよい。これにより、第1の材料の表面層を溶融させることにより、溶融した表面層が固化した後、すなわち、溶融した表面層の再配置後に固体状態に戻った後に、補強粒子の一部が露出する、すなわち、摩擦部材の表面から突出することになる。
【0013】
上述したように、第1の材料と第2の材料とは異なる温度で溶融し、より詳細には、第1の材料は第2の材料の溶融温度に比べて低い温度で溶融し、すなわち、第2の材料は第1の材料の溶融温度に比べて高い温度で溶融する。これにより、第1の材料の表面層は溶融するが、補強粒子は変化せず、すなわち溶融せずに固相のまま維持されることができる。
その結果、第1の材料に埋め込まれた補強粒子の一部は、上記一部の補強粒子のそれぞれの一部分が、第1の材料の表面層を溶融し、溶融した表面層が固化した後に形成される摩擦面から突出するように露出することができる。
第1の材料の表面層の溶融工程の後に、上記一部の補強粒子のそれぞれの一部分が摩擦面から突出するので、上記一部の補強粒子のそれぞれの突出部分が、摩擦要素の使用中に摩擦を発生させる。上記一部の補強粒子のそれぞれの露出した部分、すなわち突出した部分によって生じる摩擦は、補強粒子の突出部分がない摩擦面の残りの表面によって生じる摩擦に加えて、追加の摩擦効果を有することになる。
さらに、補強粒子の露出部は、摩擦部材の初期使用時に、摩擦部材と対応する摩擦要素との協働によって生じる摩擦膜の生成を促進する。摩擦膜は、摩擦部材の摩擦面の粒子が、対応する摩擦要素の表面から擦り取るプロセスによって形成される。補強粒子の露出部は、摩擦部材の使用中に摩擦部材の摩擦面に摩擦膜を保持することにも寄与してもよい。
従って、補強粒子の露出した部分からの追加の摩擦効果と、摩擦部材の初期使用中に作成された摩擦膜の効果とのために、摩擦部材の摩擦面の摩擦係数の増加が達成されることになる。
その結果、従来技術で必要とされていた化学薬品を用いることなく、摩擦面の摩擦係数を高めることが可能となる。また、電解エッチングを使用する方法の場合のような洗浄工程を必要としないため、健康面や環境面に関して、さらには製造プロセス面を考えても改善された方法が提供される。従って、上述の目的が達成される。
【0014】
一実施形態によれば、第1の材料の表面層を溶融させる工程は、第1の材料の表面層を溶融させるために、摩擦部材の表面に向けたビームを生成することを含む。上記ビームは、例えば、電子のビーム又は光のビームであってもよい。ビームを使用することにより、第1の材料の表面層を溶融させることにより摩擦面を形成する工程は、従来技術の方法と比較して、比較的迅速に、かつ精度を向上させて行われてもよい。さらに、摩擦面を形成するプロセスは、摩擦部材の表面に向けたビームを制御して表面層を溶融し、これによって所定の特性を有する摩擦面を実現することにより、簡単な方法で制御されてもよい。例えば、ビームは、ビームに含まれるエネルギー量、及び摩擦部材の表面に向けたビームの方向に関して制御することができる。これにより、第1の材料の表面層を溶融させるためにビームを使用することによる摩擦面の形成プロセスを自動化することができる。従って、ビームを用いて摩擦面を形成するプロセスの効率を向上させることができる。
【0015】
一実施形態によれば、上記ビームは、レーザビームである。レーザビームは、例えば、半導体レーザダイオードによって生成されてもよく、又は別の適切な種類のレーザビームであってもよい。レーザビームの使用は、材料を溶融する効率的な方法である。従って、レーザビームを使用することで、第1の材料の表面層は効率的かつ制御された方法で溶融される可能性がある。
【0016】
一実施形態によれば、ビームは電子ビームである。電子ビームは、レーザビームの代替物である。電子ビームによって、第1の材料の表面層は効率的かつ制御された方法で溶融される可能性がある。
【0017】
一実施形態によれば、当該方法は、表面層を溶融させる工程の間に、摩擦部材とビームとの間に相対的な移動を発生させる工程を含む。
摩擦部材とビームの間の相対的な移動とは、摩擦面を形成する工程の間に、摩擦部材及びビームの少なくとも一方が互いに対して動くことを意味する。従って、一実施形態によれば、表面層を溶融させることにより摩擦部材の摩擦面を形成する工程の間に、ビームが摩擦部材の表面に沿って往復運動で移動してもよい。ビームが摩擦部材の表面に沿って、例えば、上記往復運動で移動するとき、摩擦部材はビームに対して移動してもよい。これにより、摩擦面を形成する連続プロセスに従って、効率的かつ制御された方法で摩擦面が形成される可能性がある。これにより、摩擦面を形成するプロセスが自動化されうるので、摩擦面を形成するプロセスが容易になる可能性がある。その結果、摩擦部材の摩擦面を形成するさらに改良された方法が提供される。
【0018】
一実施形態によれば、当該方法は、摩擦部材と、第1の材料の表面層を溶融させるように配置された溶融装置との間に、相対的な移動を発生させる工程を含む。
従って、摩擦面は、摩擦部材と溶融装置との間の相対的な移動の間に、及び相対的な移動によって形成されてもよい。
摩擦部材と溶融装置との間の相対的な移動とは、摩擦面を形成する工程の間に、摩擦部材及び溶融装置の少なくとも一方が互いに対して移動することを意味する。従って、摩擦部材が固定され、溶融装置が摩擦部材に対して移動してもよいし、溶融装置が固定され、摩擦部材が溶融装置に対して移動してもよい。さらに、追加の代替案として、摩擦部材と溶融装置の間の相対的な移動が達成されるように、摩擦部材と溶融装置の両方が移動してもよい。摩擦部材は、第1の方向に移動してもよく、溶融装置は、第2の方向に移動してもよく、第1の方向は、第2の方向と反対であってもよい。摩擦部材と溶融装置との間の相対的な移動は、摩擦面が例えば連続的なプロセスとして形成されてもよいので、摩擦部材の摩擦面の形成プロセスを改善及び簡略化する可能性がある。従って、摩擦面は必ずしも単一の工程で形成される必要はないが、単一の工程で形成されれば、摩擦部材の摩擦面を形成するプロセスが容易になる可能性がある。
【0019】
一実施形態によれば、相対的な移動は、摩擦部材の回転を含む。回転は、比較的簡単に発生させることができる動きの一形態である。これにより、摩擦部材を回転させることで、複雑な装置を必要とせず、効率的に摩擦面が形成されてもよい。一実施形態によれば、摩擦部材が回転してもよく、ビームが摩擦部材の表面に沿って往復運動で移動して、摩擦部材の上記摩擦面を形成してもよい。
【0020】
一実施形態によれば、第1の材料の表面層を溶融させる工程は、摩擦面に表面構造パターンを形成することを含んでもよい。この構造表面パターンは、摩擦面上の形成物として画定されてもよく、この形成物は異なる形状を有してもよい。従って、異なる表面構造パターンが、第1の材料の表面層を溶融させることによって形成されてもよい。
【0021】
新しい摩擦部材、例えばブレーキディスクを使用する場合には、適合性のある部品、すなわちブレーキパッドが摩擦部材と組み合わせられる必要がある。良好な性能を向上させるためには、適合性のある部品を摩擦部材に馴染ませる必要がある。この馴染ませる(bedding-in)プロセスには、摩擦部材及び適合性のある部品の使用中に、摩擦部材及び適合性のある部品に熱が徐々に蓄積されることが含まれる。この馴染ませるプロセスの結果として、第3の物体又はトライボレイヤー(潤滑層)とも呼ばれてもよい薄膜の層が、適合性のある部品から摩擦部材の摩擦面に移される。この層は、摩擦部材の望んでいた摩擦挙動にとって重要であり、摩擦部材の使用中のジャダー(異常振動)のリスクを低減することに関しても重要である。
このように、摩擦面に形成された突出した粒子及び表面構造パターンは、上記薄膜の層のための付着力を確立する。これにより、薄膜の層は、摩擦部材の使用中、例えば極端な制動条件の下で、摩擦部材の摩擦面上で安定した状態を保つことができる。
このように、摩擦部材の摩擦面上の表面構造パターンは、摩擦面の摩擦特性に関してさらなる向上に寄与する。表面構造パターンを選択することにより、すなわち、表面構造パターンの形態を選ぶことにより、摩擦面の摩擦特性は、例えば、摩擦部材の使用中の摩擦部材の移動方向に関して影響を受ける可能性がある。表面構造パターンの形態は、摩擦部材の使用中の摩擦部材の既知の形態及び/又は移動方向に適合させてもよい。これにより、摩擦面の摩擦係数が増加した摩擦部材の摩擦面を形成するさらに改良された方法が提供される。
【0022】
一実施形態によれば、上記第1の材料は、アルミニウム及び場合によっては合金元素を含む。アルミニウム又はアルミニウム合金は、例えばねずみ鋳鉄のような従来の材料と比較して、より軽量で高い比剛性、高い塑性流動強度、耐クリープ性、良好な耐酸化性及び耐腐食性、高い熱伝導性、優れた摩擦・摩耗性能を特徴とする。このように、とりわけ環境問題に関する特性が改善された改良された摩擦部材が実現される。
【0023】
合金元素は、アルミニウム中に微量に、すなわちアルミニウムよりも少量、又は著しく少量存在していてもよい。
【0024】
一実施形態によれば、第2の材料は、セラミック材料を含む。セラミック材料は、とりわけ硬度、重量、及び耐腐食性に関して有益な特性を有する。従って、セラミック材料から作製される補強粒子を含む摩擦部材は、向上した耐久性を有する。
【0025】
一実施形態によれば、セラミック材料は、SiC、Al、WC及び他の炭化物のうちの少なくとも1種を含む。
【0026】
一実施形態によれば、上記補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも10%を形成し、好ましくは、補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも20%を形成し、より好ましくは、補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも30%を形成する。
【0027】
補強粒子の体積割合は、摩擦部材が動作しうる最高使用温度に影響を与える。従って、補強粒子の体積割合を決定することにより、摩擦部材は、摩擦部材の最高使用温度に関して、異なる目的に適合されてもよい。
【0028】
さらに、上記補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の最大70%を形成していてもよいし、補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の最大60%を形成していてもよい。なおさらに、補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の最大50%を形成してもよい。
【0029】
一実施形態によれば、補強粒子は、第1の材料中に均一に分散している。従って、補強粒子は第1の材料内に規則的に分散しており、これは、第1の材料に埋め込まれた補強粒子間の距離が実質的に等しいことを意味する。第1の材料内に補強粒子が均一に分散していることに起因して、マトリクス複合材料の強度特性が改善される可能性がある。これは、補強粒子の分布の均一性が低いマトリクス複合材料と比較して、マトリクス複合材料内の力をより均一に分散させることができるためである。その結果、改良されたマトリクス複合材料が提供される。結果として、マトリクス複合材料から作製された改良された摩擦部材が達成される可能性がある。
【0030】
一実施形態によれば、上記摩擦部材は、ブレーキディスク、ブレーキドラム又はクラッチプレートに成形される。
【0031】
さらに、本発明の目的は、改善された摩擦面を有する摩擦部材を提供することである。
【0032】
この目的は、請求項16に記載の摩擦部材によって達成される。
【0033】
従って、この目的は、第1の材料のマトリクス複合材料と、この第1の材料に埋め込まれた第2の材料の補強粒子とを含む摩擦部材であって、第1の材料は、第2の材料よりも低い溶融温度を有する摩擦部材によって達成さる。当該摩擦部材は、摩擦部材の第1の材料の表面層を溶融させて、補強粒子の一部を露出させ、これにより当該摩擦部材の摩擦面の摩擦係数の増加を可能にすることにより形成された摩擦面を有する。
【0034】
一実施形態によれば、上記表面層は、摩擦部材の表面に向けたビームによって溶融される。
【0035】
一実施形態によれば、摩擦面は、摩擦面上に表面構造パターンを含む。
【0036】
一実施形態によれば、上記ビームはレーザビームである。
【0037】
一実施形態によれば、上記ビームは電子ビームである。
【0038】
一実施形態によれば、上記第1の材料は、アルミニウム及び場合によっては合金元素を含む。
【0039】
一実施形態によれば、上記第2の材料は、セラミック材料を含む。
【0040】
一実施形態によれば、上記セラミック材料は、SiC、Al、WC及び他の炭化物のうちの少なくとも1つを含む。
【0041】
一実施形態によれば、上記補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも10%を形成し、好ましくは、補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも20%を形成し、より好ましくは、補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも30%を形成する。
【0042】
一実施形態によれば、上記補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の最大70%を形成し、好ましくは、補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の最大60%を形成し、より好ましくは、補強粒子は、マトリクス複合材料の体積の最大50%を形成する。
【0043】
一実施形態によれば、補強粒子は、第1の材料に均一に分散している。
【0044】
一実施形態によれば、当該摩擦部材は、ブレーキディスク、ブレーキドラム又はクラッチプレートに成形される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
以下では、本発明の好ましい実施形態を、添付の図面を参照して説明する。
【0046】
図1a図1aは、本発明に係る方法に従った処理の前の摩擦部材の一部の切断図である。
図1b図1bは、本発明に係る方法に従った処理の後の、図1aに示された摩擦部材の一部の切断図である。
図2図2は、本発明に係る方法を実行するのに適合した装置を概略的に示す透視図である。
図3図3は、一実施形態に係る摩擦面上に表面構造パターンを有する図1bの摩擦面を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1aは、第1の材料2と、第1の材料2に埋め込まれた第2の材料の補強粒子3とを含むマトリクス複合材料を含む摩擦部材1の一部の切断図である。第1の材料2は、アルミニウム及び場合によっては合金元素を含んでもよい。第2の材料は、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム(Al)、炭化タングステン(WC)及び他の炭化物のうちの少なくとも1つ等のセラミック材料を含んでもよい。
【0048】
上記第1の材料は、上記第2の材料よりも低い溶融温度を有する。アルミニウムの溶融温度は約670℃であり、SiC粒子の溶融温度は約2730℃であり、Alの溶融温度は約2072℃であり、WCの溶融温度は約2870℃である。この溶融温度の差の結果として、あるレベルのエネルギーを印加することにより、第1の材料の層を選択的に除去することができ、一方で、第2の材料の補強粒子は、第1の材料の層の除去中及び除去後に、変化せず、固体の形態で残ることができる。
【0049】
図1aに示されているように、粒子3は第1の材料2に埋め込まれている。従って、補強粒子3は、第1の材料2内に分散している。補強粒子3は、マトリクス複合材料及び摩擦部材1の形成に関連する混合プロセス中に、第1の材料2と混合されてもよい。
【0050】
このように、第1の材料2に埋め込まれた補強粒子3のために、純粋な第1の材料2に比べてマトリクス複合材料の強度が向上する。
【0051】
補強粒子3は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも10%を形成してもよい。好ましくは、補強粒子3は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも20%を形成し、より好ましくは、補強粒子3は、マトリクス複合材料の体積の少なくとも30%を形成する。
【0052】
さらに、補強粒子3は、マトリクス複合材料の体積の最大70%を形成してもよい。好ましくは、補強粒子3は、マトリクス複合材料の体積の最大60%を形成し、より好ましくは、補強粒子3は、マトリクス複合材料の体積の最大50%を形成する。
【0053】
このマトリクス複合材料における補強粒子3の体積割合は、とりわけ、マトリクス複合材料から作製された摩擦部材1の最高使用温度に影響を与える。従って、補強粒子3の体積割合を決定することにより、摩擦部材1は、摩擦部材1の最高使用温度に関して、異なる目的に適合されてもよい。
【0054】
さらに、補強粒子3は、第1の材料2中に均一に分散していてもよい。従って、第1の材料2に埋め込まれた補強粒子3は、第1の材料内に規則的に分散していてもよく、これは、補強粒子3の間の図1aに模式的に示された距離dが実質的に等しくてもよいことを意味する。
粒子3の大きさは、およそ1~500μm、例えば5~50μmであってもよく、距離dは、例えば1~500μm、例えば10~30μmであってもよい。
簡単にするために、4つの粒子3の間の距離dのみが図示されており、しかも図1aの紙面においてのみ図示されている。しかしながら、距離dは、摩擦部材1のマトリクス材料の3次元において有効であってもよい。これによって、均一なマトリクス複合材料が提供され、それによって、このマトリクス複合材料から作製された摩擦部材1の特性が、とりわけ摩擦部材1の強度に関して改善されてもよい。従って、改良されたマトリクス複合材料が提供されてもよく、これによっても、第1の材料2内に均一に分散された補強粒子3のために、上記マトリクス複合材料から作製される改良された摩擦部材1が達成されてもよい。
【0055】
図1bは、本発明に係る方法に従った処理の後の、図1aに示された摩擦部材1の一部の切断図である。図1bでは、摩擦部材1の一部が、熱エネルギーに曝されて厚さtの表面層sが溶融した後に図示されており、ここでは補強粒子3の一部が露出している。補強粒子3が露出しているのは、溶融した第1の材料2が摩擦部材1の溶融した表面層s内に再配置されているからである。溶融した第1の材料2は、固体状態から液体状態への表面層sの状態の変化と、溶融プロセス中に摩擦部材1の表面層sに作用する力とに起因して、摩擦部材1の表面層s内で再配置されることが可能である。この力は、摩擦部材1の表面層sの加熱に伴うものであり、例えば、圧力による力であってもよい。
【0056】
表面層sの厚さtは、摩擦部材1の表面4に印加される温度及びエネルギー量を変化させることによって制御されてもよい。表面4、又は、表面層sに印加されるエネルギー量を制御することにより、補強粒子3の一部を露出させるために溶融させる表面層sの厚さtが制御されてもよい。溶融される表面層sの厚さtは、補強粒子3の大きさに応じて、表面層tの厚さtが補強粒子3の大きさよりも小さくなるように制御されてもよい。これにより、表面層sの第1の材料の溶融後に、補強粒子3の各部分の少なくとも一部分が摩擦面5から突出する。第1の材料の溶融は、例えば、第1の材料の蒸発による、表面層の一部分の除去を含んでいてもよい。
【0057】
見て分かるように、第1の材料2の表面層sが除去され、これにより、補強粒子3の一部が露出している。露出した補強粒子3は、第1の材料2の表面層sの除去によって形成された摩擦面5から突出している。補強粒子3のうち摩擦部材1の摩擦面5から突出している部分は、補強粒子3の突出部分によって発生する摩擦力のため、摩擦部材1の使用時に摩擦部材1の摩擦面5の摩擦係数の増加に寄与する。
【0058】
図2は、本発明に係る方法を実行するのに適合した装置6を概略的に示す。装置6は、ビーム源7、例えば、レーザビーム源を含む。レーザビームは、例えば、半導体レーザダイオードによって生成されてもよく、又は別の適切な種類のレーザビームであってもよい。
【0059】
さらに、装置6は、摩擦部材1の摩擦面5を形成するために、摩擦部材1の表面4にビーム10を導くように配置されたレンズ8及びミラー9を含む。ビーム源7、レンズ8及びミラー9は、溶融装置11に含まれている。ビーム10は、レーザビームであってもよいし、電子ビームであってもよい。レーザビームは、パルスレーザビームであってもよい。
【0060】
装置6は、摩擦部材1の摩擦面5の形成前及び形成中に、摩擦部材1を保持するために配置された保持装置12を含んでいてもよい。保持装置12は、例えば、金属材料のディスクとして形成されていてもよいし、他の適切な材料で形成されていてもよい。
【0061】
図2に示されているように、摩擦部材1は、ブレーキディスクに成形されてもよい。ブレーキディスクは、自動車等の車両に適したものであってもよいし、ブレーキディスクは、例えば風力発電所で使用されるように形成されていてもよい。当該摩擦部材は、クラッチプレートに成形されてもよい。クラッチプレートは、例えば内燃機関又は電気機関等のエンジンから運動エネルギーを伝達するために使用されてもよい。エンジンは、車両に配置されていてもよい。
【0062】
一実施形態によれば、装置6は、摩擦部材1の第1軸a1周りの回転方向Rへの回転を可能にするように配置されてもよい。第1軸a1周りの回転方向Rは、時計回り又は反時計回りの回転方向であってもよい。摩擦部材1の回転は、保持装置12を回転させることによって達成されてもよく、保持装置12の回転運動は、保持装置12によって保持された摩擦部材1に伝達されてもよい。
【0063】
装置6は、溶融装置11及び摩擦部材1の、同一方向又は反対方向への同時移動を可能にするように配置されてもよい。溶融装置11及び摩擦部材1は、第1軸a1の周りを回転してもよい。第1軸a1は、摩擦部材1と溶融装置11の両方に共通の同じ回転軸であってもよい。
【0064】
さらに、一実施形態によれば、摩擦部材1は固定されていてもよく、溶融装置11は、固定された摩擦部材1に対して移動、例えば回転してもよい。
【0065】
摩擦部材1の回転は、例えば、保持装置12を回転させ、これによって摩擦部材1を第1軸a1の周りに回転させるように配置された電気モータ13によって達成されてもよい。同様に、溶融装置11の回転は、追加の電気モータ、又は保持装置12及び摩擦部材1を回転させるように配置されていてもよい電気モータ13によって達成されてもよい。このように、摩擦部材1と溶融装置11の両方が、同じ電気モータによって回転されてもよい。
【0066】
一実施形態によれば、摩擦部材1の表面層を溶融させる工程の間の摩擦部材1とビーム10との間の相対的な移動は、ミラー9の往復運動を含んでいてもよい。ミラー9は、ビーム源7から到来したビーム10を、摩擦部材1の表面4に向けて導く機能を有する。ビーム10は、摩擦部材1の表面4に対して実質的に直角を作るように、摩擦部材1の表面4に向けて導かれる。これは、ビーム10が、摩擦部材1の表面4に対して実質的に垂直であることを意味する。このように、摩擦部材1とビーム10との間の相対的な移動は、ミラー9を移動させることによって達成されてもよい。
【0067】
ミラー9は、ミラーの往復運動が達成されるように制御されてもよい。ミラー9は、図2に示されるように、第2軸a2の周りを往復的に、すなわち、時計回り及び反時計回りの方向に第2軸a2の周りを往復して回転するように制御されてもよい。代替案として、ビーム10を摩擦部材1の表面4に向けて導くために、ミラー9の直線的な動きを実現するようにミラー9が制御されてもよい。従って、摩擦部材1の表面4に沿ったビーム10の移動は、ミラー9の移動によって達成されてもよい。ミラー9の移動により、ビーム10が前後に往復的に移動して摩擦部材1の表面4に沿って前後に摩擦部材1の表面4に当たるようにすることができる。
【0068】
さらに、第1の材料の表面層を溶融させる工程は、摩擦面5に表面構造パターンを形成することを含んでいてもよい。この表面構造パターンは、摩擦部材1の摩擦面5上に形成されるように意図された予め定義されたパターンに従ってビーム10が表面4に当たるようにミラー9を制御することによって達成することができる。さらに、摩擦部材1の移動も、摩擦面5上の表面構造パターンの形成に寄与することがある。摩擦面5上の異なる表面構造パターンが、例えば、複数の線、円、十字、又は他の形態として作成されてもよい。以下、表面構造パターンについて、図3を参照して説明する。
【0069】
図3は、一実施形態に係る摩擦面5上に表面構造パターンを有する図1bの摩擦面5を説明する切断側面図である。図3に見られるように、表面構造パターンは、図2に関連して説明したビーム10によって形成された凹部14及び突出部15によって形成されてもよい。凹部14及び突出部15は、平行かつ細長い線の表面構造パターンを形成する細長い平行な線として配置されてもよい。いくつかの実施形態によれば、表面構造パターンは、例えば、複数の円、十字、又は他の形態の形態を有していてもよい。摩擦面5上の表面構造パターンは、複数の円、十字、又は他の形態の組み合わせであってもよい。
【0070】
本発明は、説明した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲において自由に変形されてもよい。
図1a
図1b
図2
図3