(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】高磁気誘導方向性ケイ素鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20240314BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240314BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20240314BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C22C38/00 303U
C22C38/34
H01F1/147 183
(21)【出願番号】P 2022505654
(86)(22)【出願日】2020-08-11
(86)【国際出願番号】 CN2020108333
(87)【国際公開番号】W WO2021027797
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】201910743291.6
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(72)【発明者】
【氏名】チャン、フアビン
(72)【発明者】
【氏名】リ、グオバオ
(72)【発明者】
【氏名】シェン、カンイ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、バオジュン
(72)【発明者】
【氏名】ホウ、チャンジュン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、シンチャン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チアンビン
(72)【発明者】
【氏名】ウ、メイホン
(72)【発明者】
【氏名】マ、チャンソン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、デシェン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070974(JP,A)
【文献】特開2011-111653(JP,A)
【文献】特開2019-127616(JP,A)
【文献】特開平06-073454(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103898409(CN,A)
【文献】特開2019-119933(JP,A)
【文献】特開平07-258802(JP,A)
【文献】特開平08-199239(JP,A)
【文献】特開平11-286727(JP,A)
【文献】特表2000-503726(JP,A)
【文献】特開2008-069391(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102517429(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性ケイ素鋼の製造方法であって:
(1)製錬および鋳造;
(2)スラブの加熱
、ここで該スラブは質量パーセントで以下の化学元素:Si:2.0~4.0%、C:0.03~0.07%、Al:0.015~0.035%、N:0.003~0.010%、Nb:0.0010~0.0500%;必要に応じてMn:0.05~0.20%、P:0.01~0.08%、Cr:0.05~0.40%、Sn:0.03~0.30%およびCu:0.01~0.40%の少なくとも1つ;並びにFeおよび不可避の不純物である残部からなり、該不可避の不純物の中でS≦0.0050%、V≦0.0050%およびTi≦0.0050%;
(3)熱間圧延;
(4)冷間圧延;
(5)脱炭素および焼鈍;
(6)窒化処理;
(7)MgOコーティング適用;
(8)高温焼鈍;並びに
(9)絶縁コーティング適用
の工程を含む(ここで、
該方向性ケイ素鋼は、該製造方法によって得られ、14~22μmの平均一次粒子サイズおよび1.8より大きい一次粒子サイズ変動係数を有し;該一次粒子サイズ変動係数=
【数1】
である)
、製造方法。
【請求項2】
工程(2)において、スラブについての加熱温度および加熱時間がそれぞれ1050~1250℃および300分未満であることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(4)において、冷間圧延が85%以上の圧下率を有することを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(5)において、脱炭素および焼鈍についての温度および時間がそれぞれ800~900℃および90~170秒であることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(6)において、浸透窒素含有量が50~260ppmであることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(8)において、高温焼鈍についての温度および時間がそれぞれ1050~1250℃および15~40時間であることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項7】
製造方法がまた、工程(3)と工程(4)との間に熱間圧延スラブ焼鈍工程を含み、ここで、熱間圧延スラブ焼鈍についての温度および時間がそれぞれ850~1150℃および30~200秒であることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項8】
ケイ素鋼が(0.28+2.5×t)W/kg以下の鉄損P
17/50
(ここで、tは、mmでのシートの厚さを表す);および1.93T以上の磁気誘導B
8
を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼種およびその製造方法、特に方向性ケイ素鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
方向性ケイ素鋼は、ゴス集合組織(Goss texture)を有する粒子で構成されている、電力および国防産業において不可欠な軟質磁性材料である。そのゴス集合組織は、ミラー指数で{110}<001>として表される。粒子の{110}結晶面は、圧延面に平行であり、粒子の<001>結晶方位は圧延方向に平行である。すなわち、方向性ケイ素鋼は、方向性磁場下で最も良い容易な磁化性能を有し、結晶磁気異方性を最大限に活用して、多結晶材料の最も良い磁気特性を実現する。電力変圧器または送電変圧器の鉄心が方向性ケイ素鋼で作られているとき、その非常に高い磁気誘導および非常に低い鉄損により、材料および電気エネルギーは、指向性磁場の動作条件下で大幅に節約することができる。鉄損P17/50および磁気誘導B8は、通常、方向性ケイ素鋼の磁気性能レベルを特徴づけるために使用され、ここで、P17/50は、最大磁気誘導強度が1.7Tであり周波数が50Hzであるときの試験片1kgあたりの鉄損を表し;B8は、800A/mの磁場強度に対応する磁気誘導強度を表す。
【0003】
磁気誘導B8に従って、方向性ケイ素鋼は、通常の方向性ケイ素鋼(B8<1.88T)および高磁気誘導方向性ケイ素鋼(B8≧1.88T)の2つのカテゴリに分類することができる。伝統的な高磁気誘導方向性ケイ素鋼は、高温スラブ加熱プロセスで製造されるが、これは以下の欠点を有する:抑制剤を完全に溶解させるために、スラブ加熱温度は通常、伝統的な加熱炉の限界レベルである1400℃に達する必要がある。また、スラブを加熱するための高温のために、加熱炉の利用率が低く、耐用年数が短く、ケイ素が粒界で偏析し、高温圧着亀裂が深刻であり、歩留まりが低く、エネルギー消費量が大きく、製造コストが高い。
【0004】
上記の欠陥を考慮して、ますます多くの研究が、方向性ケイ素鋼の加熱温度を低下させる方法に焦点を当てる。現在、スラブを加熱する温度範囲に従って、2つの主な改善経路があり:1つは、中温スラブ加熱プロセスであり、ここでは、スラブを加熱する温度は1250から1320℃であり、AlNおよびCu2Sが抑制剤として使用され;もう1つは、低温スラブ加熱プロセスであり、ここでは、スラブを加熱する温度は1100から1250℃であり、抑制剤は、後の工程において窒化により導入する。それらの中でも、低温スラブ加熱プロセスは、高磁性誘導方向性ケイ素鋼を低コストで製造できるため、広く使用されている。
【0005】
しかしながら、低温スラブ加熱プロセスの主な困難さは、抑制剤の選択および形態制御にある。低温スラブ加熱プロセスは、製造コストおよび歩留まりにおいて明らかな利点を有するが、高温スラブ加熱プロセスと比較して、抑制剤の不安定な要因において大幅な増加がある。例えば、コアとしてTiNを有するMnS+AlN複合析出物などの、鋳造中に形成される粗い析出物は、引き続く焼鈍において溶解するのが困難であり;抑制剤の抑制効果が減少し、これは、一次粒子サイズを制御することをより困難とし;および高温焼鈍中の窒素拡散により形成される抑制剤AlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)の不均一な分布につながる、窒化量の不均一な分布などのいくつかの問題があり得、それは、シート幅およびロール長に沿った不均一な磁気特性として製品品質において反映される。高温製造プロセスと比較して、低温スラブ加熱プロセスは、Alsなどの抑制剤形成元素の含有量範囲をppmレベルに制御することを必要とし;それは、脱炭素および焼鈍後の一次粒子サイズおよび窒化量に対して厳密な要件を有し;並びにそれは、製造プロセスおよび技術機器に対する要件を有する。技術的な困難さにおける大幅な増加のため、低温スラブ加熱プロセスによって製造される高磁気誘導方向性ケイ素鋼の典型的な磁気誘導B8は、高温プロセスによって製造される同様の製品のそれより低い、1.88Tと1.92Tとの間であり、酸化膜などの欠陥の発生率は、比較的高い。
【0006】
低温スラブ加熱についてのいくつかの改善されたプロセスは、ストリップ鋼の厚さの薄化、ケイ素含有量の増加、溝入れによる磁区精製、急速な誘導加熱などの、製品グレードのさらなる増加に焦点を当て、これらの技術は、高品質のために投資または製造コストをいくらか増加させる。他の改善されたプロセスは、製鋼ソースから抑制剤元素含有量を低下させることおよび熱処理プロセスを最適化して製造コストをさらに低下させることに焦点を当て、いくつかの例を以下に示す。
【0007】
CN1708594A(2005年12月14日に公開、「粒子方向性磁性鋼板を製造する方法および粒子方向性磁性鋼板」)は、「抑制剤を使用しない方法」である、高磁気誘導ケイ素鋼を製造する方法として見なすことができる発明を開示する。この特許文書において開示された発明においては、スラブ組成物は、質量パーセントで、0.08%以下のC、2.0%~8.0%のSi、0.005%~3.0%のMn、および100ppm以下のAlを含み;さらに、N、SおよびSeは、それぞれ50ppm以下であり、残部は、Feおよび不可避の不純物である。窒化操作は、冷間圧延スラブ焼鈍中は行われない。スラブ加熱温度は、1250℃以下に低下させることができる。高温焼鈍プロセスの製造コストもまた、C、N、S、SeおよびAlの低い含有量のために効果的に低下させることができる。上記の製造工程は単純で低下した製造コストを有するが、製品グレードは高くなく、磁気特性は安定でなく、磁気誘導B8は全ての例において1.91T未満である。抑制剤を使用しない方法の不安定な磁気特性の問題を解決するために、追加の改善されたプロセスが必要とされ、それは必然的に製造コストを増加させるであろう。
【0008】
CN101573458A(2009年11月4日に公開、「優れた磁気特性および高い生産性を有する粒子方向性電気鋼板を製造する方法」)は、高磁気誘導方向性ケイ素鋼の製造方法である発明を開示し、これは、「低温スラブ半固溶体窒化法」として参照し得る。この特許文書において開示された発明においては、スラブ組成物は、C:0.04~0.07質量%、Si:2.0~4.0質量%、P:0.02~0.075質量%、Cr:0.05~0.35質量%、酸可溶性Al:0.020~0.040質量%、Mn:0.20質量%未満、N:0.0055質量%未満、S:0.0055質量%未満、並びにFeおよび不可避の不純物の残部を含む。この発明は、スラブ中の析出物が部分的に溶解する温度にスラブを加熱し、スラブ加熱プロセスによって溶解するNの量が0.0010%と0.0040%との間であることを必要とする。次いで、スラブを、アンモニア、水素および窒素の混合雰囲気中で熱間圧延し、焼き鈍し、冷間圧延し、同時に脱炭素して窒化し、次いで高温で焼きなまして、完成品を得る。この発明は、スラブ中のNおよびSの含有量を低レベルで制御し、有効な抑制剤の量および形態を制御し、18~30μmの平均一次粒子サイズを達成し、これは、優れた磁気特性を得ながら高温焼鈍時間を劇的に短縮することができる。この発明については、高温焼鈍中の脱S負荷は、より低いS含有量のために軽減することができるが、冷間圧延スラブの窒化焼鈍処理を考慮すると、高温焼鈍中の精製焼鈍時間を実質的に短縮することは実際には困難である。さらに、スラブ加熱プロセスによって溶解するNの量を制御するために、スラブを加熱するための温度も1050~1250℃であることが必要とされる。
【0009】
方向性ケイ素鋼の製品グレードを改善し、同時に製造コストを低下させることは、しばしば困難である。上記の特許文献においては、二次再結晶の駆動力および抑制力の高水準の一致を安定的に実現する方法において困難がある。一般に、抑制剤元素含有量の減少は、一次再結晶および二次再結晶に必要な抑制力を低下させ、これは、一次粒子サイズの増加および不均一性並びに二次再結晶温度の増加につながるであろう。平均一次粒子サイズが大きすぎる場合、二次再結晶の推進力が低下し、二次核が低下するであろう;一次粒子サイズが均一でない場合、非ガウス粒子が二次再結晶を受けるであろう;および二次再結晶温度が増加する場合、それは、二次再結晶前の加熱時間が増加し、これは抑制剤の粗大化または酸化のリスクを増加させることを意味する。これらの全ては、完成品の磁気性能を劣化させまたは廃棄させたりさえするであろう。磁気特性を安定的に制御することが難しいという事実のため、いくつかの既存技術は、スラブから析出する介在物の形態を変えることによって製造コストを低下させ、いくつかの例を以下に示す。
【0010】
CN103805918A(2014年5月21日に公開、「高磁気誘導方向性ケイ素鋼およびその製造方法」)は、高磁気誘導方向性ケイ素鋼およびその製造方法を開示する。この特許文書において開示された発明においては、スラブ組成物は、C:0.035~0.120質量%、Si:2.5~4.5質量%、Mn:0.05~0.20質量%、S:0.005~0.050質量%、Als:0.015~0.035質量%、N:0.003~0.010質量%、Sn:0.03~0.30質量%、およびCu:0.01~0.50質量%を含む。微量元素の含有量を制御することにより(V:0.0100%未満、Ti:0.0100%未満、Sb+Bi+Nb+Mo:0.0025~0.0250%、および(Sb/121.8+Bi/209.0+Nb/92.9+Mo/95.9)/(Ti/47.9+V/50.9)=0.1~15)、スラブ中の粗大析出物の量を大幅に低下させることができ、スラブの加熱温度を100~150℃低下させることができる。冷間圧延スラブが窒化されていない場合、スラブの加熱温度は、1200~1330℃であり;冷間圧延シートが窒化されている場合、シートの加熱温度はさらに1050~1150℃に低下させることができる。
【発明の概要】
【0011】
概要
この開示の目的の1つは、高磁気誘導方向性ケイ素鋼を提供することである。ケイ素鋼の化学組成を設計することにより、二次抑制剤の量が確保され、一次抑制剤の析出形態がより微細でより分散し、一次粒子サイズがより均一であり、次いで一次粒子サイズと二次再結晶中の抑制剤との間の高水準の一致が達成された。結果として、最終的に得られた高磁気誘導ケイ素鋼の完成品は、鋭いゴス集合組織および優れた磁気特性を有し、製造コストをさらに低下させることができた。
【0012】
上記の目的を達成するために、本開示は、質量パーセントで以下の化学元素:
Si:2.0~4.0%;
C:0.03~0.07%;
Al:0.015~0.035%;
N:0.003~0.010%;
Nb:0.0010~0.0500%;並びに
Feおよび不可避の不純物である残部
を含む高磁気誘導方向性ケイ素鋼を提供する。
【0013】
先行技術において析出した粗いMnS+AlN複合介在物の分光分析を通して、本発明者らは、MnS+AlN複合介在物のサイズが0.5~3.0μmの範囲中にあることを見出した。しかしながら、単独で析出したAlNのサイズは、典型的には400nm未満である。すなわち、MnS+AlN複合介在物は、抑制剤の形態を調整することの困難さを大幅に増加させ、優れた磁気特性を得る助けとならないことがわかる。
【0014】
この発見に基づいて、本発明者らは、鋼組成を最適化した。AlNの析出条件を改善するためにAls、NおよびNb元素の含有量を制御することによって、AlNは、MnS析出物の代わりにNb(C、N)に優先的に付着し、MnS+AlN複合析出物の析出量が低下し、一次抑制剤としての微細なAlN分散体の析出が促進された。すなわち、磁気誘導B8>1.93Tを有する方向性ケイ素鋼を得ることができるように、磁気特性が改善された。スラブ中のS含有量の減少および一次抑制剤の形態の改善のため、抑制剤の形態調整および高温精製焼鈍などの引き続く工程の製造コストを明らかに低下させることができる。
【0015】
抑制剤は良好な熱安定性を有する微細な析出物を利用することに、注意すべきである。該技術分野においては、抑制剤は、硫化マンガン(MnS)、硫化銅(Cu2S)および窒化アルミニウム(AlN)を含み、SnおよびPなどのいくつかの偏析元素も、補助抑制剤として使用することができる。抑制剤を選択するとき、高い固溶体温度を有するMnSの影響は、できるだけ弱めるべきである。また、MnSおよびCu2Sと比較して、AlN析出物は、より微細であり、より良い抑制効果を有し、すなわちAlNは、主抑制剤として使用した。抑制剤は、取得元に従って一次抑制剤および二次抑制剤に細分することができる。一次抑制剤は、スラブ中の既存の析出物に由来し、ここで、これらの析出物は、製鋼および鋳造中に形成され、スラブ加熱中に部分的に溶解して圧延中に析出し、析出物の形態は、熱間圧延スラブを焼き鈍すことによって調整し、これは、一次再結晶に対して重要な影響を有し、すなわち最終製品の磁気特性に影響を与える。二次抑制剤は、主に脱炭素および焼鈍後の窒化処理に由来し、その間に窒素が鋼中の元のアルミニウムと結合して、AlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)Nなどの微細分散粒子を形成する。高温焼鈍中、二次抑制剤および一次抑制剤は共同で二次再結晶を促進する。一次粒子サイズによって決定される駆動力が抑制剤によって決定される抑制力と一致するとき、二次再結晶のゴス集合組織は鋭く、最終製品は優れた磁気特性を有した。
【0016】
また、高磁気誘導方向性ケイ素鋼の各化学元素の設計原理は、以下のとおりである。
Si:本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼においては、Siは、抵抗率を増加させ、鉄損を低下させることができる、方向性ケイ素鋼の基本元素である。Siの質量パーセントが2.0%未満の場合、抵抗率が下がり、方向性ケイ素鋼の渦電流損失が効果的に低下しない;しかしながら、Siの質量パーセントが4.0%超の場合、Siは、粒界に沿って偏析する傾向を有し、これは、鋼板の脆性を増加させ圧延性を劣化させるだけでなく、再結晶構造および抑制剤を不安定にし、不完全な二次再結晶をもたらす。上記の理由に基づいて、本開示の高磁気誘導方向性ケイ素鋼において定義されるSiの質量パーセントは、2.0~4.0%の範囲中である。
【0017】
C:本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼においては、C含有量は、適切な割合のγ相が熱間圧延プロセス中に得られることを確保するために、Si含有量と一致させるべきである。Cの質量パーセントが0.03%未満の場合、熱間圧延プロセスのγ相割合は低く、これは、相変化圧延による均一で微細な熱間圧延集合組織の形成の助けとならない;しかしながら、Cの質量パーセントが0.07%超の場合、脱炭素プロセス中に除去し難い粗い炭化物粒子が発生し、すなわち脱炭素効率を低下させ、脱炭素コストを増加させる。上記の理由に基づいて、本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼中のCの質量パーセントは、0.03%~0.07%の範囲中であると定義される。
【0018】
Als:本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼におけるAls(酸可溶性Al)の質量パーセントは、Alsが引き続く窒化処理において二次抑制剤を形成し得、二次抑制剤が一次抑制剤と共作用して二次再結晶を促進するのに十分なピンニング強さを形成するため、0.015~0.035%の範囲中であると定義される。Alsの質量パーセントが0.015%未満のとき、それは抑制剤の不十分なピンニング強さをもたらし、いくつかの不利な集合組織も二次再結晶を受け得、磁気特性の劣化または二次再結晶が何ら発生しなくなることさえもたらし;Alsの質量パーセントが0.035%超の場合、Alsの窒化物が粗くなり、抑制効果が減少することを考慮する。上記の理由に基づいて、Alsの質量パーセントは、本開示の技術的解決策において0.015から0.035%の範囲中であると定義される。
【0019】
N:本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼においては、Nの質量パーセントを0.0030%と0.0100%との間で制御することにより、一次抑制剤のピンニング強さが脱炭素および焼鈍温度と一致し、微細で均一な一次粒子サイズをもたらすように、適切な量の一次抑制剤AlNを、形成し得る。鋼中にNを添加する主な目的は、Nが一次抑制剤を形成する元素であるAlN等の形態で窒化物を形成するため、一次粒子サイズを安定的に制御することである。Nの質量パーセントが0.0030%未満の場合、一次抑制剤の量が不十分であり、これは、微細で均一な一次粒子サイズの形成の助けとならない;しかし、Nの質量パーセントが0.0100%を超えるとき、冷間圧延鋼板は、気泡のような欠陥の傾向があり、製鋼負荷が増加する。上記の理由に基づいて、本開示の技術的解決策においては、Nの質量パーセントは、0.003から0.010%の範囲中であると定義される。
【0020】
Nb:本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼において、Nbは、微細で均一な一次粒子サイズの形成を促進することができる粒子微細化のための効果的なマイクロアロイ元素であり、形成されたNb(C、N)はまた、補助抑制剤として作用し得、すなわち一次抑制剤の形態を調整することの困難さを低下させる。Nbの質量パーセントが0.0010%未満の場合、上記の効果を、効果的に発揮することができない;しかし、Nbの質量パーセントが0.0500%を超える場合、それは、再結晶に対して強い予防効果を示し、不完全な二次再結晶をもたらすであろう。従って、本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼においては、Nbの質量パーセントは、0.0010~0.0500%の範囲中であると定義される。
【0021】
さらに、本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼においては、鋼はさらに、以下の化学元素:Mn:0.05~0.20%、P:0.01~0.08%、Cr:0.05~0.40%、Sn:0.03~0.30%、およびCu:0.01~0.40%の少なくとも1つを含む。
【0022】
Mn:いくつかの好ましい実施態様においては、Siと同様に、Mnは、抵抗率を増加させ、渦電流損失を低下させることができるため、Mnを添加する。さらに、Mnはまた、熱間圧延の可塑性および構造を改善し、すなわち熱間圧延の圧延性を向上させる効果を有し、γ相ゾーンを拡大することができる。しかしながら、添加するMnの質量パーセントが0.05%未満の場合、上記の効果を、効果的に発揮することができない;一方、添加するMnの質量パーセントが0.20%超の場合、混合α-γ二相構造が発生し、焼鈍時に相変態応力およびγ相生成を引き起こし、不安定な二次再結晶をもたらす傾向がある。上記の理由に基づいて、いくつかの好ましい実施態様においては、添加するMnの質量パーセントは、好ましくは0.05%から0.20%の範囲中であるように設定する。
【0023】
P:いくつかの好ましい実施形態においては、Pは、補助抑制剤として作用する粒界偏析元素であるため、Pを添加する。約1000℃の高温でさえ、Pは依然として、AlNの早期酸化分解を遅らせることができ、二次再結晶の助けとなる、二次再結晶中の粒界偏析の効果を有する。しかしながら、添加するPの質量パーセントが0.01%未満の場合、上記の効果を、効果的に発揮することができない。Pはまた、抵抗率を大幅に増加させ、渦電流損失を低下させることができる。しかしながら、添加するPの質量パーセントが0.08%超の場合、窒化効率が減少するだけでなく、冷間圧延圧延性が劣化する。上記の理由に基づいて、いくつかの好ましい実施態様においては、添加するPの質量パーセントは、好ましくは0.01~0.08%の範囲中であるように設定する。
【0024】
Cr:いくつかの好ましい実施態様においては、Crの添加は、電気抵抗を増加させ、機械的特性を改善するのに有益であり、鋼板の酸化を促進することによって下層の品質を大幅に改善することができる。Crの効果を最大限に活用するために、添加するCrの質量パーセントは、0.05%超であり得るが、Crを0.40%超添加するとき、脱炭素プロセス中に高密度の酸化物層が形成され、脱炭素および窒化の効率に影響を及ぼすという結果になるであろうと仮定すると。上記の理由に基づいて、いくつかの好ましい実施態様においては、添加するCrの質量パーセントは、好ましくは0.05から0.40%の範囲中であるように設定する。
【0025】
Sn:いくつかの好ましい実施態様においては、Snは、Si含有量が増加した場合、または鋼帯の厚さが低下した場合等において、AIN析出物の粗大化によって引き起こされる抑制力の減少を補うことができる、二次抑制剤として作用する粒界偏析元素であるため、Snを添加する。Snは、プロセスウィンドウを拡大し、完成品の磁気特性の安定性を促進する。Snの質量パーセントが0.03%未満の場合、上記の効果を効率的に得ることができない;および、Snの質量パーセントが0.30%超の場合、脱炭素効率に影響を及ぼし、下層の品質が劣化し、磁気特性は改善されず、製造コストは増加するであろう。すなわち、いくつかの好ましい実施態様においては、Snの質量パーセントは、好ましくは0.03~0.30%の範囲中であると定義される。
【0026】
Cu:いくつかの好ましい実施態様においては、Mnと同様に、Cuは、γ相ゾーンを拡大して、微細なAlN析出物を得るのを助けることができるため、Cuを添加する。γ相ゾーンを拡大することに加えて、Cuは、Sと優先的に結合してMnよりもCu2Sを形成し、これは、高い固溶体温度でMnSの形成を抑制する効果を有する。添加するCuの質量パーセントが0.01%未満の場合、上記の効果を発揮することができない;しかし、添加するCuの質量パーセントが0.40%超である場合、製造コストが増加し、磁気特性は改善されないであろう。従って、いくつかの好ましい実施態様においては、Cuの質量パーセントは、好ましくは、0.01~0.40%の範囲中であるように設定する。
【0027】
さらに、本開示の高磁気誘導方向性ケイ素鋼においては、不可避の不純物の中で、Sは、0.0050%以下であり、Vは、0.0050%以下であり、Tiは、0.0050%以下である。
【0028】
S:本明細書中において記載される技術的解決策においては、SがMnSおよびCu2Sなどの析出物を形成するための元素であることを考慮し、MnSおよびCu2Sなどの適切な析出物が一次粒子サイズの変動を抑制するのに有利であると一般に考えられ、S含有量は、0.0050~0.0120%の範囲中であるように制御される。しかしながら、本発明者らは、広範な実験的研究を通して、スラブ中のS含有量を低下させることにより、一次粒子サイズの変動を抑制する効果がより良く、磁気特性が改善され、製造コストもさらに低下させることができることを発見した。すなわち、好ましくは、Sの質量パーセントは、0.0050%以下であると定義される。
【0029】
VおよびTi:VおよびTiは、鋼の一般的に使用されるマイクロアロイ元素である。Vの窒化処理後のVNの形成は、二次再結晶に影響を及ぼし、すなわち磁気特性の助けとならない。TiはTiNとして優先的に析出し、MnSはTiNに依存して析出し、次いでAlNはMnSに依存して析出するため、粗いMnS+AlN複合介在物を形成しやすく、これもまた、磁気特性の助けとならない。さらに、TiおよびVの含有量を低下させることにより、完成品におけるTiNおよびVNの有害な介在物もまた、低下させることができる。従って、本明細書において記載される技術的解決策においては、Tiの質量パーセントは、0.0050%以下であると定義され、Vの質量パーセントは、0.0050%以下であると定義される。
【0030】
さらに、本開示の高磁気誘導方向性ケイ素鋼は、鉄損P17/50≦0.28+2.5×シート厚さ[mm]W/kg、および磁気誘導B8≧1.93Tを有する。
【0031】
従って、本開示の別の目的は、上記の高磁気誘導方向性ケイ素鋼の製造方法を提供することであり、それにより、優れた磁気特性を有する高磁気誘導方向性ケイ素鋼を得ることができ、該製造方法は、低い製造コストを有する。
【0032】
上記の目的を達成するために、本開示は、
(1)製錬および鋳造;
(2)スラブの加熱;
(3)熱間圧延;
(4)冷間圧延;
(5)脱炭素および焼鈍;
(6)窒化処理;
(7)MgOコーティング適用;
(8)高温焼鈍;並びに
(9)絶縁コーティング、調質圧延および焼鈍
の工程を含み、
ここで、高磁気誘導方向性ケイ素鋼は、該製造方法によって得られ、14~22μmの平均一次粒子サイズおよび1.8より大きい一次粒子サイズ変動係数を有し、該一次粒子サイズ変動係数=
【0033】
【0034】
である、高磁気誘導方向性ケイ素鋼を製造するための方法を提供する。
【0035】
本開示の製造方法において、製鋼は、例えば、転炉または電気炉によって実施することができる。二次精錬および溶鋼の連続鋳造の後、スラブが得られる。得られたスラブは、加熱する。スラブ中の抑制剤の形態が改善され、MnSまたはCu2Sの固溶体が懸念ではないため、抑制剤の固溶体量を特に考慮することなく、スラブを加熱するための温度および時間がスムーズな熱間圧延を確保することができることで十分である。
【0036】
本開示の技術的解決策においては、一次粒子サイズがより均一であるように、一次抑制剤としてのAlNのサイズがより微細で、すなわち抑制剤のピンニング効果がより良好であり、これは、一次粒子サイズと抑制剤との間の高水準の一致を達成する助けとなり、最終製品の磁気特性を改善する。
【0037】
さらに、本明細書において記載される製造方法においては、工程(2)において、スラブについての加熱温度および加熱時間は、それぞれ1050~1250℃および300分未満である。
【0038】
いくつかの好ましい実施態様においては、スラブを加熱する温度は1050~1150℃であり、スラブを加熱する時間は200分未満であり、それにより、スラブ加熱の製造コストを効果的に低下させる。
【0039】
さらに、本明細書において記載される製造方法においては、工程(4)において、冷間圧延は、85%以上の圧下率を有する。
【0040】
さらに、本明細書において記載される製造方法においては、工程(5)において、脱炭素および焼鈍についての温度および時間は、それぞれ800~900℃および90~170秒である。
【0041】
さらに、本明細書において記載される製造方法においては、工程(6)において、浸透窒素含有量は、50から260ppmである。
【0042】
さらに、本明細書において記載される製造方法においては、工程(8)において、高温焼鈍についての温度および時間は、それぞれ1050~1250℃および15~40時間である。
【0043】
上記の技術的解決策は、以下の考慮事項に基づく:高温焼鈍についての温度が1050℃未満の場合、焼鈍時間を延長する必要があり、生産効率が低下し、製造コストが増加し、これは、製造コストを低下させる助けとならないであろう;しかしながら、高温焼鈍温度が1250℃超である場合、鋼コイルの欠陥が増加し、磁気特性を改善することはできず、設備寿命が低下するであろう。
【0044】
本製造方法によって得られる一次粒子サイズがより均一であるため、二次再結晶の温度を低下させることができ、S含有量が低いレベルで制御されるため、高温焼鈍についての温度は好ましくは1050~1200℃に制御し、高温焼鈍についての時間は15から20時間である。
【0045】
さらに、本実施態様のいずれか1つにおいて記載される製造方法において、該製造方法はまた、工程(3)と工程(4)との間に熱間圧延スラブ焼鈍工程を含み、ここで、熱間圧延スラブ焼鈍についての温度および時間は、それぞれ850~1150℃および30~200秒である。
【0046】
該技術的解決策においては、熱間圧延スラブ焼鈍工程は、工程(3)と工程(4)との間で提供され得、もちろん、いくつかの実施態様においては、熱間圧延スラブ焼鈍工程は、必要とされる磁気特性が高くない場合は提供されないこともあり得る。
【0047】
以下の考慮事項がなされた:熱間圧延スラブ焼鈍についての温度が850℃未満の場合、熱間圧延スラブの構造を調整することができず、AlN抑制剤の形態を効果的に調整できない;しかしながら、熱間圧延スラブ焼鈍についての温度が1150℃超の場合、焼鈍後の熱間圧延スラブの粒子は粗くなるであろう、そしてこれは、一次再結晶の助けとならない。また、熱間圧延スラブ焼鈍についての時間が30秒未満の場合、焼鈍時間が短すぎて、AlN抑制剤の形態および熱間圧延スラブの構造を効果的に調整できず、磁気特性を改善する効果を達成することができない;しかしながら、熱間圧延スラブ焼鈍についての時間が200秒超である場合、生産効率が低下するであろう、および磁気特性を改善することができまない。同様に、本開示においては、熱間圧延における粗いMnS+AlN複合介在物の数が低下し、すなわち、熱間圧延スラブ焼鈍プロセスによってAlN抑制剤の形態を調整することの困難さを低下させることができる。
【0048】
いくつかの好ましい実施態様においては、熱間圧延スラブ焼鈍についての温度は、好ましくは850~1100℃の範囲中であり、熱間圧延スラブ焼鈍についての時間は、好ましくは30~160秒の範囲中である。
【0049】
本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼およびそのための製造方法は、従来技術に比べて以下の利点(advantages)および利点(benefits)を有する。
【0050】
ケイ素鋼の化学組成の設計を通して、二次抑制剤の量が確保され、一次抑制剤の析出形態がより微細でより分散し、一次粒子サイズがより均一であり、次いで二次再結晶中の一次粒子サイズと抑制剤との間の高水準の一致が達成された。結果として、最終的に得られた高磁気誘導方向性ケイ素鋼の完成品は、鋭いゴス集合組織および優れた磁気特性を有し、製造コストをさらに低下させることができた。
【0051】
さらに、本明細書において記載される製造方法もまた、上記の利点(advantages)および利点(benefits)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】
図1は、従来技術で得られた粗いMnS+AlN複合介在物の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
詳細な説明
本明細書において記載される高磁気誘導方向性ケイ素鋼およびその製造方法は、添付の図面および特定の実施例を参照して、以下でさらに説明および記載される。しかしながら、本開示は、それらに限定されない。
【0054】
図1は、従来技術で得られた粗いMnS+AlN複合介在物の形態を示す。
【0055】
図1中に示すように、従来技術においては、析出した粗いMnS+AlN複合介在物のサイズは、0.5~3.0μmの間であった。分光学的結果によると、図中に示される位置1の元素は、主に元素Mn、S、およびTiであり、該図中に示される位置2、3、4、5、6、7、8、9および10の元素は、元素AlおよびNである。典型的には、別々に析出したAlNのサイズは、400nm未満である。すなわち、粗いMnS+AlN複合介在物は、抑制剤の形態を調整する困難さを大幅に増加させ得、これは、優れた磁気特性を得る助けとならないことが示唆される。
【0056】
以上の発見に基づいて、本発明者らは、AlNの析出条件を、AlNがMnS析出物の代わりにNb(C、N)に優先的に付着するように、Als、N、S、Ti、VおよびNbなどの元素の含有量を制御することによって改善することができると考える。従って、析出する粗いMnS+AlN複合介在物の量が低下し、一次抑制剤AlNの微細で分散した析出が促進され、磁気特性が改善される。すなわち、磁気誘導B8>1.93Tを有する方向性ケイ素鋼を得ることができる。スラブ中のS含有量の減少および一次抑制剤の形態の改善により、抑制剤の形態調整および高温精製焼鈍プロセスの製造コストを明らかに低下させることができる。
【0057】
試験方法
1.平均一次粒子サイズおよび一次粒子サイズの標準偏差
平均一次粒子サイズおよび平均一次粒子サイズの標準偏差は、以下のように決定した:一次粒子サイズの金属板を得た後、平均一次粒子サイズおよび平均一次粒子サイズの標準偏差を、面積法分析を通して得た。
【0058】
2.P17/50およびB8
P17/50およびB8は、国家標準GB/T 3655に従って、「電気鋼板(ストリップ)の磁気特性をエプスタインフレームで測定する方法」を使用して取得した。
【実施例】
【0059】
実施例A1~A11および比較例B1~B7
実施例A1~A11の高磁気誘導方向性ケイ素鋼および比較例B1~B7の比較ケイ素鋼は、表1に示す配合に従い、以下の工程に従って製造した:
【0060】
(1)製錬および鋳造:転炉または電気炉を用いて製錬し、スラブ中に連続的に鋳造する;
(2)スラブの加熱:スラブを1150℃以下で200分間加熱する;
(3)熱間圧延:スラブを2.3mmの厚さに熱間圧延する;
(4)焼鈍:熱間圧延スラブを1120℃の温度で170秒間焼鈍し、次いで冷却する;
(5)冷間圧延:87.4%の冷間圧延圧下率で0.29mmの完成品の厚さに冷間圧延する;
【0061】
(6)脱炭素および焼鈍:鋼スラブ中の[C]含有量を、810~880℃の脱炭素温度で90~170秒の脱炭素化時間の間、30ppm以下に減少させる;
(7)窒化処理:浸透窒素含有量を131~210ppmの範囲中に設定する;
(8)MgOコーティング適用:鋼スラブ上にMgOコーティングを適用する;
(9)高温焼鈍:1200℃の温度で25時間、100%H2の雰囲気下で高温精製焼鈍を実施する;並びに
(10)絶縁コーティング適用、調質圧延および焼鈍:巻き戻し後、絶縁コーティングを適用し、熱間延伸、調質圧延および焼鈍を実施し、高磁気誘導方向性ケイ素鋼を得る。
【0062】
表1は、実施例A1~A11の高磁気誘導方向性ケイ素鋼および比較例B1~B7の比較ケイ素鋼中の化学元素の質量パーセントをリストする。
【0063】
【0064】
表2は、実施例A1~A11および比較例B1~B7中に含まれる完成品の平均一次粒子サイズ、一次粒子サイズ変動係数並びに磁気特性、P17/50およびB8をリストする。
【0065】
【0066】
表1および2から分かるように、本実施例A1~A11の鋼板、特にいくつかの好ましい実施態様は、Als、N、S、V、TiおよびNbの元素組成、並びに適格な平均一次粒子サイズおよび一次粒子サイズ変動係数のため、より高い磁気誘導B8およびより低い鉄損失P17/50などの一般により良い磁気特性を示した。
【0067】
実施例A12~A14および比較例B8~B13
表3を参照し、実施例A12~A14の高磁気誘導方向性ケイ素鋼および比較例B8~B13の比較ケイ素鋼の特定の製造工程は、以下のとおりであった:
【0068】
(1)製錬および鋳造:転炉または電気炉を用いて製錬し、スラブ中に連続的に鋳造する;
(2)スラブの加熱:スラブを1150℃以下で210分間加熱する;
(3)熱間圧延:スラブを2.6mmの厚さに熱間圧延する;
(4)焼鈍:熱間圧延スラブを1120℃の温度で190秒間焼鈍し、次いで冷却する;
(5)冷間圧延:89.6%の冷間圧延圧下率で0.27mmの完成品の厚さに冷間圧延する;
【0069】
(6)脱炭素および焼鈍:表3において示す脱炭素温度および脱炭素時間に従って、鋼スラブ中の[C]含有量を30ppm以下に減少させる;
(7)窒化処理:浸透窒素含有量を138~173ppmの範囲中に設定する;
(8)MgOコーティング適用:鋼スラブ上にMgOコーティングを適用する;
(9)高温焼鈍:1200℃の温度で25時間、100%H2の雰囲気下で高温精製焼鈍を実施する;並びに
(10)絶縁コーティング適用、調質圧延および焼鈍:巻き戻し後、絶縁コーティングを適用し、熱間延伸、調質圧延および焼鈍を実施し、方向性ケイ素鋼の完成品を得る。
【0070】
例えば、表3における実施例A12の元素組成「表1-A1」については、実施例A12は表1における実施例A1と同じ化学元素組成で製錬を実施することを意味することに注意すべきである。他の実施例および比較例の元素組成は、類推によって推定することができ、ここでは繰り返さない。
【0071】
【0072】
表3からわかるように、脱炭素温度および脱炭素時間を調整することにより、実施例A12~A14の、適格な平均一次粒子サイズおよび一次粒子サイズ変動係数を有する高磁気誘導方向性ケイ素鋼は、より高い磁気誘導B8およびより低い鉄損失P17/50などの優れた磁気特性を達成した。
【0073】
実施例A15~A18および比較例B14~B17
表4を参照し、実施例A15~A18の高磁気誘導方向性ケイ素鋼および比較例B14~B17の比較ケイ素鋼の特定の製造工程は、以下のとおりであった:
【0074】
(1)製錬および鋳造:転炉または電気炉を用いて製錬し、スラブ中に連続的に鋳造する;
(2)スラブの加熱:表4において示すパラメーターに従ってスラブを加熱する;
(3)熱間圧延:スラブを2.4mmの厚さに熱間圧延する;
(4)焼鈍:熱間圧延スラブを1100℃の温度で150秒間焼鈍し、次いで冷却する;
(5)冷間圧延:87.9%の冷間圧延圧下率で0.29mmの完成品の厚さに冷間圧延する;
【0075】
(6)脱炭素および焼鈍:鋼スラブ中の[C]含有量を、840℃の脱炭素温度で150秒の脱炭素化時間の間、30ppm以下に減少させる;
(7)窒化処理:浸透窒素含有量を146~186ppmの範囲中に設定する;
(8)MgOコーティング適用:鋼スラブ上にMgOコーティングを適用する;
(9)高温焼鈍:1200℃の温度で20時間、100%H2の雰囲気下で高温精製焼鈍を実施する;並びに
(10)絶縁コーティング適用、調質圧延および焼鈍:巻き戻し後、絶縁コーティングを適用し、熱間延伸、調質圧延および焼鈍を実施し、方向性ケイ素鋼の完成品を得る。
【0076】
【0077】
表4から分かるように、実施例A15~A18の高磁気誘導方向性ケイ素鋼は、低下したスラブ加熱温度または低下したスラブ加熱時間でさえ、優れた磁気特性を示した。しかしながら、比較例B14~B17の比較ケイ素鋼の磁気特性は、使用される化学元素が本開示によって制限される範囲内でなかったため、スラブ温度が減少するかまたはスラブ加熱時間が短くなったとき、さまざまな程度で劣化した。
【0078】
実施例A19~A22および比較例B18~B21
表5を参照し、実施例A19~A22の高磁気誘導方向性ケイ素鋼および比較例B18~B21の比較ケイ素鋼の特定の製造工程は、以下のとおりであった:
【0079】
(1)製錬および鋳造:転炉または電気炉を用いて製錬し、スラブ中に連続的に鋳造する;
(2)スラブの加熱:スラブを1120℃以下で210分間加熱する;
(3)熱間圧延:スラブを2.5mmの厚さに熱間圧延する;
(4)焼鈍:表5において示す温度および時間に従って熱間圧延スラブを焼鈍し、次いで冷却する;
(5)冷間圧延:90.8%の冷間圧延圧下率で0.23mmの完成品の厚さに冷間圧延する;
【0080】
(6)脱炭素および焼鈍:鋼スラブ中の[C]含有量を、830℃の脱炭素温度で155秒の脱炭素化時間の間、30ppm以下に減少させる;
(7)窒化処理:浸透窒素含有量を133~182ppmの範囲中に設定する;
(8)MgOコーティング適用:鋼スラブ上にMgOコーティングを適用する;
(9)高温焼鈍:1210℃の温度で20時間、100%H2の雰囲気下で高温精製焼鈍を実施する;並びに
(10)絶縁コーティング適用、調質圧延および焼鈍:巻き戻し後、絶縁コーティングを適用し、熱間延伸、調質圧延および焼鈍を実施し、方向性ケイ素鋼の完成品を得る。
【0081】
【0082】
表5から、実施例A19~A22の高磁気誘導方向性ケイ素鋼は、熱間圧延スラブ加熱温度を低下させるかまたは熱間圧延スラブ加熱時間を短くしたときでさえ、優れた磁気特性を示したことがわかる。しかしながら、比較例B18~B21の比較ケイ素鋼の磁気特性は、熱間圧延スラブ加熱温度を低下させるかまたは熱間圧延スラブ加熱時間を短くしたとき、さまざまな程度で劣化した。
【0083】
実施例A23~A30および比較例B22~B33
表6を参照し、実施例A23~A30の高磁気誘導方向性ケイ素鋼および比較例B22~B33の比較ケイ素鋼の特定の製造工程は、以下のとおりであった:
【0084】
(1)製錬および鋳造:転炉または電気炉を用いて製錬し、スラブ中に連続的に鋳造する;
(2)スラブの加熱:スラブを1120℃以下で210分間加熱する;
(3)熱間圧延:スラブを2.6mmの厚さに熱間圧延する;
(4)焼鈍:熱間圧延スラブを1100℃の温度で160秒間焼鈍し、次いで冷却する;
(5)冷間圧延:91.2%の冷間圧延圧下率で0.23mmの完成品の厚さに冷間圧延する;
【0085】
(6)脱炭素および焼鈍:鋼スラブ中の[C]含有量を、835℃の脱炭素温度で155秒の脱炭素化時間の間、30ppm以下に減少させる;
(7)窒化処理:浸透窒素含有量を134~196ppmの範囲中に設定する;
(8)MgOコーティング適用:鋼スラブ上にMgOコーティングを適用する;
(9)高温焼鈍:表6において示す温度および時間に従って、100%H2の雰囲気下で高温精製焼鈍を実施する;並びに
(10)絶縁コーティング適用、調質圧延および焼鈍:巻き戻し後、絶縁コーティングを適用し、熱間延伸、調質圧延および焼鈍を実施し、方向性ケイ素鋼の完成品を得る。
【0086】
【0087】
【0088】
表6からわかるように、実施例A23~A30の高磁気誘導方向性ケイ素鋼については、高温精製焼鈍温度を低下させるかまたは高温精製焼鈍時間を短くしても、完成品における残留S含有量は10ppm未満であり、磁気特性における有意差は何らなかった。しかしながら、比較例B22~B33の比較ケイ素鋼の磁気特性は、高温精製焼鈍温度を低下させるかまたは精製焼鈍時間を短くしたとき、さまざまな程度で劣化し、完成品中の残留S含有量は、比較的より高かった。
【0089】
実施例A31~A33および比較例B34~B37
表7を参照し、実施例A31~A33の高磁気誘導方向性ケイ素鋼および比較例B34~B37の比較ケイ素鋼の特定の製造工程は、以下のとおりであった:
【0090】
(1)製錬および鋳造:転炉または電気炉を用いて製錬し、スラブ中に連続的に鋳造する;
(2)スラブの加熱:スラブを1100℃以下で180分間加熱する;
(3)熱間圧延:スラブを2.3mmの厚さに熱間圧延する;
(4)冷間圧延:87.0%の冷間圧延圧下率で0.30mmの完成品の厚さに冷間圧延する;
(5)脱炭素および焼鈍:表7において示すプロセスパラメーターに従って脱炭素および焼鈍を実施して、鋼スラブ中の[C]含有量を30ppm以下に減少させる。
【0091】
(6)窒化処理:浸透窒素含有量を131~192ppmの範囲中に設定する;
(7)MgOコーティング適用:鋼スラブ上にMgOコーティングを適用する;
(8)高温焼鈍:1200℃の温度で20時間、100%H2の雰囲気下で高温精製焼鈍を実施する;並びに
(9)絶縁コーティング適用、調質圧延および焼鈍:巻き戻し後、絶縁コーティングを適用し、熱間延伸、調質圧延および焼鈍を実施し、方向性ケイ素鋼の完成品を得る。
【0092】
【0093】
表7からわかるように、実施例A31~A33については、熱間圧延スラブ焼鈍を実施しなくても、平均一次粒子サイズを調整することにより、高磁気誘導方向性ケイ素鋼がまた得られた。対照的に、熱間圧延スラブ焼鈍なしの比較例B34~B37の比較ケイ素鋼については、一次抑制剤の弱い抑制力のため、一次粒子サイズは均一でなく、磁気特性は不十分であった。
【0094】
上記の実施例においては、一次粒子サイズ変動係数=
【0095】
【0096】
であることに注意すべきである。
【0097】
上記から分かるように、本開示の高磁気誘導方向性ケイ素鋼については、ケイ素鋼の化学組成を設計することにより、二次抑制剤の量が確保され、一次抑制剤の析出形態はより微細でより分散しており、一次粒子サイズはより均一であり、次いで二次再結晶中の平均一次粒子サイズと抑制剤との間の高水準の一致が達成された。結果として、最終的に得られる高磁気誘導方向性ケイ素鋼の完成品は、鋭いゴス集合組織および優れた磁気特性を有し、製造コストをさらに低下させることができた。
【0098】
また、本開示の製造方法もまた、上記のような利点および有益な効果を示した。
【0099】
本開示の保護範囲の先行技術の部分については、それは、この出願文書において与えられる実施例に限定されないことに注意すべきである。先行特許文書、先行公開、先行公用等を含むがこれらに限定されない、本開示と矛盾しない全ての先行技術は、本開示の保護範囲中に含めることができる。
【0100】
また、本開示におけるさまざまな技術的特徴の組合せは、特許請求の範囲中に記載された組合せまたは特定の実施態様において記載された組合せに限定されない。本開示において記載される全ての技術的特徴は、それらの間に矛盾がない限り、自由に組み合わせることができるかまたは任意の方法で組み合わせることができる。
【0101】
上記の実施例は、本開示の特定の実施態様にすぎないことにも注意すべきである。明らかに、本開示は、上記の実施態様に限定されず、当業者によって本開示から直接導き出されるまたは容易に想像される同様の変形または修正は、本開示の範囲内に入るべきである。