(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池の製造方法、リチウム二次電池、ホスファゼン化合物、及び電池用添加剤
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240314BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240314BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240314BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240314BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240314BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/058
(21)【出願番号】P 2022512598
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013723
(87)【国際公開番号】W WO2021201054
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020064371
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 悠
(72)【発明者】
【氏名】杉原 裕理
(72)【発明者】
【氏名】林 貴臣
(72)【発明者】
【氏名】田中 咲里
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-501434(JP,A)
【文献】特開2006-036709(JP,A)
【文献】特開平10-077289(JP,A)
【文献】特開2002-003427(JP,A)
【文献】特開2004-107266(JP,A)
【文献】特開2008-031348(JP,A)
【文献】特開2017-120370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物(A)を含有する電池用非水電解液。
【化1】
(式(1)中、Z
-は、
PF
6
-
、SO
3
CF
3
-
、BF
4
-
、ClO
4
-
、PO
2
F
2
-
、下記(TFSI
-
)、下記(FSI
-
)、下記(FOB
-
)、下記(BOB
-
)、又は下記(CA
-
)であり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y
-及びZ
-は、それぞれ独立に、
PF
6
-
、SO
3
CF
3
-
、BF
4
-
、ClO
4
-
、PO
2
F
2
-
、下記(TFSI
-
)、下記(FSI
-
)、下記(FOB
-
)、下記(BOB
-
)、又は下記(CA
-
)であり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。)
【化2】
【請求項2】
前記式(1)中、24個のRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよく、
前記式(2)中、24個のRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい請求項1に記載の電池用非水電解液。
【請求項3】
前記式(1)中、Rは全てメチル基またはエチル基であり、24個のRのうち同一窒素原子に結合する2個のRが互いに結合していてもよく、
前記式(2)中、Rは全てメチル基またはエチル基であり、24個のRのうち同一窒素原子に結合する2個のRが互いに結合していてもよい請求項1に記載の電池用非水電解液。
【請求項4】
前記ホスファゼン化合物(A)の含有量が、電池用非水電解液の全量に対し、0.1質量%~2.0質量%である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項5】
更に、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する請求項1~
請求項4のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項6】
下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物(A)と、
不飽和結合を有する環状炭酸エステルと、
を含有する電池用非水電解液。
【化3】
(式(1)中、Z
-
は、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y
-
及びZ
-
は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。)
【請求項7】
前記不飽和結合を有する環状炭酸エステルがビニレンカーボネートである
請求項5又は請求項6記載の電池用非水電解液。
【請求項8】
前記ホスファゼン化合物(A)の含有質量に対する前記不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有質量の比が、0.05~30の範囲にある
請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
【請求項9】
ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液が、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の電池用非水電解液であるリチウム二次電池前駆体。
【請求項10】
ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液が、電池用非水電解液であり、
前記電池用非水電解液が、下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物(A)を含有する、リチウム二次電池前駆体。
【化4】
(式(1)中、Z
-は、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y
-及びZ
-は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。)
【請求項11】
前記正極が、正極活物質として、下記一般式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物を含む
請求項9又は請求項10に記載のリチウム二次電池前駆体。
LiNiaCobMncO
2 … 一般式(C1)
〔一般式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
【請求項12】
請求項9~請求項11のいずれか1項に記載のリチウム二次電池前駆体を準備する工程と、
前記リチウム二次電池前駆体に対して活性化処理を施すことにより、リチウム二次電池を得る工程と、
を含み、
前記活性化処理は、前記リチウム二次電池前駆体に対し、15℃~70℃の環境下で、充電及び放電の少なくとも一方を施すことを含むリチウム二次電池の製造方法。
【請求項13】
請求項9~請求項11のいずれか1項に記載のリチウム二次電池前駆体を充放電させて得られたリチウム二次電池。
【請求項14】
下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物。
【化5】
(式(1)中、Z
-は、
PO
2
F
2
-
であり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y
-及びZ
-は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。)
【請求項15】
下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物(A)を含む、電池用添加剤。
【化6】
(式(1)中、Z
-は、
PF
6
-
、SO
3
CF
3
-
、BF
4
-
、ClO
4
-
、PO
2
F
2
-
、下記(TFSI
-
)、下記(FSI
-
)、下記(FOB
-
)、下記(BOB
-
)、又は下記(CA
-
)であり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y
-及びZ
-は、それぞれ独立に、
PF
6
-
、SO
3
CF
3
-
、BF
4
-
、ClO
4
-
、PO
2
F
2
-
、下記(TFSI
-
)、下記(FSI
-
)、下記(FOB
-
)、下記(BOB
-
)、又は下記(CA
-
)であり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。)
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池の製造方法、リチウム二次電池、ホスファゼン化合物、及び電池用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液を用いた電池(例えば、リチウム二次電池)の性能を改善するために、非水電解液に対し、種々の添加剤を含有させることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、高い難燃性を有する非水電池用電解液として、非水溶媒に、(NPR2)nで表される環状ホスファゼン化合物を含む添加剤を含有する非水電池用電解液が記載されている(ただし、Rは、それぞれ独立してハロゲン元素、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表し、nは、3又は4を表す。)。
また、特許文献2には、短絡などの異常時にも破裂、発火等の危険性がなく、かつ優れた電池性能を示す非水電解質電池として、正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極と、リチウムイオンを含む非水電解質とを具備してなる非水電解質電池において、電解質として、25℃の粘度が300cP以下のホスファゼン誘導体にリチウム塩を溶解した溶液を使用した非水電解質電池が記載されている。
【0004】
特許文献1:特開2009-129541号公報
特許文献2:特開平6-13108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様の課題は、内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇を抑制できる、電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池の製造方法、ホスファゼン化合物、及び電池用添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物(A)を含有する電池用非水電解液。
【0007】
【0008】
式(1)中、Z-は、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y-及びZ-は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
<2> 前記式(1)中、24個のRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよく、
前記式(2)中、24個のRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい<1>に記載の電池用非水電解液。
<3> 前記式(1)中、Rは全てメチル基またはエチル基であり、24個のRのうち同一窒素原子に結合する2個のRが互いに結合していてもよく、
前記式(2)中、Rは全てメチル基またはエチル基であり、24個のRのうち同一窒素原子に結合する2個のRが互いに結合していてもよい<1>に記載の電池用非水電解液。
<4> 前記ホスファゼン化合物(A)の含有量が、電池用非水電解液の全量に対し、0.1質量%~2.0質量%である<1>に記載の電池用非水電解液。
<5> 前記式(1)中、Z-は、PF6
-、SO3CF3
-、BF4
-、ClO4
-、PO2F2
-、下記(TFSI-)、下記(FSI-)、下記(FOB-)、下記(BOB-)、又は下記(CA-)であり、
式(2)中、Y-及びZ-は、それぞれ独立に、PF6
-、SO3CF3
-、BF4
-、ClO4
-、PO2F2
-、下記(TFSI-)、下記(FSI-)、下記(FOB-)、下記(BOB-)、又は下記(CA-)である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の電池用非水電解液。
【0009】
【0010】
<6> 更に、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する<1>~<5>のいずれか1項に記載の電池用非水電解液。
<7> 前記不飽和結合を有する環状炭酸エステルがビニレンカーボネートである<6>記載の電池用非水電解液。
<8> 前記ホスファゼン化合物(A)の含有質量に対する前記不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有質量の比が、0.05~30の範囲にある<6>または<7>に記載の電池用非水電解液。
<9> ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液が、<1>~<8>のいずれか1つに記載の電池用非水電解液であるリチウム二次電池前駆体。
<10> 前記正極が、正極活物質として、下記一般式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物を含む<9>に記載のリチウム二次電池前駆体。
LiNiaCobMncO2 … 一般式(C1)
〔一般式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
<11> <9>又は<10>に記載のリチウム二次電池前駆体を準備する工程と、
前記リチウム二次電池前駆体に対して活性化処理を施すことにより、リチウム二次電池を得る工程と、
を含み、
前記活性化処理は、前記リチウム二次電池前駆体に対し、15℃~70℃の環境下で、充電及び放電の少なくとも一方を施すことを含むリチウム二次電池の製造方法。
<12> <9>又は<10>に記載のリチウム二次電池前駆体を充放電させて得られたリチウム二次電池。
<13> 下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物。
【0011】
【0012】
(式(1)中、Z-は、無機酸(但し、塩化水素、ヘキサフルオロリン酸、(TFSI-)、及び(FSI-)を除く。)または活性水素化合物(但し、水、蟻酸、及び酢酸を除く。)からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y-及びZ-は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。)
<14> 前記式(1)中、Z-は、PO2F2
-である、<13>に記載のホスファゼン化合物。
<15> 下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物(A)を含む、電池用添加剤。
【0013】
【0014】
(式(1)中、Z-は、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y-及びZ-は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。)
【発明の効果】
【0015】
本開示の一態様によれば、内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇を抑制できる、電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池の製造方法、ホスファゼン化合物、及び電池用添加剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の一実施形態のリチウム二次電池前駆体の一例を示す概略断面図である。
【
図2】実施例のテトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムジフルオロホスフェイトの合成において、白色乾燥固体の
31P-NMRの測定チャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0018】
〔ホスファゼン化合物(A)〕
本開示の電池用非水電解液に含有されるホスファゼン化合物(A)は、下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含む。
【0019】
【0020】
式(1)中、Z-は、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y-及びZ-は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
【0021】
上記の無機酸を具体的に例示すれば、例えば、ハロゲン化水素(例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、ブロモホルム等)、硫酸、過塩素酸、リン酸化合物(例えば、ヘキサフルオロリン酸等)、ホウ酸化合物(例えば、テトラフルオロホウ酸等)、シアン化水素、チオシアン酸、アジ化水素等が挙げられる。
【0022】
上記の活性水素化合物としては、プロトンを除いたアニオンを与えることができるものであれば制限はなく、例えば、炭素原子に活性水素原子が結合している化合物、酸素原子に活性水素原子が結合している化合物、窒素原子に活性水素原子が結合している化合物、硫黄原子に活性水素原子が結合している化合物が挙げられる。
【0023】
炭素原子に活性水素原子が結合している化合物としては、水素原子を少なくとも1つ有する炭素原子に、例えば、シアノ基、ニトロ基、フェニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルケニル基、アルキニル基が結合する化合物、または活性水素原子が直接、アルケニル基またはアルキニル基に結合した化合物が挙げられる。
【0024】
炭素原子に活性水素原子が結合している化合物の具体的な例としては、例えば、アセトニトリル、n-バレロニトリル、n-ブチロニトリル、アジポニトリル、マロノニトリル、フェニルアセトニトリル、コハク酸ニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、4-メチルベンジルシアニド、2-ニトロフェニルアセトニトリル、4-メトキシフェニルアセトニトリル、グルタロニトリル、3-フェニルプロピオニトリル、シクロペンテニルアセトニトリル、イソプロピリデンマロノニトリル、ベンゾイルアセトニトリル、ピバロイルアセトニトリル等のシアノ基を有する化合物;酢酸メチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸2-メトキシエチル、酢酸tert-ブチル、酢酸フェニル、n-酪酸エチル、プロピオン酸エチル、酢酸ベンジル、酢酸n-アミル、無水酢酸、イソ吉草酸エチル、レブリン酸メチル、酢酸2-メチルシクロヘキシル等のアルコキシカルボニル基を有する化合物;ニトロエタン、1-ニトロプロパン、1-ニトロブタン、4-ニトロ酪酸メチル、ニトロ酢酸メチル、ニトロシクロペンタン、ジニトロメタン、1,1-ジニトロエタン等のニトロ基を有する化合物;2-ブタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4,4-ジメチル-2-ペンタノン、メトキシアセトン、シクロヘキシルメチルケトン、アセトフェノン、ベンジルアセトン、アセチルアセトン、1-ベンゾイルアセトン、1,3-シクロペンタンジオン、1,3-シクロヘキサンジオン、ジベンゾイルメタン、アントロン、1,3-インダンジオン、3,5-ヘプタンジオン等のアシル基を有する化合物;2,4-ジメチル-2-ペンテン、2-メチル-1-フェニルプロペン、1-メチル-1-シクロペンテン、6,6-ジメチルフルベン、1,2,3,4,5-ペンタメチルシクロペンタジエン、1,3,5,5-テトラメチル-1,3-シクロヘキサジエン等のアルケニル基を有する化合物;1-ブチン、2-ブチン、1-フェニル-1-プロピン、2-ペンチン、メチルプロパギルエーテル、4-メチル-2-ペンチン、2,4-ヘキサジイン、2-ブチニルアセテート、アセチレン等のアルキニル基を有する化合物;ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キサンテン、9,10-ジヒドロアントラセン、フルオレン、2,7-ジニトロフルオレン、4,4’-ジフルオロジフェニルメタン、4-ベンジルビフェニル、4-ニトロジフェニルメタン、4,4’-ジニトロジフェニルメタン等のフェニル基を有する化合物;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジ-n-ブチル、マロン酸ジ-tert-ブチル、マロン酸ベンジルメチル等のマロン酸エステル類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸n-ブチル、アセト酢酸sec-ブチル等のアセト酢酸エステル類;シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、シアノ酢酸n-ブチル、シアノ酢酸イソブチル、シアノ酢酸tert-ブチル、シアノ酢酸2-エチルへキシルまたはシアノ酢酸ベンジル等のシアノ酢酸エステル類が挙げられる。
【0025】
酸素原子に活性水素原子が結合している化合物としては、例えば、水、カルボニル基の炭素原子を含む全炭素数1~20のカルボン酸類、カルボニル基の炭素原子を含む全炭素数2~20のカルバミン酸類、炭素数1~20のスルホン酸類、炭素数1~20のアルコール類、糖類またはその誘導体、炭素数6~20の水酸基を有する芳香族化合物類、およびポリアルキレンオキシド類等が挙げられる。
【0026】
カルボニル基の炭素原子を含む全炭素数1~20のカルボン酸類としては、例えば、蟻酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、フェニル酢酸、ジヒドロ桂皮酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、2-カルボキシナフタレン等のモノカルボン酸類;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、ブタンテトラカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸類が挙げられる。
【0027】
カルボニル基の炭素原子を含む全炭素数2~20のカルバミン酸類としては、例えば、N,N-ジエチルカルバミン酸、N-カルボキシピロリドン、N-カルボキシアニリンまたはN,N’-ジカルボキシ-2,4-トルエンジアミン等が挙げられる。
【0028】
炭素数1~20のスルホン酸類としては、例えば、フルオロスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、4-エチルベンゼンスルホン酸、ピクリルスルホン酸、4-ニトロベンゼンスルホン酸、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸、2-モルホリノエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4,4’-ビフェニルジスルホン酸、4-ニトロトルエン-2-スルホン酸または3-ピリジンスルホン酸等が挙げられる。
【0029】
炭素数1~20のアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-オクチルアルコール、ラウリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、1-フェニルエチルアルコール、トリフェニルカルビノール、シンナミルアルコール等の1価のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトール等の多価アルコール類が挙げられる。
【0030】
糖類またはその誘導体としては、例えば、グルコース、ソルビトール、デキストロース、フラクトースまたはシュクロース等が挙げられる。
【0031】
炭素数6~20の水酸基を有する芳香族化合物類としては、例えば、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1-ナフトール、2-ナフトール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,4,6-トリメチルフェノール、4-ニトロフェノール、4-メトキシフェノール、アンスラロビン、9-フェナンスロール、1-ヒドロキシピレンまたはビスフェノールA等が挙げられる。
【0032】
ポリアルキレンオキシド類としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドまたはそれらのコポリマー等が挙げられる。
【0033】
窒素原子に活性水素原子が結合している化合物としては、炭素数1~20の脂肪族一級アミン類、炭素数6~20の芳香族一級アミン類、全炭素数2~20の脂肪族二級アミン類、全炭素数6~20の芳香族二級アミン類、全炭素数2~20の一級もしくは二級アミノ基を有する多価アミン類、全炭素数4~20の飽和または不飽和の環状二級アミン類、全炭素数4~20の二級アミノ基を含む環状多価アミン類、一級または二級アミンから得られるカルボニル基の炭素原子を含む全炭素数2~20の酸アミド類、5~7員環の環状アミド類、カルボニル基の炭素原子を含む全炭素数4~10のジカルボン酸のイミド類等が挙げられる。
【0034】
炭素数1~20の脂肪族一級アミン類としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミンまたはシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0035】
炭素数6~20の芳香族一級アミン類としては、例えば、ベンジルアミン、β-フェニルエチルアミン、アニリン、o-トルイジン、m-トルイジンまたはp-トルイジン等が挙げられる。
【0036】
全炭素数2~20の脂肪族二級アミン類としては、例えば、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、エチル-n-ブチルアミン、メチル-sec-ブチルアミン、ジペンチルアミンまたはジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0037】
全炭素数6~20の芳香族二級アミン類としては、例えば、N-メチルアニリンまたはジフェニルアミン等が挙げられる。
【0038】
全炭素数2~20の一級もしくは二級アミノ基を有する多価アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、ジ(2-アミノエチル)アミン、ヘキサメチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、トリ(2-アミノエチル)アミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミンまたはジ(2-メチルアミノエチル)アミン等が挙げられる。
【0039】
全炭素数4~20の飽和または不飽和の環状二級アミン類としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン、3-ピロリン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ピラゾールまたはプリンが挙げられる。
【0040】
全炭素数4~20の二級アミノ基を含む環状多価アミン類としては、例えば、ピペラジン、ピラジンまたは1,4,7-トリアザシクロノナン等が挙げられる。
【0041】
一級または二級アミンから得られるカルボニル基の炭素原子を含む全炭素数2~20の酸アミド類としては、例えば、アセトアミド、プロピオンアミド、N-メチルプロピオンアミド、N-メチル安息香酸アミドまたはN-エチルステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0042】
5~7員環の環状アミド類としては、例えば、2-ピロリドンまたはε-カプロラクタム等が挙げられる。
【0043】
カルボニル基の炭素原子を含む全炭素数4~10のジカルボン酸のイミド類としては、例えば、コハク酸イミド、マレイン酸イミドまたはフタルイミド等が挙げられる。
【0044】
硫黄原子に活性水素原子が結合している化合物としては、炭素数1~10の一価のチオール類、炭素数1~10の多価チオール類、炭素数1~10の芳香族メルカプト化合物類等が挙げられる。
【0045】
炭素数1~10の一価のチオール類としては、例えば、メタンチオール、エタンチオール、n-ブタンチオール、tert-ブタンチオール、ヘキサンチオール、デカンチオール、シクロペンチルメルカプタンまたはシクロヘキシルメルカプタン等が挙げられる。
【0046】
炭素数1~10の多価チオール類としては、例えば、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,2,3-プロパントリチオールまたは2,3,-ジ(メルカプトメチル)-1,4-ブタンジチオール等が挙げられる。
【0047】
炭素数1~10の芳香族メルカプト化合物類としては、例えば、チオフェノール、o-チオクレゾール、チオナフトールまたは1,2-ベンゼンジチオール等が挙げられる。
【0048】
式(1)中、Z-は、PF6
-、SO3CF3
-、BF4
-、ClO4
-、PO2F2
-、下記(TFSI-)、下記(FSI-)、下記(FOB-)、下記(BOB-)、又は下記(CA-)であることが好ましい。
式(2)中、Y-及びZ-は、それぞれ独立に、PF6
-、SO3CF3
-、BF4
-、ClO4
-、PO2F2
-、下記(TFSI-)、下記(FSI-)、下記(FOB-)、下記(BOB-)、又は下記(CA-)であることが好ましい。
【0049】
【0050】
式(1)中、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
【0051】
炭素数1~10の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-ブテニル基、1-ペンチル基、2-メチル-1-ブチル基、tert-ペンチル基、3-メチル-2-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、4-メチル-2-ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-オクチル基、2-オクチル基、2-エチル-1-ヘキシル基、1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル(通称、tert-オクチル)基、フェニル基、4-トルイル基、ベンジル基、1-フェニルエチル基または2-フェニルエチル基等の脂肪族または芳香族の炭化水素基が挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基もしくは1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル基は好ましく、メチル基はより好ましい。
【0052】
式(1)又は式(2)において、同一窒素原子上の2個のRが互いに結合して環構造を形成する場合、該環は、主鎖が炭素数4~6の2価の直鎖状炭化水素基および該炭化水素基が結合する窒素原子とともに形成されているのが好ましく(環は窒素原子を含んだ5員環~7員環となる)、該炭化水素基はテトラメチレン基、ペンタメチレン基またはヘキサメチレン基またはそれらの主鎖にメチル基またはエチル基等のアルキル基が置換しているものが好ましい。これらのなかでも、テトラメチレン基またはペンタメチレン基はより好ましい。
【0053】
式(1)又は式(2)中の窒素原子に2個のRが結合している基は、その一部または全ての基が同一窒素原子に結合している2個のRが互いに結合して環を形成していてもよい。同一窒素原子に2個のRが結合している基の一部が環を形成している場合、環を形成しないその他の同一窒素原子に2個のRが結合している基に結合している2個のRは、前記のRが単独で炭化水素基を表す場合に例示した基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0054】
式(1)中、24個のRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、24個のRは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
【0055】
式(1)中、Rは全てメチル基またはエチル基であることがより好ましく、24個のRのうち同一窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Rは全てメチル基またはエチル基であることがより好ましく、24個のRのうち同一窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
【0056】
例えば、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する態様とは、上記2つのRが一体となって、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等を形成する態様が挙げられる。
【0057】
式(1)又は式(2)で表される化合物に属する化合物は、単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
式(1)又は式(2)で表される化合物は、特開平10-77289号公報に記載の方法または類似の方法で合成することができる。
【0059】
本開示の電池用非水電解液に含有されるホスファゼン化合物(A)の用途としては、電池用添加剤(好ましくはリチウム二次電池用添加剤、より好ましくリチウム二次電池の非水電解液用の添加剤)、反応試剤、合成反応触媒、各種電気化学デバイス用電解質、ドーピング剤、潤滑油の添加剤などが挙げられる。
【0060】
本開示の電池用非水電解液に含有されるホスファゼン化合物(A)は、特にリチウム二次電池の非水電解液用の添加剤として好適である。
【0061】
〔電池用非水電解液〕
本開示の一実施形態に係る電池用非水電解液(以下、単に「本実施形態の非水電解液」ともいう)は、
リチウム塩である電解質と、
非水溶媒と、
上述したホスファゼン化合物(A)と、
を含有する。
【0062】
換言すると、本実施形態の非水電解液は、
リチウム塩である電解質と、
非水溶媒と、
第1イオン群及び第2イオン群の少なくとも一方と
を含有する。
第1イオン群は、下記式(PZN+)で表されるカチオン及び(Z-)で表されるアニオンからなる。
第2イオン群は、下記式(PZN2+)で表されるカチオン、(Y-)で表されるアニオン、及び(Z-)で表されるアニオンからなる。
【0063】
【0064】
本実施形態の非水電解液によれば、内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇を抑制することができる。
【0065】
本実施形態の非水電解液(以下、単に「非水電解液」ともいう)は、ホスファゼン化合物(A)を含む。
本実施形態の非水電解液は、ホスファゼン化合物(A)を含有することにより、内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇を抑制できる。
【0066】
上記効果が奏される理由は、以下のように推測される。ただし、本実施形態の非水電解液は、以下の理由によって限定されることはない。
【0067】
本実施形態の非水電解液を含むリチウム二次電池において、電池外部から持ち込まれた金属異物または電池内部の金属析出物等による金属が電池内部の正極と負極の両極と接触して内部短絡が生じた場合、非水電解液に含まれるホスファゼン化合物(A)のカチオン性分子が金属表面に吸着し、金属に被膜を形成する。この被膜が形成されることにより、金属異物または金属析出物と正極と負極との接触面の電子抵抗を増加させ、短絡時初期の発熱をともなう短絡放電が抑制される。その結果、内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇が抑制されると考えられる。
【0068】
以上の理由により、本実施形態の非水電解液によれば、内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇を抑制することができると考えられる。
【0069】
本実施形態の非水電解液は、式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物のうち、いずれか一方を1種のみ含有していてもよいし、いずれか一方を2種以上含有していてもよいし、双方を合計で少なくとも2種以上含有していてもよい。
【0070】
本実施形態の非水電解液におけるホスファゼン化合物(A)の含有量は、特に制限されないが、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~5.0質量%である。
非水電解液の全量に対するホスファゼン化合物(A)の含有量が0.1質量%以上である場合には、本実施形態の非水電解液による効果がより効果的に奏される。非水電解液の全量に対するホスファゼン化合物(A)の含有量は、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上である。
非水電解液の全量に対するホスファゼン化合物(A)の含有量が5.0質量%以下である場合には、非水電解液の化学的安定性がより向上する。
非水電解液の全量に対するホスファゼン化合物(A)の含有量は、より好ましくは3.0質量%以下であり、更に好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下である。
【0071】
なお、実際に電池を解体して採取した非水電解液を分析しても、上記ホスファゼン化合物(A)の量が、非水電解液への添加量と比較して減少している場合がある。従って、電池から取り出した非水電解液中に少量でも上記ホスファゼン化合物(A)が検出できる場合には、本実施形態の非水電解液の範囲に含まれる。
また、非水電解液から上記ホスファゼン化合物(A)が検出できない場合であっても、非水電解液中や電極の被膜中に、上記ホスファゼン化合物(A)の分解物由来の化合物が検出される場合も、本実施形態の非水電解液の範囲に含まれるとみなされる。
これらの取り扱いは、非水電解液に含有され得る上記ホスファゼン化合物(A)以外の化合物についても同様である。
【0072】
<電解質>
本実施形態の非水電解液は、リチウム塩である電解質を少なくとも1種含有する。
電解質としては、例えば;
六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li2B10Cl10)等の無機酸陰イオン塩;
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CF3SO2)2N)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Li(FSO2)2N)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(C2F5SO2)2N)等の有機酸陰イオン塩;
等が挙げられる。
リチウム塩としては、LiPF6が特に好ましい。
【0073】
本実施形態の非水電解液に含有される電解質全体に占める、リチウム塩の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0074】
本実施形態の非水電解液に含有される電解質全体に占める、LiPF6の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0075】
本実施形態の非水電解液における電解質の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3.0mol/Lであり、より好ましくは0.5mol/L~2.0mol/Lである。
【0076】
本実施形態の非水電解液におけるLiPF6の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3.0mol/Lであり、より好ましくは0.5mol/L~2.0mol/Lである。
【0077】
<非水溶媒>
本実施形態の非水電解液は、非水溶媒を少なくとも1種含有する。
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、含フッ素γ-ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類、含フッ素鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類、ラクタム類、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド燐酸、等が挙げられる。
【0078】
環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、等が挙げられる。
含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、等が挙げられる。
鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酪酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、トリメチル酪酸エチル、等が挙げられる。
γ-ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、等が挙げられる。
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、等が挙げられる。
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、等が挙げられる。
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、等が挙げられる。
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、等が挙げられる。
ラクタム類としては、例えば、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N'-ジメチルイミダゾリジノン、等が挙げられる。
【0079】
非水溶媒は、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類の合計の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0080】
また、非水溶媒は、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類の合計の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0081】
本実施形態の非水電解液中に占める非水溶媒の割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。
本実施形態の非水電解液中に占める非水溶媒の割合の上限は、他の成分(ホスファゼン化合物(A)、電解質、等)の含有量にもよるが、上限は、例えば、99質量%であり、好ましくは97質量%であり、更に好ましくは90質量%である。
【0082】
非水溶媒の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において10.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0083】
<不飽和結合を有する環状炭酸エステル>
本実施形態の非水電解液は、非水電解液の化学的安定性をより向上させる観点から、不飽和結合を有する環状炭酸エステルの少なくとも1種を含有していてもよい。
【0084】
不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、ビニレンカーボネート系化合物、ビニルエチレンカーボネート系化合物、あるいはメチレンエチレンカーボネート系化合物などが挙げられる。
【0085】
ビニレンカーボネート系化合物としては、例えば、ビニレンカーボネート(別名:1,3-ジオキソール-2-オン)、メチルビニレンカーボネート(別名:4-メチル-1,3-ジオキソール-2-オン)、エチルビニレンカーボネート(別名:4-エチル-1,3-ジオキソール-2-オン)、4,5-ジメチル-1,3-ジオキソール-2-オン、4,5-ジエチル-1,3-ジオキソール-2-オン、4-フルオロ-1,3-ジオキソール-2-オン、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソール-2-オン、等が挙げられる。
【0086】
ビニルエチレンカーボネート系化合物としては、例えば、ビニルエチレンカーボネート(別名:4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン)、4-メチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-エチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-n-プロピル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、5-メチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、等が挙げられる。
【0087】
メチレンエチレンカーボネート系化合物としては、4-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジメチル-5-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジエチル-5-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、等が挙げられる。
【0088】
不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、ビニレンカーボネートが特に好ましい。
【0089】
本実施形態の非水電解液が、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する場合、不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有量は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~10.0質量%であり、より好ましくは0.2質量%~5.0質量%であり、更に好ましくは0.3質量%~3.0質量%である。
【0090】
本実施形態の非水電解液がビニレンカーボネートを含有する場合、ビニレンカーボネートの含有量は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~5.0質量%であり、より好ましくは0.2質量%~4.0質量%であり、更に好ましくは0.3質量%~3.0質量%であり、更に好ましくは0.3質量%~2.0質量%である。
【0091】
本実施形態の非水電解液が不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する場合、ホスファゼン化合物(A)の含有質量に対する前記不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有質量の比(以下、「含有質量比〔不飽和結合を有する環状炭酸エステル/ホスファゼン化合物(A)〕」ともいう)は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.10以上であり、更に好ましくは0.50以上である。
含有質量比〔不飽和結合を有する環状炭酸エステル/ホスファゼン化合物(A)〕が0.05以上である場合には、内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇を効果的に抑制できる。
【0092】
含有質量比〔不飽和結合を有する環状炭酸エステル/ホスファゼン化合物(A)〕の上限は、特に制限されず、不飽和結合を有する環状炭酸エステルによる効果をより効果的に得る観点から、好ましくは30以下であり、より好ましくは15以下である。
【0093】
<その他の成分>
本実施形態の非水電解液は、上述した成分以外のその他の成分を少なくとも1種含有していてもよい。
その他の成分としては、スルトン(即ち、環状スルホン酸エステル)、酸無水物、等が挙げられる。
【0094】
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトン、プロペンスルトン等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
スルトンとしては、プロペンスルトンが好ましい。
本実施形態の非水電解液がスルトンを含有する場合、非水電解液の全量に対するスルトンの含有量は、好ましくは0.1質量%~3.0質量%であり、より好ましくは0.1質量%~1.0質量%である。
【0095】
酸無水物としては、例えば;
無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸などのカルボン酸無水物;
無水エタンジスルホン酸、無水プロパンジスルホン酸などのジスルホン酸無水物;
無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸、無水スルホ酪酸などのカルボン酸とスルホン酸との無水物;
等が挙げられる。
これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
酸無水物としては、無水スルホ安息香酸が好ましい。
本実施形態の非水電解液が酸無水物を含有する場合、非水電解液の全量に対する酸無水物の含有量は、好ましくは0.1質量%~3.0質量%であり、より好ましくは0.5質量%~3.0質量%である。
【0096】
本実施形態の非水電解液の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において10.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0097】
<非水電解液の製造方法>
本実施形態の非水電解液を製造する方法は特に限定されない。本実施形態の非水電解液は、各成分を混合して製造すればよい。
【0098】
本実施形態の非水電解液を製造する方法としては、例えば、
非水溶媒に電解質を溶解させて溶液を得る工程と、
得られた溶液に対し、ホスファゼン化合物(A)(及び必要に応じ、その他の添加剤)を添加して混合し、非水電解液を得る工程と、
を含む製造方法が挙げられる。
【0099】
〔リチウム二次電池前駆体〕
本開示の一実施形態に係るリチウム二次電池前駆体(以下、単に「本実施形態の電池前駆体」ともいう)は、
ケースと、
ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
上記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
上記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
上記電解液が、上述した本実施形態の非水電解液であるリチウム二次電池前駆体である。
【0100】
ここで、リチウム二次電池前駆体とは、充電及び放電が施される前のリチウム二次電池を意味する。
後述する本実施形態のリチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ、及び非水電解液をケースに収容してリチウム二次電池前駆体を製造し、得られたリチウム二次電池前駆体に対し、充電及び放電(好ましくは、充電及び放電を含む活性化処理)を施すことによって製造される。
【0101】
本実施形態の電池前駆体は、本実施形態の非水電解液を備える。
このため、本実施形態の電池前駆体によれば、本実施形態の非水電解液による効果と同様の効果が奏される。
【0102】
<ケース>
本実施形態の電池前駆体におけるケースとしては特に限定はなく、公知のリチウム二次電池用のケースが挙げられる。
ケースとしては、ラミネートフィルムを含むケース、電池缶と電池缶蓋とからなるケース、等が挙げられる。
【0103】
<正極>
本実施形態の電池前駆体における正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極である。
本実施形態の電池前駆体における正極は、好ましくは、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を少なくとも1種含む。
本実施形態の電池前駆体における正極は、より好ましくは、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極合材層と、を備える。
正極合材層は、正極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0104】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、リチウム二次電池に通常用いられる正極活物質であり得る。
正極活物質としては、例えば;
リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物;
Liと、Niと、Li及びNi以外の金属元素(例えば、遷移金属元素、典型金属元素等)の少なくとも1種と、を構成金属元素として含む酸化物;
等が挙げられる。
酸化物中において、Li及びNi以外の金属元素は、好ましくは、原子数換算で、Niと同程度、又は、Niよりも少ない割合で含まれる。
Li及びNi以外の金属元素は、例えば、Co、Mn、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ca、Na、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La及びCeからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0105】
正極活物質は、好ましくは、下記一般式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCM」ともいう)を含む。
リチウム含有複合酸化物(C1)は、単位体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れるという利点を有する。
【0106】
LiNiaCobMncO2 … 一般式(C1)
〔一般式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
【0107】
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等が挙げられる。
【0108】
正極活物質は、下記一般式(C2)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCA」ともいう)を含んでもよい。
【0109】
LitNi1-x-yCoxAlyO2 … 一般式(C2)
(一般式(C2)中、tは、0.95以上1.15以下であり、xは、0以上0.3以下であり、yは、0以上0.2以下であり、x及びyの合計は、0.5未満である。)
【0110】
NCAの具体例としては、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2等が挙げられる。
【0111】
本実施形態の電池前駆体における正極が、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極合材層と、を備える場合、正極合材層中の正極活物質の含有量は、正極合材層の全量に対し、例えば、10質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上である。
また、正極合材層中の正極活物質の含有量は、例えば、99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
【0112】
(バインダー)
正極合材層に含有され得るバインダーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂、ゴム粒子等が挙げられる。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。
ゴム粒子としては、スチレン-ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子等が挙げられる。
これらの中でも、正極合材層の耐酸化性を向上させる観点から、バインダーは、フッ素樹脂であることが好ましい。
バインダーは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0113】
正極合材層中におけるバインダーの含有量は、正極合材層の物性(例えば、電解液浸透性、剥離強度、等)と電池性能との両立の観点から、正極合材層の全量に対し、0.1質量%~4.0質量%であることが好ましい。
バインダーの含有量が0.1質量%以上である場合には、正極集電体に対する正極合材層の接着性、及び、正極活物質同士の結着性がより向上する。
バインダーの含有量が4.0質量%以下である場合には、正極合材層中における正極活物質の量をより多くすることができるので、電池容量がより向上する。
【0114】
(導電助材)
本実施形態の電池前駆体における正極が、正極集電体と正極合材層とを備える場合、正極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
【0115】
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
公知の導電助材としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上を併せて使用することができる。
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975ULTRA等、PUER BLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、LITX-50、LITX-200等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、Super-P(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等が挙げられる。
グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛(例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0116】
(その他の成分)
本実施形態の電池前駆体における正極が、正極集電体と正極合材層とを備える場合、正極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0117】
(正極集電体)
正極集電体としては、各種のものを使用することができるが、例えば、金属又は合金が用いられる。
正極集電体として、より具体的には、アルミニウム、ニッケル、SUS等が挙げられる。中でも、導電性の高さとコストとのバランスの観点から、正極集電体はアルミニウムであることが好ましい。ここで、「アルミニウム」は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を意味する。
正極集電体として、特に好ましくはアルミニウム箔である。
アルミニウム箔としては特に限定されないが、A1085材、A3003材、等が挙げられる。
【0118】
(正極合材層の形成方法)
正極合材層は、例えば、正極活物質及びバインダーを含む正極合材スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
正極合材スラリーに含まれる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶媒が好ましい。
【0119】
正極集電体に対して正極合剤スラリーを塗布し、乾燥させる上で、塗布方法及び乾燥方法は特に限定されない。
塗布方法としては、例えば、スロット・ダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、グラビアコーティング等が挙げられる。
乾燥方法としては、温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;赤外線(例えば、遠赤外線)照射による乾燥;が挙げられる。
乾燥時間及び乾燥温度については、特に限定されないが、乾燥時間は、例えば、1分~30分であり、乾燥温度は、例えば、40℃~80℃である。
正極合材層の製造方法は、正極集電体上に正極合剤スラリーを塗布し、乾燥させた後、金型プレス、ロールプレス等を用いた加圧処理により、正極活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。
【0120】
<負極>
本実施形態の電池前駆体における負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極である。
本実施形態の電池前駆体における負極は、好ましくは、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を少なくとも1種含む。
本実施形態の電池前駆体における負極は、より好ましくは、負極集電体と、負極活物質及びバインダーを含有する負極合材層と、を備える。
負極合材層は、負極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0121】
(負極活物質)
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限はないが、例えば、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、および、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種(単独で用いてもよいし、これらの2種以上を含む混合物を用いてもよい)を用いることができる。
これらの中でも、負極活物質は、リチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料であることが好ましい。
上記炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料(例えば、人造黒鉛、天然黒鉛等)、非晶質炭素材料、等が挙げられる。
上記炭素材料の形態は、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状のいずれの形態であってもよい。
上記炭素材料の粒径は特に限定されないが、例えば、5μm~50μm、好ましくは10μm~30μmである。
【0122】
非晶質炭素材料として、具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが例示される。
【0123】
黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。
人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。
また、黒鉛材料としては、ホウ素を含有するものなども用いることができる。
また、黒鉛材料としては、金、白金、銀、銅、スズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したもの、非晶質炭素と黒鉛を混合したものも使用することができる。
【0124】
これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0125】
(バインダー)
バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、及びジアセチルセルロースから選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
負極合材層用のバインダーとしては、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースを適宜混合したものを用いることが望ましい。
【0126】
負極合材層中におけるバインダーの含有量は、負極合材層の物性(電解液浸透性・剥離強度)と電池性能との両立の観点から、負極合材層の全量に対し、0.1質量%~4.0質量%であることが好ましい。
バインダーの含有量が0.1質量%以上である場合には、負極集電体に対する負極合材層の接着性、及び、負極活物質同士の結着性がより向上する。
バインダーの含有量を4.0質量%以下である場合には、負極合材層中における負極活物質の量をより多くすることができるので、電池容量がより向上する。
【0127】
(導電助材)
本実施形態の電池前駆体における負極が、負極集電体と負極合材層とを備える場合、負極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
負極合材層に含まれ得る導電助材の具体例は、前述した、正極合材層に含まれ得る導電助材の具体例と同様である。
【0128】
(その他の成分)
本実施形態の電池前駆体における負極が、負極集電体と負極合材層とを備える場合、負極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0129】
(負極合材層の形成方法)
負極合材層は、例えば、負極活物質及びバインダーを含む負極合材スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
負極合材スラリーに含まれる溶媒としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、集電体への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用してもよい。
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用してもよい。
【0130】
負極合材層の形成方法の好ましい態様は、前述した、正極合材層の形成方法の好ましい態様と同様である。
【0131】
<セパレータ>
本実施形態の電池前駆体におけるセパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂を含む多孔質の平板が挙げられる。また、セパレータとしては、上記樹脂を含む不織布も挙げられる。
セパレータの好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性樹脂シートが挙げられる。
セパレータの厚みは、例えば、5μm~30μmとすることができる。
セパレータは、好ましくは、正極と負極との間に配置される。
【0132】
<電解液>
本実施形態の電池前駆体における電解液は、前述した本実施形態の非水電解液である。
本実施形態の非水電解液の好ましい態様は前述したとおりである。
【0133】
<電池前駆体の製造方法>
本実施形態の電池前駆体を製造する方法は、特に限定されない。
本実施形態の電池前駆体を製造する方法の一例は、ケースに、正極、負極、セパレータ、及び電解液を収容する工程を含む。
上記一例は、好ましくは、
ケースに、正極、負極、及びセパレータを収容する工程と、
正極、負極、及びセパレータが収容されたケースに、電解液を注入する工程と、
を含む。
【0134】
<リチウム二次電池前駆体の一例>
以下、本実施形態のリチウム二次電池前駆体の一例について、
図1を参照しながら説明するが、本実施形態のリチウム二次電池前駆体は、以下の一例に限定されない。
【0135】
図1は、本実施形態のリチウム二次電池前駆体の一例である、リチウム二次電池前駆体1を示す概略断面図である。
リチウム二次電池前駆体1は、積層型リチウム二次電池の一例である。
本実施形態のリチウム二次電池前駆体としては、この積層型リチウム二次電池以外にも、例えば、捲回型のリチウム二次電池も挙げられる。捲回型のリチウム二次電池は、正極、セパレータ、負極、及びセパレータをこの順の配置で重ねて層状に巻いた構造を有する。
【0136】
図1に示すように、リチウム二次電池前駆体1は、正極リード21及び負極リード22が取り付けられた電池素子10が、ラミネートフィルムで形成された外装体30の内部に封入された構造を有している。
リチウム二次電池前駆体1では、正極リード21及び負極リード22が、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
正極リード21及び負極リード22は、例えば、超音波溶接や抵抗溶接などにより後述する正極集電体及び負極集電体に取り付けることができる。
なお、図示しないが、正極リード及び負極リードが、外装体の内部から外部に向かって、同一方向に導出されていてもよい。
【0137】
図1に示すように、電池素子10は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなる正極11と、セパレータ13と、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる負極12と、が積層された構造を有している。
この構造において、正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと、正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bとは、セパレータ13を介して向き合っている。
【0138】
リチウム二次電池前駆体1の外装体30の内部には、本実施形態の非水電解液(不図示)が注入されている。本実施形態の非水電解液は、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに含浸されている。
リチウム二次電池前駆体1では、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bによって、1つの単電池層14が形成されている。
なお、正極及び負極は、各集電体の片面上に各活物質層が形成されているものであってもよい。
【0139】
なお、以下で説明する本開示の実施形態に係るリチウム二次電池の一例としては、リチウム二次電池前駆体1における正極合材層11B及び負極合材層12Bの各々の表面に、リチウム二次電池前駆体1に対する充電及び放電によって被膜が形成されている態様のリチウム二次電池が挙げられる。
【0140】
〔リチウム二次電池の製造方法〕
本開示の実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法(以下、「本実施形態の電池の製造方法」ともいう)は、
本実施形態の電池前駆体を準備する工程(以下、「準備工程」ともいう)と、
電池前駆体に対して活性化処理を施すことにより、リチウム二次電池を得る工程(以下、「活性化工程」ともいう)と、
を含み、
活性化処理は、電池前駆体に対し、15~70℃の環境下で、充電及び放電を施すことを含むリチウム二次電池の製造方法である。
【0141】
活性化工程における活性化処理は、好ましくは、
電池前駆体を15℃~70℃(好ましくは、25℃~60℃)の環境下で保持する初期保持フェーズと、
初期保持フェーズ後の電池前駆体を、15℃~50℃(好ましくは、25℃~45℃)の環境下で充電する初期充電フェーズと、
初期充電フェーズ後の電池前駆体を、15℃~70℃(好ましくは、25℃~60℃)の環境下で保持する第2保持フェーズと、
第2保持フェーズ後の電池前駆体に対し、15℃~50℃(好ましくは、25℃~45℃)の環境下で、充電及び放電の少なくとも一方の組み合わせを1回以上施す充放電フェーズと、
を含む。
【0142】
上記好ましい態様によれば、リチウム二次電池の内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇を抑制する効果がより効果的に発揮される。
【0143】
〔リチウム二次電池〕
本開示の一実施形態に係るリチウム二次電池(以下、「本実施形態の電池」ともいう)は、上記の電池前駆体(すなわち、リチウム二次電池前駆体)を充放電させて得られたリチウム二次電池である。好ましくは、電池前駆体に対して、上記の活性化処理を施すことにより得られたリチウム二次電池である。
【0144】
以上で説明した、本開示の電池用非水電解液、本開示のリチウム二次電池前駆体、本開示のリチウム二次電池の製造方法、及び本開示のリチウム二次電池は、例えば、携帯電話、ノート型パソコンなどの電子機器;電気自動車;ハイブリッド自動車;電力貯蔵用の電源;等の用途に適用可能である。
本開示の電池用非水電解液、本開示のリチウム二次電池前駆体、本開示のリチウム二次電池の製造方法、及び本開示のリチウム二次電池は、特に、ハイブリッド自動車又は電気自動車に対して特に好適に用いられるものである。
【0145】
〔ホスファゼン化合物〕
本開示のホスファゼン化合物は、下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含む。
【0146】
【0147】
式(1)中、Z-は、無機酸(但し、塩化水素、ヘキサフルオロリン酸、(TFSI-)、及び(FSI-)を除く。)または活性水素化合物(但し、水、蟻酸、及び酢酸を除く。)からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y-及びZ-は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
【0148】
本開示のホスファゼン化合物は、電池用添加剤として使用されると、リチウム二次電池の内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇は抑制され得る。
【0149】
本開示のホスファゼン化合物における式(1)で表されるホスファゼン化合物としては、無機酸が塩化水素を含まない点、及び活性水素化合物が水、蟻酸、及び酢酸を含まない点の他は、本開示の電池用非水電解液に含有されるホスファゼン化合物(A)における式(1)で表されるホスファゼン化合物として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0150】
なかでも、本開示のホスファゼン化合物における式(1)中、Z-は、PO2F2
-であることが好ましい。
【0151】
本開示のホスファゼン化合物における式(2)で表されるホスファゼン化合物としては、本開示の電池用非水電解液に含有されるホスファゼン化合物(A)における式(2)で表されるホスファゼン化合物として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0152】
本開示のホスファゼン化合物の用途としては、電池用添加剤(好ましくはリチウム二次電池用添加剤、より好ましくリチウム二次電池の非水電解液用の添加剤)、反応試剤、合成反応触媒、各種電気化学デバイス用電解質、ドーピング剤、潤滑油の添加剤などが挙げられる。
【0153】
〔電池用添加剤〕
本開示の電池用添加剤は、
下記式(1)で表されるホスファゼン化合物及び下記式(2)で表されるホスファゼン化合物の少なくとも一方を含むホスファゼン化合物(A)を含む。
【0154】
【0155】
式(1)中、Z-は、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
式(2)中、Y-及びZ-は、それぞれ独立に、無機酸または活性水素化合物からプロトンを除いた形式で表されるアニオンであり、24個のRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であり、24個のRのうち同一の窒素原子に結合する2個のRは互いに結合していてもよい。
【0156】
本開示の電池用添加剤は、リチウム二次電池の内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇を抑制できる。
【0157】
本開示の電池用添加剤に含まれるホスファゼン化合物(A)は、本開示の電池用非水電解液に含有されるホスファゼン化合物(A)として例示したものと同様のものが挙げられる。
【実施例】
【0158】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例によって制限されるものではない。
以下の実施例において、「添加量」は、最終的に得られる非水電解液中における含有量(即ち、最終的に得られる非水電解液全量に対する量)を意味する。
また、「wt%」は、質量%を意味する。
【0159】
〔合成例1:テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムジフルオロホスフェイトの合成〕
以下、本実施例において使用した水は、ミリポア社製の「MQ Academic A10システム」により精製された水を使用した。
【0160】
1,000mlのフラスコに、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムクロリド(シグマアルドリッチ社製の製品番号「87651」)の4.99g(6.44mmol)を秤量した後、水500.0gを加え、水溶液を得た。室温でマグネチックスターラーを用いて水溶液を撹拌しながら、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムクロリドを水に溶解させた。これにより、溶液Aを得た。
【0161】
別途、リチウムジフルオロホスフェイトの0.765g(7.09mmol)に水20.17gを加え、室温で溶解させた。これにより、溶液Bを得た。
【0162】
室温下、パスツールピペットを用いて溶液Bを溶液Aに滴下したところ白濁した。溶液Aに溶液Bの全量を滴下し、反応液を得た。リチウムジフルオロホスフェイトの配合割合は、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムクロリドに対して、モル比で、1.1倍モルであった。
室温で反応液を1時間撹拌した。その後、加圧濾過機に反応液を全量移した。加圧濾過機は、細孔径0.2μmのメンブランフィルター(ADVANTEC社製、「H020A142C」、直径142mm)を備える。加圧濾過機の容積は、1リットルであった。
ゲージ圧0.2MPaの窒素圧により、反応液を濾過した。これにより、反応液から白色固体を分離した。加圧濾過機内の白色固体を水100mlで3回洗浄した。その後、白色固体を加圧濾過機から取り出して、シャーレに移した。
白色固体を室温で2日間風乾させた。その後、シャーレをデジケーターに入れ、白色固体の質量変化がなくなるまで、白色固体を室温で真空乾燥した。これにより、白色乾燥固体を得た。
【0163】
得られた白色乾燥固体の質量は4.24gであった。白色乾燥固体の全量がテトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムジフルオロホスフェイトであるとしたときの収率は78%であった。
【0164】
[白色乾燥固体の分析1]
31P-NMRによる分析
上記白色乾燥固体の0.500gを重メタノール0.499gに溶解させ、核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製の「ECA500」)を用いて、
31P-NMRを測定した。白色乾燥固体の
31P-NMRの測定チャートを
図2に示す。
【0165】
図2中、-33.50ppm~-34.58ppmに5つのシグナル(以下、「五重線」という。)が観測される。五重線は、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムカチオンの中心に位置する1つのリン原子に帰属される。
また、7.27ppm、及び7.00ppmに2つのシグナル(以下、「二重線」という。)が観測される。二重線は、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムカチオンの外郭に位置する4つのリン原子に帰属される。
さらに、-9.97ppm、-14.72ppm、及び-19.47ppmに3つのシグナル(以下、「三重線」という。)が観測される。三重線は、ジフルオロホスフェイトアニオンの1つのリン原子に帰属される。
テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムカチオンについて、上記のように帰属される中心の1つのリン原子の積分値(以下、「第1積分値」という。)は、1.02であった。上記のように帰属される4つの外郭のリン原子の積分値(以下、「第2積分値」という。)は、4.03であった。第1積層値:第2積分値は、ほぼ1:4であった。
また、ジフルオロホスフェイトアニオンの1つのリン原子の積分値は1.00である。そのため、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムカチオンとジフルオロホスフェイトアニオンとが1:1のモル比で存在し、電気的に中性な塩を形成していることが示唆された。
【0166】
[白色乾燥固体の分析2]元素分析による塩素イオン含量の測定
上記白色乾燥固体の0.0500gをメタノールに溶解し10mlの溶液とした。イオンクロマトグラフ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製の「ICS-3000」)を使用して、溶液中の塩素イオンの分析を行った。その結果、溶液中の塩素イオン含量は50μg/g未満であった。
原料として使用したテトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムクロリド中の塩素イオン含量は45,726μg/gである。そのため、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムクロリド中の99.9質量%が他のアニオン種に置換されていることが分かった。
【0167】
以上の分析において、
31P-NMRの分析結果から、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムカチオンと、ジフルオロホスフェイトアニオンとが1:1のモル比で存在していること、及び、
塩素イオンの分析結果から、原料のテトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムクロリド中の99.9質量%の塩素イオンが消失し、他のアニオン種に置換されていることが示唆され、
白色乾燥固体は、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]ホスホニウムジフルオロホスフェイトであることが判明した。
【0168】
〔実施例1~実施例11、比較例1~比較例3〕
<非水電解液(試料0~試料13)の作製>
(試料0)
エチレンカーボネート(以下、EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、EC:EMC=30:70(体積比)で混合することにより、非水溶媒としての混合溶媒を作製した。
混合溶媒に対し、電解質としてのLiPF6を、最終的に得られる非水電解液中の濃度が1モル/リットルとなるように、また、添加剤としてのビニレンカーボネート(VC)を、最終的に得られる非水電解液の全量に対して0.5質量%となるように溶解させた。
以上により、試料0を得た。
試料0は、比較例1の電池に使用する非水電解液である。
【0169】
(試料1~11)
更に、ホスファゼン化合物(A)の一例である表1に示す化合物を、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量が、表1に示す添加量となるように添加したこと以外は試料0と同様にして、試料1~試料11を得た。
試料1~試料11は、それぞれ、実施例1~実施例11の電池に使用する非水電解液である。
【0170】
(試料12~13)
更に、表1に示す比較ホスファゼン化合物(ヘキサフルオロシクロトリホスファゼン、又は、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン)を、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量が、1.0質量%となるように添加したこと以外は試料0と同様にして、試料12~試料13を得た。
試料12~試料13は、それぞれ、比較例2~比較例3の電池に使用する非水電解液である。
【0171】
<リチウム二次電池の作製>
以下のようにして、リチウム二次電池としての積層型電池(設計容量300mAh)(以下、単に「電池」ともいう)を作製した。
【0172】
(正極の作製)
1.スラリー調製
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
正極活物質としてのNCM523(即ち、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)920g、導電助材としてのSuper-P(TIMCAL社製導電性カーボン)20g、及び導電助材としてのKS-6(TIMREX社製鱗片状黒鉛)20gを10分間混合した後、ここにN-メチルピロリドン(NMP)を100g加え、更に20分間混合した。
次いで、8%-PVDF溶液(クレハ製PVDFW#7200をNMPに溶解)150gを加えて、30分間混練した後、更に、上記8%-PVDF溶液150gを加えて30分間混練した。その後、上記8%-PVDF溶液200gを加えて30分間混練した。次いで、NMPに溶解した溶液を80g加えて30分間混練した。その後、粘度調整のためNMP27gを加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。
以上により、固形分濃度60%の正極合材スラリーを得た。
【0173】
2.塗工・乾燥
スラリー塗工にはダイコーターを用いた。
乾燥後の塗布質量が19.0mg/cm2になるように、上記正極合材スラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み20μm、幅200mm)の片面の一部に塗布し乾燥した。次いで、反対面(未塗工面)の一部に、同様に塗布質量が19.0mg/cm2になるように、上記正極合材スラリーをアルミニウム箔に塗布し乾燥した。
こうして得た両面塗工(38.0mg/cm2)されたアルミニウム箔を、真空乾燥オーブンで130℃、12時間乾燥した。
【0174】
3.プレス
35トンプレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記正極をプレス密度が2.9±0.05g/cm3になるように圧縮した。
【0175】
4.スリット
電極塗布面積(29mm×40mm)とタブ溶接余白が得られるように電極をスリットした。
【0176】
(負極の作製)
1.スラリー調製
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。
負極活物質としての天然黒鉛960g及び導電助材としてのSuper-P(導電性カーボン、BET比表面積62m2/g)10gに対し、1%-CMC水溶液(即ち、カルボキシメチルセルロース(CMC)の1質量%水溶液)を450g加え、30分間混合した。
得られた混合物に対し、1%-CMC水溶液300gを加えて30分間混練した後、更に、1%-CMC水溶液250gを加えて30分間混練した。
得られた混練物に対し、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)(40%乳化液)50gを加えて30分間混合した後、真空脱泡を30分間行った。
以上により、固形分濃度45%の負極合材スラリーを得た。
【0177】
2.塗工・乾燥
スラリー塗工にはダイコーターを用いた。
乾燥後の塗布質量が11.0mg/cm2になるように、上記負極合材スラリーを、負極集電体としての銅箔(厚み10μm)の片面の一部に塗布し乾燥した。次いで、銅箔の反対面(未塗工面)の一部に、塗布質量が11.0mg/cm2になるように、上記負極合材スラリーを塗布し乾燥した。
こうして得た両面塗工(22.0mg/cm2)された銅箔を、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥した。
【0178】
3.プレス
小型プレス機を用いた。
上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記負極をプレス密度が1.45±0.05g/cm3になるように圧縮した。
【0179】
4.スリット
電極塗布面積(31mm×42mm)とタブ溶接余白が得られるように電極をスリットした。
【0180】
(電池の作製)
1.積層
セパレータには、空隙率45%、厚み25μmのポリエチレン製多孔質膜(50mm×50mm)を用いた。
負極(表面)とセパレータと正極(裏面/表面)とセパレータと負極(表面)を順に重ねて固定した。次いで、正極の余白部分にアルミニウム製タブを超音波接合機で接合し、負極の余白部分にニッケル製タブを超音波接合機で接合した。これをラミネートシートで挟み込み、3辺を加熱シールした。
【0181】
2.電解液注液
電解液注液前に、上記を真空乾燥機にて、70℃×12h減圧乾燥した。上記で作製した各試料に対応する電解液をそれぞれ1.20±0.05g注液した後、真空引きしながら加熱シールした。
【0182】
3.活性化処理
電解液注液後の各電池を大気下、25℃で24時間保持し、次いでこの電池に対し、0.1Cで3時間定電流充電(0.1C-CC)し、次いで25℃で12時間休止した。
次に、0.1Cで4.2V(SOC100%)まで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)し、30分間休止した後、2.8Vまで0.1Cで定電流放電(0.1C-CC)した。
【0183】
<電解液発熱温度測定>
実施例及び比較例の非水電解液(前記非水電解液の作成にて得られた非水電解液)について、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製の「DSC7000X」)を用い、昇温速度5℃/分、測定温度範囲40℃~340℃の条件で示差走査熱量測定を行った。
200℃~300℃の間で下記式(a)で表される熱流束変化率が50μW/℃以上となる点を非水電解液の分解による発熱開始温度とした。
発熱開始温度を表1に示す。
式(a):熱流束変化率=熱流束変化量/温度変化量
【0184】
<短絡時の電池内部の昇温速度の評価>
実施例及び比較例の電池について、それぞれ、短絡時の電池内部の昇温速度の評価として、釘刺し試験を行った。
以下、詳細を示す。
【0185】
(釘刺し試験)
上記で作製した積層型電池(設計容量300mAh)を0.1Cで4.2V(SOC100%)まで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)して釘刺し試験を行った。直径3mm、長さ15mm、先端角度が30°であり、直径0.6mmの有底孔を持つ釘をマコール(登録商標)で覆った。次いで、シース部直径0.5mm、シース長さ200mmのシース型K熱電対(品番:IP10-K-0.5-200)を釘先端部近傍の位置まで差しこみ、釘刺し試験具を得た。
釘刺し試験装置(東洋システム株式会社製の「TYS-94DM45」)に釘試験具と積層型電池を固定し、速度1mm/秒で電池(セル)の中部に刺し込み、電池容器の内部において正極と負極とを短絡させた。このときの釘刺し試験具により測定される電池内部の温度及び電池表面に装着した熱電対から得られる表面温度を経時的に測定した。
【0186】
-発熱速度の算出-
各電池の発熱速度は、上記の釘刺し試験による測定結果から、以下に示すようにして算出する。短絡後、電池内部温度が0.2℃上昇した時間を発熱開始時間T0(秒)とし、T0から1秒後をT1(秒)とする。T0での電池内部温度をH0(℃)、T1での電池内部温度をH1(℃)として、以下の式で短絡直後の発熱速度を算出した。
結果を表1に示す。なお、表1に示す値は、比較例1での発熱速度の値を100%としたときの各例での相対値[%]である。
発熱速度:(H1-H0)/(T1-T0)
【0187】
<電池の性能評価>
実施例及び比較例の電池(上記活性化処理が施された電池)について、下記の通り、初期の電池抵抗値を測定した。
【0188】
(初期の電池抵抗(DC-IR)の測定)
活性化処理後の電池を、室温で定電圧4.2Vまで充電し、次いで室温で0.1C定電流で放電し、放電開始から10秒間における第1電位低下量を測定した。
同様に、活性化処理後の電池を、室温で定電圧4.2Vまで充電し、次いで室温で0.2C定電流で放電し、放電開始から10秒間における第2電位低下量を測定した。
活性化処理後の電池を、室温で定電圧4.2Vまで充電し、次いで室温で0.5C定電流で放電し、放電開始から10秒間における第3電位低下量を測定した。
活性化処理後の電池を、室温で定電圧4.2Vまで充電し、次いで室温で1.0C定電流で放電し、放電開始から10秒間における第4電位低下量を測定した。
各電流レートで放電した際の第1電位低下量~第4電位低下量から、放電初期の電池抵抗(直流抵抗;DC-IR)を算出した。
結果を表1に示す。なお、表1に示す値は、比較例1での初期の電池抵抗(DC-IR)の値を100としたときの各例での相対値(%)である。
【0189】
【0190】
-表1の説明-
・PZN-PF6:上記式(1)において、24個のRが全てメチル基であり、Z-がPF6-である化合物。
・PZN-FSI:上記式(1)において、24個のRが全てメチル基であり、Z-が上記(FSI-)である化合物。
・PZN-TFSI:上記式(1)において、24個のRが全てメチル基であり、Z-が上記(TFSI-)である化合物。
・PZN-BOB:上記式(1)において、24個のRが全てメチル基であり、Z-が上記(BOB-)である化合物。
・PZN-FOB:上記式(1)において、24個のRが全てメチル基であり、Z-が上記(FOB-)である化合物。
・PZN-DFP:上記式(1)において、24個のRが全てメチル基であり、Z-がPO2F2
-である化合物。
・PZN-CA:上記式(1)において、24個のRが全てメチル基であり、Z-が上記(CA-)である化合物。
・PZN+-(PF6/TFSI):上記式(2)において、24個のRが全てメチル基であり、Y-がPF6
-で、Z-が上記(TFSI-)である化合物。
【0191】
表1に示すように、本開示のホスファゼン化合物(A)を添加剤として非水電解液に含む実施例では、比較例に比べて、発熱速度の相対値(%)が低い、すなわち、内部短絡時の電池内部の昇温速度の上昇が抑制されていることがわかる。
【0192】
実施例1~実施例4の非水電解液は、PZN-PF6を含む。そのため、実施例1~実施例4の非水電解液の発熱開始温度は、比較例1よりも高い256℃~269℃の範囲内であった。この結果、実施例1~実施例4の非水電解液は、比較例1の非水電解液よりも熱安定性が高いことがわかった。
実施例5の非水電解液は、PZN-FSIを含む。そのため、実施例5の非水電解液の発熱開始温度は、比較例1よりも高い256℃であった。この結果、実施例5の非水電解液は、比較例1の非水電解液よりも熱安定性が高いことがわかった。
実施例6の非水電解液は、PZN-TFSIを含む。そのため、実施例6の非水電解液の発熱開始温度は、比較例1よりも高い252℃であった。この結果、実施例6の非水電解液は、比較例1の非水電解液よりも熱安定性が高いことがわかった。
実施例7の非水電解液は、PZN-BOBを含む。そのため、実施例7の非水電解液の発熱開始温度は、比較例1よりも高い258℃であった。この結果、実施例7の非水電解液は、比較例1の非水電解液よりも熱安定性が高いことがわかった。
実施例8の非水電解液は、PZN-FOBを含む。そのため、実施例8の非水電解液の発熱開始温度は、比較例1よりも高い258℃であった。この結果、実施例8の非水電解液は、比較例1の非水電解液よりも熱安定性が高いことがわかった。
実施例9の非水電解液は、PZN-DFPを含む。そのため、実施例9の非水電解液の発熱開始温度は、比較例1よりも高い254℃であった。この結果、実施例9の非水電解液は、比較例1の非水電解液よりも熱安定性が高いことがわかった。
【0193】
実施例1~実施例3の非水電解液では、PZN-PF6の含有量は2.0質量%以下であった。そのため、実施例1~実施例3のリチウム二次電池の初期DCIRの相対値は、103%以下であった。つまり、実施例1~実施例3のリチウム二次電池は、比較例1のリチウム二次電池に対し、初期抵抗の悪化がないことがわかった。
【0194】
2020年3月31日に出願された日本国特許出願2020-064371の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。