(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】リンを含まない硫化物固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240314BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240314BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240314BHJP
H01M 6/18 20060101ALI20240314BHJP
H01M 8/1016 20160101ALI20240314BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240314BHJP
C01B 33/00 20060101ALI20240314BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20240314BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M6/18 A
H01M8/1016
H01M4/86 B
C01B33/00
H01G11/56
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2022525919
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 CN2019124604
(87)【国際公開番号】W WO2021082200
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】201911061250.5
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】周 墨林
(72)【発明者】
【氏名】谷 風
(72)【発明者】
【氏名】蒋 欣
(72)【発明者】
【氏名】徐 磊敏
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0366769(US,A1)
【文献】特開2017-142948(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106684437(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 6/18
H01M 8/1016
H01M 4/86
C01B 33/00
H01G 11/56
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質材料であって、前記材料の化学一般式がLi
2+xM
2+xM’
1-xS
6であり、ここで、MがAl、Ga及びInの少なくとも一種であり、M’がSi及びGeの少なくとも一種であり、0<x≦0.5であることを特徴とする、固体電解質材料。
【請求項2】
前記材料の化学一般式がLi
2+xAl
2+xSi
1-xS
6であり、ここで、0<x≦0.5であることを特徴とする、請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項3】
前記固体電解質材料の格子定数がa=13.0±2.0Å、b=8.0±2.0Å、c=13.0±2.0Å、α=90.0°±5°、β=110.0°±10°、γ=90.0°±5°であることを特徴とする、請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項4】
前記固体電解質材料の格子定数がa=12.0±1.0Å、b=7.0±1.0Å、c=12.0±1.0Å、α=90.0°±5°、β=105°±5°、γ=90.0°±5°であることを特徴とする、請求項2に記載の固体電解質材料。
【請求項5】
ダイヤモンド様構造特徴を有し、前記構造において、M
3+とM’
4+の両方がS
2-と配位して四面体[MS
4]と[M’S
4]を形成し、すべての四面体の間が頂点を共有して連結し、Li
+が四面体の空隙に充填される、請求項1又は2に記載の固体電解質材料。
【請求項6】
前記固体電解質材料は、XRDスペクトルにおいて、
回折角の角度2θが14.5°±3°、15.5°±3°、17°±3°、25.5°±3°、31.5°±3°、53.0°±3°の角度で回折ピークが現れる、請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項7】
前記固体電解質材料のLi
+移動ポテンシャル障壁が0.45eV以下である、請求項2に記載の固体電解質材料。
【請求項8】
前記固体電解質材料のPBEによるバンドギャップが2.80eV以上である、請求項2に記載の固体電解質材料。
【請求項9】
正極、負極、及び請求項1-8のいずれか一項に記載の固体電解質材料を含む、電気化学装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリンを含まない硫化物固体電解質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子技術の急速な発展に伴い、携帯電話、ノートコンピューター、カメラ及び電動工具などの電気機器の数が日々増加しており、エネルギー貯蔵電力への需要も増加している。容量が高く、寿命が長く、安全性能に優れた二次電池の開発が急務となっている。鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、及びニッケル水素電池などに比べて、リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、電力密度が高く、寿命が長く、安全性が高く、自己放電が少なく、温度適応範囲が広いなどの利点があるため、幅広く適用されている。ただし、従来のリチウムイオン電池は、電解液として燃えやすい有機溶媒を使用する必要があるため、安全上の大きな問題がある。特に、エネルギー密度がますます高くなるリチウムイオン電池としては、材料、電極、セル、モジュール、電源管理、熱管理、及びシステムデザインなどの各方面に改善を加えることができるが、電池の安全性問題は依然として目立っており、熱暴走を徹底的に回避することが難しい。近年では、悪質な電池爆発事故が時々発生するため、良好な安全性能を有するリチウムイオン二次電池を探すことが特に重要となる。
【0003】
上記した安全的な問題を根本から解決するため、有機電解液のかわりに固体電解質を導入するのが良好な案である。固体電解質は燃えず、腐食なし、揮発せず、液漏れの問題がないため、固体電解質を利用して組み立てられた全固体電池は極めて高い安全性を有する。それに加えて、全固体電池には、寿命が長く、理論エネルギー密度が高いなどの利点がある。有機電解液を使用するリチウムイオン電池において、サイクル過程におけるSEI膜の破壊と形成の繰り返しは電池の容量低下を加速し、そしてサイクル過程中に大量の副反応が伴っており、電池の寿命を大幅に影響するが、固体電解質を使用するリチウムイオン電池において、この問題を回避することができる。一方、多くの固体電解質は優れた機械的強度を備えており、リチウムデンドライトを効果的に抑制することができるため、同様に電池のサイクル特性及び寿命を大幅に向上させることができる。また、固体電解質は、通常、広い電位窓を有するため、より多くの高電圧の正極とマッチングすることができる。また、全固体電池は電池の熱管理システムを大幅に簡略化することができるため、そのエネルギー密度を大幅に向上させることができる。
【0004】
近年では、研究者たちは固体電解質の分野に対して検討を重ねてきている。まとめると、現在、一般的な固体電解質は、ポリマー型、酸化物型、及び硫化物型の三種類に分類される。ここで、ポリマー型固体電解質は、1978年、Armandによって初めて提唱された概念であり、ポリマーとリチウム塩との混合物からなり、リチウムイオンとポリマーの高分子鎖の極性基が相互に錯化し、外部電場の作用下で、高分子鎖の柔軟性によって、リチウムイオンの方向性のある移動が行われるものである。一般的なポリマー型固体電解質は、PEO系、PPO系、PAN系、PMMA系、及びPVDF系などを含む。当該種類の電解質は質量が軽く、粘弾性に優れ、機械加工性能に優れているが、イオン伝導度が低いため、電池の高レートでの充放電能力が大幅に影響される。一般に、化学的共重合やグラフト化などの方法を使用することにより、ポリマーマトリックスの結晶化度を低下させて、イオン伝導度を改善するが、改善後の室温でのイオン伝導度はまだ低いである。酸化物型固体電解質はPerovskite型(例えば、Li3xLa2/3-xTiO3)、Anti-Perovskite型(例えば、Li3OCl)、NASICON型(例えば、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3)、及びGarnet型(例えば、Li7La3Zr2O12)などを含む。当該種類の電解質は、通常、良好な化学的安定性を有し、大気中で安定に存在することができるが、イオン伝導度が低く、粒界抵抗が大きく、そして電極との相容性が悪い。上記した二つの固体電解質材料に比べて、硫化物型固体電解質は、イオン伝導度が高く、粒界抵抗が低く、電気化学的安定性が高いなどの特徴があるため、研究者たちの最も大きな注目を浴びており、広く適用される見込みが一番高い材料である。硫化物材料において、Li2S-SiS2系は一足先に研究された固体電解質である。ある報告(Hayashi et al.,「Characterization of Li2S-SiS2-Li3MO3 M=B,Al,Ga and In)oxysulfide glasses and their application to solid state lithium secondary batteries」,2002,Solid State Ionics,Volume 152-153,Pages 285-290)は、Li3PO4、LiSiO4、Li3BO3、及びLi3AlO3にガラス状のLi2S-SiS2をドープすることで、それらの電気伝導度を著しく向上させるとともに、材料の結晶化を抑制することができることを披露した。2001年、Tatsumisagoら(Tatsumisago et al.,「Solid state lithium secondary batteries using an amorphous solid electrolyte in the system(100-x)(0.6Li2S-0.4SiS2)・xLi4SiO4 obtained by mechanochemical synthesis」,2001,Solid State Ionics,Volume 140,Pages 83-87)は、メルトクエンチ法のかわりにメカニカルミリング法を採用してガラス状の固体電解質(100-x)(0.6Li2S-0.4SiS2)・xLi4SiO4を調製し、ボールミルの時間がガラス状の形成及び全固体電池の性能に与える影響を詳しく検討した。続いて、2005年、Tatsumisagoら(Tatsumisago et al.,「New,Highly Ion-Conductive Crystals Precipitated from Li2S-P2S5 Glasses」,2005,Advanced Materials,Volume 17,Pages 918-921)は、高エネルギーボールミルによって、室温でのイオン伝導度が3.2×10-3S/cmと高い硫黄・リン化合物材料である70Li2S-30P2S5を調製したことを初めて報道し、それから、高エネルギーボールミルによるガラスセラミック系硫黄・リン化合物材料の調製の風潮が広がっていく。2011年、東京工業大学とトヨタ自動車株式会社が画期的な進展を得て(Kamaya et al.,「A lithium superionic conductor」,2011,Nature Materials,Volume 10,Pages 682-686)、国際トップクラスの材料学学術誌である「Nature Materials」で、室温伝導度が、一般的な炭酸エステル類電解液のイオン伝導度にも比肩できる、1.2×10-2S/cmである、リチウムイオンの三次元拡散経路を有する硫黄・リン化合物の結晶電解質であるLi10GeP2S12(LGPS)を共同で報道し、これにより、全世界の目を硫黄・リン化合物材料に振り向かせた。しかし、一方、硫黄・リン化合物は、通常、空気中の水分に非常に敏感であり、普通の環境で加工処理される場合、吸水によって臭気のあるH2Sガスが非常に発生しやすく、環境と加工員に損害を与える。HSAB則により、硫黄・リン化合物におけるP5+は硬い酸に属し、S2-に比べて、水中でのO2-はより硬い塩基であり、硬い酸は先に硬い塩基と反応するため、リンを含む硫化物は吸水して変質しやすい。以上より、Li+伝導性能が良好で、且つリンを含まない新型硫化物固体電解質材料を見出すのは、非常に重要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、新たな硫化物固体電解質材料及び前記固体電解質材料を含む電気化学装置を提供するものである。当該固体電解質材料は、組成が簡単で、水に敏感なリンを含まないとともに、良好なLi+伝導性能を持ち、有望な固体電解質材料である。
【0006】
本発明は、新たな硫化物固体電解質材料を開示することを目的の一つとする。
【0007】
本発明は、前記固体電解質材料の結晶学的特徴、構造情報、XRDスペクトル、PBEによるバンドギャップ、Li+移動経路、及び移動ポテンシャル障壁を開示することを目的のもう一つとする。
【0008】
具体的に、本発明は、化学一般式がLi2+xM2+xM’ 1-xS6であり、ここで、MがAl、Ga及びInの少なくとも一種であり、M’ がSi及びGeの少なくとも一種であり、0<x≦0.5である新たな硫化物固体電解質材料を開示する。
【0009】
まず、前記Li2+xM2+xM’ 1-xS6材料は、ダイヤモンド様構造特徴を有し、前記構造において、M3+(例えば、Al3+)とM’ 4+(例えば、Si4+)の両方がS2-と配位して四面体を形成し、すべての四面体の間が頂点を共有して連結し、三次元ネットワークを形成し、Li+が四面体の空隙に充填される。
【0010】
そして、本発明は、前記Li2+xM2+xM’ 1-xS6材料のXRDスペクトルの特徴を開示する。XRDスペクトルにおいて、約14.5°±3°、15.5°±3°、17°±3°、25.5°±3°、31.5°±3°、53.0°±3°などの角度で強い回折ピークが現れる。
【0011】
さらに、Li2+xAl2+xSi1-xS6を実例とし、ソフトウェアVASP(ウィーン大学Hafner研究グループ、Vienna Ab-initio Simulation Package)で計算したところ、前記Li2+xAl2+xSi1-xS6材料のPBEによるバンドギャップは2.8eV以上である。周知の通り、PBE方式の交換相関汎関数は、絶縁体と半導体の光学バンドギャップを大幅に過小評価する(公開番号CN106684437Aの特許文献参照)ため、Li2+xAl2+xSi1-xS6材料の固有バンドギャップは2.8eVよりはるかに大きいはずである。2012年、尹文龍ら(Yin et al.,「Synthesis,Structure,and Properties of Li2In2MQ6(M=Si,Ge;Q=S,Se):A New Series of IR Nonlinear Optical Materials」,2012,Inorganic Chemistry,Volume 51,Pages 5839-5843)は先駆けて、Li2In2SiS6の実験バンドギャップが約3.61eVであることを報道した。本発明は、Li2In2SiS6に対して同様なパラメータで計算したところ、そのPBEによるバンドギャップが約2.08eVである。これで分かるように、Li2+xAl2+xSi1-xS6の固有バンドギャップは約4.3eVを超えるはずである。
【0012】
最後に、本発明は、Li2+xAl2+xSi1-xS6を例示とし、Li2.125Al2.125Si0.875S6、Li2.25Al2.25Si0.75S6、及びLi2.5Al2.5Si0.5S6のリチウムイオン移動経路及び移動ポテンシャル障壁を詳しく評価する。
【0013】
先行技術に比べて、本発明は以下の有益な成果を得る。
【0014】
本発明は、ダイヤモンド様構造特徴を有し、構造において、M3+とM’ 4+の両方が四つのS2-と配位して四面体[MS4]と[M’ S4]を形成し、すべての四面体の間が頂点を共有して連結し、Li+が四面体の空隙に充填される、新たな硫化物固体電解質材料Li2+xM2+xM’ 1-xS6を提供する。
【0015】
当該種類の材料は大きい光学バンドギャップを有する。特に、Li2+xAl2+xSi1-xS6材料に関して、その固有バンドギャップが約4.3eV以上であり、そのLi+移動ポテンシャル障壁が約0.45eV以下である。全体的に見ると、当該種類の材料は、バンドギャップが大きく、Li+伝導ポテンシャル障壁が低いことから、そのLi+伝導能力が強く、新たな高速リチウムイオン伝導体材料であり、適用の見込みがよいことを示す。
【0016】
より重要なことは、硫黄・リン系固体電解質に比べて、HSAB則によると、当該種類の材料は硬い酸のP5+を含まないため、良好な安定性を有するはずである。同時に、その構造から見ると、すべての四面体の間が頂点を共有して連結しているため、基が密に配置され、空隙が少なく、構造安定性が良好である。
【0017】
いくつかの実施例において、前記固体電解質材料の化学一般式がLi2+xM2+xM’ 1-xS6であり、ここで、MがGa及びInの少なくとも一種であり、M’ がSi及びGeの少なくとも一種であり、0<x≦0.5である。
【0018】
いくつかの実施例において、前記固体電解質材料の化学一般式がLi2+xAl2+xSi1-xS6であり、ここで、0<x≦0.5である。
【0019】
いくつかの実施例において、前記固体電解質材料の格子定数が約a=13.0±2.0Å、b=8.0±2.0Å、c=13.0±2.0Å、α=90.0°±5°、β=110.0°±10°、γ=90.0°±5°である。
【0020】
いくつかの実施例において、前記固体電解質材料の格子定数が約a=12.0±1.0Å、b=7.0±1.0Å、c=12.0±1.0Å、α=90.0°±5°、β=105°±5°、γ=90.0°±5°である。
【0021】
いくつかの実施例において、前記固体電解質材料の構造において、M3+(Al3+)とM’ 4+(Si4+)の両方がS2-と配位して四面体[MS4]([AlS4])と[M’ S4]([SiS4])を形成し、すべての四面体の間が頂点を共有して連結し、Li+が四面体の空隙に充填される。
【0022】
いくつかの実施例において、前記固体電解質材料は、XRDスペクトルにおいて、約14.5°±3°、15.5°±3°、17°±3°、25.5°±3°、31.5°±3°、53.0°±3°などの角度で強い回折ピークが現れる。
【0023】
いくつかの実施例において、前記固体電解質材料のLi+移動ポテンシャル障壁が約0.45eV以下である。
【0024】
いくつかの実施例において、前記固体電解質材料のPBEによるバンドギャップが約2.80eV以上である。
【0025】
電池の安全性はかつてないほど注目されている。固体電解質材料は燃えやすい有機電解液に取って代わって新たなリチウムイオン電池に適用されることができ、原理的に熱暴走による安全リスクを完全に回避する。本発明は、適用の潜在力が大きい新たな硫化物固体電解質を提供する。本技術案は、高い革新性と実用価値を有し、硫化物固体電解質のさらなる適用に良好な促進効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1はLi
2.125Al
2.125Si
0.875S
6の格子構造とLi
+移動経路を示す。
【
図2】
図2はLi
2.125Al
2.125Si
0.875S
6のXRDスペクトルを示す。
【
図3】
図3はLi
2.125Al
2.125Si
0.875S
6の状態密度を示す。
【
図4】
図4はLi
2.125Al
2.125Si
0.875S
6の格子間Li
+移動ポテンシャル障壁を示す。
【
図5】
図5はLi
2.25Al
2.25Si
0.75S
6の格子構造とLi
+移動経路を示す。
【
図6】
図6はLi
2.25Al
2.25Si
0.75S
6のXRDスペクトルを示す。
【
図7】
図7はLi
2.25Al
2.25Si
0.75S
6の状態密度を示す。
【
図8】
図8はLi
2.25Al
2.25Si
0.75S
6の格子間Li
+移動ポテンシャル障壁を示す。
【
図9】
図9はLi
2.5Al
2.5Si
0.5S
6の格子構造とLi
+移動経路を示す。
【
図10】
図10はLi
2.5Al
2.5Si
0.5S
6のXRDスペクトルを示す。
【
図11】
図11はLi
2.5Al
2.5Si
0.5S
6の状態密度を示す。
【
図12】
図12はLi
2.5Al
2.5Si
0.5S
6の格子間Li
+移動ポテンシャル障壁を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、図面を参照しながら、本発明の例示的な実施例を説明する。記載されるものは、本発明に対する説明であり、本発明の請求項の保護範囲を制限するものではなく、本発明の範囲は添付された請求の範囲及びその均等なもののみに定義される。
【0028】
一、固体電解質材料
一般的に、無机固体電解質材料は、通常、安定な陽イオンと陰イオンの骨格及び運動可能なイオン(例えばLi+)からなる。酸化物固体電解質に比べて、硫化物固体電解質におけるS2-はO2-よりはるかに大きいイオン半径を有するため、骨格の間のLi+の運動可能な空間が大きくなるとともに、S2-の原子核は周囲の電子雲への束縛効果が小さいため、その電子雲がより分極しやすくなり、Li+の運動過程中に、電荷の分布はLi+に合わせてより歪みやすくなり、リチウムイオンに対する作用力が低下し、さらにLi+の移動ポテンシャル障壁を減少させる。本発明者は、硫化物の構造的特徴を十分に理解した上で、同族元素で置き換え、M’ 4+の代わりに一部のM3+をドープし、格子間Li+の考え方を導入することにより、リン元素を含まず、より低いLi+移動ポテンシャル障壁を有し、適用の見込みが高い新型の硫化物固体電解質Li2+xM2+xM’ 1-xS6を発見した。
【0029】
本発明の実施例は固体電解質材料を提供する。前記材料の化学一般式がLi2+xM2+xM’ 1-xS6であり、ここで、MがAl、Ga及びInの少なくとも一種であり、M’ がSi及びGeの少なくとも一種であり、0<x≦0.5である。
【0030】
1、構造的特徴
本発明は、まず、ダイヤモンド様構造特徴を有し、約a=13.0±2.0Å、b=8.0±2.0Å、c=13.0±2.0Å、α=90.0°±5°、β=110.0°±10°、γ=90.0°±5°の格子定数を有する、Li2+xM2+xM’ 1-xS6材料の構造的特徴を開示する。本発明に記載のLi2+xAl2+xSi1-xS6は、格子定数が約a=12.0±1.0Å、b=7.0±1.0Å、c=12.0±1.0Å、α=90.0°±5°、β=105°±5°、γ=90.0°±5°である。具体的に、Li2.125Al2.125Si0.875S6材料は、格子定数が約a=11.7、b=7.2、c=11.6、α=90.3°、β=107.9°、γ=89.7°であり;Li2.25Al2.25Si0.75S6材料は、格子定数が約a=11.7、b=7.3、c=11.7、α=89.7°、β=107.5°、γ=90.1°であり;Li2.5Al2.5Si0.5S6材料は、格子定数が約a=12.0、b=7.6、c=11.8、α=88.5°、β=102.9°、γ=90.2°である。その構造において、M3+とM’ 4+の両方が四つのS2-と配位して四面体を形成し、すべての四面体の間が頂点を共有して連結し、三次元ネットワークを形成し、Li+が四面体の空隙に充填される。その元素の組成及び構造的特徴から見ると、Li2+xM2+xM’ 1-xS6は良好な安定性を有する。
【0031】
2、XRDスペクトル
本発明は、さらに、Li
2+xM
2+xM’
1-xS
6材料のXRDスペクトルの特徴を開示する。
図2、6及び10に示すように、そのXRDスペクトルは、約14.5°±3°、15.5°±3°、17°±3°、25.5°±3°、31.5°±3°、53.0°±3°などの角度で強い回折ピークが現れる。具体的に、Li
2.125Al
2.125Si
0.875S
6材料は、約14.6°、16.0°、18.0°、26.0°、31.3°及び53.5°で強い回折ピークが現れ;Li
2.25Al
2.25Si
0.75S
6材料は、約14.6°、16.0°、17.7°、26.0°、31.1°、及び53.4°で強い回折ピークが現れ;Li
2.5Al
2.5Si
0.5S
6材料は、約14.0°、15.4°、16.8°、25.4°、30.8°及び52.1°で強い回折ピークが現れる。
【0032】
3、リチウムイオン輸送特性
固体電解質として使用可能な材料として、電子絶縁性とイオン伝導性は満たさなくてはならない条件である。周知の通り、電子絶縁性は、材料の光学バンドギャップと密に関連する。そのため、本発明は、PBE方式の交換相関汎関数で、いくつかの種類のLi
2+xM
2+xM’
1-xS
6材料(Li
2.125Al
2.125Si
0.875S
6、Li
2.25Al
2.25Si
0.75S
6、及びLi
2.5Al
2.5Si
0.5S
6を実例とする)のトータル状態密度を計算する。
図3、7、及び11に示すように、Li
2+xAl
2+xSi
1-xS
6材料のPBEによるバンドギャップは2.80eV以上である。周知の通り、PBE方式の交換相関汎関数は、絶縁体と半導体の光学バンドギャップ大幅に過小評価する(公開番号CN106684437Aの特許文献参照)ため、Li
2+xAl
2+xSi
1-xS
6材料の固有バンドギャップは2.8eVよりはるかに大きいはずである。2012年、尹文龍ら(Yin et al.,「Synthesis,Structure,and Properties of Li
2In
2MQ
6(M=Si,Ge;Q=S,Se):A New Series of IR Nonlinear Optical Materials」,2012,Inorganic Chemistry, Volume 51,Pages 5839-5843)は先駆けて、Li
2In
2SiS
6の実験バンドギャップが約3.61eVであることを報道した。本発明は、Li
2In
2SiS
6に対して同様なパラメータで計算したところ、そのPBEによるバンドギャップが約2.08eVである。これで分かるように、Li
2+xAl
2+xSi
1-xS
6は、固有バンドギャップが約4.3eVを超えるはずのワイドバンドギャップ絶縁体であり、電子絶縁の特性を有する。バンドギャップが広いことは、結合状態のエネルギーが低い、即ち、酸化電位が高いこと、そして当該構造が広い電位窓を有することを示しており、高電圧の正極材料へのマッチングに有利である。
【0033】
リチウムイオン輸送特性は、固体電解質の最も重要な特徴である。そのため、発明者は、第一原理を採用し、ソフトウェアVASP(ウィーン大学Hafner研究グループ、Vienna Ab-initio Simulation Package)でLi2+xM2+xM’ 1-xS6材料のLi+移動経路及び移動ポテンシャル障壁を計算する。
【0034】
理解すべきことは、本発明に記載のLi2+xM2+xM’ 1-xS6材料において、Mは、Al、Ga及びInからなる群より任意に選択され、M’ はSi及びGeからなる群より任意に選択され、明確かつ簡単に説明するために、本発明はLi2+xAl2+xSi1-xS6を例示として説明し、Li2.125Al2.125Si0.875S6、Li2.25Al2.25Si0.75S6及びLi2.5Al2.5Si0.5S6などの材料のLi+移動経路及び移動ポテンシャル障壁を詳しく計算する。
【0035】
図1、5及び9は、Li
2+xAl
2+xSi
1-xS
6材料のLi
+移動経路を示す。そのうち、灰色のLi
+イオンは始状態と終状態の間に人為的に挿入された遷移状態の位置であり、Li
+は上記の中間状態の位置を介して、始状態から終状態に遷移する。
図4、8及び12は、さらなる遷移状態の計算により、それらの移動経路における活性化エネルギーが最も低い移動ポテンシャル障壁の形状を与える。具体的に、格子間リチウムイオンは格子リチウムイオンを掻き分け、次の格子間サイトに到着するとともに、自身が格子サイトを占拠し、「interstitialcy」の方式でLi
+の輸送を実現する。Li
2.125Al
2.125Si
0.875S
6、Li
2.25Al
2.25Si
0.75S
6、及びLi
2.5Al
2.5Si
0.5S
6は、それらの移動ポテンシャル障壁がそれぞれ約0.41、0.34、及び0.25eVである。比較として、文献(Ceder et al.,「First principles study of the Li
10GeP
2S
12 lithium super ionic conductor material」,2012,Chemistry of Materials,Volume 24,Pages 15-17.Mo et al.,「Origin of fast ion diffusion in super-ionic conductors」,2017,Nature Communications,Volume 8, Pages 15893.)に報道されたLGPS材料(硫化物固体電解質における模範的な材料)は、Li
+移動ポテンシャル障壁が約0.2eV程度である。これで分かるように、Li
2.5Al
2.5Si
0.5S
6材料は、格子構造において、Li
+が拡散しやすく、良好な見込みがある固体電解質材料である。
上記の例示的な実施例から分かるように、本発明に記載のLi
2+xM
2+xM’
1-xS
6材料は、組成でリン元素を含まず、化学安定性が向上し、大きい光学バンドギャップ(広い電位窓)を有し、そして良好なLi
+輸送能力を有するため,適用する見込みが高い。
【0036】
二、電気化学装置
本発明の電気化学装置は、電気化学反応を発生させるいずれかの装置を含み、具体的な実例が全ての種類の、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又はキャパシタを含む。特に、当該電気化学装置は、リチウム金属二次電池又はリチウムイオン二次電池を含むリチウム二次電池である。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、正極、負極及び本発明の固体電解質を含む。
【0037】
三、使用
本発明によって製造される電気化学装置は、各分野の電子装置に適用し得る。
本発明の電気化学装置の用途は、特に限定されず、先行技術で公知の任意の用途に使用される。一つの実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートコンピューター、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子ノートブック、電卓、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、フラッシュライト、カメラ、大型家庭用蓄電池、及びリチウムイオンコンデンサーなどに使用することができるが、それらに限定されない。
【0038】
実施例
以下では、本発明による実施例を説明して、性能評価を行う。
1、固体電解質材料の調製及び性能評価
本発明に記載のLi2+xM2+xM’ 1-xS6材料は複数の一般的な方法で調製することができる。例えば、Li2O、M2O3及びM’ O2を原材料とし、それらを必要とするモル比で均一に混合し、不活性雰囲気で、ボールミルにより、均一な粉体にし、そして不活性雰囲気又は真空で、高温固相法によって焼結する。理解すべきことは、メルトクエンチ法などのその他の調製手段を選択してもよい。もちろん、適宜なターゲット材を採用し、物理又は化学蒸着の方法で当該固体電解質材料を調製し、関連するプロセスパラメータを調整することで、沈着させて所望の元素モル比を有する固体電解質材料を得てもよい。これらの調製プロセスは、すべて当業者に熟知されるものであるため、ここでは繰り返さない。
【0039】
2、電気化学装置の製造
本発明のいくつかの実施例は、リチウムイオン電池又は金属リチウム電池であってもよい二次電池を提供する。当該二次電池において、本発明の上記した実施例に説明したLi2+xM2+xM’ 1-xS6材料を採用することができ、固体二次電池の構造も当業者に熟知されるものであるため、ここでは繰り返さない。
【0040】
上記した実施例は本発明の例示的な実施形態であるが、本発明の実施形態は上記した実施例に制限されるものではない。本発明の範囲は、添付の請求の範囲及びその均等なもののみに定義される。