(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】アブレーションシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
A61B18/14
(21)【出願番号】P 2022543207
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031381
(87)【国際公開番号】W WO2022038728
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 久生
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-041782(JP,A)
【文献】特開2004-008581(JP,A)
【文献】特開2013-153817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12 - 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内の患部に対して経皮的に穿刺される電極針と、
前記電極針と対極板との間にアブレーションを行うための電力を供給する電源部と、情報を表示する表示部と、前記電源部における前記電力の供給動作および前記表示部における表示動作をそれぞれ制御する制御部と、を有する電源装置と
を備え、
前記制御部は、
前記アブレーションの際に、前記電極針と前記対極板との間のインピーダンス値を測定し、前記インピーダンス値が所定の閾値を越えてブレイク状態になったのか否かを判定すると共に、
前記ブレイク状態の判定タイミングと、前記表示部上における時間軸に沿った前記インピーダンス値のプロットタイミングとが、互いに一致するのか否かの判定結果に応じて、
前記ブレイク状態と判定されたタイミングでの前記インピーダンス値である第1のインピーダンス値が、前記表示部上にプロットされるように、前記第1のインピーダンス値のプロットタイミングを調整する
アブレーションシステム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記ブレイク状態の判定タイミングと、前記インピーダンス値のプロットタイミングとが、互いに一致すると判定された場合には、前記第1のインピーダンス値をそのまま前記表示部上にプロットさせて、前記第1のインピーダンス値のプロットタイミングの調整を行わないと共に、
前記ブレイク状態の判定タイミングと、前記インピーダンス値のプロットタイミングとが、互いに一致しないと判定された場合には、前記第1のインピーダンス値が前記表示部上にプロットされるように、前記第1のインピーダンス値のプロットタイミングの調整を行う
請求項1に記載のアブレーションシステム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記ブレイク状態の判定タイミングと、前記インピーダンス値のプロットタイミングとが、互いに一致しないと判定された場合に、
前記第1のインピーダンス値が、前記インピーダンス値の本来のプロットタイミングから先行してプロットされるように、
前記第1のインピーダンス値のプロットタイミングを調整する
請求項2に記載のアブレーションシステム。
【請求項4】
前記制御部は、前記ブレイク状態の判定タイミングと、前記インピーダンス値のプロットタイミングとが、互いに一致しないと判定された場合に、前記第1のインピーダンス値に加えて、前記
第1のインピーダンス値の
プロットタイミングの直後の本来のプロットタイミングにおける前記インピーダンス値である、第2のインピーダンス値も、前記表示部上にプロットさせる請求項3に記載のアブレーションシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1のインピーダンス値を、
前記表示部における、前記インピーダンス値の本来のプロットタイミングに対応する時間軸上に、プロットさせる
請求項3または請求項4に記載のアブレーションシステム。
【請求項6】
前記制御部は、
前記アブレーションの開始時から初回の前記ブレイク状態となるまでの、
経過時間と、前記電力の供給動作によるエネルギー量と、のうちの少なくとも一方の情報を、前記表示部上に表示させる
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のアブレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内の患部に対して経皮的に穿刺される電極針と、アブレーション(焼灼)を行うための電力を供給する電源装置と、を備えたアブレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者体内の患部(例えば癌などの腫瘍を有する患部)を治療するための医療機器の1つとして、そのような患部に対してアブレーションを行う、アブレーションシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このアブレーションシステムは、体内の患部に対して経皮的に穿刺される電極針と、患部に対するアブレーションを行うための電力を供給する電源装置とを、備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
ところで、このようなアブレーションシステムでは一般に、例えば、使用する際の利便性を向上することが求められている。したがって、利便性を向上させることが可能なアブレーションシステムを提供することが望ましい。
【0005】
本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムは、体内の患部に対して経皮的に穿刺される電極針と、この電極針と対極板との間にアブレーションを行うための電力を供給する電源部と、情報を表示する表示部と、電源部における電力の供給動作および表示部における表示動作をそれぞれ制御する制御部と、を有する電源装置と、を備えたものである。上記制御部は、上記アブレーションの際に、電極針と対極板との間のインピーダンス値を測定し、そのインピーダンス値が所定の閾値を越えてブレイク状態になったのか否かを判定すると共に、このブレイク状態の判定タイミングと、表示部上における時間軸に沿ったインピーダンス値のプロットタイミングとが、互いに一致するのか否かの判定結果に応じて、上記ブレイク状態と判定されたタイミングでのインピーダンス値である第1のインピーダンス値が表示部上にプロットされるように、上記第1のインピーダンス値のプロットタイミングを調整する。
【0006】
本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムでは、上記ブレイク状態の判定タイミングと上記インピーダンス値のプロットタイミングとが、互いに一致するのか否かの判定結果に応じて、上記ブレイク状態と判定されたタイミングでのインピーダンス値(第1のインピーダンス値)が表示部上にプロットされるように、この第1のインピーダンス値のプロットタイミングが調整される。これにより、上記ブレイク状態と判定されたタイミングでのインピーダンス値が、漏れなく表示部上にプロットされることになる(上記第1のインピーダンス値の表示部上でのプロット抜けが、防止される)。その結果、例えば、初回の上記ブレイク状態までの時間等について、ユーザの誤認識が防止され易くなる。
【0007】
本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムでは、具体的には、例えば、上記制御部は、上記ブレイク状態の判定タイミングと上記インピーダンス値のプロットタイミングとが互いに一致すると判定された場合には、上記第1のインピーダンス値をそのまま表示部上にプロットさせて、その第1のインピーダンス値のプロットタイミングの調整を行わないようにしてもよい。また、例えば、上記ブレイク状態の判定タイミングと上記インピーダンス値のプロットタイミングとが互いに一致しないと判定された場合には、上記第1のインピーダンス値が表示部上にプロットされるように、その第1のインピーダンス値のプロットタイミングの調整を行うようにしてもよい。
【0008】
また、上記制御部は、上記ブレイク状態の判定タイミングと上記インピーダンス値のプロットタイミングとが互いに一致しないと判定された場合に、上記第1のインピーダンス値が、上記インピーダンス値の本来のプロットタイミングから先行してプロットされるように、その第1のインピーダンス値のプロットタイミングを調整するようにしてもよい。このようにした場合、インピーダンス値の測定データにおけるタイミング波形の形状が、ほぼ維持されつつ、上記第1のインピーダンス値が、漏れなく表示部上にプロットされる。その結果、本来のタイミング波形に近い形状で把握することができ、アブレーションシステムを使用する際の利便性が、更に向上することになる。
【0009】
この場合において、上記制御部は、上記ブレイク状態の判定タイミングと上記インピーダンス値のプロットタイミングとが互いに一致しないと判定された場合に、上記第1のインピーダンス値に加えて、上記インピーダンス値の本来のプロットタイミングにおけるインピーダンス値である第2のインピーダンス値も、表示部上にプロットさせるようにしてもよい。このようにした場合、上記第1のインピーダンス値が本来のプロットタイミングから先行してプロットされることに伴う、その第1のインピーダンス値のプロットタイミングから、次のインピーダンス値のプロットタイミングまでの、時間間隔の間延びが、回避される。その結果、アブレーションシステムを使用する際の利便性が、より一層向上することになる。
【0010】
また、上記制御部は、上記第1のインピーダンス値を、表示部における上記インピーダンス値の本来のプロットタイミングに対応する時間軸上に、プロットさせるようにしてもよい。このようにした場合、上記第1のインピーダンス値が、本来のプロットタイミングから先行してプロットされる場合においても、表示部上において、その第1のインピーダンス値の前後のプロット間隔が、維持されることになる。その結果、例えば、表示部の解像度が低い場合であっても、第1のインピーダンス値を、本来のプロットタイミングから先行してプロットさせることができる。よって、アブレーションシステムを使用する際の利便性が、より一層向上することになる。
【0011】
本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムでは、上記制御部は、上記アブレーションの開始時から初回の上記ブレイク状態となるまでの経過時間と、電力の供給動作によるエネルギー量と、のうちの少なくとも一方の情報を、表示部上に表示させるようにしてもよい。このようにした場合、アブレーションの際における患部の焼灼具合を、容易に予測することができるようになる結果、アブレーションシステムを使用する際の利便性が、更に向上することになる。
【0012】
本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムによれば、上記ブレイク状態の判定タイミングと上記インピーダンス値のプロットタイミングとが互いに一致するのか否かの判定結果に応じて、上記ブレイク状態と判定されたタイミングでのインピーダンス値(第1のインピーダンス値)が表示部上にプロットされるように、この第1のインピーダンス値のプロットタイミングを調整するようにしたので、以下のようになる。すなわち、上記ブレイク状態と判定されたタイミングでのインピーダンス値が、漏れなく表示部上にプロットされることになる結果、例えば、初回の上記ブレイク状態までの時間等について、ユーザの誤認識が防止され易くなる。よって、アブレーションシステムを使用する際の利便性を、向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムの全体構成例を模式的に表すブロック図である。
【
図2】アブレーションによる患部での焼灼具合の一例を表す模式図である。
【
図3】アブレーションの際のブレイク状態およびブレイク回数の一例を模式的に表すタイミング図である。
【
図4】実施の形態に係るアブレーションの際の表示部での表示態様の一例を表す模式図である。
【
図5】インピーダンス値の測定データの一例を表すタイミング図である。
【
図6】実施の形態に係るインピーダンス値のプロット例を表すタイミング図である。
【
図7】比較例に係るインピーダンス値のプロット例を表すタイミング図である。
【
図8】実施の形態に係るアブレーションの処理例を表す流れ図である。
【
図9】実施の形態に係るインピーダンス値の他のプロット例を表すタイミング図である。
【
図10】
図8に示した電力供給再開の際の動作モードの一例を表す図である。
【
図11】変形例に係るアブレーションの処理例を表す流れ図である。
【
図12】変形例に係るインピーダンス値のプロット例を表すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(ブレイク状態でのインピーダンス値を先行してプロットする場合の例)
2.変形例(本来のプロットタイミングでのインピーダンス値もプロットする場合の例)
3.その他の変形例
【0015】
<1.実施の形態>
[構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステム(アブレーションシステム5)の全体構成例を、模式的にブロック図で表したものである。このアブレーションシステム5は、例えば
図1に示したように、患者9の体内における患部90を治療する際に用いられるシステムであり、そのような患部90に対して所定のアブレーションを行うようになっている。なお、上記した患部90としては、例えば、癌(肝癌,肺癌,乳癌,腎臓癌,甲状腺癌など)等の腫瘍を有する患部が挙げられる。
【0016】
アブレーションシステム5は、
図1に示したように、電極針1、液体供給装置2および電源装置3を備えている。また、このアブレーションシステム5を用いたアブレーションの際には、例えば
図1に示した対極板4も、適宜使用されるようになっている。
【0017】
(A.電極針1)
電極針1は、例えば
図1中の矢印P1で示したように、患者9の体内における患部90に対して、経皮的に穿刺される針である。この電極針1は、上記したアブレーションの際に使用されるものであり、例えば
図1に示したように、電極部11および被覆部12を有している。なお、このような電極針1の内部には、後述する液体供給装置2から供給される液体Lが、循環して流れるようになっている(
図1参照)。
【0018】
電極部11は、電極針1を構成する針状構造体のうち、絶縁性の被覆がなされてない領域部分であり、アブレーションの際の電極として機能する部分である。被覆部12は、上記した針状構造体のうち、絶縁性の被覆がなされている領域部分である。
図1に示したように、電極針1における先端付近に電極部11が配置されていると共に、この電極部11の基端側に被覆部12が配置されるようになっている。
【0019】
(液体供給装置2)
液体供給装置2は、上記した電極針1に対して冷却用の液体Lを供給する装置であり、例えば
図1に示したように、液体供給部21を有している。なお、この冷却用の液体Lとしては、例えば、滅菌水や、滅菌した生理食塩水などが挙げられる。
【0020】
液体供給部21は、後述する制御信号CTL2による制御に従って、上記した液体Lを電極針1に対して随時供給するものである。具体的には、例えば
図1に示したように、液体供給部21は、液体供給装置2の内部と電極針1の内部との間(所定の流路内)を液体Lが循環するようにして、液体Lの供給動作を行う。また、詳細は後述するが、上記した制御信号CTL2による制御に従って、このような液体Lの供給動作が実行されたり、停止されたりするようになっている。なお、このような液体供給部21は、例えば、液体ポンプ等を含んで構成されている。
【0021】
(電源装置3)
電源装置3は、電極針1と対極板4との間にアブレーションを行うための電力Pout(例えば高周波(RF;Radio Frequency)の電力)を供給すると共に、上記した液体供給装置2における液体Lの供給動作を制御する装置である。この電源装置3は、
図1に示したように、入力部31、電源部32、制御部33および表示部34を有している。
【0022】
入力部31は、各種の設定値や、後述する所定の動作を指示するための指示信号(操作信号Sm)を入力する部分である。このような操作信号Smは、電源装置3の操作者(例えば技師等)による操作に応じて、入力部31から入力されるようになっている。ただし、これらの各種の設定値が、操作者による操作に応じて入力されるのではなく、例えば、製品の出荷時等に予め電源装置3内で設定されているようにしてもよい。また、入力部31により入力された設定値は、後述する制御部33へ供給されるようになっている。なお、このような入力部31は、例えば所定のダイヤルやボタン、タッチパネル等を用いて構成されている。
【0023】
電源部32は、後述する制御信号CTL1に従って、上記した電力Poutを電極針1と対極板4との間に供給する部分である。このような電源部32は、所定の電源回路(例えばスイッチングレギュレータ等)を用いて構成されている。なお、電力Poutが高周波電力からなる場合、その周波数は、例えば450kHz~550kHz程度(例えば500kHz)である。
【0024】
制御部33は、電源装置3全体を制御すると共に所定の演算処理を行う部分であり、例えばマイクロコンピュータ等を用いて構成されている。具体的には、制御部33は、まず、制御信号CTL1を用いて、電源部32における電力Poutの供給動作を制御する機能(電力供給制御機能)を有している。また、制御部33は、制御信号CTL2を用いて、液体供給装置2(液体供給部21)における液体Lの供給動作を制御する機能(液体供給制御機能)を有している。更に、制御部33は、後述する表示部34における表示動作を制御する機能(表示制御機能)を有している。
【0025】
このような制御部33にはまた、例えば
図1に示したように、電極針1(電極部11の内部に配置された熱電対等の温度センサ)において測定された温度情報Itが、随時供給されるようになっている。また、例えば
図1に示したように、制御部33には、上記した電源部32からインピーダンス値Z(後述)の測定値が、随時供給されるようになっている。
【0026】
なお、上記した電力供給制御機能、液体供給制御機能および表示制御機能を含め、制御部33における制御動作等の詳細については、後述する。
【0027】
表示部34は、各種の情報を表示して外部へと出力する部分(モニター)である。表示対象の情報としては、例えば、入力部31から入力される前述の各種の設定値や、制御部33から供給される各種パラメータ(例えば、後述するインピーダンス値Zやブレイク回数Nbのカウント値など)、電極針1から供給される温度情報Itなどが挙げられる。ただし、表示対象の情報としてはこれらの情報には限られず、他の情報を代わりに、あるいは他の情報を加えて表示するようにしてもよい。このような表示部34は、各種の方式によるディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなど)を用いて構成されている。
【0028】
なお、このような表示部34上に表示される情報の詳細例については、後述する。
【0029】
(対極板4)
対極板4は、例えば
図1に示したように、アブレーションの際に患者9の体表に装着された状態で用いられるものである。詳細は後述するが、アブレーションの際に、前述した電極針1(電極部11)とこの対極板4との間で、高周波通電がなされる(電力Poutが供給される)ようになっている。また、詳細は後述するが、このようなアブレーションの際に、
図1に示したように、電極針1(電極部11)と対極板4との間のインピーダンス値Zが随時測定され、測定されたインピーダンス値Zが、電源装置3内において電源部32から制御部33へと供給されるようになっている。
【0030】
[動作および作用・効果]
(A.基本動作)
このアブレーションシステム5では、例えば癌等の腫瘍を有する患部90を治療する際に、そのような患部90に対して所定のアブレーションが行われる(
図1参照)。このようなアブレーションでは、まず、例えば
図1中の矢印P1で示したように、患者9の体内の患部90に対し、電極針1が先端側(電極部11側)から経皮的に穿刺される。そして、この電極針1と対極板4との間に、電源装置3(電源部32)から電力Pout(例えば高周波電力)が供給されることで、患部90に対して、ジュール発熱によるアブレーションが行われる。
【0031】
また、このようなアブレーションの際には、液体供給装置2の内部と電極針1の内部との間(所定の流路内)を冷却用の液体Lが循環するように、液体供給装置2(液体供給部21)から電極針1に対して液体Lが供給される(
図1参照)。これにより、アブレーションの際に、電極針1に対する冷却動作(クーリング)が行われる。なお、アブレーションの終了後には、このような冷却動作も停止された後、電極針1において測定された温度情報Itを基に、患部90の組織温度が十分に上昇しているのかなど、患部の焼灼具合が確認される。
【0032】
図2は、このようなアブレーションによる患部90での焼灼具合の一例を、模式的に表したものである。この
図2に示したように、患部90に穿刺された電極針1を用いて上記したアブレーションがなされると、例えば、当初のラグビボール状(楕円球状)の熱凝固領域Ah1が、徐々に拡がっていくことで、ほぼ球状の熱凝固領域Ah2が得られる(
図2中の破線の矢印を参照)。これにより、患部90全体への等方的なアブレーションが行われる結果、患部90への効果的な治療がなされることになる。
【0033】
(B.ブレイク状態およびブレイク回数について)
ここで、
図1,
図2に加えて
図3を参照して、上記したアブレーションの詳細(後述するブレイク状態およびブレイク回数)について説明する。
図3は、アブレーションの際のブレイク状態およびブレイク回数の一例を、タイミング図にて模式的に表したものである。具体的には、この
図3では、電極針1(電極部11)と対極板4との間のインピーダンス値Zの測定波形例を、時間軸に沿って示している。なお、
図3中に示したインピーダンス値Zの閾値Zthは、本発明における「所定の閾値」の一具体例に対応している。
【0034】
図3に示した例のように、一般に、電極針を使用したアブレーションの際には、患部90における組織内の水分の蒸発により、インピーダンス値Zが急激に上昇していく。このようなインピーダンス値Zの急激な上昇(インピーダンスライズ)は、患部90における組織の熱凝固の指標となることから、アブレーションの際の停止タイミングの目安となる。具体的には、インピーダンス値Zが所定の閾値Zthを越えた状態(Z>Zth)は、「ブレイク状態」と呼ばれる(
図3参照)。また、このようなブレイク状態となると、アブレーション(電力Poutの供給)が一時的に停止された後、アブレーションが再開される。なお、アブレーションが一時的に停止されると、周りの組織から患部90における組織内へ水分が供給される結果、インピーダンス値Zが再度低下することになる(
図3参照)。そして、このような断続的なアブレーションが複数回繰り返されることで、患部90への治療がなされる。なお、上記したアブレーションの一時的な停止時間(アブレーションの再開までの待機時間)としては、例えば、予め設定された所定時間(例えば10秒~15秒程度)、または、インピーダンス値Zが概ね上昇前の値に戻るまでの時間が挙げられる。
【0035】
具体的には、この
図3に示した例では、時間の経過とともに、タイミングt1,t2,t3の3回、ブレイク状態となってアブレーションが一時的に停止されている。このように、ブレイク状態が複数回繰り返される場合におけるブレイク状態の回数を、以下、「ブレイク回数Nb」と称する。つまり、この
図3の例では、タイミングt1において1回目のブレイク状態となり(Nb=1)、タイミングt2において2回目のブレイク状態となり(Nb=2)、タイミングt3において3回目のブレイク状態となっている(Nb=3)。
【0036】
ちなみに、電極針1を使用したアブレーションによる患部90への治療では、このブレイク回数Nbは、一般に、2~3回(Nb=2またはNb=3)程度が目安とされている。つまり、前述の
図2中に示した熱凝固領域Ah1,Ah2はそれぞれ、一例として、Nb=1,Nb=3の場合に相当している。
【0037】
(C.表示部34上でのインピーダンス値Zのプロットについて)
ここで、
図1~
図3に加えて、
図4~
図7を参照して、表示部34上でのインピーダンス値Zのプロットについて、比較例(
図7)と比較しつつ詳細に説明する。
【0038】
図4は、本実施の形態に係るアブレーションの際の、表示部34での表示態様の一例を、模式的に表したものである。
図5は、インピーダンス値Zの測定データDlogの一例を、タイミング図で表したものである。
図6は、本実施の形態に係るインピーダンス値Zのプロット例を、タイミング図で表したものである。
図7は、比較例に係るインピーダンス値Zのプロット例を、タイミング図で表したものである。
【0039】
なお、
図5~
図7に示したインピーダンス値Zのプロット例では、いずれも、インピーダンス値Zの測定波形における、時間軸に沿った一部分のみを図示している。また、本実施の形態および後述する比較例ではいずれも、以下の各周期の数値例が、以下のようになっているものとする。
・インピーダンス値Zの測定周期(=ブレイク状態の判定周期):500[ms]
・測定データDlogの保存周期:500[ms]
・表示部34上でのインピーダンス値Zのプロット周期:3000[ms]=3[s]
【0040】
まず、例えば
図4に模式的に示したように、電源装置3における表示部34には、以下のような各種情報が表示されるようになっている。具体的には、この表示部34では、まず、前述した
図3にも模式的に示したように、インピーダンス値Zの測定波形が、時間軸に沿って表示されている(
図4中の符号P20参照)。また、この表示部34の例では更に、インピーダンス値Zの現在値(Impedance:符号P21参照)と、前述した温度情報It(Temperature:符号P22参照)と、電力Poutの出力値(Power:符号P23参照)と、アブレーション時間の情報(Ablation Time:符号P24参照)とが、それぞれ表示されている。更に、この表示部34の例では、
図4中に示したように、インピーダンス値Zの現在値(符号P21参照)とともに、前述したブレイク回数Nbのカウント値が、併せて表示されている。そして、詳細は後述するが、この表示部34の例では、
図4中の符号P25で示したように、アブレーションの開始時から初回のブレイク状態となるまでの経過時間(前述したタイミングt1までの時間)と、電力Poutの供給動作によるエネルギー量ΔEとがそれぞれ、表示されるようになっている。
【0041】
この
図4に示したように、表示部34上には、インピーダンス値Zの時間的な推移(測定波形の時間軸に沿った変化)が表示されている。このインピーダンス値Zの時間的な推移では、複数回のブレイク状態を含んだ手技全体について表示させる必要があるため、時間軸のレンジは、一般的に長くなる傾向にある(例えば、15分程度)。また、表示部34の解像度には限界があるため、表示部34上におけるインピーダンス値Zのプロット間隔(プロット周期)も、一般的には長くなる傾向にある(例えば上記した一例のように、3秒程度)。これらのことから、インピーダンス値Zの測定データDlogの保存周期(例えば上記した一例のように、0.5秒程度)よりも、インピーダンス値Zのプロット周期が粗いことになるため、アブレーションの際に、表示部34上にブレイク状態がプロットできない(プロットが漏れてしまう)ケースが生じ得る。
【0042】
ここで、
図5~
図7を参照して、このようなブレイク状態についての表示部34上でのプロット漏れの発生の有無等について、詳細に説明する。
【0043】
なお、これらの
図5~
図7では、ブレイク状態のプロット点(ブレイク点Pb)、ブレイク状態(ブレイク点Pb)でのインピーダンス値Z=Zb(=Z1)、後述するインピーダンス値Z=Z2、前述したブレイク状態の判定周期Tj、前述したインピーダンス値Zのプロット周期Tp(>Tj)、制御部33によるブレイク状態の判定タイミングtj、表示部34上における時間軸に沿ったインピーダンス値Zのプロットタイミングtp等を、図示しており、以降も同様である。
【0044】
まず、上記したように、ブレイク状態の判定周期Tjと比べて、インピーダンス値Zのプロット周期Tpは長くなることから(Tp>Tj)、表示部34上では、測定データDlogに含まれる一部のインピーダンス値Zのみが、間引かれてプロットされることになる。したがって、ブレイク状態の判定タイミングtjと、インピーダンス値Zのプロットタイミングtpとの関係によっては、以下のようにして、ブレイク状態(ブレイク点Pb)のプロット漏れが発生するおそれがある。なお、以降の例では、アブレーションの開始から330.5[s]後のタイミングで発生したブレイク点Pbに着目して、説明する。
【0045】
最初に、
図5,
図6を参照すると、例えば
図6に示したように、ブレイク状態の判定タイミングtjと、インピーダンス値Zのプロットタイミングtpとが、一致した(重なった)場合には、以下のようになる。すなわち、この場合には、ブレイク状態(ブレイク点Pb)と判定されたタイミング(判定タイミングtj)でのインピーダンス値Zb(=Z1)が、プロットタイミングtp(=tj:330.5[s])において、そのまま、表示部34上にプロットされることになる(
図6参照)。したがって、この
図6の場合には、ユーザ(電源装置3の操作者)は、表示部34上で、ブレイク状態(ブレイク点Pb)を把握することが可能となる。
【0046】
一方、
図5,
図7を参照すると、例えば
図7(比較例)に示したように、ブレイク状態の判定タイミングtjと、インピーダンス値Zのプロットタイミングtpとが、一致していない(重なってない)場合には、以下のようになる。すなわち、この
図7に示した比較例では、ブレイク状態(ブレイク点Pb)と判定されたタイミング(判定タイミングtj)でのインピーダンス値Zb(=Z1)が、表示部34上にはプロットされず、漏れてしまうことになる。具体的には、この
図7の場合、判定タイミングtj(=330.5[s])よりも後(1[s]後)に位置するプロットタイミングtp(=331.5[s])では、上記したインピーダンス値Zbから低下したインピーダンス値Z2(<Zb)が、表示部34上にプロットされている。したがって、この
図7の比較例の場合、ユーザは表示部34上で、ブレイク状態(ブレイク点Pb)を把握することができず、ブレイク状態の発生に気が付かないおそれがある。
【0047】
ここで、アブレーションの際には一般に、アブレーションの開始から初回のブレイク状態までの時間を把握することは、臨床上重要であると言える。これは、この初回のブレイク状態までの時間を基にして、アブレーションの際の焼灼エネルギー(患部90の焼灼具合に関係するパラメータ)が予測されることから、ブレイク状態(ブレイク点Pb)を漏れなく表示部34上にプロットさせることは、臨床上重要なのである。
【0048】
このようにして、上記比較例では、判定タイミングtjでのインピーダンス値Zb(=Z1)について、表示部34上でのプロット漏れが生じ得ることから、初回のブレイク状態までの時間等について、ユーザが誤認識するおそれがある。その結果、この比較例では、アブレーションシステムを使用する際の利便性が、損なわれてしまうと言える。
【0049】
(D.本実施の形態のアブレーション)
そこで、例えば
図8~
図10等に示したように、本実施の形態のアブレーションシステム5では、以下詳述する手法でアブレーションを行うことで、上記比較例における課題を解決するようにしている。
【0050】
ここで、
図8は、本実施の形態のアブレーションシステム5におけるアブレーションの処理例を、流れ図で表したものである。また、
図9は、本実施の形態に係るインピーダンス値の他のプロット例(実施例に係るプロット例)を、タイミング図で表したものであり、前述した
図7の比較例と比較した実施例に対応している。なお、この
図9の実施例における前提条件となる数値例等は、前述した
図5~
図7における数値例等と、同様となっている。
【0051】
この本実施の形態のアブレーションでは、まず、前述した閾値Zth(インピーダンス値Zの閾値)と、例えば、後述する閾値Nth(ブレイク回数Nbの閾値)と、の設定を行う(
図8のステップS10)。具体的には、これらの閾値Zthおよび閾値Nthの設定値がそれぞれ、電源装置3の操作者による操作に応じて入力部31から入力され、制御部33へと供給される。
【0052】
ここで、閾値Nthとしては、ブレイク回数Nbに関して前述したように、例えば3回(Nth=3)が挙げられる。また、閾値Zthとしては、絶対値で規定する手法(例えば、Zth=120[Ω]程度)と、相対値で規定する手法(何Ωもしくは何%上昇したかで規定する手法)と、に大別される。更に、この相対値で規定する手法としても、アブレーションの開始時におけるインピーダンス値Zを基準として規定する手法と、アブレーション開始後におけるインピーダンス値Zの最小値を基準として規定する手法と、が挙げられる。なお、前述したように、このような閾値Zthや閾値Nthの設定値が、操作者による操作に応じて入力されるのではなく、例えば、製品の出荷時等に予め電源装置3内で設定されているようにしてもよい。
【0053】
次に、電極針1と対極板4との間に電源装置3(電源部32)から電力Poutを供給することで、患部90に対するアブレーションを開始する(ステップS11)。具体的には、このアブレーションの開始は、電源装置3の操作者による操作に応じて、操作信号Smが入力部31から入力されて制御部33へと供給されることで、実行される。すなわち、この例では、アブレーションが手動で開始されるようになっている。
【0054】
続いて、このようなアブレーションが開始されると、電源部32はまず、電極針1と対極板4との間のインピーダンス値Zを測定する(ステップS12)。言い換えると、制御部33は、そのようなインピーダンス値Zの測定情報を取得する。そして、このようにして測定されたインピーダンス値Zが、電源部32から制御部33へと供給されると、次に制御部33は、以下の判定を行う。すなわち、制御部33は、このインピーダンス値Zが、ステップS10において設定された閾値Zthよりも大きいのか否か(Z>Zthを満たすのか否か)、つまり、前述したブレイク状態になったのか否かを判定する(ステップS13)。ここで、インピーダンス値Zが閾値Zth以下である(Z>Zthを満たさない)と判定された場合には(ステップS13:N)、上記したステップS12へと戻り、再びインピーダンス値Zの測定が行われる。
【0055】
一方、インピーダンス値Zが閾値Zthよりも大きい(Z>Zthを満たす)と判定された場合(ステップS13:Y)、前述したブレイク状態になったことを意味する。そこで、この場合、次に制御部33は、このブレイク状態の回数(ブレイク回数Nb)を自動的にカウントする(ステップS14)。なお、このブレイク回数Nbのカウント値は、例えば制御部33内の各種記憶媒体に、随時記憶されることになる。
【0056】
続いて、制御部33は、前述した制御信号CTL1を用いて、電源部32からの電力Poutの供給を一時的に低下または停止させることで、アブレーションを一時的に停止させる(ステップS15)。これにより前述したように、インピーダンス値Zが再度低下し、ブレイク状態から抜けることになる。
【0057】
次いで、制御部33は、前述した、ブレイク状態の判定タイミングtjと、表示部34上における時間軸に沿ったインピーダンス値Zのプロットタイミングtpとが、互いに一致するのか否かについて、判定を行う(ステップS16)。そして、制御部33は、その判定結果に応じて、ブレイク状態と判定されたタイミング(判定タイミングtj)でのインピーダンス値Zb(=Z1)が、表示部34上にプロットされるように、そのインピーダンス値Z1のプロットタイミングを調整する。
【0058】
具体的には、まず、上記した判定タイミングtjとプロットタイミングtpとが、互いに一致すると判定された場合には(ステップS16:Y)、以下のようになる。すなわち、この場合には制御部33は、例えば前述した
図6のように、ブレイク状態と判定されたタイミング(判定タイミングtj)でのインピーダンス値Zb(=Z1)を、そのまま表示部34上にプロットさせて、そのインピーダンス値Z1のプロットタイミングの調整を行わないようにする(ステップS17)。また、この際に制御部33は、このインピーダンス値Z1を、表示部34における、インピーダンス値Zの本来のプロットタイミングtpに対応する時間軸(
図6の例では、tp=tj=330.5[s])上に、プロットさせる。なお、その後は、後述するステップS19へと進むことになる。
【0059】
一方、上記した判定タイミングtjとプロットタイミングtpとが、互いに一致しないと判定された場合には(ステップS16:N)、以下のようになる。すなわち、この場合には制御部33は、例えば
図9に示した実施例のように、ブレイク状態と判定されたタイミング(判定タイミングtj)でのインピーダンス値Zb(=Z1)が、表示部34上にプロットされるように、そのインピーダンス値Z1のプロットタイミングの調整を行う(ステップS18)。具体的には、本実施の形態では制御部33は、このインピーダンス値Z1が、インピーダンス値Zの本来のプロットタイミングtp(
図9の実施例では、tp=331.5[s])から先行してプロットされるように、インピーダンス値Z1のプロットタイミングを調整する。つまり、この
図9の実施例では、本来のプロットタイミングtpよりも前(直前)に位置する判定タイミングtj(=330.5[s])におけるインピーダンス値Z1(ブレイク点Pbでのインピーダンス値Zb)が、本来のプロットタイミングtpにおいてプロットされるように(
図9中に示したプロット点Pp1参照)、プロットタイミングの調整が行われる。また、この際にも制御部33は、上記したインピーダンス値Z1を、表示部34における、インピーダンス値Zの本来のプロットタイミングtpに対応する時間軸(
図9の実施例では、tp=331.5[s])上に、プロットさせる。なお、その後は、以下説明するステップS19へと進むことになる。
【0060】
次に、このステップS19では、制御部33は、前述したように、タイミングt1(アブレーションの開始時から初回のブレイク状態となるまでの経過時間)と、電力Poutの供給動作によるエネルギー量ΔEと、の各情報を、表示部34上に表示させる(例えば
図4中の符号P25参照)。なお、この
図4の例では、これらのタイミングt1およびエネルギー量ΔEの双方の情報が、表示部34上に表示されているが、例えば、これらの情報のうちの一方のみが、表示部34上に表示されるようにしてもよい。
【0061】
続いて、制御部33は、電力Poutの供給を再開させるのか否か等に関する、所定の条件を満たすのか否かについて、判定を行う(ステップS20)。具体的には、そのような所定の条件としては、一例として、前述したステップS14においてカウントされたブレイク回数Nbが、ステップS10において設定された閾値Nth以上であるのか否か(Nb≧Nthを満たすのか否か)、という条件が挙げられる。
【0062】
この例では、ブレイク回数Nbが閾値Nth未満である(Nb≧Nthを満たさない)と判定された場合、つまり、上記した所定の条件を満たさないと判定された場合には(ステップS20:N)、以下のようになる。すなわち、この場合には、次に、電力Poutの供給(アブレーション)が、自動的または手動により再開される(ステップS21)。
【0063】
ここで、
図10は、このような電力Poutの供給再開(ステップS21)の際の、動作モードの一例を表したものである。この
図10に示したように、このときの動作モードとしては、例えば、「フルオートモード(第1の動作モード)」と、「セミオートモード(第2の動作モード)」との、2種類の動作モードが挙げられる。
【0064】
まず、フルオードモードでは、上記した所定の条件を満たさないと判定された場合(例えば、ブレイク回数Nbが閾値Nthに到達していない場合)には(ステップS20:N)、以下のようになる。すなわち、制御部33により、電力Poutの供給(アブレーション)を自動的に再開させる(ステップS21)。具体的には、制御部33は、前述した制御信号CTL1を用いて、電源部32からの電力Poutの供給を、自動的に再開させる。つまり、このフルオートモードでは、電力Poutの供給が、自動的に再開されるようになっている。
【0065】
一方、セミオードモードでは、上記した所定の条件を満たさないと判定された場合(例えば、ブレイク回数Nbが閾値Nthに到達していない場合)には(ステップS20:N)、以下のようになる。すなわち、このセミオートモードでは、電源装置3の操作者による操作に応じて入力される操作信号Smに基づいて、制御部33が電力Poutの供給(アブレーション)を再開させる(ステップS21)。つまり、このセミオートモードでは、電力Poutの供給が、手動により再開されるようになっている。
【0066】
また、本実施の形態では、例えば電源装置3において、このような2種類の動作モード(「フルオートモード」および「セミオートモード」)が、切り替え可能となっていてもよい(
図10中に示した破線の矢印P3参照)。すなわち、例えば、電源装置3の操作者による操作に応じて入力される操作信号Smに基づいて、これらの2種類の動作モードが、随時切り替えられるようになっていてもよい。
【0067】
なお、このような電力Poutの供給(アブレーション)が再開された後は、前述したステップS12へと戻り、再びインピーダンス値Zの測定が行われることになる。ちなみに、前述したステップS15において、電力Poutの供給を一時的に「低下」させる場合には、前述したブレイク状態においても、インピーダンス値Zが測定し続けられるようになっている。一方、ステップS15において、電力Poutの供給を一時的に「停止」させる場合には、ブレイク状態になると、インピーダンス値Zの測定は行われないようになっている。
【0068】
ここで、上記したステップS20において、ブレイク回数Nbが閾値Nth以上である(Nb≧Nthを満たす)と判定された場合、つまり、上記した所定の条件を満たさないと判定された場合には(ステップS20:Y)、次に制御部33は、以下の制御を行う。すなわち、この場合には制御部33は、電源部32からの電力Poutの供給を自動的に停止(完全停止)させることにより、アブレーションを自動的に終了させる(ステップS22)。具体的には、制御部33は、前述した制御信号CTL1を用いて、電力Poutの供給を自動的に停止させる。これにより、患部90に対するアブレーションが、制御部33によって自動的に終了させられることになる。
【0069】
続いて、制御部33は、このようにしてアブレーションを自動的に終了させた(ステップS22)後に、液体供給装置2からの冷却用の液体Lの供給も、自動的に停止させる(ステップS23)。具体的には、制御部33は、前述した制御信号CTL2を用いて、液体供給部21からの液体Lの供給を、自動的に停止させる。これにより、液体供給装置2の内部と電極針1の内部との間での液体Lの循環が停止され(
図1参照)、電極針1に対する冷却動作(クーリング)が停止される。以上で、
図8に示した一連の処理(本実施の形態のアブレーションの処理例)が終了となる。
【0070】
(E.作用・効果)
このようにして、本実施の形態のアブレーションシステム5では、制御部33はアブレーションの際に、以下のような制御を行う。すなわち、まず、制御部33は、電極針1と対極板4との間のインピーダンス値Zを測定する(
図8のステップS12)と共に、このインピーダンス値Zが閾値Zthを越えて、ブレイク状態になったのか否かを判定する(ステップS13)。そして、制御部33は、ブレイク状態の判定タイミングtjと、表示部34上における時間軸に沿ったインピーダンス値Zのプロットタイミングtpとが、互いに一致するのか否かの判定(ステップS16)の結果に応じて、以下のような調整を行う。つまり、制御部33は、ブレイク状態と判定されたタイミング(判定タイミングtj)でのインピーダンス値Zb(=Z1)が、表示部34上にプロットされるように、そのインピーダンス値Z1のプロットタイミングを調整する。
【0071】
具体的には、本実施の形態の例では、制御部33は、上記した判定タイミングtjとプロットタイミングtpとが互いに一致すると判定された場合には(ステップS16:Y)、インピーダンス値Z1をそのまま表示部34上にプロットさせて、そのインピーダンス値Z1のプロットタイミングの調整を行わない(ステップS17)。一方、制御部33は、判定タイミングtjとプロットタイミングtpとが互いに一致しないと判定された場合には(ステップS16:N)、インピーダンス値Z1が表示部34上にプロットされるように、そのインピーダンス値Z1のプロットタイミングの調整を行う(ステップS18)。
【0072】
このようにして本実施の形態では、前述した比較例(
図7)の場合とは異なり、以下のようになる。すなわち、ブレイク状態と判定されたタイミングでのインピーダンス値Zb(=Z1)が、漏れなく表示部34上にプロットされることになる(インピーダンス値Zbの表示部34上でのプロット抜けが、防止される)。その結果、例えば、初回のブレイク状態までの時間(ブレイク回数Nb=1となるタイミングt1までの時間)等について、ユーザの誤認識が防止され易くなる。よって本実施の形態では、前述した比較例(
図7)の場合等と比べ、アブレーションシステム5を使用する際の利便性を、向上させることが可能となる。
【0073】
また、本実施の形態では、高解像度の表示部34が不要となり、低解像度の表示部34でも済むようになることから、電源装置3およびアブレーションシステム5における製造コストを低減することも可能となる。
【0074】
ちなみに、前述した実施例等における数値例では、ブレイク状態の判定周期Tj(=500[ms])と、表示部34上でのインピーダンス値Zのプロット周期Tp(=3[s])との間の時間差(タイムラグ)が、長い場合には、2[s]以上にもなるケースがある。このように、これらの間の時間差が、比較的長くなっている場合には、本実施の形態(および後述する変形例)で説明したプロット手法の効果が、特に大きいと言える。一方、これらの間の時間差が、比較的短くなっている(例えば、100[ms]未満程度である)場合には、本実施の形態等におけるプロット手法の効果が、多少薄れることになると言える。これらのことから、上記したブレイク状態の判定周期Tjと、表示部34上でのインピーダンス値Zのプロット周期Tpとの間の時間差が、例えば100[ms]以上となっている場合に、本実施の形態等におけるプロット手法を適用するのが、特に望ましいと言える。また、本実施の形態等におけるプロット手法は、例えば、電力Poutの出力値を瞬時に低下させる制御を行う場合に、特に有効であると言える。
【0075】
また、本実施の形態では、制御部33は、判定タイミングtjとプロットタイミングtpとが互いに一致しないと判定された場合に(ステップS16:N)、以下のようにして、インピーダンス値Z1のプロットタイミングの調整を行う(ステップS18)。すなわち、例えば
図9に示したように、制御部33は、このインピーダンス値Z1が、インピーダンス値Zの本来のプロットタイミングtpから先行してプロットされるように、そのインピーダンス値Z1のプロットタイミングを調整する。このようにした場合、インピーダンス値Zの測定データ(例えば、
図5に示した測定データDlog参照)におけるタイミング波形の形状が、ほぼ維持されつつ、インピーダンス値Z1が漏れなく表示部34上にプロットされる(例えば
図9参照)。その結果、本来のタイミング波形に近い形状で把握することができ、アブレーションシステム5を使用する際の利便性を、更に向上させることが可能となる。
【0076】
更に、本実施の形態では、制御部33は、インピーダンス値Z1を、表示部34におけるインピーダンス値Zの本来のプロットタイミングtpに対応する時間軸上に、プロットさせるようにしたので(例えば
図9参照)、以下のようになる。すなわち、上記したように、インピーダンス値Z1が本来のプロットタイミングtpから先行してプロットされる場合においても、表示部34上において、そのインピーダンス値Z1の前後のプロット間隔が、維持されることになる。その結果、例えば、表示部34の解像度が低い場合であっても、上記したようにインピーダンス値Z1を、本来のプロットタイミングtpから先行してプロットさせることができる。よって、アブレーションシステム5を使用する際の利便性を、より一層向上させることが可能となる。
【0077】
加えて、本実施の形態では、制御部33は、アブレーションの開始時から初回のブレイク状態となるまでの経過時間(前述したタイミングt1までの時間)と、電力Poutの供給動作によるエネルギー量ΔEと、のうちの少なくとも一方の情報を、表示部34上に表示させるようにしたので(ステップS19:例えば
図4参照)、以下のようになる。すなわち、アブレーションの際における患部90の焼灼具合を、容易に予測することができるようになる結果、アブレーションシステム5を使用する際の利便性を、更に向上させることが可能となる。
【0078】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例について説明する。なお、以下の変形例では、実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本変形例では、アブレーションシステム5のブロック構成自体は、実施の形態で説明したもの(
図1参照)と同様であるため、その説明については省略する。
【0079】
図11は、本変形例に係るアブレーションの処理例を、流れ図で表したものであり、実施の形態における
図8に対応したものとなっている。また、
図12は、本変形例に係るインピーダンス値のプロット例を、タイミング図で表したものであり、実施の形態における
図9(実施例)に対応したものとなっている。
【0080】
図11に示した本変形例のアブレーション処理例は、
図8に示した実施の形態のアブレーション処理例において、ステップS18,S19の間に、以下説明するステップS24を更に追加したものとなっており、他の処理(各ステップ)は、同様となっている。
【0081】
このステップS24では、前述した判定タイミングtjとプロットタイミングtpとが、互いに一致しないと判定された場合(ステップS16:N)において、制御部33が、以下のようなプロット調整を行う。すなわち、この場合において、制御部33は、実施の形態で説明したインピーダンス値Z1(=Zb)のプロット(ステップS18)に加えて、インピーダンス値Zの本来のプロットタイミングtpにおけるインピーダンス値Z2も、表示部34上にプロットさせる(ステップS24)。
【0082】
具体的には、
図12に示した例では、制御部33は、まず、
図9にて説明したように、インピーダンス値Z1(ブレイク点Pbでのインピーダンス値Zb)が、本来のプロットタイミングtp(=331.5[s])にてプロットされるように(プロット点Pp1参照)、プロットタイミングの調整を行う。そして、制御部33は、このようなインピーダンス値Z1(=Zb:プロット点Pp1)に加えて、本来のプロットタイミングtpにおけるインピーダンス値Z2(<Zb)も、プロットされるようにする(
図12中のプロット点Pp2参照)。また、この際に制御部33は、これらのインピーダンス値Z1,Z2をそれぞれ、表示部34における、上記した本来のプロットタイミングtpに対応する時間軸上に、プロットさせるようにする。
【0083】
なお、このようなステップS24の後は、前述したステップS19へと進むことになる。
【0084】
このようにして本変形例では、制御部33は、ブレイク状態の判定タイミングtjとインピーダンス値Zのプロットタイミングtpとが、互いに一致しないと判定された場合に(ステップS16:N)、以下のようにする。すなわち、制御部33は、実施の形態で説明したインピーダンス値Z1(=Zb)に加えて、インピーダンス値Zの本来のプロットタイミングtpにおけるインピーダンス値Z2も、表示部34上にプロットさせる(
図11のステップS24:例えば
図12参照)。これにより本変形例では、インピーダンス値Z1が本来のプロットタイミングtpから先行してプロットされることに伴う、インピーダンス値Z1のプロットタイミングから次のインピーダンス値Zのプロットタイミングまでの、時間間隔(プロット間隔)の間延びが、回避される。
【0085】
具体的には、
図9に示した、実施の形態における実施例の場合、インピーダンス値Z1(=Zb)を先行して(先取りして)プロットしているため、判定タイミングtjとプロットタイミングtpとの間の時間差(この例では1秒間)の分、次のプロットまでの時間が延びてしまうことになる。つまり、この例では、本来のプロット間隔は3秒間であるところ、実際には、判定タイミングtj=330.5[s]から次のプロットタイミングtp=334.5[s]までの4秒間に、プロット間隔が延びてしまっている。これに対して、
図12に示した本変形例の場合、このようなインピーダンス値Z1に加えて、本来のプロットタイミングtp(=331.5[s])でのインピーダンス値Z2もプロットされることから、そのようなプロット間隔の間延びが、回避される。ちなみに、この
図12の例では、インピーダンス値Z1のプロットタイミングから、次のプロットタイミング(インピーダンス値Z2のプロットタイミング)までは、1秒間となるため、むしろ、プロット間隔が縮まっていることになる。
【0086】
このようにして本変形例では、上記実施の形態と比べ、アブレーションシステム5を使用する際の利便性を、より一層向上させることが可能となる。
【0087】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0088】
例えば、上記実施の形態等において説明した各部材の材料等は限定されるものではなく、他の材料としてもよい。また、上記実施の形態等では、電極針1の構成を具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての部材を備える必要はなく、また、他の部材を更に備えていてもよい。更に、上記実施の形態等で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0089】
また、上記実施の形態等では、液体供給装置2および電源装置3のブロック構成を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明した各ブロックを必ずしも全て備える必要はなく、また、他のブロックを更に備えていてもよい。また、アブレーションシステム5全体としても、上記実施の形態等で説明した各装置に加えて、他の装置を更に備えていてもよい。
【0090】
更に、上記実施の形態等では、電力供給制御機能と液体供給制御機能と表示制御機能とを含む、制御部33における制御動作(アブレーションの手法)について具体的に説明した。しかしながら、これらの電力供給制御機能、液体供給制御機能および表示制御機能等における制御手法(アブレーションの手法)については、上記実施の形態等で挙げた手法には限られない。具体的には、例えば、ブレイク状態と判定されたタイミングでのインピーダンス値Zb(インピーダンス値Z1)の、表示部34上へのプロット手法(プロットタイミングの調整手法)については、上記実施の形態等で挙げた手法には限られず、他の手法を用いるようにしてもよい。ちなみに、上記実施の形態等で説明したプロット手法は、特に、前述したセミオートモード(電力Poutの供給が手動により再開されるモード)の場合に、特に有効になると言える。また、例えば、ブレイク状態と判定されたタイミングでのインピーダンス値Zb(インピーダンス値Z1)を、測定データDlogとして電源装置3内に保存する手法についても、上記実施の形態等で説明したプロット手法と同様の手法を、適用することが可能である。
【0091】
また、上記実施の形態等で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0092】
更に、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。