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特許7454775異常診断装置、異常診断方法、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】異常診断装置、異常診断方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020130788
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027030
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】野村 真澄
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達男
(72)【発明者】
【氏名】森田 克明
(72)【発明者】
【氏名】池田 龍司
(72)【発明者】
【氏名】長原 健一
(72)【発明者】
【氏名】小川 草太
(72)【発明者】
【氏名】松倉 紀行
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 智
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 友基
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-119823(JP,A)
【文献】特開平6-332528(JP,A)
【文献】特開2019-204145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器から取得した状態量それぞれについて異常の有無を判定する異常判定部と、
フォールトツリー解析により特定された前記機器の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、前記異常判定部により異常があると判定された状態量から前記機器の異常の要因を推定する要因推定部と、
を備える
前記異常判定部は、前記状態量それぞれについて、前記状態量毎に設定された制約からの差に応じた異常度合いを更に判定し、
前記要因推定部は、前記要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量の異常度合いとを更に対応付けた前記要因対応表を用いて、前記機器の異常の要因を推定する、
異常診断装置。
【請求項2】
前記機器の観測系により観測された観測値を前記状態量として取得する観測値取得部を更に備え、
前記異常判定部は、前記観測値取得部により取得された前記観測値と、前記観測値それぞれの正常値又は正常パターンとを比較して、前記機器の異常の有無を判定する、
請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記観測値取得部により取得された前記観測値に基づいて推定された、前記機器の物理量推定値を、前記状態量として取得する推定値取得部を更に備える、
請求項2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
異常診断装置が、機器から取得された状態量それぞれについて異常の有無を判定するステップと、
前記異常診断装置が、フォールトツリー解析により特定された前記機器の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、異常があると判定された状態量から前記機器の異常の要因を推定するステップと、
を有し、
前記異常の要因を推定するステップにおいて、
前記状態量それぞれについて、前記状態量毎に設定された制約からの差に応じた異常度合いを更に判定し、
前記要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量の異常度合いとを更に対応付けた前記要因対応表を用いて、前記機器の異常の要因を推定する、
異常診断方法。
【請求項5】
機器から取得された状態量それぞれについて異常の有無を判定するステップと、
フォールトツリー解析により特定された前記機器の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、異常があると判定された状態量から前記機器の異常の要因を推定するステップと、
を異常診断装置のコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記異常の要因を推定するステップにおいて、
前記状態量それぞれについて、前記状態量毎に設定された制約からの差に応じた異常度合いを更に判定し、
前記要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量の異常度合いとを更に対応付けた前記要因対応表を用いて、前記機器の異常の要因を推定する、
プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常診断装置、異常診断方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大型冷凍機や水中ポンプのような機器、プラント等では、観測系で異常な観測値を検知するとともに、異常が発生した要因を特定する異常診断を行い、健全性を監視することが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、観測系で観測された現実のデータからプラントの状態推定モデルを作成し、状態推定モデルによる予測のばらつきが増えた観測値を含む部分を異常とみなすことで、異常な振る舞いをしている箇所、すなわち異常要因を特定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6246755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、異常要因と、異常な振る舞いをする観測値との対応を体系的に示す手法ではない。したがって、特許文献1に記載された技術では、異常な観測値を特定できたとしても、異常要因を正しく診断するためには、異常要因に対応する独立した観測系を多数用意しなければならない。このため、既存の観測系を用いて、異常診断を精度よく行う技術が求められていた。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであって、機器の異常の要因を容易且つ精度よく推定可能な異常診断装置、異常診断方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、異常診断装置は、機器から取得した状態量それぞれについて異常の有無を判定する異常判定部と、フォールトツリー解析により特定された前記機器の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、前記異常判定部により異常があると判定された状態量から前記機器の異常の要因を推定する要因推定部と、を備える異常診断装置。
【0008】
本開示の一態様によれば、異常診断方法は、機器から取得された状態量それぞれについて異常の有無を判定するステップと、フォールトツリー解析により特定された前記機器の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、異常があると判定された状態量から前記機器の異常の要因を推定するステップと、を有する。
【0009】
本開示の一態様によれば、プログラムは、機器から取得された状態量それぞれについて異常の有無を判定するステップと、フォールトツリー解析により特定された前記機器の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、異常があると判定された状態量から前記機器の異常の要因を推定するステップと、を異常診断装置のコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る異常診断装置、異常診断方法、及びプログラムによれば、機器の異常の要因を容易且つ精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の第1の実施形態に係る設備の全体構成を示す図である。
図2】本開示の第1の実施形態に係る要因対応表を説明するための第1の図である。
図3】本開示の第1の実施形態に係る要因対応表を説明するための第2の図である。
図4】本開示の第1の実施形態に係る要因対応表を説明するための第3の図である。
図5】本開示の第1の実施形態に係る異常診断装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図6】本開示の第2の実施形態に係る要因対応表を説明するための第1の図である。
図7】本開示の第2の実施形態に係る要因対応表を説明するための第2の図である。
図8】本開示の第2の実施形態に係る要因対応表を説明するための第3の図である。
図9】本開示の第2の実施形態に係る異常診断装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図10】本開示の第3の実施形態に係る異常診断装置の機能構成を示す図である。
図11】本開示の第3の実施形態に係る要因対応表を説明するための第1の図である。
図12】本開示の第3の実施形態に係る要因対応表を説明するための第2の図である。
図13】本開示の第3の実施形態に係る異常診断装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図14】本開示の第4の実施形態に係る設備の全体構成を示す図である。
図15】本開示の第4の実施形態に観測系制約判定部の機能を説明する図である。
図16】本開示の第4の実施形態にモデル推定部の機能を説明する図である。
図17】本開示の第4の実施形態に観測モデルを説明する図である。
図18】フルスケール誤差を説明する図である。
図19】指示値誤差を説明する図である。
図20】アラン分散を説明する図である。
図21】アラン分散と時間窓との関係を説明する図である。
図22】本開示の第4の実施形態にモデル推定部の機能を説明する図である。
図23】本開示の第4の実施形態に整合性判定部の機能を説明する図である。
図24】本開示の第4の実施形態に整合性判定部の機能を説明する図である。
図25】本開示の第4の実施形態に整合性判定部の機能を説明する図である。
図26】本開示の第4の実施形態に整合性判定部の機能を説明する図である。
図27】本開示の第4の実施形態に推定方法のフローチャートである。
図28】各実施形態に係る異常診断装置及び推定装置が備えるコンピュータのハードウェア構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る実施形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において同一または相当する構成には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0013】
<第1の実施形態>
(全体構成)
図1は、本開示の第1の実施形態に係る設備の全体構成を示す図である。
図1に示すように、設備9は、機器1と、異常診断装置5と、第一観測系3とを備えている。
【0014】
機器1は、例えば大型冷凍機、水中ポンプ等である。
【0015】
異常診断装置5は、機器1の異常の有無の検知、及び異常要因を診断する。また、異常診断装置5は、第一観測系3と有線又は無線で通信可能に接続されている。
【0016】
第一観測系3は、機器1の状態を観測するためのシステムであり、例えば複数のセンサ(第一センサ31、第二センサ32、第三センサ33、・・・)により構成される。
【0017】
第一センサ31は、例えば機器1の内部に設けられ、観測値A1として機器1の内部圧力を計測する圧力センサであってもよい。第二センサ32は、例えば機器1の入口又は出口に設けられ、観測値A2として機器1の入口温度又は出口温度を計測する温度計であってもよい。第三センサ33は、例えば機器1に設けられ、観測値A3として機器1を流れる液体、気体等の流量を計測する流量計であってもよい。なお、観測値A1、A2、A3、・・・は、本実施形態における機器1の状態量の一例である。
【0018】
(異常診断装置の機能構成)
異常診断装置5は、機器1の異常の有無を検知するとともに、異常の要因を推定するための装置である。図1に示すように、異常診断装置5は、観測値取得部51と、異常判定部52と、要因推定部53とを備えている。
【0019】
観測値取得部51は、機器1の第一観測系3により観測された観測値A1、A2、A3を機器1の状態量として取得する。
【0020】
異常判定部52は、機器1から取得した状態量それぞれについて異常の有無を判定する。本実施形態では、異常判定部52は、観測値取得部51が取得した観測値A1、A2、A3それぞれについて、制約R1内であれば正常、制約R1外であれば異常と判定する。
【0021】
要因推定部53は、フォールトツリー解析により特定された機器1の異常モードの要因と、要因が発生した場合に異常となる状態量とを対応付けた要因対応表TB1を用いて、異常判定部52により異常があると判定された状態量から機器1の異常の要因を推定する。
【0022】
通知部54は、異常判定部52による判定結果、要因推定部53による推定結果を通知するための表示装置、音声出力装置等である。また、通知部54は、機器1の運用、監視等を行う作業者が操作するコンピュータ、スマートフォン、タブレット等、異常診断装置5とは異なる装置にデータを通知するものであってもよい。
【0023】
(要因対応表)
図2は、本開示の第1の実施形態に係る要因対応表を説明するための第1の図である。
図3は、本開示の第1の実施形態に係る要因対応表を説明するための第2の図である。
図4は、本開示の第1の実施形態に係る要因対応表を説明するための第3の図である。
本実施形態では、要因対応表TB1は、機器1の運用開始前に、異常診断装置5の設計者等により予め作成されているものとする。この要因対応表TB1の作成方法について、図2~4を参照しながら説明する。
【0024】
まず、異常診断装置5の設計段階において、異常診断装置5の設計、開発、メンテナンス等を行う作業者は、図2に示すように、機器1の製品知識(設計、仕様、経験等から得られた知識)に基づいて機器1のフォールトツリー解析を行い、機器1に発生し得る異常モードを複数の要因に分解する。
【0025】
異常モードは、機器1の望ましくない故障、事故等を表す。要因は、異常モードの発生に関係する事象を表す。要因は、上位の要因と、上位の要因を引き起こす下位の要因とに更に分解され、階層状に配置されてもよい。例えば、異常モードとして、「凝縮器圧力が高圧となり運転不可となる」という事象が設定されてもよい。このとき、要因1として「圧力センサ(第一センサ31)の故障」、要因3として「圧力観測値(観測値A1)が実際に高くなっている」等の事象が設定されてもよい。また、要因3については、更に下位の要因3-1、3-2として「冷却塔の動作不良」、「循環ポンプの動作不良」等が設定されてもよい。
【0026】
なお、図2には異常モードが一つのみ設定されている例が示されているが、これに限られることはない。機器1の構成、特性に応じて、複数の異常モードが設定され、異常モード毎に図2に示すようなツリーが構成されてもよい。また、図2には要因が2つの階層に分解されている例が示されているが、これに限られることはない。機器1の構成、特性に応じて、要因は3つ以上の階層に分解されてもよい。
【0027】
また、作業者は、フォールトツリー解析して得た複数の要因それぞれについて、この要因が発生した場合に異常な値(制約R1外の値)となる観測値を対応づける。本実施形態では、図2に示すように、作業者は、機器1の第一観測系3により観測可能な観測値A1、A2、A3と各要因とを対応付ける。例えば、機器1の製品知識から、要因3-1が発生した場合に観測値A1及び観測値A3が異常となることが既知であれば、要因3-1には観測値A1及び観測値A3が対応付けられる。
【0028】
作業者は、フォールトツリー解析結果と観測値との対応付けが完了すると、図3に示すような要因対応表TB1を作成する。要因対応表TB1は、観測値A1、A2、A3の判定結果の組み合わせパターン毎に、異常モードのどの要因が生じ得るかを表したものである。
【0029】
例えば、図4に示すように、機器1の観測値A1のみが異常と判定されたとする。この場合、観測値A1が異常であるときに発生し得る要因として、「要因1-1」、「要因2」、「要因3-1」の3つが考えられる。しかしながら、「要因2」及び「要因3-1」は観測値A1及び観測値A3の両方が異常であるときに発生する要因である。図4の例では観測値A3は正常であることから、要因の候補から除外される。したがって、この例では「要因1-1(要因1)」が異常モードを引き起こした要因であると推定することができる。技術者は、このように、観測値A1、A2、A3それぞれの判定結果の組み合わせパターン毎に、発生し得る要因を対応付けて、図3に示す要因対応表TB1を作成する。
【0030】
(異常診断方法の処理フロー)
図5は、本開示の第1の実施形態に係る異常診断装置の処理の一例を示すフローチャートである。
以下、図5を参照しながら、本実施形態に係る異常診断装置5による異常診断処理の詳細について説明する。
【0031】
図5に示すように、異常診断装置5の観測値取得部51は、機器1の第一センサ31、第二センサ32、第三センサ33から観測値A1、A2、A3をそれぞれ取得する(ステップS101)。
【0032】
次に、異常診断装置5の異常判定部52は、観測値A1、A2、A3のそれぞれについて、異常の有無を判定する(ステップS102)。
【0033】
次に、異常診断装置5の要因推定部53は、異常と判定された観測値の有無を判断する(ステップS103)。
【0034】
例えば、異常判定部52は、観測値A1が制約R1として設定された閾値(上限値又は下限値)以内である場合、観測値A1が正常であると判定する。一方、異常判定部52は、観測値A1が閾値を超える場合は、観測値A1が異常であると判定する。
【0035】
また、異常判定部52は、観測値A1の変化量が制約R1として設定された閾値以内である場合、観測値A1が正常であると判定してもよい。この場合、異常判定部52は、観測値A1の変化量が閾値を超える場合は、観測値A1が異常であると判定する。
【0036】
更に、異常判定部52は、k近傍法、One Class SVM(Support Vector Machine)等を利用した既知の異常検知アルゴリズムを用いて、観測値A1が制約R1内を示す正常パターンを示しているか制約R1外である異常パターンを示しているかを判定してもよい。
【0037】
異常判定部52は、観測値A2、A3についても同様に、正常であるか異常であるかをそれぞれ判定する。
【0038】
次に、異常判定部52は、全ての観測値が正常であったか否かを判断する(ステップS103)。
【0039】
異常判定部52は、全ての観測値A1、A2、A3が正常であると判定した場合(ステップS103:YES)、機器1の運転状態が正常であると判定する(ステップS104)。
【0040】
一方、異常判定部52は、観測値A1、A2、A3のうち少なくとも一つが異常であると判定した場合(ステップS103:NO)、機器1の運転状態が異常である(異常モードが発生した)と判定する。この場合、要因推定部53は、要因対応表TB1(図3)に基づいて異常モードの要因を推定する(ステップS105)。
【0041】
具体的には、要因推定部53は、要因対応表TB1から、異常判定部52による観測値の判定結果の組み合わせパターンと対応付けられた要因を選択する。例えば、図4の例のように、観測値A1の判定結果が「異常」であり、観測値A2及びA3の判定結果が「正常」であったとする。この場合、要因推定部53は、要因対応表TB1を参照し、この判定結果の組み合わせ示す「パターン4」と対応付けられた「要因1-1」が、機器1の異常モードの要因であると推定する。
【0042】
なお、図3の「パターン5」のように、要因が一つに絞り込めないパターンが存在する場合がある。この場合、要因推定部53は、異常モードの要因を一つのみに特定するのではなく、「パターン5」に対応する「要因2」及び「要因3-1」の両方を、異常モードの要因の候補として推定してもよい。
【0043】
また、要因対応表TB1から要因が一つに絞り込めない「パターン5」について、他の実施形態では、例えば、機器1に「要因2」と「要因3-1」とを識別するための追加の観測系(不図示)を設けておいてもよい。この場合、要因推定部53は、この追加の観測系から得られた観測値に基づいて、「パターン5」が観測されたときの異常モードの要因が「要因2」であるか、「要因3-1」であるかを更に推定してもよい。このとき、追加の観測系は、「パターン5」の「要因2」及び「要因3-1」のような、第一観測系3の観測値のみでは識別ができない要因に対応する箇所のみに設ければよい。したがって、第一観測系3の観測値から一つに絞り込める要因については、追加の観測系を設ける必要はない。このため、要因の識別のために追加の観測系を設ける場合であっても、観測系の増加を最低限に抑制することができる。
【0044】
更に他の実施形態では、要因推定部53は、要因を絞り込むための検査手順を更に実行して、「パターン5」が観測されたときの異常モードの要因が「要因2」であるか、「要因3-1」であるかを更に推定してもよい。このようにすることで、要因識別のための追加の観測系が不要となるので、機器1の異常診断に係るコストを抑制することができる。
【0045】
次に、通知部54は、異常判定部52による判定結果を通知する(ステップS106)。また、通知部54は、異常判定部52により機器1の運転状態が異常であると判定された場合、要因推定部53により推定された要因を更に通知する。
【0046】
異常診断装置5は、機器1の稼働中、図5に示す一連の処理を繰り返し実行することにより、機器1の異常の有無をリアルタイムで検出するとともに、異常発生時には異常の要因を推定する。
【0047】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常診断装置5において、異常判定部52が機器1から取得した状態量(観測値A1、A2、A3)のうち少なくとも一つの異常を検出した場合、要因推定部53は、異常モードの要因と、要因が発生した場合に異常となる状態量とを予め対応付けた要因対応表TB1に基づいて、機器1の異常モードの要因を推定する。
このようにすることで、異常診断装置5は、要因対応表TB1に基づいて機器1の異常の要因を容易且つ精度よく推定することができる。
【0048】
<第2の実施形態>
次に、本開示の第2の実施形態に係る異常診断装置5について説明する。第1の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0049】
(要因対応表)
図6は、本開示の第2の実施形態に係る要因対応表を説明するための第1の図である。
図7は、本開示の第2の実施形態に係る要因対応表を説明するための第2の図である。
図8は、本開示の第2の実施形態に係る要因対応表を説明するための第3の図である。
本実施形態においても、要因対応表TB2は、機器1の運用開始前に、異常診断装置5の設計者等により予め作成されているものとする。本実施形態に係る要因対応表TB2の作成方法について、図6~8を参照しながら説明する。
【0050】
まず、図6に示すように、異常診断装置5の設計段階において、異常診断装置5の設計、開発、メンテナンス等を行う作業者は、機器1のフォールトツリー解析を行う。これは第1の実施形態と同様である。また、本実施形態では、フォールトツリー解析して得た複数の要因それぞれについて、この要因が発生した場合に各観測値A1、A2、A3が取り得る値の異常度合いを対応付ける。
【0051】
異常度合いは、各観測値を、観測値毎に設定された制約R1からの差に応じて複数の水準に離散化した評価値である。例えば、異常度合いは、図7の離散化表に示すように、各観測値について2~7水準の何れかに離散化されてもよい。例えば、3水準に離散化する場合、異常度合いは、観測値が制約R1よりも負側の値となる「負性」、制約R1内である「正常」、制約R2よりも陽側の値となる「陽性」の3つの段階で表される。また、5水準に離散化する場合、例えば観測値が制約R1からどのくらい負側/陽側に離れているかに応じて、「負性」/「陽性」を更に「大負性」/「大陽性」、及び「小負性」/「小陽性」の2段階にそれぞれ分割してもよい。7水準に離散化する場合、例えば観測値が制約R1からどのくらい負側/陽側に離れているかに応じて、「負性」/「陽性」を更に「大負性」/「大陽性」、「中負性」/「中陽性」、及び「小負性」/「小陽性」の3段階にそれぞれ分割してもよい。
【0052】
本実施形態では、例えば、2水準の異常度合い(「正常」又は「異常」)のみで要因を一つに絞り込むことが困難な場合(例えば、図3の要因対応表TB1の「パターン5」)、観測値の異常度合いを3水準~7水準に細分化する。なお、離散化水準は、観測値毎に異なっていてもよい。本実施形態では、図6に示すように、各観測値を5水準の異常度合いで表した例について説明する。
【0053】
作業者は、フォールトツリー解析結果と観測値の異常度合いとの対応付けが完了すると、図8に示すような要因対応表TB2を作成する。要因対応表TB2は、観測値A1、A2、A3の異常度合いの組み合わせパターン毎に、異常モードのどの要因が生じ得るかを表したものである。
【0054】
(異常診断方法の処理フロー)
図9は、本開示の第2の実施形態に係る異常診断装置の処理の一例を示すフローチャートである。
以下、図9を参照しながら、本実施形態に係る異常診断装置5による異常診断処理の詳細について説明する。
【0055】
図9に示すように、異常診断装置5の観測値取得部51は、機器1の第一センサ31、第二センサ32、第三センサ33から観測値A1、A2、A3をそれぞれ取得する(ステップS111)。
【0056】
次に、異常診断装置5の異常判定部52は、観測値A1、A2、A3のそれぞれについて、観測値毎に設定された制約R1からの差に応じた異常度合いを判定する(ステップS112)。
【0057】
例えば、異常判定部52は、観測値A1を「大負性」、「小負性」、「正常」、「小陽性」、「大陽性」の5水準の異常度合いの何れかであると判定する。異常判定部52は、例えば観測値A1が制約R1として設定された第1下限値以上、第1上限値未満の範囲内である場合、観測値A1が正常であると判定する。また、異常判定部52は、観測値A1が第1下限値未満且つ第2下限値以上である場合は「小負性」、第2下限値未満である場合は「大負性」であると判定する。異常判定部52は、観測値A1が第1上限値以上且つ第2上限値未満である場合は「小陽性」、第2上限値以上である場合は「大陽性」であると判定する。
【0058】
なお、他の実施形態では、異常判定部52は、観測値A1の変化量に基づいて異常度合いを判定してもよいし、k近傍法、One Class SVM(Support Vector Machine)等を利用した既知の異常検知アルゴリズムを用いて、観測値A1の異常度合いを判定してもよい。
【0059】
また、異常判定部52は、観測値A2、A3についても同様に異常度合いを判定する。
【0060】
次に、異常判定部52は、全ての観測値の異常度合いが正常であったか否かを判断する(ステップS113)。
【0061】
異常判定部52は、全ての観測値A1、A2、A3の異常度合いが正常であると判定した場合(ステップS113:YES)、機器1の運転状態が正常であると判定する(ステップS114)。
【0062】
一方、異常判定部52は、観測値A1、A2、A3それぞれの異常度のうち少なくとも一つが正常以外(大負性、小負性、小陽性、大陽性の何れか)であると判定した場合(ステップS113:NO)、機器1の運転状態が異常である(異常モードが発生した)と判定する。この場合、要因推定部53は、要因対応表TB2(図8)に基づいて異常モードの要因を推定する(ステップS115)。
【0063】
具体的には、要因推定部53は、要因対応表TB2から、異常判定部52による観測値の異常度合いの組み合わせパターンと対応付けられた要因を選択する。例えば、図8の例のように、観測値A1の異常度合いが「小陽性」、観測値A2の異常度合いが「正常」、観測値A3の異常度合いが「小負性」であったとする。この場合、要因推定部53は、要因対応表TB2を参照し、この判定結果の組み合わせ示す「パターン2」と対応付けられた「要因2」が、機器1の異常モードの要因であると推定する。
【0064】
次に、通知部54は、異常判定部52による判定結果を通知する(ステップS116)。また、通知部54は、異常判定部52により機器1の運転状態が異常であると判定された場合、要因推定部53により推定された要因を更に通知する。
【0065】
異常診断装置5は、機器1の稼働中、図9に示す一連の処理を繰り返し実行することにより、機器1の異常の有無をリアルタイムで検出するとともに、異常発生時には異常の要因を推定する。
【0066】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常診断装置5において、異常判定部52は、観測値それぞれについて、制約R1からの差に応じた異常度合いを更に判定する。要因推定部53は異常モードの要因と、各観測値の異常度合いとを予め対応付けた要因対応表TB2を用いて、機器1の異常モードの要因を推定する。
例えば第1の実施形態では、観測値の異常の有無を示す判定結果(2水準)から、異常モードの要因を一つに絞り込むことができない場合があった。しかしながら、本実施形態に係る異常診断装置5は、各観測値を「正常」又は「異常」の2水準ではなく、多段階の異常度合いに細分化して判定することにより、より細かく要因を絞り込むことが可能となる。
【0067】
<第3の実施形態>
次に、本開示の第3の実施形態に係る異常診断装置5について説明する。第1及び第2の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0068】
(異常診断装置の機能構成)
図10は、本開示の第3の実施形態に係る異常診断装置の機能構成を示す図である。
図10に示すように、本実施形態に係る異常診断装置5は、推定値取得部55を更に備える。
【0069】
推定値取得部55は、観測値取得部51により取得された観測値A1、A2、A3に基づいて推定された、機器1の物理量推定値PV1、PV2、・・・を、機器1の状態量として取得する。なお、本実施形態において、物理量推定値PVは、機器1の入出力条件の関係に影響を及ぼす、観測系では観測できない機器1の内部状態量である。物理量推定値PVは、例えば、機器1が有する熱交換器の終端温度差、冷凍能力等の機器1内の仕事量等である。
【0070】
(要因対応表)
図11は、本開示の第3の実施形態に係る要因対応表を説明するための第1の図である。
図12は、本開示の第3の実施形態に係る要因対応表を説明するための第2の図である。
本実施形態においても、要因対応表TB3は、機器1の運用開始前に、異常診断装置5の設計者等により予め作成されているものとする。本実施形態に係る要因対応表TB3の作成方法について、図11~12を参照しながら説明する。
【0071】
まず、図11に示すように、異常診断装置5の設計段階において、異常診断装置5の設計、開発、メンテナンス等を行う作業者は、機器1のフォールトツリー解析を行う。これは第1及び第2の実施形態と同様である。また、本実施形態では、フォールトツリー解析して得た複数の要因それぞれについて、この要因が発生した場合に物理量推定値PV1、物理量推定値PV2、観測値A1、・・・が取り得る値の異常度合いを対応付ける。なお、図11では、物理量推定値PV1、PV2及び状態量A1それぞれが5水準の異常度合いで分類される例が示されているが、これに限られることはない。異常モードの要因を一つに絞り込めることが可能であれば、各物理量及び観測値の異常度合いは、図7に示す2水準~7水準の何れに設定されてもよい。
【0072】
作業者は、フォールトツリー解析結果と、物理量及び観測値の異常度合いとの対応付けが完了すると、図12に示すような要因対応表TB3を作成する。要因対応表TB3は、物理量推定値PV1、物理量推定値PV2、及び観測値A1それぞれの異常度合いの組み合わせパターン毎に、異常モードのどの要因が生じ得るかを表したものである。
【0073】
(異常診断方法の処理フロー)
図13は、本開示の第3の実施形態に係る異常診断装置の処理の一例を示すフローチャートである。
以下、図13を参照しながら、本実施形態に係る異常診断装置5による異常診断処理の詳細について説明する。
【0074】
図13に示すように、異常診断装置5の観測値取得部51は、機器1の第一センサ31、第二センサ32、第三センサ33から観測値A1、A2、A3をそれぞれ取得する(ステップS121)。
【0075】
次に、異常診断装置5の推定値取得部55は、観測値A1、A2、A3に基づいて推定された、機器1の物理量推定値PV1、PV2を取得する(ステップS122)。例えば、推定値取得部55は、カルマンフィルタ、隠れマルコフモデル等を利用した既知の推定アルゴリズムを用いて、機器1の物理量推定値PV1、PV2を推定して取得する。
【0076】
次に、異常診断装置5の異常判定部52は、観測値取得部51が取得した観測値A1、及び、推定値取得部55が推定した物理量推定値PV1、PV2のそれぞれについて、異常の有無、又は、異常度合いを判定する(ステップS123)。具体的な処理の内容については、第1の実施形態のステップS102(図5)、又は第2の実施形態のステップS112(図9)と同様である。
【0077】
次に、異常判定部52は、全ての観測値及び物理量が正常であったか否かを判断する(ステップS124)。
【0078】
異常判定部52は、観測値A1、及び物理量推定値PV1、PV2の全てが正常であると判定した場合(ステップS124:YES)、機器1の運転状態が正常であると判定する(ステップS125)。
【0079】
一方、異常判定部52は、観測値A1、及び物理量推定値PV1、PV2の少なくとも一つが正常以外(異常、又は、大負性、小負性、小陽性、大陽性の何れか)であると判定した場合(ステップS124:NO)、機器1の運転状態が異常である(異常モードが発生した)と判定する。この場合、要因推定部53は、要因対応表TB3(図12)に基づいて異常モードの要因を推定する(ステップS126)。具体的な処理の内容については、第1の実施形態のステップS105(図5)、第2の実施形態のステップS115(図9)と同様である。
【0080】
次に、通知部54は、異常判定部52による判定結果を通知する(ステップS127)。また、通知部54は、異常判定部52により機器1の運転状態が異常であると判定された場合、要因推定部53により推定された要因を更に通知する。
【0081】
異常診断装置5は、機器1の稼働中、図13に示す一連の処理を繰り返し実行することにより、機器1の異常の有無をリアルタイムで検出するとともに、異常発生時には異常の要因を推定する。
【0082】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常診断装置5は、第一観測系3により観測することができない機器1の物理量推定値PV1、PV2を推定する推定値取得部55を更に備える。
このようにすることで、異常診断装置5は、機器1の第一観測系3から取得した観測値A1に加えて、機器1の内部状態量を推定した物理量推定値PV1、PV2を用いて、異常の有無の判定、及び、異常要因の推定を行うことができる。これにより、異常診断装置5は、観測値の変化だけでは検出が難しい異常モードについても、検出精度を向上させることができる。
【0083】
<第4の実施形態>
次に、本開示の第4の実施形態に係る異常診断装置5について説明する。第1から第3の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0084】
図14は、本開示の第4の実施形態に係る設備の全体構成を示す図である。
図14に示すように、本実施形態に係る設備9は、推定装置2を更に備える。また、本実施形態に係る設備9は、第一観測系3に加え、第二観測系4を更に備える。
【0085】
(第一観測系の構成)
第一観測系3は、機器1の状態を観測するためのシステムである。
第一観測系3は、第一観測値OB1を観測する。
例えば、第一観測系3は、機器1に設けられてもよい。
例えば、第一観測系3は、第一センサ31を備えてもよい。
例えば、第一観測系3は、第一観測値OB1として、観測値A1を観測してもよい。
【0086】
例えば、第一センサ31は、例えば、機器1の内部に設けられてもよい。その際、第一センサ31は、観測値A1として、機器1の内部圧力を計測する圧力センサであってもよい。
【0087】
(第二観測系の構成)
第二観測系4は、機器1の状態を観測するためのシステムである。
第二観測系4は、第二観測値OB2を観測する。
第二観測系4は、第一観測系3に対し独立している他の観測系である。
例えば、第二観測系4は、機器1に設けられてもよい。
例えば、第二観測系4は、第二センサ41と、第三センサ42と、第四センサ43と、を備えてもよい。
例えば、第二観測系4は、第二観測値OB2として、観測値A2、A3、A4を観測してもよい。
【0088】
例えば、第二センサ41は、例えば、機器1の出口に設けられてもよい。その際、第二センサ41は、観測値A2として、機器1内から流出する液体、気体等の流体温度である出口温度を計測する温度計であってもよい。
また、第三センサ42は、例えば、機器1の入口に設けられてもよい。その際、第三センサ42は、観測値A3として、機器1内へ流入する液体、気体等の流体温度である入口温度を計測する温度計であってもよい。
また、第四センサ43は、例えば、機器1に設けられてもよい。その際、第四センサ43は、観測値A4として、機器1を流れる液体、気体等の流体流量を計測する流量計であってもよい。
【0089】
(推定装置の構成)
推定装置2は、機器1、第一観測系3、及び第二観測系4の各モデルのパラメータPRを推定するための装置である。
また、推定装置2は、異常診断装置5に推定したパラメータPRを含むネットワークモデルNWMを提供するための装置である。
【0090】
推定装置2は、観測系制約判定部22と、モデル推定部23と、整合性判定部24と、を備える。
例えば、推定装置2は、物理量制約判定部25と、モデル制約判定部26と、をさらに備えてもよい。
また、推定装置2は、取得部21と、出力部27と、をさらに備えてもよい。
【0091】
(取得部の構成)
取得部21は、第一観測値OB1を取得する。
例えば、取得部21は、第一観測値OB1として、第一観測系3から観測値A1を取得してもよい。
例えば、取得部21は、観測値A1として、第一センサ31で計測された機器1の内部圧力を取得してもよい。
【0092】
取得部21は、第二観測値OB2を取得する。
例えば、取得部21は、第二観測値OB2として、第二観測系4から観測値A2、A3、A4を取得してもよい。
例えば、取得部21は、観測値A2として、第二センサ41で計測された出口温度を取得してもよい。
例えば、取得部21は、観測値A3として、第三センサ42で計測された入口温度を取得してもよい。
例えば、取得部21は、観測値A4として、第四センサ43で計測された流量を取得してもよい。
【0093】
(観測系制約判定部の構成)
観測系制約判定部22は、第一観測系3で観測された第一観測値OB1と、第二観測系4で観測された第二観測値OB2と、の各観測値の時系列データDT1から、第一制約R1内のデータである制約内データDT2を判定する。
各観測系単体の制約条件への適合を判定することで、観測系制約判定部22は、各観測値が単体として異常な振る舞いをしているデータか否かを判定する。
例えば図2に示すように、観測系制約判定部22は、第一制約R1として、最大値及び最小値に関する制約、移動平均変化率に関する制約、スパイク発生頻度に関する制約、時間窓内の分散に関する制約等の観測系制約等により、制約内データDT2の判定を行ってもよい。
これにより、観測系制約判定部22は、各観測系そのものの計測原理(物理法則)に基づいて、各観測値単体としてみて異常な値を含むレコードは異常と判定する。
【0094】
例えば図15の場合、各観測系で観測した生の観測値の時系列データである時系列データDT1のうち、データDT3は、観測値のスパイク発生頻度が規定の閾値より高いデータ、又は時間窓内の観測値の分散が規定の閾値より高いデータとして、第一制約R1により制約外と判定される。
同様に、時系列データDT1のうち、データDT4は、観測値が上限値で規定される最大値より大きいデータ、又は下限値で規定される最小値より小さいデータとして、第一制約R1により制約外と判定される。
同様に、時系列データDT1のうち、データDT5は、移動平均変化率が規定の閾値より大きいデータとして、第一制約R1により制約外と判定される。
他方、制約外とされなかったデータは、制約内データDT2と判定される。
【0095】
例えば、各観測系のうち、何れかの観測系で制約外の判定が出た場合は、観測系制約判定部22は、同一時刻の他の観測系のデータに対しても、制約外と判定し、推定装置2における後段の処理は行わなくてもよい。
【0096】
(モデル推定部の構成)
モデル推定部23は、各観測系のモデルである観測モデルMLOと、観測系が設けられる機器1内のモデルである物理モデルMLPと、を含む複数のモデルのパラメータPRを、制約内データDT2に基づいて推定する。
例えば、モデル推定部23は、複数の観測モデルMLOと複数の物理モデルMLPを含むネットワークモデルNWMを含んでもよい。
例えば、複数の観測モデルMLOと複数の物理モデルMLPとの各モデルは、パラメータPRを含んでよい。
例えば、モデル推定部23は、ネットワークモデルNWMの一例である図3に示すようなネットワークモデルNWM1において、観測モデルMLOと物理モデルMLPとの各モデルのパラメータPRを推定してもよい。
【0097】
図16に示すように、ネットワークモデルNWM1において、モデル推定部23は、観測値A1から、1つの観測モデルMLOを介して、複数の物理量推定値PVのうちの1つである物理量推定値PV1を推定できる。
他方、ネットワークモデルNWM1において、モデル推定部23は、観測値A2と観測値A3と観測値A4とから、複数の観測モデルMLO及び複数の物理モデルMLPを介して、物理量推定値PV1を推定することもできる。
すなわち、ネットワークモデルNWM1において、モデル推定部23は、異なる系統から、共通の物理量推定値PV1を推定することができる。
【0098】
図16に示すように、例えば、モデル推定部23において、観測値A2に関する観測モデルMLOのパラメータPRは、観測値A2と、観測値A2を観測したステップの前の観測値A2’(観測値A2を観測した直前の時刻に観測した観測値A2’)と、から推定されてもよい。
同様に、モデル推定部23において、観測値A3に関する観測モデルMLOのパラメータPRは、観測値A3と、観測値A3を観測したステップの前の観測値A3’(観測値A3を観測した直前の時刻に観測した観測値A3’)と、から推定されてもよい。
【0099】
(モデルの構成)
例えば、観測モデルMLO及び物理モデルMLPの各モデルは、それぞれ理論式及び実験式に基づく非線形多項式の形で表現してもよい。その際、多項式の係数が、パラメータPRに相当し、実際の機器1のばらつきを表現するためのパラメータとなる。
【0100】
ここで、物理モデルMLPについて詳しく説明する。
例えば、各物理モデルMLPは、物理現象において、知られた純粋な物理法則から導かれるモデルであってもよい。
例えば、図16に示す物理モデルMLPAは、出口温度を示す物理量推定値PV2と、入口温度を示す物理量推定値PV3と、流量を示す物理量推定値PV4から、冷凍能力等の機器1内の仕事量を示す物理量推定値PVAを算出できるモデルであってもよい。
例えば、図16に示す物理モデルMLPBは、出口温度を示す物理量推定値PV2と、仕事量を示す物理量推定値PVAから、機器1内の飽和温度を示す物理量推定値PVBを算出できるモデルであってもよい。
例えば、図16に示す物理モデルMLPCは、機器1内の飽和温度を示す物理量推定値PVBから、機器1内の圧力(飽和蒸気圧)を示す物理量推定値PV1を算出できるモデルであってもよい。
【0101】
次に、観測モデルMLOについて詳しく説明する。
例えば各観測モデルMLOは、図17に示すような代表的なモデルであってもよい。
図17では、センサの特性によって生じる真値との誤差を内的要因と表し、観測対象の値以外の要因によって生じる誤差を外的要因と示す。
モデル化可能な内的要因、外的要因のほかに、観測値は、さらにランダムなノイズ成分の影響を受ける。
なお、外的要因は、「無視できるほど小さい」、「外的要因を別センサで計測」、「ノイズ扱いできるだけのデータ量」のいずれかの前提が必要である。
【0102】
観測系の精度は、全ての誤差を考慮した上で図18に示すようなフルスケール誤差(±〇%F.S.)、又は図19に示すような指示値誤差(±〇%R.D.)のどちらか、若しくは、それらを組み合わせた指標によって規定される。
なお、これらの誤差範囲はあくまで正常動作をしている場合の精度であり、センサの取付け位置ズレや故障が起きるとこの範囲を逸脱する。
【0103】
また、同じ値を計測し続けた場合に、時間窓平均を取った値どうしを比較した結果のばらつきの大きさはアラン分散と呼ばれる。
典型的なアラン分散は、図20に示すような分散を示す。なお、図20に示すσy(f)は、アラン分散の大きさに関連する値である。
図20図21に示すように、平均時間τが短い間は、ノイズの影響が支配的で平均値間のばらつきは徐々に小さくなるが、平均時間τを延ばすと逆に観測系パラメータの長期的な変動の影響が顕在化して、ばらつきが徐々に大きくなっていく。
したがって、例えば、理想的にはアラン分散が極小化するだけのレコードのデータをもとに、観測モデルMLOのパラメータPRを推定してもよい。
【0104】
例えば、モデル推定部23は、観測系制約判定部22で単体の観測値として異常がない制約内データDT2のうち、直近の観測値から、各パラメータPRを推定するために必要なレコード数のデータを用いて、各系統から推定できる物理量推定値PVについて、全系統の物理量推定値PVの平均値と各系統の物理量推定値PVの誤差の二乗の和を全レコードで積算してもよい。その際、積算した値と、各パラメータPRの補正項の大きさについて、それぞれ事前に定めていたペナルティ係数の大きさに基づいて推定の正しさに対する報酬関数を定め、この値が最小になるようにパラメータPRを推定してもよい。
【0105】
例えば、モデル推定部23は、ネットワークモデルNWM1の各モデルに基づく値の変換によって、共通の物理量推定値PV1を導出できる観測系について、各系統から推定した物理量推定値PV1どうしの偏差に対するペナルティと、各パラメータPRの補正項に対するペナルティの総和が最小になるようにパラメータPRの推定を行ってもよい。
なお、推定するべきパラメータPRの数に対して、観測系の数は一般的に極端に少ない場合でも、複数のレコードを用いることで、モデル推定部23は、物理量推定値PV1を推定できる。
【0106】
例えば、観測モデルMLOは、忠実にモデル化された観測モデルではなく、機器1の使用条件と各センサの仕様を考慮して適切な範囲を簡素化した観測モデルであってもよい。
例えば、観測値A1に関する観測モデルMLOにおいて、バイアスやスケールファクター(以下「SF」ともいう。)の理想状態からの補正項に対するペナルティが、センサ精度に基づいて定められてもよい。
【0107】
モデル推定部23は、ネットワークモデルNWM1における各系統から推定した物理量推定値PV1どうしの偏差として、複数の物理量推定値PV1の平均値からの各物理量推定値PV1の差分の二乗誤差平均の大きさに対する報酬関数が定めるように構成されてもよい。
【0108】
例えば、図22に示すように、複数のモデルを含むネットワークモデルNWMにおける3以上の異なる系統から各物理量推定値PVが推定できる場合、モデル推定部23は、3以上の系統から推定した各物理量推定値PVどうしの偏差として、複数の物理量推定値PVの平均値からの各物理量推定値PVの差分の二乗誤差平均の大きさに対する報酬関数を定めてもよい。
図22に示す場合も同様に、モデル推定部23は、3以上の各系統から推定した物理量推定値PVどうしの偏差に対するペナルティと、各パラメータPRの補正項に対するペナルティの総和が最小になるようにパラメータPRの推定を行ってもよい。
【0109】
(整合性判定部の構成)
整合性判定部24は、モデル推定部23で推定された複数のモデルのパラメータPRに基づき第二観測値OB2から予測した第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差から、モデルの整合性を判定する。
これにより、整合性判定部24は、推定されたパラメータPRに基づいてある観測値を別の観測値から回帰させ、その偏差の大きさを評価できる。
ここで、第一予測観測値PA1は、ネットワークモデルNWM1の各モデルに基づく値の変換によって導出される値であって、ネットワークモデルNWM1において、第一観測値OB1に相当する値である。
【0110】
例えば、整合性判定部24は、モデル推定部23で推定された各モデルのパラメータPRを元に予測した回帰結果である第一予測観測値PA1と、実測値である第一観測値OB1と、を比較してもよい。
例えば、モデルの整合性として、整合性判定部24は、第二観測値OB2から予測した第一予測観測値PA1と、第一観測値OB1と、の偏差が、第一観測系3の仕様範囲内であるかを判定してもよい。
【0111】
例えば、図23に示すように、モデルの整合性として、整合性判定部24は、観測値A2と観測値A3と観測値A4とから予測した第一予測観測値PA1と、観測値A1との偏差が、第一観測系3の仕様範囲内であるかを判定してもよい。
例えば、整合性判定部24は、モデル推定部23で推定されたパラメータPRが導入された複数の観測モデルMLO及び複数の物理モデルMLPを介して、観測値A2と観測値A3と観測値A4とから、第一予測観測値PA1を予測し、予測した第一予測観測値PA1と観測値A1とを比較してもよい。
【0112】
例えば、整合性判定部24は、第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差として、第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との差を取得してもよい。その際、モデルの整合性の判定として、整合性判定部24は、取得した差が規定の閾値以下なら、パラメータPRが導入された複数の観測モデルMLO及び複数の物理モデルMLPは整合していると判定してもよい。
【0113】
例えば、整合性判定部24は、相互回帰を行い、全ての観測系に対して相互に整合性を評価してもよい。
例えば、図23に示した評価に加え、図24に示すように、整合性判定部24は、モデル推定部23で推定されたパラメータPRが導入された複数の観測モデルMLO及び複数の物理モデルMLPを介して、観測値A1と観測値A3と観測値A4とから、第二予測観測値PA2を予測し、予測した第二予測観測値PA2と観測値A2とをさらに比較してもよい。
さらに、図23に示した観測値A1に関する評価、図24に示した観測値A2に関する評価と同様に、整合性判定部24は、観測値A1と観測値A2と観測値A4とに基づき、観測値A3に関する評価を行ってもよいし、観測値A1と観測値A2と観測値A3とに基づき、観測値A4に関する評価を行ってもよい。
【0114】
例えば、図25図26に示すように、同一の観測値を回帰する系統が独立して複数ある場合、整合性判定部24は、回帰する各系統について偏差を求めて、求められた複数の偏差の最小値を観測値の評価結果としてもよい。
【0115】
(物理量制約判定部の構成)
物理量制約判定部25は、パラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定する。
ここで、物理量推定値PVとは、物理モデルMLPにより推定される機器1内の物理量である。
例えば、物理量制約判定部25は、整合性判定部24において整合している判定されたときのパラメータPRと制約内データDT2の観測値とに基づき推定される物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定してもよい。
【0116】
例えば、第二制約R2は、機器1の設計水準(仕様)内の物理量を示す規定の数値範囲であってもよい。
例えば、物理量制約判定部25は、物理量推定値PVが、第二制約R2内であれば正常と判定し、第二制約R2内でなければ異常と判定してもよい。正常と判定された場合、物理量制約判定部25の判定において、各モデルに導入されたパラメータPRは妥当であるとみなすことができる。
【0117】
例えば、物理量推定値PVが異常と判定された場合、物理量制約判定部25は、機器1が異常であると判定してもよい。
すなわち、正常と判定されたレコードである制約内データDT2について、物理量の推定が行えているものという仮定に基づけば、その物理量である物理量推定値PVが設計仕様の制約以内に収まっていなければ機器1の異常とみることができる。
【0118】
例えば、第一制約R1の適用により、制約内データDT2の各観測値が時間的に離散している場合、物理量制約判定部25は、離散している各観測値を時間補間し、時間補完した観測値に基づき物理量推定値PVを推定してもよい。
例えば、物理量制約判定部25は、各タイムステップで推定された物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定してもよい。
例えば、物理量制約判定部25は、推定される各物理量推定値PVを、設計水準(仕様)と比較して、仕様内、仕様以上、仕様以下といった判定を行うことにより、2~7段階程度の離散化データに変換してもよい。
【0119】
(モデル制約判定部の構成)
モデル制約判定部26は、各パラメータPRが、第三制約R3内か否かを判定する。
例えば、モデル制約判定部26は、整合性判定部24において整合している判定されたときの各パラメータPRが、第三制約R3内か否かを判定してもよい。
【0120】
例えば、物理モデルMLPにおける各パラメータPRに対する第三制約R3は、機器1の設計水準(仕様)内のパラメータを示す規定の数値範囲であってもよい。
例えば、観測モデルMLOにおける各パラメータPRに対する第三制約R3は、各観測値の設計水準(仕様)内のパラメータを示す規定の数値範囲であってもよい。
例えば、モデル制約判定部26は、各パラメータPRが、第三制約R3内であれば正常と判定し、第三制約R3内でなければ異常と判定してもよい。正常と判定された場合、モデル制約判定部26の判定において、各モデルに導入された各パラメータPRは妥当であるとみなすことができる。
【0121】
例えば、モデル制約判定部26において判定される各パラメータPRは、相互回帰を行った移動窓、又はバッチ窓毎に推定された各パラメータであってもよい。
例えば、モデル制約判定部26は、推定される各パラメータPRを、設計水準(仕様)と比較して、仕様内、仕様以上、仕様以下といった判定を行うことにより、2~7段階程度の離散化データに変換してもよい。
【0122】
例えば、物理モデルMLPのパラメータPRが異常と判定された場合、モデル制約判定部26は、機器1が異常であると判定してもよい。
すなわち、パラメータ推定が正しく行えているものという仮定に基づけば、物理モデルMLPのパラメータPRが設計仕様の制約以内に収まっていなければ、機器1の異常とみることができる。
【0123】
例えば、観測モデルMLOのパラメータPRが異常と判定された場合、モデル制約判定部26は、観測系が異常であると判定してもよい。さらに、モデル制約判定部26は、異常と判定されたパラメータPRを有する観測モデルMLOに関連するセンサが異常であると判定してもよい。
すなわち、パラメータ推定が正しく行えているものという仮定に基づけば、観測モデルMLOのパラメータPRが設計仕様の制約以内に収まっていなければ、観測系の異常とみることができる。
【0124】
(出力部の構成)
出力部27は、正常と判定されたパラメータPRと、そのパラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVと、を出力する。
また、出力部27は、異常と判定されたパラメータPRと、そのパラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVと、を出力する。
例えば、出力部27は、異常と判定されたパラメータPRが観測モデルMLOのパラメータPRである場合、異常と判定されたパラメータPRを有する観測モデルMLOに関連するセンサが異常である旨を出力してもよい。
例えば、出力部27は、異常と判定されたパラメータPRが物理モデルMLPのパラメータPRである場合、機器1が異常である旨を出力してもよい。
【0125】
(推定装置の動作)
本実施形態の推定装置2の動作について説明する。
推定装置2の動作は、本実施形態の推定方法に相当する。
推定装置2の動作は、例えば図27に示すように実施されてもよい。
【0126】
まず、取得部21は、第一観測系3で観測された第一観測値OB1と、第二観測系4で観測された第二観測値OB2と、を取得する(ST01:取得ステップ)。
【0127】
ST01の実施後、観測系制約判定部22は、第一観測値OB1と、第二観測値OB2と、の各観測値の時系列データDT1から、第一制約R1内のデータである制約内データDT2を判定する(ST02:観測系制約判定ステップ)。
【0128】
ST02の実施後、モデル推定部23は、各観測系のモデルである観測モデルMLOと、観測系が設けられる機器1内のモデルである物理モデルMLPと、を含む複数のモデルのパラメータPRを、制約内データDT2に基づいて推定する(ST03:モデル推定ステップ)。
【0129】
ST03の実施後、整合性判定部24は、モデル推定部23で推定された複数のモデルのパラメータPRに基づき第二観測値OB2から予測した第一予測観測値PA1と第一観測値OB1との偏差から、モデルの整合性を判定する(ST04:整合性判定ステップ)。
例えば、ST04において、整合性判定部24は、偏差が規定値より大きい場合は、観測モデル又は物理モデルに異常があると判定してもよい(ST04A)。その際、整合性判定部24は、最適化してもモデルから外れるレコードを削除してもよい。
例えば、ST04Aの実施後、整合性判定部24は、制約内データDT2のうち、不整合データを判定し、異常データとして制約内データDT2から排除してもよい(ST04B)。
【0130】
例えばST04の実施後、物理量制約判定部25は、パラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVが、第二制約R2内か否かを判定してもよい(ST05:物理量制約判定ステップ)。
【0131】
例えばST05と並行して、モデル制約判定部26は、各パラメータPRが、第三制約R3内か否かを判定してもよい(ST06:モデル制約判定ステップ)。
【0132】
例えばST04及びST05の実施後、出力部27は、正常と判定されたパラメータPRと、そのパラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVと、を出力するとともに、異常と判定されたパラメータPRと、そのパラメータPRに基づき推定される物理量推定値PVと、を出力してもよい(ST07:出力ステップ)。
【0133】
(異常診断装置の機能)
本実施形態に係る異常診断装置5は、推定値取得部55が推定装置2から機器1の物理量推定値PVを取得する点において、第3の実施形態と異なっている。つまり、本実施形態に係る異常診断装置5の推定値取得部55は、図13のステップS122において、推定装置2により推定された物理量推定値PVを、機器1の状態量として取得する。
【0134】
また、本実施形態に係る異常診断装置5の異常判定部52は、推定装置2の観測系制約判定部22、及び物理量制約判定部25の判定結果に基づいて、機器1の異常の有無を更に判定してもよい。例えば、図13のステップS123において、異常診断装置5の異常判定部52は、推定装置2の観測系制約判定部22により第一制約R1外であると判定されたデータ(観測値)があった場合、この観測値は異常であると判定してもよい。同様に、図13のステップS123において、異常診断装置5の異常判定部52は、推定装置2の物理量制約判定部25により第二制約R2外であると判定された物理量推定値PVがあった場合、子の物理量推定値PVは異常であると判定してもよい。
【0135】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常診断装置5において、推定値取得部55は、推定装置2が推定した機器1の物理量推定値PVを、機器1の状態量として取得する。
また、本実施形態に係る推定装置2は、観測モデルMLOと物理モデルMLPとを含む複数のモデルのパラメータPRを推定して最適化することができるので、より正確な物理量推定値PVを推定することが可能である。
このように、正確な物理量推定値PVを用いることにより、異常診断装置5は、異常要因を推定する精度を更に向上させることができる。
【0136】
<コンピュータのハードウェア構成>
なお、上述の各実施形態においては、異常診断装置5及び推定装置2の各種機能を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをマイコンといったコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各種処理を行うものとしている。ここで、コンピュータシステムのCPUの各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0137】
上述の各実施形態において、異常診断装置5及び推定装置2の各種機能を実現するためのプログラムを実行させるコンピュータのハードウェア構成の例について説明する。
【0138】
図20に示すように、異常診断装置5及び推定装置2それぞれが備えるコンピュータ29は、CPU291と、メモリ292と、記憶/再生装置293と、Input Output Interface(以下、「IO I/F」という。)294と、通信Interface(以下、「通信I/F」という。)295と、を備える。
【0139】
メモリ292は、異常診断装置5及び推定装置2それぞれで実行されるプログラムで使用されるデータ等を一時的に記憶するRandom Access Memory(以下、「RAM」という。)等の媒体である。
【0140】
記憶/再生装置293は、CD-ROM、DVD、フラッシュメモリ等の外部メディアへデータ等を記憶したり、外部メディアのデータ等を再生したりするための装置である。
【0141】
IO I/F294は、異常診断装置5及び推定装置2それぞれと他の装置との間で情報等の入出力を行うためのインタフェースである。
【0142】
通信I/F295は、インターネット、専用通信回線等の通信回線を介して、推定装置2と他の装置との間で通信を行うインタフェースである。
【0143】
<その他の実施形態>
以上、本開示の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、開示の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、開示の範囲や要旨に含まれる。
【0144】
<付記>
上述の実施形態に記載の異常診断装置、異常診断方法、及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0145】
(1)第1の態様の異常診断装置5は、機器1から取得した状態量それぞれについて異常の有無を判定する異常判定部52と、フォールトツリー解析により特定された前記機器1の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、前記異常判定部52により異常があると判定された状態量から前記機器1の異常の要因を推定する要因推定部53と、を備える。
【0146】
このようにすることで、異常診断装置5は、要因対応表に基づいて機器1の異常の要因を容易且つ精度よく推定することができる。
【0147】
(2)第2の態様の異常診断装置5は、前記機器1の観測系により観測された観測値を前記状態量として取得する観測値取得部51を更に備え、前記異常判定部52が、前記観測値取得部51により取得された前記観測値と、前記観測値それぞれの正常値又は正常パターンとを比較して、前記機器1の異常の有無を判定する、(1)の異常診断装置5である。
【0148】
このようにすることで、異常診断装置5は、例えば機器1の既存の観測系により観測された観測値と、要因対応表とにより、異常の要因の推定を容易且つ精度よく行うことができる。
【0149】
(3)第3の態様の異常診断装置5は、前記異常判定部52が、前記状態量それぞれについて、前記状態量毎に設定された制約からの差に応じた異常度合いを更に判定し、前記要因推定部53が、前記要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量の異常度合いとを更に対応付けた前記要因対応表を用いて、前記機器1の異常の要因を推定する(1)又は(2)の異常診断装置5である。
【0150】
このようにすることで、異常診断装置5は、各観測値を「正常」又は「異常」の2水準ではなく、多段階の異常度合いに細分化して判定することにより、より細かく要因を絞り込むことが可能となる。
【0151】
(4)第4の態様の異常診断装置5は、前記観測値取得部51により取得された前記観測値に基づいて推定された、前記機器1の物理量推定値を、前記状態量として取得する推定値取得部55を更に備える、(2)の異常診断装置5である。
【0152】
このようにすることで、異常診断装置5は、機器1の第一観測系3から取得した観測値A1に加えて、機器1の内部状態量を推定した物理量推定値PV1、PV2を用いて、異常の有無の判定、及び、異常要因の推定を行うことができる。これにより、異常診断装置5は、観測値の変化だけでは検出が難しい異常モードについても、検出精度を向上させることができる。
【0153】
(5)第5の態様の異常診断方法は、機器1から取得された状態量それぞれについて異常の有無を判定するステップと、フォールトツリー解析により特定された前記機器1の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、異常があると判定された状態量から前記機器1の異常の要因を推定するステップと、を有する。
【0154】
(6)第6の態様のプログラムは、機器1から取得された状態量それぞれについて異常の有無を判定するステップと、フォールトツリー解析により特定された前記機器1の異常モードの要因と、前記要因が発生した場合に異常となる前記状態量とを対応付けた要因対応表を用いて、異常があると判定された状態量から前記機器1の異常の要因を推定するステップと、を異常診断装置5のコンピュータ29に実行させる。
【符号の説明】
【0155】
2 推定装置
21 取得部
22 観測系制約判定部
23 モデル推定部
24 整合性判定部
25 物理量制約判定部
26 モデル制約判定部
27 出力部
29 コンピュータ
3 第一観測系
31 第一センサ
32 第二センサ
33 第三センサ
4 第二観測系
41 第二センサ
42 第三センサ
43 第四センサ
5 異常診断装置
51 観測値取得部
52 異常判定部
53 要因推定部
54 通知部
55 推定値取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図23
図24
図25
図26
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図28