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特許7454816TOF-PET装置および断層画像取得方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】TOF-PET装置および断層画像取得方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20240315BHJP
   G01T 1/172 20060101ALI20240315BHJP
   G01T 1/22 20060101ALI20240315BHJP
   G01T 1/164 20060101ALI20240315BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G01T1/161 A
G01T1/172
G01T1/22
G01T1/164 D
A61B6/03 577
A61B6/03 560J
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020157287
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051038
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】小川 泉
(72)【発明者】
【氏名】玉川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】中島 恭平
(72)【発明者】
【氏名】大田 良亮
(72)【発明者】
【氏名】下井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛
(72)【発明者】
【氏名】西澤 寛仁
(72)【発明者】
【氏名】嶋野 賢志
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-34414(JP,A)
【文献】特開2008-170183(JP,A)
【文献】実開昭60-165876(JP,U)
【文献】米国特許第5841140(US,A)
【文献】OTA et al.,Precise analysis of the timing performance of Cherenkov-radiator-integrated MCP-PMTs: analytical deconvolution of MCP direct interactions,Physics in Medicine & Biology,2020年05月29日,65,10NT03
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-7/12
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RI線源が投入されて測定空間に置かれた被検体において電子・陽電子の対消滅に伴って発生するγ線の光子対を同時計数法で検出して同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて前記被検体の断層画像を取得する装置であって、
入射したγ線との相互作用により光を発生させる輻射体と、前記輻射体で発生した光の入射に応じて電子を放出する光電変換部と、前記光電変換部から放出された電子を増倍して出力する1以上のマイクロチャネルプレートを有する電子増倍部と、前記電子増倍部により増倍されて出力された電子を収集して電気パルス信号を出力するアノードと、を各々含む複数の放射線検出器が前記測定空間の周囲に設けられた検出部と、
前記検出部の前記複数の放射線検出器それぞれの前記光電変換部と前記電子増倍部との間に、前記被検体の外径に基づいて設定した印加電圧を与える電圧印加部と、
前記検出部の前記複数の放射線検出器それぞれから出力される電気パルス信号に基づいて同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて前記被検体の断層画像を取得する信号処理部と、
を備えるTOF-PET装置。
【請求項2】
前記被検体の外径に関する情報を入力する入力部を更に備え、
前記電圧印加部は、前記入力部により入力された前記被検体の外径に基づいて前記印加電圧を設定する、
請求項1に記載のTOF-PET装置。
【請求項3】
前記被検体の外径を測定する測定部を更に備え、
前記電圧印加部は、前記測定部により測定された前記被検体の外径に基づいて前記印加電圧を設定する、
請求項1に記載のTOF-PET装置。
【請求項4】
X線CT装置と一体化されており、
前記電圧印加部は、前記X線CT装置による測定により得られた前記被検体の外径に基づいて前記印加電圧を設定する、
請求項1に記載のTOF-PET装置。
【請求項5】
前記輻射体は、γ線との相互作用によりチェレンコフ光を発生させるチェレンコフ輻射体、または、γ線との相互作用によりシンチレーション光を発生させるシンチレータである、
請求項1~4の何れか1項に記載のTOF-PET装置。
【請求項6】
RI線源が投入されて測定空間に置かれた被検体において電子・陽電子の対消滅に伴って発生するγ線の光子対を同時計数法で検出して同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて前記被検体の断層画像を取得する方法であって、
入射したγ線との相互作用により光を発生させる輻射体と、前記輻射体で発生した光の入射に応じて電子を放出する光電変換部と、前記光電変換部から放出された電子を増倍して出力する1以上のマイクロチャネルプレートを有する電子増倍部と、前記電子増倍部により増倍されて出力された電子を収集して電気パルス信号を出力するアノードと、を各々含む複数の放射線検出器が前記測定空間の周囲に設けられた検出部を備えるTOF-PET装置を用い、
前記検出部の前記複数の放射線検出器それぞれの前記光電変換部と前記電子増倍部との間に、前記被検体の外径に基づいて設定した印加電圧を与えた後、
前記検出部の前記複数の放射線検出器それぞれから出力される電気パルス信号に基づいて同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて前記被検体の断層画像を取得する、
断層画像取得方法。
【請求項7】
前記TOF-PET装置が、前記被検体の外径に関する情報を入力する入力部を更に備えており、
前記入力部により入力された前記被検体の外径に基づいて前記印加電圧を設定する、
請求項6に記載の断層画像取得方法。
【請求項8】
前記TOF-PET装置が、前記被検体の外径を測定する測定部を更に備えており、
前記測定部により測定された前記被検体の外径に基づいて前記印加電圧を設定する、
請求項6に記載の断層画像取得方法。
【請求項9】
前記TOF-PET装置がX線CT装置と一体化されており、
前記X線CT装置による測定により得られた前記被検体の外径に基づいて前記印加電圧を設定する、
請求項6に記載の断層画像取得方法。
【請求項10】
前記輻射体は、γ線との相互作用によりチェレンコフ光を発生させるチェレンコフ輻射体、または、γ線との相互作用によりシンチレーション光を発生させるシンチレータである、
請求項6~9の何れか1項に記載の断層画像取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TOF-PET装置および断層画像取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PET(Positron Emission Tomography)装置は、RI(Radio Isotope)線源が投入された被検体を測定空間に置き、その被検体における電子・陽電子の対消滅に伴って発生するγ線の光子対を同時計数法で検出して同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて被検体の断層画像を取得することができる。通常のPET装置は、収集した同時計数情報に基づいて所定のアルゴリズムに従って反復計算を行うことで被検体の断層画像を再構成する。
【0003】
これに対して、次世代のPET装置として期待されているTOF(Time of Flight)-PET装置は、被検体における電子・陽電子の対消滅の事象毎に、光子対を検出した2つの放射線検出器の間の光子検出時刻の差に基づいて、これら2つの放射線検出器を互いに結ぶ線分(同時計数ライン)上における対消滅位置を求める。TOF-PET装置は、被検体における電子・陽電子の対消滅の事象毎に求めた対消滅位置から被検体の断層画像を取得する。TOF-PET装置では、通常のPET装置で必要であった所定のアルゴリズムに従う反復計算が不要である。
【0004】
通常のPET装置またはTOF-PET装置においてγ線を検出する放射線検出器として、輻射体、光電変換部、電子増倍部およびアノードを含む構成のものが用いられ得る(特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-191047号公報
【文献】特開2020-34414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TOF-PET装置において上記のような構成を有する放射線検出器を用いてγ線を検出した場合、取得される被検体の断層画像は、その放射線検出器の構成に起因する画質劣化が生じる。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、画質が改善された断層画像を取得することができるTOF-PET装置および断層画像取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のTOF-PET装置は、RI線源が投入されて測定空間に置かれた被検体において電子・陽電子の対消滅に伴って発生するγ線の光子対を同時計数法で検出して同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて被検体の断層画像を取得する装置である。本発明のTOF-PET装置は、(1) 入射したγ線との相互作用により光を発生させる輻射体と、輻射体で発生した光の入射に応じて電子を放出する光電変換部と、光電変換部から放出された電子を増倍して出力する1以上のマイクロチャネルプレートを有する電子増倍部と、電子増倍部により増倍されて出力された電子を収集して電気パルス信号を出力するアノードと、を各々含む複数の放射線検出器が測定空間の周囲に設けられた検出部と、(2) 検出部の複数の放射線検出器それぞれの光電変換部と電子増倍部との間に、被検体の外径に基づいて設定した印加電圧を与える電圧印加部と、(3) 検出部の複数の放射線検出器それぞれから出力される電気パルス信号に基づいて同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて被検体の断層画像を取得する信号処理部と、を備える。
【0009】
本発明のTOF-PET装置は、被検体の外径に関する情報を入力する入力部を更に備え、電圧印加部は、入力部により入力された被検体の外径に基づいて印加電圧を設定するのが好適である。本発明のTOF-PET装置は、被検体の外径を測定する測定部を更に備え、電圧印加部は、測定部により測定された被検体の外径に基づいて印加電圧を設定するのが好適である。また、本発明のTOF-PET装置は、X線CT装置と一体化されており、電圧印加部は、X線CT装置による測定により得られた被検体の外径に基づいて印加電圧を設定するのが好適である。輻射体は、γ線との相互作用によりチェレンコフ光を発生させるチェレンコフ輻射体であってもよいし、γ線との相互作用によりシンチレーション光を発生させるシンチレータであってもよい。
【0010】
本発明の断層画像取得方法は、RI線源が投入されて測定空間に置かれた被検体において電子・陽電子の対消滅に伴って発生するγ線の光子対を同時計数法で検出して同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて被検体の断層画像を取得する方法である。本発明の断層画像取得方法は、(1) 入射したγ線との相互作用により光を発生させる輻射体と、輻射体で発生した光の入射に応じて電子を放出する光電変換部と、光電変換部から放出された電子を増倍して出力する1以上のマイクロチャネルプレートを有する電子増倍部と、電子増倍部により増倍されて出力された電子を収集して電気パルス信号を出力するアノードと、を各々含む複数の放射線検出器が測定空間の周囲に設けられた検出部を備えるTOF-PET装置を用い、(2) 検出部の複数の放射線検出器それぞれの光電変換部と電子増倍部との間に、被検体の外径に基づいて設定した印加電圧を与えた後、(3) 検出部の複数の放射線検出器それぞれから出力される電気パルス信号に基づいて同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて被検体の断層画像を取得する。
【0011】
本発明の断層画像取得方法では、TOF-PET装置が、被検体の外径に関する情報を入力する入力部を更に備えており、入力部により入力された被検体の外径に基づいて印加電圧を設定するのが好適である。本発明の断層画像取得方法では、TOF-PET装置が、被検体の外径を測定する測定部を更に備えており、測定部により測定された被検体の外径に基づいて印加電圧を設定するのが好適である。また、本発明の断層画像取得方法では、TOF-PET装置がX線CT装置と一体化されており、X線CT装置による測定により得られた被検体の外径に基づいて印加電圧を設定するのが好適である。輻射体は、γ線との相互作用によりチェレンコフ光を発生させるチェレンコフ輻射体であってもよいし、γ線との相互作用によりシンチレーション光を発生させるシンチレータであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、画質が改善された断層画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、TOF-PET装置において用いられる放射線検出器10の構成を示す図である。
図2図2は、2つの放射線検出器10A,10Bによるγ線の光子対の同時検出を説明する図である。
図3図3は、図2に示される構成において2つの放射線検出器10A,10Bそれぞれによるγ線検出時刻の差の頻度分布を示すグラフである。
図4図4は、図2に示される構成において2つの放射線検出器10A,10Bそれぞれによるγ線検出時刻の差の頻度分布にサイドピークが現れる原因を説明する図である。
図5図5は、ピーク時刻差Δtと印加電圧Vとの関係を示すグラフである。
図6図6は、TOF-PET装置1の構成を示す図である。
図7図7は、TOF-PET装置1の構成を示す図である。
図8図8は、TOF-PET装置1Aの構成を示す図である。
図9図9は、TOF-PET装置1Bの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
図1は、TOF-PET装置において用いられる放射線検出器10の構成を示す図である。放射線検出器10は、輻射体11、中間層12、光電変換部13、電子増倍部14、アノード15および筐体16を含む。放射線検出器10は、入射したγ線と輻射体11との相互作用の事象毎にアノード15から電気パルス信号を出力する。
【0016】
輻射体11は、入射したγ線との相互作用により光を発生させる。輻射体11は、厚みが一様である平板形状を有するのが好ましい。輻射体11は、γ線との相互作用によりチェレンコフ光を発生させるチェレンコフ輻射体、または、γ線との相互作用によりシンチレーション光を発生させるシンチレータである。シンチレータの材料は、任意であるが、例えばBGO(BiGe12)等である。
【0017】
チェレンコフ輻射体は、屈折率が既知であってチェレンコフ効果が生じ得る材料からなる。チェレンコフ輻射体の材料は、任意であるが、例えば鉛ガラス(SiO+PbO)、フッ化鉛(PbF)、PWO(PbWO)、フッ化ビスマス(BiF)、合成石英、フッ化マグネシウム等である。鉛ガラスは、数%以上の鉛を含む非晶質ガラスである。鉛ガラスは、加工性が良好な材料であり、様々な形状および厚さに容易に加工することができる。鉛ガラスは、鉛含有率が大きいほど、γ線をチェレンコフ光に変換する効率が高く、波長400nm以下の光の透過率および屈折率が高くなる特徴を有する。
【0018】
γ線がチェレンコフ輻射体に入射すると、チェレンコフ輻射体中において光電効果により電子等の荷電粒子が発生する。そして、その荷電粒子の移動速度がチェレンコフ輻射体中の光速度より速いと、荷電粒子とチェレンコフ輻射体との間の相互作用によりチェレンコフ光が放射される。
【0019】
中間層12は、輻射体11と光電変換部13との間に設けられている。中間層12は、輻射体11に含まれる鉛と光電変換部13との反応を遮るバリア層である。なお、輻射体11と光電変換部13との間の反応が問題にならなければ、中間層12は不要である。
【0020】
中間層12の材料は、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタン(TiO)等である。中間層12は、厚みが一様である緻密層であるのが好ましい。中間層12の厚さは、γ線が輻射体11と相互作用することにより放出される光の波長以下であるのが好ましい。中間層12の厚さは、当該光の波長よりも十分に小さいのが好ましく、例えば10nm程度であるのが好ましい。中間層12は、例えば、原子層堆積(ALD: Atomic Layer Deposition)によって輻射体11上に形成される。
【0021】
光電変換部13は、輻射体11との間に中間層12を挟んで設けられている。光電変換部13は、輻射体11で発生した光の入射に応じて光電子を放出する。光電変換部13の材料は、アルカリ金属元素を含み、例えばアルカリ-アンチモン等である。光電変換部13の厚みは、一様であり、数十nmである。輻射体11、中間層12および光電変換部13は、この順に積層されて一体化されていてもよい。
【0022】
光電変換部13と電子増倍部14との間には、光電変換部13で放出された電子が電子増倍部14に向かうように電界が形成される。電子増倍部14は、光電変換部13から放出された電子を入力し、電子を増倍して出力する。電子増倍部14は、1以上のマイクロチャネルプレート(MCP: Micro Channel Plate)を有する。MCPの両面(光電変換部13の側の面、および、アノード15の側の面)の間には、電子を増倍するための高電圧が印加される。1個のMCPによる電子増倍率が十分でない場合には、2個以上のMCPを積層して用いるのが好ましい。2個のMCPを積層することで、10程度の電子増倍率が得られる。MCPの母材は、鉛を含んでいてもよいし、鉛を含んでいなくてもよい。γ線とMCPの母材との間の相互作用により電子が放出される場合がある。
【0023】
電子増倍部14とアノード15との間には、電子増倍部14で増倍されて出力された電子がアノード15に向かうように電界が形成される。アノード15は、電子増倍部14により増倍されて出力された電子を収集して電気パルス信号を外部へ出力する。なお、電気パルス信号は、負のパルスであるので、この図では下向きのパルスとして表示されている。
【0024】
筐体16の内部に少なくとも電子増倍部14およびアノード15が配置される。筐体16は気密性を有し、筐体16の内部は真空(または非常に低い気圧)に維持される。光電変換部13が筐体16の窓であってもよく、この場合、筐体16および光電変換部13が気密性を有する閉空間を形成する。また、輻射体11が筐体16の窓であってもよく、この場合、筐体16および輻射体11が気密性を有する閉空間を形成する。
【0025】
輻射体11の外側の面(光電変換部13とは反対側の面)に、輻射体11で生じた光を吸収する遮蔽膜が設けられているのが好ましい。このような遮蔽膜が設けられていることにより、輻射体11で生じた光が輻射体11の外側の面で反射された後に光電変換部13に入射することを抑制することができる。
【0026】
電圧印加部2は、光電変換部13から放出された電子が電子増倍部14に向かうように電界を形成するために、光電変換部13と電子増倍部14との間に電圧を印加する。電圧印加部2は、電子増倍部14が電子を増倍することができるように、MCPの両面間に電圧を印加する。また、電圧印加部2は、電子増倍部14により増倍されて出力された電子がアノード15に向かうように電界を形成するために、電子増倍部14とアノード15との間に電圧を印加する。
【0027】
以下では、放射線検出器10の輻射体11がチェレンコフ輻射体である場合について主に説明するが、輻射体11がシンチレータである場合も同様である。
【0028】
図2は、2つの放射線検出器10A,10Bによるγ線の光子対の同時検出を説明する図である。放射線検出器10A,10Bそれぞれは、図1に示された構成を有するものである。放射線検出器10Aおよび放射線検出器10Bは、それぞれのγ線入射面が対向するように配置されている。放射線検出器10Aと放射線検出器10Bとを互いに結ぶ線分上にRI線源が置かれている。
【0029】
RI線源から放出された陽電子が近傍の電子と対消滅すると、γ線の光子対が発生する。光子対を構成する2つの光子は互いに反対方向に飛行する。したがって、放射線検出器10A,10Bのうち一方がγ線を検出すると、それと殆ど同時に他方もγ線を検出する。放射線検出器10A,10Bそれぞれによるγ線検出時刻の差の絶対値が或る閾値より小さければ、電子・陽電子の対消滅に伴って発生したγ線の光子対が放射線検出器10A,10Bにより同時検出されたと判断される。このとき、放射線検出器10A,10Bそれぞれによるγ線検出時刻の差は、放射線検出器10Aと放射線検出器10Bとを互いに結ぶ線分(同時計数ライン)上における電子・陽電子の対消滅位置を表している。例えば、放射線検出器10A,10Bそれぞれによるγ線検出時刻の差が0であれば、同時計数ラインの中央位置で電子・陽電子の対消滅が発生したことが分かる。
【0030】
図3は、図2に示される構成において2つの放射線検出器10A,10Bそれぞれによるγ線検出時刻の差の頻度分布を示すグラフである。横軸は、放射線検出器10A,10Bそれぞれによるγ線検出時刻の差であり、縦軸は、γ線の光子対の同時検出の頻度である。同時計数ラインの中央位置にRI線源が置かれていると、γ線検出時刻の差が0である位置に、γ線光子対の同時検出の頻度のピーク(以下「メインピーク」という。)がある。しかし、このグラフに示されるように、γ線検出時刻の差が±250psである位置にも、γ線光子対の同時検出の頻度のピーク(以下「サイドピーク」という。)がある。TOF-PET装置において、このようなサイドピークが存在すると、同時計数ライン上の電子・陽電子の対消滅の位置を誤ることになる結果、取得される断層画像の画質を悪化させることになる。
【0031】
図4は、図2に示される構成において2つの放射線検出器10A,10Bそれぞれによるγ線検出時刻の差の頻度分布にサイドピークが現れる原因を説明する図である。
【0032】
2つの放射線検出器10A,10Bのうちの一方の放射線検出器10Aでは、到来したγ線が輻射体11と相互作用するものとする、γ線が輻射体11と相互作用すると、輻射体11において電子が発生する。その電子の移動速度が輻射体11中の光速度より速いと、その電子が輻射体11と相互作用してチェレンコフ光νが放射される。輻射体11で発生したチェレンコフ光νが光電変換部13に入射すると、光電変換部13から光電子eが放出される。光電変換部13から放出された光電子eは、光電変換部13と電子増倍部14との間の電界によって電子増倍部14に到達して、電子増倍部14により増倍される。電子増倍部14により増倍されて出力された電子は、電子増倍部14とアノード15との間の電界によってアノード15に到達する。電子増倍部14により増倍されて出力された電子がアノード15により収集されて、アノード15から電気パルス信号が外部へ出力される。
【0033】
他方の放射線検出器10Bでは、到来したγ線は、輻射体11と相互作用することなく電子増倍部14まで到達して、電子増倍部14のMCPの母材と相互作用するものとする。γ線がMCPの母材と相互作用すると、その母材において電子が発生する。その電子は、電子増倍部14により増倍される。電子増倍部14により増倍されて出力された電子は、電子増倍部14とアノード15との間の電界によってアノード15に到達する。電子増倍部14により増倍されて出力された電子がアノード15により収集されて、アノード15から電気パルス信号が外部へ出力される。
【0034】
同時計数ラインの中央位置で電子・陽電子の対消滅によりγ線光子対が発生すると、その光子対を構成する2つの光子のうちの一方のγ線光子が到来した放射線検出器10Aでは、その光子が輻射体11で相互作用した後に幾つかの過程を経て光電変換部13から電子増倍部14まで電子が飛行するのに対して、他方のγ線光子が到来した放射線検出器10Bでは、その光子が電子増倍部14まで飛行する。その結果、放射線検出器10Aのアノード15から電気パルス信号が出力される時刻より、放射線検出器10Bのアノード15から電気パルス信号が出力される時刻が早くなる。これが原因となって、サイドピークが現れて、同時計数ライン上の電子・陽電子の対消滅の位置の誤りを生じることになる。
【0035】
仮に、放射線検出器10Bにおいてγ線が電子増倍部14まで飛行したことを検知することができるのであれば、そのときに得られた同時計数情報を破棄すればよい。しかし、そのような検知は不可能である。
【0036】
メインピークに対するサイドピークの高さの比は、電子増倍部14のMCPの母材によって異なる。母材の材料が鉛ガラスである場合と比較すると、母材の材料が硼珪酸ガラスである場合には、γ線と母材との間で相互作用が生じる確率は小さいので、メインピークに対するサイドピークの高さの比は小さい。しかし、MCPの母材の材料を適切に選択したとしても、サイドピークを完全に無くすことはできないので、取得される断層画像の画質は悪化せざるをえない。
【0037】
ところで、図3に示されるγ線検出時刻の差の頻度分布におけるメインピークおよびサイドピークそれぞれのピーク時刻の差Δtは、下記(1)式で表される。ここで、mは電子の静止質量であり、qは素電荷である。Lは光電変換部13と電子増倍部14の電子入射面との間の距離であり、Vは光電変換部13と電子増倍部14の電子入射面との間に印加される電圧である(図1参照)。この式から分かるように、ピーク時刻差Δtは距離Lおよび印加電圧Vに依存する。
【0038】
【数1】
【0039】
図5は、ピーク時刻差Δtと印加電圧Vとの関係を示すグラフである。このグラフにおいて、黒丸は実験値を示し、実線は上記(1)式の理論曲線を示す。距離Lを2.0mmとし、距離Lの誤差を0.1mmとした。このとき、ピーク時刻差Δtが下記(2)式で表されるとしたときの係数Cは、理論予想では6749±337であるのに対して、実験結果では6935±37であった。両者は、誤差の範囲で互いに一致している。したがって、TOF-PET装置に設けられた複数の放射線検出器10それぞれにおいて、距離Lおよび印加電圧Vの双方または何れか一方を調整することにより、ピーク時刻差Δtを調整することができる。
【0040】
【数2】
【0041】
図6および図7は、TOF-PET装置1の構成を示す図である。これらの図は被験者の体軸方向に見たものである。TOF-PET装置1は、電圧印加部2、検出部3および信号処理部4を備える。これらの図には、被験者も示され、また、図3に示されるγ線検出時刻の差の頻度分布も示されている。検出部3において、複数の放射線検出器10は、測定空間に置かれた被検体から到来するγ線光子を検出することができるように測定空間の周囲に配置されている。電圧印加部2は、検出部3の複数の放射線検出器10それぞれに対して、光電変換部13と電子増倍部14との間に電圧Vを印加し、電子増倍部14のMCPの両面間に電圧を印加し、また、電子増倍部14とアノード15との間に電圧を印加する。電圧印加部2は、特に、検出部3の複数の放射線検出器10それぞれの光電変換部13と電子増倍部14との間に、被検体の外径に基づいて設定した印加電圧Vを与える。信号処理部4は、検出部3の複数の放射線検出器10それぞれから出力される電気パルス信号に基づいて同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて被検体の断層画像を取得する。
【0042】
本実施形態の断層画像取得方法は、このような複数の放射線検出器10が測定空間の周囲に設けられた検出部3を備えるTOF-PET装置1を用い、複数の放射線検出器10それぞれの光電変換部13と電子増倍部14との間に被検体の外径に基づいて設定した印加電圧Vを与えた後、複数の放射線検出器10それぞれから出力される電気パルス信号に基づいて同時計数情報を収集し、この収集した同時計数情報に基づいて被検体の断層画像を取得する。
【0043】
検出部3の複数の放射線検出器10それぞれにおいて距離Lおよび印加電圧Vの双方または何れか一方を調整することにより、図6中に示されたγ線検出時刻の差の頻度分布に対して、図7中に示されたγ線検出時刻の差の頻度分布においては、メインピークおよびサイドピークそれぞれのピーク時刻の差Δtを大きくすることができる。被検体の断層画像においてサイドピークの影響が現れない程度までピーク時刻差Δtが大きくなるように、検出部3の複数の放射線検出器10それぞれにおいて距離Lおよび印加電圧Vの双方または何れか一方を調整すればよい。一般には、TOF-PET装置1に取り付けられた各放射線検出器10においては、距離Lを調整することは構造上容易でないから、電圧印加部2により印加電圧Vを調整するのが好ましい。上記(1)式に示されるように、印加電圧Vを小さくすることで、ピーク時刻差Δtを大きくすることができる。
【0044】
また、被験者の身体のうち断層画像を取得しようとする部分(被検体)の外径に応じて、電圧印加部2により各放射線検出器10における印加電圧Vを調整して、ピーク時刻差Δtを大きくすればよい。例えば、被験者の身体のうち頭部を被検体として断層画像を取得しようとする場合には、その頭部の外径に応じて、電圧印加部2により各放射線検出器10における印加電圧Vを調整する。被験者の身体のうち胸部を被検体として断層画像を取得しようとする場合には、その胸部の外径に応じて、電圧印加部2により各放射線検出器10における印加電圧Vを調整する。また、被験者の身体のうち一部の臓器を被検体として断層画像を取得しようとする場合には、その臓器の外径に応じて、電圧印加部2により各放射線検出器10における印加電圧Vを調整する。
【0045】
被検体の外径をDとすると、各放射線検出器10における印加電圧Vは下記(3)式を満たせばよい。cは真空中の光速である。また、サイドピークが或る時間幅(図3では数十ps)を有していることを考慮して、ピーク時刻差Δtにサイドピーク時間幅を加えた時間に基づいて、各放射線検出器10における印加電圧Vを設定するのが好適である。
【0046】
【数3】
【0047】
例えば、被検体の外径Dを45cmとすれば、ピーク時刻差Δtは3.0nsより長いことが必要である。その為には、放射線検出器における距離Lを12.6mmとすれば、その放射線検出器における印加電圧Vを200Vより低くとすることが必要である。従来のPET装置で用いられる放射線検出器では、距離Lは短い方が好ましいとされており、例えば距離Lは2mmであり、印加電圧Vの推奨値は200~600Vとされている。これと比べると、本実施形態のTOP-PET装置1における放射線検出器の距離Lおよび印加電圧Vは有意に相違する。
【0048】
被験者の身体のうち胸部を被検体とする場合には、一般に、被検体の外径は方向によって異なる。図6および図7に示されたように被験者がベッドに寝かされた状態であるとき、被検体(胸部)の上下方向の外径と水平方向の外径とは互いに異なる。上下方向の同時計数ラインのうち被検体を通過する部分と比べて、水平方向の同時計数ラインのうち被検体を通過する部分は長い。このような場合、複数の放射線検出器10それぞれは、配置された位置によって距離Lまたは印加電圧Vが異なっていてもよい。
【0049】
また、同一リング内の2つの放射線検出器により同時計数情報を収集する2次元PETと比べると、互いに異なるリングに属する2つの放射線検出器によっても同時計数情報を収集する3次元PETでは、光子対を同時計数する2つの放射線検出器を結ぶ同時計数ラインのうち被検体を通過する部分が長い場合がある。このような点も考慮した上で、複数の放射線検出器10それぞれは、配置された位置によって距離Lまたは印加電圧Vが異なっていてもよい。
【0050】
何れの場合であっても、検出部3の各放射線検出器10は、他の放射線検出器との間の同時計数ラインのうち被検体を通過する部分の長さに基づいて、取得しようとする被検体の断層画像においてサイドピークの影響が現れない程度までピーク時刻差Δtが大きくなるように、距離Lおよび印加電圧Vの双方または何れが設定される。これにより、画質が改善された断層画像を取得することができる。
【0051】
被検体の外径として平均的な値(または、平均的な値より余裕を持った値)を採用して、これに基づいて各放射線検出器10における印加電圧Vを設定してもよい。また、被験者毎に被検体の外径を測定して、その測定値に基づいて各放射線検出器10における印加電圧Vを設定してもよい。後者の場合、図8または図9に示される構成とすることができる。
【0052】
図8は、TOF-PET装置1Aの構成を示す図である。TOF-PET装置1Aは、電圧印加部2、検出部3および信号処理部4に加えて、入力部5および測定部6を備える。入力部5は、被験者の身体のうち断層画像を取得しようとする部分(被検体)の外径に関する情報を入力する。電圧印加部2は、入力部5により入力された被検体の外径に基づいて、検出部3の各放射線検出器10における印加電圧Vを設定する。測定部6は、被検体の外径を測定して、その測定結果を入力部5に与える。測定部6は、例えば光学的手法により被検体の外径を測定することができる。被験者の身体のうち一部の臓器を被検体とする場合には、その臓器の外径を直接には測定することができないが、その臓器の周囲の身体の外形の測定値に基づいて臓器の外径を推定すればよい。
【0053】
図9は、TOF-PET装置1Bの構成を示す図である。TOF-PET装置1Bは、電圧印加部2、検出部3および信号処理部4に加えて、入力部5およびX線CT装置7を備える。これは、X線CT装置とPET装置とが一体化されたPET/CT装置の構成を有する。X線CT装置7は、PET装置と同様に被験者の断層画像を取得することができ、その断層画像に基づいて被験者の各部の外径を求めることができる。したがって、X線CT装置7は、PETにより断層画像を取得しようとする被検体の外径を求めることができる。入力部5は、X線CT装置7により求められた被検体の外径に関する情報を入力する。電圧印加部2は、入力部5により入力された被検体の外径に基づいて、検出部3の各放射線検出器10における印加電圧Vを設定する。
【0054】
図8または図9に示される構成を有するTOF-PET装置では、各放射線検出器10における印加電圧Vを被験者毎に最適に設定することができるので、画質が改善された断層画像を確実に取得することができる。
【符号の説明】
【0055】
1,1A,1B…TOF-PET装置、2…電圧印加部、3…検出部、4…信号処理部、5…入力部、6…測定部、7…X線CT装置、10,10A,10B…放射線検出器、11…輻射体、12…中間層、13…光電変換部、14…電子増倍部、15…アノード、16…筐体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9