(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】コンクリート部材の耐酸性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2022203929
(22)【出願日】2022-12-21
(62)【分割の表示】P 2022116898の分割
【原出願日】2022-07-22
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591121111
【氏名又は名称】株式会社安部日鋼工業
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 承寧
(72)【発明者】
【氏名】石井 豪
(72)【発明者】
【氏名】宮島 朗
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204195(JP,A)
【文献】特開2007-114024(JP,A)
【文献】特開2010-001208(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2228174(KR,B1)
【文献】青木正雄,外3名,画像処理によるコンクリート供試体の劣化に関する研究,農業土木学会大会講演会講演要旨集,日本,2003年,Vol.2003,p618-619
【文献】太田垣晃一郎,外4名,三次元画像解析によるコンクリート水路表面粗度の測定手法に関する研究,農業農村工学会論文集,日本,2012年,第80巻第4号,p311-317
【文献】柳原弘幸,外3名,硫酸滴下試験による断面修復材の耐酸性評価,コンクリート工学年次論文集,日本,2005年,Vol.27,No.1,p901-906
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
C04B 28/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材の耐酸性評価方法であって、
評価対象のコンクリート部材と同時に所定寸法の供試体を製造する工程と、
前記供試体に硫酸を滴下する工程と、
前記硫酸を滴下する工程を行った後の前記供試体の三次元画像を作成する工程と、
前記三次元画像を用いることにより、所定寸法の前記供試体に対して、硫酸を滴下
する工程を行った後の前記供試体の形状変化を
、計測する工程と、
計測した前記形状変化に基づいて耐酸性を評価する工程と、
を備えて
おり、
前記三次元画像は、複数の二次元のデジタル写真を合成して三次元モデルを作成し、前記三次元モデルの基準面に対する高低差を色分けしたオルソ画像であり、
前記供試体の形状変化を計測した結果に基づいて、前記硫酸を滴下する工程によって前記供試体の表面に形成された凹部の体積を計測することを特徴とするコンクリート部材の耐酸性評価方法。
【請求項2】
硫酸を滴下した供試体の質量減少率を測定し、
前記三次元画像から計測した前記供試体の体積変化率と、前記質量減少率の相関関係を用いて耐酸性を評価することを特徴とする請求項
1に記載のコンクリート部材の耐酸性評価方法。
【請求項3】
前記供試体の表面に形成された凹部の傾斜を計測し、前記コンクリート部材の耐酸性の指標とすることを特徴とする請求項
1に記載のコンクリート部材の耐酸性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材の耐酸性評価方法と耐酸性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道関連施設や地下構造物などのコンクリート構造物は、長期間酸性雰囲気に曝されることがある。特に、下水や温泉水などの酸性の液体と接触していると、コンクリートの中性化、過度膨張、および分解等などが原因となってコンクリート構造物の劣化が進行する。コンクリート構造物の劣化を防止するための対策として、コンクリート構造物の耐酸性の向上が求められている。
【0003】
耐酸性コンクリートの開発を目的として、セメント系材料の検討と、構造物成形後の処理の検討が、種々行われている。セメント系材料に関する技術としては、たとえば特許文献1に、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、産業副産物として、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、アルカリ刺激材として消石灰を含む耐酸性コンクリートが開示されている。特許文献1の耐酸性コンクリートは、遠心力成形で締め固めて製造される。
【0004】
コンクリート構造物を成形した後の耐酸性向上処理としては、樹脂などの有機材料によるコーティングやライニングが知られている。また、特許文献2には、粗骨材を含む内部コンクリートと、この内部コンクリートの表層にモルタル成分のみで形成した反応保護層を有するセメント硬化体が開示されている。特許文献2のセメント硬化体の表層は、硫酸と反応すると二水石膏製のバリア層に変質するモルタル成分で形成されている。特許文献3には、普通セメントとシリカ粉末と骨材を含み、または普通セメントとシリカ粉末とシリカフュームと骨材とを含み、二酸化ケイ素と酸化カルシウムの質量比が5~8である耐酸性コンクリートが開示されている。特許文献3の耐酸性コンクリートは、常圧蒸気養生(一次養生)の後に高温高圧養生(二次養生)することで製造される。
【0005】
耐酸性コンクリートの開発には、部材として成形されたコンクリートの耐酸性を評価する技術が必要である。従来から知られている耐酸性コンクリートの評価方法は、コンクリート部材の複数の測定点について、腐食の深度や腐食層の状態を外観検査または化学成分分析によって評価するものであった。大型の建造物等のコンクリート部材が測定対象となる場合、コンクリート全体の耐酸性を簡易で定量的に評価する技術は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/172349号
【文献】特開2016-50153号公報
【文献】特開2008-254981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示されている高炉スラグ微粉末は、耐酸性の向上に貢献することが知られている。一方で、強度が必要なコンクリート構造物に高炉スラグ微粉末を適用する場合には、強度を確保するための結合材などの配合比を慎重に検討する必要がある。また、耐酸性を向上させる他の材料の中には、既存の設備で調整が困難なものがあり、新たな製造装置の導入が必要となる場合がある。
【0008】
耐酸性を向上させるコンクリート構造物の後処理についても、従来知られている樹脂などの有機材料によるコーティングやライニングは、長期間使用すると剥がれやひび割れが発生し、耐酸性が低下することが知られている。また、その他の処理方法を採用する場合は、従来とは異なる設備が必要となる場合が多い。
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、耐酸性コンクリートのより簡易で定量的な耐酸性評価方法の提供を解決すべき課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コンクリート部材の耐酸性評価方法を提供する。本発明のコンクリート部材の耐酸性評価方法は、評価対象のコンクリート部材と同時に所定寸法の供試体を製造する工程と、供試体に硫酸を滴下する工程と、硫酸を滴下する工程を行った後の前記供試体の三次元画像を作成する工程と、前記三次元画像を用いることにより、所定寸法の前記供試体に対して、硫酸を滴下する工程を行った後の前記供試体の形状変化を計測する工程と、計測した形状変化に基づいて耐酸性を評価する工程と、を備えている。
【0011】
本発明のコンクリート部材の耐酸性評価方法は、三次元画像が複数の二次元のデジタル写真を合成して三次元モデルを作成し、三次元モデルの基準面に対する高低差を色分けしたオルソ画像であって、供試体の形状変化を計測した結果に基づいて、硫酸を滴下する工程によって供試体の表面に形成された凹部の体積を計測する。
【0012】
本発明のコンクリート部材の耐酸性評価方法は、硫酸を滴下した供試体の質量減少率を測定し、三次元画像から計測した供試体の体積変化率と、質量減少率の相関関係を用いて耐酸性を数値化することが好ましい。
【0013】
または、本発明のコンクリート部材の耐酸性評価方法は、供試体の表面に形成された凹部の傾斜を計測し、コンクリート部材の耐酸性の指標とすることができる。
【0014】
(削除)
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐酸性コンクリートの評価方法および評価装置は、所定寸法の供試体の質量変化と体積変化の関係を簡便かつ正確に測定することができる。そして、得られた質量変化と体積変化の関係から、特別な試験装置を用いることなく、コンクリート部材の表層の耐酸性を定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、表層に硫酸カルシウム層が形成されたコンクリート部材の断面の図面代用写真である。
【
図2】第一の組成で形成した耐酸性コンクリートの耐酸性の評価結果を示す図である。
【
図3】第二の組成で形成した耐酸性コンクリートの耐酸性の評価結果を示す図である。
【
図4】第三の組成で形成した耐酸性コンクリートの耐酸性の評価結果を示す図である。
【
図5】本発明のコンクリートの耐酸性評価装置の一例を示す図である。
【
図6】本発明のコンクリートの耐酸性評価方法で撮影したオルソ画像の一例を示す図である。
【
図7】本発明のコンクリートの耐酸性評価方法によって評価したコンクリートの供試体の質量変化率と体積変化率の関係を示す図である。
【
図8】本発明のコンクリートの耐酸性評価方法によって評価したコンクリートの供試体の凹部の勾配と消失面積の関係を示す図である。
【
図9】従来のコンクリートの耐酸性評価方法によって評価したコンクリートの供試体の質量変化率と体積変化率の関係を示す図である。
【
図10】第四の組成で形成したコンクリートの供試体の断面形状と勾配測定位置を示す図である。
【
図11】第五の組成で形成したコンクリートの供試体の断面形状と勾配測定位置を示す図である。
【
図12】第六の組成で形成したコンクリートの供試体の断面形状と勾配測定位置を示す図である。
【
図13】表層に多孔性の硫酸カルシウム層が形成されたコンクリートの図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
耐酸性コンクリートの組成
以下、図面を参照しつつ、参考例の耐酸性コンクリートの評価方法および評価装置の好適な実施形態を説明する。ここで説明する耐酸性コンクリートとその製造方法は例示であって、特許請求の範囲を限定することをと意図したものではない。
【0018】
参考例の耐酸性コンクリートは、ポルトランドセメント、混和材、骨材、および混和剤を原料とする。ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントまたは早強ポルトランドセメントであることが好ましい。混和材は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、およびシリカフュームからなる群から選択される二以上の組成物であることが好ましい。骨材は、コンクリート用砕石砕砂、高炉スラグ骨材、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ骨材、および電気炉酸化スラグ骨材からなる群から選択される一以上の組成物であることが好ましい。混和剤は、コンクリート用化学混和剤である、AE剤、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、および高性能AE減水剤からなる群から選択される一以上の組成物であることが好ましい。
【0019】
特に好適な耐酸性コンクリートの組成は、ポルトランドセメント5~50重量%、高炉スラグ微粉末50~90重量%、フライアッシュ0~10重量%、シリカフューム0~10重量%である。また、単位水量(W)が175kg/m3以下であり、且つ水結合材比(W/B)が65重量%以下とすることが、好ましい。
【0020】
耐酸性コンクリートの製造方法
参考例の耐酸性コンクリートの製造方法は、ポルトランドセメント、混和材、骨材、および混和剤からなる原料を混練する混練工程と、原料を型枠に充填して硬化する初期養生工程と、型枠を脱型してコンクリート部材を得る脱型工程と、硫酸水溶液をコンクリート部材の表層に浸透させて硫酸カルシウム層を形成する硫酸カルシウム層形成工程と、を備えている。硫酸カルシウム層形成工程は、具体的には、コンクリート部材を水または硫酸水溶液に浸漬することで実施される。
【0021】
硫酸カルシウム層形成工程でコンクリート部材に浸透させる液体は、硫酸水溶液によって硫酸カルシウム層の形成効果を得ることができる。硫酸水溶液を用いる場合、硫酸の濃度は、5重量%未満であることが好ましい。5重量%を超えた硫酸水溶液を浸透させた場合、硫酸カルシウム層の形成と同時に、内部のコンクリートの劣化が始まるためである。
【0022】
硫酸水溶液を浸透させたコンクリート部材の表面では、以下の反応によって硫酸カルシウム層が形成される。
Ca(OH)2+H2SO4→CaSO4+2H2O
硫酸カルシウム層は、その後の硫酸によるコンクリートの腐食を防止し、耐酸性を向上させる。また、同時に、コンクリート部材の未水和物質の水和が促進される。
【0023】
硫酸カルシウム層形成工程に要する期間は、コンクリート部材の寸法、形状、求められる耐酸性によって適宜変更される。たとえば、24時間の浸漬で、必要な耐酸性を供する硫酸カルシウム層が得られるコンクリート部材が確認されている。また、56日の浸漬によって必要十分な耐酸性が得られたコンクリート部材も確認されている。
【0024】
図1に、硫酸カルシウム層が表層に形成されたコンクリート部材の断面の図面代用写真を示す。
図1に示したコンクリート部材は、参考例の耐酸性コンクリートの製造方法によって、コンクリート部材表層(図中、上側)に密実な硫酸カルシウムの層が形成されている。
【0025】
参考例の耐酸性コンクリートの製造方法に基づき、それぞれ異なる浸漬条件の硫酸カルシウム層形成工程を適用したコンクリート部材の、耐酸性評価結果を以下に説明する。以下、図面において「水による層形成」として表記したコンクリート部材は、脱型工程の後、56日間20℃の水中に静置している。「0.5%硫酸による層形成」として表記した硫酸カルシウム層形成工程は、脱型工程の後、56日間20℃の0.5重量%硫酸中に静置することで硫酸カルシウム層を形成している。「1.0%硫酸による層形成」として表記した硫酸カルシウム層形成工程は、脱型工程の後、56日間20℃の1.0重量%硫酸中に静置することで硫酸カルシウム層を形成している。また、比較例として、脱型工程の後、56日間20℃の室温に静置したコンクリート部材の耐酸性を評価した結果を「層形成工程なし」として示す。
【0026】
なお、「水による層形成」の行われたコンクリート部材は、脱型工程の後、一定期間水中に静置することによって、未反応の粉体の反応が進み硫酸に弱い物質が減少することと、コンクリート組織が緻密化することによって、耐酸性が向上する。
【0027】
ここでの耐酸性評価は、5重量%の硫酸水溶液にコンクリート部材を42日間浸漬し、7日ごとに質量を測定して腐食による質量変化率を算出し、評価値とした。質量減少率の大きなコンクリート部材は耐酸性が低く、質量減少の小さなコンクリート部材は耐酸性が高いといえる。
【0028】
耐酸性評価用の第一の組成のコンクリート部材として、水160kg/m
3、早強ポルトランドセメント457kg/m
3、細骨材としての石灰石770kg/m
3、粗骨材としての石灰石970kg/m
3を用いて、φ100×200mmの円柱状コンクリート部材を製造した。第一の組成のコンクリート部材は、水結合材比(W/B)が35%である。
図2に、第一の組成で形成した円柱状コンクリート部材の耐酸性評価結果を示す。
【0029】
耐酸性評価用の第二の組成のコンクリート部材として、水160kg/m
3、早強ポルトランドセメント242kg/m
3、高炉スラグ微粉末242kg/m
3、細骨材としての石灰石730kg/m
3、粗骨材としての石灰石970kg/m
3を用いて、φ100×200mmの円柱状コンクリート部材を製造した。第二の組成のコンクリート部材は、水結合材比(W/B)が33%である。
図3に、第二の組成で形成した円柱状コンクリート部材の耐酸性評価結果を示す。
【0030】
耐酸性評価用の第三の組成のコンクリート部材として、水160kg/m
3、早強ポルトランドセメント150kg/m
3、高炉スラグ微粉末350kg/m
3、フライアッシュ25kg/m
3、細骨材としての石灰石346kg/m
3、細骨材としての高炉スラグ346kg/m
3、粗骨材としての石灰石970kg/m
3を用いて、φ100×200mmの円柱状コンクリート部材を製造した。第三の組成のコンクリート部材は、水結合材比(W/B)が32%である。
図4に、第三の組成で形成した円柱状コンクリート部材の耐酸性評価結果を示す。
【0031】
表1に、第一から第三の組成の円柱状コンクリート部材の質量減少率の値を示す。数値は、
図2から
図4のグラフの結果に対応している。
【0032】
【0033】
表1および
図2から
図4に示したとおり、硫酸カルシウム層の形成されていないコンクリート部材は、その組成に拘わらず、硫酸による腐食が進む。これに対して、硫酸カルシウム層が形成されたコンクリート部材は、硫酸カルシウム層の形成されていないコンクリート部材よりも質量減少率が少なく、組成によっては全く質量減少が生じないことが確認された。硫酸カルシウム層の形成による耐酸性の向上効果は明らかである。
【0034】
密実な硫酸カルシウム層がコンクリート部材内部への硫酸の侵入を防止して、硫酸によるコンクリートの腐食を防止する効果を有していることは、コンクリート部材の表層と深部のカルシウムと硫黄の含有率を比較することで確認することができる。
図1に示したコンクリート部材の場合、42日間の耐酸性評価試験を行った後、カルシウムと硫黄の原子数をエネルギー分散型X線分光法により測定すると、以下の表2に示すように、表層と深部で、ほとんど含有率の割合に差がないことが明らかとなった。
【0035】
【0036】
高炉スラグ微粉末および高炉スラグの割合を増加させたコンクリート部材では、耐酸性が向上することは、本実施形態の耐酸性評価でも確認された。参考例の耐酸性コンクリートの製造方法では、フライアッシュやシリカフュームの組成比を適宜増加させることができ、耐酸性向上と強度向上を両立させることができる。
【0037】
耐酸性コンクリートの製造方法の別例
耐酸性コンクリートは、表面に炭酸カルシウム層を形成することによって、同様に製造することができる。その方法は、ポルトランドセメント、混和材、骨材、および混和剤からなる原料を混練する混練工程と、原料を型枠に充填して硬化する初期養生工程と、型枠を脱型してコンクリート部材を得る脱型工程と、二酸化炭素を浸透させて炭酸カルシウム層を形成する炭酸カルシウム層形成工程とを備えていることを特徴とする。炭酸カルシウム層形成工程は、コンクリート部材を、二酸化炭素濃度が5.1重量%以上10重量%未満のボイラー排気ガスに曝す工程であることが好ましい。
【0038】
耐酸性評価装置
図5に、本実施形態のコンクリートの耐酸性評価装置1の例を示す。本実施形態の耐酸性評価装置1は、コンピュータ2と一以上のデジタルカメラ3を備えている。コンピュータ2は、三次元画像処理プログラム21と、コンクリート部材の耐酸性数値化プログラム22を記憶している。三次元画像処理プログラム21は、硫酸を滴下する試験を行ったコンクリート部材の三次元画像を作成し、さらに各種の画像処理を行うプログラムである。コンクリート部材の耐酸性数値化プログラム22は、三次元画像処理プログラム21の結果を解析して、計測対象のコンクリート部材の耐酸性を算出する。
【0039】
耐酸性評価方法
本実施形態のコンクリート部材の耐酸性評価方法は、評価対象のコンクリート部材と同時に所定寸法の供試体を製造する工程と、供試体に硫酸を滴下する工程と、硫酸を滴下した供試体の形状変化を、供試体の三次元画像を作成することによって計測する工程と、計測した形状変化を用いて耐酸性を評価する工程を備えている。
【0040】
本実施形態の耐酸性評価方法で作成する三次元画像は、デジタルカメラ3によって撮影した複数の二次元のデジタル写真を、三次元画像処理プログラム21が合成して三次元モデルを作成し、三次元モデルの基準面に対する高低差を色分けしたオルソ画像である。オルソ画像の一例を、
図6に示す。
【0041】
三次元画像処理プログラム21が出力するオルソ画像を用いることによって、供試体の表面に形成された凹部の形状と体積を計測することができる。本実施形態の耐酸性評価方法では、耐酸性数値化プログラム22が、以下の二種類の方法で、耐酸性を評価する。
【0042】
第一の耐酸性評価方法は、耐酸性数値化プログラム22が、供試体の体積変化率に対する質量変化率の関係を用いて評価を行う方法である。本評価方法では、オルソ画像から、供試体の体積変化率を計測する。同時に、供試体の質量を測定し、質量減少率を算出する。
【0043】
表面に硫酸カルシウム層の形成されていないコンクリート部材の場合、硫酸の滴下による供試体の体積変化率と質量変化率との間には、強い相関関係がある。これに対して、表面に密実な硫酸カルシウム層が形成されている耐酸性コンクリートの場合、体積変化率に対して質量変化率が小さくなり、質量の減少が抑えられる。一方、
図13に示したような表面に多孔性の硫酸カルシウム層が形成されているコンクリート部材の場合、硫酸の滴下によって多孔性の層が比較的簡単に除去されるため、体積変化率に対して質量変化率は大きくなる。耐酸性数値化プログラム22は、通常のコンクリートの体積変化率と質量変化率の相関関係を記憶しており、計測結果に基づいて、供試体の耐酸性を評価する。
【0044】
第二の耐酸性評価方法は、耐酸性数値化プログラム22が、供試体の表面に形成された凹部の傾斜を用いて評価を行う方法である。
【0045】
第一の耐酸性評価方法を具現化した実施例を以下に示す。
【0046】
本実施例の耐酸性評価方法は、以下の通りである。長さ70mm、幅70mm、厚さ30mmの平板状コンクリート部材の供試体を製造する。平板状コンクリート部材を45度に傾斜させて固定し、コンクリート部材の中央に5重量%の硫酸水溶液を毎時14mLの流速で最長42日間滴下し続ける。この間、7日ごとに、表層のパテ状の柔らかい腐食生成物をブラシ等で除去する。滴下の完了後、カメラ2によってコンクリート部材を複数の位置で撮影し、得られた画像から三次元画像処理プログラム21がオルソ画像を作成する。オルソ画像から、硫酸水溶液の滴下による体積変化率を算出する。同時に、秤によってコンクリート部材の重量を測定し、質量変化率を算出する。
【0047】
図7に、耐酸性数値化プログラム22が、表面に硫酸カルシウム層の形成されていないコンクリート部材の供試体16種類と、耐酸性コンクリートの供試体3種類と、表面に多孔性の硫酸カルシウム層が形成された供試体1種類について、体積変化率と質量変化率の関係を算出した結果を示す。表面に硫酸カルシウム層の形成されていないコンクリート部材の供試体は、
図7に塗りつぶしの丸印で示している。表面に硫酸カルシウム層が形成された供試体を、
図7に白抜きの丸印で示している。
【0048】
表面に硫酸カルシウム層の形成されていないコンクリート部材の供試体は、Y=0.9564Xの回帰直線に対して、相関係数R
2=0.9265となる強い相関関係を示した。これに対して、耐酸性コンクリートの供試体は、質量変化率が体積変化率よりも小さい側に有意に乖離していた。一方、
図13に示したような多孔質の硫酸カルシウム層の形成された供試体は、質量変化率が体積変化率よりも大きい側に有意に乖離していた。
【0049】
耐酸性数値化プログラム22は、第一の耐酸性評価方法について、供試体の評価条件に対応する通常のコンクリート部材の回帰係数を記憶しており、質量変化率が体積変化率よりも小さい側に有意に乖離した供試体について、耐酸性が高いという評価を出力する。
【0050】
第一の耐酸性評価方法に対応する従来の耐酸性評価方法とその結果を、従来例として以下に示す。従来の耐酸性評価方法とは、5重量%の硫酸水溶液を滴下した後、あらかじめ設定した25点の寸法をノギスで測定し、測定結果から体積変化率を近似する方法である。従来の耐酸性評価方法によって第一の耐酸性評価方法で評価した20種類のコンクリート部材を評価した結果を
図9に示す。第一の耐酸性評価方法では確認された質量変化率と体積変化率の関係が見いだせず、有効な耐酸性の評価とはならなかった。
【0051】
第二の耐酸性評価方法を具現化した実施例を以下に示す。第二の耐酸性評価方法は、耐酸性数値化プログラム22が、供試体の凹部の勾配に対する消失体積または質量減少率の関係を用いて評価を行う方法である。
【0052】
本評価方法では、第一の耐酸性評価方法と同様に、平板状コンクリート部材の供試体に5重量%の硫酸水溶液を滴下する。供試体を撮影して得られたオルソ画像を加工し、表面が硫酸水溶液によって最も深く浸食されている箇所の断面画像を得る。そして、断面画像の凹部の勾配を算出する。同時に、オルソ画像から、供試体の硫酸水溶液による消失体積を算出する。
【0053】
本評価方法の耐酸性数値化プログラム22は、基準となる供試体について、凹部の勾配の基準値に対する消失体積または質量減少率の値を記憶している。そして、凹部の勾配に対して相対的に消失体積や質量減少率が小さい供試体、言い換えると消失体積や質量減少率に対して相対的に凹部の勾配が大きい供試体について、局所的な腐食劣化が生じやすいと判断して、耐酸性能が低いという評価結果を出力する。以下は、第二の耐酸性評価試験の一例である。
【0054】
耐酸性評価用の第四の組成のコンクリート部材としての水160kg/m
3、早強ポルトランドセメント96kg/m
3、高炉スラグ224kg/m
3、細骨材としての石灰石958kg/m
3、粗骨材970kg/m
3の組成から、粗骨材を除いて平板状コンクリート部材の供試体を製造した。これに、5重量%の硫酸水溶液を滴下した。断面画像を
図10(a)に示す。さらに
図10(b)に、断面画像の中で、凹部の勾配として抽出した箇所を直線で示す。
【0055】
耐酸性評価用の第五の組成のコンクリート部材としての、水160kg/m
3、早強ポルトランドセメント87kg/m
3、高炉スラグ203kg/m
3、フライアッシュ29kg/m
3、細骨材としての石灰石830kg/m
3、粗骨材970kg/m
3から、粗骨材を除いて平板状コンクリート部材の供試体を製造した。これに、5重量%の硫酸水溶液を滴下した。断面画像を
図11(a)に示す。さらに
図11(b)に、断面画像の中で、凹部の勾配として抽出した箇所を直線で示す。
【0056】
耐酸性評価用の第六の組成のコンクリート部材としての水160kg/m
3、早強320kg/m
3、細骨材960kg/m
3、粗骨材970kg/m
3から、粗骨材を除いて平板状コンクリート部材の供試体を製造した。これに、5重量%の硫酸水溶液を滴下した。供試体を撮影して画像処理したオルソ画像から、表面が硫酸水溶液によって最も深く浸食されている箇所の断面画像を作成した。断面画像を
図12(a)に示す。さらに
図12(b)に、断面画像の中で、凹部の勾配として抽出した箇所を直線で示す。
【0057】
第四、第五、第六の組成のコンクリート部材を含む8種類の組成のコンクリート部材の供試体について耐酸性数値化プログラム22が出力する結果の例を
図8に示す。耐酸性数値化プログラム22は、それぞれのコンクリート部材の供試体について、凹部の勾配と、消失体積の関係を算出して出力し、基準値の直線とともに出力する。
図8では、第四の組成のコンクリート部材の値をC1で示し、第五の組成のコンクリート部材の値をC2で示し、第六の組成のコンクリート部材の値をC3で示している。耐酸性の高いとされる高炉スラグ微粉末を含む第四、第五の組成のコンクリート部材は、凹部の勾配に対する消失体積の値が基準値よりも大きくなっており、局所的な腐食が少ないと考えられる。これに対して第六の組成のコンクリート部材は、凹部の勾配に対する消失体積の値が基準値よりも小さくなっており、局所的な腐食が大きいと考えられる。この結果から、耐酸性数値化プログラム22は、第六の組成のコンクリート部材の耐酸性が低いという評価結果を出力する。
【0058】
このように、本実施形態の耐酸性評価装置と耐酸性評価方法は、画像解析によって、耐酸性を定量的に評価することができる。
【0059】
以上、本発明の耐酸性評価装置と耐酸性評価方法について、例を挙げて説明したが、特許請求の範囲に記載した発明は、実施形態で説明した構成を様々に変形したものが含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1 ・・ 耐酸性評価装置
2 ・・ コンピュータ
3 ・・ デジタルカメラ
C ・・ コンクリート部材