(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】細孔フィリング膜、燃料電池、及び電解装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1058 20160101AFI20240315BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20240315BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20240315BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240315BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H01M8/1058
H01M8/1023
H01M8/106
H01M8/10 101
C25B13/08 301
(21)【出願番号】P 2023571765
(86)(22)【出願日】2023-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2023018040
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2022082500
(32)【優先日】2022-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山口 猛央
(72)【発明者】
【氏名】宮西 将史
(72)【発明者】
【氏名】奥山 浩人
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-181769(JP,A)
【文献】特開2009-099309(JP,A)
【文献】特開2009-191123(JP,A)
【文献】特開2007-177197(JP,A)
【文献】特開2019-186201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
C25B 9/00
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔基材と、ポリアリーレンポリマーを有し、
前記ポリアリーレンポリマーが、前記多孔基材の細孔内に充填されている、細孔フィリング
膜であって、
前記ポリアリーレンポリマーが、下記一般式(1)で表される構成単位を有する、細孔フィリング膜。
【化1】
ただし、
Ar
1
は、イオン交換基を有する芳香族基、又はイオン交換基を有する芳香環が単結合を介して連結した基であって、前記イオン交換基は、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を介して前記芳香族基又は芳香環に結合しており、複数あるAr
1
は同一であっても異なっていてもよく、
Ar
2
は、イオン交換基を有しない芳香族基、もしくは、イオン交換基を有しない2以上の芳香族環が、単結合又はスピロ原子を介して連結した基であって、複数あるAr
2
は同一であっても異なっていてもよく、
Ar
1
が有する芳香環と、Ar
2
が有する芳香環とは、単結合を介して連結する。
【請求項2】
前記多孔基材がポリオレフィン系多孔基材である、請求項
1に記載の細孔フィリング膜。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系多孔基材が、ポリエチレン多孔基材、ポリプロピレン多孔基材、又はポリテトラフルオロエチレン多孔基材である、請求項
2に記載の細孔フィリング膜。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の細孔フィリング膜を備える燃料電池。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の細孔フィリング膜を備える電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細孔フィリング膜、燃料電池、及び電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池、固体アルカリ燃料電池などの各種燃料電池や、水電解等の各種電解技術には、電解質膜が用いられている。当該電解質膜は、イオン伝導性に優れるとともに、長期的な使用に耐えうる耐久性が求められる。
【0003】
本発明者らは、化学的な耐久性及びイオン伝導性に優れたポリマーとして、主鎖骨格にエーテル性酸素原子を有しない特定のポリマーを開示している(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-135487号公報
【文献】特開2021-42351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~2のポリマーは、成膜して電解質膜として用いることができる。しかしながら当該ポリマー膜は機械的強度が不十分となる場合があった。
【0006】
本開示は、化学的耐久性、及び機械的強度に優れた細孔フィリング膜、当該細孔フィリング膜を備え耐久性に優れた燃料電池及び電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る細孔フィリング膜は、多孔基材と、ポリアリーレンポリマーを有し、前記ポリアリーレンポリマーが、前記多孔基材の細孔内に充填されていることを特徴とする。
【0008】
上記細孔フィリング膜の一形態は、前記ポリアリーレンポリマーが、下記一般式(1)で表される構成単位を有する。
【化1】
ただし、
Ar
1は、イオン交換基を有する芳香族基、又はイオン交換基を有する芳香環が単結合を介して連結した基であって、複数あるAr
1は同一であっても異なっていてもよく、
Ar
2は、イオン交換基を有しない芳香族基、もしくは、イオン交換基を有しない2以上の芳香族環が、単結合又はスピロ原子を介して連結した基であって、複数あるAr
2は同一であっても異なっていてもよく、
Ar
1が有する芳香環と、Ar
2が有する芳香環とは、単結合を介して連結する。
【0009】
上記細孔フィリング膜の一形態は、前記多孔基材がポリオレフィン系多孔基材である。
【0010】
上記細孔フィリング膜の一形態は、前記ポリオレフィン系多孔基材が、ポリエチレン多孔基材、ポリプロピレン多孔基材、又はポリテトラフルオロエチレン多孔基材である。
【0011】
また、本開示は、前記細孔フィリング膜を備える、燃料電池及び電解装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、化学的耐久性、及び機械的強度に優れた細孔フィリング膜、当該細孔フィリング膜を備え耐久性に優れた燃料電池及び電解装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】電解装置の要部の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】アノード触媒の一例を示す模式的な断面図である。
【
図3】アノード触媒の一例を示す模式的な断面図である。
【
図4】カソード触媒の一例を示す模式的な断面図である。
【
図5】燃料電池の要部の一例を示す模式的断面図である。
【
図6】実施例1の水電解試験結果を示すグラフである。
【
図7A】実施例1の細孔フィリング膜内部などのラマンスペクトルである。
【
図7B】実施例1の細孔フィリング膜内部のラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、細孔フィリング膜、燃料電池、及び電解装置について説明する。
なお、本開示において「ポリマー」は、特に断りがない限り「コポリマー」を含むものとする。
本開示において「イオン交換基」とは、解離性を有しイオン交換が可能な官能基を示す。
また、本開示において数値範囲を示す「~」は、特に断りが無い限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。また、本明細書において特に言及していない実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0015】
[細孔フィリング膜]
本開示の細孔フィリング膜は、多孔基材と、ポリアリーレンポリマーを有し、前記ポリアリーレンポリマーが、前記多孔基材の細孔内に充填されてなることを特徴とする。このような構成とすることで化学的耐久性に優れたポリアリーレンポリマーに機械的強度を付与することができる。
【0016】
<多孔基材>
本細孔フィリング膜に用いられる多孔基材は、ポリアリーレンポリマーを保持しうる孔を有する基材である。多孔基材はイオン伝導性を向上する点から孔の少なくとも一部が貫通孔を形成していることが好ましい。
【0017】
基材の形態は、機械的強度を付与する点から、不織布又は多孔性フィルムが好ましく、多孔性フィルムの形態フィルムがより好ましい。
多孔基材の空孔率(=空隙の体積/かさ体積×100(%))は、機械強度とイオン伝導性とを両立する点から30~95%が好ましく、40~80%がより好ましく、45~70%が更に好ましい。
多孔基材の膜厚は、機械強度とイオン伝導性とを両立する点から5~200μmが好ましく、7~100μmがより好ましく、10~50μmが更に好ましい。
また、多孔基材の孔径は、ポリアリーレンポリマーを充填して保持する点及び機械強度の観点から、平均口径で10~10,000nmが好ましく、10~1,000nmがより好ましい。
【0018】
多孔基材の材質は、化学的耐久性、特にアルカリ中での安定性の点から、ポリオレフィン系多孔基材が好ましい。またポリオレフィン系多孔基材を用いることでポリアリーレンポリマー、中でも重量平均分子量が10万以上の高分子量ポリアリーレンポリマーが充填されやすいというメリットもある。ポリオレフィン系多孔基材としては、機械強度や耐薬品性などの点から、中でも、ポリエチレン多孔基材、ポリプロピレン多孔基材、又はポリテトラフルオロエチレン多孔基材が好ましい。またポリエチレン多孔基材は、中でも超高分子量ポリエチレン(例えば、重量平均分子量が100万以上)多孔基材が好ましい。
【0019】
<ポリアリーレンポリマー>
本細孔フィリング膜は充填するポリマーとしてポリアリーレンポリマーを用いる。ポリアリーレンポリマーを用いることで化学的耐久性に優れた細孔フィリング膜が得られる。
ポリアリーレンポリマーは細孔フィリング膜に優れたイオン伝導性を付与する点から、下記一般式(1)で表される構成単位有するポリマー(以下、ポリマー(A)ともいう)が好ましい。
【化2】
ただし、
Ar
1は、イオン交換基を有する芳香族基、又はイオン交換基を有する芳香環が単結合を介して連結した基であって、複数あるAr
1は同一であっても異なっていてもよく、
Ar
2は、イオン交換基を有しない芳香族基、もしくは、イオン交換基を有しない2以上の芳香族環が、単結合又はスピロ原子を介して連結した基であって、複数あるAr
2は同一であっても異なっていてもよく、
Ar
1が有する芳香環と、Ar
2が有する芳香環とは、単結合を介して連結する。
【0020】
ポリマー(A)は、上記構成単位(1)を2個以上有するポリマーであり、イオン交換基を有するAr1と、イオン交換基を有しないAr2が、交互に配置された構造を有する。Ar1が有する芳香族基とAr2が有する芳香族基は単結合により結合して主鎖を構成する。主鎖骨格にエーテル性酸素(-O-)、スルホニル(-S(=O)2-)、カルボニル(-C(=O)-)骨格が存在せず、化学的耐久性、特にアルカリ耐久性に優れている。なお、ここでの芳香環は主鎖を構成する芳香環を指し、当該主鎖を構成する芳香環が置換基として更に芳香環を有していてもよい。主鎖を構成する芳香環と、置換基(側鎖)として有する芳香環は区別される。
【0021】
Ar1は、イオン交換基を有する芳香族基、又はイオン交換基を有する芳香環が単結合を介して連結した基である。なおイオン交換基とは、解離性を有しイオン交換が可能な官能基をいう。
【0022】
ポリマー(A)にプロトン伝導性を付与する場合には、イオン交換基は酸性基が好ましく、酸性基は、中でも、スルホン酸基(-SO3H基)、リン酸基(-H2PO4基)、又はカルボン酸基(-COOH基)が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。なお、上記酸性基のHは、解離していてもよく、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等で置換されていてもよい。
【0023】
また、ポリマー(A)にアニオン伝導性を付与する場合には、イオン交換基は4級アンモニウム基又はイミダゾリウム基が好ましく、4級アンモニウム基がより好ましい。前記4級アンモニウム基は、さらにアルカリ耐久性の観点から、4級アルキルアンモニウム基が好ましい。なお、当該4級アルキルアンモニウム基は、窒素原子に結合するアルキル基同士が結合して環構造を形成しているものも含むものであり、例えば、アザアダマンチル基、キヌクリジニウム基などであってもよい。
上記4級アンモニウム基の好ましい具体例としては下記式(e-1)~式(e-8)で表される基が挙げられる。また、イミダゾリウム基の好ましい具体例としては下記式(f-1)で表される基が挙げられ、更に、下記式(f-2)で表される基又は下記式(f-3)で表される基がより好ましい。
【0024】
【化3】
式中、R
eは、各々独立に、炭素数1~6の、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基であり、R
fは、各々独立に、水素原子、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基、若しくは、置換基を有していてもよい芳香族基であり、A
-は1価又は2価以上のアニオンであり、R
e又はR
fが複数ある場合、当該複数あるR
e又はR
fは各々同一であっても異なっていてもよい。なお、式中の波線は、Ar
1中の主鎖を構成する芳香環側に結合する結合手を示す。
【0025】
上記Reにおけるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。上記Rfにおけるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。また、Rfにおける芳香族基としてはフェニル基等が挙げられ、フェニル基の置換基として炭素数1~6のアルキル基などが挙げられる。
【0026】
上記A-としては、無機アニオンが好ましく、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)、水酸化物イオン(OH-)などが挙げられる。
【0027】
上記イオン交換基は、Ar1中の主鎖を構成する芳香環に直接結合してもよく、更に連結基を有し、当該連結基を介して主鎖を構成する芳香環に結合していてもよい。ここで連結基は、イオン交換基が有する酸性基、4級アンモニウム基又はイミダゾリウム基と、主鎖を構成する芳香環とを連結する有機基を表す。当該有機基としては、直鎖状又は分岐状のアルキレン基が好ましく、中でも直鎖状のアルキレン基が好ましい。当該アルキレン基の炭素数はポリマー(A)に求められる物性に応じて適宜調整できる。例えば、前記アルキレン基の炭素数を20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下とすることで、ポリマー(A)のイオン交換基容量が増大する。一方、前記アルキレン基の炭素数を2以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上とすることで、溶解性及び膨潤耐性に優れ、ポリマー(A)を多孔基材に充填させやすくなる。
Ar1において主鎖を構成する芳香環1個あたりのイオン交換基の数は1個以上であればよく、イオン伝導性及びポリマーの安定性の観点から、1~2個が好ましい。
【0028】
Ar1における主鎖を構成する芳香環としては、ベンゼン環のほか、ナフタレン環、アントランセン環等の縮合環であってもよく、また、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)を含む複素環(例えば、チオフェン等)であってもよい。また、これらの芳香環が、単結合により連結した構造であってもよい。複数の環が単結合で連結した構造としては、例えば、ビフェニル、ターフェニル、フルオレンなどが挙げられる。
【0029】
Ar1における主鎖を構成する芳香環は、上記イオン交換基の他に、更に、イオン交換基以外の置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ハロゲノ基等が挙げられる。
上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基などが挙げられ、置換基としてフェニル基、ハロゲノ基等を有してもよい。また、上記フェニル基が有していてもよい置換基としては炭素数が1~6のアルキル基、ハロゲノ基等が挙げられる。また、前記ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられる。
【0030】
機械強度、化学的耐久性、イオン伝導性に優れる点から、ポリマー(A)の前記Ar1は、中でも下記式(a-1)~下記式(a-10)のいずれかで表される基であることが好ましい。
なお、ポリマー内に複数あるAr1は互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0031】
【化4】
ただし、R
aは、各々独立に、水素原子、イオン交換基、又はイオン交換基を有しない置換基であり、複数あるR
aは互いに同一であっても異なっていてもよく、R
aのうち少なくとも1つはイオン交換基である。
なお波線は、Ar
2に結合する結合手を示す。
【0032】
Ar2が有する主鎖を構成する芳香環は、前記Ar1と同様のもの及びスピロ原子を介して連結した基が挙げられる。また、Ar2における芳香環はアニオン交換基以外の他の置換基を有していてもよい。他の置換基としては、前記Ar1におけるイオン交換基以外の置換基と同様のものが挙げられる。
Ar2における2以上の芳香族環がスピロ原子を介して連結した基としては、例えば、下記式(c1)で表される基が挙げられる。また、2以上の芳香族環が単結合を介して連結した基としては、例えば、下記式(c2)~式(c4)で表される基が挙げられる。なお波線は、Ar1との結合手を示す。多孔基材へのポリマーの充填性の点からは、Ar2はスピロ原子を有しないことが好ましい。
【0033】
【化5】
ただし、R
Cは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基又は有機基である。
【0034】
ポリマー(A)の重量平均分子量は、化学的耐久性や細孔内への充填のしやすさなどの点から適宜調整することができ、例えば、1万~100万の範囲とすることができる。化学的耐久性の観点から、3万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましい。特に多孔基材がポリオレフィン系多孔基材の場合、ポリマー(A)の重量平均分子量が10万以上であっても細孔内に充填させやすい。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の数値である。
【0035】
なおポリマー(A)は、一般式(1)で表される構成単位(構成単位(1)ともいう)のみからなるものであってもよく、また他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、例えば、構成単位(1)のAr1にアニオン交換基が導入されない構造などが挙げられる。また、合成上生じ得るその他の構造を含んでいてもよい。
【0036】
ポリマー(A)は、中でも、下記ポリマー(A1)~(A4)が好ましい。なお、多孔基材へのポリマーの充填性の点からは、中でもポリマー(A2)、ポリマー(A3)又はポリマー(A4)が好ましく、ポリマー(A2)又はポリマー(A3)が好ましく、更に、ポリマーの充填性、機械的強度及び化学的耐久性の点から、ポリマー(A3)が好ましい。以下これらのポリマーについて詳述する。
【0037】
・ポリマー(A1)
ポリマー(A1)は、下記一般式(1-1)で表される繰り返し単位を有する。
【0038】
【化6】
ただし、R
1~R
10は、各々独立に、水素原子、炭素数が1~4のアルキル基、又は、フェニル基であり、Ar
1は前記式(1)におけるものと同様であり、好ましい形態も同様である。
【0039】
R1~R10における炭素数が1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、tert-ブチル基などが挙げられる。ポリマー(A1)においては、溶解性向上の観点から、R1及びR10の少なくとも一方が、アルキル基であることが好ましく、R1及びR10がアルキル基であることがより好ましく、更に、R1及びR10がtert-ブチル基であることがより好ましい。R1及びR10の少なくとも一方に嵩高い置換基を有することにより、π-πスタッキングなどによるポリマーの凝集が抑制されて、溶媒への溶解性が向上する。一方、R1~R8は、各々独立に、水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0040】
ポリマー(A1)は、アニオン交換基を有するAr1と、スピロビフルオレン骨格とが交互に繰り返された構造を有している。当該ポリマー(A1)は、主鎖骨格を構成する各元素が芳香族環に属するか、又は、水素原子を有しないスピロ原子であり、主鎖骨格がエーテル結合を有しないため、アルカリやラジカル存在下での分解が抑制され、化学的耐久性に優れている。また、スピロビフルオレン骨格は、スピロ原子を介して2つのフルオレンがほぼ直角にねじれた構造をしており、当該フルオレン骨格が主鎖を構成することにより、主鎖全体が多数の折れ曲がりをもった状態となっている。そのため、主鎖の平面性が低下するため、π-πスタッキングが阻害され、溶媒への溶解性にも優れ、多孔基材へ充填する際の取り扱い性に優れている。
【0041】
ポリマー(A1)の合成方法は特に限定されないが、好適な一例として、下記スキームA1の方法が挙げられる。
【0042】
【化7】
スキームA1中、R
aはアニオン交換基を表し、R
bは、一般式(1-1)中の、R
1及びR
10に相当する置換基を表す。
【0043】
上記スキームA1の例では、所望の置換基Rbを有する化合物(B)から、臭素化されたスピロビフルオレン骨格を有する化合物(C)を合成する(ステップ(i)~ステップ(vii))。これとは別に、所望の芳香族環(スキームA1の例ではベンゼン環)を有する臭素化物(D)にビス(ピナコラート)ジボランを反応させて一般式(1-1)におけるAr1の前駆体となる化合物(E)を合成する(ステップ(viii))。前記化合物(C)と前記化合物(E)とを重合させた後、所望のアニオン交換基を導入することにより、一般式(1-1)で表されるポリマーが得られる(ステップ(ix)~ステップ(xi))。なお、上記各ステップの反応条件は、公知の反応を参照して決定すればよい。
【0044】
・ポリマー(A2)
ポリマー(A2)は、下記一般式(1-2)で表される繰り返し単位を有する。
【0045】
【化8】
ただし、R
aは、アニオン交換基を有する基であり、Ar
2は前記一般式(1)におけるものと同様である。
【0046】
ポリマー(A2)は、上記構成単位(1-2)を2個以上有するポリマーであり、主鎖が全芳香族の化合物である。ポリマー(A2)はこのような構造を有するためアルカリやラジカルなどに対する耐久性に優れている。
【0047】
ポリマー(A2)におけるAr2は、中でも、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基が好ましく、p-フェニレン基(下式(Ar-1))、4,4’-ビフェニレン基(下式(Ar-2))、又は、4,4’’-ターフェニレン基(下式(Ar-3))がより好ましい。
【0048】
【化9】
ただし、RはAr
2が有していてもよい置換基であり、rは0~4の整数であり、複数あるR及びrは同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
Ar2がp-フェニレン基、4,4’-ビフェニレン基、又は、4,4’’-ターフェニレン基の場合、ポリマー(A2)は下式のような主鎖骨格がジグザグ状の配置を取りやすい。下式は代表して、Ar2がp-フェニレン基の場合を示しているが、4,4’-ビフェニレン基、又は、4,4’’-ターフェニレン基も同様である。下式に示されるように、ポリマー(A2)は、主鎖骨格がジグザグ状の配置を取りやすく、更に各Raは当該骨格の折り返しの外側に配置されやすい。そのため、主鎖の折り返しなどによる分子内の凝集が抑制されている。これらの結果、イオン伝導性に優れた電解質膜を形成しうるポリマーとなる。
【0050】
【0051】
ポリマー(A2)におけるアニオン交換基を有する基Raは、中でも、下式(Ra-1)で表される基が好ましい。
【0052】
【化11】
ただし、R
b2は、アニオン交換基であり、p2は1以上20以下の整数である。また、波線はベンゼン環との結合手を示す。
【0053】
上式(Ra-1)で表される基は、主鎖を構成するベンゼン環に隣接する炭素原子が4級炭素となっている。そのため、ポリマー(A2)間のπ-πスタッキングが抑制される。その結果、ポリマー(A2)の凝集が抑制されて、溶媒に溶解しやすくなり、成膜時などにおけるハンドリング性に優れている。
p2は{(Rb2から4級炭素までの炭素数)-1}を表し、1以上20以下の範囲で適宜調整すればよい。中でも1~15が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましい。
【0054】
ポリマー(A2)の合成方法は特に限定されないが、好適な一例として、下記スキームA2の方法が挙げられる。
【0055】
【化12】
ただし、X、X
1はハロゲン原子を表し、Ar
2、及びp2は前述のとおりである。X
1のハロゲン原子としてはBrが好ましい。
【0056】
上記スキームA2の例では、まず、化合物(H)と、所望のAr2を有する化合物(I)を準備し、当該化合物(H)と化合物(I)とを重合させて(J)で表される構成単位を有するポリマーを得る。次いで、ポリマー(J)に所望のアニオン交換基を導入することにより、ポリマー(A2)が得られる。上記スキームA2では、4級アンモニウムを導入しているが、他のイオン官能基もこれに準じて導入できる。なお、上記各ステップの反応条件は、公知の反応を参照して決定すればよい。
【0057】
・ポリマー(A3)
ポリマー(A3)は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位において、Ar2が下記式(2)で表される部分構造を両末端に有する。言い換えると、当該Ar2は、末端の炭素原子のα位にフルオロ基(-F)を有する芳香環を含む2価の基である。ここでAr2の末端とは、Ar1と結合する炭素原子をいう。なお、波線はAr1との結合手を表し、点線は芳香環の一部を省略していることを示す。
【0058】
【0059】
ポリマー(A3)は、アニオン交換基を有するAr1と、フルオロ基(-F)を含む部分構造(2)を有するAr2が、交互に配置された構造を有する。主鎖を構成するAr1及びAr2がそれぞれ芳香族基を有し、アルカリやラジカル等に対する化学的耐久性に優れる。また、ポリマー(A3)は、側鎖末端にアルキル鎖を介して連結したイオン交換基を有するAr1とイオン交換基を有しないAr2とが交互に配置している。このような構造を有するため、溶媒への溶解性、及びイオン伝導性に優れている。また、部分構造(2)を有する化合物と、後述する式(4)で表される化合物の反応性が高く、より高分子量のポリマーを製造し得る。高分子量の本ポリマーを用いることで、より優れた耐久性を有する膜を形成することも可能となる。
【0060】
Ar2は、例えば、後述の式(b-1)のように、1つの環構造(例えば、ベンゼン環)に部分構造(2)を2つ有してもよいし、また、後述の式(b-2)のように、1つのC-F結合が、2つの部分構造(2)を構成してもよい。さらに、上記鎖状多環式炭化水素の場合、鎖状多環式炭化水素が有する2つの環構造に部分構造(2)を1つずつ有し、それらの環が直接又は上記連結基を介して連結してもよいし、複数の環構造のうちの1つに部分構造(2)を2つ有してもよい。ポリマー(A3)におけるAr2はスピロ原子を有しないことが好ましい。
【0061】
ポリマー(A3)においては、イオン伝導性及び成膜性に優れ、化学的耐久性及び膜強度に優れた電解質膜が形成可能な点から、前記Ar2が、下記式(d1)~下記式(d9)より選択される1種以上であることが好ましい。なお波線は、Ar1との結合手を示す。
【0062】
【化14】
ただし、R
dは、各々独立に、水素原子、ハロゲノ基又は有機基である。
【0063】
上記Rdにおけるハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられ、これらの中でも、フルオロ基が好ましい。
また、上記Rdにおける有機基としては、例えば、置換基(例えばハロゲノ基)を有していてもよい(置換基の炭素数を含まない)炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0064】
製造の容易性の点から、上記Ar2は、下式(d10)~(d14)が好ましい。なお波線は、Ar1との結合手を示す。
【0065】
【0066】
ポリマー(A3)の合成方法は特に限定されないが、好適な一例として、下記スキームA3の方法が挙げられる。
【0067】
【化16】
ただし、X
1は、各々独立に、Br又はIであり、Ar
3は、ハロゲノ基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、イミダゾール基及びアミノ基より選択される官能基を有する芳香族基であり、Ar
2は、ポリマー(A3)におけるものと同様である。
【0068】
化合物(4)のX1と、化合物(5)のAr2が有する下記部分構造(5a)の水素原子の反応性に優れているため、高分子量(例えば重量平均分子量が3万以上、好ましくは10万以上)のイオン電導性ポリマーを比較的容易に合成することができる。
【0069】
【0070】
上記スキームA3では、まず、所望のAr3を有する化合物(4)と、所望のAr2を有する化合物(5)を準備する。そして、これらの化合物を、例えば、溶媒中、Pd錯体、リガンド、カルボン酸(RCO2H)及び塩基の存在下、80~140℃で1~48hr反応させることで構成単位(3)を有するポリマーが得られる。
【0071】
次いで、構成単位(3)を有するポリマーに所望のイオン交換基を導入することにより、ポリマー(A3)が得られる。このようにポリマー(A3)は、化合物(4)と化合物(5)を原料とすることで、極めて少ない合成ステップで容易に製造することができる。
【0072】
・ポリマー(A4)
ポリマー(A4)は、下記一般式(1-4)で表される繰り返し単位を有する。
【0073】
【化18】
ただし、環Ar
11及び環Ar
12はベンゼン環に縮合する環であり、全体として芳香属性を有する3環以上の縮合環であり、Ar
1は前記一般式(1)におけるものと同様である。
【0074】
ポリマー(A4)は、アニオン交換基を有するAr1と、3環以上の縮合環から構成されるAr2とが交互に繰り返された構造を有している。一般にイオン交換基を多く含むポリマーは膨潤しやすい傾向があるが、ポリマー(A4)は、Ar1とAr2とが交互に繰り返し、且つ、3環以上の縮合環がπ-πスタッキングすることにより膨潤耐性に優れている。
【0075】
環Ar11及び環Ar12はヘテロ原子を有してもよい芳香族環である。当該へテロ原子としては、N(窒素原子)、O(酸素原子)、S(硫黄原子)が挙げられる。環Ar11及び環Ar12を含む縮合環は、膨潤耐性の観点から3環以上の縮合環が好ましい。一方、ポリマー(A4)のイオン交換容量を高める観点からは、5環以下の縮合環が好ましく、4環以下の縮合環がより好ましい。
当該縮合環の好ましい具体例としては、以下のものが挙げられる。なお波線は、Ar1との結合手を示す。また、水素原子は前記アニオン交換基を有しない基に置換されていてもよい。
【0076】
【0077】
ポリマー(A4)は、下記一般式(1-5)で表される繰り返し単位を有する前駆体(1-5)を準備し、多孔基材充填後に置換基(TL)を脱離することにより合成することが好ましい。
【0078】
【化20】
ただし、LTは、一般式(LT1)~(LT3)で表される基であり、R
11は各々独立に炭素数1~6のアルキル基であり、R
12は炭素数1~6のアルキル基、又は、フェニル基であり、Ar
1、Ar
11、Ar
12は前記一般式(1-4)におけるものと同様である。
R
11及びR
12における、炭素数1~6のアルキル基は、直鎖又は分岐を有するアルキル基のいずれでもよい。具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0079】
ポリマー(A4)は、前述の通り膨潤耐性に優れている。そのため、種々の有機溶媒に溶解しにくく、加工時のハンドリング性が悪いという問題がある。上記前駆体は、ポリマー(A4)の縮合環に対応する部位に、嵩高く、且つ、熱又は光の作用により比較的容易に脱離可能な、上記一般式(LT1)~(LT3)で表される置換基(TL)が導入されている。前駆体(1-5)は、当該置換基によって疎水部のπ-πスタッキングが阻害され、種々の有機溶媒への溶解性が向上する。そのため、上記前駆体はハンドリング性に優れ多孔基材に充填させやすい。なお置換基(TL)は加熱又は光照射により除去することが可能である。
【0080】
前記前駆体の合成方法は特に限定されないが、好適な具体例として、下記スキームA4の方法が挙げられる。
【0081】
【0082】
上記スキームA4の各ステップの一例を説明する。
ステップ(i):上記化合物(1)のトルエン溶液を準備し、アゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)を加えて加熱還流することにより上記化合物(2)を得る。
ステップ(ii):これとは別に上記化合物(3)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を準備し、ビス(ピナコレート)ジボランと、酢酸カリウム(KOAc)と、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド(Pd(dppf)Cl2)を加えて90℃に加熱することにより、上記化合物(4)を得る。
ステップ(iii):得られた上記化合物(2)と上記化合物(4)のトルエン溶液に、リン酸三カリウム(K3PO4)と、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPH3)4)を加えて100℃に加熱することにより重合化して、上記化合物(5)を得る。
ステップ(iv):クロロベンゼン中に、得られた化合物(5)と、N-ブロモスクシンイミド(NBS)と、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加えて混合し、110℃に加熱することにより上記化合物(6)を得る。
ステップ(v):得られた化合物(6)をDMF/THF(テトラヒドロフラン)混合溶媒中で、50℃に加熱することにより、上記化学式(7)で表される前駆体が得られる。
【0083】
<細孔フィリング膜の製造方法>
細孔フィリング膜の製造方法としては、一例として、多孔基材にポリアリーレンポリマーを付与して乾燥する方法などが挙げられる。
多孔基材へポリアリーレンポリマーの付与する方法としては、例えば、ポリアリーレンポリマーの溶液を準備し、ディッピング法、スプレー法、スピンコート法、バーコード法などによる方法などが挙げられる。多孔基材中にポリアリーレンポリマー溶液を浸透させた後、乾燥することで細孔フィリング膜を得ることができる。なお、多孔基材中にポリアリーレンポリマーが充填されたことは、例えばラマン分析により確認できる。
【0084】
本細孔フィリング膜は、化学的耐久性、機械的強度、及びイオン伝導性に優れるため燃料電池、電解装置などの電解質膜として好適に用いることができる。
【0085】
[電解装置]
本開示の電解装置は前記本細孔フィリング膜を備えることを特徴とする。電解装置は、例えば電解槽内に、電解質膜として本細孔フィリング膜を用い、当該電解質膜に陽極及び陰極が積層した膜電極接合体の構成として用いることができ、当該膜電極接合体により対象物を電気分解(酸化還元反応)して目的物を得ることができる。
【0086】
前記電解質膜を水電解に適用する場合、前記電解質膜として、プロトン伝導性、又はアニオン伝導性の電解質膜を用いる。例えば、プロトン伝導性の電解質膜の一方の面に陽極を、他方の面に陰極を配置し、陽極で生成したプロトンを、電解質膜を介して、陰極に移動させ、陰極で電子と結合させて水素を得ることができる。プロトン伝導膜を用いた場合の各極での反応式は下記の通りである。
陽極: 2H2O → O2+ 4H+ + 4e-
陰極: 2H+ + 2e- → H2
【0087】
また他の電解技術としては、二酸化炭素を電気分解してギ酸を生成させる電解技術が挙げられる。例えば、陽極で生成したプロトンを、電解質膜を介して陰極に移動させ、陰極に供給する二酸化炭素と反応させてギ酸を得ることができる。各極での反応式は下記の通りである。
陽極: 2H2O → O2+ 4H+ + 4e-
陰極: CO2 + 2H+ + 2e- → HCOOH
【0088】
図2を参照して水電解装置の構成について説明する。
図2は、水電解装置の要部の一例を示す模式的な断面図である。
図2の例に示される水電解装置1は、本細孔フィリング膜を用いた電解質膜5と、当該電解質膜5の一方の面に配置された陽極10と、他方の面に配置された陰極20と、陽極10と及び陰極20に接続する電源7と、前記陰極20に水又はアルカリ水溶液を供給する水供給部とを備えている。陽極10は少なくともアノード触媒11を有すればよく、更に第1の拡散層12を有していてもよい。また、陰極20は少なくともカソード触媒21を有していればよく、更に第2の拡散層22を有していてもよい。膜電極接合体8は、少なくとも膜5の一方の面に配置されたアノード触媒11と、他方の面に配置されたカソード触媒21を備える。
図2の例では更に陽極10及び陰極20の外側にそれぞれセパレータ13、23を備えるセル6を構成している。本水電解装置1は単数のセル6であってもよく、複数のセル6をスタックしたものであってもよい。なお、水供給部は陰極又は陽極の少なくとも一方に水を供給すればよい。
電解質膜5として前記細孔フィリング膜を用いることで、高い水電解性能を有し、耐久性に優れた水電解装置を得ることができる。
【0089】
上記水電解装置が固体アルカリ水電解方式の装置の場合、例えば、陰極20側に水又はアルカリ水溶液を供給しながら、両電極に電圧を印加すると、陰極20側では下記の反応が起こり、水素ガスが発生する。
2H2O+2e-→2OH-+H2
水酸化物イオン(OH-)は、電解質膜5を透過して陽極10に移動する。陽極10では下記の反応が起こり、酸素ガスが発生する。
2OH-→H2O+1/2O2+2e-
発生した水素及び酸素は、各々セパレータ13及び23に設けられたガス流路14、24を通じてセル6から排出される。ガス流路は、例えば、図示しない気液分離器を介して貯蔵用タンク等に接続され、水素及び酸素は、各々、気液分離器で水が分離された後、貯蔵用タンク等に収容される。
【0090】
本水電解装置において供給する水は、純水であってもよく、アルカリ水溶液であってもよい。アルカリ水溶液を用いることで、純水と比較して水電解を高効率で行うことができる。アニオン伝導膜5として前記細孔フィリング膜を用いるためアルカリ水溶液を用いた場合でも耐久性に優れている。アルカリ水溶液中の溶質は特に限定されず、例えば、1Mの水酸化カリウム等とすることができる。
【0091】
陽極10は少なくともアノード触媒11を有し、更に第1の拡散層12を有していてもよい。アノード触媒11は、メタル又はメタルアロイが好ましい。当該メタル又はメタルアロイとしては、公知のもの中から適宜選択でき、例えば、白金、コバルト、ニッケル、パラジウム、鉄、銀、金、銅、イリジウム、モリブデン、ロジウム、クロム、タングステン、マンガン、ルテニウム、これらの金属化合物、金属酸化物、及びこれらの金属の2種以上を含む合金などが挙げられる。
また、アノード触媒11は水との接触面積や、水やガスの拡散の点から、多孔体であることが好ましい。多孔体の触媒は、例えば、触媒となる上記金属の粒子を融着した金属粒子連結体や、上記金属の発泡体(フォーム)、ワイヤ状、繊維状の金属から形成されるフェルト(不織布)状、メッシュ状等の多孔体などが挙げられる。
アノード触媒11は、上記金属表面に公知の電解質ポリマー(アイオノマー)を被覆して用いてもよい。一方、本実施形態においては膜電極接合体8内をアルカリ水溶液が移動してイオン伝導性を発現するため、電解質ポリマーを用いなくてもイオン伝導性に優れている。また、アノード触媒に電解質ポリマーを被覆させないことにより触媒活性が更に向上する。
【0092】
アノード触媒は、中でもニッケルフォームを有することが好ましく、更に、耐久性と高活性とを両立する点から、(I)ニッケルフォーム上に、NiOOHを含む酸化ニッケル層と、NiFeを含む層と、をこの順に有する触媒(以下触媒(I)ともいう)、又は、(II)ニッケルフォーム上に、Ni2PとFe2Pとを含むリン化物層を有する触媒(以下触媒(II)ともいう)が好ましい。
【0093】
<触媒(I)>
図5を参照して、ニッケルフォーム上に、NiOOHを含む酸化ニッケル層と、NiFeを含む層とをこの順に有する触媒を説明する。
図5は当該触媒の模式的な断面図である。
図5の例に示す触媒30は、ニッケルフォーム31上に、NiOOHを含む酸化ニッケル層32と、NiFeを含む層33とをこの順に有している。
図5の例では、孔の内側表面も上記の層構成を有している。上記層構成を有することで、ニッケルフォームを用いながらアルカリ環境下においても優れた耐久性を有し、また高活性の触媒となる。
【0094】
酸化ニッケル層32は、NiOOHを含むことを特徴とする。本触媒は当該酸化ニッケル層を有することで、ニッケルフォーム上に直接NiFeを含む層が形成された触媒と比較して、更に耐久性と活性に優れている。
【0095】
酸化ニッケル層は、少なくともNiOOHを含んでいればよく、本発明の効果を奏する範囲で更に他の酸化ニッケルを有していてもよい。他の酸化ニッケルとしては、例えば、NiO、Ni2O3等が挙げられる。
酸化ニッケル層中のNiOOHの割合は、酸化ニッケル層100質量%に対し、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0096】
触媒(I)において酸化ニッケル層の厚みは、50~500nmが好ましく、100~400nmがより好ましい。酸化ニッケル層が50nm以上であれば、耐久性と活性により優れた触媒を得ることができる。また、酸化ニッケル層の厚みは500nm以下で十分な効果が得られる。
【0097】
触媒(I)は、上記酸化ニッケル層上にNiFeを含む層を有する。酸化ニッケル層上にNiFe層を形成することで、Feの浸出が抑制されて、耐久性に優れた触媒となる。
触媒(I)のFeの割合は、ニッケルフォームを含む触媒全量に対して4~20質量%であることが好ましい。Feが4質量%であれば、耐久性と活性により優れた触媒を得ることができる。また、Feが20質量%以下で十分な効果が得られる。
【0098】
触媒(I)の厚みは、100~2000μmが好ましく、200~1600μmがより好ましい。当該厚みが100μm以上であれば、耐久性と活性により優れた触媒となる。
【0099】
なお、各層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)と、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)によるマッピングにより測定できる。また、各層の組成は、X線光電子分光(XPS)により測定できる。
【0100】
(触媒(I)の製造方法)
次に上記触媒(I)の製造方法について説明する。触媒(I)の製造方法は、まずニッケルフォーム上に、NiOOHを含む酸化ニッケル層を形成する工程を有する。ニッケルフォーム上にNiOOHを含む酸化ニッケル層を形成することで、NiFeを含む層の形成を容易とし、且つ、NiFeを含む層の浸出が抑制される。
【0101】
ニッケルフォーム上に酸化ニッケル層を形成する方法としては、例えば、NiOOHの粒子をエアロゾルデポジション法などにより噴射して形成する方法や、ニッケルフォーム表面を酸化する方法などが挙げられる。ニッケルフォームの内部表面に酸化ニッケル層を形成しやすい点から基材表面を酸化する方法が好ましい。基材表面を酸化する方法としては、電気化学的酸化が好ましい。
【0102】
電気化学的酸化は、例えば、まず所望の形状のニッケルフォームを準備し、当該ニッケルフォームをアルカリ電解液等に浸漬し、電圧をかけて酸化する方法などが挙げられる。なおニッケルフォームは公知の方法により製造してもよく、市販品を用いてもよい。また、ニッケルフォームが酸化物層を有する場合などには、必要に応じて酸処理をしてもよい。電圧の印加時間を調整することにより酸化ニッケル層の厚みを調整できる。
なお、酸化ニッケル層の形成はラマンスペクトルなどにより確認することができる。
【0103】
次いで、酸化ニッケル層上にNiFeを含む層を形成する。
酸化ニッケル層上にNiFeを含む層を形成する方法としては、例えば、NiFeの粒子をエアロゾルデポジション法などにより噴射して形成する方法や、Feを電着する方法などが挙げられる。ニッケルフォームの内部表面にNiFeを含む層を形成しやすい点からFeを電着する方法が好ましい。
【0104】
Feの電着は、例えば、Fe2+を含む電解液に前記中間品を浸漬して、電圧をかけることで電着する方法などが挙げられる。電圧の印加時間を調整することによりNiFeを含む層の厚みや、本触媒中のFeの割合を調整できる。
【0105】
<触媒(II)>
図6を参照して、ニッケルフォーム上に、Ni
2PとFe
2Pとを含むリン化物層を有する触媒を説明する。
図6は当該触媒の模式的な断面図である。
図6の例に示す触媒40は、ニッケルフォーム41上に、Ni
2PとFe
2Pとを含むリン化物層42を有している。
図6の例では、孔の内側表面も上記の層構成を有している。上記層構成を有することで、ニッケルフォームを用いながらアルカリ環境下においても優れた耐久性を有し、また高活性の触媒となる。
【0106】
ニッケルフォーム41の形状は、前記触媒(I)と同様であり、好ましい態様も同様である。
触媒(II)においてはリン化物層42がNi2PとFe2Pとを含む。触媒(II)はリン化物層が特にFe2Pを有することで、ニッケルフォーム上にNi2Pのみを含む層が形成された触媒と比較して、更に耐久性と活性に優れている。
【0107】
触媒(II)の厚みは、100~2000μmが好ましく、200~1600μmがより好ましい。当該厚みが100μm以上であれば、耐久性と活性により優れた触媒となる。
【0108】
触媒(II)中のPの割合は、耐久性と活性の点から、触媒全量に対し10~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。
触媒(II)中のFeの割合は、耐久性と活性の点から、触媒全量に対し1~10質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。
リン化物層のNi2PとFe2Pの合計の割合は、耐久性と活性の点から、リン化物層全量に対し、50~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましく、85~100質量%が更に好ましい。
また、リン化物層中のNi2PとFe2Pとの比は、耐久性と活性の点から、質量比で、9:1~5:5であることが好ましい。
【0109】
触媒(II)においてリン化物層の厚みは、50~500nmが好ましく、100~400nmがより好ましい。リン化物層が50nm以上であれば、耐久性と活性により優れた触媒を得ることができる。また、リン化物層の厚みは500nm以下で十分な効果が得られる。
【0110】
なお、リン化物層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)と、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)によるマッピングにより測定できる。また、リン化物層の組成は、X線光電子分光(XPS)により測定できる。
【0111】
(触媒(II)の製造方法)
次に上記触媒(II)の製造方法について説明する。触媒(II)の製造方法としては、例えば、ニッケルフォームを鉄イオン溶液に浸漬し、浸漬後のニッケルフォームをリン化する方法などが挙げられる。本製造方法によれば、ニッケルフォーム上にNi2PとFe2Pとを含むリン化物層を容易に形成することができ、得られる触媒は耐久性と活性に優れている。
【0112】
本製造方法は、まず所望の形状のニッケルフォームを準備し、当該ニッケルフォームを鉄イオン溶液に浸漬する。鉄イオン溶液は、解離性のある鉄化合物を溶媒中に溶解させて準備する。鉄化合物としては、例えば塩化鉄などが挙げられ、3価の鉄イオンが生じるものが好ましい。溶媒は、通常、水を含み、更に他の溶媒を含んでいてもよい。他の溶媒としては水と親和性のある溶媒が好ましく、メタノール、エタノールなどが挙げられる。溶液中の鉄イオンの濃度は特に限定されず、例えば、0.01~0.5mol/lなどとすることができる。
また、ニッケルフォームの浸漬時間は特に限定されず、例えば、10分~6時間の範囲内で適宜調整すればよい。浸漬後のニッケルフォームは必要に応じて乾燥させてもよい。
【0113】
次いで、浸漬後のニッケルフォームをリン化する。基材表面に鉄イオンが付着した状態でリン化することでNi2PとFe2Pとを含むリン化物層を容易に形成することができる。
リン化の方法は特に限定されないが、リン化合物の存在下で、ニッケルフォームを加熱する方法が好ましい。具体的には、例えば、炉内に、リン化合物と、上記浸漬後のニッケルフォームとを配置し、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で加熱する方法などが挙げられる。
加熱中、炉内に不活性ガスを供給する場合、上流側にリン化合物、下流側にニッケルフォームを配置することでリン化を効率よく実施できる。
リン化合物は加熱温度により分解する化合物が好ましい。リン化合物の具体例としては、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。
加熱温度は、リン化合物の分解温度などを考慮して適宜調整すればよく、例えば、300~600℃の範囲、好ましくは350~550℃の範囲とすることができる。
【0114】
陽極10は、上記アノード触媒11のほか、更に第1の拡散層12を有していてもよい。第1の拡散層12は公知のガス拡散層の中から適宜選択することができ、例えばニッケルフォームなどの発泡金属層や多孔質カーボン層などが挙げられる。
【0115】
陰極20は少なくともカソード触媒21を有し、更に第2の拡散層22を有していてもよい。カソード触媒21は、メタル又はメタルアロイが好ましい。当該メタル又はメタルアロイとしては、公知のもの中から適宜選択でき、例えば、白金、コバルト、ニッケル、パラジウム、鉄、銀、金、銅、イリジウム、モリブデン、ロジウム、クロム、タングステン、マンガン、ルテニウム、これらの金属化合物、金属酸化物、及びこれらの金属の2種以上を含む合金かなどが挙げられる。
また、カソード触媒21は水との接触面積や、水やガスの拡散の点から、多孔体であることが好ましい。多孔体の触媒は、例えば、触媒となる上記金属の粒子を融着した金属粒子連結体や、上記金属の発泡体(フォーム)、ワイヤ状、繊維状の金属から形成されるフェルト(不織布)状、メッシュ状等の多孔体などが挙げられる。
カソード触媒21は、上記金属表面に公知の電解質ポリマーを被覆して用いてもよい。一方、本実施形態においては膜電極接合体8内をアルカリ水溶液が移動してイオン伝導性を発現するため、電解質ポリマーを用いなくてもイオン伝導性に優れている。また、カソード触媒に電解質ポリマーを被覆させないことにより触媒活性が更に向上する。
【0116】
カソード触媒は、中でもメタル又はメタルアロイの多孔体を有することが好ましく、更に、耐久性と高活性とを両立する点から、当該メタル又はメタルアロイの多孔体上にRuと当該メタル又はメタルアロイ由来の金属のリン化物とを含む層を有する触媒(以下触媒(III)ともいう)が好ましい。
【0117】
<触媒(III)>
図4を参照して、メタル又はメタルアロイの多孔体上にRuとのリン化物とを含む層を有する触媒を説明する。
図4は当該触媒の模式的な断面図である。
図4の例に示す触媒50は、多孔体51上に、Ruと金属のリン化物とを含む層52を有している。上記層構成を有することで、耐久性と高活性とを両立する。
【0118】
触媒(III)は、多孔体上にRuと金属リン化物とを含む層を有することを特徴とする。Ruと金属リン化物との複合層とすることにより、リン化物を含まない層などと比較して、更に耐久性と活性に優れている。
【0119】
触媒(III)の厚みは、100~2000μmが好ましく、200~1600μmがより好ましい。当該厚みが100μm以上であれば、耐久性と活性により優れた触媒となる。
【0120】
多孔体を構成する金属(M)は、いずれの金属でもよいが、本触媒の製造の容易性などの点から、リン化物を形成し得る金属が好ましい。このような金属の具体例としては、Fe、Cu、Ni、Ti等が挙げられ、触媒の耐久性や活性の点から、Ni又はTiが好ましい。多孔体を構成する金属は、1種単体であってもよく2種以上を含む合金であってもよい。また金属基材は、本発明の効果を奏する範囲で他の元素を含んでいてもよい。
【0121】
触媒(III)中のRuの割合は、耐久性と活性の点から、触媒全量に対し0.1~40質量%が好ましく、0.5~30質量%がより好ましい。
触媒(III)中のPの割合は、耐久性と活性の点から、触媒全量に対し10~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。
また、Ruと金属リン化物とを含む層中の、Ruと金属リン化物との比は、耐久性と活性の点から、質量比で、9:1~5:5であることが好ましい。
【0122】
触媒(III)においてRuと金属リン化物とを含む層の厚みは、50~500nmが好ましく、100~400nmがより好ましい。Ruと金属リン化物とを含む層が50nm以上であれば、耐久性と活性により優れた触媒を得ることができる。また、Ruと金属リン化物とを含む層の厚みは500nm以下で十分な効果が得られる。
【0123】
なお、上記層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)と、エネルギー分散型X線分析装置(EDX、EDS)によるマッピングにより測定できる。また、上記層の組成は、X線光電子分光(XPS)により測定できる。
【0124】
(触媒(III)の製造方法)
次に上記触媒(III)の製造方法について説明する。触媒(III)の製造方法としては、例えば、メタル又はメタルアロイの多孔体をRuイオン溶液に浸漬し、浸漬後の多孔体をリン化する方法などが挙げられる。本製造方法によれば金属基材層上にRuと金属リン化物とを含む層を容易に形成することができ、得られる触媒は耐久性と活性に優れている。
【0125】
本製造方法は、まず所望の多孔体を準備し、当該多孔体をRuイオン溶液に浸漬する。Ruイオン溶液は、解離性のあるルテニウム化合物を溶媒中に溶解させて準備する。ルテニウム化合物としては、例えば塩化ルテニウムなどが挙げられる。溶媒は、通常、水を含み、更に他の溶媒を含んでいてもよい。他の溶媒としては水と親和性のある溶媒が好ましく、メタノール、エタノールなどが挙げられる。溶液中の鉄イオンの濃度は特に限定されず、例えば、0.01~0.5mol/lなどとすることができる。
多孔体の浸漬時間は特に限定されず、例えば、1~48時間の範囲内で適宜調整すればよく、12~36時間が好ましい。長時間浸漬させることで、多孔体の表面金属イオンとRuイオンのガルバニック置換が生じるものと推定され、その結果、得られる触媒の耐久性がより向上する。浸漬後の多孔体は必要に応じて乾燥させてもよい。
【0126】
次いで、浸漬後の多孔体をリン化する(工程(II))。基材表面にRuイオンを有する状態でリン化することでRuと金属リン化物とを含む層を容易に形成することができる。
リン化の方法は特に限定されないが、リン化合物の存在下で、金属基材を加熱する方法が好ましい。具体的には、例えば、炉内に、リン化合物と、上記浸漬後の多孔体とを配置し、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で加熱する方法などが挙げられる。
加熱中、炉内に不活性ガスを供給する場合、上流側にリン化合物、下流側に多孔体を配置することでリン化を効率よく実施できる。
リン化合物は加熱温度により分解する化合物が好ましい。リン化合物の具体例としては、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。
加熱温度は、リン化合物の分解温度などを考慮して適宜調整すればよく、例えば、300~600℃の範囲、好ましくは350~550℃の範囲とすることができる。
【0127】
陰極20は、上記カソード触媒21のほか、更に第2の拡散層22を有していてもよい。第2の拡散層22は公知のガス拡散層の中から適宜選択することができ、例えばニッケルフォームなどの発泡金属層や多孔質カーボン層などが挙げられる。
【0128】
本水電解装置は、陽極10及び陰極20の外側に、それぞれセパレータ13、23を有していてもよい。セパレータの材質は白金コート等する必要はなく、カーボン製、ステンレス製など、適宜選択して用いることができる。セパレータ13、23が導電性を備える場合、セパレータ13を第1の主電極、セパレータ23を第2の主電極として、電源7を当該第1の主電極及び第2の主電極に接続して、陽極と陰極に電圧を印加してもよい。
【0129】
セパレータ13、23は、ガス流路14、24を有していてもよい。陽極10で発生した酸素、及び陰極20で発生した水素は各々ガス流路14、24を通じて排出され、貯蔵用タンクなどに収容される。
【0130】
電源7は、特に限定されず、公知の直流電源の中から適宜選択できる。本水電解装置は、入力電力に対する応答に優れることから、変動が大きい太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーであっても好適に用いることができる。
【0131】
[燃料電池]
本開示の燃料電池は前記本細孔フィリング膜を備えることを特徴とする。本細孔フィリング膜は、固体アルカリ燃料電池、及び固体高分子形燃料電池のいずれに対しても好適に用いることができる。
【0132】
前記電解質膜を固体アルカリ燃料電池に適用する場合、前記電解質膜として、アニオン伝導性の電解質膜を用いる。固体アルカリ燃料電池の構成は、従来公知の構成とすることができる。
例えば、電解質膜の一方の面にカソードを、他方の面にアノードを配置した膜電極複合体を形成し、カソードに酸素を供給し、アノードに燃料を供給して、カソードで生成したOH-が電解質膜を介してアノードに移動し、そこで水を発生させることにより発電を行う。
燃料は従来公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、水素、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ギ酸塩、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、アンモニア等が挙げられるが、これらに限定されない。
代表として、燃料として、水素、メタノール及びギ酸塩を用いた場合の各極での反応を示す。
・水素を用いた燃料電池
アノード: 2OH- + H2 → 2H2O
カソード: O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
・メタノールを用いた燃料電池
アノード: 6OH- + CH3OH → CO2 + 5H2O
カソード: O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
・ギ酸塩を用いた燃料電池
アノード: HCOO- + 3OH- → 2H2O + CO3
2- + 2e-
カソード: O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
【0133】
また、前記電解質高分子を固体高分子形燃料電池に適用する場合、前記電解質膜として、プロトン伝導性の電解質膜を用いる。固体高分子形燃料電池の構成は、従来公知の構成とすることができる。
例えば、電解質膜の一方の面にカソードを、他方の面にアノードを配置した膜電極複合体を形成し、カソードに酸素を供給し、アノードに燃料を供給して、アノードで生成したプロトンが電解質膜を介してアノードに移動し、そこで水を発生させることにより発電を行う。
燃料は公知のものの中から適宜選択することができ、具体的には前記固体アルカリ燃料電池において例示したものと同様のものが挙げられる。
代表して、燃料として水素を用いた場合の各極での反応を示す。
アノード: H2 → 2H+ + 2e-
カソード: O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O
【0134】
図5は固体高分子形燃料電池の要部の一例を示す模式的断面図である。固体高分子形燃料電池60は、前記細孔フィリング膜である高分子電解質膜65、水素等の燃料ガスが供給されるアノードユニット70、及び酸素が供給されるカソードユニット80を具備するセル68、並びに外部回路67等を有する。通常は、必要な出力に応じてセル6をスタックすることにより電池が構成される。
【0135】
アノードユニット70は、アノード触媒層71、拡散層72、セパレータ73が電解質膜65側からこの順に配置され、カソードユニット80は、カソード触媒層81、拡散層82、セパレータ83が電解質膜5側からこの順に配置されている。アノード触媒層71と拡散層72、及びカソード触媒層81と拡散層82がそれぞれ電極となる。但し、電極は、反応物である液体もしくはガス、電解質及び触媒層が同時に接触できればよく、必ずしも拡散層72,82は用いなくてもよい。即ち、電極用触媒層をアノード触媒層71及び/又はカソード触媒層81のみから構成することも可能である。膜電極接合体68は、少なくともアノード触媒層71とカソード触媒層81との間に電解質膜65が配置されている。外部回路67は、アノードユニット70のアノード触媒層71、カソードユニット80のカソード触媒層81等に電気的に接続されている。
【0136】
上記のように構成された固体高分子形燃料電池60は、アノードユニット70において水素等の還元性ガスやメタノール・ギ酸等の還元性液体が、セパレータ73のガス流路74から拡散層72を介してアノード触媒層71に供給される。一方、カソードユニット80においては、酸素あるいは空気等の酸化性ガスが、セパレータ83のガス流路84から拡散層82を介してカソード触媒層81に供給される。
【0137】
還元性ガスとして水素ガスを、酸化性ガスとして酸素ガスを利用するカチオン交換型の場合には、アノード触媒層71において水素の酸化反応が生じ、水素イオンと電子とが生成される。生成された水素イオンは、イオン伝導性を有する電解質膜65を介してカソード触媒層81に移動する。一方、生成された電子は、外部回路7を経由してカソード触媒層81に移動する。カソードユニット80に到達した水素イオン及び電子は、カソード触媒層81において酸素と反応して水を生成する。即ち、カソード触媒層81では、酸素の還元反応が生じる。還元反応により生成された水は、カソードユニット80の拡散層82から外部に排出されたり、高分子電解質膜65に供給されたりする。これらの一連の反応によって外部に電気が供給される。このようなカチオン交換型(酸型)の燃料電池の場合のシェル層の好適材料として、水素よりもイオン化傾向の低い金属である白金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム、金又はその合金等が例示できる。また、このときのコア部の好適材料として白金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄、銀、金、銅、又はその合金等が例示できる。
【0138】
一方、アニオン交換型(アルカリ型)の燃料電池の場合には、カソード触媒層81に水と酸素が供給され、水酸化物イオンが発生する。生成した水酸化物イオンは、イオン伝導性を有する電解質膜65を解してアノード触媒層71に移動する。そして、アノード触媒層側に到達した水酸化物イオンは、燃料と反応して水と電子を生成する。この燃料としては、水素、ギ酸、アルコール、アンモニアが例示できる。生成した電子は、外部回路7を経由してカソード触媒層81に移動する。これらの一連の反応によって外部に電気が供給される。このようなアニオン交換型(アルカリ型)の燃料電池の場合のシェル層の好適材料として、白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、鉄、金、銀、銅から選択される金属又はその合金が例示できる。また、このときのコア部の好適材料として白金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄、金、銀、銅、又はその合金等が例示できる。
【実施例】
【0139】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0140】
[製造例1:アニオン交換ポリマーPFT-C10-TMAの製造]
(1)化合物Iの合成
2口フラスコに、水酸化ナトリウム(200g)水溶液(600mL)と、n-テトラブチルアンモニウムクロリド(556mg)とを加え、窒素下にて撹拌した。次いで、別途、1,10-ジクロロデカン(200mmol)に、2,7-ジブロモフルオレン(20mmol)を加熱しながら溶解させて調製した溶液を、この2つ口フラスコに、シリンジにて加えた。
そして、90℃、窒素下にて、90分間、反応させた後、得られた反応液を室温(25℃)まで冷却させた。冷却した反応液中の有機相を分液ロートにてジクロロメタン(300mL)で抽出し、1Mの塩酸(50mL)と、水(200mL×2)とで洗浄した。得られた有機相中のジクロロメタンをエバポレーターにて除去し、さらに、減圧下、90℃にて、未反応の1,6-ジクロロヘキサンを除去した。得られた残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン:クロロホルム=9:1)にかけることで、下記化合物I(13.6mmol)を得た。
【0141】
【0142】
(2)ポリマーI-Clの合成
2口フラスコに、化合物I(2mmol)、炭酸セシウム(6mmol)、ピバル酸(2mmol)、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン(14mg)及びPd2(dba)3・CHCl3錯体(10.4mg)を加え、更に、脱水テトラヒドロフラン(3mL)を加えて、窒素下にて撹拌した。続いて、別途、テトラフルオロフェニレン(2.06mmol)をテトラヒドロフラン(1mL)に溶解させて調製した溶液を、シリンジにて空気がなるべく入らないように、2口フラスコに加えた。これらの混合液を、窒素下、室温(25℃)にて45分反応させた後、95℃にて24時間反応させた。
得られた反応物(固形分)に、1M塩酸及びクロロホルムを加え、12時間、40℃で撹拌した後、分液ロートにて有機相を抽出した。抽出した有機相を水で洗浄した後、得られた有機相中の液体分をエバポレーターにて除去し、乾固させた。得られた残渣をクロロホルムに溶解させ、メタノール中で再沈殿させた。得られた沈殿物を濾過して液体分を除去したのち、固形分をヘキサンで洗浄した。更に、得られた固形分を真空乾燥させることで、下記ポリマーI-Clを得た。
【0143】
【0144】
(3)PFT-C10-TMAの合成
ポリマーI-Cl(200mg)をクロロベンゼン(20mL)に溶解させた。得られた溶液に、25質量%トリメチルアミンメタノール溶液(2mL)を加え、105℃にて6時間撹拌した。その後、ジメチルスルホキシド(10mL)を加え、さらに6時間撹拌した。エバポレーターにて反応液中の大部分のクロロベンゼンを除去した後、ジメチルスルホキシド(20mL)及び25質量%トリメチルアミンメタノール溶液(3mL)を加え、100℃にて3時間撹拌し、反応を完結させた。得られた反応液中のジメチルスルホキシドを、80℃にて、エバポレーターで除去し、乾固させた。乾固した残渣に水を加え、濾過し、得られた固形分に水を加え、80℃にて撹拌した。その後、室温(25℃)に冷却し、濾過を行い、得られた固形分を真空乾燥させることで、下記ポリマーPFT-C10-TMA(203mg)を得た。
【0145】
【0146】
[製造例2:アノード触媒の製造]
市販のニッケルフォームを厚さ200nmとなるように均一にプレスした。当該ニッケルフォームをHClで酸処理し、エタノール及び水で洗浄した。次いで、当該Niフォームを1M KOHに浸漬し、10cm2のニッケルフォーム対向電極、Hg/HgO参照電極を用い、2.5V vs RHEを1分間印加して、ニッケルフォーム表面を酸化し、NiOOHを含む酸化ニッケル層を形成し中間品を得た。
上記中間品を、25mM Fe2+と、(NH4)2SO4とH2SO4と水を含み、pHを3以下に調整し、N2で脱気した電解液に浸漬し、Pt対向電極と、Ag/AgCl参照電極を用いて、クロノアンペロメトリー法によりFeを電着し、厚みが約250nmのNi-OOH-Fe-Niフォーム触媒を得た。
【0147】
[製造例3:カソード触媒の製造]
50mlの脱イオン水に約0.2mgのRuCl3を溶解しRuイオン溶液を調製した。当該Ruイオン溶液に酸処理したニッケルフォームを浸漬し24時間保持して、基板表面上のNiイオンとRuイオンのガルバニック置換を生じさせた。浸漬後、ニッケルフォームを大気乾燥してRu修飾基板を得た。炉内に高純度窒素を流量60SCCMで流し、当該炉内の上流側に次亜リン酸ナトリウムを、下流側に前記Ru修飾基板を配置した。3℃/分の速度で昇温し、350℃で4時間保持してリン化を行い、NiRu2P-Niフォーム触媒を得た。
【0148】
[実施例1:細孔フィリング膜の作製]
製造例1で得られたアニオン交換ポリマーPFT-C10-TMAを溶解させた溶液を準備した。また、多孔基材として空孔率46%、厚さ25μmの超高分子量ポリエチレン多孔基材を準備した。前記多孔基材に前記溶液を浸透させた後に溶媒を除去し、PFT-C10-TMAを充填した細孔フィリング膜を作製した。
細孔内にアニオン交換ポリマーPFT-C10-TMAが充填されていることは、ラマン分析により確認した。ラマン分析の結果を
図7A及び
図7Bに示す。
図7Aは上段から順に、ポリエチレン多孔基材、充填ポリマー(PFT-C10-TMA)、及び細孔フィリング膜(深さ12μm)のラマンスペクトルである。これらの比較により示されるとおり、細孔フィリング膜の深さ12μmの位置において基材由来のスペクトルと、ポリマー由来のスペクトルとの両方が検出されており多孔基材の内部にポリマーが充填されていることがわかる。また
図7Bは細孔フィリング膜の深さ方向ラマンスペクトルである。
図7Bに示されるとおりいずれの測定点においてもポリマー由来のスペクトルが検出されており、ポリマーは多孔基材の深さ方向に概ね均一に充填されていることがわかる。
【0149】
[実施例2:細孔フィリング膜の作製]
実施例1において、多孔基材を空孔率70%、厚さ25μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔基材に変更した以外は実施例1と同様にして細孔フィリング膜を作製した。実施例1と同様にラマン分析を行い、多孔基材内部にもポリマーが充填されていることを確認した。
【0150】
[比較例1:細孔フィリング膜の作製]
実施例1において、多孔基材を空孔率60%、厚さ20μmのポリイミド多孔基材に変更した以外は実施例1と同様にして細孔フィリング膜の作製を行った。実施例1と同様にラマン分析を行ったところ多孔基材内部にはポリマーが充填できなかったことが示された。
【0151】
<水電解試験>
実施例2の細孔フィリング膜を電解質膜とし、製造例2のNi-OOH-Fe-Niフォーム触媒をアノード触媒、製造例3のNiRu
2P-Niフォーム触媒をカソード触媒として膜電極接合体を作製した。1M KOH水溶液をアノードとカソードの両側に流し、80℃に設定して水電解試験を実施した。試験結果を
図6に示す。
図6に示されるとおり、実施例1の細孔フィリング膜を用いた水電解装置は高い効率で水の電気分解が実施できていることが分かる。
【0152】
以上の通り、本細孔フィリング膜は以下の特徴を備えている。
ポリアリーレンポリマーが多孔基材の細孔内に充填されている本細孔フィリング膜は、ポリアリーレンポリマーを成膜した膜に対し機械的強度に優れ、同等以上の化学的耐久性を有する。一般式(1)で表される構成単位を有するポリアリーレンポリマーを用いることでイオン伝導性に優れた細孔フィリング膜が得られる。ポリオレフィン系多孔基材を用いることで化学的耐久性が更に向上し、ポリアリーレンポリマーを細孔内に充填させやすくなる。このような細孔フィリング膜を用いることで耐久性に優れた燃料電池及び電解装置を得ることができる。
【0153】
この出願は、2022年5月19日に出願された日本出願特願2022-082500を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0154】
1:水電解装置、 5:電解質膜(細孔フィリング膜)、 6:セル、 7:電源、 8:膜電極接合体、 10:陽極(アノード電極)、 11:アノード触媒、 12:第1の拡散層、 13:セパレータ、 14:ガス流路、 20:陰極(カソード電極)、 21:カソード触媒、 22:第2の拡散層、 23:セパレータ、 24:ガス流路、 30,40:アノード触媒、 31,41:ニッケルフォーム、 32:酸化ニッケル層、 33:NiFeを含む層、 42:リン化物層、 50:カソード触媒、 51:メタル又はメタルアロイの多孔体、 52:Ruと金属リン化物とを含む層、 60:燃料電池、 65:電解質膜(細孔フィリング膜)、 66:セル、 67:外部回路、 68:膜電極接合体、 70:アノードユニット、 71:アノード触媒層、 72:拡散層、 73:セパレータ、 74:ガス流路、 80:カソードユニット、 81:カソード触媒層、 83:セパレータ、 84:ガス流路
【要約】
化学的耐久性、及び機械的強度に優れた細孔フィリング膜、当該細孔フィリング膜を備え耐久性に優れた燃料電池、及び電解装置を提供すること。
多孔基材と、ポリアリーレンポリマーを有し、前記ポリアリーレンポリマーが、前記多孔基材の細孔内に充填されている、細孔フィリング膜。