IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧

<>
  • 特許-回折環を利用した非破壊材料評価方法 図1
  • 特許-回折環を利用した非破壊材料評価方法 図2
  • 特許-回折環を利用した非破壊材料評価方法 図3
  • 特許-回折環を利用した非破壊材料評価方法 図4
  • 特許-回折環を利用した非破壊材料評価方法 図5
  • 特許-回折環を利用した非破壊材料評価方法 図6
  • 特許-回折環を利用した非破壊材料評価方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】回折環を利用した非破壊材料評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2055 20180101AFI20240315BHJP
   G01L 1/25 20060101ALI20240315BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G01N23/2055 310
G01L1/25
G01L1/00 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020015333
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021124286
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敏彦
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-042050(JP,A)
【文献】特開2012-112708(JP,A)
【文献】佐々木 敏彦,外,cosα法による中性子応力測定に関する基礎的研究,日本機械学会論文集(A編),2005年04月,第71巻,第704号,P.84-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-G01N23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料に対して所定の入射角にてX線を照射して測定した回折環データを分析して回折環全周についての回折環中心角(α)に対する半価幅<b(α)>を得て、
次に回折環中心角(α)に対応するX線の侵入深さT(α)を下記、式(6)にて求め、
上記半価幅<b(α)>と上記T(α)との関係を下記式(5)に示す線形多項式にて適切な次数nを選択して近似することで、係数b ,b ,b ・・bnを決定し、
上記にて決定した係数に基づいて、下記式(1)により
測定サンプルの表面からの深さ(Z)における半価幅b(Z)を求めることでX線によって測定した回折環から得られた半価幅b(Z)の深さ分布から、物性に関する情報を評価することを特徴とする材料のX線評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料等の結晶性材料からなる製品のX線を用いた非破壊評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶金属材料にX線を照射することで、X線回折プロファイルが得られる。
また、このような金属材料に対してX線を照射すると、回折環が得られる。
これまでに、回折X線のプロフィルや回折環の状態を利用して、残留応力,硬さ,疲労強度等を評価したり、結晶粒径,結晶方位分布,転位密度等の解析に用いられている。
【0003】
例えば非特許文献1には、応力勾配がない場合の回折線半価幅と応力勾配がある場合の半価幅の比と、応力変化の関係から表面応力勾配を測定する方法が提案されている。
ここで、半価幅はX線回折ピークの半分の強度値における両端を結んだ幅をいう。
この非特許文献1に用いられる半価幅は、応力と回折角2θの関係式からシミュレーションにて求めた平均的な値である。
【0004】
特許文献1には、鋳鍛鋼品の残留応力を測定するのに、材料の測定位置によるバラツキが大きいことに着目し、測定位置毎の回折X線の半価幅の平均値と、所定位置毎の回折X線の半価幅との差を用いて評価する方法を開示する。
ここで、同公報の測定方法に用いる半価幅も、回折環から得られる平均値である。
しかし、材料表面に対してのX線入射角ψにより得られる回折環においては、回折環中心角αの値により半価幅が異なり、従来の平均値を用いた評価方法では、精度が不充分であり実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-132590号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「回折線半価幅による表面応力勾配の測定」,大谷 真一,太田 省三郎,御園 茂和,「材料」第39巻 第441号,P626-631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、回折環を利用した評価精度の高い非破壊材料評価方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る材料のX線評価方法は、材料に対して所定の入射角にてX線を照射して得られる回折環の各部位のX線の浸入深さの変化を二次元X線検出器を用いて取得し、前記X線の浸入深さの変化から物性に関する情報を評価することを特徴とする。
多結晶金属材料にX線を照射する際に得られる回折環は、材料表面に対して直交する方向に照射される場合を除いて、その回折環の全周にわたってデータの測定深さ(X線浸入深さ)が同じではなく、回折環中心角αの値により異なることに着目し、その測定理論を検証し、本発明に至った。
【0009】
回折環におけるX線の浸入深さの分布は、X線の入射角により変化することから本発明においては、前記入射角を複数の入射角に変化させることで、入射角ごとの前記X線の浸入深さの変化を得るのが好ましい。
【0010】
本発明において材料の評価に関する物性値の情報は、X線の浸入深さの変化に基づいて材料の硬さ,応力,疲労強度,ひずみ等の直接的な物性値に関する情報を得ることができる。
また回折環の各部位における半価幅の変化を介して、それらの物性値を評価してもよい。
なお、半価幅と応力,疲労強度等の関係については、これまでも多くの提案があるものの、それらは回折環の一箇所のみのデータあるいは平均値を利用したものであるのに対して、本発明は回折環の各部位のX線の浸入深さの変化を利用している。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、材料をX線照射にて得られる回折環を用いて評価する際に、回折環の部位ごとの浸入深さの変化に基づいて評価するので、従来の一箇所のみや平均値を用いる方法よりも評価精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】回折環の測定における光学系を模式的に示す。
図2】回折環の中心角に対するX線の浸入深さを示す。
図3】X線浸入深さT(α)に対する半価幅FWHM(deg)を示す。点線は測定点を4次の多項式に近似した結果を示す。
図4】X線浸入深さと半価幅分布の関係を示す。実線は近似した多項式の係数を用いて再計算した結果を示す。
図5】入射角ψ=35°におけるX線浸入深さに対する半価幅の分布を示す。
図6】重み係数Wの変化を示す。
図7】重み係数W値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明に用いる測定理論について説明する。
図1に回折環の測定における光学系を示す。
測定サンプルの表面に対するX線の入射角を(ψ),表面深さ方向を(z),回折環の中心角を(α),回折角を(2θ)と定義する。
【0014】
<基礎式>
測定サンプルの表面からの深さ(z)における半価幅をb(z)と表し、次式のような線形多項式で表わされると仮定する。
ここで、b、b、b、・・・、b、bは係数(定数)である。
図1に示すように、X線測定で得られる回折環において、その半径方向に関する回折X線プロファイルから与えられる半価幅について考えると、X線回折現象の性質により、回折環から得られる半価幅は、入射X線と回折X線によって定められるX線侵入深さ内に存在する全半価幅の平均値である。
また、測定サンプル内でのX線の吸収減衰を考慮すると、回折X線強度I(α,z)を重みとする加重平均に対応すると考えられる。
このような半価幅を<b(α)>と表す。すなわち、<b(α)>は、深さzで回折したX線ビームに対応する半価幅b(z)をz=0から測定深さτまでの全範囲ついて、I(α,z)を用いて重みつき平均した値と考えることができ、次式で与えられる。
次に、αを図1のように定義すると、I(α,z)は次式で与えられる。
ここで、Iは入射X線ビームの強度、μは線吸収係数、kは回折の際のX線強度の減衰率を表す。また、LはX線ビームが測定サンプル内を通過した経路長を表し次式で与えられる。
式(1)~(4)より、次式の関係が得られる。
ここで、T(α)は全X線回折強度の1-1/eが得られる深さ(以下、X線侵入深さ)を表し、回折環上の中心角αに対して次式となる。
また、W、W、・・・、Wは式(2)の積分により算出される係数であり、式(2)の積分範囲に依存した値を持つ。
すなわち、例えば式(2)の積分範囲をz=0から∞までとすると以下の値となる。
なお、式(5)の重み係数W(n=1,2,3,・・・)は、積分範囲を0~τとすると次式となる。
一方、積分範囲を0~X線侵入深さTとすると、
となる。
図6及び図7に、n=1から15までのWを示す[式(17)~(21)の場合]。
【0015】
<半価幅の深さ変化(分布)の評価方法>
まず、回折環をX線測定し、回折環上の各中心角αから半価幅を、それぞれ、データ解析して求める。
なお、このようにして得られる半価幅は、式(5)の<b(α)>に相当し、さらに、αによって決まる式(6)のT(α)にも対応する。
X線入射角がψ=0°のとき、T(α)はαに依らず一定の値を持つが、ψがゼロ以外の場合はαに依存して変化し、α=0°で最大値、α=180°で最小値をそれぞれ取る。
したがって、ψがゼロ以外の場合、あるいは、複数のψにおいて回折環を測定することにより、半価幅<b(α)>とT(α)との関係を得ることが可能になる。
すなわち、得られた<b(α)>をT(α)に対して式(5)のような線形多項式に近似すると、式(5)の係数b(α)・Wの値が得られる(ここで、n=1,2,3,・・・、以下同様)。
また、Wは式(7)~(21)に示したように既知の値であるので、b(α)が判明できる。
式(1)より、b(α)は半価幅b(z)の深さ分布を与える係数であり、こうして、b(z)とzの関係、すなわち、半価幅b(z)の深さ分布(式(1)に相当する)が判明する。
【0016】
<半価幅分布の非破壊評価法>
X線回折実験で測定できる回折環から、半価幅の深さ分布を求める方法について検討する。
この目的を前述の式で述べると、次のように説明することができる。
(1)まず、測定した回折環データを分析して、式(5)の<b(α)>を回折環全周について得る。
(2)次に、回折環中心角αに対応するT(α)を式(6)を用いて計算して求め、<b(α)>とT(α)の関係を求める。
(3)そうして、<b(α)>とT(α)の関係を式(5)に示すような線形多項式に適切な次数nを選択して近似し、係数b、b、b・・・を決定する。
(4)これらの係数は、式(1)に示される半価幅b(z)と深さzの関係、すなわち、半価幅の深さ分布を規定するものである。
よって、こうしてX線によって測定した回折環から半価幅の深さ分布が非破壊で評価可能となる。
【0017】
<測定例>
<複数のX線入射角を使用した場合>
測定サンプルとして、X線応力測定用に市販されている鋼製の応力試験片(PROTO社製、公称値:-443MPa)を用いた。
X線測定は、cosα法方式の市販のX線応力測定装置(パルステック社製、μ-X360)を用い、管電圧30kV、管電流1mAによるCr-Kα特性X線により、フェライト相の211回折線(回折角2θ=156.396°)を測定した。
X線入射角ψを、5°,20°,35°,50°,65°の5種類について回折環を測定した。
測定データは、装置の標準ソフトウエアを用いて標準条件で分析し、半価幅と回折環中心角の関係を各500組得て半価幅の深さ勾配解析に用いた。
なお、本回折環画像はイメージングプレートで測定され、平滑化処理を一切行わない場合について検討を行った。
図2に、本測定条件に対する回折環全周のX線侵入深さを各X線入射角に対して示す。
X線入射角が大きくなるにつれ、X線侵入深さは全体的に減少し、また、α=180°で最小値を示す。
図3に、半価幅(FWHM)の全ての測定結果について、X線侵入深さT(α)を横軸にとってプロットした結果を示す。
図2図3より、X線入射角ψごとに半価幅とX線侵入深さの関係が異なること、また、ψによってX線侵入深さの変化量が異なり、ψが大きいほどその変化量も広くなることが分かる。
また、T(α)が2.3μm付近で半価幅のピークが存在し、それを境に前後において半価幅が減少する傾向が見られる。
図3には、すべてのψに対する半価幅を4次の線形多項式に近似した結果を示している(点線)。
図4に得られた各係数値を示す。
この時の近似計算には、市販の表計算ソフトを使用した。
このため、近似精度を確認するため、出力された近似曲線の各係数を用いて再計算し、図3の実線の曲線を得た。市販ソフトと再計算の結果は互いによく一致していることが確認できる。
以上により得られた測定半価幅とX線侵入深さの関係により、直ちに半価幅と表面からの深さの関係が判明する。
すなわち、図4の各係数の値を式(1)に代入することで半価幅の深さ分布b(z)が判明する(ここでは、n=4)。
半価幅の深さ分布をグラフに描いたものを図4に示す。
図4より、半価幅は深さz=2.3μm付近で最大値を示し、表面でやや急激に減少すると共に、z=2.3μmより内部においては徐々に減少していることが分かる。
【0018】
<単一のX線入射角の場合>
単一のX線入射角から測定した1個の回折環を使用する場合について述べる。
図5は、前節で用いたψ=35°において測定された回折環に対する半価幅とX線侵入深さの関係をプロットした図である。
横軸のX線侵入深さの範囲は、狭い範囲であるため、ここでは1次式で近似した。
近似式の係数は、b=3.132,b=0.00945であった。
また、近似式をプロットした結果を図5に破線で示す。
ψ=35°の回折環全周における半価幅はほぼ3.2°で一定であり、深さ方向の勾配はほとんど見られない結果となった。
この結果と図2における入射角とX線侵入深さの関係を考慮すると、単一のX線入射角の場合にはψ=35°よりも大きい方がよく、複数のX線入射角を用いて侵入深さの分布状態を測定するのが好ましいと言える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7