(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】キャスタ
(51)【国際特許分類】
B60B 33/00 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
B60B33/00 501B
(21)【出願番号】P 2020057981
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592067580
【氏名又は名称】株式会社アルミス
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】余田 知彦
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023200(JP,A)
【文献】特開2018-002128(JP,A)
【文献】特開2007-168759(JP,A)
【文献】特開2008-302903(JP,A)
【文献】特開2004-196242(JP,A)
【文献】実開昭62-120071(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸(6)の周りに回転可能とされた車輪(2)と、
前記車軸(6)を保持するハウジング(3)と、
前記車軸(6)を含む垂直面に対し対称となる位置に配置され、前記ハウジング(3)によって保持された回動軸(10)の周りに回動可能となっており、自重によって前記車輪(2)の周面に当接する一対のブレーキシュー(4)と、
前記ブレーキシュー(4)をその自重に抗して前記回動軸(10)の周りに回動させることにより、前記ブレーキシュー(4)と前記車輪(2)の周面との当接を解除する解除部材(5)と、
を備え
、
前記ブレーキシュー(4)の前記車輪(2)の周面に当接する当接部(15)が、外側に膨らんでばね弾性が生じる湾曲した形状となっており、
前記解除部材(5)に挿通部(19)が連設され、前記挿通部(19)が前記ブレーキシュー(4)に形成された挿通孔(17)に挿通されており、前記解除部材(5)の自重が、前記挿通部(19)を介して前記ブレーキシュー(4)に作用するように構成されているキャスタ。
【請求項2】
前記一対のブレーキシュー(4)が、前記解除部材(5)によって互いに連結されており、前記解除部材(5)を上向きに変位させることにより、前記一対のブレーキシュー(4)を前記当接が解除される方向に回動させる請求項1に記載のキャスタ。
【請求項3】
前記ブレーキシュー(4)が、前記回動軸(10)が挿通されるボス部(14)と、前記ボス部(14)からV字状に延設された前記車輪(2)の周面に当接する当接部(15)と前記解除部材(5)が連結される揺動部(16)と、を有し、前記一対のブレーキシュー(4)のそれぞれの前記当接部(15)の先端が、前記車輪(2)の周面に対し互いに逆方向の鋭角状の傾斜角をもって当接可能とした請求項1又は2に記載のキャスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーキ機能を備えたキャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
台車の荷台の下部等に設けられるキャスタとして、例えば下記特許文献1には、キャスタ4aの車輪6の周面に対向させてブレーキシュー16を配設したブレーキ装置が示されている。各ブレーキシュー16は、軸15によって回動自在に保持されている。このブレーキシューは、車輪の周面に当接する状態と、車輪の周面から離反する状態をとることができるようになっており、常態において、ブレーキシューの自重やバネの付勢力によって車輪の周面に当接する状態となっている(特許文献1の段落0023、0027、
図1、
図3等参照)。
【0003】
各ブレーキシュー16と車輪6の周面が当接した状態で、例えば、車輪6が時計回りに回転すると、右側のブレーキシュー16が車輪6の回転に伴って反時計方向に回動され、車輪6の周面に圧接するように作用して、車輪6の時計方向の回転がロックされる。その一方で、車輪6が反時計回りに回転すると左側のブレーキシュー16が車輪6の回転に伴って時計方向に回動され、車輪6の周面に圧接するように作用して、車輪6の反時計方向の回転がロックされる(特許文献1の段落0028、
図1等参照)。台車等のキャスタにこのブレーキ装置を採用することにより、傾斜地において台車が意図せず動き出すのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係るブレーキ装置は、対向するように設けられたブレーキシューのいずれも、車輪の回転軸の一方側(例えば特許文献1の
図1において右側)に設けられている。すると、このブレーキシューをその自重で車輪の周面に当接させる場合、車輪の周面に対する接触力が両ブレーキシューの間で不均等となり、車輪が時計回りに回転するときと反時計回りに回転するときとの間で、ブレーキシューが車輪の周面に圧接されるタイミングや圧接力が異なり、取扱い性が低下する虞がある。
【0006】
そこで、この発明は、車輪の回転方向に関係なく均等なブレーキ性能が発揮されるキャスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明は、車軸の周りに回転可能な車輪と、前記車軸を保持するハウジングと、前記車軸を含む垂直面に対し対称となる位置に配置され、前記ハウジングによって保持された回動軸の周りに回動可能となっており、自重によって前記車輪の周面に当接する一対のブレーキシューと、前記ブレーキシューをその自重に抗して前記回動軸の周りに回動させることにより、前記ブレーキシューと前記車輪の周面との当接を解除する解除部材と、を備えたキャスタを構成した。
【0008】
このようにすると、車輪がいずれの方向に回転しても、各ブレーキシューと車輪の周面が均等の大きさで当接するため、車輪の回転方向に関係なく均等なブレーキ性能が発揮され、このキャスタを設けた台車等の取扱い性を向上することができる。
【0009】
前記キャスタにおいては、前記一対のブレーキシューが、前記解除部材によって互いに連結されており、前記解除部材を上向きに変位させることにより、前記一対のブレーキシューを前記当接が解除される方向に回動させるのが好ましい。
【0010】
このようにすると、簡便にブレーキを解除することができ、取扱い性をさらに向上することができる。ブレーキシューの当接解除に際しては、使用者が解除部材を直接手で握って操作してもよいし、解除部材にこの解除部材を上向きに変位させるリンク部材を接続し、このリンク部材を操作してもよい。
【0011】
前記キャスタにおいては、前記ブレーキシューが、前記回動軸が挿通されるボス部と、前記ボス部からV字状に延設された前記車輪の周面に当接する当接部と前記解除部材が連結される揺動部と、を有し、前記一対のブレーキシューのそれぞれの前記当接部の先端が、前記車輪の周面に対し互いに逆方向の鋭角状の傾斜角をもって当接可能とするのが好ましい。
【0012】
このようにすると、各ブレーキシューの先端が車輪の回転方向と逆の方向に食い込む状態となるため、ブレーキの制動力を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るキャスタは、車輪がいずれの方向に回転しても、各ブレーキシューと車輪の周面が均等の大きさで当接するため、車輪の回転方向に関係なく均等なブレーキ性能が発揮され、このキャスタを設けた台車等の取扱い性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明に係るキャスタの第一実施形態を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図
【
図4】
図1に示すキャスタのブレーキを解除した状態を示す断面図
【
図5】本願発明に係るキャスタの第二実施形態を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図
【
図7】
図5に示すキャスタのブレーキを解除した状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明に係るキャスタ1の第一実施形態を
図1から
図4に基づいて説明する。このキャスタ1は、車輪2と、ハウジング3と、一対のブレーキシュー4と、解除部材5と、を主要な構成要素としている。
【0016】
車輪2は、その中心に車軸6が挿通されており、この車軸6の周りに回転可能となっている。車輪2の素材として、ゴムが採用されている。この素材はゴムに限定されないが、十分なブレーキ性能が発揮されるように、ブレーキシュー4との当接によってある程度の弾性変形が可能な弾性素材を採用するのが好ましい。
【0017】
ハウジング3は、下向きに延びる一対の延設片7と、一対の延設片7の上端に連設された水平なフランジ8とを有する。各延設片7の下端部には、車軸6を回転自在に保持する貫通穴9が形成されている。また、各延設片7とフランジ8との連設部近傍には、一対のブレーキシュー4の回動軸10を回動自在に保持する一対の貫通穴11が形成されている。さらに、フランジ8には、キャスタ1を台車(図示せず)等の下面にねじ止めするための貫通穴12が形成されている。
【0018】
一対のブレーキシュー4は、車軸6を含む垂直面に対し対称となるように配置されている。各ブレーキシュー4は、ハウジング3によって保持される回動軸10の周りに回動自在となっており、自重によって車輪2の周面に当接するように構成されている。この実施形態では、回動軸10としてボルト(以下、回動軸10と同じ符号を付する。)を採用している。このボルト10は、その先端側からナット13をねじ込むことによって抜け止めされる。
【0019】
このように、一対のブレーキシュー4を対称に配置することにより、ブレーキシュー4の自重によって各ブレーキシュー4と車輪2の周面が均等の大きさで当接するため、車輪2がいずれの方向に回転しても、その回転方向に関係なく均等なブレーキ性能が発揮される。このため、このキャスタ1を設けた台車(図示せず)等の取扱い性を向上することができる。また、ブレーキシュー4の自重によってブレーキが作用するため、このブレーキシュー4を車輪2の周面に当接させるためのばね等の付勢部材が不要となる。このため、部材コスト並びにアッセンブリやメンテナンスのための作業コストの削減を図ることができる。
【0020】
各ブレーキシュー4は、回動軸10が挿通されるボス部14と、ボス部14からV字状に延設された車輪2の周面に当接する当接部15と解除部材5が連結される揺動部16とを有している。当接部15と揺動部16は、いずれもV字状の外側に若干膨らむように湾曲した形状をなしている。このように湾曲させることにより、揺動部16が車輪2の周面に沿うように配置されるため、湾曲させないときと比較してコンパクト化を図ることができる。また、湾曲させることによりばね弾性が生じるため、ブレーキシュー4と車輪2の周面の当接力を向上できる可能性がある。
【0021】
当接部15は、その先端(ボス部14と反対側の端部)に向かうほど薄肉となっており、
図1中に実線で示すように、自重によってその先端が車輪2の周面と当接する。揺動部16には、その先端(ボス部14と反対側の端部)に解除部材5を挿通する挿通孔17が形成されている。
【0022】
また、一対のブレーキシュー4のそれぞれの当接部15の先端は、車輪2の周面に対し、互いに逆方向の鋭角状の傾斜角をもって当接可能となっている。このため、各当接部15(ブレーキシュー4)の先端が車輪2の回転方向と逆の方向に食い込んだ状態となる。すなわち、この実施形態においては、車輪2が右回り(時計回り)に回転するときは、左側のブレーキシュー4の当接部15が車輪2の周面に食い込み、車輪2が左回り(反時計回り)に回転するときは、右側のブレーキシュー4の当接部15が車輪2の周面に食い込む。このように、各当接部15が車輪2の周面に食い込むことによって、ブレーキの制動力を高めることができる。
【0023】
V字状に延設された当接部15と揺動部16がなす角度は、約45度である。この角度は適宜決定することができるが、特に20度以上80度以下の範囲内とするのが好ましい。20度以下とすると当接部15の先端が車輪2の周面に食い込むことができずに滑りやすくなるため、ブレーキ性能が低下する虞がある。また、80度以上とすると当接部15の先端が車輪2の周面にほぼ鉛直に突き立てられた状態となって、当接部15と車輪2の周面との間の接触面積が小さくなるため、ブレーキ性能が低下する虞がある。
【0024】
解除部材5は、ブレーキシュー4をその自重に抗してボルト10の周りに回動させて、ブレーキシュー4と車輪2の周面との間の当接を解除するための部材である。この解除部材5は、水平方向に延びるレバー部18と、レバー部18の両端にブレーキシュー4の揺動部16に形成された挿通孔17に挿し込まれる挿通部19が連設されたコ字形の部材である。各挿通部19の先端近傍には、ピン穴20が形成されている。この挿通部19を挿通孔17に挿通した上でピン穴20に抜け止めピン21を挿し込むことによって、解除部材5が各ブレーキシュー4から抜け止めされる。
【0025】
ブレーキシュー4と車輪2の周面が当接している状態において、解除部材5のレバー部18を上向きに変位させるように操作すると(
図4中の白抜き矢印参照)、この解除部材5の各挿通部19が挿通されたブレーキシュー4の揺動部16が上向きに引き上げられ、右側のブレーキシュー4がボルト10に対し左回り(反時計回り)に、左側のブレーキシュー4がボルト10に対し右回り(時計回り)にそれぞれ回動する。この回動に伴って、
図4中に実線で示すように、ブレーキシュー4と車輪2の周面との当接が解消してブレーキが解除される。
【0026】
このとき、ブレーキシュー4の揺動部16に形成された挿通孔17と解除部材5の挿通部19との間、又は、ボルト10とボス部14との間に若干の遊びを設けておくことによって、ブレーキシュー4の回動に伴う各ブレーキシュー4に形成された挿通孔17の間隔をほぼ一定に保つことができるため、レバー部18の引き上げ操作をスムーズに行うことができる。
【0027】
解除部材5の操作は、使用者が手又は足によって行うことができるが、キャスタ1が台車(図示せず)の下面に取り付けられている場合等は、解除部材5を操作しづらいときがある。このときは、例えば解除部材5を上向きに変位させるリンク機構(図示せず)を台車の上部まで延設し、このリンク機構を操作することによって解除部材5を引き上げ可能とすることもできる。
【0028】
この解除部材5の自重は、挿通部19を介してブレーキシュー4に作用する。このため、ブレーキシュー4の自重に解除部材5の自重がさらに加わり、ブレーキシュー4と車輪2の周面との当接力が大きくなる。このため、このブレーキシュー4によるブレーキ性能がさらに高まる。
【0029】
本願発明に係るキャスタ1の第二実施形態を
図5から
図7に基づいて説明する。このキャスタ1は、車輪2と、ハウジング3と、一対のブレーキシュー4と、解除部材5と、を主要な構成要素とする点で第一実施形態に係るキャスタ1と共通するが、そのブレーキシュー4の構成が異なっている。
【0030】
すなわち、一対のブレーキシュー4は、車軸6を含む垂直面に対し対称となるように配置されており、ハウジング3によって保持されるボルト10の周りに回動自在となっているが、一対のブレーキシュー4が共通のボルト10によって回動するように構成されている。一対のブレーキシュー4の一方側には、ボルト10の軸方向に沿って延びるボス部14が、この軸方向の中央部に形成されている。その一方で、一対のブレーキシュー4の他方側には、ボルト10の軸方向に沿って延びるボス部14が、この軸方向の両端部に形成されている。
【0031】
他方側のブレーキシュー4の前記軸方向の両端部に形成されたボス部14の間の隙間の大きさは、一方側のブレーキシュー4の前記軸方向の中央部に形成されたボス部14の軸方向長さよりも若干大きい。このため、他方側のブレーキシュー4に形成されたボス部14の間の隙間に、一方側のブレーキシュー4に形成されたボス部14を同軸に配置することができ、この配置状態で各ボス部14に共通のボルト10を挿入すると、一対のブレーキシュー4が回動自在に一体化される。
【0032】
一体化された一対のブレーキシュー4は、第一実施形態に係るブレーキシュー4と同様に、その自重によって車輪2の周面に当接してブレーキ性能が発揮される。その一方で、ブレーキシュー4と車輪2の周面が当接している状態において、解除部材5のレバー部18を上向きに変位させるように操作すると(
図7中の白抜き矢印参照)、
図7中に実線で示すように、ブレーキシュー4と車輪2の周面との当接が解消してブレーキが解除される。
【0033】
上記の各実施形態においては、ハウジング3、一対のブレーキシュー4、及び、解除部材5の素材をいずれもアルミニウム(あるいはアルミニウム合金)としたが、その素材はこれに限定されず適宜変更することができる。
【0034】
上記の各実施形態において示したキャスタ1はあくまでも例示に過ぎず、車輪2の回転方向に関係なく均等なブレーキ性能が発揮されるキャスタ1を提供する、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、構成部材の形状や配置等を適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 キャスタ
2 車輪
3 ハウジング
4 ブレーキシュー
5 解除部材
6 車軸
7 延設片
8 フランジ
9、11、12 貫通穴
10 回動軸(ボルト)
13 ナット
14 ボス部
15 当接部
16 揺動部
17 挿通孔
18 レバー部
19 挿通部
20 ピン穴
21 抜け止めピン