(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】インフルエンザウイルス検出のための方法及びキット、並びにインフルエンザイウイルス感染の診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/483 20060101AFI20240315BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240315BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G01N33/483 C
G01N33/50 Z
C12Q1/34
(21)【出願番号】P 2021503642
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009355
(87)【国際公開番号】W WO2020179858
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019039299
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】田端 和仁
(72)【発明者】
【氏名】野地 博行
(72)【発明者】
【氏名】浦野 泰照
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真子
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-511385(JP,A)
【文献】特表2002-541858(JP,A)
【文献】特表2000-501748(JP,A)
【文献】国際公開第18/043733(WO,A1)
【文献】OBAYASHI,Y. et al.,A single-molecule digital enzyme assay using alkaline phosphatase with a cumarin-based fluorogenic substrate,Analyst,2015年,vol.140,pp.5065-5073
【文献】MIURA, K. et al.,Discovery of human Golgi b-galactosidase with no identified glycosidase using a QMC substrate design platform for exo-glycosidase,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2016年,vol.24,pp.1369-1375
【文献】RIVAS, C. et al.,A novel sialidase-activatable fluorescence probe with improved stability for the sensitive detection of sialidase,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2020年,vol.30, no.126860,pp.1-4
【文献】LIU, D. et al.,Fluorescent sialic derivatives for the specific detection of influenza viruses,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,vol.29,no.126773,2019年08月11日,pp.1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物試料中のインフルエンザウイルスを検出する方法であって、
(1)前記生物試料を、第一のプローブと第二のプローブと混合する手順1、
ここで、前記第一のプローブは、インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼ及びバクテリア由来のノイラミニダーゼの双方により分解されて光学的に検出可能な信号を生成するものであり、
前記第二のプローブは、バクテリア由来のノイラミニダーゼにより分解されて光学的に検出可能な信号を生成しかつインフルエンザ由来のノイラミニダーゼにより分解されないものであり、
前記第一のプローブから生成する信号と前記第二のプローブから生成する信号は光学的に区別して検出可能である、と、
(2)前記第一のプローブ及び前記第二のプローブから生成する信号を検出する手順2と、を含み、
前記第二のプローブから生成する信号の強度に対する前記第一のプローブから生成する信号の強度の比が所定値以上である場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスの存在を検出し、
前記比が前記所定値未満である場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスの不存在を検出する、検出方法。
【請求項2】
前記第二のプローブが以下の式(1)で表わされる化合物又はその塩である、請求項1記載の検出方法。
(式中、
R
1は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
6は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
R
7及びR
8は、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R
7及びR
8は存在せず;
R
9は、各出現において独立に、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基から選択され;
R
10は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
mは、0~4の整数であり;
nは、1~3の整数であり;
sは、1の整数であり;
tは、0~4の整数である。)
【請求項3】
前記第一のプローブが、2´-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチ
ルノイラミン酸(4MU-NANA)である、請求項1又は2記載の検出方法。
【請求項4】
前記第一のプローブから生成する信号が検出され、前記第二のプローブから生成する信号が検出されない場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスの存在を検出し、
前記第一のプローブから生成する信号及び前記第二のプローブから生成する信号が検出された場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスの不存在を検出する、請求項1-3のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項5】
デジタル法に基づく、請求項1-4のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項6】
インフルエンザウイルスに感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生
物試料中のインフルエンザウイルスを検出するためのキットであって、
インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼ及びバクテリア由来のノイラミニダーゼの双方により分解されて光学的に検出可能な信号を生成する第一のプローブと、
バクテリア由来のノイラミニダーゼにより分解されて光学的に検出可能な信号を生成しかつインフルエンザ由来のノイラミニダーゼにより分解されない第二のプローブと、を含み、
前記第二のプローブが以下の式(1)で表わされる化合物又はその塩である、キット。
(式中、
R
1は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
6は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
R
7及びR
8は、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R
7及びR
8は存在せず;
R
9は、各出現において独立に、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基から選択され;
R
10は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
mは、0~4の整数であり;
nは、1~3の整数であり;
sは、1の整数であり;
tは、0~4の整数である。)
【請求項7】
前記第一のプローブが、2´-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチ
ルノイラミン酸(4MU-NANA)である、請求項6記載のキット。
【請求項8】
以下の式(1)で表わされる化合物又はその塩の、インフルエンザウイルスをバクテリ
アと識別検出するための使用。
(式中、
R
1は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
6は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
R
7及びR
8は、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R
7及びR
8は存在せず;
R
9は、各出現において独立に、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基から選択され;
R
10は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
mは、0~4の整数であり;
nは、1~3の整数であり;
sは、1の整数であり;
tは、0~4の整数である。)
【請求項9】
対象のインフルエンザウイルスへの感染の有無
の診断
を補助する
ための方法であって、
(1)インフルエンザウイルスに感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料を、第一のプローブと第二のプローブと混合する手順1、
ここで、前記第一のプローブは、インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼ及びバクテリア由来のノイラミニダーゼの双方により分解されて光学的に検出可能な信号を生成するものであり、
前記第二のプローブは、バクテリア由来のノイラミニダーゼにより分解されて光学的に検出可能な信号を生成しかつインフルエンザ由来のノイラミニダーゼにより分解されないものであり、
前記第一のプローブから生成する信号と前記第二のプローブから生成する信号は光学的に区別して検出可能である、と、
(2)前記第一のプローブ及び前記第二のプローブから生成する信号を検出する手順2と、を含み、
前記第二のプローブから生成する信号の強度に対する前記第一のプローブから生成する信号の強度の比が所定値以上である場合に、前記対象のインフルエンザウイルスの感染
が示され、
前記比が前記所定値未満である場合に、前記対象のインフルエンザウイルスの非感染
が示される
、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルス検出のための方法及びキット、並びにインフルエンザイウイルス感染の診断方法に関する。より詳しくは、インフルエンザ由来のノイラミニダーゼとバクテリア由来のノイラミニダーゼとに対して異なる反応性を示す基質を用いた、インフルエンザウイルスの検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イムノクロマトグラフィを用いた簡易なインフルエンザウイルス検査キットが開発されている(特許文献1参照)。イムノクロマトグラフィを用いる方法は、数分から数十分の間にインフルエンザウイルスを検出できるので、感染の診断や治療等に活用されている。
【0003】
また、従来、インフルエンザウイルスが有する酵素であるノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)と発色基質との反応に基づいて光学的にインフルエンザウイルスを検出する技術が知られている(特許文献2、3参照)。ノイラミニダーゼは、糖鎖の非還元末端からシアル酸を遊離するエキソ型糖分解酵素である。ノイラミニダーゼは、インフルエンザウイルスの表面に存在し、ウイルスの増殖に関与している。発色基質としては、例えば、4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid:4MU-NANA、特許文献2参照)や、4-アルコキシ-N-アセチルノイラミン酸又は4,7-ジアルコキシ-N-アセチルノイラミン酸の化学発光誘導体(特許文献3参照)などが用いられている。例えば、発色基質として4MU-NANAを用いた方法では、ノイラミニダーゼによる4MU-NANAの分解によって蛍光物質である4-メチルウンベリフェロンが生成する。生成した4-メチルウンベリフェロンの蛍光強度に基づいてノイラミニダーゼの酵素活性値を算出することができ、さらに酵素活性値に基づいてインフルエンザウイルスの粒子数を定量することができる。
【0004】
特許文献4には、ヒトにおいてインフルエンザがヒトインフルエンザであるかヒト病原性トリインフルエンザであるかを検出するためのキットが開示されている(実施例7参照)。このキットは、ガラクトースに結合したN-グリコリルノイラミン(NeuGcα2-3Gal)酸を含む基質と、ガラクトースに結合したN-アセチルノイラミン酸(NeuAcα2-3Gal)を含む基質とを含んでなる。これら2種類の基質と臨床検体とを接触させ、NeuAcα 2-3Galに基づいた基質のみが切断されればヒトインフルエンザウイルス陽性と判定され、NeuAcα 2-3Galに基づいた基質及びNeuGcα 2-3Galに基づいた基質の双方が切断されればヒト病原性トリインフルエンザウイルス陽性と判断される。
【0005】
特許文献5には、デジタル法によるインフルエンザウイルスの検出方法が記載されている。デジタル法では、多数の極小空間(例えば微小液滴)中に検出対象物を最大で1分子ずつ存在するように導入する。そして、各極小空間内の検出対象物を検出し、その存在を0又は1で数値化する。これによって、デジタル法では、検出対象物を高感度かつ定量的に検出することが可能である。特許文献6,7には、物質を極小空間中に封入(Enclose)するための方法であって、デジタル法に適用可能な技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-275511号
【文献】特開2011-139656号
【文献】特表2002-541858号
【文献】特表2009-516502号
【文献】特開2018-038384号
【文献】再表2012-121310号
【文献】再表2016-006208号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上部気道粘膜に常在するバクテリアには、ノイラミニダーゼを有するものがある。このため、鼻腔ぬぐい液等を試料に用いた、イラミニダーゼと基質との反応に基づくインフルエンザウイルスの検出方法では、バクテリア由来のノイラミニダーゼに起因する信号が擬陽性として検出される可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、インフルエンザ由来のノイラミニダーゼとバクテリア由来のノイラミニダーゼに対して異なる反応性を示す基質を用い、インフルエンザウイルスを改善された確度で検出するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の[1]~[18]を提供する。
[1] 生物試料中のインフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼを検出する方法であって、
(1)前記生物試料を、第一のプローブと第二のプローブと混合する手順1、
ここで、前記第一のプローブは、インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼ及びバクテリア由来のノイラミニダーゼの双方により分解されて光学的に検出可能な信号を生成するものであり、
前記第二のプローブは、バクテリア由来のノイラミニダーゼにより分解されて光学的に検出可能な信号を生成しかつインフルエンザ由来のノイラミニダーゼにより分解されないものであり、
前記第一のプローブから生成する信号と前記第二のプローブから生成する信号は光学的に区別して検出可能である、と、
(2)前記第一のプローブ及び前記第二のプローブから生成する信号を検出する手順2と、を含み、
(A)前記第二のプローブから生成する信号の強度に対する前記第一のプローブから生成する信号の強度の比が所定値以上である場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼの存在を検出し、
前記比が前記所定値未満である場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼの不存在を検出する、又は、
(B)前記第一のプローブから生成する信号が検出され、前記第二のプローブから生成する信号が検出されない場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼの存在を検出し、
前記第一のプローブから生成する信号及び前記第二のプローブから生成する信号が検出された場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼの不存在を検出する、
検出方法。
[2] 前記第二のプローブが以下の式(1)で表わされる化合物又はその塩である、[1]の検出方法。
【化1】
(式中、
R
1は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
6は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
R
7及びR
8は、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R
7及びR
8は存在せず;
R
9は、各出現において独立に、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基から選択され;
R
10は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
mは、0~4の整数であり;
nは、1~3の整数であり;
sは、1の整数であり;
tは、0~4の整数である。)
[3] 式(1)中、R
6が-CH
2-CF
3である、[2]の検出方法。
[4] 前記第一のプローブが、2´-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(4MU-NANA)である、[1]-[3]のいずれかの検出方法。
[5] 前記第一のプローブから生成する信号が検出され、前記第二のプローブから生成する信号が検出されない場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼの存在を検出し、
前記第一のプローブから生成する信号及び前記第二のプローブから生成する信号が検出された場合に、前記生物試料中のインフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼの不存在を検出する、[1]-[4]のいずれかの検出方法。
[6] デジタル法に基づく、[1]-[5]のいずれかの検出方法。
【0010】
[7] インフルエンザウイルスに感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中のインフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼを検出するためのキットであって、
インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼ及びバクテリア由来のノイラミニダーゼの双方により分解されて光学的に検出可能な信号を生成する第一のプローブと、
バクテリア由来のノイラミニダーゼにより分解されて光学的に検出可能な信号を生成しかつインフルエンザ由来のノイラミニダーゼにより分解されない第二のプローブと、を含み、
前記第二のプローブが以下の式(1)で表わされる化合物又はその塩である、キット。
【化2】
(式中、
R
1は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
6は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
R
7及びR
8は、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R
7及びR
8は存在せず;
R
9は、各出現において独立に、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基から選択され;
R
10は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
mは、0~4の整数であり;
nは、1~3の整数であり;
sは、1の整数であり;
tは、0~4の整数である。)
[8] 式(1)中、R
6が-CH
2-CF
3である、[7]のキット。
[9] 前記第一のプローブが、2´-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(4MU-NANA)である、[7]又は[8]のキット。
【0011】
[10] 以下の式(1)で表わされる化合物又はその塩の、インフルエンザウイルスあるいはインフルエンザ由来ノイラミニダーゼをバクテリアあるいはバクテリア由来ノイラミニダーゼと識別検出するための使用。
【化3】
(式中、
R
1は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
6は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
R
7及びR
8は、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R
7及びR
8は存在せず;
R
9は、各出現において独立に、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基から選択され;
R
10は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
mは、0~4の整数であり;
nは、1~3の整数であり;
sは、1の整数であり;
tは、0~4の整数である。)
[11] 式(1)中、R
6が-CH
2-CF
3である、[10]の使用。
【0012】
[12] インフルエンザウイルスあるいはインフルエンザ由来ノイラミニダーゼをバクテリアあるいはバクテリア由来ノイラミニダーゼと識別検出するための試薬であって、以下の式(1)で表わされる化合物又はその塩を含む試薬。
【化4】
(式中、
R
1は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
R
6は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
R
7及びR
8は、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R
7及びR
8は存在せず;
R
9は、各出現において独立に、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基から選択され;
R
10は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
mは、0~4の整数であり;
nは、1~3の整数であり;
sは、1の整数であり;
tは、0~4の整数である。)
[13] 式(1)中、R
6が-CH
2-CF
3である、[12]の試薬。
【0013】
[14] 対象のインフルエンザウイルスへの感染の有無を診断する方法であって、
(1)インフルエンザウイルスに感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料を、第一のプローブと第二のプローブと混合する手順1、
ここで、前記第一のプローブは、インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼ及びバクテリア由来のノイラミニダーゼの双方により分解されて光学的に検出可能な信号を生成するものであり、
前記第二のプローブは、バクテリア由来のノイラミニダーゼにより分解されて光学的に検出可能な信号を生成しかつインフルエンザ由来のノイラミニダーゼにより分解されないものであり、
前記第一のプローブから生成する信号と前記第二のプローブから生成する信号は光学的に区別して検出可能である、と、
(2)前記第一のプローブ及び前記第二のプローブから生成する信号を検出する手順2と、を含み、
(A)前記第二のプローブから生成する信号の強度に対する前記第一のプローブから生成する信号の強度の比が所定値以上である場合に、前記対象のインフルエンザウイルスの感染を決定すし、
前記比が前記所定値未満である場合に、前記対象のインフルエンザウイルスの非感染を決定する、又は、
(B)前記第一のプローブから生成する信号が検出され、前記第二のプローブから生成する信号が検出されない場合に、前記対象のインフルエンザウイルスの感染を決定し、
前記第一のプローブから生成する信号及び前記第二のプローブから生成する信号が検出された場合に、前記対象のインフルエンザウイルスの非感染を決定する、
診断方法。
[15] 式(1)中、R6が-CH2-CF3である、[14]の診断方法。
[16] 前記第一のプローブが、2´-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(4MU-NANA)である、[14]又は[15]の診断方法。
[17] 前記第一のプローブから生成する信号が検出され、前記第二のプローブから生成する信号が検出されない場合に、前記対象のインフルエンザウイルスの感染を決定し、前記第一のプローブから生成する信号及び前記第二のプローブから生成する信号が検出された場合に、前記対象のインフルエンザウイルスの非感染を決定する、[14]-[16]のいずれかの診断方法。
[18] デジタル法に基づく、[14]-[17]のいずれかの診断方法。
【0014】
本明細書において、「アルキル基」又はアルキル部分を含む置換基(例えばアルコキシ基など)のアルキル部分は、特に言及しない場合には例えば炭素数1~6個、好ましくは炭素数1~4個、更に好ましくは炭素数1~3個程度の直鎖、分枝鎖、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基を意味している。より具体的には、アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピルメチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などを挙げることができる。
【0015】
本明細書において「ハロゲン原子」という場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよく、好ましくはフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、インフルエンザウイルスを改善された確度で検出するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】式(1)で表される化合物の一例である「HMRef-S-Neu5Ac」と、4MU-NANAのインフルエンザウイルス又はバクテリアのノイラミニダーゼによる酵素加水分解のスキームを示す。
【
図2】本発明に係るインフルエンザウイルス検出方法の手順2の一実施形態を説明するための図である。
【
図3-1】本発明に係るインフルエンザウイルス検出方法の手順2の他の実施形態を説明するための図である。
【
図3-2】本発明に係るインフルエンザウイルス検出方法の手順2の他の実施形態を説明するための図である。
【
図3-3】本発明に係るインフルエンザウイルス検出方法の手順2の他の実施形態を説明するための図である。
【
図4】アルスロバクター・ウレアファシエンス由来のノイラミニダーゼとの酵素反応に伴うHMRef-S-Neu5Acの蛍光強度の経時変化を示すグラフである(試験例1)。
【
図5】インフルエンザイウルス由来のノイラミニダーゼとの酵素反応に伴うHMRef-S-Neu5Ac及び4MU-NANAの蛍光強度の経時変化を示すグラフである(試験例2)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0019】
1.インフルエンザウイルスの検出方法及びインフルエンザ感染の診断方法
本発明に係るインフルエンザウイルス検出方法は、インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼによるプローブの加水分解の有無に基づいてインフルエンザウイルスを検出するものである。したがって、本発明において、「インフルエンザウイルスの検出」と「インフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼ」の検出とは同義に用いられる。
【0020】
本発明に係るインフルエンザウイルス検出方法は、以下の手順(ステップ)1,2を含む。
手順1:生物試料を、第一のプローブと第二のプローブと混合する手順。
手順2:第一のプローブ及び第二のプローブから生成する信号を検出する手順。
【0021】
1-1.手順1(生物試料とプローブとの混合手順)
[生物試料]
本発明において、生物試料は、インフルエンザウイルスが含まれ得る、生体由来の材料であれば特に限定されない。
生物試料としては、例えば、鼻腔吸引液、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、気管ぬぐい液、唾液、喀痰、血液(全血、血清及び血漿を含む)、尿、細胞や組織、臓器の抽出液等が挙げられる。
本発明に係るインフルエンザ感染の診断方法においては、生物試料は、インフルエンザウイルスに感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離される。
対象は、ヒトに限定されず、サル及びブタを含む哺乳類や、アヒル及びニワトリを含む鳥類であってよい。
【0022】
[プローブ1]
第一のプローブ(以下「プローブ1」と称する)は、インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼ及びバクテリア由来のノイラミニダーゼの双方により加水分解されて光学的に検出可能な信号を生成する。
【0023】
本発明において、「バクテリア」(細菌)との用語は、古細菌を含む原核生物全般を指す最も広義な意味で使用されるが、特には生物試料中に常在しえる真性細菌を意味する。
鼻腔、咽喉頭、口腔及び泌尿器等には、Actinomyces, Bacteroides, Clostridium, Corynebacterium, Enterobacteriaceae, Eubacterium, Fusobacterium, Haemophilus, Lactobacillus, Micrococcus, Mycobacterium, Mycoplasma, Neisseria, Peptostreptococcus,
Porphyromonas, Prevotella, Propinibacterium, Salmonella, Staphylococcus, Streptococcus, Spirohaetaceae及びVeillonella等の各属に属する多種のバクテリアが常在しており、これらのバクテリアはノイラミニダーゼを有する場合がある。
【0024】
プローブ1は、シアル酸を含む化合物であって、インフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼ及びバクテリア由来ノイラミニダーゼの双方によりシアル酸のグリコシド結合が加水分解されて分解前の化合物とは異なる光学特性を示す反応生成物を生成するものであればよい。加水分解前のプローブ1の光学特性から、加水分解後に生成する反応生成物の光学特性への変化が、「光学的に検出可能な信号」として検出される。
ここで、光学特性への変化とは、吸光度、旋光度及び屈折率の変化や、蛍光の有無あるいは強度の変化などを意味する。
【0025】
プローブ1として、ノイラミン酸又はその誘導体に発色団を結合した化合物が好適に用いられる。
発色団は、蛍光物質又は化学発光物質であってよいが、蛍光物質とされること好ましい。蛍光物質には、例えば4-メチルウンベリフェロン(4-Methylumbelliferone)、フルオレセイン(Fluorescein)、レゾルフィン(Resorufin)及びローダミン(Rhodamine)などの公知の物質を用いることができる。
このようなプローブ1としては、例えば、2´-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(4MU-NANA)が汎用されている。4MU-NANAは、インフルエンザウイルス及びバクテリアに由来するノイラミニダーゼと接触して反応すると、蛍光物質である4-メチルウンベリフェロンを遊離させる。
【0026】
[プローブ2]
第二のプローブ(以下「プローブ2」と称する)は、インフルエンザ由来のノイラミニダーゼにより分解されず、バクテリア由来のノイラミニダーゼによってのみ分解されて光学的に検出可能な信号を生成する。
【0027】
プローブ2は、シアル酸を含む化合物であって、インフルエンザ由来ノイラミニダーゼにより分解されず、バクテリア由来ノイラミニダーゼによってシアル酸のグリコシド結合が加水分解されて分解前の化合物とは異なる光学特性を示す反応生成物を生成するものであればよい。加水分解前のプローブ2の光学特性から、加水分解後に生成する反応生成物の光学特性への変化が、「光学的に検出可能な信号」として検出される。
【0028】
プローブ2が生成する「光学的に検出可能な信号」は、プローブ1が生成する「光学的に検出可能な信号」とは異なるものとされる。すなわち、プローブ2が生成する信号と、プローブ1が生成する信号とは、光学的に区別して検出可能なものとされる。
具体的には、例えばプローブ1が生成する信号が、吸光度、旋光度及び屈折率の変化である場合、プローブ2が生成する信号は、蛍光の有無あるいは強度の変化であってよい。あるいは、この場合、プローブ2が生成する信号は、プローブ1が生成する信号とは異なる波長域での吸光度旋光度及び屈折率の変化であってよい。
また、例えばプローブ1が生成する信号が、蛍光の有無あるいは強度の変化である場合、プローブ2が生成する信号は、吸光度、旋光度及び屈折率の変化であってよい。あるいは、この場合、プローブ2が生成する信号は、プローブ1が生成する信号とは異なる波長域での蛍光の有無あるいは強度の変化であってよい。
【0029】
プローブ2としては、以下の式(1)で表わされる化合物又はその塩(以下、単に「化合物(1)」とも称する)が好適に用いられる。
【0030】
【0031】
式(1)において、R1は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示す。一価の置換基としては、ハロゲン、置換されていてもよいアルキル基等が挙げられる。
【0032】
mは、0~4の整数である。
本発明の1つの好ましい側面においては、mが0であり、R1存在せずに無置換のベンゼン環である。
【0033】
式(1)において、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示す。
R2及びR3がアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR2又はR3が示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。R2及びR3がそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であることが好ましく、R2及びR3がともにフッ素原子であるか、塩素原子である場合がより好ましい。
【0034】
R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、又はハロゲン原子を示し、R2及びR3について説明したものと同様である。R4及びR5が共に水素原子であることが好ましい。
【0035】
R6は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示す。R6のアルキル基としては、メチル基、エチル基が好ましい。R6のフッ化アルキル基としては、-CH2-CF3、-CH2-CH2-CF3が好ましい。
本発明の1つの好ましい側面においては、R6は、-CH2-CF3である。
【0036】
式(1)において、R7及びR8は、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示すが、R7及びR8は、それぞれ独立に、炭素数1~3個のアルキル基であることが好ましく、R7及びR8がともにメチル基であることがより好ましい。R7及びR8が示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR7又はR8が示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
R7又はR8がアリール基を示す場合には、アリール基は単環の芳香族基又は縮合芳香族基のいずれであってもよく、アリール環は1個又は2個以上の環構成ヘテロ原子(例えば窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子など)を含んでいてもよい。アリール基としてはフェニル基が好ましい。アリール環上には1個又は2個以上の置換基が存在していてもよい。置換基としては、例えばハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。
【0037】
また、後述するXが酸素原子の場合は、R7及びR8は存在しない。
【0038】
R9は、各出現において独立に、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基から選択され、好ましくは、水素原子である。
【0039】
sは、1の整数である。
【0040】
R10は、存在する場合、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示す。
一価の置換基としては、ハロゲン、置換されていてもよいアルキル基等が挙げられる。
【0041】
tは、0~4の整数である。
本発明の1つの好ましい側面においては、tが0であり、R10は存在せずに無置換のベンゼン環である。
【0042】
Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示す。
本発明の1つの好ましい側面においては、Xは酸素原子である。
【0043】
nは、1~3の整数であり、好ましくは、nは1である。
【0044】
式(1)で表される化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩として存在することができる。
酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、又はメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などを挙げることができる。
塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。
式(1)で表される化合物は、グリシンなどのアミノ酸との塩を形成する場合もある。
化合物(1)は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もある。
【0045】
化合物(1)は、置換基の種類により、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく光学活性体や2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体などの立体異性体のほか、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。
【0046】
化合物(1)の代表的化合物の製造方法を本明細書の実施例に具体的に示した。従って、当業者は、これらの説明をもとにして、反応原料、反応条件、及び反応試薬などを適宜選択して、必要に応じてこれらの方法に修飾や改変を加えることにより、化合物(1)を製造することができる。
【0047】
化合物(1)は、インフルエンザ由来ノイラミニダーゼにより分解されず、バクテリア由来ノイラミニダーゼによってのみ分解されて蛍光増強を示すことが明らかとなっている(試験例1、試験例2参照)。化合物(1)の一例である「HMRef-S-Neu5Ac」(合成例1参照)のノイラミニダーゼによる酵素加水分解のスキームを
図1に示す。
したがって、化合物(1)は、インフルエンザウイルスあるいはインフルエンザ由来ノイラミニダーゼを、バクテリアあるいはバクテリア由来ノイラミニダーゼと識別検出するための蛍光プローブとして利用できる。
本発明は、化合物(1)を含む、インフルエンザウイルスあるいはインフルエンザ由来ノイラミニダーゼをバクテリアあるいはバクテリア由来ノイラミニダーゼと識別検出するための試薬をも提供するものである。この試薬は、乾燥された化合物(1)あるいは適当な緩衝液に溶解された化合物(1)であってよい。なお、緩衝液には後述のものを適宜用いることができる。
【0048】
生物試料、プローブ1及びプローブ2の混合は、同一又は異なる水溶性溶媒に溶解され生物試料、プローブ1及びプローブ2のそれぞれの溶液を混合することによって行うことができる。あるいは、同一の水溶性溶媒に生物試料、プローブ1及びプローブ2を溶解することにより混合してもよい。
[親水性溶媒]
親水性溶媒には、酵素の反応溶液として従来用いられているものであれば特に限定されず、例えば、水、あるいは、水に酵素反応の最適化のために必要な濃度で緩衝物質を添加したバッファー溶液が用いられる。
【0049】
緩衝物質としては、特に限定されないが、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)、PIPES(Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)、BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)等のいわゆるグッドバッファー(Good's Buffer)や、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)、DEA(Diethanolamine)等が用いられ得る。
【0050】
生物試料、プローブ1及びプローブ2の混合液は、酵素反応のために必要に応じてインキュベートされる。インキュベーションは、例えば、室温-37℃で、数分-数十分程度である。
【0051】
1-2.手順2(信号の検出手順)
プローブ1及びプローブ2から生成する信号は、イメージセンサ、分光光度計、旋光計、分光蛍光光度計及び蛍光顕微鏡等の従来公知の機器を用いて検出し、数値化することができる。生物試料、プローブ1及びプローブ2の混合液(以下、「サンプル液」とも称する)を機器にロードし、機器の操作手順書に従って測定を行えばよい。
【0052】
プローブ1は、インフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼ及びバクテリア由来ノイラミニダーゼの双方により分解されて光学的に検出可能な信号を生成する。プローブ1からの信号強度をS1とする。
一方、プローブ2は、バクテリア由来ノイラミニダーゼによってのみ加水分解されて光学的に検出可能な信号を生成する。プローブ2からの信号強度をS2とする。
【0053】
サンプル液中に存在するノイラミニダーゼがバクテリア由来である場合(対象が非感染の場合)、プローブ1及びプローブ2の双方から信号が生成する。
一方、サンプル液中に存在するノイラミニダーゼがインフルエンザウイルス由来である場合(対象が感染の場合)、プローブ1からは信号が生成するが、プローブ2から生成する信号は理論的には0であり、プローブ2の自然分解(ノイラミニダーゼの酵素活性によらない分解)により生成する信号を考慮しても十分に小さい。
したがって、S2に対するS1の比(S1/S2)は、サンプル液中にバクテリア由来ノイラミニダーゼが存在する場合(対象が非感染の場合)に比べて、サンプル液中にインフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼが存在する場合(対象が感染の場合)では、より大きくなる。
すなわち、プローブ1から生成する信号の強度S1に対するプローブ2から生成する信号の強度S2の比(S1/S2)が所定値(閾値)以上であれば、サンプル液中にインフルエンザウイルスが存在する(対象がインフルエンザウイルスに感染している)と検出できる。
一方、比(S1/S2)が閾値未満であれば、サンプル液中にインフルエンザウイルスが存在しない(対象がインフルエンザウイルスに感染していない)と検出できる。
これにより、生物試料中に存在するノイラミニダーゼがインフルエンザウイルス由来のものであるかバクテリア由来のものであるかを明確に区別して、バクテリア由来ノイラミニダーゼに起因する信号を擬陽性として検出することなく、インフルエンザウイルスを高確度に検出することができる。
【0054】
閾値は、プローブ1及びプローブ2として用いられる化合物、それらの光学特性、及び生物試料中に存在しえるバクテリアの種類などに応じて適宜設定されえる。例えば、閾値は、サンプル液中にバクテリア由来ノイラミニダーゼが存在する場合の比(S1/S2)の1.1倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍以上に設定できる。
【0055】
プローブ2の自然分解(ノイラミニダーゼの酵素活性によらない分解)が生じないあるいは無視可能な程度である場合、サンプル液中に存在するノイラミニダーゼがインフルエンザウイルス由来である場合(対象が感染の場合)に、プローブ2から生成する信号は0である。この場合には、プローブ1から生成する信号の強度S1に対するプローブ2から生成する信号の強度S2の比(S1/S2)によらずに、インフルエンザウイルスの検出を行うこともできる。
すなわち、プローブ1から生成する信号が検出され、プローブ2から生成する信号が検出されない場合に、サンプル液中のインフルエンザウイルスの存在(対象のインフルエンザ感染)を検出し、プローブ1から生成する信号及びプローブ2から生成する信号が検出された場合には、サンプル液中のインフルエンザウイルスの不存在(対象のインフルエンザウイルス非感染)を検出することができる。
【0056】
1-2-1.デジタル法に基づく検出1
手順2にデジタル法を適用した実施形態を説明する。
デジタル法では、多数の極小空間(例えば微小液滴)中に検出対象物を最大で1分子ずつ存在するように導入する。そして、各極小空間内の検出対象物を検出し、その存在を0又は1で数値化する。これによって、デジタル法では、検出対象物を高感度かつ定量的に検出することが可能である。
【0057】
本実施形態に係る手順2は、以下の手順2A1~2A3を含む。
手順2A1:インフルエンザウイルス及びバクテリアを収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する隔壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、サンプル液を導入する手順。
手順2A2:前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつインフルエンザウイルス及び/又はバクテリアを包含する、サンプル液の液滴を形成する手順と、
手順2A3:前記液滴中でプローブ1及びプローブ2から生成する信号を検出する手順。
【0058】
1-2-1-1.導入手順2A1
図2Aを参照して導入手順2A1を説明する。
アレイ101は、下層部111と上層部121が空間131を隔てて対向して配置されており、空間131を流体流路とするフローセル構造を有している。
下層部111には、インフルエンザウイルス及び/又はバクテリアを収容可能な収容部114が複数形成されている。収容部114は、疎水性の上面を有する隔壁113によって互いに隔てられている。
また、上層部121は、空間131を隔てて、下層部111における収容部114が形成されている面に対向している。
【0059】
本手順では、空間131にサンプル液4を導入する。サンプル液4には、プローブ1とプローブ2が含まれる。また、サンプル液4には、インフルエンザウイルス又はバクテリア3が含まれえる。サンプル液4は、例えば上層部121及び下層部111の少なくとも一方に形成されている貫通孔(図示せず)から空間131内に導入することができる。空間131内に導入されたサンプル液4は、毛細管現象に従って空間131を通流し、空間131内に充填される。
【0060】
[界面活性剤]
サンプル液4には、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を添加することで、サンプル液4が、空間131内及び収容部114内へ導入され易くなる傾向がある。
【0061】
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばTWEEN20(CAS番号:9005-64-5、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)及びTriton X-100(CAS番号:9002-93-1、一般名ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(n≒10))などが挙げられる。サンプル液4への界面活性剤の添加濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.01~1%である。
【0062】
さらに、界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、天然由来の界面活性剤などを広く用いることができる。
【0063】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型に分類される。このうち、具体的には、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、α-スルホ脂肪酸メチルエステルナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルエトキシレート硫酸ナトリウムなどが挙げられ、中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0064】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩型、アルキルアミン型、複素環アミン型に分類される。具体的には、例えば、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリピリジニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0065】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、N-メチルアルキルグルカミドなどが挙げられる。中でも、ドデシルアルコールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、ラウロイルジエタノールアマイドの他、Triton X(Triton X-100など)、Pluronic(登録商標)(Pluronic F-123、F-68など)、Tween (Tween 20、40、60、65、80、85など)、Brij(登録商標)(Brij 35、58、98など)、Span (Span 20、40、60、80、83、85)の名前で市販されているものが好ましい。
【0066】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、3-(テトラデシルジメチルアミニオ)プロパン-1-スルホナートなどがあるが、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホナート(CHAPSO)などを用いることが好ましい。
【0067】
天然由来の界面活性剤としては、例えば、レシチン、サポニンが好ましく、レシチンとして称される化合物のうち、具体的には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロールなどが好ましい。また、サポニンとしてはキラヤサポニンが好ましい。
【0068】
本手順により、プローブ1、プローブ2、及びインフルエンザウイルス又はバクテリア3が収容部114に導入される。サンプル液4においてインフルエンザウイルス又はバクテリアが十分に低い濃度に希釈されている場合、1つの収容部114に入るインフルエンザウイルス又はバクテリア3の数は0又は最大で1となり得る。サンプル液4においてインフルエンザウイルス又はバクテリアの濃度がより高い場合には、1つの収容部114には2以上のウイルス2が導入されえる。
【0069】
1-2-1-2.封入手順2A2
図2Bを参照して封入手順2A2を説明する。本手順では、下層部111と上層部121との間の空間131に疎水性溶媒5を導入する。
【0070】
疎水性溶媒5は、サンプル液4と混ざり合いにくい溶媒(非混和性の溶媒)であればよく、親水性溶媒であるサンプル液4に対して疎水性溶媒が好適に用いられる。
疎水性溶媒5として、例えば飽和炭化水素、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、シリコーンオイル、パーフルオロカーボン、ハロゲン系溶媒、及び疎水性イオン液体からなる群より選択される少なくとも1つ又はこれを含む混合物等を好適に用いることができる。飽和炭化水素としては、例えばアルカン、シクロアルカンなどが挙げられる。アルカンとしては、例えばデカン、ヘキサデカン等が挙げられる。不飽和炭化水素としては、例えばスクアレン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、トルエン等が挙げられる。パーフルオロカーボンとしては、例えばフロリナート(登録商標)FC40(SIGMA社製)等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えばクロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン等が挙げられる。疎水性イオン液体とは少なくとも水中では解離しないイオン液体をさし、例えば1―Butyl―3―methylimidazolium
Hexafluorophosphate等が挙げられる。イオン液体とは、室温において液体で存在する塩をさす。
【0071】
疎水性溶媒5も、サンプル液4と同様に、上層部121及び下層部111の少なくとも一方に形成されている貫通孔(図示せず)から空間131内に導入すればよい。空間131内に導入された疎水性溶媒5は、毛細管現象に従って空間131を通流し、空間131内のサンプル液4と置換する。置換されたサンプル液4は、空間131外に排出される。これにより、収容部114内に、疎水性溶媒5で被覆されかつプローブ1、プローブ2、及びインフルエンザウイルス又はバクテリア3を包含する、サンプル液4の液滴が形成される。
【0072】
この液滴の容積(収容部114の容積にほぼ等しい)は、極小であってよく、例えば10aL~100nL、好ましくは1fL~1pLとされる。
サンプル液4の液滴の極小容積中で、インフルエンザウイルス又はバクテリアのノイラミニダーゼとプローブ1及びプローブ2との反応が進行する。
【0073】
[脱気]
導入手順2A1と封入手順2A2との間に、空間131内の脱気を行ってもよい。脱気方法としては、例えば、アレイ101を減圧環境下において放置する方法、あるいはアレイ101を冷却する方法等を好適に用いることができる。具体的には、約0.1気圧の減圧デシケータ内にアレイ101を約30秒放置する方法などである。
【0074】
本発明において、脱気手順は必須ではないが、脱気を行なうことにより、収容部114内の空気が除去され、プローブ1、プローブ2、及びインフルエンザウイルス又はバクテリア3を収容部114内に効率よく導入できる。
【0075】
1-2-1-3.検出手順2A3
本手順では、サンプル液4の液滴中で生成したプローブ1及びプローブ2からの信号が検出される。
【0076】
上述の通り、サンプル液4において、インフルエンザウイルス又はバクテリアが十分に低い濃度に希釈されている場合、1つの収容部114に入るインフルエンザウイルス又はバクテリア3の数は0又は最大で1となるので、収容部114にはインフルエンザウイルス及びバクテリアのどちらか一方が封入された液滴が形成される。
各液滴においてプローブ1から生成する信号が検出され、プローブ2から生成する信号が検出されない場合(
図2C左図参照)に、当該液滴中にインフルエンザウイルスを検出できる。一方、プローブ1から生成する信号及びプローブ2から生成する信号が検出された場合(
図2C右図参照)には、当該液滴中にバクテリアの存在(インフルエンザウイルスの不存在)を検出できる。
プローブ1に4MU-NANAを、プローブ2に化合物(1)としてHMRef-S-Neu5Acを用いたデジタル法において、インフルエンザウイルスが封入された液滴から生じた4-メチルウンベリフェロン(4MU)の蛍光をCCDカメラにより検出したイメージの一例を
図2D左図に示す。検出領域に信号陽性の液滴が2つ確認できる。インフルエンザウイルスが存在する液滴から4MUが発する青色蛍光(波長443 nm)が検出されている。液滴にバクリテリアが存在する場合には、4MUが発する青色蛍光(波長443 nm)とHMRefが発する緑色蛍光(波長:518nm)が検出される。
図2D右図は、信号陽性の液滴が存在しない領域を撮像したイメージの一例である。
【0077】
インフルエンザウイルスが検出された収容部114の数と、インフルエンザウイルスが検出されない収容部114の数との比率を用いて、予め作成した当該比率とウイルス粒子数との関係を規定した標準曲線に基づいて、インフルエンザウイルス量を定量的に決定することもできる(デジタル定量)。
なお、インフルエンザウイルスが検出された収容部114が1つでも存在すれば、被検試料についてインフルエンザ陽性と判定してよい。このような判定方法は、検体中のインフルエンザウイルスの数が極めて少ない感染初期の場合にインフルエンザの罹患の有無を判定するため有用である。
【0078】
1-2-2.デジタル法に基づく検出2
手順2にデジタル法を適用した他の実施形態を説明する。
本実施形態に係る手順2は、以下の手順2B1~2B3を含む。
手順2B1:インフルエンザウイルス及びバクテリアを収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する隔壁によって互いに隔てられて形成されている基板上に、サンプル液を導入する手順。
手順2B2:サンプル液よりも比重が大きい疎水性溶媒をサンプル液層の上に積層するようにして導入し、サンプル液層と疎水性溶媒層との層置換を生じさせることにより、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつインフルエンザウイルス及び/又はバクテリアを包含する、サンプル液の液滴を形成する手順。
手順2B3:前記液滴中でプローブ1及びプローブ2から生成する信号を検出する検出手順。
【0079】
1-2-2-1.導入手順2B1
図3-1~
図3-3を参照して導入手順2B1を説明する。図は、アレイ201の側方断面図である。
アレイ201は、下層部211を含んでなる。アレイ201は、下層部211と側壁221,221によって下方及び両側方を区画されておりかつ上方が開放されている領域21を有する。すなわち、下層部211と側壁221,221は、上方に開口を有する開口ウェルを形成している。当該開口ウェル内の空間を、図中、領域21として示す。
下層部211には、インフルエンザウイルス及び/又はバクテリアを収容可能な収容部214が複数形成されている。収容部214は、疎水性の上面を有する隔壁213によって互いに隔てられている。下層部211は、それに対向する面を有さない。
【0080】
本手順では、下層部211上にサンプル液4を導入する。サンプル液4には、プローブ1とプローブ2が含まれる。また、サンプル液4には、インフルエンザウイルス又はバクテリア3が含まれえる。サンプル液は、例えば、開口ウェルの開口から領域21内に導入することができる。
【0081】
サンプル液4には、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を添加することで、次に説明する封入手順における、サンプル液4と疎水性溶媒との置換を促進できる。界面活性剤には、上述のものを用いることができる。
【0082】
1-2-2-2.封入手順2B2
図3-1~
図3-3B-Hを参照して封入手順2B2を説明する。本手順では、疎水性溶媒5をサンプル液4の層の上に積層するようにして導入する。
疎水性溶媒5の導入方法としては、特に限定されないが、例えば、開口ウェルの開口から領域21内に導入することができる。この際、疎水性溶媒5は、
図3-1Bに示すように、サンプル液4の層上に疎水性溶媒5の層が積層されるようにして導入することが好ましい。
【0083】
疎水性溶媒5には、サンプル液4よりも比重が大きい溶媒が用いられる。また、疎水性溶媒5には、サンプル液4と層置換をしえる程度に相互に親媒性を有するものであることが好ましいが、互いに相溶しないことが必要である。サンプル液4と疎水性溶媒5との間の親媒性が低すぎると、サンプル液4と疎水性溶媒5との層置換が生じない。また、サンプル液4と疎水性溶媒5とが互いに相溶する場合には、サンプル液4と疎水性溶媒5とが層分離せず、積層状態が生じない。このような疎水性溶媒として、上述のものを用いることができる。「表1」に例示的な疎水性溶媒5の比重を挙げる。
疎水性溶媒5は、サンプル液4と同様に、層置換を促進するために界面活性剤を含んでいてもよい。
【0084】
【0085】
サンプル液4上に導入され積層された疎水性溶媒5は、サンプル液4よりも比重が大きいため、サンプル液4の下方に移動する。すなわち、サンプル液4の層と疎水性溶媒5の層とが置換されて、上層が疎水性溶媒5で下層がサンプル液4となった状態(
図3-1B参照)から上層がサンプル液4で下層が疎水性溶媒5となった状態(
図3-3H参照)となる。層置換を生じる様子を
図3-1C~
図3-3Gに模式的に示す。この層置換において、プローブ1、プローブ2、及びインフルエンザウイルス又はバクテリア3が、サンプル液4の下方へ移動していく疎水性溶媒5によって押し込まれるようにして収容部214の各々に収容されていく(
図3-2D~F参照)。その結果、収容部214内に、疎水性溶媒5で被覆されかつプローブ1、プローブ2及びインフルエンザウイルス又はバクテリア3を包含する、サンプル液4の液滴が形成される。
【0086】
この液滴の容積(収容部214の容積にほぼ等しい)は、極小であってよく、例えば10aL~100nL、好ましくは1fL~1pLとされる。
サンプル液4の液滴の極小容積中で、インフルエンザウイルス又はバクテリアのノイラミニダーゼとプローブ1及びプローブ2との反応が進行する。
【0087】
1-2-2-3.検出手順2B3
本手順では、サンプル液4の液滴中で生成したプローブ1及びプローブ2からの信号が検出される。
【0088】
上述の通り、サンプル液4において、インフルエンザウイルス又はバクテリアが十分に低い濃度に希釈されている場合、1つの収容部214に入るインフルエンザウイルス又はバクテリア3の数は0又は最大で1となるので、収容部214にはインフルエンザウイルス及びバクテリアのどちらか一方が封入された液滴が形成される。
各液滴においてプローブ1から生成する信号が検出され、プローブ2から生成する信号が検出されない場合に、当該液滴中にインフルエンザウイルスを検出できる。一方、プローブ1から生成する信号及びプローブ2から生成する信号が検出された場合には、当該液滴中にバクテリアの存在(インフルエンザウイルスの不存在)を検出できる。
【0089】
インフルエンザウイルスが検出された収容部214の数と、インフルエンザウイルスが検出されない収容部214の数との比率を用いて、予め作成した当該比率とウイルス粒子数との関係を規定した標準曲線に基づいて、インフルエンザウイルス量を定量的に決定することもできる(デジタル定量)。
【0090】
2.インフルエンザウイルスの検出キット及びインフルエンザ感染の診断キット
本発明に係るインフルエンザウイルスの検出キットは、インフルエンザウイルスに感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中のインフルエンザウイルスを検出するためのキットである。本発明に係るインフルエンザウイルスの検出キットは、対象におけるインフルエンザ感染の有無の診断に用いられる。本発明に係るインフルエンザウイルスの検出キットは、上述のプローブ1及びプローブ2を含んでなるものであり、これらに加えて任意に上述した疎水性溶媒、及び、アレイ101又はアレイ201を含んでいてよい。これらのキット構成要素(コンポーネント)は、ひとまとまりで販売されるものであってよく、それぞれ単独で販売されるものであってもよい。
【0091】
プローブ1、プローブ2及び疎水性溶媒については上述のとおりである。アレイ101及びアレイ201について、以下により詳しい構造を説明する。
アレイ101及びアレイ201の作製のためのフォトリソグラフィー、エッチング、基板積層などの技術は、汎用のマイクロチップやアレイを作成するための技術を適用できる。
【0092】
[アレイ101]
上層部121の材質は、例えばガラス、シリコン、高分子樹脂等とできる。
上層部121の厚みは、特に限定されない。
上層部121の下面(空間131に臨む面)は、疎水性であることが好ましい。「疎水性」とは、ここでは「親油性」と同じ意味で用いられ、疎水性溶媒との親和性が親水性溶媒との親和性よりも高いことをいう。
【0093】
下層部111において、収容部114は、板状部材112上に形成された隔壁113によって互いに隔てられている。収容部114の底面は、板状部材112の表面であってよい。
板状部材112の材質は、例えばガラス、シリコン、高分子樹脂等とできる。
板状部材112の厚みは、特に限定されない。
【0094】
隔壁113は、板状部材112の表面に形成した樹脂層により形成でき、例えば撥水性の樹脂又はフッ素系高分子樹脂等のエッチングにより形成できる。フッ素系高分子樹脂としては、例えばアモルファスフッ素樹脂等が挙げられる。アモルファスフッ素樹脂は、高い疎水性を有し、かつ、生体試料に対する毒性が低いという理由で、好ましく用いられる。
上記アモルファスフッ素樹脂としては、例えば、CYTOP(登録商標)、TEFLON(登録商標)AF2400、およびTEFLON(登録商標)AF1600から選択した少なくとも1つを好適に用いることができる。中でも、微細加工が容易であるという理由で、CYTOP(登録商標)が最も好ましい。
【0095】
収容部114の形状は、特に限定されず、例えば円柱形状及び角柱形状等であってよい。
収容部114の大きさは、インフルエンザウイルス及び/又はバクテリアを収容可能であれば特に限定されないが、水平方向の幅及び垂直方向の高さ(隔壁113の高さ)は、それぞれ、例えば100nm-100μm、200nm-90μm、300nm-80μm、400nm-70μm、500nm-60μm、600nm-50μm、700nm-40μm、800nm-30μm、900nm-20μm、1000nm-10μm、2μm-9μm、3μm-8μmの範囲である。
収容部114は、例えば100万個以上が高密度に配置されていてよい。このような超高密度アレイであっても、先に説明した封入手順によれば、疎水性溶媒5で被覆されかつプローブ1、プローブ2、及びインフルエンザウイルス又はバクテリア3を包含する、サンプル液4の液滴を各収容部114に効率よく形成できる。
【0096】
隔壁113の上面(上層部121と対向する面)は、疎水性とされることが好ましい。また、収容部114の底面を形成する板状部材112の表面は親水性であることが好ましい。「親水性」とは、親水性溶媒との親和性が疎水性溶媒との親和性よりも高い表面を指す。
収容部114の底面が親水性であり、かつ隔壁113の上面及び上層部121の下面が疎水性であることにより、導入手順2A1において、サンプル液4を円滑に収容部114内に導入することができる。また、収容部114の底面が親水性であり、かつ隔壁113の上面が疎水性であることにより、封入手順2A2において疎水性溶媒5が収容部114内に入り込むことを防止できる。
なお、隔壁113は、その上面が疎水性であればよく、その側面(収容部114に臨む面)は、疎水性であっても親水性であってもよい。
【0097】
上層部121の下面(空間131に臨む面)と隔壁113の上面(上層部121と対向する面)との間の距離(空間131の高さ)は、毛細管現象に従って液体を空間131内に通流させえる程度に小さくされる。空間131の高さは、例えば0.1μm-5mm、0.5μm-4mm、1μm-3mm、2μm-2mm、5μm-1mm、10μm-500μm、20μm-400μm、30μm-300μm、40μm-200μm、50μm-100μmの範囲である。高さが0.1μm未満では、空間131内に液体を通流させるのに要する送液圧が高くなりすぎる可能性がある。
【0098】
[アレイ201]
アレイ201の下層部211は、アレイ101の下層部111と同様の構成であってよく、下層部211を構成する板状部材212及び隔壁213も、アレイ101の板状部材112及び隔壁113と同様の構成であってよい。
また、収容部214も、アレイ101の収容部114と同様の構成であってよい。
【0099】
側壁221は、板状部材212と同様の材質であって、例えばガラス、シリコン、高分子樹脂等からなる部材の表面であってよい。
側壁221の高さは、任意であるが、サンプル液4の層と疎水性溶媒5の層とが積層された状態での合計の厚みを上回る必要がある。
【0100】
収容部214の底面が親水性であり、かつ隔壁213の上面が疎水性であることにより、封入手順2B2において疎水性溶媒5が収容部214内に入り込むことを防止できる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0102】
[合成例1:HMRef-S-Neu5Acの合成]
以下の反応スキームの手順に従って化合物3を合成した。次に、化合物3を用いてHMRef-S-Neu5Acを合成した。
【0103】
【0104】
[原料]
合成に使用した全ての化学物質は、東京化成工業(株)、和光純薬工業(株)、シグマアルドリッチ(株)から購入し、追加的な精製を行うことなく使用した。
【0105】
[測定機器]
NMRスペクトルは、重水素化溶媒中を用い、Bruker NMR AVANCE III 400分光計[1H(400MHz)、13C(101MHz)]で得た。
高分解能ESI質量スペクトルは、microOTOF II(Bruker)で得た。
HPLC精製は、Inertstil-ODS-3カラム(Φ10×250mm(セミ分取)およびΦ20×250mm(分取))を備えたJASCO PU-2087 Plusポンプ(GL Science Co.、Ltd.)およびUVIDEC-100-V検出器(JASCO)で行った。
HPLCに使用した溶媒は、和光(株)より入手した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、シリカゲル60N(球状、中性、63~210μm;関東化学株式会社製)を用いて行った。
TLCは、シリカゲルプレートF254(0.25mm(分析);Merck、AKG)で行った。
UV-visスペクトルは、Shimadzu UV-2450分光光度計で得た。
【0106】
(1)化合物1の合成
4-ヒドロキシベンズアルデヒド(S、479mg、3.9mmol)およびジイソプロピルエチルアミン(5mL)の溶液に、N-アセチル-2-クロロ-2-デオイズノイラミン酸メチルエステル4,7,8,9-テトラアセテート3(0.5mL、3.1mmol)のMeCN溶液に加え、反応混合物を室温で3時間撹拌した。この後、すべての溶媒を除去し、トルエン(×3)で希釈した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc:DCM、1:1~EtOAc)を用いて精製して、化合物1を白色泡状物として得た(145mg、62%)。
【0107】
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ1.93 (s, 3H, NHOAc), 2.05 (s, 3H, OAc), 2.06 (s, 3H, OAc), 2.12 (s, 3H, OAc), 2.19 (s, 3H, OAc), 2.30 (t, 1H, 3JHH = 12.5 Hz, H3ax), 2.74 (dd, 1H, 3JHH = 13, 4.7 Hz, H3eq), 3.65 (s, 3H, COOMe), 4.11 (m, 1H, H9), 4.13 (m, 1H, H5), 4.25 (dd, 1H, 3JHH = 12.4, 2.4 Hz, H9'), 4.60 (dd, 1H, 3JHH = 10.8, 1.6 Hz, H6), 4.98 (td, 1H, 3JHH = 10.4, 4.6, 1.8 HZ, H4), 5.23 (d, 1H, 3JHH = 10 Hz, H7), 5.35 (m, 1H, NH), 5.37 (m, 1H, H8), 7.18 (d, 2H, 3JHH = 8.7 Hz, Ar), 7.83 (d, 2H, 3JHH = 8.8 Hz, Ar), 9.93 (s, 1H, CHO). 13C NMR (101 MHz, CDCl3):δ 20.7, 20.7, 20.8, 21.0, 23.2, 38.7, 49.5, 53.2, 62.0, 67.1, 68.4, 68.7, 73.6,
99.5, 118.9, 131.7, 132.0, 158.9, 168.2, 169.9, 170.1, 170.2, 170.6, 170.9, 190.9. HRMS (ESI+): calcd for [M+Na+] 618.17933, found 618.18094 (-1.6 mDa) for C27H34NaNO14.
【0108】
(2)化合物2の合成
化合物1(247mg、0.42mmol)を乾燥THF(5mL)に溶解し、0℃でLiAlH(OtBu)3(0.83mLの1.0M THF溶液)を加えた。0℃で1時間撹拌した後、飽和NH4Cl(aq)(5mL)およびEtOAc(10mL)を混合物に加え、室温でさらに1時間撹拌した。これにロッシェル塩(水性)(10mL)の飽和溶液を加え、粗生成物をCHCl3(×3)で抽出したのち、有機層を減圧残去した。次いで残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(MeOH:DCM 1:99から5:95)を用いて精製して、化合物2を白色泡状物として得た(156mg、63%)。
【0109】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ1.90 (s, 3H, NHOAc), 2.04 (s, 3H, OAc), 2.04 (s, 3H, OAc), 2.12 (s, 3H, OAc), 2.13 (s, 3H, OAc), 2.21 (t, 1H, 3JHH = 12.6 Hz, H3ax), 2.72 (dd, 1H, 3JHH = 12.9, 4.6 Hz, H3eq), 3.68 (s, 3H, COOMe), 4.10 (m, 1H, H5),
4.14 (d, 1H, 3JHH = 5 Hz, H9), 4.28 (dd, 1H, 3JHH = 12.6, 2.6 Hz, H9'), 4.38 (dd, 1H, 3JHH = 10.8, 1.6 Hz, H6), 4.63 (s, 2H, CH2OH), 4.95 (td, 1H, 3JHH = 10.4,
4.6, 1.8 HZ, H4), 5.27 (m, 1H, NH), 5.35 (m, 2H, H7, H8), 7.03 (d, 2H, 3JHH = 8.6 Hz, Ar), 7.27 (d, 2H, 3JHH = 8.6 Hz, Ar). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 20.7, 20.8, 20.8, 21.0, 23.2, 38.2, 49.5, 52.9, 62.1, 64.9, 67.4, 68.8, 69.4, 73.4, 99.9, 120.3, 128.3, 136.7, 153.1, 168.1, 170.0, 170.1, 170.3, 170.7, 170.9. HRMS (ESI+): calcd for [M+Na+] 620.19498, found 620.19672 (-1.7 mDa) C27H36NaNO14.
【0110】
(3)化合物3の合成
化合物2(150mg、0.25mmol)をDCM(3mL)に溶解し、三臭化リン(12μL、0.13mmol)を0℃で溶液に添加した。0℃で2時間撹拌後、溶液を飽和NaHCO3水溶液(×3)および飽和食塩水(×1)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧残去して化合物3を白色泡状物(136mg、82%)として得た。
【0111】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 1.84 (s, 3H, NHOAc), 1.97 (s, 3H, OAc), 1.98 (s, 3H,
OAc), 2.05 (s, 3H, OAc), 2.09 (s, 3H, OAc), 2.15 (t, 1H, 3JHH = 12.6 Hz, H3ax),
2.63 (dd, 1H, 3JHH = 13, 4.7 Hz, H3eq), 3.58 (s, 3H, COOMe), 4.03 (m, 1H, H9), 4.10 (m, 1H, H5), 4.23 (m, 1H, H9'), 4.37 (m, 1H, H6), 4.40 (s, 2H, CH2Br), 4.89
(td, 1H, 3JHH = 10.4, 4.6, 1.8 Hz, H4), 5.29 (m, 3H, H7, H8, NH), 6.95 (d, 2H, 3JHH = 8.7 Hz, Ar), 7.23 (d, 2H, 3JHH = 8.7 Hz, Ar). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 19.7, 19.8, 19.8, 20, 22.2, 32.3, 37.2, 48.4, 52.0, 70.0, 66.3, 67.7, 68.1, 72.4, 98.8, 118.7, 129.2, 132.1, 152.8, 167.1, 169.0, 169.1, 169.2, 169.6, 169.9.
HRMS (ESI+): calcd for [M+Na+] 682.11057, found 682.10666 (3.9 mDa) C27H34BrNNaO13.
【0112】
(4)HMRef-S-Neu5Acの合成
以下の反応スキームの手順に従って、HMRef-S-Neu5Acを合成した。
【0113】
【0114】
HMRef(79mg、0.2mmol)およびNaH(6mg、0.26mmol)に乾燥THF(3mL)および乾燥DMF(1mL)を添加し、この混合物をアルゴン気下で0℃で撹拌した。化合物3(130mg、0.2mmol)の乾燥THF(3mL)溶液を加え、反応混合物を室温で16時間撹拌した。この後、EtOAc(20mL)を加え、この混合物を飽和NH4Cl溶液(×2)および飽和食塩水(×1)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、減圧留去した。残渣をMeOH(6mL)に溶解し、1M NaOH(水溶液)を加えた(3mL)。混合物を室温で5時間撹拌し、その後、有機溶媒を蒸発させた。残留水溶液を2MのHClで中和し、次いで凍結乾燥させた。次いで、残留物をMeOH:DCM、1:4溶液に溶解し、濾過して不溶性塩を除去した。この溶液を減圧留去させ、残渣をHPLC(A液:100mM TEAA緩衝液、B液:CH3CN 99%、H2O 1%。A/B=90/10で5分間、その後15分で10/90に勾配をかけ、次いで10/90で15分間)で精製し、凍結乾燥後に橙色の粉末(2ステップで36%)を得た。
【0115】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ1.04 (t, 26H, TEAA), 1.84 (1H, t, 3JHH = 11.9 Hz, H3ax), 1.90 (s, 3H, TEAA), 2.02 (s, 3H, NHCOCH3), 2.55 (q, 17 H, TEAA), 2.94 (dd, 1H, 3JHH = 12.2, 4.0 Hz, H3eq), 3.54 (dd, 1H, 3JHH = 9.0, 1.6 Hz, H7), 3.66 (dd, 1H, 3JHH = 11.3, 5.4 Hz, H9), 3.74 (m, 1H, H5), 3.77 (m, 1H, H4), 3.81 (m, 1H, H9'), 3.85 (m, 2H, NHCH2CF3), 3.86 (m, 1H, H8), 3.91 (m, 1H, H6), 5.01 (s, 2H, ArCH2O), 5.23 (s, 2H, ArCH2O), 6.45 (dd, 1H, 3JHH = 8.6, 4JHH = 2.4 Hz, Ar), 6.50 (d, 1H, 4JHH = 2.3 Hz, Ar), 6.65 (dd, 1H, 3JHH = 8.7, 4JHH = 2.6 Hz, Ar), 6.67 (d, 1H, 3JHH = 8.6, Ar), 6.78 (m, 1H, Ar), 6.79 (m, 1H, Ar), 6.82 (m, 1H, Ar), 7.24 (d, 2H, 3JHH = 8.7 Hz, Ar), 7.30 (m, 1H, Ar), 7.31 (d, 2H, 3JHH = 8.7 Hz, Ar),
7.39 (m, 1H, Ar), 7.43 (m, 1H, Ar). 13C NMR (101 MHz, CD3OD): δ 11.2 (TEAA) 22.9, 24.4 (TEAA), 43.1, 45.8, 46.9 (TEAA), 54.3, 64.0, 69.3, 70.2, 72.6, 72.7, 73.1, 75.3, 85.5, 99.3, 104.0, 104.1, 109.7, 110.8, 114.7, 117.8, 118.1, 120.8, 121.9, 124.7, 124.8, 126.9 (q, CF3), 129.3, 129.4, 130.2, 130.2, 130.9, 140.3, 146.0, 150.3, 152.1, 153.0, 157.0, 173.6, 175.6, 180.7 (TEAA). HRMS (ESI+) L calcd for [M+Na]+ 797.75163; found 797.75043 (-1.2 mDa).
直線勾配(0min、20%CH3CN/0.1%TFAaq. To 15min,100%CH3CN 0.1%TFA aq;flow rate=1.0mL/min)を用いてHPLC分析を行った。520nmでの蛍光を調べた。
【0116】
【0117】
[試験例1:HMRef-S-Neu5Acのバクテリア由来ノイラミニダーゼとの反応性]
合成例1で得られたHMRef-S-Neu5Acについて、アルスロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)由来のノイラミニダーゼとの酵素反応に伴う蛍光強度の経時変化を調べた。
【0118】
プローブ(HMRef-S-Neu5Ac)をジメチルスルホキシド(DMSO、蛍光測定グレード、同仁化学研究所)に溶解してストック溶液を得た。さらに、ストック溶液を、プローブの最終濃度が1μMになるように緩衝液(100mM NaOAc、2mM
CaCl2、pH7.4)で希釈して測定溶液を得た。
測定溶液の蛍光スペクトルを、日立F-7000を用いて1秒ごとに測定した(励起波長490nm、発光波長520nm)。測定開始後60秒後にアルスロバクター・ウレアファシエンス由来のノイラミニダーゼ0.01Uを、単独であるいは酵素阻害剤との組み合わせで添加した。測定時の温度は37℃、酵素阻害剤(DANA)の濃度は100μMとした。
【0119】
結果を
図4に示す。HMRef-S-Neu5Acは、バクテリア由来のノイラミニダーゼとの反応で130倍の蛍光増強を示した。
ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)由来のノイラミニダーゼを用いた場合にも同様の結果を得た。ウェルシュ菌は、ヒトに常在する菌であり、口腔を含む上部気道粘膜にも常在している。
【0120】
[試験例2:HMRef-S-Neu5Acのインフルエンザ由来ノイラミニダーゼとの反応性]
HMRef-S-Neu5Acについて、試験例1と同様にしてインフルエンザイウルス由来のノイラミニダーゼとの酵素反応に伴う蛍光強度の経時変化を調べた。
【0121】
本試験例ではプローブにHMRef-S-Neu5Acに加えて4MU-NANA(陽性コントロール)に用いた。プローブの測定溶液中の終濃度はHMRef-S-Neu5Ac 100μM、4MU-NANA 1mMとした。
測定溶液にインフルエンザウイルス(A/PR8 医科研II株)を5×107PFU/mLを添加し、蛍光スペクトルの測定を開始した(励起波長360nm、発光波長448nm)。測定時の温度は25℃とした。
【0122】
結果を
図5に示す。陽性コントロールの4MU-NANAは経時的な蛍光増強を示したが、HMRef-S-Neu5Acでは蛍光強度の変化は全くみられなかった。本試験例及び試験例1の結果から、HMRef-S-Neu5Acは、バクテリア由来のノイラミニダーゼに対しては反応性を有するが、インフルエンザ由来ノイラミニダーゼに対しては反応性を有さないことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0123】
1:プローブ1、2:プローブ2、3:インフルエンザウイルス又はバクテリア、4:サンプル液、5:疎水性溶媒、101,201:アレイ、111,211:下層部、112,212:板状部材、113,213:隔壁、114,214:収容部、121:上層部、131:空間、21:領域、221:側壁