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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】移送装置のピックアップアーム
(51)【国際特許分類】
   D05B 33/00 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
D05B33/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023565295
(86)(22)【出願日】2023-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2023031025
【審査請求日】2023-10-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500564493
【氏名又は名称】株式会社イレブンインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】板倉 剛
(72)【発明者】
【氏名】村上 成憲
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-81053(JP,A)
【文献】特開2023-91709(JP,A)
【文献】米国特許第05657710(US,A)
【文献】特開平10-95018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材の裁断処理で得られたパーツをピックアップして次工程へ移送する移送装置における移動体に設けられ、長さを変更可能な伸縮アーム部と、前記伸縮アーム部の先端に設けられて吸引力を発生させる負圧源が接続される吸着ハンド部を備えたピックアップアームであって、
前記伸縮アーム部が、上下に重ねられた複数のリンクと、前記リンクのうち最上段の基端リンクに接続されて他のリンクを長手方向に移動させる伸縮のためのアクチュエータを有し、
前記基端リンクが、前記移動体の上に昇降可能に備えられる昇降部材の上端部に固定され、
前記昇降部材における前記基端リンクよりも下には、前記負圧源につながるエア吸引路の一部を構成するテレスコピックからなる伸縮管の基部が固定され、
前記伸縮管の先端部に、前記伸縮アーム部における前記リンクのうち最下段の先端リンクを保持した
移送装置のピックアップアーム。
【請求項2】
前記伸縮管から先の前記先端リンクと前記吸着ハンド部に気密性が付与されて、
前記先端リンクと前記吸着ハンド部の内部が、前記負圧源につながるエア吸引路の一部とされた
請求項1に記載の移送装置のピックアップアーム。
【請求項3】
前記昇降部材と前記移動体の上面との間に、上下方向にのびて伸縮可能な蛇腹管が設けられ、
前記蛇腹管とその接続部分に気密性が付与されて、
前記蛇腹管の内部が前記負圧源につながるエア吸引路の一部とされた
請求項1または請求項2に記載の移送装置のピックアップアーム。
【請求項4】
前記吸着ハンド部を水平に360度回転させる回転機構が前記先端リンク内に設けられた
請求項1または請求項2に記載の移送装置のピックアップアーム。
【請求項5】
前記伸縮管を保持する支持部に高さを変更できる支持構造部が設けられた
請求項1または請求項2に記載の移送装置のピックアップアーム。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のピックアップアームを備えた
移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シート材の裁断処理で得られたパーツを次工程に移送する移送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
裁断装置で裁断された被縫製物などのパーツを取り上げて次の工程に移送する作業は、正確かつ確実に行われなければ、それ以降の作業に支障をきたして、不良品の発生や作業遅延などの不都合が生じる。このため、出願人は、様々な形状のパーツを確実にピックアップして効率よく移送する下記特許文献1に開示の移送装置を提案した。
【0003】
特許文献1の移送装置は、移送元と移送先の間を往復動する移動体の上にピックアップアームを備えて構成されている。そのピックアップアームは、長さを変更可能な伸縮アーム部と、伸縮アーム部の先端に設けられて吸引力を発生させる負圧源が接続される吸着ハンド部を有するものである。移送元で伸縮アーム部を所定位置まで伸ばして必要なパーツを吸着ハンド部で吸着保持したのち、移動体を移送先に移動し、必要に応じて伸縮アーム部の長さを調整してから、吸着ハンド部による吸着からパーツを解放する。
【0004】
ピックアップアームの伸縮アーム部は、上下に重ねられた複数の可動アーム部を有した、いわば多段スライド構造であり、最下段の可動アーム部に対して伸縮のための駆動源であるモータが接続されている。つまり、モータを駆動すると可動アーム部内に備えられた伝動機構を介して最下段の可動アーム部よりも上に位置するすべての可動アーム部が連動して同時にスライドし、伸縮アーム部を伸縮させる構造である。
【0005】
伸縮アーム部は、移動体に対して上下位置を不動に固定されており、ピックアップに際して必要な上下動は、先端の吸着ハンド部に担わせている。すなわち、伸縮アーム部のうち最上段の可動アーム部は、パーツが載置されるテーブルの上面に近づきすぎずピックアップとリリースを可能にする所定の高さに保持されており、吸着ハンド部が上下方向に延びる昇降管の下端に設けられている。このため、吸着ハンド部と負圧源をつなぐエア吸引路における吸着ハンド部側の部分は、フレキシブルなチューブで構成され、その一端が昇降管の上端に対して下に向けて接続されている。
【0006】
このように、ピックアップアームは、比較的高い位置に設ける必要があるうえに、その位置よりも上方に昇降管とチューブが延びている。このため、移送装置におけるピックアップアームが存在する部分が、大きくかつ高くならざるをえなかった。
【0007】
そのうえ、水平に延びる伸縮アーム部の先端に垂直に延びる昇降管とチューブが備えられているので、ピックアップアームは形態的な安定性とコンパクトさに欠けるきらいがある。このため、ピックアップアームの安定した動作を実現するためには伸縮アーム部と吸着ハンド部の強度を確保しなければならないが、部材の厚みを厚くしたりして剛性を確保しようとすると重量も増してしまう。このことは、精度の高い円滑な駆動が要求される移送装置において不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2023-91709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、移送装置のピックアップアームについて、小型軽量化をはかるとともに形態的安定性を高めることを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、この発明は下記のピックアップアームを提供する。
【0011】
ピックアップアームは、シート材の裁断処理で得られたパーツをピックアップして次工程へ移送する移送装置における移動体に設けられ、長さを変更可能な伸縮アーム部と、伸縮アーム部の先端に設けられて吸引力を発生させる負圧源が接続される吸着ハンド部を備えている。伸縮アーム部は、上下に重ねられた複数のリンクと、リンクのうち最上段の基端リンクに接続されて他のリンクを長手方向に移動させる伸縮のためのアクチュエータを有し、基端リンクが、移動体の上に昇降可能に備えられる昇降部材の上端部に固定される。そして、昇降部材における基端リンクよりも下には、負圧源につながるエア吸引路の一部を構成するテレスコピックからなる伸縮管の基部が固定され、伸縮管の先端部に、伸縮アーム部におけるリンクのうち最下段の先端リンクを保持する。
【0012】
この構成では、伸縮アーム部が最上段の基端リンクから最下段の先端リンクにかけて、上から下へ連動する構成であり、リンクを下から上へ連動させるものとは異なり、下で支えながら伸縮させる必要がなく、支持すべき荷重が軽減される。しかも、伸縮アーム部と同じく昇降部材に固定された伸縮管が先端リンクを保持して、伸縮アーム部にかかる支持負担を軽減するうえに、伸縮アーム部を安定して支える。昇降部材は伸縮アーム部と伸縮管を共に上下動させて、吸着ハンド部に昇降機能を備えることを不要とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、伸縮アーム部が上のリンクから下のリンクを連動させる構成であり、その伸縮アーム部が昇降部材に備えられているので、伸縮アーム部を高い位置に設ける必要がない。そのうえ、伸縮アーム部の先端の吸着ハンド部に昇降のための手段を設ける必要もない。このため、移送装置におけるピックアップアームが存在する部分の小型化がはかれ、高さを低くすることもできる。
【0014】
しかも、伸縮アーム部は、昇降部材に固定された基端リンクに、他のリンクを吊り下げるように支持する構成であって、支持すべき荷重が軽減されるので、ピックアップアームの小型軽量化をはかれる。伸縮アーム部を昇降部材に備えて上下動させて吸着ハンド部の昇降機能を不要にしたことも小型軽量化に貢献している。
【0015】
そして、伸縮アーム部の先端リンクは、伸縮アーム部と共に昇降部材に固定された伸縮管の先端部で保持されているので、小型軽量がはかれることに加えて、形態的な安定性も高まる。そのうえ、伸縮管はエア吸引路のために設けられるものであって、それを利用しているので、別の部材を備える必要はなく、ピックアップアームの形態をコンパクトにまとめることができる。
【0016】
この結果、ピックアップアームのより正確で円滑な動作を実現できる。
【0017】
さらには、従来の伸縮アーム部は、最下段の可動アーム部を基準にしてそれより上側の可動アーム部をスライドさせる構成であるので、段数を変更してストロークを変えることが難しかった。すなわち、先端の吸着ハンド部を昇降させる必要があるので、一度設計したものに対して可動アーム部を増減させると、最上段の可動アーム部の高さが変わる。これによって、吸着ハンド部の昇降ストロークにも変更が必要になると、昇降管を変更するなどの大幅な改変を行わなければならなくなる。この点、この発明によれば、伸縮アーム部の昇降でピックアップを行う構成であるので、伸縮アーム部自体の高さの変更、すなわち使用するリンク数の変更がピックアップ動作に与える影響を排除できる。このため、必要に応じてリンク数の増減を行ってストロークを変えることが、負担を少なく容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】要部の一部断面側面図。
図2】移送装置の概略平面図。
図3】並設された移動体のピックアップの先端側から見た正面図。
図4】伸縮アーム部と吸着ハンド部の動作を示す概略側面図。
図5】伸縮管を保持する支持部とその支持構造部を示す一部断面側面図。
図6】吸着ハンド部の動作を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0020】
図1は発明の要部を示す側面図であり、そのピックアップアーム11は、図2の平面図に示すような移送装置12に搭載される。移送装置12は、シート材を裁断処理して得られた同一平面上に並ぶ複数のパーツ13をピックアップして次工程へ移送するものである。
【0021】
図2では、パーツ13が左側から右側へ一直線上を移送されるように描いている。図面左側の前段載置台14が裁断処理後のパーツ13を載置する部分であり、これは、裁断装置(図示せず)で裁断されたパーツ13をそのまま配置を崩さずにコンベアで移動して待機させる部分であってもよく、また裁断が行われる裁断テーブルであってもよい。前段載置台14を有する部分を前工程部15という。裁断装置では、入力された図形データに基づいてシート材が裁断される。
【0022】
図面右側の後段載置台16は、取り上げたパーツ13を所定の順序で積み重ねたりして載置する部分である。ここは、取り上げられたパーツ13どうしを接合する接合工程の前段において必要なパーツ13を揃える部分である。後段載置台16を有する部分を次工程としての集合工程部17という。集合工程部17では、パーツ13を後段載置台16の上に秩序立てて積み重ねるほか、適宜の箱体に収めてもよい。また、パーツ13どうしが所定の位置関係になるように並べてもよい。次工程でパーツ13の接合を行うようにレイアウトしてもよい。
【0023】
図示例の移送装置12は、具体的には自動車のシートカバーやエアバッグ、衣服、履物、カバン類など様々な縫製品を製造するために使用するのに好適である。裁断して得られたパーツ13から必要なパーツ13が人的ミスなしに秩序立ててピックアップされて、次工程へ送られる。
【0024】
移送装置12は、前段と後段、つまり前工程部15と集合工程部17との間を移動する移動体21を有しており、この移動体21にピックアップアーム11が搭載されている。
【0025】
その移動体21は、前工程部15と集合工程部17を結ぶ一直線状の移送ラインの両側部に複数、具体的には2台ずつ配設されている。すなわち、移送ラインと直交する方向の両側にレール部22が設けられ、それぞれのレール部22に移動体21が並設される。レール部22の長さは、前段載置台14と後段載置台16を結ぶ長さよりも長く形成されており、レール部22における前段載置台14よりも前段側に待機部23が設けられている。待機部23は稼動前の移動体21が待機する部分である。レール部22には、環状の移動用ベルト24,25が2本ずつ張設されて、それぞれ正逆回転する移動用モータ26が接続されている。2本のベルト24,25は、移動体21に対応して設けられるものであり、前段載置台14と後段載置台16に近い内側と、それらから離れた外側に一定の間隔をあけて並設されている。移動用モータ26はサーボモーターやステッピングモータ等で構成される。
【0026】
移動体21は、レール部22に移動可能に支持される下面板27(図3参照)と、下面板27の上方に離間保持される上面板28と、これらを連結する支柱29と、下面板27の下に垂設された直方体状の保持枠31で構成されている。そして、下面板27の上面が、レール部22に設けられたベルト24,25の上側部分に固定されており、各レール部22において2台ずつの移動体21が、それぞれ移送ラインにそって独立して往復動するように構成されている。保持枠31には負圧源としてのポンプ32が搭載される。
【0027】
図3は、待機部23にある一部の移動体21、すなわち、図2において上側に表された2台の移動体21をレール部22間から外側(図面上方)に向けて見た状態(ピックアップアームの先端側から見た状態)の正面図である。この図に示すように、1本のベルト24,25に1台の移動体21が結合されている。図3の例では、内側に位置するベルト24が左方の移動体21に結合され、外側に位置するベルト25が右方の移動体21に結合されている。左方の移動体21に対する外側のベルト25は下面板27の上を摺動し、同様に、右方の移動体21に対する内側のベルト24は、下面板27の上を摺動する。
【0028】
移動体21に1台ずつ設けられるピックアップアーム11は、長さを変更可能な伸縮アーム部51と、伸縮アーム部51の先端に設けられて吸引力を発生させる前述のポンプ32が接続される吸着ハンド部52を備えており、移動体21上で昇降可能である。ピックアップアーム11の向きは、伸縮アーム部51の長手方向、つまり伸縮方向が移送ラインと直交する方向であり、その先端が前段載置台14等のある内側に向けられている。
【0029】
すなわち、ピックアップアーム11は移動体21の上に昇降可能に備えられる昇降部材53に固定されている。具体的には、図1図3に示したように、移動体21の上面板28の上に支柱部54が立設されて、この支柱部54の内側に、昇降部材53が上下動可能に支持されている。支柱部54は、左右一対の柱部54aと、その上端を連結する連結部54bを有し、昇降部材53は、その柱部54a間に収まる大きさで柱部54aの長さよりも短い高さに形成されている。昇降部材53の形状は、正面視長方形であり、前後方向(伸縮アーム部51が伸縮する方向)に貫通した箱状であって、その一側面が一方の柱部54aに備えられた昇降機構55で支持されている。昇降機構55はリニアサーボモータで構成される。図中、57はガイドレールであり、58はスライダである。そして、このような昇降部材53の上端部に、ピックアップアーム11の基端部が固定されている(図1参照)。
【0030】
伸縮アーム部51は、収縮時の占有空間が小さいながらも長いストロークを取れるように、上下に重ねられた複数のリンク56で水平方向に伸縮可能に構成されている。リンク56は直方体箱状に形成されており、最上段のリンクを基端リンク56a、最下段のリンクを先端リンク56bとしている。そして、基端リンク56aに他のすべてのリンク56を長手方向に移動させる伸縮のためのアクチュエータとしての伸縮用モータ59を接続し、先端リンク56bに吸着ハンド部52を備える。
【0031】
図1図3に示したように、図示例の伸縮アーム部51は、基端リンク56aと先端リンク56bのほかに3本のリンク56を有しており、合計5本のリンク56で構成されている。先端リンク56bを除く他のリンク56は、長手方向に長い中空箱状に形成されており、伸縮用モータ59からの入力を伝達させる伝動機構を構成するため、内部に一対のプーリ60と、これに巻き掛けられて長手方向に延びるベルト61を備えている。伸縮用モータ59は、ベルト59aを介して基端リンク56aの基端側に位置するプーリ60に接続されている。伸縮用モータ59は、サーボモーターやステッピングモータ等で構成され、昇降部材53の上面である上端板53aの上に固定される。
【0032】
先端リンク56bを除く他のリンク56の厚み(高さ)と幅については、図1図3に見られるようにすべて同一に形成するのではなく、下側に位置するリンク56を上側のものよりも薄く、また幅狭に形成している。図3中、56gは配線を規制し保護するフレキシブルなケーブルカバーである。
【0033】
リンク56に内蔵されたベルト61には、リンク56どうしを連結するジョイントが取り付けられる。ジョイントは2種類あり、ひとつは、リンク56の下面を摺動する板状の第1ジョイント62である。第1ジョイント62は、下に位置するリンク56の上面に固定される。もう一つのジョイントは、第1ジョイント62を介してのリンク56の相対移動に伴って移動する下に位置するリンク56のベルト61に固定される第2ジョイント63である。第2ジョイント63は、先端リンク56bと、その1段上のリンク56を除く他のリンク56の下面における先端側に設けられる。前述の第1ジョイント62は、図1に示したような収縮状態において下側のリンク56にとって基端側に位置する部位に設けられる。
【0034】
先端リンク56bは、先端部56eが他のリンク56よりも高さを高くした中空箱状であり、それよりも後方の基端側部56fが下側面に開口を有する角筒状に形成されている。先端リンク56bの先端部56eの高さを高く形成するのは、取り付ける吸着ハンド部52を回転させる回転機構65を備えるためである。回転機構65は、吸着ハンド部52を水平に360度回転させるものであり、モータ66と、これによって回動するベルト67、ベルト67がかけ渡されて水平方向に回転する円筒体68を有している。モータ66と円筒体68はそれぞれ、先端部56e内に水平に固定される支持板69,71で支持されており、これら支持板69,71どうしの間には空間がある。円筒体68の内部は通気路であり、下端が吸着ハンド部52における一端部の上面に結合されている。吸着ハンド部52は直方体箱状である。
【0035】
吸着ハンド部52の下面における他端部には、円筒形の吸着口72があり、吸着ハンド部52内における吸着口72の上端開口には、吸着口72を開閉する開閉シャッタ73が設けられている。開閉シャッタ73の駆動は、例えばソレノイドからなる開閉シャッタ用アクチュエータ74で行われる。吸着口72はパーツ13を吸着するのに適した大きさに形成され、1個設けられている。吸着口72の先端にはゴム製の吸着パッド75などのような必要な部材が備えられる。吸着口72は1個でなく2個以上であってもよい。吸着口72の形状や大きさ、配置等の態様は、パーツ13に応じて定められる。
【0036】
このような吸着ハンド部52の水平方向の長さは、長めに形成するのが好ましい。これは、伸縮アーム部51の伸び縮みとの協働によって吸着可能な範囲を広くできるからである。図示例では、先端リンク56bの先端部56eと同程度の長さに形成されている(図1図4参照)。
【0037】
これら先端リンク56bと吸着ハンド部52には気密性が付与されている。つまり、必要に応じてシール材を用いるなどして、それらの外面を被覆して閉じるとともに、それらの連結部分の隙間を塞ぐ。これによって、先端リンク56bと吸着ハンド部52の内部を、負圧源につながるエア吸引路の一部にできる。図1における太線で描かれた二点鎖線がエア吸引路18である。
【0038】
昇降部材53における基端リンク56aよりも下である下部には、テレスコピックからなる伸縮管76の基部が固定されている。すなわち、図1に示したように昇降部材53の下端板53bの上方には、中空の立方体形状をなす角筒状に形成された支持部77が設けられており、この支持部77の側面に伸縮管76の基部が固定されている。支持部77の下面中央には、図5に示したように、昇降部材53の下端板53bを貫通して適宜の長さ下に延びてエア吸引路18の一部となる円筒部77aを有し、円筒部77aの長さよりも短い所定高さに支持されている。支持部77の高さ、つまり伸縮管76が固定される高さは、先端リンク56bと同じ高さである。なお、円筒部77aと下端板53bとの間も気密性が付与されている。図5中、77bは蓋部材であり、77c,77dはシール材である。
【0039】
伸縮管76は、負圧源につながるエア吸引路18の一部を構成するものであって、気密性を有しながらも伸縮アーム部51の伸縮に従って伸び縮みする構成であり、硬質である。その先端部が先端リンク56bの先端部56eにおける基端側の壁面に接続されて、伸縮管76の内部と先端リンク56bの先端部56eの内部とが気密状態で連通している。つまり、伸縮管76によって先端リンク56bが保持されるとともに、支持部77から吸着ハンド部52までエア吸引路18の一部が形成される。
【0040】
伸縮管76を保持する支持部77は、高さを変更できる支持構造部78で支持されている。この支持構造部78は、支持部77の下面の円筒部77aと、円筒部77aの周囲に配設された支持脚79で構成される。支持脚79は、昇降部材53の下端板53bとの間を所定の間隔に保持するもので、図5に示したように、支持部77から延びて下端板53bに螺合するボルト79aと、ボルト79aに挿嵌するスペーサ79bを用いて構成できる。支持部77の円筒部77aが下端板53bに保持されるので、支持脚79は耐荷重性を過大にする必要はなく、比較的細径に構成でき、本数を低減することもできる。
【0041】
この支持脚79に加えて、保持した伸縮管76の基端側部分(根元部分)を受ける受け部81が設けられる。受け部81は、昇降部材53の下端板53bにおける前後方向の先端側の上面に設けられ、下端板53bに固定された受け金具82と、この上に着脱可能に取り付けられるブロック状の受け部材83で構成される。受け部81は、支持脚79部を構成するボルト79aとスペーサ79bを長さの異なるものに変更すると支持部77の高さを変更できるのと同様に、受け部材83を高さの異なるものに変更すれば、伸縮管76を支持する高さの調節ができる。このような調節を柔軟に行えるようにするためには、伸縮管76をストロークの長いもので構成しておくとよい。
【0042】
支持部77を備えた昇降部材53と移動体21の上面との間には、ポンプ32につながるエア吸引路18の一部が形成される。昇降部材53が移動体21に対して上下動するものであるので、エア吸引路18におけるこれらの間の部分は伸縮可能に形成される必要がある。このため、昇降部材53と移動体21の上面との間に、上下方向にのびて伸縮可能な蛇腹管85が設けられる。蛇腹管85とその接続部分に気密性が付与されることによって、蛇腹管85の内部がエア吸引路18の一部となる。図5に示したように、蛇腹管85はゴム等の可撓性と弾性を有する材料で構成されており、両端に鍔部85aを有している。この鍔部85aを挟持して、昇降部材53の下端板53bと移動体21の上面板28に固定することで、気密性が得られる。
【0043】
なお、昇降部材53を上下動可能に保持する支柱部54は移動体21における前後方向の後端部に形成されており、ポンプ32を搭載する保持枠31は移動体21における前後方向の中間に設けられている。このため、移動体21の上面板28の上には、図1に示したようにエア吸引路18を前後方向で変更する通気路86が形成されている。通気路86は上面を平らにした薄い偏平な形状であり、剛性を有している。上面板28とポンプ32の間はホース87で接続される。
【0044】
以上のように構成された移送装置12では、制御装置(図示せず)が裁断装置の図形データとパーツ13の識別情報からピックアップするパーツ13のどの部位を吸着するのか、どの移動体21のピックアップアーム11を用いるのかを演算により決定する。その後、移動体21の移送動作を開始する。移送動作はおおよそ次のとおりである。
【0045】
まず、昇降機構55を駆動して、すべての移動体21における昇降部材3を所定位置まで上昇させる。つぎに、待機部23にある移動体21のうち選択されたピックアップアーム11を有する1個以上の移動体21が移動用モータ26の駆動で、前段載置台14上の特定のパーツ13に対応する位置まで移動する。移動体21の停止後、伸縮用モータ59と回転機構65のモータ66を駆動して、吸着ハンド部52を取り上げるパーツ13、またその吸着部位の上方まで移動させて停止させる。
【0046】
なお、移送動作開始前の初期状態において、ピックアップアーム11の吸着ハンド部52は、図5に仮想線で示したよう吸着口72を前後方向の後方に向けて、先端リンク56bの下に重なるようにしておくとよい。伸長前のピックアップアーム11の長さを極力短くできるからである。
【0047】
つづいて、昇降機構55の駆動で昇降部材53を所定位置まで降下させ、あらかじめ作動してあったポンプ32による吸引力で、ピックアップアーム11の吸着ハンド部52にパーツ13を吸着させる。吸着時に吸着ハンド部52に内蔵した開閉シャッタ73を開ける。
【0048】
吸着されたパーツ13は引き上げられ、昇降機構55による昇降部材53の上昇でピックアップアーム11も上昇する。
【0049】
その後、必要に応じてピックアップアーム11の伸縮アーム部51を伸び縮みさせて移動用モータ26の駆動で、移動体21を後段載置台16の所定位置に向けて移動する。移動体21の停止後、昇降機構55の駆動で昇降部材53とピックアップアーム11を降下させ、吸着ハンド部52に内蔵した開閉シャッタ73を閉じて、パーツ13を解放する。
【0050】
このような概略動作の繰り返しによってパーツ13が移送されるところ、ピックアップアーム11は小型軽量に構成でき、高い形態的安定性を有するので、所望の動作を正確かつ円滑に行うことができる。
【0051】
すなわち、ピックアップアーム11の伸縮アーム部51は、最上段の基端リンク56aから最下段の先端リンク56bにかけて上から下へ連動する構成であるので、リンクを下で支えながら伸縮させる場合に比べて、支持すべき荷重を軽減できる。このため、リンクを比較的小型で薄く軽量に形成することができる。さらに、リンクの長手方向の長さを高さの割に長めに形成して、ストロークを長くすることもできる。
【0052】
そして、このようなピックアップアーム11は昇降部材53に備えられ、ピックアップしてリリースする際に必要な上下の動きを都度させるので、ピックアップアーム11の伸縮アーム部51を常に高い位置に掲げておく必要がない。しかも、伸縮アーム部51の先端の吸着ハンド部52に昇降のための手段を設ける必要もないので、移送装置12におけるピックアップアーム11が存在する部分を小型軽量化するとともに高さを低くし、形態を安定化できる。
【0053】
そのうえ、昇降部材53には伸縮管76が固定され、その先端で伸縮アーム部51の先端リンク56bを保持しているので、動きが伴う伸縮アーム部51と吸着ハンド部52の姿勢を安定させることができる。
【0054】
このような小型軽量化や形態安定化等によって、移動体21と伸縮アーム部51のより精度の高い円滑な動作が可能となる。
【0055】
形態安定性をもたらす伸縮管76は、エア吸引路18のためのものを流用しているので、別途に部材に設ける必要はなく、この点でも小型軽量化に資するとともに、ピックアップアーム11の形態をコンパクトにまとめることができる。
【0056】
同様に、先端リンク56bの先端部56eと吸着ハンド部52の内部をエア吸引路18の一部としているので、このことによってもさらに、ピックアップアーム11のコンパクト化が実現できる。
【0057】
長さを長く形成した吸着ハンド部52は、図6に示したように水平方向に360度回転するように構成したので、初期状態において、先端リンク56bの下に収めることができ、この点でもコンパクトさが得られる。そのうえ、伸縮アーム部51の伸縮(矢印y参照)および移動体21の移動(矢印x参照)とともに制御することによって、より広い範囲でパーツ13の吸着を行うことが可能になる。
【0058】
移送動作は、昇降部材53が上昇してからなされる構成であるが、昇降部材53の下に蛇腹管85が備えられているので、万が一、昇降機構55が停止して昇降部材53が降下するような事態が生じても、蛇腹管85がクッションとして作用するので安全である。
【0059】
さらには、ピックアップアーム11(伸縮アーム部51)の昇降でパーツ13の取上げを行う構成であるうえに、伸縮管76を支持する支持部77の高さを変更する支持構造部78を設けている。このため、伸縮アーム部51自体の高さの変更、すなわち使用するリンク56の数を変更してもピックアップ動作に直接的な影響がない。この結果、支持構造部78を利用して支持部77の高さを変えることで、リンク56の数を増減してストロークを変えることが、大きな負担なく行える。
【0060】
以上の構成は、この発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の構成を採用できる。
【0061】
たとえば、伸縮管76を保持する支持部77に支持構造部78を設けることに代えて、昇降部材53の上下方向の長さを変更可能に構成して、リンク56の増減に対応するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
11…ピックアップアーム
12…移送装置
13…パーツ
18…エア吸引路
21…移動体
32…ポンプ
51…伸縮アーム部
52…吸着ハンド部
53…昇降部材
56…リンク
56a…基端リンク
56b…先端リンク
59…伸縮用モータ
65…回転機構
76…伸縮管
78…支持構造部
85…蛇腹管
【要約】
移送装置における伸縮等の動きを伴うピックアップアームについて、小型軽量化をはかり、形態的安定性を高める。
ピックアップアーム11は、シート材の裁断処理で得られたパーツをピックアップして次工程へ移送する移送装置における移動体21に設けられ、長さ変更可能な伸縮アーム部51と、その先端下面の吸着ハンド部52を備えている。そして、伸縮アーム部51を、上下に重ねられた複数のリンク56と、それらのうち最上段の基端リンク56aに接続されて伸縮を行う伸縮用モータ59で構成し、基端リンク56aを、移動体21の上で昇降可能な昇降部材53の上端部に固定する。昇降部材53における基端リンク56aよりも下に、ポンプから吸着ハンド部52に延びるエア吸引路18の一部を構成するテレスコピックからなる伸縮管76の基部を固定し、この伸縮管76で伸縮アーム部51における最下段の先端リンク56bを保持する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6