(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】縫い目検査装置、縫い目検査方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
D05B 19/02 20060101AFI20240315BHJP
D05B 47/06 20060101ALI20240315BHJP
D05C 13/02 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
D05B19/02
D05B47/06
D05C13/02
(21)【出願番号】P 2019128973
(22)【出願日】2019-07-11
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 和範
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直樹
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-201741(JP,A)
【文献】特開2013-048710(JP,A)
【文献】特開平11-057265(JP,A)
【文献】特開2005-246060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
D05C 1/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汎用オペレーティングシステムによってタスク管理される第1コア及び第2コアを有するマルチコアプロセッサを備え、
前記第1コアは、ミシン針に掛けられる上糸の張力の検出値及び前記ミシン針を往復移動させるモータの回転角度の検出値を取得する取得処理のみを実行し、
前記第2コアは、前記ミシン針の1回の往復移動において取得された前記張力の検出値及び前記回転角度の検出値に基づいて、前記ミシン針によって縫製対象物に形成された縫い目の異常を検出する解析処理のみを実行し、
前記解析処理は、前記ミシン針の1回の往復移動において取得された前記張力の検出値の特徴量を示す検出特徴量と前記張力の参照特徴量とを照合して、前記縫い目の異常を検出することを含み、
前記第1コア及び前記第2コアのそれぞれにおいて割り込み処理は実行されず、
前記第1コア及び前記第2コアのそれぞれはポーリング処理される、
縫い目検査装置。
【請求項2】
前記検出特徴量は、前記モータの回転における前記張力の検出値の累積値を示す検出累積曲線を含み、
前記参照特徴量は、前記縫い目が正常であるときの前記張力の累積値を示す参照累積曲線を含む、
請求項1に記載の縫い目検査装置。
【請求項3】
前記検出特徴量は、前記モータの回転における前記張力の検出値をフーリエ変換することにより算出される検出周波数スペクトルを含み、
前記参照特徴量は、前記縫い目が正常であるときの前記張力をフーリエ変換することにより算出される参照周波数スペクトルを含む、
請求項
1又は請求項
2に記載の縫い目検査装置。
【請求項4】
解析処理は、前記検出特徴量と、前記張力の検出値を機械学習することにより生成された学習モデルとに基づいて、前記縫い目の異常のパターンを検出することを含む、
請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の縫い目検査装置。
【請求項5】
前記取得処理において取得された前記張力の検出値を外部コンピュータに送信し、前記外部コンピュータにおいて生成された前記学習モデルを前記外部コンピュータから受信する通信装置を備える、
請求項
4に記載の縫い目検査装置。
【請求項6】
前記張力の検出値は、前記モータが第1回転数のときに取得された第1検出値と、前記モータが第2回転数のときに取得された第2検出値とを含み、
前記学習モデルは、前記第1検出値を機械学習することにより生成された第1学習モデルと、前記第2検出値を機械学習することにより生成された第2学習モデルとを含み、
前記解析処理は、前記モータが前記第1回転数のときに取得された前記張力の検出特徴量と前記第1学習モデルとに基づいて前記縫い目の異常のパターンを識別すること、及び前記モータが前記第2回転数のときに取得された前記張力の検出特徴量と前記第2学習モデルとに基づいて前記縫い目の異常のパターンを識別すること、を含む、
請求項
4又は請求項
5に記載の縫い目検査装置。
【請求項7】
前記解析処理は、前記縫い目の異常を示す出力データを出力装置に出力させることを含む、
請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載の縫い目検査装置。
【請求項8】
前記マルチコアプロセッサは、第3コア及び第4コアを有し、
前記第3コア及び前記第4コアの一方又は両方は、実行スケジュールを管理するフレームワーク処理を実行する、
請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載の縫い目検査装置。
【請求項9】
汎用オペレーティングシステムによってタスク管理されるマルチコアプロセッサの第1コアに、ミシン針に掛けられる上糸の張力の検出値及び前記ミシン針を往復移動させるモータの回転角度の検出値を取得する取得処理のみを実行させることと、
前記マルチコアプロセッサの第2コアに、前記ミシン針の1回の往復移動において取得された前記張力の検出値及び前記回転角度の検出値に基づいて、前記ミシン針によって縫製対象物に形成された縫い目の異常を検出する解析処理のみを実行させることと、を含み、
前記解析処理は、前記ミシン針の1回の往復移動において取得された前記張力の検出値の特徴量を示す検出特徴量と前記張力の参照特徴量とを照合して、前記縫い目の異常を検出することを含み、
前記第1コア及び前記第2コアのそれぞれにおいて割り込み処理は実行されず、
前記第1コア及び前記第2コアのそれぞれはポーリング処理される、
縫い目検査方法。
【請求項10】
コンピュータシステムが有するマルチコアプロセッサの第1コアに、ミシン針に掛けられる上糸の張力の検出値及び前記ミシン針を往復移動させるモータの回転角度の検出値を取得する取得処理のみを実行させ、
前記マルチコアプロセッサの第2コアに、前記ミシン針の1回の往復移動において取得された前記張力の検出値及び前記回転角度の検出値に基づいて、前記ミシン針によって縫製対象物に形成された縫い目の異常を検出する解析処理のみを実行させ、
前記解析処理は、前記ミシン針の1回の往復移動において取得された前記張力の検出値の特徴量を示す検出特徴量と前記張力の参照特徴量とを照合して、前記縫い目の異常を検出することを含み、
前記第1コア及び前記第2コアのそれぞれにおいて割り込み処理は実行されず、
前記第1コア及び前記第2コアのそれぞれはポーリング処理される、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫い目検査装置、縫い目検査方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
縫製工場においては、ミシンを使用して衣類が生産される。ミシンで形成された縫い目を検査する縫い目検査装置の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ミシンに設けられているセンサの検出値を取得し検出値を解析することによって縫い目の検査を実施する場合、センサの検出値の取得及び解析にリアルタイム性が要求される。そのため、組み込み用途向けのリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS:Real Time Operating System)によって動作する専用コンピュータをミシンに搭載し、専用コンピュータによってセンサの検出値の取得及び解析を実行する方法が考えられる。しかし、リアルタイムオペレーティングシステムによって動作する専用コンピュータをミシンに搭載すると、ミシンの低コスト化が阻害される。
【0005】
本発明の態様は、リアルタイム性を維持しつつ低コストで縫い目の検査を実施することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、汎用オペレーティングシステムによってタスク管理される第1コア及び第2コアを有するマルチコアプロセッサを備え、前記第1コアは、ミシン針に掛けられる上糸の張力の検出値及び前記ミシン針を往復移動させるモータの回転角度の検出値を取得する取得処理を実行し、前記第2コアは、前記ミシン針の1回の往復移動において取得された前記張力の検出値に基づいて、前記ミシン針によって縫製対象物に形成された縫い目の異常を検出する解析処理を実行する、縫い目検査装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の態様によれば、リアルタイム性を維持しつつ低コストで縫い目の検査を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係るミシンを模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る針棒及び天秤のモーションダイアグラムを示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る縫い目検査システムを示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るマルチコアプロセッサの一部及び共有メモリを示すブロック図である。
【
図5】
図5は、正常な縫い目を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、異常な縫い目を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、異常な縫い目を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る参照特徴量算出処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、張力センサの検出値を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る学習処理を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、実施形態に係るフレームワーク処理を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、実施形態に係る取得処理を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、実施形態に係る解析処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
[ミシン]
本実施形態に係るミシン1について説明する。本実施形態においては、ミシン1に規定されたローカル座標系に基づいて各部の位置関係について説明する。ローカル座標系は、XYZ直交座標系により規定される。所定面内のX軸と平行な方向をX軸方向とする。X軸と直交する所定面内のY軸と平行な方向をY軸方向とする。所定面と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。X軸を中心とする回転方向をθX方向とする。
【0011】
図1は、本実施形態に係るミシン1を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、ミシン1は、ミシンヘッド2と、針棒4と、天秤5と、糸調子器6と、針板7と、押え部材8と、釜9と、モータ10と、張力センサ11と、角度センサ12とを備える。
【0012】
針棒4は、ミシン針3を保持してZ軸方向に往復移動する。針棒4は、ミシン針3とZ軸とが平行となるようにミシン針3を保持する。針棒4は、ミシンヘッド2に支持される。針棒4は、針板7の上方に配置され、縫製対象物Sの表面と対向可能である。ミシン針3に上糸UTが掛けられる。ミシン針3は、上糸UTが通過する糸通し孔を有する。ミシン針3は、糸通し孔の内面で上糸UTを保持する。針棒4がZ軸方向に往復移動することにより、ミシン針3は、上糸UTを保持した状態でZ軸方向に往復移動する。
【0013】
天秤5は、ミシン針3に上糸UTを供給する。天秤5は、ミシンヘッド2に支持される。天秤5は、上糸UTが通過する天秤孔を有する。天秤5は、天秤孔の内面で上糸UTを保持する。天秤5は、上糸UTを保持した状態でZ軸方向に往復移動する。天秤5は、針棒4に連動して往復移動する。天秤5は、Z軸方向に往復移動することによって、上糸UTを繰り出したり引き上げたりする。
【0014】
糸調子器6は、上糸UTに張力を付与する。糸供給源から糸調子器6に上糸UTが供給される。上糸UTが通過する経路において、天秤5は、ミシン針3と糸調子器6との間に配置される。糸調子器6は、天秤5を介してミシン針3に供給される上糸UTの張力を調整する。
【0015】
針板7は、縫製対象物Sを支持する。針棒4に保持されているミシン針3と針板7とは対向する。針板7は、ミシン針3が通過可能な針孔を有する。針板7に支持される縫製対象物Sを貫通したミシン針3は、針孔を通過する。
【0016】
押え部材8は、縫製対象物Sを上方から押える。押え部材8は、ミシンヘッド2に支持される。押え部材8は、針板7の上方に配置され、針板7との間で縫製対象物Sを保持する。
【0017】
釜9は、ボビンケースに収容されたボビンを保持する。釜9は、針板7の下方に配置される。釜9は、θX方向に回転する。釜9は、針棒4に連動して回転する。釜9は、下糸LTを供給する。釜9は、針板7に支持されている縫製対象物Sを貫通し、針板7の針孔を通過したミシン針3から上糸UTをすくい取る。
【0018】
モータ10は、動力を発生する。モータ10は、ミシンヘッド2に支持されるステータと、ステータに回転可能に支持されるロータとを有する。ロータが回転することにより、モータ10は動力を発生する。モータ10で発生した動力は、動力伝達機構(不図示)を介して、針棒4、天秤5、及び釜9のそれぞれに伝達される。針棒4と天秤5と釜9とは連動する。モータ10で発生した動力が針棒4に伝達されることにより、針棒4及び針棒4に保持されているミシン針3は、Z軸方向に往復移動する。モータ10で発生した動力が天秤5に伝達されることにより、天秤5は、針棒4に連動してZ軸方向に往復移動する。モータ10で発生した動力が釜9に伝達されることにより、釜9は、針棒4及び天秤5に連動してθX方向に回転する。ミシン1は、針棒4に保持されているミシン針3と釜9との協働により縫製対象物Sを縫製する。
【0019】
以下の説明においては、ロータが回転することを、モータ10が回転する、という。また、ロータの回転角度を、モータ10の回転角度、といい、ロータの単位時間当たりの回転数を、モータ10の回転数、という。ミシン針3は、モータ10の回転により往復移動する。天秤5は、モータ10の回転によりミシン針3に連動して往復移動する。釜9は、モータ10の回転によりミシン針3及び天秤5に連動して回転する。
【0020】
モータ10の回転数とミシン針3の往復移動回数とは連動する。モータ10が1回転することにより、ミシン針3は、1往復移動する。
【0021】
張力センサ11は、ミシン針3に掛けられる上糸UTの張力を検出する。張力センサ11として、例えば歪ゲージ及び圧電素子の少なくとも一方が例示される。張力センサ11は、上糸UTが通過する経路において、天秤5とミシン針3との間に配置される。張力センサ11は、天秤5とミシン針3との間において上糸UTの張力を検出する。張力センサ11は、天秤5からミシン針3に供給される上糸UTの張力を検出する。
【0022】
角度センサ12は、ミシン針3を往復移動させるモータ10の回転角度を検出する。角度センサ12として、例えばエンコーダが例示される。角度センサ12は、針棒4が針棒上死点に配置されているときのモータ10の回転角度を0[°]として、モータ10の回転角度を検出する。また、角度センサ12は、モータ10の回転数を検出する。
【0023】
糸供給源からの上糸UTは、糸調子器6に掛けられた後、天秤5を経由して、ミシン針3に掛けられる。モータ10が回転し、針棒4が下降すると、針棒4に保持されているミシン針3が縫製対象物Sを貫通し、針板7に設けられている針孔を通過する。ミシン針3が針板7の針孔を通過すると、ミシン針3に掛けられている上糸UTに釜9から供給された下糸LTが掛けられる。上糸UTに下糸LTが掛けられた状態で、ミシン針3が上昇して、縫製対象物Sから退去する。ミシン針3が縫製対象物Sを貫通しているとき、ミシン1は、縫製対象物Sを停止させる。ミシン針3が縫製対象物Sから退去したとき、ミシン1は、縫製対象物Sを+Y方向に移動させる。ミシン1は、縫製対象物Sの+Y方向の移動と停止とを繰り返しながらミシン針3を往復移動させて縫製対象物Sに縫い目SEを形成する。縫製対象物Sに形成された縫い目SEは、Y軸方向に延在する。
【0024】
[モーションダイアグラム]
図2は、本実施形態に係る針棒4及び天秤5のモーションダイアグラムを示す図である。
図2において、横軸は、針棒上死点を基準としたときのモータ10の回転角度[°]を示す。縦軸は、針棒ストローク及び天秤ストロークを示す。
図2に示すモーションダイアグラムは、針棒運動曲線及び天秤糸供給曲線を示す。
【0025】
針棒上死点とは、Z軸方向における針棒4の可動範囲において最も+Z側の針棒4の位置をいう。針棒下死点とは、Z軸方向における針棒4の可動範囲において最も-Z側の針棒4の位置をいう。天秤上死点とは、Z軸方向における天秤5の可動範囲において最も+Z側の天秤5の位置をいう。天秤下死点とは、Z軸方向における天秤5の可動範囲において最も-Z側の天秤5の位置をいう。
【0026】
針棒ストロークとは、Z軸方向における針棒4の位置をいう。天秤ストロークとは、Z軸方向における天秤5の位置をいう。天秤糸供給量とは、天秤5がミシン針3に供給する上糸UTの量をいう。
【0027】
針棒4及び天秤5のそれぞれは、モータ10の回転に連動してZ軸方向に往復移動する。モータ10の回転角度が0[°]のとき、針棒4は針棒上死点に配置される。モータ10の回転角度が約70[°]のとき、天秤5は天秤上死点に配置される。モータ10の回転角度が約180[°]のとき、針棒4は針棒下死点に配置される。モータ10の回転角度が約320[°]のとき、天秤5は天秤下死点に配置される。Z軸方向における針棒4の位置と天秤5の位置との差に基づいて、上糸UTの張力が変化する。
【0028】
[縫い目検査システム]
図3は、本実施形態に係る縫い目検査システム20を示すブロック図である。縫い目検査システム20は、縫製対象物Sに形成された縫い目SEを検査する。縫い目検査システム20は、縫製対象物Sが針板7に支持されている状態で、縫製対象物Sに形成された縫い目SEを検査する。縫い目検査システム20は、ミシン1による縫い目SEの形成と並行して、縫い目SEを検査する。縫い目検査システム20は、縫製対象物Sに形成された縫い目SEの異常の有無を検出する。また、縫い目検査システム20は、縫い目SEの異常のパターンを検出する。
【0029】
縫い目検査システム20は、ミシン1に搭載される縫い目検査装置30と、外部コンピュータ40とを有する。縫い目検査装置30と外部コンピュータ40とは、通信システム50を介して通信する。通信システム50は、ローカルエリアネットワーク(LAN:Local Area Network)を含む。本実施形態において、通信システム50は、無線LANを含む。縫い目検査装置30と外部コンピュータ40とは、通信システム50を介して無線通信する。なお、縫い目検査装置30と外部コンピュータ40とは有線通信してもよい。
【0030】
縫い目検査装置30は、コンピュータシステムを含む。縫い目検査装置30は、マルチコアプロセッサ31と、共有メモリ32と、共有メモリ33と、補助記憶装置34と、入出力インターフェース35と、通信装置36とを備える。
【0031】
マルチコアプロセッサ31は、汎用オペレーティングシステムによってタスク管理される第1コア311、第2コア312、第3コア313、及び第4コア314を有する。マルチコアプロセッサ31は、クワッドコアプロセッサである。第1コア311、第2コア312、第3コア313、及び第4コア314のそれぞれが、制御回路及び演算処理回路を含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)を有する。
【0032】
マルチコアプロセッサ31は、第1コア311と第2コア312と第3コア313と第4コア314とを並列処理(Parallel Processing)させる。
【0033】
共有メモリ32は、第1コア311及び第2コア312に共有される主記憶装置である。共有メモリ32は、RAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む。共有メモリ32は、第1コア311及び第2コア312のそれぞれがアクセス可能なバッファ(記憶領域)を有する。第1コア311及び第2コア312は、共有メモリ32のバッファを介してデータ交換することができる。
【0034】
共有メモリ33は、第3コア313及び第4コア314に共有される主記憶装置である。共有メモリ33は、RAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む。
【0035】
補助記憶装置34は、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリを含む。なお、補助記憶装置34は、フラッシュメモリのような不揮発性メモリ及びハードディスクのようなストレージの少なくとも一方を含んでもよい。
【0036】
補助記憶装置34には、汎用オペレーティングシステムが記憶されている。オペレーティングシステム(OS:Operating System)とは、コンピュータシステムである縫い目検査装置30の基本機能を提供する基本ソフトウエア(コンピュータプログラム)をいう。オペレーティングシステムは、マルチコアプロセッサ31を管理する。汎用オペレーティングシステムとは、応用ソフトウエアとの協働により、汎用的に利用できる機能を有するオペレーティングシステムをいう。汎用オペレーティングシステムとして、例えばリナックス(Linux)(登録商標)が例示される。
【0037】
汎用オペレーティングシステムを実行するとき、補助記憶装置34から共有メモリ32及び共有メモリ33に汎用オペレーティングシステムがロードされる。
【0038】
第1コア311及び第2コア312は、共有メモリ32にロードされた汎用オペレーティングシステムに示されている複数の命令のそれぞれを逐次処理する。第3コア313及び第4コア314は、共有メモリ33にロードされた汎用オペレーティングシステムに示されている複数の命令のそれぞれを逐次処理する。
【0039】
本実施形態において、マルチコアプロセッサ31は、第1コア311及び第2コア312が共有メモリ32を共有し、第3コア313及び第4コア314が共有メモリ33を共有し、単一のオペレーティングシステムによって制御される密結合マルチプロセッサである。
【0040】
また、本実施形態において、マルチコアプロセッサ31は、第1コア311、第2コア312、第3コア313、及び第4コア314のそれぞれが実行する処理が決められている非対称型マルチプロセッサ(AMP:Asymmetrical Multiple Processor)である。
【0041】
第1コア311は、ミシン針3に掛けられる上糸UTの張力の検出値と、ミシン針3を往復移動させるモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値とを取得する取得処理を実行する。上糸UTの張力は、張力センサ11によって検出される。モータ10の回転角度及び回転数は、角度センサ12によって検出される。第1コア311は、ミシン1による縫い目SEの形成と並行して、張力センサ11によって検出された上糸USの張力の検出値と、張力センサ11が上糸USの張力を検出したときに角度センサ12によって検出されたモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値とを取得する。
【0042】
第2コア312は、ミシン針3の1回の往復移動において取得された上糸UTの張力の検出値に基づいて、ミシン針3によって縫製対象物Sに形成された縫い目SEの異常を検出する解析処理を実行する。解析処理は、ミシン針3の1回の往復移動において取得された上糸UTの張力の検出値の特徴量を示す検出特徴量と上糸UTの張力の参照特徴量とを照合して、縫い目SEの異常を検出することを含む。また、解析処理は、縫い目SEの異常を示す出力データを出力装置13に出力させることを含む。
【0043】
第3コア313及び第4コア314の一方又は両方は、マルチコアプロセッサ31が実行するタスクの実行スケジュールを管理するフレームワーク処理を実行する。本実施形態において、第3コア313及び第4コア314の一方又は両方は、イベント発生をトリガとしてタスクを切り換えるイベントドリブン方式(Event Driven System)でタスクスケジューリングを実施する。
【0044】
入出力インターフェース35は、信号及びデータを入出力可能な入出力回路を含む。入出力インターフェース35は、張力センサ11、角度センサ12、出力装置13、入力装置14、及び通信装置36のそれぞれに接続される。また、入出力インターフェース35は、バスを介して、マルチコアプロセッサ31、共有メモリ32、共有メモリ33、及び補助記憶装置34のそれぞれに接続される。
【0045】
張力センサ11は、ミシン針3に掛けられる上糸UTの張力を検出する。張力センサ11は、上糸UTの張力の検出値を縫い目検査装置30に出力する。
【0046】
角度センサ12は、ミシン針3を往復移動させるモータ10の回転角度及びモータ10の回転数を検出する。角度センサ12は、モータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値を縫い目検査装置30に出力する。
【0047】
出力装置13は、縫い目検査装置30の検査結果を示す出力データを出力する。出力装置13として、例えば表示装置及び印刷装置の少なくとも一方が例示される。表示装置は、出力データとして表示データを出力する。表示装置として、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)又は有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electroluminescence Display)のようなフラットパネルディスプレイが例示される。印刷装置は、出力データとして印刷データを出力する。
【0048】
入力装置14は、作業者に操作されることにより入力データを生成し、生成した入力データを縫い目検査装置30に出力する。入力装置14として、操作ボタン、タッチパネル、マウス、及びコンピュータ用キーボードの少なくとも一つが例示される。
【0049】
通信装置36は、通信システム50を介して、外部コンピュータ40と通信する。
【0050】
外部コンピュータ40は、タブレット型コンピュータ又はパーソナルコンピュータのようなコンピュータシステムを含む。外部コンピュータ40は、プロセッサ41と、メインメモリ42と、補助記憶装置44と、入出力インターフェース45と、通信装置46とを備える。
【0051】
プロセッサ41は、オペレーティングシステムによって管理される。プロセッサ41は、制御回路及び演算処理回路を含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)を有する。
【0052】
メインメモリ42は、RAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリによって構成される。
【0053】
補助記憶装置44は、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリを含む。補助記憶装置44は、フラッシュメモリのような揮発性メモリ及びハードディスクのようなストレージの少なくとも一方を含んでもよい。
【0054】
補助記憶装置44には、オペレーティングシステムが記憶されている。オペレーティングシステムは、プロセッサ41を管理する。
【0055】
入出力インターフェース45は、信号及びデータを入出力可能な入出力回路を含む。入出力インターフェース45は、通信装置46に接続される。また、入出力インターフェース45は、バスを介して、プロセッサ41、メインメモリ42、及び補助記憶装置44のそれぞれに接続される。
【0056】
通信装置46は、通信システム50を介して、縫い目検査装置30と通信する。
【0057】
本実施形態において、第2コア312が実行する解析処理は、上糸UTの張力の検出特徴量と、ラベルが付与された張力の検出値を機械学習することにより生成された学習モデルとに基づいて、縫い目SEの異常のパターンを検出(識別)することを含む。学習モデルの生成は、外部コンピュータ40によって実行される。取得処理において取得された上糸UTの張力の検出値が、通信システム50を介して、縫い目検査装置30から外部コンピュータ40に送信される。
【0058】
外部コンピュータ40のプロセッサ41は、縫い目検査装置30から送信され、ラベルが付与された上糸UTの張力の検出値を機械学習することにより学習モデルを生成する学習処理を実行する。本実施形態において、上糸UTの張力の検出値と、上糸UTの張力が検出されたときのモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値とが、縫い目検査装置30から外部コンピュータ40に送信される。プロセッサ41は、上糸UTの張力の検出値と、モータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値とに基づいて、学習モデルを生成する。プロセッサ41において生成された学習モデルは、通信システム50を介して、外部コンピュータ40から縫い目検査装置30に送信される。縫い目検査装置30の通信装置36は、外部コンピュータ40から送信された学習モデルを受信する。
【0059】
本実施形態において、プロセッサ41は、上糸UTの張力の検出値が取得されたときのモータ10の回転数毎に、学習モデルを生成する。例えば、上糸UTの張力の検出値が、モータ10が第1回転数のときに取得された第1検出値と、モータ10が第2回転数のときに取得された第2検出値とを含む場合、学習モデルは、第1検出値を機械学習することにより生成された第1学習モデルと、第2検出値を機械学習することにより生成された第2学習モデルとを含む。
【0060】
第1回転数及び第2回転数のそれぞれは、モータ10の回転数の範囲を示す概念である。第1回転数は、モータ10が高回転数領域で回転しているときの回転数(回転数範囲)を示す。第2回転数は、モータ10が低回転数領域で回転しているときの回転数(回転数範囲)を示す。モータ10が第1回転数であることは、モータ10が高回転領域で回転していることを意味する。モータ10が第2回転数であることは、モータ10が高回転領域よりも低い低回転数領域で回転していることを意味する。
【0061】
[マルチコアプロセッサ]
図4は、本実施形態に係るマルチコアプロセッサ31の一部及び共有メモリ32を示すブロック図である。第1コア311及び第2コア312は、共有メモリ32を共有する。マルチコアプロセッサ31は、第1コア311及び第2コア312が共有メモリ32を共有し、単一の汎用オペレーティングシステムによって制御される密結合マルチプロセッサである。汎用オペレーティングシステムは、第1コア311に、上糸UTの張力の検出値とモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値とを取得する取得処理を実行させ、第2コア312に、ミシン針3の1回の往復移動において取得された上糸UTの張力の検出値に基づいて、縫製対象物SEに形成された縫い目SEの異常を検出する解析処理を実行させる。
【0062】
上述のように、共有メモリ32は、第1コア311及び第2コア312のそれぞれがアクセス可能なバッファ(記憶領域)を有する。第1コア311及び第2コア312は、共有メモリ32のバッファを介してデータ交換する。第1コア311と第2コア312とが交換するデータは、上糸UTの張力の検出値、モータ10の回転角度の検出値、及びモータ10の回転数の検出値を含む。
【0063】
共有メモリ32のバッファは、第1コア311により取得された上糸UTの張力の検出値を記憶する張力バッファ321と、第1コア311により取得されたモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値を記憶する回転バッファ322と、出力装置13に出力させる出力データを記憶する出力バッファ323とを含む。
【0064】
第1コア311は、張力センサ11から取得した上糸UTの張力の検出値を張力バッファ321に書き込む。また、第1コア311は、角度センサ12から取得したモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値を回転バッファ322に書き込む。
【0065】
第2コア312は、張力バッファ321に記憶されている上糸UTの張力の検出値を張力バッファ321から読み出す。また、第2コア312は、回転バッファ322に記憶されているモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値を回転バッファ322から読み出す。第2コア312は、読み込んだ上糸UTの張力の検出値と、モータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値とを解析して、縫い目SEの異常を検出する。第2コア312は、縫い目SEの異常を示す出力データを出力バッファ323に書き込む。第2コア312は、出力データを出力装置13に出力させる。
【0066】
第1コア311による検出値の取得処理と、第2コア312による検出値の解析処理とは、並列処理される。第1コア311は、取得処理を占有する。第2コア312は、解析処理を占有する。第1コア311は、取得処理のみ実行する。第2コア312は、解析処理のみ実行する。第1コア311の取得処理は、張力センサ11及び角度センサ12の検出値を取得すること及び検出値を張力バッファ321及び回転バッファ322のそれぞれに書き込むことを含む。第2コア312の解析処理は、張力センサ11及び角度センサ12の検出値を張力バッファ321及び回転バッファ322のそれぞれから読み出すこと及び検出値を解析することを含む。
【0067】
第1コア311と第2コア312とは、ポーリング処理される。ポーリング処理とは、第1コア311及び第2コア312のそれぞれが、実行スケジュールに従って一定の周期で処理を実行するこという。第1コア311及び第2コア312のそれぞれにおいて、割り込み処理は実施されない。本実施形態において、第1コア311は、取得処理(検出値の取得及び書き込み)を、0.1[ms]毎に実行する。第2コア312は、解析処理(検出値の読み出し及び解析)を、20[ms]毎に実行する。第2コア312は、ミシン針3の1回の往復移動(モータ10の1回の回転)において取得された上糸UTの張力の検出値を一括して読み出して解析する。
【0068】
第1コア311による取得処理の処理速度と、第2コア312による解析処理の処理速度とに差がある。そのため、共有メモリ32において第1コア311のタスクと第2コア312のタスクとが干渉することが抑制される。したがって、マルチコアプロセッサ31においてタスクの排他制御は省略可能である。なお、セマフォのような排他的制御が実行されてもよい。
【0069】
[縫い目の異常]
図5は、正常な縫い目SEを模式的に示す図である。
図6及び
図7は、異常な縫い目SEを模式的に示す図である。
【0070】
本実施形態において、ミシン1は、本縫いを実施する本縫いミシンである。
図5に示すように、本縫いにおける正常な縫い目SEは、Y軸方向に直線状に形成される。正常な1つの縫い目SEは、正常長さPnで形成される。複数の縫い目SEのそれぞれが、正常長さPnで形成される。
【0071】
縫い目SEの異常のパターンは、複数存在する。縫い目SEの異常のパターンとして、縫い目SEの少なくとも一つの長さが長くなる第1パターンの異常、縫い目SEの少なくとも一部が無くなる第2パターンの異常、及び縫製対象物Sにおいて上糸UT及び下糸LTの少なくとも一方が弛む第3パターンの異常が例示される。第1パターンの異常は「目飛び」と呼ばれる。第2パターンの異常は「糸切れ」と呼ばれる。第3パターンの異常は「ちょうちん」と呼ばれる。
【0072】
図6は、第1パターンの異常である「目飛び」の一例を示す図である。「目飛び」とは、一定の正常長さPnで縫い目SEが形成されずに、正常長さPnよりも長い異常長さPuで縫い目SEが形成される現象をいう。「目飛び」のパターンとして、
図6(A)に示すような異常長さPu1の縫い目SEが単発的に発生する「単発目飛び」、
図6(B)に示すような異常長さPu1の縫い目SEが連続的に発生する「連続目飛び」、及び
図6(C)に示すような異常長さPu1よりも長い異常長さPu2の縫い目SEが発生する「長尺目飛び」が例示される。
【0073】
図7は、第3パターンの異常である「ちょうちん」の一例を示す図である。「ちょうちん」とは、上糸UTと下糸LTとが掛かっているものの、縫製対象物Sの表面において上糸UTが弛んだり縫製対象物Sの裏面において下糸LTが弛んだりする現象をいう。
図7は、縫製対象物Sの裏面において下糸LTが弛んでいる例を示す。
【0074】
[縫い目の異常検出の第1の方法]
縫い目SEの異常検出の第1の方法について説明する。第1の方法において、第2コア312は、張力センサ11の検出値及び角度センサ12の検出値に基づいて、縫い目SEの異常を検出する。
【0075】
張力センサ11は、モータ10の回転において、規定周期で(例えば0.1[ms]毎に)上糸UTの張力の検出値を出力する。すなわち、張力センサ11は、モータ10が複数の回転角度のそれぞれに回転したときに、複数の回転角度のそれぞれにおいて、検出値を出力する。
【0076】
本実施形態において、第2コア312は、モータ10の回転角度が特定角度のときに導出された検出特徴量と参照特徴量とを照合して、縫い目SEの異常を検出する。
【0077】
検出特徴量は、実際に縫い目SEが形成されたときにおいて、モータ10が複数の回転角度のそれぞれに回転したときに、複数の回転角度のそれぞれにおいて張力センサ11から出力された実際の張力の検出値を含む。
【0078】
参照特徴量は、
図5に示したような正常な縫い目SEが形成されたときにおいて、モータ10が複数の回転角度のそれぞれに回転したときに、複数の回転角度のそれぞれにおいて張力センサ11から出力された張力の検出値を含む。参照特徴量は、予備実験(シミュレーション実験を含む)などに基づいて導出され、補助記憶装置34に予め記憶される。
【0079】
図6は、本実施形態に係る参照特徴量算出処理を示すフローチャートである。縫製対象物Sがミシン1の針板7に設置される。ミシン1は、縫製対象物Sの縫製を開始する。張力センサ11は、縫製対象物Sの縫製と並行して、上糸UTの張力を検出する。張力センサ11は、上糸UTの張力の検出値を縫い目検査装置30に出力する。第1コア311は、張力センサ11の検出値を取得する(ステップSA1)。
【0080】
縫製対象物Sに形成された縫い目SEが確認される。正常な縫い目SEが形成された場合、正常な縫い目SEが形成されたことを示す入力データが生成されるように、入力装置14が作業者に操作される。第2コア312は、正常な縫い目SEが形成されたことを示す入力データを取得する(ステップSA2)。
【0081】
第2コア312は、張力センサ11の検出値と入力データとに基づいて、正常な縫い目SEが形成されたときの上糸UTの張力の特徴量を示す参照特徴量を算出する(ステップSA3)。
【0082】
第2コア312は、算出した参照特徴量を補助記憶装置34に記憶させる(ステップSA4)。
【0083】
「目飛び」が発生したか否かを判定する場合、第2コア312は、モータ10の回転角度が270[°]以上360[°]以下の特定角度のときに取得された張力センサ11の検出値から導出される検出特徴量と補助記憶装置34に記憶されている参照特徴量とを照合して、「目飛び」が発生しているか否かを判定する。
【0084】
図9は、張力センサ11の検出値を示す図である。
図9において、横軸はモータ10の回転角度を示し、縦軸は張力センサ11の検出値を示す。
図9において、範囲Sa及び範囲Snは、モータ10の回転角度が特定角度である270[°]以上360[°]以下の範囲を示す。第2コア312は、モータ10の回転角度が270[°]以上360[°]以下のときに導出された検出特徴量と参照特徴量とを照合して、「目飛び」が発生したか否かを判定する。
【0085】
正常な縫い目SEが形成された場合、張力センサ11は、範囲Snに示すような検出値を出力する。「目飛び」が発生した場合、張力センサ11は、範囲Saに示すような検出値を出力する。
図9に示すように、範囲Snにおける張力センサ11の検出値と範囲Saにおける張力センサ11の検出値とは異なる。モータ10の回転角度が270[°]以上360[°]以下の範囲において、「目飛び」が発生したときの上糸UTの張力は、正常な縫い目SEが形成されるときの上糸UTの張力によりも小さくなる。
【0086】
本実施形態においては、範囲Snに示すような検出値が参照特徴量として補助記憶装置34に記憶される。第2コア312は、第1コア311により取得された張力センサ11の検出値からモータ10の回転角度が270[°]以上360[°]以下の範囲における検出値を抽出して、「目飛び」を判定するための検出特徴量を導出する。第2コア312は、算出された検出特徴量と補助記憶装置34に記憶されている参照特徴量とを照合して、「目飛び」が発生しているか否かを判定する。検出特徴量が範囲Saに示すような検出値を含む場合、第2コア312は、検出特徴量と参照特徴量との照合結果に基づいて、「目飛び」が発生していると判定することができる。検出特徴量が範囲Snに示すような検出値を含む場合、第2コア312は、検出特徴量と参照特徴量との照合結果に基づいて、「目飛び」が発生していないと判定することができる。
【0087】
「糸切れ」が発生したか否かを判定する場合、第2コア312は、モータ10の回転角度が0[°]以上90[°]以下の特定角度のときに取得された張力センサ11の検出値から導出される検出特徴量と補助記憶装置34に記憶されている参照特徴量とを照合して、「糸切れ」が発生しているか否かを判定する。
【0088】
図10は、張力センサ11の検出値を示す図である。
図10において、横軸はモータ10の回転角度を示し、縦軸は張力センサ11の検出値を示す。
図10において、範囲Sa及び範囲Snは、モータ10の回転角度が特定角度である0[°]以上90[°]以下の範囲を示す。第2コア312は、モータ10の回転角度が0[°]以上90[°]以下のときに導出された検出特徴量と参照特徴量とを照合して、「糸切れ」が発生したか否かを判定する。
【0089】
正常な縫い目SEが形成された場合、張力センサ11は、範囲Snに示すような検出値を出力する。「糸切れ」が発生した場合、張力センサ11は、範囲Saに示すような検出値を出力する。
図10に示すように、範囲Snにおける張力センサ11の検出値と範囲Saにおける張力センサ11の検出値とは異なる。モータ10の回転角度が0[°]以上90[°]以下の範囲において、「糸切れ」が発生したときの上糸UTの張力は、正常な縫い目SEが形成されるときの上糸UTの張力よりも小さくなる。
【0090】
本実施形態においては、範囲Snに示すような検出値が参照特徴量として補助記憶装置34に記憶される。第2コア312は、第1コア311により取得された張力センサ11の検出値からモータ10の回転角度が0[°]以上90[°]以下の範囲における検出値を抽出して、「糸切れ」を判定するための検出特徴量を導出する。第2コア312は、算出した検出特徴量と補助記憶装置34に記憶されている参照特徴量とを照合して、「糸切れ」が発生しているか否かを判定する。検出特徴量が範囲Saに示すような検出値を含む場合、第2コア312は、検出特徴量と参照特徴量との照合結果に基づいて、「糸切れ」が発生していると判定することができる。検出特徴量が範囲Snに示すような検出値を含む場合、第2コア312は、検出特徴量と参照特徴量との照合結果に基づいて、「糸切れ」が発生していないと判定することができる。
【0091】
[縫い目の異常検出の第2の方法]
縫い目SEの異常検出の第2の方法について説明する。第2の方法においても、第2コア312は、張力センサ11の検出値及び角度センサ12の検出値に基づいて、縫い目SEの異常を検出する。
【0092】
第2の方法において、検出特徴量は、モータ10の回転における張力センサ11の検出値の累積値を示す検出累積曲線を含む。参照特徴量は、縫い目SEが正常であるときの張力の累積値を示す参照累積曲線を含む。
【0093】
第2コア312は、モータ10の回転における張力センサ11の検出値の累積値を示す検出累積値曲線と、縫い目SEが正常であるときの上糸UTの張力の累積値を示す参照累積曲線とを照合して、縫い目SEの異常を判定する。本実施形態において、第2コア312は、検出累積曲線と参照累積曲線とを照合して、「ちょうちん」が発生したか否かを判定する。
【0094】
上述のように、張力センサ11は、モータ10の回転において、規定周期で上糸UTの張力の検出値を出力する。すなわち、張力センサ11は、モータ10が複数の回転角度のそれぞれに回転したときに、複数の回転角度のそれぞれにおいて、検出値を出力する。
【0095】
累積値とは、モータ10の複数の回転角度のそれぞれにおいて張力センサ11により検出された張力の検出値の累積値をいう。張力センサ11の検出時間が長いほど累積値は大きくなる。累積曲線とは、モータ10の複数の回転角度と複数の回転角度のそれぞれにおける張力の累積値との関係を示す曲線をいう。
【0096】
参照累積曲線は、正常な縫い目SEが形成されたときの張力の累積値を示す累積曲線であり、補助記憶装置34に予め記憶される。
【0097】
検出累積曲線は、実際の検出値の累積値を示す累積曲線であり、第2コア312により算出される。
【0098】
第2コア312は、検出累積曲線と参照累積曲線とを照合して、縫い目SEの異常を判定する。
【0099】
図11は、累積曲線を示す図である。
図11において、横軸はモータ10の回転角度を示し、縦軸は張力の累積値を示す。
図11は、モータ10が例えば1000回転/分のときの累積曲線を示す。例えばモータ10の回転角度が180[°]のときの張力の検出値を取得し、次に181[°]のときの張力の検出値を取得し、前記180[°]の検出値に加算する。同様に、182[°]、183[°]、…、0[°]、…、359[°]と順次加算することにより、累積値が算出される。
【0100】
正常な縫い目SEが形成された場合、曲線Lnで示すような累積曲線が生成される。「ちょうちん」が発生した場合、曲線Laで示すような累積曲線が生成される。
図11に示すように、曲線Lnの傾きと曲線Laの傾きとは異なる。「ちょうちん」が発生したときの累積曲線(曲線La)の傾きは、正常な縫い目SEが形成されたときの累積曲線(曲線Ln)の傾きよりも大きくなる。
【0101】
本実施形態においては、曲線Lnで示すような累積曲線が参照累積曲線として補助記憶装置34に記憶される。第2コア312は、第1コア311により取得された張力センサ11の検出値に基づいて、「ちょうちん」を判定するための検出累積曲線を算出する。第2コア312は、算出した検出累積曲線と補助記憶装置34に記憶されている参照累積曲線とを照合して、「ちょうちん」が発生しているか否かを判定する。検出累積曲線が曲線Laで示すような累積曲線である場合、第2コア312は、検出累積曲線と参照累積曲線との照合結果に基づいて、「ちょうちん」が発生していると判定することができる。検出累積曲線が曲線Lnで示すような累積曲線である場合、第2コア312は、検出累積曲線と参照累積曲線との照合結果に基づいて、「ちょうちん」が発生していないと判定することができる。
【0102】
[縫い目の異常検出の第3の方法]
縫い目SEの異常検出の第3の方法について説明する。第3の方法において、検出特徴量は、モータ10の回転における張力センサ11の検出値をフーリエ変換することにより算出される検出周波数スペクトルを含む。参照特徴量は、縫い目SEが正常であるときの張力をフーリエ変換することにより算出される参照周波数スペクトルを含む。
【0103】
第2コア312は、モータ10の回転における張力センサ11の検出値をフーリエ変換することにより算出される検出周波数スペクトルと、縫い目SEが正常であるときの上糸UTの張力をフーリエ変換することにより算出される参照周波数スペクトルとを照合して、縫い目SEの異常を判定する。第2コア312は、検出周波数スペクトルと参照周波数スペクトルとを照合して、例えば「ちょうちん」が発生したか否かを判定することができる。
【0104】
図12は、張力の周波数スペクトルを示す図である。
図12において、横軸は張力の検出値の周波数を示し、縦軸は張力の検出値の振幅を示す。
図12は、モータ10を例えば1000回転/分のときに検出された張力の検出値を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)した結果を示す。
【0105】
正常な縫い目SEが形成された場合、
図12(A)に示すような周波数スペクトルが生成される。「ちょうちん」が発生した場合、
図12(B)に示すような周波数スペクトルが生成される。
図12に示すように、「ちょうちん」が発生すると、特定の周波数においてピークPKが形成される。「ちょうちん」が発生した場合、上糸UTの張力が微振動するため、ピークPKが形成される。
【0106】
本実施形態においては、
図12(A)に示すような周波数スペクトルが参照周波数スペクトルとして補助記憶装置34に記憶される。第2コア312は、第1コア311により取得された張力センサ11の検出値に基づいて、「ちょうちん」を判定するための検出周波数スペクトルを算出する。第2コア312は、算出した検出周波数スペクトルと補助記憶装置34に記憶されている参照周波数スペクトルとを照合して、「ちょうちん」が発生しているか否かを判定する。検出周波数スペクトルが
図12(B)に示すような周波数スペクトルである場合、第2コア312は、検出周波数スペクトルと参照周波数スペクトルとの照合結果に基づいて、「ちょうちん」が発生していると判定することができる。検出周波数スペクトルが
図12(A)に示すような周波数スペクトルである場合、第2コア312は、検出周波数スペクトルと参照周波数スペクトルとの照合結果に基づいて、「ちょうちん」が発生していないと判定することができる。
【0107】
[縫い目の異常検出の第4の方法]
縫い目SEの異常検出の第4の方法について説明する。第4の方法において、検出特徴量は、モータ10の回転における張力センサ11の検出値から算出される。参照特徴量は、ラベルが付与された上糸UTの張力の検出値を機械学習することにより生成された学習モデルから算出される。
【0108】
学習モデルを生成する学習処理について説明する。
図13は、本実施形態に係る学習処理を示すフローチャートである。縫製対象物Sがミシン1の針板7に設置される。ミシン1は、縫製対象物Sの縫製を開始する。張力センサ11は、縫製対象物Sの縫製と並行して、上糸UTの張力を検出する。張力センサ11は、上糸UTの張力の検出値を縫い目検査装置30に出力する。第1コア311は、張力センサ11の検出値を取得する。
【0109】
張力センサ11の検出値及び角度センサ12の検出値は、通信システム50を介して、縫い目検査装置30から外部コンピュータ40に送信される。外部コンピュータ40の通信装置46は、張力センサ11の検出値及び角度センサ12の検出値を受信する(ステップSB1)。
【0110】
外部コンピュータ40のプロセッサ41は、張力センサ11の検出値にラベルを付与する(ステップSB2)。ラベルは、正常な縫い目SEが形成されたことを示す正解ラベル、第1パターンの異常である「目飛び」が発生したことを示す第1異常ラベル、第2パターンの異常である「糸切れ」が発生したことを示す第2異常ラベル、及び第3パターンの異常である「ちょうちん」が発生したことを示す第3異常ラベルを含む。プロセッサ41は、正常な縫い目SEが形成されたときに取得された張力センサ11の検出値に正解ラベルを付与する。プロセッサ41は、第1パターンの異常が発生したときに取得された張力センサ11の検出値に第1異常ラベルを付与する。プロセッサ41は、第2パターンの異常が発生したときに取得された張力センサ11の検出値に第2異常ラベルを付与する。プロセッサ41は、第3パターンの異常が発生したときに取得された張力センサ11の検出値に第3異常ラベルを付与する。
【0111】
プロセッサ41は、ラベルが付与された検出値を規定の機械学習アルゴリズムで機械学習する(ステップSB3)。機械学習アルゴリズムとして、決定木(Decision Tree)、ランダムフォレスト(Random Forest)、及びニューラルネットワーク(Neural Network)の少なくとも一つが例示される。
【0112】
ラベルが付与された検出値を機械学習することにより学習モデルが生成される(ステップSB4)。
【0113】
本実施形態において、プロセッサ41は、上糸UTの張力の検出値が取得されたときのモータ10の回転数毎に学習モデルを生成する。例えば、上糸UTの張力の検出値が、モータ10が第1回転数(高回転数領域)のときに取得された第1検出値と、モータ10が第2回転数(低回転数領域)のときに取得された第2検出値とを含む場合、学習モデルは、第1検出値を機械学習することにより生成された第1学習モデルと、第2検出値を機械学習することにより生成された第2学習モデルとを含む。すなわち、本実施形態においては、モータ10が第1回転数(高回転数領域)で回転しているときに使用される高回転数領域用の第1学習モデルと、モータ10が第2回転数(低回転数領域)で回転しているときに使用される低回転数領域用の第2学習モデルとが生成される。
【0114】
生成された学習モデルは、通信システム50を介して、外部コンピュータ40から縫い目検査装置30に送信される(ステップSB5)。縫い目検査装置30の通信装置36は、学習モデルを受信する。
【0115】
[縫い目検査方法]
次に、本実施形態に係る縫い目検査方法について説明する。
図14は、本実施形態に係るフレームワーク処理を示すフローチャートである。
図14に示すように、第1コア311及び第2コア312に共有される共有メモリ32が設定される(ステップSC1)。
【0116】
取得処理及び解析処理を開始させるイベントが発生すると、取得処理と解析処理との並列処理が開始される(ステップSC2)。
【0117】
取得処理及び解析処理を開始させるイベントとして、例えば入力装置14が操作されることにより生成された入力データが縫い目検査装置30に取得されること、又は、縫製対象物Sの縫製処理を開始するためにモータ10が起動したことを示す起動データが縫い目検査装置30に取得されたことが例示される。
【0118】
イベントが発生すると、取得処理(ステップSC3A)及び解析処理(ステップSC3B)が開始される。
【0119】
取得処理及び解析処理を終了させるイベントが発生すると、取得処理と解析処理との並列処理が終了する(ステップSC4)。
【0120】
取得処理及び解析処理を終了させるイベントとして、例えば入力装置14が操作されることにより生成された入力データが縫い目検査装置30に取得されること、又は、縫製対象物Sの縫製処理を終了するためにモータ10が停止したことを示す停止データが縫い目検査装置30に取得されたことが例示される。
【0121】
図15は、本実施形態に係る取得処理を示すフローチャートであり、
図14に示した取得処理(ステップSC3A)の具体例を示す図である。
【0122】
第1コア311のキャッシュメモリ及び共有メモリ32が初期化される(ステップSD1)。
【0123】
第1コア311は、ミシン針3に掛けられる上糸UTの張力の検出値を取得する。また、第1コア311は、上糸UTの張力が検出されたときのモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値を取得する(ステップSD2)。
【0124】
第1コア311は、ステップSD2で取得した上糸UTの張力の検出値を張力バッファ321に書き込む。また、第1コア311は、ステップSD2で取得したモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値を回転バッファ322に書き込む(ステップSD3)。
【0125】
第1コア311による検出値の取得及び書き込みは、例えば0.1[ms]毎に実行される。
【0126】
第1コア311は、取得処理を終了するか否かを判定する(ステップSD4)。第1コア311は、取得処理を終了させるイベントの発生の有無に基づいて、取得処理を終了するか否かを判定する。
【0127】
ステップSD4において、取得処理を終了すると判定した場合(ステップSD4:Yes),第1コア311は、取得処理を終了する。なお、ステップSD4において、取得処理を終了しないと判定した場合(ステップSD4:No)、取得処理を終了させるイベントが発生したと判定されるまで、取得処理が継続される。
【0128】
図16は、本実施形態に係る解析処理を示すフローチャートであり、
図14に示した解析処理(ステップSC3B)の具体例を示す図である。
図16は、一例として、上述の[縫い目の異常検出の第1の方法]と[縫い目の異常検出の第4の方法]とを組み合わせて縫い目SEの異常を検出する方法を示す。なお、解析処理においては、[縫い目の異常検出の第1の方法]、[縫い目の異常検出の第2の方法]、[縫い目の異常検出の第3の方法]、及び[縫い目の異常検出の第4の方法]の少なくとも一つに基づいて、縫い目SEの異常が検出されればよい。
【0129】
第2コア312のキャッシュメモリが初期化される(ステップSE1)。
【0130】
第2コア312は、張力バッファ321に記憶されている上糸UTの張力の検出値を読み出す。また、第2コア312は、回転バッファ322に記憶されているモータ10の回転角度の検出値及びモータ10の回転数の検出値を読み出す(ステップSE2)。
【0131】
第2コア312は、上糸UTの張力の検出値を解析して、検出値の検出特徴量を算出する(ステップSE3)。
【0132】
第2コア312は、ステップSE3において算出した検出特徴量と、補助記憶装置34に記憶されている参照特徴量とを照合して、「目飛び」が発生しているか否かを判定する(ステップSE4)。第2コア312は、上述の[縫い目の異常検出の第1の方法]に従って、「目飛び」が発生したか否かを判定することができる。
【0133】
ステップSE4において「目飛び」が発生したと判定された場合(ステップSE4:Yes)、第2コア312は、縫い目SEが異常であることを示す出力データを出力装置13に出力させる(ステップSE8)。
【0134】
ステップSE4において、「目飛び」が発生していないと判定した場合(ステップSE4:No)、第2コア312は、ステップSE3において算出した検出特徴量と、補助記憶装置34に記憶されている参照特徴量とを照合して、「糸切れ」が発生しているか否かを判定する(ステップSE5)。第2コア312は、上述の[縫い目の異常検出の第1の方法]に従って、「糸切れ」が発生したか否かを判定することができる。
【0135】
ステップSE5において「糸切れ」が発生したと判定された場合(ステップSE5:Yes)、第2コア312は、縫い目SEが異常であることを示す出力データを出力装置13に出力させる(ステップSE8)。
【0136】
ステップSE5において、「糸切れ」が発生していないと判定した場合(ステップSE5:No)、第2コア312は、外部コンピュータ40において算出された学習モデルを設定する(ステップSE6)。
【0137】
上述のように、外部コンピュータ40において、モータ10が第1回転数(高回転数領域)のときに取得された張力の第1検出値を機械学習することにより第1学習モデルが生成され、モータ10が第2回転数(低回転数領域)のときに取得された張力の第2検出値を機械学習することにより第2学習モデルが生成される。第1学習モデル及び第2学習モデルの両方が、補助記憶装置34に記憶される。
【0138】
ステップSE3において、モータ10が第1回転数のときに取得された上糸UTの張力の検出値に基づいて検出特徴量が算出された場合、第2コア312は、第1学習モデルを設定する。ステップSE3において、モータ10が第2回転数のときに取得された上糸UTの張力の検出値に基づいて検出特徴量が算出された場合、第2コア312は、第2学習モデルを設定する。
【0139】
第2コア312は、ステップSE3において算出した検出特徴量と、ステップSE6において設定した学習モデルから導出される参照特徴量とに基づいて、縫い目SEの異常のパターンを識別する(ステップSE7)。
【0140】
第2コア312は、ステップSE7の識別結果を出力装置13に出力させる(ステップSE8)。例えば、縫い目SEの異常のパターンが第1パターンであると識別されたとき、第2コア312は、第1パターンの異常である「目飛び」が発生したことを示す出力データを出力装置13に出力させる。縫い目SEの異常のパターンが第2パターンであると識別されたとき、第2コア312は、第2パターンの異常である「糸切れ」が発生したことを示す出力データを出力装置13に出力させる。縫い目SEの異常のパターンが第3パターンであると識別されたとき、第2コア312は、第3パターンの異常である「ちょうちん」が発生したことを示す出力データを出力装置13に出力させる。正常な縫い目SEであると識別されたとき、第2コア312は、縫い目SEが正常であることを示す出力データを出力装置13に出力させる。
【0141】
本実施形態においては、機械学習を用いる[縫い目の異常検出の第4の方法]が実施される前に、[縫い目の異常検出の第1の方法]が実施される。すなわち、ステップSE6及びステップSE7が実施される前に、ステップSE3、ステップSE4、及びステップSE5が実施される。[縫い目の異常検出の第1の方法]は、[縫い目の異常検出の第4の方法]よりも簡便であり、解析処理の処理速度の低下及び解析時間の長期化を抑制することができる。[縫い目の異常検出の第1の方法]において縫い目SEの異常が検出された場合、[縫い目の異常検出の第4の方法]を実施しなくても済むので、解析処理の処理速度の低下及び解析時間の長期化が抑制される。[縫い目の異常検出の第1の方法]において縫い目SEの異常が検出されない場合、[縫い目の異常検出の第4の方法]を実施することにより、縫い目SEの異常の有無及び縫い目SEの異常のパターンを高精度に検出することができる。
【0142】
[効果]
以上説明したように、本実施形態によれば、縫い目SWの異常の検出がマルチコアプロセッサ31を有する縫い目検査装置30によって実行される。マルチコアプロセッサ31の第1コア311及び第2コア312のそれぞれは、汎用オペレーティングシステムによってタスク管理される。これにより、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)によって動作する専用コンピュータを使用する場合に比べて、ミシン1の低コスト化を実現することができる。
【0143】
汎用オペレーティングシステムによってタスク管理されるマルチコアプロセッサ31の処理速度は、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)によって動作する専用コンピュータの処理速度に比べて、遅くなる可能性がある。すなわち、汎用オペレーティングシステムを使用した場合、センサの検出値の取得及び解析のリアルタイム性が損なわれる可能性がある。
【0144】
本実施形態においては、第1コア311が取得処理を占有し、第2コア312が解析処理を占有する。第1コア311は取得処理のみを実行すればよく、第2コア312は解析処理のみを実行すればよい。また、第1コア311及び第2コア312のそれぞれにおいて割り込み処理は実行されず、第1コア311及び第2コア312のそれぞれはポーリング処理される。そのため、マルチコアプロセッサ31による取得処理の処理速度の低下及び解析処理の処理速度の低下が抑制される。したがって、縫い目検査装置30は、リアルタイム性を維持しつつ低コストで縫い目SEの検査を実施することができる。
【0145】
本実施形態においては、正常な縫い目SEが形成されたときの張力の検出値に基づいて、参照特徴量が予め導出される。これにより、参照特徴量と検出特徴量とを照合するだけで、縫い目SEの異常を効率良く判定することができる。
【0146】
縫い目SEの異常検出の第1の方法及び第2の方法のように、張力センサ11の検出値のみならず、角度センサ12の検出値も取得されることにより、張力センサ11の検出値及び角度センサ12の検出値に基づいて、縫い目SEの異常を高精度に判定することができる。
【0147】
また、縫い目SEの異常検出の第2の方法のように、張力の累積値に基づいて累積曲線が生成されることにより、張力センサ11の検出値にノイズが含まれても、そのノイズの影響が軽減される。したがって、縫い目SEの異常を高精度に判定することができる。
【0148】
また、縫い目SEの異常検出の第3の方法のように、張力の検出値の周波数スペクトルが生成されることにより、角度センサ12の検出値を用いなくても、縫い目SEの異常を高精度に判定することができる。
【0149】
また、縫い目SEの異常検出の第4の方法のように、張力の検出値を機械学習することにより学習モデルを生成することにより、縫い目SEの異常のパターンを高精度に判定することができる。
【0150】
学習モデルの生成は、外部コンピュータ40において実行される。縫い目検査装置30においては学習モデルの生成が実行されないので、縫い目検査装置30の負荷が軽減される。また、ミシン1による縫製対象物Sの縫製と並行して、張力センサ11の検出値及び角度センサ12の検出値が外部コンピュータ40に逐次送信され、外部コンピュータ40において学習モデルが生成される。ミシン1による縫製対象物Sの縫製と並行して、外部コンピュータ40において学習モデルが生成されるので、多量の検出値に基づいて高品質な学習モデルが生成される。
【0151】
学習モデルは、モータ10の回転数毎に生成される。第1学習モデルは、モータ10が第1回転数(高回転数領域)で回転しているときに取得された第1検出値を機械学習することにより生成される。第2学習モデルは、モータ10が第2回転数(低回転数領域)で回転しているときに取得された第2検出値を機械学習することにより生成される。解析処理において、モータ10が第1回転数(高回転数領域)で回転しているときには、モータ10が第1回転数(高回転数領域)で回転しているときに取得された上糸UTの張力の検出特徴量と第1学習モデルとに基づいて、縫い目SEの異常のパターンが識別される。モータ10が第2回転数(低回転数領域)で回転しているときには、モータ10が第2回転数(低回転数領域)で回転しているときに取得された上糸UTの張力の検出特徴量と第2学習モデルとに基づいて、縫い目SEの異常のパターンが識別される。第1コア311に上糸UTの張力の検出値が取得されたときのモータ10の回転数に応じて、使用される学習モデルが切り換えられることにより、第2コア312による解析処理の負荷が軽減され、解析処理の処理速度の低下及び解析時間の長期化が抑制される。
【0152】
[変形例]
なお、上述の実施形態においては、検出特徴量と参照特徴量とを照合して、縫い目SEの異常を検出することとした。張力の検出値に係る閾値を設け、検出値と閾値との比較結果に基づいて、縫い目SEの異常を検出してもよい。
【符号の説明】
【0153】
1…ミシン、2…ミシンヘッド、3…ミシン針、4…針棒、5…天秤、6…糸調子器、7…針板、8…押え部材、9…釜、10…モータ、11…張力センサ、12…角度センサ、13…出力装置、14…入力装置、20…縫い目検査システム、30…縫い目検査装置、31…マルチコアプロセッサ、32…共有メモリ、33…共有メモリ、34…補助記憶装置、35…入出力インターフェース、36…通信装置、40…外部コンピュータ、41…プロセッサ、42…メインメモリ、44…補助記憶装置、45…入出力インターフェース、46…通信装置、50…通信システム、311…第1コア、312…第2コア、313…第3コア、314…第4コア、321…張力バッファ、322…回転バッファ、323…出力バッファ、LT…下糸、S…縫製対象物、SE…縫い目、UT…上糸。