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特許7454924耐久性に優れた発熱シート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】耐久性に優れた発熱シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20240315BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20240315BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H05B3/20 345
H05B3/12 A
H05B3/10 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019131647
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021018837
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】323004813
【氏名又は名称】株式会社TOTOKU
(74)【代理人】
【識別番号】110003904
【氏名又は名称】弁理士法人MTI特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】森泉 英人
(72)【発明者】
【氏名】中山 毅安
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】実公昭49-005943(JP,Y1)
【文献】特開2001-176644(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043922(WO,A1)
【文献】特開平10-189232(JP,A)
【文献】登録実用新案第3088449(JP,U)
【文献】特公平07-090562(JP,B2)
【文献】特開2011-091009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02- 3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径0.015~0.15mmの範囲内の発熱線と、該発熱線の表面に設けられた反応防止層とを有する発熱被覆線を、厚さ0.1~0.5mmの範囲内の2枚の樹脂シートで挟んでなる発熱シートであって、
前記反応防止層が、熱硬化性樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜であり、
前記樹脂シートは、その表面を加熱して軟化させることができる熱可塑性樹脂からなり、
前記発熱被覆線は、前記2枚の樹脂シートの内、一方の樹脂シートの表面を加熱軟化させた状態で前記発熱線を発熱させ、前記一方の樹脂シートの表面に前記発熱被覆線を直径のおよそ半分まで埋め込み、その後、他の樹脂シートの表面を加熱した状態で、前記発熱被覆線が半分埋め込まれた前記一方の樹脂シート上に貼り合わせ、又は、前記2枚の樹脂シートの表面を加熱して軟化させた状態で、その間に前記発熱被覆線を挟んでプレスすることで、該発熱被覆線を挟む同じ厚さの前記樹脂シートのそれぞれ前記発熱被覆線が半分ずつ埋め込まれており、
前記発熱シートは、前記発熱被覆線を厚さ方向の中央又は略中央に配置した厚さ0.2~1.0mmの範囲内であり、前記発熱線の直径が、前記発熱シートの厚さの1/20以上、1/2以下の範囲内である、ことを特徴とする発熱シート。
【請求項2】
前記絶縁性の樹脂皮膜上に融着性の樹脂皮膜が設けられている、請求項1に記載の発熱シート。
【請求項3】
前記発熱線が、銅線、銅合金線、めっき銅線、又はめっき銅合金線である、請求項1又は2に記載の発熱シート。
【請求項4】
記発熱線の表面から前記発熱シートの表面までの距離が0.025~0.4925mmの範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の発熱シート。
【請求項5】
直径0.015~0.15mmの範囲内の発熱線と、該発熱線の表面に設けられた反応防止層とを有する発熱被覆線を、厚さ0.1~0.5mmの範囲内の2枚の樹脂シートで挟んでなる発熱シートの製造方法であって、
前記反応防止層が、熱硬化性樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜であり、
前記樹脂シートは、その表面を加熱して軟化させることができる熱可塑性樹脂からなり、
前記発熱被覆線は、該発熱被覆線を挟む同じ厚さの前記樹脂シートのそれぞれ前記発熱線が半分ずつ埋め込まれており、
前記発熱シートは、前記発熱被覆線を厚さ方向の中央又は略中央に配置した厚さ0.2~1.0mmの範囲内であり、前記発熱線の直径が、前記発熱シートの厚さの1/20以上、1/2以下の範囲内であり、
前記2枚の樹脂シートの内、一方の樹脂シートの表面を加熱軟化させた状態で前記発熱線を発熱させ、前記一方の樹脂シートの表面に前記発熱被覆線を直径のおよそ半分まで埋め込み、その後、他の樹脂シートの表面を加熱した状態で、前記発熱被覆線が半分埋め込まれた前記一方の樹脂シート上に貼り合わせる、又は、前記2枚の樹脂シートの表面を加熱して軟化させた状態で、その間に前記発熱被覆線を挟んでプレスする、ことを特徴とする発熱シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れた発熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シート状又はフィルム状のヒーターとして、例えば特許文献1には、特に車両窓の透視面箇所に使用して有益であり且つ、表面の曇り除去や、表面上の積雪の融解などを効率的に行える発熱樹脂シートが提案されている。この発熱樹脂シートは、電熱線をポリカーボネート樹脂シートの肉部中に埋設した発熱樹脂シートであって、発熱樹脂シート中の電熱線は、その表面の大部分が肉部の材料に密接しているが、電熱線の略全長範囲の任意断面の一部が連続して発熱樹脂シートの一方の表面の外方に露出しているように構成されている。また、熱可塑性樹脂シートには、硬質で熱伝導性の大きい材料からなるハードコート層が少なくとも前記一方の表面を被うように形成されている。
【0003】
例えば特許文献2には、透明性と発熱機能および柔軟性と加工性に優れた透明フィルムヒーターおよびそれを用いた製造コストが改善されたヒーター機能付きガラスが提案されている。この透明フィルムヒーターは、透明フィルム基材の表面に透明発熱層を有する透明フィルムヒーターにおいて、該透明発熱層が少なくとも銀ナノワイヤを含むように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-76411号公報
【文献】特開2010-103041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、発熱樹脂シートの製造工程において、電熱線の表面温度が略200℃程度になるように通電しながら押圧している。しかし、電熱線の表面温度が高くなるとその表面が酸化し易く、酸化した酸化膜によって発熱樹脂シートの寿命に影響が生じるおそれがある。また、発熱線の表面に酸化膜が生じると、発熱線の表面と樹脂との密着性が低下するおそれがある。
【0006】
また、特許文献2では、銀ナノワイヤと環境中の硫化化合物との反応により、銀ナノワイヤの表面に硫化銀皮膜が形成され、その結果、抵抗値が経時により劣化する等、安定性や耐久性上の問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、耐久性に優れた発熱シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る発熱シートは、伸線加工された直径0.015~0.15mmの範囲内の発熱線と、該発熱線の表面に設けられた反応防止層とを有する発熱被覆線を、少なくとも2枚の樹脂シートで挟んでなる、ことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、発熱被覆線は上記直径範囲内の発熱線とその表面に設けられた反応防止層とを有するので、その反応防止層により、高温時に生じやすい酸化物や環境中の化学物質と反応しやすい反応生成物の生成を防ぐことができ、耐久性に優れた発熱樹脂シートとすることができる。特に反応防止層を有するので、発熱線に通電しながら樹脂シートを挟み込む工程での発熱線表面の酸化を防止し、より耐久性が高い発熱シートを得ることができる。また、反応生成物の生成を防ぐので、従来のような発熱線の表面と樹脂との密着性の低下も解決することができる。
【0010】
本発明に係る発熱シートにおいて、前記反応防止層が、熱硬化性樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜である。この発明によれば、反応防止層が熱硬化性樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜であるので、絶縁性を有する発熱被覆線とすることができる。
【0011】
本発明に係る発熱シートにおいて、前記樹脂皮膜上に融着性の樹脂皮膜が設けられている。この発明によれば、融着性を有する発熱被覆線とすることができる。
【0012】
本発明に係る発熱シートにおいて、前記発熱線は、銅線、銅合金線、めっき銅線、又はめっき銅合金線である。この発明によれば、少ない電力で発熱させることができるので、省エネルギーのもとで発熱シートを加温することができる。
【0013】
本発明に係る発熱シートにおいて、前記発熱線の直径が、前記発熱シートの厚さの1/20以上、1/2以下の範囲内であることが好ましい。この発明によれば、発熱線の直径を発熱シートの厚さとの関係で定義したので、発熱線の直径が発熱シートの厚さの1/20程度の小さい場合は、発熱シートとしての絶縁性を高めることができる点で好ましく、発熱線の直径が発熱シートの厚さの1/2程度の大きい場合は、発熱シートの表面までの熱の伝達が容易になる点で好ましい。
【0014】
本発明に係る発熱シートにおいて、前記発熱線を厚さ方向の中央又は略中央に配置した厚さ0.2~1.0mmの範囲内である。この発明によれば、上記範囲の厚さ発熱シートであり、しかも厚さ方向の中央又は略中央に発熱線が配置されているので、耐久性に優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐久性に優れた発熱シートを提供することができる。特に、反応防止層が設けられているので、高温時に生じやすい酸化物や環境中の化学物質と反応しやすい反応生成物の生成を防ぐことができ、また、そうした反応生成物の生成を防ぐので、従来のような発熱線の表面と樹脂との密着性の低下も解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る発熱シートの一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る発熱シートの寸法構成の説明図である。
図3】本発明に係る発熱シートの配線パターンの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る発熱シートについて、図面を参照しつつ説明する。本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[発熱シート]
本発明に係る発熱シート10は、図1に示すように、伸線加工された直径dが0.015~0.15mmの範囲内の発熱線1と、その発熱線1の表面に設けられた反応防止層2とを有する発熱被覆線3を少なくとも2枚の樹脂シート5(5a,5b)で挟んでなることを特徴とする。この発熱シート10は、反応防止層2は、熱硬化性樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜であり、その絶縁性の樹脂皮膜上に融着性の樹脂皮膜が設けられていることが好ましい。
【0019】
この発熱シート10では、発熱被覆線3が上記直径範囲内の発熱線1とその表面に設けられた反応防止層2とを有するので、その反応防止層2により、高温時に生じやすい酸化物や環境中の化学物質と反応しやすい反応生成物の生成を防ぐことができ、耐久性に優れたものとすることができる。特に反応防止層2を有するので、発熱線1に通電しながら発熱被覆線3を樹脂シート5で挟み込む工程での発熱線表面の酸化を防止し、より耐久性が高い発熱シート10を得ることができる。また、そうした反応生成物の生成を防ぐので、従来のような発熱線の表面と樹脂との密着性の低下も解決することができる。
【0020】
以下、構成要素について詳しく説明する。図2は、各構成要素の寸法の説明図であり、以下では、図2に示す寸法符号を用いて説明する。
【0021】
<発熱被覆線>
発熱被覆線3は、発熱線1と、その発熱線1の表面に設けられた反応防止層2とで少なくとも構成されている。この発熱被覆線3は、少なくとも2枚の樹脂シート5(5a,5b)で挟まれて発熱シート10を構成している。
【0022】
(発熱線)
発熱線1は、通電により発熱する発熱体であり、伸線加工された直径dが0.015~0.15mmの範囲内であることが好ましい。発熱線1は、伸線加工された上記直径dの範囲内の丸線導体であり、透明導電膜からなる矩形の発熱体ではないので、矩形断面の発熱線のような屈曲時のエッジ部への応力集中がなく、屈曲時に亀裂や断線が生じにくく、フレキシブル性に優れた発熱シートとすることができる。発熱線1の直径dが0.015mm未満では、発熱線1の材質にもよるが、細すぎて強度が劣ることがある。発熱線1の線径dが0.15mmを超えると、太すぎて発熱シート10全体の厚さが厚くなってしまう。なお、本願において、発熱線1の直径dというときは、金属素線の直径の意味であり、絶縁性の樹脂皮膜等が設けられた後の直径ではない。
【0023】
発熱線1の材質としては、銅線、銅合金線、めっき銅線、又はめっき銅合金線を挙げることができる。これらの材質の発熱線1は、導電率が3.5~100%IACSの範囲内であるので、少ない電力で発熱させることができ、省エネルギーのもとで発熱シート10を加温することができる。銅合金線としては、銀入り銅合金線、錫入り銅合金線、ニッケル入り銅合金線等を挙げることができる。なかでも、銀を4~10質量%含む銀入り銅合金線、錫を0.1~1.5質量%含有する錫入り銅合金線、ニッケルを0.5~50質量%含有するニッケル入り銅合金線を好ましく挙げることができる。これらの銅合金線は、導電率が3.5~100%IACSの範囲内であるとともに、強度とのバランスも良く、発熱シート10に設ける発熱線1として好ましい。
【0024】
めっきを施す場合のめっきの種類としては、銀めっき、錫めっき、ニッケルめっき等を好ましく挙げることができる。めっきを設けるか否かは、発熱線1の端末処理手段によって任意に選択されることが好ましい。例えば、発熱線1を超音波ウエルダーで電極や端子等に接続する場合は、めっきが設けられていないことが好ましい。はんだ付けで接続する場合には、はんだ付け時の銅の反応防止のためにニッケル、はんだ、錫、銀等のめっきを施しておくことが好ましい。
【0025】
発熱線1は、その材質により、体積抵抗率、引張強度等が異なる。そのため、発熱線1の特性に応じて選択することができる。上記した発熱線1の中でも、後述の実施例で用いた銀10質量%含有銅合金線は、体積抵抗率が0.023μΩcmで引張強度(ヤング率)が11000N/mmであり、こうした銀入り銅合金線等の銅合金線は、体積抵抗率と引張強度とのバランスがよく、発熱シート10の構成材料として好ましいといえる。
【0026】
発熱線1の直径dは、発熱シート10の厚さの1/20(=0.05)以上、1/2(=0.5)以下の範囲内であることが好ましい。発熱線1の直径dを発熱シート10の厚さとの関係で定義したので、発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/20程度の小さい場合は、発熱線1の表面から発熱シート10の表面までの距離Dが長くなるので、絶縁性と耐久性を高めることができる点で好ましく、発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/2程度の大きい場合は、発熱線1の表面から発熱シート10の表面までの熱の伝達が容易になる点で好ましい。発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/2を超えて太くなると、発熱シート10の表面までの距離Dが短くなって熱が速やかに熱伝導するけれども、その距離Dが短すぎて絶縁性や耐久性が低下して実用性の点で不十分の場合がある。一方、発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/20未満に細くなると、発熱シート10の表面までの距離Dが長くなって熱が速やかに表面まで熱伝導しにくくなってしまう場合がある。なお、発熱シート10の厚さとの関係を、発熱被覆線3ではなく発熱線1で特定したのは、熱伝達の関係においては、発熱線1が発熱部となるためである。
【0027】
発熱線1は、抵抗線の材質により、体積抵抗率、引張強度(ヤング率)が異なる。そのため、抵抗線の種類に応じた特性に応じて選択することができる。上記した抵抗線の中でも、2質量%の銀入り銅合金線は、体積抵抗率が0.023μΩcmであり、引張強度(ヤング率)が11000N/mmであり、要求される耐久性に応じて発熱線1の材質を選択することが好ましい。
【0028】
(反応防止層)
反応防止層2は、発熱線1の表面に設けられている。反応防止層2は、高温時に生じやすい酸化物や環境中の化学物質と反応しやすい反応生成物の生成を防ぐことができ、発熱線1及び発熱シート10を耐久性に優れたものとすることができる。特に反応防止層2は、発熱線1に通電しながら樹脂シート5を挟み込む工程での発熱線表面の酸化を防止することができる。こうした作用効果を奏する反応防止層2であれば特に限定されないが、熱硬化性樹脂からなる反応防止層2であることが好ましい。反応防止層2は、単層でも複層でもよい。
【0029】
発熱線1は、2枚の樹脂シート5a,5bの間に埋め込む際に、150~200℃程度の加熱される場合があるので、反応防止層2はそうした温度で劣化しない材質であることがより好ましい。反応防止層2としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等からなる絶縁性の樹脂皮膜を挙げることができる。反応防止層2の厚さは特に限定されないが、線径が大きいほど厚く線径が小さいほど薄く、1~10μmの範囲内で線径に応じた厚さであればよい。こうした反応防止層2は、さらに耐候性を向上させることができる。
【0030】
反応防止層2として、さらに融着性の樹脂皮膜が任意に設けられていてもよい。融着性の樹脂皮膜を設けることにより、融着性を有する発熱被覆線3とすることができ、樹脂シート5への融着をより容易に行って、発熱被覆線3を樹脂シート5に容易に接合することができる。融着性の樹脂皮膜としては、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。そうした樹脂皮膜の厚さは特に限定されないが、絶縁性の樹脂皮膜と同様、線径が大きいほど厚く線径が小さいほど薄く、1~10μmの範囲内で線径に応じた厚さであればよい。
【0031】
発熱シート10は、発熱線1が配線されている部分の投影面積割合が、0.2~5.0%の範囲内であることが好ましい。投影面積割合を前記範囲内とすることにより、発熱線1で覆われている投影面積が小さいものとなり、発熱シート10を表示装置の表面や装飾部品の表面に設けても外観を損なうのを極力小さくすることができる。丸線からなる発熱線1は、同じ断面積からなる矩形線に比べて、平面視した場合に発熱線1が目立ちにくく、表示装置の表面や装飾部品の表面の外観をより損なうことがないという利点がある。投影面積割合が0.2%未満では、発熱熱シート10における発熱線1の配線パターンの割合が少なすぎて発熱効果が十分でないおそれがある。一方、投影面積が5.0%を超えると、表示装置の表面や装飾部品の表面の外観を損なうおそれがある。なお、投影表面積を、発熱被覆線3ではなく発熱線1としたのは、反応防止層2を形成する樹脂は透明である場合が多いためである。
【0032】
図3は、発熱シート10の配線パターンの一例である。発熱シート10は、発熱被覆線3が配線されて配線パターンが構成されるが、その配線パターンは特に限定されない。
【0033】
<樹脂シート>
樹脂シート5は、少なくとも2枚で構成され、発熱被覆線3を挟んで発熱シート10を形成する。この樹脂シート5は、少なくとも2枚で発熱被覆線3を挟み、発熱被覆線3の表面から発熱シート10の表面までの距離Dが0.025~0.4925mmの範囲内となるように構成されている この距離範囲とすることにより、上記直径範囲の発熱被覆線3のいずれを採用した場合でも、発熱シート10の厚さを0.2~1.0mm程度の範囲内とすることができる。
【0034】
樹脂シート5は、発熱被覆線3を厚さ方向Yの中央又は略中央に配置した樹脂製のシート状物である。発熱被覆線3を厚さ方向Yの中央又は略中央に配置するためには、同じ厚さTa,Tbの2枚の樹脂シート5(5a,5b)で上下から発熱被覆線3を挟む。こうした手段の一例としては、1枚目の樹脂シート5aの表面を加熱して軟化させた状態で、150℃~200℃程度に加熱した発熱被覆線3をおよそ半分まで埋め込み、その後、表面を加熱して軟化させた2枚目の樹脂シート5bを、発熱被覆線3が半分埋め込まれた1枚目の樹脂シート5a上に貼り合わせて、図1に示す断面形態を有する発熱シート10を作製することができる。また、例えば2枚の樹脂シート5a,5bの表面を加熱して軟化させた状態で、その間に発熱被覆線3を挟んでプレスして発熱シート10を作製してもよい。なお、発熱シート10の作製は、これらの例に限定されず、他の手段を任意に選択して作製してもよい。
【0035】
樹脂シート5の種類は特に限定されず、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、上記のように各樹脂シート5a,5bの表面を加熱して軟化させることができる熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、発熱シート10が各種部品の表面に貼り合わされることから、耐候性のよい樹脂材料が好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。
【0036】
樹脂シート5a,5bの厚さは、上記のように、発熱線1の直径dが樹脂シート5の合計厚さTの1/20以上、1/2以下となるように設計することが好ましい。すなわち、本発明に係る発熱シート10では、樹脂シート5の合計厚さTは、発熱線1の直径dとの関係で設計されることが望ましく、その結果、発熱線1で生じた熱を、樹脂シート5a,5bの表面まで速やかに熱伝導させることができ、省エネルギーで速やかに加熱することができる。なお、樹脂シート5は、同じ厚さTa,Tbの2枚の樹脂シート5a,5bを貼り合わせて構成されるので、1枚ごとの樹脂シート5a,5bの厚さTa,Tbは、発熱線1の直径dとの関係で設計される樹脂シート5の合計厚さTの1/2となる。なお、樹脂シート5の合計厚さTとの関係を、発熱被覆線3ではなく発熱線1で特定したのは、熱伝達の関係においては、発熱線1が発熱部となるためである。
【0037】
2枚の樹脂シート5a,5bの厚さTa,Tbを同じとすることで、発熱被覆線3が樹脂シート5の厚さ方向Yの中央に配置されるので、発熱被覆線3を安定して保持することができ、製造時又は部品表面への取付時等に発熱被覆線3に曲げ応力が加わっても、発熱被覆線3が破損したり断線したりすることを防ぐことができる。また、発熱シート10が部品表面に取り付けられる場合には、発熱シート10の表面が最外部に曝されることになり、傷の形成や紫外線劣化が起こったりするおそれもあるのであまり薄くすることもできない。こうした理由により、2枚の樹脂シート5a,5bは、厚さが同じであることが好ましい。
【0038】
具体例としては、各樹脂シート5a,5bの厚さTa,Tbは0.1~0.5mm程度の範囲内であることが好ましい。各樹脂シート5a,5bの厚さTa,Tbが0.1mm未満では、薄すぎて上記のように薄くした不具合が発生するおそれがある。一方、各樹脂シート5a,5bの厚さTa,Tbが0.5mmを超えると、発熱シート10の表面までの熱伝導が低下して省エネルギーの観点からも不十分になるとともに、曲げにくくなることがある。また、発熱被覆線3は、樹脂シート5の厚さ方向Yの中央に配置されているので、安定した絶縁性も確保できる。
【0039】
なお、本発明に類似する従来技術として、透明フィルムヒーターが知られているが、この透明フォイルムヒーターは、PET等の透明フィルム基板上に、ITO(インジウム錫オキサイド)や酸化スズ等の導電性金属酸化物からなる透明発熱層をスパッタリング法等の成膜手段で設けている。しかし、透明フィルムヒーターは、透明発熱層の抵抗が大きく、サイズを大きくすると総抵抗値が大きくなってしまい、高圧電源が必要となるという難点がある。これに対して、本発明に係る発熱シート10は、発熱被覆線3を2枚の樹脂シート5a,5bの間に設けるという製造容易な手段で作製できるとともに、導電性の良い発熱線1を発熱被覆線3の構成要素として用いるので、サイズを大きくしても総抵抗値が大きくなりにくいという利点がある。
【0040】
樹脂シート5が透明であるか否かは問わない。透明である場合には、部品の外観を損ないにくいのでより好ましい。透明については、無色透明でも有色透明であってもよく、発熱シート10が取り付けられる部品に応じて選択することができる。また、発熱シート10が取り付けられる部品によっては、透明でなくてもよく、半透明でも不透明でもよい。
【0041】
<発熱シート>
発熱シート10には、発熱被覆線3を挟んだ樹脂シート5の片面又は両面に任意の機能層(機能フィルムも含む。以下同じ。)を設けることができる。例えば、部品側の表面には、粘着層や接着層が好ましく設けられる。部品側の反対側の表面には、耐候性のある紫外線防止層、擦過性や耐傷性を持たせるためのハードコート層、それら機能層と樹脂シートとの密着性を向上させるためのプライマー層等を任意に設けることができる。それらの機能層の厚さは特に限定されず、従来公知の厚さを任意に選択して設けられるが、あまり厚くすると、発熱被覆線3が発熱シート10の厚さ方向Yの中央又は略中央に配置されなくなってしまうので、熱伝達に影響が出ない程度の厚さに設計されることが望ましい。
【0042】
発熱シート10の厚さは、上記した任意の機能層を設けた後の厚さとして、0.2~1.0mmの範囲内であることが好ましい。こうした厚さの範囲とすることにより、熱を効率よく部品の表面に伝えることができる。
【0043】
<用途>
本発明に係る発熱シート10は、各種の用途に使用することができる。この発熱シート10を表示装置の表面や装飾部品の表面に設ける場合は、粘着層や接着層を介して貼り合わせることができる。そうした用途例としては、光センサーハウジングの曇り止め、監視カメラのガラス部防曇・結露防止、寒冷地で使用されるガラス窓・照明の結露防止や凍結防止、液晶の機動性補助・応答性補助、試験管など理化学系器具の加温・保温、ヒーター機能付き回路基板、観察しながら加温したい化学分析、細胞培養実験用ヒーター、装置除き窓の結露防止、加熱設備の熱源、等として利用可能である。
【実施例
【0044】
以下、実験例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0045】
[実験1]
発熱被覆線3として、直径dが0.05mmの銅線と、その銅線上に設けられた厚さ4μmのポリウレタン樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜と、その絶縁性の樹脂皮膜上に設けられた厚さ4.5μmのナイロン樹脂からなる融着性の樹脂皮膜とで構成したものを使用した。樹脂シート5は、厚さTa,Tbが0.15mmのポリカーボネートフィルムを樹脂シート5a,5bとして用いた。一方の樹脂シート5aの表面に発熱被覆線3を図3に示す配線パターンで布線する際に、樹脂シート5aの表面を加熱軟化させた状態で発熱線1を超音波で発熱させ、樹脂シート5aの表面に発熱被覆線3を直径の約半分まで埋め込んだ。その後、他の樹脂シート5bの表面を加熱した状態で、発熱被覆線3が半分埋め込まれた樹脂シート5a上に貼り合わせて発熱シート10を作製した。
【0046】
作製した発熱シート10について、抵抗値を測定するとともに、所定の印加電圧を印加したときの電流、電力、表面温度を測定した。なお、表面温度は、部品側の反対面となる樹脂シート5bの表面で測定した。その結果を表1に示した。
【0047】
[実験2]
発熱被覆線3として、直径dが0.14mmの銅線と、その銅線上に設けられた厚さ6μmのポリウレタン樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜と、その絶縁性の樹脂皮膜上に設けられた厚さ4.5μmのナイロン樹脂からなる融着性の樹脂皮膜とで構成したものを使用した。樹脂シート5は、厚さTa,Tbが0.15mmのポリカーボネートフィルムを樹脂シート5a,5bとして用いた。それ以外は実験1と同様にして発熱シート10を作製した。作製した発熱シート10の特性等の結果を表1に併せて示した。
【0048】
【表1】
【0049】
[実験3]
発熱被覆線3として、直径dが0.11mmの銅線と、その銅線上に設けられた厚さ5μmのポリウレタン樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜と、その絶縁性の樹脂皮膜上に設けられた厚さ5μmのナイロン樹脂からなる融着性の樹脂皮膜とで構成したものを使用した。樹脂シート5は、厚さTa,Tbが0.4mmのPVCフィルムを樹脂シート5a,5bとして用いた。それ以外は実験1と同様にして発熱シート10を作製した。作製した発熱シート10の特性等の結果を表2に示した。なお、この実験3では、印加電圧を1.5Vと1.7Vの2種類で行った結果を示した。
【0050】
【表2】
【0051】
[実験4]
発熱被覆線3として、直径dが0.016mmの10質量%銀入り銅線と、その銅線上に設けられた厚さ1.5μmのポリウレタン樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜と、その絶縁性の樹脂皮膜上に設けられた厚さ1μmのナイロン樹脂からなる融着性の樹脂皮膜とで構成したものを使用した。樹脂シート5は、厚さTa,Tbが0.15mmのポリカーボネートフィルムを樹脂シート5a,5bとして用いた。それ以外は実験1と同様にして発熱シート10を作製した。作製した発熱シート10の特性等の結果を表3に併せて示した。なお、この実験4では、印加電圧を36.4Vと45.1Vの2種類で行った結果を示した。
【0052】
【表3】
【0053】
[実験5~7]
実験5~7は、発熱線1の線径と各樹脂シート5a,5bの厚さTa,Tbを種々変更したときの結果である。上記実験1~4の結果とともに表4に示した。また、なお、実験5~7は、発熱被覆線3として、各直径dの銅線を用い、その銅線上にはその直径に応じた厚さのポリウレタン樹脂からなる絶縁性の樹脂皮膜とナイロン樹脂からなる融着性の樹脂皮膜を設けたものを使用した。樹脂シート5a、5bは、各厚さTa,Tbのポリカーボネートフィルムを用いた。表4のうち、耐酸化性は、発熱シート10の製造工程で加わる加熱によって発熱線1に酸化が生じるか否かを評価した。耐酸化性は、発熱線1の表面に酸化が生じていない場合を「○」とし、酸化が生じている場合を「△」とした。
【0054】
【表4】
【符号の説明】
【0055】
1 発熱線
2 反応防止層
3 発熱被覆線
5 樹脂シート
5a,5b 樹脂シート
10 発熱シート
P 発熱線の線間長さ
T 樹脂シートの合計厚さ
Ta,Tb 樹脂シートの厚さ
Y 発熱シートの厚さ方向
D 発熱線の表面から発熱シートの表面までの距離
d 発熱線の直径


図1
図2
図3