(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】A重油組成物
(51)【国際特許分類】
C10L 1/04 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
C10L1/04
(21)【出願番号】P 2020046363
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 武
(72)【発明者】
【氏名】池田 智明
(72)【発明者】
【氏名】堀内 肇
(72)【発明者】
【氏名】大當 修
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-231200(JP,A)
【文献】特開2011-068729(JP,A)
【文献】特開2007-326977(JP,A)
【文献】特開2016-176031(JP,A)
【文献】特開2008-231201(JP,A)
【文献】特開2000-239676(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1347497(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/04
C10L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が200.0℃~300.0℃、飽和炭化水素の含有割合が75.0容量%以上である第1の炭化水素基材を75.00~96.00容量%、
(b)常圧蒸留における初留点が200.0℃以上、10%残油の残留炭素分が0.70~1.10質量%、芳香族炭化水素の含有割合が90.0容量%以上である第2の炭化水素基材を3.00~20.00容量%、
(c)残炭調整材を0.20~5.00容量%含み、
常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が200.0℃~320.0℃、
10%残油の残留炭素分が0.20質量%~0.70質量%、
目詰まり点が-10℃以下、
セタン指数が40.0以上
であることを特徴とするA重油組成物。
【請求項2】
前記第1の炭化水素基材の15℃における密度が0.7900~0.8300g/cm
3、前記第2の炭化水素基材の15℃における密度が0.9900~1.0100g/cm
3であり、15℃における密度が0.8000~0.8600g/cm
3である請求項1に記載のA重油組成物。
【請求項3】
前記残炭調整材がC重油である請求項1または請求項2に記載のA重油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A重油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重油組成物は、各種産業分野において種々の用途に使用されており、JIS K2205において、動粘度により、1種(A重油)、2種(B重油)及び3種(C重油)の3種類に分類されている。
これらの重油組成物のうち、A重油は、一般にハウス加温栽培用暖房機の燃料油や、ビル等の暖房機の燃料油や、漁船の燃料油等として用いられている。
【0003】
ところで、A重油は、冬季における低温下や寒冷地の低温環境下において、ワックス分を析出して夾雑物阻止用のろ過器のフィルターを閉塞させたり、ワックス分の析出に伴って流動性も低下させて、燃料ラインそのものを閉塞させ易いことから、こうしたA重油の低温流動性の改善が求められるようになっていた。
【0004】
A重油の低温流動性を改善する方法として、A重油に低温流動性向上剤を添加することが知られている。低温流動性向上剤は、低温下で析出する燃料油中のワックスに作用し、ワックスの結晶が巨大化するのを妨げ、結晶を微小なものにとどめて、流動性を改良する添加成分である。
【0005】
また、低温流動性を改善するA重油として、特定の脱ろう軽油留分を基材として用いることで、流動点を低減させたものが提案されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、低温流動性向上剤を添加したA重油や、脱ろう処理した軽油を基材とするA重油は、必要以上の製造コストの増加を招き経済性に劣る。
【0007】
また、A重油は、JIS K 2205(重油)にその品質が規定されており、残留炭素分が4質量%以下であることが規定されている。
一方、軽油組成物との製品区分を明確化し、軽油取引税の課税対象になることを避けるため、一般にA重油には、10%残油の残留炭素分が0.2質量%以上になるように、常圧残渣油、減圧残渣油、直脱残渣油、エキストラクト油(潤滑油の溶剤抽出副生油)などの残渣油等が残炭調整材として添加されている。
【0008】
ところが、従前より、上記残炭調整材に起因するスラッジにより夾雑物阻止用に設けられるろ過器中のフィルターが閉塞し、燃料供給が困難になることが知られている。近年では、夾雑物阻止用に設けられるろ過器中のフィルターの目開きが微細化されつつあることから、スラッジによるフィルターの閉塞や、フィルター通油性の低下が一層生じ易い状況になっている。
【0009】
A重油のスラッジの発生を抑制するために、例えば、スラッジ分散剤として、分子中に>C=N+<結合を有する重合体と、長鎖アルキルリン酸エステルおよび/またはアルキルスルホこはく酸エステルとの混合物が添加された重油組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、上記と同様に、スラッジ分散剤を添加したA重油は、必要以上の製造コストの増加を招き経済性に劣る。
【0010】
一方、近年の社会情勢として、エネルギー供給構造高度化法(正式名称:「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」)の制定に代表されるように、石油資源の有効活用が着目されるようになっており、かかる観点から、重質な基材の有効活用が望まれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平8-157839号公報
【文献】特開平5-331470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、石油資源を有効活用しつつ、低温流動性向上剤やスラッジ分散剤を使用することなく、低温流動性に優れスラッジの発生が抑制されたA重油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、
常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が200.0℃~300.0℃、飽和炭化水素の含有割合が75.0容量%以上である炭化水素留分に着目するに至った。
係る留分は、灯油留分に必要に応じて核水素化処理を施した上で精製蒸留塔で分留した際に得られる重質留分ないし残渣留分に対応するものであり、より具体的には、ジェット燃料油ないしは有機溶剤の製造時に副生する留分に相当するが、係る留分を基材として多量含有するA重油組成物を調製すれば、石油資源の有効活用を図ることができる。
【0014】
しかしながら、灯油留分は、飽和炭化水素の含有割合が高く、A重油組成物の基材として使用した場合にスラッジを生成してフィルターの目詰まりを生じ易いばかりか、得られるA重油組成物の引火点を向上させ難く、A重油組成物の基材として多量配合させ難いものとして知られていた。
灯油留分を原料として副生する上記重質留分ないし残渣留分は、原料となる灯油留分よりも重質な成分の含有割合が高くなることから、A重油組成物の基材として一層配合させ難いことが予想された。
【0015】
このような状況下、本発明者等がさらに検討したところ、常圧蒸留における初留点が200.0℃以上、10%残油の残留炭素分が0.70~1.10質量%、芳香族炭化水素の含有割合が90.0容量%以上である炭化水素留分に着目するに至った。
係る留分は、エチレン製造装置や接触改質装置などの石油化学装置から副生するラフィネートをさらに精密蒸留塔で分留した際に得られる重質留分ないし残渣留分に対応するものであり、より具体的には、ラフィネートを原料として芳香族系溶剤を製造する際に副生する留分に相当する。
【0016】
そして、本発明者等は、上記(a)常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が200.0℃~300.0℃、飽和炭化水素の含有割合が75.0容量%以上である炭化水素留分を第1の炭化水素基材とし、係る第1の炭化水素基材に対し、(b)常圧蒸留における初留点が200.0℃以上、10%残油の残留炭素分が0.70~1.10質量%、芳香族炭化水素の含有割合が90.0容量%以上である炭化水素留分を第2の炭化水素基材として、さらに(c)残炭調整材を各々特定の割合で配合することにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0017】
すなわち、本発明は、
(a)常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が200.0℃~300.0℃、飽和炭化水素の含有割合が75.0容量%以上である第1の炭化水素基材を75.00~96.00容量%、
(b)常圧蒸留における初留点が200.0℃以上、10%残油の残留炭素分が0.70~1.10質量%、芳香族炭化水素の含有割合が90.0容量%以上である第2の炭化水素基材を3.00~20.00容量%、
(c)残炭調整材を0.20~5.00容量%含み、
常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が200.0℃~320.0℃、
10%残油の残留炭素分が0.20質量%~0.70質量%、
目詰まり点が-10℃以下、
セタン指数が40.0以上
であることを特徴とするA重油組成物、
(2)前記第1の炭化水素基材の15℃における密度が0.7900~0.8300g/cm3、前記第2の炭化水素基材の15℃における密度が0.9900~1.0100g/cm3であり、15℃における密度が0.8000~0.8600g/cm3である上記(1)に記載のA重油組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、石油資源を有効活用しつつ、低温流動性向上剤やスラッジ分散剤を使用することなく、低温流動性に優れスラッジの発生が抑制されたA重油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0020】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、各々以下の試験法方及び計算を用いて求めた値を意味する。
・「常圧蒸留における留出温度」;
JIS K 2254:1998「石油製品-蒸留試験方法」
・「10%残油の残留炭素分」;
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」
・「飽和炭化水素の含有割合」;
JPI-5S-49-07「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に準じて測定された飽和分の値を意味する。
・「芳香族炭化水素の含有割合」;
JPI-5S-49-07「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に準じて測定された芳香族分の合計値を意味する。
・「オレフィン分の含有割合」;
JPI-5S-49-07「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に準じて測定されたオレフィン分の値を意味する。
・「残留炭素分」:
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」
・「目詰まり点」;
JIS K 2288:2000「石油製品-軽油-目詰まり点試験方法」
・「セタン指数」;
以下の式から算出された値を意味する。
セタン指数=0.49083+1.06577X-0.0010552X2
X=97.833(LogA)2+2.2088B(LogA)+0.01247B2-423.51LogA-4.7808B+419.59
A=(9÷5)C+32
B=141.5÷(D÷0.9995)-131.5
C=常圧蒸留における50容量%留出温度(℃)
D=15℃における密度(g/cm3)
・「15℃における密度(密度(15℃))」;
JIS K 2249-1:2011「原油及び石油製品-密度の求め方―(振動法)」
・「50℃における動粘度(動粘度(50℃))」;
JIS K 2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」
・「硫黄分」;
500質量ppm以下の硫黄分:JIS K 2541-6:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第6部:紫外蛍光法」
500質量ppmを超える硫黄分:JIS K 2541-4:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第4部:放射線励起法」
・「引火点」
JIS K 2265-3:2007「引火点の求め方―第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」
・「曇り点」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」
・「流動点」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」
・「残留炭素分(スラッジ分)」
JIS K 2276:2003「微量きょう雑物試験方法(試験室ろ過法)」(ただし、試験用及びコントロール用フィルタの孔径を1.2マイクロメートルに変更して測定する)
【0021】
本発明に係るA重油組成物は、
(a)常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が200.0℃~300.0℃、飽和炭化水素の含有割合が75.0容量%以上である第1の炭化水素基材を75.00~96.00容量%、
(b)常圧蒸留における初留点が200.0℃以上、10%残油の残留炭素分が0.70~1.10質量%、芳香族炭化水素の含有割合が90.0容量%以上である第2の炭化水素基材を3.00~20.00容量%、
(c)残炭調整材を0.20~5.00容量%含み、
常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が200.0℃~320.0℃、
10%残油の残留炭素分が0.20質量%~0.70質量%、
目詰まり点が-10℃以下、
セタン指数が40.0以上
であることを特徴とするものである。
【0022】
先ず、本発明に係るA重油組成物を構成する第1の炭化水素基材について説明する。
【0023】
本発明において、第1の炭化水素基材は、常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が、200.0℃~300.0℃であるものであり、205.0℃~300.0℃であるものが好ましく、205.0℃~295.0℃であるものがさらに好ましい。
第1の炭化水素基材の常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が上記範囲にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、引火点を高く保ち易くなるとともに、低温流動性を良好に保ち易くなる。
【0024】
本出願において、「常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度」とは、常圧蒸留した際における10容量%留出温度から90容量%留出温度に至る温度範囲を意味し、係る温度範囲の下限値が10容量%留出温度に相当し、係る温度範囲の上限値が90容量%留出温度に相当する。
【0025】
本発明において、第1の炭化水素基材は、常圧蒸留における10容量%留出温度が、200.0℃~275.0℃であることが好ましく、205.0℃~275.0℃であることがより好ましく、205.0℃~270.0℃であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明において、第1の炭化水素基材は、常圧蒸留における90容量%留出温度が、230.0℃~300.0℃であることが好ましく、235.0℃~300.0℃であることがより好ましく、235.0℃~295.0℃であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明において、第1の炭化水素基材は、「常圧蒸留における90容量%留出温度-常圧蒸留における10容量%留出温度」で表される温度差が、5.0 ℃~70.0℃であることが好ましく、10.0℃~60.0℃であることがより好ましく、13.0℃~50.0℃であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明において、第1の炭化水素基材における飽和炭化水素の含有割合は、75.0容量%以上であり、78.0容量%以上であることが好ましく、81.0容量%以上であることがより好ましい。
炭化水素混合基材は飽和炭化水素の含有量が75.0容量%以上であることにより、本発明に係るA重油組成物において、適正なセタン指数に容易に制御することができ、良好な燃焼状態を容易に達成することができる。
【0029】
本発明において、第1の炭化水素基材の15℃における密度は、0.7900~0.8300g/cm3であることが好ましく、0.7950~0.8300g/cm3であることがより好ましく、0.7950~0.8250g/cm3であることがさらに好ましい。
第1の炭化水素基材の15℃における密度が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、適正な密度範囲に容易に制御することができ、良好な燃焼状態を容易に達成することができる。
【0030】
本発明において、第1の炭化水素基材の引火点は、60.0℃以上であることが好ましく、65.0℃以上であることがより好ましく、70.0℃以上であることがさらに好ましい。
第1の炭化水素基材の引火点が60.0℃以上であることにより、本発明に係るA重油組成物をより容易に取り扱うことができる。
【0031】
本発明において、第1の炭化水素基材の硫黄分(硫黄分含有量)は、100質量ppm以下であることが好ましく、90質量ppm以下であることがより好ましく、80質量ppm以下であることがさらに好ましい。
第1の炭化水素基材の硫黄分が100質量ppm以下であることにより、本発明に係るA重油組成物において、硫黄分の含有量を適正な範囲に容易に制御することができ、燃焼時における硫黄化合物の生成を容易に抑制することができる。
【0032】
本発明において、第1の炭化水素基材の含有割合は75.00容量%~96.00容量%であることが好ましく、77.00容量%~96.00容量%であることがより好ましく、79.00容量%~96.00容量%であることがさらに好ましい。
第1の炭化水素基材の含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、セタン指数を適正な範囲に容易に制御することができ、良好な燃焼状態を容易に達成することができる。
【0033】
本発明において、第1の炭化水素基材としては、上述した特性を満たすものであれば、その製造方法、精製方法に特に制限はないが、例えば、石油化学工場などにて、灯油留分、軽油留分を分留又は精密蒸留、水添プロセスなどを経て、得られる溶剤プロセス油、及び、溶剤プロセス残渣油、及びその混合物などを好適に用いることができ、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本発明において、第1の炭化水素基材としては、灯油留分に必要に応じて核水素化処理を施した上で精製蒸留塔で分留した際に得られる重質留分ないし残渣留分であることが好ましく、より具体的には、以下の(1)~(3)の留分を挙げることができる。
(1)脱硫灯油を原料とし、核水添反応させた後に精密蒸留塔で分留した残渣留分。
(2)脱硫灯油を原料とし、精密蒸留塔で分留した残渣留分。
(3)脱硫灯油を原料として、精密蒸留塔で分留した重質留分。
【0035】
本発明において、第1の炭化水素油としては、ジェット燃料油ないしは有機溶剤の製造過程で得られる、上記(1)~(3)のいずれかの残渣留分または重質留分であることが好ましい。
【0036】
次に、本発明に係るA重油組成物を構成する第2の炭化水素基材について説明する。
【0037】
本発明において、第2の炭化水素基材は、常圧蒸留における初留点が200.0℃以上であり、205.0℃以上であることが好ましく、210.0℃以上であることがより好ましい。
本発明において、第2の炭化水素基材の常圧蒸留による初留点が200.0℃以上であることにより、本発明に係る本発明に係るA重油組成物において、引火点を高く保ち易くなり、より容易に取り扱うことができる。
【0038】
本発明において、第2の炭化水素基材は、10%残油の残留炭素分が、0.70~1.10質量%であり、0.75~1.10質量%であることが好ましく、0.80~1.10質量%であることがより好ましい。
第2の炭化水素基材の10%残油の残留炭素分が上記範囲にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、10%残油の残留炭素分を容易に制御して、スラッジの生成を容易に抑制することができる。
【0039】
本発明において、第2の炭化水素基材における芳香族炭化水素の含有割合は、90.0容量%以上であり、93.0容量%以上であることが好ましく、96.0容量%以上であることがより好ましい。
第2の炭化水素基材の芳香族含有量が90.0容量%以上であることにより、本発明に係るA重油組成物において、スラッジの生成を容易に抑制することができる。
【0040】
本発明において、第2の炭化水素基材の15℃における密度は、0.9900~1.0100g/cm3であることが好ましく、0.9900~1.0050g/cm3であることがより好ましく、0.9900~1.0000g/cm3であることがさらに好ましい。
第2の炭化水素基材の密度が上記範囲にあることにより、本発明に係るA重油において、スラッジの生成を容易に抑制することができる。
【0041】
本発明において、第2の炭化水素基材の引火点は、60.0℃以上であることが好ましく、65.0℃以上であることがより好ましく、70.0℃以上であることがさらに好ましい。
第2の炭化水素基材の引火点が60.0℃以上であることにより、本発明に係るA重油の容易に取り扱うことができる。
【0042】
本発明において、第2の炭化水素基材の硫黄分(硫黄分含有量)は、100質量ppm以下であることが好ましく、90質量ppm以下であることがより好ましく、80質量ppm以下であることがさらに好ましい。
第2の炭化水素基材の硫黄分が100質量ppm以下であることにより、本発明に係るA重油組成物において、硫黄分の含有量を適正な範囲に容易に制御することができ、燃焼時における硫黄化合物の生成を容易に抑制することができる。
【0043】
本発明において、第2の炭化水素基材の含有割合は、3.00容量%~20.00容量%であり、3.00容量%~18.0容量%であることが好ましく、3.00容量%~16.00容量%であることがより好ましい。
第2の炭化水素基材の含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、スラッジの生成を容易に抑制することができる。
【0044】
本発明において、第1の炭化水素基材としては、上述した特性を満たすものであれば、その製造方法、精製方法に特に制限はないが、例えば、芳香族留分を主原料として、精密蒸留塔で分留した残渣留分などが好適に用いることができ、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明において、第2の炭化水素基材としては、芳香族を主原料として、精密蒸留塔で分留したときに生成する残渣留分を挙げることができる。
本発明において、第2の炭化水素基材としては、エチレン製造装置や接触改質装置などの石油化学装置から副生するラフィネートをさらに精密蒸留塔で1回ないし複数回分留した際に生成する重質留分ないし残渣留分が好ましい。
第2の炭化水素基材として、具体的には、ラフィネートを原料として上記手法により芳香族系溶剤を製造する際に副生する残渣留分を挙げることができる。
【0046】
次に、本発明に係るA重油組成物を構成する残炭調整材について説明する。
【0047】
本発明において、残炭調整材としては、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直接脱硫重油、接触分解残油、流動接触分解残油、エキストラクト油、C重油、及び上記の各残渣油又は副生成油などを軽質基材で粘度調整したカットバック残渣油等のうち、単独で又は2種以上混合したものを挙げることができる。
【0048】
本発明において、残炭調整材は、本発明に係るA重油組成物における10%残油の残留炭素分が0.20質量%以上となるように混合する。
【0049】
本発明において、残炭調整材の含有割合は、0.20~5.00容量%であり、0.20~4.50容量%であることが好ましく、0.20~4.00容量%であることがより好ましい。
本発明において、残炭調整材の含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、10%残油の残留炭素分を所望範囲に容易に制御することができる。
【0050】
本発明に係るA重油組成物は、(a)第1の炭化水素基材、(b)第2の炭化水素基材および(c)残炭調整材とともに、本発明により発現される効果を制限しない範囲において、通常使用されるその他の基材をさらに含んでもよい。
【0051】
本発明に係るA重油組成物は、(a)第1の炭化水素基材、(b)第2の炭化水素基材および(c)残炭調整材を、合計で、78.20~100.00容量%含有するものであることが好ましく、80.0~98.00容量%含有するものであることがより好ましく、82.0~96.00容量%含有するものであることがさらに好ましい。
【0052】
本発明に係るA重油組成物は、(a)第1の炭化水素基材、(b)第2の炭化水素基材および(c)残炭調整材とともに、各種の添加剤が配合されたものであってもよい。
上記添加剤としては、A重油組成物に通常添加されるものであれば特に制限されず、低温流動性向上剤、流動点降下剤、スラッジ分散剤、防錆剤、酸化防止剤、防食剤、防カビ剤、静電気防止剤、セタン価向上剤、金属不活性化剤等から選ばれる一種以上を挙げることができる。また、本発明に係るA重油組成物は、軽油引取税の観点よりクマリンが配合されたものであってもよい。
【0053】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が、200.0℃~320.0℃であるものであり、205.0℃~310.0℃であるものが好ましく、205.0℃~300.0℃であるものがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の常圧蒸留における10容量%留出温度~90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、引火点を高く保ち易くなるとともに、低温流動性を良好に保ち易くなる。
【0054】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における10容量%留出温度が、200.0℃~270.0℃であることが好ましく、205.0℃~270.0℃であることがより好ましく、205.0℃~265.5℃であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における90容量%留出温度が、250.0℃~320.0℃であることが好ましく、255.0℃~310.0℃であることがより好ましく、255.0℃~300.0℃であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明に係るA重油組成物は、「常圧蒸留における90容量%留出温度-常圧蒸留における10容量%留出温度」で表される温度差が、15.0℃~ 110.0℃であることが好ましく、20.0℃~90.0℃であることがより好ましく、25.0℃~70.0℃であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明に係るA重油組成物は、10%残油の残留炭素分が、0.20質量%~0.70質量%であるものであり、0.20質量%~0.65質量%であるものが好ましく、0.20質量%~0.60質量%であるものがより好ましい。
本発明に係るA重油組成物の10%残油の残留炭素分が上記範囲内にあることにより、税法上の規定を満たしつつ、スラッジの生成を好適に抑制することができる。
【0058】
本発明に係るA重油組成物は、目詰まり点が、-10℃以下であり、-15℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは-19℃以下である。
本発明に係るA重油組成物の目詰まり点が-10℃以下であることにより、冬季の寒冷地においてもA重油組成物の流動性を好適に確保することができる。
本発明に係るA重油組成物の目詰まり点の下限値については、特に制限されないが、本発明に係るA重油組成物の目詰まり点は、通常は-49℃以上である。
【0059】
本発明に係るA重油組成物のセタン指数は、40.0以上であり、42.0以上であることが好ましく、45.0以上であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物のセタン指数が40以上あることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を得ることができる。
【0060】
本発明に係るA重油組成物は、15℃における密度が、0.8000g/cm3~0.8600g/cm3であることが好ましく、0.8050~0.8550であることがより好ましく、0.8100~0.8500であることがさらに好ましい。
A重油組成物の15℃における密度が上記範囲にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を容易に達成することができる。
【0061】
本発明に係るA重油組成物は、引火点が、60℃以上であることが好ましく、65℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の引火点が60℃以上であることにより、より容易に取り扱うことが可能となる。
【0062】
本発明に係るA重油組成物は、硫黄分が、500質量ppm以下であることが好ましく、450質量ppm以下であることがより好ましく、400質量ppm以下であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物における硫黄分が500質量ppm以下であることにより、本発明に係るA重油組成物の燃焼時における硫黄化合物の生成を容易に抑制することができる。
【0063】
本発明に係るA重油組成物は、(a)第1の炭化水素基材、(b)第2の炭化水素基材および(c)残炭調整材を、必要に応じてその他の基材および添加剤とともに混合することにより調製することができる。
この場合、上記各基材および添加剤の混合順序や混合方法は特に制限されない。
【0064】
本発明によれば、石油資源を有効活用しつつ、低温流動性向上剤やスラッジ分散剤を使用することなく、低温流動性に優れスラッジの発生が抑制されたA重油組成物を提供することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を実施した場合の代表的な例を示すもので、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。
表中の分析値は上記各測定方法に基づいて測定した値である。また、「―」となっている項目は未測定ないし含有しないことを示す。
【0066】
以下の実施例および比較例において、第1の炭化水素基材として以下に示す第1の炭化水素基材A~Gを採用するとともに、比較用炭化水素基材として以下に示す比較炭化水素基材Hを採用した。各基材の性状を表1に示す。
(第1の炭化水素基材A、D)
脱硫灯油を原料とし、核水添反応させた後に精密蒸留塔で分留した残渣留分。
(第1の炭化水素基材B、C、E、F)
脱硫灯油を原料として精密蒸留塔で分留した残渣留分。
(第1の炭化水素基材G)
脱硫灯油を原料として精密蒸留塔で分留した重質留分。
(比較炭化水素基材H)
常圧蒸留で得られた軽油留分を水素化脱硫した留分。
【0067】
【0068】
また、以下の実施例および比較例において、第2の炭化水素基材として以下に示す第2の炭化水素基材I~Kを採用した。各基材の性状を表2に示す。
なお、第2の炭化水素基材JおよびKは、常圧蒸留時に泡立ちが多いために、50容量%留出温度および90容量%留出温度については測定できなかった。
(炭化水素基材I、J、K)
ラフィネートに由来する炭素数10の芳香族を主成分とする原料を精密蒸留塔によって分留した残渣留分。
【0069】
【0070】
また、以下の実施例および比較例において、残炭調整材として以下に示す市販C重油1~市販C重油3を採用した。各C重油の性状を表3に示す。
【0071】
【0072】
(実施例1)
第1の炭化水素基材Aを18.75容量%、第1の炭化水素基材Bを6.50容量%、第1の炭化水素基材Cを59.50容量%、第2の炭化水素基材Iを15.00容量%、残炭調整材として市販C重油1を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0073】
(実施例2)
第1の炭化水素混合基材Aを18.75容量%、第1の炭化水素混合基材Bを32.00容量%、第1の炭化水素混合基材Cを34.00容量%、第2の炭化水素基材Iを15.00容量%、残炭調整材として市販C重油1を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0074】
(実施例3)
前記第1の炭化水素混合基材Dを84.75容量%、第2の炭化水素基材Jを15.00容量%、残炭調整材として市販C重油2を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0075】
(実施例4)
第1の炭化水素混合基材Eを84.75容量%、第2の炭化水素基材Jを15.00容量%、残炭調整材として市販C重油2を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0076】
(実施例5)
第1の炭化水素混合基材Fを84.75容量%、第2の炭化水素基材Jを15.00容量%、残炭調整材として市販C重油2を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0077】
(実施例6)
第1の炭化水素混合基材Gを84.75容量%、第2の炭化水素基材Jを15.00容量%、残炭調整材として市販C重油2を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0078】
(実施例7)
第1の炭化水素混合基材Dを21.30容量%、第1の炭化水素基材Eを21.30容量%、第1の炭化水素基材Fを42.15容量%、第2の炭化水素基材Jを15.00容量%、残炭調整材として市販C重油2を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0079】
(実施例8)
第1の炭化水素混合基材Dを10.50容量%、第1の炭化水素基材Eを10.50容量%、第1の炭化水素基材Fを21.30容量%、第1の炭化水素基材Gを42.45容量%、第2の炭化水素基材Jを15.00容量%、残炭調整材として市販C重油2を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0080】
(実施例9)
第1の炭化水素基材Dを4.30容量%、第1の炭化水素基材Eを4.30容量%、第1の炭化水素基材Fを8.50容量%、第1の炭化水素基材Gを79.65容量%、第2の炭化水素基材Jを3.00容量%、残炭調整材として市販C重油2を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0081】
実施例1~実施例9で得られたA重油組成物の組成を表4に示すとともに、得られたA重油の性状を表5に示す。
【0082】
なお、表5において、以下の評価基準により低温流動性およびスラッジ抑制性を評価した結果を併記する。
(低温流動性評価)
〇:目詰まり点が-10℃以下
×:目詰まり点が-10℃超
(スラッジ抑制性)
〇:スラッジ分が5.0mg/100ml以下
×:スラッジ分が5.0mg/100ml超
【0083】
【0084】
【0085】
(比較例1)
第1の炭化水素基材Aを21.75容量%、第1の炭化水素基材Bを8.00容量%、第1の炭化水素基材Cを70.00容量%、残炭調整材として市販C重油1を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0086】
(比較例2)
第1の炭化水素基材Aを21.75容量%、第1の炭化水素基材Bを38.00容量%、第1の炭化水素基材Cを40.00容量%、残炭調整材として市販C重油1を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0087】
(比較例3)
第1の炭化水素基材Aを99.75容量%、残炭調整材として市販C重油1を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0088】
(比較例4)
第1の炭化水素基材Dを25.00容量%、第1の炭化水素基材Eを25.00容量%、第1の炭化水素基材Fを49.75容量%、残炭調整材として市販C重油2を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0089】
(比較例5)
第1の炭化水素基材Hを99.75容量%、残炭調整材として市販C重油3を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0090】
(比較例6)
第1の炭化水素基材Hを84.75容量%、第2の炭化水素基材Kを15.0容量%、残炭調整材として市販C重油3を0.25容量%、それぞれ混合してA重油組成物を調製した。
【0091】
(比較例7)
市販のA重油組成物を本例におけるA重油組成物とした。
【0092】
比較例1~比較例7で得られたA重油組成物の組成を表6に示すとともに、得られたA重油の性状を表7に示す。
【0093】
なお、表7において、上述した基準と同一の評価基準により低温流動性およびスラッジ抑制性を評価した結果を併記する。
【0094】
【0095】
【0096】
表4~表5より、実施例1~実施例9で得られた本発明に係るA重油組成物は、第1の炭化水素基材、第2の炭化水素基材および残炭調整材を各々所定範囲の割合で含むものであることにより、目詰まり点が-10℃以下、スラッジ分が5.0mg/100ml以下であって、低温流動性に優れ、かつスラッジ抑制性に優れていることが分かる。
【0097】
一方、表6~表7より、比較例1~比較例7におけるA重油組成物は、第2の炭化水素基材が配合されていないためにスラッジ分が5.0mg/100mlを超え、スラッジ抑制性に劣っていたり(比較例1~比較例4)、第1の炭化水素基材に代えて比較炭化水素基材Hを用いていたり市販のA重油組成物であるために、目詰まり点が-3℃~4℃と高く、低温流動性に劣る(比較例5~比較例7)ことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、石油資源を有効活用しつつ、低温流動性向上剤やスラッジ分散剤を使用することなく、低温流動性に優れスラッジの発生が抑制されたA重油組成物を提供することができる。