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  • 特許-コラゲナーゼ活性阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】コラゲナーゼ活性阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20240315BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240315BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61P43/00 111
A61P17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020054505
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155339
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591061068
【氏名又は名称】東洋精糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 章仁
(72)【発明者】
【氏名】タンジャ マハマドゥ
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-183941(JP,A)
【文献】特開2009-256341(JP,A)
【文献】特開2002-234844(JP,A)
【文献】Lu, WEIQIANG et al.,The efficient expression of human fibroblast collagenase in Escherichia coli and the discovery of fl,Journal of Enzyme Inhibition and Medicinal Chemistry,2013年,Vol.28, No.4,pp.741-746,DOI: 10.3109/14756366.2012.681650
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7048
A23L 33/125
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分(A)としてα-グルコシルナリンジンを含む、コラゲナーゼ活性阻害剤。
【請求項2】
前記成分(A)がα-モノグルコシルナリンジンを含む、請求項1に記載のコラゲナーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
前記成分(A)の含有量が70質量%以上である、請求項1または2に記載のコラゲナーゼ活性阻害剤。
【請求項4】
前記コラゲナーゼ活性阻害剤がI型コラーゲンを分解する活性を阻害するものである、請求項1~3のいずれか1項に記載のコラゲナーゼ活性阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラゲナーゼ活性阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は、細胞外マトリックスを分解するだけではなく、サイトカインなどの生理活性ペプチドの活性化など様々な生理現象にも関与し、種々の病態に関係していることが明らかとなっている。MMPの中でもコラゲナーゼは、関節リウマチ、変形性関節症、骨粗しょう症、ガン細胞の転移や潰瘍形成、歯周炎やう歯形成等の様々な疾患に関与することが報告されている。
【0003】
皮膚におけるコラーゲンは、皮膚の弾力や張りを維持するために重要である。紫外線の影響等により、コラゲナーゼの発現が促進されて皮膚のコラーゲン量が減少すると、皮膚のしわやたるみの一因になると考えられている。そのため、コラゲナーゼの活性を阻害することは、しわやたるみの予防、すなわち、皮膚の老化防止に重要であるため、さまざまな有効成分がこれまでにも報告されている。
【0004】
例えば、キイチゴ、チョウジ、ビワ、マグワ、レンゲソウから選ばれる1種以上の植物抽出物を含有するコラゲナーゼ活性阻害剤(特許文献1)、グレープリーフ、サンショウ等の植物抽出物を含有するコラゲナーゼ活性阻害剤(特許文献2)、ザクロの花の抽出物を配合したコラゲナーゼ活性阻害剤(特許文献3)、ドゥアバンガの抽出物を含有するコラゲナーゼ活性阻害剤(特許文献4)、茶花抽出物を含有するコラゲナーゼ活性阻害剤(特許文献5)、カリン抽出物を有効成分とするコラゲナーゼ活性阻害剤(特許文献6)が知られている。しかしながら、いずれのコラゲナーゼ活性阻害剤も老化防止作用が弱く、必ずしも満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-183122号公報
【文献】特開2003-342123号公報
【文献】特開2006-225286号公報
【文献】特開2008-74728号公報
【文献】特開2011-11991号公報
【文献】特開2016-104707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れたコラゲナーゼ活性阻害作用を示すコラゲナーゼ活性阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有するコラゲナーゼ活性阻害剤は上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔4〕である。
【0008】
〔1〕 α-グルコシルルチン、α-グルコシルヘスペリジンおよびα-グルコシルナリンジンから選択される少なくとも一種の成分(A)を含む、コラゲナーゼ活性阻害剤。
〔2〕 前記成分(A)がα-モノグルコシルルチン、α-モノグルコシルヘスペリジンおよびα-モノグルコシルナリンジンから選択される少なくとも一種を含む、〔1〕に記載のコラゲナーゼ活性阻害剤。
〔3〕 前記成分(A)の含有量が70質量%以上である、〔1〕または〔2〕に記載のコラゲナーゼ活性阻害剤。
〔4〕 前記コラゲナーゼ活性阻害剤がI型コラーゲンを分解する活性を阻害するものである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のコラゲナーゼ活性阻害剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れたコラゲナーゼ活性阻害作用を示すコラゲナーゼ活性阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、α-グルコシルルチン(αGルチン)、α-グルコシルヘスペリジン(αGヘスペリジン)およびα-グルコシルナリンジン(αGナリンジン)のコラゲナーゼ活性阻害率を示すグラフである。
図2図2は、アスコルビン酸、α-グルコシルルチン(αGルチン)、α-グルコシルヘスペリジン(αGヘスペリジン)およびα-グルコシルナリンジン(αGナリンジン)のコラゲナーゼ活性阻害率を示すグラフである。
図3図3は、アスコルビン酸ナトリウム、α-グルコシルルチン(αGルチン)、α-グルコシルヘスペリジン(αGヘスペリジン)およびα-グルコシルナリンジン(αGナリンジン)のコラゲナーゼ活性阻害率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤について具体的に説明する。
〈成分(A)〉
本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤は、α-グルコシルルチン、α-グルコシルヘスペリジンおよびα-グルコシルナリンジンから選択される少なくとも一種の成分(A)を含む。成分(A)は、α-グルコシルルチン、α-グルコシルヘスペリジンおよびα-グルコシルナリンジンのいずれか1種または任意で選択される2種を含むものであってもよいし、α-グルコシルルチン、α-グルコシルヘスペリジンおよびα-グルコシルナリンジンの3種全てを含むものであってもよい。その中でも比較的低濃度でもコラゲナーゼ活性阻害効果が高いことから、成分(A)として、α-グルコシルヘスペリジンまたはα-グルコシルナリンジンを含むものが好ましい。
【0012】
成分(A)は、コラゲナーゼ活性阻害効果の観点から、α-モノグルコシルルチン、α-モノグルコシルヘスペリジンおよびα-モノグルコシルナリンジンから選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0013】
コラゲナーゼ活性阻害剤が含む、成分(A)の含有量は特に限定されない。例えば、本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤が含む、成分(A)の含有量の下限としては例えば、30質量%、40質量%、45質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%が挙げられる。また、本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤が含む、成分(A)の含有量の上限としては例えば、100質量%、99質量%、98質量%、95質量%、90質量%、85質量%が挙げられる。本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤が含む、成分(A)の含有量の範囲としては、前記下限と上限とを任意に組み合わせた範囲を任意に設定することができ、例えば30~100質量%、60~100質量%、60~90質量%等の範囲を設定することができる。コラゲナーゼ活性阻害効果の観点から、本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤が含む、前記成分(A)の含有量は70質量%以上であることが好ましい。
【0014】
〈α-グルコシルルチン〉
α-グルコシルルチン(αグルコシルルチンともいう)は、ルチンが有するルチノース残基中のグルコース残基に、α1→4結合により1分子以上のグルコースが付加された化合物の総称である。本発明におけるα-グルコシルルチンは、そのような構造を有する化合物のうちの1種類単独からなるものであっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0015】
α-グルコシルルチンは、下記式(1)で表すことができる。式(1)中、nは、0または1以上の整数、例えば1~19の整数である。
【0016】
【化1】
【0017】
α-グルコシルルチンは、「酵素処理ルチン」(「糖転移ルチン」と呼ばれることもある。)として知られている製品に主成分として含まれている化合物である。α-グルコシルルチンのうち、グルコースが1つだけ結合したものを「α-モノグルコシルルチン」と称し、グルコースが2つ以上結合したものを「α-ポリグルコシルルチン」と称する。つまり、式(1)において、α-モノグルコシルルチンはnが0の化合物であり、α-ポリグルコシルルチンは一般的にnが1~19の化合物である。
【0018】
酵素処理ルチンは、ルチンの糖に関する酵素処理により生成する化合物の集合体であり、通常は、ルチンに結合したグルコースの個数が異なる化合物の混合物、例えば、α-モノグルコシルルチンとα-ポリグルコシルルチンとからなる混合物を含む。また、酵素処理ルチンは、一般的には酵素処理によって製造されるため、未反応のルチンやその他の誘導体、例えばイソケルシトリンを含むこともある。なお、イソケルシトリン(「イソクエルシトリン」と呼ばれることもある。)は、ケルセチン骨格の3位の水酸基にβ-D-グルコースが結合した化合物、言い換えればルチンのルチノース残基中のラムノース残基が切断された化合物である。
【0019】
酵素処理ルチンは、例えば、α-グルコシル糖化合物(サイクロデキストリン、澱粉部分分解物など)の共存下で、ルチンに糖転移酵素(サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase、EC2.4.1.19)など、ルチンにグルコースを付加する機能を有する酵素)を作用させることにより得られる生成物(本明細書において「第1酵素処理ルチン」と呼ぶ。)である。
【0020】
第1酵素処理ルチンは、結合したグルコースの個数が異なる様々なα-グルコシルルチン、すなわちα-モノグルコシルルチンおよびα-ポリグルコシルルチンからなる集合体と、未反応物であるルチンとを含有する組成物である。必要に応じて、例えば多孔性合成吸着材と適切な溶出液を用いて、第1酵素処理ルチンを精製することにより、糖供与体およびその他の不純物を除去し、さらにルチンの含有量を減らし、α-グルコシルルチンの純度を高めた第1酵素処理ルチン(α-グルコシルルチン精製物)が得られる。
【0021】
また、第1酵素処理ルチンを、α-1,4-グルコシド結合をグルコース単位で切断するグルコアミラーゼ活性を有する酵素、たとえばグルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)で処理し、複数のグルコースが付加されたα-グルコシルルチンにおいて、ルチン自体の(ルチノース残基中の)グルコース残基に直接付加されたグルコース残基を1つだけ残してそれ以外のグルコース残基を切断することにより、α-モノグルコシルルチンを多く含有する酵素処理ルチン(本明細書において「第2酵素処理ルチン」と呼ぶ。)を得ることができる。この酵素処理によって、ケルセチン骨格に直接結合しているルチノース残基中のグルコース残基が、ケルセチン骨格から切断されることはない。
【0022】
本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤においては、本発明の効果などを考慮すると、α-グルコシルルチンを含有する組成物である酵素処理ルチンを用いることが好ましく、第1酵素処理ルチン、および第2酵素処理ルチンのいずれのα-グルコシルルチンを含有する組成物を用いてもよい。
【0023】
酵素処理ルチンは、本発明の効果などを考慮すると、少なくともα-グルコシルルチンを含み、さらにイソケルシトリンを含む混合物であることが好ましい。
このような混合物は、(i)上述した第1酵素処理ルチンを調製する、(ii)第1酵素処理ルチンを、グルコアミラーゼ活性を有する酵素で処理し、α-グルコシルルチンをほとんど全てα-モノグルコシルルチンに変換する、(iii)同時にラムノシダーゼ活性を有する酵素で処理し、未反応のルチンをほとんど全てイソケルシトリンに変換する、という手順により製造することができる。
【0024】
酵素処理ルチンの市販品としては、例えば東洋精糖株式会社の製品「αGルチンPS」、「αGルチンP」、「αGルチンH」などが挙げられる。「αGルチンPS」は、α-モノグルコシルルチンを75質量%、イソケルシトリンを15質量%含有する組成物である。また、「αGルチンP」は、α-グルコシルルチン60質量%、ルチン10質量%、イソケルシトリン1%を含有する組成物である。
【0025】
α-グルコシルルチンとしては、α-モノグルコシルルチンが好ましい。α-モノグルコシルルチンの分子量はα-ポリグルコシルルチンの分子量よりも小さいため、単位質量あたりの分子数はα-モノグルコシルルチンの方が多くなり、作用効果の上で有利であると考えられるためである。
【0026】
酵素処理ルチンに含まれる各種のα-グルコシルルチン、およびその他の成分の存在はHPLCのクロマトグラムによって確認することができ、各成分の含有量、または所望の特定の成分の純度は、クロマトグラムのピーク面積から算出することができる。
【0027】
α-グルコシルルチンの製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。収率が良く、また製造が容易であることから、前記の通り、ルチンの酵素処理により製造することが好ましい。ルチンの入手・調製方法は特に限定されるものではなく、試薬もしくは精製物として一般的に製造販売されている化合物を使用しても、または柑橘類(ミカン、オレンジ等)の外皮やソバの実などの原料から抽出して調製した化合物を使用してもよい。
【0028】
〈α-グルコシルへスペリジン〉
α-グルコシルヘスペリジン(αグルコシルヘスペリジンともいう)は、ヘスペリジンのルチノース単位中の水酸基に、α-1,4結合により1分子以上のグルコースが付加された化合物の総称である。本発明におけるα-グルコシルヘスペリジンは、そのような構造を有する化合物のうちの1種類単独からなるものであっても、2種類以上の混合物であってもよい。なお、ヘスペリジンは、ヘスペレチンの7位の水酸基にβ-ルチノース(6-O-α-L-ラムノシル-β-D-グルコース)が結合した化合物、すなわちヘスペレチン配糖体である。
【0029】
α-グルコシルヘスペリジンは、下記式(2)で表すことができる。式(2)中、nは、0または1以上の整数、例えば1~19の整数である。
【0030】
【化2】
【0031】
α-グルコシルヘスペリジンは、「酵素処理ヘスペリジン」(「糖転移ヘスペリジン」と呼ばれることもある。)として知られている素材に主成分として含まれている化合物である。α-グルコシルヘスペリジンのうち、グルコースが1つだけ結合したものを「α-モノグルコシルヘスペリジン」と称し、グルコースが2つ以上結合したものを「α-ポリグルコシルヘスペリジン」と称する。つまり、式(2)において、α-モノグルコシルヘスペリジンはnが0の化合物であり、α-ポリグルコシルヘスペリジンは一般的にnが1~19の化合物である。
【0032】
酵素処理ヘスペリジンは、ヘスペリジンの糖に関する酵素処理により生成する化合物の集合体であり、通常は、ヘスペリジンに結合したグルコースの個数が異なる化合物の混合物、例えば、α-モノグルコシルヘスペリジンとα-ポリグルコシルヘスペリジンとからなる混合物を含む。また、α-グルコシルヘスペリジンに加えて、未反応のヘスペリジンや7-グルコシルヘスペレチン等のα-グルコシルヘスペリジン以外のヘスペリジン誘導体(その他のヘスペリジン誘導体ともいう)を含んでいてもよい。ただし、酵素処理ヘスペリジンに、ヘスペレチンは含まないことが好ましい。
【0033】
上記ヘスペリジンの糖に関する酵素処理の例としては、以下の通りである。(1)糖供与体の共存下でヘスペリジンに糖転移酵素を作用させ、ヘスペリジンのグルコース単位にα-1,4結合によりグルコースを付加することにより、α-グルコシルヘスペリジンが生成し、未反応のヘスペリジンとα-グルコシルヘスペリジンを含有する組成物が得られる(第1酵素処理ヘスペリジン)。(2)上記(1)により生成したα-グルコシルヘスペリジンにグルコアミラーゼ等を作用させ、ヘスペリジンのグルコース単位に結合しているグルコース鎖から1分子だけを残して他のグルコースを切断することにより、α-モノグルコシルヘスペリジンが生成し、未反応のままのヘスペリジンとα-モノグルコシルヘスペリジンを含有する組成物が得られる(第2酵素処理ヘスペリジン)。(3)上記(2)の未反応のままのヘスペリジンにα-L-ラムノシダーゼを作用させ、ルチンのルチノース単位に含まれるラムノースを切断することにより7-グルコシルヘスペレチンが生成し、7-グルコシルヘスペレチンとα-モノグルコシルヘスペリジンを含有する組成物が得られる(第3酵素処理ヘスペリジン)。
【0034】
第1酵素処理の例としては、α-グルコシル糖化合物(例:サイクロデキストリン、澱粉部分分解物)の共存下で、ヘスペリジンに糖転移酵素(例:サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase、EC2.4.1.19)などの、ヘスペリジンにグルコースを付加する機能を有する酵素)を作用させることが挙げられる。
【0035】
本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤においては、本発明の効果などを考慮すると、α-グルコシルヘスペリジンを含有する組成物である酵素処理ヘスペリジンを用いることが好ましく、第1酵素処理ヘスペリジン、および第2酵素処理ヘスペリジン、第3酵素処理ヘスペリジンのいずれの組成物を用いてもよい。
【0036】
酵素処理ヘスペリジンは、本発明の効果などを考慮すると、少なくともα-グルコシルヘスペリジンを含み、さらにヘスペリジンおよび7-グルコシルヘスペレチンのいずれか一方または双方を含む混合物であることが好ましい。
【0037】
酵素処理ヘスペリジンの市販品としては、例えば、東洋精糖株式会社の製品「αGヘスペリジンPS-CC」が挙げられる。「αGヘスペリジンPS-CC」は、α-モノグルコシルヘスペリジン80質量%以上を含み、ヘスペリジン、および7-グルコシルヘスペレチンを含む。
【0038】
α-グルコシルヘスペリジンとしては、α-モノグルコシルヘスペリジンが好ましい。α-モノグルコシルヘスペリジンの分子量はα-ポリグルコシルヘスペリジンの分子量よりも小さいため、単位質量あたりの分子数はα-モノグルコシルヘスペリジンの方が多くなり、作用効果の上で有利であると考えられるためである。
【0039】
α-モノグルコシルヘスペリジンは、糖加水分解酵素をα-ポリグルコシルヘスペリジンに作用させ、ヘスペリジンに結合したグルコースを1つだけ残して切断することにより産生することができる(第2酵素処理ヘスペリジン)。糖加水分解酵素としては、α-1,4-グルコシド結合をグルコース単位で切断するグルコアミラーゼ活性を有する酵素、例えばグルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)が挙げられる。なお、α-グルコシルヘスペリジン中のα-モノグルコシルヘスペリジンの割合は、グルコアミラーゼによる酵素処理の温度・時間条件などにより調節することが可能であり、さらに酵素処理ヘスペリジンの混合物からα-モノグルコシルヘスペリジンを精製・分取する方法も公知である。
【0040】
酵素処理ヘスペリジンに含まれる各種のα-グルコシルヘスペリジン、ヘスペリジン、およびその他の成分の存在はHPLCのクロマトグラムによって確認することができ、各成分の含有量、または所望の特定の成分の純度は、クロマトグラムのピーク面積から算出することができる。
【0041】
α-グルコシルヘスペリジンの製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。収率が良く、また製造が容易であることから、前記のヘスペリジンの酵素処理により製造することが好ましい。ヘスペリジンの入手・調製方法は特に限定されるものではなく、試薬もしくは精製物として一般的に製造販売されている化合物を使用しても、または柑橘類(ミカン、オレンジ等)の外皮などの原料から抽出して調製した化合物を使用してもよい。
【0042】
〈α-グルコシルナリンジン〉
α-グルコシルナリンジン(αグルコシルナリンジンともいう)は、ナリンジンが有する水酸基に1分子以上のグルコースが付加された化合物の総称である。ナリンジンは、ナリンゲニン(5,7,4'-トリヒドロキシフラバノン)骨格の7位の水酸基にネオヘスペリドース(L-ラムノシル-(α1→2)-D-グルコース)がβ結合した構造を有する、フラボノイドの一種である。α-グルコシルナリンジンは、そのナリンジンが有する、ネオへスペリドース残基中のグルコース残基の3位(3''位)の水酸基およびナリンゲニン骨格中のフェニル基の4位(4'位)の水酸基の少なくとも一つに、α-グルコースが1分子以上結合した構造を有する。本発明におけるα-グルコシルナリンジンは、そのような構造を有する化合物のうちの1種類単独からなるものであっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0043】
α-グルコシルナリンジンは、下記式(3)で表すことができる。式(3)中、R1のmおよびR2のnは、それぞれ3''位および4'位に結合したα-グルコース残基の数を意味し、互いに独立した、0以上、通常は25以下の整数を表す。ただし、式(3)が「α-グルコシルナリンジン」を表すためには、m+n≧1を満たす、つまりナリンジンに少なくとも1分子のα-グルコースが連結している必要がある(m=n=0の場合、つまりR1、R2ともに-Hである場合、式(3)は「ナリンジン」を表す)。
【0044】
【化3】
【0045】
α-グルコシルナリンジンは、「酵素処理ナリンジン」(「糖転移ナリンジン」と呼ばれることもある。)として知られている素材に主成分として含まれている化合物である。α-グルコシルナリンジンのうち、グルコースが1つだけ結合したものを「α-モノグルコシルナリンジン」と称し、グルコースが2つ以上結合したものを「α-ポリグルコシルナリンジン」と称する。
【0046】
酵素処理ナリンジンは、例えば、ナリンジンと糖供与体(例えばデキストリン)の混合物に糖転移酵素(例えばシクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ)を反応させることにより得られる生成物(本明細書において「第1酵素処理ナリンジン」と呼ぶ。)であって、ナリンジンが有する水酸基に1分子以上のグルコースが付加された様々な化合物の集合体である。したがって、酵素処理ナリンジンは、通常は、ナリンジンに結合したグルコースの個数が異なる化合物の混合物、例えば、α-モノグルコシルナリンジンとα-ポリグルコシルナリンジンとからなる混合物を含む。また、α-グルコシルナリンジンに加えて、未反応のナリンジンや7-グルコシルナリンゲニン等のα-グルコシルナリンジン以外のナリンジン誘導体(その他のナリンジン誘導体ともいう)を含んでいてもよい。
【0047】
第1酵素処理ナリンジンの基本的な製造方法は、例えば特開平4-13691号公報を参照することができる。必要に応じて、例えば多孔性合成吸着材と適切な溶出液を用いて、第1酵素処理ナリンジンを精製することにより、糖供与体およびその他の不純物を除去し、さらにナリンジンの含有量を減らし、α-グルコシルナリンジンの純度を高めた第1酵素処理ナリンジン(α-グルコシルナリンジン精製物)が得られる。
【0048】
α-グルコシルナリンジンとしては、ナリンジンの3''位にα-グルコースが1分子および/または4'位にα-グルコースが1分子連結したもの、すなわち3''-α-モノグルコシルナリンジン(式(3)中、m=1、n=0)、4'-α-モノグルコシルナリンジン(同じくm=0、n=1)、および3''-4'-α-ジグルコシルナリンジン(同じくm=1、n=1)から選択される少なくとも一種のα-グルコシルナリンジンが好ましく、中でも3''-α-モノグルコシルナリンジンがより好ましい。α-モノグルコシルナリンジンの分子量はα-ポリグルコシルナリンジンの分子量よりも小さいため、単位質量あたりの分子数はα-モノグルコシルナリンジンの方が多くなり、作用効果の上で有利であると考えられるためである。
【0049】
上記3種のα-モノ/ジグルコシルナリンジンを多く含有する酵素処理ナリンジン(本明細書において「第2酵素処理ナリンジン」と呼ぶ。)は、例えば、上述した第1酵素処理ナリンジンをグルコアミラーゼ活性を有する酵素で処理し、ナリンジンの3''位および/または4'位に前記糖転移酵素によって転移された、2分子以上のα-グルコースがα-1,4結合によって結合している糖鎖を、根元の1分子相当のα-グルコース残基だけを残して切断することによって得ることができる。さらに、第2酵素処理ナリンジンをα-グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理し、4'位の水酸基に直接結合している1分子相当のα-グルコース残基を切断することにより、3''-α-モノグルコシルナリンジンを残存させ、4'-α-モノグルコシルナリンジンおよび3''-4'-α-ジグルコシルナリンジンをほとんどないし全く含有しない酵素処理ナリンジン(本明細書において「第3酵素処理ナリンジン」と呼ぶ。)を得ることができる。第2および第3酵素処理ナリンジンの基本的な製造方法は、例えば特開2002-199896号公報を参照することができる。
【0050】
また、第1酵素処理ナリンジンに対してトランスグルコシダーゼを作用させれば、トランスグルコシダーゼはグルコアミラーゼ活性とα-グルコシダーゼ活性の両方を有する酵素なので、上述したような2段階の処理でなく1段階の処理で、3''-α-モノグルコシルナリンジンに富んだ第3酵素処理ナリンジンが得られる。さらに、必要であればβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素を第3酵素処理ナリンジンに対して作用させて(第1酵素処理ナリンジンに対してトランスグルコシダーゼと同時に作用させてもよい)、水溶液中に少量溶解している未反応のナリンジンが有する(糖転移酵素による糖鎖の修飾を受けていない)ネオヘスペリドース残基をそのアグリコンであるナリンゲニンから切断する処理を行ってもよい。そのような処理によって生成するナリンゲニンはナリンジンよりも溶解度が低いので、沈殿となって水溶液中から容易に除去できるので、水溶液から3''-α-モノグルコシルナリンジンをより高純度で回収することが可能となる。
【0051】
本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤においては、本発明の効果などを考慮すると、α-グルコシルナリンジンを含有する組成物である酵素処理ナリンジンを用いることが好ましく、第1酵素処理ナリンジン、および第2酵素処理ナリンジン、第3酵素処理ナリンジンのいずれの組成物を用いてもよい。
【0052】
酵素処理ナリンジンは、本発明の効果などを考慮すると、少なくともα-グルコシルナリンジンを含み、さらにナリンジンおよび7-グルコシルナリンゲニンのいずれか一方または双方を含む混合物であることが好ましい。
【0053】
酵素処理ナリンジンに含まれる各種のα-グルコシルナリンジン、ナリンジン、およびその他の成分の存在はHPLCのクロマトグラムによって確認することができ、各成分の含有量、または所望の特定の成分の純度は、クロマトグラムのピーク面積から算出することができる。
【0054】
α-グルコシルナリンジンの製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。収率が良く、また製造が容易であることから、前記のナリンジンの酵素処理により製造することが好ましい。ナリンジンの入手・調製方法は特に限定されるものではなく、試薬もしくは精製物として一般的に製造販売されている化合物を使用しても、または柑橘類(ナツミカン、グレープフルーツ等)の外皮などの原料から抽出して調製した化合物を使用してもよい。
【0055】
〈コラゲナーゼ活性〉
コラゲナーゼとは、コラーゲンを特異的に切断するプロテアーゼである。コラーゲンは、I型、II型、III型、IV型、V型、VI型、VII型、VIII型、IX型、X型、XI型、XII型、XIII型等の多様な分子種が報告されており、本明細書においてコラーゲンとはこれら全ての分子種を含む意味で用いる。また、コラーゲンが由来する動物種も特に制限されない。
【0056】
本明細書においてコラゲナーゼ活性とは、これら全ての分子種のコラーゲンのうち、少なくとも一つを分解する活性との意味であり、1種のみのコラーゲン分子を分解する活性であってもよいし、任意で選択される2種以上のコラーゲン分子を分解する活性であってもよい。コラゲナーゼ活性は、好ましくはI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、およびIV型コラーゲンから選択される少なくとも一種のコラーゲンを分解する活性であり、より好ましくはI型コラーゲン、およびII型コラーゲンから選択される少なくとも一種のコラーゲンを分解する活性であり、さらに好ましくは少なくともI型コラーゲンを分解する活性である。
【0057】
コラゲナーゼ活性を測定する方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、コラゲナーゼにより切断されると蛍光を発する蛍光性コラーゲンを用いて、分解産物の蛍光強度を測定する方法、放射性同位体で標識されたコラーゲンを用いて、分解産物の放射線量を測定する方法、コラーゲン類似の合成基質(FALGPA等)を用いて分解産物を比色定量する方法等が挙げられる。操作が簡便であることから、コラゲナーゼにより切断されると蛍光を発する蛍光性コラーゲンを用いて、分解産物の蛍光強度を測定する方法が好ましい。
【0058】
〈コラゲナーゼ活性阻害剤〉
コラゲナーゼ活性阻害剤は、コラゲナーゼ活性を阻害する作用を有すればよく、阻害率は特に制限されない。
コラゲナーゼ活性阻害剤は、I型コラーゲンを分解する活性を阻害するものであることが好ましい。なお、コラゲナーゼ活性阻害剤が、I型コラーゲンを分解する活性を阻害するものである場合には、同時に他のコラーゲンを分解する活性を阻害するものであってもよい。
【0059】
コラゲナーゼ活性阻害剤は、α-グルコシルルチン、α-グルコシルヘスペリジンおよびα-グルコシルナリンジンから選択される少なくとも一種の成分(A)を含むものであればよく、前記成分(A)のみからなるものであってもよいし、前記成分(A)によるコラゲナーゼ活性阻害効果を妨げない限り、さらに賦形剤、安定化剤や湿潤剤や乳化剤等の公知の任意成分を含有してもよい。また、前記コラゲナーゼ活性阻害剤は、前記成分(A)を含む組成物である、酵素処理ルチン、酵素処理ヘスペリジン、酵素処理ナリンジンから選ばれる少なくとも一つであってもよいし、酵素処理ルチン、酵素処理ヘスペリジン、酵素処理ナリンジンから選ばれる少なくとも一つを含むものであってもよい。
【0060】
前記成分(A)を含むコラゲナーゼ活性阻害剤としては、例えば、東洋精糖株式会社の製品「αGルチンPS」、「αGルチンP」、「αGルチンH」、「αGヘスペリジンPS-CC」等の市販品をあげることができる。これら商品自体をコラゲナーゼ活性阻害剤として使用してもよいし、これら商品を配合した組成物をコラゲナーゼ活性阻害剤として使用してもよい。
【0061】
〈コラゲナーゼ活性阻害剤の用途〉
コラゲナーゼ活性阻害剤の用途は特に制限されないが、本発明のコラゲナーゼ活性阻害剤は、コラーゲンを切断するコラゲナーゼの活性を阻害する高い作用を有するので、例えば、生体における亢進したコラゲナーゼ活性を阻害する目的で、または生体におけるコラーゲン量の低下を抑制する目的で、単回または複数回生体に投与することができる。
【0062】
コラゲナーゼ活性阻害剤は、コラゲナーゼ活性が関与する疾患や症状の予防または改善に有用であり、例えば、関節リウマチ、変形性関節症、骨粗しょう症、ガン転移、潰瘍形成、歯周炎、またはう歯形成等の発症、進展の予防または改善に寄与する。また、前記コラゲナーゼ活性阻害剤は、皮膚の弾力、張り、しわまたはたるみの予防または改善、すなわち、皮膚の老化防止に寄与する。
【0063】
コラゲナーゼ活性阻害剤の投与量は、コラゲナーゼ活性が関与する疾患や症状の種類や症状の程度によって適宜選択すればよい。例えば、前記コラゲナーゼ活性阻害剤を経口投与する場合は、コラゲナーゼ活性阻害効果の観点から成分(A)として一日あたり10mg~700mgが好ましく、100mg~500mgがさらに好ましい。また、前記コラゲナーゼ活性阻害剤を外用する場合は、コラゲナーゼ活性阻害効果の観点から成分(A)として一日あたり1mg~100mgが好ましく、40mg~80mgがさらに好ましい。また、前記一日あたり投与量を、例えば1日あたり1~3回にわけて投与することができ、2または3回にわけて投与することが好ましい。
【0064】
コラゲナーゼ活性阻害剤の投与期間は、コラゲナーゼ活性が関与する疾患の種類や症状の程度によって適宜選択すればよい。コラゲナーゼ活性阻害効果の観点から、好ましくは7~80日、より好ましくは14日~60日である。
【0065】
〈コラゲナーゼ活性阻害剤を含む製剤〉
コラゲナーゼ活性阻害剤は、そのまま生体に投与してもよいし、前記コラゲナーゼ活性阻害剤の有効量を薬学的に許容する担体とともに配合した製剤として投与してもよい。製剤としては、例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料、ペットフードが挙げられ、飲食品、医薬品、医薬部外品、または化粧品が好ましい。投与方法は特に制限されず、経口、または非経口とすることができる。前記製剤は、投与が容易であることから、非経口投与することが好ましい。
【0066】
経口の場合、前記製剤は、飲食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の保健機能食品や、その他のいわゆる健康食品やサプリメントを含む。)、医薬品、医薬部外品、飼料、ペットフード等であってもよい。
【0067】
経口用の製剤は、固形または液状(ペースト状を含む)にすることができる。剤形は制限されず、具体的には、固形製剤として、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ等が挙げられる。また、液状製剤として内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、ドリンク剤等が例示され、これら剤形やその他の剤形が目的に応じて適宜選択される。投与が容易で、コラゲナーゼ活性阻害効果を発揮しやすいことから、錠剤、またはカプセル剤とすることが好ましい。固形製剤においては賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、矯味剤、安定化剤などの補助剤を用いてもよい。
【0068】
非経口の場合、前記製剤は、注射剤、皮膚外用剤、坐剤等とすることができ、コラゲナーゼ活性阻害効果を効果的に発現させるために、医薬品、医薬部外品、および化粧品を含む皮膚外用剤とすることが好ましい。
【0069】
皮膚外用剤の形態や剤型は特に制限されないが、通常は液状(ペースト状、およびゲル状を含む)である。具体的には、外用液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム、軟膏等が例示される。これら剤形やその他の剤形が目的に応じて適宜選択される。これらの中でも、投与が容易でコラゲナーゼ活性阻害効果を発揮しやすいことから、外用液剤、乳剤、クリーム、または軟膏が好ましい。
【0070】
上記コラゲナーゼ活性阻害剤を含む製剤は、これらの製剤について一般的に用いられている手法に従って前記コラゲナーゼ活性阻害剤を添加することにより製造することができる。前記コラゲナーゼ活性阻害剤は、製剤の製造工程の初期に添加されるか、製造工程の中期または終期に添加されればよく、また添加の手法は、混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等から適切なものを製剤の態様に応じて選択すればよい。
【0071】
前記コラゲナーゼ活性阻害剤の有効成分である前記成分(A)は、水溶性が良好であるため、水または水分の多い製剤に添加する際も、均一に溶解または分散させることが可能である。
【0072】
前記コラゲナーゼ活性阻害剤の製剤への配合量は、コラゲナーゼ活性が関与する疾患の種類や症状の程度によって適宜選択すればよいが、投与の容易性や製剤中での安定性の観点から前記成分(A)として、0.05~2.0質量%が好ましく、0.25~1.0質量%がさらに好ましい。
【実施例
【0073】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
I型コラゲナーゼアッセイキット(コスモバイオ社製、品番AK37、蛍光標識コラーゲン、緩衝液A、緩衝液Bから構成される)を用いて、コラゲナーゼの活性を測定した。具体的な手順は以下の通りである。
【0074】
(試薬の調製)
必要量の蛍光標識コラーゲンと緩衝液Aを等量混合して基質液を調製し、使用するまでアルミホイルで遮光氷冷した。蛍光の消光を防ぐため、用事調製とした。
必要量の緩衝液Aとイオン交換水を等量混合して緩衝溶液を調製し、使用するまで氷冷した。
コラゲナーゼ(MPバイオメディカル社製、品番195109)4mgを緩衝溶液0.5mLに溶解(1000U/mL)してコラゲナーゼ原液を調製し、これを緩衝溶液で希釈してコラゲナーゼ溶液を調製した。
【0075】
サンプルは、α-グルコシルルチンとして下記αGルチン、α-グルコシルへスペリジンとして下記αGヘスペリジン、α-グルコシルナリンジンとして下記αGナリンジンを用いた。各サンプルの組成は以下の通りである。
αGルチン:α-モノグルコシルルチン71質量%、イソケルシトリン14質量%
αGヘスペリジン:α-モノグルコシルヘスペリジン85質量%、7-グルコシルヘスペレチン10質量%
αGナリンジン:α-モノグルコシルナリンジン81質量%、7-グルコシルナリンゲニン12質量%
各サンプル600mgをイオン交換水にて5mLに定容し、サンプル原液を調製した。このサンプル原液を各最終濃度になるようにイオン交換水で段階的に希釈して、各サンプル溶液を調製した(表1)。
【0076】
【表1】
【0077】
(反応と活性測定)
1. 1.5mLチューブに、基質液を50μLずつ加えた。各サンプルの分のチューブの他、コントロール、コントロールのブランクおよび各サンプルのブランクの分のチューブも準備した。サンプル自体に色がある場合、該サンプルをそのまま測定すると、コントロール(サンプル無添加)と比較して、サンプルの色の分だけ蛍光強度の測定値が高くなることがある。この測定値のズレを補正するために、サンプルの色に起因する蛍光強度値を引くためのブランクを作成した。すなわち、サンプルを添加し、後述するコラゲナーゼ溶液を加えないものを作成し、これをサンプルのブランクとした。一実験条件あたりN=3で実験した。
【0078】
2. 1.に各サンプル溶液を25μL加え撹拌した。なお、コントロールおよびコントロールのブランクにはサンプル溶液の替わりにイオン交換水を加えた。
3. 2.にコラゲナーゼ溶液を25μL加え撹拌し、35℃で30分間反応させた。なお、サンプルのブランクおよびコントロールのブランクには、コラゲナーゼ溶液を加えずに緩衝溶液を加えた。
【0079】
4. 緩衝液Bをすべてのチューブに300μL加えて激しく撹拌し、氷浴下で15分間静置させた。
5. 遠心分離(4℃、4000rpm、10分)を行い、蛍光用ブラック96ウェルプレートに上清を100μL加えた。
【0080】
6. マイクロプレートリーダーにて、励起波長495nm、蛍光波長520nmの蛍光強度を測定した。
7. 式Iにてコラゲナーゼ活性阻害率(%)を算出した。
【数1】
【0081】
式I中、
C:コントロールの蛍光強度値
C':コントロールのブランクの蛍光強度値
S:サンプルの蛍光強度値
S':サンプルのブランクの蛍光強度値
である。
【0082】
(結果)
結果を図1に示す。αGルチン、αGへスペリジン、およびαGナリンジンの濃度依存的にコラゲナーゼ活性の阻害率が高くなった。α-グルコシルルチン、α-グルコシルへスペリジン、およびα-グルコシルナリンジンにはコラゲナーゼ活性阻害効果があることがわかった。
【0083】
〔実施例2〕
サンプル溶液の調製と希釈をイオン交換水の替わりに2Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)を用いて行った以外は、実施例1と同様にしてコラゲナーゼ活性を測定した。
サンプルは、実施例1と同様に、αGルチン、αGへスペリジン、およびαGナリンジンを用いた。
【0084】
〔比較例1〕
比較サンプルとしてビタミンC(アスコルビン酸、ナカライテスク社製、NO.03420-65)を用いた。調製したサンプル溶液は表2の通りである。
【0085】
【表2】
【0086】
(結果)
結果を図2に示す。αGルチン、αGへスペリジン、およびαGナリンジンのコラゲナーゼ活性阻害率は、同濃度のビタミンCに比べて高かった。ビタミンPとも呼ばれるルチン、ヘスペリジン、およびナリンジンの誘導体であるα-グルコシルルチン、α-グルコシルへスペリジン、およびα-グルコシルナリンジンは、ビタミンCよりもコラゲナーゼ活性阻害効果が高いことがわかった。
【0087】
〔実施例3〕
以下の2点以外は、実施例1と同様にしてコラゲナーゼ活性を測定した。
1. サンプル溶液の調製と希釈をイオン交換水の替わりに20mM塩化カルシウム含有1Mトリス-塩酸緩衝液(pH6.5)を用いて行った。
2. コラゲナーゼ タイプI(ワージントンバイオケミカル社製、NO.LS004194、175U/mg)3mgを緩衝溶液0.5mLに溶解(1050U/mL)してコラゲナーゼ原液を調製した。
【0088】
サンプルは、実施例1と同様に、αGルチン、αGへスペリジン、およびαGナリンジンを用いた。
【0089】
〔比較例2〕
比較サンプルとしてビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム、ナカライテスク社製、NO.03422-45)を用いた。調製したサンプル溶液は表3の通りである。
【0090】
【表3】
【0091】
(結果)
結果を図3に示す。pH6.5においても、αGルチン、αGへスペリジン、およびαGナリンジンのコラゲナーゼ活性阻害率は、同濃度のビタミンCに比べて高かった。pH6.5においても、ビタミンPとも呼ばれるルチン、ヘスペリジン、およびナリンジンの誘導体であるα-グルコシルルチン、α-グルコシルへスペリジン、およびα-グルコシルナリンジンは、ビタミンCよりもコラゲナーゼ活性阻害効果が高いことがわかった。
図1
図2
図3