(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】ラスト、ラストの製造方法、およびシューズアッパーの製造方法
(51)【国際特許分類】
A43D 3/02 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
A43D3/02
(21)【出願番号】P 2020077797
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪口 正律
(72)【発明者】
【氏名】小塚 祐也
(72)【発明者】
【氏名】高島 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】波多野 元貴
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504268(JP,A)
【文献】米国特許第01753857(US,A)
【文献】特開2019-181249(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115806(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43D 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズを構成するシューズアッパーを成形するためのラストであって、
形状および位置が不変の共通部と、
形状が不変であり前記共通部に対する位置を変更可能な位置変更部と、
前記共通部に対する前記位置変更部の位置を変更して前記位置変更部を所定位置に固定する位置調整機構と、
前記共通部に形成された凹溝、または前記共通部と前記位置変更部との間に形成された空間部に組み込まれ、前記シューズの着用者の足の甲に相当する部位をなす、組み込みラスト部とを備
え、
前記組み込みラスト部は、前記シューズの幅方向に延びる複数の板状部材を有する、ラスト。
【請求項2】
前記位置変更部は、前記ラストの中足部において、前記シューズの幅方向に位置を変更可能である、請求項1に記載のラスト。
【請求項3】
前記位置変更部は、前記ラストの中足部において、高さ方向に位置を変更可能である、請求項1または請求項2に記載のラスト。
【請求項4】
前記位置変更部は、前記ラストの中足部において、前記共通部に対する角度を変更可能である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のラスト。
【請求項5】
前記位置調整機構は、前記位置変更部を所定位置に固定した第1状態と、前記位置変更部が移動可能な第2状態と、を切り替える係合部を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のラスト。
【請求項6】
前記共通部と前記位置変更部との境界部を結ぶラインは、前記シューズの着用者の足の中足骨に沿うラインと対応する直線または曲線である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のラスト。
【請求項7】
前記組み込みラスト部は、前記シューズの長さ方向に延びる棒状部材を有し、前記板状部材には前記棒状部材が貫通する貫通孔が形成されている、請求項
1から請求項6のいずれか1項に記載のラスト。
【請求項8】
前記共通部には、前記棒状部材の端部を収容する収容穴が形成されている、請求項
7に記載のラスト。
【請求項9】
前記共通部に対して位置を変更した前記位置変更部と前記共通部との隙間に配置される
平板状組み込みラスト部をさらに備える、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のラスト。
【請求項10】
前記ラストの少なくとも一部または前記ラストに形成される隙間を外方から覆うシート状または板状のカバー体をさらに備える、請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載のラスト。
【請求項11】
シューズを構成するシューズアッパーを成形するためのラストの製造方法であって、
形状および位置が不変の共通部と、形状が不変であり前記共通部に対する位置を変更可能な位置変更部と、前記共通部に対する前記位置変更部の位置を変更して前記位置変更部を所定位置に固定する位置調整機構と、
前記共通部に形成された凹溝、または前記共通部と前記位置変更部との間に形成された空間部に組み込まれ、前記シューズの着用者の足の甲に相当する部位をなす、組み込みラスト部とを備
え、前記組み込みラスト部は、前記シューズの幅方向に延びる複数の板状部材を有する、ラストを準備する工程と、
前記位置調整機構を調整して前記共通部に対する
前記位置変更部の位置を変更する工程と、を備える、ラストの製造方法。
【請求項12】
前記変更する工程は、
ユーザーの足型モデルを生成する工程と、
前記足型モデルから、前記位置変更部の前記共通部に対する適正位置を示す適正位置データを生成する工程と、
前記適正位置データに基づき前記位置変更部を前記適正位置まで移動させる工程と、を有する、請求項
11に記載のラストの製造方法。
【請求項13】
熱収縮糸を含む繊維シートからなる成形前アッパーを、請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載のラストに被せる工程と、
加熱により前記成形前アッパーを前記ラストの形状に沿わせて成形後アッパーとする工程と、を備える、シューズアッパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラスト、ラストの製造方法、およびシューズアッパーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シューズを作製する際には、シューズアッパーを所定の形状に成形するために、シューズアッパーを構成する布地を被せるためのラスト(靴型)が用いられる。
【0003】
特許文献1には、可搬型のハウジング内で履物を製造することが開示されている。特許文献2には、形状記憶ポリマーにより再成形できるラストプリフォームが開示されている。特許文献3には、3Dプリントによりラストを形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2018/0014609号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0206049号明細書
【文献】中国特許第109732913号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ユーザーの足に合わせたオーダーメイドのシューズを作製する際、各個人の足の形状を反映させた専用のラストが製造される。従来の方法でユーザー専用のラストを製造するには、専用の大型機械が用いられ、時間およびコストを要していた。
【0006】
本開示では、簡易な構成によりユーザーの足に適合したラスト、そのラストの製造方法、および、そのラストを用いたシューズアッパーの製造方法が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従うと、シューズを構成するシューズアッパーを成形するためのラストが提案される。ラストは、形状および位置が不変の共通部と、形状が不変であり共通部に対する位置を変更可能な位置変更部と、共通部に対する位置変更部の位置を変更して位置変更部を所定位置に固定する位置調整機構と、を備えている。
【0008】
本開示のある局面に従うと、シューズを構成するシューズアッパーを成形するためのラストの製造方法が提案される。このラストの製造方法は、以下の工程を備えている。第1の工程は、形状および位置が不変の共通部と、形状が不変であり共通部に対する位置を変更可能な位置変更部と、共通部に対する位置変更部の位置を変更して位置変更部を所定位置に固定する位置調整機構と、を備えるラストを準備する工程である。第2の工程は、位置調整機構を調整して共通部に対する位置変更部の位置を変更する工程である。
【0009】
本開示のある局面に従うと、シューズアッパーの製造方法が提案される。このシューズアッパーの製造方法は、以下の工程を備えている。第1の工程は、熱収縮糸を含む繊維シートからなる成形前アッパーを、上記のラストに被せる工程である。第2の工程は、加熱により成形前アッパーをラストの形状に沿わせて成形後アッパーとする工程である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、簡易な構成によりユーザーの足に適合したラストを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】足型モデルを得るためにユーザーの足を撮影している様子を示す図である。
【
図5】幅方向に位置変更部の位置を変更したラストの斜視図である。
【
図6】幅方向に位置変更部の位置を変更したラストの平面図である。
【
図7】位置変更部と共通部との隙間に組み込みラスト部を配置した状態の平面図である。
【
図8】高さ方向に位置変更部の位置を変更したラストの側面図である。
【
図9】共通部に対する位置変更部の角度を変更したラストの側面図である。
【
図10】カバー体に覆われたラストの平面図である。
【
図11】幅方向に延びる組み込みラスト部を備えるラストの平面図である。
【
図15】第四実施形態の組み込みラスト部の斜視図である。
【
図16】第四実施形態の組み込みラスト部の分解斜視図である。
【
図19】踵部の位置変更部の位置の変更を模式的に示す平面図である。
【
図20】踵部の位置変更部の位置を変更したラストの側面図である。
【
図21】成形前アッパーをラストに被せた状態を示す斜視図である。
【
図22】ラストに被せられた成形前アッパーを加熱する処理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0013】
以下に説明する実施形態のラスト(靴型)は、主に、ユーザーの足に合わせたオーダーメイドのシューズ用のラストである。但し、実施形態のラストは、大量生産品のシューズ用のラストへの適用も可能である。
【0014】
[第一実施形態]
図1は、足型モデルFMを得るためにユーザーの足Fを撮影している様子を示す図である。
図1に示されるように、スマートフォンPまたはデジタルカメラなどの撮影可能な携帯端末を用いて、ユーザーの足Fを撮影して、足Fの画像データを取得する。足Fの画像データは、ユーザーが訪問した店舗で撮影することができる。店舗は、固定的な店舗であってもよく、自動車またはトレーラーなどを用いた移動店舗であってもよい。または、足Fの画像データは、ユーザーの自宅で撮影することができる。ユーザー自身が足Fを撮影した画像データを、シューズメーカーのサーバーに送信してもよい。
【0015】
図2は、足型モデルFMの斜視図である。
図2に示される足型モデルFMは、足Fの画像データから取得されたユーザーの足Fの各部の採寸データから生成された、三次元の足型モデルである。たとえば、スマートフォンPを用いてユーザーの足Fを撮影する場合、そのスマートフォンPに予めインストールされているソフトウェアにより、画像データを基に足型モデルFMを生成できる。または、撮影された画像データと、シューズメーカーが使用するサーバー内のデータとの両方を用いて演算することにより、足型モデルFMを生成することができる。
【0016】
足型モデルFMは、ユーザーの足Fの形状と同一の形状に形成されてもよい。または、デザインもしくは機能上の理由により、足型モデルFMの特定の部位を、所望の寸法だけ、ユーザーの足Fの形状に対して補正してもよい。
【0017】
図3は、ラストモデル100の斜視図である。
図3に示されるラストモデル100は、
図2に示される足型モデルFMに基づいて作成された、ユーザーの足Fの形状に合わせカスタマイズされたラストのモデルである。このラストモデル100に従って作成されたラストを用いてシューズアッパーを成形することで、ユーザーに専用のオーダーメイドのシューズを作製できる。
【0018】
図4は、ラスト1の斜視図である。
図4に示されるように、ラスト1には、前足部と、中足部とが規定される。たとえば、シューズの長さ方向におけるシューズの着用者の爪先からMTP関節までに相当する領域を前足部、シューズの着用者のMTP関節から楔状骨までに相当する領域を中足部と規定してもよい。またたとえば、ラスト1の爪先側の最前端を0%位置、踵側の最
後端を100%位置としたときに、ラスト1の長さ方向における0%位置から30~35%位置までの範囲を前足部、前足部の後方の50%~55%位置までの範囲を中足部と規定してもよい。
【0019】
図4に示されるラスト1は、爪先部分と、足のくるぶし部から踏まず部に対応する中足部から踵部に亘る部分とに、形状および位置が不変の共通部70を備えている。またラスト1は、形状が不変であり位置を変更可能な位置変更部80を備えている。ラスト1は、中足部における足の第1趾先端および第5趾先端に対応する部分に位置変更部80Aを備えており、中足部における足の甲側の部分に位置変更部80Bを備えている。位置変更部80Aは、幅方向に位置を変更可能である。位置変更部80Bは、高さ方向に位置を変更可能、かつ共通部70に対する角度を変更可能である。
【0020】
図5は、幅方向に位置変更部80Aの位置を変更したラスト1の斜視図である。
図6は、幅方向に位置変更部80Aの位置を変更したラスト1の平面図である。
図5,6に示されるように、ラスト1は、位置調整機構82を備えている。左右一対の位置変更部80Aは、位置調整機構82Aにより連結されている。位置調整機構82Aは、共通部70に対する位置変更部80Aの位置を変更する。また位置調整機構82Aは、位置を変更した後の位置変更部80Aを所定位置に固定することが可能である。
【0021】
位置調整機構82Aは、係合部84を有している。係合部84は、嵌合構造、ねじ締め構造などにより、位置変更部80Aを所定位置に固定した第1状態と、位置変更部80Aが移動可能な第2状態とを切り替える。たとえば位置調整機構82Aは、大径管と、その大径管内に収容され大径管に対して往復移動可能な小径管とを有し、係合部84は、大径管と小径管との少なくともいずれか一方に非係合とされて大径管に対して小径管が移動可能となる状態と、大径管と小径管との両方に係合して大径管に対して小径管が移動不能となる状態とを切り替えてもよい。この場合係合部84は、スナップロック、ピンロック、ロックナットなどにより実現されてもよい。
【0022】
位置調整機構82Aを構成する部品として、ステッピングモータなどの電動の機構部品を、共通部70内に着脱可能に収容してもよい。位置変更部80Aの位置を変更して所定位置に固定した後に、機構部品を共通部70から取り外してもよい。
【0023】
位置変更部80Aは、中足部において、ラスト1の幅方向に位置を変更可能である。位置調整機構82Aが、左右一対の位置変更部80A間の距離を広げるように位置変更部80Aの位置を変更することで、ラスト1の中足部の幅方向寸法が大きくなる。位置調整機構82Aが、左右一対の位置変更部80A間の距離を狭めるように位置変更部80Aの位置を変更することで、ラスト1の中足部の幅方向寸法が小さくなる。
【0024】
図7は、位置変更部80Aと共通部70との隙間に組み込みラスト部88を配置した状態の平面図である。
図5,6に示されるように左右一対の位置変更部80Aの各々を共通部70から離れるように移動させて、位置変更部80A間の距離を広げると、位置変更部80Aと共通部70との間に隙間が形成される。
図7に示される構成では、この位置変更部80Aと共通部70との間の隙間に、平板状の組み込みラスト部88が配置されている。隙間に配置される組み込みラスト部88の枚数は、隙間の大きさに対応して適宜変更され得る。
図7に示される例では、左右の位置変更部80Aと共通部70との間に、それぞれ二枚ずつの組み込みラスト部88が配置されている。
【0025】
図8は、高さ方向に位置変更部80Bの位置を変更したラスト1の側面図である。
図8に示されるように、位置変更部80Bは、位置調整機構82Bによって共通部70と連結されている。位置調整機構82Bは、共通部70に対する位置変更部80Bの位置を変更する。また位置調整機構82Bは、位置を変更した後の位置変更部80Bを所定位置に固定することが可能である。位置調整機構82Bは、係合部84を有している。
図8に示される係合部84は、
図5,6に示される係合部84が位置変更部80Aに作用するのと同様に、位置変更部80Bを固定した第1状態と位置変更部80Bが移動可能な第2状態とを切り替える。
【0026】
位置変更部80Bは、中足部において、ラスト1の高さ方向に位置を変更可能である。位置調整機構82Bが、位置変更部80Bを上方へ移動させて位置変更部80Bと共通部70との距離を広げることで、ラスト1の中足部の高さ寸法が大きくなる。位置調整機構82Bが、位置変更部80Bを下方へ移動させて位置変更部80Bと共通部との距離を縮めることで、ラスト1の中足部の高さ寸法が小さくなる。
【0027】
図9は、共通部70に対する位置変更部80Bの角度を変更したラスト1の側面図である。位置変更部80Bは、
図9には図示されない位置調整機構82Bによって共通部70と連結されている。位置変更部80Bは、中足部において、共通部70に対する角度を変更可能である。
【0028】
位置調整機構82Bは、幅方向に延びる回転軸を有し、位置変更部80Bはこの回転軸によって支持されて、
図9中の矢印で示されるように位置変更部80Bが回転軸まわりに回転可能とされてもよい。位置調整機構82Bは、多段階での角度調整が可能なギアを有していてもよい。位置調整機構82Bは、ユニバーサルジョイントを有していてもよい。位置変更部80Bは、ユニバーサルジョイントを介して支持されて、多軸回転可能に構成されてもよい。
【0029】
図10は、カバー体90に覆われたラスト1の平面図である。ラスト1は、少なくともその一部が外方からカバー体90によって覆われていてもよい。
図10に示されるように、位置変更部80を備えており、位置変更部80の位置変更によって共通部70との間に隙間が形成されるラスト1の場合、カバー体90は、ラスト1に形成される隙間を少なくとも覆う形状であってもよい。ラスト1の全体がカバー体90によって外方から覆われていてもよい。カバー体90は、シート状であってもよく、板状であってもよい。
【0030】
カバー体90として、たとえばポリスチレンフィルムなどの、熱を加えると収縮するフィルムを使用してもよい。この場合、ラスト1をフィルムで覆い、その後フィルムに熱を加えてフィルムを変形させることで、ラスト1の表面を覆うカバー体90を形成できる。カバー体90を熱変形させる際に、カバー体90の内側から空気(温風)を送ってもよい。この場合、位置変更部80と共通部70との接続部において、過度にカバー体90が内側へと収縮することを抑制できるので、シューズアッパーの成形の精度を向上することができる。
【0031】
カバー体90は、アルミホイルに代表される金属箔であってもよく、この場合、ラスト1の表面を金属で覆うことで熱伝導性が向上するので、後述するシューズアッパーの加熱成形時に有利である。またはカバー体90は、靴下であってもよい。
【0032】
上述した説明と一部重複する記載もあるが、本実施形態の特徴的な構成および作用効果について、以下に列挙する。
【0033】
図4に示されるように、実施形態のラスト1は、形状および位置が不変の共通部70と、形状が不変であり共通部70に対する位置を変更可能な位置変更部80とを備えている。
図5~6,8に示されるように、ラスト1は、位置調整機構82を備えている。位置調整機構82は、共通部70に対する位置変更部80の位置を変更して、位置変更部80を所定位置に固定する。
【0034】
ラスト1を分割し、ユーザーごとに形状には差が出にくいが位置に差が出る部位に位置変更部80を使用して、その部位の位置を可変にする。対象となるユーザーの足型モデルFMに基づいて、位置調整機構82を調整して共通部70に対する位置変更部80の位置を変更し、変更後の位置で位置変更部80を固定することで、ユーザーそれぞれの足Fの形状に合ったラスト1を短時間で提供できる。したがって、簡易な構成によりユーザーの足Fに適合したラスト1を提供することができる。
【0035】
ユーザーごとの足形状の差が出にくくラスト1の形状および位置の変更が不要な部位には、形状および位置が不変の共通部70を使用することで、ラスト1の構成をより簡易にでき、ユーザーの足形状に合うようにラスト1の形状を調整する時間を短縮することができる。
【0036】
図5,6に示されるように、位置変更部80Aは、ラスト1の中足部において、幅方向に位置を変更可能であってもよい。ラスト1において、足の横アーチに相当する部位を左右一対の位置変更部80Aとすることで、その部位の幅方向寸法の調整代が設けられる。これにより、足の横アーチに相当する部位のラスト1の幅方向寸法をユーザーの足形状に合わせることが可能となる。
【0037】
図8に示されるように、位置変更部80Bは、ラスト1の中足部において、高さ方向に位置を変更可能であってもよい。ラスト1において、足の甲に相当する部位を位置変更部80Bとすることで、その部位の高さ方向寸法の調整代が設けられる。これにより、足の甲に相当する部位のラスト1の高さ方向寸法をユーザーの足形状に合わせることが可能となる。
【0038】
図9に示されるように、位置変更部80Bは、ラスト1の中足部において、共通部70に対する角度を変更可能であってもよい。ラスト1において、足の甲に相当する部位をさらに角度調整可能とすることで、足の甲に相当する部位の形状をより精度よくユーザーの足形状に合わせることが可能となる。
【0039】
図5~6,8に示されるように、位置調整機構82は、係合部84を有していてもよい。係合部84は、位置変更部80を所定位置に固定した第1状態と、位置変更部80が移動可能な第2状態と、を切り替える。係合部84を第2状態として、ユーザーの足形状に合う位置まで位置変更部80を移動させ、その位置で係合部84を第1状態として位置変更部80を固定できる。係合部84を第1状態とすることで、位置変更部80Aは幅方向の両方向に移動不能になり、位置変更部80Bは高さ方向の両方向に移動不能になる。これにより、ユーザーの足Fに適合した目標の形状にラスト1を確実に成形することができる。
【0040】
図7に示されるように、ラスト1は、組み込みラスト部88をさらに備えていてもよい。組み込みラスト部88は、共通部70に対して位置を変更した後の位置変更部80Aと共通部70との隙間に配置されている。位置変更部80の位置を変更した後に、共通部70と位置変更部80との外表面に、位置および形状の差に起因する隙間または段差が形成される場合があるが、そのような隙間または段差に組み込みラスト部88を配置することで、共通部70と位置変更部80との外表面を滑らかに接続することができる。
【0041】
なお
図7に示される組み込みラスト部88は、長さ方向に延びるように配置されているが、隙間および段差の形状に応じて、幅方向に延びる組み込みラスト部88が設けられてもよい。
図11は、幅方向に延びる組み込みラスト部88を備えるラスト1の平面図である。
図11に示されるように、幅方向において共通部70から突出する位置変更部80と共通部70との間の段差に組み込みラスト部88を設けることで、段差が小さくなり、ラスト1の幅方向の寸法が滑らかに接続される。
【0042】
図10に示されるように、ラスト1は、ラスト1の少なくとも一部またはラスト1に形成される隙間を外方から覆うシート状または板状のカバー体90をさらに備えていてもよい。ラスト1がカバー体90によって覆われることで、実施形態のラスト1を使用してシューズアッパーを成形する際に、共通部70と位置変更部80との間に形成される隙間および段差を解消でき、隙間および段差が成形後のシューズアッパーの形状に影響することを抑制できる。したがって、所定の形状のシューズアッパーをより確実に成形することができる。
【0043】
図1~3に示されるように、ユーザーの足Fを撮影した画像データから足型モデルFMが生成され、足型モデルFMに基づいてラストモデル100が生成される。ラストモデル100に基づいて、
図5,8~9に示されるように位置変更部80を適正な位置まで移動させることで、ユーザーの足型モデルFMに対応した最終形状のラスト1が成形される。ラストモデル100は、共通部70に対する位置変更部80の適正位置を示す適正位置データを構成している。このようにすれば、ユーザーの足Fの形状に応じたラスト1を、確実に形成することができる。
【0044】
[第二実施形態]
図12は、第二実施形態のラスト1の斜視図である。第一実施形態では、共通部70と位置変更部80Aとの境界部を結ぶライン、すなわち両者の間に形成される隙間を結ぶラインは、
図4に示されるように直線である。
図12に示されるように、共通部70と位置変更部80との境界部75を結ぶラインは、曲線であってもよい。また、共通部70と位置変更部80との境界部75を結ぶラインは、シューズの着用者のたとえば第1指、第5指中足骨に沿うラインと対応している。境界部75を結ぶラインがどの指の中足骨に沿うかは問わない。境界部75を結ぶラインが中足骨に沿うとは、境界部75を結ぶラインが中足骨と略平行な部分を少なくとも長さ方向の一部に備えていればよい。
【0045】
このように共通部70および位置変更部80Aの形状を定めることで、ラスト1の形状をより精度よくユーザーの足形状に合わせることが可能となる。
【0046】
[第三実施形態]
図13は、第三実施形態のラスト1の斜視図である。第一実施形態では、中足部において足の甲に相当する部位を位置変更部80Bとする例について説明した。この例に替えて、
図13に示されるように、足の甲に相当する部位を組み込みラスト部10としてもよい。組み込みラスト部10は、共通部70に形成された凹溝、または、共通部70と位置変更部80との間に形成された空間部に組み込まれることで、ラスト1の一部分を構成している。
【0047】
図13に示される組み込みラスト部10は、複数の足長形成部材20と、複数の足幅形成部材40とが相互に組み付けられて形成されている。足長形成部材20は、長さ方向に延びる板状の形状を有している。足長形成部材20は、少なくとも長さ方向におけるラスト1の形状を規定している。足幅形成部材40は、幅方向に延びる板状の形状を有している。足幅形成部材40は、少なくとも幅方向におけるラスト1の形状を規定しており、足長形成部材20に組み付けられている。
【0048】
足長形成部材20と足幅形成部材40とは、シート状のベース部材から切り出すことによって形成することができる。足長形成部材20と足幅形成部材40とは、段ボールなどの紙製であってもよく、熱可塑性樹脂などの樹脂製であってもよい。足長形成部材20と足幅形成部材40とは、それぞれを相互に組み込むための係合溝を有していてもよい。
【0049】
中足部の甲に対応する位置は、ユーザーごとの足形状の差が最も大きくなる部位である。この位置に凹溝または空間部を形成して、ここに組み込みラスト部10を使用することにより、より精度よくラスト1の形状をユーザーの足形状に合わせることが可能となる。ユーザーごとにパーソナライズされた専用の組み込みラスト部10が作製されてもよい。または、異なる形状の組み込みラスト部10を予め複数個作成しておき、ユーザーの足型モデルFMに対応して最も形状の近い組み込みラスト部10を選択して使用するようにしてもよい。
【0050】
[第四実施形態]
図14は、第四実施形態のラスト1の斜視図である。第三実施形態では、足長形成部材20と足幅形成部材40との両方がラスト1の外表面に露出する組み込みラスト部10について説明した。組み込みラスト部10は、
図14に示されるように、足幅形成部材40のみがラスト1の外表面に露出するように形成されてもよい。
図14に示される足幅形成部材40は、幅方向に延びる板状部材として形成されている。組み込みラスト部10は、複数の足幅形成部材40を有している。足幅形成部材40は、対象となるユーザーの足型モデルFMに基づき、シート状のベース部材から切り出されたものであってもよい。
【0051】
図15は、第四実施形態の組み込みラスト部10の斜視図である。
図16は、第四実施形態の組み込みラスト部10の分解斜視図である。
図15,16に示されるように、足長形成部材20は、棒状の形状を有している。足長形成部材20は、長さ方向に延びる棒状部材として形成されている。足幅形成部材40には、棒状の足長形成部材20が貫通する貫通孔42が二箇所に形成されている。
【0052】
貫通孔42に棒状の足長形成部材20を通すことで、足幅形成部材40が足長形成部材20に組み付けられる。これにより、組み込みラスト部10の構成を簡素化でき、組み込みラスト部10の形状を安定させることができ、かつ、組み込みラスト部10の組み立て速度を向上することができる。棒状の足長形成部材20と足幅形成部材40の貫通孔42との数は、例示した2つに限られず、1または複数の任意の数としてもよい。また貫通孔42に替えて、足幅形成部材40に、棒状の足長形成部材20を嵌め込むことが可能な溝が形成されていてもよい。
【0053】
長さ方向に並べられた複数の足幅形成部材40は、同じ板厚を有していてもよいが、
図14~16に示されるように、異なる板厚を有していてもよい。具体的には、爪先に近い足幅形成部材40の板厚が大きく、踵に近い足幅形成部材40の板厚が小さいように、足幅形成部材40の厚みを異ならせてもよい。足の甲部は、爪先側から踵側に向かうにつれて次第に湾曲が大きくなるように形状が変化する。足の甲の形状変化の大きい踵側において、足幅形成部材40の厚みを小さくすることで、ラスト1の高さ方向および幅方向の寸法を細かく調整することが可能になる。したがって、ラスト1によるユーザーの足形状の再現性をより高めることができる。
【0054】
足の甲部の形状変化の小さい爪先側において足幅形成部材40の厚みを過度に小さくしないことで、組み込みラスト部10を構成するパーツの数が抑制される。これにより、ラスト1の製造速度を向上することができる。
【0055】
複数の足幅形成部材40は、
図14~16に示されるように長さ方向に隙間なく並べられてもよいが、長さ方向に隣り合う足幅形成部材40間に隙間が形成されてもよい。この場合、隣り合う足幅形成部材40間にスペーサーを配置することで、隣り合う足幅形成部材40の間隔を定めることができる。スペーサーは、足長形成部材20および足幅形成部材40とは別の部材として設けられてもよく、足幅形成部材40と一体的に設けられてもよい。
【0056】
図17は、第四実施形態の共通部70の斜視図である。
図17に示されるように、共通部70には、収容穴72が形成されている。ラスト1の爪先部分を構成する共通部70に2つの有底の収容穴72が形成されており、ラスト1の踵部分を構成する共通部70に2つの有底の収容穴72が形成されている。
図15,16に示される棒状の足長形成部材20と同数の収容穴72が、共通部70に形成されている。収容穴72は、長さ方向に延びている。収容穴72は、長さ方向に延びる同一直線上に、同形状に形成されている。収容穴72には、足長形成部材20の端部が収容される。
【0057】
共通部70に、棒状の足長形成部材20を通過させてこれを所定位置に支持するための収容穴72が形成されていることで、足長形成部材20を共通部70の適切な位置に支持することができる。したがって、棒状の足長形成部材20に板状の足幅形成部材40が組み付けられた組み込みラスト部10を、共通部70に対して適正な位置に固定することができる。
【0058】
組み込みラスト部10は、第三実施形態で説明した板状の足長形成部材20と足幅形成部材40とを組み合わせる構成、第四実施形態で説明した棒状の足長形成部材20に板状の足幅形成部材40を組み付ける構成のほか、樹脂またはパルプを固めたブロック状の部材としてもよい。ブロック状の組み込みラスト部10は、中実であっても中空であってもよい。組み込みラスト部10は、3Dプリンタで作製されたソリッド成形品であってもよい。
【0059】
[第五実施形態]
これまでの実施形態では、中足部から踵部に亘る部分が共通部70として形成されるラスト1の例について説明した。この例に替えて、ラスト1は、踵部にも位置変更部80を備えてもよい。
図18は、第五実施形態のラスト1の側面図である。
図19は、踵部の位置変更部80の位置の変更を模式的に示す平面図である。
図20は、踵部の位置変更部80の位置を変更したラストの側面図である。
【0060】
図18~20に示されるように、踵部の位置変更部80は、踵の最後方となる部分に設けられ、ラスト1の長さ方向に往復移動可能とされて、ラスト1の長さ方向寸法を変更可能とする位置変更部80Cを含んでもよい。踵部の位置変更部80は、後足部の側部の、足の外踝および/または内踝に対応する部分に設けられ、ラスト1の幅方向に移動可能とされて、ラスト1の後足部の幅方向寸法を変更可能とする位置変更部80Dを含んでもよい。踵部の位置変更部80は、長さ方向および幅方向に加えて、高さ方向にも移動可能であってもよい。踵部の位置変更部は、共通部70に対する角度を変更可能であってもよい。踵部の位置変更部の上方および下方には、位置変更部80の移動を許容するための空洞部が形成され、この空洞部にユーザーの足Fの形状に合わせて成形された組み込みラスト部10が充填されている。
【0061】
図20に示されるラスト1では、位置変更部80Cは、長さ方向に後方に移動し、さらに上方向に移動した位置で固定されている。位置変更部80Dは、幅方向に移動し、左右一対の位置変更部80D間の距離を広げた位置で固定されている。このように、ラスト1の中足部において位置を変更可能な位置変更部80A,80Bに加えて、ラスト1の踵部において位置を変更可能な位置変更部80C,80Dを備える構成とすることで、ラスト1の形状をより精度よくユーザーの足形状に合わせる、またはラスト1を所望の形状に形成することができる。
【0062】
[第六実施形態]
第六実施形態では、これまでの実施形態において説明したラスト1を用いたシューズアッパーの製造方法について説明する。
図21は、成形前アッパー200をラスト1に被せた状態を示す斜視図である。たとえば、熱収縮糸を含む繊維シートからなるシューズアッパーの材料(成形前アッパー200)を用意する。ラスト1の外形よりも大きい成形前アッパー200をラスト1に被せて、
図21に示される構成を得る。
【0063】
図22は、ラスト1に被せられた成形前アッパー200を加熱する処理を示す模式図である。
図22に示されるように、成形前アッパー200を被せられたラスト1を、加熱箱210の内部に収納する。この状態で、加熱箱210の内面から高温の蒸気220を放出する。これにより、成形前アッパー200のスチーム加熱がなされる。このスチーム加熱により、成形前アッパー200の全体が均一に加熱される。加熱により熱収縮糸が収縮することで、成形前アッパー200をラスト1の形状に沿わせて成形後アッパーとすることができる。
【0064】
このような製造工程を経ることで、大掛かりな設備を用いずに、ユーザーの足Fの形状に応じたユーザー専用のシューズアッパーを製造することができる。
【0065】
上記の加熱箱210は、スチームオーブンであってもよい。また成形前アッパー200の加熱は、スチーム加熱のほか、熱風加熱、温水加熱などによって行なわれてもよい。成形前アッパー200に対する加熱を、全体ではなく部分的に行なうこともできる。このようにして得られた成形後アッパーが、別に作製されたシューズソールに、接着、熱融着などにより取り付けられる。
【0066】
上記の各処理中、または全処理の終了後に、シュータンの形成、履き口の加工、シューレース(靴紐)を通すためのハトメの取り付け、装飾部品およびタグの取り付け、ロゴのプリント、インソール(中敷)の取り付けなどを適宜行なうことで、シューズが製造される。
【0067】
シューズアッパーの製造方法は、上述した熱収縮糸を含む繊維シートの加熱収縮に限定されるものではなく、たとえば、ラスト1の周囲に生地を直接編み込む、3Dプリンタで積層するなど、種々の方法を採用し得る。工場における、従来既知のシューズアッパーの成形工程に、実施形態のラスト1を用いることも可能である。
【0068】
以上のように実施形態について説明を行なったが、各実施形態において互いに組み合わせ可能な構成を適宜組み合わせてもよい。また、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1 ラスト、10,88 組み込みラスト部、20 足長形成部材、40 足幅形成部材、42 貫通孔、70 共通部、72 収容穴、75 境界部、80,80A,80B,80C,80D 位置変更部、82,82A,82B 位置調整機構、84 係合部、90 カバー体、100 ラストモデル、200 成形前アッパー、210 加熱箱、220 蒸気、F 足、FM 足型モデル、P スマートフォン。