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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/16 20060101AFI20240315BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20240315BHJP
   G01R 19/155 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G01R15/16
G01R19/00 B
G01R19/155
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020110305
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2021015119
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019138303
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年3月1日発行の令和2年電気学会全国大会講演論文集5-178第289頁にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】506016680
【氏名又は名称】今村 博男
(74)【代理人】
【識別番号】100129573
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博正
(72)【発明者】
【氏名】今村 博男
(72)【発明者】
【氏名】岩嶋 啓太
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕司
(72)【発明者】
【氏名】大沢 真人
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230214(JP,A)
【文献】特開2016-027332(JP,A)
【文献】特開2000-065878(JP,A)
【文献】特開2018-141769(JP,A)
【文献】特開2010-286474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/14
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に印加されている直流電圧を非接触で測定する測定装置において、
前記直流電圧が印加され帯電している前記測定対象により電極に静電誘導される誘導電荷を、前記誘導電荷の値に応じた振幅の交番電圧に変換する変換手段と、
前記交番電圧の値から前記電極の電位の値を算出する電位算出手段と、
前記測定対象と前記電極との距離の値を取得する距離取得手段と、
算出された前記電極の電位の値および取得された前記測定対象と前記電極との距離の値から、前記測定対象に印加されている前記直流電圧の値を算出する電圧算出手段と
を含む測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置において、
前記変換手段は、前記電極に並列の静電容量を第1の周波数で変化させることにより、前記電極に静電誘導される前記誘導電荷を前記第1の周波数の交番電圧に変換する
測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の測定装置において、
前記変換手段は、前記電極に並列の静電容量を前記第1の周波数で変化させて生じる電圧と、前記電極に並列の静電容量を前記第1の周波数で変化させて生じる電圧であって、前記誘導電荷による直流成分を除去した電圧との差分を増幅することで、前記電極に静電誘導される前記誘導電荷を前記第1の周波数の交番電圧に変換する
測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の測定装置において、
前記変換手段で変換された第1の周波数の前記交番電圧を所定の第2の周波数でサンプリングして、離散値を得るサンプリング手段と、
前記交番電圧をサンプリングして得られた前記離散値を前記第1の周波数において離散フーリエ変換する離散フーリエ変換手段と
をさらに含み、
前記電位算出手段は、離散フーリエ変換の結果得られた前記第1の周波数の前記交番電圧の値から前記電極の電位の値を算出する
測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の測定装置において、
前記電位算出手段は、一次関数により、前記交番電圧の値から前記電極の電位の値を算出する
測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の測定装置において、
前記電圧算出手段は、前記距離の値の高次多項式により、前記測定対象に印加されている前記直流電圧の値を算出する
測定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の測定装置において、
前記距離取得手段は、使用者の操作により入力手段に入力された値を取得することで、前記測定対象と前記電極との距離の値を取得する
測定装置。
【請求項8】
請求項1に記載の測定装置において、
前記距離取得手段は、距離センサにより前記測定対象との距離を測定して、前記測定対象と前記電極との距離の値を取得する
測定装置。
【請求項9】
測定対象に印加されている直流電圧を非接触で測定する測定方法において、
前記直流電圧が印加され帯電している前記測定対象により電極に静電誘導される誘導電荷を、前記誘導電荷の値に応じた振幅の交番電圧に変換し、
前記交番電圧の値から前記電極の電位の値を算出し、
前記測定対象と前記電極との距離の値を取得し、
算出された前記電極の電位の値および取得された前記測定対象と前記電極との距離の値から、前記測定対象に印加されている前記直流電圧の値を算出する
測定方法。
【請求項10】
直流電圧が印加されて帯電している測定対象の前記直流電圧を非接触で測定する測定装置のコンピュータに、
前記直流電圧が印加され帯電している前記測定対象により電極に静電誘導される誘導電荷を、前記誘導電荷の値に応じた振幅の交番電圧に変換する変換手段で変換された前記交番電圧の値から前記電極の電位の値を算出する電位算出ステップと、
前記測定対象と前記電極との距離の値を取得する距離取得ステップと、
算出された前記電極の電位の値および取得された前記測定対象と前記電極との距離の値から、前記測定対象に印加されている前記直流電圧の値を算出する電圧算出ステップと
を含む情報処理を行わせるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置、測定方法およびプログラムに関し、特に、直流電圧を測定する測定装置、測定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、直流電圧により充電される充電部の充電状態を非接触にて検出し充電時に警報音にて知らせることおよび充電電圧を非接触にて測定できる非接触型検電器に関する。
【0003】
直流送電システムにおける送電線の既定の直流電圧に加圧されているか判別するための装置として検電器がある。直流送電システムは、例えば電車線の送電に利用され、直流式電気鉄道の「き電回路」などに適用されている。直流式電気鉄道の「き電回路」には、電力会社の発電機から供給される三相交流電力を、電気鉄道用変電所で整流することによって、1500V程度の直流電圧が印加されている。その直流式電気鉄道の「き電回路」の充電状態を検出する検電器として、基準電位線をレールに接続しておき、検出端子を架線に接触させて、充電状態を検知する接触型の検電器が知られている。この接触型の検電器は充電部の充電状態が加圧であれば警報音にて知らせるとともに既定の直流電圧に加圧されているか判定するために架線電圧を読み取る機能も備えている製品も存在する。
【0004】
直流式電気鉄道の「き電回路」は一方は軌道面の上空約5.5メートルに張られた架線に電気車のパンタグラフ等の集電装置を接触させ、もう一方は電気車の金属製車輪と接触する鉄製レールを通じて直流変電所から電気車に走行用を主とする電力を供給する。鉄製レールは枕木やバラストを通じて接地されていてレールから直流変電所に戻る接続電線となる帰線は変電所内のレールに近い側で数十平方メートルの金属製の網を池中に埋め込み積極的に接地されている。直流式電気鉄道の「き電回路」は加圧はされているが電流が全く流れていない状態においては大地が完全なゼロボルトとなる接地系回路である。電流が流れていても検電を行う地点のレールあるいは大地が相対的なゼロボルトとなる。
【0005】
本発明者らは、先に、直流式電気鉄道の「き電回路」を検出対象とする非接触型の検電器の開発を行った(非特許文献1を参照)。「き電回路」には1500Vなど高い直流電圧が印加される。この非接触型検電器の開発当初においては充電部の充電状態を加圧か非加圧かを識別できれば良いとしていたが本発明者らの非接触検電器は非特許文献1に記載したように充電部である架線と大地のゼロボルトとの間に生じる電位Pに応答することもわかっていた。一方で直流用の検電器で一般的な接触型検電器では充電部の充電状態が加圧であれば警報音にて知らせるとともに架線電圧を読み取ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-27332号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】田中裕司 福原卓 下原光幸 西村一実 中島等 今村博男、「直流電圧を非接触で確認する方法の開発」、電気学会研究会資料、一般社団法人電気学会、2015年5月20日、p.7-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らの非接触検電器が出力するのは電位Pに比例したディジタル値ではあるが予め設定した警報閾値を上回った場合に充電部が加圧されていたと判定するだけであった。この電位Pに比例したディジタル値を用いて充電部の電圧を非接触にて測定できれば従来型の接触式直流検電器と同等の機能を持たせることができる。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、測定対象に印加されている直流電圧を非接触で測定することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、
直流電圧によって充電される充電部の充電状態を検出する検電器であって、
前記充電部の直流電圧と大地や軌道面など測定場所における接地電位である相対的ゼロボルトとの間に生じる電位を測定しディジタル値として出力できる検電器が必要となる。
【0011】
前記検電器の具体例としては、
前記充電部の直流電圧の電界により静電誘導される電荷が帯電する検出用電極および該検出用電極に接続された可変容量手段と、該可変容量手段の容量値が変化されることで前記検出用電極の帯電状態に応じて振幅が変化した交流信号を出力する機能を備える検出部と、前記交流信号の振幅の大きさに基づいて前記検出用電極の帯電状態すなわち直接的には誘導電荷量Qに比例したディジタル値を、そして間接的には前記検出用電極を含めた検電器が置かれた位置での電位Pに比例したディジタル値を出力する測定部とを備え、
前記可変容量手段は、前記検出用電極に直流結合および交流結合で接続された一対の可変容量素子と、正弦波を発生する正弦波発生手段とを備え、前記一対の可変容量素子の制御端子に正弦波がそれぞれ入力されることで容量値が変化するように構成され、前記検出部の出力側あるいは前記測定部の入力側に、前記一対の可変容量素子の各充電電圧がコンデンサによる交流結合にて入力端子にそれぞれ入力された差動増幅回路を備えているようにした。
【0012】
例えば直流式電気鉄道の平坦で直線区間の明かり区間においては充電部となる地上高約5.5メートルの架線と大地との鉛直方向の地上から概ね地上高4メートルまでの領域において電位Pはほぼ一次関数であることが本発明者らの非接触検電器による電位測定と電磁界シミュレータにより確かめられている。この電位Pの一次関数的勾配を反映する前記測定部の電位Pに比例したディジタル値出力および充電部からの前記検出用電極までの距離Lを用いて充電部電圧Tを多項式により得ることができる。前記多項式は例えば5次のべき級数多項式を用いる。前記した充電部からの前記検出用電極までの距離Lを検電器に数値入力する手段としてキーボードとディスプレイを備える必要がある。前記距離入力手段としては例えばタッチパネル式の液晶ディスプレイがある。あるいは検電器にレーザー距離計を組み込み一体化させ検電器内部で通信を行い自動的に入力させるようにしても良い。大地あるいは軌道面からの検電器の高さを測定する手段としては他にジャイロや気圧計がある。前記充電部からの前記検出用電極までの距離Lは前記検出用電極の先端までとする。
【0013】
軌道が曲線区間の場合は軌道面に垂直方向に充電部である架線が存在するので直線平坦路区間と同様に扱うことができる。また軌道中心から最大2メートル程度ずれた方向から充電部である架線を検電する場合も同様に扱うことができる。架線と併走する給電線も絶縁被覆の有無に関わらず同様に扱うことができる。ただし電位Pの勾配の傾き度合いは絶縁被覆の材質や厚みに依存するが本発明者らの非接触検電器の加圧か非加圧かの判定に影響を及ぼさない程度であることは確かめられている。ただし本発明の目的とする非接触にて電圧測定する場合には影響を及ぼすので予め検電器内に給電線の仕様に応じた補正係数を格納しておくなどの工夫を必要とする。
【0014】
本発明は直流式電気鉄道の「き電回路」すなわち架線や給電線のように線状の充電部を測定対象としているので例えば面状の広がりを持つ充電部には当然のように補正が必要となる。
【0015】
本発明の一側面の測定装置は、測定対象に印加されている直流電圧を非接触で測定する測定装置において、直流電圧が印加され帯電している測定対象により電極に静電誘導される誘導電荷を、誘導電荷の値に応じた振幅の交番電圧に変換する変換手段と、交番電圧の値から電極の電位の値を算出する電位算出手段と、測定対象と電極との距離の値を取得する距離取得手段と、算出された電極の電位の値および取得された測定対象と電極との距離の値から、測定対象に印加されている直流電圧の値を算出する電圧算出手段とを含む。
【0016】
変換手段は、電極に並列の静電容量を第1の周波数で変化させることにより、電極に静電誘導される誘導電荷を第1の周波数の交番電圧に変換するようにすることができる。
【0017】
変換手段は、電極に並列の静電容量を第1の周波数で変化させて生じる電圧と、電極に並列の静電容量を第1の周波数で変化させて生じる電圧であって、誘導電荷による直流成分を除去した電圧との差分を増幅することで、電極に静電誘導される誘導電荷を第1の周波数の交番電圧に変換するようにすることができる。
【0018】
変換手段で変換された第1の周波数の交番電圧を所定の第2の周波数でサンプリングして、離散値を得るサンプリング手段と、交番電圧をサンプリングして得られた離散値を第1の周波数において離散フーリエ変換する離散フーリエ変換手段とをさらに設け、電位算出手段は、離散フーリエ変換の結果得られた第1の周波数の交番電圧の値から電極の電位の値を算出するようにすることができる。
【0019】
電位算出手段は、一次関数により、交番電圧の値から電極の電位の値を算出するようにすることができる。
【0020】
電圧算出手段は、距離の値の高次多項式により、測定対象に印加されている直流電圧の値を算出するようにすることができる。
【0021】
距離取得手段は、使用者の操作により入力手段に入力された値を取得することで、測定対象と電極との距離の値を取得するようにすることができる。
【0022】
距離取得手段は、距離センサにより測定対象との距離を測定して、測定対象と電極との距離の値を取得するようにすることができる。
【0023】
本発明の一側面の測定方法は、測定対象に印加されている直流電圧を非接触で測定する測定方法であって、直流電圧が印加され帯電している測定対象により電極に静電誘導される誘導電荷を、誘導電荷の値に応じた振幅の交番電圧に変換し、交番電圧の値から電極の電位の値を算出し、測定対象と電極との距離の値を取得し、算出された電極の電位の値および取得された測定対象と電極との距離の値から、測定対象に印加されている直流電圧の値を算出する。
【0024】
本発明の一側面のプログラムは、直流電圧が印加されて帯電している測定対象の直流電圧を非接触で測定する測定装置のコンピュータに、直流電圧が印加され帯電している測定対象により電極に静電誘導される誘導電荷を、誘導電荷の値に応じた振幅の交番電圧に変換する変換手段で変換された交番電圧の値から電極の電位の値を算出する電位算出ステップと、測定対象と電極との距離の値を取得する距離取得ステップと、算出された電極の電位の値および取得された測定対象と電極との距離の値から、測定対象に印加されている直流電圧の値を算出する電圧算出ステップとを含む情報処理を行わせる。
【0025】
本発明の一側面によれば、直流電圧が印加され帯電している測定対象により電極に静電誘導される誘導電荷が、誘導電荷の値に応じた振幅の交番電圧に変換され、交番電圧の値から電極の電位の値が算出され、測定対象と電極との距離の値が取得され、算出された電極の電位の値および取得された測定対象と電極との距離の値から、測定対象に印加されている直流電圧の値が算出される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、例えば直流1500Vの電圧が印加される充電部からの距離L=5メートル程度まで非接触にて電圧測定することができる。これと電位の値の範囲が同じになる電圧数十Vの充電部からの距離L=20センチメートルまでにおいて、あるいは電圧が数Vなら充電部からの距離L=1センチメートル程度において非接触にて電圧測定が可能となる。
【0027】
以上のように、本発明によれば、測定対象に印加されている直流電圧を非接触で測定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施の形態の非接触型検電器を示す構成図である。
図2】充電部の直流電圧と大地や軌道面など測定場所における接地電位である相対的ゼロボルトとの間に生じる電位の電磁界シミュレータに結果と本発明者らが先になした発明(非特許文献1)に記載の検電器による実測値に比例定数を乗じたものおよび数2数3関数を表すグラフである。
図3】非接触検電器にて測定した電位Pと充電部から検電器までの距離Lを数1にて計算(予測)したグラフである。充電部からの距離L=2.5~4メートルの範囲において少し波打ちながらも架線電圧Vtoが予測できていることがわかる。
図4】本発明の一実施の形態の測定装置の構成の例を示すブロック図である。
図5】検出回路111の構成の概要を示す図である。
図6】検出回路111の構成の具体的な例について説明する図である。
図7】MOSFET181-1および181-2における、ゲートに充電される電荷量とゲート/ソース間の電圧との特性の例を示す図である。
図8】MOSFET181-1および181-2における、ドレイン/ソース間の電圧と静電容量との特性の例を示す図である。
図9】コンピュータである処理部112のハードウェアの構成の例を示すブロック図である。
図10】電位の値Pと電磁界シミュレーションにより得られた電位との例を示す図である。
図11】直流電圧の値Vt0(L)の例を示す図である。
図12】測定装置101で電圧測定を行った結果の例を示す図である。
図13】電圧の測定の手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態の非接触型検電器を示す構成図である。
本発明の第1実施の形態に用いる非接触型検電器は例えば本発明者らの非接触検電器(特許文献1)が利用できる。(特許文献1)の図3のフーリエ変換部132のディジタル値出力Mに係数kを乗じて電位の測定値Pmを得るようにする。数1に示す5次多項式の各係数を例えばF=0.89、E=0.037、D=0、C=-1.6、B=5.9、A=-4.1のようにして電位の測定値Pmと充電部から検電器までの距離の測定値Liを与えれば架線電圧Vtoが求まる。本発明では充電部から検電器までの距離Lが2m以上の一次関数とみなせる範囲においてL=Liの1点で電位Pi(Li)を測定するだけで架線電圧Vtoを求めることができる。
Vto ( L ) = P・F・( E・L +D・L +C・L +B・L +A・L) ・・・(1)
【0030】
ここで、
A~F:それぞれ異なる定数
P:非接触検電器が測定した電位[V]
”・”(中黒):掛算記号
P(L)|L0 =A・exp{ }+D・(L0-L) ・・・(2)
【0031】
ここで、
A~D:それぞれ異なる定数
L0:充電部から大地あるいは軌道面までの距離[メートル]
P(L)|L0 = D・(L0-L) ・・・(3)
【0032】
ここで、
D:定数
L0:充電部から大地あるいは軌道面までの距離[メートル]
【0033】
なお、先の出願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のようなものである。
直流電圧によって充電される充電部の充電状態を非接触で検出する非接触型検電器であって、
前記充電部の直流電圧と大地や軌道面など測定場所における接地電位である相対的ゼロボルトとの間に生じる電位を測定し出力(電位測定)できることおよび前記充電部と検電器との距離および前記測定電位を用いて多項式により前記充電部の電圧を非接触にて測定できることを特徴とする非接触型検電器。
先の出願の特許請求の範囲の請求項2の記載は、次のようなものである。
前記充電部の直流電圧の電界により静電誘導される電荷が帯電する検出用電極および該検出用電極に接続された可変容量手段と、該可変容量手段の容量値が変化されることで前記検出用電極の帯電状態に応じて振幅が変化した交流信号を出力する機能を備える検出部と、前記交流信号の振幅の大きさに基づいて前記検出用電極の帯電状態すなわち直接的には誘導電荷量に比例した値を、そして間接的には前記検出用電極を含めた検電器が置かれた位置での電位に比例した値を出力する測定部とを備え、前記可変容量手段は、前記検出用電極に直流結合および交流結合で接続された一対の可変容量素子と、正弦波を発生する正弦波発生手段とを備え、前記一対の可変容量素子の制御端子に正弦波がそれぞれ入力されることで容量値が変化するように構成され、前記検出部の出力側あるいは前記測定部の入力側に、前記一対の可変容量素子の各充電電圧がコンデンサによる交流結合にて入力端子にそれぞれ入力された差動増幅回路を備えているようにしたことを特徴とする請求項1記載の非接触型検電器。
先の出願の特許請求の範囲の請求項3の記載は、次のようなものである。
前記測定部は、前記検出部から出力される前記交流信号の変動成分のうち所定の周波数の信号成分を抽出する周波数抽出手段を有し、該周波数抽出手段により抽出された周波数の信号成分の大きさに基づいて前記充電部の直流電圧と大地や軌道面など測定場所における接地電位である相対的ゼロボルトとの間に生じる電位を測定し出力(電位測定)できる機能を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の非接触型検電器。
先の出願の特許請求の範囲の請求項4の記載は、次のようなものである。
前記一対の可変容量素子の充電電圧を積分する積分回路と、
前記積分回路の出力電圧が前記一対の可変容量素子および前記正弦波発生手段に基準電位として印加されるように構成されている前記判定部は、前記検出部から出力される前記交流信号の変動成分のうち所定の周波数の信号成分を抽出する周波数抽出手段を有し、該周波数抽出手段により抽出された周波数の信号成分の大きさに基づいて前記充電部の直流電圧と大地や軌道面など測定場所における接地電位である相対的ゼロボルトとの間に生じる電位を測定し出力(電位測定)できる機能を備えたことを特徴とする請求項1または2または3に記載の非接触型検電器。
先の出願の特許請求の範囲の請求項5の記載は、次のようなものである。
前記直流電圧は交流電圧から変換された電圧であり、
前記検出部は、前記交流電圧の基本波および高調波周波数成分を除去もしくは減衰する受動狭帯域フィルタを備え、
前記所定の周波数は、前記交流電圧の基本波および高調波周波数による影響を受けにくい周波数に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の非接触型検電器。
先の出願の特許請求の範囲の請求項6の記載は、次のようなものである。
前記判定部は、前記検出部から出力される信号をディジタル信号に変換するアナログ-ディジタル変換手段と、
前記アナログ-ディジタル変換手段により変換された信号から前記所定の周波数に相当する成分を抽出する離散フーリエ変換手段と、を備えることを特徴とする請求項5に記載の非接触型検電器。
【0034】
以下、さらに、図4乃至図13を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0035】
図4は、本発明の一実施の形態の測定装置の構成の例を示すブロック図である。
【0036】
測定装置101は、測定対象の一例である充電部102に印加されている直流電圧を非接触で測定する。充電部102は、直流送電用の架線や送電線などである。例えば、充電部102には、1500Vの直流電圧が印加される。充電部102には、基準電位となる大地103の電位に対して所定の直流電圧が印加される。
【0037】
例えば、測定装置101は、測定者に把持されて使用される。測定装置101は、測定装置101の基準電位を基準にして、充電部102に印加されている直流電圧を非接触で測定する。例えば、測定装置101は、測定者に把持されて、充電部102から図4中の点線で示される距離Lだけ離れた位置で、充電部102に印加されている直流電圧を非接触で測定する。
【0038】
測定装置101は、検出回路111および処理部112を含み構成される。検出回路111は、変換手段の一例であり、直流電圧が印加され帯電している充電部102により固定電極(後述する)に静電誘導される誘導電荷を、誘導電荷の値に応じた振幅の所定の周波数の交番電圧v0(t)に変換する。検出回路111は、交番電圧v0(t)を処理部112に供給する。なお、交番電圧v0(t)の周波数は、商用交流電源周波数の整数倍の周波数および商用交流電源周波数の約数の周波数と異なる周波数とされ、例えば、83Hzとされる。なお、図4および図5中の一点鎖線は、電気力線を示している。検出回路111の詳細は後述する。
【0039】
処理部112は、汎用または専用の集積回路またはコンピュータなどからなり、検出回路111から出力される交番電圧v0(t)を処理して、充電部102に印加されている直流電圧の電圧値を求めて表示する。
【0040】
処理部112は、A/D(Analog-to-digital)変換部121、離散フーリエ変換部122、電位算出部123、距離取得部124、電圧算出部125および表示部126を含み構成される。例えば、離散フーリエ変換部122、電位算出部123、距離取得部124および電圧算出部125は、コンピュータである処理部112がプログラムを実行することにより実現される。例えば、A/D変換部121、離散フーリエ変換部122、電位算出部123および電圧算出部125は、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブルロジックデバイスや専用の集積回路で実現される。
【0041】
A/D変換部121は、検出回路111から供給された誘導電荷の値に応じた所定の周波数の交番電圧v0(t)を量子化・離散化する。すなわち、A/D変換部121は、検出回路111から供給された誘導電荷の値に応じた所定の第1の周波数の交番電圧v0(t)を所定の第2の周波数でサンプリングして、離散値D(i)を得る。離散フーリエ変換部122は、A/D変換部121で得られた離散値D(i)を、交番電圧v0(t)の周波数において離散フーリエ変換する。離散フーリエ変換部122は、離散フーリエ変換して得られた値F(f01)を電位算出部123に供給する。電位算出部123は、電圧算出手段の一例であり、離散フーリエ変換して得られた値F(f01)から検出回路111の固定電極(後述する)の電位の値Pを算出する。電位算出部123は、測定装置101が配置されている位置における電位の値Pを算出するとも言える。
【0042】
距離取得部124は、距離取得手段の一例であり、充電部102と検出回路111の固定電極との距離Lの値を取得する。距離取得部124は、取得した距離Lの値を電圧算出部125に供給する。
【0043】
電圧算出部125は、電圧算出手段の一例であり、検出回路111の固定電極の電位の値Pおよび充電部102と検出回路111の固定電極との距離Lの値から、充電部102に印加されている直流電圧の値Vt0(L)を算出する。電圧算出部125は、算出して求められた直流電圧の値Vt0(L)を表示部126に供給する。表示部126は、液晶表示装置、有機EL(electro-luminescence)表示装置、プラズマ表示装置、LED(light emitting diode)表示装置などからなり、電圧算出部125から供給された直流電圧の値Vt0(L)を表示する。
【0044】
次に、図5を参照して検出回路111の構成の概要について説明する。図5は、原理的なセンサである理想的な電圧駆動型可変容量素子を、交流電圧を供給する駆動用電源で駆動する場合の検出回路111の構成を示す。理想的な電圧駆動型可変容量素子においては、駆動用入力端子に加えられる駆動電圧が可変静電容量端子に漏れない。まず、図5に示される検出回路111の動作の概要について説明する。なお、電圧駆動型可変容量素子の可変静電容量は、可変容量手段の容量値に対応する。
【0045】
固定電極と検出回路111のグランドに接続された筐体との間の静電容量に検出回路111の内部の静電容量を合わせた静電容量を検出回路111の入力静電容量をCiとする。検出回路111のうち固定電極から直流電圧が加わる経路(検出回路111の直流側経路)には商用交流電源周波数除去フィルタ154-1と可変静電容量素子156-1の可変静電容量端子およびコンデンサ158-1を通じて差動増幅器159の非反転入力端子が接続されるので、これらが検出回路111直流側経路と検出回路111のグランドとの間に有する静電容量の合計が検出回路111の内部の静電容量となる(その他としてコンデンサ152の直流側から見た等価静電容量も加わる)。検出回路111で用いられる理想的な電圧駆動型可変容量素子は、駆動用電源からの交流電圧が供給されると、検出回路111の入力静電容量CiをCi±ΔCに変動させる。仮に、固定電極を含む検出回路111の入力静電容量Ciに電荷Qを有していたとすると、交番電圧v0(t)は、式(4)で表される。
v0(t)=Q/[Ci±ΔC{f(t)}] ・・・式(4)
【0046】
ここで、f(t)は、式(5)または式(6)で表される。
f(t)=sin(2πf01・t) ・・・式(5)
f(t)=v(t)=Vm・sin(2πf01・t) ・・・式(6)
なお、Vmは、-Vm≦0≦+Vmである。
式(4)で示されるように、交番電圧v0(t)は、電荷Qの値に応じた振幅となる。
【0047】
ここで、例えば、理想的な電圧駆動型可変容量素子は、3端子素子であり、図5中右側の駆動用入力端子と、図5中上側の可変容量素子としての入力端子(可変静電容量端子とも称する。)と、図5中下側の共通端子とを備える。理想的な電圧駆動型可変容量素子は、駆動用入力端子に印加される電圧により、入力端子(可変静電容量端子)と共通端子との間の静電容量を変化させる。ここで、入力端子と共通端子とは、可変静電容量端子とも言える。なお、2つの電圧駆動型可変容量素子が、1つの物理的な素子として構成される場合、共通端子は、2つの電圧駆動型可変容量素子で共通の1つの端子として設けられる。
【0048】
式(5)によれば、周波数f01の交番電圧である交番電圧v0(t)が得られることがわかる。また、式(6)によれば、さらに駆動用電源から電圧駆動型可変容量素子に供給される交流電圧の最大値Vmに応じた交番電圧v0(t)が得られることがわかる。例えば、交番電圧v0(t)は、最大値Vmに比例する。
【0049】
理想的な電圧駆動型可変容量素子の端子に、増幅器を接続すれば、交番電圧v0(t)を増幅することもできるが、増幅器の入力インピーダンスZiは、理想増幅器でない限り有限な値なので増幅器の入力端子に電流iが流れることになる。すなわち、理想的な電圧駆動型可変容量素子から増幅器に電力を供給することになる。その電力は、理想的な電圧駆動型可変容量素子に交流電圧を供給する駆動用電源から供給される。
【0050】
このような、外部駆動型の可変容量素子の例としては、可動させる電極としての金属薄板を電磁石にて振動させ固定された電極との距離を可変させることで静電容量を可変させるバイブレーティングリードと称されるものがある。この場合、ピエゾ素子にて駆動すれば電圧駆動型となる。
【0051】
次に、検出回路111の構成の詳細について説明する。検出回路111は、固定電極151、コンデンサ152、抵抗器153、商用交流電源周波数除去フィルタ154-1および154-2、抵抗器155-1および155-2、可変静電容量素子156-1および156-2、駆動用電源157、コンデンサ158-1および158-2、差動増幅器159、コンデンサ160並びに出力端子161を含み構成される。コンデンサ152、コンデンサ158-1および158-2並びにコンデンサ160は、直流の阻止および交流の通過を目的とする静電容量素子である。
【0052】
固定電極151は、平板状または棒状など所定の形状に形成されている金属などの導電体からなる。固定電極151の形状は、いずれの形状であってもよい。固定電極151は、絶縁体で被覆するようにしてもよい。固定電極151を含む検出回路111の直流側経路には、直流電圧が印加され帯電している充電部102の静電誘導により誘導電荷Qsが生じる。固定電極151を含む検出回路111の直流側経路は、帯電している充電部102の電荷の極性に対して逆の極性に帯電する。固定電極151を含む検出回路111の直流側経路は、静電誘導により生じた誘導電荷Qsで発生した電圧(以下、誘導電荷起電圧Vpoと称する。)を発生させる。
【0053】
なお、充電部102の静電誘導による誘導電荷は、測定装置101の基準電位である回路用グランド側にも発生するが、仮に測定装置101を単独で空中に配置したとするならば生じる僅かな電位勾配による誘導電荷の差、または測定装置101を人間の手で保持すれば大地レベルの人体電位により生じるより大きな誘導電荷の差による結果が、固定電極151を含む検出回路111の直流側経路に生じる誘導電荷Qsとなる。仮に、固定電極151を含む検出回路111の直流側経路に生じる誘導電荷の値を誘導電荷QHとし、測定装置101の基準電位である回路用グランド側に生じる誘導電荷の値を誘導電荷QGとすれば、誘導電荷Qsの値は、誘導電荷QHから誘導電荷QGを差し引いた値となる。
【0054】
すなわち、測定装置101の基準電位である回路用グランドを大地103に接地しなくとも、測定装置101においては、間接測定法により、充電部102に印加されている直流電圧の絶対値が得られる。言い換えれば、測定装置101は、充電部102に印加されている直流電圧を測定する場合、大地103に接地しなくとも良い。
【0055】
固定電極151は、電気的にコンデンサ152の一方の端子および商用交流電源周波数除去フィルタ154-1の入力端子に接続されている。すなわち、誘導電荷起電圧Vpoがコンデンサ152の一方の端子および商用交流電源周波数除去フィルタ154-1の入力端子に印加されることになる。
【0056】
コンデンサ152の他方の端子は、抵抗器153の一方の端子および商用交流電源周波数除去フィルタ154-2の入力端子に接続されている。抵抗器153の他方の端子は、測定装置101の基準電位である回路用グランドに接続されている(接地されている)。
【0057】
コンデンサ152および抵抗器153は、いわゆるハイパスフィルタ(ローカットフィルタ)を構成し、固定電極151から供給される電圧の成分のうち、直流成分を除去した電圧が商用交流電源周波数除去フィルタ154-2の入力端子に供給される。
【0058】
なお、可変静電容量素子156-2には誘導電荷起電圧Vpoが伝わらないように、商用交流電源周波数除去フィルタ154-2の入力端子が、コンデンサ152を介して固定電極151に接続されている。すなわち、誘導電荷Qsによる誘導電荷起電圧Vpo以外の周波数成分からなる電圧が商用交流電源周波数除去フィルタ154-2の入力端子(可変静電容量素子156-2)に伝えられる。
【0059】
ここで、誘導電荷起電圧Vpoの完全阻止には、直流感度回復抵抗としての抵抗器153が必須である。仮に、直流感度回復抵抗としての抵抗器153が設けられていないとすると、コンデンサ152の静電容量と、可変静電容量素子156-2の静電容量との分圧により、可変静電容量素子156-2の入力端子(可変静電容量端子)に誘導電荷起電圧Vpoを分圧した電圧が加わってしまう。
【0060】
商用交流電源周波数除去フィルタ154-1および154-2は、それぞれ、2-Tフィルタ(Twin-T filter)を複数段縦続接続した同一特性のノッチフィルタ(Notch filter)である。商用交流電源周波数除去フィルタ154-1および154-2は、それぞれ、商用交流電源周波数である50Hzおよび60Hz並びにこれらの2倍波の100Hzおよび120Hzの成分を除去する。
【0061】
商用交流電源周波数除去フィルタ154-1の出力端子は、抵抗器155-1の一方の端子に接続されている。抵抗器155-1の他方の端子は、可変静電容量素子156-1の入力端子(可変静電容量端子)およびコンデンサ158-1の一方の端子に接続されている。コンデンサ158-1の他方の端子は、差動増幅器159の一方の入力端子、例えば、図5中の差動増幅器159の左上側の端子である非反転入力端子に接続されている(なお、差動増幅器159の他方の入力端子を反転入力端子と称する)。
【0062】
商用交流電源周波数除去フィルタ154-2の出力端子は、抵抗器155-2の一方の端子に接続されている。抵抗器155-2の他方の端子は、可変静電容量素子156-2の入力端子(可変静電容量端子)およびコンデンサ158-2の一方の端子に接続されている。コンデンサ158-2の他方の端子は、差動増幅器159の他方の入力端子、例えば、図5中の差動増幅器159の左下側の端子である反転入力端子に接続されている。
【0063】
抵抗器155-1および155-2は、分離抵抗である。抵抗器155-1は、可変静電容量素子156-1の入力端子(可変静電容量端子)と共通端子との間の静電容量を商用交流電源周波数除去フィルタ154-1から分離して、商用交流電源周波数除去フィルタ154-1の動作を妨げないようにする。抵抗器155-2は、可変静電容量素子156-2の入力端子(可変静電容量端子)と共通端子との間の静電容量を商用交流電源周波数除去フィルタ154-2から分離して、商用交流電源周波数除去フィルタ154-2の動作を妨げないようにする。
【0064】
なお、抵抗器155-1および155-2に代えて高入力インピーダンスの増幅器を用いることも考えられるが、誘導電荷起電圧Vpoを可変静電容量素子156-1または156-2に伝達する必要があるので、高入力インピーダンスの増幅器を検出回路111に採用することはできない。
【0065】
また、後段に配置されている、抵抗器155-1と可変静電容量素子156-1と、および抵抗器155-2と可変静電容量素子156-2とが、それぞれ、RC受動一次低域通過フィルタ(ローパスフィルタ)を構成し120Hz以上の高い周波数領域の成分が遮断される。
【0066】
なお、RC受動一次低域通過フィルタの一次とはフィルタの周波数特性を表す伝達関数H(jω)(またはH(j2πf))の項のうち角周波数ω(または、周波数f)が関わる項が伝達関数全体に対して優勢になる領域において角周波数ω(または、周波数f)に比例するかまたは反比例するかを示している。
【0067】
駆動用電源157の一方の端子は、可変静電容量素子156-1の駆動用入力端子および可変静電容量素子156-2の駆動用入力端子に接続されている。駆動用電源157の他方の端子は、測定装置101の基準電位である回路用グランドに接続されている(接地されている)。可変静電容量素子156-1の共通端子および可変静電容量素子156-2の共通端子は、測定装置101の基準電位である回路用グランドに接続されている(接地されている)。駆動用電源157は、所定の周波数の交流電圧を供給する。例えば、駆動用電源157は、商用交流電源周波数の整数倍の周波数および商用交流電源周波数の約数の周波数と異なる周波数、例えば、83Hzの交流電圧を供給する。
【0068】
従って、可変静電容量素子156-1の駆動用入力端子および可変静電容量素子156-2の駆動用入力端子には、共通(同じ電圧で同位相)の交流電圧が印加されることになる。
【0069】
コンデンサ158-1および158-2は、固定電極151に静電誘導により生じた誘導電荷Qsを漏らさないようにして、可変静電容量素子156-1に印加される、固定電極151からの、誘導電荷Qsによる誘導電荷起電圧Vpoの低下を抑制する。
【0070】
差動増幅器159は、差動増幅器159の一方の入力端子、例えば、図5中の左上側の端子であるプラス入力端子に入力された電圧と、差動増幅器159の他方の入力端子、例えば、図5中の左下側の端子であるマイナス入力端子に入力された電圧との差を所定の増幅率で増幅して、出力端子から出力する。差動増幅器159の出力端子には、コンデンサ160の一方の端子が接続されている。コンデンサ160の他方の端子は、出力端子161に接続されている。
【0071】
コンデンサ160は、差動増幅器159からの出力の直流成分を遮断する。従って、出力端子161から、交流成分のみからなる交番電圧v0(t)が出力されることになる。
【0072】
測定者が測定装置101を手で持って使用することを考慮すると、固定電極151から可変静電容量素子156-1および156-2に伝わるのは50Hz未満の周波成分であり、測定装置101を測定者が手持ちすることによる揺らぎによって生じる電圧ΔVが誘導電荷起電圧Vpoに加えられて電圧Vpo±ΔVが可変静電容量素子156-1および156-2に伝達されてしまう。
【0073】
しかしながら、商用交流電源周波数除去フィルタ154-1、抵抗器155-1、可変静電容量素子156-1およびコンデンサ158-1からなる回路系統と、商用交流電源周波数除去フィルタ154-2、抵抗器155-2、可変静電容量素子156-2およびコンデンサ158-2からなる回路系統とが同一に構成され、駆動用電源157から出力される交流電圧を2つの回路系統で共通に用いるので、手持ちすることによる揺らぎによって生じる電圧ΔVが生じたとしても、また、駆動用電源157から周波数f01の漏えい電圧vLf01が生じたとしても、差動増幅器159で打ち消されることになり、その結果、測定者が測定装置101を手持ちすることによる揺らぎで生じる測定値の変動および半導体の温度依存性から生じる測定値の変動を抑制することができる。
【0074】
検出回路111から出力される交番電圧v0(t)は、可変静電容量素子156-1および156-2の非線形特性により正弦波でなく歪が生じてしまうが、後段の処理部112は、交番電圧v0(t)の基本波を用いる。
【0075】
次に、図6を参照して、検出回路111の構成の具体的な例について説明する。なお、図6に示される検出回路111において、図5に示される部分と同一の部分には、同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0076】
図6に示される検出回路111は、固定電極151、コンデンサ152、抵抗器153、商用交流電源周波数除去フィルタ181-1および181-2、抵抗器155-1および155-2、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)181-1および181-2、抵抗器183-1および183-2、駆動用電源157、コンデンサ158-1および158-2、差動増幅器159、コンデンサ160並びに出力端子161を含み構成される。
【0077】
ここで、例えば、抵抗器153、抵抗器155-1および155-2並びに抵抗器183-1および183-2として、金属皮膜抵抗または金属薄膜抵抗などが採用される。また、例えば、コンデンサ152、コンデンサ158-1および158-2並びにコンデンサ160として、スチロールコンデンサやポリフェニレンスルファイドなどのフィルムコンデンサなどが採用される。
【0078】
商用交流電源周波数除去フィルタ181-1は、商用交流電源周波数除去フィルタ154-1に対応し、商用交流電源周波数除去フィルタ181-2は、商用交流電源周波数除去フィルタ154-2に対応する。また、MOSFET181-1は、可変静電容量素子156-1に対応し、MOSFET181-2は、可変静電容量素子156-2に対応する。
【0079】
固定電極151は、電気的にコンデンサ152の一方の端子および商用交流電源周波数除去フィルタ181-1の入力端子に接続されている。コンデンサ152の他方の端子は、抵抗器153の一方の端子および商用交流電源周波数除去フィルタ181-2の入力端子に接続されている。抵抗器153の他方の端子は、測定装置101の基準電位である回路用グランドに接続されている(接地されている)。
【0080】
商用交流電源周波数除去フィルタ181-1および181-2は、それぞれ、2-Tフィルタを複数段縦続接続した同一特性のノッチフィルタである。商用交流電源周波数除去フィルタ181-1および181-2は、それぞれ、商用交流電源周波数である50Hzおよび60Hz並びにこれらの2倍波の100Hzおよび120Hzの成分を除去する。
【0081】
商用交流電源周波数除去フィルタ181-1および181-2は、それぞれ、入力端子と出力端子とを、直列接続された同じ抵抗値の2つの抵抗および直列接続された同じ容量の2つのコンデンサで接続し、さらに、コンデンサを介して、直列接続されている抵抗と抵抗との接続点を接地し、さらにまた、抵抗を介して、直列接続されているコンデンサとコンデンサとの接続点を接地したものである。この場合、抵抗と抵抗との接続点を接地するコンデンサの静電容量は、直列接続されているコンデンサのそれぞれの静電容量Cの2倍とされる。また、コンデンサとコンデンサとの接続点を接地する抵抗の抵抗値は、直列接続されている抵抗のそれぞれの抵抗値Rの2倍とされる。商用交流電源周波数除去フィルタ181-1および181-2は、それぞれ、2組のフィルタを並列接続した入出力対称形の受動フィルタである。
【0082】
商用交流電源周波数除去フィルタ181-1および181-2は、それぞれ、周波数fN=1/(2πCR)において、鋭い減衰特性を示す。なお、商用交流電源周波数除去フィルタ181-1および181-2のそれぞれにおいて、直列接続されている抵抗の抵抗値と接地するコンデンサの静電容量との関係および直列接続されているコンデンサの静電容量と接地する抵抗値との関係をくずして(ずらして)、より幅広い周波数領域での減衰特性を得ると共に使用するコンデンサおよび抵抗の素子の誤差の影響を減らすようにしてもよい。
【0083】
商用交流電源周波数除去フィルタ154-1の出力端子は、抵抗器155-1の一方の端子に接続されている。抵抗器155-1の他方の端子は、MOSFET181-1のゲートおよびコンデンサ158-1の一方の端子に接続されている。コンデンサ158-1の他方の端子は、差動増幅器159の一方の入力端子、例えば、図6中の左上側の端子であるプラス入力端子に接続されている。
【0084】
商用交流電源周波数除去フィルタ154-2の出力端子は、抵抗器155-2の一方の端子に接続されている。抵抗器155-2の他方の端子は、MOSFET181-2のゲートの入力端子およびコンデンサ158-2の一方の端子に接続されている。コンデンサ158-2の他方の端子は、差動増幅器159の他方の入力端子、例えば、図6中の左下側の端子であるマイナス入力端子に接続されている。
【0085】
ここで、MOSFET181-1および181-2は、それぞれ、Pチャンネル型のパワーMOSFETである。MOSFET181-1および181-2においては、それぞれ、ゲートとチャネルとの間が絶縁されている。MOSFET181-1および181-2においては、ゲートに電流がほとんど流れない。なお、MOSFET181-1および181-2は、それぞれ、Nチャンネル型のパワーMOSFETとすることもできる。
【0086】
MOSFET181-1および181-2のそれぞれのゲートは、可変静電容量素子156-1および156-2のそれぞれの可変静電容量端子に対応し、MOSFET181-1および181-2のそれぞれのソースは、可変静電容量素子156-1および156-2のそれぞれの駆動用入力端子に対応する。また、MOSFET181-1および181-2のそれぞれのドレインは、可変静電容量素子156-1および156-2のそれぞれの共通端子に対応する。
【0087】
MOSFET181-1のソースは、抵抗器183-1の一方の端子に接続されている。MOSFET181-2のソースは、抵抗器183-2の一方の端子に接続されている。MOSFET181-1のドレインおよびMOSFET181-2のドレインは、それぞれ、測定装置101の基準電位である回路用グランドに接続されている(接地されている)。
【0088】
抵抗器183-1の他方の端子および抵抗器183-2の他方の端子は、駆動用電源157の一方の端子に接続されている。MOSFET181-1のソースには、抵抗器183-1を介して、駆動用電源157から所定の周波数の交流電圧が供給される。また、MOSFET181-2のソースには、抵抗器183-2を介して、駆動用電源157から所定の周波数の交流電圧が供給される。すなわち、MOSFET181-1のソースおよびMOSFET181-2のソースには、共通(同じ電圧で同位相)の交流電圧が印加される。
【0089】
ここで、MOSFET181-1および181-2の動作について説明する。図7は、MOSFET181-1および181-2における、ゲートに充電される電荷量とゲート/ソース間の電圧との特性の例を示す図である。図7において、横軸は、ゲートに充電される電荷量を示し、縦軸は、ゲート/ソース間の電圧を示す。図8は、MOSFET181-1および181-2における、ドレイン/ソース間の電圧と静電容量との特性の例を示す図である。図8において、横軸は、ドレイン/ソース間の電圧を示し、縦軸は、静電容量を示す。図8において、静電容量Cissは、ゲート/ソース間の静電容量Cgsとゲート/ドレイン間の静電容量Cgdとを加算した値である。
【0090】
図7に示されるように、ゲートに充電される電荷量QGがゲート/ソース間の電圧VGSに比例する領域である、ゲート/ソース間の電圧VGSが-2V以下となる状態でMOSFET181-1および181-2が使用される。図8に示されるように、MOSFET181-1および181-2においては、ドレイン/ソース間の電圧VDSを変化させると静電容量Cissが変化する特性が利用される。MOSFET181-1および181-2として、同一シリコン基板上に2つの素子を形成したデュアル型を用いることで応答特性の温度依存性を打ち消すことができる。ただし、デュアル型のMOSFET181-1および181-2を用いる場合には、ドレイン端子が共通化されていることが多い。この場合、駆動用電源157の内部インピーダンスを極力下げるか、抵抗器若しくは静電容量素子をそれぞれ並列に接続することでインピーダンスを下げるか、駆動用電源157から供給される交流電圧の周波数f01において、MOSFET181-1または181-2のドレインから見た静電容量CDと直列共振させるインダクタンスLの誘導素子(インダクタ)をドレインに直列に設けるようにしてもよい。
【0091】
図7において、ゲートに充電される電荷量QGが増大しているにも関わらず、ゲート/ソース間の電圧VGSが変化しない領域が存在する。この領域においては、ゲート端子から見た全静電容量が増大していることを示している。このように、MOSFET181-1および181-2において、ゲート/ソース間の電圧VGSを変化させて、ドレイン/ソース間の静電容量CDSを変化させることもできる。
【0092】
なお、検出回路111において、MOSFET181-1および181-2のゲートとソースとを入れ替えるようにしてもよい。
【0093】
MOSFET181-1および181-2を採用する場合、バイブレーティングリードに比較して、素子の差し替えが可能で、素子の寿命がほぼ無限であるが、駆動信号の漏れがある。そこで、MOSFET181-1および181-2のそれぞれにおいて、ゲートの電荷がゼロである場合の出力を漏れ成分のみの出力として、ゲートに電荷が加わった場合の出力から、漏れ成分のみの出力を差し引くことで、誘導電荷起電圧Vpoに応じた出力を得るようにすることができる。
【0094】
また、MOSFET181-1のソースに駆動用電源157から加えられる交流電圧がゲートに漏れるので、MOSFET181-1に代えて2つのMOSFETを使用し、一方を測定電荷が加わらない参照基準として用い、2つのMOSFETに共通する漏れ成分を差動増幅器159で除去するようにしてもよい。MOSFET181-2も同様に、MOSFET181-2に代えて2つのMOSFETを使用することができる。
【0095】
差動増幅器159の出力は、MOSFET181-1からの出力(ゲートの電圧)の振幅とMOSFET181-2からの出力(ゲートの電圧)の振幅とが同じで、MOSFET181-1からの出力の位相とMOSFET181-2からの出力の位相とが同じ場合、ゼロになる。例えば、差動増幅器159の出力は、MOSFET181-1からの出力の振幅とMOSFET181-2からの出力の振幅とが同じで、MOSFET181-1からの出力の位相とMOSFET181-2からの出力の位相とが0.5度ずれている場合、ゼロにはならない。さらに、例えば、MOSFET181-1からの出力の位相とMOSFET181-2からの出力の位相とが0.5度ずれたまま、MOSFET181-1からの出力の振幅またはMOSFET181-2からの出力の振幅のいずれか一方が変化した場合、差動増幅器159の出力の振幅は変化せずに、差動増幅器159の出力の位相が入力される電圧の位相に対して大きく変化する。これを利用することで、例えば、演算の処理能力が要求される離散フーリエ変換の処理に比較すると、応答速度の速いアナログ回路である差動増幅器159を用いることで、入力される電圧の振幅の差をより簡単により確実に求めることができる。なお、アナログ回路によりフーリエ変換を行っても良いが、デジタル信号処理により離散フーリエ変換の処理を行うようにしてもよい。
【0096】
次に、処理部112のハードウェアの構成の例について説明する。図9は、コンピュータである処理部112のハードウェアの構成の例を示すブロック図である。
【0097】
CPU(Central Processing Unit)201,ROM(Read Only Memory)202,RAM(Random Access Memory)203は、バス204により相互に接続されている。
【0098】
バス204には、さらに、入出力インタフェース205が接続されている。入出力インタフェース205には、A/D変換部121および距離取得部124やキー、ボタンなどを含む入力部206および表示部126やスピーカ、プリンタを含む出力部207が接続されている。また、入出力インタフェース205には、さらに、不揮発性のメモリやハードディスクなどよりなる記憶部208、無線または有線のネットワークインタフェースなどよりなる通信部209、半導体メモリまたは磁気ディスク、光ディスク若しくは光磁気ディスクムーバブルメディア211を駆動するドライブ210が接続されている。
【0099】
以上のように構成されるコンピュータとしての脈波測定装置11では、CPU201が、例えば、記憶部208に記憶されているプログラムを、入出力インタフェース205及びバス204を介して、RAM203にロードして実行することにより、後述する一連の処理が行われる。
【0100】
コンピュータとしての処理部112(CPU201)が実行するプログラムは、例えば、半導体メモリなどよりなるパッケージメディアであるリムーバブルメディア211に記憶して、あるいは、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して提供される。
【0101】
そして、プログラムは、リムーバブルメディア211をドライブ210に装着することにより、入出力インタフェース205を介して、記憶部208に記憶することで、コンピュータにインストールすることができる。また、プログラムは、有線または無線の伝送媒体を介して、通信部209で受信し、記憶部208に記憶することで、コンピュータにインストールすることができる。その他、プログラムは、ROM202や記憶部208にあらかじめ記憶しておくことで、コンピュータにあらかじめインストールしておくことができる。
【0102】
すなわち、コンピュータとしての処理部112では、インストールされたプログラムを実行することにより、離散フーリエ変換部122、電位算出部123、距離取得部124および電圧算出部125が実現される。
【0103】
次に、A/D変換部121、離散フーリエ変換部122、電位算出部123、距離取得部124および電圧算出部125のそれぞれの詳細について説明する。
【0104】
A/D変換部121は、専用の集積回路またはいわゆるディスクリートの回路などからなり、例えば、処理部112のハードウェアに一体に設けられているか、またはPCI(Peripheral Component Interconnect)-Expressの規格などの拡張バスに装着される拡張デバイスである機能モジュールとして設けられている。
【0105】
A/D変換部121は、検出回路111から供給された誘導電荷の値に応じた所定の第1の周波数の交番電圧v0(t)を所定の第2の周波数でサンプリングして、離散値D(i)を得る。例えば、A/D変換部121は、8kHzのサンプリング周波数で交番電圧v0(t)を16ビットの離散値D(i)に量子化する。A/D変換部121は、離散値D(i)を離散フーリエ変換部122に供給する。離散値D(i)は、サンプリング周波数の逆数である時間間隔(周期)Δtで時間方向に並べられる時系列データである。
【0106】
離散フーリエ変換部122は、交番電圧v0(t)の周波数において離散値D(i)を離散フーリエ変換する。離散フーリエ変換部122は、時系列データである離散値D(i)から、所定の周波数の成分である周波数成分の大きさ(振幅に相当する。)を求める。例えば、離散フーリエ変換部122は、8kHzのサンプリング周波数でサンプリングされた時系列データである離散値D(i)から、駆動用電源157から出力される交流電圧の周波数である83Hzの周波数成分の大きさ(振幅に相当する。)を求める。
【0107】
離散フーリエ変換部122は、式(7)に示される演算により、離散値D(i)から所定の周波数の成分である周波数成分の大きさF(f01)を求める。この場合、離散フーリエ変換部122は、式(7)に示される演算により、駆動用電源157から出力される交流電圧の周波数と同じ周波数の周波数成分の大きさを離散値D(i)から求める。
【数1】
・・・式(7)
【0108】
ここで、時間間隔Δtは、離散値D(i)がサンプリングされたサンプリング周波数の逆数である周期である。インデックスiは、離散値D(i)の配列を示す値であり、0以上n-1以下である。円周率πは、円の円周の長さと円の直径との比率を示す数学定数である。式(7)中のsinおよびcosは、それぞれ、三角関数のうちの正弦関数および余弦関数のそれぞれを示す。
【0109】
式(7)に示される演算により求められるF(f01)は、周波数f01における離散フーリエ変換の大きさ、言い換えれば離散値D(i)に含まれる周波数f01成分の平均振幅および離散値D(i)のサンプリング個数nに比例した任意の数値となる。F(f01)を1/nすると規格化に近づく。
【0110】
例えば、離散フーリエ変換部122は、64ビットの整数値として|F(f01)|を算出する。
【0111】
電位算出部123は、F(f01)から固定電極151の電位の値Pを算出する。電位算出部123は、式(8)に示される、一次関数で表される演算により、F(f01)から固定電極151の電位の値Pを算出する。
P = k × Vpo + ofs = k × Qs/Ci + ofs = k’ × |F(f01)| + ofs [V]
・・・式(8)

ここで、静電容量Ciは、検出回路111の内部の静電容量の値を示す。誘導電荷Qsは、充電部102の静電誘導により固定電極151に生じた電荷の値である。誘導電荷起電圧Vpoは、誘導電荷Qsで固定電極151に発生した電圧の値である。
【0112】
また、式(8)においては、比例定数kおよび比例定数k’並びに定数であるオフセットofsが用いられる。
【0113】
なお、電位算出部123は、F(f01)から測定装置101が配置されている位置における電位の値Pを算出すると言うこともできる。
【0114】
図10は、式(8)により算出された電位の値Pと、電磁界シミュレーションにより得られた電位との例を示す図である。図10において、横軸は、距離Lを示し、縦軸は、電位の値Pを示す。図10において、実線は、電磁界シミュレーションにより得られた電位を示し、点線とバツ印とは式(8)により算出された電位の値Pを示す。
【0115】
図10における、電磁界シミュレーションによる電位P(L)は、式(9)に示される演算により求められる。
【数2】
・・・式(9)
式(9)において、定数A乃至定数Dは、それぞれ異なる値である。距離L0は、充電部102から大地103までの距離[m]を示す。
【0116】
なお、距離L0が、4.5[m]乃至5[m]においては、電磁界シミュレーションによる電位P(L)は、式(10)に示される演算により求められる。
【数3】
・・・式(10)
式(10)において、定数Dは、所定の値である。
【0117】
充電部102に印加されている直流電圧を1650[V]とし、大地103からの充電部102の高さが5[m]である場合、比例定数kおよび比例定数k’を10000とすることで、式(8)により算出された電位の値Pと磁界シミュレーションにより得られた電位とが一致することが確認された。図10より、充電部102から2[m]以上離れていれば、その位置の電位の値Pは距離Lに比例した一次関数とみなすことができると言える。
【0118】
距離取得部124は、充電部102と検出回路111の固定電極151との距離Lの値を取得する。例えば、距離取得部124は、超音波センサ、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)やレーザーセンサなどの光センサまたはミリ波レーダー(RADAR(Radio Detection and Ranging))などの電磁波を用いたセンサなどの距離センサからなり、充電部102までの距離を測り、充電部102と検出回路111の固定電極151との距離Lの値を取得する。また、例えば、距離取得部124は、測定装置101を使用する使用者の操作によりタッチパネルやキーに入力された値を取得することで、充電部102と検出回路111の固定電極151との距離Lの値を取得する。この場合、例えば、測定装置101を使用する使用者は、図面や仕様書などに記載されている大地103からの充電部102の高さを参照して、または目測などにより充電部102の高さを測り、タッチパネルやキーを操作して、充電部102と検出回路111の固定電極151との距離Lの値を入力する。
【0119】
また、例えば、距離取得部124は、記憶部208に予め記憶されている距離Lの値を読み出すことで、充電部102と検出回路111の固定電極151との距離Lの値を取得するようにしてもよい。さらに例えば、記憶部208に緯度および経度と充電部102の高さとを対応付けて予め記憶し、GPS(Global Positioning System)などにより現在位置の経度および緯度を特定して、距離取得部124は、記憶部208から緯度および経度に対応する充電部102の高さを読み出すことで、充電部102と検出回路111の固定電極151との距離Lの値を取得するようにしてもよい。
【0120】
距離取得部124は、検出回路111の固定電極151との距離Lの値を電圧算出部125に供給する。
【0121】
電圧算出部125は、検出回路111の固定電極151の電位の値Pおよび充電部102と検出回路111の固定電極151との距離Lの値から、充電部102に印加されている直流電圧の値Vt0(L)を算出する。電圧算出部125は、式(11)に示される、距離Lの値の高次多項式で表される演算により、電位の値Pおよび距離Lの値から、充電部102に印加されている直流電圧の値Vt0(L)を算出する。
Vt0(L)=P・F・(E・L5 + D・L4 + C・L3 + B・L2 + A・L)[V]
・・・式(11)
式(11)において、定数A乃至定数Fは、それぞれ異なる値である。式(11)において、中黒の記号は、掛算(乗算)を示す。なお、式(9)における定数A乃至定数Dと、式(11)における定数A乃至定数Dとは、異なる値となる。
【0122】
図11は、式(11)により算出した直流電圧の値Vt0(L)の例を示す図である。図11において、横軸は、距離Lを示し、縦軸は、直流電圧の値Vt0(L)または電位の値Pを示す。図11において、一点鎖線は、充電部102に1900[V]の直流電圧が印加されている場合の直流電圧の値Vt0(L)の例を示す。図11において、実線は、充電部102に1650[V]の直流電圧が印加されている場合の直流電圧の値Vt0(L)の例を示す。
【0123】
また、図11において、黒い四角が付された線は、充電部102に1900[V]の直流電圧が印加されている場合の電位の値Pの例を示す。図11において、白い三角が付された線は、充電部102に1650[V]の直流電圧が印加されている場合の電位の値Pの例を示す。
【0124】
図11に示されるように、充電部102からの距離Lが2[m]乃至4[m]である場合、充電部102に印加されている直流電圧の電圧が直流電圧の値Vt0(L)として算出できていると言える。
【0125】
電圧算出部125は、直流電圧の値Vt0(L)を表示部126に供給する。
【0126】
表示部126は、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、LED表示装置または機械式(アナログ式)またはデジタル式のレベルメーターなどからなり、電圧算出部125から供給された直流電圧の値Vt0(L)を表示する。なお、出力部207のプリンタで直流電圧の値Vt0(L)を印刷するようにしてもよく、また、出力部207のスピーカから直流電圧の値Vt0(L)を読み上げる音声を出力するようにしてもよい。
【0127】
なお、測定装置101の校正は次のように行われる。第1に、テスターにて充電部102に印加されている電圧Vaを測定する。第2に、充電部102から測定装置101までの距離Lを測定する。第3に、測定装置101の表示部126に表示させた電位P(L)を同条件にてシミュレーションした電位Psと一致するように、式(11)の係数Fを調整する。
【0128】
図12は、測定装置101で電圧測定を行った結果の例を示す図である。図12において、横軸は、測定回を示し、縦軸は、測定装置101で測定された直流電圧の値Vt0(L)を示す。この場合、基準値となる、充電部102に印加されている電圧を測定するテスター(電圧測定機)の読み値は、1820[V]であった。
【0129】
測定装置101で測定された直流電圧の値Vt0(L)は、2000[V]から1420[V]までの範囲であった。
【0130】
テスターの読み値と測定装置101で測定された直流電圧の値Vt0(L)との差は、最大400[V]であった。測定回ごとのばらつきは、最大9%となった。
【0131】
次に、図13のフローチャートを参照して、電圧の測定の手順を説明する。ステップS101において、検出回路111は、直流電圧が印加され帯電している測定対象である充電部102により固定電極151に静電誘導される誘導電荷Qsを、誘導電荷Qsの値に応じた振幅の所定の周波数の交番電圧v0(t)に変換する。
【0132】
ステップS102において、A/D変換部121は、誘導電荷の値に応じた振幅の交番電圧v0(t)をサンプリングして、離散値D(i)を得る。
【0133】
ステップS103において、離散フーリエ変換部122は、交番電圧v0(t)の周波数において離散値D(i)を離散フーリエ変換する。
【0134】
ステップS104において、電位算出部123は、離散フーリエ変換して得られた値F(f01)から検出回路111の固定電極151の電位の値Pを算出する。すなわち、電位算出部123は、離散フーリエ変換して得られた値F(f01)から測定装置101が配置されている位置における電位の値Pを算出する。
【0135】
ステップS105において、距離取得部124は、充電部102との距離Lの値を取得する。すなわち、距離取得部124は、充電部102と検出回路111の固定電極151との距離Lの値を取得する。
【0136】
ステップS106において、電圧算出部125は、電位の値Pおよび距離Lの値から、充電部102に印加されている直流電圧の値Vt0(L)を算出する。
【0137】
ステップS107において、表示部126は、算出された直流電圧の値Vt0(L)を表示して、電圧の測定は終了する。
【0138】
なお、ステップS103乃至ステップS107の処理は、コンピュータである処理部112がプログラムを実行することにより行うことができる。
【0139】
また、可変静電容量素子156-1および156-2として、MOSFET181-1および181-2を用いると説明したが、これに限らず、バリキャップ、バリアブルキャパシタまたはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)可変容量素子などの可変静電容量素子を用いることができる。
【0140】
なお、測定装置101は、充電部102に限らず、直流電圧を印加されている導線や回路など、例えば、太陽光発電装置、電気自動車やハイブリット自動車の出力系統または直流変電所などの所望の導電体または半導体である測定対象について、直流電圧の電圧を測定することができる。
【0141】
このように、測定対象に印加されている直流電圧を非接触で測定することができる。
【0142】
このように、測定装置101は、直流電圧が印加され帯電している測定対象である充電部102により固定電極151に静電誘導される誘導電荷Qsを、誘導電荷Qsの値に応じた振幅の交番電圧v0(t)に変換する検出回路111と、交番電圧v0(t)の値から固定電極151の電位の値Pを算出する電位算出部123と、測定対象と固定電極151との距離Lの値を取得する距離取得部124と、算出された固定電極151の電位の値Pおよび取得された測定対象と固定電極151との距離Lの値から、測定対象に印加されている直流電圧Vt0(L)の値を算出する電圧算出部125とを含む。
【0143】
検出回路111は、固定電極151に並列の静電容量を第1の周波数で変化させることにより、固定電極151に静電誘導される誘導電荷Qsを第1の周波数の交番電圧に変換するようにしてもよい。
【0144】
検出回路111は、固定電極151に並列の静電容量を第1の周波数で変化させて生じる電圧と、固定電極151に並列の静電容量を第1の周波数で変化させて生じる電圧であって、誘導電荷Qsによる直流成分を除去した電圧との差分を増幅することで、固定電極151に静電誘導される誘導電荷Qsを第1の周波数の交番電圧v0(t)に変換するようにしてもよい。
【0145】
検出回路111で変換された第1の周波数の交番電圧v0(t)を所定の第2の周波数でサンプリングして、離散値D(i)を得るサンプリング手段と、交番電圧をサンプリングして得られた離散値D(i)を第1の周波数において離散フーリエ変換する離散フーリエ検出回路111とをさらに設け、電位算出部123は、離散フーリエ変換の結果得られた第1の周波数の交番電圧の値から固定電極151の電位Pの値を算出するようにしてもよい。
【0146】
電位算出部123は、一次関数により、交番電圧v0(t)の値から固定電極151の電位の値Pを算出するようにすることができる。
【0147】
電圧算出部125は、距離Lの値の高次多項式により、測定対象に印加されている直流電圧Vt0(L)の値を算出するようにすることができる。
【0148】
距離取得部124は、使用者の操作により入力手段に入力された値を取得することで、測定対象と固定電極151との距離Lの値を取得するようにしてもよい。
【0149】
距離取得部124は、距離センサにより測定対象との距離を測定して、測定対象と固定電極151との距離Lの値を取得するようにしてもよい。
【0150】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0151】
2001 検出用電極, 2002 検電器本体, Mi 電位測定部が出力する生の値, 101 測定装置, 102 充電部, 103 大地, 111 検出回路, 112 処理部, 121 A/D変換部, 122 離散フーリエ変換部, 123 電位算出部, 124 距離取得部, 125 電圧算出部, 126 表示部, 151 固定電極, 152 コンデンサ, 153 抵抗器, 154-1および154-2 商用交流電源周波数除去フィルタ, 155-1および155-2 抵抗器, 156-1および156-2 可変静電容量素子, 157 駆動用電源, 158-1および158-2 コンデンサ, 159 差動増幅器, 160 コンデンサ, 161 出力端子, 181-1および181-2 商用交流電源周波数除去フィルタ, 181-1および181-2 MOSFET, 183-1および183-2 抵抗器, 201 CPU, 202 ROM, 203 RAM, 206 入力部, 207 出力部, 208 記憶部, 209 通信部, 211 リムーバブルメディア

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13