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特許7455040クライオポンプおよびクライオポンプの再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】クライオポンプおよびクライオポンプの再生方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 37/08 20060101AFI20240315BHJP
   F04B 37/16 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
F04B37/08
F04B37/16 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020168195
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060637
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 走
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/208336(WO,A1)
【文献】特開2016-160884(JP,A)
【文献】特開2016-153617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/08
F04B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機と、
前記冷凍機によって冷却されるクライオパネルと、
前記冷凍機を支持し、前記クライオパネルを収容するクライオポンプ容器と、
前記クライオパネルの温度を測定し、該温度を示す測定温度信号を出力する温度センサと、
前記クライオポンプ容器の内圧を測定し、該内圧を示す測定圧力信号を出力する圧力センサと、
前記測定温度信号と前記測定圧力信号に基づいて、前記クライオパネルの温度が第1温度帯にあり前記クライオポンプ容器の内圧が第1圧力領域にあるとき前記クライオポンプ容器の圧力上昇率を第1圧力上昇率しきい値と比較する圧力上昇率比較部と、
前記クライオポンプ容器の圧力上昇率が前記第1圧力上昇率しきい値を下回る場合に、前記クライオパネルを前記第1温度帯からそれより低い第2温度帯に降温するように前記冷凍機を制御する冷凍機コントローラと、を備え、
前記圧力上昇率比較部は、前記測定温度信号と前記測定圧力信号に基づいて、前記クライオパネルの温度が前記第2温度帯にあり前記クライオポンプ容器の内圧が第2圧力領域にあるとき前記クライオポンプ容器の圧力上昇率を第2圧力上昇率しきい値と比較し、
前記第2圧力領域は、前記第1圧力領域より低く、前記第2圧力上昇率しきい値は、前記第1圧力上昇率しきい値より小さいことを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
前記第1圧力領域は、10Paから100Paの範囲から選択され、
前記第1圧力上昇率しきい値は、毎分1Paから毎分50Paの範囲から選択され、
前記第2圧力領域は、0.01Paから1Paの範囲から選択され、
前記第2圧力上昇率しきい値は、毎分0.05Paから毎分0.5Paの範囲から選択されることを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
前記第1圧力領域は、20Paから30Paの範囲から選択され、
前記第1圧力上昇率しきい値は、毎分5Paから毎分20Paの範囲から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記第2温度帯は、50K以上100K以下の範囲から選択されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項5】
前記第1温度帯は、0℃より高いことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項6】
前記クライオポンプ容器に取り付けられ、前記クライオポンプ容器をラフポンプに接続するラフバルブと、
前記クライオパネルを前記第1温度帯から前記第2温度帯に降温する間に、前記測定圧力信号に基づいて、前記クライオポンプ容器の内圧が所定圧力領域に維持されるように前記ラフバルブを制御するバルブコントローラと、をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項7】
前記所定圧力領域は、10Paから100Paの範囲から選択されることを特徴とする請求項6に記載のクライオポンプ。
【請求項8】
前記所定圧力領域は、20Paから30Paの範囲から選択されることを特徴とする請求項6または7に記載のクライオポンプ。
【請求項9】
前記冷凍機コントローラは、前記クライオポンプ容器の圧力上昇率が前記第2圧力上昇率しきい値を下回る場合に、前記クライオパネルを前記第2温度帯からそれより低い第3温度帯に降温するように前記冷凍機を制御することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項10】
前記圧力上昇率比較部は、
前記第1圧力上昇率しきい値と比較するために、第1測定時間における前記クライオポンプ容器の圧力上昇量から前記圧力上昇率を取得し、
前記第2圧力上昇率しきい値と比較するために、前記第1測定時間より長い第2測定時間における前記クライオポンプ容器の圧力上昇量から前記圧力上昇率を取得することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項11】
クライオポンプ再生方法であって、
クライオパネルの温度を測定することと、
クライオポンプ容器の内圧を測定することと、
前記クライオパネルの温度が第1温度帯にあり前記クライオポンプ容器の内圧が第1圧力領域にあるとき前記クライオポンプ容器の圧力上昇率を第1圧力上昇率しきい値と比較することと、
前記クライオポンプ容器の圧力上昇率が前記第1圧力上昇率しきい値を下回る場合に、前記クライオパネルを前記第1温度帯からそれより低い第2温度帯に冷却することと、
前記クライオパネルの温度が前記第2温度帯にあり前記クライオポンプ容器の内圧が第2圧力領域にあるとき前記クライオポンプ容器の圧力上昇率を第2圧力上昇率しきい値と比較することと、を備え、
前記第2圧力領域は、前記第1圧力領域より低く、前記第2圧力上昇率しきい値は、前記第1圧力上昇率しきい値より小さいことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプおよびクライオポンプの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、極低温に冷却されたクライオパネルに気体分子を凝縮または吸着により捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは半導体回路製造プロセス等に要求される清浄な真空環境を実現するために一般に利用される。クライオポンプはいわゆる気体溜め込み式の真空ポンプであるから、捕捉した気体を外部に定期的に排出する再生を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6351525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、クライオポンプの再生時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、冷凍機と、冷凍機によって冷却されるクライオパネルと、冷凍機を支持し、クライオパネルを収容するクライオポンプ容器と、クライオパネルの温度を測定し、該温度を示す測定温度信号を出力する温度センサと、クライオポンプ容器の内圧を測定し、該内圧を示す測定圧力信号を出力する圧力センサと、測定温度信号と測定圧力信号に基づいて、クライオパネルの温度が第1温度帯にありクライオポンプ容器の内圧が第1圧力領域にあるときクライオポンプ容器の圧力上昇率を第1圧力上昇率しきい値と比較する圧力上昇率比較部と、クライオポンプ容器の圧力上昇率が第1圧力上昇率しきい値を下回る場合に、クライオパネルを第1温度帯からそれより低い第2温度帯に降温するように冷凍機を制御する冷凍機コントローラと、を備える。圧力上昇率比較部は、測定温度信号と測定圧力信号に基づいて、クライオパネルの温度が第2温度帯にありクライオポンプ容器の内圧が第2圧力領域にあるときクライオポンプ容器の圧力上昇率を第2圧力上昇率しきい値と比較する。第2圧力領域は、第1圧力領域より低く、第2圧力上昇率しきい値は、第1圧力上昇率しきい値より小さい。
【0006】
本発明のある態様によると、クライオポンプ再生方法は、クライオパネルの温度を測定することと、クライオポンプ容器の内圧を測定することと、クライオパネルの温度が第1温度帯にありクライオポンプ容器の内圧が第1圧力領域にあるときクライオポンプ容器の圧力上昇率を第1圧力上昇率しきい値と比較することと、クライオポンプ容器の圧力上昇率が第1圧力上昇率しきい値を下回る場合に、クライオパネルを第1温度帯からそれより低い第2温度帯に冷却することと、クライオパネルの温度が第2温度帯にありクライオポンプ容器の内圧が第2圧力領域にあるときクライオポンプ容器の圧力上昇率を第2圧力上昇率しきい値と比較することと、を備える。第2圧力領域は、第1圧力領域より低く、第2圧力上昇率しきい値は、第1圧力上昇率しきい値より小さい。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クライオポンプの再生時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るクライオポンプを模式的に示す。
図2】実施の形態に係るクライオポンプの再生方法を示すフローチャートである。
図3図2に示される再生方法の一部をより詳細に示すフローチャートである。
図4図2に示される再生方法の一部をより詳細に示すフローチャートである。
図5図2に示される再生方法の一部をより詳細に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、実施の形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置、スパッタリング装置、蒸着装置、またはその他の真空プロセス装置の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望の真空プロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。例えば10-5Pa乃至10-8Pa程度の高い真空度が真空チャンバに実現される。
【0012】
クライオポンプ10は、圧縮機12と、冷凍機14と、クライオポンプ容器16と、クライオパネル18と、クライオポンプコントローラ100とを備える。また、クライオポンプ10は、ラフバルブ20と、パージバルブ22と、ベントバルブ24とを備え、これらはクライオポンプ容器16に設置されている。
【0013】
圧縮機12は、冷媒ガスを冷凍機14から回収し、回収した冷媒ガスを昇圧して、再び冷媒ガスを冷凍機14に供給するよう構成されている。冷凍機14は、膨張機またはコールドヘッドとも称され、圧縮機12とともに極低温冷凍機を構成する。圧縮機12と冷凍機14との間の冷媒ガスの循環が冷凍機14内での冷媒ガスの適切な圧力変動と容積変動の組み合わせをもって行われることにより、寒冷を発生する熱力学的サイクルが構成され、冷凍機14の冷却ステージが所望の極低温に冷却される。それにより、冷凍機14の冷却ステージに熱的に結合されたクライオパネル18を目標冷却温度(例えば10K~20K)に冷却することができる。冷媒ガスは、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。理解のために、冷媒ガスの流れる方向を図1に矢印で示す。極低温冷凍機は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0014】
クライオポンプ容器16は、クライオポンプ10の真空排気運転中に真空を保持し、周囲環境の圧力(例えば大気圧)に耐えるように設計された真空容器である。クライオポンプ容器16は、吸気口17を有するクライオパネル収容部16aと、冷凍機収容部16bとを有する。クライオパネル収容部16aは、吸気口17が開放され、その反対側が閉塞されたドーム状の形状を有し、この内部にクライオパネル18が冷凍機14の冷却ステージとともに収容される。冷凍機収容部16bは、円筒状の形状を有し、その一端が冷凍機14の室温部に固定され、他端がクライオパネル収容部16aに接続され、内部に冷凍機14が挿入されている。こうして冷凍機14がクライオポンプ容器16によって支持される。クライオポンプ10の吸気口17から進入する気体はクライオパネル18に凝縮または吸着により捕捉される。クライオパネル18の配置や形状などクライオポンプ10の構成は、種々の公知の構成を適宜採用することができるので、ここでは詳述しない。
【0015】
ラフバルブ20は、クライオポンプ容器16、例えば冷凍機収容部16bに取り付けられている。ラフバルブ20は、クライオポンプ10の外部に設置されたラフポンプ30に接続される。ラフポンプ30は、クライオポンプ10をその動作開始圧力まで真空引きをするための真空ポンプである。クライオポンプコントローラ100の制御によりラフバルブ20が開放されるときクライオポンプ容器16がラフポンプ30に連通され、ラフバルブ20が閉鎖されるときクライオポンプ容器16がラフポンプ30から遮断される。ラフバルブ20を開きかつラフポンプ30を動作させることにより、クライオポンプ10を減圧することができる。
【0016】
パージバルブ22は、クライオポンプ容器16、例えばクライオパネル収容部16aに取り付けられている。パージバルブ22は、クライオポンプ10の外部に設置されたパージガス供給装置(図示せず)に接続される。クライオポンプコントローラ100の制御によりパージバルブ22が開放されるときパージガスがクライオポンプ容器16に供給され、パージバルブ22が閉鎖されるときクライオポンプ容器16へのパージガス供給が遮断される。パージガスは例えば窒素ガス、またはその他の乾燥したガスであってもよく、パージガスの温度は、たとえば室温に調整され、または室温より高温に加熱されていてもよい。パージバルブ22を開きパージガスをクライオポンプ容器16に導入することにより、クライオポンプ10を昇圧することができる。また、クライオポンプ10を極低温から室温またはそれより高い温度に昇温することができる。
【0017】
ベントバルブ24は、クライオポンプ容器16、例えば冷凍機収容部16bに取り付けられている。ベントバルブ24は、クライオポンプ10の内部から外部に流体を排出するために設けられている。ベントバルブ24は、排出される流体をクライオポンプ10の外部の貯留タンク(図示せず)へと導流する排出ライン32に接続される。あるいは、排出される流体が無害である場合には、ベントバルブ24は、排出される流体を周囲環境に放出するよう構成されてもよい。ベントバルブ24から排出される流体は基本的にはガスであるが、液体または気液の混合物であってもよい。ベントバルブ24は、制御により開閉可能であるとともに、クライオポンプ容器16の内外の差圧によって機械的に開きうる。ベントバルブ24は、例えば常閉型の制御弁であり、いわゆる安全弁としても機能するよう構成されている。
【0018】
クライオポンプ10には、クライオパネル18の温度を測定し、測定された温度を示す測定温度信号を出力する温度センサ26が設けられている。温度センサ26は、例えば、冷凍機14の冷却ステージに、またはクライオパネル18に取り付けられている。クライオポンプコントローラ100は、この測定温度信号を受信するよう温度センサ26と接続されている。
【0019】
また、クライオポンプ10には、クライオポンプ容器16の内圧を測定し、測定された内圧を示す測定圧力信号を出力する圧力センサ28が設けられている。圧力センサ28は、クライオポンプ容器16、例えば冷凍機収容部16bに取り付けられている。クライオポンプコントローラ100は、この測定圧力信号を受信するよう圧力センサ28と接続されている。
【0020】
クライオポンプコントローラ100は、クライオポンプ10を制御するよう構成されている。例えば、クライオポンプコントローラ100は、クライオポンプ10の真空排気運転においては、温度センサ26によるクライオパネル18の測定温度に基づいて、冷凍機14を制御してもよい。また、クライオポンプコントローラ100は、クライオポンプ10の再生運転においては、圧力センサ28によるクライオポンプ容器16内の測定圧力に基づいて(または、必要に応じて、クライオポンプ容器16内の測定圧力およびクライオパネル18の測定温度に基づいて)、冷凍機14、ラフバルブ20、パージバルブ22、ベントバルブ24を制御してもよい。クライオポンプコントローラ100は、クライオポンプ10に一体に設けられていてもよいし、クライオポンプ10とは別体の制御装置として構成されていてもよい。
【0021】
図1に示されるように、例示的な制御構成として、クライオポンプコントローラ100は、圧力上昇率比較部110と、冷凍機コントローラ120と、バルブコントローラ130とを備える。
【0022】
圧力上昇率比較部110は、圧力センサ28によって測定されるクライオポンプ容器16の内圧に基づいて、いわゆる圧力上昇率テストを実行するように構成されている。クライオポンプ再生における圧力上昇率テストは、クライオポンプ容器16内の圧力上昇率が圧力上昇率しきい値を超えない場合に、クライオポンプ10から凝縮物が十分に排出されたと判定する処理である。圧力上昇率テストは、主として水分がクライオポンプ10から十分に排出されたことを確認するために使用される。クライオポンプ容器16内の圧力上昇率は、クライオポンプ容器16に設けられた各バルブを閉鎖してクライオポンプ容器16の内圧を周囲環境から隔離した状態で、圧力センサ28によって測定される。圧力上昇率テストは、RoR(Rate-of-Rise)テストとも呼ばれる。
【0023】
既存のクライオポンプでは通例、1段階のRoRテストのみを行い、これに合格した場合にクライオポンプを室温から極低温に再冷却して再生を完了している。これに対して、実施の形態に係るクライオポンプ10では、圧力上昇率比較部110は、異なる温度および圧力条件下で2段階のRoRテストを実行するように構成される。
【0024】
第1RoRテストとして、圧力上昇率比較部110は、温度センサ26の測定温度信号と圧力センサ28の測定圧力信号に基づいて、クライオパネル18の温度が第1温度帯にありクライオポンプ容器16の内圧が第1圧力領域にあるときクライオポンプ容器16の圧力上昇率を第1圧力上昇率しきい値と比較する。第2RoRテストとして、圧力上昇率比較部110は、温度センサ26の測定温度信号と圧力センサ28の測定圧力信号に基づいて、クライオパネル18の温度が第2温度帯にありクライオポンプ容器16の内圧が第2圧力領域にあるときクライオポンプ容器16の圧力上昇率を第2圧力上昇率しきい値と比較する。第2温度帯は、第1温度帯より低い。第2圧力領域は、第1圧力領域より低く、第2圧力上昇率しきい値は、第1圧力上昇率しきい値より小さい。
【0025】
このようにして、第1RoRテストが高温低真空下で実行され、第2RoRテストが第1RoRテストに比べて低温高真空下で実行される。
【0026】
冷凍機コントローラ120は、クライオポンプ10の再生中、温度センサ26によって測定されるクライオパネル18の温度及び/または圧力センサ28によって測定されるクライオポンプ容器16の内圧に基づいて、冷凍機14を制御するように構成されている。例えば、冷凍機コントローラ120は、第1RoRテストに合格した場合(すなわち、クライオポンプ容器16の圧力上昇率が第1圧力上昇率しきい値を下回る場合)に、クライオパネル18を第1温度帯からそれより低い第2温度帯に降温するように冷凍機14を制御してもよい。冷凍機コントローラ120は、第2RoRテストに合格した場合(すなわち、クライオポンプ容器16の圧力上昇率が第2圧力上昇率しきい値を下回る場合)に、クライオパネル18を第2温度帯からそれより低い第3温度帯に降温するように冷凍機14を制御してもよい。
【0027】
バルブコントローラ130は、クライオポンプ10の再生中、温度センサ26によって測定されるクライオパネル18の温度及び/または圧力センサ28によって測定されるクライオポンプ容器16の内圧に基づいて、ラフバルブ20、パージバルブ22、およびベントバルブ24を制御するように構成されている。例えば、バルブコントローラ130は、クライオパネル18を第1温度帯から第2温度帯に降温する間に、圧力センサ28の測定圧力信号に基づいて、クライオポンプ容器16の内圧が所定圧力領域に維持されるようにラフバルブ20を制御してもよい。
【0028】
クライオポンプコントローラ100は、クライオポンプ10の再生シーケンスを定義するための様々なパラメータを記憶するように構成されていてもよい。こうしたパラメータによって、再生シーケンスの各工程で許容される温度及び/または圧力の範囲が定められる。例えばRoRテストについて言えば、RoRテストを実行することが許容される温度および圧力条件、圧力上昇率しきい値などがパラメータとして挙げられる。このようなパラメータは、クライオポンプ10の設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定され、クライオポンプコントローラ100に予め記憶されてもよい。
【0029】
また、クライオポンプコントローラ100は、例えば温度センサ26の測定温度、圧力センサ28の測定圧力、各バルブの開閉状態、RoRテストの結果など、クライオポンプ10の再生またはその他の制御に関連する情報を記憶するように構成されていてもよい。クライオポンプコントローラ100は、こうした情報を視覚的またはその他の形式でユーザーに通知するように構成されてもよい。クライオポンプコントローラ100は、こうした情報を他の機器に送信するように構成されてもよく、例えばインターネットなどネットワークを介して遠隔の機器に情報を送信してもよい。
【0030】
クライオポンプコントローラ100の内部構成は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0031】
たとえば、クライオポンプコントローラ100は、CPU(Central Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装することができる。そうしたハードウェアプロセッサは、たとえば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブルロジックデバイスで構成してもよいし、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)のような制御回路であってもよい。ソフトウェアプログラムは、クライオポンプ10の再生をクライオポンプコントローラ100に実行させるためのコンピュータプログラムであってもよい。
【0032】
図2は、実施の形態に係るクライオポンプ10の再生方法を示すフローチャートである。クライオポンプ10の再生シーケンスは、昇温工程(S10)、排出工程(S20)、及びクールダウン工程(S60)を含む。クライオポンプ10の再生中、温度センサ26によってクライオパネル18の温度が定期的に測定され、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が定期的に測定される。
【0033】
昇温工程(S10)においては、パージバルブ22を通じてクライオポンプ容器16に供給されるパージガス、またはその他の加熱手段によって、クライオポンプ10は、極低温から室温またはそれより高い再生温度に昇温される(例えば約290Kないし約300K)。クライオポンプ10の昇温は、例えば冷凍機14による逆転昇温を利用してもよいし、クライオポンプ10に電気ヒータが設置されている場合にはこれを利用してもよい。こうして、クライオパネル18に捕捉されている気体が再び気化される。
【0034】
排出工程(S20)においては、クライオポンプ容器16からベントバルブ24と排出ライン32を通じて、またはラフバルブ20とラフポンプ30を通じて、外部に気体が排出される。排出工程では、いわゆるラフアンドパージが行われてもよい。ラフアンドパージとは、ラフバルブ20を通じたクライオポンプ容器16の粗引きとパージバルブ22を通じたクライオポンプ容器16へのパージガスの供給を交互に繰り返すことによって、クライオポンプ容器16に残留する気体(例えばクライオパネル18上の例えば活性炭などの吸着材に吸着されている例えば水蒸気などの気体)をクライオポンプ容器16から排出することをいう。
【0035】
この実施の形態では、排出すべき気体(主として水分)がクライオポンプ10から十分に排出されたことをチェックするために、クライオポンプ容器16の内圧が第1圧力領域(例えば、10Paから100Paの範囲、または20Paから30Paの範囲から選択される圧力値または圧力範囲)まで減圧されると、異なる温度および圧力条件下で2段階のRoRテストが実行される。
【0036】
まず、第1RoRテスト(S30)として、クライオパネル18の温度が第1温度帯にありクライオポンプ容器16の内圧が第1圧力領域にあるとき、クライオポンプ容器16の圧力上昇率が第1圧力上昇率しきい値と比較される。第1温度帯は、例えば、0℃より高くてもよく、クライオポンプ10の耐熱温度より低くてもよい。クライオポンプ10の耐熱温度は、例えば50℃から80℃の範囲から選択されてもよい。第1温度帯は、例えば室温であってもよく、15℃から25℃の範囲から選択される温度値または温度範囲であってもよい。第1圧力上昇率しきい値は、例えば、毎分1Paから毎分50Paの範囲、または毎分5Paから毎分20Paの範囲から選択される圧力上昇率の値であってもよい。
【0037】
第1RoRテスト(S30)に合格した場合、予備冷却(S40)として、冷凍機14によってクライオパネル18が第1温度帯からそれより低い第2温度帯に冷却される。第2温度帯は、例えば、50K以上100K以下の範囲から選択される温度値または温度範囲であってもよい。予備冷却の結果、クライオポンプ容器16内の残留気体のうち第2温度帯で十分に蒸気圧が低くなるもの(例えば水蒸気など)は、クライオパネル18に再び凝縮され、それによりクライオポンプ容器16の内圧は第1圧力領域からそれより低い第2圧力領域まで減圧される。第2圧力領域は、例えば、0.01Paから1Paの範囲から選択される圧力値または圧力範囲であってもよく、例えば0.1Pa未満であってもよい。
【0038】
予備冷却(S40)の最中に、クライオパネル18を第1温度帯から第2温度帯に降温する間に、クライオポンプ容器16の内圧が所定圧力領域に維持されるように、ラフバルブ20が制御されてもよい。所定圧力領域は、第1RoRテストが実行される第1圧力領域と同じであってもよく、例えば、10Paから100Paの範囲、または20Paから30Paの範囲から選択される圧力値または圧力範囲であってもよい。
【0039】
そして、第2RoRテスト(S50)として、クライオパネル18の温度が第2温度帯にありクライオポンプ容器16の内圧が第2圧力領域にあるとき、クライオポンプ容器16の圧力上昇率が第2圧力上昇率しきい値と比較される。第2圧力上昇率しきい値は、第1圧力上昇率しきい値より小さい。第2圧力上昇率しきい値は、例えば、毎分0.05Paから毎分0.5Paの範囲から選択される圧力上昇率の値(例えば0.1Pa/分程度)であってもよい。
【0040】
第2RoRテスト(S50)に合格した場合、排出工程(S20)は終了されクールダウン工程(S60)が開始される。冷凍機14によってクライオパネル18が第2温度帯からそれより低い第3温度帯に冷却される。第3温度帯はクライオポンプ10の真空排気運転を可能にする極低温であり、例えば10Kから20Kの範囲から選択される温度値または温度範囲であってもよい。このようにして、再生は完了し、クライオポンプ10は、再び真空排気運転を始めることができる。
【0041】
図3から図5はそれぞれ、図2に示される再生方法の一部をより詳細に示すフローチャートである。図3には第1RoRテスト(S30)が示され、図4には予備冷却(S40)が示され、図5には第2RoRテスト(S50)が示される。図3から図5を参照して、第1RoRテスト(S30)、予備冷却(S40)、第2RoRテスト(S50)の一例を説明する。
【0042】
図3に示されるように、第1RoRテストを実行するための準備として、ラフバルブ20が開かれる(S31)。バルブコントローラ130によってラフバルブ20が開かれると、ラフポンプ30によってクライオポンプ容器16は粗引きされ減圧される。この粗引きは上述のラフアンドパージの一部として行われてもよい。
【0043】
粗引き中に、温度センサ26によってクライオパネル18の温度が測定され、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が測定される(S32)。温度センサ26の測定温度信号と圧力センサ28の測定圧力信号はクライオポンプコントローラ100に与えられる。
【0044】
第1RoRテストの開始条件が満たされるか否かが判定される(S33)。第1RoRテストの開始条件は、クライオパネル18の温度が第1温度帯にありかつクライオポンプ容器16の内圧が第1圧力領域にあることである。上述のように、第1温度帯は例えば室温(例えば15℃から25℃の範囲から選択される温度値または温度範囲)であり、第1圧力領域は例えば20Paから30Paの範囲から選択される圧力値または圧力範囲である。
【0045】
そこで、圧力上昇率比較部110は、温度センサ26の測定温度信号と圧力センサ28の測定圧力信号に基づいて、クライオパネル18の温度が第1温度帯にありかつクライオポンプ容器16の内圧が第1圧力領域にあるか否かを判定する。圧力上昇率比較部110は、測定温度信号と測定圧力信号に基づいて、クライオパネル18の測定温度を第1温度帯と比較し、クライオポンプ容器16の測定内圧を第1圧力領域と比較する。圧力上昇率比較部110は、測定温度が第1温度帯にあり、かつ測定圧力が第1圧力領域にある場合に、第1RoRテストの開始条件が満たされると判定してもよい。または、圧力上昇率比較部110は、測定温度が第1温度帯またはそれより高い温度であり、かつ測定圧力が第1圧力領域またはそれより低い圧力である場合に、第1RoRテストの開始条件が満たされると判定してもよい。
【0046】
第1RoRテストの開始条件が満たされない場合には(S33のN)、温度センサ26によってクライオパネル18の温度が再び測定され、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が再び測定され(S32)、第1RoRテストの開始条件が満たされるか否かが再び判定される(S33)。クライオパネル18の測定温度が第1温度帯から外れている(例えば第1温度帯よりも低い)場合、温度を再び測定する前に、クライオポンプコントローラ100は、クライオポンプ10の昇温手段(例えばパージバルブ22、冷凍機14、及び/または電気ヒータ)を制御しクライオパネル18の温度を調整してもよい。クライオポンプ容器16の測定圧力が第1圧力領域から外れている(例えば第1圧力領域よりも高い)場合、圧力を再び測定する前に、バルブコントローラ130は、ラフバルブ20を閉じパージバルブ22を開き、その後パージバルブ22を閉じラフバルブ20を再び開いてもよい。こうしてクライオポンプ容器16にパージガスを供給してからクライオポンプ容器16が再び粗引きされてもよい。
【0047】
第1RoRテストの開始条件が満たされる場合には(S33のY)、ラフバルブ20が閉鎖される(S34)。このとき、バルブコントローラ130は、ラフバルブ20だけでなく、パージバルブ22とベントバルブ24も閉鎖する。それにより、クライオポンプ容器16は周囲環境から隔離される。こうして第1RoRテストが開始される。
【0048】
まず、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が測定される(S35)。圧力上昇率比較部110は、この測定圧力を、第1RoRテストのための基準圧として使用する。圧力上昇率比較部110は、この基準圧の取得から第1測定時間が経過したか否かを判定する(S36)。第1測定時間は、例えば数十秒から数分(例えば30秒から2分程度、または例えば1分間)であってもよい。圧力上昇率比較部110は、第1測定時間が経過するまで待機する(S36のN)。第1測定時間が経過したら(S36のY)、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が再び測定される(S37)。
【0049】
第1RoRテストとして、圧力上昇率比較部110は、クライオポンプ容器16の圧力上昇率を第1圧力上昇率しきい値と比較する(S38)。第1圧力上昇率しきい値と比較するために、圧力上昇率比較部110は、第1測定時間におけるクライオポンプ容器16の圧力上昇量から圧力上昇率を取得する。具体的には、圧力上昇率比較部110は、第1測定時間経過後の測定圧力(S37)から基準圧(S35)を減算し、第1測定時間におけるクライオポンプ容器16の圧力上昇量を取得する。圧力上昇率比較部110は、この圧力上昇量を第1測定時間で除算し、クライオポンプ容器16の圧力上昇率を取得し、これを第1圧力上昇率しきい値と比較する。第1圧力上昇率しきい値は、例えば5Pa/分から20Pa/分の範囲から選択される圧力上昇率の値である。
【0050】
第1RoRテストに不合格の場合、すなわちクライオポンプ容器16の圧力上昇率が第1圧力上昇率しきい値を超える場合には(S38のN)、図3に示される処理(S30)が再び実行される。この場合、S31でラフバルブ20を再び開く前に、バルブコントローラ130は、パージバルブ22を一度開き、クライオポンプ容器16にパージガスを供給してもよい。クライオポンプコントローラ100は、第1RoRテストに不合格であることを示す情報を記憶し、またはユーザーに通知する等、この情報を出力してもよい。クライオポンプコントローラ100は、第1RoRテストの不合格の回数をカウントし、その回数が所定回数に達した場合に、この情報を記憶しまたは出力してもよく、またはクライオポンプ10の運転を停止してもよい。
【0051】
第1RoRテストに合格した場合、すなわちクライオポンプ容器16の圧力上昇率が第1圧力上昇率しきい値を下回る場合には(S38のY)、図4に示されるクライオポンプ10の予備冷却(S40)が開始される。
【0052】
クライオポンプ10の予備冷却(S40)として、図4に示されるように、冷凍機14の冷却運転が冷凍機コントローラ120によって開始され(S41)、クライオポンプ10が冷却される。第1温度帯から第2温度帯へとクライオパネル18を冷却しながら、温度センサ26によってクライオパネル18の温度が測定され、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が測定される(S42)。
【0053】
クライオパネル18を第1温度帯から第2温度帯に降温する間に、クライオポンプ容器16の内圧が所定圧力領域に維持されるように、バルブコントローラ130によってラフバルブ20が制御される。所定圧力領域は、例えば、上限値を30Paとし、下限値を20Paとする圧力範囲に設定される。
【0054】
そこで、バルブコントローラ130は、圧力センサ28からの測定圧力信号に基づいて、クライオポンプ容器16の測定圧力を所定圧力領域と比較する(S43)。測定圧力が所定圧力領域の上限値を超える場合には(S43のA)、バルブコントローラ130は、ラフバルブ20を開く(S44)。こうしてクライオポンプ容器16の内圧が上限値を下回るようにクライオポンプ容器16は減圧される。測定圧力が所定圧力領域の下限値を下回る場合には(S43のB)、バルブコントローラ130は、ラフバルブ20を閉じる(S45)。また、測定圧力が所定圧力領域にある(上限値と下限値の間にある)場合には(S43のC)、バルブコントローラ130は、ラフバルブ20の現在の開閉状態を保つ。こうしてクライオポンプ容器16の内圧は所定圧力領域に維持される。
【0055】
次に、予備冷却が完了したか否かが判定される(S46)。冷凍機コントローラ120は、温度センサ26の測定温度信号に基づいて、クライオパネル18の温度が第2温度帯にあるか否かを判定する。上述のように、第2温度帯は例えば50K以上100K以下の範囲から選択され、例えば80Kから100Kの温度範囲であってもよい。クライオパネル18の測定温度が第2温度帯から外れている(例えば第2温度帯よりも高い)場合には(S46のN)、図4に示される処理(S40)が再び実行される。
【0056】
クライオパネル18の測定温度が第2温度帯にある(例えば第2温度帯にあるか、または第2温度帯を下回る)場合には(S46のY)、ラフバルブ20(およびその他のバルブ)がバルブコントローラ130によって閉じられ(S47)、図5に示される第2RoRテスト(S50)が開始される。この場合、冷凍機コントローラ120は、温度センサ26からの測定温度信号に基づいて、第2RoRテストの間、クライオパネル18の温度が第2温度帯に維持されるように、冷凍機14を制御してもよい。
【0057】
図5に示されるように、第2RoRテストを実行するための準備として、温度センサ26によってクライオパネル18の温度が測定され、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が測定され(S51)、第2RoRテストの開始条件が満たされるか否かが判定される(S52)。第2RoRテストの開始条件は、クライオパネル18の温度が第2温度帯にありかつクライオポンプ容器16の内圧が第2圧力領域にあることである。上述のように、第2圧力領域は、第1圧力領域よりも低く、例えば0.1Pa未満に設定される。
【0058】
そこで、圧力上昇率比較部110は、温度センサ26の測定温度信号と圧力センサ28の測定圧力信号に基づいて、クライオパネル18の温度が第2温度帯にありかつクライオポンプ容器16の内圧が第2圧力領域にあるか否かを判定する。圧力上昇率比較部110は、測定温度信号と測定圧力信号に基づいて、クライオパネル18の測定温度を第2温度帯と比較し、クライオポンプ容器16の測定内圧を第2圧力領域と比較する。圧力上昇率比較部110は、測定温度が第2温度帯にあり、かつ測定圧力が第2圧力領域にある場合に、第2RoRテストの開始条件が満たされると判定する。
【0059】
第2RoRテストの開始条件が満たされない場合には(S52のN)、温度センサ26によってクライオパネル18の温度が再び測定され、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が再び測定され(S51)、第2RoRテストの開始条件が満たされるか否かが再び判定される(S52)。第2RoRテストの開始条件が満たされる場合には(S52のY)、第2RoRテストが開始される。
【0060】
まず、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が測定される(S53)。圧力上昇率比較部110は、この測定圧力を、第2RoRテストのための基準圧として使用する。圧力上昇率比較部110は、この基準圧の取得から第2測定時間が経過したか否かを判定する(S54)。第2測定時間は、第1測定時間より長く、例えば数分から数十分(例えば5分から20分程度、または例えば10分間)であってもよい。圧力上昇率比較部110は、第2測定時間が経過するまで待機する(S54のN)。第2測定時間が経過したら(S54のY)、圧力センサ28によってクライオポンプ容器16の内圧が再び測定される(S55)。
【0061】
第2RoRテストとして、圧力上昇率比較部110は、クライオポンプ容器16の圧力上昇率を第2圧力上昇率しきい値と比較する(S56)。第2圧力上昇率しきい値と比較するために、圧力上昇率比較部110は、第2測定時間におけるクライオポンプ容器16の圧力上昇量から圧力上昇率を取得する。第1RoRテストと同様に、第2RoRテストに使用される圧力上昇率は、第2測定時間経過後の測定圧力(S55)、基準圧(S53)および第2測定時間から求められる。第2圧力上昇率しきい値は、例えば0.05Pa/分から0.5Pa/分の範囲から選択される圧力上昇率の値であり、例えば0.1Pa/分(すなわち10分間で1Paの圧力上昇量)である。
【0062】
第2RoRテストに合格した場合、すなわちクライオポンプ容器16の圧力上昇率が第2圧力上昇率しきい値を下回る場合には(S56のY)、クライオポンプ10のクールダウン(図2のS60)が開始される。冷凍機コントローラ120は、クライオパネル18を第2温度帯からそれより低い第3温度帯に降温するように冷凍機14を制御する。
【0063】
第2RoRテストに不合格の場合、すなわちクライオポンプ容器16の圧力上昇率が第2圧力上昇率しきい値を超える場合には(S56のN)、図5に示される処理(S50)が再び実行されてもよい。あるいは、第2RoRテストに不合格の場合にも、合格の場合と同様に、クライオポンプ10のクールダウン(図2のS60)が開始されてもよい。この場合、クライオポンプコントローラ100は、第2RoRテストに不合格であることを示す情報を記憶し、またはユーザーに通知する等、この情報を出力してもよい。クライオポンプコントローラ100は、第2RoRテストの不合格の回数をカウントし、その回数が所定回数に達した場合に、この情報を記憶しまたは出力してもよく、またはクライオポンプ10の運転を停止してもよい。
【0064】
なお、クライオポンプコントローラ100は、第2RoRテストでの圧力上昇率(または圧力上昇量)を監視してもよい。クライオポンプコントローラ100は、第2RoRテストでの圧力上昇率の監視結果に基づいて、クライオポンプ容器16のリークチェックを実行してもよい。例えば、クライオポンプコントローラ100は、今回の再生における第2RoRテストでの圧力上昇率を、以前の再生(例えば、前回、前々回、またはそれ以前の再生)における第2RoRテストでの圧力上昇率と比較し、圧力上昇率の変化量がしきい値を超える場合に、クライオポンプ容器16のリークを検知してもよい。このようにして、クライオポンプ10の長期的な運転のなかで、第2RoRテストでの圧力上昇率が定期的に監視されてもよい。
【0065】
ところで、既存のクライオポンプでは通例、1段階のみのRoRテストが行われ、テストに合格した場合にクライオポンプのクールダウンが開始され再生を完了させている。この1段階のRoRテストでは、まずクライオポンプが例えば10Paまたはそれより低い基準圧まで粗引きされ、この基準圧でRoRテストが行われる。RoRテストのための圧力上昇率しきい値は例えば5Pa/分である。
【0066】
RoRテストの主目的は、クライオポンプ内に残留する気体(例えばクライオパネル18上の例えば活性炭などの吸着材に吸着されている例えば水蒸気などの気体)がクライオポンプから十分に排出されたことをチェックすることにある。別の目的として、ラフバルブをはじめクライオポンプの各バルブでのリークをチェックすることがある。更なる目的として、RoRテストの基準圧を上述のように10Pa未満という低圧とすることによって、クライオポンプ容器の真空断熱効果を高め、それにより、クールダウン中の周囲からクライオポンプ内への入熱を抑制しクールダウン時間を短縮するとともに、クライオポンプ容器自体の冷却と結露を抑制することも挙げられる。
【0067】
実際のところ、既存のクライオポンプは、これら複数の目的を1段階のRoRテストで実現するように設計されている。そのような設計は、再生時間の短縮にもつながり有利であると考えられる。しかし、本発明者の検討によると、とくに、クライオポンプが多量の吸着材を搭載した場合には、粗引き中に吸着材が気体の放出源として働く度合いが高まることから、粗引きに要する時間が長くなりがちである。クライオポンプを例えば10Pa未満という低圧の基準圧まで粗引きする場合には特に、吸着材からの気体放出と粗引きによる気体排出が拮抗し、粗引きの所要時間が顕著に増加しうる。一例として、20Paから10Paの粗引きが数十分以上かかるケースもありうる。あるいは、クライオポンプとともに使用されるラフポンプの排気能力が低い場合にも、粗引きの所要時間が増加しうる。粗引きの時間が延びれば再生時間も長くなり、これは望ましくない。
【0068】
これに対して、実施の形態に係るクライオポンプ10は、第1RoRテストを高温低真空下で実行し、第2RoRテストを第1RoRテストに比べて低温高真空下で実行するように構成される。既存の1段階のみのRoRテストを、条件を異ならせた2段階のRoRテストに分けることによって、それぞれのRoRテストの条件を個々の目的に最適化することができるだけでなく、再生時間も短縮することができる。
【0069】
より具体的には、実施の形態に係るクライオポンプ10では、第1RoRテストの基準圧である第1圧力領域が、第2RoRテストの基準圧である第2圧力領域より高い。そのため、第1RoRテストを開始するための第1圧力領域への粗引きを、より低圧まで粗引きをする場合に比べて、短い時間で完了することができる。これは、再生時間の短縮にもつながる。加えて、このような第1RoRテストによって、クライオポンプ容器16に深刻なリークが生じているか否かをチェックすることもできる。こうした深刻なリークは、たいていの場合、ラフバルブ20などクライオポンプ10の各バルブを通じたリークに起因すると考えられる。
【0070】
第1圧力領域は、好ましくは10Paから100Paの範囲から選択され、より好ましくは20Paから30Paの範囲から選択される。このようにすれば、既存のクライオポンプでのRoRテストのように10Pa未満の基準圧とする場合に比べて、第1RoRテストを開始するための第1圧力領域への粗引きをかなり短時間で完了することができる。
【0071】
また、実施の形態に係るクライオポンプ10では、第2RoRテストを実行する第2温度帯が、第1RoRテストを実行する第2温度帯よりも低い。第2RoRテストを実行するにあたって、粗引きによってではなく、このような第1温度帯から第2温度帯への冷却によってクライオポンプ容器16の内圧が第2圧力領域へと減圧される。これも粗引き時間ひいては再生時間の短縮に役立つ。
【0072】
さらに、第2RoRテストの第2圧力上昇率しきい値は、第1RoRテストの第1圧力上昇率しきい値よりも小さい。これにより、第2RoRテストを通じて、精度のよいバルブリークチェックを実現することができる。例えばバルブの腐食の進行による長期的な経時劣化に起因するわずかなバルブリークまたはそうしたリークの兆候を検知することができる。このようにして、バルブの微小なリークを監視することにより、バルブに深刻なリークが発生する前にバルブの修理や交換をするなど計画的なメンテナンスをすることができ、クライオポンプ10およびこれを搭載した真空プロセス装置の稼働への影響を最小にするように対処することが可能となる。
【0073】
第2温度帯は、50K以上100K以下の範囲から選択される。このようにすれば、クライオポンプ容器16内の残留気体のうち第2温度帯で十分に蒸気圧が低くなるもの(例えば水蒸気など)は、クライオパネル18に再び凝縮され、それによりクライオポンプ容器16の内圧を第2圧力領域まで減圧することができる。こうして、第2圧力領域は、0.01Paから1Paの範囲から選択され、第2圧力上昇率しきい値は、毎分0.05Paから毎分0.5Paの範囲から選択されることができる。第2圧力領域を典型的なラフポンプ30では実現が困難な低圧とし、第2圧力上昇率しきい値を第1圧力上昇率しきい値よりも一桁以上小さくすることにより、第2RoRテストを通じたバルブの微小なリークのチェックを精度よく行うことができる。なお、第2温度帯を50Kよりも低温とした場合には、例えば窒素などリークチェックに使用されうる気体もクライオパネル18に凝縮しうるため、リークチェックには不向きである。
【0074】
また、この実施形態では、第1温度帯から第2温度帯への予備冷却中にクライオポンプ容器16の内圧が所定圧力領域(例えば20Paから30Paの範囲)に維持されるようにラフバルブ20が制御される。このようにすれば、予備冷却中に活性炭など吸着材から気体(例えば水蒸気)が脱離することによるクライオポンプ内圧の上昇を粗引きを利用して抑制することができる。
【0075】
なお、クライオポンプ10の設計と動作によっては、クライオポンプ内圧が所定圧力領域に維持されることによって、クライオポンプ内圧が過剰に低い場合(例えば10Pa未満)に比べて、クライオポンプ10の冷却時間が短縮されうる。例えば、クライオパネル18が目標の極低温を維持するように冷凍機14が温調制御される場合には、クライオポンプ内圧が上記の所定圧力領域のようにある程度の大きさをとることによって、周囲からクライオポンプ10への入熱が冷凍機14の冷凍能力を増加させる効果をもたらし、それによりクライオポンプ10の冷却時間が短縮されうる。
【0076】
また、第2RoRテストでは、第1測定時間より長い第2測定時間におけるクライオポンプ容器16の圧力上昇量から圧力上昇率が取得される。第2測定時間を長くすることにより、第2圧力上昇率しきい値が小さくても、第2RoRテストをより大きい圧力上昇量に基づいて判定することができる。微小なバルブリークを精度よく検知することができる。
【0077】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0078】
10 クライオポンプ、 14 冷凍機、 16 クライオポンプ容器、 18 クライオパネル、 20 ラフバルブ、 26 温度センサ、 28 圧力センサ、 30 ラフポンプ、 110 圧力上昇率比較部、 120 冷凍機コントローラ、 130 バルブコントローラ。
図1
図2
図3
図4
図5