(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】水中検査装置および水中検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/11 20060101AFI20240315BHJP
G01N 29/265 20060101ALI20240315BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G01N29/11
G01N29/265
G01N21/88 Z
(21)【出願番号】P 2020179803
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】三木 将裕
(72)【発明者】
【氏名】大内 弘文
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-326580(JP,A)
【文献】特開2020-022979(JP,A)
【文献】特開2020-160966(JP,A)
【文献】特開2019-212073(JP,A)
【文献】特開2020-155063(JP,A)
【文献】特開2004-325246(JP,A)
【文献】特開平11-109082(JP,A)
【文献】特開2005-030773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-G01N 21/958
G01N 29/00-G01N 29/52
G06T 1/00-G06T 7/90
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の被検部の表面映像を撮像する水中カメラと、
前記水中カメラで撮像された画像を表示するカメラモニタと、
前記被検部に対して超音波を送信し、前記被検部から戻る超音波を受信する超音波プローブと、
前記超音波プローブでの超音波の送信制御と、前記超音波プローブの受信信号情報を取得する超音波探傷器と、
前記超音波探傷器で取得された前記受信信号情報から、ひびを検出する探傷器制御装置と、
前記水中カメラで撮像されたひび画像データを記憶するひび画像記憶部、前記水中カメラで撮像されたひび画像データから画像特徴量を抽出するひび学習部、前記水中カメラで撮像されたひび画像データ中の特徴量と前記ひび学習部で抽出された前記画像特徴量とを比較してひびの可能性を判定するひび判定部、前記ひび判定部での判定に基づいて検査結果を評価する検査結果評価部、を有する計算機と、を備え
、
前記ひび判定部は、前記水中カメラで撮像された画像に対して、前記超音波により発生させた表面波の受信信号強度を用いてひびであるか否かを判定し、
前記ひび学習部は、前記画像特徴量がひびか否かを前記ひび判定部での判定結果から学習し、
前記ひび画像記憶部は、前記ひび判定部での判定結果と前記水中カメラの画像とを記憶する
ことを特徴とする水中検査装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の水中検査装置において、
前記ひび学習部は、前記画像特徴量がひびか疑似模様かを学習する際に、前記被検部が置かれている環境の色調、水質、前記被検部の錆の付着の有無やその厚さを紐づけて学習する
ことを特徴とする水中検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の水中検査装置において、
前記検査結果評価部は、前記カメラモニタに表示される前記水中カメラで撮像された画像のなかでひびの可能性がある領域を強調表示させる
ことを特徴とする水中検査装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の水中検査装置において、
前記超音波プローブが前記被検部に対して超音波を送信する領域を指し示すレーザ光源と、
前記レーザ光源のレーザの発信を制御するレーザ発信器と、を更に備える
ことを特徴とする水中検査装置。
【請求項5】
請求項
1に記載の水中検査装置において、
前記被検部で表面波が発生するように前記超音波プローブの傾斜角度を計測する傾斜計を更に備える
ことを特徴とする水中検査装置。
【請求項6】
請求項
1に記載の水中検査装置において、
前記被検部と前記水中カメラとの距離を測定するレーザ距離計を更に備える
ことを特徴とする水中検査装置。
【請求項7】
水中の被検部の表面映像を撮像する撮像工程と、
前記被検部に対して超音波を送信し、前記被検部から戻る超音波を受信する超音波送受信工程と、
前記撮像工程で撮像されたひび画像データを記憶し、前記ひび画像データから画像特徴量を抽出し、前記画像特徴量がひびか否かを前記超音波送受信工程での測定結果から学習し、前記撮像工程で撮像されたひび画像データ中の特徴量と抽出された前記画像特徴量とを比較してひびの可能性を判定し、検査結果を評価する計算工程と、
前記撮像工程で撮像された画像を表示する表示工程と、を有
し、
前記計算工程では、
前記撮像工程で撮像された画像に対して前記超音波送受信工程で発生させた表面波の受信信号強度を用いてひびであるか否かを判定し、
前記画像特徴量がひびか否かを前記判定結果から学習し、
前記判定結果と前記撮像工程で撮像された画像とを記憶する
ことを特徴とする水中検査方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の水中検査方法において、
前記計算工程では、前記画像特徴量がひびか疑似模様かを学習する際に、前記被検部が置かれている環境の色調、水質、前記被検部の錆の付着の有無やその厚さを紐づけて学習する
ことを特徴とする水中検査方法。
【請求項9】
請求項
7に記載の水中検査方法において、
前記計算工程では、前記表示工程で表示される前記撮像工程で撮像された画像のうち、ひびの可能性がある領域を強調表示させる
ことを特徴とする水中検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に設置される大型構造物の検査に好適な水中検査装置および水中検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続的に取り込まれるシュラウドの映像から傷や割れなどの欠陥を自動的に検出し、検出された欠陥箇所をさらに詳細な立体形状で検出できるシュラウド自動検査装置の一例として、特許文献1には、シュラウドの表面上でセンシング装置を移動させて映像信号を撮影し、検査情報記録装置に記憶すると共に画像処理装置に入力し、画像処理装置ではシュラウドに傷や割れの欠陥の恐れのある部分の立体形状を演算し、探傷装置ではさらに探傷信号を発信して欠陥の詳細な立体形状を演算して、これらの演算結果は、検査情報記録装置で記憶されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発電プラントや化学プラントでは、大型構造物の損傷が発生しないように、適切な運転管理が行われている。しかしながら、どれだけ適切に運転管理を行っても大型構造物に割れや減肉等の軽微な欠陥が発生することは避けられない。
【0005】
そこで、検査により軽微な欠陥やその予兆を早期に検出して、適切な処置を行うことで対処することが望まれている。例えば、原子力発電プラントに用いる圧力容器では、定期検査において、水中カメラを用いて容器壁面の状態を検査している。
【0006】
このような水中カメラは、広い範囲を一度に確認できるために非常に有効であるが、ひび画像の判定は画像処理による自動検出やプラントの状況を熟知している検査員が判定する必要がある。
【0007】
特許文献1は、原子力発電プラントのシュラウド自動検査装置を開示している。この検査装置は、2次元カメラや超音波を送受信する超音波センサを備えるセンシング装置、カメラ映像からひびや割れなどの欠陥に対して画像処理を用いて自動的に検出する画像処理装置などを備えている。そして、画像処理装置では、映像信号をディジタル量に変換し、線成分を強調処理して濃淡領域を2値化分割し、対象となる処理領域を抽出して領域の面積や縦横比を計測することにより欠陥の恐れの箇所を検出することを特徴としている。
【0008】
上述の特許文献1では、検査当該時の映像を用いた画像処理により欠陥の恐れの箇所を検出することが記載されているが、これらは過去の情報を活用できないため精度を改善する余地が多い、との問題がある。また、ひびやひびに似た疑似模様を区別することができない、との問題がある。更には、上記の処理は撮像条件に依存するため、絶対的な方法とは言い切れない。
【0009】
ここで、昨今、人工知能による診断が急速に発展しており、橋梁などのコンクリート部材のひびの診断などに活用されている。
【0010】
しかし、橋梁などのコンクリート部材ではひびの事例が多いために学習サンプルを多く準備できるが、原子力発電プラントの圧力容器におけるひびの発生はまれであり、その学習量の少なさに課題がある。すなわち、現状では人工知能の適用には信頼性が不足している、との課題がある。
【0011】
また、原子力発電プラントにおける圧力容器内部の水質などの環境要件は、プラント間や検査部位によって状態が異なるため、学習量を増やすことがより困難であるとの課題がある。
【0012】
更に、検査が必要な長期間運転しているプラントでは、経時変化が発生し、側壁内部への付着物や水質による色合いの変化など、事前に学習できない要素があり、学習量を積み重ねることが非常に困難である、との課題がある。
【0013】
これらの事情から、検査装置に単純に人工知能を適用することができず、何かしらの対処を行う必要がある。
【0014】
本発明の目的は、水中検査の信頼性を確保しつつ、検査を合理化して検査時間の短縮を図ることができる水中検査装置および水中検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、水中の被検部の表面映像を撮像する水中カメラと、前記水中カメラで撮像された画像を表示するカメラモニタと、前記被検部に対して超音波を送信し、前記被検部から戻る超音波を受信する超音波プローブと、前記超音波プローブでの超音波の送信制御と、前記超音波プローブの受信信号情報を取得する超音波探傷器と、前記超音波探傷器で取得された前記受信信号情報から、ひびを検出する探傷器制御装置と、前記水中カメラで撮像されたひび画像データを記憶するひび画像記憶部、前記水中カメラで撮像されたひび画像データから画像特徴量を抽出するひび学習部、前記水中カメラで撮像されたひび画像データ中の特徴量と前記ひび学習部で抽出された前記画像特徴量とを比較してひびの可能性を判定するひび判定部、前記ひび判定部での判定に基づいて検査結果を評価する検査結果評価部、を有する計算機と、を備え、前記ひび判定部は、前記水中カメラで撮像された画像に対して、前記超音波により発生させた表面波の受信信号強度を用いてひびであるか否かを判定し、前記ひび学習部は、前記画像特徴量がひびか否かを前記ひび判定部での判定結果から学習し、前記ひび画像記憶部は、前記ひび判定部での判定結果と前記水中カメラの画像とを記憶することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水中検査の信頼性を確保しつつ、検査を合理化して検査時間の短縮を図ることができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態における水中検査装置の検査ユニットの構造と、被検部の一部と共に表す検査状況の説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態における水中検査装置の検査制御装置におけるブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態における水中カメラによるひびの画像とレーザ照射の説明図である。
【
図4】超音波検査におけるひびの検出性に関する試験結果の一例である。
【
図5】本発明の一実施形態における検査員に提示される撮像結果画面の一例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態における水中検査装置の制御手順を表すフローチャートである。
【
図7】本発明の変形例における水中検査ユニットの構造である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水中検査装置および水中検査方法の実施例について
図1乃至
図7を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0019】
以下、検査対象が原子炉圧力容器の場合について説明するが、検査対象は原子炉圧力容器に限られず、水中に設置されるさまざまな構造物、特に大型の構造物の検査に本発明を適用することができる。
【0020】
最初に、水中検査装置の全体構成や各部の構成について
図1乃至
図5を用いて説明する。
図1は、本実施形態における検査ユニットの構造と、被検部の一部と共に表す斜視図である。
図2は、本実施形態における水中検査装置の要部構成を表すブロック図である。
図3は、本実施形態における検査ユニットを構成する水中カメラとレーザ照射の説明図である。
図4は、超音波検査におけるひびの検出性に関する試験結果の一例である。
図5は、検査員に提示される撮像結果画面の一例を示す図である。
【0021】
図1および
図2に示すように、本実施形態の水中検査装置100は、原子炉圧力容器の側壁1(被検部)の内面を検査するためのものであり、大別して、検査ユニット10と検査制御装置20とで構成されている。
【0022】
このうち、検査ユニット10は、
図2に示すように、水中カメラ11、超音波プローブ12、レーザ光源13からなる。検査ユニット10は、
図1に示すように、側壁1の外面に沿って移動させるアーム14で保持される。
【0023】
水中カメラ11は、水中の側壁1の表面映像を撮像するカメラであり、被検部である水中の側壁1におけるひび2の発生を確認する目的で利用される。この水中カメラ11は、レンズや照明(図示省略)を備えており、その画像は検査制御装置20に伝達される。この水中カメラ11により撮像工程が実行される。
【0024】
超音波プローブ12は、側壁1に対して超音波を送信し、側壁1から戻る超音波を受信する部分であり、側壁1に対して超音波3を照射した際のひび2からの反射信号の有無でひび2の存在を確認する目的で利用する。超音波3は、容器内の水を介して側壁1に入射させる。その際、側壁1において、表面波3aが発生するように超音波の入射角を傾斜させる。ここでは、超音波3の入射角は、側壁材料である鋼材と水との音速の比から、30°程度とすることが望ましい。この超音波プローブ12により超音波送受信工程が実行される。
【0025】
レーザ光源13は、側壁1にレーザ光4を照射するための装置であり、超音波プローブ12が側壁1に対して超音波を送信する領域を照射位置18(
図3参照)により指し示すものである。つまり、水中カメラ11の視野位置と超音波3の入射位置が合い、ひび2か否かが疑われる開口17に超音波3が正確に送信されることを担保する目的で利用される。そのために、検査を開始する前に、レーザ光源13から発信されるレーザ光4の照射位置18が超音波プローブ12の超音波送信方向に一致するように調整しておくことが望まれる。
【0026】
アーム14は、遠隔で自動制御可能なマニピュレータであり、圧力容器上側の開口部から投入され、容器内の剛な構造物に固定して動作される。アーム14の操作は検査員によって遠隔で実施され、検査ユニット10を側壁1の所望の位置に移動して検査を実施するために用いられる。
【0027】
この検査におけるひび2の判定は、水中カメラ11の画像を用いて検査制御装置20内の計算機30の処理で実施する。この処理において、ひび2とひび2に似た模様である疑似模様との判別が難しい場合に、表面波3aの反射信号を用いてこの判別補助をする。
【0028】
検査制御装置20は、
図2に示すように、カメラモニタ21、超音波探傷器22、レーザ発信器23、探傷器制御装置24、計算機30から構成される。なお、図示は省略するものの、検査制御装置20には入力装置(詳細には、キーボードやマウス等)が接続されている。
【0029】
カメラモニタ21は、水中カメラ11で撮像された検査部である側壁1の検査部の画像を表示する表示装置であり、液晶ディスプレイなどで構成される。
【0030】
レーザ発信器23は、レーザ光源13のレーザの発信を制御する装置であり、探傷器制御装置24からの指令に応じて、レーザ光源13から側壁1の検査部にレーザ光4を照射する。レーザ光4は、
図3に示すように、カメラモニタ21の照射位置18として映像として表示される。
【0031】
超音波探傷器22は、超音波プローブ12での超音波の送信制御と、超音波プローブ12の受信信号情報を取得する装置であり、詳細は省略するものの、パルサおよびレシーバ(いずれも図示省略)を有する。パルサは、探傷器制御装置24からの指令に応じて、超音波プローブ12の圧電素子(図示省略)に駆動信号(電気信号)を出力する。これにより、超音波プローブ12の圧電素子は、側壁1の内面に向けて超音波を送信する。超音波プローブ12の圧電素子は、側壁1の内面に欠陥が生じている場合に欠陥で反射された反射波を受信し、波形信号(電気信号)に変換してレシーバに出力する。レシーバは、波形信号に対し所定の処理を行って計算機30に出力する。なお、探傷器制御装置24の動作指示は検査員が実施する。
【0032】
探傷器制御装置24は、超音波探傷器22とレーザ発信器23の動作を制御するとともに、超音波探傷器22で取得された受信信号を処理して、ひび2を検出するための装置である。
【0033】
図4に表面波を用いたひびの検出性に関する試験結果を記す。図の横軸はひびの深さ、縦軸は表面波の反射信号強度である。
【0034】
図4に示す試験は、中心周波数3MHzの超音波プローブを用いた開口割れの検出試験の結果であるが、深さが0.2mmまでの小さなひび2は反射信号強度は弱く線形に信号強度が変化することがわかる。また、ひび2の深さが0.2mm以上では反射信号強度はほぼ一定となることがわかる。
【0035】
つまり、ひび2の深さが0.2mm程度になると0.2mmより深いひび2との区別は難しくなるが、深さが0.1mm程度であれば信号強度で24dB(16倍)程度の違いが発生するため、深さ0.2mm程度のひび2との区別が容易である。ここで、先に述べた疑似模様は、深さが0.1mm以下である場合が多い。従って、カメラの画像では判別が難しいひび2と疑似模様の判別に、表面波を用いた判定を加えることで判別できることになる。
【0036】
なお、表面波は、超音波の波長、すなわち周波数によって深さ方向に対する強度分布が異なる。例えば、3MHzより高い周波数の表面波を用いると、より表層部に強く音響エネルギーが集中し、深さ0.2mm以下の深さ分解能が向上する。
【0037】
ここで、全てのひび2と疑似模様に対して表面波を用いた検査を行うこととすると、検査に多くの時間を有するという課題がある。そこで、人工知能を用いること、そして目視検査に用いる際の学習方法と信頼性の向上が重要になる。人工知能を用いた目視検査の事例として、橋梁などのコンクリート部材の検査がある。これらの検査では、対象構造物や割れの事例が多量にあるため、ひびの画像を事前に学習した人工知能を用いて、実際の構造物の検査を行っている。
【0038】
しかし、原子力発電プラントでの圧力容器内検査の場合、ひびの事例は少なく、実際のプラントでのひびを有する画像は稀である。そのため、導入当初は人工知能の事前学習は十分とは言えない。そこで、現場画像を用いてその場学習をすることで人工知能は強化できる。しかし、その際の画像の正確性、つまり取得した画像がひび2が疑似模様かの判別に上記の超音波検査の結果を組み込むことで、その精度は確保できる。そのための構成や手法については詳しくは後述する。
【0039】
計算機30は、カメラモニタ21の画像と超音波探傷器22の信号を用いてひび2の有無を判定する演算装置であり、詳細の図示は省略するが、プログラムを記憶するROMと、プログラムに従って処理を実行するCPUと、処理結果を記憶するRAMとを有する。
【0040】
この計算機30は、機能的構成として、ひび画像記憶部31、ひび学習部32、ひび判定部33、および検査結果評価部34を有しており、計算工程、および表示工程を実行する。
【0041】
ひび画像記憶部31は、水中カメラ11で撮像されたひび2画像データを記憶して以降の検査で活用するとともに、この画像データをひび判定部33での判定結果とともに記憶するための装置であり、好適には上述したROMやHDD,SSDなどの各種記録媒体で構成される。
【0042】
また、ひび画像記憶部31は、過去の検査で検出されたひび2や疑似模様を含んだ画像を事前に記録し、その情報をひび学習部32に送る。
【0043】
ひび学習部32は、水中カメラ11で撮像され、ひび画像記憶部31に記録されたひび2や疑似模様を含んだ画像から画像特徴量を抽出して数値化する。これらの数値データは、ひび2を含む画像範囲の抽出基準を有する。また、当回の検査で得た計測した画像において、ひび2や疑似模様と思われる範囲を含んだ場合には、先に記した超音波プローブ12や超音波探傷器22による超音波検査を行い、表面波を用いた判定結果からひび2か疑似模様かのひび判定部33での判定結果を画像データに付加し、併せて学習する。この際、画像特徴量についても学習することができる。この結果は、ひび画像記憶部31に画像と判定結果として記録する。また、判定結果はひび判定部33に送られる。
【0044】
このひび学習部32における学習方法の詳細は特に限定されず、公知の様々な手法を採用することができる。
【0045】
また、ひび学習部32では、画像特徴量がひび2か疑似模様かを学習する際には、側壁1が置かれている検査環境中の環境の色調や水質、検査該当部分の錆の付着の有無やその厚さを紐づけることが望ましい。
【0046】
ひび判定部33は、水中カメラ11で撮像された画像に対して、超音波により発生させた表面波の受信信号強度を用いてひび2であるか否かを判定するとともに、水中カメラ11で撮像された検査対象部の画像中の特徴量とひび学習部32で抽出した画像特徴量とを比較して、ひび2を含む可能性がある領域の画像範囲の抽出を行う。
【0047】
これらひび学習部32の特徴量と、ひび判定部33でのひび2を含む画像範囲の抽出には、ひび学習部32を構成する人工知能を活用することで自動的にひび2の判定が実施できるとともに、判定を積み重ねて精度の向上を図ることができる。
【0048】
また、当回の検査画像は超音波検査でひび2か疑似模様かを判定した画像であり、これを学習に活用することで、人工知能の判定性能が当回の検査の間に高度化し、判定精度をより向上できる。
【0049】
検査結果評価部34は、ひび判定部33が算出したひび2を含む画像範囲をカメラモニタ21に提示することで、検査結果を評価することを可能とする。
図5に示すように、カメラモニタ21に提示される画面では、ひび2の可能性のある開口17とレーザ光4の照射されている照射位置18とが表示される水中カメラ11が撮像したそのままの表示画像21Aと、開口17部分を強調して検査員にひび2の可能性があることを明確に伝えるための円19が表示された表示画像21Bとが並んで表示される。
【0050】
ここで、ひび2を含む画像範囲にひび2が存在するか否かの最終判定は、ひび判定部33の判定時の数値技術を用いて機械的に実施することもできるが、重要な判断となるため、検査員が行うものとすることができる。
【0051】
次に、本実施形態の水中検査装置の制御手順を説明する。
図6は、本実施形態における水中検査装置の制御手順を表すフローチャートである。
【0052】
まず、
図6に示すように、検査ユニット10の位置設定を行う(ステップS100)。本ステップS100では、アーム14の先端に装備した検査ユニット10を水中に投入して、剛な構造物に固定する。検査ユニット10は、水中カメラ11の映像を確認しながら、側壁1の検査対象部に移動させる。
【0053】
次に、水中カメラ11で検査対象部を撮像する(ステップS101)。上述したステップS101およびS102でのアーム14の設置および検査ユニット10の操作は検査員が遠隔で行う。
【0054】
その後、水中カメラ11での映像を検査員が確認してひび2の抽出を行う(ステップS102)。ひび2の抽出には、検査員がカメラモニタ21を都度確認しながら実施するが、この際、
図5に示すように、撮像画像そのもの(表示画像21A)と学習により高精度化されたひび2の疑いがある領域の有無が強調表示された画像(表示画像21B)とが並んで表示された画面を参照する等の方法により、先に記したひび学習部32による学習結果を利用したひび判定部33による判断結果(ステップS103)を適宜取り込みながら行う。
【0055】
次いで、ひび2の可能性があるか否かの判定を行う(ステップS104)。このステップS104で、開口17がひび2の可能性があると判断した場合は、ステップS105以降の処理に移行する。一方、ひび2の可能性がないと判断した場合、ステップS111のひびなし判定の処理に移行する。
【0056】
ステップS105からステップS108の処理は、ひび2の可能性がある範囲に対する追加測定のフローである。
【0057】
最初に、検査員が探傷器制御装置24を操作してレーザ発信器23に指令を出し、検査対象部にレーザ光4を照射する(ステップS105)。
図3に示すような照射位置18を表示させてカメラモニタ21の視野中央にレーザ光4とひび2と疑われる開口17の位置とが合うように水中カメラ11の位置を微調整することで超音波照射位置を調整する(ステップS106)。
【0058】
これらの調整準備が整った後は、表面波検査を実施する(ステップS107)。本ステップS107では、検査員が探傷器制御装置24を操作して、超音波探傷器22に超音波3の発信の指令を出す。超音波プローブ12から超音波3が照射され、側壁1で表面波3aが発生する。
【0059】
ここで、ひび2の可能性がある開口17が深さを有するひび2である場合、表面波3aの反射波が発生する。この反射波は超音波プローブ12で受信され、受信信号は超音波探傷器22で表示される。この反射波の受信信号の有無およびその強度に応じて開口17の概略深さの測定が可能になる(ステップS108)。
【0060】
次に、開口17が所定の深さがあるか否かの判定を行う(ステップS109)。このステップS109では、
図4に示したように反射信号強度を用いた評価でひび2深さの算定が可能である。例えば、ひび2の有無の判断基準では、反射信号強度の-12dB(基準レベルの1/4)レベルをしきい値とする。そこで、-12dBレベルより大きい信号が得られた場合は処理をステップS113に進めて、-12dBレベル以下の小さい信号を得た場合は処理をステップS110に進める。
【0061】
ここで、これらの判定を行った画像は水中検査をする上で有益な情報である。従って、ステップS101で得た画像とステップS110やステップS113の処理結果は、ひび画像記憶部31に記憶する。
【0062】
具体的には、-12dBレベルより大きい信号が得られた場合は深さがあるひび2と判断して「ひびあり」と判定して、ひび画像記憶部31にひび画像として記録し(ステップS113)、処理をステップS114に進める。一方、-12dBレベル以下の小さい信号を得た場合、対象の開口17は深さがあるひび2ではなく「疑似模様」と判定し、ステップS113と同様にひび画像記憶部31にひび2がない画像として記録し(ステップS110)、ステップS111に進める。
【0063】
これらステップS110,S113でひび画像記憶部31に記憶した画像は、ステップS112でのカメラを移動した後の次回の検査でのステップS103において活用する。この行為により、検査をしながら、実物の検査画像とその判断結果が逐次蓄積することができ、検査を重ねる度にこの検査装置の判定精度が向上することになる。
【0064】
上述のステップS104でひび2の可能性がないと判定されたときや、ステップS110で「疑似模様」と判定されたときは、判定「ひびなし」を実行し(ステップS111)、特に処置をする必要がないことから、水中カメラ11を移動させて(ステップS112)、次の検査範囲の測定に移行する。
【0065】
これに対し、ステップS113で「ひびあり」と判定されたときは、「ひびあり」と判定された箇所は、構造強度に影響を及ぼす可能性があるため、ひび2の深さや広がりなどを詳細に測定する追加検査が必要であることを検査員に提示する(ステップS114)。追加検査は、詳細な手法で適した検査装置、器材が必要なため、別検査として実施する。別検査実施を提示した後は、水中カメラ11を移動させて(ステップS112)、次の検査範囲の測定に移行する。
【0066】
なお、水中検査装置の形態は、
図1に示した形態に限られず、例えば
図7で示す変形例がある。
図7は変形例における水中検査ユニットの構造である。
【0067】
図7に示す水中検査装置100Aでは、
図1に示した水中検査装置100とは異なり、側壁1に対して水中カメラ11が正対して配置される。これは、側壁1に発生したひび2と水中カメラ11の距離がひび2の判定において重要になる場合に非常に好適な構成である。
【0068】
図7に示す水中検査装置100Aでは、側壁1に発生したひび2と水中カメラ11の距離を正確に取得するために、側壁1と水中カメラ11との距離を測定するレーザ距離計15を有している。
【0069】
また、ひび2と疑似模様との判別に用いる表面波3aは、水中超音波を用いる場合は上述のように超音波3を鋼材に対して30°傾斜すると、効果的に発生させることができる。そこで、水中検査装置100Aでは、側壁1で表面波3aが発生するように超音波プローブ12の傾斜角度を計測する傾斜計16を設け、これにより超音波プローブ12の傾斜角が30°となるように検査ユニット10を設置することができる。これらの検査対象に対する検査ユニットの距離および角度を補償することにより、計測精度が向上でき、ひびの判定の信頼性向上につながる。
【0070】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0071】
上述した本実施例の水中検査装置100,100Aは、水中の側壁1の表面映像を撮像する水中カメラ11と、水中カメラ11で撮像された画像を表示するカメラモニタ21と、側壁1に対して超音波を送信し、側壁1から戻る超音波を受信する超音波プローブ12と、超音波プローブ12での超音波の送信制御と、超音波プローブ12の受信信号情報を取得する超音波探傷器22と、超音波探傷器22で取得された受信信号から、ひび2を検出する探傷器制御装置24と、水中カメラ11で撮像されたひび2画像データを記憶するひび画像記憶部31、水中カメラ11で撮像されたひび2画像データから画像特徴量を抽出するひび学習部32、水中カメラ11で撮像されたひび2画像データ中の特徴量とひび学習部32で抽出された画像特徴量とを比較してひび2の可能性を判定するひび判定部33、ひび判定部33での判定に基づいて検査結果を評価する検査結果評価部34、を有する計算機30と、を備える。
【0072】
これにより、水中カメラ11で取得した画像を超音波測定に従ったひびか否かの正誤情報とともに学習することで、開始当初はひび画像が少なく判定精度が低い場合でも、検査をする度にその判定精度は向上する。従って、次の検査範囲を測定する際には、向上した学習結果に基づいた判定アシストがなされ、検査を積み重ねるほど精度が高い検査を提供できるようになる。これにより、検査結果の信頼性を確保しつつ、超音波検査を実施する箇所を減らすことでひび判定の負担を軽減して、検査時間の短縮を図ることができる。
【0073】
また、ひび判定部33は、水中カメラ11で撮像された画像に対して、超音波により発生させた表面波の受信信号強度を用いてひび2であるか否かを判定し、ひび学習部32は、画像特徴量がひび2か否かをひび判定部33での判定結果から学習し、ひび画像記憶部31は、ひび判定部33での判定結果と水中カメラ11の画像とを記憶するため、高い精度での学習を実現することができる。
【0074】
更に、ひび学習部32は、画像特徴量がひび2か疑似模様かを学習する際に、側壁1が置かれている環境の色調、水質、側壁1の錆の付着の有無やその厚さを紐づけて学習することで、更に高い精度での学習を実現することができるとともに、プラント間の状態変化や経時変化に対しても対応できるようになることが期待される。
【0075】
また、検査結果評価部34は、カメラモニタ21に表示される水中カメラ11で撮像された画像の中でひび2の可能性がある領域を強調表示させることにより、検査員が容易に超音波検査を実施すべき領域を特定できるようになり、より短時間での検査を実現できるようになる。
【0076】
更に、超音波プローブ12が側壁1に対して超音波を送信する領域を指し示すレーザ光源13と、レーザ光源13のレーザの発信を制御するレーザ発信器23と、を更に備えることで、超音波による探傷を行うべき領域に超音波プローブ12を向けることが容易になり、短時間での検査を実現することができる。
【0077】
また、側壁1で表面波が発生するように超音波プローブ12の傾斜角度を計測する傾斜計16を更に備えることにより、ひび2と疑似模様との判別に用いる表面波3aをより効果的に発生させることが可能な条件に超音波プローブ12を設定することがより容易となり、より短時間でありながら高精度の検査を実現することができる。
【0078】
更に、側壁1と水中カメラ11との距離を測定するレーザ距離計15を更に備えることで、側壁1に発生したひび2と水中カメラ11の距離を正確に取得することができ、ひび2の判定をより正確に行うことができるようになる。
【0079】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0080】
1…側壁(被検部)
2…ひび
3…超音波
3a…表面波
4…レーザ光
10…検査ユニット
11…水中カメラ
12…超音波プローブ
13…レーザ光源
14…アーム
15…レーザ距離計
16…傾斜計
17…開口
18…照射位置
19…円
20…検査制御装置
21…カメラモニタ
21A,21B…表示画像
22…超音波探傷器
23…レーザ発信器
24…探傷器制御装置
30…計算機
31…ひび画像記憶部
32…ひび学習部
33…ひび判定部
34…検査結果評価部
100,100A…水中検査装置