(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】トンネル函体群ユニットとその施工方法、及び地下構造物とその施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 13/02 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
E21D13/02
(21)【出願番号】P 2021110970
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 与志雄
(72)【発明者】
【氏名】服部 佳文
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-077587(JP,A)
【文献】特開2015-059395(JP,A)
【文献】特開平06-093796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進工法もしくはシールド工法によって上下および/または左右に併設された複数本のトンネル函体群により形成される、トンネル函体群ユニットであって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設されている複数のトンネル函体により形成され、該トンネル函体は、前記軸方向に間隔を置いて配設されている複数の枠状の主桁と、複数の該主桁の周縁に取り付けられているスキンプレートと、前記軸方向に延設して前記主桁同士を繋ぐ複数の縦リブとを備えた鋼殻により形成されており、
隣接する前記トンネル函体群を構成するそれぞれの前記主桁が、前記軸方向にずれた姿勢でそれぞれの前記トンネル函体群が配設され、
前記トンネル函体は、前記スキンプレートにおいて前記主桁が取り付けられていない非主桁箇所と、前記主桁とを繋いで、前記軸方向に対して傾斜した方向に延設する複数の斜材をさらに備えており、
一方の前記トンネル函体群を構成する前記トンネル函体の前記非主桁箇所が、隣接する他方の前記トンネル函体群を構成する前記トンネル函体の前記主桁に対応する位置に位置決めされていることを特徴とする、トンネル函体群ユニット。
【請求項2】
前記斜材は、横方向に延設する横方向斜材と、縦方向に延設する縦方向斜材とを有し、
前記非主桁箇所において、前記スキンプレートから前記トンネル函体の内空側へ延設するセットバック部材が設けられており、
前記セットバック部材に対して、前記横方向斜材と前記縦方向斜材のいずれか一方が取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載のトンネル函体群ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトンネル函体群ユニットを構成する隣接する複数の前記トンネル函体を横方向に貫いて形成される上下のスラブと、縦方向に貫いて形成される左右の壁とを備え、
前記上下のスラブと前記左右の壁により包囲される領域に存在していたトンネル函体構成部材が撤去されることにより形成されている、内部空間をさらに備えており、
隣接する前記トンネル函体群において隣接する前記スキンプレートが撤去され、露出している双方のスキンプレート撤去端に亘って止水鋼板が溶接されており、前記リング継手を形成する対向した前記主桁の間にある該止水鋼板の下方の隙間に止水材が注入されており、該リング継手を形成する対向した該主桁の間にある該止水鋼板の上方の隙間に止水材が設置もしくは注入されて、第一止水構造が形成されていることを特徴とする、地下構造物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のトンネル函体群ユニットを構成する隣接する複数の前記トンネル函体を横方向に貫いて形成される上下のスラブと、縦方向に貫いて形成される左右の壁とを備え、
前記上下のスラブと前記左右の壁により包囲される領域に存在していたトンネル函体構成部材が撤去されることにより形成されている、内部空間をさらに備えており、
隣接する前記トンネル函体群において隣接する前記スキンプレートが撤去され、露出している双方のスキンプレート撤去端の間にバックアップ材が配設され、前記リング継手を形成する対向した前記主桁の間にある、該バックアップ材の下方の隙間と上方の隙間に対する吹付防水もしくは塗膜防水による、第二止水構造が形成されていることを特徴とする、地下構造物。
【請求項5】
推進工法もしくはシールド工法によって、上下および/または左右に複数本のトンネル函体群を併設させることにより、トンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニットの施工方法であって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設されている複数のトンネル函体により形成され、該トンネル函体は、前記軸方向に間隔を置いて配設されている複数の枠状の主桁と、複数の該主桁の周縁に取り付けられているスキンプレートと、前記軸方向に延設して前記主桁同士を繋ぐ複数の縦リブとを備えた鋼殻により形成され、前記スキンプレートにおいて前記主桁が取り付けられていない非主桁箇所と、前記主桁とを繋いで、前記軸方向に対して傾斜した方向に延設する複数の斜材をさらに備えており、
隣接する前記トンネル函体群を構成するそれぞれの前記主桁が、前記軸方向にずれた姿勢でそれぞれの前記トンネル函体群を施工し、一方の前記トンネル函体群を構成する前記トンネル函体の前記非主桁箇所を、隣接する前記トンネル函体群を構成する前記トンネル函体の前記主桁に対応する位置に位置決めするようにして、それぞれのトンネル函体群を併設させることを特徴とする、トンネル函体群ユニットの施工方法。
【請求項6】
請求項5に記載のトンネル函体群ユニットの施工方法により、該トンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニット施工工程と、
トンネル函体群ユニットを構成する隣接する複数の前記トンネル函体を横方向に貫いて上下のスラブを施工し、縦方向に貫いて左右の壁を施工し、該上下のスラブと該左右の壁により包囲される領域に存在しているトンネル函体構成部材を撤去して内部空間を形成して地下構造物を施工する、地下構造物施工工程とを有し、
前記地下構造物施工工程では、
隣接する前記トンネル函体群において隣接する前記スキンプレートを撤去してスキンプレート撤去端を露出させ、双方の該スキンプレート撤去端に止水鋼板を溶接し、前記リング継手を形成する対向した前記主桁の間にある該止水鋼板の下方の隙間に止水材を注入し、該リング継手を形成する対向した該主桁の間にある該止水鋼板の上方の隙間に止水材を設置もしくは注入して、第一止水構造を形成することを特徴とする、地下構造物の施工方法。
【請求項7】
請求項5に記載のトンネル函体群ユニットの施工方法により、該トンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニット施工工程と、
トンネル函体群ユニットを構成する隣接する複数の前記トンネル函体を横方向に貫いて上下のスラブを施工し、縦方向に貫いて左右の壁を施工し、該上下のスラブと該左右の壁により包囲される領域に存在しているトンネル函体構成部材を撤去して内部空間を形成して地下構造物を施工する、地下構造物施工工程とを有し、
前記地下構造物施工工程では、
隣接する前記トンネル函体群において隣接する前記スキンプレートを撤去してスキンプレート撤去端を露出させ、双方の該スキンプレート撤去端間にバックアップ材を配設し、前記リング継手を形成する対向した前記主桁の間にある該バックアップ材の下方の隙間と上方の隙間に対して吹付防水もしくは塗膜防水を行うことにより、第二止水構造を形成することを特徴とする、地下構造物の施工方法。
【請求項8】
前記地下構造物施工工程において、前記上下のスラブの表面において、前記トンネル函体構成部材に含まれる前記主桁を撤去した際に、該スラブに埋設される該主桁の側方に水道が存在する場合に、該水道に対して止水材を注入することを特徴とする、請求項6又は7に記載の地下構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル函体群ユニットとその施工方法、及び地下構造物とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、都市部における交通渋滞を解消するために、アンダーパス(鉄道や道路で掘り下げ式になっている地下道)方式の立体交差を構築するに当たり、地上に施工ヤードを設置し、開削工法にて躯体の構築を行う方法では、広い施工ヤードを要することや施工期間が長期化することから、新たな交通渋滞の発生や周辺環境への影響等が問題となり得る。
そこで、例えば矩形の大断面の地下構造物(アンダーパス)に対応した大きさの断面を有するトンネルを施工するに当たり、この大断面のトンネルを複数の小断面のトンネルに分割し、個々の小断面のトンネルを小型の掘削機で繰返し掘削して造成した後、それらの内部に例えば矩形の大断面の地下構造物を構築する施工方法が用いられることがある。
この施工方法は、小断面のトンネルを積み重ねた坑口の形状がハーモニカの吹き口に似ていることから、ハーモニカ工法(登録商標)と称されている。
上記ハーモニカ工法では、推進工法もしくはシールド工法により、上下および/または左右に併設された複数本の小断面のトンネル函体群を順次施工することにより、大断面のトンネル函体群ユニットを施工する。ここで、断面の分割数は、施工されるアンダーパス等の寸法や現場条件、掘進機や鋼殻の運搬条件等により決定される。
【0003】
ここで、
図1を参照して、ハーモニカ工法により施工される従来のトンネル函体群ユニットを説明する。
図1に示す例は、三行三列の計九基のトンネル函体群20により形成されるトンネル函体群ユニット50を示している。トンネル函体群ユニット50の施工方法は、例えば、一基分のトンネル函体群20のスペースを置いて、四つの隅角部と中央に位置する先行施工のトンネル函体群20Aを同時もしくは順次施工した後、先行施工のトンネル函体群20Aのスペースに後行施工のトンネル函体群20Bを同時もしくは順次施工する方法である。尚、先行施工と後行施工のトンネル函体群の位置や施工順序は、図示例以外にも様々存在する。また、トンネル函体群ユニットは、図示例以外にも、中央の先行施工のトンネル函体群20Aを施工しない計八基の所謂中抜きタイプであってもよいし、三行五列の計十五基のタイプや二行二列の計四基のタイプ等、様々な形態が存在する。
【0004】
トンネル函体群ユニット50を形成する各トンネル函体群20は、その軸方向にリング継手11Aを介して配設されている複数のトンネル函体10'により形成される。このトンネル函体10'は、軸方向に間隔を置いて配設されている複数(図示例は二つ)の枠状の主桁11と、複数の主桁11の周縁に取り付けられているスキンプレート12と、軸方向に延設して双方の主桁11同士を繋ぐ複数の縦リブ13とを備えた、鋼殻により形成される。そして、隣接するトンネル函体群20同士は、双方の対応するトンネル函体10の主桁11同士を相互に上下左右に隣接するようにして施工される。このように、隣接するトンネル函体群20のそれぞれの主桁11同士が上下左右に隣接するように位置決めされることにより、主桁11の存在する断面(トンネルの軸方向に直交する断面)において、隣接する主桁11同士で、土圧(土水圧)等による横方向の軸力と、土被り圧(上載圧)や地盤反力等による縦方向の軸力を伝達させることが可能になる。
上下および/または左右に複数本の小断面のトンネル函体群20を併設させることによってトンネル函体群ユニット50を施工した後、相互に隣接する主桁11を残しながら、以後施工される本設の地下構造物の構成部材であるスラブや壁等と干渉しない領域のスキンプレートを切断撤去し、地下構造物用の鉄筋を組み立て、型枠を設置し、地下構造物用のコンクリートを打設することにより、地下構造物が施工される。地下構造物が施工された後、地下構造物の内部空間と干渉する主桁を切断撤去することにより、内部空間を含めた地下構造物の施工が完了する。
【0005】
ところで、地下構造物に止水性が要求される場合、相互に隣接するトンネル函体10'の双方のスキンプレート12の切断箇所に細幅の薄鋼板(薄鉄板)等を溶接することにより、以後施工される地下構造物の外防水に相当する止水構造が施工される。先行施工されるトンネル函体群20Aの左右もしくは上下には、数十mm乃至数百mm程度(例えば、200mm)の隙間Sを置いて後行施工されるトンネル函体群20Bが配設されることから、この隙間Sの幅を有する薄鋼板が適用されることになる。
一方、トンネル函体群20のリング継手11Aを形成する二つの主桁11と、これらに隣接する別途のトンネル函体群20のリング継手11Aを形成する二つの主桁11の、計四つの主桁11が交差する領域(
図1における、II部)においては、トンネル函体10'の内部から作業員の手が届かないことから、上記する薄鋼板を溶接したり、止水材を注入する等の止水施工を講じることが極めて難しい。具体的には、
図2からも明らかなように、四つの主桁11が交差する主桁交差領域Aに対しては、トンネル函体10'の内部から作業員が手を入れて止水施工を行うことは不可能である。そのため、この主桁交差領域Aに水道が形成される可能性が高くなり、仮にそれ以外の場所に十分な止水施工を講じたとしても、十分な止水性を備えた地下構造物を施工することは難しい。
【0006】
ここで、特許文献1には、推進工法によって並設された複数本のトンネル函体を利用して築造される、地下構造物の止水方法が提案されている。この地下構造物は、上記するハーモニカ工法により施工される構造物であり、隣り合う二つのトンネル函体のうち、一方のトンネル函体の他方のトンネル函体に対向する外表面に、弾性シール部材を推進方向に沿って設け、隣り合う二つのトンネル函体間で弾性シール部材を挟んで圧縮することにより、トンネル函体間の隙間をシールする方法である。
【0007】
一方、特許文献2には、特許文献1と同様に、上記するハーモニカ工法により地下構造物を構築する地下構造物の構築方法が提案されている。この構築方法は、複数の先行函体を地中に連設することにより先行トンネルを構築する先行トンネル構築工程と、先行トンネルに隣接して複数の後行函体を地中に連設することにより後行トンネルを構築する後行トンネル構築工程と、先行トンネルと後行トンネルとの継手部を止水する止水工程とを有している。この構築方法において、先行函体は、トンネル軸方向に沿って形成されて後行トンネル側に開口するガイド溝と、ガイド溝の内部に充填された弾性部材とを有し、弾性部材はトンネル軸方向に沿った切込みを有し、後行函体はトンネル軸方向に沿って形成された突条を有しており、後行トンネル構築工程では、切込みに突条を挿入して弾性部材を圧縮させ、止水工程では弾性部材をさらに圧縮させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-114786号公報
【文献】特開2017-82550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の地下構造物の止水方法、特許文献2に記載の地下構造物の構築方法はいずれも、上記するように、隣接するトンネル函体群の双方の対応するトンネル函体の主桁同士が、相互に上下左右に隣接するようにして施工されることを前提としていることから、上記する課題、すなわち、四つの主桁が交差する領域に止水構造を形成し難いことに起因して、十分な止水性を備えた地下構造物の施工が難しいといった課題を解消できるか否かは定かでない。
【0010】
本発明は、上下および/または左右に併設された複数本のトンネル函体群を構成する、四つのトンネル函体の主桁が交差する領域に止水構造を形成し難いことに起因する止水性の低下を解消できる、トンネル函体群ユニットとその施工方法、及び地下構造物とその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネル函体群ユニットの一態様は、
推進工法もしくはシールド工法によって上下および/または左右に併設された複数本のトンネル函体群により形成される、トンネル函体群ユニットであって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設されている複数のトンネル函体により形成され、該トンネル函体は、前記軸方向に間隔を置いて配設されている複数の枠状の主桁と、複数の該主桁の周縁に取り付けられているスキンプレートと、前記軸方向に延設して前記主桁同士を繋ぐ複数の縦リブとを備えた鋼殻により形成されており、
隣接する前記トンネル函体群を構成するそれぞれの前記主桁が、前記軸方向にずれた姿勢でそれぞれの前記トンネル函体群が配設され、
前記トンネル函体は、前記スキンプレートにおいて前記主桁が取り付けられていない非主桁箇所と、前記主桁とを繋いで、前記軸方向に対して傾斜した方向に延設する複数の斜材をさらに備えており、
一方の前記トンネル函体群を構成する前記トンネル函体の前記非主桁箇所が、隣接する他方の前記トンネル函体群を構成する前記トンネル函体の前記主桁に対応する位置に位置決めされていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、上下および/または左右に併設された複数本のトンネル函体群により形成されるトンネル函体群ユニットに関し、隣接するトンネル函体群を構成するそれぞれの主桁が軸方向にずれた姿勢でそれぞれのトンネル函体群が配設されていることにより、四つの主桁が交差する領域は解消され、せいぜいリング継手を形成する二つの主桁が交差する領域が形成されるに過ぎないことから、作業員は主桁の交差する領域に手を入れて止水構造を形成することが可能になり、止水構造を形成し難いことに起因する止水性の低下を解消することができる。
一方、このようにトンネル函体群をそれぞれの主桁が軸方向にずれた姿勢で配設することにより、今度は、隣接する主桁同士で横方向の軸力と縦方向の軸力を相互に伝達させることができなくなる。そこで、本態様では、軸方向に対して傾斜した方向に延設しながら、スキンプレートにおいて主桁が取り付けられていない非主桁箇所と主桁とを繋ぐ複数の斜材をトンネル函体に設け、一方のトンネル函体群を構成するトンネル函体の非主桁箇所が隣接する他方のトンネル函体群を構成するトンネル函体の主桁に対応する位置に位置決めされている構成を適用している。この構成により、一方のトンネル函体の主桁から伝達された横方向や縦方向の軸力を、他方のトンネル函体では斜材を介して自身の主桁に伝達することにより、結果として双方の主桁から主桁への軸力の伝達が可能になる。すなわち、縦方向斜材と横方向斜材はいずれも、主桁から主桁へ軸力を伝達する軸力伝達部材となる。
【0013】
ここで、「横方向」や「縦方向」は、トンネル函体を正面から見た際、トンネル函体の内側から下方を見た際、トンネル函体の内側から上方を見た際、トンネル函体の内側や外側から側方を見た際に、それぞれの方向が変化し得る(逆さまになり得る)。従って、本明細書においては、トンネル函体を見る方向によって横方向と縦方向が変化することを前提として、ある方向から見た際の横方向と縦方向を、横方向、縦方向と称している。
【0014】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの他の態様において、
前記斜材は、横方向に延設する横方向斜材と、縦方向に延設する縦方向斜材とを有し、
前記非主桁箇所において、前記スキンプレートから前記トンネル函体の内空側へ延設するセットバック部材が設けられており、
前記セットバック部材に対して、前記横方向斜材と前記縦方向斜材のいずれか一方が取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、非主桁箇所において、スキンプレートからトンネル函体の内空側へ延設するセットバック部材が設けられ、セットバック部材に対して横方向斜材と縦方向斜材のいずれか一方が取り付けられていることにより、横方向斜材と縦方向斜材が共通の非主桁箇所に取り付けられる際に双方が干渉することを防止できる。例えば、スキンプレートの非主桁箇所に縦方向斜材が取り付けられている形態では、この非主桁箇所から延びるセットバック部材の端部に横方向斜材が取り付けられることにより、当該非主桁箇所における横方向斜材と縦方向斜材の干渉が防止される。ここで、セットバック部材は、横方向斜材と縦方向斜材の干渉を防止しながら、一方の斜材から伝達される軸力を隣接するトンネル函体の主桁に伝達する軸力伝達部材となる。
【0016】
また、本発明による地下構造物の一態様は、
前記トンネル函体群ユニットを構成する隣接する複数の前記トンネル函体を横方向に貫いて形成される上下のスラブと、縦方向に貫いて形成される左右の壁とを備え、
前記上下のスラブと前記左右の壁により包囲される領域に存在していたトンネル函体構成部材が撤去されることにより形成されている、内部空間をさらに備えており、
隣接する前記トンネル函体群において隣接する前記スキンプレートが撤去され、露出している双方のスキンプレート撤去端に亘って止水鋼板が溶接されており、前記リング継手を形成する対向した前記主桁の間にある該止水鋼板の下方の隙間に止水材が注入されており、該リング継手を形成する対向した該主桁の間にある該止水鋼板の上方の隙間に止水材が設置もしくは注入されて、第一止水構造が形成されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、本発明のトンネル函体群ユニットを利用して施工される地下構造物に関し、隣接するトンネル函体群を構成するそれぞれの主桁が軸方向にずれた姿勢でそれぞれのトンネル函体群が配設されていることを前提として、隣接するトンネル函体の双方のスキンプレート撤去端に亘って止水鋼板が溶接され、リング継手を形成する対向した主桁の間にある止水鋼板の下方の隙間に止水材が注入され、リング継手を形成する対向した主桁の間にある止水鋼板の上方の隙間に止水材が設置もしくは注入されてなる、第一止水構造が形成されていることにより、高い止水性を有する地下構造物となる。
【0018】
ここで、「リング継手を形成する対向した主桁の間にある止水鋼板の上方の隙間に止水材が設置もしくは注入される」とは、主桁の間にある止水鋼板の上方の隙間にも止水鋼板が同様に溶接等される形態や、主桁の間にある止水鋼板の上方の隙間に液状の止水材が注入され、硬化される形態を含む意味である。
【0019】
また、本発明による地下構造物の他の態様は、
前記トンネル函体群ユニットを構成する隣接する複数の前記トンネル函体を横方向に貫いて形成される上下のスラブと、縦方向に貫いて形成される左右の壁とを備え、
前記上下のスラブと前記左右の壁により包囲される領域に存在していたトンネル函体構成部材が撤去されることにより形成されている、内部空間をさらに備えており、
隣接する前記トンネル函体群において隣接する前記スキンプレートが撤去され、露出している双方のスキンプレート撤去端の間にバックアップ材が配設され、前記リング継手を形成する対向した前記主桁の間にある、該バックアップ材の下方の隙間と上方の隙間に対する吹付防水もしくは塗膜防水による、第二止水構造が形成されていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、本発明のトンネル函体群ユニットを利用して施工される地下構造物に関し、隣接するトンネル函体群を構成するそれぞれの主桁が軸方向にずれた姿勢でそれぞれのトンネル函体群が配設されていることを前提として、隣接するトンネル函体の双方のスキンプレート撤去端の間にモルタル等のバックアップ材が配設され、リング継手を形成する対向した主桁の間にある、バックアップ材の下方の隙間と上方の隙間に対する吹付防水もしくは塗膜防水による、第二止水構造が形成されていることにより、高い止水性を有する地下構造物となる。
【0021】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの施工方法の一態様は、
推進工法もしくはシールド工法によって、上下および/または左右に複数本のトンネル函体群を併設させることにより、トンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニットの施工方法であって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設されている複数のトンネル函体により形成され、該トンネル函体は、前記軸方向に間隔を置いて配設されている複数の枠状の主桁と、複数の該主桁の周縁に取り付けられているスキンプレートと、前記軸方向に延設して前記主桁同士を繋ぐ複数の縦リブとを備えた鋼殻により形成され、前記スキンプレートにおいて前記主桁が取り付けられていない非主桁箇所と、前記主桁とを繋いで、前記軸方向に対して傾斜した方向に延設する複数の斜材をさらに備えており、
隣接する前記トンネル函体群を構成するそれぞれの前記主桁が、前記軸方向にずれた姿勢でそれぞれの前記トンネル函体群を施工し、一方の前記トンネル函体群を構成する前記トンネル函体の前記非主桁箇所を、隣接する前記トンネル函体群を構成する前記トンネル函体の前記主桁に対応する位置に位置決めするようにして、それぞれのトンネル函体群を併設させることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、上下および/または左右に併設された複数本のトンネル函体群により形成されるトンネル函体群ユニットの施工において、隣接するトンネル函体群を構成するそれぞれの主桁が軸方向にずれた姿勢でそれぞれのトンネル函体群を併設することにより、四つの主桁が交差する領域を解消することができ、せいぜいリング継手を形成する二つの主桁が交差する領域が形成されるに過ぎないことから、主桁の交差する領域に止水構造を形成することが可能になり、止水構造を形成し難いことに起因する止水性の低下を解消することができる。
【0023】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの施工方法の他の態様は、
前記トンネル函体群ユニットの施工方法により、該トンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニット施工工程と、
トンネル函体群ユニットを構成する隣接する複数の前記トンネル函体を横方向に貫いて上下のスラブを施工し、縦方向に貫いて左右の壁を施工し、該上下のスラブと該左右の壁により包囲される領域に存在しているトンネル函体構成部材を撤去して内部空間を形成して地下構造物を施工する、地下構造物施工工程とを有し、
前記地下構造物施工工程では、
隣接する前記トンネル函体群において隣接する前記スキンプレートを撤去してスキンプレート撤去端を露出させ、双方の該スキンプレート撤去端に止水鋼板を溶接し、前記リング継手を形成する対向した前記主桁の間にある該止水鋼板の下方の隙間に止水材を注入し、該リング継手を形成する対向した該主桁の間にある該止水鋼板の上方の隙間に止水材を設置もしくは注入して、第一止水構造を形成することを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、隣接するトンネル函体群を構成するそれぞれの主桁が軸方向にずれた姿勢でそれぞれのトンネル函体群が配設されていることを前提として、隣接するトンネル函体の双方のスキンプレート撤去端に亘って止水鋼板を溶接し、リング継手を形成する対向した主桁の間にある止水鋼板の下方の隙間に止水材を注入し、リング継手を形成する対向した主桁の間にある止水鋼板の上方の隙間に、止水材を設置もしくは注入することによって第一止水構造を形成することにより、高い止水性を有する地下構造物を施工できる。
【0025】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの施工方法の他の態様は、
前記トンネル函体群ユニットの施工方法により、該トンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニット施工工程と、
トンネル函体群ユニットを構成する隣接する複数の前記トンネル函体を横方向に貫いて上下のスラブを施工し、縦方向に貫いて左右の壁を施工し、該上下のスラブと該左右の壁により包囲される領域に存在しているトンネル函体構成部材を撤去して内部空間を形成して地下構造物を施工する、地下構造物施工工程とを有し、
前記地下構造物施工工程では、
隣接する前記トンネル函体群において隣接する前記スキンプレートを撤去してスキンプレート撤去端を露出させ、双方の該スキンプレート撤去端間にバックアップ材を配設し、前記リング継手を形成する対向した前記主桁の間にある該バックアップ材の下方の隙間と上方の隙間に対して吹付防水もしくは塗膜防水を行うことにより、第二止水構造を形成することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、隣接するトンネル函体群を構成するそれぞれの主桁が軸方向にずれた姿勢でそれぞれのトンネル函体群が配設されていることを前提として、隣接するトンネル函体の双方のスキンプレート撤去端の間にモルタル等のバックアップ材を配設し、リング継手を形成する対向した主桁の間にある、バックアップ材の下方の隙間と上方の隙間に対して、吹付防水もしくは塗膜防水を行って第二止水構造を形成することにより、高い止水性を有する地下構造物を施工できる。
【0027】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの施工方法の他の態様は、
前記地下構造物施工工程において、前記上下のスラブの表面において、前記トンネル函体構成部材に含まれる前記主桁を撤去した際に、該スラブに埋設される該主桁の側方に水道が存在する場合に、該水道に対して止水材を注入することを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、上下のスラブを施工して主桁を撤去した際に、スラブに埋設される主桁の側方に水道が存在する場合に、水道に対して止水材を注入することにより、水道とその出口をスラブにおける主桁の側方に限定することができ、この限定された水道に対して可及的少量の止水材にて水道を完全に閉塞することが可能になる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のトンネル函体群ユニットとその施工方法、及び地下構造物とその施工方法によれば、上下および/または左右に併設された複数本のトンネル函体群を構成する、四つのトンネル函体の主桁が交差する領域に止水構造を形成し難いことに起因する、止水性の低下を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】従来のトンネル函体群ユニットの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1のII部をトンネル函体群ユニットの内部から見た平面図であって、四つのトンネル函体の四つの主桁が交差する領域を示す図である。
【
図3】実施形態に係るトンネル函体群ユニットとその施工方法の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示すトンネル函体群ユニットにおいて、上下のスラブと左右の壁が施工された状態を示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係る地下構造物の一例を示す斜視図である。
【
図12】実施形態に係る地下構造物の施工方法における、止水方法の一例を示す工程図であって、(a)はトンネル函体群ユニットの内部から下方を見た平面図であり、(b)は
図12(a)のb-b矢視図であり、(c)は
図12(b)のc-c矢視図である。
【
図13】
図12に続いて止水方法の一例を示す工程図であって、(a)は縦断面図であり、(b)は
図13(a)のb-b矢視図である。
【
図14】
図13に続いて止水方法の一例を示す工程図であって、(a)は平面図であり、(b)は
図14(a)のb-b矢視図であり、(c)は
図14(b)のc-c矢視図である。
【
図15】
図14に続いて止水方法の一例を示す工程図であって、(a)は平面図であり、(b)は
図15(a)のb-b矢視図であり、(c)は
図15(b)のc-c矢視図である。
【
図16】
図15に続いて止水方法の一例を示す工程図であって、(a)は平面図であり、(b)は
図16(a)のb-b矢視図であり、(c)は
図16(b)のc-c矢視図である。
【
図17】
図16に続いて止水方法の一例を示す工程図であって、(a)は下スラブの縦断面図であり、(b)は
図17(a)のb-b矢視図である。
【
図18】
図17に続いて止水方法の一例を示す工程図であって、下スラブの平面図である。
【
図19】実施形態に係る地下構造物の施工方法における、止水方法の他の例を示す工程図であって、(a)は平面図であり、(b)は
図19(a)のb-b矢視図であり、(c)は
図19(b)のc-c矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態に係るトンネル函体群ユニットとその施工方法、及び地下構造物とその施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0032】
[実施形態に係るトンネル函体群ユニットとその施工方法、及び地下構造物とその施工方法]
はじめに、
図3乃至
図11を参照して、実施形態に係るトンネル函体群ユニットとその施工方法、及び地下構造物とその施工方法の一例について説明する。ここで、
図3は、実施形態に係るトンネル函体群ユニットとその施工方法の一例を示す斜視図であり、
図4は、
図3に示すトンネル函体群ユニットにおいて、上下のスラブと左右の壁が施工された状態を示す斜視図であり、
図5は、実施形態に係る地下構造物の一例を示す斜視図である。また、
図6乃至
図11はそれぞれ、
図3のVI方向矢視図、VII-VII矢視図、VIII-VIII矢視図、IX-IX矢視図、X-X矢視図、及びXI-XI矢視図である。
【0033】
図3に示すように、トンネル函体群ユニット60は、
図1に示す従来のトンネル函体群ユニット50と異なり、先行施工のトンネル函体群20Aの各リング継手11A(を構成する主桁11)に対して、後行施工のトンネル函体群20Bの各リング継手11A(を構成する主桁11)が、軸方向にずれた姿勢でそれぞれのトンネル函体群20A,20Bが配設されている。図示例では、トンネル函体10の軸方向の長さの半分の長さだけ、隣接するトンネル函体群20A,20Bの双方の主桁11がずれている。
【0034】
トンネル函体10は、
図1に示すトンネル函体10'と同様に、軸方向に間隔を置いて配設されている複数(図示例は二つ)の枠状の主桁11と、複数の主桁11の周縁に取り付けられているスキンプレート12と、軸方向に延設して双方の主桁11同士を繋ぐ複数の縦リブ13とを備えた、鋼殻により形成されるが、
図7乃至
図11等に記載するように、軸方向に対して傾斜した方向に延設している縦方向斜材18及び横方向斜材19(いずれも斜材)と,セットバック部材17とを備えている点においてトンネル函体10'と相違する。尚、
図3においては、縦方向斜材18等の図示を省略している。
【0035】
トンネル函体群ユニット60では、隣接するトンネル函体群20A,20Bの双方の主桁11がずれていることにより、
図2に示すような四つの主桁11が交差する主桁交差領域Aを解消し、トンネル函体群ユニット60の地盤Gに接する領域の全域における止水施工を可能にしている。尚、この止水方法については以下で詳説する。
【0036】
図6に示すように、トンネル函体群ユニット60は、一基分のトンネル函体群20のスペースを置いて、四つの隅角部と中央に位置する先行施工のトンネル函体群20Aを同時もしくは順次施工した後、先行施工のトンネル函体群20Aのスペースに後行施工のトンネル函体群20Bを同時もしくは順次施工することにより形成される。各トンネル函体群20は、推進工法もしくはシールド工法によって施工され、先行施工されるトンネル函体群20Aの左右もしくは上下には、数十mm乃至数百mm程度の隙間Sを置いて後行施工されるトンネル函体群20Bが配設される。
図6では、トンネル函体群ユニット60の施工に次いで構築される、地下構造物を構成する鉄筋コンクリート製の上スラブ71と下スラブ72,及び左右の壁73,74を一点鎖線で示している。
【0037】
図7及び
図8は、縦方向(図示例は鉛直方向)に並んだトンネル函体群20A,20Bの側面の内側を、トンネル函体群20の内部から見た状態を示しており、より詳細には、
図7は、地盤Gに接する側面の内側の状態を示しており、
図8は、地盤Gと接しないトンネル函体群ユニット60の内部にある側面の内側の状態を示している。
【0038】
図7に示す地盤Gに接する各トンネル函体10の側面を形成するスキンプレート12のうち、縦方向に隣接する他方のトンネル函体10側の領域には、双方の主桁11の中間にある非主桁箇所16が設定されている。そして、この非主桁箇所16と、双方の主桁11及び縦リブ13の隅角部とを繋ぐ、縦方向斜材18(斜材の一例)が設けられている。この縦方向斜材18は、長尺な鋼製プレートにより形成され、主桁11間の軸力を伝達する軸力伝達部材となる。
【0039】
上段のトンネル函体群20Aを構成するトンネル函体10では、縦方向に隣接するトンネル函体10が下方に存在することから、トンネル函体10の下方の縦リブ13と下方のスキンプレート12の間に縦方向斜材18が設けられている。一方、中段のトンネル函体群20Bを構成するトンネル函体10では、縦方向に隣接するトンネル函体10が上下に存在することから、トンネル函体10の上下の縦リブ13と上下のスキンプレート12の間にそれぞれ、縦方向斜材18が設けられている。さらに、下段のトンネル函体群20Aを構成するトンネル函体10では、縦方向に隣接するトンネル函体10が上方に存在することから、トンネル函体10の上方の縦リブ13と上方のスキンプレート12の間に縦方向斜材18が設けられている。
【0040】
トンネル函体10における非主桁箇所16は、隣接する他方のトンネル函体10の主桁11に対応する位置に位置決めされている。
【0041】
トンネル函体群ユニット60では、隣接するトンネル函体群20A,20Bを構成する各トンネル函体10の主桁11が軸方向にずれた状態で配設されているため、
図1に示す従来のトンネル函体群ユニット50のように、上下に隣接するトンネル函体群20A,20Bを構成する各トンネル函体10の相互に隣接する主桁11を介して、土被り圧や地盤反力等による縦方向(鉛直方向)の軸力を伝達することができない。そこで、トンネル函体群ユニット60では、トンネル函体10の軸方向の中央位置に設定されている非主桁箇所16と主桁11を縦方向斜材18で繋ぎ、自身の主桁11から縦方向斜材18を介して、上下に隣接する他方のトンネル函体10の主桁11に縦方向の軸力を伝達するようにしている。
【0042】
一方、
図8に示すように、地盤Gに接しない各トンネル函体10の側面を形成するスキンプレート12においては、主桁11及び縦リブ13の隅角部と非主桁箇所16を縦方向斜材18で直接繋ぐ代わりに、非主桁箇所16に対して縦方向に延設するセットバック部材17を取り付け、主桁11及び縦リブ13の隅角部とセットバック部材17の端部を縦方向斜材18が繋ぐ構成としている。
【0043】
地盤Gに接する各トンネル函体10と異なり、地盤Gに接しないトンネル函体群ユニット60の内部にある各トンネル函体10においては、上下及び左右において別途のトンネル函体10の側面と隣接することから、縦方向斜材18をスキンプレート12の非主桁箇所16に直接接続すると、他の横方向斜材19(
図10及び
図11参照)等と干渉することになる。そこで、セットバック部材17を設けて、スキンプレート12の非主桁箇所16から離した位置で縦方向斜材18の端部をセットバック部材17に接続することにより、他の横方向斜材19等との干渉を回避しながら、縦方向斜材18を間接的に非主桁箇所16に接続することが可能になる。
【0044】
セットバック部材17も、縦方向斜材18と同様に鋼製プレートにより形成され、縦方向斜材18や以下で説明する横方向斜材19とともに主桁11間の軸力を伝達する軸力伝達部材となる。
【0045】
図7及び
図8と異なり、
図9乃至
図11は、横方向(図示例は水平方向)に並んだトンネル函体群20A,20Bの底面や上面をトンネル函体群20の内部から見た状態を示しており、より詳細には、
図9は、地盤Gに接する底面の状態を示しており、
図10と
図11はそれぞれ、地盤Gと接しないトンネル函体群ユニット60の内部にある上面と下面の状態を示している。
【0046】
図9に示す地盤Gに接する各トンネル函体10の底面(もしくは上面)を形成するスキンプレート12のうち、横方向に隣接する他方のトンネル函体10側の領域には、双方の主桁11の中間位置に非主桁箇所16が設定されている。そして、この非主桁箇所16と、双方の主桁11及び縦リブ13の隅角部とを繋ぐ、横方向斜材19(斜材の一例)が設けられている。この横方向斜材19も、長尺な鋼製プレートにより形成される。
【0047】
図9に示す左側のトンネル函体群20Aを構成するトンネル函体10では、横方向に隣接するトンネル函体10が右側に存在することから、トンネル函体10の右側の縦リブ13と右側のスキンプレート12の間に横方向斜材19が設けられている。一方、中央のトンネル函体群20Bを構成するトンネル函体10では、横方向に隣接するトンネル函体10が左右に存在することから、トンネル函体10の左右の縦リブ13と左右のスキンプレート12の間にそれぞれ、横方向斜材19が設けられている。さらに、右側のトンネル函体群20Aを構成するトンネル函体10では、横方向に隣接するトンネル函体10が左側に存在することから、トンネル函体10の左側の縦リブ13と左側のスキンプレート12の間に横方向斜材19が設けられている。
【0048】
トンネル函体群ユニット60では、隣接するトンネル函体群20A,20Bを構成する各トンネル函体10の主桁11が軸方向にずれた状態で配設されているため、上記するように土被り圧や地盤反力等による縦方向(鉛直方向)の軸力を伝達することができないことに加えて、土圧(土水圧)等による横方向の軸力も伝達することができない。
【0049】
そこで、トンネル函体群ユニット60では、トンネル函体10の軸方向の中央位置に設定されている非主桁箇所16と主桁11を横方向斜材19で繋ぎ、自身の主桁11から横方向斜材19を介して、左右に隣接する他方のトンネル函体10の主桁11に横方向の軸力を伝達するようにしている。
【0050】
従って、トンネル函体群ユニット60では、各トンネル函体群20A,20Bを構成するトンネル函体10が、縦方向斜材18と横方向斜材19を介して、自身の主桁11に伝達される縦方向と横方向の各軸力を、隣接する他方のトンネル函体10の主桁11に伝達することを可能にしている。
【0051】
また、
図10及び
図11に示すように、地盤Gに接しない各トンネル函体10においては、
図8に示す縦方向斜材18の場合と同様に、セットバック部材17を設けて、スキンプレート12の非主桁箇所16から離した位置で横方向斜材19の端部をセットバック部材17に接続することにより、他の縦方向斜材18等との干渉を回避しながら、横方向斜材19を間接的に非主桁箇所16に接続することを可能にしている。尚、
図10は下段のトンネル函体群20の上面を示しており、
図11は中段のトンネル函体群20の下面を示していることから、各トンネル函体群20は相互に軸方向にずれている。
【0052】
図3と、
図6乃至
図11に示すンネル函体群ユニット60を地中Gに施工し(トンネル函体群ユニット施工工程)、次に、
図4に示すように、トンネル函体群ユニット60を構成する隣接する複数のトンネル函体10を横方向に貫く上下の鉄筋コンクリート製のスラブ71,72を施工し、縦方向に貫く左右の鉄筋コンクリート製の壁73,74を施工する。これらのスラブ71,72や壁73,74の施工に際して、
図2に示すように四つの主桁11が交差する主桁交差領域Aは存在していないものの、隣接するトンネル函体群20の間の隙間Sやリング継手11Aの端部においては、依然として止水対策を講じる必要があるが、この止水方法については以下で詳説する。
【0053】
各トンネル函体10の主桁11やスキンプレート12の一部を巻き込むようにして、上下のスラブ71,72と左右の壁73,74を施工した後、
図5に示すように、スラブ71,72と壁73,74により包囲される領域に存在しているトンネル函体10の構成部材を撤去して内部空間76を形成することにより、地下構造物80を施工する(地下構造物施工工程)。
【0054】
図5からも明らかなように、地下構造物80は、トンネル函体群ユニット60の外郭がその構成要素の一部となっている。
【0055】
図示する地下構造物の施工方法によれば、その構成要素であるトンネル函体群ユニット60において、隣接するトンネル函体群20A,20Bの双方の主桁11がずれていることにより、四つの主桁11が交差する主桁交差領域Aを解消することができ、トンネル函体群ユニット60の地盤Gに接する領域の全域における止水施工が可能になる。そして、このように隣接するトンネル函体群20A,20Bの双方の主桁11をずらすことにより、隣接する主桁11を介して軸力伝達ができなくなるといった新たな課題が生じるが、各トンネル函体10が主桁11と非主桁箇所16を繋ぐ斜材18,19を備えていることにより、斜材18,19を介して隣接するトンネル函体10の主桁11間の軸力伝達が可能になる。
【0056】
[止水方法の一例]
次に、
図12乃至
図18を参照して、地下構造物の施工方法における止水方法の一例について説明する。ここで、
図12乃至
図18は順に、止水方法の一例の工程図である。尚、各図はいずれも、
図3及び
図6に示す九基のトンネル函体群20のうち、下段の三基のトンネル函体群20を構成する、左右いずれか一方の先行施工のトンネル函体群20Aと中央の後行施工のトンネル函体群20Bの隣接領域における底面を、トンネル函体の内部から見た図である。
【0057】
図3に示すトンネル函体群ユニット60が施工された際に、隣接するトンネル函体群20A,20Bの各リング継手11Aは、
図12(a)に示すように相互に軸方向にずれている。ここで、リング継手11Aは、軸方向に隣接するトンネル函体10の主桁11同士が、複数のボルト14を介して接続されることにより形成されている。
【0058】
図12(a)、(b)に示すように、隣接するトンネル函体群20A、20Bの間には、数十mm乃至数百mm程度の隙間Sがあり、
図12(a)乃至
図12(c)に示すように、矩形枠状の主桁11により構成されるリング継手11Aのうち、隙間S側の端部には、止水のためのシール15が設けられている。
【0059】
隣接するトンネル函体群20A,20Bの間の止水においては、まず、
図13(a)、(b)に示すように、双方の隙間S側にあるスキンプレート12を、主桁11の高さ程度のレベルで切断することにより、スキンプレート撤去端12aをトンネル函体10の内部に露出させる。
【0060】
次に、
図14(a)乃至
図14(c)に示すように、隣接するトンネル函体群20A,20Bの双方の各トンネル函体10のスキンプレート撤去端12aに跨がる、細幅で例えば薄厚の止水鋼板31を双方のスキンプレート撤去端12aに溶接接合することにより、双方のスキンプレート12同士を止水する。しかしながら、
図14に示す止水構造のみでは、各トンネル函体群20A,20Bのリング継手11Aの隙間S側の端部の止水は未だ不十分である。
【0061】
そこで、
図15(a)乃至
図15(c)に示すように、リング継手11Aの隙間S側の端部に、例えばアクリル系の止水注入を実施し、リング継手11Aの隙間S側の端部から止水鋼板31の下方の領域に亘って注入止水材33を施工する。
【0062】
次に、
図16(a)乃至
図16(c)に示すように、トンネル函体群20A,20Bの双方のリング継手11Aの主桁11間を隙間S側から塞ぐように、主桁間止水鋼板35を各主桁11に溶接接合する。この主桁間止水鋼板35は、
図16(b)、(c)に示すように、止水鋼板31から、以後施工される下スラブのレベル以上の高さまで延設している。
【0063】
このように、隣接するトンネル函体群20A,20Bのスキンプレート12に設けられた双方のスキンプレート撤去端12aを止水鋼板31にて塞ぎ、リング継手11Aの隙間S側の端部から止水鋼板31の下方の領域に亘る注入止水材33を施工し、さらに、止水鋼板31から下スラブレベル以上の高さまで延設している主桁間止水鋼板35でリング継手11Aの主桁11間を塞ぐことにより、リング継手11Aの周辺において、止水性能に優れた止水構造が形成される。これらの一連の止水施工は、
図2に示すように四つの主桁11が交差する主桁交差領域Aが解消されたことにより実現される。
【0064】
次いで、
図17(a)、(b)に示すように、スラブ用の鉄筋(相互に交差する上端筋41と、相互に交差する下端筋42)を配筋し、下スラブ用のコンクリートを打設することにより、下スラブ72を施工する。図示例では、下スラブ72の表面と主桁間止水鋼板35の上端が面一となっている。
【0065】
図17に示すように下スラブ72が施工された段階において、下スラブ72の止水性は担保されているが、リング継手11Aの隙間S側の端部には、僅かな水道が残っている場合があり得る。そこで、このように、リング継手11Aの隙間S側の端部に水道が存在している場合には、
図18に示すように、この水道に対して、例えばアクリル系の止水注入を再度実施し、水道を注入止水材37で閉塞する。
【0066】
すなわち、
図18の段階では、仮に水道が存在していても、リング継手11Aの隙間S側の端部の一部に水道を限定することができるため、再度の止水処理を簡易に行うことができ、かつ、止水処理が完全になされた止水性の高いスラブ72を形成できる。
【0067】
以上の一連の止水処理により形成された止水構造は第一止水構造であり、この一連の止水処理は、上記する地下構造物の施工方法における地下構造物施工工程に含まれる。
【0068】
[止水方法の他の例]
次に、
図19を参照して、地下構造物の施工方法における止水方法の他の例について説明する。ここで、
図19は、止水方法の他の例の工程図である。
【0069】
ここで示す止水方法は、
図14を参照して説明したようにスキンプレート撤去端12aを露出させた後、双方のスキンプレート撤去端12aの間の隙間Sに、例えば手練りモルタル等のバックアップ材38を埋め込み、次いで、リング継手11Aの主桁11間にあるバックアップ材38の下方の隙間と上方の隙間に対して、吹付防水39を行う方法である。ここで、吹付防水39に代わり、塗膜防水を行ってもよい。この方法においても、リング継手11Aの隙間S側の端部に僅かな水道が残っている場合は、
図18に示すように水道に対する止水注入を実施し、水道を注入止水材37で閉塞する。
【0070】
この一連の止水処理により形成された止水構造は第二止水構造であり、この一連の止水処理も、上記する地下構造物の施工方法における地下構造物施工工程に含まれる。
【0071】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0072】
10,10':トンネル函体
11:主桁
11A:リング継手
12:スキンプレート
12a:スキンプレート撤去端
13:縦リブ
14:ボルト
15:シール
16:非主桁箇所
17:セットバック部材
18:縦方向斜材(斜材)
19:横方向斜材(斜材)
20:トンネル函体群
20A:先行施工のトンネル函体群(トンネル函体群)
20B:後行施工のトンネル函体群(トンネル函体群)
31:止水鋼板
33:止水材(注入止水材)
35:止水材(主桁間止水鋼板)
37:止水材(注入止水材)
38:バックアップ材
39:吹付防水
41:上端筋
42:下端筋
50:トンネル函体群ユニット(従来のトンネル函体群ユニット)
60:トンネル函体群ユニット
71:スラブ(上スラブ)
72:スラブ(下スラブ)
73:壁(右壁)
74:壁(左壁)
76:内部空間
80:地下構造物
G:地盤(地中)
A:主桁交差領域
S:隙間