(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】注射可能な薬物送達デバイスの投与量制御システムおよび関連の使用方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20240315BHJP
A61M 5/20 20060101ALI20240315BHJP
G01B 7/30 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A61M5/315 550R
A61M5/20
G01B7/30 M
(21)【出願番号】P 2021213678
(22)【出願日】2021-12-28
(62)【分割の表示】P 2019560497の分割
【原出願日】2017-01-25
【審査請求日】2022-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】519266638
【氏名又は名称】バイオコープ プロダクション ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルドン、ライオネル
(72)【発明者】
【氏名】マルコス、アラン
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514554(JP,A)
【文献】国際公開第2016/040949(WO,A1)
【文献】特表2014-531283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/20
G01B 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射可能な薬物送達デバイスに取り外し可能に取り付け可能な投与量制御システムにおいて投与量設定を計算するための方法であって、前記薬物送達デバイスは、遠位端と近位端とを有する細長い薬物送達本体と、前記薬物送達本体によって保持される少なくとも1つの注射可能な薬物と、前記薬物送達本体の近位端に位置決めされ、前記薬物送達本体の長手方向軸を中心にして回転可能な投与量設定ホイールとを備え、前記投与量制御システムは、
前記薬物送達本体の前記近位端で前記回転可能な投与量設定ホイールに取り外し可能に取り付け可能な、または永久的に固定される略円板形の直径方向単一双極子磁石と、
前記薬物送達本体の前記近位端へ取り外し可能に取り付け可能なハウジングであって、前記取り外し可能に取り付け可能なハウジングは、
前記略円板形の直径方向単一双極子磁石により生成される磁場を測定するように構成される、少なくとも第1および第2の磁場測定手段を備える、取り外し可能に取り付け可能なハウジングと、
前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段へ連結され、前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段から受信される情報を処理するように構成される一体式制御ユニットと、を備え、
前記投与量制御システムの前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、前記取り外し可能に取り付け可能なハウジング内に、前記薬物送達本体および前記略円板形の直径方向単一双極子磁石の長手方向軸に対して変位された軸方向関係で位置決めされ、
前記略円板形の直径方向単一双極子磁石は、前記薬物送達本体の前記長手方向軸の周りを前記回転可能な投与量設定ホイールと共回転するように構成され、
前記方法は、さらに、
回転可能な前記略円板形の直径方向単一双極子磁石により生成される磁場(CM)を、前記略円板形の直径方向単一双極子磁石の回転軸に対して変位される軸方向アラインメントで配置される少なくとも第1の磁力計(m
1)および第2の磁力計(m
2)によって測定するステップと、
結果として生じる磁場擬似ベクトル(CR)を以下の式:
CR=CM
m1-CM
m2=(CA
m1+CE)-(CA
m2+CE)=CA
m1-CA
m2
により計算するステップであって、ここで、
CRは、前記結果として生じる磁場
擬似ベクトルであり、
CM
m1は、前記第1の磁力計m
1により測定される磁場であり、
CM
m2は、前記第2の磁力計m
2により測定される磁場であり、
CA
m1は、前記磁力計m
1により測定される、前記略円板形の直径方向単一双極子磁石により生成される実際の磁場であり、
CA
m2は、磁力計m
2により測定される、前記略円板形の直径方向単一双極子磁石により生成される実際の磁場であり、
CEは、外部磁場
である、計算するステップと、
等法線投影面に対する前記回転可能な略円板状の径方向単双極磁石の回転角度を計算するステップと、
前記回転角度を用いて前記磁場擬似ベクトルを変換し、以下の式:
【数1】
にしたがう回転および投影により、等法線が補正された磁場擬似ベクトル(CR2)を生成するステップと、
前記
等法線が補正された磁場
擬似ベクトル(CR2)の前記回転角度から投与量設定値を計算するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記回転軸に沿った前記略円板形の直径方向単一双極子磁石の平行移動された位置に対応する前記略円板形の直径方向単一双極子磁石の法線上の基準位置を計算することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一体式制御ユニットが、前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段のための補正されたオフセット値を計算するように構成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段を、前記取り外し可能に取り付け可能なハウジング内へ前記薬物送達本体の前記近位端に隣接して位置決することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段を、前記取り外し可能に取り付け可能なハウジング内へ前記近位端から遠位に位置決めすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段を、前記取り外し可能に取り付け可能なハウジング内へ位置決めされる支持構造体上に位置決することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段が、前記略円板形の直径方向単一双極子磁石と軸方向にアラインされていない、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、磁力計であり、前記方法は、前記第1の磁力計および前記第2の磁力計を、前記略円板形の直径方向単一双極子磁石が前記薬物送達本体の前記長手方向軸を中心として回転されるにつれて生成される磁場を同時に、かつ独立して測定するように構成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段が、前記略円板形の直径方向単一双極子磁石が前記薬物送達本体の前記長手方向軸に沿って平行移動するにつれて生成される磁場を測定するように構成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記一体式制御ユニットが、前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段のオフセット値を次式、
【数2】
を介して計算し、ここで、x、y、zは、磁場の直交する3軸であり、
x
i、y
iおよびz
iは
、測定磁場の対応するベクトルにより生成される、3次元における点のクラウドに似た一連の点であり、前記点のクラウドは、因数、
【数3】
によってスフェリサイズ(sphericize)されるように構成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記一体式制御ユニットが、磁気オフセット値を、次式、
【数4】
を介して補正するように構成することを含む、請求項1に記載の投与量制御システム。
【請求項12】
前記一体式制御ユニットが、前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段により測定される磁場値を、前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段の前記略円板形の直径方向単一双極子磁石に対する非軸方向アラインメントの関数として補正するように構成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記一体式制御ユニットが、前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段により測定され、かつ前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段と前記略円板形の直径方向単一双極子磁石との軸方向アラインメントの欠如から結果的に生じる磁場値を、前記第1および第2の磁場測定手段
の測定磁場で構成されかつ前記測定磁場から計算される合成擬似磁場を表す擬似ベクトルへ直交する3軸x、yまたはzのうちの1つを中心とする回転を印加して前記合成擬似磁場を表す前記擬似ベクトルを等法線投影平面に収めることにより、補正するように構成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記一体式制御ユニットが、前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段により測定され、かつ前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段と前記略円板形の直径方向単一双極子磁石との軸方向アラインメントの欠如から結果的に生じる磁場値を、以下の計算式、
【数5】
および、
【数6】
の適用により補正し、ここで、
R
xは、単位度で表される角度であり、測定磁場の、好ましくはX軸である直交する1つの軸を中心とする回転による変換を有効化して、角ベクトルとして表される前記磁場を位置合わせし直し、よって、前記
擬似ベクトルは、その等法線投影平面と略同一平面となり、
θ
xは、X軸を中心として測定される実際の回転角(単位度)であり、
c
1=p
1、
c
2=V
adjust、
c
3=p
2-p
1、
c
4=p
4-p
3、
c
5=p
3、
であり、
R
xは、各距離dのθ
x値についてモデリングされて、以下のようなd
i、θ
xiおよびR
xiの値セットが得られ、
【数7】
ここで、
【数8】
であり、
V
adjustは、シミュレーションによって得られる近似されたR
x値と、前記投与量制御システムによって計算されるR
x値との誤差を最小化するための調整変数であるように構成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記一体式制御ユニットが、低い、および高いカットオフ値を適用して、処理中に取得されるR
x値を制限するように構成することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記低い、および高いカットオフ値は
、機能システムの動作限界において、各々関数min(θx)およびmax(θx)を介して取得される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記一体式制御ユニットからの情報のリモートおよび/またはローカルデータ処理システムへの通信を可能にする通信手段を構成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記リモートおよび/またはローカルデータ処理システムは、スマートフォンアプリケーションを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記投与量制御システム内に備えられる一意の識別子を、前記リモートおよび/またはローカルデータ処理システムへ通信させることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記投与量制御システム内に、温度検出手段を備えることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記投与量制御システム内に、時間決定手段を備えることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記投与量制御システム内に、自律電源手段を備えることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記直径方向単一双極子磁石の磁場の強さおよび前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段の位置合わせを、前記第1の磁場測定手段で測定される値と前記第2の磁場測定手段で測定される値との間に少なくとも100マイクロテスラ(μT)の差が存在するように構成することを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射可能な薬物送達デバイスの分野に関し、具体的には、こうした注射可能な薬物送達デバイスに提供される投与量制御システムに関する。
【0002】
注射可能な薬物の送達デバイスは、長年知られている。患者自身が行う個々の処置および投薬計画に対して患者により多くの責任を求める事態が進みかつ展開するにつれて、ユーザ自身による薬物注射を可能にする様々な薬物送達デバイスが開発されてきた。具体的には、例えば、糖尿病の影響を治療するためのインスリンの場合がこれに当たる。しかしながら、例えば生命に関わる潜在的状況に対処するために必要とされる、かつ必要な薬物の即時的緊急注射を可能にする、アナフィラキシーショック治療薬、抗凝血剤、オピオイド受容体作用物質および拮抗物質およびこれらに類似するもの等の他の薬物も、このような病気を患っている、またはかかりやすい患者にとってこれらのデバイスを持ち歩くことが普通のことになっている限りにおいて、このカテゴリに分類される。
【0003】
既存の自己注射器システムに関する既知の問題点の1つは、投与量制御の問題であった。前世代の注射可能な薬物送達デバイスの場合、こうしたデバイスは、過剰な投与量の注射、またはデバイスの過剰使用、およびこのような乱用、誤用または単にユーザの間違いにより重篤となる可能性のある結果の防止または制限を試行するための機械的手段を備えていた。さらに、できれば注射される量に関して少なくとも何らかの可視的な手掛かりが存在し、これにより治療計画の管理が容易になるように、ユーザに、自分が注射した薬物の量を通知できることが望ましいと考えられていた。
【0004】
提案された機械的ソリューションに関連する主な問題点は、薬物送達デバイスの構造が必然的に過度に複雑化されたことにあり、ユーザには、多くの場合ユーザが手慣れていた方法とは異なる可能性がある極めて厳密または複雑な操作方法が課されることがかなり多く、よって、さらなる誤操作、薬剤投与量の減少、患者のノンコンプライアンスおよび他の多くの困難につながった。
【0005】
これらの困難に対して、機械的可動パーツおよび小さく脆弱なコンポーネントの機械的相互作用を含む純粋に機械的なソリューションの複雑性に、デバイス内に埋め込まれた非接触センサおよび情報処理システムを用いて、薬物送達デバイスにより投与され、無駄にされ、除去され、またはその他の方法で放出された注射可能薬物の頻度および用量を示すことにより対処する試みが行われた。これにより、複数の異なる技術的ソリューションがもたらされたが、その各々は、特定の製造業者の対応する注射可能な薬物送達デバイスの範囲の仕様に合わせたものであった。
【0006】
例えば、米国特許第8708957(B2)号明細書には、注射の間に送達動作の進行に伴ってパルスを生成するように適合化されるセンサを備える、注射可能な薬物を自己注射するための薬物送達デバイスが開示されている。用量送達中に蓄積されるパルスの数は、送達される用量のサイズに対応するのに対して、検出されるパルスの周波数は、注射中の用量速度に比例する。
【0007】
他の実施形態では、センサ回路は、注射中に移動する駆動機構の特定のコンポーネントを監視するように適合化される位置センサを包含することが可能である。位置センサは、線形センサまたは回転センサのいずれかであることが可能であって、センサの特定の選択は、投与量の設定および注射機構の具体的な設計に従って選択される。例えば、注射の間のピストンロッドの移動を監視する場合は、線形位置センサを設けることができる。あるいは、注射中にピストンロッドと同期して移動するコンポーネントの動きを記録する位置センサが設けられる。例えば、デバイス内に回転可能式に取り付けられて注射中に回転するコンポーネントは、回転位置センサによって監視され得、これにより、回転可能式に取り付けられるコンポーネントの注射中の回転運動から薬注速度を計算し得る。
【0008】
欧州特許第1646844(B2)号明細書は、注射可能な薬物を投与するための注射デバイスを開示していて、このデバイスは、互いに相対的に移動可能な薬注デバイスのエレメント間の位置を測定するための非接触測定ユニットを備え、前記測定ユニットは、第1のエレメントへ固定され、第1のエレメントと相対的に移動可能な第2の磁化可能なエレメントに対向しかつ回転位置を測定するための回転エレメントとして具現される磁気抵抗センサと、第1のエレメント上の永久磁石および予め決められた表面プロファイルを有する第2の磁化可能なエレメントから形成される磁気デバイスとを備え、よって、第1および第2のエレメントが互いに相対的に動かされると、第2のエレメントの表面が第1のエレメントの永久磁石からのその距離を変え、これにより、磁場の変化に起因して磁気抵抗センサ内に測定可能な抵抗変化が生じる。これは、注射可能な薬物送達デバイスのバレルまたは本体に多くの追加の可動部品が組み込まれるかなり複雑なシステムであり、様々なコンポーネントが故障する可能性、または磁石および磁化可能なエレメントの動き間の相互作用および生成される個々の信号が妨害される可能性といったリスクが高まる。
【0009】
欧州特許出願公開第2428238(A1)号明細書は、注射器内の投与量を測定するための装置を開示していて、前記装置は、注射器本体を貫通しかつ注射器本体へ螺旋状に移動可能であるように連結される番号スリーブと、番号スリーブの外周上に形成されている投与量測定のためのパターンであって、注射器本体が、番号スリーブが螺旋状の動きを実行すると番号スリーブ上に形成されるパターンを検出するためのセンサを備える、パターンと、番号スリーブのセンサを介する螺旋状の動きの距離に従って投与量を測定するためのコントローラと、を備える。このデバイスでは、薬物送達デバイスの本体に沿って磁石が螺旋状に変位し、前記磁石は、薬物送達デバイス本体の長手方向軸に沿った、かつ長手方向軸の周りの様々な場所に位置決めされる対応するセンサを装備する。このソリューションもやはり、極めて複雑であって、既に複雑である薬物送達デバイスをさらに複雑にしている。
【0010】
国際公開第02/064196(A1)号パンフレットは、装置の選択されるパラメータを監視する一体式センサを備える、閉スイッチユニットにより制御される注射装置を開示している。閉スイッチユニットは、注射装置内に固定される。センサとして、少なくとも2対の一体式ホール素子が使用される。ホール素子は、N極およびS極を交互に示す磁化リングと共働する。このリングは、薬注手段内に配置され、回転運動に従って注射装置の長手方向軸の周りを移動して製品投与量を設定する。投与量設定値の容積を測定するためには、閉スイッチユニットに対する磁気リングの回転運動を決定する必要がある。
【0011】
米国特許出願公開第20060175427(A1)号明細書は、設定エレメントの位置を検出するための信号を発生することができる少なくとも1つの受動的非接触センサを備える注射装置を開示していて、前記少なくとも1つの受動的非接触センサは、磁気スイッチまたはリード接点を備える。この発明の幾つかの実施形態によれば、光学レコーダまたはホールセンサ等の能動コンポーネントの使用とは対照的に、磁気スイッチまたはリード接点等の受動コンポーネントがセンサとして使用され得る。受動センサがその静止状態にある場合は、回路が磁気スイッチまたはリード接点により中断されることに起因して、電力が流れない。受動的非接触センサは、デジタル信号、すなわちオンおよびオフ信号を生成し、これにより、測定回路がオンに切換され、または起動され、かつ再びオフに切換され、オン切換およびオフ切換プロセスを計数することによって設定エレメントの位置が検出される。薬注ユニットの回転位置等の設定エレメントの位置は、電力等のエネルギーなしに検出されることが可能であり、設定エレメントが変更されているか否かを確認することができる。
【0012】
国際公開第2013050535(A2)号パンフレットは、磁場を測定するように適合化されるセンサアッセンブリと、センサアッセンブリと相対的に、2つの位置間で、軸方向変位および回転運動の組合せによって移動するように適合化される可動エレメントとを備えるシステムを開示していて、前記回転運動は、軸方向変位に対して予め決められた関係性を有する。磁石は、可動エレメントに取り付けられ、かつ磁石、ひいては、可動エレメントの軸方向変位および回転運動の両方に対応してセンサアッセンブリと相対的に変わる空間磁場を生成するように構成される。プロセッサは、磁場の先に測定されかつ保存された値に基づいて、可動エレメントの軸方向位置を決定するように構成される。このシステムについて与えられている例は、磁場生成手段が注射可能な薬物送達デバイスの本体内に位置決めされる長手方向駆動ねじの上に位置決めされ、かつセンサが前記薬物送達デバイスの長手方向軸に沿って位置決めされることを記述している。システム全体は、薬物送達デバイスの本体内に位置決めされる。この特許出願の技術的教示は、可動エレメントの軸方向変位を、任意の所与の回転角に関して経験的に測定された磁場のルックアップテーブルに基づいて正確に決定する必要性に焦点を当てたものであり、よって、磁場センサは、磁場源の近くへ位置決めされる必要がある。
【0013】
国際公開第2014161954(A1)号パンフレットは、薬物送達システムを開示していて、薬物送達デバイスのハウジングは、さらに、前記ハウジング内に一体化される、設定されかつ/または放出される投与量に対応してハウジングと相対的に回転するように適合化されかつ第1の力伝達表面を備える第1の回転部材と、設定されかつ/または放出される投与量に対応してハウジングと相対的に回転するように適合化されかつ第2の力伝達表面を備える第2の回転部材とを備え、前記第1および第2の力伝達表面の少なくとも一部は、投与量の設定かつ/または放出中に互いに係合するように適合化され、第1の回転部材は、第1の回転部材の回転運動に対応して変わる空間磁場を生成する磁石を備え、かつ前記第1の回転部材は、完全に、磁性粒子を含む高分子材料から形成され、前記高分子材料は、空間磁場を生成する磁石を提供するように磁化されている。
【0014】
上述のソリューションは、全て、薬物送達デバイスの本体内に、様々なセンサおよび/またはエレメント編成のかなり複雑な配置を含み、これにより、さらに、概して、前記薬物送達デバイスをかなり大幅に変更しなければならないことが含意され、かつさらには、投与量を決定するために軸方向変位の計算が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第8708957(B2)号明細書
【文献】欧州特許第1646844(B2)号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2428238(A1)号明細書
【文献】国際公開第02/064196(A1)号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第20060175427(A1)号明細書
【文献】国際公開第2013050535(A2)号パンフレット
【文献】国際公開第2014161954(A1)号パンフレット
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明の目的は、現在利用可能である注射可能な薬物送達デバイスのいずれによっても機能することができるが、注射可能な薬物送達デバイスが一般的なペンまたは葉巻形の自己注射器設計に依存する限りにおいて、このような注射可能な薬物送達デバイスの将来の設計に対しても機能し、かつ投与量情報を正確に提供するために駆動ねじまたは親ねじまたはピストンロッドの軸方向変位の計算または決定を必要としない、投与量制御システムを提供することにある。
【0017】
さらに、本発明の別の目的は、市販品である類似の薬物送達デバイスに比較して、注射可能な薬物送達デバイスまたは前記薬物送達デバイスがユーザのために機能する方法、すなわちその操作方法、を大幅に変更する必要のない投与量制御システムを提供することにある。本発明のさらに別の目的は、薬物送達デバイスを、例えば薬物送達デバイスが損傷した場合、または薬物送達デバイスが機能不全に陥った場合に交換できるように、もしくは単に、薬物送達デバイスの中には、利用可能な薬物投与量のうちの小範囲のみを送達するように構成されるものがあり、よって、利用可能な薬物投与量のうちの異なる範囲を有する別の薬物送達デバイスへ切換できることが望ましい、という理由で、前記注射可能な薬物送達デバイス上へ取り外し可能に取り付けられる投与量制御システムを提供することにある。
【0018】
本発明のさらなる目的は、磁場測定手段が薬物送達本体の長手方向軸に対して変位された軸方向関係で位置決めされる、先行技術に記載されているタイプの注射可能な薬物送達デバイスのための投与量制御システムを提供することにある。
【0019】
これらの目的および他の目的は、以下に示しかつ詳述する様々な実施形態から明らかとなるであろう。
【0020】
以下、本発明を、本発明の実施形態の例示的発現を非限定的に示すために提供される添付の図面に関連してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明による投与量制御システムの一例を示す略図である。
【
図2A】磁場生成手段および磁場測定手段が薬物送達デバイス本体の長手方向軸、本図ではY軸、に沿って同じ場所に配置される、仮想理想的な薬物送達デバイスを示す略断面図である。
【
図2B】
図2Aに類似する略断面図であるが、主たる相違は、このスキーマが本発明による実世界のシステムを表していて、磁場測定手段が、磁場生成手段および薬物送達デバイス本体の長手方向軸に対して変位された軸方向アラインメントで位置決めされていることにある。
【
図3】本発明による、補正された回転角を計算するために使用される方法またはステップのフローチャートを示す略図である。
【0022】
したがって、本発明の一実施形態は、注射可能な薬物送達デバイス用に構成される投与量制御システムであり、前記薬物送達デバイスは、略細長い薬物送達本体と、遠位端および近位端を有する前記本体によって保持される少なくとも1つの注射可能な薬物と、前記薬物送達本体の近位端に位置決めされ、前記薬物送達本体の長手方向軸を中心にして回転可能な投与量設定ホイールとを備え、前記投与量制御システムは、
-前記薬物送達本体の近位端で回転可能投与量ホイールに取り外し可能に取り付け可能な、または永久的に固定される略円板形の直径方向単一双極子磁石と、
-薬物送達本体の近位端へ取り外し可能に取り付け可能なハウジングであって、前記取り外し可能に取り付け可能なハウジングは、
-略円板形の直径方向単一双極子磁石により生成される磁場を測定するように構成される、少なくとも第1および第2の磁場測定手段を備える、ハウジングと、
-少なくとも第1および第2の磁場測定手段へ連結され、少なくとも第1および第2の磁場測定手段から受信される情報を処理するように構成される一体式制御ユニットと、を備え、
-前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、取り外し可能に取り付け可能なハウジング内に、薬物送達本体および略円板形の直径方向単一双極子磁石の長手方向軸に対して変位された軸方向関係で位置決めされ、
-前記略円板形の直径方向単一双極子磁石は、薬物送達本体の長手方向軸の周りを前記投与量設定ホイールと共回転するように構成され、かつ、
-前記一体式制御ユニットは、さらに、
磁場測定手段の変位された軸方向関係に関して正規化されたベクトルを提供するように構成され、前記正規化されるベクトルは、略円板形の直径方向単一双極子磁石の回転により生成されて磁場測定手段により測定される測定磁場から導出され、かつ前記一体式制御ユニットは、さらに、
前記正規化されたベクトルから投与量設定値を計算するように構成される。
【0023】
本発明のさらなる実施形態において、一体式制御ユニットは、前記少なくとも第1および第2の磁場測定手段のための補正されたオフセット値を計算するように構成される。
【0024】
本発明のさらに別の実施形態によれば、少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、取り外し可能に取り付け可能なハウジング内へ薬物送達デバイス本体の近位端に隣接して位置決めされる。
【0025】
本発明の別の実施形態において、少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、前記ハウジング内へ近位端から遠位に位置決めされる。
【0026】
さらに別の実施形態によれば、少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、ハウジング内へ位置決めされる支持構造体上に位置決めされる。
【0027】
さらに別の実施形態において、第1の磁場測定手段および第2の磁場測定手段は、互いに軸方向に位置合わせされる。
【0028】
さらに別の実施形態によれば、少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、磁力計であり、第1の磁力計および第2の磁力計は、略円板形の直径方向単一双極子磁石が薬物送達デバイス本体の長手方向軸を中心として回転されるにつれて生成される磁場を同時に、かつ独立して測定するように構成される。
【0029】
さらに別の実施形態によれば、少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、さらに、略円板形の直径方向単一双極子磁石が薬物送達デバイス本体の長手方向軸に沿って平行移動するにつれて生成される磁場を測定するように構成される。
【0030】
本発明によるシステム等のシステムにおいて、第1および第2の磁力計は、一体式処理ユニットの他のエレメントも搭載される支持構造体、例えばプリント基板、上に位置決めされる。空間的に、かつ直交する3軸x、yおよびz、但し、y軸は薬物送達デバイス本体の長手方向軸に対応する、に対して、この構成を数学的に表すと、第1の磁力計m1は、次のようになる。
【数1】
【0031】
第2の磁力計m2についても、同様に表すことができる。
【数2】
m1とm2との関係は、次のように表される。
【数3】
【0032】
ある理論上の理想システムにおいて、磁力計等の磁場測定手段は、磁場生成手段に対し軸方向にアラインされかつ可能な限り近接して位置合わせされることになる。薬物送達デバイス本体に当てはめた場合、これは、磁力計がデバイス本体の長手方向軸に沿って配置されなければならなくなることを含意する。このような理論上の理想システムでは、磁場外乱もないものと思われる。システム内の磁石により生成される磁場は、全て、薬物送達デバイス本体の長手方向軸に垂直な平面と同一平面上にあることになる。システム内の磁石により生成される磁場は、全て、磁石と磁力計との距離に直にリンクされる法線を有することになる。言い替えれば、生成されかつ測定される磁場は、磁石の回転角に関わりなく、かつ前記回転角とは独立して、薬物送達デバイス本体の長手方向軸に沿った磁石の平行移動と直に相関可能である。このような理想システムでは、測定される磁場の3つの極座標のうちの2つを用いることにより、微小の磁場外乱を除いて、磁石の回転角が正しく計算される。
【0033】
ここで、
【数4】
は、測定される任意の所与の磁場の座標であり、よって、回転角を次式のように計算することができる。
【数5】
【0034】
しかしながら、現実世界では、システムは、理想的に動作せず、上で同定した理想の仮想構成を達成することができない。本発明によるシステムにおいて、磁場測定手段は、薬物送達デバイス本体の長手方向軸と軸方向にアラインしているものの、略円板形磁石の回転軸と相互にアラインされず、とはいえ、薬物送達デバイス本体の長手方向軸に略平行である。このような構成は、幾つかの望ましくない効果をもたらし、とりわけ、
測定される各磁場の法線投影が、
(a)薬物送達デバイス本体の長手方向軸に沿った磁石の距離と、
(b)磁場測定手段の変位された非軸方向アラインメントに起因して、磁石の最大磁場ポテンシャルに対して距離の揺動、ひいては、法線投影の揺動を生み出す、磁石の回転角と、の関数として変化し、
法線投影の角度に対する測定された磁場の角度の差が、回転の距離および角度の双方の関数として変化する、言い替えれば、測定される磁場と法線投影とがもはや同一平面上にない。
【0035】
さらに、実際のシステムには、以下を含む、説明される必要のある他の誤差も存在する。
各磁力計に起因するオフセットおよび較正誤差、
各磁力計に固有の感度誤差、および行われる各測定の誤差、
外的な磁場外乱に起因して生じる誤差、但しこれは、主に地球固有の磁場である、
システムを構成するコンポーネントの機械公差により誘発される誤差。
【0036】
上記に鑑みれば、実際のシステム構成は、もはや、仮想上の理想システムに関して示される単純な方法で回転角を正しく計算することができない。XZ平面に沿った投影に関して行われる近似は、いずれも、主に角度差の変化および磁石の回転角で変わる法線投影に起因して、大きな誤差を導く傾向がある。さらに、磁場の法線も、磁石の回転との組合せで磁石により動かされる平行移動距離によって変わることから、投与量選択ホイールの真の角回転位置の有効解釈は、いずれも極めて問題含みとなる。
【0037】
本発明によるシステムは、これらの困難を解決し、かつさらに、磁場測定手段と略円板形の直径方向双極子磁石との非軸方向アラインメントに影響されない正確な回転角、ひいては、投与量ホイール設定を計算するための手段を提供する。さらに、本発明によるシステムは、そうした計算が望ましい場合には、補正されかつ正確に計算された回転角を用いることによって、任意選択によりかつ効果的には、薬物送達デバイス本体の長手方向軸に沿った磁石の平行移動距離の正確な計算も可能にする。
【0038】
デバイスを構成するコンポーネントの機械的相互作用に起因する誤差、および磁場測定手段の相対感度に起因する誤差は、正しい回転角の計算における誤差の考えられるソースとして言及されているが、これらのソースは、本発明によるシステムでは取るに足らないものとされ、よって無視されている。
【0039】
したがって、本発明による投与量制御システムの別の実施形態において、一体式制御ユニットは、さらに、前記磁場測定手段のオフセット値を、次式によって計算するように構成され、
【数6】
ここで、x、yおよびzは、磁場の直交する3軸であり、かつ、
x
i、y
iおよびz
iは、3次元の点のクラウドに似た測定磁場の対応するベクトルによって生成される一連の点であり、前記点のクラウドは、次の因数、
【数7】
によってスフェリサイズ(sphericize)される。
【0040】
別の実施形態によれば、磁気オフセット値は、次式によって補正される。
【数8】
【0041】
磁力計が、任意選択により、かつ効果的には、予め較正されていれば、スフェリサイズ因数(sphericizing factors)fx、fyおよびfzは、1に等しく、よって、上述のオフセット値補正式ではもはや不要である。
【0042】
さらに別の実施形態において、第1および第2の磁力計は、さらに、投与量制御システムに悪影響を及ぼし得る外部磁場を全て打ち消すように構成される。悪影響を及ぼす外部磁気が発生すると、本文書の説明ではm1およびm2として識別可能な第1および第2の磁力計は、共に、同じ外部磁場に曝される。この状況は、次のように表すことができる。
CMm1:磁力計m1により測定される磁場
CMm2:磁力計m2により測定される磁場
CAm1:磁力計m1により測定される、磁石により生成される実際の磁場
CAm2:磁力計m2により測定される、磁石により生成される実際の磁場
CE:外部磁場、
およびこれらのコンポーネント間の関係は、次のように定義される。
CMm1=CAm1+CE
CMm2=CAm2+CE
【0043】
外部磁場は、CRを、次式のように定義される擬似合成磁場とすることによって打ち消すことができる。
CR=CMm1-CMm2=(CAm1+CE)-(CAm2+CE)=CAm1-CAm2
【0044】
CAm1およびCAm2は、一方が他方に対して同様に、準平行式に、かつ機能的に磁力計m1と磁力計m2との距離に依存して展開する。結果として、CRは、測定磁場CAm1およびCAm2から計算される合成擬似磁場を表す擬似ベクトルとして記述されることが可能であり、かつCRの値は、CAm1およびCAm2の値の間に含まれ、これにより、前記擬似ベクトルは、前記測定磁場に類似する方法で、すなわちCAm1およびCAm2に準平行に展開する。したがって、CRは、システム外部の磁場外乱とは独立して、磁石の回転角を表し、かつこれにより、投与量セレクタホイールを表す。CAm1およびCAm2は、リンクされて展開する法線を表示することから、CAm1の法線が大きくなれば、CAm2の法線も大きくなり、逆も真である。したがって、次の関係式も常に真である。
│CAm1│>│CAm2│
【0045】
したがって、本発明のさらに別の実施形態において、一体式処理ユニットは、磁場測定手段により測定される磁場値を、磁場測定手段の略円板形の直径方向単一双極子磁石に対する非軸方向アラインメントの関数として補正するように構成される。
【0046】
さらなる実施形態において、一体式処理ユニットは、磁場測定手段により測定される、かつ磁場測定手段と略円板形の直径方向単一双極子磁石との軸方向アラインメントの欠如から結果的に生じる磁場値を、前記第1および第2の磁場測定手段の測定磁場から計算される合成擬似磁場を表す擬似ベクトルへ直交する3軸x、yまたはzのうちの1つを中心とする回転を印加して前記合成擬似磁場を表す前記擬似ベクトルを等法線投影にすることにより、補正するように構成される。
【0047】
さらに別の実施形態において、一体式処理ユニットは、磁場測定手段により測定される、かつ磁場測定手段と略円板形の直径方向単一双極子磁石との軸方向アラインメントの欠如から結果的に生じる磁場値を、以下の計算を適用することによって補正するように構成され、以下の計算において、直交する3軸X、YおよびZを有するシステムのdは、Y軸に沿った、薬物送達デバイス本体の近位端と略円板形磁石との距離に等しい。各距離dについて、X軸を通る平面が存在し、よって、前記平面と同一平面上にある磁場の平面XZに沿った投影は、磁石の回転角に関わりなく、かつ前記回転角とは独立して、全て等法線である。この平面は、等法線投影として知られる。この計算は、次のように表すことができる。
Rxは、単位度で示される角度であって、磁場擬似ベクトルの、好ましくはX軸である直交する1つの軸を中心とする回転による変換を有効化して前記磁場擬似ベクトルを位置合わせし、よって、前記擬似ベクトルは、その等法線投影と略同一平面となる。
【0048】
θ
xは、X軸を中心として測定される実際の回転角(単位度)であり、よって、
【数9】
であり、かつ、
【数10】
である。
【0049】
上式において、c1~c5は、各システム毎に計算される定数であり、かつとりわけ、
前記第1の磁力計(m1)と前記第2の磁力計(m2)との相対的空間位置、
前記第1および第2の磁力計の物理的特性、
略円板形の直径方向単一双極子磁石の磁場生成能力、
略円板形の直径方向単一双極子磁石のサイズ、
距離d、および、
その他、適切と思われる任意選択のパラメータ、
を考慮した定数である。
【0050】
因数または定数c1~c5は、次のように決定することができる。
磁場の値の代表的な部分集合について、データセットを生成する。データは、様々な代表的距離dについて生成される。このようなデータ生成シミュレーションでの使用に適するシミュレーションソフトウェアプログラムまたはライブラリは、Infineonが提供する「3D磁気センサ設計ツール」として知られるものであり、ウェブページ、URL:http://design.infineon.com/3dsim/#/からアクセス可能である。
【0051】
Rxを、シミュレーション毎にθxの関数として近似し、これにより、投影される各磁場ベクトルの法線間の差を等法線投影に対して最小化する。
【0052】
R
xを、各距離dのθ
x値についてモデリングし、d
i、θ
xiおよびR
xiの値セットを得る。以下に示す値は、ある特定のシステムに関する、単に例示を目的とするものである。
【表1】
ここで、R
xは、次のようにモデリングすることができる。
【数11】
ここで、
【数12】
である。
【0053】
Vadjustは、シミュレーションによって得られる近似されたRx値と、システムによって計算されるRx値との誤差を最小化するための調整変数である。
【0054】
上記から、因数c1~c5について次のような属性を作成することができる。
c1=p1
c2=Vadjust
c3=p2-p1
c4=p4-p3
c5=p3
【0055】
本発明によるシステムで使用するc1~c5の値の適切な例は、次の通りであり得る。
c1=-2.31864756900365
c2=175.72
c3=0.105103250465988
c4=25.2
c5=22.16
【0056】
別の実施形態において、一体式処理ユニットは、読み取り誤差の計算への拡大を回避する手助けをするために、処理中に得られるRx値を制限すべく低いカットオフ値、および高いカットオフ値を適用するように構成される。これは、例えば、機能システムの動作限界において、低いカットオフ、および高いカットオフとして各々min(θx)およびmax(θx)等の関数を用いることにより実現することができる。
【0057】
本発明のさらなる実施形態において、投与量制御システムは、さらに、一体式制御ユニットからの情報のリモートおよび/またはローカルデータ処理システムへの通信を可能にするように構成される通信手段を備える。
【0058】
本発明のさらに別の実施形態において、リモートおよび/またはローカルデータ処理システムは、スマートフォンアプリケーションを含む。
【0059】
本発明のさらに別の実施形態において、投与量制御システムは、さらに、リモートおよび/またはローカルデータ処理システムへ通信される一意の識別子を含む。
【0060】
本発明の別の実施形態において、投与量制御システムは、さらに、温度検出手段を備える。
【0061】
本発明の別の実施形態において、投与量制御システムは、さらに、時間決定手段を備える。
【0062】
本発明のさらなる実施形態において、投与量制御システムは、さらに、自律電源手段を備える。
【0063】
本発明のさらに別の実施形態において、前記投与量制御システムは、市販の注射可能な薬物送達デバイスと比較して、前記薬物送達システムの妨げられない、または変わらぬ操作方法を許容するように構成される。
【0064】
本発明のさらに別の実施形態では、本明細書において略説明されかつ例示されている投与量制御システムにおいて投与量設定を計算するための方法が提供され、前記方法は、
-回転可能な略円板形の直径方向単一双極子磁石により生成される磁場(CM)を、前記磁石の回転軸に対して変位される軸方向アラインメントで配置される少なくとも第1の磁力計(m1)および第2の磁力計(m2)によって測定するステップと、
-結果的に生じる磁場擬似ベクトル(CR)を計算するステップと、
-任意選択により、前記測定された磁場CMm1およびCMm2を補正するステップと、
-前記磁場擬似ベクトルについて、投影の等法線平面に対する回転角を計算するステップと、
-前記回転角を有する前記磁場擬似ベクトルを変換して、回転および投影により、等法線が補正された磁場擬似ベクトル(CR2)を生成するステップと、
-前記補正された等法線磁場擬似ベクトルから、前記回転軸を中心とする前記磁石の回転角を計算するステップとを含む。
【0065】
上記方法のさらに別の実施形態において、前記方法は、さらに、前記回転軸に沿った前記磁石の平行移動された位置に対応する前記磁石の法線上の基準位置を計算することを含む。
【0066】
本発明の様々な実施形態において述べているように、投与量制御システムは、薬物送達デバイスの投与量ホイールセレクタへ取り外し可能に取り付け可能な、またはこれへ永久的に固定される略円板形の直径方向単一双極子磁石を備える。このような磁石により生成される磁場は、前記磁石の周りに既知の方法で空間的に広がり、かつこの磁場は、適切に設けられる磁場測定手段によって測定されることが可能である。本発明のさらなる説明に関連して理解されるであろうが、この磁場は、角回転位置、および任意選択によりさらに、効果的には、本事例では薬物送達デバイス本体の長手方向軸に沿っている法線に沿った位置、を計算するために使用される。この角回転位置または任意選択によりかつ効果的には法線が、本発明のシステムにより提供されるような精度で知られると、前記システムは、略円板形の直径方向単一双極子磁石が回転動作可能式に前記投与量セレクタホイールの近位端に位置合わせされる、または前記投与量セレクタホイールへ取り付けられるという事実に起因して、投与量セレクタホイールの対応する投与量設定を計算し、かつ効果的には、前記値をユーザ、医療専門家、またはローカルまたはリモートコンピュータ、サーバ、分散型データ記憶設備等のローカルまたはリモートデータ処理システム、または他の形式のデジタルデータ記憶装置および通信設備へ通信することができる。
【0067】
磁場を生成するための手段は、例えば、古典的な磁石、電磁石、混合材料磁石といった様々なものが知られている。このような磁石は、典型的には、生来的であるか、または電気的または他のエネルギーフローが前記材料を横断しまたはこれに影響を与えて前記材料内に磁場を生成または誘導するかに関わらず、磁気特性または常磁性特性を有する磁化可能材料から作られる。適切な材料は、以下から適切に選択されることが可能である。
-例えば鉄、酸素およびストロンチウムの結晶化合物を含む、フェライト磁石、特に、焼結フェライト磁石、
-熱可塑性マトリクスおよび等方性ネオジム-鉄-ホウ素粉末からなる複合材料、
-熱可塑性マトリクスおよびストロンチウム系ハードフェライト粉末で構成される複合材料。これにより、結果的に生じる磁石は、等方性、すなわち非配向性の、または異方性、すなわち配向性のフェライト粒子を包含することができる、
-熱硬化性マトリクスおよび等方性ネオジム-鉄-ホウ素粉末で製造される複合材料、
-例えば、合成ゴムまたはPVCと混合された重荷電ストロンチウムフェライト粉末で製造され、その後、所望される形状に押し出されるか、カレンダ掛けして微細シートにされる磁性エラストマー、
-概して茶色いシートの外観を有し、かつその厚さおよびその組成に依存して多かれ少なかれ柔軟であるカレンダ掛けされた軟質複合材。これらの複合材は、決してゴムのような弾性ではなく、60~65Shore D ANSI範囲のショア硬度を有する傾向がある。このような複合材は、概して、ストロンチウムフェライト粒子が充填された合成エラストマーから形成される。結果的に生じる磁石は、異方性または等方性である可能性があり、シートの多様性は、概してカレンダ掛けに起因する磁性粒子のアラインメントを有する、
-概して上述のような軟質複合材を含む、軟鉄極板で相互に積層されるラミネート複合材、
-ネオジム-鉄-ホウ素磁石、
-アルミニウム-ニッケル-コバルト合金で製造され、かつ磁化された鋼、
-サマリウム・コバルト合金。
【0068】
本発明において実装される略円板形の直径方向単一双極子磁石での使用に適する磁場生成手段の上記リストのうちでは、ネオジム-鉄-ホウ素永久磁石が好ましい。このような磁石は、比較的高い磁場の強さを保全しながら、比較的小さいサイズで寸法決めされるその能力が知られている。本発明において実装される略円板形の直径方向単一双極子磁石の絶対磁場強さは、本発明によるシステムの機能の補正にとって必須ではないが、磁石の磁場強さおよび磁場測定手段の位置合わせの双方は、第1の磁場測定手段で測定される値と第2の磁場測定手段で測定される値との間に少なくとも100マイクロテスラ(μT)の差が存在するように構成されることが好ましい。
【0069】
「略円板形」という言い回しは、磁石が、円形、楕円形または任意の適切な多角形でもあり得る、単に単一双極子、言い替えれば、直径方向に対向する1対のN磁極およびS磁極を有する一般的な円板形状を定義すると理解されるべきである。先に指摘したように、本発明において使用される磁石は、略円板形であるが、このような略円板形には、円板の略中心にオリフィスを有していてリングまたは環状形の磁石を形成する磁石も含まれ得る。
【0070】
本発明の磁石は、薬物送達システムの長手方向軸を中心とする軸方向回転を実行し、かつ任意選択により前記長手方向軸に沿って平行移動するように構成される。回転変位は、投与量セレクタホイールの回転変位と一致し、つまりは、磁石が長手方向軸を中心にして回転すると、前記投与量セレクタホイールが同じ方向に回転する。概して、投与量セレクタホイールは、薬物送達デバイス本体の内部穴を横断する駆動シャフトまたは親ねじへ取り付けられる。このような投与量セレクタホイールを装備する薬物送達デバイスに概して当てはまるように、この磁石は、投与量セレクタホイールと共に長手方向へ、すなわち、注射されるべき投与量を増やす場合に、薬物送達デバイスの本体の近位端から近位方向へ、および投与量が減らされる場合に、デバイスの長手方向軸に沿って遠位方向にデバイスの近位端へ向かって戻る長手方向の反対方向へ、の双方で離れるように平行移動することができる。任意選択の、かつ効果的な実施形態では、このような構成において、システムは、長手方向軸に沿った移動距離を計算することもできる。別の実施形態において、投与量セレクタホイールは、長手方向の平行移動を実行するように構成されず、つまり、投与量セレクタホイールは、単に長手方向軸を中心にして回転するように構成され、かつこの回転移動は、時計回りまたは反時計回りに関わらず、選択される投与量を定義する。本発明による投与量制御システムは、元来、これらの構成のいずれにおいても適切に機能するように構成される。
【0071】
さらに、磁場生成手段は、本発明によるこのような投与量制御システムのない薬物送達デバイスに比較して、磁場測定手段によって検出されるべき十分な磁場を提供するように寸法決めされ、よって、正常な動作におけるユーザの薬物送達デバイスの使用を妨げる。
【0072】
本発明による投与量制御システムには、少なくとも第1および第2の磁場測定手段が存在し、略円板形磁石により生成される磁場を測定するように構成される。少なくとも第1および第2の磁場測定手段は、注射可能な薬物送達デバイスを介して投与するためにどの投与量が選択されているかを正確に決定すべく、略円板形磁石の回転運動および任意選択により平行移動運動により生成される磁場を測定し、磁場生成手段の角回転位置を正確に計算するために使用される。任意選択により、かつ効果的には、このようなシステムは、薬物送達デバイス本体の長手方向軸に沿った特定の基準点の平行移動位置を計算するために使用されることも可能であり、前記基準点は、投与される用量、システムのゼロ点、プライミング点または初期設定点、注射開始点および/または注射点と相関するために使用されることが可能である。
【0073】
回転角位置を決定するために磁場を測定する手段は、当技術分野で周知である。例えば、磁気抵抗器は、周知の手段であり、そのうちの一部は、先行技術システムに使用されている。このような磁気抵抗器は、これらのセンサコンポーネントが機能する物理的機構を指す略語を使って、例えばAMR、GMR、TMRセンサと呼ばれることが多い。巨大磁気抵抗(GMR)は、交互する強磁性および非磁性導電層で構成される薄膜構造体において観察される量子力学的磁気抵抗効果である。異方性磁気抵抗、すなわちAMRは、電気抵抗の、電流の方向と磁化の方向との間の角度に対する依存性が観察される材料に存在すると言われている。トンネル磁気抵抗(TMR)は、薄い絶縁体で分離される2つの強磁性体からなるコンポーネントである磁気トンネル接合(MTJ)において生じる磁気抵抗効果である。これらの様々な特性を用いる抵抗器は、それ自体が既知である。
【0074】
上記に鑑みて、本発明の投与量制御システムは、好ましくは、磁力計を用い、かつ好ましくは、少なくとも第1および第2の磁力計を用いる。これらの磁力計は、磁場の強さを直に測定するという点で、GMR、AMRまたはTMRセンサとは異なる。磁力計は、磁場を主に2つの方法で測定し、すなわち、ベクトル磁力計は、磁場のベクトル成分を測定し、全磁場磁力計またはスカラ磁力計は、ベクトル磁場の大きさを測定する。別のタイプの磁力計は、絶対磁力計であり、これは、磁気センサの内部較正または既知の物理定数を用いて絶対量またはベクトル磁場を測定する。相対磁力計は、固定的な、但し較正されていないベースラインに対する大きさまたはベクトル磁場を測定し、かつバリオメータとも呼ばれて磁場の変動を測定するために使用される。
【0075】
本発明による投与量制御システムにおける使用に適する、かつ好ましい磁力計は、超低電力高性能の3軸ホール効果磁力計である。磁力計は、互いに垂直または直交する3軸に渡る磁場を測定するように構成されることが可能であるとはいえ、磁場測定手段は、直交する3軸のうちの2つのみ、例えばX軸およびZ軸のみに渡って磁場を測定するように構成されることも好ましく、これにより、Y軸は、本発明の例示的なシステムにおいて、薬物送達デバイス本体の長手方向軸と同軸であり、よって、前記軸上の基準点位置に関して先に示したように、投与量セレクタホイールの前記長手方向軸に沿った平行移動動作に関連する距離の測定値をそれに沿って計算することができる法線に一致する。
【0076】
また、投与量制御システムは、効果的には、磁場測定手段へ連結される、磁場測定手段から受信される情報を処理するための一体式制御ユニットも備える。この一体式制御ユニットは、例えば、適切な寸法の、例えば長さ約45mm、幅15mm、深さ1.5mmのプリント基板上へ取り付けることができる。一体式制御ユニットは、投与量制御システムの異なる電子コンポーネント間の全ての電気通信およびシグナル伝達を処理する。また、一体式制御ユニットは、投与量管理システムの実行、および磁石の正確な位置ロケーションが計算されかつ決定されることを可能にする計算、ならびに、自律電力手段および通信手段からの信号の、例えばスマートフォン上のローカルまたはリモートデータ処理システムを使用する処理も担当する。一体式制御ユニットは、一体式制御ユニットを含む現在の他の電子デバイスと同様にして、初回使用時に遠隔的にプログラムされ得、または情報および更新を受信することができる。このような一体式制御ユニットは、それ自体が既知であって、多くの場合、中央処理装置、リアルタイムクロック、1つまたは複数のメモリストレージシステム、および任意選択により通信システムまたは通信サブシステムを、他の所望されるコンポーネントと共に統合する。
【0077】
本発明の投与量制御システムは、薬物送達デバイスの本体に取り外し可能に取り付けられるだけでなく、磁場の測定を介して角度位置または任意選択により、効果的には法線の計算を正確に提供することもでき、これにより、薬物送達デバイス自体の本体内に、かつ薬物送達デバイス本体の長手方向軸と同軸に、または前記長手方向軸に近接して全てのコンポーネントを配置する必要なしに、対応する選択された投与量を計算する投与量制御システムを提供することにより、過去のソリューションとの明確な決別を示す。実際に、本発明の投与量制御システムは、出願人が、現在市販されている様々な異なる薬物送達デバイス、具体的には、患者による自己治療用に現時点で流通されているペン型インスリン自己注射器、但しこれに限定されない、によって使用され得る、取り外し可能に取り付けることができるシステムを提供することを可能にしている。
【発明を実施するための形態】
【0078】
次に、
図1を参照すると、本発明による投与量制御システム(1)のコンポーネントの略図が表示されている。このような投与量制御システムは、例えば、一体式制御ユニット(2)を備え、一体式制御ユニット(2)は、例えばプリント基板上に、または上に様々なコンポーネントが互いに連結されて搭載される等価物上に搭載される。一体式制御ユニット(2)は、それ自体が既知であるように、シリコンまたはこれに類似するものに刻まれる、またはエッチングされる回路で構成される可能性もある。実際には、所望されれば、当技術分野で周知であるように、投与量制御システム全体をシリコンまたは他の類似する半導体材料の単一ブロックまたは複数の相互接続されたブロックに彫り込むことも可能である。一体式制御ユニット(2)は、システムの様々なコンポーネント間の信号および通信の処理および管理を担当し、かつシステム内に記憶される、または前記システム上で遠隔的に動作可能なプログラムコードの計算および実行も担当する中央処理装置(CPU、3)を備える。一体式制御ユニット(2)は、さらに、投与量制御システム内で時間を刻みかつ測定するためのリアルタイムクロック(RTC、4)を備えることができる。リアルタイムクロック(RTC、4)は、システム内の様々なイベントの時間および時間差を計算するために、中央処理装置(CPU、3)がエネルギーを供給される間に、例えば、周波数測定を用いて中央処理装置(CPU、3)へ直に統合されることも可能である。投与量制御システムは、また、好ましくは、通信サブシステム(COM、5)、例えば低電力消費ブルートゥース無線デバイス、も装備し、この通信サブシステムは、投与量制御システムがローカルまたはリモートデータ処理システム(不図示)、例えば投与量制御システムの使用に関する情報およびフィードバックをユーザへ提供するために使用されるPC、サーバ、分散型データストレージまたは他のデジタルデータストレージ設備、もしくはスマートフォンおよび対応するスマートフォンアプリケーションとも通信できるようにする。さらに、システムは、好ましくは、一時的であれ永続的であれシステム内に情報を記憶するための何らかの形式のメモリストレージ(MEM、6)も有し、前記情報は、様々なソースから着信し、システムの他のエンドポイントから測定または決定される値または信号、中央処理装置(CPU、3)により計算または記憶される値、スマートフォン等のリモートまたはローカルデータ処理システムから受信される値またはデータ、システム較正のための工場設定値、デバイスを一意に識別する一意の識別子手段またはデータ、およびこれらに類似するものを含む。このようなメモリストレージシステム(MEM、6)は、当業者にそれ自体が既知である。
【0079】
一体式制御ユニット(2)、ひいては、中央処理装置(CPU、3)は、少なくとも第1の磁力計(MGR、8A)および第2の磁力計(8B)とも通信する。図示されているように、磁力計(MGR、8A、8B)は、中央処理装置(CPU、3)へも接続される。これらのコンポーネントは、略円板形の直径方向単一双極子磁石(MAG、9)により生成される磁場の測定を担当し、前記磁石(MAG、9)は、磁力計(MGR、8A、8B)と可動式に離隔された関係性にあって、薬物送達デバイス本体(不図示)の軸とも同軸である回転軸7を示す。磁力計は、複数の軸、例えば1つ、2つ、3つまたはそれ以上の軸に沿って磁場を測定することができるが、測定は、好ましくは、X軸、Y軸およびZ軸として示される3軸に沿って行われる。
図1のスキーマにおいて、Y軸は、磁石(MAG、9)の回転軸と同軸である。通常、これらの軸は、互いに垂直であって、3次元磁場測定ゾーンを提供する。少なくとも2つの磁力計(MGR、8A、8B)は、磁石(MAG、9)が、回転軸7および、ひいては、システムが搭載される薬物送達デバイス本体の長手方向軸をも中心として、あるいは前記両軸に沿う平行移動式に、のいずれかで、かつ/または両軸を中心とする回転式および両軸に沿う平行移動式の双方で変位されるにつれて磁石(MAG、9)により生成される磁場を測定できるように位置決めされる。
図1から分かるように、システムが含む2つの磁力計(MGR、8A、8B)は、回転軸7から変位されるが、回転軸7に平行であり、よって、薬物送達デバイス本体の長手方向軸に平行である。
【0080】
略円板形の直径方向単一双極子磁石(MAG、9)は、垂直に位置合わせされる3軸X、Y、Zに沿って測定される磁場を生成する。先に述べたように、磁力計(MGR、8A、8B)は、磁石(MAG、9)が回転するときだけでなく、任意選択により、効果的には、それが例えば、薬物送達デバイスの近位端へと近位方向へ、かつ前記近位端から離れて、もしくは前記近位端より遠位へかつこれに向かって平行移動動作をするときも、磁石(MAG、9)により生成される磁場を測定する。磁場変化のこの検出は、磁力計(MGR、8A、8B)と磁石(MAG、9)との電気的または電子的または物理的な接触形式なしで発生し、よってこの投与量制御システムは、非接触システムと呼ばれる。
【0081】
略円板形磁石は、薬物送達デバイス本体の近位端に位置決めされる投与量設定ホイールへ取り外し可能に取り付け可能であるか、これへ永久的に固定され、かつ本明細書に別段で詳細を記述している任意の適切な磁性材料または磁化可能材料製であってもよいが、好ましくは、ネオジム-鉄-ホウ素永久磁石である。したがって、磁石(MAG、9)は、投与量セレクタホイールを介して、薬物送達デバイス本体の長手方向軸と長手方向軸方向に位置合わせされている薬物送達デバイスの投与量セレクタシャフトへ取り付けられてもよい。磁石は、投与量セレクタホイールへ、ユーザにより回されると前記ホイールに回転運動を与えることができるようにして、取り外し可能に取り付けられるか、永久的に固定される。回転は、時計回りおよび反時計回りの両方向に発生し得る。磁石は、各々が略円板形磁石の半分または半球部を略構成する2つの対向する極を有する。磁石が回転するにつれて、薬物送達デバイス本体の長手方向軸を中心にして対向する両極も回転する。システムは、任意選択により、ゼロ点式にされることが可能であり、すなわち、磁石が最初に投与量セレクタホイールへ取り付けられた際に生成される磁場を測定することによって、ゼロ点基準を取得することができる。投与量制御システムは、概して、工場または製造ユニットにおいて、磁力計の基本較正を含み事前に較正される。ゼロ点基準が取得されれば、これを、中央処理装置(CPU、3)を介してメモリ(MEM、6)に記憶することができる。投与量セレクタホイールの平行移動動作が許容されていれば、任意選択により、かつ所定のタイプの注射器ペン薬物送達デバイスの場合、最初の初期設定時に、この任意選択のベース基準またはゼロ点磁場を、薬物送達デバイスの近位端に最も近い、かつそれを超えて投与量セレクタホイールが遠位方向へさらに回転できない磁石(MAG、9)の平行移動位置に一致するように設定することができる。ユーザが磁石(MAG、9)を許容される回転方向に回すと、投与量セレクタホイールが適宜回転し、磁石および投与量セレクタホイールは、薬物送達デバイス本体の近位端から離れて長手方向の近位方向へ、但し、概してデバイスの長手方向軸に沿って移動する。ユーザが磁石(MAG、9)および対応する投与量セレクタホイールの回転を停止すると、磁力計(MGR、8A、8B)は、例えば、その距離において磁石により生成される磁場を測定することができる。各磁力計における磁場測定値は、一体式処理ユニット(CPU、3)によってベクトルおよびモジュラスを含む数学的成分に分解されることが可能であり、これから回転の角度位置が計算され、磁力計(MGR、8A、8B)に対する磁石の角度位置および距離の極めて正確な決定が見込まれる。この回転角および距離から、例えば、正確な選択される投与量を計算することができる。投与量制御システムにより計算される投与量値は、好ましくは、システム内に記憶され、あるいは、PC、サーバ、クラウドサービス、分散デジタルストレージまたはスマートフォン等のリモートデータ処理またはストレージユニットに記憶され、ここで、長手方向軸に沿って許容される磁石(MAG、9)の移動および回転の最大距離および最小距離は、薬物送達デバイスにより許容される最大および最小投与量に対応する。この方法において、投与量制御システムは、薬物送達デバイスの通常の操作方法を中断または変更することなく、磁石(MAG、9)のあらゆる所与の回転および任意選択により平行移動動作点において、ユーザに、ユーザが選択する投与量の正確な表示を提示することができる。好ましくは、投与量制御システムは、長手方向軸を中心にして0.01゜以上の磁石角回転に等しい分解能を有するが、先に述べたように、様々なコンポーネントの分解能および感度は、類似方法で機能するあらゆる薬物送達デバイスに対応するように構成されることが可能である。
【0082】
図1には、電源(POW、10)も示されていて、これは、概して、携帯式の自律電源であり、例えばデバイスが直に操作されていないときでもシステム全体に十分な電力を供給できる、例えば1つまたは複数のバッテリまたは再充電可能な電力素子である。一体式制御ユニット(2)は、さらに、前記自律電源の寿命を最大化するために、システムおよびそれが含む様々なコンポーネントへの電源電圧を調整する電力管理ユニットも備えることができる。電源は、投与量制御システムをユーザによって休眠状態またはスリープ状態から起動できるようにするユーザ起動式ウェイクアップボタン(WAK、11)とも通信することができる。
【0083】
投与量制御システムは、さらに、検出されるイベントまたは状況による、かつ中央処理装置(CPU、3)により管理されるデバイスのステータスを表示する、例えばLEDである発光信号(LIG、12)、例えば、各色が投与量制御システムの所定の状態または状況に対応する緑、赤、青および白の発光も含むことができる。
【0084】
さらなる実施形態において、投与量制御システムは、中央処理装置(CPU、3)と通信するアラーム(ALA、13)システムも備えることができ、これは、例えば、システムが機能不全に陥った場合、または注射に失敗した場合、またはシステム内で検出される他の適切な状況またはイベントに関して、可聴アラームを発するように構成されることが可能である。
【0085】
図2Aは、磁場生成手段15および磁場測定手段16が薬物送達デバイス本体の長手方向軸17、本図ではY軸、に沿って同じ場所に配置される、薬物送達本体14を有する仮想理想的な薬物送達デバイスを示す略図である。本図には、略円板形の直径方向単一双極子磁石15のN極およびS極も示されている。磁場測定手段16、例えば磁力計は、デバイスの本体14内に、長手方向軸17に近接しかつ長手方向軸17と軸方向にアラインされて位置決めされる。デバイスは、駆動ロッド18、および駆動ロッドに接続される、長手方向軸17を中心にして回転しかつ前記軸に沿って平行移動することができる投与量セレクタホイール19も有する。磁石15は、投与量セレクタホイール19に付着され、よって、磁石15も長手方向軸の周りを回転することができる。磁力計16と一直線にあってデバイスの本体14を切断するように見える偏菱形の点線は、磁場の測定が行われる平面を表す。
【0086】
図2Bは、
図2Aに類似する略図であるが、主たる相違は、このスキーマが実世界のシステムを表していて、磁場測定手段が、磁場生成手段の軸から遠位に、かつ前記軸に対して非軸方向にアラインされ、しかも前記軸および薬物送達デバイス本体の長手方向軸に平行に位置決めされることにある。この略図では、理解を容易にするために、単一の磁力計16Aだけが示されている。既に
図2Aにおいて識別されている様々なエレメントに加えて、測定および計算対象双方の様々な磁場および対応する等法線投影を表す幾つかの破線および矢印も見ることができる。21で参照される矢印は、測定された磁場ベクトルの等法線平面22上への投影である。24で参照される矢印は、測定された磁場ベクトルに対応し、23で参照される矢印は、この矢印を等法線投影平面26上へ投影すべく投影した、すなわち補正した、後の磁場24および21の回転によって計算された擬似磁場ベクトルに対応する。単位度で与えられる角R
xは、合成磁場ベクトルCRを、この合成磁場ベクトルCRがその等法線投影平面26と同一平面になるように位置決めし直すべく、X軸を中心とした回転によって変換するために印加される角度である。同じく
図2Bに示されている角θ
xは、X軸を中心にして測定される磁場の角度(単位度)を表す。
【0087】
先に述べたように、かつ
図2Aをよりよく理解するためにここで繰り返すと、各距離dについて、X軸を通る平面が存在し、よって、前記平面と同一平面上にある磁場の平面XZに沿った投影は、磁石の回転角に関わりなく、かつ前記回転角とは独立して、全て等法線である。この平面は、等法線投影平面として知られる。この計算は、次のように表すことができる。
R
xは、単位度で示される角度であって、磁場擬似ベクトルの、好ましくはX軸である直交する1つの軸を中心とした回転による変換を有効化して前記磁場ベクトルを位置合わせし、よって、前記擬似ベクトルは、その等法線投影平面と略同一平面となる。
【0088】
θ
xは、X軸を中心として測定される実際の回転角、(単位度)であり、よって、
【数13】
であり、かつ、
【数14】
である。
【0089】
上式において、c1~c5は、各システム毎に計算される定数であり、かつとりわけ、
前記第1の磁力計(m1)と前記第2の磁力計(m2)との相対的空間位置、
前記第1および第2の磁力計の物理的特性、
略円板形の直径方向単一双極子磁石の磁場生成能力、
略円板形の直径方向単一双極子磁石のサイズ、
距離d、および、
その他、適切と思われる任意選択のパラメータ、
を考慮した定数である。
【0090】
因数または定数c1~c5は、次のように決定することができる。
磁場の値の代表的な部分集合について、データセットを生成する。データは、様々な代表的距離dについて生成される。このようなデータ生成シミュレーションでの使用に適するシミュレーションソフトウェアプログラムまたはライブラリは、Infineonが提供する「3D磁気センサ設計ツール」として知られるものであり、ウェブページ、URL:http://design.infineon.com/3dsim/#/からアクセス可能である。
【0091】
Rxを、シミュレーション毎にθxの関数として近似し、これにより、投影される各磁場ベクトルの法線間の差を等法線投影に対して最小化する。
Rxを、各距離dのθx値についてモデリングし、di、θxiおよびRxiの値セットを得る。以下に示す値は、ある特定のシステムに関する、単に例示を目的とするものである。
【0092】
R
xおよびθ
xについては、上記モデルに関する下記のサンプルデータ値を使用可能である。
【表2】
ここで、R
xは、次のようにモデリングすることができる。
【数15】
ここで、
【数16】
である。
【0093】
Vadjustは、シミュレーションによって得られる近似されたRx値と、システムによって計算されるRx値との誤差を最小化するための調整変数である。
【0094】
上記から、因数c1~c5について次のような属性を作成することができる。
c1=p1
c2=Vadjust
c3=p2-p1
c4=p4-p3
c5=p3
【0095】
本発明によるシステムで使用するc1~c5の値の適切な例は、次の通りであり得る。
c1=-2.31864756900365
c2=175.72
c3=0.105103250465988
c4=25.2
c5=22.16
【0096】
図3は、本発明によるシステムをセットアップして用いることができる1つの好ましい方法、言い替えれば、補正された磁場ベクトルに対応する投与量設定を計算するための方法、を略示するフローチャートである。任意選択である最初の3ステップでは、磁場測定手段、本例では磁力計m1およびm2、が、まず、直交する3軸x、yおよびzの全てに沿った全方向で定磁場に曝されることによって初期化され、各磁力計について、測定された基準値の配列が生成される:
【数17】
次に、各測定値について、オフセットまたは感度因数が計算され、
【数18】
が得られる。
【0097】
次に、これらのオフセット因数を用いて、測定された磁気値のオフセット、
【数19】
および、
【数20】
が計算される。
【0098】
これらのオフセット値は、システム内、例えば一体式処理ユニットへ接続されるメモリストレージに、または一体式処理ユニットのレジスタ内に記憶される。磁場のオフセットの計算ステップについては、適切な磁力計を用いれば、こうした磁力計は、このような計算を考慮に入れて工場設定され得るという理由で、これを任意選択にすることも可能である。
【0099】
投与量制御システムが起動されると、磁石が回転されかつ/または平行移動され、かつその間に磁場を生成し、3次元空間におけるその座標値が第1および第2の磁力計m1およびm2によって測定され、上記のように、値の配列、
【数21】
が得られる。
【0100】
m1およびm2について測定される値は、任意選択により、先に生成されるオフセット値を包含することによって、かつ磁力計の空間的方向性を考慮することによって補正されることが可能である。
【数22】
【0101】
次に、投影の等法線角度が、次式、
【数23】
および、
【数24】
を用いて計算される。
【0102】
本方法では、
図3に示すように、特に軸x、yおよびzに近い値が読み取られる場合、逆正接関数atanおよびatan2の使用に基づく読み取り誤差を回避するために、任意選択のカットオフ計算ステップも包含されることが可能である。この目的に沿って、かつ計算を介するこのような誤差の増幅を回避するために、R
xは、下限および上限、各々RX
lowおよびRX
high、で切除される。このようなカットオフ値は、好ましくは、機能システムの動作限界において、各々関数min(θx)およびmax(θx)を介して取得することができる。
【0103】
磁場擬似ベクトルCRは、投影の等法線投影平面内に収まるように、X軸を中心に回転され、次のようにCR2が生成される。
【数25】
【0104】
次に、CR2の値を用いて、磁石の回転角、および付随的に法線が、XZ平面上への投影により、次のように計算される。
【数26】
次いで、これを用いて、法線を次式のように計算することができる。
【数27】
【0105】
したがって、このような計算は、こうした情報がデバイスの動作にとって適切または必要である場合、薬物送達デバイスの長手方向軸に沿った正確な位置の決定も可能にする。