(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に対する特異性を有する抗体及び診断目的のためのその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/10 20060101AFI20240315BHJP
G01N 33/576 20060101ALI20240315BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240315BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240315BHJP
【FI】
C07K16/10 ZNA
G01N33/576 Z
C12M1/34 F
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2021500401
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2019068338
(87)【国際公開番号】W WO2020011752
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-04-01
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】595070257
【氏名又は名称】アンスティトゥー パストゥール ド リール
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】518338518
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】コックレル-ディプロイ,ロランス
(72)【発明者】
【氏名】モンペリエ,クレール
(72)【発明者】
【氏名】デュブイッソン,ジャン
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-509692(JP,A)
【文献】特開2013-226136(JP,A)
【文献】C. Montpellier, et al.,Gastroenterology,2018年,Vol.154,p.211-223
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に結合する抗体であって、E型肝炎ウイルスのORF2gタンパク質にもORF2cにも結合せず、前記抗体のエピトープが、配列番号1のアミノ酸残基10~23(配列番号4)のアミノ酸残基を含み、
ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、抗体。
【請求項2】
Fab’、Fab、F(ab’)2、scFv又は単一ドメイン抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
検出可能な標識とコンジュゲーションされている、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記検出可能な標識が、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識又は生物発光標識である、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
前記標識が、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish perodixase))及びアルカリホスファターゼからなる群より選択される、請求項3に記載の抗体。
【請求項6】
サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を決定するための、請求項1に記載の抗体の使用。
【請求項7】
サンプル中のORF2iタンパク質の存在を検出するための方法であって、前記サンプルを請求項1に記載の抗体と、前記タンパク質及び抗体の免疫複合体が形成することを可能にする条件下で接触させることを含み、前記免疫複合体の検出が、前記サンプル中の前記ORF2iタンパク質の存在を示す、方法。
【請求項8】
サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を検出するための方法であって、前記サンプルを請求項1に記載の抗体と、前記抗体及び前記感染性粒子の免疫複合体が形成することを可能にする条件下で接触させることを含み、前記免疫複合体の検出が、前記サンプル中の前記感染性粒子の存在を示す、方法。
【請求項9】
前記サンプルが、糞便、血液、腹水;尿;唾液;汗;ミルク;滑液;腹腔液;羊水;脳脊髄液;リンパ液;肺塞栓;脳脊髄液;及び心嚢液からなる群より選択される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
急性HEV感染
、慢性HEV感染、弱活動性HEV感染又は除去されたHEV感染を診断するための
データを提供するための請求項1に記載の抗体の使用。
【請求項11】
サンプル中の感染性E型肝炎ウイルス粒子の存在を同定するためのキット又はデバイスであって、固体支持体上に固定化された又は固定化されていない少なくとも1つの請求項1に記載の抗体を含む、キット又はデバイス。
【請求項12】
フローイムノアッセイデバイスである、請求項11に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野:
本発明は、E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に対する特異性を有する抗体及び診断目的のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景:
E型肝炎ウイルス(HEV)は毎年2000万件の感染症の原因であり、症候性症例は340万件であり、世界の発展途上地域で主に発生する死亡は70,000件である。それは、水媒介の発生として、又は糞口経路を介した散発性症例として急性肝炎を引き起こす(Debing Y, Moradpour D, Neyts J, et al. Update on Hepatitis E Virology:Implications for Clinical Practice. Journal of Hepatology 2016;65:200-212)。HEVによる感染は通常は自己解消性であるが、主に免疫不全患者では、重症型又は慢性感染が記載されている。妊婦の間では、高い死亡率も報告されている。HEV感染はまた、肝外障害に関連している(Pischke S, Hartl J, Pas SD, et al. Hepatitis E virus infection beyond the liver? Journal of Hepatology 2016. 10.1016/j.jhep.2016.11.016)。ヒトでは、4つの遺伝子型(gt)が病原性である。gt1及びgt2はヒトにのみ感染するのに対して、gt3及びgt4は人獣共通感染症であり、哺乳動物に主に感染するが、ヒトに伝播することもある。最近、おそらくは汚染食品の消費及び輸血により、西欧諸国ではgt3感染が発生している(Debing Y, Moradpour D, Neyts J, et al. Update on Hepatitis E Virology:Implications for Clinical Practice. Journal of Hepatology 2016;65:200-212)。E型肝炎の診断は、患者血清中の抗HEV抗体及び/又はウイルスRNAの検出に基づいている(Khuroo MS, Khuroo MS. Hepatitis E: an emerging global disease - from discovery towards control and cure. Journal of Viral Hepatitis 2016;23:68-79)。最近、特に分子診断施設を有しない研究所のために、HEV抗原カプシドタンパク質の検出に基づく新たなアッセイが開発された(Wantai Biologicals)。
【0003】
HEVは、3つのオープンリーディングフレーム(ORF)、すなわちORF1、ORF2及びORF3を含有する線状一本鎖プラス鎖RNAゲノムを含有する準エンベロープウイルスである(Debing Y, Moradpour D, Neyts J, et al. Update on Hepatitis E Virology:Implications for Clinical Practice. Journal of Hepatology 2016;65:200-212)。ORF1は、ウイルス複製に必須のいくつかの機能ドメインを含有する非構造ポリタンパク質(ORF1タンパク質)をコードする最大遺伝子である。ORF2は、粒子の集合、宿主細胞への結合及び中和抗体の誘発に関与するORF2ウイルスカプシドタンパク質をコードする。ORF3は、ビリオン形態形成及び放出に関与する小さな多機能リンタンパク質をコードする。胆汁及び糞便では、HEVは非エンベロープウイルスであるが、患者血清及び細胞培養生産粒子は、細胞脂質に会合し、それらの表面においてORF3タンパク質をディスプレイすることが記載されている(Okamoto H. Culture systems for hepatitis E virus. J Gastroenterol 2012;48:147-158)。
【0004】
最近、3つの異なる形態のORF2カプシドタンパク質が同定された:感染性/細胞内ORF2(ORF2i)、グリコシル化ORF2(ORF2g)及び切断ORF2(ORF2c)(Montpellier C., et al. “Hepatitis E virus lifecycle and identification of 3 forms of the ORF2 capsid protein.” Gastroenterology 154.1 (2018): 211-223)。正確な配列が同定されているORF2iタンパク質は、感染性粒子に関連する形態である。ORF2iタンパク質はグリコシル化されておらず、小胞体(ER)内腔に移行せずに細胞質区画に留まる可能性がある。対照的に、ORF2g及びORF2cタンパク質は、細胞培養及び感染患者血清中に大量に分泌され、シアル化され、N-及びO-グリコシル化されるが、感染性ビリオンに関連しない。重要なことに、ORF2g及びORF2cタンパク質は、HEV感染患者の血清に存在する主な抗原である。したがって、ORF2iタンパク質に対する特異性を有する抗体は、HEVの診断に適切であろう。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に対する特異性を有する抗体及び診断目的のためのその使用に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲により定義される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の詳細な説明:
本発明の第1の目的は、E型肝炎ウイルスのORF2iタンパク質に結合する抗体であって、E型肝炎ウイルスのORF2gタンパク質にもORF2cにも結合せず、前記抗体のエピトープが、配列番号1のアミノ酸残基10~23の少なくとも1個のアミノ酸残基を含む抗体に関する。
【0007】
「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は互換的に使用され、ペプチド結合により共有結合的に連結されたアミノ酸残基から構成される化合物を指す。ポリペプチドは特定の長さに限定されない:それは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、ポリペプチドの配列を含み得るアミノ酸の最大数に制限はない。ペプチド、オリゴペプチド及びタンパク質がポリペプチドの定義内に含まれ、このような用語は、特に具体的な指示がない限り、本明細書で互換的に使用され得る。本明細書で使用される場合、この用語は、当技術分野で例えばペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーと一般的に称される短鎖と、当技術分野で一般にタンパク質と称される多くのタイプが存在するより長い鎖との両方を指す。一実施態様では、本明細書で使用される場合、「ペプチド」という用語は、ペプチド結合により互いに連結されたアミノ酸の線状ポリマーであって、好ましくは約50個未満のアミノ酸残基の鎖長を有する線状ポリマーを指し;「ポリペプチド」は、ペプチド結合により互いに連結された少なくとも50個のアミノ酸の線状ポリマーを指し;タンパク質は特に、場合によりグリコシル化された1つ以上のペプチド又はポリペプチドと、場合により非ポリペプチド補助因子とから形成される機能的実体を指す。この用語はまた、ポリペプチドの発現後改変、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化など並びに天然に存在するもの及び天然に存在しないものの両方の当技術分野で公知の他の改変を除外する。ポリペプチドは、タンパク質全体又はその部分配列であり得る。「ポリペプチド」としては、例えばとりわけ、生物学的に活性なフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変異体、改変ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が挙げられる。ポリペプチドとしては、天然ペプチド、リコンビナントペプチド又はその組み合わせが挙げられる。
【0008】
本明細書で使用される場合、「ORF2iタンパク質」という用語は、配列番号1に示されているアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むグリコシル化されていないE型肝炎ウイルスORF2カプシドタンパク質(ORF2i)を指す。
【化1】
【0009】
本発明によれば、本発明のORF2iタンパク質の質量は約80kDaである。
【0010】
本明細書で使用される場合、「ORF2gタンパク質」という用語は、配列番号2に示されているアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むグリコシル化されたE型肝炎ウイルスORF2カプシドタンパク質(ORF2g)を指す。
【化2】
【0011】
本発明によれば、本発明のORF2gタンパク質の質量は約90kDaである。
【0012】
本明細書で使用される場合、「ORF2cタンパク質」という用語は、配列番号3に示されているアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むグリコシル化されたE型肝炎ウイルスORF2カプシドタンパク質(ORF2c)を指す。
【化3】
【0013】
本発明によれば、本発明のORF2cタンパク質の質量は約75kDaである。
【0014】
本明細書で使用される場合、タンパク質に関して「グリコシル化された」という用語は、炭水化物部分がタンパク質分子の1つ以上の部位に存在することを意味する。特に、グリコシル化タンパク質は、典型的には、N-グリカン又はO-グリカン付加により改変されたタンパク質を指す。
【0015】
本発明によれば、第2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する第1のアミノ酸配列は、第1の配列が、第2のアミノ酸配列と90;91;92;93;94;95;96;97;98;99又は100%の同一性を有することを意味する。配列同一性は、多くの場合、同一性(又は類似性若しくは相同性)の割合の点で測定され;その割合が高いほど、2つの配列はより類似する。比較のための配列のアライメント方法は当技術分野で周知である。様々なプログラム及びアライメントアルゴリズムは、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math., 2:482, 1981; Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol., 48:443, 1970; Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85:2444, 1988; Higgins and Sharp, Gene, 73:237-244, 1988; Higgins and Sharp, CABIOS, 5:151-153, 1989; Corpet et al. Nuc. Acids Res., 16:10881-10890, 1988; Huang et al., Comp. Appls Biosci., 8:155-165, 1992;及びPearson et al., Meth. Mol. Biol., 24:307-31, 1994)に記載されている。Altschul et al., Nat. Genet., 6:119-129, 1994には、配列アライメント方法及び相同性計算の詳細な考慮事項が提示されている。例として、アライメントツールALIGN(Myers and Miller, CABIOS 4:11-17, 1989)又はLFASTA(Pearson and Lipman, 1988)は、配列比較を実施するために使用され得る(Internet Program(登録商標)1996, W. R. Pearson and the University of Virginia, fasta20u63 version 2.0u63, release date December 1996)。ALIGNは、互いに対して配列全体を比較し、LFASTAは、局所類似性の領域を比較する。これらのアライメントツール及びそれらの各指導書は、例えばインターネット上のNCSAウェブサイトで入手可能である。あるいは、約30アミノ酸を超えるアミノ酸配列の比較については、デフォルトパラメータ(ギャップ存在コスト11、1残基当たりのギャップコスト1)に設定したデフォルトBLOSUM62マトリックスを使用して、Blast 2 sequences機能が用いられ得る。(約30アミノ酸未満の)短いペプチドをアライメントする場合、デフォルトパラメータ(オープンギャップペナルティ9、伸長ギャップペナルティ1)に設定したPAM30マトリックスを用いて、Blast 2 sequences機能を使用して、アライメントが実施されるべきである。BLAST配列比較システムは、例えばNCBIのウェブサイトから入手可能である;Altschul et al., J. Mol. Biol., 215:403-410, 1990; Gish. & States, Nature Genet., 3:266-272, 1993; Madden et al. Meth. Enzymol., 266:131-141, 1996; Altschul et al., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402, 1997;及びZhang & Madden, Genome Res., 7:649-656, 1997も参照のこと。
【0016】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子を指し、この用語は、抗原結合ドメインを含む抗体フラグメント、例えばFab’、Fab、F(ab’)2及び単一ドメイン抗体(DAB)を含む。天然抗体では、2つの重鎖がジスルフィド結合により互いに連結され、各重鎖はジスルフィド結合により軽鎖に連結される。2つのタイプの軽鎖ラムダ(l)及びカッパ(k)がある。抗体分子の機能的活性を決定する5つのタイプの主な重鎖クラス(又はアイソタイプ):IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEがある。各鎖は、異なる配列ドメインを含有する。軽鎖は、可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)の2つのドメインを含む。重鎖は、可変ドメイン(VH)及び3つの定常ドメイン(CHと総称されるCH1、CH2及びCH3)の4つのドメインを含む。軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の両方の可変領域は、抗原に対する結合認識及び特異性を決定する。軽鎖(CL)及び重鎖(CH)の定常領域ドメインは、重要な生物学的特性、例えば抗体鎖会合、分泌、経胎盤移動、補体結合及びFcレセプター(FcR)への結合を付与する。Fvフラグメントは、免疫グロブリンのFabフラグメントのN末端部分であり、1つの軽鎖及び1つの重鎖の可変部分からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性にある。抗体結合部位は、主に超可変又は相補性決定領域(CDR)の残基で構成される。場合により、非超可変又はフレームワーク領域(FR)由来の残基は、ドメイン構造全体及びしたがって結合部位に影響を及ぼす。相補性決定領域又はCDRは、ネイティブ免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合親和性及び特異性を一緒に規定するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの各軽鎖及び重鎖は、それぞれL-CDR1、L-CDR2、L-CDR3及びH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3と表記される3つのCDRを有する。したがって、抗原結合部位は、各重鎖及び軽鎖V領域由来のCDRセットを含む6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDRの間に介在するアミノ酸配列を指す。
【0017】
「抗体フラグメント」という用語は、抗原のエピトープと(例えば、結合、立体障害、安定化/不安定化、空間分布により)特異的に相互作用する能力を保持するインタクトな抗体の少なくとも1つの部分、好ましくはインタクト抗体の抗原結合領域又は可変領域を指す。抗体フラグメントの例としては、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、一本鎖抗体分子、特にscFv抗体フラグメント、ジスルフィド連結Fv(sdFv)、VHドメイン及びCHIドメインからなるFdフラグメント、線状抗体、単一ドメイン抗体、例えばsdAb(VL又はVHのいずれか)など、ラクダVHHドメイン、抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体、例えばヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントなど並びに抗体の単離されたCDR又は他のエピトープ結合フラグメントが挙げられる。抗原結合フラグメントはまた、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、ナノボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR及びビス-scFvに組み込まれ得る(例えば、Hollinger and Hudson, Nature Biotechnology 23:1126-1136, 2005を参照のこと)。抗原結合フラグメントはまた、ポリペプチドベースの足場、例えばフィブロネクチンタイプIIIに移植され得る(フィブロネクチンポリペプチドミニボディについて記載する米国特許第6,703,199号を参照のこと)。抗体のパパイン消化は、「Fab」フラグメントと称される2つの同一の抗原結合フラグメントと、残りの「Fc」フラグメント(容易に結晶化する能力を表す名称)とを生じさせる。
【0018】
「Fab」という用語は、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体フラグメントであって、IgGをプロテアーゼのパパインで処理することにより得られるフラグメントのうち、H鎖のN末端側の約半分及びL鎖全体がジスルフィド結合を介して互いに結合した抗体フラグメントを表す。
【0019】
「F(ab’)2」という用語は、約100,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体フラグメントであって、IgGをプロテアーゼのペプシンで処理することにより得られるフラグメントのうち、ヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合したFabよりもわずかに大きい抗体フラグメントを指す。
【0020】
「Fab’」という用語は、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体フラグメントであって、F(ab’)2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することにより得られる抗体フラグメントを指す。
【0021】
一本鎖Fv(「scFv」)ポリペプチドは、ペプチドコードリンカーにより連結されたVH及びVLコード遺伝子を含む遺伝子融合物から通常発現される共有結合的に連結したVH:VLヘテロ二量体である。「dsFv」は、ジスルフィド結合により安定化されたVH::VLヘテロ二量体である。二価及び多価抗体フラグメントは、一価scFvの会合により自発的に形成し得るか、又はペプチドリンカーにより一価scFvをカップリングすることにより生成され得る(例えば、二価sc(Fv)2)。
【0022】
本発明によれば、本発明の抗体は、ORF2iタンパク質に対する特異性を有する。本明細書で使用される場合、「特異性」という用語は、ORF2gタンパク質及びORF2cタンパク質との比較的低い検出可能な反応性を有しながら、ORF2iタンパク質上に提示されるエピトープに検出可能に結合する抗体の能力を指す。
【0023】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体が結合するタンパク質上にあるアミノ酸の特定の配置を指す。エピトープは、多くの場合、分子の化学的に活性な表面基、例えばアミノ酸又は糖側鎖からなり、特定の三次元構造特徴及び特定の電荷特徴を有する。エピトープは線状又は立体配座的であり得、すなわち、必ずしも隣接しなくてもよい様々な抗原領域中の2つ以上のアミノ酸配列を伴うものであり得る。したがって、本発明のエピトープは、配列番号1のアミノ酸残基10~23(すなわち、配列番号4)の少なくとも1個のアミノ酸残基を含む。
配列番号4
GQPSGRRRGRRSGG
【0024】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、配列番号4の、又は配列番号4全体と少なくとも90%の同一性を共有する配列の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14個のアミノ酸残基を含むエピトープに結合する。
【0025】
一実施態様では、本発明の抗体は、配列番号4に示されているアミノ酸配列、又は配列番号4全体と少なくとも90%の同一性を共有するアミノ酸配列を含むエピトープに結合する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「結合」という用語は、例えば共有結合性、静電性、疎水性及びイオン性並びに/又は水素結合性相互作用(塩橋及び水架橋などの相互作用を含む)による2分子間の直接的な会合を指す。特に、本明細書で使用される場合、所定の抗原又はエピトープへの抗体の結合の文脈における「結合」という用語は、典型的には、約10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下、約10-10M以下又は約10-11M若しくはさらにそれ未満のKDに対応する親和性による結合である。
【0027】
特異性は、本明細書の他の箇所に記載されるように、例えばBiacore機器を使用して、結合又は競合結合アッセイにより相対的に決定され得る。特異性は、例えば、他の無関係な分子への非特異的結合と対比した特定の抗原への結合の親和性/アビディティの約10:1、約20:1、約50:1、約100:1、10.000:1又はそれを超える比により示され得る。本明細書で使用される場合、「親和性」という用語は、エピトープへの抗体の結合の強度を意味する。抗体の親和性は、[Ab]×[Ag]/[Ab-Ag](ここで、[Ab-Ag]は抗体-抗原複合体のモル濃度であり、[Ab]は未結合抗体のモル濃度であり、[Ag]は未結合抗原のモル濃度である)として定義される解離定数Kdにより得られる。親和性定数Kaは、1/Kdにより定義される。mAbの親和性を決定するための好ましい方法は、Harlow, et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1988), Coligan et al., eds., Current Protocols in Immunology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience, N.Y., (1992, 1993)及びMuller, Meth. Enzymol. 92:589-601 (1983)(これらの参考文献は、参照により全体的に本明細書に組み入れられる)に見られ得る。mAbの親和性を決定するための当技術分野で周知の1つの好ましい標準的な方法は、Biacore機器の使用である。
【0028】
いくつかの実施態様では、抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である。本明細書で使用される場合、「ポリクローナル抗体」という用語は、免疫化後に抗原に対して産生される抗血清中の複数の免疫グロブリンであって、その抗原に対する1つ以上のエピトープを認識してそれに結合し得る複数の免疫グロブリンを指す。本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」、「モノクローナルAb」、「モノクローナル抗体組成物」、「mAb」などの用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は、Kohler and Milstein (Nature, 256:495, 1975)の方法を使用して生成され得る。本発明において有用なモノクローナル抗体を調製するために、マウス又は他の適切な宿主動物(例えば、マウス、ヤギ、ラクダ・・・)を関連ウイルス抗原性形態で適切な間隔で(例えば、週2回、週1回、月2回又は月1回)免疫化する。典型的には、免疫原性形態は、配列番号1の位置10位~23(すなわち、配列番号4)のアミノ残基の範囲のアミノ酸配列を有するペプチドからなる。屠殺1週間以内に、最終「ブースト」の抗原性形態を動物に投与し得る。多くの場合、免疫化中に免疫学的アジュバントを使用することが望ましい。適切な免疫アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、ミョウバン、リビアジュバント、HunterのTiterMax、サポニンアジュバント、例えばQS21若しくはQuil A又はCpG含有免疫刺激オリゴヌクレオチドが挙げられる。他の適切なアジュバントは当技術分野で周知である。皮下、腹腔内、筋肉内、静脈内、鼻腔内又は他の経路により、動物を免疫化し得る。免疫化レジメン後、動物の脾臓、リンパ節又は他の器官からリンパ球を単離し、ポリエチレングリコールなどの薬剤を使用して適切な骨髄腫細胞株と融合させて、ハイドリドーマを形成する。融合後、(Coding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice: Production and Application of Monoclonal Antibodies in Cell Biology, Biochemistry and Immunology, 3rd edition, Academic Press, New York, 1996)に記載されている標準的な方法を使用して、細胞を、融合パートナーではなくハイブリドーマの成長を可能にする培地に入れる。ハイブリドーマの培養後、所望の特異性の(すなわち、抗原に選択的に結合する)抗体の存在について、細胞上清を分析する。適切な分析技術としては、ELISA、免疫蛍光、フローサイトメトリー、免疫沈降及びウエスタンブロッティングが挙げられる。他のスクリーニング技術は当技術分野で周知である。好ましい技術は、コンフォメーション的にインタクトなネイティブにフォールディングされた抗原への抗体の結合を確認するもの、例えば非変性ELISA、フローサイトメトリー及び免疫沈降である。
【0029】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、検出可能な標識とコンジュゲーションされる。適切な検出可能な標識としては、例えば、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識、生物発光標識又はコロイド金が挙げられる。このような検出可能に標識された免疫コンジュゲートを作製及び検出する方法は当業者に周知であり、以下により詳細に記載される。例えば、検出可能な標識は、オートラジオグラフィーにより検出される放射性同位体であり得る。本発明の目的に特に有用な同位体は、3H、125I、311I、35S及び14Cである。本発明の抗体はまた、蛍光化合物で標識され得る。本発明の蛍光標識抗体の存在は、免疫コンジュゲートを適切な波長の光に曝露し、得られた蛍光を検出することにより決定される。蛍光標識化合物としては、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリテリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド及びフルオレサミン並びにAlexa Fluor色素が挙げられる。あるいは、本発明の抗体は、前記抗体を化学発光化合物にカップリングすることにより検出可能に標識され得る。化学発光タグ付き免疫コンジュゲートの存在は、化学反応の過程中に生じる発光の存在を検出することにより決定される。化学発光標識化合物の例としては、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びシュウ酸エステルが挙げられる。同様に、生物発光化合物は、本発明の抗体を標識するために使用され得る。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を増加させる生物系に見られる化学発光のタイプである。生物発光タンパク質の存在は、発光の存在を検出することにより決定される。標識に有用な生物発光化合物としては、ルシフェリン、ルシフェラーゼ及びエクオリンが挙げられる。典型的には、抗体が酵素にコンジュゲーションされる場合、抗体は、適切な基質の存在下でインキュベーションされ、酵素部分は基質と反応して、例えば、分光光度的、蛍光分析的又は視覚的手段により検出され得る化学部分を生産する。多重特異性免疫コンジュゲートを検出可能に標識するために使用され得る酵素の例としては、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼが挙げられる。当業者は、本発明にしたがって用いられ得る他の適切な標識を把握しているであろう。本発明の抗抗体へのマーカー部分の結合は、当技術分野で公知の標準的な技術を使用して達成される。これに関する典型的な方法論は、Kennedy et al., Clin. Chim. Acta 70: 1, 1976; Schurs et al., Clin. Chim. Acta 81 : 1, 1977; Shih et al., Int’U. Cancer 46: 1101, 1990; Stein et al, Cancer Res. 50: 1330, 1990;及びColigan、前掲に記載されている。また、免疫化学検出の利便性及び多様性は、アビジン、ストレプトアビジン及びビオチンとコンジュゲーションされた本発明の抗体を使用することにより増強され得る。{例えば、Wilchek et al. (eds.), “Avidin-Biotin Technology,” Methods In Enzymology (Vol. 184) (Academic Press 1990); Bayer et al., “Immunochemical Applications of Avidin-Biotin Technology,” in Methods In Molecular Biology (Vol. 10) 149- 162 (Manson, ed., The Humana Press, Inc. 1992).)。
【0030】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、検出可能な標識とコンジュゲーションされる。適切な検出可能な標識としては、例えば、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識、生物発光標識又はコロイド金が挙げられる。このような検出可能に標識された免疫コンジュゲートを作製及び検出する方法は当業者に周知であり、以下により詳細に記載される。例えば、検出可能な標識は、オートラジオグラフィーにより検出される放射性同位体であり得る。本発明の目的に特に有用な同位体は、3H、125I、131I、35S及び14Cである。本発明の抗体はまた、蛍光化合物で標識され得る。本発明の蛍光標識抗体の存在は、免疫コンジュゲートを適切な波長の光に曝露し、得られた蛍光を検出することにより決定される。蛍光標識化合物としては、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリテリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド及びフルオレサミン並びにAlexa Fluor色素が挙げられる。あるいは、本発明の抗体は、前記抗体を化学発光化合物にカップリングすることにより検出可能に標識され得る。化学発光タグ付き免疫コンジュゲートの存在は、化学反応の過程中に生じる発光の存在を検出することにより決定される。化学発光標識化合物の例としては、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びシュウ酸エステルが挙げられる。同様に、生物発光化合物は、本発明の抗体を標識するために使用され得る。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を増加させる生物系に見られる化学発光のタイプである。生物発光タンパク質の存在は、発光の存在を検出することにより決定される。標識に有用な生物発光化合物としては、ルシフェリン、ルシフェラーゼ及びエクオリンが挙げられる。典型的には、抗体が上記蛍光標識にコンジュゲーションされる場合、融合タンパク質の存在は、当技術分野で周知の任意の手段、例えば顕微鏡又は顕微鏡又は自動分析システムを用いて検出され得る。典型的には、抗体が酵素にコンジュゲーションされる場合、酵素部分は基質と反応して、例えば、分光光度的、蛍光分析的又は視覚的手段により検出され得る化学部分を生産する。多重特異性免疫コンジュゲートを検出可能に標識するために使用され得る酵素の例としては、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish perodixase))及びアルカリホスファターゼが挙げられる。当業者は、本発明にしたがって用いられ得る他の適切な標識を把握しているであろう。本発明の抗抗体へのマーカー部分の結合は、当技術分野で公知の標準的な技術を使用して達成される。これに関する典型的な方法論は、Kennedy et al., Clin. Chim. Acta 70: 1, 1976; Schurs et al., Clin. Chim. Acta 81 : 1, 1977; Shih et al., Int’U. Cancer 46: 1101, 1990; Stein et al, Cancer Res. 50: 1330, 1990;及びColigan、前掲に記載されている。また、免疫化学検出の利便性及び多様性は、アビジン、ストレプトアビジン及びビオチンとコンジュゲーションされた本発明の抗体を使用することにより増強され得る。{例えば、Wilchek et al. (eds.), “Avidin-Biotin Technology,” Methods In Enzymology (Vol. 184) (Academic Press 1990); Bayer et al., “Immunochemical Applications of Avidin-Biotin Technology,” in Methods In Molecular Biology (Vol. 10) 149- 162 (Manson, ed., The Humana Press, Inc. 1992).)。
【0031】
本発明の抗体は、診断目的のために特に興味深い。特に、本発明の抗体は、サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を決定するために適切である。より具体的には、本発明の抗体は、被験体におけるE型肝炎ウイルス感染を診断するために適切である。
【0032】
したがって、本発明のさらなる目的は、サンプル中のORF2iタンパク質の存在を検出するための方法であって、前記サンプルを本発明の抗体と、前記タンパク質及び抗体の免疫複合体が形成することを可能にする条件下で接触させることを含み、前記免疫複合体の検出が、前記サンプル中の前記ORF2iタンパク質の存在を示す方法(例えば、免疫沈降、免疫蛍光法及びウエスタンブロッティング)に関する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「サンプル」という用語は、E型肝炎ウイルスの感染性粒子を含有する可能性がある任意の固体又は流体サンプルを含む。いくつかの実施態様では、サンプルは、腹水;尿;唾液;汗;ミルク;滑液;腹腔液;羊水;前脳脊髄液;リンパ液;肺塞栓症;脳脊髄液;及び心嚢液からなる群より選択される。いくつかの実施態様では、サンプルは糞便サンプルである。いくつかの実施態様では、サンプルは尿サンプルである。いくつかの実施態様では、サンプルは唾液サンプルである。いくつかの実施態様では、サンプルは血液サンプルである。本明細書で使用される場合、「血液サンプル」という用語は、被験体由来の任意の血液サンプルを意味する。血液サンプルの収集は、当業者に周知の方法により実施され得る。例えば、被験体の血液は、熟練の医療従事者により、クエン酸塩及びEDTAなどの抗凝固剤中に直接採血され得る。全血は、3500×Gにおける2分間の冷蔵遠心分離により、血漿部分、細胞部分及び血小板部分に分離され得る。遠心分離後、上清は血漿である。
【0034】
より具体的には、本発明のさらなる目的は、サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を検出するための方法であって、前記サンプルを本発明の抗体と、前記抗体及び前記感染性粒子の免疫複合体が形成することを可能にする条件下で接触させることを含み、前記免疫複合体の検出が、前記サンプル中の前記感染性粒子の存在を示す方法に関する。
【0035】
いくつかの実施態様では、本発明の検出方法は、サンプルを、ORF2g及び/又はORF2cタンパク質を認識する抗体と接触させることをさらに含み得る。
【0036】
本発明の検出方法は、急性HEV感染、最近のHEV感染、慢性HEV感染、弱活動性HEV感染又は除去されたHEV感染を診断するために特に適切である。
【0037】
免疫複合体の検出のためのアッセイ及び条件は当業者に公知である。このようなアッセイとしては、例えば、競合アッセイ、直接反応アッセイ、サンドイッチタイプアッセイ及びイムノアッセイ(例えば、ELISA)が挙げられる。アッセイは、定量的又は定性的であり得る。本発明のタンパク質を含む抗体-ペプチド複合体の形成を検出するための多くの異なる従来のアッセイがある。例えば、検出工程は、ELISAアッセイを実施すること、ラテラルフローイムノアッセイを実施すること、凝集アッセイを実施すること、分析ローターでサンプルを分析すること、又は電気化学的、光学的若しくは光電子的センサーを用いてサンプルを分析することを含み得る。これらの異なるアッセイは当業者に周知である。
【0038】
例えば、サンドイッチアッセイ技術の多くのバリエーションのいずれかを使用して、イムノアッセイを実施し得る。簡潔に言えば、典型的なサンドイッチアッセイでは、本発明の一次抗体を固体表面に固定化し、試験すべきサンプルを固定化抗体と、免疫複合体の形成を可能にする時間及び条件下で接触させる。インキュベーション後、検出可能な部分で標識された本発明の二次抗体を追加し、任意の免疫複合体と標識抗体との間の三元複合体の形成を可能にする条件下でインキュベーションする。未結合の材料を洗い流し、検出可能な部分により直接的又は間接的に生産されたシグナルの観察/検出により、サンプル中のポリペプチドの存在を決定する。検出は、定性的又は定量的のいずれかであり得る。抗体などの生体分子を標識するための方法は当技術分野で周知である(例えば、“Affinity Techniques. Enzyme Purification: Part B”, Methods in EnzymoL, 1974, Vol. 34, W.B. Jakoby and M. Wilneck (Eds.), Academic Press: New York, NY; and M. Wilchek and E.A. Bayer, Anal. Biochem., 1988, 171 : 1-32を参照のこと)。イムノアッセイで最も一般に使用される検出可能な部分は、酵素及びフルオロフォアである。酵素免疫測定法(EIA又はELISA)の場合、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish perodixase)、グルコースオキシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素が、一般にグルタルアルデヒド又は過ヨウ素酸塩により二次抗体にコンジュゲーションされる。特定の酵素と共に使用される基質は、一般に、対応する酵素の加水分解により検出可能な色変化の生産について選択される。免疫蛍光の場合、二次抗体は、その結合能力を変化を伴わずに蛍光部分に化学的にカップリングされる。免疫複合体への蛍光標識抗体の結合及び未結合の材料の除去後、蛍光部分により生成された蛍光シグナルが検出され、場合により定量される。あるいは、二次抗体は、放射性同位体、化学発光部分又は生物発光部分で標識され得る。いくつかの実施態様では、アッセイは、本発明の抗体が直接的又は間接的に付着した固相又は基板を利用する。したがって、いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、固体又は半固体支持体などの基板に付着又は固定化される。付着は共有結合的又は非共有結合的であり得、共有結合又は非共有結合を可能にするタンパク質に関連する部分、例えば担体、支持体又は表面に付着した成分に対する高い親和性を有する部分により容易にされ得る。いくつかの実施態様では、基板は、ビーズ、例えばコロイド粒子(例えば、金、銀、白金、銅、金属複合材料、他の軟質金属、コアシェル構造粒子又は中空金ナノスフェアから作製されたコロイドナノ粒子)又は他のタイプの粒子(例えば、磁気ビーズ、又はシリカ、ラテックス、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート若しくはPVDFを含む粒子若しくはナノ粒子)である。このような粒子は、標識(例えば、比色、化学発光又は蛍光標識)を含み得、イムノアッセイ中にタンパク質の位置を視覚化するために有用であり得る。いくつかの実施態様では、基板は、ドットブロット又はラテラルフローイムノアッセイデバイス中の流路である。例えば、本発明の抗体は、多孔質膜、例えばPVDF膜(例えば、Immobilon(商標)膜)、ニトロセルロース膜、ポリエチレン膜、ナイロン膜又は同様のタイプの膜に付着又は固定化され得る。いくつかの実施態様では、基板は、分析ローター中の流路である。いくつかの実施態様では、基板は、チューブ又はウェル、例えばELISAアッセイにおいて使用するために適切なプレート(例えば、マイクロタイタープレート)中のウェルである。このような基板は、ガラス、セルロースベースの材料、熱可塑性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン又はポリエステル、粒子状材料から構成される焼結構造(例えば、ガラス又は様々な熱可塑性ポリマー)、又はニトロセルロース、ナイロン、ポリスルホンから構成されるキャスト膜フィルムなどを含み得る。基板は、多孔質ポリエチレンとして一般に公知のポリエチレンの焼結微粒子、例えばChromex Corporation (Albuquerque, N. Mex.)の0.2~15ミクロン多孔質ポリエチレンであり得る。これらの基板材料は全て、フィルム、シート若しくはプレートなどの適切な形状で使用され得るか、又はそれらは、紙、ガラス、プラスチックフィルム若しくはファブリックなどの適切な不活性担体にコーティング、接着若しくはラミネートされ得る。ペプチドを固相に固定化するための適切な方法としては、イオン性、疎水性、共有結合性相互作用などが挙げられる。
【0039】
本発明のさらなる目的は、サンプル中の感染性E型肝炎ウイルス粒子の存在を同定するためのキット又はデバイスであって、(上記固体支持体上に固定化された又は固定化されていない)少なくとも1つの本発明の抗体を含むキット又はデバイスに関する。いくつかの実施態様では、キットは、検出可能なシグナルを生産する本発明の二次抗体を含み得る。いくつかの実施態様では、キットは、ORF2g及び/又はORF2cタンパク質に対する特異性を有する抗体をさらに含む。キットの例としては、限定されないが、ELISAアッセイキットと、テストストリップ及びディップスティックを含むキットとが挙げられる。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるキットは、タンパク質又は感染性粒子のレベルの基準値をさらに含む。基準値は、典型的には、健常個体の集団からのサンプル中の平均レベルである。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるキットは、サンプル収集のための少なくとも1つのサンプル収集容器をさらに含む。収集デバイス及び容器としては、限定されないが、シリンジ、ランセット、BD VACUTAINER(登録商標)採血管が挙げられる。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるキットは、キットの使用及び結果の解釈のための説明書をさらに含む。
【0040】
以下の図及び実施例により、本発明をさらに説明する。しかしながら、これらの実施例及び図は、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】ペプチドGQPSGRRRGRRSGG(配列番号4)を使用したORF2iタンパク質に対する特異的抗体の生成。(A)固定HEV感染細胞の免疫蛍光により、及び(B)ORF2タンパク質の混合物(ORF2i及びORF2g/ORF2c)のウエスタンブロッティングにより、P1S5及びコントロール(CTL)マウス血清及び1E6抗体の反応性及び特異性を分析した。アスタリスクは非特異的バンドを示す。(C)固定HEV感染細胞の免疫蛍光により、及び(D)ORF2タンパク質の混合物又は(E)HEV感染細胞の抽出物のウエスタンブロッティングにより、P1H1ハイブリドーマ上清及び1E6抗体の反応性及び特異性を分析した。
【0042】
【
図2】P1H1抗体を用いた界面活性剤処理HEV粒子の免疫沈降。(A~C)1E6抗体を使用してウエスタンブロットにより、IP P1H1の感度及び特異性を分析した。
【0043】
結果:ペプチドGQPSGRRRGRRSGG(配列番号4)を使用したORF2iタンパク質に対する特異的抗体の生成
N末端部分はORF2i型にのみ存在し、ORF2g型にもORF2c型にも存在しない。したがって、前記部分は、ORF2i型の高特異的抗体を得るための最良の戦略であり得る。株/遺伝子型間の特異性を検証するために、アミノ酸(a.a)1~50間のみの配列アラインメントを行った(データは示さず)。二次構造及びグリコシル化の欠如の予測、並びに免疫原性、親水性及びアクセス可能性の予測を実施して、免疫原のための最良の配列を定義した。最終的には、免疫化のために、ペプチドGQPSGRRRGRRSGG(配列番号4)を選択した。マウス免疫化中にこの配列をより免疫原性にするために、システインをC末端位置に付加することによりマレイミド官能を介して、タンパク質担体KLHへのカップリングを行った。ルーチンなプロトコールにしたがって、免疫化を実施した。5匹のマウスをペプチド(配列番号4)で3週間間隔で少なくとも3回免疫化した。免疫化中に、フロイント完全及び不完全アジュバントを使用した。皮下及び腹腔内経路により、動物を免疫化した。3回目の免疫化の10日後、マウスを出血させ、免疫反応性についてそれらの血清を試験した。最初に、ペプチド(配列番号4)でコーティングしたプレート上における間接ELISAにより、血清をアッセイした(データは示さず)。固定HEV感染細胞の免疫蛍光(IF)により、それらの反応性を分析した(
図1A)。3つの形態のORF2タンパク質(Montpellier et al., Gastroenterology, 2018),を認識する1E6モノクローナル抗体(抗体レジストリ#AB-827236)をポジティブコントロールとして使用した。PBS免疫化マウスの血清をネガティブコントロール(CTLマウス)として使用した。
図1Aに示されているように、IFでは、P1S5マウスの血清は特異的な反応性を示した。次に、抗原としてORF2タンパク質の混合物(ORF2i及びORF2g/ORF2c)を用いてウエスタンブロッティング実験で、P1S5血清の特異性を分析した(
図1B)。P1S5血清は、3つの形態を認識する1E6抗体と比較して、ORF2g/cタンパク質との交差反応を伴わずにORF2iタンパク質の高特異的な認識を示した。
【0044】
最終ブーストの後、P1S5マウスを屠殺した。脾臓からリンパ球を単離し、ポリエチレングリコールを使用して骨髄腫細胞株と融合させて、ハイドリドーマを形成した。融合後、細胞を、ハイブリドーマの成長を可能にする培地に入れた。ハイブリドーマの培養後、免疫蛍光法により、細胞上清をスクリーニングした。
図1Cに示されているように、P1H1ハイブリドーマ上清はORF2i特異的染色を示した。次に、抗原としてORF2タンパク質の混合物(ORF2i及びORF2g/ORF2c)(
図1D)又はHEV感染細胞の抽出物(
図1E)を用いてウエスタンブロッティング実験で、P1H1クローンの特異性を分析した。P1H1クローンは、3つの形態を認識する1E6抗体と比較して、ORF2g/cタンパク質との交差反応を伴わずにORF2iタンパク質の高特異的な認識を示した。
【0045】
次に、P1H1クローンを増幅及び精製した。精製P1H1抗体を免疫沈降(IP)アッセイで使用した(
図2)。HEV産生細胞(SN)の熱不活化(80℃で20分間)上清をP1H1抗体又は1E6抗体と共にインキュベーションし、次いで、プロテインGセファロースビーズと共にインキュベーションした。1E6抗体を使用したウエスタンブロットにより、免疫沈降ORF2タンパク質を分析した。IP P1H1は、3つの形態のORF2及び複数の非特異的バンドを示したIP 1E6と比較して、ORF2g/cタンパク質との交差反応及びバックグラウンドを伴わずにORF2iタンパク質の高特異的な認識を示した(
図2A)。プロテインGビーズと共にのみインキュベーションしたSNをネガティブコントロール(IP CTL)として使用した。これらの結果は、P1H1抗体が熱変性HEV粒子を免疫沈降することができることを示している。
【0046】
次いで、SNを80℃で20分間熱不活化し、又は3%クエン酸で20分間処理し、次いで、1M トリスpH8で緩衝し、又は1%TritonX-100で30分間処理した(
図2B)。次に、SNを、P1H1抗体を用いたIPに供した。1E6抗体を使用したウエスタンブロットにより、免疫沈降ORF2タンパク質を分析した。クエン酸処理SNのIP P1H1は、ORF2iタンパク質のかすかなバンド及び非特異的バンドのみを示した。対照的に、熱不活化SNのIP P1H1と同様に、TritonX-100処理SNのIP P1H1は、ORF2g/cタンパク質との交差反応及びバックグラウンドを伴わずにORF2iタンパク質の高特異的な認識を示した(
図2B)。次いで、P1H1によるIP前に、SNを0.1%、0.25%、0.5%又は1%TritonX-100で30分間処理した(
図2C)。未処理SN(TX0%)及び熱変性SN(80℃)をそれぞれネガティブ及びポジティブコントロールとして使用した。1E6抗体を使用したウエスタンブロットにより、免疫沈降ORF2タンパク質を分析した。TritonX-100(0.1~1%)で処理した全てのサンプルにおいて、IP P1H1は、ORF2g/cタンパク質との交差反応及びバックグラウンドを伴わずにORF2iタンパク質の高感度及び特異的な認識を示した(
図2C)。統合すると、これらの結果は、P1H1抗体が界面活性剤処理HEV粒子を特異的に免疫沈降することができることを示している。
【0047】
総合すると、これらの結果は、ORF2iポリペプチド(配列番号4)に対して特異的な抗体を生産し得ることを示している。このような抗体は、サンプル中のE型肝炎ウイルスの感染性粒子の存在を決定するために非常に適切であろう。より具体的には、本発明のORF2iポリペプチドの検出は、被験体におけるE型肝炎ウイルス感染を診断するために適切である。
【0048】
参考文献:
本出願を通して、様々な参考文献が、本発明が関係する技術水準を説明する。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【配列表】