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特許7455125アルカリの添加を伴うブラインからリチウムを回収するためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】アルカリの添加を伴うブラインからリチウムを回収するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/04 20060101AFI20240315BHJP
   C01D 15/00 20060101ALI20240315BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20240315BHJP
   C02F 1/42 20230101ALI20240315BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20240315BHJP
   B01J 39/02 20060101ALI20240315BHJP
   B01J 47/10 20170101ALI20240315BHJP
   B01J 49/53 20170101ALI20240315BHJP
【FI】
C01D15/04
C01D15/00
C02F1/58 J
C02F1/42 B
B01D61/14 500
B01J39/02
B01J47/10
B01J49/53
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021535116
(86)(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 CA2019000064
(87)【国際公開番号】W WO2020124192
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】16/410,523
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/CA2018/000240
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(31)【優先権主張番号】16/224,463
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520232840
【氏名又は名称】スタンダード リチウム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,クレイグ,ジョンストン
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0222760(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0119350(US,A1)
【文献】特開2013-027863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0133619(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0001168(US,A1)
【文献】LAWAGON Chosel P. et al.,Journal of Industrial and Engineering Chemistry,2016年,35,p.347-356
【文献】CHITRAKAR Ramesh et al.,Dalton Transactions,The Royal Society of Chemistry,2012年,00,1-3,1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 15/04
C01D 15/00
C02F 1/58
C02F 1/42
B01D 61/14
B01D 61/45
B01J 39/02
B01J 47/10
B01J 49/53
B01J 20/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有ブラインからリチウムイオンを回収するためのプロセスであって、
第1のリアクタ内で、前記リチウム含有ブラインをリチウムイオンふるいと接触させて、前記リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体を形成することと、
固体/液体分離デバイスを用いて、前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体を前記リチウム含有ブラインから分離することと、
前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体を水と接触させた後、第2のリアクタ中で、脱錯化することと、
前記第2のリアクタ内で、リチウムイオンを前記リチウムイオンふるいから脱錯化して、前記リチウムイオンふるいから分離された酸性リチウム塩溶出液を形成することと、
固体/液体分離デバイスを用いて、前記リチウムイオンふるいを前記酸性リチウム塩溶出液から分離することと、
前記第2のリアクタ中での脱錯化後に、前記リチウムイオンふるいを水と接触させて、再生リチウムイオンふるいおよび希酸水洗浄液を得ることと、
を含み、
前記リチウムイオンふるいは、チタンまたはニオブの酸化物を含み、
前記プロセスは、連続的に実施され、
前記第1のリアクタのpHが、無水アンモニアまたは水酸化アンモニウムを含むアルカリの添加によって、一定の値に維持され、
前記脱錯化が、酸を使用した溶離によって行われ、
前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体と前記酸との平均接触時間が、1時間未満であり、
前記酸の濃度が、前記酸の添加によって、一定の値に維持され、
前記酸の前記濃度が、0.1M未満である、
プロセス。
【請求項2】
前記酸のpHが、1を超え3未満である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記酸のpHが、約2である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記pHが、4を超え9未満の一定の値に維持される、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記第1のリアクタ内の前記pHが、6を超え8未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記リチウムイオンふるいの90%超が、40μm未満の平均粒子直径を有し、前記リチウムイオンふるいの90%超が、0.4μmを超える平均粒子直径を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記リチウムイオンふるいの粒子の90体積%超が、直径100μm未満および直径0.5μm超である、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記リチウムイオンふるいの粒子の90体積%超が、直径0.5μm超である、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記リチウムイオンふるいが、メタチタン酸を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセスであって、
前記再生リチウムイオンふるいを前記第1のリアクタに加えること、
をさらに含む、プロセス。
【請求項11】
前記希酸水洗浄液および追加の濃酸を、前記第2のリアクタに添加することをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記第1のリアクタが、限外濾過または精密濾過膜を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
空気が、前記第1のリアクタの内容物を撹拌するために使用される、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記リチウムイオンふるいの濃度が、50g/L超である、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記限外濾過膜または前記精密濾過膜を通る流速が、30kPa未満の膜貫通圧で30LMHを超える、請求項12から14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記リチウム含有ブラインを前記リチウムイオンふるいと接触させる前に、1μm未満の平均粒子直径を有するリチウムイオンふるいを除去することをさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記第2のリアクタ中で、前記リチウムイオンを前記リチウムイオンふるいから脱錯化する前に、前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体を、水分含有量が90重量%未満になるまで脱水することをさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記第1のリアクタに添加する前に、前記再生リチウムイオンふるいを脱水することをさらに含む、請求項10から17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記リチウムイオンふるいを水と接触させることが、前記リチウムイオンふるいから脱錯化された前記リチウムイオンの50%超を、前記再生リチウムイオンふるいを前記第1のリアクタに加える前に、前記リチウムイオンふるいから洗浄するように、前記リチウムイオンふるいを十分な水と接触させることを含む、請求項10から18のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記リチウムイオンふるいを水と接触させることが、前記リチウムイオンふるいから脱錯化された前記リチウムイオンの50%超を、前記再生リチウムイオンふるいを前記第1リアクタに加える前に、前記リチウムイオンふるいから洗浄するように、2つ以上の向流段階で前記リチウムイオンふるいを水と接触させることを含む、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記アルカリが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、または水酸化カルシウムをさらに含む、請求項1から20のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記酸が、塩酸または硫酸を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
前記リチウムイオンふるいの濃度が、100g/L超である、請求項1から22のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項24】
リチウム含有ブラインからリチウムイオンを回収するためのプロセスであって、
第1のリアクタ内で、リチウム含有ブラインをリチウムイオンふるいと接触させて、リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体を形成することと、
固体/液体分離デバイスを用いて、前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体を前記リチウム含有ブラインから分離することと、
前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体を水と接触させた後、第2のリアクタ中で、脱錯化することと、
前記第2のリアクタ内で、リチウムイオンを前記リチウムイオンふるいから脱錯化して、前記リチウムイオンふるいから分離された酸性リチウム塩溶出液を形成することと、
固体/液体分離デバイスを用いて、前記リチウムイオンふるいを前記酸性リチウム塩溶出液から分離することと、
前記第2のリアクタ中での脱錯化後に、前記リチウムイオンふるいを水と接触させて、再生リチウムイオンふるいおよび希酸水洗浄液を得ることと、
を含み、
前記リチウムイオンふるいが、チタンまたはニオブの酸化物を含み、
前記プロセスは、連続的に実施され、
前記第1のリアクタのpHが、4%から8%w/wの濃度の水酸化ナトリウムを含むアルカリの添加によって、一定の値に維持され、
前記脱錯化が、酸を使用した溶離によって行われ、
前記酸の濃度が、前記酸の添加によって、一定の値に維持され、
前記酸の前記濃度が、0.1M未満である、
プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年12月18日に出願された同時係属出願第16/224,463号の一部継続出願であり、2017年12月27日に出願された米国仮出願第62/610,575号の利益を主張し、そのすべてが参照により本出願に明示的に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、ブラインからイオンを回収するための方法に関し、より詳細には、ブラインからリチウムイオンを回収するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電気自動車、ならびに風力、太陽光、および潮力源を含む再生可能エネルギーシステムに関連する定置型電力貯蔵用のリチウムイオン電池の使用に対する最近の関心の結果も大きく影響し、リチウムの需要は大幅に増加して、すぐに供給を上回る可能性がある。海水、ブライン、地熱流体、および大陸塩湖などの様々な供給源で、利用可能なリチウムの大量供給が潜在的に存在する。本明細書で使用される場合、「ブライン(brine)」および「ブライン(brines)」は、これらの様々なリチウム含有溶液を指す。しかしながら、これら資源中のリチウム濃度は一般的には非常に低いため、今日まで、蒸発による大規模な濃縮なしに、これらの供給源からリチウムを回収する実行可能な方法はほとんどなかった。さらに、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウムなどの他の金属イオンの濃度がはるかに高いと、リチウムの回収が妨げられる。
【0004】
イオン交換は、水溶液から低濃度の金属イオンを回収するための周知の技術である。しかしながら、スルホン酸官能基を有する強酸陽イオン交換樹脂およびイミノジアセテート基を有するキレート樹脂などの従来のイオン交換樹脂は、存在し得るカルシウムおよびマグネシウムなどの多価イオンに対して好選性を有する。ナトリウムおよびカリウムなどの他の一価イオンに対する、リチウムの選択性は同様であり得るが、ブライン中に、通常、過剰に存在するこれらの競合的一価イオンの存在は、リチウムの回収を実現不可能にする。
【0005】
マンガン、チタン、または他の酸化物に基づく、イオンふるいなどの無機イオン交換媒体は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、およびカリウムなどの高濃度の競合イオンが存在するブラインからのリチウムの回収に潜在的に有用であると確認されている。これらの材料は、リチウムイオンふるい(LIS)と呼ばれ得る。LISは、Li(0.074nm)よりも大きいイオン半径を有する、Na(0.102nm)、K(0.138nm)、およびCa2+(0.100nm)が交換サイトに入ることができないほどにLIS交換サイトは狭いので、リチウムに対する高い選択性を示す。Mg2+(0.072nm)イオンのイオン半径はLiのイオン半径と同様であるが、マグネシウムイオンを脱水して交換サイトに入れるには多量のエネルギーが必要であり、Mg2+に対する選択性は維持される。
【0006】
しかしながら、LISにはいくつかの欠点がある。第1に、LISはもともと弱酸性であり、その結果、より低いpHレベルで容量が低下する。第2に、構成成分の一部が酸に溶解するため、酸溶液中で安定ではない。劣化するにつれて、リチウムを取り込む容量を失うので、頻繁に置き換えられなければならない。LISを置換することは、多大なコストを伴う。さらに、LISを従来のカラムに設置する場合、劣化したLISの除去および置換は困難であり、時間がかかる。最後に、LISは微粉として合成されるため、従来のイオン交換樹脂で行われるように、大きい圧力降下のために固定床で使用することはできない。例えば、造粒、発泡、膜、繊維、および磁化によって形態を改善するためのいくつかの試みがなされてきた。しかしながら、これらの粉末がより大きな幾何形状に凝集すると、結合剤による細孔および活性な交換サイトの閉塞、典型的には、より大きな粒径に伴い、表面積対体積/質量の比がより小さくなるということの結果として、キネティクス(反応速度)が著しく損なわれる。
【0007】
例えば、Chitrakar et al.、「Lithium Recovery from Salt Lake Brine by HTiO」、Dalton Transactions、43(23)、8933~8939、2014年6月21日(以下、「Chitrakar」と呼ぶ)は、メタチタン酸に基づくリチウム選択的吸着剤の合成、特性評価、および実験室評価に関する。しかしながら、Chitrakarは、工業的プロセスに言及しておらず、工業的規模での吸着剤からのブラインおよび溶離液の固体/液体分離または洗浄に関する問題を論じていない。例えば、Chitrakarにおける吸着試験は、20g/Lの吸着剤固形分濃度でビーカー中で行われ、HClによる溶離試験は、10g/Lの吸着剤固形分濃度で行われた。Chitrakarは、連続的な工業的規模で吸着剤をどのように使用するかを開示していない。特に、試験で使用された実験室の濾過は、工業的規模では適用できないだろう。
【0008】
したがって、上記の欠点を克服するリチウムイオンふるいを使用して、ブラインからリチウムを回収するための方法を改善する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0009】
一態様では、本発明は、リチウム含有ブラインを、第1の混合または撹拌リアクタ中で、リチウムイオンふるいと接触させて、リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体を形成させ、第2の混合または撹拌リアクタ中で、リチウムイオンをリチウムイオンふるいから脱錯化して、リチウムイオンふるいおよび酸性リチウム塩溶出液を形成することによって、リチウム含有ブラインからリチウムイオンを回収するためのプロセスを提供する。
【0010】
一実施形態では、リチウム含有ブラインからリチウムイオンを回収するためのプロセスは、リチウム含有ブラインを、第1の混合または撹拌リアクタ中で、リチウムイオンふるいと接触させて、リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体を形成させることを含む。次いで、プロセスは、第2の混合または撹拌リアクタ中で、リチウムイオンをリチウムイオンふるいから脱錯化して、リチウムイオンふるいから分離された酸性リチウム塩溶出液を形成させるステップを含む。リチウムイオンふるいは、チタンまたはニオブの酸化物(例えば、メタチタン酸またはニオブ酸リチウム)を含み得る。
【0011】
脱錯化は、酸を使用した溶出によって、行うことができる。酸の濃度は、酸の添加によって、一定の値に維持され得る。酸の濃度は、0.1M未満、好ましくは1を超え3未満のpH、最も好ましくは約2のpHであるものとする。リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体と酸との平均接触時間は、1時間未満であり得る。酸は、塩酸または硫酸であってもよい。
【0012】
第1のリアクタのpHは、アルカリの添加によって、一定の値に維持され得る。pHは、4を超え9未満、または6を超え8未満の一定の値に維持され得る。アルカリは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、または無水アンモニアであってもよい。例えば、アルカリは、8%w/w未満の濃度の水酸化ナトリウムであってもよい。
【0013】
リチウムイオンふるいの90%超は、40μm未満の平均粒子直径を有し得、リチウムイオンふるいの90%超は、0.4μmを超える平均粒子直径を有し得る。リチウムイオンふるいの粒子の90体積%超は、直径100μm未満および直径0.5μm超であり得る。リチウムイオンふるいの粒子の90体積%超は、直径0.5μm超であり得る。プロセスは、リチウム含有ブラインをリチウムイオンふるいと接触させる前に、1μm未満の平均粒子直径を有するリチウムイオンふるいを除去するステップをさらに含んでもよい。
【0014】
プロセスは、固体/液体分離デバイスを用いて、リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体をブラインから分離するステップ;およびリチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体を水と接触させた後、第2のリアクタ中で脱錯化するステップをさらに含み得る。プロセスはまた、固体/液体分離デバイスを用いて、リチウムイオンふるいを酸性リチウム塩溶出液から分離するステップ;第2のリアクタ中での脱錯化後に、リチウムイオンふるいを水と接触させて、再生リチウムイオンふるいおよび希酸水洗浄液を得るステップ;および再生リチウムイオンふるいを第1のリアクタに加えるステップをさらに含み得る。このプロセスは、第2のリアクタ中で、リチウムイオンをリチウムイオンふるいから脱錯化する前に、リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体を、水分含有量が90重量%未満になるまで、脱水するステップをさらに含み得る。このプロセスはまた、第1のリアクタに加えられる前に、再生リチウムイオンふるいを脱水するステップをさらに含み得る。リチウムイオンふるいを水と接触させるステップは、リチウムイオンふるいから脱錯化されたリチウムイオンの50%超を、再生リチウムイオンふるいを第1のリアクタに加える前に、リチウムイオンふるいから洗浄するように、リチウムイオンふるいを十分な水と接触させることを含み得る。リチウムイオンふるいを水と接触させるステップはまた、リチウムイオンふるいから脱錯化されたリチウムイオンの50%超を、再生リチウムイオンふるいを第1のリアクタに加える前に、リチウムイオンふるいから洗浄するように、2つ以上の向流段階でリチウムイオンふるいを水と接触させることを含み得る。プロセスはまた、希酸水洗浄液および追加の濃酸を第2のリアクタに添加するステップをさらに含み得る。
【0015】
第1のリアクタは、限外濾過または精密濾過膜を含み得る。空気または他のガスを使用して、第1のリアクタの内容物を撹拌してもよい。限外濾過膜または精密濾過膜を通る流速は、30kPa未満の膜貫通圧で30LMHを超え得る。
【0016】
リチウムイオンふるいの濃度は、50g/L超または100g/L超であり得る。
【0017】
本発明のさらなる適用範囲は、以下に与えられる詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内の様々な変更および修飾が、この詳細な説明から当業者に明らかになるので、詳細な説明および具体的な例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、単なる例示として与えられていることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明は、例示としてのみ与えられ、したがって本発明を限定するものではない、以下の詳細な説明および添付の図面から、より完全に理解されるであろう。図面において、同様の符号は、様々な図における同様の特徴を示すために使用される。
【0019】
図1】本プロセスのための例示的なリチウム抽出システムの線図である。
【0020】
図2】pHの関数として、金属イオン取込量を示すグラフである。
【0021】
図3】塩酸濃度の関数として、抽出されたリチウムおよびチタンの量を示すグラフである。
【0022】
図4】スラリー中で数時間空気撹拌した後に採取した、メタチタン酸リチウムイオンふるいの試料の例示的なLIS粒径分布を示すグラフである。
【0023】
図5】本プロセスのための代替的なリチウム抽出システムの図である。
【0024】
図6】例示的な抽出試行に関し、時間の関数としてのリチウム濃度のグラフである。
図7】pHの関数として、抽出されたリチウムおよびチタンの量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上述の欠点の結果として、リチウムイオンふるいは、今日まで工業的規模で、ブラインからのリチウムの回収に広くは適用されていなかった。本発明は、これらの欠点を克服し、ブラインからリチウムを選択的に回収するためのリチウムイオンふるいの使用を、より商業的に実現可能にする。
【0026】
従来のイオン交換樹脂の平均粒子直径は、典型的には約400~1250マイクロメートルである。RECOFLO(登録商標)短床イオン交換プロセスは、大規模工業用途で使用される通常考えられる最も微細な粒子を利用する。これらの粒子は、典型的には、100~200マイクロメートルの平均粒子直径を有する。
【0027】
比較すると、本発明で利用されるリチウムイオンふるいは、好ましくは粉末形態である。粉末の平均粒径は、必ずしも限定される必要はない。しかしながら、平均粒径は、好ましくは約100μm未満、より好ましくは10~100μm、さらに好ましくは20~100μm、よりさらに好ましくは20~95μmである。また、平均粒径は、0.4~40μmであり得る。例えば、リチウムイオンふるい粒子の90%(体積基準)超は、直径100μm未満および直径0.5μm超であり得る。同じまたは異なる実施形態では、リチウムイオンふるい粒子の90%(体積基準)超は、直径0.5μmより大きくてもよい。これらの材料は粉末として合成されるので、凝集のコストが回避される。さらに、このような粉末によって得られるより大きな表面積は、イオン交換プロセスのキネティクスを著しく改善する。言い換えれば、リチウムイオンふるいは、ポリマーまたは他の結合剤と一緒に結合した複合材料ではない。
【0028】
様々なリチウムイオンふるいが、リチウム回収に潜在的に有用である。例示的なLISには、マンガンおよびチタンの酸化物が含まれるが、これらに限定されない。具体的には、例示的なLISは、チタンの酸化物、好ましくはメタチタン酸(MTA)を含み得る。しかしながら、本発明は、酸化マンガンおよびニオブ酸リチウム(すなわち、ニオブ酸)などの他の種類のリチウムイオンふるい媒体にも同様に適用可能である。リチウムイオンふるいは、チタン、ニオブ、またはマンガンの酸化物に加えて、ドープ剤を含んでもよい。しかしながら、リチウムイオンふるいの含有物は、主にチタン、ニオブ、またはマンガンの酸化物である。
【0029】
本発明の一実施形態では、粉末リチウムイオンふるい媒体を、撹拌タンクリアクタ(STRまたはリアクタ)中で、リチウム含有ブラインと接触させることができる。例えば、リアクタは、リチウムイオンふるいと共に処理される液体を含むタンクであり得る。リチウムイオンふるいは、ミキサーによって、またはリチウムイオンふるいとブラインとの間の密接な接触を提供する上向きの液体または気泡流による流動化によって、懸濁液中に維持され得る。リアクタ中のブラインのpHは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、および水酸化カルシウムなどのアルカリの添加によって、一定のレベルで維持され得る。例えば、リアクタ中のブラインのpHは、5よりも大きく9未満に維持され得る。
【0030】
本発明で処理することができるブラインの多くは、かなりの濃度のマグネシウムを含有する。アルカリを用いたブラインの中和は、高濃度のマグネシウムを含有するブラインに対して、いくつかの問題を呈する可能性がある。水酸化マグネシウムは、通常、pH約8未満では沈殿(析出)しないが、アルカリを添加すると、アルカリがブラインと接触する点において、局所的に高いpH条件が水酸化マグネシウムの沈殿をもたらす。大半のブラインのpHは、理論的な沈殿pH未満であるという事実にもかかわらず、沈殿物は迅速には溶解しない。水酸化マグネシウムの存在は、いくつかの問題を引き起こす。例えば、水酸化マグネシウムはLISの表面に付着し、リチウムの取り込みを阻害し得る。膜が固体/液体分離に利用される場合、透過流束を減少させ、場合によっては膜を汚染する可能性がある。
【0031】
水酸化ナトリウムが利用される場合、水酸化マグネシウム沈殿の問題は、特に急性であり、より高いNaOH濃度でより顕著である。50%w/wのNaOHを利用する場合、再溶解しない大量のMg(OH)が生成される。より希釈されたNaOH溶液を利用する場合、生成されるMg(OH)の量はより少なく、Mg(OH)はより迅速に再溶解する。4%w/wのNaOHを利用する場合、ごく少量のMg(OH)が生成され、それはわずか数秒で再溶解する。したがって、水酸化ナトリウムが使用される場合、水酸化ナトリウムは、好ましくは8%w/w未満の濃度である。
【0032】
希NaOHの使用は、不用なブライン(貧ブライン)を希釈するという点で不利である。不用なブラインを地下に再注入しなければならない場所では、引き出されるよりも多くのブラインを地中に戻すことができないため、結果として生じるブラインの過剰体積が問題となり得る。
【0033】
この問題は、中和のために、アンモニアを利用することによって、回避することができる。アンモニアは、ブライン過剰体積の量が無視できるように、無水アンモニアガスまたは液体水酸化アンモニウムの形態であり得る。無水アンモニアガスまたは30%水酸化アンモニウムを使用しても、注入点でごく少量のMg(OH)が沈殿するが、この沈殿物は迅速に再溶解し、プロセスに悪影響を及ぼさない。
【0034】
イオン交換反応が完了した後、リチウムが枯渇した(すなわち、不用な)ブラインをリチウムイオンふるいから分離し、様々な手段によってリアクタから除去することができる。例えば、ブライン/リチウムイオンふるいスラリー(すなわち、担持リチウムイオンふるい)を、追加の撹拌リアクタ中で水と接触させて、次のステップに進む前に、残留ブラインを除去することができる。リチウムイオンふるいの粒径が約10ミクロンを超える場合、重力沈降を使用することができる。粒径が10ミクロン未満である場合、真空回転ドラムまたはベルトフィルタなどの濾過デバイスを使用することができる。粒子サイズが1ミクロン未満である場合、膜濾過を使用することができる。これらの固体/液体分離デバイスの組合せを、有利に使用することができる。可能な固体/液体分離デバイスの一例は、遠心分離機であり得る。
【0035】
不用なブラインを除去した後、リアクタ中に含まれるリチウムイオンふるいは溶離液と接触され得る。この溶離液は、とりわけ、塩酸(HCl)または硫酸(HSO)などの酸であり得る。例えば、酸は、0.1M未満の濃度で、好ましくは1よりも大きく3未満のpHで、最も好ましくは約2のpHで添加され得る。いかなる特定の理論にも拘束されることを意図するものではないが、酸は、LISからリチウムを溶離(脱錯化)させ、したがって、濃縮リチウム塩生成物溶液を生成し、LISを再生すると考えられる。本明細書で使用される場合、「錯体」は、組み合わせて1つの大きなイオンまたは分子を作製する、個々の原子基、イオン、または分子の組合せである。本明細書で使用される場合、「脱錯化」は、個々の原子基、イオン、または分子を、そのような大きなイオンまたは分子から分離する行為である。他の金属よりもリチウムへのリチウムイオンふるいの選択性のために、他の金属に対するリチウムの比は、供給ブラインよりも生成物溶液中でかなり高くなり得る。
【0036】
リチウムイオンふるいが再生された後、リチウムイオンふるいを再使用して、より多くのブラインを処理し、より多くのリチウムを抽出することができる。
【0037】
本発明の一実施形態では、プロセスは連続的に実施され得る。このような連続プロセスでは、2つのリアクタ段階が必要とされ得る。ブラインは、連続的に担持段階へ供給され得、担持段階において、リチウムイオンふるいは、連続的に混合されたスラリーとして、ブラインと接触する。次いで、リチウムイオンは、リチウムイオンふるいによる取り込みを介してブラインから除去され得、結果として不用なブラインおよびリチウム担持LISが得られる。次いで、不用なブラインをリチウム担持リチウムイオンふるいから分離し、リアクタから除去することができる。ここで、ブラインから分離されたリチウム担持リチウムイオンふるいは、溶離段階に送られ得る。
【0038】
溶離液は、溶離段階に連続的に供給され得、担持段階から除去されたリチウム担持リチウムイオンふるいは、連続的に混合されたスラリーとして溶離液と接触され得る。リチウムイオンふるいと液体が分離され、この分離された液体(すなわち、溶出液)がリチウム塩生成物溶液である。
【0039】
溶離段階を出るリチウムイオンふるいのリチウム含有量はかなり減少しており、リチウムイオンふるいは再使用のために担持段階にリサイクルすることができる。このようにして、リチウムイオンふるいは複数回再使用することができ、プロセスを連続的に操作することができる。
【0040】
一実施形態では、図1に示すように、追加の段階を利用してもよい。具体的には、供給ブラインは、担持段階の一部として、リチウムイオンふるいを含む第1の撹拌リアクタ4にライン2を通って流入する。リチウムイオンふるいは、ミキサー6によって、懸濁液中に維持される。ライン8を介してNaOHを添加することによって、ブライン/リチウムイオンふるいスラリーは、一定のpHに維持される。ブラインが担持されたリチウムイオンふるいは、洗浄段階の一部として、ライン10を通って、追加の撹拌リアクタ12に流入する。不用なブラインは、担持リチウムイオンふるいから分離され、ライン14を通って流れる。ブラインが担持されたリチウムイオンふるいは、ミキサー16によって、懸濁液中に維持される。洗浄段階では、担持リチウムイオンふるいをライン18を介して水と接触させて、リチウムイオンふるいからブラインを洗浄するが、これは、供給ブライン中に存在する不純物イオンとの、リチウム塩生成物のクロスコンタミネーションを低減すると考えられる。洗浄および担持されたリチウムイオンふるいは、溶離段階の一部として、ライン20を通って、第2の撹拌リアクタ22に流入する。洗浄水は、洗浄および担持されたリチウムイオンふるいから分離され、ライン24を通って流れて、第1の撹拌リアクタ4に戻る。洗浄および担持されたリチウムイオンふるいは、ミキサー26によって、懸濁液中に維持される。溶離段階では、洗浄および担持されたリチウムイオンふるいをライン28を介してHClと接触させて、リチウムイオンをリチウムイオンふるいから溶離させる。第2の撹拌リアクタ22中の酸の濃度は、ライン28を介したHClの添加によって、一定の値に維持される。再生リチウムイオンふるいは、酸洗浄段階の一部として、ライン30を通って、別の撹拌リアクタ32に流入する。リチウムイオンは、LiCl生成物として、再生リチウムイオンふるいから分離され、ライン34を通って流れる。再生リチウムイオンふるいは、ミキサー36によって、懸濁液中に維持される。酸洗浄段階では、リチウムイオンふるいがリサイクルされ、回収されたリチウムが担持段階にリサイクルされないときに供給ブラインが担持段階で酸性化されないように、ライン38を介して水を添加することによって、残留酸がリチウムイオンふるいから洗浄される。洗浄および再生されたリチウムイオンふるいは、ライン40を通って、第1の撹拌リアクタ4に戻り、担持段階で再び使用される。希酸洗浄液は、洗浄および再生されたリチウムイオンふるいから分離され、溶離段階で追加の濃酸と共に使用されるためにライン44を通って流れる。
【0041】
一実施形態では、複数の担持段階が直列で利用され、向流で操作され得る。ブラインは、最初に、第1の担持段階で処理され得る。依然としていくらかの残留リチウムを含有する、第1の担持段階からの処理されたブラインは、第2の担持段階に送られ、第2の担持段階では、リチウムイオンふるいとの接触がブラインのリチウム含有量をさらに減少させる。いくらかのリチウムを含有するが、依然として利用可能なさらなるリチウム容量を有する、第2の担持段階からのリチウムイオンふるいは、第1の担持段階に送られ得る。次いで、第1の担持段階からの担持リチウムイオンふるいは、溶離段階に送られ得る。この手段により、不用なブラインのリチウム含有量を、さらに減少させることができる。不用なブラインのリチウム含有量をさらに減少させるために、このようにして追加の担持段階を利用することができる。
【0042】
担持リチウムイオンふるいを、複数の溶離段階で同様に処理することができ、それにより、リチウムイオンふるいは溶出液流に対して向流で送られる。この手段により、リチウムイオンふるいのリチウム含有量をより減少させ、溶出液(すなわち、リチウム生成物)中のリチウム濃度を増加させることができる。
【0043】
ブラインからリチウムイオンふるいへのリチウムイオンの取り込みの交換反応を式(1)に示す。
LIS.H+Li→LIS.Li+H (1)
式中、LIS.Hは、新たに再生された水素型のリチウムイオンふるいを表し、LIS.Liは、リチウム担持型のリチウムイオンふるいを表す。
【0044】
反応が進行すると、水素イオンがブラインに放出され、ブラインのpHが低下する。リチウムイオンふるいの活性成分は、例えば、メタチタン酸(MTA)などのチタンの酸化物であり得る。MTAは弱酸であるため、水素イオンに対する親和性が高い。その結果、水素イオンが利用可能な低pHでは、MTAは水素イオンをリチウムと容易に交換することができない可能性がある。リチウムイオンふるいはまた、少量のドープ剤をさらに含んでもよい。
【0045】
図2は、pHの関数として、金属イオン取込量を示す。リチウムの取り込みは、約6.5のpH未満では有意に低下し、約4のpH未満ではほとんどリチウムが取り込まれないことが分かる。リチウム担持が進むにつれて、ブラインのpHは低下する。pHが約4に低下すると、リチウムのさらなる取り込みは起こり得ない。
【0046】
この現象は、従来の高分子弱酸カチオン交換樹脂で観察されるものと同様である。この問題に対処するための従来の手法は、イオン交換樹脂を水酸化ナトリウムで予備中和することであり、水酸化ナトリウムは交換体をナトリウム型に変換し、その結果、担持中、溶液のpHは一定のままである。しかしながら、この手法は、ナトリウムイオンが大きすぎてリチウムイオンふるいに入り込むことができないため、リチウムイオンふるいでは機能しないだろう。
【0047】
一実施形態では、処理の前に、ブラインに、NaOHまたは別の塩基、例えば、炭酸ナトリウムもしくは水酸化アンモニウムを添加することによって、ブラインをLISと接触させる前に、pHを調整することができる。このような前処理は、最終pHがリチウムの取り込みを妨げるほど低くならないように、初期pHを上昇させる。しかしながら、この手法の欠点は、図2に示すように、pHレベルが上昇すると、リチウムイオンふるいによって取り込まれるナトリウムイオンの量が増加することである。さらに、pHが8よりも高くなると、水酸化マグネシウムが溶液から沈殿し得る。
【0048】
一実施形態では、ナトリウムの取り込みを最小限に抑えながら、リチウムの取り込みを最大限にするようにpHを維持するために、担持リアクタ中のブライン/リチウムイオンふるいスラリーを、NaOHなどのアルカリで中和することができる。pHは、一般に、約5よりも大きく約9未満、好ましくは6よりも大きく8未満であり得る。リチウムイオンふるいがMTAである場合、pHは好ましくは6~7の間である。
【0049】
式(2)によって示されるように、リチウムは、通常、塩酸などの酸を使用してLISから溶離され、同時にリチウムイオンふるいを再生し、リチウム生成物を生成する。この反応によって、リチウムイオンふるいは、酸を効果的に中和する。
Lis.Li+H→Lis.H+Li (2)
【0050】
図3に示すように、リチウムイオンふるいから溶離されるリチウムの量は、HClの濃度が高いほど多くなる。最適な溶離効率のために、酸濃度は、0.1M未満(図3中でmol・dm-3として定義)の濃度で維持され得る。図7に示すように、最適な溶離効率のための酸濃度は、3未満および1よりも大きいpH、好ましくは約2のpHに相当し得る。
【0051】
しかしながら、図3にも示すように、0.1Mを超える酸濃度では、リチウムイオンふるいから抽出されるチタンの量が増加し、それによって、リチウムイオンふるいが劣化し、その有用寿命が低下する。約0.1Mの酸濃度を超えると、過剰量のチタンが抽出され、寿命が極端に短くなる。
【0052】
リチウムイオンふるいのこのような劣化を最小限に抑える1つの方法は、LISと酸との間の接触時間を最小限に抑えることである。一実施形態では、リチウムイオンふるいは粉末形態であるため、イオン交換プロセスのキネティクスは非常に速く、上記の式(2)の交換反応は1時間未満でほとんど完了する。ある実施形態では、LISと溶離酸との間の接触時間は、1時間未満である。したがって、リチウムイオンふるいの劣化を最小限に抑えながら、リチウムイオンふるいからリチウムが基本的に完全に除去される。
【0053】
さらに、リチウムイオンふるい粒子の粒径は、本明細書に記載のシステムの設計において役割を担う。図4は、スラリー中で数時間空気撹拌した後に取得された、メタチタン酸リチウムイオンふるいの試料の典型的な粒径分布を示す。有効径(d10)は約0.5μmであり、材料の90%(体積基準)は0.4~40μmの範囲内である。有効径は、重量または体積基準で、すべての粒子の10%がその直径より小さく、すべての粒子の90%がその直径より大きい、粒子の直径である。この材料の有効径は、約0.5μmである。より粗い材料は、1時間未満で重力によって水スラリーから沈み得るが、より細かい粒子は、1日後でも容易に沈まない。いかなる特定の理論にも拘束されることを意図するものではないが、より大きなリチウムイオンふるい粒子は、合成プロセス中の焼結によって生成された微粒子の凝集体であると考えられる。結果として、大きな粒子は、プロセス液体との混合中に機械的摩耗を受けやすく、その結果、微粒子の割合が経時的に増加するだろう。その結果、重力沈降によるプロセス液体からのリチウムイオンふるいの分離は、理想的ではない。
【0054】
膜は、廃水処理のためのバイオリアクタで、ますます使用されている。典型的な膜バイオリアクタ(MBR)では、中空繊維、管状または平坦シート形態のいずれかの、0.1μm未満の孔径を有する精密濾過または限外濾過膜が、廃水およびバイオソリッド(生物固体)の懸濁液に浸漬される。透明な濾過/処理された廃水は、真空によって、膜を通して引かれる。廃水/バイオソリッドスラリーは、典型的には、エアスパージングによって撹拌される。空気撹拌は、バイオソリッドへの酸素移動を促進し、膜表面上のバイオソリッドの蓄積による膜ファウリングを防止する。
【0055】
膜バイオリアクタでは、懸濁固形分濃度は、典型的には、30g/L未満、より典型的には10~15g/Lである。より高い懸濁濃度は、用いられない、なぜなら、結果として生じるより高い非ニュートン流体粘度のために酸素移動が妨げられるからである。さらに、より高い懸濁固形分濃度は、膜流速を低下させ、および/または膜貫通圧を増加させる。膜バイオリアクタ中の浸漬膜の典型的な流速は、1平方メートル当たりの1時間当たり10~30リットルである(単位は、通常「LMH」と略記される)。
【0056】
一実施形態では、浸漬限外濾過または精密濾過膜プロセスは、リチウムイオンふるいをプロセス液体から分離する手段として、本発明で使用することができる。膜の孔径は、典型的には約1μm未満であり、最小のリチウムイオンふるい粒子よりも小さいため、ほぼ100%の固体分離を達成することができる。本発明では、酸素移動は問題ではない。しかしながら、水中曝気(空気撹拌)は、スラリーの必要な混合を提供することができるが、上昇する気泡は膜表面を洗い流して膜ファウリングを低減し、機械的混合と比較して、LIS粒子の摩耗および剪断を低減する。
【0057】
本明細書に記載の実施形態は、MBRなどの典型的な浸漬膜用途からの大きな逸脱である。リチウムイオンふるい粒子は、かなり高い流量を達成しながら、はるかに高い懸濁固形分濃度の処理を可能にする。従来のMBR用途で得られる流量は、典型的には、10~30KPaの膜貫通圧および30g/L未満の総懸濁固形(TSS)レベルで30LMH未満である。対照的に、本発明では、20KPaの膜貫通圧で300LMHもの高い流量が、100g/Lを超えるTSSレベルで、リチウムイオンふるいを用いて得られた。
【0058】
本発明によれば、懸濁固形分濃度は、約50g/L超、好ましくは100g/L超であり得る。いかなる特定の理論にも束縛されることを意図するものではないが、所定のリチウムイオンふるい-液体接触時間を達成するために必要なリアクタ体積を減少させるので、リアクタ中のより高い固形分濃度は有利であると考えられる。
【0059】
固定床イオン交換システムでは、酸溶離液は、床を通過するにつれて酸濃度が低くなり、上記の式(2)によって提供される反応によって中和される。リチウムイオンふるいと接触している酸のpHを3未満に維持し、溶離効率を維持するために、床に入る酸のpHは、1をかなり下回り得る。その結果、固定床でリチウムイオンふるいを再生する場合、床の入口端に向かうリチウムイオンふるいは、より濃縮された酸によって激しく劣化する。
【0060】
本発明によれば、リチウムイオンふるいは、リチウムイオンふるいが均一な濃度で酸と接触しているリアクタ中で、スラリーとして再生され得る。酸濃度は、0.1M未満の濃度、好ましくは3未満および1超のpHに対応する酸濃度、好ましくは約2のpHに維持され得る。この濃度は、濃度を所望の範囲(例えば、pH=2で)に維持するために、適切な手段によってリアクタ中の液体の酸濃度を連続的に測定し、必要に応じて濃酸を添加することによって維持され得る。
【0061】
リチウムイオンふるいの酸溶離によって生成される最終リチウム塩生成物中の、カルシウム、マグネシウム、カリウム、およびナトリウムなどの不純物を最小限に抑えるために、担持後で、かつ酸溶離の前に、担持リチウムイオンふるいを水と混合し、次いで、水を分離することによって、残留供給ブラインをリチウムイオンふるいから除去することができる。代替の実施形態では、担持リチウムイオンふるいを適切なフィルタを通して直接濾過することによって、残留供給ブラインを除去することができる。本発明によれば、リチウムイオンふるいの好ましい粒径は、0.4~40μmの範囲である。この範囲の固体粒子は、1μm未満の孔径を有する膜の代わりに、目開きが10μmを超える織布フィルタクロスなどのフィルタ媒体を用いて、従来の固体/液体分離デバイスを使用して、濾過および脱水することができる。したがって、供給ブラインの大部分は、担持リチウムイオンふるいから分離される。次いで、脱水したリチウムイオンふるいをフィルタ上で直接洗浄して、水中でリチウムイオンふるいをリスラリーする必要なく、残留ブラインをリチウムイオンふるいから除去することができる。例示的なフィルタの種類には、真空水平ベルトおよび圧力フィルタ、真空回転ドラムおよび真空回転ディスクおよび圧力フィルタ、圧力フィルタプレス、ならびに遠心分離が含まれるが、これらに限定されない。
【0062】
上述のように、酸を用いてリチウムをリチウムイオンふるいから溶離すると、酸性リチウム塩溶出液が得られる。リチウムイオンふるいは、再生リチウムイオンふるいによって回収されたリチウムが担持リアクタに戻るのを最小限に抑えるために、酸性リチウム塩溶出液から分離されることが好ましい。供給ブラインを担持リチウムイオンふるいから分離するために使用されるのと同様の手法を利用することができる。したがって、再生リチウムイオンふるいを水と混合し、次いで、水を分離することができる。あるいは、リチウムイオンふるいは、適切なフィルタ、好ましくは水洗能力を有するフィルタを通して、濾過することができる。
【0063】
再生リアクタに移送されるリチウムイオンふるいの水分含有量を最小限に抑えるように注意すべきである。過剰量の水がリチウムイオンふるいと共に再生リアクタに入ると、回収されたリチウム塩溶出液は希釈されすぎる。同様に、リチウムは、再生リアクタから取り出される担持リチウムイオンふるいに同伴する液体と共に回収されるべきである。
【0064】
以下の実施例1に示すように、メタチタン酸リチウムイオンふるいの作業能力は、リチウムイオンふるい1グラム当たり約0.01gのリチウムであり得る。乾燥基準でのリチウムイオンふるいの流れは、100gのリチウムイオンふるい/回収されたLiのグラムである。担持リアクタ中のスラリーが、100g/L(すなわち、約90重量%の水分および約10%の固形分重量、100グラムのリチウムイオンふるい当たり1リットルの水)の懸濁固形分濃度を含み、このスラリーを再生リアクタに直接移送した場合、(1gのリチウムイオンふるい/0.01g Li/100g/Lリチウムイオンふるい)=回収されたリチウム1グラム当たり1.0リットルの水が得られる。濃酸中の水を無視すると、溶出液中のリチウムの濃度は1g/lになる。
【0065】
再生リアクタ中の懸濁固形分濃度も100g/Lに維持され、この濃度で取り出される場合、再生リチウムイオンふるいに同伴するリチウムの量は、(1リットル/g Li×1g/L Li)=1gLi/回収されたLiのgである。言い換えれば、リチウムイオンふるいから溶離したすべてのリチウムは、リチウムイオンふるいで引き出される。次いで、このリチウムイオンふるいを担持リアクタに直接リサイクルして戻した場合、正味のリチウムは回収されない。
【0066】
再生リチウムイオンふるいスラリーを洗浄リアクタ中で水と混合して、リチウムイオンふるいを担持リアクタにリサイクルする前に、リチウム値を回復することができる。リチウムの90%をリチウムイオンふるいから分離するには、回収リチウム1グラム当たり9リットルの水を必要とする。次いで、洗浄リアクタ中の希釈された液体を、例えば、重力または膜によって分離することができる。その場合、リチウムの濃度は、わずか0.1g/lになる。しかしながら、この濃度は低すぎて実用的ではない。したがって、リチウムイオンふるいは、90%をかなり下回る水分含有量まで、脱水されるべきである。
【0067】
例えば、担持リチウムイオンふるいスラリーが水分50%(すなわち、1リットルの水/1000gのリチウムイオンふるい)の場合、リチウムイオンふるいは、(1リットルの水/1000gのリチウムイオンふるい)/(0.01gのLi/gリチウムイオンふるい)=回収されたLi 1グラム当たり0.1リットルの水しか運ばない。濃酸中の水を無視すると、溶出液中のリチウムの濃度は10g/リットルである。
【0068】
さらに、再生リチウムイオンふるいは、再生リアクタから除去されるときに、脱水されるべきである。そうでなければ、回収されたリチウムの大部分は、リチウムイオンふるいと共に担持リアクタにリサイクルされる。再生リチウムイオンふるいを高度に脱水したとしても、リチウムイオンふるいに同伴した水分に、リチウムが失われることが問題となる場合がある。例えば、再生リチウムイオンふるいを水分含有量が50重量%になるまで脱水した場合(すなわち、リチウムイオンふるい1000g当たり1リットルの水)、リチウムイオンふるいに同伴したリチウムの量は、(1リットルの水/1000gのリチウムイオンふるい)/(0.01gのLi/gリチウムイオンふるい)×10g Li/1L)=1g Li/回収されたLiのgである。言い換えれば、リチウムイオンふるいから溶離されたすべてのリチウムは、リチウムイオンふるいで引き出される。次いで、このリチウムイオンふるいを担持リアクタにリサイクルして戻した場合、正味のリチウムは回収されない。
【0069】
したがって、脱水したリチウムイオンふるいに同伴した液体からのリチウムは、回収されるべきである。例えば、再生リチウムイオンふるいを水で洗浄してもよい。次いで、リチウムは、洗浄水中に回収される。洗浄水の量は、リチウムの大部分を回収するのに十分であるべきであるが、回収されたリチウム塩溶液を過度に希釈するほどではない。これを達成するための1つの方法は、リチウムイオンふるいを水中でリスラリーし、次いで、スラリーからリチウムイオンふるいを再濾過することである。リチウムイオンふるいから90%のリチウムを洗浄するには、リチウムイオンふるい中の同伴した液体1mL当たり約9mLの水が必要であり、これらの条件下で1g/Lリチウムを含有するリチウム塩溶液の回収が可能になる。
【0070】
2回以上の向流洗浄を利用することによって、洗浄水の量を減少させることができ、同時に、リチウム濃度を増加させることができる。したがって、第1の洗浄段階から回収された脱水リチウムイオンふるいは、第2の洗浄段階で再び水中でリスラリーされ、次いで、さらに再脱水される。第2段階の脱水デバイスから回収された洗浄水は、新しい水の代わりに第1の洗浄段階で利用される。2つの向流洗浄段階を用いることにより、90%のリチウム回収に必要な水の量を、同伴した液体1mL当たり約9mLの水から同伴した液体1mL当たり約3mLの水に減少させることができ、回収されるリチウムの濃度を、1g/Lから約3g/Lに増加させることができる。
【0071】
さらなる実施形態では、スラリーは、真空水平ベルトフィルタなどのデバイスによって、脱水されてもよい。次いで、脱水したリチウムイオンふるいケーキを、フィルタ上で直接洗浄することができる。1つまたは複数の向流洗浄段階を、フィルタに用いることができる。別の選択肢として、遠心分離機を使用してもよい。遠心分離機を使用する場合、固体を水中でリスラリーし、次いで、遠心分離機で脱水することができる。いくつかの洗浄段階が使用される場合、第1の遠心分離からの脱水された固体は、再び水でリスラリーされ、次いで、第2の遠心分離で脱水され得る。第2の遠心分離からの遠心分離液は、第1の遠心分離に供給する固体をスラリー化するための水として使用することができる。このようにして追加の遠心分離を利用して、多段階向流固体洗浄を効果的に達成することができる。
【0072】
リチウムイオンふるいの粒径が小さすぎると、このような脱水がより困難になる。実際、粒子の大部分が、直径10マイクロメートルより大きい場合でも、直径10マイクロメートルよりはるかに小さい粒子の存在は、脱水を困難にする。特に、イオンふるいの平均粒径が0.1μm以下である場合、脱水が事実上不可能となる。
【0073】
本発明の別の実施形態では、乾燥リチウムイオンふるいは、空気分級機などの適切なデバイスによって分級することができ、または湿潤リチウムイオンふるいは、1~10マイクロメートル未満の直径を有する微粒子を除去するための水簸によって分級することができる。これにより、被処理液からのリチウムイオンふるいの分離が容易になる。微粒子の除去は、濾過速度を著しく改善し、濾過媒体の目詰まりを回避し、より低い水分含有量を有する濾過ケーキを生成する。このようにして微粒子を除去することにより、真空水平ベルトおよび圧力フィルタ、真空回転ドラムおよび真空回転ディスクおよび圧力フィルタ、圧力フィルタプレス、遠心分離機などの従来の固体/液体分離デバイスを、より有効に利用することができる。
【0074】
回収されたリチウム塩生成物の純度を最大にするために、供給ブラインは、担持リチウムイオンふるいから効率的に分離されるべきである。例えば、電池グレードの炭酸リチウムの純度要件は非常に厳しい。担持リチウムイオンふるいに保持された残留供給ブラインは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの供給ブライン中の不純物で生成物を汚染する。ブライン中のこれらの不純物の濃度は、リチウムよりもはるかに高いため、最小限の量のブラインのキャリーオーバーでさえ問題となる。実際、担持リチウムイオンふるいの同伴したブラインからの不純物寄与は、ほとんどの場合、リチウムイオンふるい上で実際に交換された不純物の量よりも潜在的に大きい。回収されたリチウム溶液を精製するために、石灰/ソーダおよびイオン交換軟水化などの追加のプロセスを使用することができるが、これらの追加のプロセスステップは、追加の資本および稼働費用を伴う。しかしながら、再生リアクタに通過させる前に、担持リチウムイオンふるいを効率的に脱水および洗浄することにより、これらの高価なプロセスの必要性を最小限に抑えることができる。上述のように、リチウムイオンふるいが直径1~10マイクロメートル未満の有意な量の粒子を有しない限り、従来の固体/液体分離デバイスで効率的な脱水を達成することができる。さらに、多段階向流洗浄を用いることによって、洗浄水要件を低減することができる。
【0075】
本発明は、例としてのみ理解されるように書かれ、本出願の範囲を限定することを意図するものではない、例示的な実施形態を参照して以下に説明する。
【実施例
【0076】
本発明の一実施形態によるプロセスを実証するために、試験ユニットを構築した。試験ユニットの略図を図5に示す。
【0077】
試験ユニットは、6つのリアクタ(R1~R6)からなり、それぞれが空気撹拌ディフューザを備え、そのうちの5つが浸漬膜モジュールを備えていた。リチウムイオンふるいの酸再生に利用されるリアクタR4は、膜を備えていなかった。各リアクタの作業体積は、約1.1リットルの作業体積を有するリアクタR4を除いて、約5リットルであった。
【0078】
リチウムイオンふるいとしては、チタン酸リチウム(LTO)を使用した。LTOは、水酸化リチウムと二酸化チタンとを、約2.2:1のモル比で700℃の温度で、4時間反応させることによって合成した。上述の図4は、この実施例で使用されたLTOの粒径分布を提供する。合成から生成した最初のLTOは、0.2N HCl中で16時間酸洗いされることによりメタチタン酸(HTO)に変換され、次いで、得られたHTOを水で洗浄した。リアクタR1およびリアクタR2に、最初にLISの水性スラリー100g/Lを投入し、一方、残りのリアクタに、最初にLISのスラリー500g/Lを投入した。リチウムイオンふるいを、蠕動ポンプによって、スラリーとしてリアクタからリアクタに搬送した。リチウムイオンふるいスラリーの流速は、固形分移動速度が乾燥重量基準で約100g/hになるように調整した。
【0079】
膜モジュールは、有効膜面積0.1mのSumitomo Electric Corporation製のラボスケール浸漬型POREFLON(商標)ユニットであった。蠕動ポンプを使用して、真空によって膜を通して液体を引いた。真空は、40kPa未満に維持した。
【0080】
リチウム含有ブラインは、南アーカンソーのSmackover層から得られたブラインから構成されており、以下の表1に示す組成を有していた。プロセスに従って、ブラインからリチウムを抽出した後、ブラインを塩化リチウムで再強化し、プロセスにリサイクルした。結果として、供給ブライン中のリチウム濃度は、受け取った最初のブラインよりもいくぶん高かった。ナトリウムおよびカリウム濃度は、公表されたブライン分析に基づいて推定した。
【0081】
担持リアクタであるリアクタR1は、pH7.8が維持されるように、1N NaOHの添加を自動的に制御するpH制御器を備えていた。これにより、イオン交換反応により生じた酸を、連続的に中和した。供給ブラインをリアクタR1に導入し、HTOと接触させた。HTOを500g/Lスラリーとして、リアクタR6からリアクタR1に供給した。リアクタR6からの濃縮スラリーを供給ブラインと混合した結果、リアクタR1中のリチウムイオンふるいの固形分濃度は約100g/Lであった。HTOがブラインからリチウムイオンを抽出すると、HTOは部分的にLTOに変換された。リチウムが枯渇した(すなわち、不用な)ブラインをポンプによって、膜を通して引いた。
【0082】
担持リチウムイオンふるい(すなわち、LTO)を、リアクタR1からブラインスラリーとして引き出し、ブライン洗浄リアクタであるリアクタR2に向けた。水をリアクタR2に供給して、残留ブラインをLTOから洗浄した。洗浄水は、別の浸漬膜モジュールを介してリアクタR2から引き出された。
【0083】
担持/洗浄されたLISを、水スラリーとしてリアクタR2から引き出し、濃縮リアクタであるリアクタR3に向けた。水は、別の浸漬膜モジュールを介してリアクタR3から引き出され、したがって、リアクタR3中の固形分濃度を約500g/Lまで増加させた。
【0084】
約500g/Lの固形分濃度の担持/洗浄されたLISの濃縮スラリーをリアクタR3から引き出し、再生リアクタであるリアクタR4に向けた。リアクタR4中のリチウムイオンふるいを、約0.2Mの濃度の塩酸と接触させた。リアクタR4中のリチウムイオンふるい固形分濃度は約500g/Lであった。導電率制御器によって、酸濃度を監視し、5M HClを添加することにより、150mS/cmの導電率設定点に、一定のレベルに維持した。リチウムイオンふるいを酸と接触させると、LTO形態からHTO形態に変換されて戻り、塩化リチウムと共に約0.2M塩酸のリチウムイオンふるいスラリーが得られた。リアクタR4には膜が備えられておらず、HCl/塩化リチウムのリチウムイオンふるいスラリーを、リアクタR5に単にオーバーフローさせた。0.2Mの酸濃度は、LISからのチタンの過剰な溶解のために好ましくないことが認識されているが、この例はなおも本発明のプロセスを例示する。
【0085】
リアクタR5は、2つの向流操作の酸洗浄リアクタのうちの第1のものであった。リアクタR5中で、リチウムイオンふるいからHCl/塩化リチウムの大部分を洗浄し、リアクタR6で、リチウムイオンふるいから残留HCl/塩化リチウムの大部分を洗浄した。約500g/Lの固形分濃度でリアクタR5中のリチウムイオンふるいを、リアクタR6からの洗浄水と接触させた。酸洗浄水は、別の浸漬膜モジュールを介して、リアクタR5から引き出された。リアクタR5から引き出した酸洗浄水は、プロセスから回収された塩化リチウム生成物を構成した。約500g/Lの濃度でリチウムイオンふるいのスラリーをリアクタR5から引き出し、リアクタR6に向けた。
【0086】
リアクタR6に添加した新しい水は、リチウムイオンふるいから、残りのHCl/塩化リチウムの大部分を洗浄した。洗浄水は、別の浸漬膜モジュールを介してリアクタR6から引き出され、リアクタR5に向けられた。これによって、リアクタR6の洗浄水中の塩化リチウムの濃度は、リアクタR4中で、リチウム濃度の10%未満に低下した。リチウムイオンふるい/洗浄水スラリーをリアクタR6から引き出し、リアクタR1に戻し、供給ブラインからリチウムを抽出するために再使用した。
【0087】
連続12時間の試験運転を行った。不用なブラインおよび生成物のアリコートをサンプリングし、1時間ごとに分析した。運転の過程にわたる不用液および生成物濃度を示すグラフを図6に示す。表1にまとめた結果は、10時間の運転後に採取した1時間の複合試料からのものであった。リチウム濃度は、244mg/Lから61mg/Lに低下し、75%の回収率であった。担持リアクタ中の液体滞留時間は、約1時間であった。
【0088】
リチウム生成物は、4,300mg/Lのリチウム濃度を含んでいた。生成物から除去されたリチウム(2,322mg/h)は、ブラインから実際に抽出されたリチウム(957mg/h)よりも多かった。いかなる特定の理論にも拘束されることを意図するものではないが、差分(1,365mg/h)は、HCl中での最初の酸洗い中に、LTOから完全には除去されなかったリチウムイオンふるい上の残留リチウムである可能性が考えられる。実際にブラインから抽出されたリチウムに基づくと、リチウムイオンふるい容量は9.6mg/gであった。除去リアクタ中の液体滞留時間は、2.2時間であった。担持および回収されたリチウムに基づくと、リチウム濃縮係数は約10倍であった。
【0089】
供給ブラインは、22,000mg/Lのカルシウム濃度を含有していたが、生成物は、わずか1,400mg/Lのカルシウム濃度を含有していた。供給物中のカルシウムのリチウムに対する比は、90であった。生成物中の比は、0.33であった。しかしながら、生成物中のリチウムの約半分のみが、実際にブラインから抽出された。ブラインから抽出された生成物中のリチウムのみを考慮すると、生成物中のCaのLiに対する比は0.62であり、これは90/0.62=145の濃縮係数を表す。
【0090】
供給ブラインは、43,000mg/Lの推定ナトリウム濃度を含有していたが、生成物は、わずか9,770mg/Lのナトリウム濃度を含有していた。供給物中の、ナトリウムのリチウムに対する比は、176であった。生成物中の比は、2.3であった。ブラインから抽出された生成物中のリチウムのみを考慮すると、生成物中のNaのLiに対する比は4.3であり、これは176/4.3=41の濃縮係数を表す。
【0091】
供給ブラインは、2,170mg/Lのマグネシウム濃度を含有していたが、生成物は、わずか76mg/Lのマグネシウム濃度を含有していた。供給物中の、マグネシウムのリチウムに対する比は、8.9であった。生成物中の比は、0.018であった。ブラインから抽出された生成物中のリチウムのみを考慮すると、生成物中のMgのLiに対する比は0.034であり、これは8.9/.034=262の濃縮係数を表す。
【0092】
したがって、本明細書に記載のシステムおよび方法は、高濃度のカルシウム、ナトリウム、およびマグネシウムを含有するブラインからリチウムを選択的に回収する能力を有する。
【0093】
この例では、1つだけのブライン洗浄リアクタを使用したので、いくらかのブラインは、担持リチウムイオンふるい上で再生リアクタを通過し、したがって、いくらかのカルシウム、ナトリウム、および/またはマグネシウムを担持リチウムイオンふるい上で再生リアクタに運んでいる。いかなる特定の理論にも拘束されることを意図するものではないが、第2のブライン洗浄リアクタを含めることによって、結果を改善することができると考えられる。さらに、上述のように、担持pHを6~7に低下させることによって、リチウム容量を大幅に低下させることなく、リチウムイオンふるい上に担持されるナトリウムの量を減少させることができた。
【0094】
比較例
Chitrakarの図4aに示す吸着剤からのリチウムおよびチタンの初期抽出に対するHCl濃度の効果を評価するために、Chitrakarで重要な試験が行われた。Chitrakarの図4aは、HCl濃度の関数として、抽出されたリチウムおよびチタンの量を示す。Chitrakarのデータは、HCl濃度が0.2M以上であるべきであることを示している。実際、本発明を実施するのに好ましい酸濃度である0.1Mの酸濃度未満では吸着剤からのリチウム抽出についてのデータは、Chitrakarの図4aには示されていない。本発明では、LTO吸着剤のリチウム成分およびチタン成分は、Chitrakarによって予測されるよりもはるかに低い酸濃度で抽出される。
【0095】
本明細書における「垂直」、「水平」などの用語への言及は、限定ではなく例として行われ、基準系を確立する。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明を説明するために様々な他の基準系を用いることができることが理解される。本発明の特徴は、必ずしも図面に縮尺通りに示されていないことも理解される。さらに、「から構成される(composed of)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」という用語またはそれらの変形が、詳細な説明または特許請求の範囲のいずれかで使用される場合、そのような用語は、「含む(comprising)」という用語と同様に、包含的かつ非限定的であることを意図している。
【0096】
本明細書における「約(about)」、「約(approximately)」、および「実質的に(substantially)」などの近似の文言によって修飾された用語への言及は、明記された厳密な値に限定されるものではない。近似の文言は、値を測定するために使用される機器の精度に対応し得、機器の精度に特に依存しない限り、記載された値の±10%を示し得る。
【0097】
別の特徴に「接続」または「結合」された特徴は、他の特徴に直接接続もしくは結合されてもよく、または代わりに、1つもしくは複数の介在する特徴が存在してもよい。介在する特徴が存在しない場合、特徴は、別の特徴に「直接接続される」または「直接結合される」ことができる。少なくとも1つの介在する特徴が存在する場合、特徴は、別の特徴に「間接的に接続される」または「間接的に結合される」ことができる。別の特徴「上に」または「接触する」特徴は、他の特徴上に直接もしくは直接接触してもよく、または代わりに、1つもしくは複数の介在する特徴が存在してもよい。介在する特徴が存在しない場合、特徴は、別の特徴と「直接に(directly on)」または「直接接触」することができる。少なくとも1つの介在する特徴が存在する場合、特徴は、別の特徴と「間接的に(indirectly on)」または「間接的に接触」することができる。
【0098】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含むことが意図される。「含む(comprises)」および/または「含む(comprising)」という用語は、本明細書で使用される場合、記載された特徴、整数、ステップ、操作、要素、および/または構成成分の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、構成成分、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではないことがさらに理解されよう。
【0099】
本発明は、様々な実施形態の説明によって例示されており、これらの実施形態は、かなり詳細に説明されているが、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に制限すること、またはいかなる方法であっても限定することは、本出願人の意図ではない。追加の利点および修飾は、当業者には容易に明らかになるであろう。したがって、より広い態様での本発明は、特定の詳細、代表的な装置および方法、ならびに示されかつ説明された例示的な例に限定されない。当業者が、特許請求される発明を作成および使用することを十分に可能にするために、本出願人は、様々な詳細な実施形態の利点および欠点の両方に関する情報を提供している。当業者であれば、いくつかの用途において、上で詳述したような特定の実施形態の欠点は、完全に回避され得るか、または特許請求されるような本発明によって提供される全体的な利点によって上回ることができることを理解するであろう。したがって、本出願人の一般的な発明概念の趣旨または範囲から逸脱することなく、上記の詳細な教示から逸脱することができる。
(発明の開示)
(項目1)
リチウム含有ブラインからリチウムイオンを回収するためのプロセスであって、
第1のリアクタ内で、前記リチウム含有ブラインをリチウムイオンふるいと接触させて、前記リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体を形成することと、
第2のリアクタ内で、リチウムイオンを前記リチウムイオンふるいから脱錯化して、前記リチウムイオンふるいから分離された酸性リチウム塩溶出液を形成することと、
を含み、
前記リチウムイオンふるいは、チタンまたはニオブの酸化物を含み、
前記第1のリアクタのpHが、無水アンモニアまたは水酸化アンモニウムを含むアルカリの添加によって、一定の値に維持される、
プロセス。
(項目2)
前記脱錯化が、酸を使用した溶離によって行われる、項目1に記載のプロセス。
(項目3)
前記酸の濃度が、前記酸の添加によって、一定の値に維持される、項目2に記載のプロセス。
(項目4)
前記酸の前記濃度が、0.1M未満である、項目2または項目3に記載のプロセス。
(項目5)
前記酸のpHが、1を超え3未満である、項目2から4のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目6)
前記酸のpHが、約2である、項目2から4のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目7)
前記pHが、4を超え9未満の一定の値に維持される、項目1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目8)
前記第1のリアクタ内の前記pHが、6を超え8未満である、項目1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目9)
前記リチウムイオンふるいの90%超が、40μm未満の平均粒子直径を有し、前記リチウムイオンふるいの90%超が、0.4μmを超える平均粒子直径を有する、項目1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目10)
前記リチウムイオンふるいの粒子の90体積%超が、直径100μm未満および直径0.5μm超である、項目1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目11)
前記リチウムイオンふるいの粒子の90体積%超が、直径0.5μm超である、項目1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目12)
前記リチウムイオンふるいが、メタチタン酸を含む、項目1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目13)
項目1から12のいずれか一項に記載のプロセスであって、
固体/液体分離デバイスを用いて、前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体を前記ブラインから分離することと、
前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体を水と接触させた後、前記第2のリアクタ中で、脱錯化することと、
をさらに含む、プロセス。
(項目14)
項目1から13のいずれか一項に記載のプロセスであって、
固体/液体分離デバイスを用いて、前記リチウムイオンふるいを前記酸性リチウム塩溶出液から分離することと、
前記第2のリアクタ中での脱錯化後に、前記リチウムイオンふるいを水と接触させて、再生リチウムイオンふるいおよび希酸水洗浄液を得ることと、
前記再生リチウムイオンふるいを前記第1のリアクタに加えることと、
をさらに含む、プロセス。
(項目15)
前記希酸水洗浄液および追加の濃酸を、前記第2のリアクタに添加することをさらに含む、項目1から14のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目16)
前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体と前記酸との平均接触時間が、1時間未満である、項目2から15のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目17)
前記第1のリアクタが、限外濾過または精密濾過膜を含む、項目1から16のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目18)
空気が、前記第1のリアクタの内容物を撹拌するために使用される、項目1から17のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目19)
前記リチウムイオンふるいの濃度が、50g/L超である、項目1から18のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目20)
前記限外濾過膜または前記精密濾過膜を通る流速が、30kPa未満の膜貫通圧で30LMHを超える、項目17から19のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目21)
前記リチウム含有ブラインを前記リチウムイオンふるいと接触させる前に、1μm未満の平均粒子直径を有するリチウムイオンふるいを除去することをさらに含む、項目1から20のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目22)
前記第2のリアクタ中で、前記リチウムイオンを前記リチウムイオンふるいから脱錯化する前に、前記リチウムイオンふるいを含む前記リチウムイオン錯体を、水分含有量が90重量%未満になるまで脱水することをさらに含む、項目1から21のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目23)
前記第1のリアクタに添加する前に、前記再生リチウムイオンふるいを脱水することをさらに含む、項目14から22のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目24)
前記リチウムイオンふるいを水と接触させることが、前記リチウムイオンふるいから脱錯化された前記リチウムイオンの50%超を、前記再生リチウムイオンふるいを前記第1のリアクタに加える前に、前記リチウムイオンふるいから洗浄するように、前記リチウムイオンふるいを十分な水と接触させることを含む、項目14から23のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目25)
前記リチウムイオンふるいを水と接触させることが、前記リチウムイオンふるいから脱錯化された前記リチウムイオンの50%超を、前記再生リチウムイオンふるいを前記第1の撹拌リアクタに加える前に、前記リチウムイオンふるいから洗浄するように、2つ以上の向流段階で前記リチウムイオンふるいを水と接触させることを含む、項目24に記載のプロセス。
(項目26)
前記アルカリが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、または水酸化カルシウムをさらに含む、項目1から25のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目27)
前記酸が、塩酸または硫酸を含む、項目2から26のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目28)
前記リチウムイオンふるいの濃度が、100g/L超である、項目1から27のいずれか一項に記載のプロセス。
(項目29)
リチウム含有ブラインからリチウムイオンを回収するためのプロセスであって、
第1のリアクタ内で、リチウム含有ブラインをリチウムイオンふるいと接触させて、リチウムイオンふるいを含むリチウムイオン錯体を形成することと、
第2のリアクタ内で、リチウムイオンを前記リチウムイオンふるいから脱錯化して、前記リチウムイオンふるいから分離された酸性リチウム塩溶出液を形成することと、
を含み、
前記リチウムイオンふるいが、チタンまたはニオブの酸化物を含み、
前記第1のリアクタのpHが、8%w/w未満の濃度の水酸化ナトリウムを含むアルカリの添加によって、一定の値に維持される、
プロセス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7