(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】複数の油の噴射器、そのような噴射器を備えた大型エンジン、潤滑方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
F01M 1/08 20060101AFI20240315BHJP
F01M 1/16 20060101ALI20240315BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20240315BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240315BHJP
F02F 1/20 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
F01M1/08 E
F01M1/16 F
F01M1/06 E
F02D45/00
F02F1/20
(21)【出願番号】P 2021573374
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(86)【国際出願番号】 DK2020050165
(87)【国際公開番号】W WO2020249175
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-03-07
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】511081141
【氏名又は名称】ハンス イェンセン ルブリケイターズ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン ニコライ
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-243355(JP,A)
【文献】特開2006-183468(JP,A)
【文献】特表2013-533433(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0090929(US,A1)
【文献】特開平11-294133(JP,A)
【文献】特開昭60-032917(JP,A)
【文献】国際公開第2016/173601(WO,A1)
【文献】特開2014-194265(JP,A)
【文献】特開2018-193995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/00
F16N 1/00
F16K 1/00 , 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に往復ピストンを備えるシリンダ(1)を有する燃焼エンジンであって、
前記エンジンは、加圧された第1の潤滑剤(50A)を含む第1の潤滑剤供給部(29A)、及び、加圧された第2の潤滑剤(50B)を含む第2の潤滑剤供給部(29B)を有し、前記第1の潤滑剤(50A)は、前記第2の潤滑剤(50B)とは異なる種類であり、前記エンジンは、前記シリンダ(1)の周囲に沿って配設され、前記シリンダ(1)の壁(3)に固定され、このシリンダ壁(3)を貫通して延びる複数の潤滑剤噴射器(4)を有し、前記噴射器(4)は、前記周囲における
複数の位置において前記シリンダ(1)内に潤滑剤噴射を行うように構成され、前記複数の潤滑剤噴射器(4)の各々は、前記第1の潤滑剤(50A)を前記シリンダ(1)内に噴射するために、第1の潤滑剤供給導管(9A)を介して前記第1の潤滑剤供給部(29A)に接続され、前記第2の潤滑剤(50B)を前記シリンダ(1)内に噴射するために、第2の潤滑剤供給導管(9B)を介して前記第2の潤滑剤供給部(29B)に接続され、前記噴射器の各々は、前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)を選択的に噴射するように構成され、前記エンジンは、前記複数の噴射器(4)による前記第1及び第2の潤滑剤(50A、50B)の噴射量及び噴射タイミングを制御するコントローラ(11)を更に有しており、
各噴射器(4)は、
-前記第1の潤滑剤供給導管(9A)から加圧された前記第1の潤滑剤(50A)を受け入れる第1の潤滑剤インレット(12A)、及び、前記第2の潤滑剤供給導管(9
B)から加圧された前記第2の潤滑剤(50
B)を受け入れる第2の潤滑剤インレット(12B)と、
-噴射段階での潤滑剤噴射のために前記シリンダ(1)内に延びるノズル開口部(5’)を備える少なくとも1つのノズル(5)と、
-前記第1及び第2の潤滑剤インレット(12A、12B)から前記少なくとも1つのノズル(5)を介して前記シリンダ(1)内へ潤滑剤を流すための、前記第1及び第2の潤滑剤インレット(12A、12B)から前記少なくとも1つのノズル(5)までの潤滑剤流路と、
-前記潤滑剤流路内にアクチュエータ駆動の選択弁システム(13)と、
を有し、
前記選択弁システム(13)は、アイドル状態から、前記噴射段階での前記少なくとも1つのノズル(5)を介した前記シリンダ(1)内への前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)の噴射へと、選択的に切り替えるように構成され、各噴射器(4)は、前記選択弁システム(13)を駆動するアクチュエータ(32、33)を有し、前記アクチュエータ(32、33)は、前記コントローラ(11)に機能的に接続され、前記選択弁システム(13)を選択的に駆動するために前記コントローラ(11)により作動されるように構成され、それにより、前記コントローラ(11)による前記アクチュエータ(32、33)の作動の結果として、前記コントローラ(11)による制御下において前記第1の潤滑剤(50A)又は前記第2の潤滑剤(50B)を噴射させるようにする、エンジン。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記コントローラ(11)から噴射段階信号を受信する電気的接続部(10、10’)によって前記コントローラ(11)に電気的に接続された電気制御アクチュエータ(32、33)であり、前記噴射段階信号は、前記選択弁システム(13)による前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)の選択と、前記噴射タイミングとを示す、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記選択弁システム(13)は、前記アクチュエータ(32、33、36)に接続され、前記アクチュエータ(32、33、36)によってアイドル段階の位置又は方向から駆動される可動選択弁部材(25)を有し、前記アイドル段階において前記選択弁部材(25)は、第1又は第2の噴射段階位置又は方向への選択的な流路を遮断し、前記選択弁部材(25)は、前記噴射段階信号に応じて、前記第1の噴射段階位置又は方向にあるときには前記第1の潤滑剤(50A)のための流路を開き、前記第2の噴射段階位置又は方向にあるときには前記第2の潤滑剤(50B)のための流路を開き、それにより、前記噴射段階において前記流路を介して前記シリンダ内に前記潤滑剤を流すようにする、請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記流路は、前記第1の
潤滑剤インレット(12A)から前記選択弁システム(13)への第1の管(26A)と、前記第2の
潤滑剤インレット(12B)から前記選択弁システム(13)への第2の管(26
B)と、前記選択弁システム(13)から前記ノズル開口部(5’)への第3の管(27)と、を有し、前記選択弁システム(13)は、前記第1の管(26A)から前記第3の管(27)内への前記第1の潤滑剤(50A)の流れ、又は、前記第2の管(26B)から前記第3の管(27)内への前記第2の潤滑剤(50B)の流れのために、選択的に開くように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項5】
前記選択弁部材(25)は円筒形であり、前記選択弁システム(13)は固定弁部材(23)を有し、前記固定弁部材(23)は円筒形のブッシュ(24)を含み、円筒形の前記選択弁部材(25)が、前記ブッシュ(24)の長手方向軸線に沿った変位又はそれを中心にした回転のうちの少なくとも一方のために前記ブッシュ内に配置され、前記選択弁部材(25)は、当該選択弁部材(25)が前記第1の
噴射段階位置又は方向にあるときに前記第1の管(26A)を前記第3の管(27)と接続し、当該選択弁部材(25)が前記第2の
噴射段階位置又は方向にあるときに前記第2の管(26A)を前記第3の管(27)と接続するように配置された、少なくとも1つのスループット部(25A、25C、25D)を有する、請求項3に従属するときの請求項4に記載のエンジン。
【請求項6】
前記ノズル(5)は前記シリンダ壁(3)の内側に設けられ、前記アクチュエータ(32、33、36)は前記シリンダ壁(3)の外側に設けられ、前記アクチュエータ(32、33、36)は、アクチュエータ延長部により前記選択弁部材(25)に機械的に接続されて、前記アクチュエータ延長部(31)によって前記選択弁部材(25)を駆動する、請求項
3に記載のエンジン。
【請求項7】
前記噴射器(4)はベース(30)を有し、前記ベース(30)は前記第1及び第2の
潤滑剤インレット(12A、12B)を有し、堅固なフローチャンバ(16)は、前記ベース(30)を前記少なくとも1つのノズル(5)にしっかりと接続し、前記噴射器(4)は、前記ベース(30)が前記シリンダ(1)の外側にあり、且つ、前記少なくとも1つのノズル(5)が前記シリンダ壁(3)の内側に固定された状態で、前記シリンダ壁(3)に固定され、前記フローチャンバ(16)は、前記シリンダ(1)内へ噴射するために、前記第1及び第2の潤滑剤インレット(12A、12B)から前記フローチャンバ(16)を介して前記少なくとも1つのノズル(5)へ向かう潤滑剤流れのための流路を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項8】
前記エンジンは、船舶用エンジン又は発電所用エンジンである、請求項1~7のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項9】
前記エンジンは、大型低速運転2ストロークエンジンである、請求項1~8のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項10】
内部に往復ピストンを備えるシリンダ(1)を有する燃焼エンジンを潤滑する方法であって、
前記エンジンは、加圧された第1の潤滑剤(50A)を含む第1の潤滑剤供給部(29A)、及び、加圧された第2の潤滑剤(50B)を含む第2の潤滑剤供給部(29B)を有し、前記第1の潤滑剤(50A)は、前記第2の潤滑剤(50B)とは異なる種類であり、前記エンジンは、前記シリンダ(1)の周囲に沿って配設され、前記シリンダ(1)の壁(3)に固定され、このシリンダ壁(3)を貫通して延びる複数の潤滑剤噴射器(4)を有し、前記噴射器(4)は、前記周囲における
複数の位置において前記シリンダ(1)内に潤滑剤噴射を行うように構成され、前記複数の潤滑剤噴射器(4)の各々は、前記第1の潤滑剤(50A)を前記シリンダ(1)内に噴射するために、第1の潤滑剤供給導管(9A)を介して前記第1の潤滑剤供給部(29A)に接続され、前記第2の潤滑剤(50B)を前記シリンダ(1)内に噴射するために、第2の潤滑剤供給導管(9B)を介して前記第2の潤滑剤供給部(29B)に接続され、前記噴射器の各々は、前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)を選択的に噴射するように構成され、前記エンジンは、前記複数の噴射器(4)による前記第1及び第2の潤滑剤(50A、50B)の噴射量及び噴射タイミングを制御するコントローラ(11)を更に有しており、
各噴射器(4)は、
-前記第1の潤滑剤供給導管(9A)から加圧された前記第1の潤滑剤(50A)を受け入れる第1の潤滑剤インレット(12A)、及び、前記第2の潤滑剤供給導管(9
B)から加圧された前記第2の潤滑剤(50
B)を受け入れる第2の潤滑剤インレット(12B)と、
-噴射段階での潤滑剤噴射のために前記シリンダ(1)内に延びるノズル開口部(5’)を備える少なくとも1つのノズル(5)と、
-前記第1及び第2の潤滑剤インレット(12A、12B)から前記少なくとも1つのノズル(5)を介して前記シリンダ(1)内へ潤滑剤を流すための、前記第1及び第2の潤滑剤インレット(12A、12B)から前記少なくとも1つのノズル(5)までの潤滑剤流路と、
-前記潤滑剤流路内にアクチュエータ駆動の選択弁システム(13)と、
を有し、
前記選択弁システム(13)は、アイドル状態から、前記噴射段階での前記少なくとも1つのノズル(5)を介した前記シリンダ(1)内への前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)の噴射へと、選択的に切り替えるように構成され、各噴射器(4)は、前記選択弁システム(13)を駆動するアクチュエータ(32、33)を有し、前記アクチュエータ(32、33)は、前記コントローラ(11)に機能的に接続され、前記選択弁システム(13)を選択的に駆動するために前記コントローラ(11)により作動されるように構成され、それにより、前記コントローラ(11)による前記アクチュエータ(32、33)の作動の結果として、前記コントローラ(11)による制御下において前記第1又は第2の潤滑剤を噴射させるようにし、
前記方法は、前記第1の潤滑剤(50A)又は前記第2の潤滑剤(50B)を用いた噴射段階を開始するために前記コントローラ(11)によってアクチュエータ(32、33)を作動させるステップを有し、その結果として、前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)を前記流路を介して流すために前記選択弁システム(13)を開いて、前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)を前記シリンダ(1)内に噴射させ、前記噴射段階の終了時に、前記アクチュエータにより潤滑剤供給のための前記選択弁システム(13)を閉じさせるようにする、方法。
【請求項11】
前記アクチュエータ(32、33、36)は、前記コントローラ(11)から噴射段階信号を受信する電気的接続部(10、10’)によって前記コントローラ(11)に電気的に接続された電気制御アクチュエータであり、前記噴射段階信号は、噴射するための前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)の選択と、前記噴射タイミングとを示し、前記方法は、前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)を前記シリンダ(1)内に噴射するための流路を開く前記噴射段階信号に応じて、前記アクチュエータ(32、33、36)により前記噴射段階信号を受信するステップを有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記選択弁システム(13)は、前記アクチュエータ(32、33、36)に接続され、前記アクチュエータ(32、33、36)によってアイドル段階の位置又は方向から駆動される可動選択弁部材(25)を有し、前記アイドル段階において前記選択弁部材(25)は、第1又は第2の噴射段階位置又は方向への選択的な流路を遮断し、前記選択弁部材(25)は、前記噴射段階信号に応じて、前記選択弁部材(25)が前記第1の噴射段階位置又は方向にあるときには前記第1の潤滑剤(50A)のための流路を開き、前記選択弁部材(25)が前記第2の噴射段階位置又は方向にあるときには前記第2の潤滑剤(50B)のための流路を開き、それにより、前記噴射段階において前記流路を介して前記シリンダ内に前記潤滑剤を流すようにし、前記方法は、前記アクチュエータ(32、33、36)により前記噴射段階信号を受信するステップと、前記噴射段階信号に応じて前記選択弁部材(25)を前記アクチュエータ(32、33、36)によって第1又は第2の噴射段階位置又は方向に移動させるステップと、それに応じて前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)を前記シリンダ(1)内に噴射するための前記流路を開くステップと、を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記流路は、前記第1の
潤滑剤インレット(12A)から前記選択弁システム(13)への第1の管(26A)と、前記第2の
潤滑剤インレット(12B)から前記選択弁システム(13)への第2の管と、前記選択弁システム(13)から前記ノズル開口部(5’)への第3の管(27)と、を有し、前記方法は、前記選択弁システム(13)によって選択的に、前記第1の管(26A)から前記第3の管(27)内へ前記第1の潤滑剤(50A)を流すために開くか、又は、前記第2の管(26B)から前記第3の管(27)内へ前記第2の潤滑剤(50B)を流すために開くステップを有する、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記選択弁部材(25)は円筒形であり、前記選択弁システム(13)は固定弁部材(23)を有し、前記固定弁部材(23)は円筒形のブッシュ(24)を含み、円筒形の前記選択弁部材(25)が、前記ブッシュ(24)の長手方向軸線に沿った変位又はそれを中心にした回転のうちの少なくとも一方のために前記ブッシュ内に配置され、前記選択弁部材(25)は、前記第1の
噴射段階位置又は方向において前記第1の管(26A)を前記第3の管(27)と接続し、前記第2の
噴射段階位置又は方向において前記第2の管(26A)を前記第3の管(27)と接続するように配置された、少なくとも1つのスループット部(25A、25C、25D)を有し、前記方法は、前記噴射段階信号に応じて選択的に、前記第1の
噴射段階位置又は方向において前記第1の管(26A)を前記第3の管(27)と接続するか、又は、前記第2の
噴射段階位置又は方向において前記第2の管(26A)を前記第3の管(27)と接続するステップを有する、請求項
12に従属するときの請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ノズル(5)は前記シリンダ壁(3)の内側に設けられ、前記アクチュエータ(32、33、36)は前記シリンダ壁(3)の外側に設けられ、前記アクチュエータ(32、33、36)は、アクチュエータ延長部(31)により前記選択弁部材(25)に機械的に接続され、前記方法は、前記アクチュエータ延長部(31)を用いて前記アクチュエータ(32、33、36)によって前記選択弁部材(25)を移動させるステップを有する、請求項
12に記載の方法。
【請求項16】
前記方法は、複数の噴射段階を含む噴射サイクル内において少なくとも2回、前記アクチュエータ(32、33)を前記コントローラ(11)によって作動させるステップを有し、それにより、前記エンジンが1回転する間に、前記噴射器(4)に、第1の噴射段階において前記第1の潤滑剤(50A)を噴射させ、次いで第2の噴射段階において前記第2の潤滑剤(50B)を噴射させることにより、前記噴射サイクルにおいて前記第1及び第2の潤滑剤(50A、50B)を前記シリンダ(1)内に供給する、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
燃焼エンジンのシリンダ壁(1)の周囲に沿った複数の同一の噴射開口部のうちの1つを介して取り付けるための潤滑剤噴射器であって、
前記潤滑剤噴射器は、
-第1の潤滑剤供給導管(9A)から加圧された第1の潤滑剤(50A)を受け入れて、第1の潤滑剤(50A)をシリンダ(1)内に噴射するための第1の潤滑剤インレット(12A)、及び、第2の潤滑剤供給導管(9A)から加圧された第2の潤滑剤(50B)を受け入れて、前記第2の潤滑剤(50B)を前記シリンダ(1)内に噴射するための第2の潤滑剤インレット(12B)と、
-噴射段階での潤滑剤噴射のために前記シリンダ(1)内に延びるノズル開口部(5’)を備える少なくとも1つのノズル(5)と、
-前記第1及び第2の潤滑剤インレット(12A、12B)から前記少なくとも1つのノズル(5)を介して前記シリンダ(1)内へ潤滑剤を流すための、前記第1及び第2の潤滑剤インレット(12A、12B)から前記少なくとも1つのノズル(5)までの潤滑剤流路と、
-前記潤滑剤流路内にアクチュエータ駆動の選択弁システム(13)と、
を有し、
前記選択弁システム(13)は、アイドル状態から、前記噴射段階での前記少なくとも1つのノズル(5)を介した前記シリンダ(1)内への前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)の噴射へと、選択的に切り替えるように構成され、各噴射器(4)は、前記選択弁システム(13)を駆動するアクチュエータ(32、33)を有し、前記アクチュエータ(32、33)は、コントローラ(11)に機能的に接続され、前記選択弁システム(13)を選択的に駆動するために前記コントローラ(11)により作動されるように構成され、それにより、前記コントローラ(11)による前記アクチュエータ(32、33)の作動の結果として、前記コントローラ(11)による制御下において前記第1又は第2の潤滑剤を噴射させるようにする、噴射器。
【請求項18】
前記アクチュエータ(32、33、36)は、前記コントローラ(11)に電気的に接続し、前記コントローラ(11)から噴射段階信号を受信する電気制御接続部(10’)を備える電気的アクチュエータであり、前記噴射段階信号は、噴射のための前記第1又は第2の潤滑剤(50A、50B)の間での選択と噴射タイミングとを示す、請求項17に記載の噴射器。
【請求項19】
前記選択弁システム(13)は、前記アクチュエータ(32、33、36)に接続され、前記アクチュエータ(32、33、36)によってアイドル段階の位置又は方向から駆動される可動選択弁部材(25)を有し、前記アイドル段階において前記選択弁部材(25)は、第1又は第2の噴射段階位置又は方向への選択的な流路を遮断し、前記選択弁部材(25)は、前記噴射段階信号に応じて、前記第1の噴射段階位置又は方向にあるときには前記第1の潤滑剤(50A)のための流路を開き、前記第2の噴射段階位置又は方向にあるときには前記第2の潤滑剤(50B)のための流路を開き、それにより、前記噴射段階において前記流路を介して前記シリンダ内に前記潤滑剤を流すようにする、請求項18に記載の噴射器。
【請求項20】
前記噴射器は、1つのノズル(5)のみを有し、前記流路は、前記第1の
潤滑剤インレット(12A)から前記選択弁システム(13)への第1の管(26A)と、前記第2の
潤滑剤インレット(12B)から前記選択弁システム(13)への第2の管と、前記選択弁システム(13)から前記ノズル開口部(5’)への第3の管(27)と、を有し、前記選択弁システム(13)は、前記第1の管(26A)から前記第3の管(27)への前記第1の潤滑剤(50A)の流れ、又は、前記第2の管(26B)から前記第3の管(27)への前記第2の潤滑剤(50B)の流れのために、選択的に開くように構成されている、請求項17~19のいずれか一項に記載の噴射器。
【請求項21】
前記選択弁部材(25)は円筒形であり、前記選択弁システム(13)は固定弁部材(23)を有し、前記固定弁部材(23)は円筒形のブッシュ(24)を含み、円筒形の前記選択弁部材(25)が、前記ブッシュ(24)の長手方向軸線に沿った変位又はそれを中心にした回転のうちの少なくとも一方のために前記ブッシュ内に配置され、前記選択弁部材(25)は、当該選択弁部材(25)が前記第1の
噴射段階位置又は方向にあるときに前記第1の管(26A)を前記第3の管(27)と接続し、当該選択弁部材(25)が前記第2の
噴射段階位置又は方向にあるときに前記第2の管(26A)を前記第3の管(27)と接続するように配置された、少なくとも1つのスループット部(25A、25C、25D)を有する、
請求項19に従属するときの請求項20に記載の噴射器。
【請求項22】
前記スループット部(26A)は、前記選択弁部材(25)の狭窄部(25A、25C、25D)として設けられ、それにより、前記噴射段階において、前記第1の管(26A)からの前記第1の潤滑剤(50A)、又は、前記第2の管(26B)からの前記第2の潤滑剤(50B)を、前記ブッシュ(54)内の前記狭窄部(25A、25C、25D)を介して前記第3の管(27)内に流すようにする、請求項21に記載の噴射器。
【請求項23】
前記噴射器は、前記シリンダ壁(3)に取り付けるためのベース(30)と、前記ベースが前記シリンダ壁(3)に固定されたときに前記ノズル(5)を前記シリンダ壁(3)内に固定するために、前記ベース(30)を前記ノズル(5)に接続する堅固なフローチャンバ(16)と、を有し、前記ベースは、前記第1及び第2の
潤滑剤インレット(12A、12B)を有し、前記フローチャンバ(16)は、前記シリンダ(1)内へ噴射するために、前記第1及び第2の潤滑剤インレット(12A、12B)から前記フローチャンバ(16)を介して前記ノズル(5)へ向かう潤滑剤流れのための流路を含み、前記アクチュエータ(32、33、36)は、前記噴射器が前記シリンダ壁(3)に取り付けられたときに前記シリンダ壁(3)の外側に設けられるように前記ベース(31)に固定される、請求項17~22のいずれか一項に記載の噴射器。
【請求項24】
前記選択弁部材(25)は、前記フローチャンバ(16)内に配置され、前記アクチュエータ(32、33、36)は、アクチュエータ延長部(31)により前記選択弁部材(25)に機械的に接続されて、前記アクチュエータ延長部(31)によって前記選択弁部材(25)を駆動する、
請求項19に従属するときの請求項23に記載の噴射器。
【請求項25】
前記アクチュエータは、電気機械アクチュエータであり、固定ソレノイド部(32)及び可動ソレノイド部(33)を備える電気ソレノイド構成を有し、前記アクチュエータ延長部(31)は、前記可動ソレノイド部(32)に接続されて、前記ソレノイド(32)の電気的励起によって駆動され、前記ソレノイドは、前記コントローラ(11)からの前記噴射段階信号によって励起されるように構成されている、請求項24に記載の噴射器。
【請求項26】
前記選択弁部材(25)は、少なくとも1つのばね(34A、34B)によって、アイドル段階位置に向かってプレストレスを受ける、請求項25に記載の噴射器。
【請求項27】
前記噴射器は、前記第1の潤滑剤のみ又は前記第2の潤滑剤のみを選択して噴射するように構成されている、請求項17~26のいずれか一項に記載の噴射器。
【請求項28】
前記噴射器(4)は、前記ノズル(5)において前記選択弁システム(13)と前記ノズル開口部(5’)との間に、噴射サイクル中に前記シリンダ(1)内に噴射するように開閉する出口弁システム(15)を有し、前記出口弁システム(15)は、噴射段階中において前記出口弁システム(15)における所定の限界を超える圧力上昇時に前記ノズル開口部(5’)へ潤滑剤を流すように開き、前記噴射段階後の圧力低下時において前記出口弁システム(15)を閉じるように構成されている、請求項17~27のいずれか一項に記載の噴射器。
【請求項29】
25バールから100バールの範囲の潤滑剤圧力にて、大型船舶用エンジン又は発電所用燃焼エンジンの前記シリンダ内へSIP噴射するための請求項17~28のいずれか一項に記載の噴射器の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大型低速運転2ストロークエンジンのような大型燃焼エンジン、及び、そのようなエンジンを1つの潤滑剤又は他の潤滑剤で選択的に潤滑する方法、並びに、そのようなエンジン用の潤滑剤噴射器及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全を重視し、船舶用エンジンの排出ガス低減に取り組んでいる。これはまた、特に競争の激化により、そのようなエンジンのための潤滑システムの着実な最適化も含む。ますます注目を集める経済的側面の1つに、ますます注目を集める経済的側面の1つに、環境保護の理由だけではなく、船舶運航コストのかなりの部分を占めるからという理由で、潤滑剤消費の低減が挙げられる。また、潤滑剤消費を削減してエンジンの寿命を損なうべきではないので、潤滑剤の量を削減しても適切な潤滑が行われることに関心が持たれている。したがって、潤滑に関しては着実な改善が必要である。
【0003】
大型低速運転2ストローク船舶用ディーゼルエンジンの潤滑には、シリンダライナへの潤滑油の直接噴射や、ピストンリングへのオイルクイル(oil quills)の噴射を含む、幾つかの異なるシステムが存在する。
【0004】
船舶用エンジンの潤滑剤噴射器の一例が欧州特許第1767751号に開示されており、これは、逆流防止弁を使用して、シリンダライナ内のノズル通路に潤滑剤をもたらしている。逆流防止弁は、ノズル通路のすぐ上流の弁座内にばねによって加圧された往復運動するボールを含み、このボールは加圧潤滑剤によって変位する。ボール弁は、例えば1923年の英国特許第214922号に開示されているように、前世紀の初頭にまで遡る原理に基づく昔ながらの技術的解決策である。
【0005】
従来の潤滑に比べて比較的新しい別の潤滑方法は、商業的に「スワールインジェクション型(SIP)」と呼ばれている。この方法は、潤滑剤の霧状の液滴噴霧物をシリンダ内部の掃気スワール渦(scavenging air swirl)内に噴射することに基づく。潤滑剤は、螺旋状に上方に向かうスワール渦によってシリンダの上死点(TDC)に引き付けられ、薄い均一な層としてシリンダ壁に対して外向きに押し付けられる。この方法は、国際公開第2010/149162号及び国際公開第2016/173601号において詳細に説明されている。噴射器は、典型的には弁ニードルである往復動式弁部材が内部に設けられた噴射器ハウジングを含む。弁部材は、例えばニードル先端部を用いて、ノズル開口部への潤滑剤の経路を正確なタイミングに従って開閉する。現在のSIPシステムでは、霧状の液滴の噴霧は、シリンダ内に導入される小型オイルジェットを使用するシステムで用いられる10バール未満の油圧よりも大幅に高い、典型的には35~40バールの圧力で達成される。また、SIP弁の幾つかのタイプでは、潤滑剤の高圧を使用して、ばね荷重を受けた弁部材をばねの力に抗してノズル開口部から遠ざけて、高圧の油が霧状の液滴としてそこから放出されるようにしている。油の噴出により、弁部材にかかる油の圧力が低下して、その結果、弁部材は、その原点に戻り、高圧の潤滑剤が再び潤滑剤噴射器に供給される次の潤滑剤サイクルまで、そこに維持される。
【0006】
このような大型の船舶用エンジンでは、シリンダの周囲に複数の噴射器が円形に配置され、各噴射器は、シリンダ内に潤滑剤のジェット又は噴霧を送達するための1又は2以上のノズル開口部を先端に含む。船舶用エンジンにおけるSIP潤滑剤噴射器システムの例は、国際公開第2002/35068号、第2004/038189号、第2005/124112号、第2010/149162号、第2012/126480号、第2012/126473号、第2014/048438号、及び第2016/173601号に開示されている。
【0007】
上記の国際公開第2012/126473号及び国際公開第2016/173601号、更に欧州特許第1426571号及び欧州特許第1586751号は、潤滑剤噴射器の電気機械式出口弁を開示している。電気コイルは、対応する電磁応答部を備えた出口弁部材に電磁力を及ぼす。励起時に、出口弁部材は、ノズル開口部において弁座から引き出され、潤滑剤供給源からの潤滑剤の流れのために開口し、弁部材を通過してノズルから出る。実際には、電気機械的応答部を有する出口弁部材は、比較的長く、出口弁部材への作用にわずかな遅れを生じさせる質量を有する。
【0008】
欧州特許第3404224号で詳しく述べられているように、2系統燃料船舶用ディーゼルエンジンは、特定の燃料間での変更時に潤滑剤の変更を必要とする。技術的解決策として、選択された油を受け入れて加圧して噴射器に供給するポンプの上流に、異なる油を有する2つのオイルタンクを配置したシステムが開示されている。油の選択は、ポンプと2つのオイルタンクとの間の三方弁によって達成される。欧州特許第3404224号のシステムは、燃料の種類を変更したときに油を切り替える目的を果たしている。しかしながら、弁からポンプを経て噴射器に至る送油管は、次の種類の油を噴射する前に、まず或る油を空にする必要があるため、或るオイルから別のオイルに素早く切り替えることはできない。
【0009】
噴射用の油を選択するための別のシステムが国際公開第2014/127895号に開示されており、ここでは、シリンダ内に複数の噴射器、例えば噴射器対が設けられており、一組の噴射器が一種類の油に使用され、別の一組の噴射器が別の種類の油に使用されるようにしている。その利点は、2種類の油を予め混合せずに、所定の割合でシリンダ内に噴射することにより、油の塩基価(BN)を調整できることである。噴射は、噴射直後の混合を実現するように、異なるオイルジェットが交差するようにすることが好ましい。また、異なる油の部分の配列を供給管内に設け、その配列全体をシリンダ内に噴射することによって、ノズルを使用して複数の油を噴射することができることも開示されている。
【0010】
特開昭62-111109号には、2つのポンプを用いて一方の油又は他方の油をノズルに供給する潤滑用2系統オイルシステムが開示されている。また、この場合、長い供給ラインは、上述したようなタイミングや噴射量の不確実性があることを示唆する。
【0011】
しかしながら、これらの原理は、SIP噴射のように高圧で迅速な反応が必要な場合には最適ではない。というのは、オイル供給ラインが比較的長く、管に圧力をかけたり管から圧力を解放したりするときに微小な膨張及び収縮を受ける可能性があり、これがタイミングや噴射量の不確実性をもたらすからである。この問題は、一般的にデンマーク特許第179764号で説明されている。したがって、シリンダ内で油を混合するための反応時間がより短いシステムを提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許第1767751号公報
【文献】英国特許第214922号公報
【文献】国際公開第2010/149162号公報
【文献】国際公開第2016/173601号公報
【文献】国際公開第2002/35068号公報
【文献】国際公開第2004/038189号公報
【文献】国際公開第2005/124112号公報
【文献】国際公開第2012/126480号公報
【文献】国際公開第2012/126473号公報
【文献】国際公開第2014/048438号公報
【文献】欧州特許第1426571号公報
【文献】欧州特許第1586751号公報
【文献】欧州特許第3404224号公報
【文献】国際公開第2014/127895号公報
【文献】特開昭62-111109号公報
【文献】デンマーク特許第179764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、当技術分野における改良を提供することである。特定の目的は、潤滑剤の種類が噴射サイクル間又は噴射サイクル内で変更された場合であっても、噴射器による潤滑剤の噴射速度及び噴射量のより良い制御を提供することである。特に、例えば大型低速運転2ストロークエンジンのような大型燃焼エンジンにおけるSIP弁による潤滑を改善することが目的である。しかしながら、噴射器は、例えば船舶用エンジンや発電所用燃焼エンジンのような大型4ストローク燃焼エンジンにも使用することができる。これらの目的は、以下に述べるような、複数の噴射器を備えた、例えば低速運転2ストロークエンジンなどの大型燃焼エンジン、そのようなエンジンを潤滑するための方法、及び、そのようなエンジン及び方法のための噴射器、並びに、これらの使用によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
噴射器は、2種類以上の潤滑剤を噴射するための2以上の潤滑剤インレット(inlet)と、噴射段階においてシリンダ内に噴射するために、2種類以上の潤滑剤から選択するためのアクチュエータ駆動の選択弁システムと、を有する点に特徴がある。
【0015】
本発明を完全に理解するために、ポンプシステムから複数の噴射器を備えるシリンダまでの相当な長さの潤滑剤導管が、システムの不正確さをもたらすことが発見されたことが指摘される。長い導管は、高圧の潤滑剤にさらされると、わずかに膨張及び収縮する傾向があり、これは、潤滑剤の噴射タイミング及び噴射量に若干の不確実性をもたらす。さらに、潤滑剤は、噴射サイクル中に微小な圧縮及び膨張を受け、これが効果を増大させる。この影響は小さいが、噴射にミリ秒の範囲の誤差をもたらし、これは、10ミリ秒以下という短いSIP噴射時間と比べると相当なものである。このような不正確なタイミングの影響は、高い潤滑圧力及び短い噴射期間のために、SIP潤滑システムに大きな影響を与える。また、噴射量は、典型的には、噴射サイクルにおいて加圧された油がノズルに供給される時間の長さによって調整されるが、この場合、正確なタイミングに影響を及ぼす不確定要素は、排除されないとしても、最小化されるべきであることに留意されたい。ここで説明する噴射器は、選択弁システムが噴射器内にあるため、選択弁システムからノズルまでの距離が短くなるため、ここで説明するような噴射器により、噴射に関する改善効果が達せられる。
【0016】
(定義)
「噴射段階(injection-phase)」という用語は、潤滑剤が噴射器によってシリンダ内に噴射される時間について使用される。「アイドル段階(idle-phase)」という用語は、噴射段階のあいだの時間について使用される。「アイドル状態(idle state)」という用語は、アイドル段階における部品の状態について使用される。「アイドル段階位置又は方向(idle-phase position or orientation)」という用語は、アイドル段階中のアイドル状態にある可動部品の位置又は方向について使用され、これは噴射段階位置とは対照的である。「噴射サイクル(injection cycle)」という用語は、或る噴射シーケンスの開始から次の噴射シーケンスの開始までの時間について使用される。例えば、噴射シーケンスは1回の噴射を含み、この場合、噴射サイクルは或る噴射段階の開始から次の噴射段階の開始までの長さである。或いは、噴射シーケンスは、複数の噴射、例えば、ピストンがTDCに向かう途中で噴射器を通過する前にピストンの上方で行われる複数の噴射、例えば、或る潤滑剤による最初の噴射に続いての別の潤滑剤による噴射、及び場合によっては更なる潤滑剤及び/又は添加剤の噴射、を含む。このような2段階又は多段階の噴射は、ピストンがTDCに到達する前にシリンダ内で油の混合をもたらす。例えば、エンジンの1回転につき1回の噴射サイクルがある。しかし、数回転おきに1回の噴射サイクルを行うことも可能である。
【0017】
噴射器の内部選択弁システムは、選択弁システムが噴射段階において開いている時期までに、噴射のために選択された潤滑剤の量を噴射する。この時期は、例えば、噴射を引き起こすために使用される内部アクチュエータが電気的に制御されるタイプであれば、その内部アクチュエータを制御するための噴射器への電気信号を介して、コントローラによって決定される。
【0018】
任意に、噴射段階中における、シリンダ上の全ての噴射器の総消費量又は噴射器のサブグループの総消費量のために、計量器を採用することができる。
【0019】
噴射の「タイミング(timing)」という用語は、シリンダ内のピストンの特定の位置に対して、噴射器による噴射段階の開始の調整について使用される。
【0020】
噴射の「周波数(frequency)」という用語は、エンジン1回転当たりの噴射器による繰り返し噴射の回数について使用される。周波数が1の場合、1回転につき1回の噴射が行われる。周波数が1/2の場合、2回転ごとに1回の噴射が行われる。このような用語は、上述の先行技術に沿ったものである。
【0021】
便宜上、「前方」という用語は、ノズル開口部に向かう方向について使用され、ノズル開口部から反対の方向は「後方」と呼ぶ。
【0022】
「加圧潤滑剤」という用語は、シリンダ内への噴出又は噴霧としての噴射のために使用できるほど十分に高い圧力で供給される潤滑剤について使用される。後者は、ピストンリング間のクイルによるオイル噴射と対照的である。圧力は噴射の目的及び形態によって異なり、典型的には10バールを超える。SIP噴射の場合、圧力は通常より高く、例えば25バールを超える。
【0023】
(具体的な実施形態)
大型エンジン、例えば低速回転2ストロークエンジン、任意に船舶用エンジン又は発電所用エンジンは、内部に往復ピストンを有するシリンダと、シリンダの壁に固定されシリンダ壁を貫通して延びる複数の潤滑剤噴射器と、を有する。噴射器は、シリンダの外周に沿って配置され、噴射段階中に外周の様々な位置においてシリンダ内に潤滑剤を噴射するように構成される。例えば、低速回転2ストロークエンジンなどの大型エンジンは、船舶用エンジンや発電所の大型エンジンである。典型的には、エンジンは、ディーゼル燃料又はガス燃料、例えば天然ガス燃料を燃焼している。
【0024】
更に、エンジンは、典型的には第1の潤滑剤供給ポンプによって加圧された第1の加圧潤滑剤を含む第1の潤滑剤供給部を有し、また、エンジンは、典型的には第2の潤滑剤供給ポンプによって加圧された第2の加圧潤滑剤を含む第2の潤滑剤供給部を有する。第1の潤滑剤は、第2の潤滑剤とは異なる種類のものである。任意に、エンジンは、対応する3以上の異なるタイプの潤滑剤を含む3以上の潤滑剤供給装置と、それらに対応する3以上の潤滑剤供給ポンプとを有する。例えば、エンジンは、第3の潤滑剤供給源と、それに対応する第3の潤滑剤供給ポンプとを有する。
【0025】
複数の噴射器の各々は、その2以上の潤滑剤インレット(inlets)の各々と、対応する供給導管を介して2以上の潤滑剤供給部の1つに接続される。各潤滑剤供給部は、対応する潤滑剤の圧力を適切なレベルまで上昇させる潜在的な圧力源、典型的には潤滑剤ポンプを含む。記載されたシステムでは、噴射器の対応する潤滑剤インレットに一定の潤滑剤圧力を提供すれば十分である。
【0026】
噴射器は、種々の潤滑剤インレットからの、例えば2又は3以上、任意に10までの異なる種類の潤滑剤の中から、噴射すべき種類の潤滑剤の噴射を選択するように構成される。インレットは、潤滑剤だけでなく潜在的な添加剤の供給及び添加に使用することができる。例えば、噴射器は任意に3つのインレットを有し、そのうちの2つは潤滑油などの潤滑剤に使用され、1つは添加剤に使用される。
【0027】
エンジンは、さらにコントローラを有する。コントローラは、コントローラは、噴射する潤滑剤の選択と、複数の噴射器による第1及び第2の潤滑剤の噴射の量及びタイミングとを制御するように構成される。任意に、噴射周波数もコントローラによって制御される。正確な噴射のためには、コントローラがコンピュータに電子的に接続されているか、又はコンピュータを有しており、コンピュータがエンジンの実際の状態及び動作についてのパラメータを監視していると有利である。このようなパラメータは、最適な噴射制御を行うために有用である。任意に、コントローラは、既存のエンジンをアップグレードするためのアドオンシステムとして提供される。更なる有利な選択肢は、監視用のディスプレイと、噴射プロファイルのパラメータ(任意でエンジンの状態)を調整及び/又はプログラミングするための入力パネルとを有する、ヒューマンマシンインターフェース(HMI)へのコントローラの接続である。電子データ接続は、任意に有線又は無線、或いはそれらの組み合わせである。
【0028】
具体的な実施形態では、噴射器は、第1の潤滑剤をシリンダ内に噴射するための第1の潤滑剤供給導管から第1の潤滑剤を受け入れるための第1の潤滑剤インレットと、第2の潤滑剤をシリンダ内に噴射するための第2の潤滑剤供給導管から第2の潤滑剤を受け入れるための第2の潤滑剤インレットと、を有する。噴射器の第1の潤滑剤インレットは、第1の供給導管を介して第1の潤滑剤供給部に接続され、第2の潤滑剤インレットは、第2の潤滑剤供給導管を介して第2の潤滑剤供給部に接続される。場合によっては、噴射器は、更に、対応する第3の供給導管(任意に更なる供給導管)から潤滑剤又は添加剤を受け入れ、潤滑剤又は添加剤をシリンダ内に噴射するための第3のインレット(任意に更なるインレット)を有する。
【0029】
噴射器は、第1及び第2の潤滑剤インレットから少なくとも1つのノズルを通ってシリンダ内に潤滑剤を流すための、第1及び第2の潤滑剤インレットから少なくとも1つのノズルまでの潤滑剤流路を有する。噴射器は、当該噴射器によってシリンダ内へと、第1の潤滑剤又は第2の潤滑剤のいずれかの噴射を選択するか、任意に第1の潤滑剤及び第2の潤滑剤の両方の同時噴射する、よう構成されている。噴射器が3以上のインレットを有し、潤滑剤及び添加剤のための3以上の供給部がある場合、噴射器は、これら3以上のインレットからの噴射、例えば一度に1つのインレットのみからの噴射を選択するように構成される。幾つかの実施形態では、噴射器は、追加的に、少なくとも2つの潤滑剤又は潤滑剤と添加剤の組み合わせを同時に噴射するように構成される。
【0030】
噴射器は、1つのノズル又は2以上のノズル、例えば2つのノズルを有する。各ノズルは、噴射段階で潤滑剤を噴射するためにシリンダ内に延びるノズル開口部を有する。任意に、ノズルは、1以上の開口部を有する。例えば、国際公開第2012/126480号には、複数の開口部を有するノズルが開示されている。幾つかの実施形態では、噴射器は、単一のノズル開口部を備える単一のノズルを有する。
【0031】
具体的には、各噴射器は、潤滑剤流路内に内部アクチュエータ駆動の選択弁システムを有し、選択弁システムは、受け取った噴射段階信号に応じて、噴射なしのアイドル状態から、噴射段階において少なくとも1つのノズルを介してシリンダ内に入る、第1の潤滑剤の噴射又は第2の潤滑剤の噴射、或いは任意に更なる潤滑剤インレットからの更なる潤滑剤又は添加剤の噴射を用いた噴射状態へと、選択的に切り替えるように構成されている。
【0032】
各噴射器は、選択弁システムを駆動するアクチュエータを有する。アクチュエータは、コントローラに機能的に接続され、コントローラによって作動されて、選択弁システムを選択的に駆動し、コントローラによるアクチュエータの作動の結果として、コントローラによる制御の下で第1の潤滑剤又は第2の潤滑剤を噴射させるように構成される。更なる実施形態では、複数の潤滑剤が噴射器によって同時に噴射される。選択弁システムは、コントローラの制御下、潤滑剤及び/又は添加剤のどれをどれだけ、どの順序で噴射するかを選択するために使用される。
【0033】
動作中、アクチュエータは、第1の潤滑剤又は第2の潤滑剤を用いて噴射段階を開始するためにコントローラによって作動される。その結果、選択弁システムは、流路を通る第1又は第2の潤滑剤の流れのために開かれ、第1又は第2の潤滑剤をシリンダに噴射させる。噴射段階が終了すると、アクチュエータは選択弁システムを閉じ、潤滑剤の供給を停止する。幾つかの実施形態では、選択弁は、両方の潤滑剤を同時に噴射するために、両方のインレットからの流れのために開口するように構成されている。場合によっては、複数の油及び潜在的な添加剤は、噴射前に混合されることもある。
【0034】
任意に、噴射段階は、複数の噴射、例えばピストンがTDCへの途中で噴射器を通過する前においてピストン上方で行われる複数の噴射、例えば1つの潤滑剤による第1の噴射に続いて別の潤滑剤の別の噴射、場合によっては更なる潤滑剤及び/又は添加剤の噴射、を有する。このような二段又は多段噴射は、特にSIP作動時に、ピストンがTDCに到達する前にシリンダ内でオイル混合をもたらす。コントローラによる噴射用潤滑剤の選択及びそのタイミングの多様性は、例えば少なくとも以下2つの組み合わせのような、多種多様な噴射シーケンスを可能にする。
-ピストン下方への1回以上の噴射
-ピストン上への1回以上の噴射
-1回の噴射サイクル中にピストン情報への1回以上の噴射
様々な噴射について、潤滑剤(場合によっては添加剤を含む)の選択も変えることができる。
【0035】
例えば、アクチュエータは、電気的に制御されたアクチュエータであり、コントローラから噴射段階信号を受信するために電気的接続によってコントローラに電気的に接続され、噴射段階信号は、噴射する第1又は第2の潤滑剤の選択、及び噴射のタイミングを示すものである。噴射段階においては、電気制御信号がコントローラから各噴射器に送られ、第1の潤滑剤又は第2の潤滑剤、或いは場合によっては更なる潤滑剤を用いて、噴射段階が開始される。その結果、選択弁システムは、対応する潤滑剤が流路を通って流れるように開き、その潤滑剤をシリンダ内に噴射する。噴射段階の最後において、コントローラから噴射器への電気制御信号が変更され、選択弁システムが潤滑剤噴射のために閉じてアイドル状態に戻る。
【0036】
任意に、アクチュエータは、固定ソレノイド部及び可動ソレノイド部を有する電気ソレノイド構成を有する。選択弁システムは、ソレノイドの電気的励起時にアクチュエータによって駆動される可動ソレノイド部に接続され、ソレノイドは、コントローラからの噴射段階信号によって励起されるように構成される。
【0037】
「ソレノイドコイル」という用語は、「少なくとも1つのソレノイドコイル」と理解されるべきであり、これは、2つ以上のコイル、例えば2つ又は3つのコイルを使用することが可能であり、場合によっては有利になるからである。
【0038】
コントローラからの「信号」という用語は、コントローラから噴射器に流れる電流につういて使用される。幾つかの実施形態では、電流が十分に強い場合、信号自体をアクチュエータ、例えば電気機械アクチュエータの駆動に使用することができる。例えば、電気機械アクチュエータの駆動方向を切り替えるには、電流の向きを反対方向に切り替える。しかし、代替的に、噴射器は、コントローラからの信号がアクチュエータを駆動するのに十分強い電流を流すために開くような電気スイッチを有することができる。後者の場合、コントローラから電気スイッチまでの信号線は、非常に細い配線で実現することができる。
【0039】
代替的に、アクチュエータは、油圧又は空気圧アクチュエータである。噴射器のこのような油圧又は空気圧アクチュエータは、任意で電気的に制御される。例えば、コントローラから噴射器への電気信号は、選択弁システムを油圧又は空気圧で駆動するアクチュエータへの油圧又は空気圧の流入のために、噴射器の電気機械アクチュエータ弁を開く。任意に、コントローラから噴射器への電気信号は、アクチュエータ自体を駆動するためのアクチュエータへの油圧又は空気圧の流入のために、電気機械アクチュエータ弁を開き、その後、機械的接続によって選択弁システムを駆動する。
【0040】
幾つかの実施形態では、選択弁システムは、潤滑剤の供給及び潤滑剤の噴射のために、複数のインレットの中から一度に1つのインレットのみを選択するように構成される。幾つかの実施形態では、代替的又は追加的に、選択弁システムは、複数の潤滑剤又は添加剤と組み合わせた潤滑剤を同時に噴射するために、潤滑剤の供給及びその噴射のために、複数のインレットの中から一度に2以上のインレットを選択するように構成される。
【0041】
幾つかの実施形態では、噴射器は複数のノズルを有し、複数の潤滑剤及び添加剤を、噴射器の別個のノズルからシリンダ内に噴射することができる。他の実施形態では、複数の潤滑剤及び添加剤は、単一のノズルを介してシリンダ内に噴射され、場合によっては、ノズル開口部から噴射する前に噴射器内で混合される。
【0042】
実際の実施形態では、噴射器は、ベースと、ベースがシリンダ壁に固定されたときに、ノズルをシリンダ壁内に固定するためにベースをノズルにしっかり接続する、堅固な(任意に円筒形の)フローチャンバと、を有する。ベースは、ノズルに対してフローチャンバの反対側の端部に設けられるため、典型的には、シリンダ壁の上又は外側に配置される。例えば、噴射器は、シリンダ壁外側に取り付けるためにフランジをベースに有する。代替的に、噴射器をシリンダ壁に取り付けるために、噴射器は、フローチャンバの周囲に設けられたフランジを有する。例えば、フランジは、シリンダ壁に対してボルトで固定される。
【0043】
有利には、ベースは、第1及び第2のインレット、並びに潜在的な更なるインレットを有する。フローチャンバは中空であり、フローチャンバを介した第1及び第2の潤滑剤インレット(場合によっては更なるインレット)から、対応する潤滑剤をシリンダに噴射するためのノズルまでの、潤滑剤の流れのための流路を有する。任意には、選択弁部材は、フローチャンバ又はベース内に配置される。
【0044】
例えば、噴射器をシリンダ壁に取り付ける場合、アクチュエータはシリンダ壁の外側に設けられる。任意に、ベースに固定される。
【0045】
幾つかの実施形態では、選択弁システムは、アイドル段階の選択弁部材が流路を遮断するアイドル段階の位置又は方向から、選択的に第1又は第2の噴射段階の位置又は方向へと、アクチュエータにより駆動するためにアクチュエータに接続される可動選択弁部材を有し、選択弁部材は、噴射段階信号及び対応する噴射段階位置又は方向に応じて、第1の噴射段階位置又は方向にある第1の潤滑剤と、第2の噴射段階位置又は方向にある第2の潤滑剤のいずれかのために流路を開き、それを噴射段階においてシリンダ内に流す。
【0046】
実際には、噴射段階信号はアクチュエータによって受信され、アクチュエータは、噴射段階信号に応じて選択弁部材を第1又は第2の噴射段階位置又は方向に移動させ、これにより、第1又は第2の潤滑剤をシリンダ内に噴射するための流路が開放される。
【0047】
例えば、アクチュエータは、アクチュエータ延長部によって選択弁部材に機械的に接続され、このアクチュエータ延長部によって選択弁部材を駆動する。これは、選択弁部材がフローチャンバ内に、ひいてはシリンダ壁の内側に配置されるのに対し、アクチュエータがシリンダ壁の外側に配置される場合に有利である。この実施形態では、操作は、アクチュエータ延長部を用いて、アクチュエータによって選択弁部材を移動させることを含む。
【0048】
幾つかの実施形態では、流路は、第1のインレットから選択弁システムへの第1の管と、第2のインレットから選択弁システムへの第2の管と、選択弁システムからノズル開口部への第3の管と、を有する。これら実施形態において実際には、作動は、選択弁システムによって、ノズル開口部に向かって第3の管内への、第1の管からの第1の潤滑剤又は第2の管からの第2の潤滑剤の流れのために、任意に同時に両方の管からの流れのために、選択的に開くことを含む。
【0049】
(出口弁システム)
任意に、各噴射器は、ノズルにおいて出口弁システムを有し、この出口弁システムは、出口弁システムにおける所定の限界を超える圧力上昇時の噴射段階中においてノズル開口部への潤滑剤の流れのために開き、圧力が低下したときの噴射段階の後に出口弁システムを閉じるように構成されている。出口弁システムは、シリンダからの背圧を遮断し、潤滑剤が噴射段階間のアイドル段階においてシリンダに入るのを防止する。また、出口弁システムは、噴射後の短い閉弁時間を補助し、潤滑剤の噴射タイミング及び噴射量の精度を向上させる。
【0050】
これらの実施形態において、噴射器は、潤滑剤インレットから選択弁システム及び出口弁システムを通りノズル開口部において噴射器から出る潤滑剤の流れのために、潤滑剤インレットから選択弁システムを介した出口弁システムへの潤滑剤の流路を有する。選択弁システムは、噴射器の一部としてノズルの上流に配置され、任意にノズルから間隔を空けて配置される。任意に、選択弁システムは、出口弁システムの上流に配置され、出口弁システムから間隔を置いて配置される。
【0051】
例えば、出口弁システムは、出口逆流防止弁を有する。出口逆流防止弁において、出口弁部材、例えばボールや楕円体やプレートやシリンダは、出口弁ばねによって出口弁座に対してプレストレスされる。出口弁システムの上流のフローチャンバ内に加圧潤滑剤を供給すると、ばねのプレストレス力は潤滑剤圧力によって相殺され、圧力がばね力よりも高い場合には、出口弁部材は出口弁座から変位し、出口逆流防止弁が開いて、ノズル開口部を通ってシリンダ内に潤滑剤が噴射される。例えば、出口弁ばねは、ノズル開口部から離れる方向に出口弁部材に作用するが、その逆の動きも可能である。
【0052】
例えば、エンジンを潤滑するために、この方法は、コントローラから噴射器に電気制御信号を送ることと、制御信号によって、対応する潤滑剤供給導管から対応する潤滑剤インレットを介して選択弁システムを通り、選択弁システムと出口弁システムとを流体接続する導管内へと、選択された1種類の潤滑剤を流すために、噴射器に選択弁システムを開かせることと、を有する。
【0053】
潤滑剤供給導管が、噴射段階で出口弁システムを開くのに十分高い圧力で選択弁システムを介して潤滑剤を供給するために、様々な潤滑剤供給導管内の潤滑剤の圧力は、出口弁システムの開口を決定する所定の限界を超えることに注意すべきである。したがって、潤滑剤が選択弁システムを通って選択弁システムと出口弁システムとの間の導管に流入すると、出口弁システムで圧力が上昇し、出口弁システムが開いて導管からノズル開口部に潤滑剤が流れ、それによって潤滑剤がノズル開口部からシリンダ内に噴射される。潤滑期間の終わりに、コントローラからの電気制御信号が変更され、選択された潤滑剤インレットからノズル開口部への潤滑剤供給のために選択弁システムが再び閉じる。導管内の圧力が再び低下し、出口弁システムが閉じる。
【0054】
これらの実施形態では、噴射器内に少なくとも2つの弁システムがある。選択弁システムは、例えばコントローラからの電気信号によって、コントローラの制御下で調整され、出口弁システムは、選択弁システムが開いて、上昇した圧力で潤滑剤供給導管から出口弁システムへ潤滑剤の流れが生じると、出口弁システムでの潤滑剤の上昇した圧力によってのみ作動する。選択弁システムの可動部を出口弁システムの可動部に結合する機械的接続はない。これら2つのシステムの開閉の間の結合は、選択弁システムから出口弁システムに流れる潤滑剤によってのみ行われる。
【0055】
(選択弁とアクチュエータのオプション詳細)
幾つかの実用的な実施形態では、選択弁システムは、アイドル段階の選択弁部材が流路を遮断するアイドル段階位置から、噴射段階の流路を通過する選択された潤滑剤の流れのために選択弁部材が流路を開く噴射段階位置まで移動するように配置された、可動アクチュエータ駆動の選択弁部材を有する。有利には、選択弁部材は、選択弁ばねによって、アイドル段階位置に向けてプレストレスを受ける。
【0056】
幾つかの実施形態では、可動選択弁部材を駆動するために、噴射器は、アクチュエータを選択弁システムに接続する可動アクチュエータ駆動の剛性アクチュエータ延長部を有し、これは、選択弁部材が流路を遮断するアイドル段階位置から、選択された潤滑剤を噴射段階でシリンダ内に噴射するための流路を介して当該潤滑剤を流すために選択弁部材が流路を開く噴射段階位置へと、選択弁部材を変位又は回転させるためにアクチュエータによって使用される。
【0057】
任意に、アクチュエータ駆動の剛性アクチュエータ延長部は、噴射のための潤滑剤で選択された1つを引き出し、また、噴射のための潤滑剤で選択された別の潤滑剤を押し込むことによって、噴射段階において選択弁部材を選択的に引き出すか又は押し込むためのプッシュプル部材(pull-push-member)である。あるいは、アクチュエータ延長部は、回転アクチュエータからの駆動力を、例えば一方向又は他方向に選択的に伝達する回転部材である。
【0058】
幾つかの実施形態では、アクチュエータは、例えば電気機械アクチュエータのような、電気的に制御されるアクチュエータである。任意に、アクチュエータは、固定ソレノイド部と可動ソレノイド部とを有する電気ソレノイド構成を有し、アクチュエータ延長部は、ソレノイドの電気励起によって駆動されるように可動ソレノイド部に接続され、ソレノイドは、コントローラからの噴射段階信号によって励起されるように構成される。
【0059】
例えば、選択弁システムは、アクチュエータ延長部を駆動するためのリニアアクチュエータを有する。この場合、アクチュエータ延長部は、アクチュエータに接続され、例えばソレノイドプランジャ及びソレノイドコイルの構成に接続され、アクチュエータの電気的作動によりアクチュエータ-延長部を駆動し、例えば、プッシュプル部材を駆動して選択弁部材を押し込んだり引き出したりして一方又は他方のそれぞれの潤滑剤インレットからの流れのために開く。任意に、アクチュエータ延長部は、ソレノイドプランジャに接続され、一方、ソレノイドコイルは、噴射器内に固定される。あるいは、アクチュエータ延長部は、アクチュエータ延長部と共に移動可能なソレノイドコイルに接続される。
【0060】
あるいは、選択弁部材を駆動するために圧電素子を用いることができる。このような素子は、コントローラに電気的に接続され、収縮又は膨張のタイミングがコントローラによって制御される。
【0061】
幾つかの具体的な実施形態では、選択弁部材は、円筒形であり、固定弁部材を有し、この固定弁部材は、対応する円筒形のブッシュ(bushing)を有し、円筒形の選択弁部材が、ブッシュの長手方向軸線に沿って変位するように、又はブッシュの長手方向軸線を中心に回転するように、ブッシュ内に配置される。
【0062】
円筒形ブッシュという用語は、典型的にはブッシュが円筒形の中空を有することを述べるように使用されるが、円形の断面を有する必要はない。円筒形の選択弁部材は、ブッシュの円筒形の中空にしっかりと嵌まり、円筒形の選択弁部材と円筒形のブッシュの間には、ブッシュ内の選択弁部材を潤滑する程度で、シリンダに噴射される潤滑剤の量に比べて無視できる可能性のある最小量を除いて、潤滑剤が流れないようになっている。
【0063】
幾つかの具体的な実施形態では、選択弁部材は、選択弁部材が第1の位置又は方向にあるときに第1の管を第3の管に接続し、また、選択弁部材が第2の位置又は方向にあるときに第2の管を第3の管に接続するように配置された少なくとも1つのスループット部(throughput section)を有する。実用的の実施形態では、動作は、噴射段階信号に応じて、選択弁部材が第1の位置又は方向にあるときに第1の管を第3の管に接続すること、又は、選択弁部材が第2の位置又は方向にあるときに第2の管を第3の管に接続することを、選択的に有する。
【0064】
幾つかの実施形態において、スループット部は、選択弁部材の外側の狭窄部(narrowing section)として設けられ、噴射段階において、第1の管からの第1の潤滑剤又は第2の管からの第2の潤滑剤を、ブッシュ内の選択弁部材の外側に沿って狭窄部を通って第3の管内に流れるようにする。
【0065】
(システムの利点)
ここに記載のシステムは、多くの利点を有する。
【0066】
選択弁システムを噴射器内に設けることによって、任意に出口弁システムを噴射器内に設けることによって、動作中に移動させなければならない可動部材の質量が低くなる。質量が小さいため、従来技術のシステムと比較して、可動物体の反応時間が短縮され、その結果、システムは反応速度の向上とタイミング及び量に関する精度をもたらす。
【0067】
噴射器は、典型的には、このような大型エンジンのシリンダ壁の厚さの数倍以下、例えば2倍以下のオーダーの長さを有し、シリンダ壁の開口部を通って延びているので、選択弁システムからノズル開口部までの距離は、典型的には、シリンダ壁の厚さのオーダーかそれよりも更に小さい。例えば、選択弁システムからノズル開口部までの距離は、20cm未満、又は10cm未満であり、従来技術における三方弁とノズルとの間の数メートルの距離よりもはるかに短い。これは、選択弁システムからノズル出口までの距離が比較的に非常に短く、それにより、選択弁システムは短い反応時間及び精度を有することを意味する。
【0068】
選択弁システムは噴射器ハウジング内にあり、ノズルに近接しているため、噴射器の反応時間が短く、その結果、噴射タイミング及び噴射時間の長さ(噴射量)について高い精度を達成することができる。高いタイミング精度及び速い反応時間により、1回の噴射サイクルにおける潤滑剤噴射では、異なる油を用いた複数回の部分噴射を行うことができる。これは、例えば上述の欧州特許第3404224号に開示されているように、噴射器内に出口弁システムが設けられ、噴射器に選択的に供給するための弁システムが噴射器から離れて設けられる従来技術のシステムとは対照的である。上述したような噴射器は、選択弁系からノズルへの、例えば出口弁系を含む、短くて堅い流路しか有していないので、比較的長い管路内の油の微小な圧縮及び膨張、並びに管路自体の膨張を回避することによって、噴射量及びタイミングの不確実性及び不正確性が最小限に抑えられる。
【0069】
例えば、エンジンのピストンが噴射器を通過するまでの期間において、特にSIP原理を用いる場合、2種類の潤滑剤がシリンダ内で混合されるように2段噴射を行うことができる。欧州特許第3404224号に開示された従来技術は、油を混合するために交差ジェットを使用するが、ここに記載された噴射器によるSIP噴射では、単一の噴射器からの2種類以上の潤滑剤の滴下物が潤滑剤スワール内で混合され、混合された状態でシリンダ壁上に分配されるので、このようなジェットは必要ない。
【0070】
システムは、各種の潤滑剤について噴射器への単一の潤滑剤配管を必要とするだけで、戻り配管が不要であり、それにより、設置のためのコスト及び手間を最小限に抑え、故障のリスクも最小限に抑える。これは、特にエンジンが大きく数メートルの長さの戻り配管を必要とするためである。また、潤滑剤の戻り配管内のデッドボリュームにより弁閉時における時間や量が不正確になることも避けられる。
【0071】
逆流防止弁を備える出口弁システムにより、噴射器はシリンダからの高圧に対して安定している。出口弁システムが、ノズル内又はノズル位置において逆流防止弁を有し、逆流防止弁が、弁座に対してばねで押し付けられる弁部材(例えばボール)を有する場合、故障に対する高い堅牢性が見られた。このようなシステムはシンプルで、目詰まりのリスクは最小限である。また、弁座がセルフクリーニングされやすく、特に弁部材がボールである場合、偏摩耗が少ないため、高い長期信頼性が得られる。従って、噴射器は、シンプルで信頼性があり、迅速かつ正確であり、低製造コストで標準的な部品から容易に構成することができる。
【0072】
結論として、特定の弁システムは、その軽量な構成要素により、高速に動作する。更に、これらの構成要素は、構造が比較的単純であり、低い製造コストをもたらす。これらの利点に加えて、弁システムは信頼性があり、堅牢であり、目詰まりのリスクが低い。また、構成部品にかかる圧力負荷が比較的小さいため、弁システムの寿命が長い。
【0073】
(任意のパラメータ)
例えば、噴射器は、0.1mmから1mmの間、例えば0.2mmから0.5mmの間のノズル開口部を備えるノズルを有し、オイルミストとも呼ばれる、霧状の液滴のスプレーを噴射するように構成される。
【0074】
霧状の液滴の噴霧は、SIP潤滑において重要であり、潤滑剤の噴霧は、ピストンがTDCに向かう移動において噴射器を通過する前に、噴射器によってシリンダ内の掃気空気中に繰り返し噴射される。掃気空気中では、霧状の液滴は、TDCに向かう掃気空気の旋回運動により、TDCに向かう方向に輸送されるので、シリンダ壁上に拡散し分布される。スプレーの噴霧化は、ノズルでの潤滑剤噴射器内における高圧潤滑剤によるものである。この高圧噴射では、圧力は10バールより高く、典型的には25バール~100バールである。一例では、30~80バール、任意に35~60バールの間隔である。噴射時間は短く、典型的には5~30ミリ秒(msec)程度である。しかしながら、噴射時間は、1msecに、または1msec未満に、例えば0.1msecまで調整することができる。したがって、わずか数ミリ秒の誤差が噴射プロファイルを有害に変化させる可能性があり、すでに上述したように、高い精度、例えば0.1msecの精度が必要な理由となる。
【0075】
また、粘性は噴霧化に影響する。船舶用エンジンに使用される潤滑剤は、通常、40℃で約220cSt、100℃で20cStの典型的な動粘度を有し、これは202~37mPa・sの動粘度に換算される。有用な潤滑剤の例は、高性能の船舶用ディーゼルエンジンのシリンダ油であるExxonMobil(登録商標)におけるMobilgard(登録商標)560VSである。船舶用エンジンに有用な他の潤滑剤は、他のMobilgard油やCastrol(登録商標)のCyltech油である。一般的に使用されている船舶用エンジンの潤滑剤は、40~100℃の範囲でほぼ同一の粘度プロファイルを有し、例えば0.1~0.8mmのノズル開口直径を有する場合、噴霧化に全て有用であり、この潤滑剤は、開口部で30~80バールの圧力を有し、30~100℃又は40~100℃の領域の温度を有する。この件に関して、Rathesan Ravendran、Peter Jensen、Jesper de Claville Christiansen、Benny Endelt、Erik Appel Jensen、(2017)、「2ストローク船舶用エンジンに使用される潤滑油のレオロジー挙動」、Industrial Lubrication and Tribology、Vol.69 Issue:5、pp.750-753、https://doi.org/10.1108/ILT-03-2016-0075による公開論文も参照。
以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図2a】ばね荷重有りでの任意の選択弁システムについての図である。
【
図2b】ばね荷重無しでの任意の選択弁システムについての図である。
【
図3a】アイドル状態での噴射器の一例を示す図である。
【
図3b】第1の潤滑剤を含む噴射器の一例を示す図である。
【
図3c】第2の潤滑剤を含む噴射器の一例を示す図である。
【
図4a】噴射器がアイドル状態にあるときにおける、
図3の噴射器に適した選択弁システムの拡大図である。
【
図4b】噴射器が第1の潤滑剤の噴射を含むときにおける、
図3の噴射器に適した選択弁システムの拡大図である。
【
図4c】噴射器が第2の潤滑剤の噴射を含むときにおける、
図3の噴射器に適した選択弁システムの拡大図である。
【
図6a】アイドル状態での、回転選択弁部材を備えた噴射器の別の例の図である。
【
図6b】第1の潤滑剤の噴射を含む、回転選択弁部材を備えた噴射器の別の例の図である。
【
図6c】第2の潤滑剤の噴射を含む、回転選択弁部材を備えた噴射器の別の例の図である。
【
図7a】噴射器がアイドル状態にあるときにおける、
図6の噴射器に適した選択弁システムの拡大図である。
【
図7b】噴射器が第1の潤滑剤の噴射を含むときにおける、
図6の噴射器に適した選択弁システムの拡大図である。
【
図7c】噴射器が第2の潤滑剤の噴射を含むときにおける、
図6の噴射器に適した選択弁システムの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
図1は、大型エンジン、任意に低速運転2ストロークエンジン、例えば船舶用エンジン又は発電所用エンジンのシリンダ1の半分を示す。
【0078】
シリンダ1は、シリンダ壁3の内側にシリンダライナ2を有する。シリンダ壁3の内部には、シリンダ1内に潤滑剤を噴射するための複数の潤滑剤噴射器4が設けられている。図示のように、噴射器4は、シリンダ壁3に取り付けられ、隣接する噴射器4間において同じ角度距離にて円周に沿って分配されるが、これは厳密には必要ではない。また、円に沿って配置する必要はなく、軸方向にシフトさせた噴射器の配置も可能であり、例えば、2つ目の噴射器のそれぞれを隣接する噴射器に対してピストンの上死点(TDC)に向かってシフトさせることも可能である。
【0079】
各噴射器4は、ノズル開口部5’を有するノズル5を有し、そこから、例えば微小液滴7を有する潤滑剤の微細霧化スプレー8としての潤滑剤が高圧下でシリンダ1内に噴射される。
【0080】
例えば、ノズル開口部5’は、0.1~0.8mm、例えば0.2~0.5mmの直径を有し、10~100バール、例えば25~100バール、任意に30~80バール又は50~80バールの圧力で、潤滑剤を微細なスプレー8へと噴霧化し、これは、潤滑剤のコンパクトジェットとは対照的である。シリンダ1内の掃気空気のスワール14は、シリンダライナ2上の潤滑剤の均一な分布が達成されるように、スプレー8をシリンダライナ2に対して輸送し押圧する。この潤滑システムは、この分野では、「Swirl Injection Principle(SIP)」として知られている。しかしながら、改善された潤滑システムに関連して、例えばシリンダライナに向けて噴射する噴射器など、他の原理も想定される。
【0081】
任意に、シリンダライナ2には、噴射器4からの噴霧8又は噴射のための十分な空間を提供するために、フリーアウト(free outs)6が設けられる。
【0082】
噴射器4は、潤滑剤の圧力を適切なレベルまで上昇させる潜在的な潤滑剤ポンプを含むエンジンの第1の潤滑剤供給部29A、例えばゆとりのある油路から、第1の供給導管9A、典型的には共通の第1の供給導管9Aを介して、第1の種類の潤滑剤を受け取る。例えば、供給導管9内の圧力は、SIP弁の典型的な圧力範囲である25~100バール、任意に30~80バールの範囲である。
【0083】
加えて、噴射器4は、第2の潤滑剤供給部29Bから、第2の供給導管9Bを介して、典型的には共通の第2の供給導管9Bを介して、第2の種類の潤滑剤を受け取る。噴射器4は、アイドル状態から第1の潤滑剤又は第2の潤滑剤の噴射に選択的に切り替えるための内部弁システムを備えて構成されている。例えば低BN油と高BN油のような異なる種類の潤滑剤をそれぞれ切り替えることにより、エンジン状態及び燃料の種類に応じて潤滑を最適化することができる。
【0084】
噴射器4には、電気ケーブル10を介してコントローラ11と電気的に通信する電気コネクタ10’が設けられている。コントローラ11は、噴射器4によるノズル5からの潤滑剤の噴射を制御するために、電気制御信号を噴射器4に送信する。図示するように、各噴射器4ごとにケーブル10が設けられており、これにより各噴射器4による噴射制御を個別に行うことができる。しかしながら、コントローラ11から全ての噴射器4に1本の電気ケーブル10を設けることができ、その結果、全ての噴射器4は、1本の電気ケーブル10を介して電気制御信号を受信すると同時に噴射する。あるいは、第1のサブグループが第1のケーブル10を介してコントローラによって制御され、第1のサブグループが第2のケーブル10を介して制御されるように、コントローラ11から噴射器のサブグループ、例えば、2、3、4、5又は6個の噴射器のサブグループに、1本の電気ケーブル10を設けることも可能である。ケーブル及びサブグループの数は、好ましい構成に応じて選択される。
【0085】
コントローラ11から噴射器4への電気制御信号は、エンジンのシリンダ1内のピストン運動に同期して、正確にタイミングを合わせたパルスで提供される。例えば、同期のために、コントローラシステム11は、コンピュータ11’を備えているか、またはコンピュータ11’と有線又は無線によって電子的に接続されており、コンピュータ11’は、エンジンの実際の状態及び運動に関するパラメータ、例えば、速度、負荷、及びクランクシャフトの位置(シリンダ内のピストンの位置を明らかにする)を監視する。
【0086】
コンピュータ11’とコントローラ11は、任意に組み合わされる。コンピュータ11’と協働するコントローラ10は、電流が電気ケーブル又はケーブル10を通して供給される時間長によって、噴射段階の時間長を決定する。
【0087】
また、コントローラ11からの信号の種類によって、第1の潤滑剤と第2の潤滑剤のどちらが噴射されるかが決定される。
【0088】
以下、
図1のシステムに用いられる噴射器4について説明する。しかしながら、噴射器4は、SIP噴射を用いる必要はなく、他のエンジンシリンダ潤滑システムでも使用することができる。
【0089】
図2a及び
図2bは、第1の潤滑剤供給導管9A又は第2の潤滑剤供給導管9Bからノズル5へのスループット部を選択するための、噴射器4内の選択弁システムの任意の弁原理の図を示す。
図2aは、ばね復帰を含む弁を示し、
図2bは、ばね復帰を含まない弁を示す。このような原理を有する噴射器4について、以下に図面を参照して説明する。
【0090】
図3aは、
図1に関連して説明したエンジンのシリンダに装着する噴射器4の一例を示す。後述するように、噴射器4は、ノズル5を介してエンジン内に第1又は第2の潤滑剤を選択的に噴射する選択弁システム13を有する。
【0091】
噴射器4のハウジング21は、ベース30と、ベース30をノズル5にしっかりと接続する剛性中空ロッドである管状フローチャンバ16と、を有する。フローチャンバ16は、Oリング22によってベース30に対してシールされている。
【0092】
ベース30は、第1の潤滑剤供給導管9Aから第1の潤滑剤50Aを受け入れる第1の潤滑剤インレット12Aを有する。また、第2の潤滑剤供給管9Bから第2の潤滑剤50Bを受け入れる第2の潤滑剤インレット12Bを有する。第1及び第2の潤滑剤インレット12A、12Bは、第1及び第2の管26A、26Bを介して、第1又は第2の種類の噴射用潤滑剤50A、50Bを選択するための選択弁システム13と流体連通する。第1及び第2の管26A、26Bは、フローチャンバ16の内部において長手方向に延びている。
【0093】
ハウジング21は、典型的には、潤滑剤インレット12A、12Bがシリンダ壁3の外側に位置するように、エンジンのシリンダ1に取り付けられており、フローチャンバ16は、シリンダ壁3内にノズル開口部5’を位置決めするために、エンジンのシリンダ壁3を貫通して延びている。
【0094】
選択弁システム13は、
図3及び
図4の例示的な実施形態ではリニアアクチュエータであるアクチュエータによって作動され、これは、例示的な実施形態ではステムであるアクチュエータ延長部31によって選択弁システム13に接続されている。このリニアアクチュエータは、ソレノイドコイル32及びソレノイドプランジャ33を備える電気ソレノイドアクチュエータとして例示される。
【0095】
任意に、アクチュエータの速度を上げるために、プランジャ33の一方の側に第1の磁石39が設けられる。ソレノイドコイル32が一方向の電流によって通電されると、プランジャ32は第1の極性で磁化され、その結果、第1の磁石39Aがプランジャを引き付け、第1の磁石39Aに向かって移動するのを補助する。コイル32が逆方向の電流によって通電されると、プランジャ33は反対の極性で磁化され、第1の磁石はプランジャ33に反発する。任意にまた、第2の磁石39Bが設けられ、プランジャ33の反対側に配置され、プランジャの吸引及び反発を補助する。これにより、プランジャ33の反応時間及び移動量が増大する。典型的には、磁石39A、39Bは永久磁石である。あるいは、磁石39A、39B又は両方の磁石39A、39Bは、対応するコイル(図示せず)及び任意に磁化されたコアを含む電磁石であり、可動プランジャ33がソレノイドコイル32によって磁化されるときに、プランジャ33に付加的な力を与えるようにコイルが通電される。
【0096】
ソレノイドの代替として、アクチュエータ延長部31を駆動するため、又はアクチュエータ延長部31及びソレノイド32、33を置換するために、圧電素子が使用される可能性がある。このような圧電素子は、フローチャンバ16内に組み込むことができ、選択弁システム13内に潜在的に組み込むことができ、ソレノイドアクチュエータを回避することができるので、噴射器4の全体のサイズを小さくすることができる。
【0097】
アクチュエータ延長部31が位置又は方向の間で移動する作動時間を調整することによって、噴射時間が調整される。このように、選択弁システム13も、噴射段階の間、各潤滑剤供給導管9A、9Bから受け取られ、フローチャンバ16を介してノズル5に送られるような潤滑剤の量を調節するように構成される。
【0098】
現在の構成では、選択弁システム13は、最適な精度のために選択弁システム13からノズル5への流路を短く保つために、フローチャンバ16内でベース30よりもノズル開口部5’に近い位置に設けられている。しかしながら、選択弁システム13は、ベース30に近い方のフローチャンバ16内に設けることもできるし、ベース30内に設けることもできる。
【0099】
ノズル開口部5’を介して散布される潤滑剤を調整するために、噴射器4は出口弁システム15も有している。
【0100】
図4aは、選択弁システム13及び出口弁システム15の拡大図を示す。
図4のノズル5及び選択弁システム13は、
図3に示されるようにソレノイドアクチュエータ32、33に有用であるが、例えばコントローラ11によって電気機械アクチュエータ弁を作動させることによって、任意に電気信号によって作動される、空気圧及び油圧のアクチュエータを含む他のタイプのアクチュエータにも使用することができる。
【0101】
出口弁システム15は、典型的には、ノズル5の一部として設けられる。図示の実施形態では、ノズル5は、フローチャンバ16に固定され、部分的にフローチャンバ16内にあるユニット38の一部である。しかしながら、選択弁システム13は、代替的に、ノズル5の上流において、フローチャンバ内に設けることができる、或いはベース30内にも設けることができる。
【0102】
選択弁システム13から出口弁システム15への潤滑剤の流れのために、下流管27と連通するノズル流路46は、選択弁システム13を出口弁システム15と流体連通させる。
【0103】
出口弁システム15は、逆流防止出口弁17を含む。逆流防止出口弁17では、ボールとして例示される出口弁部材18が、出口弁ばね20によって出口弁座19に対してプレストレスを受ける。ノズル流路46内に加圧された潤滑剤が供給されると、出口弁ばね20のプレストレス力が潤滑剤圧力によって相殺され、圧力がばね力よりも高くなると、出口弁部材18はその出口弁座19から変位し、逆流防止出口弁17が開き、ノズル開口部5’を介してシリンダ1内に潤滑剤が噴射される。例示したように、出口弁ばね20は、ノズル開口部5’から離れる方向に、出口弁部材18に対して作用する。逆流防止出口弁17をアイドル状態で閉弁することにより、噴射段階の間においてフローチャンバ16からノズル開口部5’を通ってシリンダ1内に潤滑剤が意図せず流れることを防止する。
【0104】
図5は、出口弁システム15の別の実施形態を示す。出口弁システム15の一般化された原理は、国際公開第2014/048438号に開示されたものと同様である。ノズル先端部44には、潤滑剤を吐出するためのノズル開口部5’が設けられている。ノズル5の空洞部40内には、出口弁部材18が設けられており、出口弁部材18は、ステム41と、ノズル先端部44の円筒状空洞部43に摺動可能に配置された円筒状シールヘッド42と、を有する。弁部材18の位置は、ばね45によってノズル先端部44から離れるように後方にプレストレスを受け、ノズル流路46を介してステム41の後部47に作用する油圧によって前方にオフセットされ、この油圧はばね力に抗して作用する。弁部材18がノズル流路46内の上昇圧力によって前方に押されて、ノズル開口部5’を介して内部空洞部43から潤滑剤が排出のために流れるように、シールヘッド43がノズル開口部5’から離れるように摺動しない限り、ノズル開口部5’は、その表面48がノズル先端部44の円筒状空洞部43に当接するシールヘッド42によって密閉的に覆われている。
【0105】
図4aを参照して、選択弁システム13をより詳細に説明する。これは、選択弁部材25が往復運動及び種々の噴射状態間でのトグリングのために摺動可能に配置された長手方向ブッシュ24を含む固定弁部材23を有する。選択弁部材25は、潤滑剤が選択弁部材25の外側とブッシュ24の内側との間を流れないように、少なくとも潤滑剤の噴射に影響を与える程度ではなく、ブッシュ24内の選択弁部材を潤滑するのに十分な可能性がある程度に、ブッシュ24内にしっかり嵌合している。
【0106】
選択弁システム13は、選択弁部材25の狭窄胴部25Aとして例示される第1のスループット部25Aを有する。この第1のスループット部25Aは、加圧された第1の潤滑剤50Aが供給される第1の管26Aに流体連通している。
【0107】
図4bに示すように、選択弁部材25をノズル開口部5’に向けて前方に移動させることにより、第1のスループット部25Aは、第1の管26Aをノズル流路46と流体連通する下流管27と流体連通し、その結果、第1の潤滑剤50Aが第1の管26Aから第1のスループット部25Aを介して下流管27に流れ、ノズル流路46を通りノズル弁システム15を通ってノズル開口部5’から流出する。ノズル流路46の圧力の増加により、出口弁システム15内のボール弁部材18はそのシート19から持ち上げられ、第1の潤滑剤は出口弁システム15を通って流れることができる。
【0108】
図4cを参照すると、選択弁システム13は、選択弁部材25の最前端よりも前方に、管部25Bとして例示される第2のスループット部25Bを有する。この第2のスループット部25Bは、加圧された第2の潤滑剤50Bが供給される第2の管26Bと流体連通している。選択弁部材25がノズル出口5’から離れる方向である後方に変位すると、第2の管26Bは第2のスループット部25Bを介して下流管27と流体連通し、その結果、加圧された第2の潤滑剤50Bが、ノズル流路46を通り出口弁システム15を通って、ノズル開口部5’から流出してエンジンのシリンダ1内に流入することができる。
【0109】
選択弁システム13は、選択弁部材25の狭窄胴部25Aとして例示される狭窄胴部25Aによって例示され、これは、選択弁システム13のアイドル状態において第1の管26Aと流体連通し、前方変位の間において第1の管26Aを下流管27に接続する。あるいは、胴部25Aは、アイドル状態において下流管27に接続され、選択弁部材25は、第1の変位時において、胴部25Aを介して下流管27を第1の管26Aに接続するように構成されている。任意に、このような構成では、選択弁部材25は、第1の変位とは反対の第2の変位中において、下流管27を第2の管26Bに接続するように構成される。選択弁部材を前方向又は後方向に移動させることにより、胴部は、下流管27を第1の管26A及び第2の管26Bのいずれかに接続する。
【0110】
図4aは、
図3aのノズル5の拡大断面図であり、
図4b及び
図4cは、それぞれ、
図3b、3cのノズルの拡大断面図である。
図3a、3b、3cを参照すると、選択弁部材25はアクチュエータ延長部31によって前方又は後方に変位することが見て取れる。
【0111】
選択弁部材25の往復変位は、ソレノイドコイル32によって駆動される往復プランジャ33に固定された、プッシュプルロッドとして例示されるアクチュエータ延長部31によって行われる。プランジャ33とアクチュエータ延長部31は一緒に移動し、第1の螺旋ばね34Aによって反対方向にばね荷重が与えられ、第2の螺旋ばね34Bによって前方にばね荷重が与えられ、アイドル状態のための中間位置に平衡に保たれるようになっている。ソレノイドコイル32が電流によって一方向又は反対方向に励磁されると、ソレノイドプランジャ33がノズル5に向かって前進又はノズル5から遠ざかるように後退し、それに伴ってアクチュエータ延長部31及び選択弁部材25を押し込んだり引き出したりする。前方への移動は第1のストッパ35Aによって、後方への移動は第2のストップ35Bによって、限界が定められる。
図3bには、第1のストッパ35Aに対するプランジャ33の最も前方の位置が示され、
図3cには、第2のストッパ35Bに対するプランジャ33の最も後方の位置が示されている。第2の潤滑剤50Bがプランジャ33の両端に供給されることで、プランジャ33への圧力負荷が低減される効果がある。
【0112】
図6a、
図6b及び
図6cは、リニアソレノイドコイル/プランジャの組合せが回転アクチュエータ36によって置換されて、アクチュエータ延長部31が代わりに回転し、回転軸受37によって安定化されるようになっている、
図3の実施形態の代替実施形態である噴射器4を示す。
図6の構成要素は
図6と同様であるので、同様の構成要素に対する番号付けの繰り返しは避けた。しかしながら、機能を詳細に説明するために、対応する断面図及び詳細な番号付けを含むノズル5の拡大断面である
図7a、
図7b、
図7cを参照する。
【0113】
図7aは、ノズル5及びフローチャンバ16を拡大して示している。固定弁部材23は、第1の潤滑剤50Aのための第1の管26Aに接続された第1の横流路28Aを有する。固定弁部材23内で長手方向にオフセットされているのは、第2の潤滑剤50Bのための第2の管26Bに接続された第2の横流路28Bである。回転選択弁部材25は、第1の横流路28Aの位置に第1のスループット部25Cを有し、第2の横流路28Bの位置に第2のスループット部25Dを有する。スループット部25C、25Dは、回転選択弁部材25の反対側において局所的な面取り領域として設けられている。
【0114】
図7aにおいて、第1のスループット部25Cは、第1の管26Aにのみ連通し、下流管27には連通しない方向に回転される。第2のスループット部25Dは、第2の管26Bにのみ連通し、下流管27には連通しない方向に回転される。
図4aの下流管27と同様に、
図7aの下流管27はノズル流路46と連通している。
【0115】
選択弁部材25を一方向に45度回転させると、
図7bに示すように、第1のスループット部25Cが、第1の管26Aを下流管27と接続し、その結果、第1の潤滑剤50Aが、第1の管26Aから第1の横流路28Aを通り第1のスループット部25Cを通って、下流管27に入ってノズル流路46に達することができる。第1の潤滑剤50Aは、ノズル流路46から出口弁システム15を流れ、ノズル開口部5'からシリンダ1内に噴射される。
【0116】
選択弁部材25を他方向に45度回転させると、
図7cに示すように、第2のスループット部25Dが、第2の管26Bを下流管27と接続し、その結果、第2の潤滑剤50Bが、第2の管26Bから第2の横流路28Bを通り第2のスループット部25Dを通って、下流管27に入ってノズル流路46に達することができる。第2の潤滑剤50Bは、ノズル流路46から出口弁システム15を流れ、ノズル開口部5'からシリンダ1内に噴射される。
【0117】
選択弁システム13は、2つの潤滑剤50A、50Bについて説明したが、選択弁システム13を3つ以上の潤滑剤について拡張することが可能である。例えば、往復式の選択弁部材23を備えた実施形態では、スループット部25Aを、第1の管26Aと下流管27とのスループット部25Aを介した接続と同様に、第3の管を下流管27と接続するための異なる位置に変位可能に配置することができる。回転選択弁部材については、第3の管からの第3の横流路を設けることができ、更なるスループット部を、回転選択弁部材の第3の位置において、第1及び第2のスループット部25C、25Dからオフセットした角度で設けることができる。このようなスループット部は、第3の潤滑剤を噴射するために、下流管27と回転的に整列されることになる。
【符号の説明】
【0118】
1 シリンダ
2 シリンダライナ
3 シリンダ壁
4 潤滑剤噴射器
5 ノズル
5’ ノズル開口部
6 ライナの自由切断部
7 微小液滴
8 単一の噴射器4からの霧化スプレー
9A 第1の潤滑剤50Aを供給する第1の供給導管
9B 第2の潤滑剤50Bを供給する第2の供給導管
10 電気信号ケーブル
10’ 電気信号ケーブル10と噴射器4内のソレノイドとの間の電気コネクタ
11 コントローラ
11’ コンピュータ
12A 第1の潤滑剤50A用の噴射器4の第1の潤滑剤インレット
12B 第2の潤滑剤50B用の噴射器4の第2の潤滑剤インレット
13 噴射器4の選択弁システム
14 シリンダ内のスワール
15 噴射器4の出口弁システム
16 ベース30をノズル5に接続するフローチャンバ
17 出口ボール弁として例示される出口逆流防止弁
18 ボールとして例示される出口弁部材
19 出口弁座
20 出口弁ばね
21 噴射器ハウジング
22 フローチャンバ16の端にあるOリング
23 固定弁部材
24 選択弁部材25周辺のブッシュ
25 電気駆動式選択弁部材
25A 往復弁部材25の狭窄部として例示されるスループット部
25B 管部
25C 回転に関する実施形態における第1のスループット部
25D 回転に関する実施形態における第2のスループット部
26A 第1の潤滑剤50A用の第1の管
26B 第2の潤滑剤50B用の第2の管
27 選択弁システム13とノズル流路46との間の下流管
28A 第1の横流路
28B 第2の横流路
29A 第1の潤滑剤供給部
29B 第2の潤滑剤供給部
30 噴射器ハウジング21のベース
31 アクチュエータ延長部
32 ソレノイドコイル
33 ソレノイドコイル32内のプランジャ
34A 第1のばね
34B 第2のばね
35A 前方移動のための第1のストッパ
35B 後方移動のための第2のストッパ
36 回転アクチュエータ
37 回転軸受
38 ノズル5付きのユニット
39A、39B 第1及び第2の磁石
40 空洞部
41 ステム
42 円筒状シールヘッド
43 円筒状空洞部
44 ノズル先端部
45 ばね
46 ノズル流路
47 ステム41の後部
48 シールヘッド42の表面
50A、50B 第1及び第2の種類の潤滑剤