(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を阻害するペプチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240315BHJP
C07K 14/81 20060101ALI20240315BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240315BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240315BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240315BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240315BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240315BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240315BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240315BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240315BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240315BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240315BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240315BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240315BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240315BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/81
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61P43/00 111
A61K38/16
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/12
A61K47/64
C07K19/00
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2022195853
(22)【出願日】2022-12-07
(62)【分割の表示】P 2019540996の分割
【原出願日】2018-09-06
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2017171776
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100167678
【氏名又は名称】西田 直浩
(72)【発明者】
【氏名】西宮 大祐
(72)【発明者】
【氏名】田村 正和
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/024914(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/017587(WO,A1)
【文献】J. Invest. Dermatol.,2009年,vol.129, p.1656-1665
【文献】EMBO Molecular Medicine,2017年05月29日,vol.9, no.8,p.1132-1149
【文献】フナコシ,抗SPINK2抗体(Anti-SPINK2 Antibody)|ヒト組織免疫染色用抗体 [online],Webページ番号:15654,2018年06月28日,[検索日:2018.11.21],https://www.funakoshi.co.jp/contents/15654
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)で示されるアミノ酸配列を含み、且つ、KLK4の有するプロテアーゼ活性を特異的に阻害する、
SPINK2変異体ペプチド:
(i)配列番号9乃至12(図15乃至18)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列。
【請求項2】
該アミノ酸配列のアミノ末端側に、1乃至3個のアミノ酸残基が付加してなるアミノ酸配列、又は、配列番号26(
図32)で示されるアミノ酸配列が付加してなるアミノ酸配列を含む、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
該アミノ酸配列のカルボキシル末端側に、1乃至6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列が付加してなるアミノ酸配列を含む、請求項1
又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
3つのジスルフィド結合を有し、ループ構造、αへリックス及びβシートを含むことで特徴付けられる立体構造を有する、請求項1乃至
3のいずれか一つに記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一つに記載のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項
5記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項7】
請求項
5記載のポリヌクレオチド若しくは請求項
6記載のベクターを含むか又は請求項1乃至
4のいずれか一つに記載のペプチドを産生する細胞。
【請求項8】
下記工程(i)及び(ii)を含む、SPINK2変異体ペプチドの製造方法:
(i)請求項
7記載の細胞を培養する工程;
(ii)
工程(i)で得られた培養物からSPINK2変異体ペプチドを回収する工程。
【請求項9】
請求項1乃至
4のいずれか一つに記載のペプチドを化学合成又はイン・ビトロ翻訳により調製する工程を含む、該ペプチドの製造方法。
【請求項10】
請求項
8又は
9記載の方法により得られるSPINK2変異体ペプチド。
【請求項11】
請求項1乃至
4及び
10のいずれか一つに記載のペプチドに他の部分が結合してなるコンジュゲート。
【請求項12】
ペプチドである、請求項
11記載のコンジュゲート。
【請求項13】
免疫グロブリンのFc領域を含む、請求項
11又は
12記載のコンジュゲート。
【請求項14】
下記工程(i)及び(ii)を含む、請求項
12又は
13記載のSPINK2変異体ペプチドコンジュゲートの製造方法:
(i)該コンジュゲートに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドが挿入されたベクターを含む細胞を培養する工程:
(ii)
工程(i)で得られた培養物からSPINK2変異体ペプチドコンジュゲート又は該コンジュゲートに含まれるペプチド部分を回収する工程。
【請求項15】
請求項
11乃至
13のいずれか一つに記載のSPINK2変異体ペプチドコンジュゲート又は該コンジュゲートに含まれるペプチド部分を化学合成又はイン・ビトロ翻訳により調製する工程を含む、該コンジュゲートの製造方法。
【請求項16】
請求項
14又は
15記載の方法により得られるSPINK2変異体ペプチドコンジュゲート。
【請求項17】
請求項1乃至
4及び
10のいずれか一つに記載のペプチド、請求項
5記載のポリヌクレオチド、請求項
6記載のベクター、請求項
7記載の細胞、及び/又は、請求項
11乃至
13及び
16のいずれか一つに記載のコンジュゲートを含む組成物。
【請求項18】
請求項1乃至
4及び
10のいずれか一つに記載のペプチド、請求項
5記載のポリヌクレオチド、請求項
6記載のベクター、請求項
7記載の細胞、及び/又は、請求項
11乃至
13及び
16のいずれか一つに記載のコンジュゲートを含む医薬組成物。
【請求項19】
請求項1乃至
4及び
10のいずれか一つに記載のペプチド、請求項
5記載のポリヌクレオチド、請求項
6記載のベクター、請求項
7記載の細胞、及び/又は、請求項
11乃至
13及び
16のいずれか一つに記載のコンジュゲートを含む、KLK4の検出用又は測定用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、ペプチドの製造方法、かかる方法により得られるペプチド、ペプチドに他の部分が結合してなるコンジュゲート、ペプチド又はコンジュゲートを含む組成物、ペプチド又はコンジュゲートを含む医薬組成物、ペプチド又はコンジュゲートを含む各種疾患の治療又は予防のための該医薬組成物、各種疾患の治療又は予防のためのペプチド又はコンジュゲートの使用、ペプチド又はコンジュゲートを投与する工程を含む各種疾患の治療方法、ペプチド又はコンジュゲートを含む各種疾患の診断又は検査のための組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
KLK1はN末プロペプチドとプロテアーゼ活性ドメインからなり、3箇所のN型糖鎖付加が知られている(非特許文献1)。KLK1はトリプシン様およびキモトリプシン様のプロテアーゼ活性を示し、カリクレインファミリーの中でも高いキニノーゲン分解活性を有している。その切断によって血中では血圧の調整に関与し、腎臓や心疾患系ではH+-ATPaseやK+-ATPaseなどの様々なトランスポーターに影響する(非特許文献2)。気道においては、KLK1によるキニノーゲンの分解により生じたキニンがBradykinin B2受容体を活性化し、気管の平滑筋収縮や粘液の過剰分泌を誘導する。さらに、KLK1活性の増大とIL-8およびfree bradykininの上昇の関連が報告されていることから、KLK1は喘息の治療標的として示唆されている。これまでに、急性膵炎や気管支炎などのモデルにおいて低分子のKLK1阻害剤の効果が検証されていたが、その薬効または特異性は充分ではなかった。近年ではヒトモノクローナル抗体によるKLK1阻害薬が報告されており、ヒツジ喘息モデルで薬効を示すことが明らかとなっている(非特許文献3)。しかし、特異的にKLK1阻害活性を示す、抗体又はその断片以外の低分子量蛋白質(例えば、免疫グロブリン可変領域を含まない蛋白質)は知られていない。
【0003】
KLK4はN末プロペプチドとプロテアーゼ活性を有するトリプシン様ドメインからなり、N型糖鎖が付加することが知られている。KLK4は歯のエナメル形成時に分泌され、MMP20(Matrix Metalloproteinase 20)によりN末のプロペプチドが切断されることで活性化KLK4となる(非特許文献1)。活性化KLK4はamelogeninやenamelinなどのエナメルマトリックス成分を分解することで、ハイドロキシアパタイト結晶を主成分とするエナメル層の成熟促進に関与している(非特許文献2)。また、KLK4に対するsiRNAを前立腺がん移植マウスに投与した場合、腫瘍の増殖抑制が観察されており、前立腺がんとの関連も示唆されている。これまでに、KLK4阻害剤としてSunflower trypsin inhibitor(SFTI)由来の改変ペプチドなどが報告されており、がん細胞株においてPaclitaxelとの併用で薬効を示しているが、その効果は充分とは言い難い(特許文献1,特許文献2,非特許文献4)。また、天然界においてはヒトserine protease of Kazal-type 6(SPINK6)がKLK4阻害活性を有しており、27nMのKiを示す一方、KLK12やKLK13に対しては1nMのKiを示すことから、特異性は高くない(非特許文献5)。そのため、抗体又はその断片以外の低分子量蛋白質(例えば、免疫グロブリン可変領域を含まない蛋白質)に代表されるKLK4特異的な阻害分子が望まれる。
【0004】
KLK8はニューロプシンともよばれ、N末プロペプチドとプロテアーゼ活性を有するトリプシン様ドメインからなり、N型糖鎖が付加することが知られている(非特許文献1)。KLK8はプロペプチドを有するプロ体として海馬や扁桃体、大脳辺縁系等で発現し、プロテアーゼによってプロペプチドが切断されることで活性化KLK8となる。活性化KLK8は海馬プレシナプスに存在する細胞接着分子L1CAM(the presynaptic neural cell adhesion molecule L1)や統合失調症脆弱因子NRG1(Neuregulin 1)などを切断することで、長期記憶の増強や統合失調症などへの関与が報告されている(非特許文献2)。また、KLK8はその高い発現が認められている大腸がんや卵巣がんとの関連が示唆されている(非特許文献6)。天然界において、ヒトserine protease of Kazal-type 9(SPINK9)がKLK8阻害活性を有していることが報告されたが、その活性は非常に弱い(非特許文献7)。KLK8阻害活性を特異的に示す、抗体又はその断片以外の低分子量蛋白質(例えば、免疫グロブリン可変領域を含まない蛋白質)は知られていない。
【0005】
また、KLK4関連疾患およびKLK8関連疾患を一剤で治療しうることを目的とした、KLK4及びKLK8に対する阻害活性を特異的に示す、抗体又はその断片以外の低分子量蛋白質(例えば、免疫グロブリン可変領域を含まない蛋白質)は知られていない。
【0006】
SPINK2(Serine Protease Inhibitor Kazal-type 2)は、3つのdisulfide bondを有するKazal-type
domainから成る7kDaのタンパク質である。ヒト生体内では精巣や精嚢で発現しており、trypsin/acrosin inhibitorとして機能する(非特許文献8)。SPINK2自身がKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8二重阻害剤になりうることを示唆する知見はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2010/017587
【文献】WO2015/144933
【非特許文献】
【0008】
【文献】Guo S, Skala W, Magdolen V, Brandstetter H, Goettig P. (2014) Sweetened kallikrein-related peptidases (KLKs): glycan trees as potential regulators of activation and activity. Biol Chem. 395(9):959-76.
【文献】Prassas I, Eissa A, Poda G, Diamandis EP. (2015) Unleashing the therapeutic potential of human kallikrein-related serine proteases. Nat Rev Drug Discov. 14(3):183-202.
【文献】Sexton DJ, Chen T, Martik D, Kuzmic P, Kuang G, Chen J, Nixon AE, Zuraw BL, Forteza RM, Abraham WM, Wood CR.(2009) Specific inhibition of tissue kallikrein 1 with a human monoclonal antibody reveals a potential role in airway diseases. Biochem J. 422(2):383-92.
【文献】Dong Y, Stephens C, Walpole C, Swedberg JE, Boyle GM, Parsons PG, McGuckin MA, Harris JM, Clements JA. (2013) Paclitaxel resistance and multicellular spheroid formation are induced by kallikrein-related peptidase 4 in serous ovarian cancer cells in an ascites mimicking microenvironment.PLoS One. 8(2):e57056.
【文献】Kantyka T1, Fischer J, Wu Z, Declercq W, Reiss K, Schroder JM, Meyer-Hoffert U. (2011) Inhibition of kallikrein-related peptidases by the serine protease inhibitor of Kazal-type 6. Peptides. 32(6):1187-92.
【文献】Borgono CA1, Diamandis EP. (2004) The emerging roles of human tissue kallikreins in cancer. Nat Rev Cancer. 4(11):876-90.
【文献】Brattsand M1, Stefansson K, Hubiche T, Nilsson SK, Egelrud T.(2009) SPINK9: a selective, skin-specific Kazal-type serine protease inhibitor. J Invest Dermatol. 129(7):1656-65.
【文献】Chen T, Lee TR, Liang WG, Chang WS, Lyu P C. (2009) Identification of trypsin-inhib itory site and structure determination o f human SPINK2 serine proteinase inhibit or. Proteins. 77(1):209-1.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
新規なKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4及びKLK8二重阻害(以下、単に「KLK4及びKLK8阻害」又は「KLK4/KLK8阻害」という)ペプチドを提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は
(1)
配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列を含み、且つ、KLK1の有するプロテアーゼ活性を特異的に阻害するSPINK2変異体ペプチド、
(2)
1乃至13番目のXaa(X
1乃至X
13)がCys及びPro以外のアミノ酸である、(1)記載のペプチド、
(3)
1番目のXaa(X
1)がAsp又はGlyである、(1)又は(2)記載のペプチド、
(4)
2番目のXaa(X
2)はAla、Asp又はSer、3番目のXaa(X
3)はIle、Gln、Arg又はVal、4番目のXaa(X
4)はAla、Asn又はTyr、5番目のXaa(X
5)はLeu、Lys、Asn又はGln、6番目のXaa(X
6)はIle、Arg、Tyr又はVal、7番目のXaa(X
7)はAsp、Arg又はVal、8番目のXaa(X
8)はAsp、Ile又はArg、9番目のXaa(X
9)は
Phe、His又はTrp、10番目のXaa(X
10)はTyr又はTrp、11番目のXaa(X
11)はAla、Thr又はTyr、12番目のXaa(X
12)はSer又はTyr、並びに、13番目のXaa(X
13)はGlu、Lys又はGlnである、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載のペプチド、
(5)
配列番号5乃至8(
図11乃至14)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列を含む、(1)乃至(4)のいずれか一つに記載のペプチド、
(6)
配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列を含み、且つ、KLK4の有するプロテアーゼ活性を特異的に阻害するSPINK2変異体ペプチド、
(7)
1乃至13番目のXaa(X
1乃至X
13)がCys及びPro以外のアミノ酸である、(6)記載のペプチド、
(8)
1番目のXaa(X
1)がAsp又はGlyである、(6)又(7)記載のペプチド、(9)
2番目のXaa(X
2)はGlu、Arg又はSer、3番目のXaa(X
3)はHis、Lys、Leu又はGln、4番目のXaa(X
4)はAla、Gln又はTyr、5番目のXaa(X
5)はAla、Glu、Gln又はVal、6番目のXaa(X
6)はGlu、Leu、Met又はTyr、7番目のXaa(X
7)はAsp又はGly、8番目のXaa(X
8)はAla又はVal、9番目のXaa(X
9)はGln、10番目のXaa(X
10)はLys又はArg、11番目のXaa(X
11)はIle、Leu又はThr、12番目のXaa(X
12)はPhe又はTyr、並びに、X
13)はLys、Leu又はGlnである、(6)乃至(8)のいずれか一つに記載のペプチド、
(10)
配列番号9乃至12(
図15乃至18)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列を含む、(6)乃至(9)のいずれか一つに記載のペプチド、
(11)
配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列を含み、且つ、KLK4の有するプロテアーゼ活性及びKLK8の有するプロテアーゼ活性を特異的に阻害するSPINK2変異体ペプチド、
(12)
1乃至13番目のXaa(X
1乃至X
13)がCys及びPro以外のアミノ酸である、(11)記載のペプチド、
(13)
1番目のXaa(X
1)がAsp又はGlyである、(11)又(12)記載のペプチド、
(14)
2番目のXaa(X
2)はGly、Met、Gln、Arg、Ser又はThr、3番目のXaa(X
3)はLys又はArg、4番目のXaa(X
4)はPhe、His、Gln又はTyr、5番目のXaa(X
5)はHis、Lys、Arg、Ser、Thr、Val又はTyr、6番目のXaa(X
6)はIle、Lys、Leu、Met、Gln、Arg、Ser、Val又はTrp、7番目のXaa(X
7)はAsp、Glu、Gly、His、Asn、Arg、Val又はTrp、8番目のXaa(X
8)はGly又はTrp、9番目のXaa(X
9)はAla、Phe、Asn、Ser又はThr、10番目のXaa(X
10)はLys又はArg、11番目のXaa(X
11)はIle、Met、Gln、Ser又はVal、12番目のXaa(X
12)はPhe、Leu又はTyr、並びに、13番目のXaa(X
13)はAla、Asp、Glu又はAsnである、(11)乃至(13)のいずれか一つに記載のペプチド、
(15)
配列番号13乃至22(
図19乃至28)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列を含む、(11)乃至(14)のいずれか一つに記載のペプチド、
(16)
配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列のアミノ末端側に、1乃至3個のアミノ酸残基が付加してなるアミノ酸配列、又は、配列番号26(
図32)で示されるアミノ酸配列が付加してなるアミノ酸配列を含む、(1)乃至(15)のいずれか一つに記載のペプチド、
(17)
配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列のカルボキシル末端側に、1乃至6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列が付加してなるアミノ酸配列を含む、(1)乃至(16)のいずれか一つに記載のペプチド、
(18)
3つのジスルフィド結合を有し、ループ構造、αへリックス及びβシートを含むことで特徴付けられる立体構造を有する、(1)乃至(17)のいずれか一つに記載のペプチド、
(19)
(1)乃至(18)のいずれか一つに記載のペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、
(20)
(19)記載のポリヌクレオチドを含むベクター、
(21)
(19)記載のポリヌクレオチド若しくは(20)記載のベクターを含むか又は(1)乃至(18)のいずれか一つに記載のペプチドを産生する細胞、
(22)
下記工程(i)及び(ii)を含む、SPINK2変異体ペプチドの製造方法:
(i)(21)記載の細胞を培養する工程;
(ii)該培養物からSPINK2変異体ペプチドを回収する工程、
(23)
(1)乃至(18)のいずれか一つに記載のペプチドを化学合成又はイン・ビトロ翻訳により調製する工程を含む、該ペプチドの製造方法、
(24)
(22)又は(23)記載の方法により得られるSPINK2変異体ペプチド、
(25)
(1)乃至(18)及び(24)のいずれか一つに記載のペプチドに他の部分が結合してなるコンジュゲート、
(26)
ペプチドである、(25)記載のコンジュゲート、
(27)
免疫グロブリンのFc領域又はその機能断片を含む、(25)又は(26)記載のコンジュゲート、
(28)
下記工程(i)及び(ii)を含む、(25)乃至(27)のいずれか一つに記載のSPINK2変異体ペプチドコンジュゲートの製造方法:
(i)該コンジュゲートに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドが挿入されたベクターを含む細胞を培養する工程:
(ii)該培養物からSPINK2変異体ペプチドコンジュゲート又は該コンジュゲートに含まれるペプチド部分を回収する工程、
(29)
(25)乃至(27)のいずれか一つに記載のSPINK2変異体ペプチドコンジュゲ
ート又は該コンジュゲートに含まれるペプチド部分を化学合成又はイン・ビトロ翻訳により調製する工程を含む、該コンジュゲートの製造方法、
(30)
(28)又は(29)記載の方法により得られるSPINK2変異体ペプチドコンジュゲート、
(31)
(1)乃至(18)及び(24)のいずれか一つに記載のペプチドに結合する抗体又はその結合断片、
(32)
(1)乃至(18)及び(24)のいずれか一つに記載のペプチド、(19)記載のポリヌクレオチド、(20)記載のベクター、(21)記載の細胞、(25)乃至(27)及び(30)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、及び/又は、(31)記載の抗体もしくはその結合断片を含む組成物、
(33)
(1)乃至(18)及び(24)のいずれか一つに記載のペプチド、(19)記載のポリヌクレオチド、(20)記載のベクター、(21)記載の細胞、及び/又は、(25)乃至(27)及び(30)のいずれか一つに記載のコンジュゲートを含む医薬組成物、
(34)
KLK1関連疾患、KLK4関連疾患及び/又はKLK8関連疾患の治療用又は予防用である、(33)記載の医薬組成物、
(35)
(1)乃至(18)及び(24)のいずれか一つに記載のペプチド、(19)記載のポリヌクレオチド、(20)記載のベクター、(21)記載の細胞、(25)乃至(27)及び(30)のいずれか一つに記載のコンジュゲート、及び/又は、(31)記載の抗体もしくはその結合断片を含む、検査用又は診断用組成物、及び、
(36)
(31)記載の抗体又はその結合断片を用いたアフィニティー精製工程を含む、(22)、(23)、(28)又は(29)に記載の製造方法、
等に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の提供するペプチド又はそれを含む医薬組成物は、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を有し、KLK1関連疾患、KLK4関連疾患、又は、KLK4/KLK8関連疾患(いずれも後述)の治療又は予防等にそれぞれ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ヒトKLK1、KLK4及びKLK8のアミノ酸配列類似性を比較した図。
【
図2】ペプチド基質の分解速度を指標として、各阻害ペプチドのKLK1、KLK4、KLK8阻害活性を評価した図。KLK1阻害活性は終濃度1nMのKLK1および終濃度100μMのPFR-AMC(BACHEM)、KLK4阻害活性評価は終濃度10nMのKLK4および終濃度100μMのBoc-VPR-AMC(R&D Systems)、KLK8阻害活性評価は終濃度20nMのKLK8および終濃度100μMのBoc-VPR-AMCを用いて実施した。
【
図3】ペプチド基質の分解速度を指標として、KLK4阻害ペプチドのKLK4阻害活性(Ki)を示した図。KLK4阻害活性評価には終濃度10nMのKLK4および終濃度100μMのBoc-VPR-AMC(R&D Systems)を使用した。
【
図4(1)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対する各阻害ペプチドの交差性を評価した図。α-chymotrypsin阻害活性には、終濃度10nM chymotrypsin(Worthington Biochemical Corporation;LS001434)、終濃度100μM 基質ペプチドSuc-LLVT-MCA(株式会社ペプチド研究所;3120-v)を用いた。Human tryptase阻害活性には、終濃度1nM tryptase(Sigma-Aldrich;T7063)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Phe-Ser-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3107-v)を用いた。Human chymase阻害活性には、終濃度100nM chymase(Sigma-Aldrich;C8118)、終濃度100μM 基質ペプチドSuc-Leu-Leu-Val-Tyr-MCA(株式会社ペプチド研究所;3120-v)を用いた。
【
図4(2)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対する各阻害ペプチドの交差性を評価した図。Human plasmin阻害活性には、終濃度50nM Plasmin(Sigma-Aldrich;P1867)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Val-Leu-Lys-MCA(株式会社ペプチド研究所;3104-v)を用いた。Human thrombin阻害活性には、終濃度1nM thrombin(Sigma-Aldrich;T6884)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-VPR-AMC Fluorogenic Peptide Substrate(R&D Systems;ES011)を用いた。Neutrophil elastase阻害活性には、終濃度0.02U/μL Neutrophil elastase(Enzo Life Sciences)、終濃度100μM 基質ペプチドSuc(OMe)-Ala-Ala-Pro-Val-MCA(株式会社ペプチド研究所;3153-v)を用いた。
【
図4(3)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対する各阻害ペプチドの交差性を評価した図。Human matriptase阻害活性には、終濃度1nM matriptase(R&D Systems;E3946-SE)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-QAR-AMC Fluorogenic Peptide Substrate(ES014)を用いた。Human protein C阻害活性には、終濃度100nM protein C(Sigma-Aldrich;P2200)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Leu-Ser-Thr-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3112-v)を用いた。Human tPA阻害活性には、終濃度10nM tPA(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドPyr-Gly-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3145-v)を用いた。
【
図4(4)】ペプチド基質の分解を指標として、各プロテアーゼに対する各阻害ペプチドの交差性を評価した図。Human uPA阻害活性には、終濃度10nM uPA(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドPyr-Gly-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3145-v)を用いた。Human plasma kallikrein阻害活性には、終濃度0.125μg/ml plasma kallikrein(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドZ-Phe-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3095-v)を用いた。
【
図5】ビオチン化KLK4を用いて、KLK4阻害ペプチドの結合親和性をBiacore T200(GE healthcare)で測定した図。
【
図6】X線結晶構造解析により得られたKLK4/KLK4阻害ペプチド複合体を示した図。該阻害ペプチドはKLK4活性中心を含む領域に結合していた。
【
図7】ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1)
【
図10】ヒトKLK8のアミノ酸配列(配列番号4)
【
図11】KLK1阻害ペプチドK10061のアミノ酸配列(配列番号5)
【
図12】KLK1阻害ペプチドK10062のアミノ酸配列(配列番号6)
【
図13】KLK1阻害ペプチドK10066のアミノ酸配列(配列番号7)
【
図14】KLK1阻害ペプチドK10071のアミノ酸配列(配列番号8)
【
図15】KLK4阻害ペプチドK40001のアミノ酸配列(配列番号9)
【
図16】KLK4阻害ペプチドK40003のアミノ酸配列(配列番号10)
【
図17】KLK4阻害ペプチドK40004のアミノ酸配列(配列番号11)
【
図18】KLK4阻害ペプチドK40005のアミノ酸配列(配列番号12)
【
図19】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41021のアミノ酸配列(配列番号13)
【
図20】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41024のアミノ酸配列(配列番号14)
【
図21】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41025のアミノ酸配列(配列番号15)
【
図22】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41026のアミノ酸配列(配列番号16)
【
図23】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41041のアミノ酸配列(配列番号17)
【
図24】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41042のアミノ酸配列(配列番号18)
【
図25】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41043のアミノ酸配列(配列番号19)
【
図26】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41045のアミノ酸配列(配列番号20)
【
図27】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41046のアミノ酸配列(配列番号21)
【
図28】KLK4/KLK8阻害ペプチドK41047のアミノ酸配列(配列番号22)
【
図29】KLK1阻害結合ペプチド、KLK4阻害ペプチド又はKLK4/KLK8阻害ペプチドの一般式(配列番号23)
【
図30】プライマー1のヌクレオチド配列(配列番号24)
【
図31】プライマー2のヌクレオチド配列(配列番号25)
【
図32】Stag+リンカー1のアミノ酸配列(配列番号26)
【
図33】C末6マーのアミノ酸配列(配列番号27)
【
図34】ヒトIgG1 Fcのアミノ酸配列(配列番号28)
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.定義
本発明において、「遺伝子」とは、蛋白質に含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子又はその相補鎖を意味し、一本鎖、二本鎖又は三本鎖以上からなり、DNA鎖とRNA鎖の会合体、一本の鎖上にリボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドが混在するもの及びそのよう鎖を含む二本鎖又は三本鎖以上の核酸分子も「遺伝子」の意味に含まれる。
【0014】
本発明において、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」は同義であり、それらの構成単位であるリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、ヌクレオチド、ヌクレオシド等の個数によっては何ら限定されず、例えば、DNA、RNA、mRNA、cDNA、cRNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、プライマー等もその範囲に含まれる。「核酸分子」は略して「核酸」と呼ばれる場合がある。
【0015】
本発明において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「蛋白質」は同義である。
【0016】
本発明において、標的分子Xを認識する、又は標的分子Xに結合する(以下、その認識
又は結合作用をまとめて「X結合活性」という。)ペプチドを、「X結合ペプチド」と呼ぶことができる。さらに、標的分子Xを認識し、又は標的分子Xに結合し、かつ標的分子Xの有する1つ又は2つ以上の活性又は機能を阻害又は抑制する(以下、それらの阻害又は抑制作用をまとめて「X阻害活性」という。)ペプチドを、「X阻害ペプチド」と呼ぶことができる。
【0017】
本発明において、「SPINK2」は、Serine Protease Inhibitor Kazal-type 2を意味し、3つのジスルフィド結合を有するKazal様ドメインから成る7kDaの蛋白質である。好適なSPINK2はヒト由来である。本発明においては、別段記載された場合を除き、ヒトSPINK2を単に「SPINK2」という。
【0018】
本発明において、「KLK1」はN末プロペプチドとプロテアーゼ活性ドメインからなり、3箇所のN型糖鎖が付加したトリプシン様およびキモトリプシン様のプロテアーゼ活性を示す蛋白質である。好適なKLK1はヒト由来である。本発明においては、別段記載された場合を除き、ヒトKLK1を単に「KLK1」ということがある。
【0019】
本発明において、「KLK4」はN末プロペプチドとプロテアーゼ活性を有するトリプシン様ドメインからなり、N型糖鎖が付加した蛋白質である。好適なKLK4はヒト由来である。本発明においては、別段記載された場合を除き、ヒトKLK4を単に「KLK4」ということがある。
【0020】
本発明において、「KLK8」はニューロプシンともよばれ、N末プロペプチドとプロテアーゼ活性を有するトリプシン様ドメインからなり、N型糖鎖が付加した蛋白質である。好適なKLK8はヒト由来である。本発明においては、別段記載された場合を除き、ヒトKLK8を単に「KLK8」ということがある。
【0021】
本発明において、「前駆型KLK1」はpro-KLK1を意味し、プロペプチドおよびプロテアーゼ活性を有するドメインから構成される。「活性型KLK1」はactive KLK1を意味し、プロテアーゼ活性を有するドメインで構成される。好適な活性型KLK1はヒト由来である。
【0022】
本発明において、「前駆型KLK4」はpro-KLK4を意味し、プロペプチドおよびプロテアーゼ活性を有するドメインから構成される。「活性型KLK4」はactive KLK4を意味し、プロテアーゼ活性を有するドメインで構成される。好適な活性型KLK4はヒト由来である。
【0023】
本発明において、「前駆型KLK8」はpro-KLK8を意味し、プロペプチドおよびプロテアーゼ活性を有するドメインから構成される。「活性型KLK8」はactive KLK8を意味し、プロテアーゼ活性を有するドメインで構成される。好適な活性型KLK8はヒト由来である。
【0024】
本発明において、「KLK1阻害ペプチド」、「KLK4阻害ペプチド」又は「KLK4/KLK8阻害ペプチド」は、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の有する1つ又は2つ以上の活性又は機能を阻害又は抑制するペプチドをそれぞれ意味する。
「KLK1阻害ペプチド」、「KLK4阻害ペプチド」及び「KLK4/KLK8阻害ペプチド」の範囲には、当該ペプチドの断片、他の部分(moiety)が当該ペプチド又はその断片に付加又は結合してなるコンジュゲートのうち、KLK1阻害(結合)活性、KLK4阻害(結合)活性、又は、KLK4/KLK8阻害(結合)活性を維持しているものがそれぞれ含まれる。すなわち、KLK1阻害(結合)活性、KLK4阻害(結合)活性、又は、KLK4阻害(結合)活性及びKLK8阻害(結合)活性を維持する当該ペプチドの断片、付加体及び修飾体(コンジュゲート)も「KLK1阻害ペプチド」、「KLK4阻害ペプチド」又は「KLK4/KLK8阻害ペプチド」にそれぞれ含まれる。
【0025】
本発明において、ペプチドが結合する「部位」、すなわちペプチドが認識する「部位」とは、ペプチドが結合又は認識する標的分子上の連続的もしくは断続的な部分アミノ酸配列又は部分高次構造を意味する。本発明においては、かかる部位のことを標的分子上のエピトープ又は結合部位と呼ぶことができる。
【0026】
本発明において、「細胞」には、動物個体に由来する各種細胞、継代培養細胞、初代培養細胞、細胞株、組換え細胞、酵母、微生物等も含まれる。
【0027】
本発明において、「SPINK2変異体」とは、野生型SPINK2の有するアミノ酸配列において、1個又は2個以上のアミノ酸が野生型とは異なるアミノ酸で置換され、1個又は2個以上の野生型のアミノ酸が欠失し、1個又は2個以上の野生型には無いアミノ酸が挿入され、及び/又は、野生型には無いアミノ酸が野生型のアミノ末端(N末)及び/又はカルボキシル末端(C末)に付加されて(以下、「変異」と総称する)なるアミノ酸配列を含むペプチドを意味する。「SPINK2変異体」のうち、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4阻害活性及びKLK8阻害活性(KLK4/KLK8阻害活性)を有するものは、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドに包含される。なお、本発明においては「挿入」も「付加」の範囲に含まれ得る。
【0028】
本発明において、「1乃至数個」における「数個」とは、3乃至10個を指す。
【0029】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、5×SSCを含む溶液中で65℃にてハイブリダイゼーションを行い、ついで2×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、0.5×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、並びに、0.2×SSC-0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分間、それぞれ洗浄する条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることを意味する。SSCとは150mM NaCl-15mMクエン酸ナトリウムの水溶液であり、n×SSCはn倍濃度のSSCを意味する。
【0030】
本発明において「特異的」及び「特異性」なる語は「選択的」及び「選択性」とそれぞれ同義であり、互換性がある。例えば、KLK1特異的な阻害ペプチドは、KLK1選択的な阻害ペプチドと同義である。
【0031】
2.ペプチド
2-1.アミノ酸
「アミノ酸」は、アミノ基及びカルボキシル基を含む有機化合物であり、好適には蛋白質に、より好適には天然の蛋白質に、構成単位として含まれるα-アミノ酸を意味する。本発明において、より好適なアミノ酸は、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr及びValであり、特に明記しない限り「アミノ酸」はこれらの計20アミノ酸を意味する。それらの計20アミノ酸を「天然アミノ酸」と呼ぶことができる。本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、好適には天然アミノ酸を含有する。
【0032】
本発明においては「アミノ酸残基」は「アミノ酸」と略記される場合がある。
【0033】
また、本発明において、アミノ酸は、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又はその混合物(DL-アミノ酸)であるが、特に明記しない限りL-アミノ酸を意味する。
【0034】
天然アミノ酸は、その共通する側鎖の性質に基づいて、例えば、次のグループに分けることができる。
(1)疎水性アミノ酸グループ:Met、Ala、Val、Leu、Ile
(2)中性親水性アミノ酸グループ:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln
(3)酸性アミノ酸グループ:Asp、Glu
(4)塩基性アミノ酸グループ:His、Lys、Arg
(5)主鎖の方角に影響を与えるアミノ酸のグループ:Gly、Pro
(6)芳香族アミノ酸グループ:Trp、Tyr、Phe
ただし、天然アミノ酸の分類はこれらに限定されるものではない。
【0035】
本発明においては、天然アミノ酸は保存的アミノ酸置換を受け得る。
【0036】
「保存的アミノ酸置換(conservative amino acid substitution)」とは、機能的に等価又は類似のアミノ酸との置換を意味する。ペプチドにおける保存的アミノ酸置換は、該ペプチドのアミノ酸配列に静的変化をもたらす。例えば、同様の極性を有する一つ又は二つ以上のアミノ酸は機能的に等価に作用し、かかるペプチドのアミノ酸配列に静的変化をもたらす。一般に、あるグループ内の置換は構造及び機能について保存的であると考えることができる。しかしながら、当業者には自明であるように、特定のアミノ酸残基が果たす役割は当該アミノ酸を含む分子の三次元構造における意味合いにおいて決定され得る。例えば、システイン残基は、還元型の(チオール)フォームと比較してより極性の低い、酸化型の(ジスルフィド)フォームをとることができる。アルギニン側鎖の長い脂肪族の部分は構造的及び機能的に重要な特徴を構成し得る。また、芳香環を含む側鎖(トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン)はイオン-芳香族相互作用又は陽イオン-パイ相互作用に寄与し得る。かかる場合において、これらの側鎖を有するアミノ酸を、酸性又は非極性グループに属するアミノ酸と置換しても、構造的及び機能的には保存的であり得る。プロリン、グリシン、システイン(ジスルフィド・フォーム)等の残基は主鎖の立体構造に直接的な効果を与える可能性があり、しばしば構造的ゆがみなしに置換することはできない。
【0037】
保存的アミノ酸置換は、以下に示すとおり、側鎖の類似性に基づく特異的置換(レーニンジャ、生化学、改訂第2版、1975年刊行、73乃至75頁:L. Lehninger, Biochemistry, 2nd edition, pp73-75, Worth Publisher, New York (1975))及び典型的置換を含む。
(1)非極性アミノ酸グループ:アラニン(以下、「Ala」又は単に「A」と記す)、バリン(以下、「Val」又は単に「V」と記す)、ロイシン(以下、「Leu」又は単に「L」と記す)、イソロイシン(以下、「Ile」又は単に「I」と記す)、プロリン(以下、「Pro」又は単に「P」と記す)、フェニルアラニン(「Phe」又は単に「F」と記す)、トリプトファン(以下、「Trp」又は単に「W」と記す)、メチオニン(以下、「Met」又は単に「M」と記す)
(2)非荷電極性アミノ酸グループ:グリシン(以下、「Gly」又は単に「G」と記す)、セリン(以下、「Ser」又は単に「S」と記す)、スレオニン(以下、「Thr」又は単に「T」と記す)、システイン(以下、「Cys」又は単に「C」と記す)、チロシン(以下、「Tyr」又は単に「Y」と記す)、アスパラギン(以下、「Asn」又は単に「N」と記す)、グルタミン(以下、「Gln」又は単に「Q」と記す)
(3)酸性アミノ酸グループ:アスパラギン酸(以下、「Asp」又は単に「D」と記す)、グルタミン酸(以下、「Glu」又は単に「E」と記す)
(4)塩基性アミノ酸グループ:リジン(以下、「Lys」又は単に「K」と記す)、アルギニン(以下、「Arg」又は単に「R」と記す)、ヒスチジン(以下、「His」又は単に「H」と記す)
本発明において、アミノ酸は、天然アミノ酸以外のアミノ酸であってもよい。例えば、天然のペプチドや蛋白質において見出されるセレノシステイン、N-ホルミルメチオニン、ピロリジン、ピログルタミン酸、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O-ホスホセリン、デスモシン、β-アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γアミノ酪酸、オパイン、テアニン、トリコロミン酸、カイニン酸、ドウモイ酸、アクロメリン酸等をあげることができ、ノルロイシン、Ac-アミノ酸、Boc-アミノ酸、Fmoc-アミノ酸、Trt-アミノ酸、Z-アミノ酸等のN末端保護アミノ酸、アミノ酸t-ブチルエステル、ベンジルエステル、シクロヘキシルエステル、フルオレニルエステル等のC末端保護アミノ酸、ジアミン、ωアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸、アミノ酸のTic誘導体、アミノフォスフォン酸を含むその他の天然界には見出されないアミノ酸等をあげることができるが、それらに限らず上記20の「天然アミノ酸」以外のアミノ酸を、本発明では便宜的に「非天然アミノ酸」と総称する。
【0038】
2-2.KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、及び、KLK4/KLK8阻害ペプチド
本発明のペプチドは、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を有する。
【0039】
本発明のKLK1阻害ペプチドの標的であるKLK1、KLK4阻害ペプチドの標的であるKLK4、並びに、KLK4/KLK8阻害ペプチドの標的であるKLK4及びKLK8は、好適には脊椎動物、より好適には哺乳類、より一層好適には霊長類、最適にはヒトに由来する。KLK1、KLK4、及び、KLK8は組織や細胞から精製するか、又は、遺伝子組換え、イン・ビトロ翻訳、ペプチド合成等の蛋白質の調製方法として当業者に公知の方法により、調製することができる。KLK1、KLK4、及び、KLK8には、シグナル配列、免疫グロブリンのFc領域、タグ、標識等が連結されてもよい。 KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、及び、KLK4/KLK8阻害活性は、KLK1、KLK4、並びに、KLK4及びKLK8の有するプロテアーゼ活性を指標として評価することができる。例えば、KLK1、KLK4若しくはKLK4及びKLK8、又はそれらの機能断片、基質及び本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド若しくはKLK4/KLK8阻害ペプチド、又はその候補を共存させた場合に、対照の存在下又は該阻害剤又はその候補の非存在下と比較して、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8のプロテアーゼ活性が70%以下、50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、1%以下又は0%である場合、KLK1阻害、KLK4阻害又はKLK4/KLK8阻害が生じており、その阻害活性はそれぞれ30%以上、50%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上又は100%である。KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、及び、KLK4/KLK8阻害活性は、反応条件、基質の種類や濃度等により異なり得る。反応条件については、実施例に記載のものを例示することができるが、それに限定されない。一定濃度のKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8に基質ペプチド又は基質蛋白質を添加し、一定時間反応させた後、基質ペプチドの蛍光を検出する、又は基質蛋白質をSDS-PAGEやWestern blot法、液体クロマトグラフィー等により検出することで、酵素活性は評価できる。緩衝液としては、例えば、ホスフェート・バッファー・セイライン(phosphate buffer saline:以下「PBS」という)、トリスバッファー(50mM トリス,pH7乃至8.5、例えばpH7.5)等を用いることができ、NaCl(0乃至200mM、例えば200mM)、CaCl2(0乃至10mM、例えば2mM)、ZnCl2、Brij-35等の塩を添加することもできるが、それらに限定されない。
【0040】
KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の有するプロテアーゼの基質は、内
在性の基質、外因性の基質、合成基質等、特に限定されるものではない。KLK1のヒトの内在性の基質としては、低分子キニノーゲンやカリスタチン、コラーゲン等を例示することができる。KLK4のヒトの内在性の基質としては、Pro-KLK3やフィブロネクチン、コラーゲン等を例示することが出来る。KLK8のヒトの内在性の基質としては、tPAやフィブロネクチン、コラーゲン等を例示することが出来る。コラーゲンを熱変性して得られるゼラチンも基質として用いることができる。合成基質としては、特に限定されないが、PFR-AMCやBoc-VPR-AMC等を例示することができる。本発明のKLK1阻害ペプチドのKLK1阻害活性(IC50又はKi)、KLK4阻害ペプチドのKLK4阻害活性、及び、KLK4/KLK8阻害活性は、それぞれ1μM以下、好適には100nM以下、より好適には10nM以下、より一層好適には1nM以下である。また、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、KLK4阻害活性とKLK8阻害活性(いずれもIC50又はKi)の相対的な大小により分類することができ、好適には、(i)KLK4阻害活性がKLK8阻害活性の0.5倍未満、(ii)KLK4阻害活性がKLK8阻害活性の差の0.5倍以上2倍未満、(iii)KLK4阻害活性がKLK8阻害活性の2倍以上、の3群に分類され、治療等の用途に応じてそれらの群から所望のペプチドが選択され得る。例えば、KLK4関連疾患治療効果に比して相対的に強いKLK8関連疾患治療効果が望まれる場合、上記(i)に属するペプチドが治療のために好適に選択され得る。
【0041】
また、本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、それぞれKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8以外のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制しないか、又はそれらに対する阻害若しくは抑制の程度が相対的に弱いことが好ましい。言い換えれば、本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドのプロテアーゼ阻害活性は、好適には、KLK1特異性、KLK4特異性、又は、KLK4/KLK8特異性が高い。好適な本発明のペプチドは、KLK2、KLK3、KLK5、KLK6、KLK7、KLK9乃至KLK15、キモトリプシン、トリプターゼ、キマーゼ、プラスミン、トロンビン、エラスターゼ、マトリプターゼ、プロテインC、組織(tPA)、ウロキナーゼ・プラスミノーゲン活性化因子(uPA)、血漿カリクレイ等のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制しないか、又はそれらに対する阻害若しくは抑制の程度が相対的に弱い。そのような本発明の好適なペプチドは、他のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制することに起因する副作用を示さず、KLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、又は、KLK4/KLK8に関わる疾患(いずれも後述)の治療薬又は予防薬として好適に使用され得る。さらに、本発明のKLK1阻害ペプチドは、KLK4及びKLK8のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制しないか、又はそれらに対する阻害若しくは抑制の程度が相対的に弱い;本発明のKLK4阻害ぺプチドは、KLK1及びKLK8のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制しないか、又はそれらに対する阻害若しくは抑制の程度が相対的に弱い;本発明のKLK4/KLK8阻害ペプチドは、KLK1のプロテアーゼ活性を阻害若しくは抑制しないか、又はそれに対する阻害若しくは抑制の程度が相対的に弱い。
【0042】
KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8に対する特異性が低く、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8に加えて、他のKLKが有するプロテアーゼ活性も阻害するような阻害剤、すなわち非選択的阻害剤は、ヒトに投与した場合に副作用を生じ得る(Coussens,LM他、Science、295巻(5564号)、2387-92頁(2002年):Bissett,D他、J.Clin.Oncol.、23巻(4号)、842-9頁(2005年))。一方、KLK1、KLK4、又は、KLK4/KLK8に対する特異性が高い阻害剤、すなわちKLK1特異的阻害ペプチド、KLK4特異的阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8特異的阻害ペプチドは、前述のような副作用を回避し得るため、KLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、又は、KLK4/KLK8に関わる疾患の治療又は予防のためにそれぞれ好適に使用することができ
る。
【0043】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、KLK1、KLK4、又は、KLK4及び/若しくはKLK8へのプロテアーゼ基質の結合において、競合的であってもよい。
【0044】
前述の通り、本発明のペプチドの標的であるKLK1、KLK4及びKLK8は、脊椎動物、好適には哺乳動物、より好適には霊長類、より一層好適にはヒトに由来するが、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス等のげっ歯類、カニクイザル、コモンマーモセット、アカゲザル等の霊長類に由来してもよい。非ヒト動物由来のKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8に対して阻害活性を有するペプチドは、かかる非ヒト動物におけるKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8に関わる疾患の診断、検査、治療又は予防等に使用することができる。また、そのようなペプチドが、ヒトKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8も阻害する場合、ヒトKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8に関わる疾患の治療薬又は予防薬としての該ペプチドの非臨床研究開発において、かかる非ヒト動物を動物病態モデルとして使用した薬効薬理試験や薬物動態試験、健常動物として使用した安全性試験や毒性試験等を行うことができる。
【0045】
また、本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、及びKLK4/KLK8阻害ペプチドは、医薬及び診断薬として当該分野で使用される抗体等の他の生体高分子と比較して分子量が小さく、その製造(後述)が比較的容易であり、保存安定性や熱安定性等の物性の面で優れており、医薬組成物(後述)として使用される場合の投与経路、投与方法、製剤等の選択の幅が広い等の長所を有する。また、生体高分子やポリマーの付加等、公知の方法を適用して本発明のペプチドの分子量を大きくすることにより、医薬組成物として使用された場合の血中半減期をより長く調節することもできる。そのような本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、及びKLK4/KLK8阻害ペプチドの分子量は10,000未満、好適には8,000未満、より好適には約7,000~7,200である。また、配列番号23(
図29)の15番Cys~31番Cysからなる可変ループ部分又は15番Cys~63番Cysからなる部分(以下「6つのCysを含む部分」という)のうち、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を有するものも、本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドにそれぞれ包含され、可変ループ部分の分子量は2,500未満、好適には約1,800~2,000であり、6つのCysを含む部分の分子量は6,000未満、好適には約5,300~5,500である。
【0046】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、SPINK2の有する骨格が少なくとも部分的に維持されたSPINK2変異体(以下、「SPINK2変異体」と略記する)であり、好適には、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の部分ペプチド、部分高次構造等を認識する、又はそれらに結合する(以下、かかる認識又は結合作用をまとめて「標的結合活性」という)。
【0047】
本発明におけるSPINK2変異体とKLK1、KLK4又はKLK8の結合は、ELISA法、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:以下、「SPR」という)解析法、バイオレイヤー干渉(BioLayer Interferometry:以下、「BLI」という)法、等温滴定熱量測定(Isothermal Titration Calorimetry:以下、「ITC」という)、フローサイトメトリー、免疫沈降法等により、当業者に公知の方法を用いて、測定又は判定することができる。
【0048】
ELISA法としては、プレート上に固相化されたKLK1、KLK4、又は、KLK
4/KLK8を認識して結合したKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドを検出する方法が挙げられる。KLK1、KLK4、又は、KLK4/KLK8の固相化には、ビオチン-ストレプトアビジンの他、KLK1、KLK4、もしくは、KLK4/KLK8、又は、KLK1、KLK4、もしくは、KLK4/KLK8に融合したタグを認識する固相用抗体等を利用することができる。KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの検出には、標識されたストレプトアビジンの他、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、もしくは、KLK4/KLK8阻害ペプチド、又は、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、もしくは、KLK4/KLK8阻害ペプチドに融合したタグを認識する標識された検出用抗体等を利用することができる。標識には、ビオチンの他、HRP、アルカリフォスファターゼ、FITC等生化学的解析に実施可能な方法を利用することができる。酵素標識を利用した検出にはTMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)、BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate)、p-NPP(p-nitrophenyl phosphate)、OPD(o-Phenylenediamine)、ABTS(3-Ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid)、SuperSignal ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)等の発色基質やQuantaBlu(登録商標)Fluorogenic Peroxidase Substrate(Thermo Fisher Scientific)等の蛍光基質、及び化学発光基質を用いることができる。検出シグナルの測定には、吸光プレートリーダー、蛍光プレートリーダー、発光プレートリーダー、RI液体シンチレーションカウンター等を利用することができる。
【0049】
SPR解析に用いる機器としては、BIAcore(登録商標)(GE Healthcare)、ProteOn(登録商標)(BioRad)、SPR-Navi(登録商標)(BioNavisOy)、Spreeta(登録商標)(Texas Instruments)、SPRi-PlexII(登録商標)(ホリバ)、Autolab SPR(登録商標)(Metrohm)等を例示することができる。BLI法に用いる機器としては、Octet(登録商標)(Pall)を例示することができる。
【0050】
免疫沈降法としては、ビーズ上に固相化されたKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドによって認識され、結合したKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を検出する方法が挙げられる。ビーズには磁気ビーズやアガロースビーズ等を利用することができる。KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの固相化には、ビオチン-ストレプトアビジンの他、該ペプチド又は該ペプチドに融合したタグを認識する抗体、プロテインA又はプロテインG等を利用することができる。磁石や遠心分離等によってビーズを分離し、ビーズと共に沈殿したKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8をSDS-PAGEやWestern blot法で検出する。KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の検出には、標識されたストレプトアビジンの他、KLK1、KLK4若しくはKLK8,又は、KLK1、KLK4若しくはKLK8に融合したタグを認識する標識された検出用抗体等を利用することができる。標識には、ビオチンの他、HRP、アルカリフォスファターゼ、FITC等生化学的解析に実施可能な方法を利用することができる。酵素標識を利用した検出にはELISA法と同様の基質を利用することができる。検出シグナルの測定にはChemiDoc(登録商標)(BioRad)やLuminoGraph(ATTO)等を利用することができる。
【0051】
本発明において「特異的な認識」、すなわち「特異的な結合」とは、非特異的な吸着ではない結合を意味する。結合が特異的であるか否かの判定基準としては、例えば、ELI
SA法における結合活性EC50をあげることができる。他の判定基準としては、例えば、解離定数(dissociation constant:以下、「KD」という)をあげることができる。本発明におけるKLK1阻害ペプチドのKLK1に対するKD値、KLK4阻害ペプチドのKLK4に対するKD値、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドのKLK4及びKLK8に対するKD値は1×10-5M以下、5×10-6M以下、2×10-6M以下又は1×10-6M以下、より好適には5×10-7M以下、2×10-7M以下又は1×10-7M以下、より一層好適には5×10-8M以下、2×10-8M以下又は1×10-8M以下、さらにより一層好適には5×10-9M以下、2×10-9M以下又は1×10-9M以下である。他の判定基準としては、例えば、免疫沈降法での解析結果をあげることができる。本発明における好適なKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをビーズに固相化し、それぞれKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を添加した後にビーズを分離し、ビーズと共に沈殿したKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を検出した場合、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8のシグナルが検出される。
【0052】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又はKLK4/KLK8阻害ペプチドとしてのSPINK2変異体は、上記のようなプロテアーゼ阻害活性、標的結合活性、その他の性質、機能、特徴等を有し得る一方で、その全長アミノ酸配列はヒト野生型SPINK2のアミノ酸配列に対して高い配列同一性を有する。本発明のSPINK2変異体は、ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1:
図7)と60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有する。
【0053】
「同一性」とは、2つの配列の間の、類似性又は関係の程度を示す性質を意味する。アミノ酸配列の同一性(%)は、同一であるアミノ酸もしくはアミノ酸残基の数をアミノ酸もしくはアミノ酸残基の総数で割って得られる数値に、100を掛けることにより、算出される。
【0054】
「ギャップ」とは、2つ以上の配列のうち少なくとも1つにおける欠失及び/又は付加の結果である、当該配列間のアライメントにおける隙間を意味する。
【0055】
完全に同一なアミノ酸配列を有する2つのアミノ酸配列の間の同一性は100%であるが、一方のアミノ酸配列を他方と比較して1つ又は2つ以上のアミノ酸又はアミノ酸残基の置換、欠失又は付加があれば、両者の同一性は100%未満となる。ギャップをも考慮して2つの配列間の同一性を決定するためのアルゴリズムやプログラムとしては、標準的なパラメータを用いるBLAST(Altschul,et al.Nucleic Acids Res.25巻、3389-3402頁、1997年)、BLAST2(Altschul,et al.J.Mol.Biol.215巻、403-410頁、1990年)、Smith-Waterman(Smith,et al.J.Mol.Biol.147巻、195-197頁、1981年)等の当業者に公知のものを例示することができる。
【0056】
本発明において、「変異した」とは、天然に存在する核酸分子又はペプチドと比較のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列において、1つ又は2つ以上のヌクレオチドもしくはヌクレオチド残基又はアミノ酸もしくはアミノ酸残基の置換、欠失又は挿入がなされていることを意味する。本発明のSPINK2変異体のアミノ酸配列は、ヒトSPINK2のアミノ酸配列と比較して、1つ又は2つ以上のアミノ酸又はアミノ酸残基が変異されている。
【0057】
本発明のある態様において、SPINK2変異体のアミノ酸配列は、ヒトSPINK2
のアミノ酸配列(配列番号1:
図7)の:
16番Ser~22番Glyのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ又は7つのアミノ酸が他のアミノ酸又はアミノ酸残基に置換されており;
24番Pro~28番Asnのうち1つ、2つ、3つ、4つ又は5つのアミノ酸が他のアミノ酸又はアミノ酸残基に置換されており;
15番Cys、23番Cys、31番Cys、42番Cys、45番Cys及び63番Cysは、天然型のジスルフィド結合を維持するためには野生型と同じくCysであることが好ましく、天然型のジスルフィド結合を消失させたり、非天然型のジスルフィド結合を生じさせたりするためには、それらのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つを他のアミノ酸に置換してもよい。本発明のSPINK2変異体うち一部の好適なKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドにおいては、天然型と同じ当該6箇所にCysが維持され、ジスルフィド結合が保持されている。かかるペプチドのうちより好適な一部の態様においては、15番Cys-45番Cys、23番Cys-42番Cys、及び、31番Cys-63番Cysが、それぞれジスルフィド結合を形成している。
【0058】
そのようなSPINK2変異体の有するアミノ酸配列がKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドに含まれる場合、野生型SPINK2のアミノ酸配列に含まれる16番Ser乃至30番Valからなるループ構造、31番Cys及び32番Glyからなるβストランド(1)並びに57番Ile乃至59番Argからなるβストランド(2)から構成されるβシート、41番Glu乃至51番Glyからなるαへリックス、又は、それらに類似しているか若しくはそれら(の位置)に少なくとも部分的に対応するループ構造、βシート、αへリックス等から構成される立体構造が、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を発揮し得る程度に、維持されていることが好ましい。
【0059】
本発明のSPINK2変異体のうち、一部のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの有するアミノ酸配列について以下に述べる。上述の通り、本発明において「アミノ酸残基」は単に「アミノ酸」と表記されることがある。
【0060】
配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列(一般式)において、X
1乃至X
13は、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を阻害する限りに置いてそれぞれ任意のアミノ酸であれば特に限定されない。以下、X
1乃至X
13の好適なアミノ酸について記載するが、それらのアミノ酸の中には天然型、すなわち野生型ヒトSPINK2のアミノ酸配列中と同一のアミノ酸が含まれている場合がある。
【0061】
KLK1阻害ペプチドに含まれる配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列において、好適には:
1番Xaa(X
1)はAsp又はGly;
16番Xaa(X
2)はAla、Asp又はSer;
17番Xaa(X
3)はIle、Gln、Arg又はVal;
18番Xaa(X
4)はAla、Asn又はTyr;
19番Xaa(X
5)はLeu、Lys、Asn又はGln;
20番Xaa(X
6)はIle、Arg、Tyr又はVal;
21番Xaa(X
7)はAsp、Arg又はVal;
22番Xaa(X
8)はAsp、Ile又はArg;
24番Xaa(X
9)はPhe、His又はTrp;
25番Xaa(X
10)はTyr又はTrp;
26番Xaa(X
11)はAla、Thr又はTyr;
27番Xaa(X
12)はSer又はTyr;及び
28番Xaa(X
13)はGlu、Lys又はGln
である。
【0062】
KLK4阻害ペプチドに含まれる配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列において、好適には:
1番Xaa(X
1)はAsp又はGly;
16番Xaa(X
2)はGlu、Arg又はSer;
17番Xaa(X
3)はHis、Lys、Leu又はGln;
18番Xaa(X
4)はAla、Gln又はTyr;
19番Xaa(X
5)はAla、Glu、Gln又はVal;
20番Xaa(X
6)はGlu、Leu、Met又はTyr;
21番Xaa(X
7)はAsp又はGly;
22番Xaa(X
8)はAla又はVal;
24番Xaa(X
9)はGln;
25番Xaa(X
10)はLys又はArg;
26番Xaa(X
11)はIle;
27番Xaa(X
12)はPhe又はTyr;及び
28番Xaa(X
13はLys、Leu又はGln
である。
【0063】
KLK4/KLK8阻害ペプチドに含まれる配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列において、好適には:
1番Xaa(X
1)はAsp又はGly;
16番Xaa(X
2)はGly、Met、Gln、Arg、Ser又はThr;
17番Xaa(X
3)はLys又はArg、X
4はPhe、His、Gln又はTyr;
18番Xaa(X
4)はPhe、His、Gln又はTyr;
19番Xaa(X
5)はHis、Lys、Arg、Ser、Thr、Val又はTyr;
20番Xaa(X
6)はIle、Lys、Leu、Met、Gln、Arg、Ser、Val又はTrp;
21番Xaa(X
7)はAsp、Glu、Gly、His、Asn、Arg、Val又はTrp;
22番Xaa(X
8)はGly又はTrp;
24番Xaa(X
9)はAla、Phe、Asn、Ser又はThr;
25番Xaa(X
10)はLys又はArg;
26番Xaa(X
11)はIle、Met、Gln、Ser又はVal;
27番Xaa(X
12)はPhe、Ler又はTyr;及び
28番Xaa(X
13)はAla、Asp、Glu又はAsn
である。
【0064】
なお、野生型の1番、16乃至22番及び24乃至28番Xaa(X1乃至X13)は、それぞれAsp、Ser、Gln、Tyr、Arg、Leu、Pro、Gly、Pro、Arg、His、Phe及びAsnである。
【0065】
本発明においては、1番アミノ酸のN末側に、さらに1つ乃至数個又はそれ以上のアミノ酸が付加していてもよく、そのような付加されるアミノ酸としては、例えば、Stag+リンカーからなるアミノ酸配列(配列番号26:
図32)等をあげることができる。
【0066】
さらに、C末に位置する63番Cysに1乃至数個のアミノ酸が付加していてもよく、例えば、Gly-Glyを加えC末が65番Glyであるアミノ酸配列等をあげることができる。そのような付加されるアミノ酸としては、例えば、C末6マー(配列番号27:
図33)、Gly-Gly-Gly、Gly-Gly等をあげることができる。
【0067】
本発明においては、SPINK2変異体ペプチド又はSPINK2変異体ペプチドのN末及び/又はC末付加体(以下、「親ペプチド」と呼ぶ)において、1つ又は2つ以上のアミノ酸が置換、付加及び/又は欠失されてなるペプチドを「親ペプチドの誘導体」又は「親ペプチド誘導体」と呼ぶことがある。かかる「誘導体」も本発明の「ペプチド」の範囲に含まれる。
【0068】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの範囲に含まれるSPINK2変異体の有するアミノ酸配列においては、X
1乃至X
13以外の部分、すなわち、野生型ヒトSPINK2のアミノ酸配列(配列番号1:
図7)中の、2番Pro~15番Cys、23番Cys及び29番Pro~63番Cysの位置において、天然型のアミノ酸もしくは変異したアミノ酸又はアミノ酸配列を含むことができる。例えば、SPINK2変異体は、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性又はフォールディングを少なくとも部分的に妨げないか又は干渉をしない限りにおいて、1つ又は2つ以上の位置において変異してよい。そのような変異は、当業者に公知の標準的な方法を使用することによりなし得る。アミノ酸配列中の典型的な変異としては、1つ又は2つ以上のアミノ酸の置換、欠失又は付加をあげることができ、置換としては、保存的置換を例示することができる。保存的置換により、あるアミノ酸残基は、嵩高さのみならず、極性の面についても化学的特徴が類似しているアミノ酸残基により置換される。保存的置換の例は、本明細書の他の部分に記載されている。一方で、X
1乃至X
13以外の部分は、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性又はフォールディングを少なくとも部分的に妨げないか又は干渉をしない限りにおいて、1つ又は2つ以上のアミノ酸の非保存的置換も許容し得る。
【0069】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドとしてのSPINK2変異体の有するアミノ酸配列は、X
1乃至X
13が、好適には、配列番号5乃至8(
図11乃至14)、配列番号9乃至12(
図15乃至18)、又は、配列番号13乃至22(
図19乃至28)のいずれか一つにおけるX
1乃至X
13の各アミノ酸であり、且つ、X
1乃至X
13以外の部分がKLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性又はフォールディングを少なくとも部分的に妨げないか又は干渉をしないアミノ酸又はアミノ酸配列を有することができる。
【0070】
また、本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドとしてのSPINK2変異体のアミノ酸配列の例として、次の(a1)乃至(a3)、(b1)乃至(b3)又は(c1)乃至(c3)のいずれか一つに記載のアミノ酸配列をそれぞれあげることができる:
(a1)配列番号5乃至8(
図11乃至14)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列;(a2)(a1)に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つKLK1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列;
(a3)(a1)に記載のアミノ酸配列において1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、又は1個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり、且つKLK1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列;及び、
(a4)(a1)に記載のアミノ酸配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり、且つKLK1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列、
(b1)配列番号9乃至12(
図15乃至18)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列;
(b2)(b1)に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つKLK4阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列;
(b3)(b1)に記載のアミノ酸配列において1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、又は1個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり、且つKLK4阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列;及び、
(b4)(b1)に記載のアミノ酸配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり、且つKLK4阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列、又は、
(c1)配列番号13乃至22(
図19乃至28)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列;
(c2)(c1)に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つKLK4/KLK8阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列;
(c3)(c1)に記載のアミノ酸配列において1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、又は1個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり、且つKLK4/KLK8阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列;及び、
(c4)(c1)に記載のアミノ酸配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり、且つKLK4/KLK8阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列、
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドに、そのフォールディング安定性、熱安定性、保存安定性、血中半減期、水溶性、生物活性、薬理活性、副次的作用等を改善する目的で、変異を導入することができる。例えば、ポリエチレングルコール(PEG)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ビオチン、ペプチド又は蛋白質等の他の物質にコンジュゲートさせるため、Cysのような新たな反応性基を変異により導入することができる。
【0071】
本発明において、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは他の部分に連結又は付加していてもよく、そのようなコンジュゲート体を「KLK1阻害ペプチドのコンジュゲート」、「KLK4阻害ペプチドのコンジュゲート」又は「KLK4/KLK8阻害ペプチドのコンジュゲート」とそれぞれ総称する。本発明において「コンジュゲート」とは、本発明のペプチド又はその断片に他の部分が結合してなる分子を意味する。「コンジュゲート」又は「コンジュゲーション」には、ある部分が架橋剤等の化学物質を介して、ある部分をアミノ酸の側鎖に連結するのに適した作用物質等を介して、本発明のペプチドのN末及び/又はC末に合成化学的手法や遺伝子工学的手法等により、本発明のペプチドに連結又は結合される形態が含まれる。そのような「部分」には、血中半減期を改善するものとして、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリアルキレングリコール分子、ヒドロキシエチルデンプン、パルミチン酸等の脂肪酸分子、免疫グロブリンのFc領域(例えば、ヒト免疫グロブリンG1:そのアミノ酸配列を配列番号28、
図34に示す)、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン又はその断片、アルブミン結合ペプチド、連鎖球菌プロテインG等のアルブミン結合蛋白質、トランスフェリンを、例示することができる。その他の「部分」としては、かかる「部分」はペプチドリンカー等のリンカーを介して本発明のペプチドが連結され得る。
【0072】
また、本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドには、薬理活性を発揮するか又は増強するために、他の薬物がコンジュゲートされていてもよい。抗体分野において抗体-薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)として当業者に公知の技術や態様は、抗体を本発明のペプチドに置き換えることにより、本発明の一部の態様となり得る。
【0073】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、それぞれKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8以外の標的分子に対する結合親和性、阻害活性、拮抗活性、作動活性等を発揮する1つ又は2つ以上の部分をさらに含むか、そのような部分にコンジュゲートされていてもよい。かかる「部分」としては、抗体又はその断片、SPINK2変異体のような抗体以外の骨格を有する蛋白質又はその断片を例示することができる。抗体分野において多重特異的抗体及び二重特異的抗体(multispecific antibody、bispecific antibody)として当業者に公知の技術や態様は、それらに含まれる2つ以上の「抗体」のうち少なくとも1つを本発明のペプチドに置き換えることにより、本発明のコンジュゲートの一部の態様となる。
【0074】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチド又はその前駆体は、シグナル配列を含み得る。あるポリペプチドもしくはその前駆体のN末に存在するか又は付加されたシグナル配列は、当該ポリペプチドを細胞の特定の区画、例えば、大腸菌であれば周辺質、真核細胞であれば小胞体に送達するために有用であり、多くのシグナル配列が当業者に公知であり、宿主細胞に応じて選択され得る。大腸菌の周辺質中に所望のペプチドを分泌させるためのシグナル配列としては、OmpAを例示することができる、シグナル配列を含む形態も、本発明のコンジュゲートに、その一部の態様として含まれ得る。
【0075】
また、本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチドに予めタグを付加させることにより、アフィニティークロマトグラフィーによって該ペプチドを精製することができることができる。
本発明のペプチドは、例えば、そのC末に、ビオチン、Strepタグ(登録商標)、StrepタグII(登録商標)、His6等のオリゴヒスチジン、ポリヒスチジン、免疫グロブリンドメイン、マルトース結合蛋白質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、ジゴキシゲニンやジニトロフェノール等のハプテン、FLAG(登録商標)等のエピトープタグ、mycタグ、HAタグ等(以下まとめて「アフィ二ティー・タグ」と呼ぶ)を含むことができる。タグ付加体も、本発明のコンジュゲートに、その一部の態様として含まれ得る。本発明のコンジュゲートは、全体としてペプチド(ポリペプチド)であってもよい。
【0076】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、標識のための部分を含むことができ、具体的には、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属複合体、金属、コロイド金等の標識部分がコンジュゲートされ得る。標識のための部分を含む態様も、本発明のコンジュゲートに、その一部の態様として含まれ得る。
【0077】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK
8阻害ペプチド(のアミノ酸配列)には、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸のいずれをも含むことができ、天然アミノ酸としてはL-アミノ酸及びD-アミノ酸のいずれをも含むことができる。
【0078】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、単量体、2量体、3量体以上のオリゴマー又は多量体として存在し得る。2量体、3量体以上のオリゴマー及び多量体は、単一の単量体から構成されるホモ、及び、2つ以上の異なる単量体から構成されるヘテロ、のいずれでもよい。単量体は、例えば、速やかに拡散し組織への浸透に優れている場合がある。2量体、オリゴマー及び多量体は、例えば、局所において標的分子に対して高い親和性もしくは結合活性を有するか、遅い解離速度を有するか、又は、高いKLK1阻害活性、KLK4阻害活性若しくはKLK4/KLK8阻害活性を示す等の優れた側面を有し得る。自発的な2量体化、オリゴマー化及び多量体化に加え、意図した2量体化、オリゴマー化及び多量体化も、jun-fosドメイン、ロイシンジッパー等を本発明のペプチドに導入することにより、なし得る。
【0079】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、単量体、2量体、3量体以上のオリゴマー又は多量体で、1つ又は2つ以上の標的分子に結合するか又は標的分子の活性を阻害することができる。
【0080】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドがとり得る形態としては、単離された形態(凍結乾燥標品、溶液等)、上述のコンジュゲート体、他の分子に結合した形態(固相化された形態、異分子との会合体、標的分子と結合した形態等)等をあげることができるが、それらに限定されるものではなく、発現、精製、使用、保存等に適合した形態を任意に選択することができる。
【0081】
3.KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、及び、KLK4/KLK8阻害ペプチドの同定
KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、及び、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、SPINK2のアミノ酸配列又は本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、及び、KLK4/KLK8阻害ペプチドの有するアミノ酸配列(例えば、配列番号5乃至8:
図11乃至14からなる群、配列番号9乃至12:
図15乃至18からなる群、又は、配列番号13乃至22:
図19乃至28からなる群から選択されるアミノ酸配列)、該アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、該ヌクレオチド配列を含む核酸分子等を出発材料として、当業者に周知の方法により、同定することができる。好適な一例として、ヒトSPINK2変異体ライブラリーより、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を指標としてそれぞれ同定することができ、KLK1、KLK4、又は、KLK4/KLK8に対する結合活性もそれぞれ指標として組み合わせてもよい。
【0082】
例えば、出発材料としての核酸分子は、変異誘発に供され、組換えDNA技術を用いて適切な細菌宿主又は真核性宿主中に導入され得る。SPINK2変異体ライブラリーは、標的分子のバインダーや阻害剤を同定するための技術として公知であり、例えば、WO2012/105616公報における開示も、その全体を参照することにより本発明の開示に含まれる。適切な宿主において変異誘発に供されたヌクレオチド配列を発現させた後、所望の性質、活性、機能等を有するSPINK2変異体がその遺伝形質とリンクしてなるクローンを、前記のライブラリーから濃縮及び/又は選抜し、同定することができる。クローンの濃縮及び/又は選抜には、細菌ディスプレイ法(Francisco,J.A.,et al.(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90巻,10444-10448頁)、酵母ディスプレイ法(Boder,E.T.,et al.(1997年)Nat.Biotechnol. 15巻,553-557頁)、哺乳動物細胞ディスプレイ法(Ho M,et al.(2009年)Methods Mol Biol.525巻:337-52頁)、ファージディスプレイ法(Smith,G.P.(1985年)Science. 228巻,1315-1317頁)、リボソームディスプレイ法((Mattheakis LC, et al. (1994年) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91巻19号,9022-9029頁))、mRNAディスプレイ等の核酸ディスプレイ法(Nemoto N,et al.(1997年)FEBS Lett. 414巻2号,405-408頁)、コロニースクリーニング法(Pini,A.et al.(2002年)Comb.Chem.High Throughput Screen. 5巻,503-510頁)等、当業者に公知の方法を使用することにより、選抜され同定されたクローンに含まれるSPINK2変異体のヌクレオチド配列を決定することにより、該ヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を、当該クローンに含まれるSPINK2変異体すなわちKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの有するアミノ酸配列として決定することができる。
【0083】
本発明のSPINK2変異体は、例えば、天然型のSPINK2に変異を誘発することにより得ることができる。「変異の誘発」とは、あるアミノ酸配列の各位置に存在する1つ又は2つ以上のアミノ酸を他のアミノ酸に置換するかもしくは欠失させるか、又は当該アミノ酸配列中には存在しないアミノ酸を付加もしくは挿入することができるようにすることを意味する。かかる欠失又は付加もしくは挿入により、配列長が変わり得る。本発明のSPINK2変異体において、変異の誘発は、好適には、配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列中の、X
1乃至X
13の1つ又は2つ以上の位置において生じ得る。
【0084】
但し、そのような好適な変異の誘発の後に、X1乃至X13の1つ又は2つ以上の位置において、天然型のアミノ酸、すなわち天然型のアミノ酸配列中の特定の位置に存在するのと同じアミノ酸が維持されたものも、全体として少なくとも1つのアミノ酸が変異されていれば、変異体の範囲に含まれる。同様に、本発明のある態様において、X1乃至X13以外の部分の1つ以上の位置に変異を誘発した後に、当該位置に天然型のアミノ酸、すなわち天然型のアミノ酸配列中の特定の位置に存在するのと同じアミノ酸が維持されたものも、全体として少なくとも1つのアミノ酸が変異されていれば、変異体の範囲に含まれる。
【0085】
「ランダム変異の誘発」とは、配列上の特定の位置について、1つ又は2つ以上の異なるアミノ酸が、変異の誘発により、当該位置に一定の確率で導入させることを意味するが、少なくとも2つの異なるアミノ酸の導入される確率が全て同じではなくてもよい。また、本発明においては、少なくとも2つの異なるアミノ酸に、天然型のアミノ酸(1種)が含まれることを妨げるものではなく、そのような場合も「ランダム変異の誘発」の範囲に含まれる。
【0086】
特定の位置にランダム変異を誘発する方法としては、当業者に公知の標準的方法を使用することができる。例えば、配列中の特定の位置に、縮重ヌクレオチド組成物を含む合成オリゴヌクレオチドの混合物を用いたPCR(polymerase chain reaction)により変異を誘発することができる。例えば、コドンNNK又はNNS(N=アデニン、グアニン、シトシン又はチミン;K=グアニン又はチミン;S=アデニン又はシトシン)を使用すれば、天然アミノ酸20種全てに加え、停止コドンが導入される変異の誘発されるのに対し、コドンVVS(V=アデニン、グアニン又はシトシン)を使用すれば、Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr及びValが導入される可能性が無く、残る12の天然アミノ酸の導入が変異誘発される。また、例えば、コドンNMS(M=アデニン又はシトシン)を使用すれば、Arg、Cys、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Trp及びValが導入される可能性が無く、残る11の天然アミノ酸の導入が変異誘発される。非天然アミノ酸の導入を変異誘発するために、特殊なコドン、人工的なコドン等を用いることができる。
【0087】
部位特異的な変異誘発は、高次構造を含む標的及び/又は該標的に対するペプチドもしくはペプチドが由来する野生型ペプチドの構造情報を利用しても行うことができる。本発明においては、標的であるKLK1、KLK4、若しくは、KLK8、及び/又は、KLK1、KLK4、若しくは、KLK4及びKLK8に対するSPINK2変異体もしくは野生型SPINK2の、又は両者の複合体の、高次情報を含む構造情報を利用して、部位特異的な変異を導入することができる。例えば、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を有するSPINK2変異体を同定し、次いでKLK1、KLK4又はKLK8及び当該SPINK2変異体の複合体の結晶を取得してX線結晶構造解析を行い、その解析結果に基づいて該SPINK2変異体が結合するKLK1、KLK4又はKLK8分子上のエピトープ及び該エピトープに対応する該SPINK2変異体上のパラトープを特定すること等を通じて得られる構造情報と、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性との相関を見出すことができる場合がある。そのような構造活性相関に基づいて、特定の位置において特定のアミノ酸への置換、特定の位置におけるアミノ酸の挿入又は欠失等をデザインし、実際にKLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を確認することができる。
【0088】
また、例えば、イノシン等の塩基対の特異性が改変されたヌクレオチド構成単位を用いて、変異を誘発することができる。
【0089】
さらに、例えば、Taq DNAポリメラーゼ等の、校正機能を欠き、エラー率の高いDNAポリメラーゼを用いたエラー・プローンPCR法、化学変異誘発等により、ランダムな位置への変異誘発が可能である。
【0090】
KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、細菌ディスプレイ、酵母ディスプレイ、哺乳細胞ディスプレイ、ファージディスプレイ、リボゾームディスプレイ、核酸ディスプレイ、コロニースクリーニング等を利用して、ファージライブラリー、コロニーライブラリー等それぞれのスクリーニング方法に適した当業者に公知のライブラリーより濃縮及び/又は選抜することができる。それらのライブラリーのうち、ファージライブラリーにはファージミド、コロニースクリーニングにはコスミド等、それぞれのライブラリーに適した当業者に公知のベクター及び方法により構築することができる。そのかかるベクターは、原核細胞又は真核細胞に感染するウイルス又はウイルス性ベクターであってもよい。それらの組換えベクターは、遺伝子操作等当業者に公知の方法により調製することができる。
【0091】
細菌ディスプレイは、例えば、大腸菌の外膜リポ蛋白質(Lpp)の一部及び外膜蛋白質OmpAと所望の蛋白質を融合させ、大腸菌表面上に所望の蛋白質を提示させる技術である。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるDNA群を細菌ディスプレイに適したベクターに導入し、当該ベクターで細菌細胞を形質転換すれば、形質転換細菌細胞表面上に、ランダム変異誘発された蛋白質群を提示するライブラリーを得ることができる(Francisco,J.A.,et
al.(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
90巻,10444-10448頁)。
【0092】
酵母ディスプレイは、酵母の細胞表面の外殻にあるα-アグルチニン等の蛋白質に所望の蛋白質を融合させ、酵母表面上に提示させる技術である。α-アグルチニンには、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー付着シグナルと推定されるC末疎
水性領域、シグナル配列、活性ドメイン、細胞壁ドメイン等が含まれ、それらを操作する
ことにより、酵母の細胞表面上に所望の蛋白質をディスプレイすることができる。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるDNA群を酵母ディスプレイに適したベクターに導入し、当該ベクターで酵母細胞を形質転換すれば、形質転換酵母細胞表面上に、ランダム変異誘発された蛋白質群を提示するライブラリーを得ることができる(Ueda,M.& Tanaka,A.、Biotechnol.Adv.、18巻、121頁~、2000年刊:Ueda,M.& Tanaka,A.、J.Biosci.Bioeng.、90巻、125頁~、2000年刊等)。
【0093】
動物細胞ディスプレイは、例えば、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)に代表される膜蛋白質の膜貫通領域と所望の蛋白質を融合させ、HEK293やチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳動物細胞表面上に所望の蛋白質を提示させる技術である。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるDNA群を動物細胞ディスプレイに適したベクターに導入し、当該ベクターで動物細胞を形質転換すれば、形質転換動物細胞表面上に、ランダム変異誘発された蛋白質群を提示するライブラリーを得ることができる(Ho M,et al.(2009年)Methods Mol Biol.525巻:337-52頁)。
【0094】
酵母、細菌、動物細胞等の細胞上に提示された所望のライブラリーは、標的分子の存在下で保温するか、又は、標的分子と接触させることができる。例えば、ビオチン等で修飾されたKLK1、KLK4又はKLK8とライブラリーを含む細胞を一定時間保温した後、磁性ビーズ等の担体を添加し、細胞を担体から分離し、次いで担体を洗浄することにより非特異的な吸着物及び結合物を除去し、担体(に結合したKLK1、KLK4又はKLK8)に結合したペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物が提示された細胞群を回収することができる。同様に、磁性ビーズ添加後に磁気細胞分離(MACS)をする、又は、抗KLK1抗体、抗KLK4抗体又は抗KLK8抗体を用いた細胞染色後にFACSを実施することで、担体(に結合したKLK1、KLK4若しくはKLK8)又はKLK1、KLK4又はKLK8と結合したペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物が提示された細胞群を回収することができる。非特異的な吸着物部位及び/又は結合部位は、例えば、ブロッキング処理することも可能であり、ブロッキング工程も適切な方法であれば組み入れられ得る。そのようにして得られたペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を発現しているベクターを回収し、ベクターに挿入されたポリヌクレオチドの有するヌクレオチド配列を決定し、該ヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を決定することができる。また、ベクターを再度宿主細胞に導入し、上述の操作をサイクルとして1回乃至数回繰り返すことにより、標的分子に結合するペプチド集合物をより高度に濃縮することができる。
【0095】
ファージディスプレイの場合、例えば、ファージミドは、プラスミド複製起点の他に、一本鎖バクテリオファージから誘導された第二の複製起点を含む細菌プラスミドである。ファージミドを有する細胞は、M13又はそれに類似のヘルパーバクテリオファージによる重感染において、一本鎖複製モードを介してファージミドを複製することができる。すなわち、バクテリオファージ被覆蛋白質により被覆された感染性粒子の中に、一本鎖ファージミドDNAがパッケージされる。このようにして、ファージミドDNAを、感染細菌中にクローン二本鎖DNAプラスミドとして、ファージミドを、重感染した細胞の培養上清からバクテリオファージ状の粒子として、それぞれ形成することができる。バクテリオファージ状の該粒子を、F性線毛を有する細菌にかかるDNAを感染させるために該細菌中に注入することにより、粒子自体をプラスミドとして再形成することができる。
【0096】
被検ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド及びバクテリオファージ被覆蛋白質(coat protein)遺伝子を含んで構成さ
れる融合遺伝子を該ファージミドに挿入して細菌に感染させ、該細胞を培養すれば、かかるペプチドを、該細菌上又はファージ様粒子上に発現もしくは提示(ディスプレイと同義)させるか、又は、該被覆蛋白質との融合蛋白質としてファージ粒子中もしくは該細菌の培養上清中に産生することができる。
【0097】
例えば、該ポリヌクレオチド及びバクテリオファージ被覆蛋白質遺伝子gpIIIを含んで構成される融合遺伝子をファージミドに挿入し、M13又はそれに類似のヘルパーファージとともに大腸菌に重感染させれば、該ペプチド及び該被覆蛋白質を含んで構成される融合蛋白質として、該大腸菌の培養上清中に産生させることができる。
【0098】
ファージミドの代わりに、環状又は非環状の各種ベクター、例えば、ウイルスベクターを用いる場合、当業者に公知の方法に従って、該ベクターに挿入された該ポリヌクレオチドの有するヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有するペプチドを、該ベクターが導入された細胞もしくはウイルス様粒子上に発現又は提示させるか、又は該細胞の培養上清中に産生することができる。
【0099】
そのようにして得られる、ペプチドを発現しているライブラリーを、標的分子の存在下で保温するか、又は、標的分子と接触させることができる。例えば、KLK1、KLK4、又は、KLK8及び/若しくはKLK8が固相化された担体を、ライブラリーを含む移動相と一定時間保温した後、移動相を担体から分離し、次いで担体を洗浄することにより非特異的な吸着物及び結合物を除去し、担体(に結合したKLK1、KLK4、又は、KLK4及び/若しくはKLK8)に結合したペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を、溶出により回収することができる。溶出は、相対的に高いイオン強度、低いpH、中程度の変性条件、カオトロピック塩の存在下等で、非選択的に行うか、又は、KLK1、KLK4、KLK8等の可溶性の標的分子、標的分子に結合する抗体、天然のリガンド、基質等を添加して固相化された標的分子と競合させることにより選択的に行うことができる。非特異的な吸着物部位及び/又は結合部位は、例えば、ブロッキング処理することも可能であり、ブロッキング工程も適切な方法であれば組み入れられ得る。
【0100】
そのようにして得られたペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を発現しているベクターを回収し、ベクターに挿入されたポリヌクレオチドの有するヌクレオチド配列を決定し、該ヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を決定することができる。また、ベクターを再度宿主細胞に導入し、上述の操作をサイクルとして1回乃至数回繰り返すことにより、標的分子に結合するペプチド集合物をより高度に濃縮することができる。
【0101】
リボゾームディスプレイは、例えば、終始コドンを持たない所望の蛋白質をコードするmRNAと無細胞蛋白質合成系を用いることで、試験管内で所望の蛋白質とそれに対応するmRNA、及びリボゾームが連結した分子を合成する技術である。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダム変異を誘発して得られるmRNA群と無細胞蛋白質合成系を利用することで、ランダム変異誘発された蛋白質群がリボゾーム上に提示されたライブラリーを得ることができる(Mattheakis LC, et al. (1994年) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91巻19号,9022-9029頁)。
【0102】
核酸ディスプレイは、mRNAディスプレイともよばれ、例えば、チロシルtRNAの3’末端に類似の構造をもつピューロマイシン等のリンカーを用いることで、所望の蛋白質、それをコードするmRNA及びリボゾームが連結した分子を合成する技術である。当該技術は生細胞ではなく、無細胞蛋白質合成系を利用するため、試験管内で合成することが可能である。ある蛋白質の有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にランダ
ム変異を誘発して得られるmRNA群とピューロマイシン等のリンカー、及び、無細胞蛋白質合成系を利用することで、ランダム変異誘発された蛋白質群がリボゾーム上に提示されたライブラリーを得ることができる(Nemoto N,et al.(1997年)FEBS Lett. 414巻2号,405-408頁)。
【0103】
リボゾームディスプレイや核酸ディスプレイ等の無細胞合成系を介して得られる、ペプチドを発現しているライブラリーは、標的分子の存在下で保温するか、又は、標的分子と接触させることができる。例えば、KLK1、KLK4、又は、KLK4及び/若しくはKLK8が固相化された担体を、ライブラリーを含む移動相と一定時間保温した後、移動相を担体から分離し、次いで担体を洗浄することにより非特異的な吸着物及び結合物を除去し、担体(に結合したKLK1、KLK4、又は、KLK4及び/若しくはKLK8)に結合したペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を、溶出により回収することができる。溶出は、相対的に高いイオン強度、低いpH、中程度の変性条件、カオトロピック塩の存在下等で、非選択的に行うか、又は、KLK1、KLK4、KLK8等の可溶性の標的分子、標的分子に結合する抗体、天然のリガンド、基質等を添加して固相化された標的分子と競合させることにより選択的に行うことができる。非特異的な吸着物部位及び/又は結合部位は、例えば、ブロッキング処理することも可能であり、ブロッキング工程も適切な方法であれば組み入れられ得る。
【0104】
そのようにして得られたペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物を発現している核酸を回収し、mRNAの場合はcDNAに逆転写反応後にヌクレオチド配列を決定し、該ヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列を決定することができる。また、回収した核酸からmRNAを転写し、上述の操作をサイクルとして1回乃至数回繰り返すことにより、標的分子に結合するペプチド集合物をより高度に濃縮することができる。
【0105】
ペプチド、ペプチドの集合物又は濃縮されたペプチド集合物に予めアフィ二ティー・タグをコンジュゲートさせておけば、効率的に当該ペプチド又はそれらの集合物を精製することができる。例えば、プロテアーゼの基質をタグとして予めペプチド集合物にコンジュゲートさせておけば、該プロテアーゼ活性により切断することにより、ペプチドを溶出することができる。
【0106】
得られた配列情報及びペプチドの機能等に基づき、得られたクローン又はライブラリーにさらなる変異を誘発させ、変異が導入されたライブラリーから、その機能(例えば、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性)、物性(熱安定性、保存安定性等)、体内動態(分布、血中半減期)等が改善されたペプチドを取得することも可能である。
【0107】
得られたペプチドが、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を有しているか否かを決定することにより、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをそれぞれ同定することができる。
【0108】
また、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、好適には、野生型SPINK2のアミノ酸配列に含まれる16番Ser乃至30番Valからなるループ構造、31番Cys及び32番Glyからなるβストランド(1)並びに57番Ile乃至59番Argからなるβストランド(2)から構成されるβシート、並びに、41Glu番アミノ酸乃至51番Glyからなるαへリックス、又は、それらに類似するか若しくはそれら(の位置)に少なくとも部分的に対応するループ構造、βシート、αへリックス等から構成される立体構造が、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性をそれぞれ発揮し得る程度に、維持され得る。かかる立体構造(全体の構造又は部分構造)を指標の一部として、より好適なKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドを同定することも可能である。
【0109】
4.KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子、それを含むベクター、それらを含む細胞、並びに、組換え型KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの製造方法
【0110】
本発明は、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(以下、それぞれ「KLK1阻害ペプチドをコードする核酸分子」、「KLK4阻害ペプチドをコードする核酸分子」又は「KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子」という)、該遺伝子が挿入された組換えベクター、該遺伝子もしくはベクターが導入された細胞(以下、「KLK1阻害ペプチドをコードする核酸分子含有細胞」、「KLK4阻害ペプチドをコードする核酸分子含有細胞」又は「KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子含有細胞」という)、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドを産生する細胞(以下、それぞれ「KLK1阻害ペプチド産生細胞」、「KLK4ペプチド阻害ペプチド産生細胞」又は「KLK4/KLK8阻害ペプチド産生細胞」という)をも提供する。
【0111】
本発明のKLK1阻害ペプチドをコードする核酸分子、KLK4阻害ペプチドをコードする核酸分子、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子の好適な例として、それぞれ次の(a1)乃至(a4)、(b1)乃至(b4)又は(c1)乃至(c4)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列(以下、それぞれ「KLK1阻害ペプチドのヌクレオチド配列」、「KLK4阻害ペプチドのヌクレオチド配列」若しくは「KLK4/KLK8阻害ペプチドのヌクレオチド配列」という)を含んでなるか、KLK1阻害ペプチドのヌクレオチド配列、KLK4阻害ペプチドのヌクレオチド配列若しくはKLK4/KLK8阻害ペプチドのヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列からなるか、又は、KLK1阻害ペプチドのヌクレオチド配列、KLK4阻害ペプチドのヌクレオチド配列若しくはKLK4/KLK8阻害ペプチドのヌクレオチド配列からなるものをあげることができる:
(a1)配列番号5乃至8(
図11乃至14)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(a2)(a1)に記載のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つKLK1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(a3)(a1)に記載のヌクレオチド配列において1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、又は1個のヌクレオチド又はヌクレオチド残基が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり、且つKLK1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;及び、
(a4)(a1)に記載のヌクレオチド配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり、且つKLK1阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列:
(b1)配列番号5乃至8(
図11乃至14)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(b2)(b1)に記載のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つKLK4阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(b3)(b1)に記載のヌクレオチド配列において1乃至20個、1乃至15個、1乃
至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、又は1個のヌクレオチド又はヌクレオチド残基が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり、且つKLK4阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;及び、
(b4)(b1)に記載のヌクレオチド配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり、且つKLK4阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列:
(c1)配列番号13乃至22(
図19乃至28)のいずれか一つで示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(c2)(c1)に記載のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つKLK4/KLK8阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(c3)(c1)に記載のヌクレオチド配列において1乃至20個、1乃至15個、1乃至10個、1乃至8個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、1若しくは2個、又は1個のヌクレオチド又はヌクレオチド残基が置換、欠失、付加及び/又は挿入してなり、且つKLK4/KLK8阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;及び、
(c4)(c1)に記載のヌクレオチド配列と60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、97%、98%又は99%以上同一であり、且つKLK4/KLK8阻害活性を有するペプチドに含まれるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列。
【0112】
上記(a1)乃至(a4)、(b1)乃至(b4)又は(c1)乃至(c4)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなるか又は該アミノ酸配列を含むSPINK2変異体ペプチドは、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の有するプロテアーゼ活性を阻害し、好適には該プロテアーゼ活性を特異的に阻害する。
【0113】
しかしながら、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子は(a1)乃至乃至(a4)、(b1)乃至(b4)又は(c1)乃至(c4)(d)に限定されるものではなく、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を有するSPINK2変異体に含まれるアミノ酸配列、好適には配列番号23(
図29)で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は遍くKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子の範囲に包含される。
【0114】
アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を設計するには、各アミノ酸に対応するコドンを1種又は2種以上使用することができる。そのため、あるペプチドが有する単一のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、複数のバリエーションを有し得る。かかるコドンの選択に際しては、該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド又はそれを含むベクターが導入される、発現用の宿主細胞のコドン使用(codon usage)に応じて適宜コドンを選択したり、複数のコドンの使用の頻度もしくは割合を適宜調節したりすることができる。例えば、大腸菌を宿主細胞として用いる場合は、大腸菌において使用頻度が高いコドンを使用してヌクレオチド配列を設計してもよい。
【0115】
KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子は、1つ又は2つ以上の調節配列に機能的に連結されていてもよい。「機能的に連結される」とは、連結された核酸分子を発現させることができる、又は、該分子に含まれるヌクレオチド配列の発現を可能にする、ことを意味する。調節配列は、転写調節及び/又は翻訳調節に関する情報を含む配列エレメントを含む。調節配列は、種により様々であるが、一般に、プロモーターを含み、原核生物の-35/-10ボックス及びシャイン・ダルガノ配列、真核生物のTATAボックス、CAAT配列、及び5’キャッピング配列等で例示される、転写及び翻訳の開始に関与する5’非コード配列を含む。かかる配列は、エンハンサーエレメント及び/又はリプレッサーエレメント、並びに宿主細胞内外の特定の区画へと天然型又は成熟型のペプチドを送達するための、翻訳され得るシグナル配列、リーダー配列等を含んでもよい。さらに、調節配列は3’非コード配列を含んでよく、かかる配列には、転写終結又はポリアデニル化等に関与するエレメントを含み得る。ただし、転写終結に関する配列が、特定の宿主細胞において充分に機能しない場合は、当該細胞に適した配列で置換され得る。
【0116】
プロモーター配列としては、原核生物ではtetプロモーター、lacUV5プロモーター、T7プロモーター等を、真核細胞ではSV40プロモーター、CMVプロモーター等を例示することができる。
【0117】
KLK1阻害ペプチドをコードする核酸分子、KLK4阻害ペプチドをコードする核酸分子、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子は、単離された形態、ベクターもしくは他のクローニングビヒクル(以下、単に「ベクター」という:プラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド等)中又は染色体中に含まれる形態であってよいが、それらの形態に限定されない。ベクターは、上記調節配列に加え、発現に使用される宿主細胞に適した複製配列及び制御配列、並びに形質転換等により核酸分子が導入された細胞を選択可能な表現型を与える選択マーカーを含んでいてもよい。
【0118】
KLK1阻害ペプチドをコードする核酸分子、KLK4阻害ペプチドをコードする核酸分子、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子、及び、KLK1阻害ペプチドのヌクレオチド配列を含むベクター、KLK4阻害ペプチドのヌクレオチド配列を含むベクター、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドのヌクレオチド配列を含むベクターは、当該ペプチド又はヌクレオチド配列を発現可能な宿主細胞に形質転換等の当業者に公知の方法により導入することができる。該核酸分子又はベクターを導入された宿主細胞は、当該ペプチド又はヌクレオチド配列の発現に適した条件下で培養され得る。宿主細胞は、原核及び真核のいずれでもよく、原核では大腸菌、枯草菌等、真核ではサッカロミセス・セレヴィシエ、ピキア・パストリス等の酵母、SF9、High5等の昆虫細胞、HeLa細胞、CHO細胞、COS細胞、NS0等の動物細胞を例示することができる。真核細胞等を宿主細胞として用いることにより、発現した本発明のペプチドに所望の翻訳後修飾を施すことができる。翻訳後修飾としては、糖鎖等の官能基付加、ペプチド又は蛋白質の付加、アミノ酸の化学的性質の変換等を例示することができる。また、本発明のペプチドへの所望の修飾を人工的に施すことも可能である。そのようなペプチドの修飾体も、本発明の「ペプチド」の範囲に包含される。
【0119】
本発明はKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの製造方法をも提供する。当該方法には、KLK1阻害ペプチドをコードする核酸分子含有細胞若しくはKLK1阻害ペプチド産生細胞、KLK4阻害ペプチドをコードする核酸分子含有細胞もしくはKLK4阻害ペプチド産生細胞、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをコードする核酸分子含有細胞もしくはKLK4/KLK8阻害ペプチド産生細胞を培養する工程1、及び/又は、工程1で得られた培養物からSPINK2変異体を回収する工程2が含まれる。工程2には、当業者に公知の分画、クロマトグラフィー、精製等の操作を適用することができ、例えば、後述する本発明の抗体を利用したアフィニティー・クロマトグラフィーによる精製が適用可能である。
【0120】
本発明の一部の態様において、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、
KLK4/KLK8阻害ペプチドは、分子内ジスルフィド結合を有する。分子内ジスルフィド結合を有するペプチドは、シグナル配列等を用いて、酸化性の酸化還元環境を有する細胞区間に送達させることが好ましい場合がある。酸化性環境は、大腸菌等のグラム陰性細菌の周辺質、グラム陽性細菌の細胞外環境、真核細胞の小胞体内腔等により提供することが可能であり、かかる環境下では、構造的なジスルフィド結合の形成が促進され得る。また、大腸菌等の宿主細胞の細胞質において分子内ジスルフィド結合を有するペプチドを作製することも可能であり、その場合ペプチドは、可溶性の折り畳まれた状態で直接的に獲得されるか、又は封入体の形態で回収され、次いでイン・ビトロで復元され得る。さらに、酸化性の細胞内環境を有する宿主細胞を選択し、その細胞質において分子内ジスルフィド結合を有するペプチドを作製することもできる。一方、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドが分子内ジスルフィド結合を有さない場合は、還元性の酸化還元環境を有する細胞区間、例えば、グラム陰性細菌の細胞質において作製され得る。
【0121】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドは、メリフィールド他のペプチド固相合成法、並びに、t-ブトキシカルボニル(t-Butoxycarbonyl:Boc)や9-フルオレニルメトキシカルボニル(9-Fluorenylmethoxycarbonyl:Fmoc)等を利用した有機合成化学的ペプチド合成法により例示される化学合成、イン・ビトロ翻訳等の、他の当業者に公知の方法によっても製造することができる。
【0122】
本発明は、その一部の態様として、KLK1阻害活性、KLK4阻害活性、又は、KLK4/KLK8阻害活性を有するSPINK2変異体ペプチドに結合する抗体及びその結合断片を提供する。抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれでもよく、モノクローナル抗体としては、免疫グロブリン又はそれに由来するものであれば特に限定されない。抗体の機能断片は、抗原結合活性すなわち該SPINK2変異体ペプチドへの結合活性を有している範囲において限定はなく、重鎖及び軽鎖の両方もしくは一方又はその断片、定常領域やFc領域を欠くもの、他の蛋白質や標識用物質とのコンジュゲート体等も含まれる。かかる抗体及びその機能断片は、当業者に公知の方法により調製することができ、該SPINK2変異体ペプチドのアフィニティー・クロマトグラフィーによる精製、該ペプチドを含む医薬組成物又はその使用に関連した臨床検査、診断等における該ペプチドの検出、イムノアッセイ等に有用である。本発明の抗体は、該抗体が結合する本発明のペプチドを用いたアフィニティー・クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0123】
5.医薬組成物
本発明はKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチド、又は、そのコンジュゲートを含む医薬組成物をも提供する。
【0124】
本発明のKLK1阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを含む医薬組成物は、KLK1により惹起されるか又は増悪化され、KLK1の発現又は機能を阻害又は抑制することにより、かかる惹起又は増悪化の抑制、治癒、症状の維持もしくは改善、二次性疾患の回避等し得る各種疾患(以下、「KLK1に関わる疾患」又は「KLK1関連疾患」という)の治療及び/又は予防に有用である。KLK1に関わる疾患としては、例えば、低血圧等の心血管疾患、腎疾患、急性膵炎、気管支炎、喘息等をあげることができる。
【0125】
本発明のKLK4阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを含む医薬組成物は、KLK4により惹起されるか又は増悪化され、KLK4の発現又は機能を阻害又は抑制することにより、かかる惹起又は増悪化の抑制、治癒、症状の維持もしくは改善、二次性疾患の回避等し得る各種疾患(以下、「KLK4に関わる疾患」又は「KLK4関連疾患」という)の治療及び/又は予防に有用である。KLK4に関わる疾患としては、例えば、遺伝性エ
ナメル質形成不全症、前立腺がん等をあげることができる。
【0126】
本発明のKLK4/KLK8阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを含む医薬組成物は、KLK4及びKLK8により惹起されるか又は増悪化され、KLK4及びKLK8の発現又は機能を阻害又は抑制することにより、かかる惹起又は増悪化の抑制、治癒、症状の維持もしくは改善、二次性疾患の回避等し得る各種疾患(以下、「KLK4/KLK8に関わる疾患」又は「KLK4/KLK8関連疾患」という)の治療及び/又は予防に有用である。KLK4/KLK8に関わる疾患としては、例えば、遺伝性エナメル質形成不全症、前立腺がん、長期記憶の阻害、統合失調症、大腸がん、卵巣がん等をあげることができる。
【0127】
本発明において、KLK8関連疾患(「KLK8に関わる疾患」ともいう)とは、KLK8により惹起されるか又は増悪化され、KLK4及びKLK8の発現又は機能を阻害又は抑制することにより、かかる惹起又は増悪化の抑制、治癒、症状の維持もしくは改善、二次性疾患の回避等し得る各種疾患を意味し、例えば、長期記憶の阻害、統合失調症、大腸がん、卵巣がん等をあげることができる。
【0128】
但し、KLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、及び、KLK4/KLK8に関わる疾患は、ここに例示された疾患に限定されるものではない。
【0129】
本発明の医薬組成物には、治療又は予防に有効な量のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドと薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含有せしめることができる。
【0130】
「治療又は予防に有効な量」とは、特定の疾患、投与形態及び投与経路につき治療又は予防効果を奏する量を意味し、「薬理学的に有効な量」と同義である。
【0131】
本発明の医薬組成物には、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、無菌性、該組成物又はそれに含まれるペプチド、コンジュゲート等の安定性、溶解性、徐放性、吸収性、浸透性、剤型、強度、性状、形状等を変化させたり、維持したり、保持したりするための物質(以下、「製剤用の物質」という)を含有せしめることができる。製剤用の物質としては、薬理学的に許容される物質であれば特に限定されるものではない。例えば、非毒性又は低毒性であることは、製剤用の物質が好適に具備する性質である。
【0132】
製剤用の物質として、例えば、以下のものをあげることができるが、これらに限定されるものではない;グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素ナトリウム、トリス-塩酸(Tris-HCl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β-シクロデキストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類やグルコース、マンノースやデキストリン等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルビテート20やポリソルビテート80等のポリソルビテート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールやソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、希釈剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。
【0133】
これらの製剤用の物質の添加量は、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの重量に対して0.001乃至1000倍、好適には0.01乃至100倍、より好適には0.1乃至10倍である。
【0134】
KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドをリポソーム中に含有せしめたもの、該ペプチドとリポソームとが結合してなる修飾体を含有する医薬組成物も、本発明の医薬組成物に含まれる。
【0135】
賦形剤や担体は、通常液体又は固体であり、注射用の水、生理食塩水、人工脳脊髄液、その他の、経口投与又は非経口投与用の製剤に用いられる物質であれば特に限定されない。生理食塩水としては、中性のもの、血清アルブミンを含むもの等をあげることができる。
【0136】
緩衝剤としては、医薬組成物の最終pHが7.0乃至8.5になるように調製されたTrisバッファー、同じく4.0乃至5.5になるように調製された酢酸バッファー、同じく5.0乃至8.0になるように調製されたクエン酸バッファー、同じく5.0乃至8.0になるように調製されたヒスチジンバッファー等を例示することができる。
【0137】
本発明の医薬組成物は、固体、液体、懸濁液等である。本発明の別の医薬組成物の例として、凍結乾燥製剤をあげることができる。凍結乾燥製剤を成型するには、スクロース等の賦形剤を用いることができる。
【0138】
本発明の医薬組成物の投与経路としては、点眼、経腸投与、局所投与及び非経口投与のいずれでもよく、例えば、結膜上への点眼、硝子体内投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、経皮投与、骨内投与、関節内投与等をあげることができる。
【0139】
かかる医薬組成物の組成は、投与方法、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドのKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8に対する阻害活性、結合親和性等に応じて決定することができる。本発明の阻害ペプチドの標的に阻害活性が強い(IC50値が小さい)か又は親和性が高い(KD値が小さい)ほど、少ない投与量でその薬効を発揮し得る。
【0140】
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの投与量は、薬理学的に有効な量であれば限定されず、個体の種、疾患の種類、症状、性別、年齢、持病、該ペプチドの標的に対する阻害活性、結合親和性、その他の要素に応じて適宜決定することができるが、通常、0.01乃至1000mg/kg、好適には0.1乃至100mg/kgを、1乃至180日間に1回、又は1日2回若しくは3回以上投与することができる。
【0141】
医薬組成物の形態としては、注射剤(凍結乾燥製剤、点滴剤を含む)、坐剤、経鼻型吸収製剤、経皮型吸収製剤、舌下剤、カプセル、錠剤、軟膏剤、顆粒剤、エアーゾル剤、丸剤、散剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、生体埋め込み型製剤等を例示することができる。
【0142】
KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドを有効成分として含む医薬組成物は、他の医薬と同時に又は別個に投与することができ
る。例えば、他の医薬を投与した後にKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドを有効成分として含む医薬組成物を投与するか、かかる医薬組成物を投与した後に、他の医薬を投与するか、又は、当該医薬組成物と他の医薬とを同時に投与してもよい。同時に投与する場合、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドと他の医薬とは、単一の製剤、及び、別々の製剤(複数の製剤)、のいずれに含有されてもよい。
【0143】
それらの他の医薬は、1つの場合もあり、2つ、3つあるいはそれ以上を投与するか又は受けることもできる。それらをまとめて本発明の医薬組成物と「他の医薬との併用」又は「他の医薬との組み合わせ」と呼び、本発明のペプチド又はそのコンジュゲートに加えて他の医薬を含むか又は他の療法と組み合わせて使用される本発明の医薬組成物も「他の医薬との併用」又は「他の医薬との組み合わせ」の態様として本発明に含まれる。
【0144】
本発明は、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドを投与する工程を含む、KLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、又は、KLK4/KLK8に関わる疾患の治療方法又は予防方法、該疾患の治療用又は予防用医薬組成物を調製するための本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの使用、該疾患の治療又は予防のための該ペプチドの使用、をも提供する。該ペプチドを含む治療用又は予防用キットも本発明に含まれる。
【0145】
さらに、本発明は、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチド又はそのコンジュゲートの有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、又は、該ポリヌクレオチドもしくは該ベクターを含むか又は本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを発現する細胞を含む医薬組成物をも提供する。例えば、かかるポリヌクレオチド及びベクターはKLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、又は、KLK4/KLK8に関わる疾患の遺伝子治療に、かかる細胞はKLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、又は、KLK4/KLK8に関わる疾患の細胞治療に、それぞれ公知の手法を用いて適用することができる。また、例えば、かかるポリヌクレオチド又はベクターを、自家細胞又は他家細胞(同種細胞)に導入することにより、細胞治療用の細胞を調製することができる。そのようなポリヌクレオチド及びベクターは、細胞治療薬調製用の組成物としても、本発明に包含される。しかしながら、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞等を含む医薬組成物の態様は上記のものに限定されない。
【0146】
6.診断用組成物
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチド、又はそのコンジュゲートを含む検査用又は診断用組成物(以下、まとめて「診断用組成物」という)を提供する。
【0147】
本発明の診断用組成物は、KLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、又は、KLK4/KLK8に関わる疾患、KLK1発現、KLK4発現、KLK8発現等の検査又は診断に有用である。本発明において検査又は診断には、例えば、罹患リスクの判定又は測定、罹患の有無の判定、進行や増悪化の程度の測定、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドを含む医薬組成物による薬物治療の効果の測定又は判定、薬物治療以外の治療の効果の測定又は判定、再発リスクの測定、再発の有無の判定等が含まれるが、検査又は診断であればそれらに限定されるものではない。
【0148】
本発明の診断用組成物は、本発明のペプチド又はそのコンジュゲート、それらを含む組
成物、それらを含む医薬組成物を投与する個体の同定に有用である。
【0149】
かかる診断用組成物には、pH緩衝剤、浸透圧調節剤、塩類、安定化剤、防腐剤、顕色剤、増感剤、凝集防止剤等を含有せしめることができる。
【0150】
本発明はKLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、又は、KLK4/KLK8に関わる疾患の検査方法又は診断方法、該疾患の診断用組成物を調製するための本発明のペプチドの使用、該疾患の検査又は診断のための本発明のペプチドの使用、をも提供する。本発明のペプチドを含む検査又は診断用キットも本発明に含まれる。
【0151】
本発明のペプチドを含む検査又は診断の方法としてはサンドウィッチELISAが望ましいが、通常のELISA法やRIA法、ELISPOT(Enzyme-Linked
ImmunoSpot)法、ドットブロット法、オクタロニー法、CIE(Counterimmunoelectrophoresis)法、CLIA(Chemiluminescent immuno assay)、FCM(Flow Cytometry)等の検出方法が利用可能である。検出には抗体や本発明のペプチドもしくはそのコンジュゲート等を標識したものが利用される。標識法としてはビオチンのほか、HRP、アルカリフォスファターゼ、FITC等の発蛍光団、放射性同位元素等のラベル等生化学的解析に実施可能な標識法が利用できる。酵素標識を利用した検出にはTMB(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine)、BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate)、p-NPP(p-nitrophenyl phosphate)、OPD(o-Phenylenediamine)、ABTS(3-Ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid)、SuperSignal ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)等の発色基質やQuantaBlu(登録商標) Fluorogenic Peroxidase Substrate(Thermo Fisher Scientific)蛍光基質のほか、化学発光基質を用いることができる。本測定には、ヒト又は非ヒト動物由来の試料に加え、組換え蛋白質等の人工的な処理を加えた試料をも供することができる。生物個体由来の被検試料としては、例えば、血液、関節液、腹水、リンパ液、脳脊髄液、肺胞洗浄液、唾液、痰、組織ホモジネート上清、組織切片等をあげることができるが、それらに限定されるものではない。
【0152】
本発明のペプチドを含む検査又は診断用のサンドウィッチELISAキットには、KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、又は、KLK4/KLK8阻害ペプチドの蛋白質標準液、発色試薬、希釈用緩衝液、固相用蛋白質、検出用蛋白質、並びに洗浄液等が含まれてよい。抗原に結合した蛋白質量を測定する方法としては、吸光法、蛍光法、発光法、RI(Radioisotope)法等が好適に適用され、測定には、吸光プレートリーダー、蛍光プレートリーダー、発光プレートリーダー、RI液体シンチレーションカウンター等が好適に使用される。
【0153】
また、免疫沈降法を利用した方法でも検査又は診断が可能である。
【0154】
また、本発明は被検サンプル中のKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を検出又は測定する方法を提供する。これらの検出又は測定方法には、本発明の診断用組成物を使用することができる。KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチド、又は、そのコンジュゲートを被検試料と接触させ(工程1)、次いで該ペプチドに結合したKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の量又は測定を測定する(工程2)ことにより、該試料中のKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を検出することができる。工程1としては、例えば、KLK1阻害
ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチドに免疫グロブリンのFc領域をコンジュゲートしたものをプロテインGを介して磁気ビーズに固相化し、そこに被検試料を添加する等、工程2としては、例えば、磁気ビーズを分離し、ビーズと共に沈殿した可溶性蛋白質をSDS-PAGEやWestern blot法で解析し、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を検出する等をあげることができる。本測定には、ヒト又は非ヒト動物由来の試料に加え、組換え蛋白質等の人工的な処理を加えた試料をも供することができる。生物個体由来の被検試料としては、例えば、血液、関節液、腹水、リンパ液、脳脊髄液、肺胞洗浄液、唾液、痰、組織ホモジネート上清、組織切片等をあげることができるが、それらに限定されるものではない。
【0155】
前記のKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の検出は、イン・ビトロのみならず、イン・ビボでも実施することができる。画像診断の場合は、薬学的に許容可能な放射性核種や発光体で標識されたKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、もしくは、KLK4/KLK8阻害ペプチド、又は、そのコンジュゲートを利用することができる。工程1としては、例えば、被験者に、標識された該ペプチドもしくはそのコンジュゲートを投与する、工程2としては、例えば、PET/CT等の画像診断技術を使用して画像を取り、活性型KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の存在を判定又は検査する等をあげることができる。
【0156】
本発明の診断用組成物に含まれるペプチド又はそのコンジュゲートはKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8結合し、好適にはKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8特異的結合活性を有する。
【0157】
本発明の医薬組成物が投与される個体を同定する方法も本発明に包含される。かかる同定方法においては、該個体由来サンプル中のKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を測定し、該サンプル中に、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8が検出されたか、又は、健常個体由来サンプル中に検出されたKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の量と比較してより多くのKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8が検出された場合に、該個体を陽性と判定することができる。
当該方法には、本発明の診断用組成物を使用することができる。
【0158】
また、かかる同定方法の好適な一態様において、該個体はKLK1関連疾患、KLK4関連疾患、又は、KLK4/KLK8関連疾患に罹患しているか又はそのリスクがある。
【0159】
さらに、本発明の医薬組成物は、その一態様において、かかる同定方法において陽性と判定された個体に投与され得る。
【0160】
7.KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の分離法
本発明のKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチドペプチドは、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8に特異的な結合活性を有する。したがって、本発明の好適なKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、若しくは、KLK4/KLK8阻害ペプチド又はそのコンジュゲートを用いて、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8と他のKLKが混在した試料中から、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8を特異的に分離することができる。ペプチドからのKLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8の遊離は、相対的に高いイオン強度、低いpH、中程度の変性条件、カオトロピック塩の存在下等で、非選択的に行うことができるが、KLK1、KLK4、又は、KLK4及びKLK8のプロテアーゼ活性を減弱させない範囲で行うことが好ましい。
【実施例】
【0161】
[実施例1]
KLK1、KLK4、KLK8の調製
(1-1)KLK1、KLK4、KLK8発現ベクターの構築
pro-KLK1(配列番号2:
図8,UniProt;P06870)をコードするヌクレオチド配列、pro-KLK4(配列番号3:
図9,UniProt;Q9Y5K2)をコードするヌクレオチド配列、pro-KLK8(配列番号4:
図10、UniProt;O60259)をコードするヌクレオチド配列を鋳型として、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたオーバーラップPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30サイクル)により各断片をそれぞれ増幅し、各遺伝子のC末端にHis tagを付加した哺乳細胞発現ベクターpCMA_pro-KLK1、pCMA_pro-KLK4、pCMA_pro-KLK8を構築した。
【0162】
(1-2)pro-KLK1、pro-KLK4、pro-KLK8の発現精製
(1-1)で構築した発現ベクターは、PEI MAX 40000(Polysciences)を用いてExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific)にトランスフェクションし、培養3日後に培養上清を回収した。HisTrap excel(GE healthcare)を用いて培養上精から所望のHis tag融合タンパク質を回収し、Amicon Ultra NMWL 10,000(Merck Millipore)を用いてPBSにバッファー交換することで、pro-KLK1、pro-KLK4、pro-KLK8をそれぞれ精製した。
【0163】
(1-3)KLK1、KLK4、KLK8の調製
KLK活性化バッファー(50mM Tris-HCl,150mM NaCl,10mM CaCl2,pH7.5)で調製した200μg/mLのpro-KLK1に等量の2μg/mLのthermolysinを添加し、37℃で一定時間反応後、20mM
1,10-phenanthrolineを等量混合することで活性化KLK1を調製した。同様に、KLK活性化バッファーで調製した200μg/mLのpro-KLK4またはpro-KLK8に等量の8μg/mL Thermolysinを添加し、37°Cで一定時間反応させた後、20mM 1,10-phenanthrolineを等量混合することで活性化KLK4またはKLK8を調製した。
【0164】
[実施例2]
KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、KLK4/KLK8阻害ペプチドの調製
(2-1)KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、KLK4/KLK8阻害ペプチド発現ベクターの構築
SPINK2 scaffoldを骨格としたKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド及びKLK4/KLK8阻害ペプチドの発現ベクターを構築した。各阻害ペプチドのアミノ酸配列(配列番号5乃至22:
図11乃至28))をコードするヌクレオチド配列とヒトSPINK2(配列番号1:
図7)をコードするヌクレオチド配列を鋳型として、下記プライマーおよびKOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCR法((94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒)×30サイクル)により阻害ペプチド断片を増幅した。
プライマー1:5’-AAAAGAATTCTGATCCGCAGTTTGGTCTGTTTAG-3’(配列番号24:
図30)
プライマー2:5’-AAAACTCGAGTTATGCGGCCGCAGACGCGCCGCACGGACC-3’(配列番号25:
図31)
増幅した断片をアガロースゲル電気泳動に供した後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)によりDNAを調製した。調製したDNA断片およびpET 32a(改変)を制限酵素EcoRI(NEB)およびXhoI(NEB)を用いて、37℃で1時間以上処理し、アガロースゲル電気泳動後に、所望のDNA断片を切り出し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)により精製した。T4 DNA Ligase(NEB)を用いて、精製した断片を16℃で一晩反応させることでligation反応を実施した。Ligation溶液は、大腸菌JM109(TOYOBO)に添加し、氷上で30分間静置した後、42℃で45秒の熱処理、さらに氷上で5分間静置し、0.1mg/mLアンピシリンを含む2YTプレートに播種後、37℃で一晩静置培養することで、大腸菌を形質転換した。翌日、形質転換した大腸菌を、0.1mg/mLアンピシリンを含むTerrific Broth培地(Invitrogen)に植菌し、37℃で一晩培養後、QIAprep 96 Turbo Miniprep Kit(Qiagen)を用いてプラスミドDNAを回収し、配列解析を実施することで「pET 32a(改変)_KLK1阻害ペプチド」「pET 32a(改変)_KLK4阻害ペプチド」「pET 32a(改変)_KLK4/KLK8阻害ペプチド」を構築した。
【0165】
(2-2)KLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、KLK8阻害ペプチドの発現精製
(2-1)で構築したベクターでそれぞれ大腸菌Origami B (DE3)(Novagen)を形質転換し、0.1mg/mLアンピシリンを含む2YT培地を用いて37℃で培養後、IPTG(最終濃度1mM)を添加し、16℃で一晩培養した。翌日、遠心分離(3,000g、20分、4℃)により集菌後、BugBuster Master Mix(Novagen)を用いてlysateを調製し、TALON Metal Affinity Resin(Clontech)を用いてHis tag融合目的蛋白質を精製した。次に、Thrombin Cleavage Capture Kit(Novagen)を用いてthioredoxin tagと所望の蛋白質とを切断し、TALONを用いて精製した。さらに、ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex75 10/300 GL)に供することで、N末にS tagおよびリンカー(配列番号26:
図32)、C末に6残基(配列番号27:
図33)を含むKLK1阻害ペプチド、KLK4阻害ペプチド、KLK4/KLK8阻害ペプチドを精製した。
【0166】
[実施例3]
各阻害ペプチドの評価
(3-1)ペプチド基質を用いた各阻害ペプチドのKLK1、KLK4、及び、KLK4/KLK8阻害活性評価
基質ペプチドを10mMになるようDMSOで溶解し、Assay buffer(50mM Tris-HCl,150mM NaCl,pH8.0)で希釈して終濃度100μMで使用した。Assay bufferで希釈したKLK1、KLK4、又はKLK8と阻害ペプチドをそれぞれ25μLずつ混ぜ、37℃で20分反応させた後にAssay bufferで希釈した基質を50μL加えて、Enspire(PerkinElmer)で蛍光シグナル(excitation 380nm/emission 460nm)を測定した。各酵素と基質の組み合わせは以下の通り使用した。KLK1阻害活性評価では終濃度1nMのKLK1および終濃度100μMのPFR-AMC(BACHEM)を使用した。KLK4阻害活性評価では終濃度10nMのKLK4および終濃度100μMのBoc-VPR-AMC(R&D systems)を用いた。KLK8阻害活性評価では終濃度20nMのKLK8および終濃度100μMのBoc-VPR-AMC(R&D Systems)を用いた。なお、各阻害ペプチドは終濃度1.875~1,000nM、反応および測定にはプロテオセーブ(登録商標)SS96F黒プレート(住友ベークライト株式会社)を使用した。
【0167】
各濃度における各阻害ペプチドの基質ペプチド分解速度を算出し、阻害剤濃度0nMの分解速度を100%としてGraphPad Prism (version 5.0;GraphPad Software Inc.)を用いて50%阻害濃度(IC
50)を算出した結果、いずれの阻害ペプチドも低濃度でKLK1、KLK4、またはKLK8酵素活性を阻害することが明らかとなった(
図2)。さらに、KLK4阻害ペプチドについては、測定結果を非線形カーブフィッティングし、Morrisonの式に従うことでKi値を算出した(
図3)。多くのKLK4阻害ペプチドおよびKLK4/KLK8阻害ペプチドは1nMを下回るK
i値であり、強力な阻害剤であることが示された。尚、IC
50およびK
i値を算出には、独立した3回の実験の平均値を使用した。
【0168】
(3-2)各阻害ペプチドの特異性評価
基質ペプチドの切断を指標に、他のプロテアーゼに対する特異性を評価した。(3-1)に記載の方法と同様、Assay bufferで希釈したプロテアーゼとサンプル(終濃度1μM)をそれぞれ25μLずつ混ぜ、37℃で20分反応させた後にAssay bufferで希釈した基質を50μL加えて、Enspire(PerkinElmer)で蛍光シグナル(excitation 380nm/emission 460nm)を測定した。尚、プロテアーゼ活性評価にはAssay buffer(50mM Tris,150mM NaCl,pH8.0)を用い、反応および測定にはプロテオセーブ(登録商標)SS96F黒プレート(住友ベークライト株式会社)を使用した。特異性評価に用いたプロテアーゼおよび基質の組み合わせは以下の通り。
【0169】
Bovine α-chymotrypsin阻害活性評価;終濃度10nM chymotrypsin(Worthington Biochemical Corporation;LS001434)、終濃度100μM 基質ペプチドSuc-LLVT-MCA(株式会社ペプチド研究所;3120-v)
【0170】
Human tryptase阻害活性評価;終濃度1nM tryptase(Sigma-Aldrich;T7063)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Phe-Ser-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3107-v)
【0171】
Human chymase阻害活性評価;終濃度100nM chymase(Sigma-Aldrich;C8118)、終濃度100μM 基質ペプチドSuc-Leu-Leu-Val-Tyr-MCA(株式会社ペプチド研究所;3120-v)
【0172】
Human plasmin阻害活性評価;終濃度50nM Plasmin(Sigma-Aldrich;P1867)、終濃度100μM基質 ペプチドBoc-Val-Leu-Lys-MCA(株式会社ペプチド研究所;3104-v)
【0173】
Human thrombin阻害活性評価;終濃度1nM thrombin(Sigma-Aldrich;T6884)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-VPR-AMC Fluorogenic Peptide Substrate(R&D Systems;ES011)
【0174】
Neutrophil elastase阻害活性;終濃度0.02U/μL Neutrophil elastase(Enzo Life Sciences)、終濃度100μM 基質ペプチドSuc(OMe)-Ala-Ala-Pro-Val-MCA株式会社ペプチド研究所;3153-v)
【0175】
Human matriptase阻害活性評価;終濃度1nM matriptase(R&D Systems;E3946-SE)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-QAR-AMC Fluorogenic Peptide Substrate(ES014)
【0176】
Human protein C阻害活性評価;終濃度100nM protein C(Sigma-Aldrich;P2200)、終濃度100μM 基質ペプチドBoc-Leu-Ser-Thr-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3112-v)
【0177】
Human tPA阻害活性評価;終濃度10nM tPA(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドPyr-Gly-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3145-v)
【0178】
Human uPA阻害活性評価;終濃度10nM uPA(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドPyr-Gly-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3145-v)
【0179】
Human plasma kallikrein阻害活性評価;終濃度0.125μg/ml plasma kallikrein(Sigma-Aldrich;T0831)、終濃度100μM 基質ペプチドZ-Phe-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所;3095-v)
【0180】
Human HTRA2阻害活性評価;終濃度200nM HTRA2(R&D Sys
tems;1458-HT)、終濃度50μM 基質ペプチドH2-Opt(株式会社ペプチド研究所)
【0181】
(3-1)と同様、ペプチド基質の分解を指標にKLK1、KLK4、またはKLK8以外のプロテアーゼへの交差性を評価した。一部の阻害剤はChymotrypsinやPlasminなどに対して阻害剤の終濃度1uMで弱く交差性を示したが、多くの阻害剤はいずれのプロテアーゼに対しても各阻害ペプチドはプロテアーゼ活性を抑制せず、KLK1、KLK4、又はKLK4及びKLK8に対して特異的な阻害作用を有することが示された(
図4)。
【0182】
[実施例4]
KLK4阻害ペプチドの結合親和性
Single cycle kineticsによるKLK4阻害ペプチドの結合親和性を測定するため、BIAcore T 200(GE healthcare)を用いて表面プラズモン共鳴分析を実施した。一本鎖DNAが固定化されたSensor Chip CAP(GE healthcare)に、ストレプトアビジンコンジュゲートの相補鎖DNAをハイブリダイゼーションでキャプチャーさせた。次に、EZ-Link NHS-PEG4-Biotin(Thermo Fisher Scientific)を用いてビオチン化したKLK4を流速10μL/minでキャプチャーさせることで、約5RUを固定化した。その後、HBS-EPで3倍段階希釈したKLK4阻害ペプチド(0.08~20nM)をアナライトとして流速10μL/minで添加した。BIAcore T 200 Evaluation software(version 2.0)を用いて解析し、simple one-to-one Langmuir binding modelを用いてk
onおよびk
offを算出した。尚、平衡定数K
Dはk
off/k
onの比率として算出した。さらに、Biotin CAPture Kit(GE healthcare)付属のRegeneration bufferでSensor Chip CAPを再生し、ビオチン化KLK4を繰り返しキャプチャーさせることで、複数のKLK4阻害ペプチドを測定した。測定した3つのKLK4阻害ペプチドはいずれも1nMを下回るK
D値を示しており、非常に強い結合力であることが明らかとなった(
図5)。
【0183】
[実施例5]
KLK4/KLK4阻害ペプチド複合体のX線結晶構造解析
(5-1)KLK4/KLK4阻害ペプチド複合体の調製
(1-3)および(2-2)に記載した方法に従って、KLK4およびK41043(配列番号19:
図25)で示されるアミノ酸配列を有するKLK4阻害ペプチドをそれぞれ調製した。50mM Tris-HCl,150mM NaCl,pH8.0の条件下で両者を混合後、ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex 200 10/300 GL)により複合体を単離精製した。
【0184】
(5-2)X線結晶構造解析
(5-1)で調製した複合体溶液を30mg/mLまで濃縮し、終濃度16.7U/uLとなるようにEKMax(Invitrogen社)を添加後、リザーバー溶液(LiCl 0.2M,20%PEG3350)と1対1で混合し、蒸気拡散法により結晶化した。得られた単結晶をクライオ溶液(20%グリセロール、PBS、リザーバー溶液)に浸漬した後、液体窒素にて凍結した。凍結結晶をクライオ気流下でX線照射し、回折イメージを得た(photon factory NE3A:高エネルギー加速器研究機構)。imosflmを使用した解析により、最大分解能1.9Å(オングストローム)のスケーリングデータを取得した。KLK4単体(PDB ID:4K1E)、およびSPINK2単体(PDB ID:2JXD)を鋳型とした分子置換法により位相を決定し、構造精密化後、分解能2.0AでKLK4/該ペプチドの複合体結晶を決定した。当該KLK4阻害ペプチドはKLK4酵素活性中心を含む領域へ結合していることが認められた(
図6)。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明の提供するペプチド、並びに、それを含む医薬組成物及び診断用組成物は、KLK1に関わる疾患、KLK4に関わる疾患、又は、KLK4/KLK8に関わる疾患の治療、予防、検査又は診断等に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0186】
配列番号1:ヒトSPINK2のアミノ酸配列(
図7)
配列番号2:ヒトKLK1のアミノ酸配列(
図8)
配列番号3:ヒトKLK4のアミノ酸配列(
図9)
配列番号4:ヒトKLK8のアミノ酸配列(
図10)
配列番号5:KLK1阻害ペプチドK10061のアミノ酸配列(
図11)
配列番号6:KLK1阻害ペプチドK10062のアミノ酸配列(
図12)
配列番号7:KLK1阻害ペプチドK10066のアミノ酸配列(
図13)
配列番号8:KLK1阻害ペプチドK10071のアミノ酸配列(
図14)
配列番号9:KLK4阻害ペプチドK40001のアミノ酸配列(
図15)
配列番号10:KLK4阻害ペプチドK40003のアミノ酸配列(
図16)
配列番号11:KLK4阻害ペプチドK40004のアミノ酸配列(
図17)
配列番号12:KLK4阻害ペプチドK40005のアミノ酸配列(
図18)
配列番号13:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41021のアミノ酸配列(
図19)配列番号14:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41024のアミノ酸配列(
図20)配列番号15:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41025のアミノ酸配列(
図21)配列番号16:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41026のアミノ酸配列(
図22)配列番号17:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41041のアミノ酸配列(
図23)配列番号18:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41042のアミノ酸配列(
図24)配列番号19:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41043のアミノ酸配列(
図25)配列番号20:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41045のアミノ酸配列(
図26)配列番号21:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41046のアミノ酸配列(
図27)配列番号22:KLK4/KLK8阻害ペプチドK41047のアミノ酸配列(
図28)配列番号23:KLK1阻害結合ペプチド、KLK4阻害ペプチド又はKLK4/KLK8阻害ペプチドの一般式(
図29)
配列番号24:プライマー1のヌクレオチド配列(
図30)
配列番号25:プライマー2のヌクレオチド配列(
図31)
配列番号26:Stag+リンカー1のアミノ酸配列(
図32)
配列番号27:C末6マーのアミノ酸配列(
図33)
配列番号28:ヒトIgG1 Fcのアミノ酸配列(
図34)
【配列表】