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特許7455184窒化ケイ素薄板及び窒化ケイ素樹脂複合板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】窒化ケイ素薄板及び窒化ケイ素樹脂複合板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20240315BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240315BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C04B35/587
H05K1/03 630J
H01L23/12 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022206468
(22)【出願日】2022-12-23
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】松本 理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214264(JP,A)
【文献】特開2019-052072(JP,A)
【文献】特開2015-092600(JP,A)
【文献】国際公開第2022/024707(WO,A1)
【文献】特開2015-063440(JP,A)
【文献】特開2012-236743(JP,A)
【文献】特開2002-121076(JP,A)
【文献】国際公開第2006/118003(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/58 - 35/596
H01L 23/12 - 23/15
H01L 23/34 - 23/46
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結されたβ型窒化ケイ素粒子を含有する板厚が160μm以下である薄板であって、
前記β型窒化ケイ素粒子には、長軸及び短軸を有する六角柱状をなし、長軸長の前記板厚に対する比が1.01以上であり、前記薄板の表面の法線からの長軸の傾きが45度以下である、長形β型窒化ケイ素粒子が含まれ、
前記長形β型窒化ケイ素粒子の端が、前記薄板の少なくとも一方の表面から突出していることを特徴とする窒化ケイ素薄板。
【請求項2】
前記板厚が120μm以下である請求項1記載の窒化ケイ素薄板。
【請求項3】
前記傾きが35度以下である請求項1記載の窒化ケイ素薄板。
【請求項4】
前記長形β型窒化ケイ素粒子の長軸長/短軸長(アスペクト比)が4~40である請求項1記載の窒化ケイ素薄板。
【請求項5】
前記長形β型窒化ケイ素粒子には、長軸長の前記板厚に対する比が1.01~1.34であるものが含まれる請求項1記載の窒化ケイ素薄板。
【請求項6】
前記長形β型窒化ケイ素粒子の端が、前記薄板の両方の表面から突出している請求項5記載の窒化ケイ素薄板。
【請求項7】
前記薄板の表面の粗さを示す算術平均高さSaが0.7μm以上である請求項1記載の窒化ケイ素薄板。
【請求項8】
前記薄板の表面が焼結上がり面である請求項1記載の窒化ケイ素薄板。
【請求項9】
前記薄板の絶縁破壊電圧が45kV/mm以上である請求項1記載の窒化ケイ素薄板。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の薄板と、該薄板の少なくとも一方の表面に密着している樹脂層とを含むことを特徴とする窒化ケイ素樹脂複合板。
【請求項11】
請求項10記載の窒化ケイ素樹脂複合板を用いた回路基板。
【請求項12】
請求項10記載の窒化ケイ素樹脂複合板を用いた放熱板。
【請求項13】
請求項10記載の窒化ケイ素樹脂複合板を用いた絶縁板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素薄板及び該窒化ケイ素薄板と樹脂層との複合板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器や半導体デバイスに用いる絶縁回路基板としてとして注目されているのが窒化ケイ素(Si)材料である。窒化ケイ素焼結体は、アルミナや窒化ケイ素焼結体と比較して強度や破壊靭性が高いことから、絶縁回路基板へ直接厚銅を接合することが可能となり、モジュールの小型化に貢献する。そのため、機械的強度とともに熱伝導性能を改良した窒化ケイ素焼結体の開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1は、Al含有量が0.1重量%以下の窒化ケイ素粉末に、Mg,Ca,Sr,Ba,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybのうちから選ばれる1種または2種以上の元素の焼結助剤を1重量%以上15重量%以下の範囲内で添加して成形した後、1気圧以上500気圧以下の窒素ガス圧下で、1700℃以上2300℃以下の温度で焼成することにより、機械的特性および熱伝導性能を改良した窒化ケイ素質焼結体基板を製造する方法を開示する。
【0004】
特許文献2は、7%以下のβ型窒化ケイ素(β-Si)を含む窒化ケイ素粉末を原料として用いるとともに、スラリーの粘度を13000cps以上に調整した上でシート成形体を形成した後、焼成することにより、β型窒化ケイ素粒子の配向度を制御して、熱伝導率および機械的強度を改良した窒化ケイ素質焼結体基板およびその製造方法を開示する。
【0005】
特許文献3は、従来の窒化ケイ素基板に他部材を圧接する場合、基板表面の微視的な凹凸により基板表面と他部材との間に隙間が生じ、放熱性が悪くなり、圧接時に基板にクラックが発生しやすいという問題に対応するため、窒化ケイ素基板の表面に、ビッカース硬度200以下で厚さ20~100μmの樹脂表面層を形成して、前記隙間を生じにくし、放熱性を高め、前記クラックを発生しにくくした絶縁シートを開示する。
【0006】
特許文献4は、従来のマトリックス樹脂中に無機粒子を混合した電気絶縁性熱伝導シートでは、無機粒子の配合量を増加させるとシートの柔軟性が失われるという問題に対応するため、互いに並置されている複数の板状セラミック部材(窒化ケイ素、その他)と、該板状セラミック部材を包埋している包埋樹脂とを有し、可撓性と、高い電気絶縁性及び熱伝導率を備えた電気絶縁性熱伝導シートを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-30866号公報
【文献】特開2019-52072号公報
【文献】特開2015-092600号公報
【文献】特開2019-176060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2で製造される窒化ケイ素質焼結体基板は、絶縁破壊電圧と熱伝導率についてさらに改善の余地がある。
【0009】
特許文献3は、樹脂が窒化ケイ素基板表面の微視的な凹凸に入り込むことにより放熱性を高めたものであり、窒化ケイ素粒子の微構造によって熱抵抗を低減させるという発想はない。
【0010】
特許文献4は、複数の板状セラミック部材を樹脂に包埋することにより可撓性と熱伝導性を得るものであり、やはり窒化ケイ素粒子の微構造によって熱抵抗を低減させるという発想はない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、絶縁破壊電圧と熱伝導率を高めた窒化ケイ素薄板及び窒化ケイ素樹脂複合板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]焼結されたβ型窒化ケイ素粒子を含有する、板厚が160μm以下である薄板であって、
前記β型窒化ケイ素粒子には、長軸及び短軸を有する六角柱状をなし、長軸方向の長さ(以下「長軸長」という。)の前記板厚に対する比が1.01以上であり、かつ、前記薄板の表面の法線からの長軸の傾きが45度以下である、長形β型窒化ケイ素粒子が含まれ、
前記長形β型窒化ケイ素粒子の端が、前記薄板の少なくとも一方の表面から突出していることを特徴とする窒化ケイ素薄板。
【0013】
[2]前記板厚が120μm以下である前記[1]記載の窒化ケイ素薄板。
【0014】
[3]前記傾きが35度以下である前記[1]又は[2]記載の窒化ケイ素薄板。
【0015】
[4]前記長形β型窒化ケイ素粒子の長軸長/短軸長(アスペクト比)が4~40である前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の窒化ケイ素薄板。
【0016】
[5]前記長形β型窒化ケイ素粒子には、長軸長の前記板厚に対する比が1.01~1.34であるものが含まれる前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の窒化ケイ素薄板。
【0017】
[6]前記長形β型窒化ケイ素粒子の端が、前記薄板の両方の表面から突出している前記[5]記載の窒化ケイ素薄板。
【0018】
[7]前記薄板の表面の粗さを示す算術平均高さ面粗さSaが0.7μm以上である前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の窒化ケイ素薄板。
【0019】
[8]前記薄板の表面が焼結上がり面である前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の窒化ケイ素薄板。
【0020】
[9]前記薄板の絶縁破壊電圧が45kV/mm以上である前記[1]~[8]のいずれか一項に請求項1記載の窒化ケイ素薄板。
【0021】
[10]前記[1]~[9]のいずれか一項に記載の薄板と、該薄板の少なくとも一方の表面に密着している樹脂層とを含むことを特徴とする窒化ケイ素樹脂複合板。
【0022】
[11]前記[10]記載の窒化ケイ素樹脂複合板を用いた回路基板。
【0023】
[12]前記[10]記載の窒化ケイ素樹脂複合板を用いた放熱板。
【0024】
[13]前記[10]記載の窒化ケイ素樹脂複合板を用いた絶縁板。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、絶縁破壊電圧と熱伝導率を高めた窒化ケイ素薄板及び窒化ケイ素樹脂複合板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は実施例1の垂直切断断面の二次電子像である。
図2図2は実施例2の垂直切断断面の二次電子像である。
図3図3は実施例5の垂直切断断面の二次電子像である。
図4図4は比較例1の垂直切断断面の二次電子像である。
図5図5は窒化ケイ素樹脂複合板の側面図である。
図6図6は窒化ケイ素薄板を焼成する際の積層を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<1>窒化ケイ素薄板
焼結されたβ型窒化ケイ素粒子を含有する板厚が160μm以下である薄板であって、
前記β型窒化ケイ素粒子には、長軸及び短軸を有する六角柱状をなし、長軸長の前記板厚に対する比が0.7以上であり、かつ、前記薄板の表面の法線からの長軸の傾きが45度以下である、長形β型窒化ケイ素粒子が含まれることを特徴とする。
【0028】
窒化ケイ素薄板の板厚が160μm以下であることにより、薄板に長形β型窒化ケイ素粒子が含まれやすい。板厚が例えば160μmのとき、長形β型窒化ケイ素粒子は長軸長が112μmで前記比が0.7となる。
【0029】
窒化ケイ素薄板の板厚が120μm以下(さらに好ましくは120μm未満)であると、薄板に長形β型窒化ケイ素粒子がより含まれやすいため好ましい。板厚が例えば120μmのとき、長形β型窒化ケイ素粒子は長軸長が84μmで前記比が0.7となる。
【0030】
長形β型窒化ケイ素粒子の長軸長/短軸長(アスペクト比)は、特に限定されないが、4~40を例示できる。
【0031】
長形β型窒化ケイ素粒子は、長軸及び短軸を有する六角柱状をなし、長軸長の前記板厚に対する比が0.7以上であり、かつ、前記薄板の表面の法線からの長軸の傾きが45度以下(好ましくは35度以下)であることにより、薄板の一方の表面付近と他方の表面付近とを短く結ぶように配向しており、次の(ア)(イ)のようにして熱伝導率と絶縁破壊電圧を改善する。
【0032】
(ア)前記配向の長形β型窒化ケイ素粒子が、熱を両表面付近間で効率良く伝えるため、薄板の板厚方向の熱伝導率が高くなり、絶縁基板として用いたときの放熱性が向上する。
(イ)一般に窒化ケイ素粒子と粒界相が接する界面は、結晶の不規則性が乱れ、イオンの拡散が早くなると考えられるため、電界の印加方向に対して絶縁破壊が生じやすい。これに対し本発明では、前記配向の長形β型窒化ケイ素粒子が、板厚方向でみた窒化ケイ素粒子と粒界相の界面の数を少なくすることで、絶縁破壊電圧を改善する。
【0033】
長形β型窒化ケイ素粒子の端が、薄板の少なくとも一方の表面から露出又は突出していることが好ましい。該表面に形成する放熱グリスや樹脂層との密着性が高まり、熱伝導率がさらに高くなるからである。
【0034】
長形β型窒化ケイ素粒子には、長軸長の前記板厚に対する比が1以上であるものが含まれることが好ましい。前述した熱伝導率と絶縁破壊電圧を改善する作用が高くなるからである。
【0035】
長形β型窒化ケイ素粒子の端が、前記薄板の両方の表面から露出又は突出していることが好ましい。該両方の表面に形成する放熱グリスや樹脂層との密着性が高まり、熱伝導率がさらに高くなるからである。
【0036】
薄板の表面の粗さを示す算術平均高さSaが0.7μm以上であることが好ましい。このことは、上記のように長形窒化ケイ素粒子の端が薄板の表面に露出又は突出していることを示しているからである。
【0037】
薄板の表面が焼結上がり面であることが好ましい。上記のように薄板の表面に露出又は突出している長形窒化ケイ素粒子の端を(研磨やホーニング等の加工で除去することなく)残した方が好ましいからである。
【0038】
薄板の絶縁破壊電圧が45kV/mm以上であることが好ましい。
【0039】
<2>窒化ケイ素樹脂複合板
上記<1>の薄板と、該薄板の少なくとも一方の表面に接触している樹脂層とを含むことを特徴とする。
【0040】
薄板に含まれる長形β型窒化ケイ素粒子の端は、薄板の表面の近傍にある確率が高く樹脂層に近接するため、熱伝導率が高くなる。特に、長形β型窒化ケイ素粒子の端が、薄板の少なくとも一方の表面から露出又は突出している場合には、該表面に形成する放熱グリスや樹脂層との密着性が高まり、熱伝導率がさらに高くなる。
【0041】
樹脂層としては、次のものを例示できる。
(カ)液体状又はゲル状の樹脂が薄板の表面に接触して固化してなる樹脂層
液体状又はゲル状の樹脂は、薄板の表面及び露出又は突出している長形窒化ケイ素粒子の端に隙間なく密着するため好ましい。この樹脂としては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、反応硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を例示でき、具体的にはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を例示できる。
(キ)薄板の表面に接触する前から固体状である樹脂層
この樹脂層としては、特に限定されないが、柔軟な熱伝導性樹脂シートを例示できる。この樹脂としては、特に限定されないが、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等を例示できる。
【0042】
樹脂層は、樹脂に金属粉末やセラミックス粉末等の高熱伝導性のフィラーが添加されて、熱伝導率が高められたものが好ましい。金属粉末としては、Cu粉末、Al粉末等を例示できる。セラミックス粉末としては、窒化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末、アルミナ粉末、シリカ粉末等を例示できる。
【0043】
樹脂層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは5~200μmであり、さらに好ましくは5~100μmμmである。
【0044】
薄板単体の板厚方向の熱伝導率をフラッシュ法で測定することができない(薄板の板厚が同法の測定下限値を下回っている)ため、本願では後述するように窒化ケイ素樹脂複合板の板厚方向の熱伝導率を実施例と比較例とで比較評価した。
【0045】
<3>用途
本発明の窒化ケイ素薄板及び窒化ケイ素樹脂複合板の用途としては、特に限定されないが、例えば半導体モジュール、LEDパッケージ、ペルチェモジュール、プリンタ、複合機、半導体レーザー、光通信、高周波などで使用される、回路基板、放熱板、絶縁板、高周波窓等を例示できる。
【0046】
<4>窒化ケイ素薄板の製造方法
上記<1>の窒化ケイ素薄板を製造する方法について説明する。窒化ケイ素薄板の製造方法は、窒化ケイ素粉末を出発原料として用いるのではなく、シリコン粉末を出発原料とし、成形したシリコン粉末を窒素雰囲気中で加熱し、窒化と緻密化とを同時に行う反応焼結法による。一般的に、反応焼結法は、原料純度が高いため、焼結体の熱伝導率が向上するが、緻密化させるための原料調整や焼成条件が難しいと言われている。また、一般的な反応焼結法では、シリコン粉末から棒状のβ型窒化ケイ素粒子へ転換するため、その配向を板厚方向に制御することは困難であり、配向がランダムとなり易いことが分かっている。
【0047】
窒化ケイ素薄板の製造方法は、主に、シリコンが完全に窒化ケイ素に窒化した際の窒化ケイ素換算で85~95モル%、希土類酸化物1~3モル%および窒化ケイ素マグネシウム4~12モル%のモル比率で、シリコン原料粉末、希土類酸化物粉末および窒化ケイ素マグネシウム粉末を混合して混合粉末を作製する混合工程と、混合粉末をスラリー化し、シート状に成形して成形体を作製する成形工程と、成形体を窒素雰囲気中で第1の温度から第2の温度まで加熱する窒化工程と、窒素雰囲気中、第3の温度および所定の時間で成形体を焼成して窒化ケイ素薄板を得る緻密化工程と、を含むことを特徴とする。以下、各工程について、より具体的に説明する。
【0048】
出発原料としてシリコン粉末を準備する。シリコン粉末と有機溶剤と分散剤とをボールミルで粉砕し、シリコン粉末の比表面積が5.0m/g以上、D99.9径が8~9.5μmとなるように粒度調整を行う。ここで、横軸を粒子径(μm)、縦軸を頻度(%)とした粒子径分布曲線において、D50径(メディアン径)は、頻度が50%の粒子径であり、D99.9径は、頻度が99.9%の(分布の最頻値に対応する)粒子径である。シリコン粉末の比表面積が5.0m/g以上となるように粒度調整を行う理由は、シリコン粉末の比表面積が5.0m/g以上とならないとシリコン粉末が均一に窒化せず、焼成後の基板にうねりが生じてしまうためである。また、D99.9径が8~9.5μmとなるように粒度調整を行う理由は、D99.9径が9.5μmよりも大きいと、粗大なシリコン粉末の中心部まで十分に窒化が進まずに未窒化の部分が発生してしまうため、また、D99.9径が8μmよりも小さいと粉砕が進みすぎたことでシリコン粒子の酸素量が増加し、焼成後の基板の熱伝導率が低下してしまうためである。
【0049】
また、焼結助剤として、希土類酸化物粉末および窒化ケイ素マグネシウム粉末を混合して混合粉末を作製する。窒化ケイ素マグネシウム粉末の比表面積は、9.0m/g以上であることが好ましい。
【0050】
次に、モル比として、窒化ケイ素換算で85~95モル%のシリコン、1~3モル%の希土類酸化物および4~12モル%の窒化ケイ素マグネシウムが混合される。この混合粉末に対し、ボールミルで十分に混合を行い、その後、バインダー、可塑剤および有機溶剤を添加し、スラリーとする。
【0051】
次に、スラリーを真空脱泡し、粘度調整を行う。脱泡後のスラリーに含まれる有機溶剤の割合を35wt%以下とし、スラリーの粘度は15000~25000cpsとする。そして、ドクターブレード等によって厚み160μm以下(好ましくは100μm以下)のシート状の成形体を作製する。
【0052】
成形体は、無機充填率が47%以上となるように作製される。成形体の無機充填率を47%以上とするには、シリコン粉末の比表面積が9.0m/g以下(つまり、5.0~9.0m/gの範囲内)となるように粉砕粒度を調整し、かつ、脱泡後の有機溶剤の割合を35wt%以下とすることが好ましい。シリコン粉末の比表面積が9.0m/gよりも大きくなると、微粒のシリコン粉末の割合が多くなり、凝集を生じやすくなるため、充填性が悪くなる。また、脱泡後のスラリーに含まれる有機溶剤の割合が35wt%を超えると、シート成形時に揮発する有機溶剤分が多くなるため、乾燥収縮が大きくなり、成形体内に細かい気泡が生じやすくなる。なお、無機充填率の測定方法は以下のとおりである。測定に用いるシート成形体は、残留する有機溶剤が0.1wt%以下のものを使用する。シート成形体の体積および重量を測定し、成形体のグリーン密度ρ(g/cm)を測定する。その後、測定に用いたシート成形体を500℃/3hの大気中で脱バインダー処理を行う。脱バインダー処理後の重量を測定することで有機分率Pi(%)を求め、下記の式によって無機充填率Fi(%)の計算を行う。
Fi=ρ×(1-Pi/100)/ρth×100
ここで、ρthはミル配合時の理論密度であり、原料無機分の重量比から計算した値である。
【0053】
次いで、作製したシート状の成形体を約500~800℃の乾燥空気雰囲気で脱バインダーを行う。その後、炉内で約1000℃(第1の温度)まで真空中で加熱した後、窒素加圧雰囲気とし、約1000℃から約1350℃(第2の温度)まで昇温させる。この際、窒素加圧雰囲気中で、第1の温度から第2の温度まで徐々に(例えば1℃/分)昇温させることで、成形体の窒化を行うことができる。そして、炉内をより高圧の窒素加圧雰囲気とし、第2の温度から第3の温度として約1750~2000℃(好適には1900℃)まで昇温させる。昇温後、第3の温度で長時間(例えば約8時間)の温度保持を行うことで、窒化された成形体を焼成し、成形体の緻密化を十分に行って、窒化ケイ素薄板を作製することができる。
【0054】
上記説明した工程を経ることによって、β型窒化ケイ素粒子が基板の厚み方向に優先的に配向した窒化ケイ素薄板を製造することが可能である。すなわち、製造方法において、窒化ケイ素マグネシウムの使用と、酸化イットリウムの添加量を極力少なくすること(すなわち、希土類酸化物を1~3モル%とする)で成形体内の酸素量を抑えることで、窒化工程および緻密化工程における還元性が高まっていると考察され得る。このように還元性が高まると、シリコン粉末表面のシリコン酸化膜が還元され、SiO(g)が板厚方向へ揮散する。さらに、SiO(g)+CO(g)→Si(g)+CO(g)の還元反応が促進し、発生したSi(g)は緻密化前の多孔質体内で3Si(g)+2N2(g)→β-Siの反応過程を得て、気孔内でβ-Siが板厚方向へ析出すると考えられる。更に、熱処理温度が増加すると、気孔内で板厚方向に析出したβ-Siを核として板厚方向にβ型窒化ケイ素粒子が優先配向した窒化ケイ素基板が得られる。そして、板厚方向へβ型窒化ケイ素粒子が伸長することで、熱伝導率が高くなり、絶縁基板としての放熱性が向上することが考えられる。
【0055】
なお、上記説明した工程は、一例にすぎず、本発明を限定するものではない。例えば、スラリーの成形方法はドクターブレード法に限定されず、スラリーは押出成形法、鋳込成形法等などでシート成形体に加圧成形されてもよい。
【実施例
【0056】
次に、本発明を具体化した実施例について比較例と比較して説明する。なお、実施例の各部の材料、数量及び条件は例示であり、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1に示す実施例1~4及び比較例1,2の窒化ケイ素薄板(板厚約0.085mm)、表2に示す実施例5及び比較例3の窒化ケイ素薄板(板厚約0.115mm)を、以下の条件および手順によって作製した。表1,2中のシリコン配合比は前記のとおり窒化ケイ素換算である。
【0060】
[1]原料・混合
所定の粉末特性を有するシリコン粉末、および、焼結助剤粉末を準備した。適量のシリコン粉末を樹脂製のポットへ投入し、シリコン粉末と有機溶剤と分散剤を、窒化ケイ素製の粉砕メディアを使用し、シリコン粉末の比表面積およびD99.9径の値が所定値になるまでボールミルで粒度調整を行った。ここで、各試料における配合組成比、ならびに、シリコン粉末のD99.9径、D50径および比表面積の値は、表1及び表2のとおりである。シリコン粉末の粒度調整ができたら、所定量の焼結助剤を添加し、ボールミルで1時間の混合を行った。
【0061】
[2]シート成形
その後、バインダー(ポリビニルブチラール)と可塑剤(アジピン酸ジオクチル)と有機溶剤(トルエンとエタノールの混合溶媒)とを添加してスラリーとした。得られたスラリーを真空脱泡して粘度調整を行った。真空脱泡後のスラリーに含まれる有機溶剤の割合を35wt%以下とし、スラリーの粘度は15000~25000cpsとした。スラリーの粘度は、東機産業株式会社製のTVC-7形粘度計によって測定された。具体的には、スピンドルをスラリー中で回転させ、その抵抗力から粘度が算出された。そして、成形速度を220mm/min以上としたドクターブレードによって、乾燥後の厚さが0.1mm、0.14mm、0.3mmの三種であるシート状の成形体を作製した。得られた各厚さのシートを140mm×140mmの大きさに切断して複数枚準備した。厚さ0.1mmと0.14mmのシートは試料を作成するためのものであり、厚さ0.3mmのシートは次の積層用である。
【0062】
[2]シート積層
図6に示すように、先ず、厚さ0.3mmのシート両面に離型剤としてのBNをスプレーし、その上に厚さ0.1mmのシートを重ねて配置をした。さらにその上へ、両面にBNのスプレーを行った厚さ0.3mmのシートを重ねて配置をし、その上に0.1mmのシートを重ねて配置をする、というように、厚さが0.3mmと0.1mmのシートを交互に積層し、積層体の最上段に0.3mmのシートを配置することで、1ブロック21枚の積層体を準備した。
また、0.1mmのシートの代わりに0.14mmのシートを使用し、同様に厚さが0.3mmと0.14mmのシートを交互に積層し、積層体の最上段に0.3mmのシートを配置することで、1ブロック21枚の積層体も準備した。
【0063】
[3]加熱・焼成・分離・カット
積層体を乾燥空気中500℃で脱バインダーを行い、その後、炉に投入し、真空中で約1000℃まで加熱し、0.2MPaの窒素加圧雰囲気中で1350℃まで1℃/minで昇温させた。そして、0.9MPaの窒素加圧雰囲気とし、1350℃から1900℃まで昇温させ、1900℃で8時間かけて焼成を行った。焼成後の積層体を分離し、(前記厚さ0.1mmのシートに基づく)板厚約0.085mmの窒化ケイ素薄板と、(前記厚さ0.14mmのシートに基づく)板厚約0.115mmの窒化ケイ素薄板を得た。各窒化ケイ素薄板の外周をレーザーでカットし、110mm×110mmの試料とした。試料表面は焼結上がり面である。
【0064】
作製した実施例1~5および比較例1~3の各試料について、次の観察及び測定を行った。
【0065】
(i)垂直切断断面の観察及び測定
各試料を10mm×10mmにカットした薄板個片を使用し、薄板個片をエポキシ樹脂へ埋め込み、薄板の垂直断面の観察を行った。観察面は下記手順により作製した。#800のダイヤモンド研磨紙で平面出しを行い、各前工程で生じた研磨傷がなくなるまで、15μm、6μm、1μmの順にダイヤモンドスラリーで研磨を行い、50nmのアルミナスラリーで仕上げ研磨を行うことで鏡面を得た。鏡面加工後はCFのプラズマエッチングと金スパッタ膜の形成を行い、観察面とした。そして、日本電子株式会社製の走査電子顕微鏡JSM-IT700HRを用いて、800倍の倍率で無作為に選んだ視野の二次電子像を観察した。
図1は実施例1の二次電子像、図2は実施例2の二次電子像、図3は実施例5の二次電子像、図4は比較例1の二次電子像を、例示的に示す。図1図3には、二次電子像から測定した試料の板厚tと最大のβ型窒化ケイ素粒子の長軸長Lを記入した。この測定結果及びL/tの算出結果を表1及び表2に示す。
【0066】
(ii)算術平均高さSa
各試料の薄板表面(焼結上がり面)について、500μm×500μmの領域の表面粗さである算術平均高さSaを、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VKX-150を用いて測定した。測定条件は以下のとおりであり、測定結果を表1及び表2に示す。
対物レンズ倍率:×20
画像補正:面傾き自動補正
フィルター種別:ガウシアン
S-フィルター:2μm
F-オペレーション:なし
L-フィルター:0.2mm
終端効果の補正:あり
【0067】
(iii)絶縁破壊電圧
各試料を20mm×20mmにカットした薄板個片を使用し、薄板個片の両面(焼結上がり面)に測定電極としてφ10.4mmの導電性銅箔粘着テープを貼り付け、株式会社フジクラ・ダイヤケーブル社製の部分放電測定器:型式「A006」を使用して、フッ素系不活性液体(スリーエムジャパン株式会社製、フロリナート FC-43)中で交流電圧(正弦波)を印加した。上下面の電極形状はφ11mm、交流電圧の昇圧速度は500V/sとして、3つのサンプルの測定における平均の絶縁破壊電圧を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0068】
(iv)窒化ケイ素樹脂複合板の作製と熱伝導率
各試料の片面に樹脂層としてカプトン粘着テープ(株式会社寺岡製作所、品番:650S#12)を貼り付け、図5に示すような窒化ケイ素薄板樹脂複合板を作製した。
そして、窒化ケイ素樹脂複合板のカプトンテープ接着面を上面(検出器側)になるように設置し、板厚方向の熱伝導率をフラッシュ法により測定した。測定には、NETZSCH Geratebau GmbH製の熱伝導率測定装置LFA467を使用した。各複合試料を10mm×10mmにカットした個片を使用し、フラッシュ光の透過を抑える目的で個片両面(焼結上がり面と樹脂面)に金のスパッタ膜を形成し、パルス光を均一に吸収させる目的で個片両面にグラフェンスプレーを使用し、黒化処理を行った。熱伝導率の算出時には、得られた窒化ケイ素基板の比熱として0.68J/(g・K)、カプトンの比熱として1.1J/(g・K)の値を用い、また、窒化ケイ素基板の比重として3.22g/cm、カプトンの比重として1.42g/cmの値を用い、窒化ケイ素基板とカプトンテープの体積比をもとに各複合試料の合成密度と比熱を算出し、下記式の関係から熱伝導率λを算出した。
λ=C×ρ×α
ここで、Cは複合試料の比熱、ρは複合試料の密度、αは複合試料の熱拡散率を表す。
測定結果を表1及び表2に示す。
【0069】
[評価]
実施例1~5の窒化ケイ素薄板は、無数に存在するβ型窒化ケイ素粒子のなかに、長軸及び短軸を有する六角柱状をなし、L/t比が0.7以上であり、かつ、薄板の表面の法線からの長軸の傾きが45度以下である、長形β型窒化ケイ素粒子が含まれていた。
また、実施例1~5の窒化ケイ素薄板は、長形β型窒化ケイ素粒子のなかに、薄板の少なくとも一方の表面から露出又は突出しているものが含まれていた。
さらに、実施例1の窒化ケイ素薄板は、長形β型窒化ケイ素粒子のなかに、L/t比が1以上であるものが含まれており、該長形β型窒化ケイ素粒子の端は薄板の両表面から突出していた。
これに対し、比較例1~3の窒化ケイ素薄板は、無数に存在するβ型窒化ケイ素粒子のなかに、長軸及び短軸を有する六角柱状をなすβ型窒化ケイ素粒子は含まれていたが、上記の長形β型窒化ケイ素粒子は含まれていなかった。
【0070】
そして、実施例1~4の窒化ケイ素薄板は比較例1,2の窒化ケイ素薄板よりも絶縁破壊電圧が高く、実施例5の窒化ケイ素薄板は比較例3の窒化ケイ素薄板よりも絶縁破壊電圧が高かった。
また、実施例1~4の窒化ケイ素樹脂複合板は比較例1の窒化ケイ素樹脂複合板よりも熱伝導率が高く、実施例5の窒化ケイ素樹脂複合板は比較例3の窒化ケイ素樹脂複合板よりも熱伝導率が高かった。特にL/t比が0.9以上の粒子を含む実施例1~4は、比較例1に対する熱伝導率の向上率が高かった。
【0071】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【要約】
【課題】絶縁破壊電圧と熱伝導率を高めた窒化ケイ素薄板及び窒化ケイ素樹脂複合板を提供する。
【解決手段】焼結されたβ型窒化ケイ素粒子を含有する板厚が160μm以下である薄板であって、前記β型窒化ケイ素粒子には、長軸及び短軸を有する六角柱状をなし、長軸長の前記板厚に対する比が0.7以上であり、前記薄板の表面の法線からの長軸の傾きが45度以下である、長形β型窒化ケイ素粒子が含まれる。
窒化ケイ素樹脂複合板は、この薄板とその少なくとも一方の表面に密着している樹脂層とを含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6