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  • 特許-複合基板および複合基板の製造方法 図1
  • 特許-複合基板および複合基板の製造方法 図2A
  • 特許-複合基板および複合基板の製造方法 図2B
  • 特許-複合基板および複合基板の製造方法 図2C
  • 特許-複合基板および複合基板の製造方法 図3
  • 特許-複合基板および複合基板の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】複合基板および複合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240315BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20240315BHJP
   H01L 21/02 20060101ALN20240315BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
H01L21/02 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022527936
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2022000889
(87)【国際公開番号】W WO2022259591
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2021096834
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100143650
【弁理士】
【氏名又は名称】山元 美佐
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕二
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-069731(JP,A)
【文献】国際公開第2019/220721(WO,A1)
【文献】特開2004-343359(JP,A)
【文献】特開2018-207371(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158636(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/220724(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と中間層と圧電層とをこの順に有し、
前記中間層は気泡径が10nm~100nmの気泡を含み、
前記気泡径は、前記気泡の長径を意味し、
前記中間層は前記気泡が存在しない第三領域を有し、前記第三領域は前記圧電層側の界面から200nm以下の範囲の全てに形成される、
複合基板。
【請求項2】
前記中間層は酸化ケイ素を含む、請求項1に記載の複合基板。
【請求項3】
前記中間層の厚みが500nm以上1000nm以下である、請求項1または2に記載の複合基板。
【請求項4】
前記中間層は前記気泡が存在しない第一領域を有し、前記第一領域は前記支持基板側の界面から200nm以下の範囲の全てに形成される、請求項1から3のいずれかに記載の複合基板。
【請求項5】
前記圧電層の厚みが5μm以下である、請求項1から4のいずれかに記載の複合基板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の複合基板の製造方法であって、
支持基板の片側に第一の層を形成すること、
圧電基板の片側に第二の層を形成すること、
前記第一の層と前記第二の層とを接合して接合層を得ること、および、
前記接合層に気泡を形成して中間層を得ること、
を含む、複合基板の製造方法。
【請求項7】
前記接合層を得る時に、前記第一の層の接合面および前記第二の層の接合面は活性化処理が施されている、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記活性化処理により前記接合面は親水化される、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
プラズマ照射により前記活性化処理を行う、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記接合層を加熱することにより前記気泡形成する、請求項6から9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記加熱は、0.7℃/分以下の昇温レートで100℃~150℃に達するまで加熱することを含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記加熱は、180℃以上で加熱することを含む、請求項10または11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板および複合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の通信機器には、任意の周波数の電気信号を取り出すため、例えば、弾性表面波を利用したフィルタ(SAWフィルタ)が用いられている。このSAWフィルタには、圧電層と支持基板とを有する複合基板が用いられている。このような複合基板においては、例えば、圧電層と支持基板との間で生じる弾性波の反射により、高周波数領域にスプリアスが発生するという問題が知られている。
【0003】
上記スプリアスの問題に対し、例えば、特許文献1に開示されるように、複合基板を構成する圧電基板と支持基板の少なくとも一方に凹凸構造を形成することが提案されているが、さらなる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018―14606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主たる目的は、スプリアスの発生を抑制し得る複合基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態による複合基板は、支持基板と中間層と圧電層とをこの順に有し、前記中間層は気泡を含む。
1つの実施形態においては、上記中間層は酸化ケイ素を含む。
1つの実施形態においては、上記中間層の厚みが500nm以上1000nm以下である。
1つの実施形態においては、上記中間層は上記気泡が存在しない第一領域を有し、前記第一領域は上記支持基板側の界面から200nm以下の範囲に形成される。
1つの実施形態においては、上記中間層は上記気泡が存在しない第三領域を有し、前記第三領域は上記圧電層側の界面から200nm以下の範囲に形成される。
1つの実施形態においては、上記気泡の気泡径が10nm~100nmである。
1つの実施形態においては、上記圧電層の厚みが5μm以下である。
本願発明の別の実施形態による弾性表面波素子は、上記複合基板を有する。
【0007】
本発明のさらに別の実施形態による複合基板の製造方法は、支持基板の片側に第一の層を形成すること、圧電基板の片側に第二の層を形成すること、前記第一の層と前記第二の層とを接合して接合層を得ること、および、前記接合層に気泡を形成して中間層を得ること、を含む。
1つの実施形態においては、上記接合時に、上記第一の層の接合面および上記第二の層の接合面は活性化処理が施されている。
1つの実施形態においては、上記活性化処理により上記接合面は親水化される。
1つの実施形態においては、プラズマ照射により上記活性化処理を行う。
1つの実施形態においては、上記接合層を加熱することにより上記気泡形成を行う。
1つの実施形態においては、上記加熱は、0.7℃/分以下の昇温レートで100℃~150℃に達するまで加熱することを含む。
1つの実施形態においては、上記加熱は、180℃以上で加熱することを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、圧電層と支持基板との間に気泡を含む中間層を設けることにより、スプリアスの発生が抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の1つの実施形態に係る複合基板の概略の構成を示す模式的な断面図である。
図2A】1つの実施形態に係る複合基板の製造工程例を示す図である。
図2B図2Aに続く図である。
図2C図2Bに続く図である。
図3】比較例1の反射特性S11を示すグラフである。
図4】実施例1の光学顕微鏡による観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。また、図面は説明をより明確にするため、実施の形態に比べ、各部の幅、厚み、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0011】
A.複合基板
図1は、本発明の1つの実施形態に係る複合基板の概略の構成を示す模式的な断面図である。複合基板100は、支持基板10と中間層20と圧電層30とをこの順に有する。具体的には、互いに対向する第一主面10aおよび第二主面10bを有する支持基板10の第一主面10a側に圧電層30が配置され、支持基板10と圧電層30との間に中間層20が配置されている。
【0012】
中間層20には気泡5が形成されている。このような中間層を設けることにより、スプリアスの発生が抑制され得る。図示例では、中間層20において、支持基板10側から(図1の下側から)、気泡が実質的に存在しない第一領域21と、気泡が存在する第二領域22と、気泡が実質的に存在しない第三領域23とがこの順で形成されている。なお、図1では、図を見やすくするために中間層の断面は、ハッチングを省略している。
【0013】
上記気泡は、中間層の全体に存在していてもよいし、偏在していてもよい。図1に示す例では、中間層20において気泡5は偏在し、中間層20の内部に面方向に沿って形成されている。具体的には、中間層20の圧電層30側の端部には、無気泡領域23が形成されている。無気泡領域23は、例えば、圧電層30側の界面20aから0nm以上200nm以下の範囲に形成されてもよく、圧電層30側の界面20aから20nm以上100nm以下の範囲に形成されてもよい。また、中間層20の支持基板10側の端部には、無気泡領域21が形成されている。無気泡領域21は、例えば、支持基板10側の界面20bから0nm以上200nmの範囲に形成されてもよく、支持基板10側の界面20bから20nm以上100nm以下の範囲に形成されてもよい。
【0014】
上記気泡は、水分を含み得る。気泡径は、例えば10nm~100nmであり、20nm~60nmであってもよい。ここで、気泡径は、気泡の長径を意味する。気泡径は、例えば、レーザー顕微鏡による観察により確認することができる。
【0015】
中間層における気泡の占める割合は、例えば3%~20%であり、好ましくは7%~15%である。中間層における気泡の占める割合は、例えば、中間層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、得られた画像について画像解析処理を行うことにより求めることができる。
【0016】
図示しないが、複合基板100は、任意の層をさらに有していてもよい。このような層の種類・機能、数、組み合わせ、配置等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0017】
複合基板100は、任意の適切な形状で製造され得る。1つの実施形態においては、いわゆる、ウェハの形態で製造され得る。複合基板100のサイズは、目的に応じて適切に設定され得る。ウェハの直径は、例えば100mm~200mmである。
【0018】
A-1.支持基板
支持基板としては、任意の適切な基板が用いられ得る。支持基板は、単結晶体で構成されてもよく、多結晶体で構成されてもよく、これらの組み合わせにより構成されていてもよい。支持基板を構成する材料としては、好ましくは、シリコン、サファイア、ガラス、石英、水晶およびアルミナからなる群から選択される。
【0019】
上記シリコンは、単結晶シリコンであって、その表面に多結晶層が形成されていてもよく、高抵抗シリコンであってもよい。
【0020】
代表的には、上記サファイアはAlの組成を有する単結晶体であり、上記アルミナはAlの組成を有する多結晶体である。アルミナは、好ましくは透光性アルミナである。
【0021】
支持基板を構成する材料の熱膨張係数は、後述の圧電層を構成する材料の熱膨張係数よりも小さいことが好ましい。このような支持基板によれば、温度が変化したときの圧電層の形状・サイズの変化を抑制し、例えば、得られる弾性表面波素子の周波数特性の変化を抑制し得る。
【0022】
支持基板の厚みとしては、任意の適切な厚みが採用され得る。支持基板の厚みは、例えば100μm~1000μmである。
【0023】
支持基板の第一主面の算術平均粗さRaは、例えば0.1nm以上1nm以下であり、0.5nm以下であってもよく、0.3nm以下であってもよい。このような支持基板によれば、例えば、高性能な(例えば、高いQ値を有する)弾性表面波素子を得ることができる。なお、算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)によって10μm×10μmの視野で測定した値である。
【0024】
A-2.中間層
上記中間層を構成する材料としては、例えば、気泡を形成可能な任意の適切な材料が用いられ得る。中間層を構成する材料としては、好ましくは、酸化ケイ素(SiO)が用いられる。酸化ケイ素から構成される層は水分子を含有し得ることから、例えば、後述の気泡形成を良好に行い得る。SiOにおけるxは、1.95≦x≦2.05の関係を満足することが好ましい。中間層に含まれる酸化ケイ素の含有割合は、例えば97重量%以上である。中間層は、F、Ar等の微量の他の成分(不純物)を含んでいてもよい。
【0025】
中間層の厚みは、好ましくは200nm以上であり、より好ましくは300nm以上であり、さらに好ましくは500nm以上である。このような厚みによれば、例えば、気泡が良好に形成され得る。一方、中間層の厚みは、好ましくは2000nm以下であり、より好ましくは1500nm以下であり、さらに好ましくは1000nm以下である。
【0026】
上記中間層は、任意の適切な方法により成膜され得る。例えば、スパッタリング、イオンビームアシスト蒸着(IAD)等の物理蒸着、化学蒸着、原子層堆積(ALD)法により成膜され得る。
【0027】
A-3.圧電層
上記圧電層を構成する材料としては、任意の適切な圧電性材料が用いられ得る。圧電性材料としては、好ましくは、LiAOの組成を有する単結晶が用いられる。ここで、Aは、ニオブおよびタンタルからなる群から選択される一種以上の元素である。具体的には、LiAOは、ニオブ酸リチウム(LiNbO)であってもよく、タンタル酸リチウム(LiTaO)であってもよく、ニオブ酸リチウム-タンタル酸リチウム固溶体であってもよい。
【0028】
圧電性材料がタンタル酸リチウムである場合、圧電層は、例えば、圧電性材料のX軸(結晶軸)を弾性表面波の伝搬方向(X)としたときの、そのY軸からZ軸に向けて32°~55°(例えば42°)回転した方向が、圧電層主面に垂直な方向(X)に対応すること、具体的にはオイラー角表示で(180°,58°~35°,180°)であることが好ましい。
【0029】
圧電性材料がニオブ酸リチウムである場合、圧電層は、例えば、圧電性材料のX軸(結晶軸)を弾性表面波の伝搬方向(X)としたときの、そのZ軸から-Y軸に向けて0°~40°(例えば37.8°)回転した方向が、圧電層主面に垂直な方向(X)に対応すること、具体的にはオイラー角表示で(0°,0°~40°,0°)であることが好ましい。圧電性材料がニオブ酸リチウムである場合、圧電層は、また例えば、圧電性材料のX軸(結晶軸)を弾性表面波の伝搬方向(X)としたときの、そのY軸からZ軸に向けて40°~65°回転した方向が、圧電層主面に垂直な方向(X)に対応すること、具体的にはオイラー角表示で(180°,50°~25°,180°)であることが好ましい。
【0030】
圧電層の厚みは、例えば10μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。このような厚みによれば、例えば、高性能な(例えば、良好な温度特性や高いQ値を有する)弾性表面波素子を得ることができる。上記気泡を中間層に形成することで、例えば、気泡を圧電層に形成する形態に比べて、圧電層を薄く設計し得る。一方、圧電層の厚みは、例えば0.2μm以上である。
【0031】
圧電層の支持基板(中間層)が配置される側の表面の算術平均粗さRaは、例えば0.1nm以上1nm以下であり、0.5nm以下であってもよく、0.3nm以下であってもよい。このような圧電層によれば、例えば、高性能な(例えば、良好な温度特性や高いQ値を有する)弾性表面波素子を得ることができる。
【0032】
A-4.製造方法
本発明の1つの実施形態に係る複合基板の製造方法は、支持基板の片側に第一の層を形成すること、圧電基板の片側に第二の層を形成すること、第一の層と第二の層とを接合して接合層を得ること、および、接合層に気泡を形成して中間層を得ること、を含む。
【0033】
図2A図2Cは、1つの実施形態に係る複合基板の製造工程例を示す図である。
【0034】
図2Aは、支持基板10の片側に第一の層1が成膜され、圧電基板32の片側に第二の層2が成膜された状態を示している。第一の層1および第二の層2の成膜は、上述の中間層の成膜方法により行うことができる。1つの実施形態においては、第一の層1を構成する材料と第二の層2を構成する材料とは実質的に同じである。例えば、同じターゲット(例えば、Siターゲット)を用い、同じ条件にてスパッタリングすることにより、第一の層1および第二の層2を成膜する。なお、後述の接合を行い得る限り、第一の層1を構成する材料および第二の層2を構成する材料として、それぞれ、任意の適切な材料が選択され得る。
【0035】
第一の層1および第二の層2の厚みは、それぞれ、例えば100nm以上1000nm以下であり、好ましくは250nm以上500nm以下である。第一の層1の厚みと第二の層2の厚みは、例えば、所望の気泡の形成位置に応じて設定され得る。第一の層1の厚みに対する第二の層2の厚みの比は、例えば0.1~2.0であり、好ましくは0.3~1.7である。
【0036】
図2Bは、支持基板10に成膜された第一の層1の表面1aと圧電基板32に成膜された第二の層2の表面2aとを重ね合わせ、支持基板10と圧電基板32とが予備接合された状態を示している。予備接合により、第一の層1と第二の層2とが接合された接合層3(接合体90)を得る。予備接合に際し、接合面1a,2aは任意の適切な活性化処理により活性化されていることが好ましい。活性化処理を行うことにより、接合面1aと接合面2aとの密着性が向上し得る。
【0037】
上記活性化処理により、接合面1a,2aは親水化されることが好ましい。例えば、接合面1a,2aがヒドロキシ基を有することが好ましい。1つの実施形態においては、接合面1a,2aは、シラノール基を有する。このような状態によれば、接合面1aと接合面2aとを接触させることにより、両面の間で水素結合が形成され得る。
【0038】
1つの実施形態においては、プラズマ照射により上記活性化処理を行う。活性化処理時の雰囲気に含まれるガスとしては、例えば、酸素、窒素、水素、アルゴンが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて(混合ガスとして)用いてもよい。好ましくは、酸素、窒素が用いられる。
【0039】
プラズマ照射による活性化処理時の雰囲気圧力は、好ましくは100Pa以下であり、より好ましくは80Pa以下である。一方、雰囲気圧力は、好ましくは30Pa以上であり、より好ましくは50Pa以上である。
【0040】
プラズマ照射時の温度は、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは100℃以下であり、さらに好ましくは50℃以下である。このような温度によれば、例えば、プラズマ照射による圧電基板の劣化が抑制され得る。
【0041】
プラズマ照射時のエネルギーは、好ましくは30W~150Wであり、より好ましくは60W~120Wである。プラズマ照射の時間は、好ましくは5秒~15秒である。
【0042】
図2Cは、接合層3に気泡5を形成して中間層20の形成が完了した状態を示している。気泡5は、例えば、接合層3(接合体90)を加熱することにより形成され得る。具体的には、上記水素結合(例えば、Si-OH-OH-Si)が共有結合(例えば、Si-O-Si)にかわることにより水分子が生じ得る。この水分子は、第一の層1と第二の層2との接合界面4を拡散し、接合層3(接合体90)の外部へ放出され得る。その際、水分が膨張し気泡が形成され得る。加熱により、上記共有結合の生成および上記拡散、膨張を促進することができる。また、加熱により、第一の層1と第二の層2との(支持基板10と圧電基板32との)接合強度を向上させることができる。例えば、後述の圧電基板の研削、研磨等の加工に耐え得る強度に向上させることができる。
【0043】
上記加熱の条件としては、例えば、気泡が形成され得る、任意の適切な条件が採用される。加熱は、代表的には、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行われる。1つの実施形態においては、加熱は、第一加熱工程および第二加熱(アニール)工程をこの順に含む。第一加熱工程では、接合体90を室温から温度T1(例えば、100℃~150℃)に達するまで加熱する。温度T1までの昇温は、0.7℃/分以下の昇温レートで行うことが好ましく、より好ましくは0.5℃/分以下である。このような昇温レートによれば、気泡が良好に形成され得る。一方、温度T1までの昇温レートは、例えば0.1℃/分以上である。
【0044】
上記第二加熱工程では、接合体90を、温度T2の条件下に所定時間(例えば、3時間~25時間)置く。第二加熱工程(アニール)によれば、気泡が良好に形成され得るとともに、第一の層1と第二の層2との(支持基板10と圧電基板32との)接合強度をさらに向上させることができる。温度T2は、例えば180℃以上であり、200℃以上であってもよく、230℃以上であってもよく、250℃以上であってもよく、270℃以上であってもよい。一方、温度T2は、例えば、接合体90の破損を防止する観点から、350℃以下であることが好ましく、より好ましくは300℃以下である。
【0045】
なお、温度T1から温度T2への昇温の条件は、任意の適切な条件に設定され得る。また、第二加熱工程後は、代表的には、接合体90は自然冷却される。
【0046】
中間層20の形成後、圧電基板32の表面(上面)32aは、代表的には、上記所望の厚みの圧電層となるように、研削、研磨等の加工が施される。こうして、図1に示す複合基板100を得ることができる。
【0047】
好ましくは、各層(具体的には、圧電層、第一の層、支持基板、第二の層)の表面は、平坦面とされている。具体的には、各層の表面の表面粗さRaは、好ましくは1nm以下であり、より好ましくは0.3nm以下である。各層の表面を平坦化する方法としては、例えば、化学機械研磨加工(CMP)による鏡面研磨が挙げられる。1つの実施形態においては、上記接合前(活性化処理前)に第一の層1および第二の層2の表面は、平坦化加工される。
【0048】
上記成膜、接合(接触)に際し、例えば、研磨剤の残渣、加工変質層等の除去のため、各層の表面を洗浄することが好ましい。洗浄方法としては、例えば、ウエット洗浄、ドライ洗浄、スクラブ洗浄が挙げられる。これらの中でも、簡便かつ効率的に洗浄し得ることから、スクラブ洗浄が好ましい。スクラブ洗浄の具体例としては、洗浄剤(例えば、ライオン社製、サンウオッシュシリーズ)を用いた後に、溶剤(例えば、アセトンとイソプロピルアルコール(IPA)との混合溶液)を用いてスクラブ洗浄機にて洗浄する方法が挙げられる。
【0049】
B.弾性表面波素子
本発明の実施形態による弾性表面波素子は、上記複合基板を有する。弾性表面波素子は、代表的には、上記複合基板と、上記複合基板の圧電層側に設けられた電極(櫛型電極)とを有する。このような弾性表面波素子は、例えば、SAWフィルタとして携帯電話等の通信機器に好適に用いられる。
【実施例
【0050】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
直径150mmで厚み675μmの高抵抗(>2kΩ・cm)のシリコン基板を用意した。
また、直径150mmで、表面および裏面が鏡面研磨された厚み350μmのタンタル酸リチウム(LT)基板(弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である42°YカットX伝搬のLT基板)を用意した。
【0052】
シリコン基板の表面に第一酸化ケイ素層(厚み:300nm)を、LT基板の表面に第二酸化ケイ素層(厚み:300nm)を、RFスパッタリング法にて、ボロンドープのSiターゲットを用いて成膜した。また、酸素源として酸素ガスを導入した。その際、酸素ガス導入量を調節することによって、チャンバー内の雰囲気の全圧と酸素分圧を調節した。その後、第一酸化ケイ素層および第二酸化ケイ素層のそれぞれの表面に化学機械研磨加工(CMP)を施し、算術平均粗さRa0.6nmを0.3nmとした。ここで、算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)によって10μm×10μmの視野で測定した値である。
【0053】
シリコン基板(第一酸化ケイ素層)の表面およびLT基板(第二酸化ケイ素層)の表面を洗浄した後、これらをプラズマ活性化チャンバーに導入し、シリコン基板(第一酸化ケイ素層)の表面およびLT基板(第二酸化ケイ素層)の表面を活性化した。具体的には、30℃で、窒素ガスプラズマ(エネルギー:100W)による活性化処理を10秒間行った。その後、これらの基板に対し、純水を用いた超音波洗浄を行い、スピンドライして、活性化面に付着したパーティクルを除去した。次いで、各基板の位置合わせを行い、室温で、LT基板が上側となるように両基板の活性化面を重ね合わせた。両基板の接触により、基板同士の密着が広がる様子(いわゆるボンディングウェーブ)が観測され、良好に予備接合されたことが確認された。
【0054】
次いで、得られた接合体を窒素雰囲気のオーブンに投入し、室温から120℃まで0.3℃/分の昇温レートを保って加熱後、昇温レートを0.5℃/分としてさらに200℃まで昇温して3時間保持した。その後、ヒーターへの給電を中止し、自然冷却させた。
【0055】
次いで、接合体のLT基板に対して研削およびラップ研磨を行い、その厚みを10μmとした。その後、CMPによって厚みを5μmとすると同時に表面を平滑化し、圧電層を有する複合基板を得た。
【0056】
[実施例2]
活性化処理に用いるガスを酸素としたこと、および、加熱に際して200℃までの昇温レートを0.3℃/分として200℃の保持時間を5時間としたこと以外は実施例1と同様にして、複合基板を得た。
【0057】
[比較例1]
活性化処理に用いるガスを酸素としたこと、および、加熱に際して昇温レートを0.8℃/分とし、200℃の保持時間を2時間としたこと以外は実施例1と同様にして、複合基板を得た。
【0058】
<評価>
得られた複合基板について下記の評価を行った。評価結果を表1にまとめる。
1.気泡の発生の確認
複合基板を、その圧電層側からレーザー顕微鏡(倍率:200倍)により観察することにより気泡の発生の有無を確認した。
2.反射特性の測定
複合基板の圧電層表面に、下記に示す条件で櫛型電極を金属アルミニウムにより形成して得られた弾性表面波素子の共振子について、ネットワークアナライザを用いてその反射特性を測定した。
・IDT(櫛型電極)周期:6μm
・IDT開口長:300μm
・IDT本数:80本
高周波数領域(680MHz以上)の雑音成分の最大値(dB)をスプリアスとし、測定結果を表1にまとめる。なお、図3は、比較例1の反射特性S11を示すグラフである。
また、測定された反射係数より共振子のQ値を下記式により算出し、その最大値を表1にまとめる。
【数1】
【0059】
【表1】
【0060】
図3から明らかなように、比較例1では大きなスプリアスが確認できる。実施例においては、図4に示すように気泡(気泡径:約20nm~60nm)の発生が確認でき、スプリアスの発生が抑制されている。
実施例においては、比較例よりも高いQ値が得られ、気泡の形成は性能向上にも寄与し得る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の実施形態による複合基板は、代表的には、弾性表面波素子に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0062】
1 第一の層
2 第二の層
3 接合層
4 接合界面
5 気泡
10 支持基板
20 中間層
30 圧電層
90 接合体
100 複合基板
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4