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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20240315BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240315BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240315BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240315BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240315BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240315BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240315BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/0566
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/131
C01G53/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023014310
(22)【出願日】2023-02-01
(62)【分割の表示】P 2022537210の分割
【原出願日】2022-04-11
(65)【公開番号】P2023055850
(43)【公開日】2023-04-18
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】17/344011
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー ダブリュー デュモン
(72)【発明者】
【氏名】アーレイン エー ダメロン
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ ケー ヒューズ
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-135948(JP,A)
【文献】特開2018-190720(JP,A)
【文献】特開2018-125214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 10/0566
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/131
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、前記コア部の表面に位置する被覆部とを有する活物質であって、
前記コア部は、リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含み、
前記被覆部は、A元素(AはTi、Zr、Ta、Nb及びAlからなる群より選択される少なくとも1種である。)及び酸素(O)元素を含み、
前記被覆部の平均厚みをT(nm)とし、前記活物質の比表面積をS(m/g)とし、前記被覆部に含まれるA元素の量をW(質量%)としたとき、W/(S×T)の値が0より大きく15質量%/(cm/g)以下であり、
カールフィッシャー法によって測定された300℃までの水分率(質量ppm)が600ppm以下である、活物質。
【請求項2】
前記コア部が、リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含むスピネル型複合酸化物を含有する、請求項1に記載の活物質。
【請求項3】
前記被覆部は更にリチウム(Li)元素を含む、請求項1に記載の活物質。
【請求項4】
前記被覆部の平均厚みTが、50nm以下である、請求項1に記載の活物質。
【請求項5】
前記比表面積Sが0.1m/g以上2.0m/g以下である、請求項1に記載の活物質。
【請求項6】
平均粒子径が0.5μm以上20μm以下である、請求項1に記載の活物質。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の活物質と電解液とを含む、電極合剤。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の活物質と固体電解質とを含む、電極合剤。
【請求項9】
前記活物質の含有量が、固形分全体を100質量%としたときに30質量%以上98質量%以下である、請求項7に記載の電極合剤。
【請求項10】
正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置され電解液を含む電解質層とを有する電池であって、前記正極層が請求項1ないし6のいずれか一項に記載の活物質を含有する、電池。
【請求項11】
正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質を含む電解質層とを有する電池であって、前記正極層が請求項1ないし6のいずれか一項に記載の活物質を含有する、電池。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の活物質の製造方法であって、
リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含むコア部の表面に、原子堆積法によってA元素(AはTi、Zr、Ta、Nb及びAlのうちの少なくとも1種である。)及び酸素(O)元素を含む被覆部を形成する、活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極、負極及び電解質を備えた電池は、エネルギー密度が大きく、小型化及び軽量化が容易であることから、ノート型パソコン、携帯電話機等の携帯型電子機器などの電源として広く用いられている。
このような電池の正極に含まれる活物質としては、例えば層状結晶構造を有するLiCoO、LiNiO及びLiMnOなどのリチウム金属複合酸化物の他、スピネル型構造を有するリチウムマンガン酸化物(LiMn、LiNi0.5Mn1.54)等が知られている。
【0003】
近年、電池性能の向上を目的として、前記活物質に被覆部を形成する技術が提案されている(例えば特許文献1及び2並びに非特許文献1参照。)。
【0004】
【文献】JP2005-310744A
【文献】WO2014/185547A1
【0005】
【文献】“Surface-Coated LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2 (NCM811) Cathode Materials by Al2O3, ZrO2, and Li2O-2B2O3Thin-Layers for Improving the Performance of Lithium Ion Batteries” ORIGINAL RESEARCH published: 29 November 2019 doi: 10.3389/fmats.2019.00309
【発明の概要】
【0006】
特許文献1及び2並びに非特許文献1に記載されているとおり、被覆部を有する活物質に関する研究は盛んである。その一方で、被覆部を有する活物質について、更なる性能向上が求められている。
したがって本発明の課題は、優れた電池性能を得ることが可能な活物質及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明は、コア部と、前記コア部の表面に位置する被覆部とを有する活物質であって、
前記コア部は、リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含み、
前記被覆部は、A元素(AはTi、Zr、Ta、Nb及びAlからなる群より選択される少なくとも1種である。)及び酸素(O)元素を含み、
前記被覆部の平均厚みをT(nm)とし、前記活物質の比表面積をS(m/g)とし、前記被覆部に含まれるA元素の量をW(質量%)としたとき、W/(S×T)の値が0より大きく15質量%/(cm/g)以下である、活物質を提供するものである。
【0008】
また本発明は、コア部と、前記コア部の表面に位置する被覆部とを有する活物質であって、
前記コア部は、リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含み、
前記被覆部は、A元素(AはTi、Zr、Ta、Nb及びAlのうちの少なくとも1種である。)及び酸素(O)元素を含み、
前記活物質の断面でのSTEM法による前記活物質の表面から内部にかけてのライン分析で得られたスペクトルにおいて、前記スペクトルにおける前記A元素のピークの半値幅が25nm以下である、活物質を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、前記の活物質の好適な製造方法として、
リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含むコア部の表面に、原子堆積法によってA元素(AはTi、Zr、Ta、Nb及びAlのうちの少なくとも1種である。)及び酸素(O)元素を含む被覆部を形成する、活物質の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の活物質はコア部と被覆部とを有する。被覆部は、コア部の表面に位置している。以下、コア部及び被覆部のそれぞれについて説明する。
【0011】
〔コア部〕
コア部は活物質の大部分を占める部位であり活物質の母材となる。
コア部は、例えば、リチウム金属複合酸化物を含んでいてもよい。リチウム金属複合酸化物としては、公知のリチウム金属複合酸化物を用いることができる。例えば一般式LiMO(Mは金属元素)で示される層状岩塩型構造のリチウム含有複合酸化物、一般式LiMで示されるスピネル型構造のリチウム含有複合酸化物、一般式LiMPO(Mは金属元素)又はLiMSiO(Mは金属元素)で示されるオリビン構造のリチウム含有複合酸化物のうちのいずれか1種あるいは2種以上の組み合わせであってもよい。尤もこれらに限定されるものではない。
【0012】
コア部は、リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含むスピネル型複合酸化物を含むことが好ましい(以下、このコア部のことを「コア部A」と称する場合がある。)。コア部Aを含む本発明の活物質を正極活物質として用いた場合、金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する。「金属Li基準電位で4.5V以上の作動電位を有する」とは、プラトー領域として4.5V以上の作動電位のみを有している必要はなく、4.5V以上の作動電位を一部有している場合も包含する意である。したがって本発明の活物質は、プラトー領域として4.5V以上の作動電位を有する5V級正極活物質のみからなる正極活物質に限定されるものではない。例えば本発明の活物質は、プラトー領域として4.5V未満の作動電位を有する正極活物質を含んでいてもよい。具体的には、当該5V級正極活物質が30質量%以上を占めていることが好ましく、好ましくは50質量%以上、その中でも特に好ましくは80質量%以上(100質量%含む)を占める正極活物質を許容するものである。
【0013】
コア部Aに含まれる、リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素以外の他の元素は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。他の元素が2種以上であるとき、少なくとも1種の元素は、Ni、Co及びFeからなる群から選択される1種(以下、「M元素」という。)であることが好ましい。M元素は、主に金属Li基準電位で3.0V以上の作動電位を発現させるのに寄与する置換元素である。他方の元素は、Na、Mg、Al、P、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCeからなる群から選択される1種又は2種以上の組み合わせからなるM元素であることが好ましい。M元素は、主に結晶構造を安定化させて特性を高めるのに寄与する置換元素である。M元素が上述した元素から選択されることにより、容量維持率の向上を図ることが可能となる。構造中に含まれるM元素及びM元素は異なる元素種である。
【0014】
コア部Aの好ましい組成例として、LiMn4-δにおけるMnサイトの一部を、Liと、M元素と、他のM元素とで置換してなる結晶構造を有するスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含むものを挙げることができる。その他にも、式(1):Li(M Mn2-x-y-z)O4-δや、式(2):一般式[Li(Ni Mn3-x-y-z)O4-δ]で示されるスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物が挙げられる。式(2)におけるM元素は、上述のとおり、Na、Mg、Al、P、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、In、Ta、W、Re及びCeからなる群から選択される1種又は2種以上の組み合わせであることが好ましい。
【0015】
式(1)において、「x」は、1.00以上1.20以下であり、「y」は、0.20以上1.20以下であり、「z」は、0.001以上0.400以下であることが好ましい。また、式(2)において、「x」は、1.00以上1.20以下であり、「y」は、0.20以上0.70以下であり、「z」は、0より大きく0.5以下であることが好ましい。また、「4-δ」は、酸素欠損を含んでいてもよいことを示し、δは0以上0.2以下であることが好ましい。
【0016】
スピネル型複合酸化物としては、例えば、リチウムマンガン酸化物であるLiMn、LiMn12(Li1.333Mn1.667)、LiMn(Li0.889Mn1.778)や、リチウムマンガンニッケル酸化物であるLiNiMn2-x4(xは0超2未満の数を表す。)などが挙げられる。
なお、コア部のその他の説明は、例えばWO2017/150504A1に記載された説明と同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
【0017】
コア部は、Li、Mn及びOを含む層状構造を持つリチウムニッケル金属複合酸化物からなる粒子であることが好ましい(以下、このコア部のことを「コア部B」ともいう。)。また、コア部は、必要に応じてM元素(式中、Mは、Ni、Co及びAlからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であるか、若しくは、Ni、Co及びAlからなる群から選択される1種又は2種以上の元素と、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移金属元素、及び、周期律表の第1周期から第3周期までの典型金属元素からなる群のうちのいずれか1種又は2種以上の元素との組み合わせである。)を含むことが好ましい。本発明の活物質は、コア部Bの他に、他の成分を含んでいてもよい。尤も、コア部Bの特性を効果的に得ることができる観点から、コア部Bが80質量%以上、中でも90質量%以上、その中でも95質量%以上(100質量%を含む)を占めることが好ましい。
【0018】
コア部Bは、式(3):Li1+x 1-xで表される層状構造を持つリチウム金属複合酸化物からなる粒子であることが好ましい。式(3)において、「1+x」は、0.95以上1.09以下であることが好ましい。
【0019】
なお、コア部A及びコア部Bのその他の説明は、例えばWO2017/150504A1やJP6626434B2に記載された説明と同様とすることができるためにここでの記載は省略する。
【0020】
〔被覆部〕
被覆部は、コア部の表面に配置されており、コア部の表面を被覆している。被覆部は、コア部の表面を満遍なく被覆しているか、又はコア部の表面が一部露出するように該表面を部分的に被覆している。コア部の性能低下を防止するという被覆部の配置目的を考慮すると、被覆部は、コア部の表面を満遍なく被覆しており、コア部の表面が極力露出していないことが好ましい。
【0021】
被覆部は、本発明の活物質が組み込まれた電池の使用中におけるコア部の性能を低下させないようにする目的でコア部の表面に配置される。この目的のために、コア部はA元素(AはTi、Zr、Ta、Nb及びAlからなる群より選択される少なくとも1種である。)及び酸素(O)元素を含んで構成されている。これらの元素を含んで構成される被覆部は、コア部の性能低下を効果的に防止する働きを有する。これらの元素のうち、特にZrを用いることが、コア部の性能低下が一層効果的に防止されることから好ましい。
【0022】
詳細には、マンガン(Mn)を有する活物質を含む正極を備えた電池の充放電を繰り返すと、活物質を構成するマンガン元素がイオンの状態で電解液に溶出し易くなる傾向にある。電解質にMnイオンが溶出すると、Mnが負極に析出し、結果として電池性能を低下させる場合がある。また、活物質を、固体電解質を含む電池に用いると、該電池を充放電させたときに、活物質と固体電解質との界面に抵抗層が形成される場合がある。このような抵抗層が形成されると、リチウムイオンの授受が円滑に行われにくくなり、結果として電池性能が低下する場合がある。
【0023】
これらの課題に対し本発明者は、リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含むコア部の表面にA元素及び酸素元素を含む被覆部を設けた活物質について検討を重ねた。その結果、単に被覆部を設けた活物質では、電池性能の向上に限度があることが判明した。この原因の一つとして、コア部の表面に被覆部が十分に形成されていない領域が存在することで、Mnの溶出や固体電解質との反応を十分に抑制できていないことが考えられる。また、仮にコア部の表面に被覆部を十分に形成しようとすると、被覆部の厚みが大きくなることで、結果として被覆部が抵抗増加の原因となったり、リチウムイオンの授受の妨げになったりしてしまうことが判明した。
【0024】
以上のことを踏まえ本発明者が鋭意検討を行った結果、被覆部の平均厚みをT(nm)とし、活物質の比表面積をS(m/g)とし、被覆部に含まれるA元素の量をW(質量%)としたとき、後述するとおり、W/(T×S)の値が0より大きく15質量%/(cm/g)である活物質を提供することで、上述の課題が解決されることを知見した。
詳細には、本発明の活物質を、電解液を含む電池に用いた場合には、被覆部の作用によってコア部に含まれるマンガンが電解液に溶出してしまうことが効果的に抑制される。一方、本発明の活物質を例えば固体電解質を含む固体電池に用いた場合は、被覆部の作用によって、活物質と固体電解質との界面に抵抗層が形成されにくくなり、コア部へのリチウムイオンが挿入・脱離が円滑に行われる。
【0025】
このように、本発明の活物質を、固体電解質を含む電池及び電解液を含む電池のいずれに用いた場合であっても、被覆部の作用によってコア部の性能低下が効果的に抑制される。このような利点を有する被覆部を形成するための好ましい方法については後述する。
【0026】
上述のとおり、被覆部は、Ti、Zr、Ta、Nb及びAlからなる群より選択される少なくとも1種のA元素を含んでいる。A元素は1種でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。一般に被覆部は1種又は2種以上のA元素の酸化物であり得る。A元素が2種以上の元素である場合には、被覆部は2種以上の元素の複合酸化物又はそれぞれの元素の酸化物であり得る。被覆部がA元素の酸化物である場合、被覆部におけるA元素及び酸素元素の存在割合は、A元素の酸化物が形成されるような化学量論比であることが好ましい。
【0027】
被覆部は、A元素及び酸素元素に加えてリチウム(Li)元素を含んでいてもよい。被覆部がリチウム元素を含む場合、被覆部はリチウム元素及びA元素の複合酸化物であり得る。被覆部がリチウム元素及びA元素の複合酸化物である場合、被覆部におけるリチウム元素、A元素及び酸素元素の存在割合は、リチウム元素及びA元素の複合酸化物が形成されるような化学量論比であることが好ましい。
【0028】
なお、被覆部は、A元素、酸素元素及びLi元素以外の他の元素を含んでいてもよい。
【0029】
被覆部は、コア部の表面を極力薄く且つ緻密に被覆していることが、コア部が本来有する性能を発揮させつつ、コア部の性能の低下を効果的に防止する観点から好ましい。この観点から本発明者が鋭意検討した結果、被覆部の平均厚みをT(nm)とし、活物質の比表面積をS(m/g)とし、被覆部に含まれるA元素の量をW(質量%)としたとき、W/(T×S)の値が0より大きく15質量%/(cm/g)以下であることが有効であることを知見した。W/(T×S)の値は、被覆部によるコア部の被覆状態を示す指標である。具体的には、コア部1g当たりの被覆部の密度を意味する。従来、活物質の粒子の表面を被覆して活物質の性能の低下を防止する技術は知られていたが、従来の技術では被覆部が過度に厚いことに起因して活物質としての本来的な性能が十分に発揮できず、また、被覆部が緻密でないことに起因して活物質の性能低下を効果的に抑制できなかった。このこととは対照的に、本発明の活物質によれば、被覆部がコア部の表面を薄く且つ緻密に被覆していることから、コア部が本来的に有する性能が減殺されることなく、コア部の性能低下を被覆部によって効果的に防止できる。
【0030】
被覆部を形成することによって奏される上述の有利な効果を一層顕著なものとする観点から、W/(S×T)の値は、0.1質量%/(cm/g)以上10.0質量%/(cm/g)以下であることが好ましく、1.0質量%/(cm/g)以上8.0質量%/(cm/g)以下であることが更に好ましい。
【0031】
前記平均厚みT(nm)は、個々の活物質の粒子における被覆部の厚みの平均値である。平均厚みT(nm)は、例えば、走査型透過電子顕微鏡(STEM)により測定することができる。また、必要に応じてエネルギー分散型X線分析(EDS)を組み合わせて分析し、測定することもできる。具体的には、活物質の表面部でライン分析を行い、その結果からA元素のピーク幅を被覆部の厚みとして測定することができる。なお、ライン分析は、後述する半値幅の測定と同様にして行うことができる。また、平均厚みT(nm)は、上記方法によって活物質の表面部を10か所測定したときの平均値とすることができる。
【0032】
前記のA元素の量W(質量%)は、個々の活物質の粒子におけるA元素の量の平均値である。A元素の量W(質量%)は、ICP発光分光分析法によりA元素の量を測定し、コア部のA元素の量を差し引きして測定される。
前記の比表面積S(m/g)は、活物質の粒子の集合体である粉体を対象として測定される。比表面積S(m/g)は、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置を用いて、30mL/minのガス量で窒素ガスをフローさせながら、5分間ガラスセル内を置換した後、窒素ガス雰囲気中で250℃10分間前処理を行い、その後BET1点法にて測定される。
【0033】
被覆部の平均厚みTは、50nm以下であることが、コア部の活物質としての機能が被覆部によって妨げられにくく、コア部が活物質として十分に性能を発揮し得るので好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、被覆部の平均厚みTは40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下、25nm以下であることがより一層好ましい。
一方、被覆部の平均厚みTは、0.1nm以上であることが、活物質の性能の低下を効果的に防止し得るので好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、被覆部の平均厚みTは1.0nm以上であることが更に好ましく、3.0nm以上であることが一層好ましく、5.0nm以上であることがより一層好ましい。
【0034】
A元素の量Wは、0.001質量%以上2.000質量%以下であることが、コア部の容量やレート特性を妨げない点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、A元素の量Wは、0.01質量%以上1.0質量%以下であることが更に好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが一層好ましい。
【0035】
比表面積Sは、0.1m/g以上2.0m/g以下であることが、コア部の容量やレート特性向上の点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、比表面積Sは、例えば、0.2m/g以上であることが更に好ましく、0.3m/g以上であることが一層好ましい。一方、上記比表面積Sは、例えば、1.5m/g以下であることが更に好ましく、1.0m/g以下であることが一層好ましい。
【0036】
上述のとおり、本発明の活物質における被覆部は、コア部の表面を極力薄く且つ緻密に被覆していることが好ましいところ、このような被覆状態は、活物質の断面でのSTEM法による活物質の表面から内部にかけてのライン分析で得られたスペクトルによって評価することができる。
詳細には、前記スペクトルにおける前記A元素のピークの半値幅は、被覆部の厚みや緻密さと相関しており、当該半値幅が25nm以下であることが、コア部が本来的に有する性能が減殺されることなく、コア部の性能低下を被覆部によって効果的に防止し得る観点から好ましい。この観点から、前記半値幅は20nm以下であることが更に好ましく、16nm以下であることが一層好ましい。
前記半値幅は、コア部コア部の性能低下を被覆部によって効果的に防止する観点から0.005nm以上であることが好ましく、0.05nm以上であることが更に好ましく、0.5nm以上であることが一層好ましく、3.0nm以上であることが更に一層好ましく、5.0nm以上であることが更に一層好ましい。
被覆部に2種以上のA元素が含まれている場合には、少なくとも1種のA元素についてその半値幅が上述の値以下であればよく、すべてのA元素についてそれらの半値幅が上述の値以下であることが好ましい。
【0037】
前記半値幅は、以下の方法で測定される。
エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用い、被覆部におけるA元素の平均強度プロファイルを測定する。EDSによる測定条件は以下のとおりである。
活物質の粉末を樹脂包埋し、収束イオンビームを用いてTEM観察可能な薄片試料を作製する。EDSに付属する走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて活物質の表面近傍を観察し、被覆部を含む領域を対象としてEDSによってA元素のマッピングデータを取得する。得られた元素マッピングデータから、被覆部の成分であるA元素の平均強度ラインプロファイルを抽出する。本測定で使用した装置を以下に示す。
STEM:JEM-ARM200F(日本電子株式会社製)
EDS:JED-2300T ドライSD100GV(日本電子株式会社製)
EDS解析ソフト:NSS Ver4.1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
・元素マッピングデータの取得条件
加速電圧:200kV、倍率:200万倍、STEM像取得検出器:ADF
STEM像取得解像度:512×512 pixel、EDSマッピングの解像度:256×256pixel(被覆部のA元素のマッピングデータを取得できるよう、倍率や測定時間は適宜調整する。)
・平均強度プロファイルの取得内容
得られた元素マッピングデータから平坦な活物質表面に対して水平方向に50nm程度の幅で、垂直方向に活物質と被覆層全体を含む領域(70~90nm程度)からバックグラウンドを除いたネット強度のラインプロファイル(100点分)をA元素について抽出する。
【0038】
被覆部は、コア部の表面を覆うように存在していればよい。したがって、被覆部は、コア部の表面をすべて覆っていてもよく、コア部の表面の一部を覆っていてもよい。コア部の表面全体に対する被覆部の被覆率は、例えば、60%以上であることが好ましく、中でも70%以上であることが好ましく、特に80%以上、更には90%以上であることが好ましい。被覆部の被覆率は、例えば、走査型透過電子顕微鏡(STEM)と、必要に応じてエネルギー分散型X線分析(EDS)を組み合わせて活物質の表面を観察する方法や、オージェ電子分光分析法により確認することができる。
【0039】
〔活物質〕
本発明の活物質の形状は特に限定されないが、例えば粒子状が挙げられる。本発明の活物質の粒子の大きさは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50(以下、「平均粒子径」ともいう。)で表して例えば0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることが好ましく、2.5μm以上であることが好ましい。粒子どうしが過度に凝集することが抑制され、分散性が良好になるからである。一方、前記体積累積粒径D50は、例えば20.0μm以下であることが好ましく、中でも15.0μm以下であることが好ましく、特に10.0μm以下であることが好ましい。活物質の粒子どうしの接触、及び活物質の粒子と固体電解質の粒子との接触を十分に確保できるからである。
【0040】
ここで、体積累積粒径D50は、一次粒子及び二次粒子を含めた粒子の平均径の代替値としての意味を有する。「一次粒子」とは、SEM(走査型電子顕微鏡、例えば500~5000倍)で観察したときに、粒界によって囲まれた最も小さな単位の粒子を意味する。本発明の活物質は、特に言及しなければ、一次粒子の意味である。他方、本発明において「二次粒子」とは、複数の一次粒子がそれぞれの外周(粒界)の一部を共有するようにして凝集し、他の粒子から独立した粒子を意味するものである。
【0041】
体積累積粒径D50は次の方法で測定される。レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(マイクロトラック・ベル株式会社製「Microtrac SDC」)を用い、活物質の粉体を20質量%エタノール溶媒に0.1質量%へキサメタリン酸を混合した溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を90秒間照射した後、マイクロトラック・ベル株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートから体積累積粒径D50を測定する。
50を測定するときの水溶性溶媒は60μmのフィルターを通し、「溶媒屈折率」を1.33、粒子透過性条件を「透過」、測定レンジを0.243μm以上704.0μm以下、測定時間を30秒とし、2回測定した平均値をD50とした。
【0042】
活物質と固体電解質との界面抵抗を小さくする観点から、本発明の活物質はその水分率が一定の範囲に調整されていることが有利である。詳細には、活物質の水分率が過度に高いと、活物質と固体電解質との間の界面抵抗が上昇する場合がある。
【0043】
本発明の活物質は、カールフィッシャー法によって測定された300℃までの水分率(質量ppm)が、例えば、600ppm以下であってもよく、550ppm以下であってもよく、500ppm以下であってもよい。また、水分率は10ppm以上であってもよく、50ppm以上であってもよく、100ppm以上であってもよく、200ppm以上であってもよい。活物質に含まれる水分の量は、リチウムとの反応による活物質の構造劣化を減らす点、及び電池動作時の電解質との反応を減らす点から、少なければ少ないほど好ましい。活物質に含まれる水分の量を極力少なくするためには、例えば300℃等の温度下や真空下、不活性雰囲気で活物質を乾燥させればよい。
カールフィッシャー法によって水分率を測定する手順は、以下のとおりである。すなわち、カールフィッシャー水分計を用いて、110℃に測定サンプルを加熱し、放出された水分率(質量ppm)を測定し、その後、300℃に測定サンプルを加熱し、放出された水分率(質量ppm)を測定し、それぞれを足し合わせた値を水分率とした。測定は窒素雰囲気中で行い、例えば測定装置としてCA-100(三菱化学株式会社製)を用いる。
【0044】
〔活物質の製造方法〕
次に本発明の活物質の好適な製造方法について説明する。本製造方法においては、常法に従いコア部を形成した後に原子堆積法(以下「ALD」ともいう。)によって被覆部を形成する。
【0045】
コア部の製造方法に特に制限はなく、従来公知の方法によって、リチウム(Li)元素、マンガン(Mn)元素及び酸素(O)元素を含む複合酸化物を製造すればよい。例えば原料として炭酸リチウム粉及びマンガン酸化粉(例えば二酸化マンガン粉)を用い、これらを混合して混合粉を得、該混合粉を焼成することで複合酸化物を得ることができる。このようにして得られた複合酸化物を粉砕して所望の粒径に調整することでコア部が得られる。
【0046】
このようにして得られたコア部の表面に、ALDによって被覆部を形成する。ALDによれば被覆部を一原子層ずつ形成することが理論上可能なので、薄く且つ緻密な被覆部を形成することができる。被覆部の別の形成方法として例えばゾルゲル法が考えられるが、ゾルゲル法では薄く且つ緻密な被覆部を形成することは容易でない。
【0047】
アルミニウム及び酸素を含む被覆部を形成する場合は、例えば、以下のようにして被覆部を形成することができる。まず、反応チャンバー内にコア部を投入する第1工程と、前記反応チャンバーを加熱して前記コア部に付着している水分を除去する第2工程と、前記反応チャンバー内を成膜温度に加熱し、被覆部の前駆体物質を加える第3工程と、前記チャンバー内に酸化剤を加える第4工程と、気相中の余分な前記前駆体物質及び反応生成物を除去する第5工程と、前記チャンバー内に酸化剤を加える第6工程と、を有する方法により被覆部を形成することができる。
【0048】
第1工程においては、不活性ガスを反応チャンバー内に導入し流動床を形成することが好ましい。不活性ガスとしては、例えば窒素又はアルゴンを用いることができる。不活性ガス(N、Ar)の流量は、例えば10cm/min以上100L/min以下の範囲内で設定することができる。
【0049】
第2工程における加熱温度は、例えば100℃以上200℃以下の範囲で設定することができる。また、このときの加熱時間は、例えば1時間以上12時間以下の範囲とすることができる。
【0050】
第3工程における加熱温度は、被覆部を成膜できる温度であれば特に限定されないが、例えば50℃以上400℃以下の範囲内で設定することができる。前駆体物質としては、例えば、有機アルミニウム化合物、例えばトリメチルアルミニウム(以下「TMA」ともいう。)が挙げられる。また、第3工程においては、加熱した前駆体物質を反応チャンバー内に加えてもよい。前駆体物質を加熱する温度としては、例えば室温以上300℃以下に設定することができる。なお、第3工程は、コア部の表面に前駆体物質が化学吸着して単相を形成するまで行われることが好ましい。
第4工程において用いられる酸化剤としては、例えば、HO、O、H、Hプラズマ、Oプラズマ、Arプラズマ、NOプラズマ等が挙げられる。
【0051】
第5工程においては、例えばパージによって余分な前駆体物質や反応生成物を除去することができる。反応生成物としては、例えばメタンガスが挙げられる。
【0052】
第6工程においては、コア部が酸化剤に曝露されることで前駆体物質単相と反応し、この反応により目的とする被覆部を形成することができる。酸化剤について第4工程で用いられる酸化剤と同様のものを用いることができる。
【0053】
第1工程から第6工程の操作を目的の膜厚が得られるまで繰り返すことで、薄く且つ緻密な被覆部を首尾よく形成することができる。
第1工程から第6工程は、被覆部に含まれるA元素の量が、例えば10ppm以上50,000ppm以下の範囲となるように繰り返すことが好ましい。
【0054】
本発明として用いる前駆体としては、例えば、A元素がZrの場合、Zr(NEtMe)、ZrI、ZrCpMe、ZrCpMe、ZrCpMe(OMe)、ZrCpCl、ZrCp(NMe、ZrCl、Zr[N(SiMeCl、Zr(thd)、Zr(NEt、Zr(OBu)、Zr(OBu)(dmae)、Zr(OPr)、Zr(OPr)(dmae)、Zr(NEtMe)、Zr(NEtMe)(guan-NEtMe)、Zr(NEtMe)(guan-NEtMe)、Zr(MeCp)(TMEA)、ZrTDMA、Zr(MeAMD)、Zr(dmae)、Zr(CpMeMe(OBu)、Zr(CpMe)CHT、Zr(CpMe)Me、Zr(CpCMe)Me(OMe)、Zr(Cp)(BuDAD)(OPr)が挙げられる。
また、例えば、A元素がAlの場合、AlMe、AlMe2OPr、AlMeH、AlMeCl、AlMe2(CNMe)、AlHN:(C11)、AlEt、AlCl、AlBu、Al(NMe、Al(OBu)、Al(OPr)、Al(OEt)、Al(NMe、Al(NPr、Al(NPr(CNMe)、Al(NEt、Al(NEt(CNMe)、Al(mmp)、Al(PrAMD)Et、Al(CHが挙げられる。
また、例えば、A元素がTiの場合、Tb(thd)、Ti(Cp)CHT、Ti(CpMe)(OPr)、Ti(CpMe)(OMe)、Ti(EtCp)(NMe、Ti(NEt、Ti(NEtMe)(guan-NEtMe)、Ti(NEtMe)、Ti(NMe(CpMe)、Ti(NMe(CpN)、Ti(NMe(dmap)、Ti(NMe、Ti(NMeEt)、Ti(Np)、Ti(OEt)、Ti(OPr)(dmae)、Ti(OPr)(NMe、Ti(OPr)(thd)、Ti(OPr)PrAMD)、Ti(OPr)、Ti(OMe)、Ti(OBu)、TiCl、TiCp2((PrN)C(NHPr))、TiF、TiIが挙げられる。
また、例えば、A元素がTaの場合、Ta(NEt)(NEt、Ta(NEtBu、Ta(NEt、Ta(NEtMe)(NPr)、Ta(NEtMe)、Ta(NPr)(NEtMe)、Ta(NMe(CMeEt)、Ta(NMe、Ta(NAm)(NMe、Ta(NAm)[(NMe)]、Ta(NBu)(PrAMD)(NMe)、Ta(NBu)(NEt、Ta(NBu)(Bupz)、Ta(OEt)(dmae)、Ta(OEt)、TaBr、TaCl、TaCp(NBu)(NEt、TaF、TaNpClが挙げられる。
また、例えば、A元素がNbの場合、Nb(NBu)(NEt、Nb(NBu)(NEtMe)、Nb(OEt)、NbCl、NbFが挙げられる。
【0055】
被覆部がA元素及び酸素元素に加えてリチウム元素を含む場合には、上述したALDにおいて、Liを含む前駆体物質を用いればよく、Liを含む前駆体としては、例えば、LiOBu、LiOSiMe、LiN(SiMe、Li(thd)、Li(N(SiMe)等が挙げられる。
【0056】
〔電極合剤〕
このようにして得られた本発明の活物質は、例えば、該活物質と電解質とを含有する電極合剤の形態で用いることができる。電解質は、固体のもの及び液体のもののいずれでもよい。電解質として固体電解質を用いる場合には、前記電極合剤は、活物質の含有量が、固形分全体を100質量%としたときに30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよい。また、上記活物質の含有量は、例えば、98質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよい。活物質の含有量が前記範囲内であることにより、電極としての機能を十分に発揮することができる。
【0057】
本発明で用い得る固体電解質は、一般的な固体電池に用いられる固体電解質と同様とすることができる。例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等が挙げられるが、中でも硫化物固体電解質であることが好ましい。硫化物固体電解質は、例えば、リチウム(Li)元素及び硫黄(S)元素を含みリチウムイオン伝導性を有するものであってもよく、あるいは、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含みリチウムイオン伝導性を有するものであってもよい。硫化物固体電解質は、結晶性材料、ガラスセラミックス、ガラスのいずれであってもよい。硫化物固体電解質は、アルジロダイト型構造の結晶相を有していてもよい。このような硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(「X」は1種以上のハロゲン元素を示す。)、LiS-P-P、LiS-LiPO-P、LiPS、Li、Li10GeP12、Li3.25Ge0.250.75、Li11、Li3.250.95、LiPS(Xは少なくとも1種のハロゲン元素である。aは3.0以上6.0以下の数を表す。bは3.5以上4.8以下の数を表す。cは0.1以上3.0以下の数を表す。)で表される化合物などが挙げられる。この他にも、例えば、WO2013/099834A1及びWO2015/001818A1に記載の硫化物固体電解質が挙げられる。
【0058】
本発明で用い得る電解液は、一般的な液系電池に用いられる電解液と同様とすることができる。例えば、有機電解液、高分子固体電解質、溶融塩等を用いることができる。有機電解液としては、例えば溶媒として、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(以下EC)、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン(以下GBL)等のエステル類や、テトラヒドロフラン、2ーメチルテトラヒドロフランなどの置換テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチル等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上の混合溶媒を挙げることができる。また、有機溶媒に溶解する電解質塩としては、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、6フッ化リン酸リチウム(以下「LiPF」という。)、6フッ化砒酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ハロゲン化リチウム、塩化アルミン酸リチウムなどのリチウム塩などを挙げることができる。
【0059】
電極合剤に含まれる活物質は、本発明の活物質のみであってもよく、本発明の活物質とその他の活物質との組み合わせであってもよい。その他の活物質としては、公知のリチウム遷移金属複合酸化物からなる粒子が挙げられる。本発明の活物質とその他の活物質とを組み合わせて使用する場合は、活物質全体に対して本発明の活物質が50質量%以上、特に70質量%以上含有されていることが好ましい。
【0060】
電極合剤に固体電解質が含まれる場合、該電極合剤は、必要に応じて導電助剤やバインダー等の他の材料を含んでもよい。電極合剤と溶剤とを混合してペーストを作製し、アルミニウム箔等の集電体上に塗布、乾燥させることによって正極層等の電極層を作製できる。また、塗工電池ではなく、圧粉体電池の場合、活物質、固体電解質、導電助剤の材料を固相混合し、ペレット状に成型し、電極層を作製できる。
【0061】
〔電池〕
本発明の活物質は、電池の正極活物質として好適に使用することができる。前記電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよい。本発明の電池は、例えば正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置され電解液を含む電解質層とを有するものであり得る。そして前記正極層が本発明の活物質を含有する。
本発明の活物質は、固体電池、特に固体リチウム電池に好適に用いることができる。中でも二次電池、とりわけ固体リチウム二次電池に好適に用いることができる。電池の形状としては、例えばラミネート型、円筒型、角形及びコイン型などが挙げられる。
【0062】
固体電池は、正極層と、負極層と、これらの間に位置する固体電解質層とを有し、正極層が、上述した本発明の活物質を含むことが好ましい。固体電池は、例えば、正極層、固体電解質層、及び負極層をこの順で重ねて加圧成型することによって作製できる。「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池の他、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0063】
前記負極層に用いる負極活物質は、一般的な固体電池に用いられる負極活物質と同様とすることができる。具体的な負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出する材料、例えば炭素材料、シリコン、Si-Oなどの酸化ケイ素系化合物、スズ系化合物、チタン酸リチウム等の公知の材料を用いることができる。前記炭素材料としては、例えばポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、セルロースなどの有機高分子化合物を焼結したもの、人造黒鉛や天然黒鉛を挙げることができる。前記負極層は、このような負極活物質を用いる以外は正極層の作製と同様にして作製できる。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0065】
〔実施例1〕
(1)コア部の準備
スピネル型リチウムマンガンニッケル含有複合酸化物(以下「LMNO」ともいう。)をコア部として準備した。化学分析の結果、LMNOは、Li:4.1質量%、Mn:41.7質量%、Ni:13.3質量%、Ti:5.3質量%であった。
【0066】
(2)被覆部の形成
ALDによってコア部の表面にA元素及び酸素元素を含む被覆部を形成した。A元素として、以下の表1に示す元素を用いた。A元素を含む前駆体物質としてはトリス(ジメチルアミノ)シクロペンタジエニルジルコニウム(ZrCp(NMe)を用いた。不活性ガスに窒素を用いて50cm/minの流量で反応チャンバー内に流動床を形成した。次いで、反応チャンバー内を成膜温度350℃として前駆体物質を導入し、酸化剤には水を用いて、Zr量が150ppmとなるように成膜した。このようにして、目的とする活物質を得た。
【0067】
〔実施例2及び3〕
実施例1において、Zr量を600ppm(実施例2)、Zr量を900ppm(実施例3)とした以外は実施例1と同様にして活物質を得た。
【0068】
〔実施例4〕
実施例1において、前駆体物質をテトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム(ZrTDMA)としてZr量を1500ppmとした以外は実施例1と同様にして活物質を得た。
【0069】
〔比較例1〕
実施例1において被覆部を形成しなかった。これ以外は実施例1と同様にして活物質を得た。
【0070】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた活物質について、上述した方法で被覆部の平均厚みT、活物質の比表面積S、及びA元素の量Wを測定した。また、STEM法によるライン分析で得られたスペクトルの半値幅を測定した。更に、粒径D50及び水分率を上述した方法で測定した。更に、以下に述べる方法で活物質を含む電池のレート特性及びサイクル特性を測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0071】
〔電池の組立〕
実施例及び比較例で得られた活物質の粉末8.0gと、アセチレンブラック(電気化学工業製)1.0gとを秤量し、乳鉢で10分間混合した。その後、N-メチルピロリドン(NMP)中にPVdF(キシダ化学製)12質量%を溶解した溶液8.3gに、活物質の粉末とアセチレンブラックの混合物を加えて更に混合した。その後、NMPを5mL加えて十分に混合し、ペーストを作製した。このペーストを集電体であるアルミニウム箔上に塗工した。ペーストの塗工は、100μm~280μmのギャップに調整したアプリケーターを用いて行った。ペーストの塗膜を140℃で一昼夜真空乾燥した。その後、線圧が0.3t/cmになるようにロールプレスした。アルミニウム箔を直径16mmの円形に打ち抜き、これを正極として用いた。
電池作製直前に正極を200℃で300分以上真空乾燥し、付着水分を除去した、その後に電池に組み込んだ。また、直径16mmのアルミニウム箔の質量の平均値を予め求めておき、正極の質量からアルミニウム箔の質量を差し引き正極合剤の質量を求めた。また、活物質とアセチレンブラックとPVdFの混合割合から活物質の含有量を求めた。
負極として直径19mm×厚み0.5mmの金属Li箔を用いた。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを3:7で体積混合したものを溶媒とし、これに溶質としてLiPFを1mol/L溶解させたものを用いた。
以上の正極、負極及び電解液を用いて電気化学評価用セルを作製した。
【0072】
〔初期活性〕
作製した電池を以下に述べる方法で初期活性を行った。25℃にて0.1Cで4.999Vまで定電流定電位充電した後、0.1Cで3.0Vまで定電流放電した。これを3サイクル繰り返した。なお、実際に設定した電流値は正極中の正極活物質の含有量から算出した。
【0073】
〔レート特性〕
上述のようにして初期活性を行った後の電池を25℃にて0.1Cで4.999Vまで定電流定電位充電した。充電後、3Vまで1Cで定電流放電した。5Cで3Vまで定電流放電したときの放電容量を0.1Cで3Vまで放電したときの放電容量で割った値をレート特性の指標とした。
【0074】
〔サイクル特性〕
別途、初期活性を行った後の電池を、25℃で充放電範囲を3.0~4.999Vとし、0.1Cで定電流定電位充電した後、0.1Cで定電流放電する操作を1サイクル行った後、0.5Cにて充放電するサイクルを50回行った。
50サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割った数値の百分率(%)をサイクル特性の値とした。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた活物質は、比較例の活物質に比べてレート特性に優れることが分かる。この理由は、各実施例で得られた活物質は、その表面における界面抵抗が低いことに起因すると考えられる。
また、各実施例で得られた活物質は、比較例の活物質に比べてサイクル特性に優れることが分かる。この理由は、各実施例で得られた活物質は、電池の充放電過程においてマンガンの溶出が抑制されることに起因すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、優れた電池性能を得ることが可能な活物質及びその製造方法が提供される。