(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/60 20240101AFI20240315BHJP
B01J 23/887 20060101ALI20240315BHJP
C07C 57/05 20060101ALI20240315BHJP
C07C 45/35 20060101ALI20240315BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20240315BHJP
C07C 51/25 20060101ALI20240315BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240315BHJP
【FI】
B01J35/60 G
B01J23/887 Z
C07C57/05
C07C45/35
C07C47/22 A
C07C51/25
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2023080606
(22)【出願日】2023-05-16
(62)【分割の表示】P 2019081692の分割
【原出願日】2019-04-23
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】奥村 成喜
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/070369(WO,A1)
【文献】特開2007-105716(JP,A)
【文献】国際公開第2012/144369(WO,A1)
【文献】特開2011-246384(JP,A)
【文献】特開2017-176931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0159619(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀圧入法により求められる極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)の比(D1/D2)が
0.71以下であり、
前記極大細孔直径(D1)が0.20μm以上0.40μm以下であり、
前記メジアン細孔直径(D2)が0.27μm以上0.55μm以下であり、
下記一般式(III)で表される触媒組成を有する不飽和アルデヒド化合物及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
Mo
aBi
bNi
cCo
dFe
fX
gY
hO
x (III)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1~7、c+d=0.5~20、f=0.5~8、g=0~2、h=0.005~2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。ただしNiは必須成分である)。
【請求項2】
触媒を構成する金属成分の一部または全部を含有する触媒活性成分前駆体に、炭素を主構成元素とする繊維状物質を添加する請求項1に記載の不飽和アルデヒド化合物及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記炭素を主構成元素とする繊維状物質の繊維幅が1nm以上100nm以下である請求項2に記載の不飽和アルデヒド化合物及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の不飽和アルデヒド化合物及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒を用いた不飽和アルデヒド化合物及び/又は不飽和カルボン酸化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性な新規触媒に関するものであり、特に不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、又は共役ジエンを酸化的に製造する際に、ホットスポット温度を抑制し、高収率な製造を可能とする触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法や、ブテン類の酸化的脱水素により1,3-ブタジエンを製造する方法は工業的に広く実施されているが、触媒層における局所的な高温部分(ホットスポット)の発生が大きな問題となっている。ホットスポットの発生は触媒寿命の短縮、過度の酸化反応による収率の低下、最悪の場合は暴走反応による事故災害の発生、触媒の使用不能につながるため、ホットスポットを抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1において触媒成型体の占有容積、触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。
【0003】
これらの触媒は、平均粒径が大きいものおよび/または焼成温度が高いものについては、触媒層が厚くなるため触媒活性成分層にひずみが生じたり、焼成時の結晶相変化により、機械的強度が低下することがあり、完成した触媒の保存中に保存容器底部の触媒が割れたり、反応管への充填時に割れて反応管の圧力損失が大きくなるなどの問題が生じることの懸念がある。とりわけ、平均粒径が大きく、かつ焼成温度が高い触媒にこの傾向が強く見られ、触媒の生産効率が著しく低下してしまうため、改善が必要とされている。なお、ここでいう焼成温度とは、触媒に活性を付与するべく行う焼成工程での最高温度を指し、通常は触媒活性成分に対して行う焼成または乾燥温度の最高温度を意味するものである。
【0004】
触媒の強度を向上させる方法として、特許文献2ではリング状に成型したモリブデンおよびビスマスを含む触媒に無機質繊維を含有させて成型した触媒が開示されている。また、無機質繊維としては、50μm~1.5mmの平均繊維径長、2μm~20μmの平均直径を有する、ガラス繊維、アルミナ繊維およびシリカ繊維から選ばれた1種が使用できることが開示されている。しかしながら、これら成型助剤を添加することによって機械的強度はある程度改善されるものの、目的とする不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸の収率はまだ十分ではなく、機械的強度と触媒性能(活性、収率など)を兼ね備えた触媒が必要とされている。
【0005】
特許文献3には担持触媒の機械的強度の改善方法として、2~200μmの平均粒径の無機繊維を補助剤として使用する方法が開示されている。
【0006】
特許文献4にはシリカゾルと無機繊維を添加する方法が開示されている。特許文献5では平均粒径が10μm~2mmかつ平均厚さが平均粒径の0.005~0.3倍の鱗片状無機物を含有する触媒が開示されている。特許文献6では酸量が0.05mmol以下の無機質繊維を含有する触媒が開示されている。無機質繊維の酸点を0.05mmol以下とすることで、高収率な触媒を得ることが出来るとされている。
【0007】
また、触媒の性能は、触媒の細孔構造の影響を受けることが多いため、触媒の比表面積、細孔容積、細孔径分布の範囲を規定する技術が、特許文献7~10において開示されている。
【0008】
しかし、これらの手段をもってホットスポットの抑制をはかっても、未だ十分な成果には至っていない。さらには工業プラントにおいて期待した触媒性能、寿命が必ずしも得られないことがあるという問題点があり改善が望まれていた。
たとえば、
1)触媒の占有容積を変化させることで、活性を調節した触媒を使用する方法は、ホットスポットの抑制方法として有用な方法であるが、工業プラントには数万本の反応管が存在し、反応管内径が20mmから30mmの内径の場合、誤差がプラスマイナス0.2mm程度生じてしまうことがある。占有容積の小さい触媒であれば、これらの影響は無視できる程度であるが、占有容積の大きい触媒、すなわち、触媒粒径が大きい触媒ではその影響は無視できなくなる場合があることが分かった。具体的には充填の際に反応管内でブリッジを形成してしまい、その修正に多大な労力を要すること、充填量、充填密度の変化によ
り圧力損失の差が反応管ごとにばらつきやすくなり、原料ガス流量の偏在を引き起こすこと、その修正にも多大な労力を要することが挙げられる。触媒形状が球状でない場合、この問題がより顕著になることは容易に想像できる。
2)更には、工業プラントでは前述のような反応管径のばらつきのみならず、反応器構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布が生じてしまうことがあり、全ての反応管内で同一の状態で触媒が使用されるということはほぼありえない。本発明者らが、工業プラントで使用された触媒を分析したところ、原料ガス入口部分の触媒が集中して劣化している反応管や、全体にわたって触媒が緩やかに劣化している反応管、さらに驚くべきことに原料ガス出口部分の触媒が入口部分の触媒よりも劣化している反応管が、見受けられた。これは、原料ガス出口側の触媒層のホットスポット温度が異常に高かった可能性を示唆しており、最悪の場合、暴走反応を引き起こす危険がある。これは、前述した工業プラントにおける反応管径のばらつき、反応器の構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布により、原料炭化水素の転化率が異なり、温度分布の形状が異なったことが原因と予想され、工業プラントにおいても安全に安定して長期にわたって高い収率を維持できる技術の開発が課題として挙げられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-328951号公報
【文献】特開2002-273229号公報
【文献】特開平6-381号公報
【文献】特開平9-52053号公報
【文献】特開2007-000803号公報
【文献】特開2011-177616号公報
【文献】特開2016-195987号公報
【文献】特開2017-176931号公報
【文献】国際特許2013/018752号
【文献】特許5845338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、特に不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、又は共役ジエンを酸化的に製造する際に、ホットスポット温度を抑制し、高収率な製造を可能とする触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らの研究によれば、水銀圧入法により求められる極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)の比(D1/D2)が0.9未満である触媒が、従来の触媒よりも目的生成物の収率が高いことを見出した。この知見に基づき、特定の細孔構造を有する触媒を製造する方法として鋭意検討した結果、触媒前駆体成型品を得る成型工程において、炭素を主構成元素とする繊維状物質の分散液および/または炭素を主構成元素とする繊維状物質の粉末体をバインダーとして使用することで優れた性能を有する触媒が得られた。この理由が触媒の極大細孔直径とメジアン細孔直径の関係にあることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下(1)~(17)に関する。
(1)
水銀圧入法により求められる極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)の比(D1/D2)が0.9未満であることを特徴とする触媒。
(2)
上記極大細孔直径(D1)が0.05μm以上0.60μm以下である上記(1)に記載の触媒。
(3)
上記メジアン細孔直径(D2)が0.10μm以上0.75μm以下である上記(1)又は(2)に記載の触媒。
(4)
不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物及び/又は共役ジエン化合物製造用である上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の触媒。
(5)
炭素を主構成元素とする繊維状物質を添加する上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
(6)
上記炭素を主構成元素とする繊維状物質の繊維幅が1nm以上100nm以下である上記(5)に記載の触媒の製造方法。
(7)
上記炭素を主構成元素とする繊維状物質が、炭化水素を主成分とする繊維状物質である上記(5)又は(6)に記載の触媒の製造方法。
(8)
上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の触媒を用いた不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物及び/又は共役ジエン化合物の製造方法。
【0013】
また、下記(9)~(16)に関する発明によっても、本願発明の効果を実現することが可能である。
(9)
水銀圧入法により求められる累積細孔容積V(mL/g)と侵入側極大細孔直径D1(μm)が以下式(II)で表される関係である触媒。
0.80≦D1/V≦1.30 (II)
(10)
上記侵入側極大直径D1が0.15μm以上0.40μm以下である上記(9)に記載の触媒。
(11)
炭素を主構成元素とする繊維状物質を添加することを特徴とする触媒の上記(9)又は(10)に記載の触媒の製造方法。
(12)
上記炭素を主構成元素とする繊維状物質の繊維幅が1nm以上100nm以下である上記(9)又は(10)に記載の触媒の製造方法。
(13)
上記炭素を主構成元素とする繊維状物質が、炭化水素を主成分とする繊維状物質である上記(9)又は(10)に記載の触媒の製造方法。
(14)
上記炭素を主構成元素とする繊維状物質が、セルロースナノファイバーまたはキチンナノファイバーである上記(9)又は(10)に記載の触媒の製造方法。
(15)
上記炭素を主構成元素とする繊維状物質を添加した後、400℃以上の温度で焼成する工程を有する上記(9)又は(10)に記載の触媒の製造方法。
(16)
上記炭化水素を主成分とする繊維状物質を添加する前において、200℃以600℃以下の温度で焼成する工程を有する上記(15)に記載の触媒の製造方法。
(17)
水銀圧入法により求められる極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)の比(D1/D2)が0.8未満であり、
前記極大細孔直径(D1)が0.20μm以上0.40μm以下であり、
前記メジアン細孔直径(D2)が0.27μm以上0.55μm以下であり、
下記一般式(III)で表される触媒組成を有する不飽和アルデヒド化合物及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
MoaBibNicCodFefXgYhOx (III)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1~7、c+d=0.5~20、f=0.5~8、g=0~2、h=0.005~2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。ただしNiは必須成分である)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の触媒は、ホットスポット温度抑制に非常に有効である為、プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する場合や、炭素原子数4以上のモノオレフィンと分子状酸素を含む混合ガスから接触酸化脱水素反応により共役ジオレフィンを製造する場合の酸化触媒、酸化脱水素触媒として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)について]
本発明の触媒は、水銀圧入法により求められる極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)の比(D1/D2)が0.9未満となることを特徴とする。
【0016】
ここで、水銀圧入法とは、表面張力の高い水銀に圧力を加え、固体表面の細孔もしくは隙間の中に圧入し、その時に加えた圧力と押し込まれた水銀容積との関係から細孔分布を求める方法である。本明細書において、水銀圧入法という場合、一般的な方法であれば特に詳細は限定されないが、例えば、前処理を行わずに、全自動細孔分布測定装置(Pore Master 60-GT(Quanta Chrome Co.))を用いて、試料重量約5gをセル容積2ccのラージセル(10mmΦ×6cm)に入れ、水銀表面張力を480dyn/cm、水銀接触角を140°と設定し、測定温度20℃、測定細孔直径範囲0.0036μm~400μmの条件のもと測定し、測定結果をすべての細孔が円筒型であるとみなし、測定時に加えた圧力とWashburnの式を用いて解析を行い、触媒の各細孔直径の細孔分布を得る方法がある。
なおWashburnの式とは、測定時に加えた圧力とその圧力で水銀が侵入可能な細孔径の関係を示した下記式(I)である。
R=-4×γ×cosθ÷p÷6.9・・・(I)
(上記式(I)中、Rは細孔直径(単位:μm)、γは水銀表面張力(単位:dyn/cm)、θは水銀接触角(単位:°)、pは測定時に加えた圧力(単位:psi)を示す。)
【0017】
得られた細孔分布から、極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)を求めることができる。極大細孔直径(D1)は、細孔容積の頻度分布(縦軸:-dV/d(logD))[単位:mL/g]、横軸:D[単位:μm])から、出現比率の最も大きい細孔直径、すなわち分布の極大値の細孔直径として求めることができる。メジアン細孔直径(D2)は、細孔分布の累積分布から累積細孔容積が測定された全細孔容積中の50%の箇所の細孔直径として求めることができる。なお、極大細孔直径D1は侵入側の極大細孔直径を意味する。
本発明において、上記極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)の比(D1/D2)は0.9未満である。(D1/D2)が0.9以上である場合、目的生成物の収率が低く、ホットスポット温度が高くなり本発明の目的が達成されない。D1/D2が0.9未満であると、触媒反応に適した特異な形状の細孔を与えるためである。
なお、本発明の効果をより顕著なものとする為には、上記(D1/D2)が0.85未満である場合が好ましく、更に好ましくは0.8未満であり、特に好ましくは0.7未満である。また好ましい下限は特に制限はなく、0.01程度で良く、好ましくは0.1であり、更に好ましくは0.3であり、特に好ましくは0.5である。
【0018】
また、D1の値として好ましい上限は、0.60μmであり、好ましくは0.50μmであり、さらに好ましくは0.40μmであり、特に好ましくは0.30μmである。
D1の下限として好ましくは、0.05μmであり、好ましくは0.10μmであり、さらに好ましくは0.20μmであり、特に好ましくは0.22μmである。
D2の値として好ましい上限は、0.65μmであり、さらに好ましくは0.55μmであり、特に好ましくは0.45μmである。
D2の下限として好ましくは、0.10μmであり、好ましくは0.15μmであり、さらに好ましくは0.25μmであり、特に好ましくは0.27μmである。
【0019】
[累積細孔容積V(mL/g)と侵入側極大細孔直径D1(μm)の関係]
水銀圧入法では、水銀侵入側極大細孔直径、水銀排出側極大細孔直径を測定することが可能であり、この関係から細孔の構造を推定することができる。水銀侵入側極大細孔直径(孔路径とも呼ばれる)を水銀排出側極大細孔直径(内部細孔径とも呼ばれる)で除した値が1に近いほど細孔は理想的な円柱状となり、1より小さくなればインクボトルのようにくびれを有する構造となる(以下インクボトル構造と呼ぶ)。なお、本明細書では、水銀侵入側極大細孔直径は、上記極大細孔直径(D1)と同義とする。
また、本発明者らによれば水銀排出側極大細孔直径(内部細孔径)は累積細孔容積と相関があることを確認している。従って、累積細孔容積と水銀侵入側極大細孔直径(孔路径)との関係から細孔の構造を推定することも可能である。ここで、累積細孔容積は侵入側あるいは排出側いずれの水銀圧入法測定モードで測定された数値も含めるものとする。
本発明では、上記侵入側極大細孔直径D1(μm)を上記累積細孔容積V(mL/g)で除した値(D1/V)が0.80以上1.30以下であることが好ましい。この範囲にある触媒はホットスポットの温度を抑え、かつ目的生成物を高収率で得ることができるものである。これは、適度なインクボトル構造である触媒が触媒としての性能に優れる為であると考えられる。
なお、本発明の効果をより顕著なものとする為には、上記(D1/V)の上限が、1.25である場合が好ましく、さらに好ましくは1.20であり、特に好ましくは1.15である。また下限としては、0.85が好ましく、0.88がさらに好ましく、0.90が特に好ましい。
また、D1の値として好ましい範囲は上記の通りである。またVの値として好ましい上限は、0.27mL/gであり、好ましくは0.26mL/gであり、さらに好ましくは0.25mL/gである。Vの下限として好ましくは、0.15mL/gであり、好ましくは0.18mL/gであり、さらに好ましくは0.20mL/gである。
【0020】
[炭素を主構成元素とする繊維状物質]
本発明の触媒の製造方法は特に制限されないが、炭素を主構成元素とする繊維状物質を添加する製造方法で製造する場合が、本願の好ましい態様である。ここで、炭素を主構成元素とする繊維状物質とは、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。なお剛直で、硬度が高いが脆い、炭化物、炭化ケイ素等のセラミックは含まない。
また、炭素を主構成元素とする繊維状物質は炭化水素を主成分とする繊維状物質である場合が好ましい。ここで主成分とは、炭化水素成分より多い成分が存在しない状態のことであり、当該繊維状物質の50質量%以上が炭化水素である場合が好ましく、60質量%以上が更に好ましく、70質量%以上である場合が特に好ましい。
炭素を主構成元素とする繊維状物質を添加する方法としては、例えば、触媒前駆体成型品を得る成型工程において、当該繊維状物質の分散液及び/又は当該繊維状物質の粉末体をバインダーとして使用する方法が挙げられる。
当該繊維状物質の分散液の溶媒は、水または有機溶媒を使用し、触媒活性成分前駆体と混合することができ、当該繊維状物質の粉末体を使用する場合は触媒活性成分前駆体粉末と混合して使用することが出来る。本発明でいう触媒活性成分前駆体とは、触媒を構成する金属成分の一部または全部を含有する物質を意味し、液体であっても固体であっても差し支えない。使用する炭素を主構成元素とする繊維状物質の繊維幅は1nm以上100nm以下が好ましく、2nm以上50nm以下がより好ましく、3nm以上30nm以下が更に好ましく、5nm以上10nm以下が特に好ましい。繊維幅は1本の繊維の幅(単繊維幅)を意味しており、例えば電子顕微鏡を用いて測定できる。さらに当該繊維状物質の分散液の粘度は、1~10000mPa・sの粘度を持つことが好ましく、3~5000mPa・sの粘度を持つことがさらに好ましく、最も好ましくは5~3000mPa・sの範囲となる。またさらに当該繊維状物質の分散液のpHは1~14であればこのましく、より好ましくは4~11、最も好ましくは5~8の範囲となる。分散液中の上記線維状物質の繊維幅、上記分散液の粘度、及び上記分散液のpHは、単純な撹拌およびホモジナイザー等を用いた解砕や再分散(分散液の前処理)により変化しうるが、本発明において規定された上記範囲は、長期間の静置および前処理の方法に限らず、包含されるものとする。
当該繊維状物質の粉末体に関して、使用する炭素を主構成元素とする繊維状物質の繊維幅は1nm以上100nm以下が好ましく、2nm以上50nm以下がより好ましく、3nm以上30nm以下が更に好ましく、5nm以上10nm以下が特に好ましい。繊維幅は1本の繊維の幅(単繊維幅)を意味しており、例えば電子顕微鏡を用いて測定できる。またその固形分としての粘度は1~5000mPa・sであれば好ましく、10~20000mPa・sであれば更に好ましく、最も好ましくは100~1500mPa・sの範囲である。またその固形分としてのpHは1~14であればこのましく、より好ましくは4~11、最も好ましくは6~8の範囲となる。
触媒活性成分前駆体と炭素を主構成元素とする繊維状物質を混合する場合、その割合は、触媒活性成分前駆体300質量部に対し、0.5~5質量部が好ましく、1~4質量部が更に好ましく、2~3質量部が特に好ましい。
【0021】
上記炭化水素を主成分とする繊維状物質としては、例えばセルロースナノファイバー、キチンナノファイバーを挙げることができる。このうち好ましくはセルロースナノファイバーである。
これらの繊維状物質は熱分解温度が200℃以上600℃以下である場合が好ましく、300℃以上500℃以下である場合が更に好ましい。
【0022】
[触媒組成]
本発明において使用する触媒自体は、公知の方法で調製することができ、下記一般式(III)で表される、
MoaBibNicCodFefXgYhOx (III)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1~7、好ましくはb=0.5~4、c+d=0.5~20、より好ましくはc+d=1~12、f=0.5~8、さらに好ましくはf=0.5~5、g=0~2、特に好ましくはg=0~1、h=0.005~2、最も好ましくはh=0.01~0.5であり、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)。
【0023】
ここで、触媒活性成分を含有する粉末は共沈法、噴霧乾燥法など公知の方法で調製されるが、その際使用する原料はモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X及びY等各種金属元素の硝酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、酸化物、酢酸塩などを用いることができ特に制限されず、供給する金属塩の種類および/または量を変えることで異なる種類の触媒活性成分を含有する粉末を得ることもできる。
こうして得られた粉末を好ましくは200~600℃、より好ましくは300~500℃で、好ましくは空気または窒素流通下にて焼成し予備焼成粉末を得ることができる。
【0024】
こうして得られた予備焼成粉末は、このままでも触媒として使用できるが、生産効率、作業性を考慮し成型して本発明の触媒とする。成型物の形状は球状、円柱状、リング状など特に限定されないが、触媒の製造効率、機械的強度などを考慮して形状を選択すべきである。成型に際して、別々に調製した異種の予備焼成粉末を任意の割合であらかじめ混合し成型してもよいし、下記する球状成型のように不活性担体上に異種の予備焼成粉末の担持する操作を繰り返して、複層に予備焼成粉末が成型されるような手法を採用してもよい。
【0025】
成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。また、球状に成型する場合は、成型機で予備焼成粉末を球形に成型しても良いが、予備焼成粉体を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート等予備焼成粉末が担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率等を考慮した場合、転動造粒法が好ましい。具体的には、固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内にチャージされた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成粉体を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法である。
【0026】
尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、グリセリンの濃度5質量%以上の水溶液が好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉末100質量部に対して通常2~60質量部であるが、グリセリン水溶液の場合は10~30質量部が好ましい。担持に際してバインダーと予備焼成粉末は成型機に交互に供給しても、同時に供給してもよい。
【0027】
上記バインダーとして炭素を主構成元素とする繊維状物質の分散液又は炭素を主構成元素とする繊維状物質の粉末体を用いるのが、本願発明の具体的態様として好ましいものである。炭素を主構成元素とする繊維状物質は、繊維幅や繊維長の異なる複数のものを組み合わせて使用しても良い。
また、炭素を主構成元素とする繊維状物質の分散液の溶媒は、水もしくは有機溶媒のどちらであってもよい。セルロースナノファイバーの場合の分散液の濃度は、0.1~10質量%であることが好ましい。
【0028】
炭素を主構成元素とする繊維状物質の粉末体の添加量は、予備焼成粉体300質量部に対して0.5~5質量部であることが好ましく、より好ましくは2~3質量部である。
【0029】
成形に際しては、触媒の強度を高める為に、セラミックファイバーやグラスファイバー等の無機繊維、または無機助剤を補強材として加えることも可能であり、本願発明でも当該構成を除外するものではない。しかし、本願発明においてはこれらを加えなくても、十分にその効果を奏するものとすることができる。
【0030】
[本願発明の触媒の製造方法]
本発明の触媒を得るための各金属元素の原料としては特に制限はないが、各金属元素を少なくとも一種含む硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、有機酸塩、酢酸塩、炭酸塩、次炭酸塩、塩化物、無機酸、無機酸の塩、ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸の塩、水酸化物、酸化物、金属、合金等、またはこれらの混合物を用いることができる。このうち好ましいのは硝酸塩原料である。硝酸塩原料を用いることにより、本発明のように調合液にアルカリ溶液を添加した場合でも、調合液は共沈または沈殿を生じず、適度な粘度のスラリーとなり、スプレー乾燥による乾燥が可能となり、高い生産性で触媒の製造が可能となり、製造コストを低く抑えることが可能となる。すなわち、本発明では原料において硝酸塩原料またはそれに準ずる酸成分を適度に含んだ原料を使用することにより、上記の通り製造コストを低く抑えることが可能となる。各金属元素の酸成分の含有率としては、各金属元素単独での原料の飽和水溶液のpHで規定でき、-2.0以上10.0以下が好ましく、-1.0以上7.0以下がさらに好ましく、0.0以上5.0以下が最も好ましい。
【0031】
本発明の触媒の調製法としては特に制限はないが、好ましいのは触媒活性成分を粉末として得た後、炭素を主構成元素とする繊維状物質の分散液又は炭素を主構成元素とする繊維状物質の粉末体をバインダーとして使用して成形する方法であり、以下に詳細を記載する。なお、以下では各工程の順を好ましい例として記載しているが、最終的な触媒製品を得るための各工程の順番、工程数、各工程の組み合わせについて制限はないものとする。
【0032】
本発明の製造方法に使用する調合液とは、後述する触媒の製造工程(A1)または(B1)において調製される、触媒活性成分である複合金属酸化物の原料のうち少なくとも一成分を含む混合溶液またはスラリーを意味するものとする。
【0033】
本発明の触媒の製造方法としては、例えば下記工程を含むものである。
工程(A1):調合と乾燥
複合金属酸化物の各金属を含有する化合物を含む混合溶液またはスラリーを20℃以上90℃以下の条件下で調製し、該混合溶液またはスラリーのpHを0.3以上8.0以下、好ましくは0.5以上3.4未満に制御するようアルカリ溶液を添加し、スプレー乾燥して乾燥粉体を得る工程。
上記工程(A1)において調合液のpHが高すぎると後述する乾燥噴霧(スプレー乾燥)法においては、触媒活性成分原料が共沈または一部沈殿が生じるために流路での目詰まり等が発生し均一な乾燥粉体が得られない、またはスプレー乾燥設備(スプレードライヤー)が安定して実施できない点が課題として生じうる。調合液のpHが高すぎることによる触媒活性成分原料の共沈または一部沈殿を避ける目的で、公知である分散剤を必要に応じて必要量投入する方法も本発明に包括される。
【0034】
工程(A2):予備焼成
工程(A1)で得られた乾燥粉体を予備焼成し、予備焼成粉体を得る工程。
【0035】
工程(A3):成形工程
工程(A2)で得られた予備焼成粉体を成形し、成形品を得る工程。
【0036】
工程(A4):本焼成
工程(A3)で得られた成形品を本焼成する工程。
【0037】
上記各工程について更に詳細に説明する。
工程(A1):調合と乾燥
触媒活性成分原料の混合溶液またはスラリーを調製し、沈殿法、ゲル化法、共沈法、水熱合成法等の工程を経た後、乾燥噴霧(スプレー乾燥、スプレードライ)法、蒸発乾固法、ドラム乾燥法、凍結乾燥法等の公知の乾燥方法を用いて、本発明の乾燥粉体を得る。この混合溶液またはスラリーは、溶媒として水、有機溶剤、またはこれらの混合溶液のいずれでも良く、また適宜混合溶液またはスラリーにpH調整をする目的でアルカリ溶液を添加することが可能であり、触媒活性成分の原料濃度も制限はなく、さらに、この混合溶液またはスラリーの液温、雰囲気等の調合条件および乾燥条件について特に制限はないが、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。このうち本発明において最も好ましいのは、20℃から90℃の条件化で触媒活性成分の原料の混合溶液またはスラリーを形成させ、適宜アルカリ溶液によりpHを調整し、これを噴霧乾燥器に導入して乾燥器出口温度が70℃から150℃、得られる乾燥粉体の平均粒径が10μmから700μmとなるよう熱風入口温度、噴霧乾燥器内部の圧力、およびスラリーの流量を調節する方法である。また、本工程の混合溶液またはスラリーの調製から前記乾燥までにおいて、前述した炭素を主構成元素とする繊維状物質の分散液又は炭素を主構成元素とする繊維状物質の粉末体、または後述する無機助剤または/および有機助剤を任意の量で添加することも本発明の触媒の製造方法に属するものとする。さらに、上記アルカリ溶液の種類に関しても公知なアルカリ溶液であればその濃度や成分および溶媒に制限はないが、アンモニア水や炭酸アンモニウム水溶液が好ましい。
【0038】
工程(A2):予備焼成
上記工程(A1)で得られた乾燥粉体を200℃以上600℃以下で予備焼成し、平均粒径が10μmから100μmである予備焼成粉体を得ることができる。この予備焼成の条件に関しても、焼成時間や焼成時の雰囲気について特に制限はなく、焼成の手法も流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。このうち本発明において最も好ましいのは、トンネル焼成炉において300℃以上600℃以下の範囲で1時間以上12時間以下、空気雰囲気下による方法である。また、本工程の予備焼成前または予備焼成後において、前述した炭素を主構成元素とする繊維状物質の分散液又は炭素を主構成元素とする繊維状物質の粉末体、または後述する無機助剤または/および有機助剤を任意の量で添加することも本発明の触媒の製造方法に属するものとする。
【0039】
工程(A3):成形工程
上記工程(A2)で得られた予備焼成粉体をそのまま触媒として使用することもできるが、成形して使用することもできる。成形品の形状は球状、円柱状、リング状など特に制限されないが、一連の調製で最終的に得られる触媒における機械的強度、反応器、調製の生産効率等を考慮して選択するべきである。成形方法についても特に制限はないが、以下に示す担体や有機助剤、無機助剤、バインダー等を予備焼成粉体に添加して円柱状、リング状に成形する際には打錠成形機や押出成形機などを用い、球状に成形する際には造粒機などを用いて成形品を得る。予備焼成粉体を不活性球状担体に担持した球状の被覆成形品を得る方法が好ましい。
【0040】
担体の材質としてはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカアルミナ、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物など公知の物を使用でき、さらにその粒径、吸水率、機械的強度、各結晶相の結晶化度や混合割合なども特に制限はなく、最終的な触媒の性能、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。担体と予備焼成粉体の混合の割合は、各原料の仕込み質量により、下記式より担持率として算出される。
担持率(質量%)=(成形に使用した予備焼成粉体の質量)/{(成形に使用した予備焼成粉体の質量)+(成形に使用した担体の質量)}×100
【0041】
無機助剤の添加量は、予備焼成粉体の質量に対して0.1質量%から25質量%であり、0.3質量%から10質量%が好ましく、0.5質量%から5質量%が最も好ましい。また無機助剤の材質および成分組成にも特に制限はないが、たとえばEガラスのような無アルカリガラスや、シラン処理等各種化学的な不活性化処理を行ったガラスが、触媒反応に対する副生成物の生成などの悪影響を与えない点でより好ましい。また、無機助剤は、成形の前に粉砕工程を実施しても良く、粉砕の方法としては特に制限はないが、例えばボールミル、ロッドミル、SAGミル、ジェットミル、自主粉砕ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ディスクミル、ローラーミル、高圧粉砕ロール、VSIミルなどを単独または組み合わせて実施され、この粉砕の対象は無機助剤単独でもよいが、予備焼成粉体その他成形工程に添加される触媒原料を混合したものでもよい。
【0042】
本発明の触媒に使用する無機助剤とは、主に600℃の熱処理においても焼失しない任意の無機物による任意の形状の助剤であり、後述する本焼成工程によりそのすべてが焼失しないものとする。無機助剤は、後述する本焼成工程においても残留するため、予備焼成粉体同士を結びつける役割があり、破損にかかる負荷が触媒に生じた際にも破損を抑制する効果が生じる。本発明において無機助剤の材質としてモース硬度は特に限定されないが、たとえば任意の硫化鉱物、酸化鉱物、ハロゲン化鉱物、無機酸塩鉱物、有機鉱物等を単独または組み合わせたものをガラス転移温度以上で熱処理したもののうちモース硬度が2以上のものが好ましく、これら材質の原料としては無機酸塩鉱物がさらに好ましい。また無機助剤に対して、酸処理、アルカリ処理、およびシラン処理等を各々単独または組み合わせて実施することで、触媒反応に不活性となる点で好適となる。
【0043】
ここで、本発明の触媒に使用するバインダーとは、その分子直径が予備焼成粉体の平均粒径に対して0.001以下の範囲である化合物群からなる単独または組み合わせにより構成される液体とし、例えば次のようなものが挙げられる。すなわち、液状の有機溶剤、有機物の分散体、水溶性有機溶剤、およびそれらと水の任意の割合での混合物であり、特に制限はないが、グリセリン等の多価アルコールの水溶液またはイオン交換水が好ましく、さらにイオン交換水が成形性の観点から最も好ましい。バインダーは水または有機物を含むため、後述する本焼成工程にてその一部またはすべてが焼失するが、一般にバインダーに使用される有機物の分子直径は予備焼成粉体の平均粒径と比較すると十分に小さい。また、このバインダーに前記触媒原料の溶液を使用することで、工程(A1)とは異なる態様で触媒の最表面に元素を導入することも可能である。
なお、本発明においては、上記の通り、本工程において、バインダーとして炭素を主構成元素とする繊維状物質の分散液又は炭素を主構成元素とする繊維状物質の粉末体を用いることが好ましい。
【0044】
工程(A4):本焼成
上記工程(A3)で得られた予備焼成粉体または成形品は、比表面積パラメータSを特定の範囲内にするために反応に使用する前に200℃以上600℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下、さらに好ましくは500℃以上600℃以下で再度焼成(本焼成)することが好ましい。本焼成に関しても、焼成時間や焼成時の雰囲気について特に制限はなく、焼成の手法も流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。このうち本発明において最も好ましいのは、トンネル焼成炉において400℃以上600℃以下、好ましくは480℃以上600℃以下、更に好ましくは500℃以上580℃以下、特に好ましくは510℃以上550℃以下、最も好ましくは515℃以上535℃以下の温度範囲で1時間から12時間、好ましくは1時間から8時間、さらに好ましくは2時間から6時間、好ましくは空気雰囲気下による方法である。なお、特定の細孔を得る為に、炭化水素を主成分とする繊維状物質を用いる場合には、400℃以上である場合が好ましい。
【0045】
次に、以下では(B)法による触媒調製方法を記載する。以下では各工程を順に記載しているが、最終的な触媒を得るための各工程の順番、工程数、各工程の組み合わせについて制限はないものとする。
【0046】
工程(B1):含侵
触媒活性成分が導入された溶液またはスラリーを調製し、ここに成形担体または(A)法で得た触媒を含浸させ、成形品を得る。ここで、含浸による触媒活性成分の担持手法はディップ法、インシピエントウェットネス法、イオン交換法、pHスイング法など特に制限はなく、前記溶液または前記スラリーの溶媒として水、有機溶剤、またはこれらの混合溶液のいずれでも良く、触媒活性成分の原料濃度も制限はなく、さらに、前記混合溶液または前記スラリーの液温、液にかかる圧力、液の周囲の雰囲気についても特に制限はないが、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。また、前記成形担体および前記(A)法で得た触媒のいずれも形状は球状、円柱状、リング状、粉末状など特に制限はなく、さらに材質、粒径、吸水率、機械的強度も特に制限はない。
【0047】
工程(B2):乾燥
上記工程(B1)で得られた前記成形品を、蒸発乾固法、ドラム乾燥法、凍結乾燥法等の公知の乾燥方法を用いて20℃以上200℃以下の範囲において熱処理を行い、本発明の触媒成形乾燥体を得る。焼成時間や焼成時の雰囲気について特に制限はなく、焼成の手法も流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。
【0048】
工程(B3):本焼成
こうして得られた前記触媒成形乾燥体を、蒸発乾固法、ドラム乾燥法、凍結乾燥法等の公知の乾燥方法を用いて200℃以上600℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下、さらに好ましくは500℃以上600℃以下で熱処理を行い、本発明の触媒を得る。ここで、焼成時間や焼成時の雰囲気について特に制限はなく、焼成の手法も流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。このうち本発明において最も好ましいのは、トンネル焼成炉において480℃以上600℃以下、好ましくは500℃以上580℃以下、さらに好ましくは510℃以上550℃以下、最も好ましくは515℃以上535℃以下の温度範囲で1時間から12時間、好ましくは1時間から8時間、さらに好ましくは2時間から6時間、好ましくは空気雰囲気下による方法である。なお、特定の細孔を得る為に、炭化水素を主成分とする繊維状物質を用いる場合には、400℃以上である場合が好ましい。
【0049】
本発明において全製造工程とは、触媒原料から本発明の触媒を得るまでの、工程(A1)から工程(A4)および工程(B1)から工程(B3)の単独または組み合わせによる全ての工程である。本発明において成形工程とは、工程(A3)のうちその一部またはその全部である。
【0050】
以上の調製により得られた触媒は、極大細孔直径(D1)とメジアン細孔直径(D2)の上記関係を満たす限り、その形状やサイズに特に制限はないが、反応管への充填の作業性と充填後の反応管内の圧力損失等を勘案すると、形状は球形状、平均粒径は2.0mmから10.0mm、好ましくは3.0mmから8.0mm、より好ましくは3.5mmから6.5mmであり、また触媒活性成分の担持率は20質量%から90質量%、より好ましくは25質量%から80質量%、さらに好ましくは30質量%から75質量%となる。
【0051】
本発明の触媒を、プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する反応、特にプロピレンを分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレイン、アクリル酸を製造する反応、又は、炭素原子数4以上のモノオレフィンから共役ジオレフィンを製造する反応、特にn-ブテンからブタジエンを製造する反応において使用することで、ホットスポットのホットスポット温度を抑制し高収率に目的物を製造することができ、これらの結果として公知の方法と比較して、製品の価格競争力の向上が期待できる。
【0052】
こうして得られた本発明の触媒は、例えばプロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しアクロレインおよびアクリル酸を製造する工程に使用できる。本発明の製造方法において原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質としてのプロピレンが常温で1~10容量%、好ましくは4~9容量%、分子状酸素が3~20容量%、好ましくは4~18容量%、水蒸気が0~60容量%、好ましくは4~50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが20~80容量%、好ましくは30~60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に250~450℃で、常圧~10気圧の圧力下で、空間速度300~5000h-1で導入し反応を行う。本発明の触媒は特に、公知な他の触媒と比較して酸素分圧が低い反応条件においても高活性かつ高収率に、触媒性能を示すことができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例、比較例により本発明を詳細に説明する。尚、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。プロピレン転化率および有効収率は下式(1)、(2)によって表される。
【0054】
(1)
プロピレン転化率(モル%)
=100×〔(反応したプロピレンのモル数)/(供給したプロピレンのモル数)〕
(2)
有効収率(モル%)
=100×〔(生成したアクロレインのモル数+生成したアクリル酸のモル数)/(供給したプロピレンのモル数)〕
有効選択率(モル%)
=100×〔(生成したアクロレインのモル数+生成したアクリル酸のモル数)/(反応したプロピレンのモル数)〕
【0055】
[実施例1]
(触媒の調製)
蒸留水3000mLを加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム800gと硝酸カリウム3.82gを溶解して水溶液(A)を得た。別に、硝酸第二鉄297g、硝酸コバルト718g、硝酸ニッケル264gを蒸留水700mLに溶解して水溶液(B)を、また濃硝酸33mLを加えて酸性にした蒸留水140mLに硝酸ビスマス128gを溶解して水溶液(C)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A)に(B)、(C)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、440℃で4時間焼成し予備焼成粉末(D)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12.0、Bi=0.70、Fe=1.95、Co=6.53、Ni=2.40、K=0.10であった。この予備焼成粉末(D)300質量部を、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に日本製紙株式会社製TEMPO酸化セルロースナノファイバー水分散液(1質量%)を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を520℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.2mmであった。
得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.25μm、D2=0.35μm、D1/D2=0.71、V=0.22であった。
(酸化反応)
熱電対を設置した内径28.4mmのステンレス製反応管に上記触媒33.8mLを充填した。その反応管をアルミナ粉体が流動している流動浴にセットし、プロピレン8容量%、酸素11容量%、窒素71容量%、水10容量%からなる混合ガスを空間速度1200h-1で通し反応させた。このときの反応温度は330℃、プロピレン転化率91.3%、収率87.1%、選択率95.5%、ホットスポット温度423℃であった。
【0056】
[実施例2]
実施例1の予備焼成粉末(D)300質量部に日本製紙株式会社製CM化セルロースナノファイバーの粉末体2質量部を混合し、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に純水を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を520℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.4mmであった。得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.26μm、D2=0.40μm、D1/D2=0.65、V=0.27であった。この触媒の酸化反応結果は、実施例1の条件で反応温度は330℃、プロピレン転化率89.9%、収率85.9%、選択率95.5%、ホットスポット温度428℃であった。
【0057】
[比較例1]
実施例1の予備焼成粉末(D)300質量部に結晶性セルロース(平均粒子径50μm)15質量部を混合し、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に33質量%グリセリン水溶液を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を520℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.2mmであった。得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.43μm、D2=0.48μm、D1/D2=0.90、V=0.26であった。この触媒の酸化反応結果は、実施例1の条件で反応温度は330℃、プロピレン転化率89.9%、収率84.7%、選択率94.2%、ホットスポット温度438℃であった。
【0058】
[比較例2]
実施例1の予備焼成粉末(D)300質量部に日本製紙株式会社製CM化セルロースナノファイバーの粉末体3質量部を混合し、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に純水を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を520℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.4mmであった。得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.30μm、D2=0.35μm、D1/D2=0.87、V=0.27であった。この触媒の酸化反応結果は、実施例1の条件で反応温度は330℃、プロピレン転化率92.1%、収率87.0%、選択率94.4%、ホットスポット温度435℃であった。
【0059】
[実施例3]
実施例1の予備焼成粉末(D)300質量部に日本製紙株式会社製CM化セルロースナノファイバーの粉末体4質量部を混合し、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に純水を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を520℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.4mmであった。得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.29μm、D2=0.44μm、D1/D2=0.65、V=0.28であった。この触媒の酸化反応結果は、実施例1の条件で反応温度は330℃、プロピレン転化率91.5%、収率86.2%、選択率94.2%、ホットスポット温度433℃であった。
【0060】
[比較例3]
実施例1の予備焼成粉末(D)300質量部に日本製紙株式会社製CM化セルロースナノファイバーの粉末体2質量部および日本製紙株式会社製TEMPO酸化セルロースナノファイバーの粉末体1質量部を混合し、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に純水を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を520℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.4mmであった。得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.25μm、D2=0.28μm、D1/D2=0.89、V=0.25であった。この触媒の酸化反応結果は、実施例1の条件で反応温度は330℃、プロピレン転化率90.9%、収率85.9%、選択率94.5%、ホットスポット温度432℃であった。
【0061】
[比較例4]
実施例1の予備焼成粉末(D)300質量部に日本製紙株式会社製CM化セルロースナノファイバーの粉末体1質量部を混合し、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に33質量%グリセリン水溶液を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を520℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.4mmであった。得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.22μm、D2=0.27μm、D1/D2=0.81、V=0.22であった。この触媒の酸化反応結果は、実施例1の条件で反応温度は330℃、プロピレン転化率89.9%、収率85.3%、選択率94.9%、ホットスポット温度427℃であった。
【0062】
[実施例4]
実施例1の予備焼成粉末(D)300質量部に結晶性セルロース(平均粒子径50μm)15質量部を混合し、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に日本製紙株式会社製TEMPO酸化セルロースナノファイバー水分散液(1質量%)を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を520℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.4mmであった。得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.26μm、D2=0.39μm、D1/D2=0.65、V=0.26であった。この触媒の酸化反応結果は、実施例1の条件で反応温度は330℃、プロピレン転化率92.1%、収率87.5%、選択率95.0%、ホットスポット温度430℃であった。
【0063】
[比較例5]
実施例1の予備焼成粉末(D)300質量部に結晶性セルロース(平均粒子径50μm)15質量部を混合し、転動造粒機を用いて不活性担体(アルミナ、粒径4.5mm)300質量部に33質量%グリセリン水溶液を振りかけながら担持した。こうして得た成型物を540℃で4時間焼成し本発明の触媒を得た。得られた触媒の平均粒径は5.2mmであった。得られた触媒の細孔径分布を水銀圧入法で測定しD1およびD2を測定したところ、D1=0.54μm、D2=0.56μm、D1/D2=0.97、V=0.26であった。この触媒の酸化反応結果は、実施例1の条件で反応温度は330℃、プロピレン転化率85.4%、収率82.0%、選択率96.1%、ホットスポット温度424℃であった。
【0064】
【0065】
実施例1~4及び比較例1~5の結果より本発明の触媒は従来の触媒より高収率、かつ、ホットスポット温度を抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の触媒を使用することにより、不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物、又は共役ジエン化合物を酸化的に製造する場合に、高収率で得ることが可能である。また、ホットスポットの温度が低いため触媒の長寿命化につながることから、目的生成物を長期間安定して製造することができる。